FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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どこまで書くべきか、あるいは引き延ばすか、延々と考えたけど確かな答えが出ないまま、あんま引き延ばしちゃいけないと結構短くまとめた状態で出来上がってしまった…。
実際どっちがよかったのか、まだまだ迷ってる状態でございます…。←


それと話は変わりますが、ROM専で使っていたツイッターアカウントに加えて、この小説…と言うかハーメルンで書いてる小説に関するツイッターアカウントを作成しました!URLはユーザーページに貼っつけます。

小説の進捗、裏話、用語等の由来、作中で書かなかった設定などを、思い立ったときに呟いていく…かもしれない!的なアカウントです。不定期に、何となく呟くかもなんで気が向いたら見てみてくださいwww


第96話 シエル vs. シエル

ゆっくりと4人と二匹を乗せている雲が降下を続け、木々に囲まれた森の中に存在する地面に近づいていく。全員が雲からそこに降り立つ時には足場となっていた雲はひとりでに霧散して消えていった。

 

シエルが生み出した乗雲(クラウィド)のおかげで急降下は避けられたものの、肝心のシエルの姿は今この場のどこにも見当たらない。滞空する術を持っているから未だ空中か、とも考えて上を見渡すが、影も形も見えはしない。

 

「シエルも…エルザも見当たらない…」

 

「二人とも、向こうの自分のトコロにいるみたいね」

 

雲から降りて、すぐさま弟の姿を探していたペルセウスが呟けば、それに答えを示すかのようにシャルルが声を出す。雲の上に乗っている間、シャルルはチラリとエルザがもう一人の自分に剣を振りかぶっていた瞬間を目撃していた。それを考えると、シエルの方も同じ行動を起こしているはず。

 

「っ!避けろ!!」

 

考えていたのも束の間、ペルセウスがすぐさま異変を察知して全員に声を張ると同時にその場を飛び退くと、四方八方を取り囲んでいた王国軍からの遠距離攻撃が襲い掛かり、先程自分たちがいた位置に着弾。それによって、囲まれていることに全員が気付いた。

 

「こいつら、ゾロゾロと…!!」

 

「数だけは本当に立派だな…!!」

 

「みんな、もうやめてよう…!!」

 

一人一人の練度ならば自分たちの足元にも及ばないのだが、それを補って余りある物量差。それを見たグレイが顔をしかめ、ペルセウスも銀色の大剣・グラムを換装で右手にとりながら、鋭く細めた目を周りに兵士たちに向けながら悪態をつくように告げる。ココは仲間である彼らに泣きそうな顔で懇願しているが兵士たちの耳には一切届かない。

 

「来るなら来い。何百、何千連れてこようが、全部叩きのめしてやる…!」

 

一人だけ前に出て、自分の身の丈も超えた大剣を持ち上げながら堂々と告げるペルセウスの姿を見て、兵士たちは各々手甲についた銃や、槍などを構えながらも、身体を震わせて一歩下がってしまう。数時間前まで王城内を暴れ回り、あの魔戦部隊隊長複数人を相手にしても圧倒したという前情報を聞いていれば、当然の反応だ。

 

ただでさえ残る隊長は一人だけ。しかもその本人はもう一人の自分との決着をつけるためにここには不在。自分たちでペルセウスに対抗できるのかと言う不安が否が応にも過ってしまう。

 

 

 

 

 

「今だ、放て!!」

 

だがその状況は一人の王国軍の声が発端で変動することになった。一方向に目を向けていたペルセウスたちの死角。ルーシィが立っていた右後方から聞こえたその声に全員が視線を向けると、ルーシィ目掛けて片手で掴めるほどの大きさをした機械の球体を投げつける魔科学研の戦闘班が見え、咄嗟の出来事にルーシィは状況が理解できずに立ち尽くしてしまう。

 

そんな彼女をペルセウスが後ろから横に押し退いて、手に持っていた銀の大剣でその球体を向こうに跳ね返そうとする。だが、球体はそれと接触した瞬間破裂し、黒い電流を発生させて大剣、及びペルセウスの全身に駆け巡る。予想だにしなかった痛みを感じて、思わず彼は声をあげながら膝をつく。

 

「ペルさん!!」

「大丈夫か!?」

 

自分を庇ったことで不要なダメージを追ってしまったペルセウスを見て、ルーシィが悲痛な顔を浮かべて彼を案じる。グレイも同じように声をかけるが、その声も届かない状況に、彼は陥っていた。

 

「な、何だこれは…!?体が…急に、重く…!!?」

 

自分に駆け巡っていた黒い電流は既に消えている。痛みも過ぎてみればそれ程ではなかった。だが問題は、その電流を受けた瞬間彼の身体に普段は感じない倦怠感を感じた事。膝をついた体勢からすぐに立ち上がろうとしても、体が全く言う事を聞かない。神器を握る右手から、力を必要以上に吸い取られる感覚。感じたことのない違和感に、戸惑うばかり。

 

()()()()に命中しました」

 

「よし、部長の事前指示の通りになったな」

 

「(最初からルーシィじゃなくて、ペルが狙いだったのか…!!)おい、今ペルが受けたのは何だ!?」

 

一方、ルーシィに向けて謎の球体を放った兵士たちは、狙いとは違う人物であるペルセウスが被害を受けたことも動揺せず、寧ろペルセウスに当てること前提にしていたかのような言動で落ち着いている。向こうの狙いがペルセウスであることに気付いたグレイが、彼が受けた謎の球体について王国の人間であったココに説明を求める。しかし…。

 

「分かんないよう!私も今のは、初めて見たの!!」

 

返ってきたのは、彼女も知らないという事実のみ。表情や声からは目に見えて混乱が宿っていて、彼女が嘘をついているようにも見えない。その事にグレイが驚きを露わにしていると、球体を投げつけていた魔科学研の一人が答えを律義に教えてきた。

 

「知らないのも無理はない。それはつい先程、シエル部長がペルセウス対策として作りあげた新兵器だからな」

 

そしてその答えに全員が言葉を失った。ペルセウスが暴れていたのは数時間前。その時の戦闘データを基にして、すぐさまそれに対抗するための兵器を新しく作り上げた。竜鎖砲の件も同時に並行しながらやり遂げてしまうと言うエドシエルの驚異のスペックを実感するとともに、恐ろしくも思えてしまう。

 

さらに驚愕したのは、兵器自体の性能だ。簡単に説明すると、ペルセウスの神器の魔法を封印し、完全に無力化させるものであると言うもの。数々の神器を換装して王国軍を蹂躙した結果、最後には己の首を絞めることになるとは、誰もが予想できなかったことだろう。エドシエルはこれに『アンチエーテルスフィア』と仮称を付けた。

 

「ペルセウスは無力化できた!このまま畳みかけるぞ!!」

 

『おおーっ!!』

 

アースランドの者たちの中でも随一と言える戦力のペルセウスを封じたことによって士気を上げ、王国軍は兵士、戦闘班問わず全員が一気呵成に攻めるために突撃してくる。動けなくなったペルセウスや戦える力を持たないハッピーとシャルルを守ろうとグレイやルーシィが身構え、ココもいつでも反撃できるように気を張っている。

 

「っ……うぉおおおおおっ!!!」

 

だが、一番最初に迫りくる王国軍に攻撃を始めたのは、魔法を封じられたはずのペルセウスだ。換装が解けていないままだったグラムを両手で持ち上げながら駆けだし、一番近くまで迫ってきていた兵士たちに向けて横に一閃。ペルセウスに反撃されると思わなかったその兵士たちは、困惑を前面に出しながら紙切れの如く吹っ飛ばされる。

 

「ど、どーなってんだァ!?」

「確かに魔法は封じたはず…!!」

「シエル部長の発明が、まさか失敗した!?」

「それこそあり得るのか!?」

 

これには敵も味方も目を剥いて驚愕を表し、勢いよく攻めようとした兵士たちの足は一気に止まる。やはり、いかに優秀な研究者が自ら作成したものであっても急ピッチで作り上げたものでは、欠陥が生じるのだろうか。

 

だが、大剣を振るった当の本人は目に見えて消耗しているかのように汗を噴き出し、肩を上下に動かしながら息を荒げている。押せばすぐにでも倒れてしまいそうだ。

 

「くそっ…確かに、力は封じられてるみてーだ…。本調子の一割も引き出せねぇ…!!」

 

「あ、あれで一割…!?」

「説得力がないわ…」

 

しかしそんな王国軍の動揺とは裏腹に、ペルセウスは自分が放った一撃を見て己の現状が如何に悲惨かを自覚した。他人から見ればどこがだ、と言いたくはなるだろうが、本人が明らかに消耗している様子で告げているのを見ると確かなのだろう。

 

ルーシィとシャルルが信じられないと言いたげな表情で呟くのとは対照に、グレイとハッピーが「言われてみれば…」といった若干の納得を帯びた顔を浮かべているのがその証拠。八尺瓊勾玉の修復が出来ていれば、こんな消耗はしなかったのに…と言う苛立ちが、彼の内側から募りだしていた。

 

「魔法を封じてもあれほどの強さ…!」

 

「ひ、怯むな!先程と比べれば天地ほどの差があるはず!!」

 

全力の一割にも満たないほどにまで弱体化されてもなお、強力な魔導士であるペルセウスに立ち止まっていた兵士たちが再び動き出す。それに対してグレイが氷の槍をいくつも発射して迎撃したり、ルーシィが星の大河(エトワールフルーグ)で遠距離の敵を叩き、ココも体術で迎撃していく。ペルセウスもまた、規模と消費魔力を鑑みてグラムから短剣フラガラッハへと換装して風の刃を用いて退けていく。

 

だが思ったような撃退には繋がらず、敵の数はまだまだ増えていく。更には一部の兵士たちがハッピーとシャルルの二人のみを狙って、青い光線を次々と放つ。互いに協力して避けることは出来ているが、横目にしているこちらから見ればハラハラする光景だ。

 

「何でハッピーとシャルルばっかり…!?」

 

狙い撃ちにされている二人。それに当然のようにルーシィが疑問を抱く。だがその疑問の声は、兵士たちの言葉によって明かされた。

 

「逃げたエクシード共はほとんど魔水晶(ラクリマ)に変えた!!」

 

「後はそこの2匹のみ。大人しく、我が国の魔力となれ!!」

 

自分たちが助けようと追いかけたエクシード達の魔力化(マジカライズ)がほとんど終わってしまっていたと言うもの。そして残されたハッピーとシャルルも魔力に変えようと、容赦なく狙いに来ているわけだ。

 

「自分たちの魔力の為に…エクシードはどうなっても構わねえってのか…!!それがこの世界の人間なのか!!」

 

身勝手極まりない王国のやり方に、何度感じたか分からない苛立ちが、再びグレイの中に募りだす。そして複数人で一気に仕留めようと攻めてきた兵士たちに対し、氷欠泉(アイスゲイザー)でまとめて全員吹き飛ばした。

 

「仲間はやらせねえぞ、クソヤロウども…!!」

 

10人単位で撃退しても、また同じ数の兵士たちが攻め立ててくる。しかし負けるわけには、諦めるわけにはいかない。グレイも、ルーシィも、ペルセウスも、自分の世界の仲間を信じて改めて兵士たちに向けて構え直した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

エクスタリア周辺の浮遊島は、かつてエクシード達が生息域として利用していた居住区の跡が、遺跡と言う形で遺っているものがほとんど。その浮遊島の内の一つに、遺跡となっている建物や壁を破壊しながら、同じ顔立ちと名前を持った少年と青年が激突していた。

 

落雷(サンダー)!!」

 

浮遊島の上空に発生した暗雲に向けて少年が雷の魔力を放てば、雲の中を一気に稲妻が走り出し、膨張した雷が弾ける様に青年目掛けて振り落ちる。

 

「『ソルムスフィア』」

 

対して青年は長杖の先端に付いた4色の珠の内、黄色の珠を光らせて、大地の膜を造り上げて己を囲む。すると少年が落とした雷撃が地の膜を伝って島の地面へと流れていき、青年の身には掠らせもしない。

 

「イグニスショット!」

 

反撃とばかりに今度は赤い珠を光らせて火の魔力弾を数発撃ち出す。それを目前にした少年もまた焦りを見せずに、右手に雨の魔力を溜め込んでその姿を変えさせる。勢いの強い雨を降らせる豪雨(スコール)気象転纏(スタイルチェンジ)させた新たな技。

 

「『雨垂れ石をも穿つ(ドロップバレット)』!!」

 

右の手首を左手で固定しながら、指鉄砲の形で人差し指から弾丸となった雨の魔力を撃ち出す。迫り来ていた火の弾を撃ち抜いて消火し、敵側である青年にも雫の弾丸を撃ち込もうとする。だが、青年は青い珠を光らせて水の膜を作ると、雫の弾丸を受け取りそのまま膜の一部にする。

 

戦況は拮抗。少年は天候を自在に操る魔法を駆使し、青年は地水火風の四属性を自在に操作する。外見、性格に違いは多々あるが、どちらも“シエル”の名を持つ者同士。戦い方には似通った部分があるようだ。

 

「つくづく…アースランドの魔法の異常さには驚かされる」

 

「そうには見えないけど?それに、そっちだって色々と厄介なものを作り出してるじゃないか」

 

嘆息するように呟いたエドシエルの言葉に対して、挑発的な笑みを浮かべながら少年のシエルは答える。エドラス側から見れば、道具を一切使わずに人智を超えた力を駆使するのには目を見張るものだが、魔科学に関してはアースランド側から見ても驚きの連続だ。そしてその魔科学の成果を次々生み出しているのが、目の前にいる自分だと言うのだから、シエルとしても色んな意味で複雑な心境である。

 

「お前の目的は、一体何なんだ?」

 

浮かべていた笑みを引っ込めて、睨むような細い目を向けながらシエルはもう一人の自分に尋ねた。元々エドシエルは、エドラスに元からあった妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属していた。更に言えば兄であるペルセウスは、昔の自分以上の病弱でありながらマスターを務める人物。そんな己の兄と家族を守るために、スパイとして王国軍に潜入していた。

 

だが、その後1年程の期間を経た後に自分のギルドへ情報を流すのを中断し、王国軍への貢献に力を注いでいたと聞いた。それが一体何故なのか?今までの情報を取り入れながら考えてはいたが、彼本来の目的だけが、見えてこない。

 

「一体何を狙って、この国に仕えているんだ、お前は?」

 

「何を聞くかと思えば…とんだ愚問だな」

 

彼の真意を深く探ろうと尋ねた事であるが、本人からすればくだらないと吐き捨てるような、分かり切ったもの。本来であれば答える必要性が無いと思えるが、釘を刺す名目でエドシエルは少年の問いに敢えてはっきりと答えた。

 

「俺の目的はこの世界の繁栄。魔力が枯渇することも、魔力を奪い合う事もない、この国や世界にとっての理想郷。陛下が望まれる、永遠の魔力に満ちた世界。

 

 

 

つまり、陛下の望みこそが俺にとっての望みでもあり、目的だ」

 

メガネの奥に潜む切れ長の目を向けて、一切の感情の揺らぎもない声での断言。その声には、一切の嘘など存在していないように聞こえる。

 

「……」

 

()()()()()シエルの疑問は晴れない。本当にそうなのか、と言う考えが拭えない。その言葉に嘘偽りが、本当に一切無いのだとしたら…。

 

「故に…その邪魔をしようとする存在は、どんな手を使ってでも…!」

 

思考の渦に入っていたことで、シエルは目の前の青年の動きに対応が遅れてしまった。青と黄色、二つの珠を光らせてそれぞれの魔力を集中させていき、それを槍の形として作り出す。

 

「デリートする!!」

 

そして放たれたいくつもの()の槍は反応が数泊遅れたシエルの元へと徐々に距離を詰めていく。地水火風のみを作り出すと思われた彼の杖から予想もしなかった属性の攻撃が出てきたことで、更にシエルの動揺は大きくなる。

 

「さ、日射光(サンシャイン)!!」

 

日光の熱を使って氷を融かすことを瞬時に考えついて行動に出たが、ただでさえ後手に回ったことで十分な解凍は出来ず、シエルの身体を氷の槍が掠り、いくつも切り傷を作る。

 

「(何で…氷の槍が…!?)」

 

「冷えた“土”の窪みに溜まった“水”は、やがて固まり“氷”へ転ずる」

 

シエルが心に留めた疑問の声を、まるで聴いたかのように答えを提示しながら、エドシエルは次の行動に移る。今度は光らせる珠を変えて、赤と緑を操作する。

 

「遥か“天”上にて燃える“火”は、あまねく全てに降り注ぐ“光”…!」

 

それと共に口上のように呟いたその言葉を聞いたシエルは、次に来る攻撃がどの属性かを察知した。それと同時に理解した。地水火風のみを扱うと思っていた青年の攻撃はそれに留まるわけではない。二つの属性を合わせることで、四属性とも違う属性の魔法を形作ることが出来ると。

 

「気付いたところでもう手遅れだ。『ルーメンシャワー』!!」

 

長杖を上に掲げながら技の名を叫ぶと同時に、まるで天候魔法(ウェザーズ)で発動したと見紛ういくつもの陽光が少年の元へと降りかかる。ほぼ一瞬。シエルがいた場所にいくつもの破砕音と振動を与えながら、無慈悲に光が降り注ぐ。数秒間に何十の光が降り注いだろう。少年の身体が無事か否かなど確かめる必要もない程の規模。

 

 

 

しかし、彼がかけているメガネから電子音がいくつか鳴った瞬間、エドシエルはその目を左へと向けた。と同時に、黄色の珠を光らせた青年が土で出来た壁を左側にすぐさま作り上げ、黄色い雷を纏った少年の蹴りを完全に防ぎきる。

 

「なっ!?」

 

高速で動くシエルの動きを完全に読んでいたかのような対応に、思わず驚愕の声が口から漏れ出る。

 

「奇襲を止められたことがそんなに意外か?」

 

一方で全てを見通しているかのような言動をしながら、青年は長杖の緑の珠を光らせて風の弾丸を作り出し、岩壁を貫いてシエルを吹き飛ばす。呻き声をあげながらシエルは一度距離をとり、すぐさまエドシエルの元に…は行かずに彼の周囲を無作為に回り始める。

 

どこから来るか分からないように、いつ攻撃が来るか悟らせないために動き続けながらシエルは右拳により強力な魔力を集めていく。雷光の速さを得ているシエルの動きを常人が読むのは不可能。そこにさらに威力を込めれば、地面の膜を体を覆うように張ってもそれごと貫いて攻撃を与えられる。

 

浮遊島の上を高速で動きながらシエルは相手の様子を窺う。視線を移したりはせず、攻撃を迎え撃とうとする態勢のままで止まっている。そこから考えられるのは死角からの攻撃に対してすぐさま防御の態勢をとる、と言ったところだろう。誰しもが自分の視界から外れた方向からの脅威を警戒するものだ。

 

それを読んだシエルは、敢えて相手の警戒を逆手にとり、正面から高速で迫ることを選んだ。つい一瞬前まで自分の周囲を旋回するように動き回っていた存在が前触れもなく真正面に来ることで、動揺と混乱を誘う。そして対応が遅れているところに一撃を食らわせる算段。

 

 

 

だがエドシエルはそれさえも一切の動揺を見せずに、先程同様に岩の壁を目の前に作り上げる。しかも一方向。シエルが来る方向を完全に見切った上で、どのような威力の攻撃も防ぐほどの質量を持った壁を作り出した。

 

 

 

だがシエルは更にその先を読んだ行動に移す。岩壁に拳が当たる寸前で体を右へと旋回。速さをそのままに瞬時に方向を変えて回りこみ、岩壁の奥にいたエドシエルの左側に回転も加わった強大な一撃を食らわせようと拳を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

少年のその強力な一撃を、青年は一切視線を変えないまま軽く後ろに跳躍して紙一重で回避した。

 

「……はっ…!?」

 

何故これでも当たらない。速さは圧倒的にシエルが上。防がれたり躱されたりすることも考えて数手先を読んで行動した。それなのに、その動きさえも最小限の動きで上回っていく。いくらなんでもおかしい。振りぬいてしまった右拳。その拳から逸れて自分の右側に位置どった青年の無感情の表情を、思考が停止した様子で目にした少年。

 

「貰っていくぞ」

 

その数瞬の間でさえ、エドシエルは容赦なく攻める手立てを緩めない。手に持っている長杖の、青と緑の珠を光らせながら、シエルが纏っていた雷の魔力をそこに吸い取っていく。魔力の吸収。これもまた、魔科学の力によるものなのか、などと考えながらも青年の動きに対抗する術が浮かばない。

 

「『トニトルスエッジ』!!」

 

そして長杖の先に作られた雷の刃が少年の身体を直撃し、岩壁へと叩きつける。その衝撃で岩壁は崩壊し、再び少年の身体が叩きつけられる。意識はまだあるが、想像以上に攻撃を受けていることでその痛みは生半可なものじゃない。

 

だが肉体的よりも、精神的にシエルは追い詰められていた。何故か自分の行動の全てが前もって読まれているかのような感覚。あらゆる攻撃が、何故か通用する気配もない。紙一重で高速の攻撃を躱される経験など、今まで一度たりとも存在していなかったというのに。

 

「(何をしてこようが無駄であることを、いつになったら気付くだろうな…?)」

 

左手でメガネの位置を整えながら、追い詰められている少年を見下ろして心の中で独り言ちるエドシエル。彼がシエルの動き完全に見切っている理由。これにはある一つの、たった一つのシンプルな答えが存在していた。

 

「(このメガネが、こいつの動きを自動で追跡し、その後を分析して次の動作を予測している。単純で、理不尽なそのたった一点に)」

 

それは彼が常にかけているメガネそのものが、魔科学によって作られた魔法アイテムであること。敵のあらゆる不意討ちも魔力の反応や位置分析機能で先読みし、逆に相手への反撃に繋げる。やられている相手からすれば実に理不尽で、それを封じるためにメガネを狙おうともその行動も筒抜けになってしまう。

 

並外れた頭脳。それによって作られた魔科学兵器の数々。それを巧みに操る本人の手腕。そしてチートとも言える予測機能持ち。ナツやペルセウスのような力押しをする相手はともかく、シエルのように頭脳特化で、技巧と工夫によって切り抜けるタイプにとってはこの上なく相性が悪い。

 

「最早お前たちに勝ち目は存在しないぞ。早々に諦めたらどうだ?」

 

「……諦める…?」

 

「見てみろ、地上を」

 

うつ伏せの状態で倒れていたシエルにそう言葉をかけてみれば、うわ言のように反芻した言葉が返ってくる。対して、自分の部下たちがいるであろう地上に目を向けるように告げれば、そこには信じられない光景がシエルの目に広がる。

 

 

 

 

今までにも見た事ない程に消耗しながら、風の力を持つ短剣で兵士を吹き飛ばす風を起こすことが精一杯の状態となったペルセウス。

 

氷の魔法を惜しみなく発動して兵士たちを凍らせていくが、一部の兵士の反射板によって押し返され気味になっているグレイ。

 

ロキを召喚することが出来たものの、兵士や戦闘班の持つ大量の魔法弾による弾幕を体中に受けて、地面に倒れこむルーシィ。

 

何頭もの巨大な生物レギオンによって、星霊の力も及ばず体躯の暴力に沈められていくロキ。

 

生身一つで果敢に攻め込むも魔科学で練度をあげられた兵士たちに何度も突き返されるココ。

 

気絶しているようで目を閉じて動く様子の無いシャルルを抱えながら、涙ぐんで周りのみんなを見渡すハッピー。

 

 

 

それに対するは、圧倒的な数の暴力でアースランドの者たちを追い詰めていく、王国軍。

 

 

「数より質、なんて言葉も存在するが、強大な質一つ(ペルセウス)を削ればあとは圧倒的数量で押し切れるものだな」

 

大局は決した。

 

まるで言外にそう告げられたような気分だ。眼下に広がっている数人の魔導士も、最早戦えそうには見えない。少年の力も、青年のあらゆる性能を前にしては無力同然。ここからどのように反抗しようが何も変えられはしない。そんな無情な現実を、突きつけるかのよう。

 

諦める…。

 

 

 

このまま戦っても、勝ち目がないのなら…。

 

 

 

「いや…違う…!」

 

そんな弱気になった心を、少年は振り払い、四肢に力を込めた。そうだ、ここじゃ終われない。終わるわけには、諦めるわけにはいかない。

 

勝ち目が無いから何だ。元々一国を相手にするという無謀を、仲間の命を守る為なら躊躇いなくやって来たじゃないか。

 

勝ち目がなくても勝ちに行くのが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士…!!

 

「まだ…誰も諦めていない…!諦める、わけがない…!!」

 

手を伸ばし、足を踏みしめ、折れかけていた心に鞭を打ちながら、少年は立ち上がる。体の痛みが晴れたわけじゃない。だがこの程度なら、いくらでも経験してきた。立ちはだかる青年を睨みつけながら、少年はまだ光を宿した目と声ではっきりと告げる。

 

「俺たちは…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ…!この命が尽き果てようが、諦めることを選びはしねえっ!!」

 

小さい体から出るものとは思えない大きな覚悟。そしてその覚悟を現すかのように告げられた言葉に、青年は数秒ほどの無言。そしてその後に「そうか…」とだけ呟くと、長杖を構え直して4色全ての珠を輝かせ始める。

 

「ならば…望み通りその命を尽き果てさせてやる…!!」

 

僅かな苛立ちが籠ったような声を発しながら、地水火風の魔力と並行して、残る4属性…氷、雷、光、闇の計8属性の魔力を結集させていく。エドシエルが作り上げた魔科学の武器の中でも、本人のみが使用することが出来る長杖・エレメントゥムロッド。その真髄は、如何なる属性をも自在に操り、その強大なエネルギーを積み重ね、一気に放出できること。

 

自然界に存在する万象の力を一点に集中させたときに発生するその衝撃は、言葉では言い表せないほどの絶大な威力を誇る。

 

「エレメントゥムロッドが放つ、最大の一撃…。自然を統べる王者の意を冠する最強の魔法だ…!」

 

長杖の先端に8属性の魔力が集い、混ざり合う。様々な色を浮かべていた魔力が、混沌の如き漆黒のものへと変じ、更にそのエネルギーを高めていく。対してシエルは前方に両手を差し出して、自分の中にある魔力を集中し始める。だが、準備を始めるにはあまりにも遅すぎた。

 

「『ナチュラレックス・オールデル』!!!」

 

全ての色を塗り潰すかのような漆黒の波動が少年目掛けて放たれる。このまま避けなければ確実に命はない。受け止めようとするなど以ての外だ。命を捨てるに等しい。

 

 

 

 

 

だがシエルにはもっと別の狙いがあった。

 

輝虹(レインボー)!!」

 

前方に展開していた魔力は虹のもの。シエルの心と匙加減によってその効果をあらゆるものに変えるその魔法の特性にシエルは賭けた。今回の輝虹(レインボー)の特性は防御。それもただの防御ではない。迫りくるエドシエルが放つ魔法にも耐えるために、数多くの属性が込められている特性の点を大いに利用する。

 

それはエドシエルが放った魔法から、輝虹(レインボー)の魔力へと変換して、こちらの防御力の上昇と、敵の魔法の威力低下を同時に進行すること。普通であればそんな真似をすることが出来る者などいない。だが、輝虹(レインボー)は奇跡を起こす魔法。ならばそんな出鱈目なことも出来るはず。

 

シエルを守るように現れた円状の虹の盾が漆黒の波動と衝突する。まるで円の中心に吸い込まれるように波動は虹の中へとどんどん消えていく。その光景に、さしものエドシエルも驚愕を隠せずに表情に浮かんでいる。

 

そして波動が半分に差し掛かろうとした瞬間、虹の盾の方に限界が来てしまったのか、両者の魔法が光を放って爆発を起こし、近くにいた少年の身体が吹き飛ぶ。その勢いで浮遊島から身体を投げ出されるが、幸い意識を失っていなかったシエルはすぐさま乗雲(クラウィド)を発動して、己の身体を受け止める。何とか防げた…と言い切るのは微妙なところだが、目の前の脅威を退けられたことは確かだ。

 

「完全とまでいかずとも、まさか防ぐとは…。だが、もう一度撃てば、無事ではいられまい…!」

 

雲の上で横たわっているシエルに狙いを定めて、もう一度8属性の魔力を溜め込もうとするエドシエル。先程の奇跡をもう一度起こさせはしない。確実に終わらせる。

 

 

 

 

 

そんな彼の決意は、眼下で突如一変した状況を目に映した瞬間、虚空へと消え失せた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

それは突然の出来事だった。

 

「このままじゃ…みんな死んじゃうよ…!!」

 

兵士たちが乱射してくる魔力弾の弾幕から、自分を庇って受けてしまい、その意識を失ったシャルルを大事に抱えながら、ハッピーは次々に傷ついていく仲間たちの姿を見て、絶望に打ちひしがれていた。

 

「誰か…助けて…!!」

 

ナツたちはドロマ・アニムを、エルザとシエルはそれぞれもう一人の自分を相手に戦っている。残る味方は、この場にいる者たちで全員。だがそれも、魔法を封じられているペルセウスも含めて、数があまりにも多い王国軍を前に絶体絶命。

 

助けに来る味方などいない。

 

頭でそう分かっていても、そう願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

だが、突如ハッピーの願いは意図せずして叶った。巨大な体躯を誇るレギオンを、何体も縛り付ける巨大な木の根が地面から現れたと思いきや、その根の本体と思われる巨大なツタで出来た建物が、前触れもなく出現したのだ。

 

「ま…まさか…!?」

 

「逃げてばかりの奴等が…!!」

 

その光景に王国軍は勿論、ハッピーたちも目を丸くして驚いた。そのツタで出来た建物に括られていた旗に刻まれた紋章は、自分たちにとって、とても馴染みのある妖精の紋章だったから。

 

「転送完了!!予定よりはズレたけど、いい場所に来たみたい!!」

 

「よっし!じゃあ頼んだぜマスター!!」

 

その建物の中から、それぞれ聞き覚えのある少女たちの声が聞こえてくる。だが、どことなく違う。よく似ているが違う事が、直感的に分かるその声。

 

そして、開け放たれた建物の扉から、一人の男性がゆっくりと現れた。髪は長く、うなじのところで縛られており、色は水色がかった銀色。右目には白縁のモノクルが装着されていて、左手に持っているのは同じく妖精の紋章が刻まれた魔水晶(ラクリマ)が先端に付いた杖。

 

その人物は、誰もが見覚えのある…と言うより、今のこの場にいるもいる、神器使いに限りなく酷似していた。

 

 

 

 

「我々は、今までただ逃げることしかできなかった!強大な力を持つ大きな敵に、敵わぬと決めつけ、逃げてきた!」

 

その声は、妖精たちにも聞き馴染みがあるようで、だが記憶にあるよりも弱々しい。しかし今この時、今までの彼とは違ったハッキリとした声量であることが、伝わってくる。

 

「だがもう、その日々も終わらせる!ここまで共に生きてきた仲間の為、無念にも散って行った同胞の為、そして今この時、自らの危機も顧みずに戦う友のため!立ち上がれ!立ち向かえ!我らの明日は、我らが切り開く!!」

 

その声を発するのが何者か、彼の後ろに控えていたのが誰なのか、それがハッキリと目に映るにつれて、未だに同様と混乱を露わにしている王国軍とは対照に、アースランドの妖精たちの表情が明るくなっていく。

 

 

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)!総員、出陣せよ!!」

 

『オオオォォーーーーッ!!!』

 

檄を飛ばし、その開戦の狼煙をあげるのは、エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターである、ペルセウス・オルンポス。そしてその出陣の合図を皮切りに、中で控えていた妖精の魔導士全員が、各々の武器を手に王国軍兵士や魔科学研戦闘班へと立ち向かっていく。

 

「行くぞォオ!!」

「仲間との絆の力、見せてやるー!!」

「王国軍をなぎ倒せーっ!!」

 

「エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)…!!」

 

圧倒的な数の暴力を受けてきたハッピーたちにとって、その差を埋める彼らの援軍は願ってもないこと。何より、自分たちの為も想って駆けつけてくれたことが、何より嬉しく思えた。

 

「すまねえ!遅くなったな、アースルーシィ!!」

 

「エドルーシィ……!!」

 

そして、妖精たちの中で唯一もう一人の自分に面識があったエドルーシィが、もう一人の自分に不敵な笑みを浮かべて頼もし気に言葉を告げる。絶体絶命にピンチに助けに来てくれた彼女に、ルーシィは涙を浮かべながらその名を呼んだ。

 

「こいつらが…この世界の妖精の尻尾(フェアリーテイル)…!!」

 

決して軽くない傷を負い、膝をついていたペルセウスが、思わず緩む口元を隠さないまま、もう一人の自分の檄で出陣した、エドラス(別世界)の家族たちの姿を、目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何でだ…!?」

 

そしてその光景は、浮遊島の一つから見下ろしていた、エドシエルも勿論目撃していた。かつては自分も所属し、そして切り捨てたギルド。そのギルドの予想外の登場に、彼は大きく目を見開いて、驚愕を表している。

 

「何であいつらがここに来てる…!?何で逃げずに…王国に反抗してる…!?らしくないだろ兄貴…!一体何を考えて……!!!」

 

「へへへ…」

 

目に見えて動揺しているのが伝わるほどの狼狽えようを見せながら言葉を並べるエドシエルの様子を見上げていたシエルから、思わず笑みがこぼれる。それに気付いた青年が冷静でいるように努めながらも声を震わせて「何がおかしい…!?」と尋ねれば、シエルは笑みを解かないまま悠々と話しだした。

 

「ようやく…繋がったんだよ…。不思議に思ってたんだ…」

 

かつての仲間が現れた。それに対する彼の反応。これでようやくシエルの中で全てが繋がったのだ。そして同時にある事を理解した。

 

「どうしてお前がギルドを裏切って、王国に従ったのか。どうしてお前は俺たちにもここまで冷徹でいられたのか。どうしてココに、あそこまで憎悪を向けていたのか。どうして、エルザが国王を殺そうとした時…

 

 

 

 

 

 

 

 

お前が笑っていたのか…全部分かったんだ」

 

雲の上で上体を起こしながら、一つずつ確かめるように話す。一番シエルが疑問に思っていたのは、竜鎖砲の部屋でのこと。国王を人質にとられておきながら、王が望んだことであると言う名目で作戦の続行を強行しようとしたエドシエル。王の身の危険をチラつかせても、一切感情を揺らがせずに国の為と動いていた彼が見せた、シエルが目撃した怪しい笑み。

 

 

 

まるで、あの状況を望んでいたかのような様子を。

 

 

そしてその直後、エドエルザによって国王が解放されたときに聞こえた、彼の舌打ちの意味も。

 

 

 

 

 

 

「お前は最初っから……この国に忠誠なんて、誓ってなかった。お前の目的は、世界の為でも、国の為でも、自分自身の為でもない。

 

 

 

 

 

 

妖精の尻尾(あいつら)の為だろ?なあ?“シエル・オルンポス”」

 

確信を得た様に不敵な笑みを浮かべて捲し立ててくる少年に、青年はただ表情を固め、その顔に冷や汗を数滴垂らしていた。




次回『本当に仲間を想うなら』
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