FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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何話ぶりかに前書きと次回予告を後出しすることになってしまいました…。
書きたいところまで書こうと思ったら全然時間が足りなくてアワアワしましたよ…!

しかもちょっと次回予告が未だに迷走してるので、しばらくお待ちいただけると…。よろしくお願いいたします…。

【2022/6/12 0:12追記】
次回予告の作成完了しました。お待たせしてごめんなさい…。


第97話 本当に仲間を想うなら

彼にとって家族とは、血の繋がった兄以外存在しなかった。

 

元々は魔法に関する研究者であった父が、幼くして病弱となった兄の療養のために、今以上の効力を発揮する医療用魔道具の研究を行っていたことが、彼が科学の道に進むきっかけだった。

 

自分も兄の病気を治したい。兄の…子供のために自らの体に鞭を打って研究する父の力になりたい。その一心が、彼を科学へと没頭させていき、多くの知識を有するに至った。

 

 

しかし、彼らの人生は突如転落することになる。当時から魔法の独占を行っていた国王により、魔法による科学の研究を行っていた父は、前触れもなく大罪人として捕らわれた。その家族である自分たちも捕らわれかけたが、母の手によって逃がされ、それが両親との永遠の別れとなった。

 

隠れながら、逃げながら、兄の療養のために病院を巡りながら、彼は独自に研究を続けた。しかし頼みの綱である医者たちは、兄の容態を見て匙を投げるような無能共ばかり。何度も兄から、自分を見捨てて自由に生きてほしいと言われてきた。

 

何故捨てなければならない。

 

何故共にあってはいけない。

 

残されたたった一人の家族を残して、どこに行けと言うのか。

 

たとえこの先何があっても、自分が先に命を落としたとしても、兄を見殺しにすることは絶対にない。

 

 

自分に残された家族は、もう兄一人だけなのだから…。

 

 

 

 

 

 

そう思っていた彼は、後に新たな家族と呼べる存在に出会った。

 

自分と兄を、嫌な顔一つせずに受け入れ、仲間としてくれた大恩ある者たち。

 

兄一人だけが自分の生きる意味と思っていた彼に、より多くの生きる意味を与えてくれた。

 

 

 

彼らを守る為ならば、どんなことでもしてみせよう。

 

恨みを潜め、本音を隠し、建前と嘘で塗り固めた仮面を被り、数多を欺いて。

 

家族の命を一つでも救い、奴等の暴威を一つでも挫く。

 

そして、彼は奴等の元で一つの可能性を導いた。国、世界は勿論、生きる意味となった家族を漏れなく救える方法を。

 

 

 

国がどうなろうと知った事じゃない。

 

今まで散々苦しめてきた世界などどうなってもいい。

 

ただ…ただ、自分の家族が怯えることなく、安心して生きていけるのであれば…。

 

 

 

奴等の野望を、大いに利用してやろう…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

雄叫びをあげながら、今まで隠れ潜み、逃げることしかできなかったギルドの一人一人が立ち上がり、各々の武器を持って王国軍に雪崩れ込む。近接の魔法で肉薄し、遠距離の魔法で敵を打ち抜き、範囲の広い魔法で薙ぎ払う。

 

エドラスに唯一残った闇ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)。大軍を大群で押し返す様子を、ギルドの入り口前で真剣な表情で見据えるのは、彼らを率いるマスターであるモノクルをつけた色白の青年。エドラスにおけるペルセウスだ。

 

「あれが…エドラス(この世界)の俺…」

 

その青年の姿を目にしたアースランドのペルセウスが感慨深く呟く。エドラスに渡ってから、噂でよく耳にしたり、エドラスのガジルからの情報として、この世界の妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターをエドラスの自分が務めていることは知っていた。しかし実際にその姿を目にしたのは初めてで、異世界でのもう一つの自分の姿として目にすると己との違いをよく実感できる。

 

人の上に立つ才。導き、光の道しるべとなるべき存在。自分で成しえない事を行えるマスターである自分の姿は、細身でありながらもしっかりと芯の通ったような印象を与えてくる。

 

 

 

 

「ゴフッ…!!」

 

そんなもう一人の自分が突如前触れもなく血を口を噴き出してその場に蹲ったのを見て、別の意味で大きな衝撃を受けた。

 

「マスターーー!!」

 

「やっぱ無茶しすぎただろ!?」

 

「だ…大丈夫、です…ちょっと声を張りすぎて、喉が切れただけで…」

 

「それは大丈夫って言わねーよ!!」

 

先程の先導者としての姿が嘘のように、いかにも虚弱と言うイメージがつく弱々しい姿を見て、比較的近くにいたメンバーたちが次々とマスターペルセウスに声をかける。本人は気丈に振舞っているが、どっからどう見ても重症だ。

 

「あれが…エドラス(この世界)の…俺…」

 

そんな様子を見た後だと、呆然とした様子なペルセウスのこのセリフも、さっきと字面は同じなのに別のニュアンスに聞こえてくるから不思議だ。

 

「えっと、マスター?エドペルさん?大丈夫なの…?」

 

「割といつもだ。今は気にすんな!」

 

二人ほどメンバーに肩を貸されながら入り口前で立ち上がろうとしているマスターペルセウスの様子を見ながら、彼の姿を初めてみたルーシィが呆然としながら、肩を貸してくれたエドルーシィに尋ねる。本来であれば心配する場面だが、今は戦闘の真っただ中。普段見慣れたマスターの吐血の場面を数人に任せて、今は目の前の敵に集中することにする。

 

ちなみにロキはベクトルの違うダブルーシィがセットになった光景に目をハートにしている。

 

「「オレ!?つーか服!!」」

「脱げよ!!」

「着ろよ!!」

 

一方それぞれの世界のグレイ二人が、片方が上半身裸、もう片方が超がつくほど着込み過ぎの状態を見て互いにツッコんでいる。足して二で割ったらちょうどいいぐらいだ。

 

「グレイが二人とかあり得ない!ジュビア、ピンチ!」

 

「な、何て羨ましい…!!」

 

「は?」

 

そんなグレイが二人の状態であることに気付いたジュビアが、王国兵二人の首を両腕で拘束しながらも鬱陶しそうにぼやく。だがその拘束の拍子に彼女の大きな胸にそれぞれ王国兵の顔が埋め込まれているのを見て、エドグレイが興奮し始めた。

 

「お前はオレなのに何も感じないのかよ!?愛しのジュビアちゃんの、あんな姿を見て!!!」

()()()()()()()()()()だぁ!!?」

 

鼻息を荒くしながらジュビアへの愛を叫ぶエドグレイ。着込み過ぎな上にジュビアにデレデレとしているもう一人の自分の姿に、当のグレイは気が狂いそうなほどに混乱して、ジュビアはと言うとやっぱりエドグレイを突っぱねていた。

 

更に別のところでは互いを謎のあだ名で呼び合うアルザックとビスカが愛の力と言いながら魔法銃を乱射したり、「オレたち最強ー!」と叫びながらジェットとドロイが次々と王国軍を撃破していったり。アースランドじゃ考えられない光景だ。

 

「何をしてるんだ、魔科学研!!お前たちの兵器で押し返せるだろう!?やらないか!!」

 

「そ、それは…その…!」

 

別の区域では早々に魔導士たちを魔科学兵器で攻撃しようとしない戦闘班に、兵士の一人が呼びかけて使用するように叫ぶも、何か迷っているのか、戸惑っているのか、一向に兵器による一掃を行う様子がない。痺れをきかして「いいからやれよ!!」と騒ぎ立てるも、戦闘班の者たちが肯定も否定もする前に、一人の魔導士の攻撃による突風が彼らの身体を吹き飛ばした。

 

「げっ!?あ、あいつは…!!」

 

その魔導士の姿を見た一人の兵士が、途端に顔を青ざめて引き攣った声をあげた。両手にそれぞれトンファー型の魔法を握り締め、片腕を突き出した構えのままで佇んでいる、長身でスタイルの良い、藍色の長い髪を揺らした女性…エドラスのウェンディが、剣呑と言えるほどに険しくした表情で眼前の兵士たちに視線を向けている。

 

「あなたたち、魔科学研よね?シエルは…どこにいるの…?」

 

鋭い視線をそのままに、兵士たち…と言うより魔科学研の戦闘班に向けて、静かでありながらも圧を感じる声で問いかける。彼女の問いにどよめくばかりで答えられずにいると、彼女は両手のトンファーを構え直してそれぞれに再び渦巻く風の力を纏わせる。

 

「シエルはどこなの…?答えなさいっ!!」

 

そしてさらに目を鋭くさせながら地を駆けて突撃。突き出した両方のトンファーが巻き起こした風が嵐となって兵士たちを成す術なく吹き飛ばす。普段の彼女からは想像もできないほどの凄まじい戦いぶりを見て、王国兵のみならず、アースランドから来た魔導士3人は(あとココも)目と口をこれでもかと開けて驚愕している。

 

「ウェンディだ…!こいつ…『狂嵐妖精(バーサクシルフ)のウェンディ』だぁーー!!」

 

「バーサク…?」

「シルフの…?」

「ウェンディが…?」

 

そんな彼女の姿を見て兵士の一人が叫んだ二つ名。耳にしたアースランド勢は正直耳を疑った。『狂嵐妖精(バーサクシルフ)』?あの純真無垢な可愛らしい少女がパッと脳裏に浮かぶ彼らにとっては、全くの無縁と言える二つ名で呼ばれたエドウェンディに理解が追い付かない。

 

エドラス(こっち)じゃ“ウェンディ”と言えば、本気を出せばシャドウギアさえ圧倒する、妖精の尻尾(フェアリーテイル)()の最強魔導士だぜ?まあ…きっかけは大体シエル絡みなんだけど…」

 

「全然イメージが結びつかねえっ!!」

 

唖然呆然となっているアースランド勢を見かねて、エドルーシィが彼女の異名について説明してくれた…はいいが、やっぱり全く理解が追い付かない。世界が違う事で色々と人物も違う事は何となく分かっては来ていたが、その中でもウェンディは断トツで違い過ぎる。色々な意味で。

 

「ペルさんがマスターで病弱だったり…グレイがジュビアにデレデレで…ジェットとドロイが最強候補に…それより強い暴れまくるウェンディ…?何か色々違い過ぎ!!」

 

今この場にいるアースランドの魔導士は、始めてエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々を目撃した。性格の違いはエドルーシィでしっかりと感じていたのだが、他の面々を一気に見てみると、本当に色々と違いすぎて逆に訳が分かんなくなってしまう。ルーシィが一纏めにしてはみたが、これで氷山の一角だと言うのだから恐ろしい。

 

「見て、シャルル…。妖精の尻尾(フェアリーテイル)が助けに来てくれたよ…!オイラたちの想いが、この世界を動かしてるんだ…!!」

 

傍から見れば混沌極まる面々が揃ったギルドだが、そんな彼らの救援を誰より喜んでいるように見えるのは、横たわっているシャルルに優しく呼びかけたハッピー。自分たちが知る者たちとは別人であるはずの彼らが、自分たちのために今まで避けてきた王国を相手に全力で戦っている。時に励まし合いながら、時に発破し合いながら、時にともに並びながら、元のアースランドと同じような形で支え合う魔導士たちの姿を見て、目から涙が溢れてくる。

 

「どこに行っても…騒がしいギルドなんだから…」

 

そんな彼らを、意識を取り戻してハッピーと同じように目にしていたシャルルは、口ではそう言っていたものの、心底嬉しそうな表情を浮かべて涙を流していた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

そしてその光景を見ていたのは地上の者たちだけじゃない。浮遊島周辺で同様に目にしていた少年と青年もまた、各々違う心情でその光景を目にしながら対峙していた。

 

外傷だけを見れば、少年が全身にいくつもの傷を負っていて、青年の方にはそれが一つも見当たらない。だが、今現在追い詰められていたのは青年の方だ。心情的な戦いにおいて。

 

「お前が王国軍に仕えていたのは、妖精の尻尾(なかま)に王国の動きを教え、その脅威を遠ざけるため…。だがそれは、一年前に手紙で情報を送れなくなったことを伝えたのを最後に途絶えた」

 

乗雲(クラウィド)の上に座りながら、口元に弧を描いて青年を見上げているシエル。エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)から…そのマスターである目の前の青年の兄から聞いていた内容。あの時は、立場が上になったことで送り辛くなったから、と推測していた。その後、彼が本気でギルドを裏切って王国に忠誠を誓っているように見られる様子が度々起き、決別の意味があったのか?と考えたこともあった。

 

だが、真実はそのどちらでもない。真実が一体なんであるのかは、少年には既に見えていた。

 

「この国の目的は、永遠の魔力。尽きることのない、魔力が溢れる世界。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……お前の目的は、その先だったんだろ?」

 

少年の紡ぐ言葉を耳にして、青年の表情は努めて冷静であろうとしているが、噤んでいる口からは肯定も否定も飛ばず、こめかみから頬にかけて、いくつもの冷や汗が浮き出している。図星を突かれていると言ってるかのように。

 

国王が恐れていたのは魔力の枯渇。だからこそ多く存在した魔導士ギルドを排し、王都以外の町々から魔法を搾取していった。しかしその魔力がどこにでもありふれたものになれば、手中にかき集める必要もなくなる。魔法は無くならない。奪われることもない。そしてはそれは必然的に…ギルドを狙う理由も存在しなくなる。

 

 

 

 

 

「エドラスに永遠の魔力をもたらすことで、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の確実な安全を保障させること。それがお前の目的だったわけだな?」

 

問いかけるように…しかし実質的には核心を突くように告げた少年の言葉。言う事は言い切ったとばかりに笑みを深くした少年に、青年の表情は対照的に歪む。これでシエルの推測が全くの埒外であれば、彼は動揺を見せるどころか呆れるあまりに失笑を浮かべていたところだろう。だがその表情には、今まで見せることのなかった明らかな動揺を孕んでいる。

 

「……子供(ガキ)と思って見くびっていたが…根底が俺であるだけの事はある、か…」

 

溜息と共に出てきたその言葉は、まるで降参が混じったかのようなもの。シエルの推測が正解であると答えているようなものだった。

 

「よく分かったな、と誉めておく。だが、俺の立場はどのみち変わらんぞ。あの強欲ジジイが求める永遠の魔力を、俺も求めていることには変わりない」

 

隠しきれない事を悟ったエドシエル。正直に己の本来の目的に肯定を示したものの、それがつまり少年たちアースランドの味方となってくれることに繋がるわけではない。それは少年自身も察しているのか、何も言い返さずにじっと青年の顔を見上げたままでいる。

 

「国も世界もどうなろうと知った事じゃないが、奴等の求めている世界が実現する以外に、妖精の尻尾(あいつら)が幸せに生きていける道が存在しない。それが現実だ」

 

「今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)が幸せじゃないって言うのか?」

 

「言われなくても分かるだろ?強大な国に追われ、仲間を何人も殺され、明日は我が身と怯え続ける日々が、幸せと思えるか?生活の基盤を…魔法を失った先の生活が、幸せでいられると思うか?」

 

エドラスに潜入し、世界が如何に魔力不足であるかを痛感した彼だからこそ、この先の世界に…その世界に生きる仲間たちの事が心配になった。今や人々の生活に根付いた魔法。それが失われた先に起きるのは、不自由に縛られた生きることを実感できない地獄。火を起こし、水を湧かし、風を吹かせ、地を動かすことのできない生き地獄だ。最早生きているのかと問いかけずにはいられない。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が…俺の家族が、これから先も幸せであり続けるには…永遠の魔力が必要だ…!!」

 

決意を固めたように呟きながら、エドシエルは手に持つ長杖を構え、黄色と赤の珠を光らせて魔力を練り上げる。自らの家族のためならば、どのような事も厭わない。その身が例え、“地”の奥深くで燃え上がる業“火”が存在する“闇”に塗れた選択であったとしても。

 

「エクシードのように、その為の礎になってもらうぞ…!アースランドの魔導士!!『テネブラエランス』!!」

 

闇の魔力を具現化した槍が雲に乗っているシエルへと襲い掛かる。それに対して態勢を立て直したシエルは雲を動かして浮遊島の下を通過するように回避。そのまま小さく眩い太陽を創り出して分裂させ、矢の形へと変えていく。

 

光陰矢の如し(サニーアローズ)!!」

 

「『ルーメンスフィア』!!」

 

飛び出すと同時に光速の矢を青年に放つも、彼がかけているメガネに先読みされ、光の矢は同じ属性の膜に吸収されてしまう。だが、シエルもこれに関しては想定済みだ。

 

「もう一度光陰矢の如し(サニーアローズ)、さらに落雷(サンダー)!!」

 

「二つ同時…!?」

 

右手で光の矢をさらに増産させ、左手に雷の魔力を浮かべて上空に放出。前方と頭上、二方向からの別属性の攻撃を行う事に少々の動揺を顔に浮かべるものの、目視での回避に限度が生じる光の矢を膜を持続させて封じ、雷はメガネでタイミングと位置を分析して直前で回避することで両方に対応する。

 

「これでもダメか…!」

 

「全く呆れるほどに諦めが悪い…なっ!!」

 

掛け声と共に膜として張っていた光の魔力を変化させていくつもの光線として放つ。雲を操作してそれを回避しようとするも、向こうと違って先を読むことも出来ないシエルには全てを回避は出来ず、体にいくつかの新たな火傷を作る。

 

痛みをこらえて、一度雲を解除したシエルは浮遊島に着陸。荒くなった息を整えながら日光浴(サンライズ)を出して生傷を塞ごうとする。その隙を、本来であればつかない理由などないのだが、これまでの戦いの流れを鑑みて、エドシエルはこれ以上の苦戦はしない事を察した。それ故か、彼は再びシエルに言葉をかけ始めた。

 

「同じ俺であっても、経験や知識は勿論、覚悟の差においても勝負を左右するきっかけとして作り上げられるようだ」

 

「……覚悟…?」

 

回復に集中しながらも、かけられた言葉のうちの一つを気にした少年が尋ねる。どちらも戦う目的は仲間の為。少年は囚われた仲間を助ける為に、他の仲間たちと共に力を合わせてきた。だが青年は仲間を危険から遠ざけて、一人敵地の中に身を投じた。自分一人だけを危険な場所に投げることで、仲間に意識を集中させないようにする。

 

そしてその方法には一切躊躇がない。エクシードも、アースランドの人間も、時には王国に仕える兵士や他の幹部でさえ。どれほどの闇を抱えようとも、仲間以外の全てを、自分も含めて売ることを厭わない覚悟を、彼は決めている。

 

仮に永遠の魔力が世界に溢れれば、エドシエルは国王にこれまでの功績と信頼を糧にして妖精の尻尾(フェアリーテイル)への不干渉を要請するつもりだ。そうすることで彼らを王国の魔の手から遠ざけることが出来る。いざとなれば、自分が永遠に魔科学の研究を王国のために行うことも条件に提示すれば、あの国王も首を横には振らないだろう。

 

「仲間を想っての事であれば、俺はこの身を捧げることも厭わない。仲間の傍にいたがるお前には、分からない事だろうな…」

 

例えもう二度と会えなくなったとしても、もう何かから追われたり、何かを失う事もなくなる。そうなることが約束されるなら、自分の身を滅ぼすことになったとしても構わない。傍から見たら異常だろう。それは彼自身が一番よく分かっている。仲間を想うあまり、己も、その他の存在も一切省みない。他人から共感など一切されないであろう。

 

 

 

 

 

 

「いや…お前の気持ちはよく分かるよ…」

 

だが、目の前の少年から出てきた言葉に、思わず青年は耳を疑った。自分自身でも異常と考える思考に、まさか共感を覚えたと?再び口元に笑みを浮かべながら、シエルはその言葉の意味を話し出す。

 

「やっぱり“俺”なんだな…。シエルっていう男は、仲間の為なら何することにも躊躇いがない…」

 

今更ながらに感じた、目の前にいる異世界の自分へのシンパシー。そう。自分が一番よく知っている。“シエル”と言う男が胸の奥に秘めている、仲間に対する感情を。

 

『俺は仲間の幸せの為なら、どんなことだって利用するやつだからね』

 

元の世界で、ドラゴノイドと言う人工ドラゴンによる騒動が解決した直後、仲間であるミラジェーンに返した言葉が、シエルの頭の中によみがえる。仲間の幸せに繋がるなら、仲間の命以外のどんなものでも利用し、懸けて、邪魔になるなら切り捨てる。

 

世界が違っても、性格が違っても、やはりシエルである目の前の男は、確かにもう一人の自分であるのだと実感させられた。

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、許せない部分も存在する。

 

彼の気持ちは確かに分かる。魔力を溢れた世界にすれば如何なる脅威も消えて自由に過ごせる。その為の犠牲として仲間やエクシードが利用されることは許せないが、頭ごなしに非難することは出来ない。より豊かな暮らしを求めるのは人間の性だ。

 

仲間を、家族を失いたくないから、自分たちもその目的を阻止しようと全力で戦う。ぶつかり合う。

 

だけど、彼の行動でどうしても譲歩できない部分が存在しているのだ。

 

「お前のやり方じゃ…仲間を幸せにすることは出来ない…」

 

「……何だと?」

 

これまでイタズラの時のように笑みを浮かべて言葉を発していたシエルであったが、その笑みを引っ込めて堂々と告げたその言葉に、青年の顔に、明らかな苛立ちが浮かんだ。

 

「幸せに出来ない」と言うその一言が、これまであらゆるものを犠牲にしながら仲間の幸せを願ってきた青年の琴線に触れたのだ。

 

「さっき俺は、今の妖精の尻尾(あいつら)が幸せじゃないのか?って聞いたけど、俺もその通りだと思うよ。そしてお前の行動は、その先の幸せも封じ込めている。お前は…妖精の尻尾(あいつら)が求めているものが、分かってない」

 

その琴線に触れていることに気付きながらも、シエルは臆することなくその一つの事象を話す。家族の幸せを願いながらも、その行動が逆にそれを遠ざけていることになっていると。これまでの彼の行いは、彼の心と矛盾したものになっていると。

 

 

 

 

 

「貴様に…何が分かるっ!!?」

 

苛立ちは確かな怒りとなり、それによって力強く握りしめられた長杖を振るいながら、青年は即座に4属性の魔力弾を発射。それを少年が咄嗟に腕を交差して防ぐが、浮遊島の地面を数メートル後ずさるほどの威力で、彼の腕は痛みで痺れ出す。

 

「俺が妖精の尻尾(あいつら)の求めているものを分かっていないだと…?原理が全く異なる別の世界から来た奴が、分かり切った顔でほざくんじゃねえ!!」

 

家族のために。その一心で彼は2年半もの間、いたくもない王国の為に、尽くしたくもない王に尽くしてその才を注いできた。魔力を溢れさせれば絶対に幸せに出来ると、心から信じて疑わなかった。それを根底から否定するような言動をした目の前に少年に、今までの抱え込んできたかのような怒りを青年は爆発させる。

 

その爆発は彼の手に持つ長杖に影響し、先端の珠を再び四色光らせ、8属性全ての魔力を収束させた最大の技をもう一度放とうと構える。

 

「確かに…俺はこことは別の世界の人間だ…。けど、そんな俺でも、分かるんだ…!魔力よりも、安全よりも、国を相手に立ち上がったあいつらが、本当に欲しかったものが何だったのか…!!」

 

腕の痺れをこらえながらも、シエルは右手に雷の魔力を生み出し、必死に口を動かしながらもそれを握り潰して、全身に雷の魔力を駆け巡らせる。彼の言葉に、動きに、より苛立ちが助長された青年は、少しばかり落ち着かせるために息を吐きながらも、怒りのこもった目をそのままにして鋭い視線を向け直す。

 

「もういい…。少し考えればすぐ分かった事だ。エドラスに敵対の意志を見せるお前たちに、エドラスに生きる俺たちの気持ちなど、理解できない事を!」

 

これ以上の問答は不要。目の前の少年を、ただ障害として消す以外に考えることなど蛇足であると結論付け、青年は漆黒の魔力を集めた長杖の先端を少年に向ける。それに対してシエルは雷の魔力を纏ったまま、左手を少しばかり上げて、魔力を練り始める。

 

「これで完全に消え失せろ!!ナチュラレックス・オールデル!!!」

 

激昂のままに放たれた漆黒の波動。直撃すれば小さな身体など今度こそ原形さえ残りはしないだろう。徐々に目前へと迫りくる波動を前にして、シエルは焦りを見せないまま左手に()()()()を具現させた。

 

雷光(ライトニング)

 

 

 

 

 

 

 

 

倍速(ブースト)』!!!」

 

そしてその魔力を握り潰すと、シエルが体に纏っていた黄金の雷が、左手を起点に変色。青白い蒼雷へと変貌を遂げる。そして上空に向けて飛翔するように地を蹴ると、目前に迫っていた漆黒の波動を難なく置いてけぼりにして空振りに終わらせる。

 

「消えた…!?…だが、この技は通用しないぞ。どこから攻めようと、容易く…」

 

先程とは少々様子が違うが、自分のメガネに付けた分析機能で十分読み取ることが出来た技と同列のもの。先程と同様に先を読んで攻防に繋げれば脅威とはなりえない。言葉を紡いでいる内に、右側から高速で迫る反応がある事を認識したため、杖を振るおうと右腕を動かす。やはり簡単だ。

 

 

 

 

 

 

と思っていたら、長杖が地の魔力を練り上げるより先に、青い雷を纏った少年が右から横切って自分の左頬に裏拳を食らわせて通過していった。あまりの速さでぶつけられた攻撃に、青年の体が大きく仰け反る。

 

「っ…!!……!!?」

 

そして同時に混乱に陥る。何が起きた?先を読んでから攻撃が来るまでに、1秒の間も存在しなかった。行動が遅れたか?気を取り直して、今度は油断を無くして少年の来る方向の情報に集中する。

 

「ソルムスフィア!!」

 

来た。今度は正面。すぐさま地の膜を展開して防御…

 

 

 

するよりも先に、少年の雷光を纏った拳が彼の腹部に突き刺さり、エドシエルは大きく息を吐きだした。そして気付いた時には、少年は再びその姿を消し、一人で包囲するかのように動き出す。

 

「(は、速い…!?先程と比べて段違いのスピード…!!メガネ(こいつ)の分析が追い付かないほどの高速で攻撃を行っている…!?)」

 

シエルの攻撃を二回受けて判明させたのは単純な原因。先程まで先を分析できていた攻撃が、純粋に速くなっている。分析直後。あるいは分析している途中で、既に攻撃が届いてしまっているのだ。

 

だが原因が分かれば対処も可能。途中で終わってしまっていた地の膜を一度解き、水と風の魔力で雷の魔力を作り出してそれを膜にする。雷の魔力を持っているのなら、これで攻撃しようとしてきた瞬間に吸収できるはずと考えての防御だ。これが通用すれば、向こうも迂闊に攻撃が出来ないはず…!

 

「(今度は背後…!)がはっ!?」

 

だが、エドシエルの抵抗は、微塵も実を結ばなかった。スピードを更に付けたシエルの両脚による蹴りが雷の膜を突き破って、勢いそのままに青年の背中を大きく蹴り飛ばす。あまりの衝撃に、浮遊島の地面を青年が勢いよく転がっていく。

 

「(まずい…!!雷による中和も通じないのなら、他の属性でも防げるわけがない!あれほどの勢いであれば、地による強固な守りも突き破り、水による拡散も間に合わない…!!)」

 

同じ属性で魔力を別方向に流す方法が通じなかった。その結果を受けて別の策を講じるも、同時に判明した少年の攻撃を振り返って、他の方法も通じない事を悟る。すぐさま分析にあたれる強みが、逆に容赦のない現実を突きつける原因となっている。

 

「っ!!また…!!」

 

起き上がることも出来ない状態で、彼のメガネが再び攻撃の予兆を感知。しかし思うように動けずにその攻撃に身構えていると、少年の攻撃は彼の頭上をすれすれで通り抜けた。

 

「!?まさかこの攻撃は…!」

 

何かに気付いた様子で再び姿を消した少年の攻撃の予測に身構える。予想が正しければ…。そう思考しながら彼のメガネに再びその予兆が現れる。そしてそれと同時に身を屈めると、再び青年の頭上を青い雷光が通過。攻撃は空振りだ。

 

「(やはりな…)」

 

そしてエドシエルが導き出した推論。この技は確かに速度と威力共に申し分ない、脅威的な技だ。だがその反面、速度があまりにも高い故に、標的を狙ってコントロールすることが出来ないという弱点が存在する。倍速…と言うのはただ単に自分の速度を上げるだけであって、体感速度までついて行けるものではないらしい。

 

「(少々ジリ貧になるが、向こうの魔力が尽きるまで回避に専念する方が効率的…)ん…?上…!?」

 

相手の技を如何にして攻略するか考えていたエドシエルだが、次に映った攻撃の方向が側面ではない事に気付いて思わず上空へと視線を移すと、こちらに向けて真っすぐと落ちてくる蒼雷が映り、反射的に身を捩って回避。浮遊島を上から貫通するほどの穴を少年が作ってしまう。

 

「(バカか俺は!?コントロールできずとも視界は機能してるんだ!二回も当たらなければ狙い方を変えるのは必然…頭ごなしに突進してくる動物が相手じゃないんだから、当然だ…!!)」

 

そして青年は数秒前までの自分に対して思考が足りていなかったと反省する。自分が同じ立場であれば、身を屈めて躱し続ける敵に、上空から狙いを定める。少年が行ったのは同じことだ。その考えを予測できなかったことに自己嫌悪さえしてしまう。

 

「躱し続けるにも工夫が必要だな…!」

 

次の攻撃が来る前に対策するべき。そう思い至った青年は長杖で地属性の魔力を操作し、浮遊島の至る場所に岩を盛り上げて作った柱を作り出す。メガネの予測よりも先にコントロールしづらい雷光の攻撃が横切れば柱の壊れる音で先に対策できるようにするためだ。その作戦は通じたのか、一方向の柱が破壊される音を聞き取った瞬間、彼はその方向の延長線上から退避。その直後に蒼雷が横切る。

 

「よし…!次だ…!」

 

壊された柱は再び作り出して同じ方向からの無音の攻撃をも対策。もし仮にすべての柱を避けて攻撃しようとしたとしても、その方向はメガネの先読み機能も手伝って読みやすい。上空からの攻撃も、飛び退いて回避し、再び浮遊島に貫通した穴が出来る。

 

順調だ。しかし彼は油断しない。きっと少年はこの状況に対しても何か異なる手法で対応してくるはず。そう警戒していると、今度は前方から破壊音が聞こえてくる。

 

「方法を変えない限りは同じだ…!」

 

そして再び蒼雷の攻撃を躱すために右方向へと飛び退いて、横切るのを見送る。

 

「がっ!?」

 

しかし次の瞬間背中からの衝撃を受けて前のめりに倒れこむ。直撃した瞬間、メガネには後方からの攻撃が警告されており、間違いなく少年の攻撃を受けたことを示唆している。だが、柱を突き破ったのは前方。一度横切った蒼雷も、前方から迫ってきていた。今度は一体何が起きたのか。見切る為にももう一度意識を集中する。次の破壊音は左側。左側の攻撃に集中して、いつでも退けるように身構える。

 

だがその直後後方からも破壊音が響き、更に左側にも同じ音が発生する。

 

「!?(ど、どういうつもりだ、一体…!?)」

 

四方八方の柱が破壊されていく音が響き、その度メガネの警告も次々と発生して、方角が定まらない。訳も分からなくなって目を配っていると、今度は左側からその攻撃を喰らってしまう。

 

「ぐっ…あっ…!!(何かが妙だ…!何故急にこれ程小回りがきくように…!まさか…!?)」

 

立ち上がりながら岩の柱を再び復元させ、攻撃を受けた原因を探っていると、一つの仮説を思い浮かべる。だが、それに気付いた瞬間、彼のメガネに警告の音。柱は一切壊されてない。だがその方向は上空からではない。方向は前方の下。

 

眼下に、膝を折って飛びあがる構えをしたシエルが、狙いを定める狩人のような目を向けて、こちらを見上げている。それを目にした瞬間全てを理解した。

 

「礼を言うぜ。おかげでこの技にも慣れてきた」

 

「(この短時間で…あの速度のコントロールを身につけた…!?)」

 

何度も蒼雷を纏った攻撃を仕掛け、徐々に工夫を凝らし、障害を破壊しながら自らの力を慣らしていった。その結果、彼は新たに身につけた一段階上の速度による攻撃に目が追い付いていった。

 

「てやっ!!」

 

対処する余裕もないまま数秒立ち尽くしてしまったエドシエルを、青い雷光を纏ったシエルが思い切り蹴り上げて空中へと放り出す。

 

「お礼に俺から教えてやる…」

 

その言葉を始めにしてシエルはすぐさまエドシエルの元へと追いつき、もう一度蹴りを入れて更に高くへと飛ばす。

 

「お前は自分の身を犠牲にしてでも、家族の幸せを願っていた」

 

蒼雷を纏ったシエルの速度はまさに一瞬。いくら飛ばしてもそれに追いつきその度に彼はもう一人の自分に言葉をかける。その言葉に目を開いて反応を示す青年に向けて右拳を胸の部分に打ち付けて下へと落とす。落ちていったところに再び追いつけば蹴り上げ、次に横、下、上、あらゆる方向からあらゆる攻撃を与えていく。

 

「けどな!お前の家族は、お前がいなくなったことに心から悲しんでいたし、お前の帰りをずっと待ちわびている!!」

 

「!!」

 

シエルはその言葉を青年にかけながら思い出していた。今地上で戦ってくれているギルドの者たちが零した願いを。

 

『そんな危険な真似をせず、ただここで…ギルドの一員として、過ごしていて欲しかったんです。もう自分を追い詰める必要はないって…』

『「すぐじゃなくてもいい。私たちはいつまでも待ってる。だから…必ず生きて、ギルドに戻ってきてほしい」って…』

 

そしてエドシエルもまた、その言葉を聞いて思い出した。自分に対して怒りを表しながら涙を流そうとしていた少女の言葉を。

 

『あなたの身を案じてくれているみんなの事も、あなたを信じて託してくれているお兄さんの事も、あなたの帰りをずっと…いつまでも待っていてくれている『私』の事も!全部…全部裏切った!自分勝手な国の為に、家族を見放すなんて…彼だったら絶対にしない!!』

 

彼らの幸せは、豊かに暮らせることじゃない。彼らにとって何より大切な…愛する家族と、たとえ不自由であっても共にありたい。望みは、ただそれだけだと。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、仲間が、家族がいなけりゃギルドじゃないんだ!!だから俺たちは、世界を敵に回しても取り戻そうと必死になった!!残った仲間と一緒に!!」

 

言葉と共に攻撃を加えながら、シエルは更にそのスピードを上げる。心の底からの叫びと共に告げられたそれは、彼の心に呼応するようにそのギアを上げていく。

 

「お前も、本当に仲間を想うなら!!自分を危険ごと遠ざけるんじゃなくて、家族の傍で危機に立ち向かえ!!苦しくても、涙しても!仲間が、家族が傍にいれば、それは豊かである以上に、幸せなんだ!!」

 

「…!!俺は…!!」

 

既に体のあちこちに痕が出来ているエドシエル。だがそれよりも、シエルの言葉の拳が、彼の心へと徐々に届いていき、その覚悟を揺らがせる。

 

「帰るんだ!!妖精の尻尾(あいつら)の元に!お前の兄の元に!お前を想ってくれる女性(ひと)の元に!!」

 

迷いが生じ始めたその顔を目にし、シエルはさらに右の拳に力を込める。どれだけ攻撃を与えても揺らがなかった冷たい科学者の固くなった心を、元に戻す最後の一撃を与えるために。

 

「“シエル”が傍にいることが!あの妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっての一番の、幸せだぁーーっ!!!」

 

最後の叫びと共に繰り出した右拳が、科学者の左頬を打ち抜く。浮遊島からすでに高度を落とした空中で繰り出されたその攻撃は彼に微かな抵抗も与えず、彼の身体を地上の森の中へと落下させた。

 

その落下音は激突している地上にも響き、王国軍、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の両陣営の意識を向けさせる。

 

「い、今のは…!?」

「何かが、落ちてきた…!?」

 

戸惑いの声をあげる両陣営。その中で、王国兵や魔科学研を相手に無双の如き戦いを見せていた藍色髪の女性が、直感でその正体に気付いた。

 

「まさか…!」

 

周りのギルドメンバーの制止も聞かず、彼女はその一点を目指して駆け出した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その落下地点に真っ先に付いたのは蒼雷を纏っていたシエル。着地と同時に身に纏っていた雷の魔力を解いて、完全に戦闘態勢を解除。茂みの中で力なく横たわるエドシエルへと歩み寄る。意外としぶといようで、まだ意識はあるようだ。メガネは生憎砕けて傍らに落ちているが。

 

「目は覚めたか?」

 

「……まるで俺が正気じゃなかったみたいな言い方だな…」

 

イタズラのような笑みを浮かべて尋ねるシエルに、気分は最悪、と言いたげにエドシエルは言い返す。だが当の少年は「似たようなもんだったろ?」と笑顔を深めて揶揄ってくる。それを見てまだ若干苛立ちが起こるものの、先程までと比べると、どこか気分が晴れやかになった気がする。

 

だが、それとは別に懸念として考えている要素がまだ存在する。

 

「俺は、本当に帰ってもいいのか…?」

 

その自問にも感じる言葉に「は?」と、シエルは顔をしかめて反応してしまう。そして青年が次に呟いたのは、先程とは想像もできない程に弱気な発言。

 

「俺が帰ってくることが妖精の尻尾(あいつら)の幸せだと言っただろ?正直…俺はあいつらにそこまで必要かと思われているのか怪しく感じる…」

 

ギルドに入る前は、信頼できる存在が唯一の肉親である兄だけだった。ギルドに入った際は、全幅の信頼などできず、素っ気ない態度を度々とってしまった。それは、心の底で彼らを信じられるようになってからもだ。言葉に一々棘を帯びて話してしまう事で、ナツとかからはいつも怯えられていた。ジェットやドロイとも衝突したことがあった。意図しない発言が煽りとなって、ルーシィを激怒させたこともあった。そして2年半もの間、王国軍としてギルドを切り離した人間を演じて過ごしてきた。

 

そんな自分が、本当にギルドに戻ってきてもいいのだろうか?

 

 

 

そんな彼に、穏やかに笑みを浮かべながらシエルはこう答えた。

 

「…少なくとも、確実に戻ってくることを願っている人を、俺は二人知ってる。一人はお前の兄さん。もう一人は…」

 

そこで言葉を区切り、戦闘が行われている方向へとシエルが首を向ける。その方向から、一人の影が近づいてきているのが、二人の目に映った。その人物は、シエルが予想した通り。そしてエドシエルはその人物の姿を視界に入れて、思わず大きく見開いた。

 

服装は肩とへそを露出した大胆なもので、両手には戦闘の途中という証拠であるトンファーが握られており、長い藍色の髪を揺らしながら必死にこちらへと駆け寄ってくる長身の女性。

 

「ウェンディ…!?」

 

その正体を認識したエドシエルが名を呟くと同時に、彼女もシエルたちの存在に気付く。と言うよりも、意中の相手であるエドシエルに気付いた瞬間、一度驚きを現したかと思いきやすぐに顔に笑顔を、目元に涙を浮かべてその足を速める。

 

…何かが目に映ったのか顔を赤くして少年シエルがそっぽを向いたのは余談としておく。

 

「シエルッ!!」

 

両手に持っていたトンファーをその場に放り、大きく腕を広げてエドシエルが横たわる茂みへと飛び込み、驚愕する彼の身体を抱きしめる。思っているよりも強く抱きしめられているようで、少年から受けた数々の打撃痕の痛みが全身に走る。

 

「シエル…シエル…!生きてて…無事で、よかった…!!」

 

痛みを訴えてどうにか離れるか力を緩めてもらえないかを頼み込む青年であったが、涙ぐみながら呟いた彼女の言葉を聞き、観念したように彼女の抱擁を受け入れ、四肢の力を緩めた。

 

「……ただいま…」

 

「おかえり……!」

 

そして今までに見せたことのない穏やかな笑みで呟いた言葉に、涙を抑えぬまま、彼女は迎え入れた。




おまけ風次回予告

ルーシィ「じゃあ、エドシエルはずっと、王様や他の王国軍にもバレずに、ギルドを守ろうとしてたってこと!?」

シエル「そう言う事だね。しかし恐れ入るよ。仲間が誰もいない状態で、王国軍の人間を演じながらギルドの最善を考えて動くだなんて」

ルーシィ「そう言えば…シエルってお芝居の仕事の時も、即興で違和感のないアドリブやってたわよね?もともと演技の才能あったんじゃ…?」

シエル「芝居の話はやめて…トラウマが蘇るから…」

次回『名演技』

シエル「え?『芝居が上手いのは俺だけじゃない?』それってどういう…」

ルーシィ「ええ!?ま、まさかこれって…!!」

シエル「はいぃ!?嘘だろぉ!?」
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