FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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またもギリギリになった上に、なんだかうまいこと書けなかった…!

いつもよりもちょっと雑になったような…いい感じに話の流れを作れなかったような…。
これがスランプって奴なんでしょうか…?


第98話 名演技

戦いの舞台。そう形容するにふさわしい、闘技場のような造りの石壁に囲まれた空間の中で、竜を模した巨大な魔導兵器…ドロマ・アニムに対して立ち向かったのは、その竜を滅する魔法を扱う滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の3人。

 

対魔専用魔水晶(ウィザードキャンセラー)と言う魔法を無効化する素材で作られた搭乗型の甲冑に唯一ダメージを与えられる特殊な魔法の力で、序盤は対抗することが出来ていたのだが、現在の戦況は、圧倒的にアースランド側が不利となっていた。

 

《アースランドの魔導士…!尽きる事のない永遠の魔力を、身体に宿す者たち…!その中でもこ奴等の…ドラゴンの魔導士のデタラメな魔力…!》

 

最初は白銀の部分が多く占められていた機体はその色を変え、全てを塗り潰すことを体現するかのような黒鉄へと変貌を遂げている。更には右腕は巨大な槍に変じ、左手の甲には巨大な盾がそれぞれ装着されている。

 

《よこせ!その魔力を…!世界はこ奴等を欲しておる!!》

 

“天を黒く染め、滅亡を従えし者。その者の名…竜騎士ドロマ・アニム”

 

エクシードの長達にのみ伝えられている伝承にそう記されている一文。かつてエクスタリアだけでなくエドラス全土を滅ぼしかけた、禁断の魔導兵器。それが天を黒く染めた時、エドラスの魔力の大半が失われたと伝えられている。

 

そしてその伝承を体現するように、竜騎士はその姿を黒く染め、絶大な力を発揮し始めた。

それこそがドロマ・アニムのもう一つの形態。『ドロマ・アニム黒天』。

 

《地に堕ちよ、ドラゴン!!絶対的な魔導兵器…ドロマ・アニムがある限り!我が軍は不滅なり!!》

 

そして黒天となった竜騎士の前に倒れ伏しているのは、懸命に戦いながらも圧倒的な力によって叩き落された3人の魔導士。誰もが身体中に傷を負い、魔力の消耗も激しく、立ち上がることが出来ない状態。

 

それでも諦めずに起き上がろうとする竜たちを、竜騎士を操る国王がさらに蹂躙する。槍となった右腕を振るい、彼らの足場から紫の光と共に魔力の爆発を起こし、竜たちの身体をまたも吹き飛ばす。己の身体を動かすことさえやっとの彼らは躱すことも叶わず、何度目になるか分からぬほど悲鳴を上げて地に叩きつけられる。

 

《もっと魔力を集めよ!!空よ!大地よ!ドロマ・アニムに魔力を集めよ!!》

 

世界に住まう人々が魔力の枯渇で苦しむ中、世界の為と言う名目で己が野望を果たそうと、至る所から数少ない魔力を吸収し、竜騎士の腕へと集中させていく。最早そこに世界とそこに住まう者たちのことを想う賢王の姿も、己が身さえも捧げる覚悟を持った姿の欠片もない。

 

ただただ、自分が欲するものを得るために御託を並べて、無理矢理に奪い取ろうとする業突張りの本性を曝け出しているに過ぎない。ただでさえ少ない魔力を浪費しておきながら、「この世界の為に魔力を捧げろ」と、身勝手な言い分を強要させている。

 

火竜(サラマンダー)咆哮(ブレス)だ…!ガキ、お前もだ…!」

 

「3人で、同時に…!?」

 

身体に鞭を打って起き上がろうとしながら、ガジルがそれぞれナツとウェンディに呼びかける。属性の違う滅竜魔法の咆哮(ブレス)。提案したガジル本人にとっても何が起きるか分からない為に避けたかったものだが、裏を返せばそれ程の危険性を考慮せざるを得ないほどの威力。明らかに硬度を高めてきたドロマ・アニム黒天を打ち破れる可能性を秘めているとしたら、この手しか他に浮かばない。

 

やるしかない。その言葉に二人も応え、己の魔力を溜め込み、3人ともに口に空気を溜め込んで頬を膨らませる。

 

「火竜の…!」

「鉄竜の…!」

「天竜の…!」

 

《おおっ!?まだ魔力が上昇するか!!》

 

それと同時に高まる魔力を感じ取り、改めて底知れない力を実感した国王が声を漏らす。しかしそのことに驚きこそすれど、焦りや不安と言った様子は一切見られない。

 

『咆哮!!!』

 

そして各々の口から放出された紅蓮の炎、鋼鉄の刃片、純白の竜巻は、直線状でやがて一つに交わり、3つの属性を螺旋で描いた今までにない威力の咆哮へと変わる。ただでさえ他の魔法とは一線を画す滅竜魔法。その魔法が三つも混ざった時の威力は計り知れず、着弾すればその場で大規模な爆発を起こすほどだ。

 

 

 

 

《無駄よ…!》

 

しかし…竜騎士の甲冑に乗っている国王ファウストは意味深に口角を吊り上げると、左手の甲に付けていた盾に力を込める。すると、今まではそのままでもナツ一人の攻撃が弾き返せるほどの硬度を誇っていた盾に魔力が纏われる。竜胆色で実態を持たない魔力で構築された一回り大きな盾が、元の白銀の盾を覆うように顕現される。

 

そしてその盾に3属性の咆哮が衝突。だが盾に激突した咆哮は、竜騎士の甲冑を少しばかり後方へと後ずさらせただけに終わると、完全に勢いが止まり、消失してしまう。

 

「なっ!?」

「何だと…!?」

「そんな…!!」

 

放った自分たちから見ても、一人ずつが放つ咆哮と比べればその威力が絶大であることはすぐに気づいた。当たれば大破。持ちこたえたとしても深刻なダメージを与えられるはずだとふんでいた。だが実際に目の前で起きたのは全く別のもの。ここに来てみたことのない方法で完全に守り切られてしまったことに、身体だけでなく、精神にまで大きなダメージを受ける。

 

《フハハハハ!!当てが外れたようだな!禁式とされた古代の魔導兵器、ドロマ・アニム!そこに未来を築き上げる礎となる技術、魔科学を加えた、まさに時代を超えた最強の力!!》

 

原理は不明だが、ドロマ・アニム黒天が発動させた盾の正体が、これまでも自分たちを苦しめてきた科学者によるものであることに気付いた。特にその科学者に心当たりのあるナツとウェンディが、それに対して更に顔を歪めている。

 

《あらゆる攻撃をも防ぎ、絶対的な鉄壁を誇る最強の防御力…『竜ノ盾』!!如何にドラゴンの魔導士であろうと、この盾を打ち破ることは不可能!!》

 

「やってみなきゃ分かんねーだろ…!もう一度だ!!」

 

一度完全に防ぎ切ったことで驚異の防御力を誇る『竜ノ盾』の力を実感したファウストが自慢気に語り、それに対してナツが反論すると共に再び3属性の咆哮による攻撃をしようと構える。だが…。

 

《そしてこれが、竜ノ盾と対を為す最強の破壊力…!》

 

盾を発動した時と同じように、右腕を変じて出来ていた槍が竜胆色の魔力を帯びて輝き始める。そして魔力の形は槍よりも頑強なもう一つの姿を作り上げ、再び咆哮を撃とうと身構えたナツへと突進していく。

 

《全てを貫け!『竜ノ矛』!!》

 

「ぐあああっ!!」

 

火竜(サラマンダー)!!」

「ナツさん!!」

 

反撃も回避も間に合わずその身体を吹き飛ばされて岩壁へと叩きつけられたナツ。威力が今までよりも桁違いだったのか、矛の接触から激突までの時間はほぼ一瞬。ガジルとウェンディが気付いた時には、ナツの姿が消えていたほどだ。

 

「クソが!!」

 

突進したこと態勢に隙が生じていた竜騎士にガジルが腕を剣に変えて撃ち込もうとするが、当たる直前で跳躍。想像以上の跳躍力を見せながら回避してみせる。

 

《次は貴様等だ!『竜騎拡散砲』!!》

 

そして滞空を続けながら、竜騎士の鋼鉄で出来た体の至る所から火薬弾を発射。岩壁の中の空間を無差別に砲撃して破壊していく。

 

吹き飛ばされた火竜、呻く鉄竜、悲鳴を上げる天竜。そしてさらに為す術無く傷を負い、倒れ伏すその姿を目にし、国王は哄笑を上げる。

 

素晴らしい。過去に世界を破滅に導いた兵器の力も、その兵器の力に更なる強化を施した技術も、そしてそれら全ての源である魔力も。この世界から一つ残らず消えるなど、あってはならない。どのようなものを利用してでも、世界の為に、永遠の魔力を有するドラゴンの魔導士を、手に入れる。

 

その覚悟に匹敵する力を持たぬものが、自分に抗う事などおこがましい。世界、民、それが自分が背負い、託された大いなる存在。目の前の奴等が抱えているものと比べれば、巨象と蟻の差ほど違い過ぎる。

 

竜騎士の力を遺憾なく振り回して、止むことない哄笑を上げる国王の蹂躙は、未だに終わらない…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

国王が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たちを追い詰めている間、もう一方の戦況はほぼ拮抗状態だった。魔戦部隊の兵士たちと、魔科学研の戦闘班に対抗するのは、これまで逃亡を続けながらギルドとして活動していたエドラスに存在する最後のギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

「ナブくん、ビジターくん!一度後退してください!追撃してくる兵士たちの阻害はアルザックくんとビスカさんに!シャドウギアの3人!その地点から9時の方向に不穏な動きをしている集団が見えます!そこを突いてください!」

 

的確に戦況を把握してギルドメンバーに指示を飛ばすのは、彼らのマスターを務める病弱の青年、エドラスのペルセウスだ。先程までは吐血して後方に控えていたのだが、少し回復したところで自ら指令として戦場へと出て、今のように的確な指示と判断で徐々に王国軍を押し返している。

 

「アースグレイくん!2時の方向に氷の壁を展開できますか!?」

 

「ったり前だ!オラァ!!」

 

そしてその指示を聞いて行動するのはエドラスのメンバーのみだけじゃなく味方として共に戦うアースランド側の魔導士たちも同様だ。一つ聞くと意味があるのか不安な指示も、実行してみれば状況の好転につながるため、最早迷いなく即実行できるようになった。現に今も、魔力弾で反撃をしようとした王国軍の攻撃は、グレイが作った氷の壁で全て遮断された。

 

まさにその姿は軍師。戦う力を持たずとも、上に立ち、仲間を導く力を有した存在。

 

「す、スゴイ…!」

 

「だろ?うちのマスターは身体は最弱だが、頭に関してはエドラスでも最強だ!!」

 

「誉めてんのかそれ…?」

 

その姿を見てルーシィが思わず感嘆を零せば、自分の事のようにエドルーシィから胸を張ったような返しが発せられる。だが本人が聞いたらちょっとだけ傷つきそうな自慢の仕方だったことに、思わずペルセウスからも言葉が漏れた。

 

「おのれペルセウス!!」

 

すると、攻め立てる妖精たちの壁を抜けた数人の兵士たちが、ペルセウスの立っている場所に向けて突進をしてくる。マスターと言う絶対的支柱を守るために同じ数の魔導士が彼を囲むように立ち塞がるが、「私なら大丈夫です」と手を差し出して彼らを下がらせようとする。

 

「な、何言ってんだよマスター!?」

「そうだよ!危ないって!!」

 

「危ないことは百も承知。そしてそれは皆さんも同じことでしょう?」

 

勿論それで抗議の声をあげるメンバーも多々いるが、マスターペルセウスはそれでも引かない。少しばかり前に立ちながら右目に付けているモノクルに手を伸ばす。最早退路を断って逃げ場も捨てた状態で、メンバーを差し置いて一人安全圏で留まるだけでいるわけにはいかない。自分にも、やれるだけの事を果たす義務があるはず。後ろで指示を飛ばすだけでは、それは果たせていると言えない。

 

「私も…皆さんと共に戦う為に…シエル、どうか力を貸してください…!!」

 

兵士たちの間合いに入るまであまり猶予がない。いつでも兵士たちを撃退できるようにと魔導士たちが身構える中、遂にその攻撃が届こうとした瞬間、マスターペルセウスはモノクルの端に付いたスイッチのような突起を指で押し、カチッと言う音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、モノクルのレンズが突如発光し、マスターペルセウスの前方に迫ってきていた兵士たちのすぐ後方に一筋の光線が着弾。爆発を引き起こした。

 

『ぎゃああああっ!!?』

 

マスターペルセウスに迫ってきていた兵士たちは唐突に起きた爆発でその身を吹き飛ばされ、情けない悲鳴を上げながら彼と、彼を守っていた魔導士の集団を飛び越え、その先の地面へと落下していった。

 

『……えーーーーっ!!?』

 

その光景を目にしていた周囲の者たちは、敵味方問わず全員が攻撃の手を…と言うより体も思考も全部停止した状態で数秒フリーズし、ようやく理解が追い付いた瞬間、一人残らず驚愕の声を発した。上げていないのは元凶と言えるマスターペルセウスのみである。

 

「い、今…モノクルから…何か…」

「ビーム出たぞ、ビーム!!」

「マスター、こんなの隠してたの!?」

「てか、何で今まで使わなかったんだ!!」

 

厄介なのは軍師ばりの頭脳のみで、あとは病弱と言うイメージしかないとされていたマスターペルセウスのとんでもない隠し玉を見て、兵士のみならず…むしろ味方から動揺と混乱の声が続出。今までずっとつけていたモノクルの意外な仕掛けをどうして使わなかったのか、と疑問を叫び続ける周囲のメンバーに対して…。

 

 

 

 

 

本人も目を大きく見開いて、何の言葉も発することが出来ずに立ち尽くすばかりだった。全員が察した。「あ、マスターも今初めて知ったんだ…」と。

 

「アンタ、知ってて使ったんじゃないのか…?」

 

「いえ、その…シエルからは、『もしもの時は、敵だけを視界に入れた状態でここのスイッチを押せ』とだけ伝えられていたので…」

 

「犯人シエル(あいつ)かよ!!」

 

その様子を見てアースランドのペルセウスがおずおずと何故使ったのかを聞いてみれば、どうやら彼のモノクルは弟であるエドシエル製だったらしい。スイッチ一つで地形を少し変えられるレーザービームを発射できるモノクルを、敵だけを視界に入れた状態と言う条件を付けているとはいえ、兄に常に装着させると言うのはどうなのだろう…。元凶が判明した瞬間エドルーシィが先んじてツッコミを叫んだが、多分周りにいる誰もが同じ感想を抱いてる。

 

「く、くそ…!だが動揺しているのは向こうも同じだ!!もう一度攻め…」

 

味方同様に混乱していた王国軍の一人が落ち着きを取り戻し、周りの兵士たちを奮起させてもう一度マスターペルセウスに向けて進攻を指示した瞬間、その兵士の近くにビームが着弾し、再びそこを起点に爆発が発生。兵士たちは吹き飛ばされる。それを見て再び動揺した兵士たちが、主に後方で待機している者たちを中心に爆発に巻き込まれる。

 

その光景を作り出しているのは、先程まで自分自身も混乱の真っただ中にいたはずのマスターペルセウス。想像だにしなかった攻撃方法と威力に驚愕していたさっきまでの彼はもうおらず、躊躇なく敵軍の中に次々と撃ちこんでいく。数分前までの病弱な軍師ポジションどこ行った!?と言わんばかりの蹂躙である。

 

「これで私の元へ迂闊に攻め込む敵はいなくなりました。私の護衛はもう不要です。王国軍の撃退に集中してください」

 

『お、おう…』

 

どうやらこの躊躇の一切ないビーム連射も、対象である自分を狙えば容赦なく撃ち抜くぞ、と言う警告を王国軍に植え付けるための策だったらしい。それにしたって真顔で連射などされれば味方である自分たちにとっても恐怖だ。そこはどうにかならなかったのだろうか…。

 

拮抗していた戦況は徐々に押し返している状況。だがしかし、レギオンに乗って次々に合流をしてくる王国軍の姿を見ると、まだまだ撃退には程遠い。周囲の魔導士たちが続々と奮戦してくれているが、さすがに世界中の中でも最大規模の戦力が揃っていると、密度も高い。

 

「ペル!魔科学研に食らったあれの効果は切れてねぇのか!?」

 

「…まだ抜けてねぇ…ずっと身体が重たいまんまだ…」

 

ペルセウスの調子が元に戻れば一斉に追い払えるはずなのだが、アンチエーテルスフィアの効果はまだ継続しているようだ。時間経過だとすればまだまだ解けそうにないのか、それとも特殊な解除方法があるのか、いずれにせよ彼の現状は芳しくない。

 

 

 

「聞こえるか、王国軍!!」

 

その時、突如ある方向から一人の青年の声が響き渡る。王国軍だけでなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーもその方向へと目を向けると、誰にとっても衝撃を受けずにはいられない存在がそこに立っていた。

 

身に纏っているのは研究職に就いている証と言える白衣。髪は水色がかった銀色の短い髪。顔立ちは整っていて、切れ長の細い目が彼の印象に多少の棘があることを現しているかのよう。己の魔法で隆起させた地面の土台からこちらを見渡す高度を保って呼びかけるその姿。

 

普段からかけていたメガネが喪失していたが間違いない。今王国軍の数割の数を占める魔科学研の責任者、部長のシエル・オルンポス。そして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっては、2年半ぶりの仲間との再会である。

 

王国軍は彼の登場を見て、ほぼ全員が歓声を上げ始めている。一方のギルドのメンバーは戸惑いが大きい。手紙を送らなくなってから音信不通であった仲間が、スパイの任務であることを加味しても、この場で王国側に見える登場の仕方をしたことが原因だろう。

 

そしてアースランド側から見れば、彼は自分たちの仲間の少年と対峙していたはずであることを思い出し、衝撃を受けていた。

 

「何でエドシエルが…!?シエルが相手してたんじゃ…!!」

 

「まさか…嘘だよな…!!?」

 

確かに生半可な相手ではなかったと、ペルセウスも思い出していた。だが自分の弟も、そう簡単に負けるような魔導士ではない。その成長はよく見てきた。まさか本当に負けたのか…?ここに来て王国軍の大幅な戦力の増加に、アースランドの魔導士たちに暗い影が帯び始める。

 

「俺はこれまで、この軍の人間として、魔法応用科学研究部の部長として、この国に仕えてきた」

 

再び場にいる全員に聞こえるように声を張り、唐突に語り始めるエドシエル。その様子を見て、王国軍…特に魔科学研の面々はその異変に気付いた様子か少しばかりどよめき始める。それにつられて王国軍も、そしてギルドの者たちも首を傾げ始めた。

 

そしてこの次の一言が、場にいるすべての人間に衝撃を与えた。

 

 

 

 

「だがこれより俺は、この国から与えられたすべての肩書を捨て、ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)への帰還を果たすために、謀反を起こすことを宣言する!!」

 

 

 

『え……え~~~ッ!!?』

 

これまでの彼の行い…王国に対して一番の忠誠を誓っているように見えていた魔科学研部長の突然の謀反宣言に、魔戦部隊の兵士たちは驚きを隠せず、揃って絶叫する。驚いているのはギルドの者たちも同様だ。中には彼が帰ってくることに対して喜びを現す者もいるが、それに構わずエドシエルは言葉を続ける。

 

「今より、エドラス王国を我が敵と定め、妖精の尻尾(フェアリーテイル)と肩を並べて戦わせてもらう!それに伴い、魔科学研の者たちよ!この場で選択するのだ!!」

 

そしてそれを聞いたことにより、再び疑問符があちこちから浮かび上がる。謀反を宣言したシエル・オルンポスは、魔科学研の全てを統括する存在。そこに所属していた兵士…戦闘班の者たちは皆、彼の直属の部下と言っていい。

 

だからこそ、選ばせる。自分の元を離れて、王国のために自分と戦うか、王国を離れてでも、自分と共にあるか。それは、己の意志で決めなければいけない事なのだと。

 

「俺と共にあろうとするのであれば、その意思を示せ!今こそ、()()()()()()()()()()()()だ!!」

 

「……ん?」

 

しかし彼の言葉を聞いて、ルーシィはどこか妙に思った。違和感を感じながらもその原因を突き止めることが敵わず、彼の演説は流れていく。

 

「俺と共にある意思を持つ者たち!応えろ!そして、我らが家族の敵を、打ち倒せぇ!!」

 

土台から飛び立つと同時に叫んだその言葉に、問われた魔科学研の反応は二通りだった。片方は、彼の言葉の全てが理解できず、王国軍のままで残り、混乱を極める者たち。占めて三割。そしてもう一方は、動揺を表すこともなく彼の言葉を聞き終えてすぐさま、身に纏っていたフード付きのローブを勢いよく脱ぎ捨て、上に放った者たち。占めて七割。周りの兵士たちがその光景に再び動揺する中、彼らはその正体を明かした。

 

 

 

『おおーーーーっ!!』

 

「待ってたぜ、シエル部長!!」

「借りを返すぞ、王国軍!!」

「覚悟しやがれぇ!!」

 

雄叫びを上げると同時に、魔戦部隊や、ローブを着たままの戦闘班に向けて攻撃を開始。中には魔科学で作られた兵器を扱う者たちもいて、その練度はやけに高い。唐突な演説にも関わらず過半以上のメンバーが裏切ったことにより、王国側はさらに混迷を極めている。

 

「な、何だこりゃ…!?」

「エドラスのシエルだけじゃなく…」

「魔科学研もほとんど裏切った!?どーなってるの!!?」

 

そして困惑から抜け出せないでいるのは王国だけでなく、こちらも同じ。状況が全く読めない中で次々と起きてる謀反劇にだんだんついていけなくなっている。そして困惑しているのはエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)も同様であったのだが、こちらはまた違う意味で混乱している。

 

「ちょ、ちょっと待て…!?あいつは…!!」

 

最初に異変に気付いたのはエドルーシィ。裏切った魔科学研の一人が、両手で太鼓のバチのような魔科学兵器を携えて、雄叫びを上げながら地面を叩いた衝撃波で兵士たちを吹き飛ばしているのを見て、彼女は思わずその男に声をかけた。

 

「お前…『ミクニ』!?ミクニだよな!!?」

 

「お?よお、久しぶりだなルーシィ!!」

 

「久しぶりって…お前捕まって殺されたはずじゃ…!!?」

 

『ミクニ』と呼ばれて反応を示したドレッドヘアーが目立つその男。知り合いなのかとルーシィが聞けば、かつて王国軍に捕まって処刑されたはずの、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間だった男だと言う。それに驚いていると、別の魔導士がルーシィに慌てた様子で声をかける。

 

「ミクニだけじゃねえ!あっち見ろルーシィ!!」

 

それを聞いて目を向けてみれば、エドルーシィにとっても、他のメンバーにとっても、裏切った魔科学研のメンバーの顔触れには見覚えがあるものが多かった。

 

「あ、あれは『ジョイ』!?」

「あいつは『ミキィ』か!?」

「『ワン』の奴もいるぞ!!」

「あっちの二人は『エリック』に『キナナ』!?」

 

「みんな…この二年程で王国軍に捕えられ、処刑されたと思われたメンバーばかり…!!」

 

次々とエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たちから明かされる彼らの素性。そしてそれを目にしたマスターペルセウスは、驚くとともに嬉しさで思わず笑みを浮かべる。スパイとしてシエルが潜入したあの日からも、少なからず失われていく仲間たちのことを思い、心が折れそうになった。

 

だが生きていた。王国軍の人間として己の素性を隠し、今日この時自分たちの仲間として戻ってきてくれた。マスターの代理として席についてから、これほどまでに嬉しかったことがあっただろうか。ただでさえ、四面楚歌の状況下にあった弟が生きていてくれたことが何より嬉しかったというのに…まるで夢のようだ…。

 

「ありがとう…シエル…!!」

 

そしてその光景を作り出したのは誰か、すぐに考えればわかる。彼はやはり、仲間の為に己をいくらでも犠牲に出来るほど、優しい弟だ。

 

「あ、あいつ……本当は最初っからこうやって裏切ることを想定してやがったな……!?」

 

「シエル!無事だったか、よかった!」

 

すると、困惑から抜けずに立ち尽くしていたペルセウスたちの元に、少年の方(アースランド)のシエルと大人(エドラス)のウェンディが場に戻ってきて、少年が顔を引きつらせてぼやいているのが聞こえた。反射的に振り向いてペルセウスが安否を確認する。日光浴(サンライズ)で傷や疲労は回復しているようで、外傷はほぼ見えていない。

 

「てか、結局向こうのシエルは味方だったってことか?」

 

「色々と拗らせて敵対していたけど、吹っ切れたみたいだね…。けど戻ってきたら予想だにしない光景が目に映ってどこか釈然としない気分だけど…」

 

「た、大変だったんだね…」

 

スパイとして潜入していると思ったら本人はギルドを捨てていて、かと思いきやそれは嘘でギルドの為に動いて、更には捕らわれた仲間を秘密裏に部下として匿っていて…。王国軍に胸中を察知されない為に仕掛けていた、と言えば聞こえはいいが、自分たちから見れば紛らわしくてややこしいことこの上ない。グレイが未だに整理できていないのも無理はないだろう。

 

更に付け加えればエドシエルだけでなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)から来てたメンバーだった魔科学研も含めて、今の今まで全員正体を隠しきって潜入できていたという事実もとんでもないことである。魔科学研に必要なのは知識がある者じゃなくて名演技が出来る者なのではないか?

 

「結局はエドシエル(あいつ)の掌で踊らされてたって気分だよ…性格悪ぃ…」

 

「自分に言う?」

 

「けれど…そういうところも素敵で、カッコいいのよね…!」

 

「今に始まった事じゃねえけど、お前の頭はどーなってんだ…?」

 

別世界とは言え自分自身に抱く感想とは思えないものを思わずぼやくシエルにルーシィが苦笑混じりに問いかければ、エドウェンディは否定こそしないもののそんなエドシエルにさえ両頬に手を持っていきながら顔を赤くしてときめいている。エドルーシィからの言葉はごもっともだ。

 

と、呑気に話していると、隙を突いて兵士たちが魔力弾をこちらに撃ち込んできたのが見えたため、竜巻(トルネード)を前方にいくつも発生させてバリケードを作り上げる。おかげで魔力弾はすべて防ぎきれた。

 

「いけないいけない…無駄口叩いてる場合じゃなかったな…」

 

「今はとにかく…」

 

「やるしかねぇ…!!」

 

色々と状況が変化しすぎて驚愕したり、整理したりで忘れかけたが、今は乱戦の真っただ中。油断しているとすぐに命に関わる。改めて身構え直したシエルたちは各々の方向に見える兵士たちを退け始める。

 

「吹きとべぇ!!」

 

特に乱戦状態に置いてシエルは本領を発揮できる。砂嵐(サーブルス)を前方に発動させて兵士たちの身体を次々と吹き飛ばして、兵士たちの勢いを削いでいく。

 

その途中、魔力弾を兵士たちに乱発していたエドシエルの背後に、同じように魔力弾を狙おうとしている兵士たちの姿を見つける。狙われている本人は気付かない。すかさずシエルは雨の魔力を練りこんで指鉄砲の先に集中させて撃ち出す。

 

雨垂れ石をも穿つ(ドロップバレット)!!」

 

器用に、溜め込んでいる魔力弾の砲身の中へと当てて、兵士たちの魔力銃を破裂させて、動揺に成功。その際の音でようやく気付いたのかエドシエルが驚愕の表情で驚く中、雷を纏ったシエルがその兵士たちを一蹴。意識を刈り取る。

 

「あのメガネに頼り過ぎたみたいだな?」

 

掌で踊らせてくれた腹いせにイタズラっぽい笑みを浮かべながらそうエドシエルに言ってみせる。シエルの一撃によって壊された彼のメガネは、敵対しているものの動きを察知、分析して次の動きを予測する機能があった。それが無いと言う事は、今のエドシエルは不意討ちに対して極端に弱くなってしまっていること。痛いところを突かれて反論も出来ないエドシエルは顔をしかめながら「否定はできんな…」と少年から顔を逸らした。

 

そんな様子にしてやったりと感じながらも、向き直したエドシエルの背中に自分の背中を向けて、視界に映る兵士たちに向けて遠距離の魔法を撃ち出していく。

 

「…どういうつもりだ…?」

 

「お前が万が一にもやられたら悲しむ人たちがいるからな。そんな人たちの為にも、背中ぐらいは守ってやるさ」

 

あくまでもエドラス(この世界)における兄と、想い人が悲しまないように、と言う建前ではあるが、不敵に笑いながらシエルはエドシエルと共闘の意志を見せている。人を食ったような態度や、おちょくるような言動をすることは多いが、基本味方や仲間を邪険には扱わない。そんな部分もやはり似ている…と言うより『シエル』と言う人間のベースなのだろうか。

 

「別に勝手にすればいいが、ついでに一つ頼まれてくれるか?」

 

「ん?」

 

一つ含み笑いをしてからそう告げてきたエドシエルに、疑問符を浮かべながらも律義にシエルは耳を傾ける。

 

「この件が解決したら、ウェンディ…お前たちのウェンディに伝えてくれ。『許してくれなくてもいい。ただ一言謝らせてくれ。酷いことを言ってすまなった』…とな」

 

「……それは自分の口から伝えてもらえるか?」

 

シエル自身は詳しく知らないのだが、ウェンディがエドシエルの事に関して随分と感情的…と言うより、彼女らしくない怒りや嫌悪と言った感情を浮かべることが多いのは何となく感じていた。そしてその原因はやはりこのエドシエル本人にあると言う事は察しがついている。その一因となった出来事に対する謝罪だろう。だがその事に関しては直接本人に伝えるべきだろう、と怒りと苛立ちを抑えながらも顔をしかめて返答する。

 

「慣れてないんだ…。“ウェンディ”に好意的な感情以外のものを向けられるのは…」

 

 

 

 

 

 

 

「……え?おい、今なんて…」

 

今物凄く聞き捨てならない単語を聞いた気がして、思わず振り向いて聞き出そうとしたタイミングで王国軍兵士の増援が攻めてきた。しかも今度は10体を超すほどの巨大生物レギオンの群れ。如何に戦力差がひっくり返ったとはいえ、巨大な生物を何体も相手にするのは骨が折れる。

 

「エクシード達の捕獲に向かった奴等がさらに集結してきたか…!」

 

「くっ……こいつらぶっ飛ばしたら詳しく聞かせてもらうからな!!」

 

思わぬタイミングで横槍が入って聞き出せなかったが、念のために釘を刺してレギオンの対処に向かう。ルーシィたちや妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たちもレギオンの撃退をしようとしているが、圧倒的な物量差に苦戦しているようだ。

 

「レギオンには4人以上で対処してください!!決して単騎で突入しないように!!」

 

「まだ…あんなにいっぱい……!」

 

マスターペルセウスが指示を飛ばし、それに応えて動いているが勢いは中々削がれない。どれだけ倒してもまだ湧いてくる王国軍に消耗が激しい状態だ。戦線に復帰しているココの顔に少しばかり絶望が映りだしている。

 

氷槌(アイスハンマー)!!」

 

風廻り(ホワルウィンド)(スピア)!!」

 

「『獅子王の輝き(レグルスインパクト)』!!」

 

それでも退かずに撃退しようと力を振り絞る。氷の巨大なハンマー、竜巻の槍、光を纏った高威力の拳が一体のレギオンを捉え、その巨体を地につける。だがしかし、レギオンはまだ残っており、こちらに際限なく襲い掛かってくる。

 

「また来る…!!」

 

ルーシィの声に反応したのか、2体のレギオンがこちらへと飛び掛かり、こちらを押し潰さんと迫りくる。各々がそれを弾き返そうと魔力を解放して構える。

 

「……」

 

そんな中、風を発する短剣で応戦していたペルセウスは換装で短剣をストックへと呼び戻し、新しく紫電を発する大鎚・ミョルニルを呼び出して持ち上げる。

 

 

 

 

その間、わずか1秒足らず。

 

「ん!?」

 

それを異変として最初に汲み取ったのは、彼の動きを封じる機械を作り上げた元魔科学研部長。その事実に頭の中で分析を行うよりも先に、ペルセウスは紫電の大鎚を片手に持ちながら、脱兎の如く一瞬で跳躍して迫り来たレギオンに向けて振りぬく。

 

「ドォラァアアアッ!!!」

 

先程までの弱っていた様子とはかけ離れた雄叫びを上げながらその大鎚を頭部に叩きつけられ、紫電を全身に浴びたレギオンは、もう一体の迫っていたレギオンに激突し、そのまま勢い余って、他の場所で暴れていたレギオンや、王国軍の兵士たちも巻き込んで吹き飛んでいく。

 

あれほどまでに脅威と感じていたレギオンが、一瞬であっさり何体も倒された光景に最早驚きの声すら上がらない。そしてその光景を生み出してた本人はと言うと、首を左右に傾けて肩の骨を鳴らし、身体の感覚を確かめる。

 

「よし、どうやら解けたみたいだな」

 

そして実感した。ペルセウスを縛っていたアンチエーテルスフィアの効果が、今しがた解除されたことを。やはり時間経過だったようだ。だが、一つその事について問題がある。

 

「アンチエーテルスフィアの効果…短くとも6時間…長くて12時間で設定していたはずなんだが…」

 

「じゃあ何で解けたの!?」

 

「さすが兄さん…としか言えない…」

 

エドシエルが作り上げたその機械の効果時間について。本来であればわずか1時間足らずで効果が切れるような代物として作ったわけではないのだが、ペルセウスはどういう原理かその封印効果を大幅に短縮してみせたらしい。そして本来の実力を取り戻したという事になる。

 

今まで縛られていたストレスを発散させるかのように残りのレギオンも一方的に叩きのめす光景を見ながら、彼らはその現状を整理していた。

 

「つ、次から次に向こうの有利な出来事が起こっていないか…!?」

「レギオンが全部倒されたー!!」

「魔科学研もほぼ向こうに寝返って……もう、勝ち目無いんじゃ…」

 

エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)参戦、マスターペルセウスの意外な隠し玉、魔科学研が部長含めて大勢離反、アースランドのペルセウス復活、と言った敵側からして見れば絶望まっしぐらのイベントが多発したせいで、しつこく追い詰めようとしてきた兵士たちに諦めの色が見え始める。

 

最早残された希望と言えば、唯一残っている第二魔戦部隊隊長のエドエルザなのだが…。

 

 

 

そのエルザが二人戦っていたと思われる浮遊島が、場の少し離れた位置で墜落した。様子を見るためにシエルが乗雲(クラウィド)を顕現して上から見てみれば、互いに満身創痍と言った状態で身じろぎ一つしないままの二人のエルザの姿が見えた。

 

決着…と言うよりも痛み分け、引き分けに近い状態になったらしい。これはこちらの戦力に変動が起きない事にもなる。

 

「エルザの方も終わったみたいだ。二人とも、もう動けそうにない」

 

「妖精狩りを相手に一人で…何という人でしょう…」

 

「あとは士気の下がった兵士たちだけ…よし、アースシエル」

 

シエルから入った報告を聞いて、彼女の恐ろしさをよく知っているマスターペルセウスから畏敬の念を込めた返答が告げられる。そして同様にその結果を聞いたエドシエルが懐から何かを取り出すと、シエルへと向けて投げ渡す。

 

「そいつをお前に渡しておく」

 

「?何だ、これ…?」

 

受け取ったシエルが開いてみると、楕円上の小さな小型な機械のようで、中心には赤いボタンスイッチが付けられている。如何にもと言った風貌の機械だが、一体何のスイッチなのか。間髪入れずにエドシエルは答えた。

 

「ドロマ・アニムの緊急停止ボタンだ」

 

それを聞き、シエルだけでなくドロマ・アニムを実際に目にした者たちが驚きを露わにする。どうしてこんなものを持っているのかを聞くと、国王ファウストからドロマ・アニムに関する整備と機能拡張を命じられた時から、彼が魔力を欲するあまりにドロマ・アニムを暴走させる懸念を抱いていた。それによって起きることと言えば、魔力の枯渇の促進化。永遠の魔力に関する計画を聞く前は、万が一ドロマ・アニムの暴走を引き起こしたとしてもすぐさま止められるように、緊急停止用の機能を秘密裏に取り付けて、そのスイッチを常時所持していたとのことだ。

 

シエルは乗雲(クラウィド)で空中を早く移動できる。手遅れになる前に停止できるとすれば、今のこの場においてはシエルしかいないと判断しての行動。

 

「ただし止めるには、ドロマ・アニムの半径10メートル以内で押すことが必須。そして信号をキャッチしてから完全に停止するには5秒はかかってしまう。使いどころを間違えないようにな」

 

「分かった。ありがたく使わせてもらうよ」

 

王国に対する自分たちにとっては願ったり叶ったり。更に今、ドロマ・アニムはウェンディたち滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が相手している兵器だ。彼女たちの助けにもなる。そうと決まれば、と雲を発進させようとしたシエルだったが…。

 

「待てシエル!俺も連れてってくれ」

 

「兄さん?」

 

「王都に…正確にはそこにいるであろう奴に、用があるんだ…」

 

瞬間、ペルセウスに嘆願されたことで踏みとどまり、彼の頼みとその理由から察しをつけたシエルは、雲の広さを拡張して、兄もその場に乗せる。

 

「じゃあ、俺たちは行くよ!」

 

「こっちは心配すんな!」

「気をつけてね!!」

 

兄弟を乗せた雲を上昇させながら告げた言葉に、グレイは不敵に笑い、ココが二人に向けてそう言葉を送る。そして自分たち以上に激闘を繰り広げているであろうドラゴンの魔導士たちの元へと、出来る限りの最高速度でシエルは雲を発進させた。

 




おまけ風次回予告

エドシエル「ここは…一体何なんだ…?」

エドウェンディ「小っちゃいシエルや向こうのマスターが、度々ここで最近あった事についてお話しているらしいわ。今回は私たちの番みたい」

エドシエル「何で俺たちにそんな役回りが来てるんだ…。それに最近あった事と、言われてもな…」

エドウェンディ「シエルがギルドに戻ってきてくれて嬉しいってこと、小一時間でいいなら話せるわよ?」

エドシエル「そんなに時間は取れないみたいだが…?(汗)」

次回『終わりの始まり』

エドウェンディ「でも私、シエルの事についての話なら、二時間でも三時間でも…それこそ丸一日使ってでも…!!」

エドシエル「分かった、もう分かったから、俺の話は終わりにするぞ…」

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