FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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Twitter、活動報告にも書いた通り遅刻いたしました……。

そのうえ前回に比べて遥かに文字数が少ないです。本当はもっと色々書きたかったんですけど全然筆が進められなくて……。次回で取り返せたらなぁ……。←


第100話 堕天使ファルシー

「よせえっ!!ペルーー!!」

 

民衆に向けて魔法弾を撃とうと魔力を溜め込んでいたその青年に、大きく声を張り上げて制止を叫ぶもう一人の青年。王城の中から身を乗り出して堕天使を名乗る青年の動きを止めた彼の姿を見て、止まった方は止められた瞬間に下げていた口元を分かりやすく吊り上げた。

 

「我は堕天使ファルシー。エドラスに破滅をもたらす者ぞ」

 

「馬鹿な真似はよせ!王は倒れた……これ以上君が、この世界を破壊する必要は……!!」

 

ギルドの者……親しい者が彼を呼ぶ際に用いる略称を叫んだミストガンに対し、破壊者の顔を引っ込めないままペルセウスはその名を告げる。彼らの狙いにミストガンはすぐに気づいた。どうやって知ったのかは不明瞭だが、この世界の魔力を奪った悪役としての立場を一身に受けようとしていること。そうでなければ、王が敗れて尚も彼らが暴れる理由が見つからない。

 

だからこそ、これ以上ペルセウスがその悪名を引き受けることを良しとしない彼が必死に呼びかける。だが……。

 

「ドラグニル、やれ!」

 

「おうよ!ファイアー!!」

 

ミストガンの言葉を遮ってナツに向けて一言指示を出すと、律儀にガジルたち共々動きを止めていた火竜の青年が口から炎を出して民衆を牽制。その先にある建物を着火させる。当然、民衆は再び恐怖の悲鳴を上げて逃げ惑う。それを見てミストガンが「よせえっ!!」と叫ぶ様子を嘲る様に高笑いを上げていたペルセウスは、ひとしきり笑った直後、民衆にも響き渡るような声で言い放った。

 

「我らを止めたいと言うなら止めてみればよかろう?エドラス王国王子……ジェラール殿下?」

 

ペルセウスが明かしたその素性。城の方から堕天使たちを止めようとしている青年が、7年前に行方不明となっていたエドラスの王子であるジェラールだと。最初に耳にした民衆は驚きを露わにして彼の方へと目を移すが、ほとんどが本物であるかどうか半信半疑と言った様子だ。

 

「何故奴等がここにいるんだ……?」

 

国王や王国軍を相手に戦っていたペルセウスたちが、何故今のエドラスの現状を把握していて、わざわざエドラスの民衆に悪役として振舞っているのか?疑問を感じたパンサーリリーの呟きに答えたのは、いつのまにか彼らの背後に立っていた者だった。

 

「ぼ……ぼきゅが彼と一緒に知らせたんだ」

 

声に気付いて振り返ると、右腕を振り続けている面長のエクシードであるナディが目に入る。パンサーリリーはまさかの人物が知らせたことに対して驚き、続くナディの言葉を耳に入れた。

 

「君たちの会話……ぼきゅも、そして彼も聞いてたんだよ。そして、彼から頼まれたんだ……!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時は少し遡り、魔力がエドラスから空へと流れだしてからそう時間が経っていない時の事。魔力が失われ、浮遊島が次々と街の外に落下し、魔法も使えなくなっていくことで大混乱の様子を見せる王都。街の中から次々と響いてくる絶望を抱えた悲鳴、慟哭。

 

「あっちもこっちもヒデェ騒ぎだ……」

 

「魔力が無くなる事が、この世界で一番恐れられていた事だから、無理もないよ……」

 

その街の様子を、人を乗せることが出来る雲の上から、4人の男女が見渡し絶句と言う言葉が似合う衝撃を受けていた。浮遊島が次々と落下し、地面から魔力が流れ出している光景を目にした彼らは、今この世界で何が起きているのかを確かめるため、そして王都に住まう人たちを安全な場所に避難できるか確認するため、シエルが使う乗雲(クラウィド)を用い、王都上空まで着いたところだ。

 

乗り物に弱いナツは、魔力がある程度回復したウェンディのトロイアのおかげで、酔わずに済んでいる。

 

「どうにかして街の人たちを避難させないと……!」

 

「つっても、どーすりゃいいんだ?」

 

これほどまでの大混乱を引き起こしているとなると、いつどこで誰かが予想もつかない被害を受けている可能性がある。それを危惧したウェンディが言葉を零すが、ナツが尋ねた疑問の通り、どうやって避難させるかが問題となる。

 

「シエル、どうにかできないかな?」

 

「それは……」

 

自分では効率のいい方法が浮かばない。だがこの中で一番、作戦や方法と言ったものを考えるのに適した少年ならば、自分たちでは思いもよらない案を出してくれるのではないか?一縷の望みをかけて少年シエルにそう尋ねるウェンディだが、雲を操作して王都上空を移動させている少年の表情は明るくない。彼でも難しいと言うのか。そう考えていた矢先、彼女の質問に答えたのはもう一人の存在だった。

 

「はっきり言ってやったらどうだ、天気小僧?もうこの世界のどこにも、こいつらの安全が保証できそうな、避難できそうな場所なんざねえって」

 

同様に雲の上に乗って逃げ惑う街の住民たちに目を向けていたガジルだ。他の3人に背を向けた状態のまま言い切った彼の言葉を聞いて、ナツとウェンディがその顔に驚愕を見せている。対するシエルの表情にはその動揺が一切ない事から、彼の言葉が図星であることを意味している。

 

「テメェの事だ。はなっからそんなこと気付いてたんだろ?だが、そのガキに気を遣って言うのを躊躇った。甘ぇ奴だ。今の状況を目の当たりにしながら、まだ隠し通せると思ったか?」

 

何も言えないまま顔を俯かせていたシエルは、ガジルのその言葉に何も答えられなかった。世界から魔力が消えようとしている。それがどれほどの混乱を起こすかも、その影響が世界中に及び、安全な場所が完全に失われることもシエルはすぐに察知していた。

 

それを言葉としてすぐに出すのは気が咎めた。ガジルが指摘した通り、ウェンディがどうにかして街の住民たちを助けられないか、心配を抱いて行動しようとしていたのを感じ、どうにか力になろうと考えていた。だが、無情で容赦のない現実が、それを妨げている。

 

ガジルの指摘を聞いて覚悟を定めたシエルが、無力感に苛まれたかのように表情を歪めて首を縦に振る。それを見たウェンディは、彼の動きが何を意味するのかを理解した。最早自分たちでは、住民たちの安全を確保できない事を。

 

「そんな……!」

 

「本当に、オレたちじゃ何も出来ないのか……!?」

 

今にも泣きそうな表情で顔を下へと向けるウェンディ、そして未だにパニック状態の最中にある城下の様子を見ながらナツが呟く。眼下に見える世界の終わりとも言える光景。何も出来ない歯がゆさが、彼らの胸中に影を落とす。

 

「……出来るかどうかは知らねぇが、何をするべきか知ってそうな奴に心当たりはある」

 

だが、次に出てきたガジルの声に、今度はシエルも含めて3人とも反応を示した。視線を外していた為に、勢いよく3人の視線が集中することに。

 

「一人はエドラス(こっち)のオレだ。色々とこの世界の事にも詳しいから、今起こっていることに対しても、何か知ってるだろう」

 

エドラスにおけるガジル。フリーの記者をしているという話を聞いており、様々な情報を収集しているそうだ。正確な情報を掴むことに関しては、確かにこれ以上の適任はいないと言える。

 

「それともう一人……小僧にも心当たりがあるんじゃないのか?」

 

「まさか……!!」

 

ずっと背中だけ向けていたガジルが振り向いてこちらを見据えながら尋ねてきた問いかけ。それを聞いたシエルには確かにあった。一人だけ、この状況に関して詳しそうな人物が。

 

この世界に大切な人を奪われた、そしてこの世界を誰よりも憎んでいる己の兄の存在。

 

「兄さん……!」

 

「ペルさん?」

「ペルがどうかしたのか……?」

 

シエルが瞬間思い出したのは、底の見えない怒りと憎しみを抱いた顔で呟いた、兄の凶行と言える目的。ガジルの口ぶりから見れば彼自身も知っているのだろう。そして知らないのは、隣にいる少女と、桜髪の青年のみ。言うべきか迷ったものの、先程ガジルにも指摘された、時と場合を弁えて隠すべき情報を隠してはいけない事を注意されたばかりだ。しばらくの葛藤を続けた後にシエルは告げた。

 

兄であるペルセウスが、このエドラスで一体何を為そうとしているのかを。

 

「な、何だそりゃ……!?」

「ペルさんが……嘘……!?」

 

当然と言うべきだろう。己の家族が正気とは言えない行動を起こしている可能性がある、と聞かされればその言葉に対して疑うものだ。だがそれを口にしたのが誰よりも兄を信じる弟であることが、その話の信憑性を高めている。

 

「俺だって嘘だと思いたかったけど……兄さんの様子を見ていく内に本気なのが伝わって来たし、さっき王都まで兄さんを連れてったんだ。そしてその後に魔力が流れ出した……」

 

弟として、兄の事は信じたい。だが兄が抱えるエドラスへの恨みと憎悪は並大抵では払拭できないほどの深さと重さだ。そんな彼が、エドラスに対してこの惨状を生み出したと考えるのも早計ではないはず。聡明だからこそ考えついてしまう兄の思惑。それが彼の表情を苦しそうに歪めていく。

 

もしかして、本当にペルセウスは……。

 

「だったら、聞いてみりゃあいい。テメェの兄貴自身に」

 

「えっ……?」

 

再びガジルの言った言葉に、そして彼が意味ありげに向けている視線の先に、思わず目を向けてみればそこに見え始めた。面長な顔をした、右腕を振り続けるエクシードに抱えられながらこちらに近づいてくる、今まさに話題に上がっていた、少年の兄の姿が。

 

「兄さん!!」

「ペル!!」

「ペルさん!!」

 

「お前たち!その様子だと、国王は何とか出来たみたいだな!」

 

「んなこたぁいいんだよ!なあペル、一体これはどーゆ―事なんだ!!?」

 

(エーラ)で飛行しているエクシード・ナディに抱えられた状態で、ドロマ・アニムと対峙していた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に弟を加えた一同がいることに気付き、問題となっていた国王を撃破したことをペルセウスは悟る。だが、それよりも気にするべき大事に関してナツが詰め寄る形で問いかける。それに答えを示したのはペルセウスのみだけでなく、彼を抱えているナディも共にそれを示した。

 

「王子が!あのエドラスの王子が、アニマを逆展開させて、アースランドに魔力が流れるようにしたんだよ!!」

 

「その影響で、エドラスから全ての魔力が失われようとしているんだ。一足遅れちまったが、まだ巻き返せるはず……」

 

「王子……ジェラールが……!?」

 

ナディからの説明にあった王子・ミストガンによって魔力がエドラスから消滅されそうになっていることを彼らは初めて聞いた。彼らは、実際にその現場を、そしてそこから巻き起こる混乱を鎮めるために行おうとしていることも物陰から聞いていたようで、それもシエルたちに共有する。

 

魔法を消滅させた悪役を作り出してそれを目の前で処刑し、処刑した英雄となる者が、魔力の無くなったエドラスを導く新たな王になる、と言う計画を。

 

「そ、そんなのダメ!ジェラールが悪役に……処刑されるなんて……!!」

 

「ぼきゅもどうにかして止められないか考えてたんだ!そしたら彼が……」

 

ジェラール……ミストガンに対して大きな恩を感じているウェンディには、その作戦は到底看過できるものではない。当然ながら悲鳴のような声でその作戦の実行を否定する。そしてそれはナディも、ペルセウスも同じのようだ。

 

「兄さん、さっき『一足遅れた』って言ったよね?ひょっとしてこの光景は……」

 

その時、口を噤んで兄と兄を抱えているエクシードの言葉を聞いていたシエルが意を決した表情で尋ねた。エドラス中の誰もが絶望し、混乱の真っただ中。世界の終わりを体現したかのようなこの光景。エドラスを終わらせようとしていた彼の目的に、合致している。

 

だとすれば、これは兄自身も望んでいたものでは、と考えついたための、確認の意味も込めた質問。

 

 

 

 

 

「お前の考えている通り、俺は……俺たちはこの世界の魔力を消滅させることを目的の一つにしていた」

 

その答えは肯定だった。事前に聞いていたのであろうガジルを除く全員がその返答に衝撃を受ける。ナツに至ってはどうしてそんなことを、と今にも叫び出しそうな剣幕だ。しかし、ペルセウスの言葉はそれだけでは途切れなかった。

 

「ここまでは、ミストガンとも前から取り決めていたこと。そしてこの先は、あいつにも伝えていない……最後の大事な仕上げだ」

 

大事な仕上げ?その言葉と共に、真っすぐこちらへと目を向けてくるペルセウス。その目には、シエルが先程兄に見ていた憎悪や怒りなどと言った感情は一切見当たらない。純粋に、ミストガンと言う一人の仲間の為に動く、シエルもよく知る兄の姿だった。

 

「お前たちにも手伝ってもらいたい。これ以上の犠牲を出さない為に、ミストガン(あいつ)を新たな王にする為に……!!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

そして現在。

ペルセウスがエドラスを滅ぼす為に魔力を奪った大悪党、堕天使を名乗り、ナツたち滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)にはその堕天使から生み出された僕を演じて街を次々と破壊して住民のヘイトを集める。

 

そしてそこをミストガンが堕天使の一派を打ち倒せば、エドラスの未来を左右する悪役と英雄の構図は完成だ。元より、ペルセウスは魔力が無くなったエドラスを、新たに導く王となる人物はミストガン(ジェラール)しかいないと考えていた。だが肝心の本人は、世界を見捨てて一人異世界に向かったことを引け目に感じてその意思を一切持とうとしない。

 

「来るがいい、ジェラール王子!来ないと言うならば、この王都と、そこに住まう愚民共の最期の時が早まるぞ?」

 

だから荒療治を考えた。自分たち異世界の者たちをエドラスから見た悪者にすれば、自然とミストガンがそれを打ち倒す英雄となるしかない、と言う流れになる。さらには行方不明になっていたはずの王子と言う肩書だ。今はまだ半信半疑だが、ことが過ぎれば彼について行こうとする者は多く存在することになるだろう。

 

世界から魔力を消すと言う暴挙に関して絶句していたシエルたちも、その後の世界でミストガンが率い、前を向いて生きる為と言う目的を聞き、承諾を現した。秘密裏に、シエルがエドガジルに即興で考えた偽の神話のメモを渡したり、ナディがドロマ・アニムが暴れていた場所から国王ファウストを運んだりと、ギリギリな場面が続いてはいたが、現在は順調だ。

 

「ペル!そこを動くな!!」

 

「ペルと言う名など知らぬ。我は、堕天使ファルシーなり」

 

王城から屋根伝いに飛び降りて近づこうとするミストガン。それに対して、その場から一歩も動かず仁王立ちで待ち構えるペルセウス。その様子を見ながらパンサーリリーはもう一つの懸念を抱いていた。茶番でミストガンを英雄に仕立て上げるつもりなのは明白。だが、倒れたフリでは、民衆にバレた暁には取り返しのつかない事になる。

 

「(まさか、死ぬ気では……!?)」

 

彼のそんな懸念をよそに、ミストガンは王都の舗装された道を駆けて、ペルセウスの元へと徐々に近づいていく。

 

「あれが王子だ!神話上の存在である堕天使に、戦いを挑むつもりか!?相手はバケモノを生み出すような奴だぞ!?」

 

そんな彼が通り過ぎると同時に、ペルセウス側の事情をよく知るエドガジルが、周りによく聞こえるように声を張り上げる。半信半疑のままでいる民衆たちにエドラスの王子であることを信じさせるための煽りのようだ。

 

「(馬鹿者め……!お前ともあろう者が、こんな茶番で混乱を収拾できると思っているのか……!!)」

 

距離を詰めながら、ミストガンはこの状況を作り出したペルセウスに内心で毒づく。状況が膠着した際には、物理で無理矢理に突破する癖を持つ彼であっても、このような茶番を仕掛けることはあり得ないと考えていた。そしてその先、自分たちの命さえも危うい状況に追い込んでいることに。

 

「眠れ!!」

 

背中に装着していた数本の杖の内の一本を取り出し、眠りの魔法を放とうと前方へと突き出す。だが、杖の先端から魔力が出てくると同時に、地面から上空へと流れ出て行く魔力と共に、上の方へと流れて消滅してしまう。

 

「っ!!(魔力が……アニマに……!!)」

 

自ら逆展開させたアニマ。それがまさか、このタイミングで自分に降りかかるとは予想することが出来なかったのだろう。思わず勢いと共に、ミストガンは足もその場に止めてしまう。

 

「クハハハハ!どうしたのかな、王子?魔法が無ければ何も出来ぬのか?」

 

それを見たペルセウスは、足を止めてしまったミストガンを見るからに嘲笑い出し、魔法が使えなくなってしまった彼を挑発する。そして「まあ無理もなかろう!」と声を張ると同時に、左手を自分の胸元近くに持っていき、下に向けた左掌から紫色の頑強な大鎚を呼び出し、紫電の魔力を迸らせる。

 

「魔法とは力。そして力とは……全てを破壊するためにある!!」

 

そして左手を勢いよく下に振り降ろし、その動きと共に大鎚が屋根へと叩きつけられるように落下。ペルセウスが足場にしていた建物は、大鎚が激突した衝撃と、そこから溢れ出た紫電の奔流によって、轟音と粉塵を巻き上げながら瓦礫の山へと変貌した。

 

「やめろォーーーっ!!!」

 

人智を超えた破壊力を有するペルセウスの魔法に、再び恐怖してその場から逃げ出し、混乱する住民。そしてミストガンは魔法が使えなくなった動揺も忘れて、再びペルセウスの元へと駆け出し、迫っていく。

 

「刮目せよ、愚民共!これこそが魔法……これこそが魔力の神髄!貴様ら程度の手に余る代物だと言うのが、よ~く理解できただろう?」

 

粉塵が巻きあがる空間で、まるで煙を足場にして立っているように浮遊しているペルセウスが、逃げ惑う民衆に向けて高笑いを続けながら高らかに告げる。これまで魔力を頼りに生きていたエドラスの者たちには、本来手にする資格など存在しないと言いたげに。

 

「ペルさん、やりすぎですよ!!」

 

「い~や、これでいいんだ、ウェンディ」

 

「おう。これで強大な魔力を持つ“悪”に、魔力を持たない“英雄”が立ち向かう構図になるんだ」

 

一方で、ミョルニルを用いて一軒家を粉砕させたペルセウスに、距離を置いたところで待機していたウェンディが声をあげる。だが同様に待機していた残りの二人、ナツとガジルは寧ろこの状況を良しとしていた。

 

人々に絶望を与え、世界に破壊の限りを尽くそうとする悪の親玉、堕天使ファルシー。

それに対するは、魔力を一切持たず、魔法を使うことが出来ないエドラス王国王子ジェラール。

 

彼我の実力差は歴然のように思える。だが、民衆にとって、最早堕天使を止められる存在は、王子を置いて他にいないと誰もが考えていた。

 

浮遊していた空中から、いつの間にか瓦礫の山の上に着地していたペルセウスの前に、険しい表情を浮かべながらミストガンが現れる。粉塵は徐々に晴れていき、強大な悪役と、非力に見える英雄が対峙し、周囲に緊張感が走り出す。

 

「もうよせ、ペル。私は英雄にはなれないし、お前も倒れたフリなど、この群衆には通じんぞ……」

 

「……そいつはどうかな?」

 

ミストガンの言葉に対して不敵に笑みを浮かべながらペルセウスが一言言うと、一瞬で彼の姿がその場から消えて、ミストガンの目の前に右腕を振りかぶった体勢で現れる。それに気付いて動こうとするが、距離もすでに詰められている状態では間に合わず、ミストガンは左頬に拳を受けて吹き飛ばされる。

 

「王子!!」

「何て凶暴な奴なんだ!!」

 

周りに集まる民衆がその様子を見て騒ぎ出す。傍から見れば、何の前触れもなく王子に殴りかかった乱暴な存在と言うイメージがつくだろう。一方で殴り飛ばされたミストガンの方は、上体を起こして立ち上がろうとしている。

 

「茶番だ!こんな事で民を一つになど、出来るものかーっ!!」

 

そして先程の一撃を返すようにペルセウスの左頬へと拳をぶつけるミストガン。だが、殴られたはずのペルセウスは、首から下を一切……それこそ微動だにさせず、その場に留まり続けている。地が足に縫い付けられているかのようだ。

 

「っ!?」

 

「そんなもんじゃないだろ?本気で来いよ……!!」

 

やらせならと力をある程度抜いていたのは確かだ。しかし、だからと言って顔の部分を殴られて身体全体が微動だにしないと言う光景を見せられ、虚を突かれたのは事実。そして手加減したことがバレた上に、今度は腹部にペルセウスからの拳を受けて仰け反ってしまう。

 

仰け反った隙に追い討ちをかけようと今度は左の拳を顔に当てようとするも、ミストガンは左掌でそれを止め、そのまま右足で後ろ回し蹴りをペルセウスの顔へとヒットさせる。この一撃が入ったことで、初めて周りから歓声が上がった。

 

「オオッ!!」

「いいぞ、王子ー!!」

「やっつけろー!!」

「お願い、頑張って!!」

 

周囲にいる国民たちが自分を応援している。その事実に気付き、少々困惑気味にミストガンは辺りの民衆に目を向けている。

 

「っ……盛り上がってきたようだな」

 

蹴られた部分を手の甲で拭いながら、魔力の弾を数個溜め込み、ミストガンへと発射させる。それを見て咄嗟にミストガンは躱し、方向を調節していたのか、魔力弾は民衆には当たらず、後方にあった建物に直撃する。

 

そして悲鳴を上げる民たちに気をとられていると、今度は右足での回し蹴りがミストガンに迫る。それを両腕を駆使して受け止め、さらに右手で足を拘束する。

 

「馬鹿者!()()()なんだから、先程ので倒れておけば……!!」

 

「それじゃあ逆に……不自然だ……ろ!!」

 

すると左足を軸にしたまま、何と右足でミストガンの体を持ちあげ、大きくぶん回す。このままだと危険と判断したミストガンは、すぐさま手を放して退避する。

 

「聞こえるだろ、ミストガン?この世界の、国民の声が……」

 

声を潜め、周りの民衆には聞こえない声量でミストガンにそう声をかける。それを言われてミストガンも感じていた。先程から、自分に希望を抱いて、絶対的な力を持っている目の前の青年を討ち果たすことを願っている。これは、ただ単に強大な悪に立ち向かう英雄だからと言う理由だけではない。

 

「王子と言う肩書。悪を滅ぼす英雄の器。あるいは別の要素があるんだろうが、今周りが求めているのはお前と言う存在だ」

 

「私には……そのような資格など……」

 

声を絞って話の言葉を交わしながらも、次にペルセウスはミストガンの言葉を遮るように拳を振るって仰け反らせる。

 

「資格ってのは、何のことだ?」

 

その直後に告げられたその言葉に、ミストガンは目を見開く。資格。新たな世界の王になるために、一体どんな資格がいるのだろう?

 

国民に豊かな暮らしをさせられる事?

 

二種族の架け橋となる事?

 

命の尊さを知っている事?

 

大いなる力を持っている事?

 

どれもそうであるかのようで、どれも違うと、ペルセウスは思う。

 

「俺はな……どんなそしりを受けようと、あらゆる存在の為に動ける奴の事だと思う」

 

種族の違い、世界の違い、価値観の違い、ミストガンはそれら全てをひっくるめた上で、全てを尊重し、助けられる道を模索していた。自らの命を捧げてでも、新たな世界を導くため、混乱を鎮めるために動いた。

 

そんなミストガンと言う人間だからこそ、ペルセウスは失うべき人物ではないと考えていた。そしてその上、彼が世界の為を思って行きついた世界の行く末を、その目で見届けてほしいとも考えている。

 

「出来るかどうか不安だっつーなら、俺が保証してやる」

 

ペルセウスは知っている。彼だけじゃない。ナツたちも、別の場所にいるエルザたちも、ミストガンなら何が立ちはだかっても王として必ずやっていけるはずだと。何故なら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は今までも、絶望的な状況だと言われていた壁でさえ、必ず乗り越えて、その分強くなっていったのだから。そしてそこで過ごした彼も、ギルドの精神を受け継いでいるのだから。

 

「お前なら出来る。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の家族のお前なら。俺の親友(ダチ)なら。この国を良くしていけると、俺は信じてる」

 

素手による殴り合い。それを続けながら、時折会話を交わしながら、その中でミストガンの拳を受け止めながら告げたペルセウスの言葉に、彼はまるで何かに気付かされたかのように目を見開く。国の行く末を憂い、争いの元となる魔力を捨て、世界に住まう民の平穏を心から望む彼なら、絶対に出来ると確信を持たせるためのこの演技。

 

「ペル……お前は……」

 

幾度ものぶつかり合いを行い、再び距離をとった二人の内新たに動き出したのはペルセウス。換装魔法で右手に呼び出したのは、彼自身も見覚えがないものだった。

 

黒にも灰色にも見える地の色に、黄色い幾何学模様が至る所に張り巡らされた大振りの鎌だ。そのまま使われれば、得物を持たないミストガンは為す術もないはず。そんな巨大な鎌を目の当たりにした民衆からは不安を感じさせる声が続々と上がる。

 

「2分だ」

 

と、唐突に謎の時間を指定してきたペルセウスに周りの者たちも、ミストガンも首を傾げる。何の時間なのか、疑問に答えるかのようにペルセウスは更に言葉を続ける。

 

「最後の2分間。精々楽しむといい!!」

 

周りに響くように声を発しながら、ペルセウスは勢いよく鎌を上空へと投げ放つ。その鎌には魔力が宿っており、禍々しい黒や紫に見える不気味な色だ。刃先の方向に縦回転を繰り返しながら上空を昇っていく。

 

「ま、まさか!あれが神話にも記されていた、国一つを滅ぼした“破滅の鎌”!?」

 

その情報を周囲にもたらしたのはエドガジル。聞くからに不吉な名を持ったペルセウスが投げた鎌に、再び民衆に恐怖の顔が浮かぶ。彼が言った2分と言う時間はこの意味を持つ事が分かった。だが、国一つを巻き込む破壊力と聞いて、たった2分で避難することなどできるわけがない。鎌による滅亡を止めるには、堕天使である彼を倒す以外に最早方法はない。

 

「(ペル、一体何を……!?)」

 

騒然となる民衆とは違って、ミストガンは純粋に疑問を抱いた。この状況下で、偽の神話に登場させた謎の大鎌。それを使う理由が一切分からない。だがミストガンの胸中に抱いた疑問とは裏腹に、ペルセウスは両手に魔力を溜め込むとそれを纏いながら殴り掛かってくる。

 

「さあ王子よ!我を止められるか!?我を止め、この国と民を守れるか!?精々無駄にあがいてみせろ!!」

 

強力な力と共に攻め立ててくるペルセウスの攻撃を捌き、受け止め、時折止めきれずに受けながら、ミストガンは期を見て反撃すると共に動きを止めさせて問いかける。どういうつもりなのかと。

 

「心配ねえよ。悪いようにはならねえ。俺から伝えたいことを伝え終わったらわかる」

 

「伝えたいこと……?」

 

小声でそう言ったペルセウスの言葉に再び疑問を抱くも、彼からの膝蹴りを腹部に当てられて仰け反り、後ずさってしまう。

 

「ナツがやりたがっていたんだが、どうしてもこの役目は俺がやりたかった」

 

「……何の話を……?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会」

 

その言葉を聞いてミストガンは気付いた。これは民衆の混乱を収めるための演技であると同時に、生まれ故郷に帰って、新たに生まれ変わった故郷を導くためにギルドを離れる、家族に向けた壮行会。ミストガンもよく知る、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を抜ける者に送られ、守ることを義務付けられる、三つの掟。

 

「一つ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不利益になる情報は、生涯他言してはならない!」

 

一つ目の掟を伝えながら、ミストガンへと再び拳と蹴りを食らわせようと攻め立てるペルセウス。そのまま「二つ!」と次の掟を伝えようとするが、そのタイミングでカウンターを放ったミストガンの拳が彼の顎に当たる。

 

「二つ……えっと、二つ目は……ゴホッ!!?」

 

「過去の依頼者に濫りに接触し、個人的な利益を生んではならない!」

 

「そうそう、そうだっ、た!!」

 

顎に攻撃が当たったために脳が揺れ、二つ目の内容が若干飛んでしまったペルセウスが思い出そうとしていると、次はミストガンからの攻撃が襲い掛かる。そして二つ目の掟が彼の口から発され、最後の一撃である左の回し蹴りを受け止めながら、肯定を示して足を掴み、後方へと彼の身体を投げ飛ばす。だが、空中で体勢を立て直したミストガンはそのまま着地に成功。

 

「三つ。例え道は違えど、強く力の限り生きなければならない」

 

笑みを浮かべながらも、左の拳を引いて、さらに魔力を込めて強く握りしめていくペルセウス。

 

「決して自らの命を、小さなものとして見てはならない」

 

対して魔力を込めることのできない右手を、ただ握りしめながらペルセウスを見据えるミストガン。

 

「愛した友の事を……」

「生涯忘れてはならない……」

 

不敵な笑みを深くしたペルセウスの言葉に続くように、初めて柔らかな笑みを浮かべたミストガンが言葉を零す。

 

そして同時に二人はその場を駆け出し、それぞれ互いの握りしめた拳を互いの顔へと叩きこむ。クロスカウンターの形で互いの攻撃が決まった光景を見て、周囲の民衆が息を呑み、一瞬静寂に包まれる。

 

「届いたか?俺の、伝えたかったこと……」

 

ペルセウスの身体が徐々に力なく倒れていく。対するミストガンは、足の力をしっかりと地に踏みとどまらせ、倒れないまま。

 

そしてミストガンの最後の一撃を受けた堕天使は、そのまま背中から倒れ、動かなくなった。民衆の目にはっきりと映ったその光景は、紛れもない、王子の勝利を意味しており、滅亡の危機が消え去ったことを意味していた。

 

「王子が勝ったぞー!!」

「やったぁー!!」

「スゲー!!」

「王子ー!!」

「ステキー!!」

 

瞬間、湧き上がる歓声。ミストガン(王子)を讃える声。邪悪の化身たる堕天使が倒れ、禍々しい魔力を帯びていた落下中の鎌も、その魔力が目に見えて色を変えたのを見て、堕天使の撃破を物語っていた。

 

「鎌の色が……!」

「これって、オレたち助かったんだよな!?」

 

「はい!王子が堕天使を倒したおかげで、あの鎌の効力が切れたと考えていいでしょう!エドラスは、救われたんです!!」

 

そして最後までエドガジルは仕事をやり遂げる。先程彼が投げた大鎌から、堕天使の魔力が消えた事。街の安全が保証されたことを大々的に声にすれば、さらに歓声は大きくなる。脅威はすべて消え去った。世界を蹂躙しようとしていた堕天使の目論見は潰えた。

 

倒れたまま動こうとしないペルセウスを、悲しげな顔でミストガンが見下ろしながら、彼の名を寂しげに呟く中、ペルセウスが崩壊させた建物のがれきの山のてっぺんに、大鎌が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

瞬間、ミストガンは突如違和感を覚え、思わず周囲を見渡した。先程から歓声を上げる民衆。上空へと流れていく魔力。光景自体は先程と同じで、不自然な点はない。だが、明らかに不自然と言える点が一つだけある。

 

「どう言う事だ?何故、皆止まっている……!?」

 

止まっている。そう、動かないのだ。耳がつんざくばかりの歓声は一切音を発さず、上に流れる魔力はその動きをピタリと止めていて、その影響で砕けた瓦礫の破片は空中で浮かび、微動だにしない。

 

「いや、これは……

 

 

 

 

 

 

 

まさか、時が止まっているのか……!?」

 

時間の停止。まさに映像を一時停止したかのような状態となった周囲。現実離れした光景を目の当たりにしている、自分以外が止まっている状態。どうしてこうなっているのか不明瞭で、ミストガンは混乱することしかできない。

 

 

 

 

だからこそ気付かなかった。彼の足元で仰向けに倒れている青年が、微かに口に弧を描いた瞬間を。




おまけ風次回予告

シエル「何だか兄さん、今回終始ノリノリだった気がするなぁ……」

ナツ「だな~。ま、それはともかく、いよいよエドラスともお別れかぁ。振り返ってみれば結構面白かったな!」

シエル「新鮮味を感じたという意味では同意だけど、満面の笑みでそれを言えるナツって時々凄いよな」

ナツ「そうか?お前やウェンディがこっちだと大人だとか、グレイが厚着だったりとか、面白いとこいっぱいあったろ?」

シエル「ナツもめっちゃビビリだったしね~(笑)」

次回『バイバイ、エドラス』

ナツ「ビビリとか言うな!あっちのオレだって凄いとこあんだぞ!乗り物に強いとか!!」

シエル「そこも面白かったよね。あとルーシィもかなりイメージガラリと変わってたり」

ナツ「そうか?ルーシィはほぼほぼ同じようなもんだったろ?」

シエル「……あとで処刑されそう……(汗)」
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