いけそう、だったんですけどね……。
一旦前書きを先に書かせていただきます。今回の次回予告は、時間かけてでもちゃんと書きたいので。←
ついにエドラス編、次回で完結です!!
【7/17 0:10更新】
お待たせしました!次回予告、追加いたしました!
【7/17 0:58更新】
ごめんなさい!構成段階では入れたいシーンがあったのに書き忘れてしまったので加筆しました!!人によっては記憶に差異が生じるかも……本当にごめんなさい!
「まさか、時が止まっているのか……!?」
歓声に沸きあがる民衆も、
そんな中で、自分は不自然にも身体を動かすことが出来る。止まっていることを自覚している。
「一体何が……どうなっているんだ……?」
何故周りが止まっているのか、そして何故自分は止まっていないのか。その理由を探すためにこの場に留まるよりも周囲を確認しようと脚を動かそうとすると……。
「待て、動くな」
その声が唐突に耳に届いた。
「そこから動いちまったら、戻った時に周囲に怪しまれるだろ?」
「ペル……戻った時……?まさか、この現象はお前が……!?」
自分以外が止まっていることを認識……いや、止まっている原因と言ってもいい存在であるペルセウスの言葉を聞いて、ミストガンは驚愕と共に疑問を抱く。彼が何をしたのか、時を止める理由は?皆まで聞かずとも彼の疑問を理解していたペルセウスは目線だけを動かしたまま話し始めた。
「さっき投げた大鎌……銘は『アダマス』。時の都って言われた街に祀られていた、時間を操る力を持つ神の力を宿した神器だ」
時を操る大鎌『アダマス』。
ペルセウスが崩壊させた瓦礫の上に突き刺さっている鎌の事だ。彼が上に投げたあの鎌の力によって、時が止められている。使用者であるペルセウスが魔力を込めた量によって止められる時間が変わり、加減によっては使用者である自分以外の者たちを指定し、止まった時の中で行動させることも出来る。発動させるには、魔力を込めてから高く上に投げて、その後地面に突き刺さると言う一連の流れが必要と言うネックはあるが、それを差し引いても異次元の能力だ。
「何故、時を止めたんだ?私がお前を倒したことが民に広まり、お前の伝えたいことも、伝え終わったはず……」
「そう。俺からの言葉は十分伝えた。けどな、お前に言いたいことを残してるのは、俺だけじゃないんだぜ?」
ミストガンの当然の疑問に答えている間に、彼が時を止めた大元の理由を抱えた存在が近づくことを現すように、自分たち以外の存在が動けない、認識できないはずの空間に、その音は徐々に近づいてくる。
「今この止まった時を動けるのは3人だ。俺とお前と、もう一人」
その存在が近づいてくる、足音を耳に拾ったミストガンはその方向に顔を向けると、その表情に驚愕を表す。彼の反応に気が付いたペルセウスは開けていた目を再び閉じながらも、してやったりと言いたげな笑みを浮かべて言葉を発する。
「言っただろ?『最後の2分間。精々楽しむといい』って」
鎌を投げる直前に叫んだあの言葉。民衆には、自分たちの最期が迫る時間だと認識させていた。それと同時に、止まっている2分間……時間が止まっているからその概念もややこしいが、体感での2分間を、どうしてもミストガンと言葉を交わしたかったその人物に作ったという意味も込めていた。
どこか悲しそうな、だが嬉しさも滲み出た笑みを浮かべながら彼の前に現れた、藍色髪の少女に。
「やっと、やっと話せるね、ジェラール……」
「ウェンディ……!」
止まった時の中で動くことのできる最後の一人、ウェンディが儚げにも見える笑顔を深めて
「ペルさん、ありがとうございます」
「礼なら後でいい。言い残したことがないようにな」
最後に言葉を交わす機会を設けてくれたペルセウスに感謝をかけるも、限られた時間を少しでも
「えっと……言いたいこととか、話したいこととか色々あって、何から言えばいいのか分からなくなっちゃうけど……」
あんなに会いたいと思っていた恩人と本当の意味で再会できたというのに、いざ面と向かって堂々と言葉を発することが出来ると思うと、中々言葉が出てこない。少しばかり混乱しかけるウェンディ。だが、意を決して、これだけは絶対に伝えなきゃと決めていた言葉から、まずは伝えることにした。
「あの時、私と一緒にいてくれて……ありがとう!私、ジェラールと会えたから、今こうしていられるって思うの!!」
母親のような存在だったグランディーネがいなくなって孤独になった日。寂しさから涙を流すことしかできなかったその時声をかけてくれた少年。そしてそれから少しの間ずっと隣にいてくれた。
別れは唐突であったが、彼のおかげで
それらの出来事全てが、あの日彼に会わなかったら訪れなかったと思うと、もう他の可能性を考えることさえできない。
「だからありがとう!私……グランディーネがいなくなったあの時に、初めて会えたのがジェラールで良かった!!」
言葉を必死に告げている間に、目元に浮かんできていた涙が彼女の頬を濡らす。だがその口元は心からの感謝を示すように笑顔のまま。何も言葉を発さずに彼女の言葉を聞いていたミストガンにも、つられるように柔らかい笑みが浮かぶ。
「
ミストガン……ジェラールにとっても、ウェンディとの出会いによって救われた。何も詳しいことが分からない別の世界。父の凶行を食い止めるために一人そこへと降り立ったジェラールは、実を言うと不安でいっぱいだった。そんな矢先に出会った幼い少女。彼女の穢れを一切知らない無垢な様子に、心細かったジェラールの心は満たされた。世界さえ違う二人であるが、本当の妹のように彼は思っていた。
自分と別れた後の彼女が気掛かりじゃなかったと言えば嘘になる。魔導士ギルドに入れたのか、元気でやれているのか、アニマを探して塞いで周る間にも、そんな想いを抱えることが多々あった。だがそんな彼女は今、自分が過ごしてきたギルドにやってきて、そこの家族として、立派に成長を続けている。その事実にも、彼女からかけられた言葉にも、ジェラールはとても嬉しく思った。
「ウェンディ。アースランドで初めて会えたのが、君で良かった」
柔らかい笑みを浮かべながらそう言ったジェラール。それを聞いたウェンディは、流していた涙を更に溢れ出させながらジェラールに駆け寄り、彼にしがみつくように抱き着いた。唐突な行動にジェラールも驚きを見せるが、拒むことはしない。
「私……ずっと、助けられてばかりだったのに、ジェラールに何も返せなくて……」
「いいんだ。立派な魔導士になって、この世界のために戦ってくれた。それでもう十分だ」
涙を流し、震えた声で、恩返しが何も出来なかったと嘆く彼女に、優しく頭を撫でながら宥めるジェラール。彼からすれば、エドラスの為に仲間たちと共に戦い、父の凶行を止めてくれただけでも、こちらが感謝をしたいぐらいだ。しかし彼女はそう思ってはいないようで、「でも……!」とくぐもった声を漏らす。
「……ならば、オレから一つ、頼みを聞いてくれるか?」
「……頼み?」
そんな彼女にジェラールは敢えてそう言葉を告げた。彼女がどうしても自分への恩を返したいと思っているのなら、自分がアースランドにいる時に頼まれたある一つの項目を、彼女に継いでもらう事が適切と感じた。
「シエルの事だ。元々はペルから、自分がいない時にシエルの事をよく見ていてほしいと頼まれていた。今後は君がその役目を担ってほしい」
ペルセウスから頼まれていたシエルを見てほしいと言う頼み事。長期の仕事や自身の放浪癖がきっかけでギルドや家を長く空けることも多かったペルセウス。その影響で、弟であるシエルの近くにいられない事が多かったのを気にし、親友であるジェラールに彼の様子が変わりないかを気にかけてもらっていた。
「万が一ペルに何かあった時、シエルを支えてあげられるのは、きっと君しかいない」
「でも……私の方が、シエルには助けられて……」
「何も『強くなって力にならないと』と考える必要はない。君は君のやり方で、ペルやシエル、ギルドのみんなを助けてやってほしい」
自分はもうペルセウスの頼みを聞くことも、彼らと共に生きることも出来ないだろう。だがウェンディはきっとこれからも、ギルドの一員として彼らと共に歩み続ける。わざわざ頼まずとも彼女は懸命に生き、彼らを支えられる存在になると思うが、その力に少しでもなれるなら、言葉にして伝えよう。
「アースランドで出来た、オレの大切な友人たちを、親友とその家族を、君が守り、支えてくれ。それが何よりの恩返しだ」
「……うん、分かった……!!」
ジェラールからの頼みをしっかりと耳に拾い、身体を離しながら顔を見上げ、目元の涙を拭い笑顔を向けてしっかりと答えた。そんな彼女を見つめながらジェラールもまた頷き返す。
「もう少しで残り10秒だ。そろそろ戻っとけ、ウェンディ」
「あ、はい!それじゃあ……」
「ああ、元気でな、ウェンディ」
止められる時間も残り少ない。ペルセウスが動かないままウェンディに向けてそう告げた。時間が再び動き出した時に元の位置に戻っている必要があるからだ。表情に悲しさを表しながらも、時間が止まった時に立っていた、ナツとガジルの近くへと戻ろうと脚を動かす。
「ジェラール!!」
だが少し歩いた直後、彼女はジェラールを呼びながら振り向き、最後に伝えるべきと思っていた言葉をかけた。
「バイバイ!立派な王様になってね!!」
また少しばかり溢れさせた涙。だが輝かしい笑顔を浮かべながら言った彼女の言葉に、ジェラールが返答をする間もなく、元居た場所へと振り向いて駆け出していく。
「(ああ。必ず……)」
もう呼び掛けても聞こえないだろう少女へ、心の中でその呟きを留め、ジェラールは視線をずっと動かないままだったペルセウスへと向け直した。
「君にも伝えなければ。ありがとう、ペル……」
その感謝の言葉に、ペルセウスは口元を少し吊り上げて答えるのみにした。
5……4……3……2……1……
頭の中でそのカウントが聞こえてきたと思いきや、0になるタイミングで聞こえてきたのは周りの民衆の大歓声。その音量に一瞬驚くミストガンであったが、それはアダマスと言う大鎌で止められていた時間停止の効果が切れたことを現していた。現に、瓦礫のてっぺんに刺さっていたはずの大鎌の姿は消えている。
時が動き出し、周りの民衆たちは特に違和感を覚えることもないまま、堕天使を討ち果たした英雄へ惜しみない歓声を上げ続ける。だが、このまま時間を過ぎていくと、悪の権化であるペルセウスやナツたちは、後腐れなく元の世界へ戻ることが出来なくなる。いやそもそも、正攻法で戻る方法が、アニマの逆展開の影響で確保が出来ていないことも問題。
すると、気絶を装って倒れたままでいたペルセウスの身体が突如光り始めた。
「お前、身体が……!?」
異様な現象にミストガンが目を見張る。だが、輝き出したのはペルセウスだけではない。
「始まったな」
「ウェンディ、ミストガンとは話せたのか?」
「はい!もう大丈夫です!」
時が止まった状態にいたガジルとナツ、そして元の場所に戻り、止まった時間の中でちゃんとミストガンに伝えることを伝え終わったウェンディもまた、その身体から突如光を発し始めていた。
「よーし!後はハデに苦しんでやるだけだな!」
「バレねーようにしっかりやれよ?ギヒッ」
まるでこの現象が来ることを予見していたかのような反応。そしてこの後に起こるであろうことも熟知しているように話している彼らの様子を見て、民衆たちに再び混乱が走る。堕天使、そしてそれに生み出された竜の化身が突如光り始める異様な光景が、何を意味するのか?
「こ、これは一体……!?」
そしてその異常は、王城でいきさつを見守っていたパンサーリリーとナディ、二人のエクシードにも現れていた。困惑するパンサーリリーに、この状況を理解しているナディが説明を口にする。逆展開させたアニマは
「みんな、アースランドへ流れるんだ」
「何だと!?」
正直に言うと、最初はこのアニマの逆展開で自分たちの身に何が起きるのか予想できなかった。だが、ミストガンたちの話を同様に聞いていたペルセウスは一つの可能性を考えた。もしかしたら、と。だがそれに確信を抱くことは出来ず、本来仮説を立てることに向いている弟に、自分の考えを伝えていた。
魔力をアースランドに流すアニマの逆展開によって、自分たちはどうなるのか。魔力だけが抜き取られるのか、それとも魔力ごと自分たちも流れるのか。
『お前はどっちだと思う?』
『……。初めて俺たちが見たアニマは、マグノリアの街や、そこにいる人たち全員を吸収して
数秒ほどの思考、そして並行して自分が持ちうるアニマについての情報を整理。そして、そう長くない時間の間に、シエルは正解を導き出した。
『その例の通りなら、俺たち魔導士も、エクシード達も、元のあるべき形のままアースランドに送られるはず。つまり、このまま空にあるアニマを通って、アースランドに帰ると思う』
少年の推測を聞いて、ペルセウスは己が抱いた考えに大きな確信を持てた。そしてそれは、その場にいた
「彼らは自分で気付いた。女王様も多分、分かってらっしゃると思うよ」
────────────────────────────────────────
突然身体が光り始める現象は、彼らの推測通り、魔力を持つ者たちすべてに発生していた。エクシード達は勿論、エドラスの
「やっぱ読み通りだった。俺たちの身体ごと、アニマは魔力を持つ存在をアースランドへと流そうとしてる」
そして、物陰から堕天使ファルシーの騒動を、天候を操って演出していた少年、シエルもまた、その身から光を発し、アニマによって吸い寄せられて、上空へと浮かび始めた。遠くに見える兄ペルセウスや、ナツたちも同様だ。ひとりでに、吸い込まれるように空中を浮かんでいる。
「お?おーいルーシィたちー!」
「あ、シエル!」
「ナツたちは無事か?」
「あっちにいるよ。一緒になって浮き始めてる」
別の方角に、王都まで来ていたルーシィたちの姿を見つけたシエルが器用に空を泳ぎながら彼らの元へと寄っていく。ドロマ・アニムと対峙していたナツたちがどうなったのかとグレイが問うと、その無事だった姿を指し示して、共に浮き上がっている様子を見せる。
そして話は今の状況に移る。魔力を体内に宿した自分たちが上空に吸い込まれている。それはつまり、魔力と言う概念をこのエドラスから徹底的に排出しようとしていることを意味している。これまで彼らの生活を支えてきた魔力が、本当に何もかも失われていくのだ。エドラスで過ごしてきた者たち……もう一つの
「そんな顔するなよ。ギルドってのは、魔力がねーとやっていけねーのか?」
迫りくる未知の脅威を想像して、顔を俯かせていく彼らに、空へと流れていくグレイが声をかける。その言葉を聞いたギルドの者たちは、特に彼と同じグレイである一人の青年が反応を見せる。そんな彼らに向けてグレイは、己の右胸に刻まれた妖精の紋章を、右拳でドンと叩くとそれを彼らに向けて突き出して続ける。
「仲間がいれば、それがギルドだ!」
仲間がいれば。その言葉を聞いて誰よりも反応を示したのは、エドラスのシエルだ。それは自分を犠牲にしてでも国に潜り込んで戦っていた、自分の目を覚まさせた少年と、同じような事を言っていたから。その時の言葉を思い出して、「敵わないな……」と胸中で独り言ち、穏やかな笑みを零す。
「ウェンディ、少しついてきてくれるか?」
「えっ……?」
そんな彼は何かを思ったのか、近くにいた藍色髪の女性の名を呼ぶと、突如そう頼んでくる。少しばかり顔を赤くしながら戸惑うも、エドウェンディは彼の後をついて行った。
────────────────────────────────────────
「ぐあああああっ!!おのれぇ!劣等な世界の……愚かな人間風情の、分際でぇえええっ!!!」
魔力と共に上空へと投げ出されながらも、苦し気に右手で顔を押さえて、己を打ち倒したエドラスへの恨み節を叫びながらもがくペルセウス。勿論これは本気で苦しんでいるわけではない。アースランドへ魔力が流れていく現象を利用して、堕天使ファルシーが敗れたことでエドラスから出て行くことを演出するための芝居である。堕天使に生み出された僕を演じたナツたちも、各々呻き声を上げたり苦しむように叫んだりして演出している。
そしてこの芝居を信じ込み、民衆たちは空に流されていくペルセウスたちが、王子であるミストガンによって倒されたと盛り上がる。ミストガンにとっては、人間であるペルセウスたちまでアニマによってアースランドに流れることは予想外だったようだ。
「王子!!」
上空から彼に声をかけたのは黒豹のエクシードである彼にとっての恩人、パンサーリリー。魔力を持つエクシードの例に漏れず、ナディと共に空へと流れていく。
―――変化に素早く順応する必要なんてありません。もっと、ゆっくりでいいのです。
ミストガンがこちらに見上げるのを確認しながら、腕を組んで彼を優しく見下ろし、心の中でそう言葉をかける。すぐに順応しようと急いては、予期せぬ出来事に直面した時に対応できない。だが歩くようなゆっくりとした速さでも、人はその一歩を踏み出せる。未来へと向かって行けるのだ。その意図を読み取れたのか、ミストガンは涙を滲ませて首を縦に少し振る。
「きゃああああ!」
「ウェンディ、演技はもういいんじゃないかな?」
「あっ……そうかな?」
ナツたちと共に苦しそうに空に流れる演技を続けていたウェンディの元に、笑みを浮かべながら近づいてそう言ったシエルに気付き、もう十分だと認識した彼女はパッとその演技を中断。他の3人も同様だ。
「こんだけやれば十分か」
「しっかしペル、気合入ってたなお前~」
「凄い演技力だったよ。普段と違い過ぎてちょっと笑いそうになった」
「おいおい……」
民衆とはほとんど距離も空いただろうし、
「バイバイエドルーシィ!もう一つの
「頑張れよ、俺ー!じゃなかった、お前ー!!」
「それとマスター!身体には気を付けてなー!!」
「うん!僕さん……じゃなかった、君もねー!!」
「二人で何混乱してんだよ?」
「バイバイ、お姫様!!バイバイ、もう一人のシエル!!」
民衆から少し離れたところでこちらを見上げるエドラスの
「あっ、シエル、あそこ!!」
するとウェンディが何かに気付いてシエルに見えるように指をさす。その視線の先にいたのは、崩壊していない建物の一つの上に乗ってこちらに呼びかける二つの人影。エドラスにおける、シエルとウェンディだ。
「ちっちゃいシエルー!約束、守ってくれてありがとう!!」
「俺からも!お前のおかげで、本当に大切な事に気付けた!感謝してる!ありがとう、シエル!」
声を張ってこちらに大きく手を振りながら届くように呼び掛けるエドウェンディと、彼女のように大振りにはしないものの、こちらに向けて真っすぐ己の心からの想いを伝えてくるエドシエル。王都に向かう前、エドウェンディと約束していた事。エドシエルに、彼女やギルドのみんなが待っていることを伝えてほしい、と言う約束。内容とは随分逸れてしまったが、結果的に、彼がギルドに戻ってくることが決まったことで、彼女の望みは叶えられたと言っていいだろう。
「おう!これからはその大切な事、絶対に守って、大事にするんだぞ!!」
「今度は離れたらダメですからねー!!」
そんな、大人の姿をした自分たちの感謝を聞いた二人は、笑顔を浮かべながら負けじと声を張って返事を告げる。今度こそは、家族を悲しませるようなことをしない。それを胸に刻んでもらうため、そう呼びかけた子供たちの言葉に、エドシエルは少し困ったような、だが決心した表情でその意思を表明する。
「みんなぁ!またね~!」
「何言ってんの。もう会えないのよ、二度と」
だんだん自分たちのいる位置が高くなり、別れが近づいていることを察したハッピーが大きく手を振りながら地上にいる
それが意味するのは、二度とエドラスに住む者たちと会うことが出来ないと言う事実だ。それを理解したハッピーは、一気に両目に涙を浮かべて先程よりも声も手も大きくして向き直す。
「うわぁーん!バイバ~イ!!」
「だらしないわね。泣くんじゃないわよ……」
そんなハッピーへ呆れるように言ったシャルルの両目には、決して隠し切れない涙が浮かんでいた。それが、彼女の明かさない本心を、現わしているかのように。
―――さよなら、リリー。ナツ……ウェンディ……ガジル……シエル……。
―――そして……
もうほとんど小さくなって見え辛くなっているものの、ミストガンはしっかり見届けた。
満面の笑みで両手を振って別れを現す火竜の青年。涙に濡れながらも同様に両手を振る天竜の少女。両腕を組んでこちらに笑みを浮かべて流れていく鉄竜の青年。右腕を大きく振って笑顔を浮かべている天候魔法の少年。
そして、一番後ろ……高い場所まで行きながらも、人差し指と親指を立てた右手を天に掲げて不敵に笑う、アースランドにおける、一番の親友。彼らは暗雲の中心に開いた穴の中に、魔力と共に吸い込まれていき、そしてこのエドラスから、元の世界へと帰って行った……。
その後のエドラスがどうなったのか、それはアースランドにいる者たちには、知る由もない。だが、彼らは知っている。信じてる。
この世界の者たちが強く生きていけると。
何故なら、大切なものは何かを、誰もが知ってる世界だから。
「堕天使ファルシーは、この私が倒したぞ!!魔力など無くても……我々人間は、生きていける!!!!」
瓦礫の上に立ち、杖を天に掲げ堂々と宣誓を口にする青年。王都に住まう全ての民の歓声を浴びながら、ミストガン改め、エドラス王子ジェラール……否、新エドラス王国国王ジェラールが、ここに帰還と誕生を果たした。
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降りしきる雨。黒く染まった天を覆い尽くす雲。とある街の上空を中心として空いたその穴から、白い光を発して異空間を繋ぎ、今、その者たちをここへと送り返した。
『うわぁあーーっ!!』
『きゃああーーっ!!』
空の穴から無造作に投げ出された8人と2匹の男女。そのままあわや地面と激突しかけたその時一人の少年が「
「うぷ……!」
「はいはい、今解除すっから」
その中で唯一気分の悪さを訴えた桜髪の青年の様子を悟り、少年が雲を解除すると、各々は特に障害もなく地面に着地。見慣れた色の木々を目にし、来る前の記憶と同じ経験をしたことからふつふつと待ち望んでいた瞬間が現実になった喜びが溢れ出し始めた。
「帰って来たぞーーーっ!!!」
無事に全員、自分たちが元居た世界アースランドへの帰還を果たし、真っ先に代表としてナツがその喜びを大きな声で叫ぶ。どうやら今いるのはマグノリア郊外の丘の上のようだ。記憶が正しければ、マグノリアの景色を一望できる場所だったはず。
そしてそこに行ってみれば、耳に大鐘楼の鐘の音を感じながら、待ち望んでいたその光景を目に焼き付けられた。
「元通りだ!!」
「マグノリアの街も!!」
「全部、全部戻ったんだ!!」
エドラスに行く前は、何もかもが抜け落ちた真っ白な空間だった。だがそんな事があった過去など影も形もないと言えるほどに、元に戻っている。一様に喜びを表す一同だったが、同様に帰還を果たしたエルザがそれに待ったをかける。
「待て、まだ喜ぶのは早い。人々の安全を確認してから……」
「大丈夫だよー!!」
しかし、そんなエルザの心配を杞憂と告げる声が、何故か頭上から聞こえてきた。言葉を遮られたエルザ、そしてつられて全員が上を見上げると、彼らは驚愕のあまり言葉を失った。
「一足先にアースランドに着いたからね」
「色々飛び回って来たんだ!」
「ギルドも街の人もみんな無事だったよ!」
「みんな
「アースランドってすげえな!魔力に満ちてる!!」
背中から白い翼を一対二枚生やして、空を自由に駆け回りながらこちらに声をかけてくる。言葉を発する二足歩行のネコたち。エドラスにいたはずのエクシード達が、全員もれなくアースランドへと渡っていた。
ペルセウスとシエルの推測から、魔力を持っているエクシードもこちらに流れることを聞いていた
「どーゆーことよ……?何で……何でエクシードがアースランドに!?」
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「冗談じゃないわよ!こいつらは危険!エドラスに返すべきよ!!」
地上に降り立ったエクシード達が一様に並んで頭を俯かせる中、シャルルはにべもなくそう言い切った。アニマの逆展開で自分たち同様流され、エドラスに存在するエクスタリアも浮遊島の落下で失われた今、彼らは故郷を失ったも同然だ。ハッピーが宥め、ウェンディが彼らを「許してあげよう?」と宥めるも、彼女の意志は揺らぐことがない。相当エクシードの者たちが許せないのだろう。
「石を投げたのは謝るよ」
「ごめんなさい……」
「でもオレたち、帰るところが無いんだ」
「これから改心するよ!」
「もう許して……」
「そんな事はどうでもいいの!あんたたちは私に、
心から申し訳ないと謝罪を告げるエクシード達。だがシャルルはどうしても許せなかった。生まれた時から刷り込まれた使命によって、彼女は長きにわたって苦しむ結果になった。自らを友と呼んでくれたウェンディを、抹殺の対象に仕立てた。そんな彼女の言葉で、エクシードに与えられた使命について初めて知ったシエルが、目を見開いて驚きを露わにしていた。
「そうさ!女王はオイラたちの卵を奪った!!忘れたとは言わせねえ!!かーっ!!」
「あなた……」
「あ、おじさん!」
そんなシャルルの言葉に同意を示したのは、申し訳なさそうにしているエクシード達とはまた別の派閥らしい二人組。エクスタリアの郊外に住んでいた夫婦らしく、ハッピーも顔見知りのようだ。二人組と言っても、同意を示して怒りを表しているのは夫の方である白毛で黒い泥棒髭が特徴な、気難しそうな性格をしたエクシードだ。妻らしき青毛のエクシードは逆にニコニコと穏やかに笑みを浮かべながら夫を宥めている。
「けどよぉ……帰れと言われてもなぁ……」
シャルルや、彼女に同意した白毛のエクシードの気持ちも分かる。だが、アニマの力でアースランドとエドラスの行き来を可能にしていた為に、そのアニマが失われた今、帰ろうにも帰れない状態だ。どうしたらいいのか、エクシード達が全員戸惑いを現す中、言葉を発し始めたのは、女王であるシャゴットの傍に立つ、長老たちだった。
そもそも、エクシードと言う種族は、神や天使と言った超常的な能力を元々持ってはいない。かつては弱い種族として人間に迫害されてきたことがある。それをどうやって神の如き力を持った種族だと誤認させたのか。女王であるシャゴットに備わっている、ある能力が関わっている。
シャゴットには“未来予知”の力が生まれつき備わっていた。先に起こる未来を、時には何年も先の事を読み取る力。それによって人が将来死ぬ未来も、見ることが出来た。それを『人間管理』として後付け、女王は人の生死も操る力を持っている、とエドラスの民衆に認識させたのである。
そしてそんな彼女の未来予知の力は、6年前に今この時の事を予見していた。正確には、エドラス中の浮遊島が落下し、エクスタリアもエドラスの地上に落ちる光景を見た。今思えば、アニマ逆展開の影響で魔力が失ったことによる自然落下だったのだが、彼らは当時原因を人間だと思っていた。
人間と戦争をしても、勝てない事は明白。女王と長老は会議の末、当時卵のままだった100人の子供を
「逃がすだと!!?」
「それじゃあ……!」
その言葉に、卵を奪われたと言っていた夫婦が驚愕する。無理もない。この計画はエクスタリアの民にも内密にされて行われたのだから。表向きには異世界の怪物である
「勿論、
「分かってます。そう言う“設定”が必要だったって事ですよね」
「その事実を知らせてたら、間違いなくエクスタリアは混乱していただろうしね」
長老の一人が発したフォローに、その設定の意図を感じていたウェンディ、そしてシエルが納得を見せる。彼らの言う通り、間違いなくパニックになっていただろう。
人間たちのアニマを借り、シャゴットたちの作戦は成功した。しかし、たった一つだけ、計算外の事が起きた。
「それは……シャルル、あなたの力。あなたには、私と同じような『予言』の力があったのです」
「え!?」
シャゴットの持つ力をシャルルも持っていた。そのことに大きな衝撃を受ける。しかしそれは、無意識に発動しているようで、本人の記憶を混乱させてしまった。避難させた100人のエクシードの内、
ウェンディに卵の状態で拾われ、
『全ては王国の為に』
『この世界の魔力は無くなる』
『子供たちは
『それが使命……』
それらが最悪の方向に歯車となって噛み合い、『使命』だと勘違いしてしまった。本当に不運に不運が重なり、シャルルは自分の「ありもしない使命」を作り出してしまったのだ。
「そんな……!」
エクシード全員に、この使命が刷り込まれると、ずっと思っていいた。だが、真実は違った。元々そのような使命はなかったのだ。だから、ハッピーは何も知らず、予知の力を持っていたシャルルだけが、虚偽から生まれた使命を抱えてしまったのだ。
そして彼女は思い返す。王城の中に、地下の坑道を経由して侵入しようとした時を。あれは断片的に情報が送られてきていると思っていたが、事実はシャルルのみが読み取った予言。そして同様の力を持っていたシャゴットが、同じように予言で彼らの動きを察知し、王国軍に知らせた、と言う事だろう。
「ぼきゅたちは、君が自分の力を知らないのをいい事に、さもぼきゅたちが操ってるように言ってみたんだ……ゴメンね……」
「全ては女王様の威厳を演出するための猿芝居。本当に申し訳ない」
腕を振り続けながらも涙を流して謝罪を示すナディと、同様に謝罪を告げる、どこか見覚えのある角ばった鼻と髭が特徴的な顔をした甘い声の黄色いエクシード。それに続くように女王は彼女に、俯きながら話を続ける。
「たくさんの不運と、民や人間に対する私の虚勢が、あなたを苦しめてしまった。いいえ……6年前、卵を取り上げた全ての家族たちを不幸にしてしまった。だから私は、あなたに剣を渡したのです。悪いのはエクシード全てじゃない。私一人です」
俯いたまま話し終えたシャゴットに、シャルルは何も言葉をかけることが出来ない。卵をとられたことでエクスタリアに難色を示していた夫婦も、その話を聞いて、怒るに怒れない、と言いたげだ。
「ノォー!メェーン!!」
「それは違いますよ、女王様!!」
「女王様の行動は、全部私たちを思っての事!!」
全ての責を自分に集中させるシャゴットに、ナディたちはそれが否であることを伝える。更に、それに続くようにして他のエクシード達も続いていく。
「オレたちだって、自分たちの存在を過信してた訳だし……」
「折角アースランドに来たんだからさ!」
「みんなで6年前に避難させた子供たちを探そうよ!!」
「ボクたちにも新しい目標が出来たぞ!!」
「今度は人間と仲良くしよう!!」
「新しい始まりなんだー!!」
「ははっ!前向きな奴等だな!」
再び背中に翼を生やし、意気揚々と空を羽ばたくエクシード達。力こそなかったかもしれないが、その光景はまさに大勢の天使たちと言えるようなもの。新しく前を向き始めた彼らに、思わずナツを始めとして、一同は笑みがこぼれた。
「……いいわ。認めてあげる」
「シャルル……!」
色々と思う事があったのだろう。あらゆるしがらみを乗り越え、真実を知り、そしてこれから先の事を見据えて進もうとしている彼らに、シャルルも毒気が抜けたようだ。彼女の許しを聞いて、シャゴットが心底嬉しそうに涙に濡れながらも笑みを浮かべている。
その光景を見て笑みを浮かべていたのは、彼女の相棒であるウェンディ、そしてその近くに立っている少年シエルも同様だった。
「でも、何で私にあんたと同じ力がある訳?」
シャルルが感じた疑問。当然と言えばそうだろう。だが、少なくともシエルはその真相もある程度予測していた。シャゴットの容姿は、尋ねた本人であるシャルルによく似ている。毛色も同じで、シャルルが成長すればシャゴットのような美しい見た目になると確信できる。極めつけには、彼女と同じ予知の能力だ。
間違いない。女王シャゴットは、シャルルの実の母親。つまり、遺伝によって予知の能力を身につけたのだ。
『私は
「(あの時のハッタリが、まさか真実になるなんてなぁ)」
シエルは一人その時のシャルルを思い出し、そしてこの後に明かされる更なるシャルルの衝撃の真実を聞いた彼女の反応を予測して、思わずほくそ笑んだ。きっと、今まで以上の驚きを現すことは間違いない。
「ど、どうしてかしらね……?」
「ゴホッゴホッ!」
「まあ、その……」
「いい天気~」
「お腹空いたのぅ……」
「何か怪しいわね……」
「誤魔化すの下手くそかっ!!?」
かと思いきやここまで来ておいてとぼけおった。あからさまにシャルルから視線を逸らして惚けるシャゴットに、長老たちまであからさまに誤魔化そうと咳き込んだり変なポーズをとったりと、誰がどう見ても何か知ってます、と言いたげな反応である。シャルルも目を細めて訝しんでいるが、気付く様子はない。
予想だにしなかった行動をとった一同に、逆にシエルが驚かされて目が飛び出る程に見開いて叫んだ。ウェンディも気付いているらしく、シエルも含めた一同を見て苦笑いを浮かべてる。
更に言えば、ハッピーと泥棒髭を持った白毛のエクシードがシャルルとシャゴットがどこか似てるような、と言った会話をしているが、その動きは妙にシンクロしている。白毛の夫の配偶者である青毛のエクシードの存在も相まって、彼らもハッピーの両親と思われるのだが、本人は一切気付く様子がない。子世代のエクシード……鈍感過ぎでは……?
「取り敢えず、無事に終わってよかったな!」
「はい!」
「おい、うつってんぞ、ナツ!」
「そーゆーグレイもな」
「ペルさんもですよ~」
難しい話はほとんど聞き流していたが、とにかく解決したと認識したナツがナディにそう声をかける。ナディがずっと腕を振り続けている癖がうつったのか、彼も右腕をずっと振り続けたまま。
そんなナツに注意したグレイも、グレイに注意したペルセウスも、一様に右腕を上下に振り続け始めた。流行し出したようだ。ルーシィも今にやりだしそうである。
その合間に先程の甘い声をしたエクシードが、エルザを気に入ったのか「もっとあなたの
「そうだ。一つ、聞きたいことがあったんだけど……」
ふと、シエルが空を飛んでいるエクシードたちに問いかける。一体何だろう?エクシードたちも近くにいたウェンディたちも、気になって彼の方へと視線を向けると……。
「『石を投げたのは謝るよ』って聞こえたんだけど……詳しくその話を聞かせてくれないかな?」
『ヒィイイイッ!!?』
「わぁーー!!違うのシエル!あ、えっと、違わないけどそれはもういいのー!!」
エクシード達が一様に恐怖に引き攣ってしまうような反応を見せる程に、とてつもない殺気を込めた声と表情(顔はウェンディたちからは見えない)を向けて尋問を始めようとするシエル。流しかけていた彼らの一言をしっかりと覚えていたようだ。恐ろしい。そんなシエルを、色々と察したウェンディが止めようと必死になるのも無理はなかった。
「何だか……色々とあほらしくなってきたわ……」
あんまりにもシエルが殺意を漲らせるものだから、自分が抱えていたあれやこれやが何だか萎んでいく感覚を覚え、シャルルは溜息混じりに呟いた。
エクシード達はとりあえず、この近くに拠点を作ってそこに住むようだ。マグノリアの郊外ではあるが、いつでも日帰りで会える距離。ウェンディが嬉しそうにシャルルに告げると、シャゴットがシャルルを愛おしそうに抱きしめる。どうして自分が母親であるかを名乗り出ないかは定かじゃないが、きっと言える日が来るだろう。
ハッピーも、自分の両親としばし話をした後、その両親が感涙を流し出したり、直後に父親と思しき白毛のエクシードに追い回されたりと、最後まで賑やかだった。
そして、一旦の別れの時。拠点となりそうな広い場所を探す為、エクシード達が空を飛び立ち離れていく。
「みなさん、本当にありがとう!」
「また会いましょー!」
「元気でねー!」
「おーうまたなー!」
「またねー!」
「取り敢えずバイバーイ!」
「頑張れよー!」
各々、手を振りながら別れの挨拶を叫び、遥か先に行って見えなくなるまで彼らはずっと見送っていた。そして、全員がその姿を見えなくなるまで見送った後、自分たちもそろそろ動き始めた。
「おーし!オレたちもギルドに戻ろうぜ!」
「みんなにどうやって報告しよう」
「いや、みんな気付いてねえんだろ?今回の件」
「しかし、ミストガンの事だけは黙っておけんぞ」
「あいつの事なら、俺からマスターに追って伝えておくよ」
エドラスの事に関して一切気付いていないはずのギルドの家族に、どう話すべきか悩む一同。会話の内容は真面目だが、話をしている全員がもれなく右手を上下に振り続けているので、傍から見れば異様の一言だ。
「みんな……手……」
「すっかり浸透しちゃってる……」
言わずもがな、年少組二人に呆れた視線を向けられるのも、無理はないだろう。
「ちょっ、ちょっと待て!」
「どしたのガジルー?お前もやってみなよー!」
「楽しいですよ?」
「それに価値があるならな!!」
すると、これまで一切会話に混ざらなかったガジルが声を発する。そんな彼に、やっぱり真似したかったのか、年少組二人も右腕を振りながらガジルを勧誘してくるが、当然ながら断った。と言うか価値があるならやるのか?これ。
「リリーはどこだ!?パンサーリリーの姿がどこにもねえ!!」
「リリー?」
「あのごっついエクシードの事よ!」
そう言えば。エクシード達は全員新天地を探して飛び立ったと思っていたが、今に至るまで他とは一線を画す黒豹のエクシード、パンサーリリーの姿が見ていない。彼も確かアニマに吸い込まれたからアースランドに来ているはずだが……。
「オレならここにいる」
噂をすれば影。成人男性と同じ声と共に、重厚感を感じさせる足音と水飛沫を上げて、そのエクシードは姿を現した。右目に傷をつけた黒豹のような……
記憶と違ってハッピーたちと同じ頭身にまで縮んでいるエクシードの姿を。
『小っちゃ!!?』
「随分可愛くなったね……」
「どうやら、アースランドとオレの体格は合わなかったらしいな」
下手をすればこの場にいる誰よりもガタイがよかったはずのパンサーリリーが、ハッピーたちと同じサイズにまで縮んでいたことに、やはりと言うか驚きの方が勝つ。ハッピーが呆然としながら呟くと、何事もないかのようにそう言葉を発する。結構問題がありそうなものだが……。
「あんた、体何ともないの……?」
「今のところはな」
どうやら現状では彼自身の身体に変化が起きたのは頭身だけらしい。だが声だけはガタイがデカかった時の渋い男性のままだ。正直違和感を感じはするが、順応性の高いギルドだ。じきに慣れるだろう。
「オレは、王子が世話になったギルドに入りてぇ。約束通り、入れてくれるんだろうな?ガジル」
エドラスにおいて激突し、ギルドに連れて帰ると公言していたガジル。問いかけられたガジルは一度エルザに目を向けると、許可が下りたのか彼女は首肯する。そしてそれを確認して「ギヒッ」と笑みを浮かべたと思いきや。
「勿論だぜ!!
「うわ!泣いた!!」
いつものキャラが崩壊するほどに感涙に咽び泣きながらリリーを思いきり抱き締めた。よっぽど嬉しかったんだろう。相棒であるエクシードの存在が出来たことが。
「ところで、おまえさっきから何持ってんだ?」
すると、先程からリリーが左手で持っているロープが気になったペルセウスが彼に尋ねると「おお、そうだった」と彼は思い出したように話し出す。
「実は先程、怪しい奴を捕まえたんだ」
「おおっ!早速手柄か!!さすがオレのネコ!!」
何だかガジル、将来子供が出来たら親バカになりそうだ。などと現実逃避染みた思考を一瞬していたが……次の瞬間、それはすべて吹き飛んだ。
「来い」
「ちょ、ちょっと……!!」
リリーの持つロープに引っ張られているらしい人物。その人物の声を聞いた瞬間、シエルは、記憶の奥底を叩かれたかのような既視感を覚えた。恐らくは、ペルセウスも同様に。
「私……別に、怪しくなんか……きゃっ!!」
ロープが繋がった先、茂みの向こうから引っ張り出されたその人物の姿を見て、ほぼ全員が絶句した。その人物は、白銀のショートヘア。上げた顔に映っていた瞳の色は青。今のナツたちと、同い年ぐらいに見られる少女だ。だが……。
「私も、
両手を拘束された状態で出てきたその少女を、自分たちは、よく知っていた。
「「リサーナ……!?」」
ナツとペルセウスが告げたその名は、二年前に死んだはずの少女のものだった。
次回予告
夢を見る。あの頃の、幸せなひと時の事を……。
夢を見る。その記憶が、泡の中に移った記憶が、手から零れ落ちていくのを……。
輝かしい彼女の笑顔の記憶も。
それを失った絶望と喪失感も。
掴みたくて、離したくなくて、それでも嘲笑うように、映った水泡は流れて消えていく……。
どこまでも沈んでいきそうだった自分に……。
突如、自分を呼ぶ声と共に、上から差し伸ばされた手。
深い底へと引きずりこもうとする引力に抗い、自分は必死に、その手を取った。
次回『リサーナ』
自分を掴んだその手の主。自分を引き上げたその者は……。