FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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一日遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

Twitterには一応書いたのですが、前までのように上手く書けなかったり集中できなくなったりで、どうにもスランプ気味です……。

さて今回もまた本編をお休みして、番外編となります。
今回は、本編内で書く余裕が見つからなかったお話。主に彼女サイドのお話です。

ついでに、シエルとペルが名前以外で一切登場しないと言う珍しい貴重な回でもありますw

シエル・ペルセウス「「!?」」


番外編②

天候、本日も晴天なり。

青空を燦燦と照らす太陽が、心地よい気温で照らす空の下。マグノリアの街に存在する魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)の正面から左手に存在する丘の上に、ある一つの建物が存在している。

 

男子禁制の女の園。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する女性魔導士たちの居として構えている女子寮。その名を『フェアリーヒルズ』。

 

「ここを登った先。距離はそんなに遠くないからすぐ見えてくるよ」

 

「思った以上に近場なのね」

 

先導して先を歩いていく二足歩行の青いネコの案内を受けながら、女子寮とギルドの距離感に思わずぼやいた、相棒である白ネコの声を聞きながら、長い藍色の髪を揺らして歩き、手提げカバンを両手に持ちながら二匹の後をついて行く。

 

「楽しみだねシャルル!」

 

「まあ、他に住めそうなところなんて心当たりもなかったしね」

 

新たなギルド、新たな街、新天地とも言うべき場所に、誘われるがままとは言え辿り着いた。マグノリア……ひいては妖精の尻尾(フェアリーテイル)での新しい生活をつつがなく過ごすには、やはり住居の問題は切って外せない。

 

この少女・ウェンディもその例に漏れない。しかし、女子寮と言う女子の特権ととれる存在のおかげで、幸い住むところに困ることはなかった。そして今日、持ってきていた荷物と共に、件の女子寮へと移り住むことになる。

 

「あ!もしかしてあそこが?」

 

「あい!ギルドの女子寮、『フェアリーヒルズ』だよ!!」

 

案内を自ら買って出たハッピーの声を聞きながら、丘の上に建てられている女子寮の姿を目の当たりにする。つい数日前まで自分が住むことなど想像もつかなかった立派な建物を前に思わず少女は目を輝かせ、これから始まる生活に胸を躍らせた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

ようこそフェアリーヒルズ!

 

 

 

「あれ?あそこにいるのは……」

 

丘の頂上も登り切ろうと差し掛かったところに、ウェンディは寮の入り口前に誰かがいるのを視認して、よく目を凝らしてみた。少しばかり長めの金髪の少女。恐らくルーシィだと思う。

 

何故、()()のか。それは少女の格好が原因。頭には黒い猫耳のカチューシャ、下着や水着に近い過激なボトムスの後ろには同じ色の尻尾、二―ハイソックスに、トップスも肩と腹部、更には胸元まで大胆に露出したコルセットのような服装。

 

早い話が、超がつくほど過激なネコのコスプレだった。そんな格好を自分から着るイメージなどなかったため、遠目からだとルーシィと気付くのに遅くなってしまった。

 

「あの、ルーシィさん?」

 

「あ、ウェンディ!と、シャルルも!」

 

念のためにと思って声をかけてみれば予想通り。何故そんな恰好をしているのか?という疑問はあるが、ウェンディは彼女に向けて軽く挨拶を続けて、こう続けた。

 

「いつもの感じと違う服だから、ルーシィさんじゃないのかと思いました」

 

「よりにもよって私の前でその恰好?いい度胸ね」

 

「好きで着てんじゃないから……」

 

本人はそのようなつもりは毛頭なかったのだろうが、白ネコ(シャルル)を前にネコのコスプレをしていたルーシィに、睨むように目を吊り上げながら指をさして指摘するシャルルに、落ち込み気味にルーシィは返す。尚更どうしてそんな恰好をしてるのだろう……。

 

「で、どうしたのウェンディ?」

 

「私たち、今日からこの寮にお世話になる事になったんです!」

 

「オイラはシャルルの引っ越しのお手伝いだよ!」

 

ルーシィが尋ねてきた質問に返したウェンディの言葉に続き、ひょっこりとルーシィの前に姿を現したハッピー。シャルルの手伝いを行って好感度を上げようとしているのだろうが、肝心の本人からは冷たくあしらわれている。

 

「へ~そうなんだ。てかハッピー、あんた男子でしょ?ここ女子寮だから入れないわよ」

 

「オイラは男子じゃありません。ネコです」

 

本来女子寮と銘うっているのだから男子禁制……なのだが、ハッピーは実を言うとちょくちょく女子寮を出入りしている。他のものが聞いたら納得できないと主張しそうだが、彼は正確には人間じゃない為セーフと認識している。まあ、人間の女子に対して特にやましい感情を向けたりなどしていないから、女子寮生も特に気にしていないらしいが。

 

「ルーシィか?」

 

屁理屈を堂々と言い放ったハッピーに、妙な脱力感を感じた一同。そんな彼女たちの耳に、女子寮の二階の窓から聞き覚えのある声が聴こえてきた。目を向けてみれば寮内での普段着なのか、珍しく鎧に身を包まずシンプルな服装を着ている緋色髪の女性が顔を覗かせていた。

 

「こんなところに来るなんて、珍しいな」

 

「エルザ!エルザって、この寮に住んでるの!?」

 

「ああ。他に何人もいる」

 

ルーシィも、エルザが女子寮に住んでいることを知らなかったらしく、中から彼女の姿が出てきたことに驚きを隠せない様子だ。他にも、ルーシィが知っているメンバーも寮の中で生活しているらしい。身を乗り出しているエルザから見えるようにウェンディが近づくと、彼女は気付いたようでこちらに一瞥すると口元に笑みを浮かべて呼びかけた。

 

「お、ウェンディとシャルルか。今日からだったな」

 

「よろしくお願いします!!」

 

第一印象は大事。ルーシィとエルザは既に知った間柄と言う事になるが、折角一緒の場所で生活をすることになるのなら相応の礼儀や挨拶は必須。それが基本のスタンスとなっているウェンディは、元気よく声を張ってエルザに挨拶した。天空魔法の使い手らしい澄んだ心を持った彼女の対応に、エルザもどこか気分が良さそうだ。

 

「ねえおばあちゃ……って消えてるし!!」

 

「?」

 

ふと、ルーシィが辺りを見渡して誰かに何かを尋ねようとしたらしいが、自分たち以外に他の人物がいない状態である事に今気づいたらしく、何やらギョッと目を見開いて驚いている。

 

先程まで誰かいただろうか?ウェンディたちが来た時には、ルーシィしか見当たらなかったのだが。

 

「ルーシィ?何をしているんだ?」

 

「う、ううん!ちょっと見学に!!」

 

どこか挙動不審に見えるが、それが何故なのかまでは分からない。だが自分よりもより長くルーシィと共にした時間が長いエルザが特に気にしていなさそうなら恐らく大丈夫だろう。見学に来た、と彼女が答えれば、エルザが自分が案内すると申し出てきた。願ってもなかったのか、ルーシィも断ろうとはしない。

 

「入れ。ハッピーは、ウェンディとシャルルを部屋に案内してくれ。二階の角部屋だ」

 

「あいさー!」

 

エルザがそれを伝え終わると、ルーシィを迎え入れるために階段があると思われる方へ向かいだす。そしてやはりハッピーが女子寮に来ることはよくあるようで、特に彼を邪険にしたりせず、むしろ新入りであるウェンディたちの案内を任せる信頼ぶりだ。

 

「よろしくお願いします!」

「ま、頼んだわよ」

 

元気よく応えたハッピーに対し、彼の案内を受けることになった二人は、ベクトルは違えどもそれぞれ願い出た。どんな場所なのか、何度目になるか分からないほど楽しみである。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ハッピーから部屋の案内をされ、エルザの言っていた二階の角部屋に荷物を置いたウェンディとシャルル。角部屋と言うだけあって、日当たりもよくてとても良い部屋と言う感想を抱いた。月10万J(ジュエル)とこの歳の少女の部屋としては少々値を張るが、シャルルも同じ部屋だし、歳の近いシエルも立派に仕事をしているから自分も頑張らなければ。

 

「で、あんたは何してんのよ?」

 

部屋を一度出た後も、彼女たちの先導の為にマーチの行進隊のような意気揚々とした足取りで歩くハッピーに、シャルルが思わずそう零す。部屋への案内は終わったのに、何故まだ自分たちと同行しているのか。シャルルとまだまだいたいからか、はたまた親切心からか、このまま女子寮の中を案内すると言う。

 

 

 

「ここは大浴場!各部屋にもシャワーはあるけど、湯船に浸かりたい時はここだよ」

 

「広~い!」

「中々いいじゃない……」

 

見せてもらった寮内の一部屋がいくつも入るほどの広大な空間に広がった、10人以上一緒に入っても開放的な気分を味わえる大きな湯舟と同様の洗い場。前のギルドにも無かった広々とした浴場にウェンディは勿論、シャルルさえも非の打ちどころを見つけられない。

 

 

 

「地下は資料部屋だよ。ギルド程じゃないけど、寮生たちの仕事の記録なんかがあるんだ」

 

「住んでないのにやけに詳しいのね」

 

「よく来てるからね」

 

一階にあった大浴場から更に下の地下。そこには過去に寮生たちが請け負った仕事がどう言うものだったのかの記録が入れられており、いくつもの本棚が並んでいる。寮生でもないハッピーがここまで詳しいことに少しばかり呆れたシャルルの指摘にも、何故かドヤ顔でハッピーは返していた。

 

 

 

───ギャーーーーッ!!

 

「へっ!?何!?」

 

地下から戻ってきたところで、突如女子寮の廊下に響いてきた少女の悲鳴。まだ完全にはギルドメンバーを把握できていないウェンディにも、その少女の声は聞き覚えがあった。ルーシィが紹介してくれた少女の記憶と合致している。気になって悲鳴が上がっていた場所へと駆け付けてみるととんでもない光景がそこに広がっていた。

 

「キャー!?レ、レビィさん!!?」

 

「これ……死んでないわよね……?」

 

レビィ。ルーシィと特に仲のいい、本や読書が何よりも好きな頭脳派で華奢な少女だ。そんな彼女が、何故か壁に頭を思い切り叩きつけられた後のように、血をベットリとつけた、まるで殺害事件の被害者のように前からもたれかかっている姿で発見された。

 

確かにすさまじい悲鳴のようにも聞こえたが、まさか入居初日で殺害事件が起こるだなんて想像だにすることのできなかったウェンディは顔を真っ青に染めてオロオロしている。シャルルも正直ドン引きだ。

 

「う……うぅ……」

 

「あ、生きてるよ、一応」

 

僅かに声を漏らしたレビィに気付いたハッピーが淡白にそう告げる。何だか冷たい。容態を確認してみると血を流したのは額からのみだったようで、他に外傷は見受けられなかった。その傷口もウェンディの天空魔法で治療することで無事に完治。だが流した血の量が結構多いので貧血状態からは中々抜け出せなかった。

 

「大丈夫ですか、レビィさん?」

 

「何があったのよ?誰にやられたの?」

 

「え、と……ちょっとね……」

 

若干意識が朦朧としているようだが、彼女を襲った部外者の可能性は捨てきれず、ウェンディとシャルルは彼女を襲った犯人が誰なのかを確認する。だが、どこか気まずげに視線を逸らしたレビィは一拍おいて今回の事件の真実を告げた。

 

「エルザを怒らせちゃって……思いっきり天罰を受けました……」

 

「エルザさん!?」

「思いっきり関係者だったわね」

「逆に何したらそこまで怒らせるの……?」

 

何とレビィ殺害未遂(語弊があるが)事件の犯人はエルザと判明。最後までレビィは口に出すことが出来なかったが、エルザの案内でルーシィに自分の部屋を紹介していた際、図書室と見紛う書物の数々を見せながら、半分くらいは処分したり、シエルやエルザにも分けていたりする話の流れで、ついルーシィに耳打ちしてしまったのだ。

 

『エルザは、ちょっとエッチな本が好きみたい♪』

 

彼女に聞こえないように耳元に近づいて小声で呟いたのだが、残念な事に筒抜けだった。妖精女王(ティターニア)の逆鱗に触れてしまったレビィは、そのまま女王の制裁を受けてしまったと言う経緯(いきさつ)である。南無。

 

「いや、死んでないから……」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その後もハッピーの案内で女子寮の中を案内してもらっていたウェンディとシャルル。するとルーシィの案内が済んだらしいエルザが来て、ウェンディたちの歓迎会も兼ねてギルド前の湖に泳ぎに行くことを提案されると共に誘ってもらい、彼女は快諾。荷物に入れていた水着に着替えて目的の場所へと訪れた。

 

「わぁ……!」

 

この季節には久々と言える温暖な気候。燦燦と照り付ける太陽が、湖の砂浜を光らせて反射し、輝かしい光景を生み出す。一見すると海にも見えるほどに広大なそれを目にしたことで、彼女の表情も光り輝くものを目にして影響されたように輝いている。

 

喜んでくれていることに気付き、企画したエルザも満足そうに頷く中、各々思い思いに楽しみ始める。波打ち際をかけて水飛沫を飛ばし、悠々と泳ぎ、浮き輪やバナナボードで揺蕩う。魔法のおかげで水になれるジュビアは少しつまんなそうにしていたが、同じ時間を共有できるだけでも貴重な体験だ。

 

「楽しいですね!」

 

「ああ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)もフェアリーヒルズも、どっちも楽しいぞ」

 

今度はビーチバレーをほぼ全員で楽しんでいるのを観戦しながら、心から感じた思いを伝える。思えばこんなにも大人数で、こんなにも広い水場で遊ぶことはウェンディにとって初の体験。これからも妖精の尻尾(フェアリーテイル)で過ごしていく過程で、想像を遥かに超えた出来事が起こっていくのだろう。それを思うと、ますます胸が躍り出す。

 

「ふん、みんなガキね」

 

寮生の女性陣が楽しくビーチバレーを行っている傍らで、唯一パラソルの日陰でくつろいでいるシャルルが、はしゃいでいる女性陣に手厳しい感想を零す。種族の違いがあるとはいえこの中では最年少なのだが……やはり精神面での成熟が早いのだろうか。少し前からそんな風にくつろいでいたシャルルの元に、飲食店の給仕の服装を着たハッピーが、簡易的なトロピカルジュースを丁寧な所作で持ってくる。

 

「お待たせしました」

 

「あら、オスネコの癖に気が利くのね」

 

「女子寮の皆さんにそう言われます」

 

悠々とくつろぐシャルルの元にドリンクを届けるハッピーの構図。こうして見ると、お嬢様とそこに使える執事と言ってもいい程形になっている。シャルルも正直彼の行動は意外だったのか、素直に感心を覚える。

 

「皆さん!それでは例のヤツいきますよ~!!」

 

だが唐突にテンションが急上昇したかのように、ビーチバレーをしていた女性陣の方へ勢い良く振り向きながら、まるでどこかのハイテンションな司会のようにお知らせする。その勢いのせいなのか持参したドリンクを放り出してしまっていたのは恐らく気付けていない。シャルルは引いた。色んな意味で。それとウェンディもいきなり始まったイベントに疑問符しか浮かばない。

 

 

 

そして始まったのは……。

 

 

 

「フェアリーヒルズ名物!『恋のバカ騒ぎ』!!」

 

浜辺を舞台にして、いつの間にか用意されたセット。司会席と思われる小さめの台の傍らにはハッピーが。その反対側には二段構えのひな壇があって、ウェンディとシャルルを除く女性陣が並んで座っている。その中心の位置には二本の柱の端同士で広げられた映像魔水晶(ラクリマ)のモニター。

 

何、とは言わないが、色々と危ないような気がする。

 

だがそんな心配など誰も感じておらず、ハッピーのコールで始まった謎のコーナー。タイトルコールに応えるように女性陣は一様に拍手を始めたが、一通り終わったと思うと……

 

「グレイ様」

「ラクサス」

 

「早過ぎ!!」

 

ジュビアとエバーグリーンの二人が真っ先に手を上げながら提示し、ピコピコハンマーを持ったハッピーにツッコまれる。エルザが腕を組みながら「今日のお題が出てないぞ」と注意している。気にするとこ、そこ?

 

「今日のお題は!『あなたが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中で彼氏にしてもいいのは誰?』です!さあ……」

 

「グレイ様。以上」

 

「ジュビア……それじゃつまんないよ。他の人!」

 

お題を提示しても通常運転のジュビア。まあ、何となく想像はついていた。早々に切り上げて他のメンバーはどうかと聞いてみると、顔を赤くしてモジモジしながらビスカが言い淀んでいる。きっとアルザックが頭に浮かんでいる事だろう。

 

「花が似合って、石像のような感じの~」

 

メガネを外しながらタイプの特徴を上げるのはエバーグリーン。だがそれは彼氏云々以前に人間なんだろうか?

 

「エルザは?」

 

「いないな」

 

「にべもないね。他の人!」

 

ギルド内の男たちはそう言った視点では眼中にないであろうエルザは一言でバッサリと斬り捨てる。まあ、初恋の男とどうしても似つかない者たちばかりだし仕方がないと言える。

 

「ちょっとお題に無理があります。だってそんな人いる?」

 

するとお題そのものに苦言を呈してきたラキ。地味に失礼に当たる発言ではあるが、普段の男性陣の様子をよく知ってる身からすればそう言いたくもなる、かも。

 

彼女の主張を聞きながらシャルルも首を縦に振って同意を示しているのも相まって、ウェンディは苦笑を浮かべることしかできない。個人的には意外にも面倒見のいいナツや、顔も整ってて実力もあるペルセウスなどは候補に挙がりそうと思うのだが。

 

「レビィはどうなの?」

 

「私!?」

 

ハッピーからそう聞かれた瞬間モニターに今この場にいるレビィの顔がアップで映し出され、本人は突如聞かれて驚きを見せる。同じチームであるジェットやドロイは、彼女に好意を寄せているが故、三角関係も疑われているのだが、実のところ……。

 

「冗談!チーム内での恋愛はご法度よ!仕事にも差し支えるもん!」

 

レビィはチームだから、という理由で二人に対するそう言った感情は皆無らしい。更にもう一つ加えると、実はレビィはそれぞれ二人から告白された事があるらしいのだが、二人ともそれぞれ秒でふったそうだ。一時期ジェットなんかはフラれる速さも一番、などと揶揄われたとか。いずれにせよ、哀れである。

 

「トライアングル~!グッと来るフレーズね~」

「三角関係……恋敵ィ……!!」

「その真ん中に立つと、全ての毛穴から鮮血が……とか!?」

 

「はいそこ!脱線しすぎ!!」

 

後ろのひな壇に座ってたエバーグリーン、ジュビア、ラキの三人が各々色々とツッコみたくなる反応を起こす。特に最後のラキ。言ってること物騒なのに顔が新作のおもちゃを前にした子供のように輝いてるのはどういうことだ。

 

「チームの恋愛って言えば、私前から疑ってることがあって……」

 

「何々?」

 

チームの恋愛、というワードで思い出したらしいレビィが今度は切り出す。先程までと違って恋バナらしい空気を感じ取ったビスカが興味を持ち、彼女に聞き返す。

 

「実は、ナツとエルザがあやしいんじゃないかないかと思うの!だって昔、一緒にお風呂とかに入ってたって言うし……!!」

 

「そう言えば……!!」

 

昔の話とは言え男女が揃って風呂に。耳に拾ったウェンディも、この事実には顔を赤くする。もしかしたら、そうなのだろうか。二人とも気付いていないだけで実は進んだ関係になっていてもおかしくないのか……?

 

「ん?グレイとも入ったぞ?」

 

だがその想像はまさかの斜め上に飛躍した。本人に一切の恥じる感情が浮かばないまま。女性陣が一気に表情を驚愕に染め、絶句し、顔が真っ赤になっている。

 

「それ即ち好きという事になるのか?」

 

ダメだ。初恋の相手(ジェラール)以外の男に対しては全くと言うほど男としての意識を向ける様子がない。周囲の女性陣の身体から湯気が出るほど熱が上がっているが、肝心の本人は本気でそれが普通と思ってる。普通の家族として。

 

「え、エルザさん……大人だ……!」

 

「あれは大人と言うのも違うでしょ」

 

思わずウェンディも身体から湯気が出てしまい、口に出してしまった言葉を、シャルルに呆れられながら返された。余裕のある大人の態度に見えるが、こと他の者たちが自分の想像以上に進んでいたら途端に照れ始めるのだから彼女の基準がよく分からない。

 

「グレイ様と……お風呂に……!?」

 

「はいそこ!想像しない!!」

 

ショックやら羞恥やら妄想やらで色々と限界が近くなった様子のジュビアに、ハッピーが手に持つピコピコハンマーで叩いて無理矢理正気に引き戻した。魔法で身体を水に変える余裕もないのを見ると相当である。

 

「ビスカこそ、アルザックとは相変わらず上手くいってるのか?」

 

「エルザさん!?それ内緒です……!!」

 

話の脈絡もなく自分の方にふられるとは思ってなかった上に、みんながいる前で想い人の事まで暴露されたことで、今まで以上にビスカが慌てふためき始める。これまでアルザック本人どころか、エルザ以外の誰にも話したことがなかった為、その焦りは想像以上。だが……。

 

「え?みんな知ってるよ」

『うんうん』

 

レビィを筆頭にこの場で彼女の想い人がアルザックであることに気付いていない者はいなかった。既に周知の事実。それを理解したビスカは色々居た堪れなくなってまたも湯気を発生させた。そんな彼女の様子に何かを察したエルザが途端に表情をしかめると……。

 

「すまん、うっかりしていた……仲間だと言うのに……!私のせいだ……取り敢えず殴ってくれないか……!?」

 

もう色々とツッコむ気力も失せかけてくる。どこか一人暴走してるようにも見えるエルザの反応に苦笑いを禁じ得ない。

 

「じゃあルーシィはどう?」

 

そして話題は参加している寮生から更に枠組みを外して、この場にいないはずのルーシィに。ウェンディだけが「あれ?」と首を傾げていたのだが、他の面々は一切気にせず誰が候補になるか上げていく。

 

「ナツじゃない?」

「意外とグレイかも!」

「ジュビアはロキだと!!」

 

順当に考えればナツ。あるいはグレイと示すメンバーが多い。彼の名を聞いた瞬間声の怒気を強めるジュビアにはもう何も言うまい。

 

「あ、でも、ルーちゃん言ってたよ!青い天馬(ブルーペガサス)のヒビキって人に優しくしてもらったって!」

 

レビィが提示したのは六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いの中で彼女が会ったギルドのメンバーの一人。かなり人気は高いらしいが、割と少しばかり雰囲気がよくなった場面はあったため無いとは言い切れない。

 

「んーーー、意表をついてリーダスとか!」

 

『ないないないない……』

 

ビスカが提示した絵画魔法(ピクトマジック)の使い手であるリーダス……が、全員もれなく否定した。悲しいかな、ファントムとの抗争の際は身を挺して彼女を守ろうと頑張っていたのに……。

 

「分かった!きっとミラさんだ!!」

 

ラキ、何故そこでミラジェーンの名が出てきた。この作品にはガールズラブのタグは入れてないのだが……。現に場にいる全員が最早言葉すら出てこなくなった。

 

「ルーシィか。私としてはシエルと仲がいいように見えたぞ?」

 

「ああ、確かに!」

 

ここで珍しくエルザの方から候補が上がる。エバーグリーンはその名前を聞いてイヤな記憶を思い出したのか苦虫を噛み潰したように歪めるが、他の面々はどこか納得したような反応だ。

 

星霊魔法に強い憧れを持つシエルは、その魔導士であるルーシィに対して何かと気にかける様子は見られるし、よく二次被害を頻発させる最強チームの尻拭いをするのも、読書好きなのも共通している。いじられやすい体質の彼女を、イタズラ好きなシエルがからかう事もしばしばだ。こうして見ると、割とその線はあり得る。

 

「そうです!ルーシィとシエルくんは、ペアルックだってしたことありますし!」

 

「そうなの!?」

 

更にはルーシィを(一方的に)恋敵と見ているジュビアも楽園の塔の時にバルゴが用意してくれた星霊界の服を二人揃ってきていた時の事を話して場の者たちを驚かす。さっきから必死だこの女……。

 

「あれ?でもシエルって……」

 

だがシエルが話題に上がったと同時にレビィは首を傾げた。確か六魔将軍(オラシオンセイス)との激闘から帰ってきた後のルーシィから、シエルに関する劇的な変化を本人の与り知らないところで聞いていたはず。

 

その変化の要因……こちらを外野の位置から眺めている、彼が想いを寄せている少女に思わずレビィは目を向ける。その目が合ったのかこちらの視線に気づいたその少女は、視線の意図には気付かず目をパチパチとさせている。

 

どうかしたのかとエルザから聞かれると、ウェンディに視線を移していたことは誤魔化してた上で、「あ、そう言えば……」と思い出したように口を開き、そこから次の人物にスポットが当てられる。

 

「実際話してて思いだしたんだけど、シエルって結構女の子に人気あるよね?」

 

「そうなのか?」

「ええ?あんなガキがぁ?」

 

シエルという名前が浮かんだ直後にモニターに映し出される件の少年。得意気な笑みを浮かべたその写真が映される中、エルザは純粋に関心を覚えて尋ね、シエルへの良いイメージが無いエバーグリーンが顔を顰めてレビィの言った内容に苦言を呈す。

 

「でもそうね。街中でよくシエルの評判は聞くけど、基本誰かが困ってたら手を貸してくれるっていうし」

 

「確かに……ジュビアの相談も聞いてくれたりしてますし……」

 

「それに、大人の女が好みそうな顔してたり、書庫に入り浸りで知識を吸収したりで賢いし!」

 

「ラキ、それ誉めてるの?」

 

エバーグリーンだけはいいイメージを持ってはいないようだが、実際のところシエルは目立ってはいないが女性受けがいい。顔立ちは整っていて可愛い系、それに反して魔導士として体を鍛えている為体つきもよく、基本的には明るくて社交的。ラキが独特な言い方をしてはいたが頭脳も秀でている。そんじょそこらの魔導士よりも知識も豊富で、頭の回転も速い。

 

これだけの要素があれば密かに人気が出るのもうなずける。

 

「実は家事もできるし、ナツたちみたいに何かを頻繁に壊したりもしないし……」

 

「こうして見ると、シエルって結構優良物件かもね」

 

更にはペルセウスが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入し、健康体になった時から、兄が家を空ける機会が増えたことによって一通りの家事を学び始めた事で生活力も身につけている。いつでも婿に行けるレベルで。

 

さらには最強チームの面々が暴れまくって破壊行為を行った後は、寧ろその行為を止めようと躍起になり、ルーシィと共に被害者へと頭を下げたりと常識人枠だ。

 

だが、そんな彼の美点と天秤にかけられる、唯一と言える無視できない欠点があるのを、忘れてはいけない。

 

「けど……イタズラ好きなのよね……」

 

『ああ……』

 

ビスカが指摘したその唯一の欠点を聞いた女性陣は、エルザを除いて納得の溜息を吐いた。シエル自身のこれまでの美点を考えるとおつりがくるとも思えるが、やはりそこはどうにも無視が出来ない。

 

「でしょうね。いくら長所が数あっても、結局は生意気なガキの域を超えないのよ」

 

そんな彼の性格にこの場で一番振り回された過去を持つエバーグリーンは、それ見た事かと言いたげに肩を竦めて言い捨てる。何だか少し生き生きしてるようにも見えるような?

 

「そうか?確かにイタズラを仕掛けることは多々あるが、どれも可愛らしい範囲だと思うぞ?」

 

「そりゃあ、エルザさんに仕掛けることはしませんから……」

 

逆にシエルからのイタズラを受けた事さえないエルザは、周りを盛り上げるようなイタズラばかりという印象を持ってる故か、彼の欠点を欠点と認識していない。苦笑混じりでぼやいたビスカがそれをすべて物語っていた。

 

「いつもこんな事してるんだ」

 

「相当バカっぽいけど、魔導士の仕事はストレスかかるみたいだから、息抜きしてんでしょ」

 

なおも続いていく恋のバカ騒ぎ、と言うよりガールズトークを観賞しながら、こうした一見ただただおしゃべりを続けている時間が、リフレッシュにもなり、寮生同士の絆を深めることに繋がるのだろう、と結論を付けながらウェンディは彼女たちの様子を微笑ましく眺めている。こういった一面もまた、フェアリーヒルズ……ひいては妖精の尻尾(フェアリーテイル)の楽しい所たる所以なのだろう。

 

 

 

ところで……これが女子寮の名物で、今日からそこに住むと言う事は……。

 

「てか、あんたも次からアレに参加するんでしょ?」

 

「へえっ!!?」

 

今回は来たばかりと言う事で見送られたが、次は恐らく強制参加。あの面々の中でガールズトークを繰り広げられるのか、と妙な不安に駆られることになった。

 

 

 

ちなみにその後、ギルドの裏手から謎の爆発が発生。何事かと思いはしたが、寮生たちは特に気にせずそのまま戻って行った。その翌日、ギルドのプールが何故か崩壊したという話を聞くこととなる。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

湖での憩いの時間も終わり、その後大浴場での入浴も済ませた時には既に夜更け。楽しい時間はあっという間だ。今や寝間着に身を包んだウェンディとシャルルは、後は新しい部屋で床につくのみとなった。

 

「今日は楽しかったねシャルル!」

 

「ま、悪くはなかったわね。多分明日からは忙しくなるでしょうけど」

 

寝床となるベッドは一部屋に一つだけ。となると必然的に、彼女たちは一つのベッドを二人で使用することになる。一緒の布団に入る準備を整えながら、ウェンディは今日起きたことを振り返って、相棒の白ネコに笑顔を向けている。シャルルは口こそ素直じゃなかったが、その言葉が彼女にとっては肯定の意であることをウェンディは知っている。

 

その上で、シャルルが最後に付け加えた言葉を改めて耳にし、ウェンディは明日以降の生活に意欲を見せる。

 

「そうだね。まだまだ慣れなきゃいけない部分もいっぱいあるけど、少しずつお仕事もこなして、みんなの事も色々知って、役に立たなくちゃ!私を助けてくれたナツさんやエルザさん、シエルの為にも!」

 

これからは自分も、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として、色んな場所に赴くことになる。化猫の宿(ケット・シェルター)の頃とは違って、近場で済ませたりすることもなく、長期にわたる場合もあるだろう。それでも挫けるわけにはいかない。

 

強敵であるゼロを打ち果たしたナツや、自分をギルドに誘ってくれたエルザ、そして何かと気にかけて、奮闘してくれたシエルなどと言った面々の為に。

 

 

 

「……シエル……」

 

ふと、彼の名を自分で口に出した瞬間、先程の湖でのガールズトークを思い出した。何故なのか、それは彼女にも分からない。

 

「ウェンディ?どうかしたの?」

 

「あ、ううん、何でもないよ。そろそろ寝よっか」

 

唐突に固まった少女を不思議に思ったシャルルの声に、今自分が考えたことを伝えることなく首を振り、早々に切り上げて照明魔水晶(ラクリマ)を消灯する。二人並んで横になりながら、目を閉ざす。

 

 

 

 

 

だが、先程の自分が抱えた一瞬の感情が再び湧き上がって、彼女の脳内に浮かぶ。

 

 

 

───ルーシィさんと仲良しで……

 

───困ってる人には誰にでも優しくて……

 

───ジュビアさんにも相談されて……

 

 

 

───シエルって……女の人に人気あるんだ……

 

心の中で、昼間の彼女たちから聞いた、かの少年に対するイメージ。その事に彼女自身も心当たりを持っており、大いに共感できる。

 

 

 

 

 

だと言うのに……何故自分はこんなことを考えているのだろう?

 

 

 

何故自分は、シエルが女性からの人気が高いことが、ここまで気になるのだろう?

 

 

 

視界を閉ざして、更けていく夜に身を預けている少女が抱いた、自分でも分からない感情。

 

 

 

 

ウェンディがその正体に気付くのは、まだまだ先の事である。




第66話天竜歓迎会にて、OVAの話も盛り込んでいましたが、都合上カットしたウェンディサイドの回でした。
気になるって人が結構いたらしいので、考えていたんです。遅れちゃいましたが……。

さて次回の投稿なんですが、来週はキャラ設定の更新の予定。そしてその翌週から盆休みに入りますが……どこまで書けるか現在不明です。(汗)

色々と決まったらまたお知らせしていきますね!
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