FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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この回から幽鬼の支配者(ファントムロード)編へと突入いたします。

仕事の合間とかに投稿済みの話を読み返したりしてるんですけど、シエルのバトル描写があんまりないなぁ…と思ってしまいます…。
オリジナル挟めば?ってことも考えてるんですけど先に先にと進めたくなる衝動が…ファントム編終わったら1、2話ぐらい挑戦してみようと思います!


第2章 衝突!幽鬼の支配者(ファントムロード)
第9話 幽鬼の支配者


―――力でしか解決できない者は、その力にいずれ溺れていく…

 

徐に告げた青年の言葉に、少年は首を傾げながら思わず尋ねた。「突然何を言い出すのか」と。青年が告げた言葉は恩人から教えられた言葉を反芻したことで告げたものだった。力と言うものは個々人や団体が所有するものでもあり、大きすぎる力は正しく使えば世間からの賛辞を受ける。だが誤って扱えばそれは批判を受けるもの。己の歪んだ欲望で力を振るえば、また別の力を持つ者によって淘汰される。それを意味しているのだと、教わったそうだ。しかし、恩人はこうも言ったという。

 

―――だが、他者のために、大切な者の為に振るう力は、決して悪とも言い切れない

 

力を持つことは、善とも悪ともいえるし、そうでもないとも言える。己がそれぞれ持つその力は、正しいものなのか、悪しきものなのか。それは恐らく永遠に導き出されない問いであろう。ならば、自分が持つ力は、自分が大切だと思った者を、恩人を、家族を守るために振るいたい。言葉を噛み締めた青年が新たに決意を固め、更なる強さを身に着けるきっかけとなった。

 

―――もしお前も、さらに強さを、力を求めるのなら、これだけは忘れるな…

 

 

 

それは自分の力だけじゃなく、自分以外の誰かの力でもあることを…

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ナツ、ハッピー、ルーシィが無断でS級クエストの発注先であるガルナ島へ向かい、それを止めるためにグレイが飛び出してから早三日。シエルは日を跨いだ一つの依頼を終え、マグノリアに帰還していたところであった。

 

グレイがナツたちを止めるために飛び出した翌日、シエルは入れ違いになったために話で聞いただけだったが、ナツたちが依頼に向かった前日に別の依頼で留守にしていたエルザが帰還。話を聞いた直後、即座にナツたちを追ってガルナ島に向かったそうだ。規律を重んじる風紀委員な性格のエルザの耳に入った時点で、ナツたちの今後はお察しと言うものである。最悪は破門、軽くても恐らく重い罰は待っているはず。特に一番受けたくない「あの罰」に関しては、思い出すだけでげんなりとするほどの過酷なものに見えたと、ギルドを目指して歩きながら、シエルは思っていた。

 

すると、噂をすれば影。聞き慣れた声が前方の方から聞こえていた。

 

「あ、エルザとナツたち。帰ってきたのか」

 

無断でS級クエストに向かった3人と、巻き込まれた1人、そして連れ戻しに行った唯一のS級魔導士―マスター・マカロフに認められた最強候補の魔導士たち―の一団が見えた。耳を凝らすと「ナツたちの処分に関してマカロフの判断を仰ぐ」という旨をエルザが告げ、ハッピーとグレイが『アレ』をやらされるんじゃ!?と絶望に顔を染めている。やはりか、やはり『アレ』になるのか、とシエルは思わず顔を引きつらせた。

 

「気にすんな!『よくやった』ってほめてくれるさ、じっちゃんなら!」

 

「すこぶるポジティブね…」

 

ルーシィをなだめるように肩を回して顔に喜色を浮かべながら告げるナツ。呑気なものだ。エルザの表情から察するにもうほぼほぼ決まっているようなものだというのに…。

 

「いや…『アレ』はほぼ決定だろう。ふふ、腕が鳴るな…」

 

エルザの言葉にナツの笑顔がだんだん引き攣っていき、それに比例して汗がふき出してくる。隣で見ていたルーシィがその変わりように言葉を失うほどに驚いていた。

 

と、ここでシエルは一つ思いつき、口元に弧を描いた。

 

「いやだぁーーーっ!!『アレ』だけはぁ!『アレ』だけはいやだーーー!!」

 

「『アレ』だけは…『アレ』だけはぁ…!!」

 

「次にルーシィは!『だからアレって何ーー!!?』と言う!!」

 

「だから『アレ』って何ーー!!?…はっ!?」

 

エルザに引きずられながら絶叫するナツと、頭を抱えて同じ言葉をぶつぶつと呟くグレイを見ていたルーシィは思わず声を上げる…ことを想定してルーシィの背後から音もなく近づいていたシエルの謎の予言に、思わずそのまま叫んだ彼女はそこでシエルの存在に気付いた。ルーシィだけでなく、エルザを除く全員が「シ、シエル!?」とはもって名前を呼んだ。

 

「おかえり、エルザ」

 

「ああ、見ての通り今戻った」

 

「それから…『アレ』の受刑者3人(と一匹)」

 

『受刑者言うな!!』

 

全くもっていつも通りに会話を繰り広げるエルザとシエル。そして受刑者呼ばわりされて思わずツッコむナツたち。しかしそれも仕方ないと言えてしまう。無断で2階に忍び込んで依頼書を盗み取り、その依頼先へと勝手に向かっていったのだ。もしかしたら破門じゃないだけマシかもしれない…。

 

「話は聞こえていたみたいだな。ちょうどいいことだし、お前も罰する側として参加するか?」

 

するとエルザから世にも恐ろしい提案が繰り出された。あの悪戯小僧が…普段はギルドメンバーにいつ来るとも分からないいじりや揶揄いを仕掛けるのが大好きなシエルが、よりにもよって『アレ』に罰する側として参加するなど悪夢ではないか。ナツ、グレイ、ハッピーの顔に更なる深い影が差される様子を見て、未だ『アレ』を知らないルーシィの恐怖はますます増して行く。一体何をされるのか、どうなってしまうのか、ルーシィが知る限りこの手の提案にはシエルが食い付かないはずがない。だが、返ってきた反応は…。

 

「あ、いや…俺は遠慮しておくよ。…見るだけでも勘弁…」

 

Noだった。エルザはその反応に「まあ、無理にとは言わんが…」と意外そうな表情をしていたが、罰せられる側でもないのにナツたち同様顔を引きつらせて汗を噴き出しながら断ったその様子に、ルーシィは逆に戦慄した。悪戯大好きなシエルがドン引きするほどの内容である『アレ』。ますます謎は深まるうえに、自分がその受刑者扱いされている事実。

 

彼女は泣いた。もう体中の水分が抜け落ちるのではないかと思うほど涙が出てきた。恐怖で。

 

「ねえ、あれって…」

「ああ…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の…」

「まだ知らないのね…」

「気の毒に…」

 

各々様々な反応を見せていた妖精の魔導士たちであったが、ふと街の住人達から妙に注目されていることに気付いた。ひそひそと何やら話しているようだが、なぜそうなっているのかは分からない。だが、住人たちに共通しているのは…。

 

「怯えと…憐み…?」

 

「何かやな感じ…」

 

「ギルドの様子も何やら…っ!?」

 

その光景に、正直目を疑った。街の人たちが向けていた怯えと憐み。その理由もすぐさま理解できた。だが、信じがたい…いや、目の前の信じたくない光景が、それが事実であることを物語っていたのだ。

 

 

 

 

「え…?」

「これは…!」

「何、だよ…これ…!」

 

「オレたちのギルドが…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の拠点となる建物に、何本もの巨大な鋼鉄の柱が突き刺さり、半壊状態にされている、その光景が…。

 

「何があったというのだ…」

 

涙を浮かべて怒りに震えるナツ。凄惨な光景に言葉を失うルーシィやハッピー。理解しがたい現実に困惑しているシエルやグレイ。その中で唯一言葉を発したエルザの呟きに答えるように、一人の声が響いた。

 

「『ファントム』…」

 

ギルドの前に立ち竦んでいたシエルたちの後方から、その一言のみを発したミラジェーンの声だった。胸の前で悔し気に拳を握り、目を伏せ、やられてしまったことを彼らに伝えたのだった…。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

魔導士ギルド・『幽鬼の支配者(ファントムロード)』。通称『ファントム』。

フィオーレ王国において妖精の尻尾(フェアリーテイル)と同等の歴史と実力を持つ代表的なギルドの一つ。拮抗したギルド同士でもあり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)とは険悪な仲とも世間で噂されるほど。

 

そのファントムの魔導士が、ギルドの建物を半壊させたことにより、普段1階の酒場と併設されたエリアを利用している魔導士たちは、本来倉庫として使われている地下の空間を仮設酒場として利用していた。

 

ギルドが破壊されたことによって、ファントムに怒りを抱く者や仲の悪さを改めて再確認する者、ファントムを潰そうと意見する過激な者までいる。だが、幽鬼の支配者(ファントムロード)は規模を見れば妖精の尻尾(フェアリーテイル)を上回るとさえ言われているため、無謀な提案だと諫める者もいた。そんな中…。

 

「よっ、おかえり」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフはいつもと変わらぬ態度で酒を嗜んでいた。

 

「ただいま…戻りました…」

 

「じっちゃん!呑気に酒呑んでる場合じゃねえだろ!!」

 

「おーそうじゃった。おまえたち!勝手にS級クエストになんか行きおってからにー!!」

 

地上のギルドの惨状など気にしていないかのようなマカロフの様子にナツが突っかかると、思い出したかのように彼は怒りを現した。だがその怒りは、ギルドが破壊されたことではなく、ナツたちが無断でS級クエストに行ったことに対してであった。確かにそれも問題ではあるが、今起こっている惨状の方が重大だと思われるのに何故そちらを優先するのか、ナツだけでなくルーシィとグレイも困惑している。しかし、それも意に介さずマカロフは続けた。

 

「罰じゃ!今から罰を与える!覚悟せい!!」

 

「それどころじゃねーだろ!!」

 

ナツの叫びも聞く耳持たず、魔法で腕を伸ばして彼の頭にチョップを叩き込む。威力はそれほどないみたいだが十分痛みを感じる。グレイとハッピーにも同様にチョップを叩き込み、最後にルーシィ…には平手で尻を叩いた。当然近くにいたミラジェーンには注意された。

 

「マスター!今がどんな事態か分かっているんですか!?」

 

「ギルドが壊されたんだぞ!!」

 

いとも軽い罰で済んだのだが、エルザとナツはそれで流されない。襲撃を受けてギルドの建物が破壊されたと言うのにまるで気に留めていない。このままで済ませる気かと詰め寄るも、マカロフ本人はどこ吹く風のようだ。

 

「まあまあ落ち着きなさいよ…騒ぐほどの事でもなかろうに…。ファントムだぁ?あんなバカタレ共にはこれが限界じゃ。誰もいねえギルドを狙って何が嬉しいのやら」

 

「誰もいない…?」

 

「襲われたのは夜中らしいの…」

 

「そう言えば、ほとんどのメンバーがいるのに、誰も傷ついてない…」

 

マカロフ、そしてミラジェーンの言葉でシエルも気づいた。普段は1階のエリアに滞在していることが多いメンバーはほとんどいるが、誰も彼も外傷が見当たらない。誰もいなくない夜中を狙って襲撃を受けたようだ。ケガ人がいなかったことは、不幸中の幸いであった。

 

「不意打ちしかできんような奴等に目くじら立てる事はねえ。放っておけ」

 

本当に心からそう思っているのだろう、降りかかる火の粉を軽く払うように手を振りながら告げるマカロフの様子に、未だ困惑が消えない一同。その中で唯一動いたのはやはりナツ。壁に苛立ちをぶつけるかのように拳をぶつけて、壁の一部を破壊する。

 

「納得いかねえよ!オレはあいつら潰さなきゃ気がすまねえ!!」

 

怒り混じりに叫ぶナツであったが、マカロフは依然として態度を変えない。上のギルドが直るまでは仕事の受注を地下のエリアで行うことだけを伝えて、マカロフはトイレの方へと足早向かっていった。

 

それでも食って掛かるナツを怒鳴ると同時に、何故か再びルーシィの尻へと平手を喰らわせたが、本人とミラジェーン以外それを気にする余裕はなかった。

 

「何で平気なんだよ…じっちゃん…!!」

 

「ナツ…悔しいのはマスターも一緒なのよ。だけど、ギルド間での武力抗争は、評議会で禁止されてるの」

 

『ギルド間抗争禁止条約』

それが評議会から提示されている条約の一つだ。本来多数あるギルドは依頼を発する国民たちに対し、魔導士としての力で援助、支援することを目的の一つとしてる。時にはギルド同士で交流を行い、連携して脅威に対抗することもある。その為味方同士でそのようないざこざを起こさないようにする為、この条約によって抗争を起こさないようにしているのだ。

 

だが、それだけで納得がいくわけでもない。

 

「先に手ェ出したのあっちじゃねーか!!」

 

「そういう問題じゃないのよ」

 

抗争が禁止されているにも関わらず、その火種となり得る襲撃を仕掛けてきたのは幽鬼の支配者(ファントムロード)の方からだ。だが、これに対抗して仕返しに攻めてしまっては向こうの思う壺。心中に悔しさを宿しながらも、マカロフは耐えると言う道を選択したのだ。

 

「マスターのお考えがそうであるなら…仕方ないな…」

 

ギルドを纏める立場として選んだことに、これ以上反論するのも無粋というもの。釈然とはしないが、従うことを選んだエルザのやりきれない思いを含んだその声に、一同もそれぞれ俯きながら悔しさをにじませていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「な~んか大変なことになっちゃったな~」

 

その夜、ルーシィは契約している星霊・プルーを呼び出してともに歩きながら帰路についていた。運河を挟む通路の片側、その縁の部分をプルーがフラフラと体を揺らしながら先導し、ルーシィは右手にキャリーバッグを牽きながら付いていく。その際小舟で河を下っている男性から「嬢ちゃん、危ねーぞー」と注意が届いたがルーシィは気にしない。

 

しかし彼女が思い出すのは昼間のこと。波乱のあったガルナ島でのS級クエストから何とか帰ってきたと思ったら、ギルドがファントムによって襲撃されていた。以前から仲が悪いことはルーシィも知っていたのだが、これほどまで大胆に攻めるような行為は初めてのように思えるからだ。

 

「あたし、本当はどっち入ろうか迷ったんだー。だって、妖精の尻尾(こっち)と同じくらいぶっとんでるらしいし」

 

前方を歩くプルーに、ルーシィは振り返るかのように話しかける。噂で聞いた限りではあるが、ファントムはファントムで世間を騒がせる魔導士が揃っているのだという。そんな話をしながら歩を進め、彼女は今過ごしている家――正確には集合住宅の一室――へと辿り着いた。

 

「でも…今はこっち入ってよかったと思ってる。だって…妖精の尻尾(フェアリーテイル)は…」

 

 

「おかえり」

「おかー」

「いい部屋だな」

「よォ…」

 

「サイコーーー!!?」

 

ルーシィが自分の部屋に入った瞬間目に入ったのは、グレイ、ハッピー、エルザ、そしてナツ。何故か部屋の中央でテーブルを囲んで大いにくつろいでいた。勝手に部屋に上がられていることは実はちょくちょくあったのだが、今回は桁違いの人口密度だ。彼女は「多いってのー!!」と思わず持っていたキャリーバッグを唯一不貞腐れた表情のナツの顔面に投げつけた。

 

「ファントムの件だが、奴らがこの街まで来たという事は我々の住所も調べられてるかもしれないんだ」

 

「え!?」

 

エルザが告げた言葉にルーシィは戦慄した。今回は誰もいない夜中に、無人のギルドを襲撃された。だからと言って個々人には被害が及ぶことはない、とも言いきれない。そこで、ミラジェーンからの提案により、一人一人での行動をするよりも複数人が固まっていた方が安全。その為、メンバー間でお泊り会が行われることとなった。そしてエルザたちはルーシィの住むこの部屋に泊まるために来たらしい。

 

「おまえも年頃の娘だしな…。ナツとグレイだけここに泊まらせるのは私としても気がひける。だから同席する事にした、という訳だ」

 

「気晴らしにな!!」

 

「ナツとグレイは泊まるの確定なんだ…。つか、なんであたしん家…?」

 

エルザが同席するとはいえ、同年代の男が二人も女性の部屋に寝泊まりするというのは如何なものか、というより何故自分の部屋に泊まりに来るのか、げんなりとするルーシィではあるが、指摘しても変わらないと半ば諦めていた。

 

その時だ。入口の扉からノックの音が響いてきた。こんな時間に来客であろうか?とルーシィが反応した。

 

「あれ?誰か来たみたい…」

 

「気ィ付けろよ。ファントムかもしれねえしな」

 

グレイの注意に若干恐怖がぶり返したルーシィ。だが本当に普通の来客だった場合はこのまま扉を開けないのも失礼にあたる。意を決して恐る恐るドアノブに手をかけて扉を開いた。

 

「ど、どちら様で…って…!?」

 

「ヤッホー、ルーシィ。今日はありがとね、エルザから聞いたよ?ルーシィん家に泊まらせてくれるんだってね~。これ、お裾分けに…ってどったの?」

 

訪ね人はシエルだった。自分の家から持ってきたであろう肉や野菜の入った袋を持参し、迎え出てきたルーシィに笑顔を向けている…が、その表情はすぐに疑問のものに変わった。

 

シエルの言葉、「ルーシィが家に泊まっていいという許可が出たと聞いた」と言うこの言葉を耳にした瞬間、本人の知らぬところで何故決まっているのか、そして何故本当に泊まりに来たのか、言い知れぬ感情がルーシィの心を支配し、右手で扉の淵を掴みながらズルズルと身を落として項垂れた。無断で入ってくるナツたちと比べると一番真っ当な対応ではあるが、何だろう…この、言い知れぬ虚無にも似た感情は…。

 

「ううん…もう、なんでもいいわ…」

 

やけに消耗しきっている表情で呟いたその言葉にシエルは疑問符を浮かべる外なかった。すると奥の方にいたエルザがシエルの来訪に気付き、出入口に近づいてきた。

 

「ようやく来たかシエル。随分時間がかかったな」

 

「折角のお泊り会だしね。泊まらせてもらう以上何かしらの形は示そうかなって。台所借りさせてもらって晩飯でも作ろうかと」

 

そのための食材袋だったわけかと、ルーシィは心の中で呟いた。普段は悪戯好きの癖して妙なところで真面目な部分がある。

 

「おお!マジか!?シエルの作る飯って結構うめぇんだよなぁ!プルーからもらったこれ食って待ってっから急いでくれ!」

「プーン」

「オレはもう寝っからよォ、騒ぐなよ。あ、シエル、オレの分は朝食うからとっといてくれ」

 

「勝手すぎる…!てかプルーも何してんの…!?」

 

シエルが作った料理が食べられると聞いたナツが急に元気になって騒ぎ立てる。プルーが保管していたであろうペロペロキャンディーを一緒になって頬張りながら。そしてグレイはルーシィが普段使っているベッドに半裸の状態で横になる。それぞれの言葉に、項垂れていたルーシィは顔を上げてその様子に辟易した。

 

「二人とも見て~、エロい下着見つけた~」

 

「えっ!?お、俺女の人の下着初めて見るけど、皆こうなの…!?」

 

「ご、誤解だ!少なくとも私は着けていないぞ、こんなにも大胆なのは!!」

 

「清々しいほど人ん家エンジョイしてるわね…。あと覚えときなさいよ、そこのネコ…!!」

 

一方で洗濯物を漁っていたハッピーが、ルーシィが使っていると思われる下着の一つをシエルとエルザに見せびらかした。詳細は本人の意を汲んで記さないが、年頃の少年であるシエルだけでなく、年上で同性のエルザでさえ目にした瞬間目を見開いて顔を真っ赤に染めるほどのものであったとだけ明かしておこう。シエルの場合は女性の下着を目にする機会などほぼ皆無だったが故の反応とも言えるが…。

 

「それにしてもお前たち…汗くさいな…同じ部屋で寝るんだ。風呂くらい入れ」

 

先程までルーシィの下着に思わず釘付けになってしまっていたエルザが、ナツとグレイの匂いに気付き、注意を促す。だがナツはめんどくさい、グレイは眠いという理由で入ろうとはしない。そんな二人にエルザは怒るわけでもなく、とんでもない提案をあげてきた。

 

「仕方ないな…昔みたいに一緒に入ってやってもいいが…」

 

両手で二人の肩に手を回しながら一切恥じる様子もなく出された提案。言われた二人だけでなく、ルーシィとシエルも顔が赤くなり汗がふき出す。と言うか…。

 

「あんたらどんな関係よ!?」

 

「つーか昔って何年前ぇ!?」

 

少なくと一年二年のような短い間が開いているわけではないだろう。お互いが子供の時ならいざ知らず、十分に成熟した今風呂に入る事の意味が色々と変わってくることを、エルザは気にしていないのだろうか…?

 

 

ちなみにこの後、ちゃんと一人ずつ順番に風呂に入った。シエルだけは訪れる前に風呂は済ませたそうなので入ったのは5人(4人+1匹)なのだが。そしてその間にシエルが料理を作り上げ、3番目のナツとハッピーが上がった時には後片付けも済ませたシエル含めて晩御飯を囲んでいた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ねえ、例のファントムって何で急に襲ってきたのかなぁ?」

 

全員が風呂と晩御飯を済ませて一段落ついた時、ルーシィが徐に尋ねてきた。女子二人はパジャマに着替えているが、男子三人は来た時と格好は変わっていない。(ちなみにエルザのパジャマは換装魔法で着替えた)

 

「さあな…今まで小競り合いはよくあったが、こんな直接的な攻撃は初めての事だ」

 

「じっちゃんも、ビビってねえでガツンとやっちまえばいいんだ」

 

「じーさんはビビってる訳じゃねえだろう。あれでも一応『聖十大(せいてんだい)()(どう)』の一人だぞ」

 

聖十大(せいてんだい)()(どう)』―――。

魔法評議会の議長が定めた、大陸で最も優れた魔導士10人につけられた称号であり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフも、その一人として名を連ねている。

 

ちなみに、幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスターであるジョゼも、聖十大(せいてんだい)()(どう)の一人だ。

 

「そう言えば、聖十(せいてん)の称号を持つ上に、評議員の一人として選ばれている魔導士がいるって話も聞いたことあるよ。しかも聖十(せいてん)としては最年少で、この場にいる俺やハッピー以外の皆と歳も変わらないとか」

 

「そんな人もいるの!?うわ…スゴ…」

 

シエルが知り得るもう一人の聖十大(せいてんだい)()(どう)の話にルーシィが驚愕と同時に感心するよそで、エルザが表情に影を落としていたことには誰も気づかなかった。

 

「て言うか何勝手に持って読んでんのよ!」

 

「あ、待って!まだ読み切れてないんだよ!!この後イリスはどうなるの!?」

 

「ダメ!読者第一号はレビィちゃんって決まってるんだから!!」

 

ナチュナルに説明をしていたシエルだったが、手に持っていたルーシィが書いたであろう自作小説の原稿の束を手にしていることに気付いた本人が彼の手から取り上げた。何気に読書が好きなシエルは、続きが気になるのかルーシィが没収した原稿に手を伸ばす。だがルーシィはギルド内でも屈指の読書好き兼大親友となったレビィを優先して、渡そうとはしなかった。

 

「ビビってんだよ!ファントムの奴等、数だけは多いしさ!!」

 

「だから違ーよ、落ち着け。マスターもミラちゃんも、二つのギルドが争えばどうなるか分かってるから戦いを避けてるんだ。魔法界全体の秩序のためにな」

 

「そんなにすごいの?ファントムって」

 

依然としてファントムと、何の反撃もしないマカロフへの怒りを露わにしているナツだが、それをグレイが諫める。ルーシィからの問いに「大したことない」とナツは反論するが、事実問題ぶつかり合えば双方被害は甚大となると予測される。

 

マスター・マカロフと互角の魔力を持つと言われている聖十大(せいてんだい)()(どう)、マスター・ジョゼ。

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)におけるS級魔導士にあたる4人の魔導士、『エレメント(フォー)』。

 

そして一番厄介とされているのが…。

 

「今回のギルド強襲の犯人だと思われる男、『鉄竜(くろがね)のガジル』。

 

 

 

 

―――鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だ」

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!?」

 

恐らく今日一番でルーシィが驚いた事実であっただろう。今この場にいる火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツとほぼ同じ魔法。ナツ以外にも存在していたこと自体が衝撃的な事実であるが、更に驚くのはその属性。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は自分の扱う属性のものを食べることができる特徴を持つ。ナツなら火を食べることができるのだが…。

 

「そいつ…鉄とか食べちゃうわけ…?」

 

「食べるだろうね…ガジガジと…」

 

「『ガジル』だけに…うぷぷ…」

 

シエルとハッピーのダジャレにも似た一言に、ルーシィの恐怖心が悪い意味で薄れてしまったのは想像に難くない…。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

事態が大きく動いたのは、翌朝の事だった…。

街の住人からの通報を受け、マグノリアの南口公園へと一足先に辿り着いたのは、昨日ルーシィの家にて一泊を過ごしたメンバーたち。辿り着いた時には、公園で一番大きな木の前に集まる住人たちがおり、その人混みを掻い潜って全員がそこに近づく。

 

そして、木の前へと辿り着いた全員が、信じがたい光景を目の当たりにした。

 

 

 

「レビィちゃん…!!!」

 

悲痛な声を上げたのはルーシィ。彼女の親友であるレビィをはじめとした、チーム・『シャドウギア』のメンバーたち――逆立った茶髪に細身の『ジェット』と、丸刈り頭に一部だけ植物のように飛び出した髪の『ドロイ』。以上の三人が体中がボロボロのまま、両腕をそれぞれ鉄で出来た拘束具によって磔の状態にされている。

 

あまりにも非道な仕打ちを受けている光景に涙を流すルーシィは勿論、誰もが驚愕、悲痛、そして怒りに体を震わせている。そして三人をこんな目に遭わせた犯人は、レビィの腹部に黒で描かれた紋章が物語っていた。

 

「ファントム…!!!」

 

その紋章は幽鬼の支配者(ファントムロード)。そしてギルドを破壊した鋼鉄の柱と同じ素材と思われる拘束具。

 

間違いなく、鉄竜(くろがね)のガジル。見るに明らかな宣戦布告だ。

 

身体を震わせる妖精たちの後方から、一つの足音が聞こえてきた。普段身に着けていた奇術師の格好とは打って変わり、背中に「十」を象った聖十大(せいてんだい)()(どう)の紋章が刷られた純白の外套を身に纏い、木の杖を右手に持ちながら、迷いのない足取りでゆっくりと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフが歩いてきた。その表情を住人たちは確実に目視したわけではないが、彼の発する威圧に似た雰囲気に次々と道を開けていく。

 

「マスター…」

 

彼を呼ぶエルザは振り向かない。ナツも、グレイも、シエルも、誰一人目の前にいる傷ついた仲間(家族)から目を逸らさない。そして傍に来たマスター()たるマカロフもまた、目を背けようとはしなかった。

 

「力でしか解決できない者は、その力にいずれ溺れていく…。だが、他者のために、大切な者の為に振るう力は、決して悪とも言い切れない…」

 

目を逸らさず、拳を握り締め、身体を震わせながらも、シエルはマカロフに、かつて聞いた言葉を呟き、「そうだよね…?」と震えた声で尋ねた。その問いかけに一つ、言葉もなく首肯し、マカロフは一つの決心をつけた。

 

「ボロ酒場までならガマンできたんじゃがな…ガキの血を見て黙ってる親はいねえんだよ…!!」

 

怒りに震えたマカロフが持っていた木製の杖は、強く握りしめられた手によって二つに折られる。そして体から発せられるは一つのギルドのマスターとして、そして最強の魔導士たち・聖十大(せいてんだい)()(どう)として恥じない、膨大な魔力。

 

この選択が善か悪か、正しきか誤りか、どちらであろうとなかろうと、ただ一つだけ言えることがある。

 

 

 

たとえ世間が何を言おうと、この選択を後悔はしない。

 

 

「戦争じゃ…!!!」

 




おまけ風次回予告


ハッピー「シエルの料理ってどれも美味しいけど、魚の料理だけ全然作ってくれないんだよね…」

シエル「俺も自分が不思議だよ…。魚に限らず、貝とか海老とかも口に入れるだけで、何かこう、『それは食いもんじゃねえ!』って訴えられてる感覚が…」

ハッピー「魚は食べ物だし、とっても美味しいものなんだよ?特にオイラが好きなのは生の状態で食べる魚!」

シエル「生でいいなら俺が作る必要もなくない…?」

ハッピー「でもミラが作ってくれる魚の料理も凄く美味しいんだよ?」

次回『妖精対幽鬼 開幕』

シエル「ああ、ミラが作る料理はホントに美味いよね。俺も習ったことあるし」

ハッピー「じゃあ今度期間限定の妖精の尻尾(フェアリーテイル)特製『月見塩魚』を、ミラから教えてもらって作ってよ!」

シエル「それは本当に俺が作る必要性があるのか!?」
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