FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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三日もかけてようやく一話書き上げたくせに、自分の中であまり納得のできていない出来に……!集中力が足りないよ←

出来ればお盆中に二話ぐらいは書きたいと考えていたんですが、この分だとちょっと難しそう……。水曜日になっても更新が無かったら、間に合わなかったんだな、と思っていただけると……。


第6.5章 願わくば彼の者に希望を
第103話 二つの世界のその後


いつもの日常、いつもの風景、そしていつもの雰囲気。マグノリアに存在するギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、つい数時間前まで街ごと消滅していたことなど微塵も感じさせずにいつも通りの風景を作り出している。

 

だが正面の入り口となる開かれていた門扉を潜った一人の影に、近くにいたメンバーが目を向けると衝撃を受けた様に顔と体を硬直させる。それは瞬く間に伝播していき、ほとんどの者たちが……特に二年以上前からこのギルドに所属している者たちは、たった今ギルドに入ってきた一人の少女の姿を見て各々が驚愕と動揺を表に出している。

 

白銀のショートヘアと青い瞳を持ったその少女、リサーナ。傍らで笑顔を浮かべながら彼女の姿を見守るミラジェーンとエルフマンの妹。二年前に事故に遭い、命を失ったと聞いていた少女が、空白の二年を経てギルドに帰還を果たした。

 

「マ、マジかよ……!?」

「おめえ……生きてたんか……!?」

 

幽霊を見たかのような反応だが、彼女が紛れもない生者である事は、後方に控えて笑みを浮かべる一部のメンバーが証明している。そして問われた彼女自身も、二年ぶりに見えた本当の仲間たちの姿を目にしたことで、喜びを隠すこともなく一つ頷く。

 

本当に帰ってこれたんだ。ナツやペルセウスたち、姉のミラジェーンや兄のエルフマン、実感できた瞬間は幾度もあったが、新築されたギルドにいたほとんど変わらない者たちの姿を見て、心の底から安堵を覚えた。

 

 

 

「ひっ!?」

『リサーナァーー!!』

 

そして次にリサーナは目を見開くほど驚いた。と同時に軽く怯えた。彼女の帰還を実感して喜んだ面々(全員男)が涙を流しながら大きく腕を広げて彼女へと迫ってくる光景を垣間見て。

 

「汚ねぇ手で触んなぁ!!」

 

そして妹に迫ってきていた魔の手(野郎ども)を、右腕を鉄のものに接収(テイクオーバー)で変化させたエルフマンが文字通り鉄拳制裁。被害者たちは棒人間のような簡素な表現でいとも簡単に吹き飛ばされていく。自業自得だが扱いが雑だ。

 

「あれぇ?何かちょっと前にも見た気がするゾ?」

「あれだ。オレたちと同じリアクション……」

「デスネ!」

「あらあら」

 

数日前に似たようなものを見た気がするシエルたち、それからミラジェーンが、既視感を感じてそれぞれ苦笑を浮かべる。シエルとハッピーの口調が、どこかで聞いたことのある者たちと被ってるような?

 

それにしても、マグノリアの街のみならず、ギルドも伝え聞いていた通りに元通りだ。リサーナが入るまで違和感に困惑する様子も見られなかったのを考えると、アニマに吸い込まれていた事にも気付いていないことも事実のようだ。一安心と言える。

 

「イカレてるぜ」

 

「これが……魔導士ギルド……」

 

いつも通りにハチャメチャなギルドの様子を見て呆れた様子のガジルと、初めて別世界の魔導士ギルドの空気を垣間見たパンサーリリーのみ、安心感とは違う感情を抱いていた。

 

「リサーナ」

 

「マスター!」

 

リサーナになおも喜びのあまりに近づこうとする男たちや、それを威嚇するエルフマンに困惑しながらも可笑しそうに笑っていた彼女の元に、静かに歩み寄ってきた小柄な老人の声を聞き、リサーナもまた二年ぶりに会った親同然のマスターに顔を向ける。

 

「信じておった!」

 

そんなマスター・マカロフが彼女に向けて告げた言葉に、驚愕を隠せなかった。その影響で見開かれた目に老人の優しげな表情を映しながら、マカロフの続く言葉を彼女は耳に入れる。

 

「ギルドで育った者は皆ギルドの子じゃ。子の心配をしない親がどこにいる。そして子を信じない親がどこにいる。事情は後でゆっくり話してくれればよい。ナツたちもな」

 

マカロフは、リサーナが生きている可能性を信じていた。当時のミラジェーンから聞いていた「空に吸い込まれるように消えていった」と言う言葉から、異界で何が起きようともきっと無事だと、いつかは帰ってくることを、ずっと信じていたようだ。

 

その事に気付いたペルセウスはそんな彼の姿勢に驚嘆する。自分は諦めていた。ミストガンからの話を聞いた瞬間に、彼女が生きていると信じるより先に、彼女が死ぬきっかけとなったのはエドラスだと決めつけ、彼女の生存を諦めてしまっていた。対して親であるマカロフは何も聞かされていないにも関わらずリサーナの事を信じていたのだ。

 

「(敵わないな……本当に……)」

 

家族を救ってくれた大恩人の一人。少しぐらいはその恩を返せたかと思う事があったが、まだまだ道のりが遠いこと、己の浅慮を味わうのみに終わった。

 

「とにかく、よう帰ってきた!」

 

いつまた戻ってこれるかもわからず、孤独だったであろうリサーナに、歯を剥けた笑顔を浮かべながらマカロフは彼女を迎え入れる。ずっと過ごしてきた場所、ずっと家族と共にあった場所、帰るべき場所へととうとう変えることが出来たのを、リサーナは改めて実感して、目元に涙が浮かび始める。

 

「マスター……帰って来たんだよね……?私、帰って来たんだよね……?」

 

「そうじゃよ。ここはいつでもお前の家じゃ。おかえり、リサーナ」

 

『おかえりー!!リサーナ!!!』

 

優しい声を顔で告げたマカロフに続くように、ギルドの面々も大声でリサーナを迎える。喜んでくれている。マスターも、みんなも、後ろにいる家族や仲間たちも。思わぬ別れを経て、ようやく戻ってくることが出来た彼女は目から溢れる涙と、心の奥底から湧き上がる嬉しさを抑えることが出来なかった。そして……。

 

「ただいまー!!」

「グモッ!?」

 

溢れ出た感情を抑えられず、マスターに飛びつき、その影響で近くにあった細い柱にマカロフが後頭部から激突。勢いがありすぎたのか柱の形が歪んでしまい、さしものマカロフもぶつけた箇所にたんこぶが作られた。

 

「ヒィー!マスターがー!!」

 

「リサーナ、どうどう……!」

 

感動的な場面が下手すれば台無しになるアクシデントにルーシィが絶叫し、シエルが感極まってる義姉(まだ予定ですらないが……)を落ち着かせようと声をかけるが、全く耳に入っていないのか泣きながらマカロフに頬ずりしている。だが思わぬダメージを受けながらも、マスターマカロフは一切咎めず、むしろ優しげに受け止める。

 

「す、好きなだけ泣け……!宴の前にな……!」

 

涙を流して喜びを表しているリサーナに向けられている視線は、どれも優しいものだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ギルドのメンバーが宴の準備をしている合間に、マカロフたちにエドラスの存在やミストガンの事など、事の経緯をシエルたちは知る限り伝えた。その間に準備は出来上がり、「おかえり、リサーナ」と書かれた横断幕が壁に貼られてどんちゃん騒ぎが始まった。

 

リサーナがエドラスにいた二年間でギルドの内装や姉の性格などの変化があるが、基本的に二年前まで過ごしたギルドの様子とほとんど変わりがないことに安心感を感じている。特に年中何かにつけて宴で騒いだりするところとか。

 

だが、リサーナだけでなくエドラスから戻ってきたメンバーたちも知らなかった変化を遂げている者たちがいた。例えばエバーグリーン。髪型がウェーブのかかったロングヘアーにイメチェンされている。態度自体は以前と特に変わっていないのだが。

 

更にもう一人はジュビアだ。彼女もまた髪型をイメチェンして、ギルド加入前の外側に毛先を巻いた長い髪に、服装も暗い色のダウンコート。どこか雰囲気も以前の暗い性格が蘇った上に、彼女の周囲だけ雨が降ってるように見える。エバーグリーンはともかくジュビアには何があった?

 

「ジュビア、どうしちゃったんだ……?」

 

「元気ないみたいだね……」

 

以前の暗い雰囲気から明るくイメチェンして以降、ギルドメンバーとも打ち解けてきていたジュビアが突如以前の様相に戻したこと、その上気分が落ち込んでいるように見えることにシエルもウェンディも心配そうに目を向けている。特にシエルは彼女からグレイに関する相談を受けて、答えていたから尚更だ。

 

ジュビアにあからさまな変化、もとい影響を与えられる事柄と言えば……一人の人物しかいない。彼女が誰よりも熱をもって接するその青年の姿を探して辺りを見渡してみれば、いつものように酒を堪能しているカナが座るテーブルに腰掛け、どこかニヤつきながら声をかけているグレイの姿が見えた。

 

「オメー向こうじゃ……ぷっ!!ダメだ!思い出すだけで……!!」

 

「ハッキリ言ってよ!酒がまずくなるじゃない!!」

 

エドラスのカナはこちらと違い、酒類を一切とらず、その上恰好も性格もお嬢様そのものだった。それを思い出し、アースランド(こちら)とのあまりの違いに笑いをこらえきれない様子だ。だがグレイもエドグレイの事をカナに知られたら思いっきりいじられそうだから五十歩百歩だろう。滅茶苦茶厚着してたりとか、ジュビアに惚れてアプローチしてたりとか。

 

「ジュビア……エドラスに行きたい……!」

 

「そーゆーことか……」

 

そんな様子を柱の陰から、そしてその柱にひびが走るほど手を食いこませながら無表情で見て呟いた一言。成程、ハッピー辺りからエドグレイの事を聞いたようだ。エドジュビアの髪型が以前のジュビアと同じものだったことも原因の一つだろう。一言だけで原因を何となく悟ったルーシィが納得を示していた。

 

ちなみに誰かから同様に、エドラスでの自分たちの様子を知ったビスカとアルザックの両片想いスナイパーコンビも、両者沸騰しそうなくらい顔を赤くしながら自分たちもエドラスに行きたいと小声で呟いていた。二人に吹聴したのは誰かって?小首を傾げているウェンディの後ろで口元に拳を近づけてくつくつと笑っている悪戯妖精(パック)ですが?

 

「やっぱギルドは最高だぜーーーっ!!」

「あいさーーっ!!」

 

そしてその中でも一番テンションを上げて暴れ回っているのはやはりこの男。リサーナが帰ってきたことも相まって、いつも以上にはっちゃけている火竜(サラマンダー)がギルド内を駆けまわって騒いではテーブルも人も突き飛ばしていく。それを見たメンバーたちはエドラスでもナツはこんななのか?と言う疑問を口に出しているが、エドナツの事をよく知っているリサーナがそれを聞いて答えた。

 

「あはは!それがね……『ボ、ボク……ルーシィさんにいじめられてぇ……!』みたいな?」

「っ!?」

 

「何それウケるー!!」

「見てえ!そのナツ超見てえ!!」

 

「可愛いのよー♡」

 

乗り物に乗っているとき以外はオドオドとして、ビビりまくっているエドナツのワンシーンを物真似で表現しながら面白可笑しく説明するリサーナ。勿論周りのメンバーはどこか情けないナツの姿を想像して大爆笑。暴れ回っていたナツがそれに気付いて「オレは見せもんじゃねぇーっ!!」とリサーナに怒鳴っているが、本人は一切ビビらない。寧ろ更に笑みを深めてる。

 

「向こうのマスターって、ペルがやってんのか!?」

 

「大丈夫かよ?強さはあっけど、マスターやっていけるような感じか?」

 

別の場所ではエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターをペルセウスが務めていることに対する驚きの声があちこちから上がる。魔導士としての強さは一級品だが、魔導士たちを束ねる統率、もといギルドの経営に関してはペルセウスに不安の要素が多すぎる。

 

「それがよ、あっちのペルはなんつーか、頭の方が優れてそうで、体が弱そうだった。血も吐いてたし」

 

「血を吐いたって……」

 

だがその事を聞いたグレイが代わりに答えを口に出す。身体を思うように動かせない病弱な彼の事を思い出しながら。病弱が過ぎて口から血を吐き出した光景を目にした時は物凄く衝撃を受けていたことを覚えてる。

 

他にもルーシィがナツやグレイをよくシバいてた事や、シエルやウェンディが向こうだと色々と成長した姿った事とかを話題にあげている。自分自身はどんなだったのか、と聞く者たちも多い。

 

「さ……騒がしいギルドだな……」

 

「第一印象はみんな同じなのね」

 

「楽しいトコだよ」

 

これほどまでにどんちゃん騒ぎを起こすところは、魔導士ギルドや王国、エクスタリアの中でも存在していなかった故、初めてその光景を目にした黒ネコのリリーは唖然として思わず口に出していた。そして同時に思う。ここにいる、騒ぎまくっている者たち全員が、体内に魔力を持っているのだと。

 

「そうだ。それがアースランドの魔導士」

 

「エルザ」

 

生唾を飲み込んで呟いていた言葉を拾い、声をかけながら近づいて来た緋色の長い髪を持つ女騎士、エルザに気付いたリリーがその名を呼ぶ。そう言えばリリーは、同じ魔戦部隊の隊長として、正しくは別人だがエルザと肩を並べることもあった、謂わばエルザと言えば同僚。そのエルザと異世界でも同じ立場に身を置くのは偶然にしては出来過ぎている。

 

「しかし大切なのは、魔法そのものではない。魔法を持つ者の心……そうだろ、リリー?」

 

「ふっ、別人とは言え、()()()()知ってる顔がいると落ち着くモンだな」

 

笑みを浮かべながら言葉をかけるエルザを見て、かつての同僚と同じ顔をした人物が近くにいることで肩身の狭い思いをせずに済んでいるようだ。ところで、王国側にはエルザだけでなくもう一人いたはずだが……。

 

「王国には確か俺もいたはずだよね?スパイだけど……」

 

「正直、お前が本当にシエルなのかどうかさえ未だに疑わしい……」

 

「そこまで!?」

 

そのもう一人であるシエルは、年齢の差がある事が原因か、あらゆる意味で同僚とは異なる子供が本当にシエルであるかもまだ信じ切れていない。きっと成長したら瓜二つになるはず……だが、何年かかる事やら。

 

「コラァ!火竜(サラマンダー)!小娘ぇ!オレのリリーと青ネコ、白ネコ!勝負させろやァ!!」

 

「ア?」

 

「はっはっは!そりゃいいや!!」

 

すると直後、ガジルが突然他のメンバーを押しのけながらナツのところに進んできて、闘争心を剥き出しにしながらそう叫んできた。ギルダーツに勝負を仕掛けて瞬殺されていたナツはそれを聞いて顔を歪めながら振り向き、近くにいたギルダーツは面白そうに笑い声をあげる。

 

「あ~……妙な奴に目ぇ付けられちゃったね……」

 

「あう……」

 

ようやく自分にもできたエクシードの相棒。その剣でテンションがおかしなことになってるのだろう。優劣を付けたがる癖があるガジルにエクシード関連で目を付けられたウェンディに、シエルが励ますような目を向けながら声をかけ、本人も所在なさげにしている。

 

「望むところだぁ!!」

「望まないでよ……」

 

一方ガジル同様のバトルジャンキーであるナツは、闘う対象が相棒なのにも関わらずやる気満々で承諾。巻き込まれたハッピーがげんなりしながら止めようとするが、そんな気配は発生しない。

 

「言っておくが、オレのリリーは最強と書いて最強だぜ?」

「ハッピーは、ネコと書いてネコだぞコノヤロウ!!」

 

「あのさ……オイラ一瞬で負けちゃうよ……?」

 

会話内容がバカすぎるが、それを指摘できる余裕もハッピーにはない。リリーの実力はハッピーもよく知っている為、確実に勝てる気がしないと考えている部分も理由の一つだ。

 

「だらしないわね。やる前から諦めてどうすんの?」

 

「はっ!オイラ、期待されてる……!?」

 

だが引け腰になってるハッピーの様子に、シャルルが呆れながらも笑みを浮かべて発破をかける。徐々にやる気が出始めてきた。これはいいところを見せるチャンスでは……!?

 

「よせ。こう見えても向こうでは師団長を任されていた。無駄なケンカはケガをするだけだ」

 

「意外と大人なんだな」

 

「奴等が幼稚なのでは?」

 

だが対するリリーは盛り上がるガジルたちとは違って、冷静にハッピーを引き止める。体は小さくなりはしたが、エドラスにおいてガジルとタイマンで戦えるほどの力を持つリリーと、ほとんど戦える力を持たないハッピーがぶつかったところで勝敗は目に見えてる。対応の大人っぽさに感心するエルザだったが、相棒含めた人間勢の脳内に問題があると感じたリリーは思わず零した。否定できない。

 

「ま、仲良くやろうぜ。ハッピー、シャルル」

 

「リリー!」

「フン」

 

どうやらエクシード同士の仲に関しては問題なさそうだ。人間に換算すれば割と年上で、大人の立ち位置に入るリリーは、差別するわけではないが同族に積極的に交友を深める姿勢がみられる。前までは壁を作っていたシャルルも、今回の一件で柔らかくなっているから、打ち解けるのにも時間はかからないだろう。ウェンディは心から安心した。二重の意味で。

 

「で……何で本人たちがケンカしてんのよ……」

 

気付けば睨み合って互いの相棒を推していたナツとガジルの二人がケンカをおっぱじめ、いつの間にかグレイやエルフマンを始めとしたギルドの面々数人が混ざって大乱闘。リリーが言っていた「幼稚なのでは?」と言う言葉を律義にも体現させている。

 

「激しくぶつかり合う肉体と肉体!!ジュビアも!!」

「脱ぐな!!」

 

「カナ、誰が最後まで残ると思う?俺、ナツかグレイだと思う」

「う~ん、大穴でガジルとかじゃないかね~?」

「賭けるな!!」

 

「たまには便乗して暴れるのも悪くない」

「ヒャッハー!そう来なくっちゃ!!」

「オレも混ぜろ!ナツ!!」

 

「うわぁ~、皆さん、落ち着いてぇ~!」

 

「やっぱりこうなるのよね……」

 

他にも色々混ざろうとする者や賭ける者まで現れて、ギルド内はまさにカオス状態。ワタワタし始めるウェンディと呆れて苦笑いを浮かべるルーシィくらいしか常識人枠が残っていない。もう滅茶苦茶だ。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)はこうでなくっちゃね!」

 

そこにリサーナが近づき、ルーシィたちに笑いかけながら告げる。確かにケンカはよくするが、こういう退屈するようなことがない楽しそうなところは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の特徴の一つと言える。楽しそうに微笑みかけるリサーナに、ルーシィもまた同意するように笑みを返した。

 

「(色々違う部分が多いのに、やっぱりどこか似てる気がするな、あの二人)」

 

ケンカで盛り上がる者たちや、それを外野から見て呆れてる者たちも、少し離れた場所で眺めていたペルセウス。リサーナとルーシィが並んでいるところを見て、ギルドのメンバーが二人がどこか似ていると話していたことを思い出し、実感している。

 

そして同時に思う。リサーナが本当に帰ってきて、この場にちゃんといることを。二年前に諦めていた光景を再び見ることが出来る事を、喜ばしく思う。

 

「……」

 

だが、心中とは裏腹に、彼の表情はどこか優れない。浮かない顔をしたまま、彼女たちから目を逸らして、思い詰めたように目を細めていた。

 

「ところでナツ、向こうのワシはどんなんじゃった?反対の感じじゃろ?気になるの~」

 

「エドラスのじっちゃん?ギルドのマスターはペルだったしな~」

 

口を引っ張られている最中だったナブを投げ捨てるように放りながら、マカロフに尋ねられた問いかけに反応する。言われて見れば、妖精の尻尾(フェアリーテイル)ではマカロフではなくペルセウスがマスターだった。エドラスにおけるマカロフを見かけた記憶がない。

 

「ん、待てよ……?あの感じ……」

 

エドラスのマカロフとは会わなかった。そう答えようとしたナツの脳裏に、フラッシュバックする感覚である人物に関する記憶が蘇った。人々の心に響くように語り掛ける演説。声。城内に遊園地を作らせる遊び心。

 

そして何より、アニマに吸い込まれて帰る直前、ナツはその人物に声をかけられていた。

 

 

 

『結束力……勇気……信念……私は大切な事を忘れていたようだ……』

 

見る影もない程崩れて瓦礫の山となった建物の一つに座りながら、当時の数十分前までの狂気や渇望が一切抜け落ちた、魂が洗われたかのように穏やかで力ない表情を浮かべ、ナツに声をかけてきた元国王と言う立場となったファウスト。国を統べる立場から落ちた一人の老人は、魔力に憑りつかれるあまり、ナツたちが抱いていたそれらを忘れてしまっていたと呟く。

 

『ギルドは、楽しいか……?』

 

そして問いかけたその言葉。しばらくキョトンとなっていたナツは、ただ問われたその言葉に、力強く笑みを浮かべながら頷いて答えた。そしてそのまま空へと戻って行った。あの時はまだ、気付きもしなかったのだが、思い返してみればその問いは目の前にいる親代わりの老人の言葉と姿が重なった。

 

「おおっ!そっか!!」

 

「な、何じゃ?」

 

「もしかしたら、王様やってっかもな!!」

 

真実は分からないが、あれほどまでの既視感は偶然とも思えない。もしかしたら、そんな可能性も考えながらナツはマカロフにそう教えた。ギルダーツと顔を見合わせて言葉の真意を汲み取れずに首を傾げたが、深く気にすることなく、今度はギルダーツが尋ねた。

 

だが、ギルダーツに関してはマカロフ以上に存在があったかどうかも怪しい。魔法が使えないときに追い回してきた巨大な魚とかカエルじゃないか、などと言ってみれば、少なからずショックを受けた様子だった。

 

その後はケンカから一時的に離脱していたナツに怒鳴りながら他の面々を吹き飛ばしていくグレイやガジル、エルフマンが呼び戻そうとしたり、語るだけ語って未だに混ざっていないフリードが何かをまた語ろうとしてナツに殴り飛ばされたり。結局はいつもの通りにいつもの調子であるガキ共の行動に、呆れながらも微笑ましい表情を浮かべてマカロフたちは眺めていた。

 

「のう、ギルダーツ」

 

「ん?」

 

「ミストガンの事は残念じゃったが……エドラスとやらで元気にしてる事を願おう」

 

故郷をこれから導くため。ミストガンは、大きな大役を請け負いギルドに告げる間もなく旅立った。もう行くことが出来ないであろう異世界を統べる。だが立派にならずとも、いくら躓いても、親として願う事は一つだけ。ただ、元気でいてくれること。俯きながらそう告げたマカロフに、不敵に笑いながらギルダーツは返した。

 

「元気さ。このギルドで育ったんだ……元気に決まってる」

 

例えどこから来たとしても、どんな目的で来たとしても、ミストガンは確かに妖精の尻尾(フェアリーテイル)の家族だった。その事実だけは、決して今後も変わる事の無いもの。そこで育った彼ならば、これから先、元気でない訳がない。年長者二人は、そう確信めいた想いを、確かに持った。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方。堕天使の蹂躙によって半壊に近い状態となってしまったエドラスの王都。ここでは、凶悪な魔法を使用した堕天使とその僕たちが破壊した街の大部分を、住民たちが一丸となって復興しようと励んでいた。

 

「ちょっと待て!確かにギルドを引っ越しさせる手段を考えろって言ったけどな……何だよこりゃあ!?」

 

「しょーがないでしょーが。魔力が無くなっちゃったんだから」

 

その王都から少し離れた一角。エドラスで活動していた唯一の魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、王国軍と衝突していた森の近くから王都まで、巨大な植物の外観で作られていたギルドを移動させる為に動いていた。主な活動拠点となる王都から、すぐさま移動が出来るようにするためである。

 

だが、そのための方法と言うのが、どうやったのか巨大な荷車にギルドごと積載し、その荷車を大多数がロープで引っ張って移動させると言うもの。いわば人力である。嫌な予感しかしなくて逃げようとするナツをルーシィが関節技を決めながら止めたり、そのナツが魔導四輪で一気に動かそうとするも魔力がないので結局人力に頼るしか選択肢がなかった。

 

「仕方がありません。各自配置について、王都までギルドを運びましょう。時間はかかるでしょうが、力を合わせればできるはずです」

 

『おおーっ!!』

 

マスター・ペルセウスの言葉を聞き、男たちがそれぞれ荷車に付けられたロープを息を合わせながら引っ張り始める。荷車に乗ってるとはいえかなりの重量だ。一歩一歩が果てしなく重い。

 

「おっとマスター、あんたはこっちだ」

 

だが、同じようにロープを引っ張ろうと余っている場所に向かおうとしたペルセウスを、ルーシィが肩を掴んで引っ張り、傍らへと移動させる。

 

「え、あの……何してるの……?」

 

ペルセウスが連れてこられたその場には、ルーシィを始めとして、ロープを一切持とうとしない女性陣の姿。重労働を行っている男性陣を代表して、ナツが尋ねてみれば……。

 

「ア?あたしらか弱い乙女と、それ以上に弱いマスターにこんな重いモン運ばせる気か!?」

 

『か、か弱いってぇ~!?』

「それ以上……?」

 

まさかの返答。男性陣にはとてつもない重労働を強いておきながら、中には男顔負けの力を持っている自分たちをか弱いと決めつけてコキ使っていると同義のもの。ついでに重労働の戦力外通告を告げられたペルセウスも精神的ダメージを負っていた。でも確かにマスターだけは素直に休んでいて欲しいと思うのは男女共通認識である。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「はぁ~!楽チン楽チン!」

 

「落ち着きますわねぇ」

 

「ほっこりするね~」

 

男性陣が必死になってギルドを引っ張る中、マスターペルセウスと女性陣は、運ばれているギルドの中で優雅にティータイムを満喫中。一部を除いて遠慮なしにくつろぎ、暇を持て余している。

 

『中に乗るな!!しかもお茶すんな!!』

 

外で未だに重労働中の男性陣から当然のごとく怒号が上がり、ギルドの中にまで届いてくる。唯一心配そうに窓から男性陣の様子を見下ろしていたペルセウスは「本当にすみません……」と自分の無力と彼らへの同情を痛く実感していた。

 

そんな中、一人だけソワソワと落ち着きなくギルドの中を歩き回ってゆっくりする余裕のなさそうな女性が一人いた。他の面々がくつろいでいる中で彼女の足音が中に響き、気にしたジュビアが思わず声をかける。

 

「あなたもいい加減落ち着いたら?ウェンディ。気持ちは分からなくもないけど」

 

「で、でも……」

 

落ち着くように窘められても、彼女が心に抱いている不安が消える様子はない。ギルドの窓から外を見れば、まだまだ距離がありそうな王都が目に入り、そこに今いるであろうある人物の安否を、否が応にも気にしてしまう。

 

「シエル……大丈夫かしら……?」

 

彼女が呟いたその名。マスターペルセウスの実の弟にして、彼女が想いを向けている魔科学研の部長であるシエル。彼は国を裏切ったと言う立場にあるが、新たな国王に就任したミストガン(ジェラール)陛下が、今回のアースランドを飲み込んだアニマ計画に密接に関わっていた者たちを招集した。その中に、魔科学研の部長として加担していたシエルも例外とはならず、今朝、王城へと兵士たちによって連れていかれたのだ。

 

「きっと、大丈夫ですよ。新たな陛下であれば……魔力を必要とせずに戦おうとしていたあの人なら……」

 

不安を抱えて愛する者の行く末を案じるウェンディに、落ち着いた声色でペルセウスは安心させようと彼女にそう語りかける。新たな王は、父とは違い異世界の為にも、自分の世界の為にも動いていた人物だ。己が為のみでは決して動かず、より良い世界の為に正しいことを行おうとしている。

 

彼ならばきっと、悪いようにはしないだろう。弟が無事に戻ってくることを、ペルセウスはただ信じて待ち、近づいてくる王都へと目を向けていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その頃。至る所が破壊された王城内。広場に通じる門の前で、王国の兵にそれぞれ監視されながら待機している二人組の男女の姿があった。彼らの視線の先には、広場にて王国兵の整列に囲まれている新王ジェラールと、罪人として連行と言う形で連れてこられた、元王のファウストを始めとしたアニマ計画の首謀者たちがいる。

 

「うう……聴こえてきそうだ……!」

 

「何が?」

 

広場に一堂に会して者たちの様子を眺めながら、身体と共に震えた声を発し、悲壮感を顔に現わしているのは、人相は少しばかり悪いものの言動は正反対のような臆病さが現れた赤茶色の髪をした褐色肌の男。そんな彼に聞き返したのは彼の様子に慣れているのか特に態度を変える事のない紫色の髪をした少しばかり幼い顔立ちをした女性。

 

この二人、実はシエルと同様アニマ計画に関して加担していた一般の研究員として連れてこられた、魔科学研の一員兼、元は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として活動していた者たちである。

 

「これから下される判決が……!厳罰?いや下手すれば処刑?オレたちを庇ってシエルが極刑にされてしまう……そんな未来が……!!」

 

「エリックってば相変わらず大袈裟ね~」

 

頭を抱えて嫌な未来ばかりを想像している男・『エリック』に対して、苦笑混じりに溜息を吐きながらその女性・『キナナ』は彼の癖と言える言動をそう表現した。シエルの元で魔科学の研究に関する知識を得たことで少しは改善されたはずだったが、元々彼はその臆病さ故に自信を持てるような性格ではない。不安な未来を告げる音を予感し、『聴こえてきそう』と言う口癖が出来る程に。

 

「気にしすぎなくてもいいと思うわよ?今までの国王なら危なかったかもしれないけど、新しい方の王様は、理不尽に処刑だとか、厳罰だとかするようには見えないし」

 

「そう、かな……?」

 

逆にキナナは、どことなくマイペースに直感を信じ、それがいい方向へと転がる事が多い。二人は昔からよく共に行動することの多い間柄で、エリックをキナナが引っ張っていくという構図がギルド内ではよく見られてきた。

 

そんな二人が離れた場所で見守る新国王によるアニマ計画の首謀者への判決。新たな国王に就いたジェラールは、集い並ぶその面々に視線を向け、閉ざしていたその口を開き始めた。

 

「王都は新たな時代に入った。皆の心は、未来に向いている。だが……君たちの存在を忘れてしまったわけではない。然るべき処分を下し、けじめをつけなければならない」

 

「分かっている……」

 

アニマの使用は、他の世界の命を蔑ろにした計画だった。魔力が無くても生きていける世界。それを目指す新王政において、その計画は重い罪として考えられる。魔力にこれまで囚われていた先王ファウストは、憑き物が落ちたような表情で、息子が語った言葉を受け入れている。

 

「王として、ここに宣言する。ファウスト……あなたに王都よりの追放を命じる。二度と再び、王都に戻ることは許されない」

 

先王であり計画の最高責任者、及び発案者であったファウスト。それに命じられた罰が追放。他の者たちはその判決に苦々しい表情を浮かべていたが、下された本人は反論も驚愕もせず、視線を下に向けて受け止めているようだった。

 

「シエル・オルンポス……もうエドラスには魔力がない。よって魔科学研を今日限りで解体。及び君を、この時をもって王国軍より追放とする」

 

「……仰せのままに……」

 

昨日まで付けていたメガネもないまま、どこか暗い表情で俯いていた青年シエルは、彼が下した決定にファウスト同様反論せずに頷いた。王都に二度と入る事を禁止されたファウストよりは軽いが、それでも軍から正式に除籍と言う立場になる。

 

「エルザ・ナイトウォーカー……私の許可なくして、王都を出ることは許されない」

 

「処刑なら甘んじて受ける!好きにしろ!」

 

「いや、民と共に王都の再建に努めよ」

 

しかし、ファウストとシエルとは違い、特に断罪らしき判決ではなく、復興の援助を行えと言う命に、死を覚悟していたエルザは予想外の言葉をかけられたことで驚愕する。さらにこれだけに留まらない。

 

「バイロ、シュガーボーイ、ヒューズ。エルザ・ナイトウォーカーと同じ処分を下す。シエルも含め、王都の再建に尽力せよ。以上だ」

 

エルザのみならず、下された魔戦部隊長、更にココやシエルもその判決には驚きを示した。当然罰を覚悟していた隊長たちからは、むしろ不満の声が上がった。

 

「どう言う事だ!?」

「スゲェつか、スッゲェ納得できねーよ!!」

「んーー?魔戦部隊はお咎め無しって事かい?」

「一体……どういうおつもりでしゅかな……?」

 

罰と言うにはあまりにもあっさりとした、むしろこれまでの行動が無罪と言わんばかりの判決。だがジェラールにそのような意図はない。彼らの問いかけに「罪を償うのだ」と簡潔に答える。

 

これでは生き恥を晒すだけ。ならばいっそのこと、刑に処してもらう方がマシだと。受刑を希望する隊長たちの意志は、しかしジェラールによって固く断られた。

 

「だったら私も一緒に罪を償うよう!!」

 

「ならん。ココ、お前は己の良心に基づいて動いた。それは気高き行為だ。過去がどうあれ、その行為を無にするな」

 

一切の命を受けなかったココ。彼女も、隊長たち同様の罰を受ける覚悟を持っていたが、友の命を優先して動いた彼女の行為を、ジェラールは咎めようとせず窘める。

 

「魔力が無くとも、君たちには人としての素晴らしい潜在能力……そして、知識と経験がある。それを王都の復興に役立てて欲しい。もしもそれが辛いと言うのなら……私が与える究極の“罰”だ」

 

「それは陛下も……いや、ファウスト殿も同じだろう!何故一人だけ追放など……!!」

 

「もうよい」

 

判決に納得がいかずに反論を続けるエルザであったが、たった一人重い罰を課せられたファウストは、そんな彼女の言葉を遮り、一人で前に歩み出て「達者でな……」と呟くと共にジェラールの前で立ち止まる。

 

「新たな王の、寛大なる処分に感謝する」

 

本来であれば、大罪人の烙印を押され、その場での処刑もあり得た。だがジェラールはそうはしなかった。それを思えば、たった一人の王都追放は、息子でもある彼なりの、父への恩情やもしれない。深く感謝の意を伝えながら、ファウストは一つ思い出していた。

 

アースランドの魔導士たちとの別れ際、ナツに声をかけた時の事を。「ギルドは楽しいか?」そう聞かれた時のナツの笑顔を、きっと生涯忘れない。何故なのかは、彼自身にも分からないが、それだけは確信できた。

 

「ココ……これからもよく走れよ!」

 

王都から出て行く直前、彼は少女に対しその言葉を最後に投げかけた。耳にした彼女が、色んな思い出を蘇らせて、彼が彼女の走りが好きだったという事を思い返して涙する。涙に濡れながら「はいっ……!!」と返事をしたココ、そして場にいる者たちに振り返ることなく、簡単な荷物だけをもって、ファウストは一人、王都の外の荒野を歩いていく。

 

これからどうなるのか、彼自身も分からない。だが、民の心が未来へと向いているのなら、元国王として、自分も未来を見つめよう。魔力が無くても生きていけるのだと教えてくれた、忘れてしまっていた大切なものを思い出させてくれた、あの若者たちのように。

 

 

 

徐々にその姿を小さくしていく父の背中に向けて、ジェラールは右手を天高く、人差し指と親指を立てながら掲げる。その姿を見たシエルは思い出していた。アースランドにおける自分の兄が、最後の最後、こちらに向けてとっていたポーズと同じものであることを。

 

「(向こうの俺たちにとって……特別な意味が、込められているのか……)」

 

それを聞くのは無粋だろう。最早自分は、この国に仕える人間ではないのだから。そしてシエルもまた動き始めた。国の人間でなくなった今、彼もまたこの城の中にいる理由はない。魔科学研が解体されたのならば、そこに属していた者たち……元妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーも今頃職を失ったことになるだろう。

 

彼らと共に、王都の再建を行うにしても、拠点をどうするべきか。悩みながら広場を後にしようと歩き出したシエルであったが。

 

「シエル、王都の再建に努めるにあたって、君にもう一つ命じることがある」

 

突如として声をかけてきた国王ジェラールのその命に、シエルはこの日一番の驚愕を味わう事になった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わってエドラス王都。長い長い重労働の甲斐あって、ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)の王都への引っ越しが完了。中でずっと寛いでいた女性陣が建物から出てきて張り切りだし、地獄の移動が済んだ男性陣たちは全員魂が抜ける程憔悴しきっている。

 

だがこれだけには終わらなかった。これからの活動資金も確保しなければならない為、客引きは女性陣が、受注した労働は男性陣が担う形に自然となったのだが、屋根の修理とかレンガの製作とか、今まで魔法頼りだった作業をあっさりと引き受けて押し付けてくる。

 

ブラック企業も真っ青になる程の力関係だ。

 

「効率よく進める為にも、向き不向きに従って人員を分配いたしましょうか。ナツくんとグレイくん、エルフマンくんはレンガの方へ。屋根の修繕にはジェットくんとドロイくん、それからビジターくんにも向かってもらいましょう。それから……」

 

「マスター……やる気なのは分かるけど……」

「少し休ませてくれませんか……?」

 

ここまで全くメンバーに加担できなかった反動からか、軍師としてのスキルをこれでもかと活かして受注した仕事に対する分配を率先して行っている。分配される側のグレイやナツはヘトヘトで答えられる余力がないが。

 

「ゴチャゴチャ言うな!さあ稼げ!!」

 

『むご過ぎる~~!!』

 

最早慈悲はないのか。そう言いたくなるほどの清々しい強制労働に、男性陣は嘆きの声をあげながら這いずるように動き始める。このままだと死んでしまうのではないか、と言いたくなるほどに。

 

「ここ、貫通しちゃってて……補修したいんだけど」

 

「はい!お任せください!」

 

堕天使の攻撃によって家に風穴が出来てしまった民家の住人からの依頼を受け、マスターペルセウスへと受注の連絡へと向かいだす藍色髪の女性。移動中はシエルの事が気掛かりだったが、兄であるペルセウスの励ましと、王都内で困ってる人たちの姿を見て奮起し、寂しさを表に出さないように尽力しようとしてる。

 

彼が帰ってきた時にいらない心配をかけさせない為にも、と張り切ってかけようとしたその時、視線の先に、こちらへと歩いて近づいてきている一人の青年の姿を見つけて、思わず彼女の足が止まった。

 

水色がかった銀色の短い髪。目元は少々鋭い切れ長の目。最近まで着ていたはずの白衣は身に纏っておらず、黒地の簡素な服装を着ているその青年を、彼女は見間違えるわけがなかった。

 

「……!!」

 

思わず目を見開き、そして気付けば目元に涙がにじんでいることに、ウェンディは気付いた。

 

 

彼の後ろからは彼と同様長い間王国に潜んでいた、死んだと思っていた仲間たちが、こちらに向けて手を振って呼びかけている。応援に駆け付けた元からの仲間たちの姿を見て、王都に着いたばかりのメンバーたちも、各々驚愕を示している。

 

「シエル……!!」

 

どこか気まずそうに、所在なさげに俯いていた青年に、彼女は笑みを浮かべて駆け寄る。無事でいてくれた。帰ってきてくれた。心の底から溢れる喜びの感情が、涙と笑顔となって現れている。

 

「陛下の命令でな、妖精の尻尾(ここ)に戻って、ここのメンバーとして今後はやっていけってさ。だから、その……」

 

一度は切り離していた家族たちのところ。それ故に少しばかり気まずさを感じてはいたのだが、心から喜んでいるウェンディの表情と、同様にこちらに近づいてくる兄の姿を見て、シエルはもう、誤魔化しはせずに心から思った。

 

─────ああ……帰ってきて、良かった……。兄貴のところに……ウェンディのところに……

 

唯一の肉親、そして()()()()()()()()()彼女の元に戻ってこれたことに安堵を覚えながら、ずっと浮かべる事のなかった表情で、彼はこう言った。

 

 

 

「また、よろしく頼む。これからはどこにも行きはしない」

 

穏やかな、輝かしい笑顔。長く共にしていた兄も、彼の事を見ていたウェンディも、滅多に見られない表情。それに負けないぐらいに笑みを深めた二人もまた、シエルを快く迎え入れた。

 

「こちらこそ……」

「よろしくね、シエル!!」




おまけ風次回予告

ウェンディ「ペルさん、ずっと前から気になってたんですけど、ペルさんってジェラ……ミストガンと友達なんですよね?」

ペルセウス「そう、だな。自分で言うのもなんだが、親友と言えるような奴だったかな」

ウェンディ「でもギルドのみんなは、あまりミストガンの事を知らなかったみたいで……どうやって友達になったのか、ギルドだとどうだったのか、私、気になります!」

ペルセウス「そうだな……ウェンディ以外にも知りたがってる奴がいるみたいだし……」

次回『ペルセウスとミストガン』

ペルセウス「ちょっと長くなるかもしれんが、それでもいいなら教えるぞ?」

ウェンディ「はい!よろしくお願いします!」

ペルセウス「じゃあ、まずはどこから話そうか……」
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