FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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約一週間遅れてしまった上、何も報告がなくて申し訳ありません。
連日早く書かねばと言う一心で何とか書き切れました。普段からこの集中力が続けばいいのに…。

ちなみに次回は既に書き始めています。日曜日深夜に投稿…したいですけど、予定ねじ込まれたので出来なかったらまたもごめんなさい…。


第105話 虹の桜

桜の季節。マグノリアではこの時期、街中の桜が花を開き始める為にそう呼ばれている。桜、と言えば春に咲くイメージがあるのだが、このマグノリアに群生する桜は何故か春とは無縁のこの時期に咲く。その理由は未だに判明していないが、恐らくはマグノリアの桜にのみ確認されている特異性に関連しているのだろう。

 

マグノリアの桜が花を開いて散って行く間、夜になるとその色を変質させ、虹色に輝く。それがこの桜にのみ見られる特異性だ。その不思議でもあり幻想的な美しい光景を目にする者たちによって、虹の桜と揶揄されている。

 

「皆!この一年、よーく頑張ってくれた!!その労を労うべく明日はいよいよ……超お楽しみの花見じゃ!!」

 

そんな世にも珍しい桜が見れる時期になって、無関心を貫くことなど万が一にもあり得ない者たちがいた。マグノリアに拠点を置く魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。マスターであるマカロフからの号令に応え、ギルド内にいる一同はそれはもう浮かれてると言っていいほど盛り上がっている。

 

「前祝いに飲めや騒げ」とも口に出している所を見るに、ただただ盛り上がりたいから乗っかっているだけ、のようにも見えるのが原因だろう。

 

「お花見か~!考えてみれば、お花見をするのも二年以上も前になるんだっけ」

 

その中に混じって盛り上がっているのは、この間エドラスから帰還した少女リサーナ。参加できなかった最後に花見に参加したのは3年前の為、その時ぶりの花見である。その期待度は本人が思うよりも高そうだ。

 

「ミラ姉!お花見の準備、私も手伝っていいかな?」

 

「あら、願ってもない事だから助かるけど、いいの?」

 

「ナツやシエルたちはチームで仕事に行ってるし、他の仕事もあんまり置いてないから、やる事少なくて……」

 

この時期の妖精の尻尾(フェアリーテイル)は花見に意識を大きく持っていかれている。その為、仕事に集中できないレベルで浮かれていると世間から共通認識を持たれているので、桜の咲く季節に限り、ギルドに送られる依頼の量が極端に減っているのだ。依頼板(リクエストボード)に貼られている依頼も、特に難易度が高くない依頼や、よっぽどの緊急事態を除いて、一切と言うほど置いていない。

 

もう一つ言えば、リサーナがいない間に彼女とよく行動していたナツとシエルが、エルザを始めとした数人とチームを組んだことにより、チームで行動する機会が増えてきている。今もとある場所に群生している薬草の採取と言う依頼で出かけている為、正直彼女が今日やる事は限られているのだ。

 

「今年がお花見初めての人もいっぱいいるし、折角なら喜んでもらいたいしね」

 

「そうね。じゃあ、お願いしようかしら」

 

ギルドが誇る美人看板娘とその妹による料理の数々。美人姉妹の会話を聞きながら近くにいたギルドの面々(おもにおっさんたち)は明日の花見の楽しみが更にできたと大盛り上がり。「明日、絶対出るぞぉー!!」と言うマカオの叫びに数人の魔導士たちが全力で返事をあげて、一部の女性陣に冷めた目で見られていたが、これも何だかんだでいつも通りである。

 

ちなみにその次の瞬間、そんな男性陣、女性陣も含めて、突如ギルド内で発生した洪水に飲み込まれた。原因はチームで行動しているが故に、仕事に向かったグレイに置いて行かれた悲しみの大雨を目から流したジュビアである。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「開け、時計座の扉!ホロロギウム!!」

 

一方時を同じくして、シエルたち最強チームの面々(謹慎中のペルセウスを除き、かつまだ新米扱いのウェンディとシャルルを含む)は、依頼の対象となっている薬草が群生している場所、一年中雪が降り積もるという永遠の冬山・『ハコベ山』に着いていた。春秋のみならず夏であっても容赦なく吹雪が発生することのあるハコベ山で行動するには、寒さに耐性を持つ者以外は十分な厚着や防寒対策をしなければまともに滞在することも叶わない。そんな凍死もあり得てしまう極寒地帯についた瞬間、ルーシィは銀色の鍵の一つを用いて大型の古時計の身体をした星霊・ホロロギウムを呼び出し、即座に彼の中へと入った。

 

「『う~!あたしってば、またここに薄着で来ちゃった……!!寒すぎるぅ……!!』と申しております」

 

荷物にあった毛布に首から下を包めながら縮こまり、ガタガタと震えながら独り言ちるルーシィ……の言葉はホロロギウムの中から聞こえないので、中のスペースを提供し、かつ吹雪の中を徒歩移動しながら彼女の言葉を代弁する。前々から思っていたがホロロギウムは黄道十二門でもないのにやけに有能過ぎはしないか?

 

「さ、寒いですね……!」

 

「何よこれくらいで。だらしないわよ?」

 

季節関係なく容赦なく吹雪く雪が積もった道を歩きながら、少しだけ大きめのコートと手袋のみ着込んだウェンディが自分の身体を両腕で抱え込みながら呟く。その隣を(エーラ)で並びながら寒さに震える相棒に呆れた様子をシャルルは見せる。

 

「防寒着足りなかったか……ごめんねウェンディ、持ってきたの、それしかなくて」

 

「う、ううん……!シエルの方こそ大丈夫なの?」

 

コート一枚と手袋のみでも相当な寒さを感じているウェンディを案じて声をかけるシエル。実は今彼女が身につけているコートと手袋は、シエルが持参してきたものだ。ハコベ山がどのような場所なのかを知らないまま普段通りの薄着で来てしまい、極寒地帯の洗礼を受けてしまった彼女に自分が持っていた分を貸してあげた。

 

だがその代わりにシエル自身が今度は上がシャツとパーカーのみと言う見るからに防寒が足りていない服装になっている為、彼の方が激しい寒さに晒されているのではないかと心配と申し訳なさを抱えて尋ねる。

 

「俺なら問題ないよ。雪が降ったり吹雪いてる時ならむしろ寒くなくなるし」

 

「『へ!?それって一体どう言う事!?』と申しております」

 

天候魔法(ウェザーズ)の恩恵……と言うか色々と調べていく内に判明したことなんだけど、極端に偏った天気を体で感じると、それをエネルギーとして吸収して魔力に変換できるんだよ。今みたいに激しい吹雪の中にいても、寒さを感じるより先に魔力として体の中に変換されるんだ」

 

「シエルの魔法ってそんな凄いことも出来るの!?」

 

「あんたホントに人間?」

 

シエルが説明した自分の魔法の特性を聞いたウェンディたちが、当然と言うべき衝撃を受けている。天候魔法(ウェザーズ)は文字通り天候を操作することが出来る魔法。それを習得、使用していくことである程度自然に発生する天気の影響に耐性が出来上がっているのだ。ナツが火や暑さに対する耐性、グレイが氷や寒さに対する耐性が強いのと同じ原理だ。

 

シエルの場合は天候が与える影響……極度の日照りによる暑さや、雨や雪による寒さを緩和し、かつ身に受ける天候のエネルギーを吸収して、体の中に魔力を作り上げることが出来る。シエルが仕事をしない日に日向ぼっこを積極的にやっているのは、この体質を存分に活かして日頃から魔力の吸収を怠らない為でもある。

 

「その代わり、火山とか寒いとこでの水の中とかは、さすがに暑さや寒さを感じるけどね。あくまで天気に左右されないってだけ」

 

「それでも羨ましい……!私は今もすっごく寒いのに……!」

 

「『ウェンディもおいでよ。外にいると風邪引いちゃうよ?』と申しております」

 

「そうですか?じゃあお言葉に甘えて……」

 

コートと手袋だけではやはり寒さを凌げずに体を振るわせるウェンディに、ホロロギウム越しにルーシィが呼びかけて中へと招く。彼の中は人間二人分くらいなら入れるスペースがある為、小柄なウェンディが入っても余裕はある。さすがに堪える寒さに晒され続けるのは彼女も嫌だったようで素直にルーシィの招待に応えた。

 

「シャルルは大丈夫なの?」

 

「全っ然平気よ。寒さなんて、心構え一つでどうにでもなると思うけど」

 

ウェンディの相棒であるシャルルは、強がりなのか本心なのか、寒さに答えた様子はなく悠々と空を飛び続けている。ネコは寒さに耐性が無いと勝手ながら思っていたが、エクシードはどうやらその限りではないようだ。ハッピーも特に寒がっていないし、毛皮もあるから元々寒さに強い種族かもしれない。

 

「入った時と比べると空模様も大分落ち着いて来たな。どう思う、シエル?」

 

「そうだね……雲が晴れる様子はなさそうだけど、直に風も雪も止んで、動きやすくなりそうだよ」

 

「腹減ったなぁ~。どっかに火でもねーかな?」

 

上空の様子を見ながら歩いていたエルザが今現在の天候を観察し、より詳しいシエルへと確認をして見れば、この後の天候が安定しそうであることを伝えられる。一方ナツは後ろに手を組みながら若干飽きてきた様子でぼやく。こんな雪山に火なんてある訳が無さそうだが……。

 

「『暖か~い!』『うぅ……は、早く帰りたい……!』と申しております」

 

ホロロギウムの中に避難したウェンディは、雪と風が凌げるのと、温度調節が可能らしいその空間で満足に暖をとれているようだ。中の会話を代弁してくれるホロロギウムが二人分纏めて言っていることで、どっちがどっちのセリフか混乱してきそうだ。

 

「くそ……こんだけ積もってると歩き辛ぇな……」

 

「それ以前に服を着ろ」

 

「なっ!!?」

 

「うわ、見てるだけで寒そう……」

 

未だ振る勢いが衰えない雪が足元にどんどんと降り積もり、出来上がった新雪の上を歩いて踏みしめていく為、気を付けないと足を滑らせてしまいそうだ。柔らかくて力を込め辛いのも、徒歩に阻害が出ている一因だろう。

 

「ねえナツ、そんな便利な薬草って本当にあるのかな?」

 

「さあな、依頼書に書いてあったんだからきっとあんだろ?」

 

歩き続け飛び続けにも飽きてきたのか、ハッピーが今回の依頼の対象になっていた薬草についての話題を尋ねてきた。ハコベ山に群生していると言う便利な薬草の話。その薬草には特殊な魔力も備わっており、お茶に煎じて飲んだりケーキに練りこんで食べれば、魔導士の魔力を一時的にアップさせることが出来ると言う効能があるらしい。しかしハッピーは話を聞いた時から疑っており、眉唾物だと思っているようだ。

 

「ほら、『旨い魚には毒がある』って言うでしょ?」

 

「それを言うなら『うまい話には裏がある』だ」

 

「うわぁー!?エルザにツッコまれた!?」

 

よく聞く諺を間違って覚えていたようで、すかさずエルザがその間違いを訂正した。作家志望のルーシィや読書家のシエルならともかく、手紙を書くのにも満足な言い回しが出来ない文章力のエルザに正しい言葉として訂正されるのはさすがのハッピーも大きくショックだったようだ。

 

それはともかく、依頼は話にも出ていた薬草の採取。多めに採れたのなら花見で行われるビンゴ大会の景品にすることも視野に入れている。魔導士の力をアップさせてくれる代物なら、喜ぶ者も多いだろう。

 

「おーい薬草ー!いたら返事しろー!!」

 

「するかよ、バーカ」

 

「んだとコラー!!」

 

「思ったこと口にすりゃいいってもんじゃねーだろ。しかもテメーのは意味分かんねぇのばっかだし」

 

薬草探しに意識をシフトし直し、早速ナツがそれを探すための行動に移す。だが意思も言葉も持たない薬草に返事しろと言う荒唐無稽な発言を聞いて、グレイが呆れながらナツを嘲けた。無論これにナツが怒らぬはずもない。

 

「やる気かよこのカチコチパンツ王子!!」

「ウゼェんだよこのダダ洩れチョロ火野郎!!」

 

そのまま睨み合って額をぶつけ合いながら喧嘩をおっぱじめる二人。また始まったな~と後ろから我関せずの様子で眺めながら、シエルは薬草が見当たらないか周囲を軽く見渡した。近くにはどうやら無さそうなので、再び移動に集中する。

 

ちなみに二人のケンカはエルザの仲裁の一喝で即終了した。ここまでテンプレである。

 

「『はぁ……早く仕事終わらせて帰りたいな~。明日のお花見の準備したいのに』……『私も凄く楽しみです!』『すんごいキレイなんだよ!マグノリアの桜ってね!!しかも夜になると花弁が虹色になるの!!そりゃ~もう超キレイでぇ~~!』」

 

「……」

 

「『虹色の桜……!!想像しただけでキレイ……!!』『でしょでしょ~!?』と、申しております」

 

「あの、ホロロギウム……?代弁が大変なら無理に言わなくてもいいんだよ……?」

 

後方から聞こえてくる、マグノリアの桜と花見の事で興奮が止まらないルーシィのマシンガントーク、それに反応する彼女同様楽しみが増長していくウェンディの会話を律義に代弁して淡々とこちらに伝えてくるホロロギウム。だが外にいるメンバーの中でその代弁した言葉に耳を傾けているのはシエルだけだ。他の面々は聞こうともしない。

 

そんな状態で延々と語り続けているルーシィのセリフをずっと代弁させることをさすがに可哀想に感じたのか、シエルは後ろを振り向いてずっと喋り続けているホロロギウムにそう気遣った。なんか……今日は板挟みにされそうな予感がする。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ほぼほぼ当てもなくハコベ山の山道……雪塗れなので道と呼べるかも怪しいが、とにかく歩を進めていくと一行は洞窟に辿り着く。雪の積もっていない場所でなら生えているかもしれない、と考えついて中に入ったものの、ほとんど日を差さない上、岩と氷ばかりで作られたかのような洞窟の中では薬草の手掛かりになりそうなものさえ何一つ見つからない。

 

更に厄介な事に、ハコベ山に生息する危険なモンスターと言われている白い毛皮の巨大な猿のような見た目をした怪物、『バルカン』の群れに遭遇。見た目に違わぬ力強さ、似合わぬ俊敏さを持っていることに加え、人間の女に年中発情しているという女性の敵と言う一面も相まって、危険生物と区分けされている。そんな怪物が群れとなって、外で行動しているエルザ含めた女性陣を狙って襲い掛かって来た。だが、相手が悪すぎた。

 

「はっ!!」

氷欠泉(アイスゲイザー)!!」

「火竜の咆哮!!」

落雷(サンダー)!!」

 

『ウホオオオオッ!!?』

 

ギルドの中でも最強チームと評される彼らを前にしては、一般的に危険な怪物も、ただのウォーミングアップ用サンドバックに過ぎなかった。二振りの剣で薙ぎ払われ、地から突出する冷気に吹き飛ばされ、灼熱の炎に身を焼かれ、トドメとばかりに天井に密集した黒雲からの落雷による蹂躙。ワンサイドゲームだ。

 

「薬草はどこだ!教えろ!!」

 

「ウホオ!し、知りません知りませんっす!」

 

「隠しても為にならないんだけど、ホントに知らないのかな~?」

 

「ヒィ~!?ほ、ホントに知らないんす!許してくださいぃ!!」

 

一体を残して全て戦闘不能にした直後、胸ぐらを掴んで脅迫混じりにナツが、光陰矢の如し(サニーアローズ)を数本具現化して目の近くに構えながら黒い笑みで見下ろすシエルが薬草の在処を聞き出そうとしたものの、ここで生息しているバルカンもその情報は持っておらず、結局虱潰しに探すしかなくなった。

 

ちなみにシエルの聞き出し方を見ていたグレイが若干顔を青くしていたのは誰にも気付かなかった。

 

 

 

「にしても全然見つからねぇな……」

 

「岩の陰とか、丘の上とか、木々の間とか……ありそうなところにも見当たらない……」

 

「空が大分落ち着いてきたとはいえ、これではいつ見つかるかも分からんな……」

 

あれから終始歩いて薬草を探し続けているものの、それらしいものすら一向に見つけられない。手当たり次第にナツがそこかしこの物陰を除いたり掘り起こしたりしていても、痕跡すらない。乗雲(クラウィド)を使ってシエルが空からそれらしき場所を見渡しているものの、それも成果がない状態だ。このままでは埒が明かない。

 

「時間です。ではごきげんよう」

 

すると、ホロロギウムの身体から突如タイマーアラームが鳴りだして、その言葉を最後に星霊界に呼び戻された。彼が消えたことで、体の中に避難していたルーシィとウェンディが必然的に外へと出され、凍てつくような寒さが二人の身体に襲い掛かる。

 

「「っ!?寒いぃ~~!!」」

 

「おいおい……」

 

「二人とも大丈夫?日光浴(サンライズ)出そうか?」

 

「甘やかすなシエル。お前たちもお前たちだ、少しは探すのを手伝わんか!」

 

「だ、だってぇ……!!」

 

一気に安全なところから投げ出されたことで、寒さのあまり互いに抱き合って暖をとろうとする少女たち。シエルがすかさず優しい光の小太陽を創ろうとするが、長時間ずっとホロロギウムの中でぬくぬくとしていたことに内心腹を立てていたらしいエルザに止められ、更に喝を入れられた。手厳しい。

 

と、膠着しかかっていた状況が動き出すきっかけが起きた。先んじて歩を進めていたナツが何かを感じ取り、突如その足を止めたのだ。すんすんと鼻を動かし、空気中に漂う匂いを嗅ぎ分けると、確信めいたその匂いを認識した。

 

「匂うぞ!これ絶対薬草の匂いだ!!」

 

「相変わらずスゴイ鼻だね……」

 

「てか、あんたその薬草の匂い、嗅いだことある訳?」

 

「いんや?嗅いだ事ねーけど、間違いねぇ!行くぞハッピー!!」

 

ナツ得意の異常な嗅覚で、薬草らしき存在を感じ取ったようだ。本人はその薬草の匂いを嗅いだことないと自分で言ってはいるが、それでも間違いないと断言できるぐらいには自信があるらしい。他の者たちの制止が入るよりも先に、雪道とは思えない脅威的な速さで駆け出して、一気に姿が見えなくなってしまった。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「もう見えなくなっちゃったよ……」

 

「ったく、せっかちヤローめ」

 

我先にと薬草らしきものがある場所へと行ってしまったナツ。だが彼の鼻が侮れないのも事実。ひとまずついて行こうと言うエルザの提案に否定意見もなく後を追う事に。

 

「嫌な予感……いえ、これは予知かしら?このままただで終わる気がしないわね……」

 

「そう言えば、シャルルの勘がよく当たってたのって、予知があったからなのかな?」

 

エルザに続いてナツを追いかけていった後方にて、予知でこの後の事を先に見たらしいシャルルが顔をしかめながらぼやく。過去にもシャルルは無意識に予知を使用して悪い予感を察知していた事がある。生まれた頃から共にしているウェンディが、かつてあったその一片を思い出しながら、今思えば予知によるものだったと考えついた。

 

「あったぁーーっ!!」

 

「え、もう見つけたの!?」

 

そうこうしている内に、一際大きく盛り上がっていた丘の上まで登りついたナツが薬草を見つけたらしく、テンションの上がるままに声を張っていた。駆け足だったことを加味しても随分見つけるのが早かった。

 

「早っ!!」

 

「早ぇことはいいことだ」

 

「ナツさんスゴイ!」

 

「やっぱり獣ね」

 

駆け出していったナツを追っていたシエルたちもようやく追いつき始めた。何はともあれ後は薬草を採取するだけ、なのだがシャルルが言っていた嫌な予知と言うものが気になるところ。気を緩められない。

 

「よーし!さっさと摘んで、帰るぞ!」

 

「あいさー!」

 

ついに見つけた喜びもそのままに、早速その薬草を採取しようと意気込むナツとハッピー。しかしそんな彼らに突如、薬草の一帯ごと覆いかぶさるように影が差し込んだ。怪訝に感じた二人が顔を上げるとそこには……竜がいた。

 

「なぁー!?」

「もしかしてドラゴン!?」

 

「いや違う……!『ブリザードバーン』だ!!」

 

背景と同じ雪に包まれたかのような白く巨大な体躯に、腕と一体化したような巨大な翼と、頑強な口。ハコベ山を始めとする寒冷地帯の山などに生息すると言われているモンスター。ついた名が『ブリザードバーン』。またの名を『白ワイバーン』だ。

 

「何でワイバーンがこんなところに!?」

 

「白ワイバーンは、如何にもな見た目とは裏腹に草食のモンスターなんだ。それも魔力が宿った植物を好んで食べる傾向がある」

 

「魔力が宿った植物……?」

 

今まで影も形も見られなかった明らかに危険な生物の登場にルーシィが疑問と共に叫ぶと、図鑑で見たことがあるシエルから、白ワイバーンについての情報が口にされる。その説明の中に、ウェンディが気になるフレーズとして魔力が宿った植物と言うどこかで聞き覚えのあるワードを呟いた。薬草をすぐにでも取ろうとしたナツとハッピーを翼の風圧で吹き飛ばし、薬草の群生地に侵入されることを拒むかのように着陸する。

 

「そう。さしずめあの白ワイバーンの好物は、俺たちが狙ってるあの薬草ってことだね」

 

「何ィー!?」

「独り占めする気だ!!」

 

図鑑の特徴、そして薬草を守るかのような行動から察して、シエルは推測を結論付けた。エサの取り分が減らされるのを嫌って、薬草を採りに来た自分たちを追い払おうと言う魂胆だろう。だがしかし、それを分かったところで、こちらも大人しく引き下がる気はない。

 

「確かこーゆーのを一石二鳥とか棚ぼたっつーんだよな?白いワイバーンの鱗は、高く売れるって知ってっか?」

 

「うん、それも書いてあった。一枚だけでも5、6桁は下らない相場なんだってね」

 

「おーし!薬草ついでにこいつの鱗全部剥ぎ取ってやんぞ!!」

 

両手を合わせて造形の構えをとったグレイが、目の前に立ち塞がるワイバーンに関する得になる情報を口にすれば、更に知っている情報をシエルが口にし、口角を吊り上げて右手に魔力を集中させる。そして二人から鱗の価値を耳にしたナツが炎を両手に纏いながら、悪魔もビックリの鬼畜な発言。意外にも人語を理解しているのかそれとも本能で危機を察知したのか、白いワイバーンはそれを聞いておっかなビックリと言った様子を見せる。

 

「あのワイバーンは私たちに任せろ。換装!」

 

男性陣のワイバーンに関する会話を聞いて状況を整理したエルザが、遠目で見ていたルーシィに言いながら電撃属性の攻撃と耐性を持つ雷帝の鎧へと換装。蒼雷を発する槍を構えながら、ワイバーンを見据えて更に言葉を続けた。

 

「お前たちは、私たちがあれの注意を引き付けている隙に、薬草を採取するんだ」

 

「はい!」

「仕方ないわね……」

「ええ……!?なんか一番危険なポジションではないかと……」

 

エルザの指示に対してウェンディは意気揚々と、シャルルは上から目線で渋々ではあるが了解する。が、ルーシィはある意味一番危険な立ち位置に置かれたことに対して乗り気を見せない。

 

「頼んだ……!!」

「あ!はい!やります!喜んで!!」

 

だがしかしこの女にそんな愚痴は通用しない。ワイバーンよりも先にシバきに来そうな圧をかけられたルーシィは掌を一瞬で返した。

 

「行くぞ、ナツ、グレイ、シエル!!」

 

『おうよ!!』

 

一斉にワイバーン目掛けて飛び掛かる四人。対するワイバーンも自らの縄張りを守らんと迎え撃ち、激突が始まる。その傍らでルーシィとウェンディは四つん這いの状態で悲鳴を上げるとともに薬草の元へと這って行く。情けない声を出して移動する二人にシャルルが喝を入れているらしいが、エルザと言い彼女と言い、今日はやけに手厳しい。

 

「火竜の煌炎!!」

 

左右両手の炎を合わせた火球を撃ち出し、早速先制をとるナツ。しかしワイバーンが大きく翼をはためかせて火球目掛けて風を起こせば、何とその風圧だけでナツが発した火球が方向を転換、跳ね返す。

 

「いやーーっ!?」

「キャーーッ!?」

 

「あ、ウェンディ!!ルーシィ!!」

 

そしてその火球は運悪く薬草へと気付かれずに移動していたウェンディたちの方に飛んでいき、彼女たちは慌てて飛び跳ねて回避。何とか大事には至らなかったが、シエルにとってはこっちも心臓に悪い。

 

「アイスメイク“円盤(ソーサー)”!!」

 

今度は刃のついた円盤を象った氷を作り上げてグレイが飛ばす。だが先程の火球同様ワイバーンは翼を羽ばたかせて別方向へと飛ばし、またも方向を変えて進んでいたルーシィの前方に突き刺さる。当然ルーシィは恐怖のあまり悲鳴を上げた。

 

「この野郎……!!」

 

「シエル、二方向から攻めるぞ!合わせろ!!」

 

「合点だ!!」

 

危うくウェンディに被害が及ぶところだったことに、あからさまな怒りを表すシエルが両手に雷の魔力を溜め込んでいく。それを見たエルザがシエルとは反対方向に移動しながら指示を飛ばすと、シエルもそれに答えるように動く。

 

「今だ!!」

「喰らえぇ!!」

 

空中の別々の正反対の方向から、それぞれ黄雷と蒼雷による攻撃を仕掛けるシエルとエルザ。二方向から攻撃が来ていることを一瞬で察知したワイバーンは今度は跳ね返そうとせずにホバリングを駆使して横に移動。回避する。

 

「おいおい……!!」

「待てコラ……!!」

 

しかもワイバーンが回避したことによって二次被害が発生した。ちょうどワイバーンがいた場所の真下にいたナツとグレイの元に、衝突した二色の雷が合わさってピンポイントに落雷。ナツとグレイが感電して悲鳴を上げ、収まった頃には全身黒焦げになっていた。

 

「あ、ヤベ」

 

「馬鹿者!ちゃんと避けないか!!」

 

「つーか、アレだな……」

 

「先に謝れっつーの……」

 

まさかの被害を受けたナツたちを見たシエルが、思わず怒りも忘れてぼやき、エルザは何故か理不尽に二人に説教を飛ばす。当然二人からは不服そうな返事が返ってきた。正直すまなかった。

 

こちらばかりが攻勢に転じていたが、今度はワイバーンから仕掛けてくる。強靭な足の爪でエルザへと急襲を仕掛け、対する彼女は雷の膜を展開して防御。その衝撃で辺りに風圧が発生する。意外と強敵だ。だが好物として食べている薬草には、一時的に魔力をアップさせる成分が含まれているという話だ。この強さにも納得と言える。

 

「仕方ねぇ……こうなったら……!」

 

一筋縄ではいかない相手。それにこのハコベ山はモンスターとして生息している向こうにとってはホームグラウンド。対峙している自分たちはまだいいが、ウェンディやルーシィがこの場に留まり続けるのはリスクが大きすぎる。ならばここは、短期決戦がベスト。

 

気象転纏(スタイルチェンジ)雷光(ライトニング)……倍速(ブースト)!!」

 

両手にそれぞれ雷の魔力を展開して握り潰し、シエルの身体に青い雷の光が発生。通常の雷光(ライトニング)の倍近くまで速度を上げる技を発生させ、共闘しているナツたちからそれぞれ驚愕の反応が返ってくる。

 

「行くぞ!!」

 

積もった雪を蹴り上げて急加速。その影響でシエルの後方の雪が舞い上がって一種の煙が発生。それと同時に、ワイバーンの懐に蒼雷を纏ったシエルの肘打ちが叩き込まれ、ワイバーンの身体が押し込まれる。反撃の隙も与えないまま次にシエルはワイバーンの身体を蹴り上げる。大きく上昇させられたワイバーンはその場で態勢を整え、シエル目掛けて大きく羽ばたき風圧を発生させる。地上にいたナツたちがその風圧に晒されることになるが、標的となっていたシエルの姿は既にそこにはない。

 

姿を見失ったと認識した次の瞬間には、ワイバーンは背中から大きく仰け反った。一瞬で後ろに回り込んだシエルが両手を組んで叩きつけたのだ。落下していく巨大なワイバーン。だがシエルはまだ奴が戦意を失ってない事に気付いている。

 

「気絶するまで踊らせてやる」

 

口角を上げてそう一言呟いた直後、再び蒼雷が動き出した。横から不意討ちするように頭部へと蹴りを入れ、次に翼、腹部、尻尾、足、喉元、背中と、一瞬で様々な方向から打撃を叩きこんで蹂躙していく。まるでワイバーンは糸の繋がった人形の如く、空中でされるがままに踊らされている。

 

かつては天体魔法を使う青年によって苦しめられ、圧倒的な力と速さで捻じ伏せられた、あの時の技をヒントに考案した戦法。それを再現した技……!

 

「こいつが……『雷光閃舞』だ!!」

 

そしてトドメに脳天目掛けて掌底を一発。ワイバーンの巨体ごと地面へと叩きつけ、その意識を完全に刈り取った。動かなくなったワイバーンに対し、蒼雷を解いたシエルは、多少の疲れが見える程度で、ほぼ無傷だ。

 

「ずりぃぞ、シエル!!最近お前ばっかおいしいとこ持ってきやがって!!」

 

「え~?えっと、ごめん?」

 

「別に謝んなくてもいいんじゃね?」

 

「シエル、ご苦労だったな」

 

最初以外はほぼシエルの独壇場で片付けてしまった為、暴れられなかったナツから不満の声が上がる。だが元々の依頼は薬草の採取だ。その採取の為に障害となっていたワイバーンを退けただけ。肝心の薬草はどうなっているかと言うと……?

 

「採ったー!!見て見てー!!あたしだって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強チームの一人なんだからー!!」

 

色々と巻き込まれて大変な目に遭いはしたが、めげずに群生地に近づいていたルーシィがカゴいっぱいになるまで採取していた。ワイバーンも倒し、薬草も獲得、これで依頼は成功だ。

 

 

 

 

 

だが、この後更なるアクシデントが待ち構えていた。山の頂上の方向から聞こえる轟音と、感じる振動。それに気付いて反射的に振り向いた先には……雪崩が近づいていた。

 

「雪崩ーー!?」

 

雪山で思う存分大暴れした影響が、山頂付近から来たであろう雪崩となって周囲一帯全てに襲い掛かって来た。すぐさま避難をとシエルがすかさず乗雲(クラウィド)を展開してワイバーンと対峙した組を回収。ウェンディはシャルルが抱えて既に避難済み。残すはルーシィ……とすぐさま向かったところで間に合わず、飲み込まれてしまった。

 

「しまった!ルーシィー!!」

 

手を掴み損ね、激しい轟音を立ててる雪群が煙を起こし、周辺の視界を奪う。それが晴れた頃には、ワイバーンの身体がほぼ雪に埋もれている以外は一面雪まみれになってしまっていた。

 

「ルーシィ……!」

 

「ウェンディ、ルーシィの姿は見えるか!?」

 

「いえ……どこにも……!」

 

「ルーシィどこー!?」

 

一人だけ取りこぼしてしまった罪悪感にシエルが苛まれる合間にエルザやウェンディが彼女の姿を探す。しかしどこにも見当たらずハッピーが声を張って彼女の名を呼ぶと、離れた場所の雪から突如薬草が出てきた。

 

「さ……さぶい……!!」

 

手に持っていた薬草を使って自分の位置を知らせたルーシィ。しかし、ただでさえ薄着の上、体の半分以上が雪に埋もれていた彼女の顔色は、雪にも負けないぐらい真っ白になっていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「で、結局ルーシィが雪崩に巻き込まれちゃって……どうにか助かりはしたんだけど、随分体が冷えちゃったみたいで……」

 

「ふむ……風邪を引いてなきゃいいんだがな」

 

翌日……花見当日。シエルはダイニングのテーブルに所狭しと置かれた弁当を包みながら、弁当の中身を作った後片付けを行なっている兄のペルセウスに、昨日の仕事先で起きたことを話していた。あの後薬草もワイバーンの鱗も無事に採取できたのだが、気掛かりなのはルーシィのこと。あれだけの大雪に呑まれて急激に冷やされれば体調に影響が出やすいだろう。

 

道中でもウェンディ相手にすごく盛り上がりながら語っていたから、相当今日のことを楽しみにしているはず。何事もなければいいのだが……。昨日からシエルが考えるのはそのことばかりだ。

 

「まあ、もし来れなかったとしても、それが原因でシエルたちが楽しめないようじゃ、ルーシィがより落ち込むだろ?お前たちはお前たちで楽しく盛り上がる方がいいと思うぞ」

 

兄の言う事ももっともだ。ルーシィのことを気にして場の空気を悪くしてしまっては、みんなにも、ルーシィにも失礼だろう。「そうだね……」と心に言い聞かせるように呟くと、シエルは乗雲を具現化して袋で包み込んだ弁当を乗せていく。全て乗せ終わった後、玄関の扉を開いて後ろに立っている兄へと振り向きながら告げた。

 

「じゃあ兄さん、行ってくるね」

 

「ああ、行ってらっしゃい。楽しんでこいよ」

 

笑みを向けて見送る兄を背に、シエルは今日の花見の会場である公園へと向かい出した。桜が見どころとなる時期は数日の合間。その初日は、公園を一日だけ貸し切りにしてもらっている。その丸一日を使って、ギルドの面々が花見を行うのだ。

 

会場に辿り着くと、ほぼほぼ全メンバーが揃っていて、待ちきれずに既に酒をあおっているメンバーもいる。例えばカナとか、ギルダーツとか……いや主にこの二人だ。揃って樽ごと酒を持ってきてる。この二人、妙なところで共通点が多いような……?

 

「もう始めてるんだ……」

 

「シエル、いらっしゃい!そのお弁当、もしかしてお花見用に?」

 

姉のミラジェーンと共に、花見に来ているメンバーたちへの配膳を行っていたリサーナが、シエルが到着したことに気付いて声をかけてきた。シエルの傍で浮いている雲に乗っている、弁当の山にも着目している。

 

「うん。兄さんが昨日から作っておいたやつ。みんなで食べてってさ」

 

「うわぁ~!ありがとう!!ペルの料理おいしいからみんな喜ぶよ!!」

 

その弁当がペルセウスの作であることを聞いたリサーナが喜びを表して反応する。ペルセウスの作る料理がどれだけ良いものかを知っている為、その喜びもひとしおと言うもの。折角なのでみんなに配ってくると言うので、弁当を乗せている雲ごと渡しておいた。乗雲(クラウィド)はすり抜けることがなく、高度を低くしておけばシエルの魔力操作が無くても、人力で押していけば十分動かせる。リサーナ一人でも十分に運べるわけだ。

 

「お、シエル来たみてーだな」

 

「シエルー!こっちこっちー!!」

 

「みんな!今行くよ」

 

リサーナに弁当が乗った雲を渡したところでシエルが到着した事に気付いた最強チームの面々から声がかかった。既に来ている者たちも各々料理や飲み物を堪能しているようで、シエルも彼らが座っているビニールシートに乗り出す。グレイの近くにいたがるジュビアがいるのは予想通りとして、まだ来ていないのはナツとハッピー、そしてルーシィぐらいだ。

 

「ルーシィ……来てないの?」

 

「ナツとハッピーが迎えに行っている。もうじき来る頃だろう」

 

ルーシィの姿が見えないことが気になったシエルが聞いてみると、エルザからこの場にいないナツたちのことも含めて答えた。度々ルーシィの家に遊びに……と称して侵入しに行っているナツなら彼女の家もよく知っているからだろう。噂をすれば影。ナツとハッピーがこちらの方に戻ってきた。だが、その顔はどこか落ち込んでいるようにも見え、呼ばれた対象であるはずのルーシィの姿もない。

 

「ナツ、ルーシィはどうした?」

 

「来れねぇっつってた。風邪引いたって」

 

彼女の姿がないことに全員が気づいていたが、代表してエルザが尋ねると顔を俯かせ、場に座りながら力無く答えた。ルーシィが来れなかったことが少なからずショックなのだろう。

 

「風邪ひいたって?」

 

「やっぱり、か……」

 

「酷いんですか?」

 

あれだけ楽しみにしていた日に風邪で寝込んでいたルーシィの姿を思い出したのか、珍しく気落ちしたナツが力なく頷く。ハッピーも元気が無さそうでルーシィの容態から深刻さを感じている。鼻はグシュグシュで顔も真っ赤、声もどこか変な感じだったらしい。

 

「何故風邪をひく……?」

「気付いてないのね……」

 

あの時依頼に言った面々はその原因に心当たりあるのだが、エルザだけは何故か風邪を引いたこと自体に疑問しか感じていない。気合があれば風邪もひかないと本気で思っているのだろうか?

 

「ルーシィさん、あんなに楽しみにしてたのに……」

 

昨日の楽しげな様子を傍で見ていた為に、同情の念から俯くウェンディの方を見てハッピーは、彼女の治癒魔法で治してもらえればと考える。だがその魔法は既にかけてあり、状態異常とは別物である風邪を治すそれは遅効性で、良くなるとしても明日になってしまうのだそうだ。花見が行われるのが今日一日だけであるため、結局参加できそうにない。それを聞いてハッピーの表情はなお曇った。

 

「それではこれより、お花見恒例のビンゴ大会を始めま~す!!」

 

「今年も豪華な景品が盛り沢山じゃ!皆、気合入れてかかってこーい!!」

 

落ち込む様子のナツたちとは対照的に、花見で盛り上がるメンバーたちのテンションは更に上がっていく。毎年豪華な景品が目白押しになっているギルド内ビンゴ大会。進攻をするミラジェーンとマカロフの傍には、ビンゴ用に製作された専用の福引台型の魔水晶(ラクリマ)が置かれており、その近くで配られたビンゴカードを持った魔導士たちが集っている。

 

「みんな、用意はいい?それじゃ、真ん中の穴を開けてくださーい!」

 

ミラジェーンの指示に従って、フリースペースであるビンゴの真ん中の穴をそれぞれ開けていく。マス目は5×5の25マス。数字の範囲は1~150だ。大分長い時間をかけて行われる予定となっている。そして始まったビンゴは「まずは一発目じゃ!」と言うマカロフの声に合わせて、福引が回転。それが早くなった直後、小さな花火のようなものが上がり、弾けると同時にその数字を派手に出現させる。

 

「24番!」

 

「やった!いきなり来たよ!!」

「すっごい強運……!」

 

最初の一発目。そこで出るか出ないかでも大きく違ってくる。いきなり開けることが出来た者はついているだろう。

 

「あ、私開いた!」

 

「幸先良いね。俺は、無さそう」

 

「私も。と言うか、絶対当たらないわ、このカード……」

 

シエルの周辺ではウェンディがいきなりヒットしたようだ。シャルルは予知が見えたのか、始まったばかりで諦めムードの様子。ちなみにナツは、カードを持たずにずっと腕を組んで心ここにあらずと言う様子だ。

 

「続いて5番!」

 

「ぅおーーっ!開いたァーー!!漢だーーー!!」

「漢は関係ねぇだろ」

「全っ然来ねぇな……」

「私も……」

 

少しばかり進んだところで開き出す者もそうでない者もだんだん分かれてくる。続々とマスが開いていったり、ようやく開けられたり、酷い場合はここまでで一マスも来ない者まで。運に左右されるイベントは参加者の一喜一憂がよく見え隠れする。

 

「68番!」

 

「ビンゴだーーー!!!」

「マジか!?」

 

「ノリノリだな……」

「リーチが三つも!」

 

10発目を超えたところで出てきた数字。そこにビンゴしたものが現れた。普段とは打って変わって存分にビンゴを楽しんでいるエルザだ。遠目から見ていたグレイが若干呆れた様子で彼女の様子にぼやく。

 

「初ビンゴはエルザね!」

 

「運も修練の賜物だ!で……け、景品はなんだ……!?」

 

最初にビンゴをしたと言う強運を発揮し、ウキウキでミラジェーンの元へと駆け寄るエルザ。興奮冷めやらぬ状態で期待に胸を膨らませながら尋ねると、既に手に持っていたミラジェーンがそれを見せてきた。

 

「は~い、これ!一時的に魔力をアップさせると噂の、薬草で~す!」

 

「何ーー!?」

 

差し出されたのはハコベ山でエルザたちが仕事で採取してきた薬草だった。ビンゴの景品として持ち帰ってきたものが、まさかの採取した者たちに渡る事に。しかも薬草は寒冷地から暖かいところに持ってきたせいか既に枯れていて、傍から見れば泥を被ったかのように変色してしまっている。効果が残っているようには見えない。

 

「私の……ビンゴが……!!」

 

「あらあら……」

 

あんまりな結果になってしまったことで、エルザは分かりやすいぐらい落ち込み、四つん這いで蹲った。とんでもない高さで上げてから、とんでもない深さまで落とされた絶望感たるや、言葉に出来ないものだろう。

 

「運がいいのか悪いのか……」

 

「来るだけマシでしょ。ほとんど開いてない奴からすれば」

 

あんまりな結果になってしまったエルザに同情を禁じ得ない様子でシエルが呟く。だが、一番最初にビンゴしたこと自体は強運であることに変わりない。

 

「ビンゴーーー!!」

「マジか!?オレ一個も来ねぇ!!」

「オメーは詰めが甘ぇんだよ」

「父ちゃん頑張れ!!」

 

だが下には下がいるようだ。近くにいたカナがビンゴで勝ち抜けする中、ツキが回ってこないのかマカオのビンゴカードは真ん中以外何も開いていない。これ程まで来ないのは逆に運がいいのか悪いのか。純粋に応援してくれる息子のロメオに、誰か個人の気合じゃどうしようもないことを伝えてあげてくれ。

 

「リーチすら来ない……!俺も外れカード引いたかな……?」

 

「かもしれないわね。私たちみんな、当たらないと思うわよ」

 

「シャルルが言うならきっとそうなんだろうね……」

 

少しずつ開く場所は出ているが、景品の減りと数字の出方から見て、カードが外れだったのではと嘆くシエル。そしてトドメにはシャルルの言葉だ。彼女が言うのであれば間違いないだろう。シエルにもウェンディにも若干諦めのムードが漂い始めた。

 

「せめてルーシィに、お詫びも兼ねて景品をもっていけたらと思ってたんだけどな……」

 

間接的にではあるが、ルーシィが風邪をひいてしまった元凶とも言えるシエルは、せめて花見に来れなかったルーシィへの形に残るお詫びが出来ないかと、楽しむ傍らで考えていた。しかしそもそもビンゴ出来ないとそれすら叶わないと言うジレンマが出てくる。

 

「115番!」

 

『ビンゴーー!!……あれ?』

 

と、ここでまさかの展開。エルフマン、ジュビア、レビィの三人が今の数字で同時にビンゴすることに。景品は残り一つ。これで最後だ。受け取れるのは一人だけである。

 

「三人同時か?じゃあ一発芸で一番面白い奴に景品をやろうかの」

 

『一発芸!!?』

 

それを決める方法はまさかの一発芸。唐突に言い渡されたマカロフからの無茶ぶりにビンゴした三人の顔が驚愕に染まる。一発芸をしてまで欲しくなる景品になるのか……と少し過った思いはすぐに失せることになる。

 

「景品はなんと!アカネリゾートの高級ホテル二泊三日のペアチケット!!」

 

ここ一番で超豪華な景品が待っていた。正直何故これがトップバッターの景品じゃなかったのかという疑問が浮かぶところだろうが、このとてつもない景品を獲得できるチャンスを持った三人にはそんな事は微塵も思わなかった。

 

「スゴイ!!」

「「ペアで旅行~!!?」」

 

「アカネリゾートか!!姉ちゃんとリサーナにプレゼントしてやる!!」

 

「グレイ様と二人きり……!?二泊三日……!!?ジュビア、まだ心の準備が……!!!」

 

高級リゾートへのペアチケット。それに対してレビィに片想いする二人の方が興奮したり、姉と妹を優先したり、想い人(グレイ)との二泊三日旅行を今から妄想したて頭から煙を出したりと様々な反応を見せる。

 

だが他にも変わった反応を示す者がいた。その者はいつ着替えたのか白一色のスーツに着替え、どこに持っていたのか自前のギターを持ちながら一つ軽く弦を鳴らす。

 

《一発芸……!それは、一度きりギリギリの戦い……。つまりオレの出番って事さ、相棒……》

「何故オレまで……?」

 

「何か始まった!?」

 

「「またお前か!!」」

 

「お?なんか面白そうだな、やれやれ~!」

 

「引っ込め!!リーチもしてねーだろオメーは!ギルダーツものせんな!!」

 

リーチすらしていない癖に一発芸を披露する為だけにスタンバイしていたらしいガジルだった。状況も分からず同じ格好をさせられて小型のギターを持たされたリリーが困惑しているし、リサーナもまさかの人物のまさかの格好に目を剥いて驚いている。ジェットとドロイ、エルフマンは言わずもがなだが、ギルダーツは面白がって盛り上げていた。勘弁してほしい。

 

ちなみに一発芸大会を勝ち抜いたのはエルフマンだった。エルフマンが選ばれた瞬間ジュビアは絶望したかのように崩れ落ち、レビィの方はジェットとドロイの方がショックを受けていた。そしてエルフマンは有言実行としてペアチケットをミラジェーンとリサーナに譲ったらしい。出来た兄であり弟である。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ビンゴが終わっても尚も盛り上がる花見。時間は夕刻に達し、もうすぐ夜更けにまで差し掛かかる時間帯。それでもなお解散する様子は見られず、むしろその時を今か今かとギルドの者たちは待ちわびている。

 

「さあ皆の者!いよいよお待ちかねの時間じゃ!!」

 

こんな時間になっても誰一人帰ろうとしなかった理由。それはこの時間からがこの花見の本番と言ってもいいからだ。陽が完全に沈み、星明りのみが空を照らすような時間帯。奇跡のような光景は、そこに現れた。

 

月の明かりに照らされた桃色の花弁たちがその色を変え、赤や青、黄、緑、紫、藍、橙の色へと変化した花弁となって宙を舞い、その場に降り積もっていく。木々についた花弁たちは、まさに虹色の光となって彩を表し、魔導士たちの目を奪う。

 

「キレイ……!!」

 

口々に盛り上がりを見せる周りとは若干異なり、初めてその光景を目の当たりにしたウェンディが、それ以外の言葉を発せずにただその目に焼き付けている。輝かしい瞳と紅潮した頬が、今見える幻想的な風景に対する感想を物語っていた。

 

「言葉を失うよね。俺も初めて見た時、何も出てこなかった」

 

「……悔しいけど、それには同意するわ」

 

「うん……こんなにキレイなんだもん……!そうなっちゃうよ……!」

 

目に映すことは何度もあったが、その度に抱く感動は何度味わっても飽きることがない。毎年見る者にとっても、初めて見る者にとっても、そして久々に目に出来た者にとっても。忘れたくても忘れることは出来ないだろう。ありとあらゆる負の感情を浄化できるのではとさえ思える、光きらめく風景を。

 

だが一つだけ、敢えて残念に思えることがあるとすれば……。

 

「せめて……この風景だけでも、ルーシィに見せたかったな……」

 

「うん……」

 

ここに来ることも、この風景を見ることも叶わなかった、誰よりもこの虹の桜に夢を見ていた少女が、ここにいない事。呟いた彼の言葉に、ウェンディも目を伏せながら同意と共に頷いた。

 

 

 

そんな彼らのやりとりを耳にしていたナツが、何かに気付いた様子で目を(しばた)き、そしてある事を決意してその時を待とうとしたことに、この場にいる誰も気付くことはなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

翌日。ルーシィはすっかり風邪から回復したらしい。元気そうな姿をギルドで見せ、ナツとハッピーに話しかけていた。それを横目に見て安堵を覚えながら、シエルは今朝街中で聞いた妙な話を近い場所にいたウェンディに伝えていた。

 

「桜の木が、船に乗ってた……!?」

 

「俺も実際見たわけじゃないけど、虹色に輝いていた桜が船に乗って川を進んでいたらしいよ。街を一周ぐらいしたらその後見えなくなったみたいだけど」

 

「どうにも嘘くさいけど……街が妙に騒々しいのはそのせいかしら」

 

昨夜、花見を終えて解散した夜更け。街の運河を、虹色に輝く花びらを散らせながら、桜の木が船に乗って周っていたという噂。街中に目撃者は多数存在し、奇怪ながらも幻想的なその風景に目を奪われたという話も上がっていた。だが、桜の木がひとりでに船に乗るなどあり得ないので、人為的な何かが関わっているはずだが……。

 

「コリャァー!!街の大切な桜の木を引っこ抜いたのは誰じゃあ!!町長はカンカンじゃぞぉ!!」

 

するとギルドの入り口から怒り心頭と言った様子で怒鳴るマスター・マカロフが、同様に腕を組んで鋭い視線を見せているエルザと、少しばかり疲れて頭を掻いている様子のギルダーツを伴って現れた。マグノリアの町長からギルドの魔道士の仕業じゃないかと怒られたらしい。実際桜の木を掘り起こせるような者は、一般人じゃなくてギルドの魔道士……それも相当なパワーと実行力がないと出来やしない。第一候補に入るであろう青年の方へと視線を向けると、分かりやすいぐらいに動揺して縮こまっていた。やっぱりな。

 

「何やってんのかしら、あいつら」

 

「どうしよう、シエル?」

 

「う〜ん……」

 

呆れ果てた様子で溜息を吐くシャルルと、マカロフたちに知らせた方がいいのか迷ってシエルに意見を聞いてみるウェンディ。ギルドの様子を……そして恐々としながらはぐらかそうと努めているナツたちに笑顔でお礼を言ったルーシィの姿を目にしたシエルは、柔らかい笑みを浮かべながら一言返した。

 

「……何も言わないでおいとこうか」

 

街から見れば非常識とも言える行動だが、仲間を優先して、その仲間の輝かしい笑顔を生み出したのも事実だ。それに免じて、シエルは気付いた事実に蓋をすることに決めた。

 




おまけ風次回予告

ジェイソン「クール、COOL(クール)、クゥール!!今年もこの時期がやって参りました!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)全メンバー参加型、ロードレースが開催されます!

今年は何と言っても豪華な顔触れ!連年覇者のジェットを筆頭に!昨年不在だったペルセウスにギルダーツ、リサーナまでも参戦し、期待溢れるニューフェイスの活躍にも期待大!!

知力、体力、魔力がぶつかり合う速さの最強決定戦!今年から追加されるレギュレーションも含めて必見です!

今年はどんなドラマが生まれるのか!そして優勝するのは、最下位の罰ゲームを受けるのは!全ての結末は~!?

次回『24時間耐久ロードレース』にて!!

わたくし週刊ソーサラー記者、ジェイソンの実況でお送りさせていただきます!COOOOOOOOOOL!!」

シエル「すげぇ!?ほぼ全部ひとりで喋ってたよあの人!?」
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