な~んて思ってたら書きたいネタがどんどん湧いてきて全然書き切れずに結局遅れてしまいました…。中々うまいこと書けないな…。
さて、この話で今の幕間章は終了となります。次回からは、ファンの方々も多いであろう天狼島編に移ります!
皆さん気になっているのは試験に参加するであろうシエルのパートナーでしょうが…誰になると思うのかアンケート機能で投票を募ります。←
※このアンケートでパートナーが決まる訳ではありません。あくまでクイズです
それと天狼島編の最初の話の投稿日ですが12月に入ってからにさせていただきます。また一週間の間を開けることになりますが、実は事情がありまして…。
これからパルデア地方の学校に編入して、宝探しと言う名の旅に出る為、その合間の余裕を作らせていただきたいのです…!!12月に入ったら時期もちょうどいいし、それまでどうかお待ちくださいませ…!
待ってろニャ〇ハ!待ってろソウブ〇イズ!!
ここは、とある山奥の山道。両端が鬱蒼と茂る木々や岩場などしか見当たらない、土と砂利のみで舗装された山道。この場所は山の中に作られたとある集落から、最寄りの街へと向かう為の近道。大通りを使うと何倍もの時間を要するので、集落の者たちは大抵この道を通って必要なものを仕入れたり、集落で採れた農作物を収めに行く。
「ねえ……ほ、本当に大丈夫かな……?お姉……ちゃん……」
「心配しすぎよ。大丈夫、絶対上手くいくから」
「で、でも……もし上手くいかなかったら……怖いよ……!」
だがその山道は今現在、利用者が大きく減っていた。その理由は、最近になってこの山道を中心として、山賊が拠点を置いて活動を始めたからだ。
街と集落をつなぐ一つのルート。それもほとんどの住人が重宝して利用するとなれば、もちろん多くの人々が行き交う。街に行こうとする集落の住民も、行商人も含めて。山賊たちが拠点を置いたのはそれが狙いだ。奴らは多くの通行人が通らざるを得ないことを熟知し、より多くの獲物を狩ることを狙いにしている。
その被害が頻発して起きているから、山賊の餌になるぐらいなら遠回りの道を使ってでも避けたいと考えるだろう。だが、今現在大きなカゴをそれぞれ一つずつ背負っている、まだ成人もしていないであろう年若い姉妹は、現在その道を通っていた。カゴの中に入っているのは集落で取れたであろう作物がそれぞれ半分ずつぐらい入っている。大の男ではなく何故女が……それも年端も行かぬ幼い少女二人だけが、集落の作物を運んで山道を通っているのか。彼女たちにとって深い理由がある。
「最近山賊の動きが大人しくなってるって聞く今じゃないと。お父さんのケガを治す薬の為にも、今しかチャンスは無いんだよ?」
「それは……そうだけど……」
姉妹の父親は、過去に山賊の被害に遭った。荷を運んでいる最中に襲われ、何とか命は助かったものの山賊たちから受けた傷はいまだに治っていない。母は家の事や父の仕事を代わりに請け負っている。自分達がやらなければ。その為に山賊たちが大人しいと聞いたこの時期を狙って動いたのだから。
「……魔導士様にお願いしてもらった方が良かったんじゃ……」
「物を運ぶだけになっちゃう仕事を、魔導士様に一任するわけにもいかない。この間だって、結局ただの取り越し苦労で終わらせてしまったし……」
山賊に対して何の抵抗もしなかったわけじゃない。時には少ない持ち金を使って、魔導士ギルドに依頼を送ったこともあった。街までの物資運搬護衛と、山賊の退治の為に。だが、魔導士が護衛をしているときに限って、山賊たちはまるで最初からいなかったかのように姿を眩ませて一切痕跡も残さない。
アジトを探したこともあったが、山の中に大規模な山賊団が籠るようなアジトも見つからない。もう山賊たちはいなくなったのでは?と思って一安心して魔導士を見送ったと思ったら、魔導士がいなくなった翌日にはまた出没し始めた、という事例があった。
奴等は自分たちよりも上位と思われる実力者が近くにいる時は決して姿を現さない。狡猾にして、残忍。その上姑息。魔導士に依頼を出すのも安くないのにその苦労を水の泡にして雇えなくなった隙を突いてまた襲ってくる。集落にだって暮らしがあるのに、それを笑って踏みつけにするような奴等にこれ以上怯えたままではいられない。
だからこうして、意を決して姉妹だけでも外に出てきた。普段の物資を運ぶ時間とは大幅にズレた、誰も行動していないであろうタイミングで。
「せめて、私たちだけでも、みんなを安心させられるように頑張ろう!」
「……うん!」
不安を拭いきれない妹に発破をかけるように姉は呼び掛ける。こうして姉に元気づけられるように声をかけられると、本当にどうにかできそうだと感じられる。妹にとって、何とも不思議で、けれどとても安心できると確信を持って言える。
きっと……いや、絶対大丈夫だ。今ならそんな風に自信を持って言うことだって苦ではない。
だがそんな思いは、突如姉妹の行く先に向かって、木々の間から飛んできた一つの曲刀が突き刺さったことによって切り裂かれ、街に向かっていた足が止まってしまった。
「お~っと、こっから先は許可なく進んじゃいけねーなぁ」
そして同時に、聞き覚えのない声が木々の奥から響いて来た。そして現れたのはある意味声の通りの風貌。動物の毛皮で作られたような衣服の上、顔つきも総じて一般の者たちとはかけ離れたものばかり。そんな本来であれば一人いるだけでも恐れられる対象となるような人間が、一人や二人どころか、10人以上は確認できる。
「山賊……!?」
「お?よく見りゃ随分カワイー子たちじゃん?」
「けどガキじゃねーか?どっちもちっちぇえし」
「バーカ、こういうのは育った後が楽しみなんだよ」
「オレはこのままがいいな~……!」
こいつらがこの辺りを拠点としている山賊だ。だがこの10人規模の団体はほんの一部。この周辺にのみアジトがあると思われるのに、情報によるとその規模はこの10倍は下らない。どこにそんな人数のお尋ね者が潜んでいるのかも疑問だが、それを考えている余裕など、今の姉妹にはない。
「お、お姉ちゃん……!!」
「大丈夫。私が何とかするから」
いつの間にか八方から近づいて姉妹を囲んでいた山賊たちを見て、妹が完全に委縮してしまっている。対して姉は驚きを見せていたものの、妹の前だから故か気丈に振舞ってみせる。
「お嬢ちゃんたち、姉妹なのかなぁ?髪の色は同じみてーだが、あんま似てねーようなぁ……?まあいいや」
道を阻むために投げつけていた曲刀を拾いながら、この一団を率いていると思われる山賊の一人が姉妹を見定めるように視線を向ける。髪の色は黒で、二人とも艶のあるサラサラとした質のいい髪。姉はストレートのまま伸ばしているようだが、妹はツインテールにして結んでいる。服装は山賊騒動のおかげで贅沢が出来ないようで、質素な色素の薄いお揃いの丈が長いワンピースに近いものだ。
二人とも背丈からすればまだまだ子供で、顔立ちも幼い。だがどちらも将来性はバッチリだ。美人に育つのは間違いない。リーダーと思われる男は口元をにやりと歪ませながら姉妹へと近づき、声をかけてきた。
「姉妹で仲良く街に行く予定だったみてーだけど、残念だったなぁ。ちょっとオレたちと一緒に来てもらえねーかなぁ?」
「……遠慮させていただくことは?」
「人の親切は受け取った方がいいぜ?無理矢理連れていかねーだけ良しとしなぁ?」
聞いた話ではここを通ろうとしてきた者たちの荷物や金品を奪っていくという話だったが、時折目を付けられた女性が連れていかれると言う事例も聞いていた。今回は恐らくその例に当てはまってしまったのだろう。目に見えて顔が整っている美人姉妹を目にして、放っておくという選択肢はないようだ。カゴに入った作物を差し出して見逃してもらうことも出来そうにない。
「……分かりました。抵抗はしません。でもせめて、妹だけは解放していただけませんか?」
「お姉ちゃん!?」
「重傷の父を一人、残しているんです。娘の私たちが二人揃っていなくなってしまっては、父がどうなるか……」
ならばせめて、彼らの神経を逆立てないように譲歩した条件で、妹の身だけでも保障してもらうよう交渉に出る。素直に聞いてくれるかは分からないが、僅かばかりでも良心が残っているのであれば応えてくれることを期待して。決死の想いを込めて頼みこんだ姉の頼みに一団を率いる山賊は……。
「……そうだなぁ。オレの一存じゃ決められねぇ。ボスに許可を取ってからなぁ。そしたら妹は見逃してやる」
「約束ですからね……」
何とか妹だけでも助かる可能性を掬い上げた。途中で逃げられないように姉妹揃ってロープで両手を塞がれた状態で、山賊たちと同伴することに。姉を見つめる妹の表情は、不安の一色に染められていた。
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山賊たちにされるがまま連れてこられたのは、山の更に奥深くにある洞窟を利用して作られたアジトだった。一見すると何の変哲もない空洞を、さらに掘り起こして空間を作り、より多くの人数を収納できるようにするためらしい。多くの人間たちに見つからなかったのはこれが要因だろう。
「ボス!今日の獲物持ってきました!おまけに上玉も付いてきてますなぁ!!」
山賊の一団を率いていた男が、両手を封じられた状態の姉妹を連れ、彼女たちが持っていたカゴを背負った部下たちと共にその報告を行う。ボス、と呼ばれた一番奥のソファーにドカリと座りながら酒をあおっていた、赤黒いボサボサの髪をした一見屈強なその男は、瓶からその口を話して息を吐き、手下たちと、連れてこられたその姉妹に目を向ける。
「ほう……?まだガキのようだが……育てば確かに高値で売れそうだな。姉妹揃って」
並べられた同じ色の髪を持った、顔立ちの少し違う姉妹を見比べながらその男は呟く。蛇が舐るような視線を受けて妹は恐怖のあまりに目元に涙が浮かんでいて、姉の方も多少の嫌悪と忌避感を抱く。しかしそれでも気丈に振舞い、視線を逸らさずに問いかけた。
「あなたが……ここのリーダーさん、ですか……?」
「そうだ。ここら一帯を取り仕切ってる頭目……『コウル』様だよ」
『コウル』と名乗ったこの男が、この洞窟をアジトとし、集落周辺の山全体を縄張りと称して通行する者たちから様々なものを奪い続けてきた山賊の頭目。話に聞いていた通りだ。目の前にいる男が山賊たちを仕切るトップだと認識しながらも、姉は冷や汗が滴る表情に一切怯みを浮かべることなく堂々と尋ねた。
「私たちを連れてきた方々が約束してくださいました。荷物と、私の身はあなたたちに捧げます。お好きになようにしてください。その代わり、妹だけはこのまま無事解放してほしいと。了承もすでにいただいております」
「……おい、そりゃあ本当か?」
抵抗せずに大人しくついてくれば、妹の身だけでも解放する。覚悟を決めた姉の命を懸けた交渉を、頭目コウルにも堂々と知らせる。約束通り姉妹は二人とも抵抗の素振りは一切見せなかった。これで少なくとも妹だけは助かることが出来る。後ろの方で妹が自分の身を案じてくれているのか涙混じりに姉を呼ぶ。既に覚悟は決めている。自分の身一つで妹が助かるのなら安いものだ。
「いや~?そんな約束してねぇっすなぁ~?」
「っ!!?」
だが、そんな覚悟が打ち砕かれる現実を、今しがた叩きつけられた。見ているだけでも気分を害する下劣な笑みを浮かべながら、ここまで自分たちを連行した山賊の男たちが口々に言う。「記憶になんかない」「聞き覚えもない」「最初から諦めて捕まりに来た」「荷物も含めて素直に差し出しただけ」と、事実無根も甚だしい。
姉妹はようやく理解した。嵌められた。元からこいつらは、自分たちを逃がす気など、微塵も存在していなかったのだと。
「だ、そうだ。嘘はよくねーぜ、お嬢ちゃんたち。ま、どのみち
醜悪な笑みを誰も彼もが浮かべながら、姉妹に対して嘲笑を向ける山賊たち。姉妹は、二人ともそれを一身に受けながら顔を俯かせて体を震わせている。それがより、山賊たちにとって嗜虐心をくすぐる事に気付くこともなく……。
「安心しろよ。二人とも死にゃあしねぇ。場合によっちゃあ離れ離れになるかもしれねーが、命の保証だけは確実にしてやれるぜ?一生誰かの奴隷だろうがなぁ……!」
悔しさからか、怒りからか、それとも絶望からか。一切の言葉を零すことなく体を震えさせる姉の肩に腕を回しながら、これでもかと愉悦に顔を歪めてほざいた。その言葉に周りの山賊たちの下品な笑い声がアジト中に響く。人の皮を被った、人の心を持たない外道ども。まさにそう形容するに足りるような者たちだ。
だからこそ、楽しみだ。
「命の保証なら、こっちもしてあげる。……一生
「……あん?」
これまで体を震わせていた姉が、一転して口元に弧を描いて、僅かに低くなった声と変化した口調で告げた言葉を皮切りに起こる……こいつらの壊滅の瞬間が。
それは頭目コウルの次の言葉が出るよりも早く発生した。突如アジトの入り口の方向から、無数の魔力弾が放たれて山賊たちに次々と襲い掛かり、その身体を宙へと吹き飛ばした。
「な、何だ!!?」
それまで下品な笑い声をあげていた奴等は、直後に一転して動揺。それらは伝播していき、コウルを除くほぼ全員へと行き渡る。今のは攻撃か?何故この場所がバレた?魔法弾の着弾によって土煙が辺りに舞う中、一斉にどよめきを上げる山賊たちの前に、その存在は姿を現した。
「それーっ!!」
その掛け声と共に突如現れたのは、翼が生えた人間だった。否、正確に言えば人型に近い……それも若い女だ。だが本来腕があるはずの部分は白い大きな翼になっており、脚もまた人のものではなく鋭い爪を持つ鳥の足が生えている。翼と足を除く他の部分は、白銀のショートカットの髪を持った、青い瞳の美少女。まるでそれは、おとぎ話などで見られる半人半鳥の怪物・セイレーンもしくはハーピーを彷彿とさせる。
そんな人と鳥、二つの特徴を持った少女はその翼で空を飛びながら、視界を遮る煙の中から突如特攻。地上に立って慌てふためく山賊たちに次々と攻撃していき、更なる混乱を生み出している。まさかさっきの攻撃もこの女か?
「な、何だあの女!?いや、鳥!?」
「鳥女!?」
「いやハーピーか!?」
「何でもいいだろ!!」
唐突に発生した攻撃と、突如現れた半人半鳥。翼をはためかせて空を切りながらこちらを翻弄するその姿を見て、更に山賊たちは困惑を極める。その中でようやく状況を掴めたのは彼らを纏めている頭目であるコウルだ。
「おい鳥女!どうやってここに来た!?ここがどこか分かってての狼藉か!?」
確認すべきなのは、この鳥女の素性と目的、そしてこのアジトに辿り着いた経緯だ。部下たちにはそう簡単に尾行できないようなルートで来るように命じた上、後をつけてくる者たちには十分警戒しろとも伝えている。まさか部下共がしくじったか?だとしても単騎で乗り込んでくるとは浅はかだと思いながらも、警戒を緩めずにコウルは武器であるカトラスを腰から引き抜いて鳥女の方に向けている。
「普通について行ったら来れただけよ?まあ、気付かれてもいいように姿は変えてたけど。ついでに言うと……私
翼をはためかせて滞空し、こちらを見下ろしながら得意げな笑みを浮かべて少女は答える。外見に似合わず勝気な部分があるようだがそれはどうでもいい。今、この女は“私
煙が十分に晴れて視界に映ったのは、どことなくやつれたように見える顔で床に倒れ伏し、気を失っているらしい部下たちの死屍累々。その中心でこちらに悠々と歩いてくるのは、先端に緑の宝珠を付けた木の枝のような杖を持った、水色がかった銀色の髪を縛っている美青年。
「アジトが見つかりゃ、あとはこっちのもんだな。悪いが頭目さんよ。部下たち共々お縄についてもらおうか?」
端正に整った顔をどこか挑発的な笑みで歪めながら投降を促す青年。山賊たちは次々とどこからともなく伸びてきた植物の根っこに魔力を吸われ、動けなくなってしまっている。まだその餌食にあっていない山賊たちが苛立ちのこもった視線を向けて睨むも、彼の左頬に刻まれていた
「あれは……ふぇ、
「
「今やフィオーレ最強っつー噂の!!?」
魔導士ギルド
「国一番の魔導士ギルドか……!だが何故ここが……いやそもそも、てめぇらが来るなんて情報、聞いてねぇぞ!?」
「それはこの山道側の集落の入り口前に隠された映像
「見つからないように森の方から入れれば簡単だったよね♪」
山賊たちがこれまで、魔導士ギルドの存在を察知して姿を現さなかった理由は、集落と山道を繋ぐ位置に、見つからないように映像
ちなみにアジトが見つかった理由はまた別にある。今は半人半鳥の姿をしている少女・リサーナは様々な動物の力を扱える。山賊に姉妹が連れていかれた時、実は彼女もこっそりその場にいた。
「長きに渡って続いた悪だくみも、今日で閉幕だ。観念しな」
「ぐっ……!ま、まだ終わってねぇよ……忘れたか?てめぇらとグルだった女どもは、まだこっちに人質として残ってるんだぜ!?」
一騎当千の魔導士たちにアジトへ乗り込まれた時点で、もう山賊たちは終わり……と思われていたのだがコウルは傍らにいた人質である姉妹の内、姉の身体を掴むと首元にカトラスの先端を近づける。瞬間、魔導士二人の表情が驚愕に強張り、その動きを止める。
「そうだ、動くなよ……?変身を解いて、武器を捨てて、その場で両手を上げるんだ。いらんことをすればこの娘がどうなっても知らねーぞ……!?」
人質を取られて動揺している魔導士たちの姿を見て、優越感が戻って来たのか口角を吊り上げながらそう指示を飛ばす。そのまま丸腰になった状態を部下共に袋叩きさせれば一気に形勢逆転できる。手元にこの姉妹がいたのは不幸中の幸いだった。同じように下卑た笑い声を上げながら、立ち上がって各々の武器を構える山賊たちを一瞥しながらも、ペルセウスとリサーナの二人はその指示の通りに動く。下に向けている表情はこっちからは見えないが、きっと悔しがっている事だろう。更に笑みを深めた頭目は、そのまま部下に指示を……。
「よーし……あとは、そのまま棒立ちでボコられ───」
飛ばそうとした瞬間、突如カトラスを持っていた右手に何かが触れたと思えば強烈な痺れが走り、悲鳴を上げると同時に手の力が抜けてカトラスが床に落ちた。そしてそのカトラスを、まるで落ちるのが分かっていたかのような動きで姉が前へと蹴り飛ばしてペルセウスの足元へと滑らせていく。そしてカトラスが足元に渡ってきたのを確認した青年は、ちょうどそれが来るタイミングで左足を上げ、カトラスを真っ二つに踏み割った。
『はっ……!!?』
先程まで笑みを浮かべていた山賊たちは何が起きたか分からず茫然としたまま。一方でコウルは突如起きた痺れに動揺して右手首を左手で掴んで混乱している。その隙を突いて、姉はコウルの腹部に縛られた状態の両手を触れさせると……。
「
「がばばばばばば!!?」
先程も放った女にしては低めの声で呟くと同時にコウルの身体を感電させる。魔法だ。雷属性の。まさか魔法を使える住民だったのか、と山賊たちに更なる動揺が襲い掛かる。人質と思っていた少女の片割れが意外な反撃をしたことと、全体的に体が麻痺したことで頭目は膝から崩れ落ちて立ち上がれなくなった。
「な、な、な、なにががど、どーなって……!?」
「ボ、ボスーー!!?」
「こ、このガキよくも!!」
「妹がどうなっても……!!」
呆然自失といった様子でうわ言を呟くボスを目にした周囲の部下たちも驚愕に包まれる。そんな中、妹を拘束していたロープを持っていた部下たちがもう一人の人質である妹の存在を姉に示そうと動くも、隙を突いて動いていたペルセウスが既にそれを解決させた。
「換装、イオケアイラ!」
金と銀に彩られた大弓を構えて魔力の矢を放ち、妹を捕らえていた山賊たちを吹き飛ばして、妹の手を縛っていたロープも解いた。ちなみに姉が縛られていたロープは、本人の雷の魔法が着火して燃え尽き、既に解放されている。
「な、なんだよこれ……!」
「人質と思ってたのに、片方めっちゃ強ぇじゃねーか……!!」
捕えていた姉妹があっさりと解放されてしまい、その上姉の方は頭目を行動不能に追い込む強力な魔法を扱えると知って、山賊たちの動揺はさらに強くなる。集落に住んでいるただの住民ではなかったのか、という疑問のままに顔色がだんだんと悪くなっていく。
「片方だけじゃないわよ?」
それに追い討ちをかけるように、山賊たちの頭上を通った何かの声が耳に届いた。その正体は白いネコだ。しかし本来のネコとは違って、背中から翼が生えているし、飛んでいるし、しかも人の言葉を喋っているしで、本当にネコか疑わしい。
「シャルル!」
「あれ、持ってきてくれた?」
「抜かりないわよ、あんたもいい加減“それ”取ったら?」
そんな白いネコは二つの足で立ちながら姉妹の元に着地し、筒状の何かを示すように見せている。それと同時に姉に向けて呆れるような目線を向けながら言った言葉に、彼女は「あ、それもそうだな」と呟くと……。
何と、自分の黒く長い髪を掴んでいとも簡単に抜き取った。「ええーーーーっ!!!?」と言う山賊の悲鳴に似た叫び声が響くも、本人に痛がる素振りはない。というかそもそも……今とった黒い髪はウィッグ、もといカツラである。元々のものと思われる水色がかった銀色の短い髪が下から現れた。
「じゃあ、今から戻すわよ」
「お願いね」
「あ、あとでこっちも……」
「あんたは自分でやりなさい」
「……へい」
あんぐりと口を開けながら固まっている山賊たちには目もくれず、白ネコが持ってきた筒状のそれを操作して「解除」と呟くと、ツインテールに纏められていた妹の黒い髪が変色して藍色のものになった。いや、この場合は戻ったと言う方が正しい。
更に「これもそろそろ脱ぐか」と呟いたと思いきや、姉が身に纏っていた色素の薄いワンピースに似た服を一瞬で払うと、中から出てきたのは薄紫のパーカーと内側に薄黄色のタンクトップと言う、集落で作られるようなものではない服装を纏った子供が現れた。
妹の方もちょっと恥ずかしげだが身につけていた質素な服を脱ぐと、特殊な折り方で作られたとされる緑を基調としたワンピースが現れる。ニルビット族と言われる部族が織り上げたデザインだ。
そして極めつけには白ネコから受け取った筒状の機械を自分の左頬に近づけて姉だった人物が解除と呟けば、絶対に一般人が付けられるわけがない紫色の
その紋章は、この場に来ている二人の魔導士と同じもの。
「なぁ……!?ま、まさか……!!」
一部始終を黙って見るしかできなかった山賊が声を震わせて呟く。そして全てを理解した様子で恐々としている山賊に向けて、姉を名乗っていた人物……少年シエルがこれでもかと口角を吊り上げながら山賊目掛けて言い放った。
「ども~!魔導士ギルド
「騙しちゃってごめんなさい」
「山賊相手なんだから、謝る必要ないでしょ?」
そう、最初から山賊がとらえたのは、一般人ではなかった。集落に住まう姉妹に扮した、
『つーか姉妹じゃねーじゃん!!』
「あ、今更そこツッコむの?」
更に山賊たちにとってタチが悪いのは、姉妹と装っていたくせに姉の方は実は男だったこととか、そもそも血も繋がっていなかったことである。少年本人の顔が中性的だったために、本気で化粧をして、声も女らしく高い声を意識すれば、知らない者にとっては誰も男とは気付かないレベルだ。
「それにしてもウェンディ、結構いい演技だったね!」
「シエルから言われると全然自信が無いんだけど……」
「て言うか、あそこまで本格的にする必要あったわけ?」
まるで本当に集落から街へと移動する姉妹の演技を山道にいる時からずっと続けていたと思うと、脱帽レベルなのは間違いない。だが、ほぼほぼシエルばかりが姉っぽくやってただけで、ウェンディ自身は「シエル」ではなく「お姉ちゃん」と呼ぶように気を付けていただけ、との事なので正直複雑だ。
「だ、騙してやがったのか……!!」
「こ、こんなの卑怯だぞ、テメーら!!」
「そーだそーだ!!」
「ほう、卑怯ねぇ……?」
まんまと騙されてしまっていたことに気付いた山賊たちがその怒りと苛立ちをぶつけるように喚き散らすも、背後に迫っていたペルセウスの声、及び見下すような黒い笑みと圧によって、二の句を継げずに振り向いた。
「魔導士からも、評議院や軍からもコソコソ隠れて弱いもんいじめしてた卑怯者集団が言えた事か、なぁ?」
「あ、それ、オレの口癖なぁ……」
痛いところを突かれて更に言葉を詰まらせて縮こまる山賊たち。唯一シエルとウェンディを連れてきた一団のリーダーがどうでもいいことを小声で呟いたが本当にどうでもいいとして。
「さーてと!」
「それでは……!」
「そろそろ」
「お仕事……」
「始めますか!!」
シエル、ウェンディ、シャルル、ペルセウス、リサーナ。妖精から派遣された4人と一匹がそれぞれ戦闘態勢に移り出す。本能的に危険を察知して、山賊も各々の武器をどうにか構えて応戦の意志を見せはするものの、ほとんどが虚勢であるのは一目瞭然。
その後たった5つの戦力によって、集落と近隣の街を苦しめ、他のギルドや軍も手をこまねいた山賊団は、思っていた以上にあっさりと壊滅。全員牢獄送りとなった。
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「初めて組んだチームだったけど、上手く行ってよかった!」
集落からの依頼を終え、帰路につく一同。件の山賊団は実力はともかく、狡猾と言えるほどの周到さと慎重さによってこれまで被害を抑えられなかった為、集落からの報酬に加えて近隣の街たっての希望で懸賞金も弾んでもらってしまった。元の依頼金よりも結果的に多くなってしまったが、取り敢えずこれ以上の被害を根絶できた事は上々だろう。マグノリアに向かう汽車の中で伸び伸びとするリサーナは満足気な様子だ。
「俺もリサーナと正式に仕事行くのは初めてだったな~。ウェンディたちも一緒なのを聞いた時はビックリしたけど」
「私も、リサーナさんに誘われると思ってなくて、ビックリしました」
「しかも脈絡もなく突然だったものね」
そもそもこの
「こいつも割と思い立ったらすぐ行動って行けるとこまで突き進んじまうところあるからな。ナツの影響だと思うが」
「私はナツと比べたらまだいい方だと思うけど~?」
「俺にはどっちも変わらんよ」
座席の形の関係で、兄弟と女性陣が隣同士、そしてペルセウスとリサーナが向かい合う形で座っている為、前方にいるペルセウスに向けてリサーナが膨れっ面を作りながら彼の言葉に抗議を示すも、青年にとっては彼女もナツも根底は変わらないイメージだ。そんなやり取りを見て、ウェンディの膝の上に座っているシャルルが「この二人いつもこんな感じなわけ?」と目線で前方にいるシエルに問いかける。そんなシエルの解答は苦笑い。どうやら肯定だ。
「そう言えば、シエルもすっごく強くなってたけど、ウェンディも凄かったわね!話には聞いてたんだけど、
「は、はい!ありがとうございます」
山賊団との戦いの中で、シエルやウェンディの活躍を実際に目にし、かつシエルやナツたちからウェンディの事についてリサーナは聞いていた。ガジルも含めて、現在ギルドには
それを抜きにしても、エドラスで仲が良かったウェンディと、アースランドでも仲良くなれたことが、彼女にとっては更に嬉しく思える。
「やっぱりウェンディも、何か食べると力が上がったりとかするの?」
「えっと、私の場合は空気を……」
隣同士に座る、ちょっとだけ歳の離れた二人。だがその様子はとても仲のいい姉妹にも見えて微笑ましく、対面に座る兄弟はそれを眺めながら思わず笑みを零す。主にリサーナから話題を振って、それにウェンディが相槌や質問に丁寧に答えていく様子は、話に挟まらずともずっと見ていられる。
「ちょっと、兄弟揃って何にやけてんのよ」
「「あ、いや、そんな事ないです!」」
だがあまりにも見つめ過ぎていたことで真正面を向いていたシャルルからツッコまれてしまった。シャルルの声に気付いて話に花を咲かせていた二人もこっちを向いたが、首を傾げるウェンディと違い、リサーナは何故か少し吹き出して笑顔だ。一体どういう意図だろう……。
「あ、そう言えば……戻ってきてからシエルを見て気になってたんだけどさ」
「うん?」
すると、ふと何かに気付いた……と言うより思い出した様子のリサーナが、シエルの顔部分を見て新たに聞きたいことを尋ねてきた。
「シエルの髪の毛……金色の部分ってそんな感じだったっけ?」
「メッシュの事……?」
「ああ、そういや俺も気になってた。目の錯覚かとも思ってたんだが」
リサーナも、兄のペルセウスも、実は薄々気づいて気になっていた事らしいが、何かあったのだろうか?鏡をよく見なければ左目の上にあるメッシュの部分を気にしたりもしないので、シエルは気付く機会がない。
「これで見てみてよ」
「あ、ありがとう」
荷物として常備していた手鏡をリサーナから受け取ったシエルは、メッシュがあるであろう左目の上部分に鏡をかざして、確認してみた。シエルの記憶では、確か水色がかった銀色の髪に混ざるように、一筋だけ入っていたはず。
だが実際に鏡に映っていたのは、大きく開いた眼の中にある瞳がかかるほどの幅。そのちょうど真上の域が金色の状態になっていた。これは最早一
「ん!?あれ……?こんな広かった……かな……?」
一応毎朝鏡前で洗顔や歯磨きを行ってはいるものの、あまり意識して自分の髪を見ることが少なかったため、過去一番に新しい記憶と、確かに違いが出てるように見える。あまりに違いがはっきりしているから、シエル自身も衝撃を隠せない。
「やっぱそうだよね!イメチェンした……わけでもないでしょ?」
「うん……全っ然……。これ、いつからだったの?」
「う~~ん、私が戻ってきた時から、既にそうなってた、ような……?」
いつからここまで広くなっていたのか。と言うか何が原因で髪の色がちょっと変わっているのか全く分からない。このメッシュ、てっきり生まれつきだと思ってたのに、と頭の中で混乱してきている。
「俺が10年クエストから帰ってきた時は、前のままだった気がするが……そういや違和感を感じたのは、六魔の戦いの後だったな」
「あ、私シエルたちが載ってる週ソラ、部屋にあると思うので、それでも確認してみますか?」
「別にいいんじゃないの?そこまでする必要なんて」
どうやらここ最近の変化のようだ。多少気にはなっているが、特に体に異常がある訳でもないし、考えても要因が定まっていない以上は、そこまで深く考えることもないだろう。頭の片隅に置いておいて、気になったら鏡で確認することにしよう。シエルはそう決めることにした。
そんな時だった。マグノリアに向かう汽車がオニバスにもうすぐ到着しそうなタイミングで、社内に放送が響き渡った。
《え~乗車中のお客様にご連絡いたします。ただいま、オニバス~マグノリア間にて、放牧地のマタドールウシが一斉に脱走し、線路沿いに出没が確認されております。このため、当間での運行が困難かつ危険を伴い、事態解決に大きく時間を要すこととなります。大変ご迷惑をおかけいたしますが、本日の運行、終日オニバスを終点とさせていただきます。またのご乗車、お待ちしております》
その放送が車内に流れ、マグノリアに帰るはずだった場にいる全員が固まった。数秒、いや数分ほど硬直していたのかもしれない。誰も何の言葉も発さず、身動き一つ取らず、落胆の声で渋々降り始める他の乗客たちの声を耳にしながら、ようやく思考が戻って来た。
『ええ~~~~~っ!!?』
直後、予想もし得ないアクシデントに直面した4人と一匹の絶叫が気車内に響き渡った。
────────────────────────────────────────
時間も時間だったため、今日はオニバスで一泊宿を取ることにした一行は、ホテルへと向かい男女それぞれ用の部屋を二つ取ることにした。汽車運行見合わせの影響で大勢宿泊客が来て部屋が無くなるかもしれないと思ったのだが、泊まりに来たのが
何でも過去に、満室だったにも関わらず部屋が無くて困っているから、どうにかして泊まれないかと同じギルドの魔導士に、脅迫に近い形で押し切られてしまったトラウマがあったらしい。名前を騙って無理難題を行った不逞の輩か?と一瞬怒りが込み上げてきたが、その魔導士と言うのが鎧を纏った緋色の髪の女性だと聞いた瞬間霧散した。
申し訳ありません。思いっきり知った人です。ご迷惑おかけしてすみませんでした。と言った風にロビーで4人は頭を下げた。
そして時間は既に夜更け。ちょっとした観光や外食も済ませて、各々は取っていた部屋へと入っていた。入浴も済ませ、ウェンディとシャルル、リサーナがいる部屋では昼間のようにガールズトークが繰り広げられている。
「所々アクシデントはあったけど、楽しかったね~!」
「私も楽しかったです!誘ってくれてありがとうございました、リサーナさん」
「私も、ちょっとは楽しめたわ」
山賊団を捕まえるために変装したり、アジトで大いに暴れたり、終わったと思ったら汽車がマグノリアまで着かなくなったりと色々ありはしたが、リサーナもウェンディも満足のようだ。素直な言動ではないが、シャルルもそう感じているらしい。
「考えてみたら、ウェンディは女子寮に入ってるのよね?こうして夜の間にお話しできるのも、滅多にないかも」
「そうですね、時々誰かのお部屋に行ってお喋りしたりとか……」
「湖行ったり、大浴場行ったり……色々してるわね」
互いに面識が少ないうえ、住居にしている家も違う。だから本来であればお泊り会などの特殊な事例でない限りはこうして夜にもお喋りをすることがないだろう。いい機会とばかりにリサーナもウェンディもますます盛り上がってくる予感を感じている。
しばらく話に花を咲かせていた二人と一匹だが、ふとウェンディは窓の外で微かに光る何かに気付いた。どうかしたのかとリサーナも尋ねてウェンディたち同様に窓の外を確認してみる。そこにいたのは……。
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恐らくは誰もが寝静まった時間帯。宿泊しているホテルから少し離れた公園内で、息を切らしながら手に持っている小石に意識を向けている少年が一人。
シエルだ。こんな夜更けに、そしてこんな公園で何をしているのかと言うと……。
「もう一度……!」
手に持った小石を目線に合わせ、それを握り締めながら意識を集中する。頭の中に浮かべるのは、過去、彼が戦ってきた記憶の中の敵たち。楽園の塔、ニルヴァーナ、エドラス、そこで立ちはだかった敵の姿を浮かべながら、己の心の中に一つの感情を呼び起こす。
「(あの力……発動した共通点は、怒り……!無作為に発動させるには、危険な力を、どうしても使いこなさなきゃ……!!)」
時折発動している、対象に魔法陣を刻んで大爆発を起こす謎の力。シエルが行っているのは、これを自らの意志で常時発動と不発を使い分けるための練習だ。この力が発動してしまう時は、ほぼ決まってシエル自身の意志に反して突発的に起きる。
だがそれ故に、高い威力を持つと同時にとてつもない危険性をこの力は孕んでいる。場合によっては人間の身体が吹き飛んでしまうほどには。その力を満足に使えない状態で野放しにしてしまえば、どうなる事か分からない。だからこそ、使いこなす必要がある。
しかし……。
「ぐっ……っ……かはっ!!」
魔法陣の前兆か、微かに黄色く石が光っただけで何の変化も訪れない。先程からこの繰り返しだ。条件自体は推測通りなのだろうがイマイチ過去に見た反応とは程遠く感じる。
集中力を最大限に引き出している影響か、疲労がかなり積み重なっている。仰向けになって地面に倒れこみ、シエルは息を整えながら何が足りないのか模索する。
他にあの魔法が発動した時の条件を思い浮かべると、身体に何かしら傷があった、意識が朦朧としていた、魔力の消耗、もとい使用できない状況下だった、拘束された状態だった、記憶を頼りに色々と思い出すも、要素が多すぎて絞り切れない。ただの危険を察知した本能によるものと言う見方もある。
「そもそも……何で俺にこんな力が……?」
魔法を覚えるにあたって書物を元に様々な魔法の習得に尽力してきた時期があった。ようやく発見した
それなのに何故今、別の魔法の力が現れたのか?いつそんな力を取り入れた?考えれば考える程に謎は深まるばかりだ。力があるに越したことはないかもしれないが、自分の意志で鞘に納めることも出来ない剣など、自分も味方も傷つきかねない。過ぎた力だ。
何故?どうして?そんな考えばかりが頭の中を巡っていき、夜空に浮かぶ月をただ眺めるだけになっていた時だった。
「シエル、どうかしたの?」
「……っ!!」
眺めていた月が、隠れて少女の顔になった。
いや、実際にはシエルから見て上の方からウェンディが、顔を覗き込むように見下ろして声をかけてきた、と言うのが正しいが。思わぬ人物がこの場に来たことに、面食らった様子でシエルは彼女の名を呟いた。
「何かが光っているのが見えて外を見たら、シエルがいたから」
「もしかして、起こしちゃった……?」
「ううん、リサーナさんとお話ししていた途中で見えただけ」
もう夜も遅いのに、てっきり部屋の布団の中で寝ているものだと思っていたシエルは起こしてしまったのかと申し訳なく思ったが、本人からすぐに訂正が入った。成程、彼女との会話が弾んで今もなお眠気が起きない訳か。
「こんな時間まで、シエルは何してたの?」
小首を傾げながら尋ねた彼女の問いに、シエルは簡単に説明した。例の対象を爆発させる魔法をコントロールするための訓練であることを。ウェンディは、その力を3回もこの目で見たことがある。ブレインの魔法を内側から爆破させ、拘束しに来たエドラス兵も吹き飛ばし、浮遊島まで弾き飛ばすほどの規模。ウェンディに、少年が如何にあの力を危険視し、苦悩しているのかが本人が言わずとも伝わる。
「もっと強くなりたいって、常日頃思ってはいるんだ。けれど、強くなったら、今度はその力を使いこなせるか不安が付きまとってくる。守るために鍛えた力で、守りたいものを傷つけることを想像したら、頭がおかしくなりそうだった」
もしもこの力をちゃんと使いこなすことが出来たなら。きっと大きな力となってくれる。だが、その為の糸口が全く見つかっていない。得体が知れない分、本当に使いこなせるのか否かと言う不安も拭えない。
「兄さんに憧れて、並びたくて、守りたくて魔導士を目指した。あの時も大変だったけど、今回はまるで逆だ。使える力を探すことより、元からある力を調べる方が、こんなに難しいなんて……」
上体を起こし、己の両手を見下ろしながらシエルは今一度問うた。自分の中にあるのは何の力か、どのようにして使えるようになったのか。
「本当に、俺にこいつが使いこなせるのかな……?」
「私は、大丈夫だと思う」
考えても自信が持てなかったその答えを呟いた彼女に、思わずシエルはウェンディへと振り向いた。その表情に浮かべていたのは柔らかい笑み。
「シエルは強いよ。それにとっても優しいから、きっと……ううん、絶対大丈夫」
ウェンディがかけてくれるその言葉の真意を、シエルは理解するのに時間がかかった。自分が強くて、優しいと……そう言ってくれる人間は少なかったから、より一層彼にとっては驚きだった。
「だって、ペルさんの為に魔法を覚えたんでしょ?ギルドのみんなは、誰かの為に何かをするときは、どんな事だって出来ちゃうって私は思ってる。そう言うところが、スゴイって思う」
ウェンディが思い出すのは、仲間や家族の為に、一見無茶無謀と思えることを迷いなくやるために動いて、傷だらけになりながらも本当にやり遂げてしまう仲間たちの姿。ナツも、グレイも、エルザも、ルーシィも、ペルセウスも、そしてシエルもそうだ。自分にとっては、そんな彼らの背中が、広く、大きく、頼もしいと感じられる。
「今もこうやって、みんなを傷つけたくないから、守りたいから遅くまで頑張ってるんだよね?」
そしてシエルは今も、自分の力から目を背けずに向き合って、必死にその糸口を探している。家族や仲間を想って行動するその姿が、彼の優しさを表しているんだと、ウェンディは確信していた。膝に手を置いてシエルの顔を真っすぐ見つめながら、彼女は彼にエールを送る。
「シエルのその頑張りは絶対に形になってくれる。今よりも強くなっちゃって、きっと今まで以上に色んな人たちの力になる。私の言葉じゃ、あんまり保障にもならないかもしれないけれど、シエルだったら出来るって、私は信じてるから!」
優しい笑顔を浮かべながら伝えきった様子の彼女を見て、シエルは体が暖かくなるのを感じた。思い出す。彼女と同じ顔を浮かべながら、魔法が使えなくて思い悩んでいた時に、支えてくれた家族たちの顔を。
きっと魔導士になれると、支えてくれた仲間たちの顔を。
その時と、同じだ。自分に憧れて、自分が教える側と思っていた年下の少女の言葉に、シエルは改めて気付かされた。迷い、嘆き、苦悩していた過去が、徐々に解けて消えていくのを感じた。
「うん……ありがとう、ウェンディ」
思い悩んでいた表情は、もう浮かばなくなった。座っていた地面から立ち上がり、そしてウェンディに目を向けながら、シエルは心の底から感謝の言葉を告げた。
「君が信じてくれるなら何よりの保障だ。自信が持てたよ。絶対成し遂げてみせるから」
彼女の激励に応えるためにも、柔らかく微笑みながら宣言する少年の姿を見たウェンディは、どこか呆けたようにシエルのその表情をじっと見つめ、何故か声を発さずにその場で立ち尽くしていた。
「……ん?」
「はっ!!」
何故かこっちを見ながら固まっている彼女の様子に疑問の声をあげた瞬間、我に返った様子を見せると同時に彼女はシエルに背を向けた。気のせいか、後ろから見える耳が若干赤いような?
「げ、元気になったみたいでよかったー!でも、今日は遅いから、また明日から頑張っていこうね!?」
「う、うん……そうだね」
声が上ずってどこか様子がおかしいが、彼女の言う通り夜も深いし、部屋に戻った方がいいだろう。焦ることなく、一歩ずつ乗り越えて行くことを、彼女が教えてくれたから。
「あ、そうだ!私も、シエルのように新しい戦い方の練習しようかな?」
「ウェンディも!?」
「私だって、シエルやギルドのみんなを守りたいし!」
「……そう……だな……。うん、それがいい」
ホテルに戻る道を歩きながら、少年少女は未来に向けて歩き出す。行き過ぎた力を過ぎたものにしない為、力をつけて守りたいものを守るため。それぞれの思いを抱えながら、更に前へと一歩を踏み出し始めた。
「心配でついて来たけど……」
「二人とも大丈夫そうだったね」
「……本当に、立派になったよ、シエルは……」
二人から見えない位置で彼らの様子を見ていた保護者達は、前へと進み始めた若き二人の背中を、どこか嬉しそうに、寂しそうに、けど確かな愛を感じる目で見つめていた。
そしてペルセウスは……少年の兄はこうも思った。願わくば、あの彼の少年少女たちの行く末が、希望に満ちた未来に溢れていることを。
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シエルたちが汽車に乗っていた時の時間軸に遡る───。
とある広大な山々の奥に存在する、湖の上に作られた、巨大な宝珠が付いた杖を模した幾何学的な造りの建造物。そこは、新たに編成された新生魔法評議院である。
「けしからん!!何だこの始末書の山は!!」
頂上付近に存在する大広間。そこに置かれた広いテーブルを囲んで、9人の人物がとある議題に対する会議を行っていた。ほとんどが憤りを抱えており、かの対象に対して誰も彼もが嫌悪感に似たものを抱いている印象。
その対象は『
「それ程角を立てる事でもなかろう。バラム同盟の
だが全員が全員、そのギルドを責めているわけではない。前評議院から続投されて評議員の位置に在する老人・『オーグ』は先の
「労がある?『オーグ』老師!!何を言っておるのかね!!」
「評議会が作戦を許可したという記録はないぞよ」
「地方ギルド連盟の独断で行われてますな」
だが彼の弁護は、他の評議員に対しては暖簾の腕押しに等しい。闇ギルドの頂点に位置すると言える三つのギルドの内の一つを下し、起こる事があり得た戦争を結果的に止めた功績を、許可など出していない独断であると言う理由だけで、一転して問題行為であると主張されてしまう。
更には「厳密に言えば闇ギルドと言えどギルド間抗争禁止条約に反している」、「この一件でバラム同盟の正規ギルドへの報復もあり得る」などと言った、デメリットの部分のみを危険分子としてあげている。しかしバラム同盟とは言えど、その実情は不可侵条約。それほど警戒することではないとも意見は出てくる。
だが会議の流れは圧倒的に反
「それよりも、奴等はあのジェラールを“仲間”と言ったなどと言う報告まで入っておる」
「危険な思想を持っておるな。あの兄弟の籍をを未だに置いたまま、問題を起こさせているのも理解に苦しむ」
「あそこのマスター……マカロフは白を切っておるが、奴等は二人揃って
ワース樹海で捕らえたジェラールに対して、ナツが“仲間”と宣言した事や、評議会の方で既に判明しているペルセウスたち兄弟の過去についてを吟味した結果に基づいて、如何に
かつては闇の世界で神の力を大いに振るってきた兄と、廃村一つを消滅に追い込む“天の怒り”を持つ弟。本音を言えば、評議会にとってこの兄弟の存在は魔法界を破滅に追い込みかねない厄災そのもの。隙あらばギルドからの除名及び、罪人として投獄したい程の脅威だ。それが出来ないのは、兄の多々ある功績と、弟の勤勉な姿勢、そして妖精を束ねるマスター・マカロフが彼らの行動に関し、一切の責を背負っているからである。
世間から見れば真面目で優秀と言える魔導士でも、実情を知る評議員にとっては、性悪なキツネが化かしているようにしか感じられない。
「我々評議院は新しくなった!何が“新しい”のか国民に示さねばならん!!」
過激に見える発言。だがそれも、旧体制の評議院が甘い考えを少なからず持っていたが故に、思念体に惑わされ、Rシステムの為にエーテリオンを投下してしまった大きな失態を起こしたが故。今後一切起こしてはならない。だからこそこれまで以上に甘さを抱えてはならないのだ。
「議長……」
「失った信頼を取り戻す為に、問題のあるギルドは厳しく取り締まるのだ」
議長と呼ばれ、席を立ちあがりながら力強く発言をするのは、この場にいる中でもより厳格と言う言葉が合いそうな、甲冑と大きなマントを身につけ、先端が蛇になった金色の杖を持った老人。年季の入った黒い三角帽と、長く伸ばした髭がその印象を強めている。
「
評議の結論と言っても過言ではない絶対の決定を告げるこの老人こそが、新生魔法評議院新議長となった『グラン・ドマ』。その意志には、これから一つでも
「二人を呼べ!ラハールと『ドランバルト』をこれへ!奴等の案を……実行させる時だ!全ては、魔法界の聖なる秩序の為に!!」
『聖なる秩序の為に!!』
グラン・ドマの高らかに響かせる声に、オーグ老師を除くすべての評議員も唱和。更に響くは拍手喝采。完全に場の空気は、
前へと進み始めた若き妖精とそれを守らんとする者たちに……秩序と言う陰の刃が這い寄ろうとしていた……。
おまけ風次回予告
ナツ「仕事だー!!」
ハッピー「あいさー!!」
グレイ「次!次の仕事ー!!」
エルフマン「漢はクエストー!!」
シエル「依頼はどこだぁー!!」
ルーシィ「な、なにこれ……!?なんか最近、みんながやけに張り切ってる気が……」
ペルセウス「ここの欄にまで声が及んでくるとは。どんだけアピールしたいのかがよく分かるな」
ルーシィ「アピールって……何の為にですか?」
ペルセウス「それは次回のお楽しみって奴だ」
ルーシィ「え~?気になるなぁ~……」
次回『S級魔導士昇格試験』
ルーシィ「やる気ある人たちの他にも、いつも通りの人たちもいるし、一体何が起こるって言うの……?」
シエル「さあ!次の仕事だーー!!」