一応!ハロウィンには、間に合った!!←
今まできちっとした時間に投稿していたけど、どうしても間に合わせたくてでも中々書けなくてこんな時間になっちゃいました。
チクショウ…昨日体調が崩れなければ…!
てなわけで今回は、ハロウィン特別番外編になります。
X784年10月31日 午後6:00……。
陽が落ち始め、空が暗くなった時間帯。マグノリアの街は普段の様相とは打って変わって、どこか奇妙な街と言う印象を持つ雰囲気を醸し出していた。
例えば、街灯近くにつるされているのは、ほんのりと光る顔のようにくり抜かれたカボチャ。
例えば、店のショーウィンドウに貼られた、可愛くデフォルメされたゴーストのステッカー。
更に例えば、あちこちの装飾品に付属されているのは、キャンディーやクッキーのレプリカ。勿論食べられない。
今日は10月31日。
この魔法溢れる世界にも、あの日が存在しているのだ。
秋に行われる、オバケとお菓子とイタズラの祭典・『ハロウィン』が……。
「ハッピーハロウィーン!!」
『ハッピーハロウィーン!!』
マグノリアにある南口公園。その敷地内にある大きな大木の前に、大勢の子供たちが集まっていた。本来であればこんな暗くなってきた時間に出歩くなど非常識と言えるだろうが、集まっている子供たちの集まりから外を囲むように、保護者と思われる大人たちが見守っている。その表情に、この状況を咎めるようなものは見られない。
そんな子供たちは、大木の前に立っている水色がかった銀色の短い髪の上に、オオカミのような二つの獣耳を付けて、身体には毛皮を模したローブや、手足にも毛皮が着いた手袋やブーツを付けた少年がかけた号令に、反芻するように元気よく返事した。よく見ると、返事を子供たちも、少年同様に十人十色なモンスターを模した格好をしている。
「みんな!今日は待ち待ったハロウィン!今からマグノリア中のお家を巡って、朝までにいっぱいお菓子を貰いに行きます!その間寝れなくなっちゃうけど、眠たい子はいないかな~?」
『いなーい!!』
獣耳を付けた狼男の格好をした少年……もとい狼少年とも言える仮装をした少年シエルが、自分よりも小さく幼い子供たちに向けて説明と共に問いかけると、比較的年長に当たる子供たちが一斉に分かっていたかのように声をあげて主張する。まるで最初から分かっていたかのように。つられて年少に当たる子供たちが真似をして「いなーい!」と続く、可愛らしい反応を見せる。
マグノリアの街に存在する家を巡り、お菓子を貰いに向かうと言うこのイベント。実は昔から
そして主催であるギルドから、子供たちの引率、及び案内、リーダーとして、同じく15歳以下の未成年の魔導士が抜擢されて、一緒に盛り上がる、と言うのが目的だ。魔導士として仕事を請け負いながら、日頃責任能力を備えているからこそ、適任と言える。
「さて、出発する前にもう一つ、今年は去年と同様俺とハッピーに加えて、一緒にみんなを連れてってくれる人たちがいます!」
そして引率する魔導士は一人とは限らない。シエル同様に案内役となっているハッピーに加え、今年は最近ギルドに加入した少女もこの場にいる。髪型は普段通り藍色のツインテールだが、頭にはオレンジ色のリボンが付いた三角帽、身に纏っているのは胸元にもオレンジのリボンが付いた可愛らしい赤いワンピースと、肩にかかった黒いハーフマント、オレンジと黒のストライプのものと、コウモリのマークがあしらわれた群青色のものと言う違うタイプの二―ハイソックスなど、魔女の仮装に身を包んだ両手で藁帚を持ってシエルの隣に立つように現れた少女。
「こんばん……じゃなかった、ハ、ハッピーハロウィン!私、
「緊張しすぎよ。相手は子供よ?」
そんな小さな魔女と言うべき恰好をしたウェンディは、ガチガチに体を固くしながら顔を赤くし、震えた声で自己紹介を行う。だがあまり慣れていないためか、自分たちよりも年下の子供が相手にも関わらず緊張をこれでもかと現わしているのは目に見えて明らかだ。彼女の傍らにいるウェンディ同様魔女モチーフの仮装をしたシャルルが溜息混じりに指摘する。ちなみに子供たちの反応は少々ポカーンと首を傾げた状態だ。
「リラックスリラックスだよ、ウェンディ。と言う事で、初めてで今ちょっと緊張してるけど、こちらの魔女の
「こ~う!!」
『は~い!!』
ガチガチに緊張しているウェンディを小声で落ち着かせながら、再び集まった子供たちの方へと向いて、目の前の子供たちに合わせてか元気よく右腕を上に突き上げてシエルが号令を告げると、ワクワクが今もなお収まらない子供たちは一緒になってシエル同様に腕を突き上げて元気よく返事をしていた。ずっとシエルの傍らに立っていたハッピーも一緒になって盛り上がっている。周りの大人たちが微笑ましげに見ている様子を尻目に、子供たちは大騒ぎしながら先導していくシエルたちの後ろに着いてき始めた。
「シエル……今、その……お姉さんって……」
「ギルドだと一番新入りだけど、この子たちにとってウェンディは間違いなくお姉さんだからね。後ろから見ていて、はぐれる子が出ないようにお願いね、お姉さん?」
紹介してくれた中で気になった単語について、ウェンディはシエルの隣を歩きながら尋ねてみる。すると笑みを浮かべながら彼は答えて、さらにナチュナルに片眼を閉じながら……ウィンクをしながらそうお願いを言ってきた。
「お姉さん……!!」
思わず見とれるような少年の仕草や、これまで末の妹のような扱いばかりだった自分が姉として扱われることへの新鮮味などで色々な喜びが溢れ出て、思わずウェンディは頬を紅潮させて目を輝かせながら笑みを零す。緊張はどこかに行ってしまったようだ。結果オーライと言ったとこか。
「お姉さんにしてはちっちゃいけどね」
「オイラたちも頑張るよ!」
「二人もよろしく頼むよ」
嬉しさに上機嫌を隠せないウェンディの様子を見ながらも、相棒たちであるエクシード達もそれぞれの反応を示す。行儀良く、少しばかりは羽目を外して、楽しい楽しい夜の始まりは告げられた。
「ところで……あんたそれ、何の仮装……?」
「カボチャのオバケ。ジョッキのダンダンとか言うヤツだよ」
「ジョッキ……?」
「『ジャック・オ・ランタン』の事だよ」
「あ、そっちだった気がする」
頭がカボチャになったように錯覚するほどの被り物と、尻尾にランタンを取り付けただけのある意味簡素な仮装をしたハッピー。やっぱり色んな意味で気になっていたそうだ。
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妖精たちのハロウィン
南口公園から子供たちが出発した同時刻。
街と同様にカボチャやゴーストを象ったハロウィン仕様の飾りつけに彩られたギルド
「じゃ~ん!!これ、どうかしら?」
そう言葉を発したのはルーシィ。だが彼女もまた仮装をしているが、頭にかぶった赤いフードのような布に、赤と黒を基調とした、胸元は大胆にも空けているものの、いわゆる村娘と言う印象が出る衣装だ。左腕には、カボチャのお菓子と思われるものが入ったバスケットを引っかけている。
そんなルーシィは、仮装した姿を誰かに見てもらおうと、真っ先に視界に入ったナツの元へと向かって行った。我ながら姿見で見た時には可愛らしく仕上がったと自負している、が相手が悪かった。
「あ?……普段のコスプレと変わんねーな」
「失礼ね!ってか、仮装とコスプレって厳密には違うものだから!!」
過去にメイド服やチアとかバニーガールまでも、何だかんだノリノリで着ていたルーシィを見てきたナツには新鮮味が薄すぎた。特に興味をちらつかせることもない薄いリアクションを見せたことで、ルーシィの顔が途端に険しくなる。
「つーか何の格好だそれ?返り血浴びた村人?」
「物騒にもほどがあるわよ!?『赤ずきん』よ、あ・か・ず・き・ん!!」
終いには着ている衣装をやけに物騒なものとして認識して驚かせる。ちなみにルーシィが口にした通り、ルーシィがしている仮装のモチーフは童話で有名な『赤ずきん』だ。
ちなみにナツも一応仮装している。普段着の上から先端がボロボロの黒いマント、頭にはねじれた黄色い角の模型を付けている。エドラスで堕天使を名乗っていたペルセウスの僕の一体・火竜ドラグニルの時の服装だ。
「ちなみに、あんたは何の仮装?」
「よく聞いてくれたな!ずばり“大魔王ドラグニル”だ!!」
「えーと……どういうリアクションをとればいいのかしら、あたし……」
エドラスでの堕天使ファルシー騒動を目にしていなかったルーシィからはどういう仮装だったのかを聞かれると、やけに自信満々な様子でナツは答えた。だが、色々な意味で返答の意味が分からない。大魔王……と言われれば確かにそうも見えなくもないが、どういう意図でそれを選んだのだろう。ホントに分からない。
「あ、ルーシィ!それもしかして赤ずきん?似合ってるね!!」
「ありがとう!リサーナは……ネコ?」
続いて、ルーシィの元に向こうから声をかけてきたのは、頭には髪の色と違和感なく映える白い猫耳のカチューシャ、そして服装は簡素な学生服に近いデザインの服を纏ったリサーナ。腰からはご丁寧に白いネコの尻尾が付けられている。
「ちょっと簡単なものしか用意できなくて……帰って来たばかりだし、昔仮装に使ってたものは、小さくなっちゃってたから入らなくて……」
ついこの前までエドラスで過ごしていたリサーナは、ハロウィンまでの短い期間でどうにか簡単でも出来ないかと苦心して作った仮装のようだ。それでも十分なクオリティに思えるが、ふとルーシィが疑問に思ったことを尋ねてみる。
「そっか……ちなみに、昔使ってたものって、何だったの?」
「ハッピーの着ぐるみ!顔だけ出せるタイプの!気に入ってたんだけどな~」
「へ、へぇ~……!そんなものがあるんだ……」
まさかのハッピーの着ぐるみの仮装を、二年以上前までは仮装で着ていたとの事。顔だけ出せるタイプ、と言う事はハッピーの口あたりにあるであろうリサーナの顔以外は、全部ハッピーで埋め尽くされてたのだろう。確かに可愛いだろうが、本物を知ってる身としてはどこか気が引けた。
「そう言えば、エルザの仮装も今年は凄いよね」
「エルザの?……って!?」
するとリサーナは後方にいたエルザへと視線を移し、既に見ていたらしくそんな感想を零している。まだ見ていないルーシィが気になって同じ方へと向けると思わず驚愕の声をあげた。何故なら……。
「あの時のゴスロリ衣装!!?」
まだウェンディが加入するよりも前の時、収穫祭で行われたミス・フェアリーテイルコンテストで優勝の決め手となった、とんでもないギャップ萌えを狙ったゴスロリ衣装だった。他の面々が仮装にちなんだノリをしているのに反して、エルザは鎧姿の時と変わらず堂々としているのでなおのこと新鮮味がある。
「ああ、今年の仮装をどうしようかと悩んでいたら、みんなから是非この服で頼むと言われてな。ふふ、やはりとっておきにした私の判断は間違っていなかった」
「エルザ、毎年ハロウィンの仮装にもこだわってたもんね」
「た、確かに、想像できるわ……」
普段から換装魔法を使う傍らで鎧や衣服に関しては妥協しない
「他には……あ、グレイ、何の仮装なのそれ?」
他の面々の仮装が気になったルーシィがギルド内を見渡すと、珍しく仮装を……と言うか衣服をちゃんと着ている青年グレイが目に入る。黒地に青い刺繍が入った、修道服のようにも見える正装。顔立ちが整っている故に絵にはなるが、普段の脱ぎ癖を知ってる身からすれば最早違和感だらけだ。
そんな仮装の内容を聞かれたグレイは、何故か少し疲れた様子で答えた。
「
「え、寝床!?色々と大丈夫なのそれ!?」
話を聞くと、グレイが住処としている家の、寝室のベッドの上に、クリスマスに寝ているよい子の前にプレゼントを置いていくサンタクロースよろしく、グレイが寝ている前にグレイの衣装とグレイ宛の手紙が置かれていたらしい。思わずベッドからひっくり返るほどの衝撃を受けたとか。
手紙の内容も中々に強烈で、簡単に纏めると是非今夜のハロウィンパーティで着てほしい。絶対に似合うからその姿を目に納めさせてほしい。この日の為に連日徹夜でこしらえた。サイズも調べて確実に着れるからお願い。もし着てくれなかったら絶望のあまり身投げしてしまう。
「そ、それって本当に大丈夫だったの?着ちゃっても……」
「気味悪くて捨てようとも考えたんだが、朝っぱらからどっかから妙な視線を感じてな……。これ着てる間はその視線が幾分かマシに感じるようになったから、一応着ておこうと思ってよ……」
「……視線……?」
と、グレイがぼやいていた言葉が気になってルーシィは軽く視線を左右に動かしてみる。そして見つけた。グレイから死角になっている物陰からの視線の正体を。
「はぁ、はぁ……!な、なんて反則的なかっこよさ、高貴さ、凛々しさ、美しさ……!あらゆる全てを兼ね備えるどころか超越している、グレイ様の
幸か不幸かグレイにしか目に収まっていない、全身を包帯でグルグル巻いただけの大胆なマミーの仮装をしている水色の髪をした少女が、常時興奮気味な様子を見せながらずっとぶつぶつと何かを呟いていた。10人が見たら10人全員が分かる。犯人お前だろ。
「えっと、取り敢えず、実害は……多分ないだろうから、大丈夫よね、きっと、うん」
「は?いきなりどうした?」
そんなジュビアからもグレイからも目を逸らしながら、自分自身にも言い聞かせるように捲し立てたルーシィに、疑問符を浮かべるばかりのグレイであった。何で気付かないんだよこいつ……。
余談だが、着てみた仮装衣装は本当にピッタリですんなり着れたらしい。まるで細かく採寸を測ったかのようだ、とグレイが呟くとルーシィは自分の顔が真っ青になるのを自覚した。早く別のメンバーのところに行こう、そうしようと硬く決意した。
その後も自分の仮装を見せながら、メンバーたちの様子も伺ってみた。
「東国に言い伝えられているモンスターの一種で、『キョンシー』って言うの!似合うかな?」
レビィは言葉に伝えた通り、東国の一部で見られる独特の帽子と衣装に、額には見た事のない模様の札を貼った妖怪『キョンシー』の仮装。
「何だってオレまでこんな格好しなきゃなんねぇんだ」
「そう言う割には様になってるぞ、ガジル」
ガジルは長い黒マントを羽織り、胸元には赤い蝶ネクタイを付けた『吸血鬼』モチーフ。相棒であるリリーはその眷属扱いでコウモリの羽を背中に付けている。本来なら口から牙も見せるアタッチメントもあるのだが、滅竜魔法の影響で犬歯が発達している彼には無用の長物だった。
「これかい?わたし的にはお菓子じゃなくて酒を貰おうとする悪魔、って思ってるんだけど」
カナはある意味王道的。普段通りの露出の高い衣装に悪魔の角と尻尾、更に背中には悪魔のイメージを模した羽までもついていて割とクオリティが高い。本人的にはトリック・オア・アルコールをしたいと言う趣旨が見えているが。聞く側じゃなくて聞かれる側だろうに……。
「そう言えば、ミラとエルフマンはそれぞれ化け猫とフランケンシュタインをやるって言ってたね」
「へえ~!二人とも似合いそう!!」
するとカナから、リサーナの上の姉弟であるミラジェーンとエルフマンの二人の仮装についてを聞く。二股の尻尾が特徴の化け猫と、ごつい人造人間のイメージがあるフランケンシュタイン。ネコ娘風の仮装をしているリサーナと相まって、姉妹側はとても似合ってる。エルフマンがフランケンシュタインと言うのも、違和感が無さそうだ。
「あらルーシィ、こんばんわ」
「あ、ミラさん!!」
噂をすれば何とやら。ミラジェーンがエルフマンを伴って彼女の元にやって来た。
継ぎ接ぎだらけの肌をメイクで作り、頭の部分にボルトのアクセサリーを付けたミラジェーンと、頭に猫耳、頬には猫髭、腰からは二股に分かれた尻尾を付けたエルフマンが。
「そっちー!!?」
カナの言葉を聞けば大方がスタンダートな仮装を思い浮かべるであろうイメージを、180度ひっくり返したストラウス姉弟。しかも本人たちにそんな意図が無いと言うのが驚きだ。ちなみにミラジェーンのフランケンシュタインは上手く作られているのかそこまで違和感がない。エルフマンも、化け猫と言うより虎と考えれば、まあそれ程の違和感を感じない。何と言うか、逆に凄い。
「えっと……マスター、その恰好は……?」
「
「そ、そうですか……」
極めつけにはマスター・マカロフ。妙にファンシーな服装に、背中部分からやけに奇麗な翅が生えている。
ツボにはまっているのか、頭に骸骨の被り物を被っているだけに留めているギルダーツがずっと笑いをこらえている。これは面白半分で誰も止めなかったな……?
「あとは……ペルさんは謹慎中だからどのみち分かんないし、シエルやウェンディたちはこの後来るのよね?」
話で聞いている限りでは、子供たちの引率を行っているシエルたちは、一通り街を巡った後このギルドを最後の目的地として、子供たちと共に来るとのこと。ギルドの入り口前には、これでもかと積み上げられたお菓子の山が置かれたテーブルがある。こんなに用意すると言う事は思った以上に子供がいるのだろうか、と疑問を抱いていた。
だが、その予想に反してギルド内にいるメンバーたちの大半が、シエルの名前を聞いた瞬間、身体を硬直させてガタガタと震え始めた。まるで恐怖の感情を前面に出すかのように。
「えっ!?ど、どうしたの急に!!?」
「お、思い出さないようにしてたのに……!」
「今年は大丈夫だよな……!?」
「こんだけあるなら誤魔化しは効かねぇはずだ……!!」
当然のように疑問を叫ぶルーシィも気にせず、ギルドの面々は若干恐々としながらブツブツと呟きあったりお菓子の確認を入念にしてたりしている。更なる疑問符が浮かぶルーシィに、カナが解説を行ってくれた。
「ルーシィも知っているとは思うけど、シエルと言えば、イタズラ好きでしょ?で、イタズラと言えば当然、お菓子をくれない家にイタズラを仕掛けられるハロウィンは絶好のイタズラデー。普通の家相手ならお菓子をくれれば普通に素通りしてるんだけど、
どことなく普段の気さくな雰囲気が表に出ていない真剣と言うべき表情でカナは語る。シエルと言えばイタズラ、イタズラと言えばハロウィン。そう、このハロウィンは一年に一度、シエルがこれ以上なくテンションが上がる日なのだ。そして、日頃からイタズラをギルドで仕掛けるシエルだからこそ、秘密裏に作られたルールがある。
「何かにつけてお菓子の種類や数に条件を付けたり、あげない限りイタズラをやめないと銘うって先にイタズラを仕掛けたりと、確実にギルドのメンバーにイタズラを仕掛けようとあの手この手を使ってくるのさ。だから、今年はどうやってそれを回避しようか、ってみんな総出で対策するわけ」
「ヒィ~!!」
だからやけにみんな怯えてたわけだ。現に今、ルーシィも待ち受けているであろう
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「もうこんなに……!」
手に持っていたバスケットいっぱいに入れられたお菓子の山を見て、ウェンディは目を見開いていた。マグノリアの街に点在する家を巡り、お菓子を貰いに行くこのイベント。今回子供たちの案内をしているシエルから、事前にウェンディはルールを聞いていた。
・お菓子を貰うかどうか尋ねる家は、灯りが付いている家のみ。
・必ず子供たちみんなで「トリック・オア・トリート!」と尋ねる。
・お菓子を貰うことが出来たら、大人しくその家を去って、次の家に向かう。
・お菓子をくれない家には、イタズラと称して飾りに用意していたトイレットペーパーを巻いたり、虫のおもちゃを家主に投げつけたりできる。
と言った、一般的なハロウィンにちなんでいるが、ウェンディにとってはハロウィン自体が初めて。十数件の家を周るだけで見た事のない量のお菓子が手に入るとは思わず、驚いていた。もう一つ驚いた事があるとすれば……。
「お菓子がないならイタズラだね!」
「まずは虫攻撃!その隙にランタンに巻き付けだ!!」
「オッケー、シエル兄!!」
イタズラする時に限って、子供たちの動きがやけにきびきびしている事だ。どうやら数人にはシエルから事前に指示が行き届いているようで、それに従って動いているから対策しているであろう家主が反応しきれていない。現に今も、ゴーストの仮装をしているロメオがおもちゃの虫を投げつけてビックリさせているところを他の子供たちが肩車を駆使してカボチャのランタンにトイレットペーパーを巻き付けている。
「毎年こんなのやってたのかしら……」
「でも、お菓子はどれも美味しそう……!」
「今食べてもいいんだよ?」
ウェンディ同様ハロウィンが初めてなシャルルは、お菓子を貰う為に家を周ったり、貰えなかったらイタズラしたりを繰り返す風習に若干呆れ気味の様子だ。だが貰ったお菓子は、甘いものが好きなウェンディにとっては目が輝く光景のようで、先程から視線を奪われている様子。近くにいた女の子がお菓子を一つつまみながら、移動中にも食べていいと教えてくれたため、キャンディを一個だけ口に入れて味を堪能することに。
「あ、包装紙のごみは別の袋に入れてね」
勿論、エチケットは忘れずに。
既に二時間ほどは街中を巡ったであろう。次に目当てとする家に着いた子供たちは次のお菓子を貰う為に呼び鈴を鳴らそうとしているところだ。
「あれ?この家って……」
ふと、その家を見たウェンディは既視感を覚えた。つい最近にも見かけた気がするその家を、目前になってまで思い出せなかったが、子供たちが鳴らした呼び鈴に応えて出てきた家主を見た瞬間、思わず声に出した。
「来たかシエル。それから子供たち、ハッピーハロウィン」
「あ、ペルさん!!」
片目が隠れるような髑髏の仮面をつけ、灰色のローブを身に纏った死神衣装に仮装しているペルセウス。そう。この家は先日ウェンディも訪れたファルシー兄弟の住居だった。今年はペルセウスが自宅謹慎の為、ギルドに行かずに家で待機している。思わず声を出したウェンディの姿を目にしたペルセウスは、彼女と近くにいるシャルルの仮装を見て反応を示した。
「お、ウェンディは魔女か?シャルルともお揃いだよな、よく似合ってるぞ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、じゃあ早速だけど兄さん……」
『トリック・オア・トリート!!』
仮装を褒められたウェンディが照れながらもお礼を伝えると、まずは当初の目的を果たそうとシエルが合図を出して、子供たちがそれに続く。そして問いかけを聞いたペルセウスは「少し待ってな」と一度玄関からリビングに戻ると、用意していたカゴいっぱいのお菓子を持ってきた。何度目にもなるが子供たちはそれに大喜び。
「ケンカせずに仲良く食べるんだぞ」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「いただきます!」
兄としての期間が長かったこともあり面倒見がいいペルセウスは、子供たちに対して言い聞かせるように呟いただけで素直にお礼を受け取る。話したいことも多々あっただろうが、あまり時間をかけすぎると家を周り切れない。程々に切り上げて次の家へと向かう事になった。
そして……時刻は23:30。もうそろそろ日を跨ごうとしている頃だ。
『トリック・オア・トリート!!』
「はいどうぞ。持っていってね」
恐らく明かりのついた最後の家からお菓子を貰い、これで街の家を巡る工程は終了だ。たんまりとお菓子を貰うことが出来て、子供たちも満足そうだ。
「どうだった、ウェンディ?初めてのハロウィンは?」
「うん、何だか楽しかった!イタズラの時は、何も出来なかったけど……」
「そういうの向いてないもんね、あんた」
優しすぎる性格故か、シエルは別格として普通の子供たちもやるようなイタズラもしようと出来ないウェンディには、少々難しかったのだろう。だが楽しめたことも間違いなく本心に近い。それはシエルも感じ取ったのだろう。答えに対して満足そうに頷いていた。
「じゃあ、最後の仕上げと行こうか。まだメインとなる場所が残ってるしね」
「ギルドの事?」
シエルの言う最後の仕上げ。子供たちが最終目的地として指定しているギルド
「みんなー!注目~!街の中のお家は全部巡ったので、これから
シエルの唐突の呼びかけに、お菓子を堪能していた子供たちがすぐさま反応してシエルの方へと視線を移した。ギルドに向かう。そう聞いた瞬間、何度もイベントに参加している子供たちの目が輝いたように見えた。やっぱり憧れの存在に感じる子たちが多いのだろうか、とウェンディは考えていたが……。
「その前に、ギルドに着いたら……今から指示する通りに、やって下さい」
「え?」
「あ……もうこの時点で嫌な予感がするわ……」
「ひょっとして予知?」
「予知が無くても分かるわよ」
どこか黒いものをちらつかせるシエルの笑顔を見たシャルルが反応した瞬間、色々と察した。ハッピーは特に変わった様子がないから、きっと毎年なのだろう。そして子供たちに行き渡る、
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最終目的地で子供たちが向かった先。大通りの一番突き当たりに存在している、マグノリアに住む者たちにとっては知らない者はいないとまで言えるギルド
「な、なんか……時間が迫って来れば来るほど、すっごく怖くなってきたんだけど……!」
「数時間前まで楽しんでたやつのセリフに聞こえねぇな」
「しょーがないでしょ!!あんなの聞かされちゃ!!」
彼女の様子に半ば呆れながら呟いた
「どーしよ……!シエルのことだから、絶対お菓子あげただけじゃイタズラしないだなんて都合よく引き下がって来れないだろうし……!!」
「ま、そこらへんはもう、祈るしかねぇよな。『どうか我らをお守り下さい』ってよ」
「あんた……実は仮装の役にはまってない?」
と、気を紛らわすような会話を二人がしていると、閉じていた門扉にノックが三回。瞬間、全員が談笑をやめて、扉へと注目を向ける。そして「こんばんわ〜」と聞き覚えのある少年の声が向こうから聞こえたかと思うと、それ以外に確認もせず門扉を少しゆっくりに開け放った。
扉の向こうにいたのは、純粋に満面の笑みを向けている幼い少年少女がそれぞれオバケの仮装した集団。扉を開け放ったのは、確実に幼い子供たちとは別ベクトルの満面の笑みを向けたオオカミ少年。
「ハッピーハロウィーン」
「来やがったぁ!!」
「お菓子だろ!お菓子が欲しいんだよな!?」
「食べ切れないほど用意したわよ!!」
「好きなだけ持ってきやがれ!!」
代表であるオオカミ少年が軽い調子で手を上げながら挨拶した瞬間、ギルド内のメンバーは入り口すぐ近くに置いてあるお菓子に加えて、各々が手に持っているお菓子も見えるように掲げる。悪戯なんかさせてたまるか、と言う鬼気迫る姿勢を全面に出して必死に子供たちに向けて差し出してくる。
が、オオカミ少年はその様子にも目もくれず、顔に浮かべていた笑みを変えた。目だけが怪しく白く光り、顔全体が影に覆われ、口は三日月を彷彿とさせるほど吊り上がる。そして……。
「トリック・ア〜ンド……?」
『トリックーーー!!!』
訳:お菓子はいらねぇ、イタズラさせろ!!
『ハロウィンの趣旨ガン無視じゃねぇかァーーー!!!』
誰もが凍りつく真っ黒な笑みを浮かべながらオオカミ少年が放った言葉に、天使のような悪魔の笑顔で子供たちがレスポンス。最早お菓子よりもイタズラを目的としたド直球な実質一択の問いに、驚愕、混乱、絶望、怒りと言った様々な思いが込められた悲鳴混じりのツッコミを大人たちは思わず張り上げた。
「日付は変わってもハロウィンは朝まで終わらないぞ!さあ、イタズラの時間だー!!」
『わぁ〜〜!!』
『ギャァーーー!!!』
そしてオオカミ少年の指示が飛び、無邪気な子供たちは一斉にギルドに雪崩れ込んでギルドメンバーたちに押し寄せる。子供相手に魔法を撃つことができない大人たちは途端に餌食となっていく。
「上等だ!イタズラしたけりゃかかってこいやぁ!!大魔王ドラグニルが相手になってやる!!」
そんな逃げ惑う大人たちの中で、ほぼ唯一果敢に迎え撃つ大魔王の仮装をしたナツ。彼としてはシエルとほぼほぼケンカに近いイタズラを望んでいるところだが……。
「大魔王か……よーし!我こそはと言う勇者は立ち向かえー!!一斉攻撃ー!!」
『おぉーーー!!』
「え、ちょっ、待っ!?数多すぎ……!!」
ナツの近くにいた子供たちがシエルの指示によって一斉にナツに突撃。彼からすれば予想だにしてなかったまさかの展開に、さっきとは打って変わって動揺を露わにする。
「喰らえナツ兄ー!!」
「ぐもぉ!!?」
一斉に子供たちにあちこちを封じられたと思いきやロメオから盛大に頭突きを喰らうナツ。ある意味一番ダメージが大きいような……。
「髪、キレー!」
「結んだほうがいいかな?」
「編んだ方が可愛いよ!」
「そ、そうだろうか……?」
エルザは主に女の子たちからの被害(?)を受けていた。長くサラサラな緋色の髪に数人が集まり、思い思いにいじり始める。好き放題にいじられるのもイタズラの一つだろうが、髪を褒められる方がエルザにとってはむず痒そうだ。
「あ~!オレの服が!!いつの間に脱がしやがったんだガキ共!!」
「いや、まだ何もしてない……」
「最初から裸だったよ?」
グレイはいつの間にか仮装で着ていた衣装が自分の身体から無くなっていることに気付き、イタズラで脱がされたことで怒りを見せている。が、近くにいた子供たちはそんなことはしておらず、グレイが勝手に脱いだだけである。足元に散らばってるし。
他にもまだ使いきれてなかったトイレットペーパーを巻かれたり、虫のおもちゃを投げつけられたり、ルーシィには事前にシエルから指示があったのか、ハッピーを筆頭に記しきれないあれやこれやが無邪気かつ無情に襲い掛かっている。
そんな子供たちは楽しそうに、大人たちは阿鼻叫喚と言ったギルド内を、最早言葉を失った茫然とした様子で眺めながら、人知れずウェンディとシャルルがマスター・マカロフの元へと辿り着いた。
「マスター。トリック・オア・トリート、です」
「ん?おぬしらはイタズラせんでええのか?」
同様に騒がしくなっているギルドの様子を半ば面白そうに眺めていたマカロフは、シエルたちと違って一般的なハロウィンの挨拶をしてきたウェンディに首を傾げて問いかける。一緒にいるシャルルも、恐らくは彼女と同様だろう。
「シエルが、私はイタズラをするのに向いてないだろうから、マスターからお菓子を貰うように、って」
「実際その通りだし、貰えるだけ貰っておくことにするわ」
「そうか。じゃあほれ、二人で仲良く食べるんじゃぞ」
シエルの事だからマスターに対しての過度なイタズラはよした方がいいと判断したのだろう。そして性格上イタズラするのに不向きなウェンディに、マカロフの元に行くようにと指示を出した。頭の機転が利くシエルなら、それぐらいはするだろうと予測がついた。
「ありがとうございます!」
マカロフからネコの形をしたクッキーの包みを二つ受け取ったウェンディは、笑顔を浮かべてお礼を告げる。そしてまだまだ喧騒が止む気配のないギルド内……その中で子供たちのイタズラの手助けに尽力しているシエルの様子を見ながらウェンディは笑みを深めた。
「シエル、楽しそう……!」
「ホント。イタズラしてる時は、いつも以上にガキっぽいわよね」
ウェンディと違ってシャルルは呆れ果てていたが、普段は他の子どもたちのように自分を面に出さないシエルが、思うがままにイタズラを楽しんでいる姿は妙に新鮮。その一面を垣間見ていることに、ウェンディはどこか嬉しさと言うか、安心感を覚えている。
「ガキがガキでいられる時間はそう多くない。シエルも今でこそ一番子供のように振舞っておるが、来年の今頃にはもう立派な大人の仲間入りじゃ」
マカロフの言葉を聞いてウェンディはハッとした様子で気付く。そうだ。シエルは今14歳。15歳から成人として扱われるこの世界では、シエルが見た目通りの子供としていられるのも一年を切っている。
「それにシエルが気付いていない訳もないじゃろう。ガキがガキらしく振舞えるのもあと僅か。ワシにとっては、ギルドの者たちの大半が
子供が子供らしく……。自分も世間一般から見ればまだ子供だ。早く大人になりたいと言う気持ちが無いと言い切れない部分があったが、シエルの考え方は浮かばなかった。いや、まだ子供でありながら大人のような考え方を持ち、大人に近づいてきたシエルだからこそ浮かんだことだったのかもしれない。
「シエルが子供たちの先頭に立って子供の代表として振舞えるのも今年が最後じゃ。来年からはウェンディ、おぬしがシエルの代わりに子供たちを導いてやってくれ」
「私が、ですか……?」
「シエルのやり方を真似しろとは言わんし、無理に子供らしくしろとも言わん。じゃが、少なくとも自分の本心に蓋をしたりせず、伸び伸びとやっていけたらよい。子供でも大人でも、楽しくやっていけるためにな」
いつかは大人になっていく。そんな子供たちを、今度は自分が導く。シエルが色々と自分に教えてくれているのは、こうなる事を知っていたからなのか。あるいはシエルも、元は自分と同様導かれる側だったのだろうか。
楽しいハロウィンのイベントを通じて思いがけないことをウェンディは学んだ。尚も楽しそうに盛り上がるギルド内を目にしながらも、彼女はマカロフの問いに「はい!」と何かを決めたように頷いた。彼女の返答を聞いたマカロフには、笑みが浮かぶ。
今日はハロウィン。街中でオバケたちがお菓子を求め、イタズラを仕掛ける。いつかは終わりが来るだろう。子供と言うものを過ごせる時間と共に。けどせめて、今日だけは……。
朝まで寝ないで、子供らしく盛り上がろう。少女は一人、そんな思いを秘めるのだった。
折角季節ネタと本編時間軸が上手く噛み合ったので書きました。
けど他にも色々と書きたいシーンがあったのに泣く泣くカットしちゃったりはしょった部分もあるので、後日加筆修正をかける…かもしれない←
次回からはまた本編を進めていきます。しばらく番外は置いておくかも…?
S級魔導士昇格試験、シエルのパートナーは誰になるでしょう?
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ルーシィ
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ウェンディ
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シャルル
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パンサーリリー