こっからレイドもどんどんやってくとあっという間に時間が過ぎていく…!仕事は連日残業続き…!執筆の時間をください!!←
さて本題に戻って、今回から天狼島編に入ります!前回始めたクイズアンケート、ぶっちぎりで彼女が一位を取っていますが、気になる正解は次回更新の話で発表いたします!
第108話 S級魔導士昇格試験
12月。暦上では、一年の中で最後の月とされ、人によってはこの月に差し掛かった時点で一年の終わりを感じ始める者も多いだろう。夏の暑さが引いてきた秋の涼しさが更に一転、冬を感じさせる突き刺すような寒さを感じさせる。
そんな12月は、遥か東洋の国では別名を“
だがそれはあくまで東洋の国での話。遥か東方に存在する国の習慣とはほぼ無縁なフィオーレ……更に言えば国内の街の一つ、マグノリアに存在する一ギルド……
と、思われるだろうが……。
「仕事仕事ーー!!」
「あいさー!!」
いつもと変わらず騒いで暴れて盛り上がる、が通常運転のそのギルドは、この年末に入ってから、その様相を変え始めていた。いつも以上に張りきった様子でナツが依頼書を手に取りながら駆け出していき、ハッピーもそれに続いていく。
「ちょっと!仕事ならあたしも……!!」
「悪ィ!この時期は一人で行くんだ!!」
「戻ってきたら遊んであげるね!!」
仕事に向かうのなら同チームのよしみで同行を……と、カウンターに座ってミラジェーンと話していたルーシィが声をかけるも、振り返りながらも止まらずにナツが一言謝りながらそう告げる。相棒のハッピー以外を伴わずに足早に仕事へと向かっていくナツたちに、ルーシィは不満そうに首を傾げた。
が、よそ見していたナツは前方からある人物が近づいてきていたのも気付かずに正面衝突してしまった。その衝突した相手を視界に収めた瞬間、いつもムカつく下着姿の黒髪の青年と額をぶつけて睨み合い始めた。
「前見て走れよこのドタバタツンツン頭!!」
「テメーこそ邪魔なんだよムッツリパンツ!!」
ふとした拍子にケンカを始めるこの光景も、最早見慣れた日常茶飯事。こうなった時は必ず長くなる……と言うのがいつもの事なのだが、今日は……と言うよりここ最近は違った。
「二人ともケンカしてる時間あるの?」
「「はっ!そー言えば!!」」
ハッピーに諭されるように指摘を受けると、互いへの怒りもすぐに引っ込めてナツはギルドの外に、グレイはミラジェーンのいるカウンターへと駆けていく。あっさりケンカを終了させる光景は、普段の様子からは想像できない。
「ただいまァ!」
「おかえりグレイ。服は?」
「それどころじゃねぇ!次の仕事これだ!!」
「はい、行ってらっしゃい」
「え、もう次の?」
ナツと入れ替わる形でギルドに戻ってきたグレイが、挨拶もそこそこに、帰って来たばかりだと言うのにすぐさま次の依頼書を持ってきてミラジェーンに受注を知らせる。受付嬢である彼女は慣れているのかそのまま見送ったが、いつになくやる気を見せる彼の様子にルーシィは目を見張って驚いている。
だが、これだけには終わらない。
「姉ちゃん!オレはこの仕事行ってくる!!」
「仕事仕事ォ!ボクはこれ行くから!!」
「私はこの仕事ね!!」
「おいてめ……それはオレが先に……!」
「知るかよ取ったもん勝ちだ!!」
「「チーム・シャドウギアはこの時期解散だぁ!!」」
次々と魔導士たちが我先にと依頼書をもってカウンターに押し掛け、先に座っていたルーシィは結果的に椅子から追い出される構図に。一体何がどうなっているのか。それを問いかけるも詰め寄られているミラジェーン本人は「明日になればわかる」の一点張りだ。
「最近皆さんスゴイやる気ですね」
「ホント騒がしいギルドね」
離れた位置のテーブル席に座りながら、その光景を眺めて不思議そうな表情を浮かべて呟くのは、赤い髪留めで藍色の髪をツインテールにした少女ウェンディ。テーブルの上に立ちながら呆れる様に続けた相棒の白ネコシャルル同様、急に仕事熱心になり始めたギルドメンバーを意外そうな目で見ている。
そんな少女と白ネコに、どこか馴染みがありそうな反応をしながら、彼女に近い席に座っていた白銀のショートヘアの少女リサーナが笑みを零しながら説明をし始めた。
「そっか、そう言えばもうこの時期だったっけ」
「何かあるんですか?」
「うん。毎年この時期になると、みんな単独で多くの仕事を受けてアピールするの」
「アピール?」
「何でそんな事?」
「う~ん……明日辺りには多分分かるだろうし、それまでのお楽しみ♪」
説明をしてくれるものの、その理由を細かくはまだ明かしてはくれない。二人揃って尋ねたことを先送りにされたことでウェンディの疑問はさらに増える。シャルルははぐらかしたリサーナに向けて怪訝の目線を向けていた。
「ただいまー!!さあ次の仕事だぁー!!」
「あ、シエルも!」
すると普段とは違い、そして他の者たち同様せっせと仕事に勤しむ魔導士がここにも一人。以前より少し広くなった金色のメッシュが混じった水色がかった銀髪を揺らしながら、荷物袋と依頼書をそれぞれの手に持ってギルド内を慌ただしく動く。
「張り切ってるな、シエルも」
「じゃあ、シエルもやっぱり一人で行くんですか?」
そんな弟とは異なり、ウェンディたちのテーブルに近づきながら声をかけてきたペルセウス。忙しなく動いているシエルの様子に一瞬だけ目を細め、次いでウェンディからの問いに答えた。
「ああ、恐らくは。試しに同行してもいいか聞いてみな。謝りながら断ると思うぞ?」
「え?それは……シエルに迷惑なんじゃ……」
「聞くだけなら別にいいんじゃない?やってみなよ」
何やらシエルを困らせてしまいそうな提案を聞かされて、少し萎縮するウェンディであったが、リサーナまでその提案に乗っかってきたために「じゃ、じゃあ……」とシエルの方へと向かって行く。物は試し、といった流れだろう。
「けど、ウェンディからお願いされたらさすがに連れてってくれるんじゃない?」
「どうかな。その辺の自制は結構しっかりしてるはずだから、我慢できると思うが」
意中の相手であるウェンディからの頼みならシエルも断れないのではと考えてるリサーナと、いくら彼女の頼みでも今の時期はどうしても譲らないのではと予測するペルセウス。両者別々の意見を持って、シエルの選択を予測する。
「……断るみたいよ。大分葛藤するけど」
「ん?」
「え?」
だが、これまで口を閉じていたシャルルが突如分かっていたかのような結果を口にした。二人揃ってそんな彼女の言葉に首を傾げていると、一方で今にもギルドを出ようとしていたシエルに、ウェンディが声をかけていた。
「シエル」
「あ、ごめんウェンディ、俺これから仕事行かなきゃ……!」
「その仕事、私も一緒に行っていいかな?」
駆け足で通り過ぎながらウェンディに謝罪のジェスチャーと共に仕事に行くことを伝えようとしていた少年の足が、彼女の言葉を聞いた瞬間ピタリと止まる。足だけでなく表情も驚愕のもので固まり、ウェンディの方へその顔を向けている。
「ダメかな……?」と言いたげな表情を(無自覚で)浮かべているウェンディを見てシエルの固まっていた表情が歪んだ。今の時期は一人で行かなければいけないと自分に課したルールと、好きな女の子たってのお願いを聞いてあげなければと言う衝動が彼の胸の内でせめぎ合っている。
口を紡ぎ、目を瞑り、頭と心で正面から衝突する相反する思いを競わせたシエルが下した決断は……。
「ほ……!!」
「ほ?」
「ほんっとに!ごめ~~ん!!今度絶対埋め合わせするからぁ~~~!!!」
そのセリフを大声でギルド中……どころか周辺に響かせながら仕事に向かう為に走り去っていった。結果は、長い葛藤の末に一人で仕事に行った。シャルルの予想が細かいところまで的中した。
「ペルさんの言ったとおりになりました」
傍から見れば奇行に映ったシエルの返答に少しの間呆然としていたウェンディだったが、我に返って先程までいたテーブル席に戻ると同時に、驚き混じりに結果を報告。ペルセウスの……と言うより、後から告げたシャルルの方が細かいところまで当てていたのだが……。
「シャルルの方がより正確に当ててたがな……」
「よく分かったよね」
「まあね。と言っても、あいつがどう答えるのかが“予知”で見えただけなのよ」
予知能力。生まれた時からシャルルに備わっていた彼女の特殊な力だ。エクシードの女王であり彼女の母(本人はまだその事に気付いていないが)であるシャゴットから、その力を持っていることを聞かされた。それ以降力を意識し始めたところ、なんと少しだけコントロール出来るようになったらしい。シエルがウェンディにどう答えるのかも、先んじて未来を見たからとのこと。
「ほう、成程な」
「スゴイね、シャルル!」
一般の人間はもとより、優れた魔導士でも身につけられるか怪しい予知の力。それのコントロールがきくようになったことに対して、感嘆の想いを抱くのも自然な事だ。
「ねえ、私将来誰のお嫁さんになるの?」
「!?」
「そんなに先の未来を見るのは無理。ん~……そうね……」
なんかほぼ勢いに似た感じでリサーナがとんでもない質問をしたことにペルセウスが仰天と言った顔を浮かべるも、誰も気付かないままシャルルが今はそれを知ることが出来ないと遠回しに言ったことですぐに安堵の表情に変わる。もし自分じゃなかったら……なんて考えると心臓が止まりそうだったので助かった。
それはそうと、シャルルは直近の変化する未来を予知し、実際にそれが確かなものかを証明する為に周囲を見渡し、ある人物に目を付けた。それは一人新聞を読んで佇んでいる様子のマカオ。
「例えばあそこにマカオがいるでしょ?もうすぐワカバが来て、ギルドの若者について会話が始まるわ」
意図的にコントロールして見れるのはどうやら短時間のようで、この後に起きると思われるマカオとワカバの若者についての会話を一例に挙げる。もしシャルルの言ったとおりの事が起きたならば、彼女の予知は的中となる。こちらも何やら緊張してきた。
「よォ、マカオ」
「おう」
すると予知の通り、マカオの元にキセルをふかしながらリーゼントヘアが目立つ同年代のワカバが声をかけて近くの席に座って来た。彼が来ること自体も言い当てたことにウェンディが僅かに高揚するも、予知の内容はこの後が肝心。ペルセウスとリサーナがウェンディに静かにするよう注意して、その後の様子を見守る。
「今年もこの時期が来たねえ」
「懐かしいモンだな」
「オレらも若ェ頃はなあ」
「燃えてた時もあったよな」
どうやら仕事を熱心に受けている若者世代の姿を見て、昔を懐かしんでいるようだ。ギルドの若者について、と言うシャルルの予知とも合致している。これはどうやら、本物か……?
「今の若ェモンはすげぇよ実際。
ケツとか!」
「ケツかよ!?」
「あれ?お前チチ派?」
おや?何やら会話の雲行きが怪しくなってきたような……?自分の尻を突き上げて左右に振りながら言ったワカバの言葉とそれにツッコミを入れたマカオを皮切りに、だんだん方向性がおかしくなっていく。
「オレァガキいんだぞ!!若ェ女のケツ見たってよう!!」
「足ならどうだ?」
「そ……そりゃかぶりつきてぇ!つか踏まれてぇ……!!」
最初は子持ちであることもあって下世話な会話に抵抗し、反論さえしていたマカオだが、最終的にはおっさんたちが二人揃って同レベルの会話で盛り上がり。しまいには周辺に響く大笑いをするにまで至った。一応は……ギルドの若者(女)についての会話である。
「す……スゴイ!ホントに当たったね!」
「会話の内容はヒドいけど!」
「あーゆー大人にはなりたくねぇな……」
「こんなの当てても仕方ないんだけどね……」
中身はどうあれ予知は当たった。ウェンディもリサーナも、彼女が言い当てた予知にそれぞれ盛り上がりを見せている。ペルセウスは、同じ男性としてだらしない大人たちにどこか落ち込んでいるようにも見えるが。
「だが確実な未来を数分先とは言え見れるのはスゴイことだぞ?戦いにおいては敵の動きが丸わかりと言っていいし。ウェンディとの連携で大いに役立つはずだ」
「最終的にそうできるのが理想と言えるけど……まだ完全にはコントロールできないの」
予知の内容があまりに残念だったことでどこか自虐的にも聞こえる言葉を呟くシャルルに、フォローも交えてペルセウスは予知の有用性を語る。時には危険な仕事を請け負ったり、急な戦いに巻き込まれたりする上で、その危険を事前に予知と言う形で察知することは、強いアドバンテージだ。
そんなシャルルを中心としたやり取りや、ギルド内で剣同士の模擬戦を行うエルザとリリー(エドラスにいた時の屈強な体格は変身魔法の要領で戻れるらしい)に、彼らの様子をデッサンするリーダスやのんびり眺めるビックスロー。せかせかと仕事をする者たちとは違って、全くいつも通りに過ごす者たちもいるから、ルーシィには余計に何が何だか、と言ったところだ。
「明日になればわかるわよ」
そしてその詳細はやはり、ミラジェーンによってはぐらかされる。明日になれば。先程から彼女はそればかり言っているが、明日になったら何が起こると言うのだろう……?
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翌日。マグノリアの天候は生憎の曇り空。だがギルドの中には、マスター・マカロフによって集まれる魔導士は全員呼ばれたらしく、普段見慣れない者たちも含めてほぼ全員が集合している。そして目につく者たちのほとんどが、何かを今か今かと待ちきれないと言った様子でソワソワしているように見えた。
「すぅ~……はぁ~……!」
そしてここにも、その例に漏れない者が一人。昨日まで次々と仕事をこなして忙しそうにしていた少年シエル。どこか落ち着かず先程から深呼吸を繰り返している。その様子を、シャルルを抱えながら斜め後ろに立って見ているウェンディは不思議そうに呟く。
「何だか緊張してるみたいだけど……マスターから重大発表があるって聞いてるけど、それが関係してるのかな?」
「興味ないわ」
落ち着きなく緊張を露わにしているのはシエルの他にはナツやアルザック。比較的落ち着いているように見えるも、緊張走るこの瞬間を噛みしめているらしいグレイとエルフマン。ギルドのメンバーがざわつく理由に心当たりがないガジルやリリーは疑問符を浮かべるばかり。周りに見える見知った顔はこの辺りか。
「やっと秘密が分かる……!」
ここ数日の間、ルーシィにとっては不思議としか思えなかった日々。その真相をようやく知る機会を得たことで、場の緊張が彼女にも伝わってくる。ルーシィだけではない。彼女の近くに立つジュビアも、どこか落ち着かず、緊張にソワソワしているように見える。
「ジュビア、ドキドキします……!
グレイ様を見てると……!!」
「あんたもう帰れば……?」
訂正。ジュビアに落ち着きがないのは、グレイが絡む時となるといつもの事であった。いっそ清々しいブレなさに、思わず辛辣なツッコミがルーシィから入る。
ギルドの中が多種多様の雰囲気に盛り上がっていると、ギルドマークが描かれた天幕で隠されたステージが、幕を開くことで露わに。そしてステージの上には中央にマスター・マカロフ。一歩引いてマカロフの右にエルザ、その隣にペルセウス。左にはミラジェーン。その更に左後ろにギルダーツ。
ステージの上に、マスター及び、在籍中のS級魔導士たちが勢揃いしていた。
「マスタ~!!」
「待ってました!!」
「早く発表してくれ~!!」
「発表?何をキナ?」
その姿を目にした魔導士たちは、ほぼ一様に更なる盛り上がりを見せている。中には何を発表するのか首を傾げている者もいるが、その疑問に答える者は盛り上がる者の中にはいない。今、この場で発表されるが故に、必要ないからだ。マカロフは一つ咳ばらいを挟むと、ギルド内全員に伝わる声で、発表を始めた。
「
瞬間ギルド内に溢れる魔導士たちの大歓声。一年以上は在籍している魔導士たちにとっては盛り上がること必至のこのイベント。最前線で活躍をするS級と言う称号を得るチャンスを掛けたイベントだ。
「来たぁ!!」
「S級魔導士昇格試験!?」
「燃えてきたぞ!!」
その発表にシエルやナツも大きくやる気と盛り上がりを見せ、ルーシィは初めて明かされたその大型イベントに大きく驚いている。その後もさらに盛り上がっていた魔導士たちであったが、ステージに立っていたエルザ、ギルダーツが静かにするように宥めると、途端にそのざわめきは収まった。ただならぬ雰囲気を纏った二人に閉口したのもあるが、更に先に発表される内容を待ちわびていると言うのもある。
「今年の試験会場は、『天狼島』!!我がギルドの聖地じゃ!!」
ほとんどのメンバーは一度は聞いたことがある。
どのような試験なのかルーシィが気になってメンバーに尋ねてみるが、詳細はあまり明かされていない。分かっているのは毎年ハードなものが待っていると言う事。合格すればS級になれると言うのもあって、当然と言えば当然だ。
「各々の力!心!魂!ワシはこの一年、見極めてきた……。参加者は九名!!」
そしていよいよ明かされるのは、誰もが気になっているであろう、S級への切符を掴むに値する魔導士たちの名。多くの者たちが期待し、緊張の面持ちを浮かべる。この大人数から、たったの九名。しかし、マカロフと共にステージ上に立つ魔導士たちと、同じ舞台に建てる可能性を持ったものと考えれば、九名も存在するとも言える。
ほとんどの者が固唾を飲んで待ち受ける中、マスター・マカロフは、その者たちの名を発表し始めた。
「“ナツ・ドラグニル”!」
「おっしゃあ!!」
「やったねナツ!!」
一人目は桜色の短い髪と白い鱗柄のマフラーが特徴的な
「“グレイ・フルバスター”!」
「やっとこの時が来た……!」
二人目に呼ばれたのはナツのライバルと言える存在。黒い短髪で普段とは違い冬に向いたコートを着ている氷の造形魔導士のグレイ。意外にもナツともども今回が昇格試験初参加であり、長年待ち侘びたチャンスがようやく巡ってきた事で、氷のように静かに佇みながらも胸の内からは反対に燃え上がるような闘志が込み上げている様子。
「“ジュビア・ロクサー”!」
「え?ジュビアが……?」
三人目は意外にも今年に入った面々からの選出。先端が外側に巻かれた水色の髪をした、暗めのダウンコートに身を包んだ水の魔法を扱う少女ジュビア。
「“エルフマン”!」
「漢たるもの、S級になるべし!!」
「頑張って!エルフ兄ちゃん!!」
四人目はギルド内でも屈強な体を持った男……ならぬ漢エルフマン。姉であるミラジェーンは引退したとは言え元S級魔導士。そして今年に入り、今までは使いこなせなかった全身
「“カナ・アルベローナ”!」
「…………」
五人目は焦げ茶色のウェーブがかかった長い髪を持ったギルド内でも酒豪であり、同年代では最古参の女性。カードの魔法を使いこなす実力者カナだ。過去にも数回にわたって試験の参加者に選ばれており、多彩な効果を秘める彼女の魔法は攻防に補助、あらゆる場面で活躍できる。しかしそんな実力者として選ばれたにしては、周りの称賛の声に反比例してどこか浮かない表情を浮かべて俯いている。
「“フリード・ジャスティーン”!」
「ラクサスの後を継ぐのは……」
六人目もまた実力者。かつてのS級魔導士としてギルドに在籍していたラクサスの親衛隊・雷神衆のリーダーである術式魔法の使い手フリード。黄緑色の髪に隠された目元に闘志を込め、静かな声で憧れの存在がかつて立っていた次元を目指す意志を見せる。
「“レビィ・マクガーデン”!」
「私とうとう……!!」
「「レビィがキターー!!」」
七人目に選ばれたのは小柄でありながら多くの知識を有する少女。水色のショートカットにバンダナを額周りに付けたレビィは、夢にまで見たS級をかけた試験の舞台に立つ資格を得たことで、頬を紅潮させて喜びを露わにしている。だがそれよりも喜んでいるのが、彼女をチームリーダーとしているシャドウギアのメンバー、ジェットとドロイ。ある意味自分たちが選ばれるよりも嬉しそうだ。
「“メスト・グライダー”!」
「メストだ!」
「昨年は惜しかったよなぁ~!」
八人目は背丈を見ればエルフマンにも引けを取らない長身。坊主頭に近いほど短い黒髪。右目と耳の間に大きくつけられたバツ印の傷が目立つ赤とオレンジの縦ストライプ柄のコートを着た男性。『メスト』は、去年も合格寸前で惜しくも落ちてしまった位置まで辿り着いた実力者。周りの魔導士たちがそんな話をしている中、そのメストは呼ばれたことに関しての反応を見せる訳でもなく黙して佇んでいる。
「そして、最後の一人は……」
ここまでで呼ばれたのは八名。試験に参加できるのは残り一人。ほとんどの者たちが自分が呼ばれないかと冷や冷やとした様子で待ち構えている。その中には、ここまで呼ばれず胸の中の心臓をこれでもかと動かされている少年も含まれている。
ステージ上に立つ憧れの存在。ギルドの魔導士となる前から、兄のようになることを目標にし続けてきた。それを果たす為には“今年”、この試験を受けて合格する他に無い。緊張のあまり、ほぼ一瞬と思われるマスター・マカロフの静寂が、まるで永遠に続くかのように錯覚している。
すると、ステージに立っている兄と目が合ったように見えた瞬間、その兄が自分に向けて笑みを浮かべたのが見えた。
「“シエル・ファルシー”!」
「……!!よっしゃー!!」
兄が向けた笑みの意味を考えるよりも先に、己の名が耳に届いたことが、その考えを吹き飛ばした。我に返ったように瞬きを数回、そして溢れ出る歓喜を抑えることも出来ず、
「ああぁ~……今年もダメだった~……」
「来年もあるじゃない、ね?」
「「レビィが選ばれたー!ヒャッホォーイ!!」」
「ついにナツが来たか!」
「グレイもだ!」
「シエルまで来たのは驚きだよな!」
試験参加者の名が出揃い、呼ばれなかった者たちは各々また異なった反応を見せる。また参加することすら叶わず嘆くアルザックをビスカが慰め、レビィが選ばれた喜びを抑えられずジェットとドロイが小躍りして回り、最近急上昇を続けるナツたちを始めとした面々の参加に盛り上がる者たち、ベテランの位置にいる者は一喜一憂する若い世代を暖かい目で見守っている。
「そっか!このメンバーに選ばれたいから、みんな自分をアピールしてたのね!」
「わあ!みんな頑張れー!!」
12月に入ってからの数日間、謎に包まれていたギルドの面々の行動理由を理解したルーシィ。S級と言う高い壁に挑む資格を得るために奮闘していたことを察した彼女は納得した。そして試験に臨もうとするメンバーに向けて、ウェンディが応援の声をあげる。
「今回はこの中から合格者を一名だけとする!試験は一週間後。各自体調を整えておけい!!」
「一人だけキナ?」
「本命はフリードか?」
「メストでしょ」
「ナツとグレイもいんぞ!!」
「個人的にはシエルも頑張ってほしいな!!」
九名の受験者に対して合格できるのは一名だけと言う狭き門。これだけでもハードに感じられる。受験者に呼ばれなかったメンバーから、合格者の予想があちこちで飛び交っているが、正直誰が合格してもおかしくはない。
時に。ここに一人、発表された受験者たちに関して、納得いっていない者が一人いた。
「な……何故オレが入ってねーんだ……!?ジュビアが入ってんのに……!!」
それはガジルだ。ナツと同じ魔法を使う
「お前のギルドでの立ち位置は聞いたぞ。信用されてないようだな」
「い、いや違う!!言えねえけどそれはねえっ!!あ、ああっ……!言いたくても言えねえんだよ!!!」
そんなガジルに、傍で彼のショックが込められた声を聞いていたリリーが事前に聞いていたことに関して話題を振る。だがガジルには、「信用されていない」と言う単語には完全に語弊がある理由がある。発表、及び受験者の選定をしたはずであるマスター・マカロフに、自分は信用されている自負と確証があった。マカロフを除くギルドメンバーには言えないが、主に
が、何も受験者の選定をしていたのはマカロフだけではないし、リリーがガジルの事を聞いたのは別の人物からだ。
「エルザにだ」
「フフ……まだ早い」
「クソーー!!!」
主にギルド内の事について教えてもらった女騎士の名を口に出すと、彼らの会話が届いていた様子でエルザがほくそ笑みながらそれを示した。残念ガジルくん。また次の機会で頑張りたまえ。
「初めての者もおるからのう。ルールを説明しておく」
「選ばれた九人のみんなは、準備期間の一週間の間に、パートナーを一人決めてください」
主にギルドに移ったばかりで参加のジュビアの為でもあるが、マカロフからのルール説明と言う言葉に続き、ミラジェーンが続く。パートナー制度。これは毎年の試験で導入されている。試験は二人一組のチーム戦で、得手不得手を互いに補い合うもよし、得意分野を尖らせるもよし、コンビネーションを重視するもよしと、仲間との絆も試験では試される。
「パートナー選択には条件が二つある。一つは“
続いてペルセウスが次のルールを説明する。他のギルドの魔導士等の実力者や、エルザ、ペルセウスを始めとした者たちとは組んではいけないと言う事だろう。
「ペルさんやエルザさんと一緒なら、最強すぎるもんね……」
このルールには誰もが納得だろう。ウェンディが言った通り、S級魔導士と組めてしまっては組めた受験者が圧倒的に有利だ。
「試験内容の詳細については天狼島についてから発表するが……今回もエルザが貴様らの道を塞ぐ」
『ええ~~~っ!!?』
そしてマカロフが更に提示したルールには、ほぼ全魔導士が度肝を抜いた。現役のS級魔導士が、受験者チームの道を阻む。つまりエルザが立ちはだかる壁として出てくると言う事だ。だが、それだけには終わらない。
「あ、前回は出れなかったが、今回からいつものように俺も障害役として出るぞ」
「ちなみに私もみんなの邪魔する係やりま~す♡」
『えええ~~~~~~っ!!!?』
ひょいっと軽く手を上げてペルセウス、そしてミラジェーンまでもが無慈悲な宣告を行った。エルザ、ペルセウス、ミラジェーン。元も含めるとは言え、S級として活躍して来た魔導士たちが、一転して敵役で試験に出てくると言う事実に驚愕を禁じ得ない。
勿論試験であることを考慮して、ある程度には手を抜いたり、試験官が定めている合格基準に達していれば認めてくれるというルールがあるものの、S級を相手にすると言うだけでもハードであることは実感してしまう。
「ブーブー言うな。S級魔導士になる奴はみんな通ってきた道だ」
「ちょ、ちょっと待てよ……!?」
「まさか……!?」
S級三人が立ちはだかる試験内容にどよめきを隠せない魔導士たちに向けて、更にギルダーツが次いで忠告。だがエルフマンやグレイなどの参加者は途端に顔色を変えた。この口ぶり……さらにはギルドにいる状態で今彼らと共にいると言う事は……!!
「ギルダーツも参加するのかぁ!?」
「うっわメチャクチャ嬉しそう!!」
他とは違って喜色満面と気分急上昇状態のナツが告げた事実。本来であれば絶望感が凄まじい発表を、まるで宝くじ一等が当選したことを知ったみたいな喜びようで受け入れている彼の様子を見て思わずシエルが引きながら驚いた。お前ぐらいだよ、これで喜ぶの。
「選出された九名とそのパートナーは、一週間後にハルジオン港に集合じゃ。以上!!」
マカロフたちからの発表、及び試験の説明が終わり、興奮冷めやらぬと言った様子でギルドの面々がざわめきを取り戻す。参加することが叶わなかった者たちにとっても、この昇格試験と言うイベントはそれほどまでに盛り上がること必至だ。
「スゴイことになって来たね!」
「まったくもう。相変わらず騒がしい……」
そんなギルド内の喧騒を同様に高揚しながら眺めるウェンディ。対する相棒のシャルルは、言動では呆れながらも、口元に笑みを浮かべて肩を竦めながら呟こうとする……だが……。
「……!?」
「どうかした、シャルル?」
「べ、別に……」
咄嗟にウェンディに誤魔化しはしたが、今、シャルルの脳裏にある光景が映った。
予知だ。コントロールが効かない、少し長い先の未来を、恐らく同じ時期に起こるであろう複数個のイメージが、彼女の頭に一瞬突如発生した。
巨大な樹木が倒壊していく光景。
膝から崩れ落ちたまま、天を仰いで泣き叫ぶカナ。
恐怖するように体を震わせ項垂れるナツ。
力なく投げ出された誰かの手。
抉られた大地と木々の中に、血だまりと共に沈む誰かの体。
さらに、地に背中を付けて何かを見上げる、見覚えのない男の姿を……
見た事のない、人とは明らかに違う目で睨み、見下ろすシエル。
「……!!?」
そして最後に映ったのは……
目に見えて狼狽して表情で見上げたペルセウスの視線の先にいる……
黒衣に身を包んだ、黒髪黒目の優しそうな青年の、優し気ながらも得体の知れない笑顔。
「(誰……!!?)」
昇格試験。天狼島。
恐らくその二つのどちらかに関連した、謎の予知。
この先の未来で起こりうる、とてつもない事件の予感を、シャルル以外は一切感じることは出来なかった……。
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「今年はえらくハードルが高ぇなぁ……」
「意外ね。アンタたちみんな初挑戦なんて」
昇格試験の発表から解散し、ギルド内のテーブルの一つに数人が集まって囲み、食事と雑談を行っている。そして話題は勿論試験について。去年の時と比べると、邪魔をする係がエルザ一人だけだったのに対し、二年ぶり参加のペルセウス、引退後初のミラジェーンに加え、試験官としてほとんど参加した記憶のないギルダーツまでもがいる上に、参加者は九名。この中から合格者は一人だけと考えると、あまりにも難易度が高すぎる。
「ハード上等!壁が高くなかったらS級のなり甲斐がないってもんだ!!」
「だよな!オレも燃えてきたぞ!絶対S級になってやらぁ!!」
だが、如何に障害が大きくなろうと尻込むどころか、俄然やる気に火をつけているのがこの二人。ナツはともかく、シエルがここまで張り切っている様子は何とも珍しい。これも憧れとしている兄に追いつくための試練だと認識しているからだろうか。
「ぬおぉ!!漢エルフマン!S級への道が遠ざかる!!」
反対にいつもと違ってどこか弱腰になり、頭を抱えて唸るエルフマン。S級への意欲は高いが、実の姉であるミラジェーンや、勝てるビジョンが浮かばないペルセウスやギルダーツがいることの方が大きいようだ。
「そう言えばみんな、もうパートナーは決まってるの?」
「オレは勿論ハッピーだ!」
「あい!」
ルーシィから聞かれた質問にナツがまず即答。常に共にいる彼らならある意味当然で、むしろ一択なのだろう。そのチョイスに反論を示したのはまた意外にもエルフマン。
「ハッピーはズリィだろ!!もし試験内容がレースだったら、空飛べるなんて勝負にならねえ!!」
「別にいいんじゃない?」
「てか、空飛べるのは俺もだし」
まだ試験内容は判明してはいないが、もしも速度を重視した試験内容だった際には圧倒的にナツたちが有利だ。いや、
「オレも別に構わねえよ。戦闘になったら困るだけだしな」
「ひどい事言うねグレイ……」
グレイに至っては、戦闘力に自信がないハッピーをパートナーにしたところで逆に不利にしてると言外に言いきっており、ハッピーがショックを受けている。だが、ハッピーとて、馬鹿にされるままで終わるつもりはない。
「オイラは絶対ナツをS級魔導士にするんだ!!」
「こればかりは仲間と言えどゼッテー譲れねぇ!!」
左手を力強く上げて堂々と宣言をするハッピー。戦闘力が何だ。ナツをS級にするという決意ならば、ギルドの誰にも負けるつもりはない。それはナツ自身も伝わっているようで、腕を組みながらハッピーと共に試験を受け、合格する意気込みを告げる。そしてその後すぐ二人揃って出口へと走り出すと……。
「こうしちゃいれねー!!修行だーーー!!!」
「あいさー!!」
試験までの一週間で少しでも強くなって有利になる為、二人は意気込みを叫びながらギルドの外へと飛んで行った。そんな彼ら……正確には走り去っていくナツの背中を見ながら、リサーナは感慨深くなっていた。自分がいない間に、自分がよく知るあのナツが、S級の昇格試験に参加できるようになっているなんて。
「ナツはね……一人前の魔導士になれば、イグニールに会えると思ってるの。この試験にかける想いも人一倍なんだろうね」
「そっか……」
そんな感慨にふけっていたリサーナが、ルーシィからの視線に気づいて、恐らく彼女が気にしているであろうナツの想いを伝える。魔導士として強く立派になったことを示せば、イグニールが会いに来てくれるかもしれない。そうでなくとも、行方知れずの親代わりのドラゴンがいるであろう場所を、より広く探す事だって出来るはずだと。だからこそ、ナツは他とは一線を画すほどにS級に意欲的だ。
それを聞いたルーシィは、既に姿の見えなくなったナツが消えてった方向に目を向けて、胸中で彼に激励を送る。イグニールに対する思い入れをよく知っているならば、応援したい気持ちが溢れてきた。
「あの……ジュビアはこの試験を辞退したい……」
「ええ!?何で!?」
「そんな勿体ない!!」
するとジュビアから、恥ずかしそうに身体を縮こまらせながらか細い声でそう告げられた。隣に座っていたウェンディや、いなくなったナツの隣……彼女たちの前方にいたシエルから驚愕と言った反応が返ってくる。特にシエルにとっては、昇格試験に参加できるという大チャンスをふいにする事が不可解だ。
「だって…………様の……トナ……に……」
「何だって?」
もじもじとしながらボソボソとほぼ聞こえない声で、自体理由を話そうにも伝わらず、グレイに詰め寄られてジュビアの体が更にガチっと固くなる。ああ、成程、同じ参加者側にいるグレイが理由か、と一瞬でシエルは理解した。驚愕に染まっていた表情が苦笑に変わる。
「だから、あの……ジュビアは……」
「あんたのパートナーになりたいんだって」
「ア?」
中々言い出せずにいるジュビアを、シエル同様察したルーシィが、グレイにニヤケ顔を浮かべて耳打ちする。ジュビアのフォローと、グレイを少し揶揄おうと言う魂胆が見え隠れしている。が、ジュビアの反応は別のベクトルを行っていた。
「ほら!!やっぱりルーシィが狙ってる!!」
「狙ってないわよ!!」
勝手に彼女を恋敵と認識しているジュビアにとっては、グレイに近づこうとする行為にしか見えなかった。必死に否定の意をツッコミで伝えるも、涙目になって指をさすジュビアには全く伝わらず。
「グレイ様!ルーシィをパートナーにする気なんですか!!?」
「あぁ……」
泣きながら勢い混じりに聞いてきたジュビアの問いに、ようやく彼女が何を言いたいのか理解したグレイは、その問いに肯定も否定もせず、こちらに歩いて近づいてきたある人物に視線を移した。
「悪ィが、オレのパートナーはもう決まってる」
その言葉と共にグレイの背後で立ち止まったその人物を見て、ほぼ全員が驚愕した。ブルーのサングラスをかけ、スーツ姿に身を包んだ、茶色い短髪の色男。
「久しぶりだね、みんな」
「ロキ!!?」
「ちょっとおっ!!?」
思わぬ人物……星霊の登場に、シエルもルーシィも目を剥けた状態で驚愕の声を発する。しかもあの髪型は、星霊としての身分を明かす前……
「去年からの約束でな」
「ルーシィ。悪いけど試験期間中は契約を解除させてもらうよ。心配はいらない。僕は自分の魔力で
どうやらこの試験を受ける時になったらパートナーをするという約束をずっとしていたらしい。一時的な契約解除に、自分の魔力で星霊界から人間界への移動。故にルーシィの魔力は消費されないから星霊魔法が使えなくなったりはしないと言う旨を知らせるが、色々と衝撃的過ぎて、ルーシィは理解が追い付いていない。
「そう言えば……時折ロキによく似た特徴のイケメンが、色んな街で色んな女の子たちと歩いてるって目撃情報が多発してるのを噂で聞いてたけど……もしかして……」
「……あっはっはっは!」
「なんて勝手な星霊なの……!?色んな意味で!!!」
そしてシエルは今しがたロキが言っていた自分の魔力で
その答えは、一瞬の沈黙の後に表情を変えないままわざとらしく高笑い。つまり肯定であり真実だったと言う訳だ。ルーシィはコイツ殴って良い。
「でもオメェ、ギルドの一員って事でいいのかよ、ロキ?」
星霊として星霊界に戻り、ルーシィと契約した時点でとっくにギルドの人間である事は抹消されてしまったのではと、エルフマンから聞かれるが、実のところ、そんな事にはなっていない。ネクタイを外し、上着と共に上の衣服をはだけさせながら、ロキは堂々と背中を一同に見せる。そこに刻まれているのは、黄緑色の妖精の紋章。
「僕はまだ
「頼りにしてるぜ」
「任せて」
普段の女たらしの一面は鳴りを潜め、グレイと言う一人の魔導士の為にわざわざ自分の魔力を使って駆けつけたロキ。意外と気の合う部分がある事はシエルも知っていたのだが、ここまで信頼し合える仲だったのかと、正直舌を巻いている。
「この二人って、こんなに仲良かったっけ?」
「おやおや?やきもちですかお姉さん?」
「違うし!!」
それはそれとして、同じチームの青年と、契約している星霊の思わぬ友好関係を目にして、どこか頬を膨らましながら拗ねるように呟いたルーシィに、口元に手をかざしわざとらしくニヤケながら揶揄う。勿論、即座に否定が帰ってきた。
「つー訳で、お前も本気で来いよ。久しぶりに熱い闘いをしようぜ」
「!!」
パートナーが既に決まってる以上、ジュビアが入れる余地はない。だがしかし、内心闘争心が昂っているらしいそのグレイ本人から言われた言葉に、彼女は分かりやすい程に反応を示した。グレイからすれば、彼女がファントムにいた頃に激突したことを思い出して言ったことなのだが……。
「あ、熱い……
熱い“
「ちょっとお姉さん?」
絶対にどこかあらぬ方向を妄想して顔を真っ赤にしているジュビアに、思わずシャルルが彼女の目の前で腕を振るも反応がない。ダメだ、自分の世界(グレイ付き)に入っちゃってる。
「私がジュビアと組むわ!」
「本気かリサーナ!?」
ここで彼女のパートナーに名乗りを上げたのは意外にもリサーナだ。妹の唐突な宣言にエルフマンは驚愕を隠せないでいる。
「私、エドラスじゃジュビアと仲良かったのよ!それにこっちのジュビア……なんか可愛いんだもん!」
「リサーナさん……!」
エドラスにいた頃、性格は大分違うが今いる新しいメンバーとの交友があったこともあり、積極的に距離を詰めていくことも目的の一つにしているようだ。特に断る様子もジュビアから見えない事から、リサーナはジュビアの手を取って「決定ね!」と嬉しそうに言った。
「まさか……この子もグレイ様を狙って……」
「どんだけ歪んでるのよ!!」
だがリサーナの善意はあんまりジュビアに伝わってなかったようだ。女性ほぼ全員をグレイを巡る恋敵にシフトしてしまうその脳は一体どうなってるんだ……。
「ちょっと待てよリサーナ!!それじゃ、オレのパートナーがいねーじゃねーか!!!」
「そう?さっきから熱い視線を送ってる人がいるわよ?」
「へ?」
リサーナがジュビアのパートナーになったことで、パートナーの候補がいなくなった兄のエルフマンが泣きながら叫び出す。だが、リサーナがそう言いながら指をさした先に視線を向けると、カウンターの席でエルフマンをジーっと見ている魔導士が確かにいた。茶色のウェーブがかかった髪にメガネが特徴の雷神衆紅一点・エバーグリーン。
そう言えば、フリードは早々にビックスローをパートナーに選んでいたから、雷神衆で唯一はぶられてしまったのだろう。それで機嫌を損ねてむくれているところ、まだパートナーが決めきれてない誰かを目星にして視線を向けていたと言うところか。
「熱いってより……石にされそうな視線じゃねーか……!!」
過去に手痛い目に遭わされたエルフマンは、鳥肌が立つのを自覚した。だがもし断ろうものならまた石像へと変えられてしまうだろう。結局、エルフマンはエバーグリーンをパートナーにするしか道は無くなった。
「何かみんな着々とパートナー決めてくなぁ……。こん中だと決まってないの俺だけか」
「え!?あんたパートナー決めてなかったの!?」
続々と他の参加者が決めていく中、参加者最年少の少年は溜息をついて落ち込んでいるようにも見える表情で呟き、頬杖をつく。だが、ルーシィを始めとして、周りからは意外そうな目を向けられた。シエルの事だからてっきりすでに決めてるものだと思っていたから。
「うん。実はまだなんだ。パートナー候補に考えていた人たちが、軒並み参加側に回っちゃったし……」
シエルとしてはチーム仲間のナツやグレイ、あるいは読書仲間で知識に秀でるレビィを考えていた。だが三人とも今回は自分同様に選出側。他にも候補は考えていたものの大体は既に他の参加者のパートナーにされている。だからまだ決めきれていないのだ。
「シンプルに組みたい子と組んだらいいんじゃない?」
「ああ……う〜ん……」
どこかニヤケながら言ってきたルーシィに、どこか歯切れ悪く返答を返す。彼女の言いたいことは分かる。自分の正面の席に座って、視線に気づいた様子で口元に笑みを浮かべながら首を少し傾けている少女の事をさしているのだろう。確かに、参加者が全部呼ばれた時にパートナーとして彼女を選択肢に入れていたのも事実だ。
だが、テーブルの上に座っている、彼女の相棒がこちらに真っすぐ目を向けているのに気づいて、彼は先程の事を思い出していた。
『ちょっと、今良いかしら?』
待ちに待った昇格試験に参加できることで興奮冷めやらぬ状態だったシエルは、唐突に声をかけてきた白ネコの声に反応して振り向いた。傍にはいつも共にいるはずの少女の姿はない。どうしたのかと尋ねてみると……。
『試験では、パートナーを選ばなくちゃいけないのよね?』
『うん。毎年そう決まってるんだ。あ、もしかして……』
少し前までの警戒心はいくらか和らいだものの、ウェンディの事を第一に考えているこの相棒の様子から、ある程度は察し始めていた。だが一応、確認は取った。
『ウェンディをパートナーにするのは……』
『ダメよ』
『やっぱり……しかも即答……』
少しぐらいは希望を持っていたものの、やはり止められた。しかも彼女本人がいない時にだ。恐らく本人がここにいたらシエルの頼みを優先して意地でもパートナーの要請を引き受けるからと思った故だろう。そうまでして阻止したいと言う事は、まだ信用されていないからかと、落ち込みながらぼやく彼の耳に、シャルルの意外な言葉が入ってきた。
『……別にあんたを信用してないから、ってだけじゃないの』
それが一体どういう意味を持っているのか。不思議に思ったシエルが聞き返してみれば、彼女は説明してくれた。シャルルが先程、試験中に起きるであろう光景を、予知で見たことを。どのようなものを見たのか、シエルとペルセウスに関するものを除いて彼女はシエルに伝えた。それに伴って、メンバーに多大な危険が迫る可能性がある事も。
『この試験、嫌な予感がするのよ。けどだからって中止にする事なんて私には不可能だし。ならせめて、ウェンディをその危険から遠ざけたいって考えてる』
『誰かのパートナーにならない限り、その危険とも近づかない。だからウェンディを誘おうとする俺を止めに来たんだね』
恐らく彼女がいる場で説明したところで、心優しい彼女は彼らを放っておくことが出来ず、結局着いてくるだろう。ならどうするか。シャルルの真相を、他の誰にも伝えずに、ウェンディが試験に参加することがないようにすること。それがシャルルが出した結論だった。
『わかってくれる?』
『俺としても、ウェンディがそんな目に遭うと聞いたら阻止したい。分かった。他をあたるよ』
それが、メンバーが集合する前に、人知れず行われたシエルとシャルルの会話だ。二人以外に、予知で危険が迫っていることは誰も知らない。シエル自身も詳細までは不明だが、ウェンディを巻き込まないようにすると言う点に関しては十全に理解している。
だからこそ決めた。今回の試験、シエルはウェンディ以外の誰かをパートナーにすると。
「ルーシィ、よかったら組んでくれない?」
「えっ?」
「え……ええっ!?あたし!?何で!!?」
思い返していたことでしばらく無言だったシエルが、まさかのウェンディではなくルーシィを誘ったことで、彼女自身も激しく狼狽えている。他にもジュビアやリサーナ、あのグレイまでもが意外そうに固まっている。
「ほら、チームも同じことだし、星霊魔法は色んな場面で重宝するでしょ?個人的にも頼りになりそうだから……って思ったんだけど……ダメかな?」
まさかの誘いに動揺が走ったが、考えてみればシエルは星霊魔法に目がないし、何だかんだで仕事を共にこなしてきたからチームワークも申し分ない。ギルド内では“シエルーシィ”と言う名前を繋げただけの妙なコンビ名も作られているぐらいだ。それを加味すれば確かに理に適ってるが……。
「あ、いや、でも今のあたし、ロキだっていないし、大事な試験だったらあたしよりももっと適任とか……」
泳ぎまくった目で何かを誤魔化そうとしている様子のルーシィ。その視線がある少女に集中していることは、見ているシエルにも予測はついているが、彼女の為にもシエルはそれに気付かないふりをする。
「それぐらいなら気にしないけど……まあ、一週間あるし考えてみてよ。返事なら待つから」
「う、うん……そうする……」
ほぼほぼいつも通りの様子な少年に、顔を引きつらせながら乾いた笑いで誤魔化すルーシィ。「ど、どうしよう……」と内心思っているだろう。一方で約束通りウェンディとは別のメンバーを誘ったシエルに胸中で安堵の息を吐いたシャルルは、これで不安を取り除くことが出来たことに安心感を覚えていた。
「…………」
しかし、シエルたちのそんなやり取りを垣間見た一人の少女の顔に、影が落ちていた事には誰一人気付けなかった……。
おまけ風次回予告
ミラジェーン「パートナー決定の報告、早速上がってるみたいね」
ペルセウス「ナツ、グレイ、フリードあたりは予想通りだったが、他が意外な人選だな。リサーナがジュビアと……」
ミラジェーン「エルフマンなんてエバーグリーンと組むんだもの。さすがに驚いちゃったわ。あとは……シエルはやっぱりウェンディとかしら?」
ペルセウス「だと思うんだが……その割には報告が来ないな……」
次回『ベストパートナー』
ペルセウス「さてはシャルルにガードされて誘えてないな?仕方ない。ここは兄貴が一肌脱いで……」
ミラジェーン「ダメよペル。こう言うのは陰から見守ってあげなきゃ!」