FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今日がちょうどクリスマスですね。
先週休まなければ純粋な気持ちで盛り上がれたのに…。
このところ残業続きで疲労が溜まってるのか眠くなるし、上手く書けないし、時間が取れないし…。

やはり仕事…!今の仕事は全てを台無しにする…!!←

年末年始、何話か更新したいところですけど…決まったら連絡しますね~


第109話 ベストパートナー

S級魔導士昇格試験。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が年末の時期に行っている、ギルドの中でも選りすぐりの者たちが競い合い、前線で活躍するS級魔導士を目指してしのぎを削るイベント。それが発表されたその日の夜、マグノリア近郊の地域で、初雪が降ってきた。

 

「わあ、雪だあ!マグノリアにも雪が降るんだね!」

 

「プーン」

 

ギルドから自宅に戻る道中でその光景を目の当たりにしたルーシィは目を輝かせ、プルーと共に雪の降る空を仰いでいた。季節は冬だが、冬だからと言って国内全域で雪が降るとは限らない。マグノリアは位置からすれば降らない地域ではないのだが、今年は例年よりも時期が早いとされている。

 

「それにしても、年末にあんなイベントがあったなんて驚いたな~!」

 

「ププーン」

 

「エルザとかペルさんも、やっぱあの試験を乗り越えてS級になったのかな?」

 

「プーン?」

 

「ナツはすっごい張りきってるし、そう言えばレビィちゃんも参加するんだっけ?応援しとかなきゃね!うん!!」

 

「……プン?」

 

雪のせいか、はたまた試験があると知ったせいか、やけにテンションが上がっているように口々から言葉が出てくるルーシィ。だが若干震えているように聞こえる声と、言葉の端々から感じる現実逃避を望むかのような何かを、直感で感じ取った彼女の後をついて行くプルーが首を傾げて彼女を見上げる。

 

そんな彼女の顔に浮かんでいたのは、引き攣った笑みだった。今現在、悩まされている現状の一角に関して、本来であれば向き合いたくない内容を明るい時に直面させられたためだ。何度も振り払おうと考えていた彼女だがどうにも離れず、頭を抱えながらルーシィはその場に蹲って唸りだした。

 

「まさか、シエルにパートナー誘われるなんて思ってなかった……どーしよ~……!!」

 

試験の説明発表を受けた後、シエルに今回のパートナーに誘われたこと。それが今、ルーシィを悩ませている種だった。別に彼に協力したくない訳じゃない。チームも同じだし、同じチームメンバーで言えば、ナツとグレイは受験者、エルザとペルセウスは現役S級の試験官として今回の試験へと向かう。仲間外れにされるよりかはマシだろうが、それよりも混乱の方が大きいのだ。

 

「……てっきり、ウェンディをパートナーにするんだとばっかり思ってた……。どうしちゃったんだろ……?」

 

「ププーン?」

 

シエルが、同年代の少女であるウェンディに片想いしていることは、最早本人を除いてギルド内で周知の事実だ。本人自身が珍しくも分かりやすい反応を示しており、何かにつけて彼女との距離を縮めようと奮闘していることも知っていた。だから、今回の試験に関しても、彼女をパートナーにすると誰もが思い至っていたのだ。だがそんなシエル本人は、ウェンディを差し置いてルーシィを誘った。一体どういう意図があるのか想像もつかない。

 

「あの子……何かあったのかしら……?」

 

S級魔導士昇格をかけた試験。ただならぬ事が起きることを予想したのか、それとも彼自身の中で心境の変化があったのか。いくら考えても答えは出ないが、唯一判明しているとすれば、彼が今回のパートナーにウェンディを選ぶ気が無いと言う事だけ。

 

自分をパートナーに誘ってきたあの時、目を泳がせていた際に映ったウェンディの、驚きを全面に出した中に、一抹の寂しさを抱えた表情を思い出して、更にルーシィの肩が重くなるのを感じた。

 

「はあ……本当どうしよう……。引き受けた方がいいのかしら……?」

 

シエルからの誘いを受けるか否か。葛藤しながら立ち上がって、再び帰路につきながら、トボトボと家との距離を縮めていく。しかし、もう少しで着くといったところで、通り過ぎた路地裏に、気になるものを視界の端に収めたルーシィはその方向に目を向けると、驚くべき存在がそこにいて、思わず引き攣った悲鳴を上げた。

 

 

 

壁と壁の間に寄りかかるようにして寝そべり、空になった幾つもの酒瓶をベッドに、降り積もった新雪を布団にして、明らかに酔いつぶれた状態で眠っていた酒豪のカナがそこにいた。

 

「どこで泥酔してんのよ!!?」

 

未だに降り止む様子のない雪空の下で、大した防寒着も身につけないまま寝ているカナ。そのままにしては死ぬことは確実なので、ルーシィは急いで彼女を抱えて自宅へと運んで行った。

 

この出来事が、カナの……そしてルーシィの命運を分ける出来事に繋がる……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

しんしんと降り積もる雪の空を見上げながら、帰路につくため歩くのはルーシィだけでない。頭の中で考え事をしながら足を動かしている少年、シエルもその一人である。

 

「(ルーシィ、乗り気じゃなかったな……。他の人を候補に考えた方がいいかもしれない……)」

 

その内容は勿論、パートナーについて。昼間にルーシィを誘ったものの、彼女からはいい返事をもらう線は薄そうだと感じていた。誰もが、自分が選ぶのはウェンディだと思っていたからだろうと言うのは察知出来ていたが、今回ばかりはそれをする訳にもいかない。

 

しかし、親しい者は既にほとんどが別の参加者かそのパートナーになっている。試験内容が毎年開催した際にしか説明もされないから、誰をパートナーにすれば有利なのかも不明。だからこそチームワークが取れるメンバーが望ましいのだが……やはり決めあぐねている。

 

「どうしよう……。ずっと、この試験に参加することを目指してたのにここで躓くなんて……」

 

憧れの兄を追いかけた来た道。魔導士になるために魔法を身につけ、強くなるためにあらゆる知識を覚え、兄と同じ道を行くためにギルドの仕事をいくつもこなしてきた。そして今日この日、ようやくその努力が実を結んだと言うのに……。

 

未だに決まらないまま、ひとまず家でゆっくりと考えようと止まりかけていた足を再び動かしたシエルの耳に、ふとそれは聞こえてきた。

 

「ん……?今の声、シャルル……?」

 

建物を挟んだ裏側の道の方から、今回の予知を話してくれた白ネコの怒号に似た声が。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

少し時を遡り、雪の寒さをマフラーとコートで凌ぎながら、シャルルを抱えて夜の街を歩いているツインテールの少女、ウェンディ。暗くなり、少しばかり積もった柔らかい雪に足跡を作りながら、どこか浮かない表情で俯いてばかりいる。

 

「元気無さそうね」

 

「そう、かな……?シャルルも今日、何だか大人しいね……」

 

ギルドで昇格試験の話をしていた時は、他の者たち同様盛り上がっていた一人であったはずのウェンディが、やけに静かであることを不思議がったシャルルが徐に尋ねれば、予知を見てから閉口を貫いていたシャルルの事も気付いていた様子の彼女に、逆に問われる。

 

「ちょっとね……何かイヤな予感がするのよ、この試験とかいうやつ……」

 

予知で見た内容は敢えて伝えず、試験の際に起こる可能性があるとだけウェンディに忠告するだけに留めようと、危険な事があるとだけ教えた上でシャルルは続けた。ウェンディは絶対に参加しないように、と。誰かにパートナーとして誘われても受けないようにすることを。

 

 

 

 

 

 

 

「シエル以外に私をパートナーにする人なんていないよ……」

 

不意に立ち止まり、そして長らく聞いていなかった自嘲混じりの声で言い放った言葉に、シャルルは思わず驚きを一拍、そして次に彼女の顔を見上げた。そこに映った彼女の表情は、まるで今にも泣きそうな、しかし堪えているのがわかる笑み。

 

「ウェンディ……?」

 

「……もしかしたらって、実はちょっと考えたりしてたんだ。ずっと近くにいてくれてるから……」

 

シャルルには何故彼女がそんな顔を浮かべているのか分からなかった。どうして悲しそうに、そして何かを諦めたかのような顔を浮かべているのか。その疑問に答えるよりも先に、ウェンディは涙をこらえるようにして雪を注ぐ空を見上げて言葉を零した。

 

「私ね、シエルがパートナーに私を選んでくれるんじゃないかって、自惚れてたの」

 

「……!?」

 

それは、シャルルが想像だにしていなかった言葉だった。自惚れていた、と言う事実に関しても、自分が阻んだシエルの気持ちに気付いているかのような言い方にも。そして、彼女自身がまるで、シエルのパートナーになる事を望んでいたように感じられることも。

 

「ジェラール……ミストガンに最後のお別れをした時、お願いされたの。シエルやペルさん、みんなの力になってくれって。シエルがもし、私をパートナーに誘ってくれたら、絶対助けになろうって、決めてた……」

 

彼女が思い出しながら口にしたことは、ペルセウスの力で止まっていた時の中で、ミストガンと交わした約束。彼の親友であるペルセウスの望み……シエルを守り、支えとなり、彼ら兄弟と家族を助けること。今回の事を聞いた時、ウェンディは考えていた。シエルが夢にまで見ているS級魔導士。その夢を叶える手伝いが出来たら、ミストガンとの約束の一つを果たすことも出来るはずだと。

 

だが、シエルは自分ではなく、ルーシィをパートナーに誘っていた。他にも何人か候補がいるようにも見えたが、その中に自分が入っていない事に気付くのは、難しくなかった。

 

「何でだろうね……。シエルが私を選ぶだなんて、どうして少しも疑わなかったんだろ……。どう考えても、力不足なのに……」

 

思えば彼は、初めて会った時から自分を支え、助けてくれた。戦う力を持つ後押しをくれて、自分の魔法がどんなものかを教えてくれて、事あるごとに傍に立ち、右も左も分からなくなった時にも守ってくれた。もっと強くなりたいと願った時、共に強くなろうと力をくれた。

 

だから、自惚れていたのだ。心のどこかで、シエルがパートナーにするとしたら自分だろうと、明確でもないただの憶測を、事実だと勘違いして待ち望んでいた。

 

自分より強い人や、魅力的な人、シエルを助けられる人なんて、ギルドには沢山いると言うのに……。

 

「今まではシエルが優しかったから、私を助けてくれるから一緒にいてくれていたのに……今度も一緒に闘うんだって、勝手に思い上がっちゃって……」

 

もう化猫の宿(ケット・シェルター)にいた頃の自分とは違う。シエルたち妖精の尻尾(フェアリーテイル)と出会い、今までの家族と別れて新たな仲間と共に歩み、色んな人たちの背中を追いながら、少しずつ魔導士として成長してきたつもりだった。

 

 

 

そのきっかけをくれた彼に、少しでも恩返しできたらと、力になれたらと思っていた。けれど、シエルにとっては、自分のそんな思いは不要だったことを知った。

 

「そうだよね……シエルだって、大事な試験のパートナーに、私なんかを選ぶわけないもんね……」

 

「それはっ……!!(私が……!!)」

 

彼女が思い至ってしまった結論を聞いて、シャルルが咄嗟に声をあげた。

 

違う。シエルがウェンディを選ばなかったのは、自分がそう彼に頼んだからだ。だがそれを伝えては、結局彼女が危険な目に遭ってしまう。言葉にすることが出来ずに、シャルルは悲しそうな笑みを崩さずに空を見上げるばかりの少女を、見ている事しかできない。

 

ただ単に、ウェンディに危険な目に遭ってほしくなかった。予知した光景の中に巻き込ませたくなかった。純粋に彼女を守りたかったから、同調してくれるだろう少年にも教えたのだ。だが、シャルルが起こした行動は、結果的に彼女の顔を曇らせてしまっている。

 

「(私は……アンタにそんな顔をさせるつもりなんて、なかったのに……!!)」

 

予知があったことで、守れている気になっていた。回避できる危機を、知られずに取り除けると思っていた。だが実際はどうだ。シエルにそれを事前に伝えて根回ししたことが、彼女の心の傷を作ってしまっている。

 

いっそ予知が無かったら、パートナーとなったウェンディに妙な事しないように、シエルに釘を刺すだけで、余計な心配をせずにいられたかもしれない……。

 

「安心してシャルル。私、試験には出れないから。私の力を必要とする人なんて、いないだろうし」

 

見上げていた顔をシャルルの方に戻しながら、シャルルに安堵させるつもりでウェンディがそう告げる。その表情が、シャルルにとっては痛々しいものに見えている事にも気付かぬまま。

 

シャルルに迷いが生じ始める。やはり自分がシエルに頼んだことを白状した方がいいと言う思いと、彼女には酷だがこのまま危険が渦巻く試験から遠ざけたままにすると言う思い。どちらが、ウェンディにとってより良いことなのか。

 

どちらにするか決めきれず、シャルルが顔を俯かせて思考の渦に沈み込む。どちらをとってもウェンディには傷が残るかもしれない。持ち前の予知の力があれば、解決策も見出せたかもしれない。だが、まだ完全にコントロールが出来ていない今の状態では何も浮かべられなかった。彼女が立ち直る為の方法も……

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そんな事はない」

 

傷心の彼女に近づいてきた、ある一人の男の存在も……。

 

「君の力を必要としないなんて言う者は、このギルドにはいない。少なくとも、オレは今、君の力を必要としている。天空の巫女よ」

 

後方から聞こえたその男の声にウェンディが振り向き、二人揃ってその人物の姿を目に映した。その男は確か、ギルド内で発表された受験者の中に入っていた、坊主頭に近い短髪で左のこめかみに十字の傷が入った人物。

 

「あ、あなたは……?」

 

しかしその男の事を、ウェンディは詳しく知らない。ギルドの中で見覚えがある程度の認識だが、そんな彼が、試験の受験者の一人が今、自分の力を必要としていると言う言葉に、驚きを表していた。だがそんな男が次に発した言葉が、更にウェンディに衝撃を与える。

 

「オレは『メスト』。ミストガンの弟子だった」

 

ミストガン(ジェラール)の弟子。『メスト』と名乗ったその男の肩書に、ウェンディは声を張って反芻した。故郷のエドラスに戻って行った恩人に弟子がいて、その弟子が自分の元に現れることなど、予想できなかった。

 

疑いの目を向けるシャルルとは対照的に、予想だにしない人物と会ったことの衝撃が勝ったウェンディが、こちらに目を向けるメストと視線を合わせる。

 

 

 

すると突如メストは顔を真上へと向け、不自然に口を開きながら、奇行とは裏腹に彼女に話を続け始めた。

 

「君の事は、ミストガンからよく聞いている」

 

「あ、あの……何してるんですか……?」

 

「雪の味を知りたいのだ。気にしないでくれ」

 

「何なのコイツ……」

 

唐突に始めた奇行の、奇天烈な理由について答えながら、降り注いでくる雪を口に次々と入れて、尚且つどうやって動いているのか直立不動の状態で真横に動き、多くの雪を入れようとしている変わった……言ってしまえば変人に対して、シャルルの疑いを含んでいた目が変人を見る目へと変わり、引いていた。

 

「力を貸してくれないか?」

 

「それが人にものを頼む態度なの!?」

 

しかも頭部はそのままにして協力を願い出てきたメストに、当然ながらシャルルは憤慨。奇行さえなければ普通に試験のパートナーとしての依頼のはずなのだが、どうにもふざけているようにしか見えない。

 

「すまん。どうもオレは、知りたいことがあると夢中になってしまうクセがあるのだ」

 

シャルルのツッコミにも似た指摘を受けたことで、正気に戻ったようにメストは顔を正面に戻して説明する。知りたいことに夢中になるあまりに陥る奇行と言うのも妙な話だが、どうやら嘘は言っていないようだ。それはそれで変人っぷりに拍車をかけているが。

 

「ウェンディ、さっきも言ったが、オレは君を必要としている。君の力があればオレはS級の世界を知ることが出来る。頼む、力を貸してくれ」

 

「え……私で、良いんですか……?」

 

先程の奇行混じりとは打って変わり、真っすぐにこちらを見て真剣な面持ちで改めて願い出るメスト。シエル以外で自分を必要としてくれる者がいるとは思っていなかったウェンディは、思わずそう問い返す。そしてその問いに対してメストは肯定を示した。

 

「ああ。君にしか頼めない」

 

「ダメに決まってるじゃない!!」

 

頭を下げて頼むメストに対し、試験の参加を良しとしないシャルルは彼女が答えるよりも先に断ろうと必死に声を張り上げる。シャルルの声が聴こえているのか否か、メストは下げた頭を上げないまま、あくまでもウェンディの返事を待っている様子。だがチラリと傍に流れる川に目が行くや否や……。

 

「知りたい……冬の川の中と言うものを、オレは知りたい……」

 

雪も降り積もる冷え切った夜の川に、服も着たまま背を下に、腕を組んだ状態で入り込んで浮かび佇んでいた。先程の雪を食べるとは更に別次元の奇行だ。

 

「こんな変態に付き合っちゃ絶対ダメよ!!!」

 

「でも……悪い人じゃなさそうよ?」

 

「どこが!!?」

 

あまりにも変人……もとい変態的な行動が目立つメストのイメージが明らかに悪くなっていくシャルルが、必死にウェンディから遠ざけるために声を張り上げる。だがウェンディには変わってはいるものの悪人には見えないらしく、フォローまでかけるほどだ。穢れを知らないのか?

 

「それに、シエルは別の人をパートナーにするみたいだし、だったら私を必要って言ってくれたメストさんの助けになりたい。ミストガンの弟子って言うなら、メストさんの力になるのも、恩返しの一つになると思うの」

 

「エドラスを救っただけでも十分じゃない!そこまでしてこの試験に出ることもないでしょ!?」

 

「それは結果論だし……ミストガンとした約束を、破ることになっちゃう」

 

恩人であるミストガンに頼まれた願い。それを果たすには、この試験を受ける時の力になることは必要だと結論に至ったウェンディは、シャルルからの再三の制止も聞き入れずに川に浮かんだままのメストに近づき手を差し伸べる。

 

「メストさん、早くあがらないと風邪引いちゃいますよ?」

 

「ああ、すまない。ありがとう」

 

このままにしては確実に体調を崩してしまうので、冬の川からメストを救い(?)出して引き上げる。そして川から彼が上がったのを確認してから、ウェンディは改めて彼に向き合って告げた。

 

「それから、私で良ければお手伝いさせてください。ご期待に添えられるか分からないけど、精一杯頑張ります!」

 

「ウェンディ!!」

 

何度止めようとも全く聞き入れないウェンディにシャルルが彼女の名を叫んで考え直すように促す。しかし答えは結局変わらないようで、頑としてメストのパートナーの誘いを受けたウェンディに、メストの方が一瞬驚いたように目を瞬かせると、「本当に感謝する」と返し、パートナー成立を確かなものにしてしまった。

 

その結果はシャルルには到底受け入れられず、彼女の胸の内から、徐々に込み上げていた激情は、最早抑え込めるものではなくなっていた。

 

「~~~!!もういいわよ!勝手にしなさいっ!!」

 

抑止弁が決壊し、怒りのままに叫んだ言葉を最後にシャルルはその場を走り去っていく。そうして気付いたウェンディが彼女を呼び止めるも、路地裏の向こうへと姿を消していった相棒を、追いかけることは出来なかった。

 

「すまない。悪いことをしてしまったか……」

 

「い、いえ……」

 

仲のいい友と言えるシャルルと、ケンカ別れのようになってしまった事で、元凶ともとれることをしたかとメストがバツが悪そうにウェンディへと謝る。気にすることではないと言いたげに彼女は返したが、その表情は相棒である彼女を怒らせたこと、そして彼女の頼みを聞けなかったことによる罪悪感が浮かんでいた。

 

 

 

 

そして、この一通りの会話を耳にしていたのが、当事者である三人を含めて、もう一人いたことは、本人を除いて誰も気付かなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ウェンディと別れてからガムシャラに街中を走り回っていたシャルル。傍にあった川からは相当離れたらしく、住宅街が並ぶ道を、今はトボトボ歩いていた。

 

頭の中で思い返すのは、昼間に見た予知の内容。それをシエルに伝えた時の事。それによってシエルが誘わなかったことに、落ち込んでいた様子のウェンディ。そして先程のメストとの一件。

 

何故、こうなってしまったのだろう。ただ、試験の際に起きるであろう予知に映った危険から、ウェンディを遠ざけて、守りたかっただけなのに。彼女が信頼を置く少年ではなく、見ず知らずの怪しい変態の要請を聞き入れるなど、考えもつかなかった。

 

「どうして……!!」

 

試験で何が起きるのかは、予知が断片的過ぎて予測が出来ない。他の面々ならどうにかできるかもしれないが、ウェンディはまだ不安要素が大きい。何よりシャルル自身が、ウェンディに危険と隣り合わせになりかねない試験に参加してほしくない。

 

だが、あそこまで言ったのに結局はメストの願いをウェンディは聞き入れてしまった。これではシエルに先んじて忠告したことも水の泡。それどころか、シエル以上に信用できない男の近くにいることが、不安で仕方ない。

 

どうしたらいい。ウェンディを危機から守るには、一体どうすれば……。

 

 

 

 

 

「見つけたよ、シャルル」

 

答えの見つからない自問自答を続けていたシャルルの後ろから、その声は聞こえた。振り返ってみれば、それは予想通りの姿。予知の内容を伝えることで、ウェンディの試験参加を阻止することに協力してくれた少年。雪が降り積もる今の寒空の下でもパーカーのみを上に羽織った状態でこの場に現れている。

 

「ウェンディ、メストのパートナーになったのか……」

 

「……聞いてたのね?」

 

「たまたま、シャルルの声が聴こえて様子を見たら、ね……」

 

シャルルがメストに対して大声を上げたことにより、近くを通ったシエルがその後の会話も聞いてしまっていたようだ。そして既に、ウェンディがメストと組んだことも把握している。

 

「……バカみたいよね。あの子が試験に参加しないようにって、アンタにあんな頼み事までしたのに、結局何も変えれなかった……。それどころか、より悪化させてる……」

 

少しばかり盗み聞きともとれるようなシエルの行動を咎める余裕もないらしい。予知で事前に知った映像から危機を察知し、そこから守ろうと動いたのに、結果は彼女も参加することに。どうにも変えれなかった結果に打ちひしがれた様子で、シャルルは顔を俯かせている。

 

「こんなんじゃアンタの事言えないわ……。この時の為にあるはずの予知だったのに……何も変えれないんじゃ意味がない……!」

 

予知のコントロールが少しばかりできるようになって、ウェンディやペルセウスたちから称賛されて、彼女の強みが更に増えるものだと思っていた。それを回避するために動けても、予知に映った運命を変えることが出来ないのだろうか?悲惨な運命を変えることも出来ない現実の未来を、突きつけられるだけの能力なのだろうか?

 

それだけの力だとしたら、ウェンディを守る事なんて出来やしない……。今回のように……。

 

 

 

 

「シャルルが見た予知は、どこまで映ってたの?」

 

自己嫌悪に陥っていたシャルルの耳に聞こえたのは、唐突な問いだった。思わず振り返ってみれば、目に映ったシエルの表情は、落胆でも侮蔑でもない、真剣なものだ。

 

「ウェンディがどうなってしまうのか、そんな未来まで見えたの?」

 

「……いいえ……断片的で、何が起きたのか詳しくは……。ウェンディは映りもしなかった……」

 

誰のものか分からない部分はあったものの、確実に何かが起きていたと確定できるのはナツ、カナ、シエル、ペルセウスの四人。他の誰が、どのような目に遭ったかまでは確定できていない。それが不気味であり、末恐ろしくもある。

 

「じゃあ、まだ未来が悲惨なものって、確定していないわけだ」

 

「……え?」

 

そんなシャルルの恐怖に似た感情は、シエルの返答で疑問に変わった。言われて確かに、と納得さえした。シエルが言うように、仲間の内の誰かが、命の危機に瀕していたと確定できる未来の映像が無かったのも確か。嫌な予感はよく当たっているが、確定的なものは今も存在していない。

 

「確かにこの試験で、危険な事が起きるかもしれない。でもそれは、試験に関する内容で映ったものの可能性も捨てきれないし、もし違うとしても、警戒して対処することは出来る」

 

「警戒って……まさか今更、ウェンディをパートナーにする気なの?」

 

シエルの言葉に対してシャルルが建てた憶測は、試験に参加するウェンディを、現地にいながら危険に対処して守る事。その為に必要なことがあるとすれば、自分の近くに彼女をいさせることだ。しかし意外にも、シエルから返ってきたのは、首を横に振る仕草。

 

「もうメストがパートナーにしてしまった以上、その方法は使えない。それに、シャルルは自分が知らないところで、ウェンディに危機が迫ってるのを黙って待つのもイヤでしょ?」

 

「……まさか、アンタ……」

 

パートナーにウェンディを指名するのは最早悪手。ならば別の方法。それも、シエルだけでなくシャルル本人が、出来る限り近くにいながらウェンディの為にいつでも動くことが出来る方法。共に聡く、頭の回転が速い者同士、皆まで言わずとも、シャルルは彼の思惑が何かを理解し、目を見開いた。それにはシエルも気付いている。それを理解した上で、改めてシエルは笑みを浮かべながら彼女に提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のパートナーとして、君も試験に参加しないか、シャルル?」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

あれから、一週間が経った。

S級魔導士昇格試験当日。フィオーレ王国南端に存在する港町・ハルジオン。

 

その港には、大きな帆に赤い妖精の紋章が記してある、一隻の大帆船が着港しており、冬間に珍しい雲一つない快晴の光がそれを照らしている。

 

そしてその帆船の近くで集合しているのは、全員が帆と同じ紋章を身体に刻んだ魔導士たち。その数は16名。その内の八名が、今回行われる昇格試験の受験対象者だ。

 

「あれ?そう言えばシエルは?」

 

「ん?そー言えばいねぇな~。あいつも参加者だろ?」

 

その内の一組。受験者のナツと、パートナーのハッピーが、未だに姿を見せない一人の受験者とパートナーを気にして辺りを見渡す。集合の日付と場所を間違えるなど、普段の彼を知る者からすればあり得ないはずなのだが。

 

「どうしたんだろ……?」

 

「自信が無くなって逃げたのかもな、ギヒッ」

 

「シエルに限ってそれはないかなぁ。ずっと憧れてたし」

 

「凄く張り切ってましたもんね……」

 

ナツたち同様に少年の姿を探す受験者のレビィに対し、パートナーとなったガジルが小馬鹿にするように吐き捨てる。しかし、ジュビア、リサーナのチームが言うようにS級魔導士への強い意欲を持っていたシエルが、今更辞退するなどあり得ない。

 

「パートナーなら、あの日の翌日に決まったって話してたし、いないわけもないはずだけど……」

 

「そう言えば、結局誰になったんだい?」

 

「それも教えてくれなくて……」

 

パートナーが見つからなかったと言う線も、一週間前の夜にカナのパートナーとなったルーシィから消えていることが示唆される。そしてシエルのパートナーに関しては、ルーシィも教えられていないとのこと。謎が深まるばかりだ。

 

だが、次の瞬間その謎は前触れもなく明かされた。

 

「あ、もう集まってた!お~い!」

 

「お、噂をすりゃあ何とやら」

 

「感心せんなシエル。もっと時間に余裕を持った行動を……」

 

ハルジオン内の屋台の一つから出てきたらしい二つの影の片方からその声が上がり、ビックスローとフリードが反応を示す。しかし、フリードはその声の主である少年の傍らにいるパートナーらしき存在を目にし、思わず言葉を失った。

 

他の者たちも同様だ。シエルがパートナーに選んだ者が、普段の彼ら……と言うよりパートナー側の態度から察するに、予想だにしない組み合わせだったから。特に、ナツの肩に乗っていたハッピーが愕然としたリアクションをとっている。

 

 

 

 

 

 

「何よ。揃いも揃ってその反応は」

 

その正体は白毛のエクシード。メストのパートナーとしてこの場にいるウェンディの相棒であった、シャルルだった。

 

「シャルル!!?」

 

「彼女が、シエルの……」

 

「まさか……!?」

 

「意外な組み合わせだね」

 

真っ先に驚愕して彼女の名を呼んだウェンディ。一方のメスト、そしてグレイとロキのペアは思わぬ白ネコの登場にやはり驚きを隠せていない様子。そんな彼らを一瞥しながらも彼女はメストの近くに立っているウェンディの元へと歩いて近づいていく。

 

「シャルル……もしかして、シエルの…!?」

 

「ええ。パートナーよ」

 

一週間前にケンカ別れをしたまま、口をきくどころか会う事すら叶わなかった相棒の事実に、ウェンディは理解が追い付けていない状態だ。しかし対するシャルルは逆に落ち着いていて、腕を組みながら彼女を見上げ、堂々と告げた。

 

「ウェンディ。もし試験でぶつかる事があったら、アンタが相手でも手加減はしない。全力でこいつを勝たせに行くわ」

 

「お互いに遠慮は無用だよ」

 

シャルルからまさかの宣戦布告。そして続くようにシエルも勝気な宣言を行う事で、ウェンディの頭の中がさらに混乱する。一体、あの一週間の間に何が起きたのか。どうしてシエルがシャルルをパートナーに選んだのか。そして彼女がどうして引き受けたのか。

 

伝えたいことは伝え終わったと言いたげに、ウェンディから離れ、二人揃ってメストに一瞥……睨んでいるようにも見える視線を少しだけ向けた後、帆船の元へと歩いていく。その行動が、余計にウェンディを動揺させた。

 

「何が、どうなって……え……!?」

 

「大丈夫か?」

 

「ぁ、ご、ごめんなさい……ビックリしちゃって……」

 

混乱に苛まれるウェンディにメストが声をかけ、平静を装おうとするも、しばらくウェンディの動揺は続いたままだった。

 

「良かったの?あんな事言っちゃって」

 

「言っておかなきゃ覚悟が鈍るわよ。アンタも、私も」

 

ウェンディの動揺が収まらない事を察したシエルが、その動揺を激しくするような宣言をしたシャルルに小さく問いかける。だがもう彼女は覚悟を決めた。ウェンディがメストを助ける為に動くのなら、シエルとシャルルは、そのライバルとなるのだから。

 

『俺のパートナーとして、君も試験に参加しないか、シャルル?』

 

そして思い出していた。一週間前にパートナーとして試験の参加し、試験で起こり得る事態に対処する提案をしてきたことを。

 

『……アンタは、それでいいの……?大事な試験じゃ……』

 

『勿論、試験を疎かにする気もないよ。けど、このままシャルルを放っておくようじゃ、S級としての器が出来てないって言ってしまうもんと思ってさ』

 

シャルルは予知の力や、ギルド内では珍しく頭脳明晰の一面がある。しかしその代わり使える魔法は(エーラ)のみ。ナツと組んだハッピーのような連携がある訳でもなく、リリーのように戦闘に秀でた力もない。

 

それでも本当に自分と組んでいいのかと言う疑問は、至極単純な精神論で払拭されてしまった。彼はこの選択に対して後悔もしないと言うのだろうか?試験に合格してS級になる。詳細の不明な脅威からウェンディを守る。その二つの事柄を、彼はやり切るつもりなのだろうか?

 

『俺一人じゃ限界がある。けど、一人じゃないでしょ?』

 

同時に二つの事を進行することの限界も、数が二人なら本当にこなせる気でいる。いや、二人でもやり切ってみせる、と言う意気込みがあるのだろう。そうでもなければ、このような提案も、自信に満ちた笑みを浮かべて、シャルルの視線に合わせて膝を折ったまま右手を差し伸べることもしない。

 

『二人でウェンディを助けるんだ。同じ目的を持って動けば、出来ない事は無いはずだよ』

 

片や彼女に想いを寄せて、身を挺してでも守ろうと奮起する少年。片や生まれた時から共に彼女と歩き、支えようと傍にい続ける白ネコ。これまで、少年に対する嫌悪感で壁を作り続けていた彼女は、突き放してもなお壁を壊して歩み寄る彼に、初めて信頼を向けた。エドラスの一件を乗り越えて、彼の評価を改めたと言っていい。

 

『分かった。私の力をアンタに預ける。だから、私にも力を貸して、“シエル”』

 

『勿論』

 

差し出されていたシエルの手を取り、決意を秘めた表情で答えたシャルルに、笑みを深くしてシエルは即答。その一連の出来事を思い返しながら、改めて今回の試験に関する決め事を、互いに確認した。

 

「パートナーになったからには、私はアンタの夢の手伝いにも全力を尽くす。その時が来るまでは、アンタを……シエルをS級にするために動くわ」

 

「……頼りにさせてもらうよ。S級の事も、ウェンディの事も、やり通してみせる……!」

 

受験者とそのパートナー、合計18名が妖精の船に乗り込み、天狼島なる場所を目指す。S級魔導士への想い。並々ならぬ事情と決意を秘めた、それぞれの魔導士たち。数多の想いを胸に秘め、一行はハルジオンを旅立った。




おまけ風次回予告

シエル「改めて、昇格試験のパートナーとして、よろしくねシャルル!」

シャルル「言っとくけど、今回が特例だったから受けただけで、必要以上に仲良くする気なんかないわよ?」

シエル「そ、それは分かってるよ。受けてくれただけでも助かるし!……はぁ、まだまだ壁を感じるなぁ……。運が良ければ今回の件で一気に信用されて……みたいなのを期待したんだけど……」

シャルル「ちょっと。聞こえてるわよ」

次回『運がいいのは誰?』

シャルル「そんな都合よく事が運ぶと思ってるの?アンタの行動次第でそういうものが変わるって事、覚えておきなさいよ」

シエル「それはつまり……運に頼るんじゃなくて、自らの手で信頼を勝ち取れと言うチャンス……!?」

シャルル「ああ……頭が回ると、変にポジティブな思考に偏ったりもするのね……」
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