FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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さてこれにて、今年最後の投稿となります!多分年末年始で更新できるのはこの一回だけです…。元旦には考案中の方を投稿しようと考えてはいますが…折角の卯年なんでね…あの作品を…。

ちなみに今回、どのペアがどのルートを通ったって明確に仕分けてしまっているのですが、原作で封鎖されていたルート及び、明確に誰が通ったか判明しているものから推察して、個人的な想像で決定させたものです。合ってるかどうかは不明ですが、納得してもらえるものだと良いなぁ…。←


第110話 運がいいのは誰?

空模様……天候は快晴。燦燦ときらめく太陽が照らし続けている。

 

海……穏やかで一切乱れが見えない青海原が続いている。

 

その海を悠々と進むのは妖精を象った紋章を帆に刻んだ大型帆船。魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)が有するこの船は現在、S級魔導士昇格試験の会場へと、受験者とそのパートナーたちを運ぶために進んでいた。

 

「あ……暑い……!冬だってのに何なのコレ……」

 

その船の上に乗っている大半のメンバーは、照り付ける太陽とそれによって熱された空気により、冬とは思えない常夏を超えた猛暑によって、各々水着になったり薄着になったりしてダウン状態となっている。現に、今の状況に愚痴をこぼしたルーシィも、水着姿の状態でビーチチェアに体を預け、手足を放った状態だ。

 

「あたし溶けちゃうかも……。アイスになって、ハッピーに食べられちゃうんだ……」

「マズそうだね……」

 

「ルーちゃんだらしないよ、そのカッコ……」

「この辺は海流の影響で、年中この気候なんだとさ」

 

夏や冬に関係なく、今から向かおうとしている島の周辺は年中猛暑となっているらしい。何度かその場所にも行ったことのあるカナが、初参戦となっている面々に解説しているが、その暑さへの慣れはない様子。彼女も含めたほとんどの女性陣は水着姿で、何とか寛いでいる状態だ。

 

一方で体質か気の持ちようか、うだるような暑さにも音をあげず、普段と同じ格好をしている者たちも数名いる。ガジルやジュビア、フリードたちのチームなどだ。特にジュビアやフリードは普段から暑そうな恰好をしている割に平然としている。特にジュビアは、汗一つかいていない。

 

「ジュビア。暑くないの?その格好」

 

「暑くはない。けど、強いて言うなら……」

 

冷たいドリンクグラスを頬に当てながら、思わずリサーナがジュビアに問うと、眉一つ動かさずに、本当に平気な様子で答える。彼女の凄まじさが感じられる一方で、ジュビアは別のものに目線と意識を集中していた。それは……。

 

 

 

 

「グレイ様の裸体がアツい!!」

 

「あぢィ……」

 

寒さの耐性はあっても、暑さの耐性はないグレイが、あまりの暑さについに全裸でルーシィ同様ビーチチェアに体を預けて四肢を投げ出している姿だった。よく女子たちが騒ぎにならないものだ。ジュビアはともかく。

 

 

「気持ち悪ィ~……!!」

 

ついでに、暑さではなく乗り物に酔ってグロッキーになっている者が一人。ナツが今にも口から色々と吐き出しそうになってる状態で船内をフラフラとしており、たまたま近くまで寄られたロキがナツをやんわり追い返そうとしている。

 

普段なら乗り物酔いを抑えることが出来るトロイアをウェンディにかけてもらうのだが、今回ウェンディはメストのパートナーとしてここに来ている為、別チームであるナツに協力するようなことが出来ないのだ。

 

「すみません、ナツさん……」

 

「ううぅ~~……!」

 

テーブルに上半身を預けた姿勢のまま、ウェンディがナツに目を向けて申し訳なさそうに謝り、どうしてもこの酔いから解放されない絶望感に、ナツは涙を流していた。

 

「まったく、どいつもこいつもだらしないわね」

 

暑さや酔いにやられて、意気消沈となっている面々とは別に、彼らを見て呆れるような発言をする者が一名。声を耳にした数人がそちらに目を向けると、それを言い放ったのはある受験者のパートナーとして同行して来たシャルルだ。

 

「まだ始まっていないのに暑さぐらいでばててるんじゃ、肝心の試験でも先が思いやられるわね」

 

彼女の言う事は一理ある。今から向かう試験会場の島も、この海域と同様の気候だった場合は今のように消耗した状態では満足に動けない。それに関しては同意見だが……。

 

 

 

 

問題はそれを言った本人の服装が専用サイズのアロハシャツとサングラスで、ビーチチェアに加えてパラソルまで用意してある、完全にバカンススタイルで寛いでいる事だった。彼女をパートナーに誘ったシエルも同じ格好である。

 

「思いっきりバカンス気分の奴等に言われたかねーよ!!」

 

「俺らとしては何も着てない奴にだけは言われたくないよ」

 

代表してグレイが彼らに対してツッコミを入れた。船に乗り込むや否や二人して片隅に移動したかと思いきや、黙々と荷物袋から折り畳み式のパラソルやらテーブル、チェアを出した時は、ほとんどの面々が目をひん剥くほど驚愕したのを覚えてる。しかしそんな指摘など気にもせず、シエルがサングラスをずらしてジト目を向けながら返した。

 

彼らが何故場違いにも見えるバカンススタイルでこの航海を過ごしているのかと言うと、今回の試験場所に関してギルドの文献を調べていたシエルが周辺の気候についても調べ上げ、到着するまでの間に体力を温存する方法として最適だと判断したからである。ただしシエルには天候に関する恩恵故暑さを感じはしないため、ほぼほぼパートナーのシャルルが対象である。なら何故シエルまで?片方だけが別の格好してたら違和感があるからだそうだ。

 

「やだやだ。これからみんな敵になるってのに、馴れ合っちゃってさ」

 

「アチィ……漢だ!」

 

「意味分かんないわよ……」

 

一連の流れを、動揺に水着に着替えて、普段から持っている扇子を片手に暑さを凌いでいたエバーグリーンが呆れながらぼやく。その近くでエルフマンも暑さ故か“漢”と書かれたふんどし一丁の姿で必死に耐えている。見えないとこでも漢として振舞う姿はさすがだ。

 

「ん……?この感じ……」

 

「何、どうかしたの……?」

 

すると、シエルが空気中に流れるあるものを感知して、寝転がっていたビーチチェアから起き上がり、その方角へと目を向ける。シエルが起き上がったことに気付いて、シャルルも同じ方向を見ると、思わず言葉を失う光景を目に映した。

 

「見えてきたね」

 

「おお……!あれか……!」

 

シエルたちの反応に、他のペアの魔導士たちも一様にある一点へと視線を移す。最初に気付いた様子のシエルも、サングラスを外して露わとなったその肉眼で、かの地の全貌をその目に焼き付ける。と同時に、思わずその光景に感動すら覚え、息を呑んだ。

 

 

 

輝く太陽に照らされた故か、微かに光を放っているように見えるその地。その全貌はまるで超がつくほどの巨大な樹木。広大に見える大地と切り立った岩々には根が張り巡らされており、海が接する端まで及んでいる。突き出された巨大な岩山を更に巨大な根が張り付き、その上からようやく幹に到達していて、葉が存在しているであろう箇所には、また一つの大地が組み上がっている。まるで、島の上にもう一つの島があるようだ。

 

あの島こそ『天狼島』。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地である。

 

「ここからでも分かる。空気中に不思議な魔力を感じる。あの島から漂ってるんだ」

 

「よく分かるな」

 

天候魔法(ウェザーズ)の使い手故に空気の流れを察知していたシエルは、目にするよりも先にあの島の存在を感じ取っていたことになるのだろう。天狼島から自然と流れてくるのは、島特有と言えるべき不思議な、しかし暖かいと感じる魔力の欠片。そして空気中に流れてくるその魔力は、シエル同様に空気に敏感なウェンディも感じている。

 

「あの島にはかつて……妖精がいたと言われていた」

 

そして、ほぼ全員(乗り物酔いが収まらないナツを除く)が天狼島に注視していた傍らで、全メンバーを見下ろせる位置から声を発していたのは、船の上に同乗していたマスター・マカロフだ。

 

「そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)初代マスター『メイビス・ヴァーミリオン』が眠る地……」

 

「初代マスター……?」

 

思わずその単語が気になり、シエルが反芻して呟いた。ギルドで説明をする時には聞かされていなかった内容だ。初代マスター……つまり、このギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)の創設者と言う事だ。ともすれば、あの島から不思議な魔力を感じるのも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地と呼ばれているのも納得がいく。

 

 

 

 

「つか!何でじーさんまでシエルたちみてぇな格好なんだよ!流行ってんのか!?」

 

「だって暑いんだもん!」

 

するとグレイが別のところに着目してツッコミを入れた。現在マカロフも、暑さを少しでも和らげる為かアロハシャツに身を包んでいて、うちわまで持ち込んでいる。これで少なくとも三人目だ。水着がほとんどの中でアロハシャツが被る事など逆にレアな気がしてきた。

 

「これより、一次試験の内容を発表する」

 

「一次試験?」

 

「大体、毎年何段階かに分かれてるんだ」

 

遂に試験が始まるという意味合いも加わったマカロフの言葉を聞いて、受験者の一部が気を引き締めてその説明に耳を傾け始める。初めての参加であるウェンディが()()試験と言う単語に反応を示したのを聞いて、メストがすかさず補足を挟んだ。

 

「島の岸に煙が立っておるじゃろう?まずはそこへ向かってもらう。そこには9つの通路があり、1つの通路には一組しか入る事は出来ん」

 

うちわを指示した方向に存在する岸からは確かに煙が立っているのが見えており、説明の通りならばその煙の近くに9つに別れた通路が存在しているはず。そしてこの別れた通路と言うのが何を意味しているのかと言うと……。

 

「そして通路の先はこうなっておる」

 

その言葉の直後、マカロフの横に魔水晶(ラクリマ)で作られた映像が浮かび上がる。そこには大まかに記された通路の見取り図が描かれていた。

 

まず目を引いたのは“闘”の文字。二つの通路が交わる箇所に開かれた空間にその文字が記されていて、奥の方に通路が一本存在している。それが二つ。

 

次に“静”。一本の道から特に大きく書かれたわけでもないその道は、真っすぐ奥の方へと繋がっている。これは一つのみ。

 

そして最後に、出てきた瞬間一同の目をさらっていくのが“激闘”の文字。道は一本だが、その先に一番大きな空間の中に書かれたその文字と一緒に、エルザやペルセウスを始めとしたS級魔導士の顔が共に描かれていて、数もその数同様4つとなっている。ただしミラジェーンのみ何故か“激闘?”となっていた。

 

全ての道は奥へと繋がっており、その道の到達点には大きな文字で“一次試験合格!!”と書かれていた。

 

「ここを突破できたチームのみが、一次試験合格者じゃ!」

 

大まかに解釈すると、9つの道が存在していてそれぞれの先は道によって異なる。三つの区分に分かれた道の先にある障害を突破して、奥の道へと進むことが出来たチームを、一次試験合格のチームとする、と言う事だろう。闘や静、そして激闘。これら三つの意味は以下の通りだ。

 

闘は、9組の内それぞれ2組がぶつかり、勝った一組のみが通れるというルート。

 

静は、誰と闘う事もなく一次試験を通過できるルート。

 

そして最後に激闘は最難関。現役のS級魔導士が待ち構えており、倒さなければ進むことが許されないルートだ。

 

「一次試験の目的は“武力”!そして“運”!!」

 

『(運って……)』

 

確かに静を引き当ててリスクなく一次試験を突破できるか否かは運に左右される。だがまさか、運を試験で試されることになるとは思わなかったのか、何人かは衝撃を受けたように固まっている。

 

「運ならいけるかも!」

 

「静を当てる確率は、たった1/9しかないのよ?」

 

武力だけでなく運も試されるのなら希望があると表情を明るくするルーシィ。だがカナの言う通り確率は約1割。望みは薄く感じる。

 

「理論的には、最大7組が合格できるって事ね」

 

「む、無理だ!ペルにエルザにギルダーツ……突破できそうにねぇ道が多すぎる!!」

 

「何弱気になってんのよ?」

 

説明を聞いて、エバーグリーンが合格の理想数をイメージして呟く。一方のエルフマンは今回やけに後ろ向きだ。圧倒的な力を誇るS級魔導士たちに勝てる自信が持てないのが大きいのだろう。

 

「最悪の場合は3組……参加チームの1/3しか突破できないのか……」

 

「面白ぇ。どいつもこいつもボコボコにしてやるぜ!」

 

「あのねぇ……」

 

エルフマンに影響されたのか、レビィはS級のルートに全員が敗れた際の想像をして思わずぼやいてしまっている。9組中3組と聞くと、確かにとんでもなく狭き門だ。だがパートナーのガジルは寧ろ闘や激闘が大歓迎のようで、受験者の彼女よりも張りきっている。

 

「……マスター、一ついいかな?」

 

「何じゃ、質問か?言っておくがルール変更は認めんぞ」

 

「いや、そうじゃなくてさ……」

 

粗方の説明が終わったこと悟ったのか、突如シエルが手を挙げてマカロフに向けて尋ねる。質問するほど、分からない部分でもあったのか?あのシエルが?と言う疑問が周りで数人ほど浮かんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

「ギルダーツのとこの文字、“激闘”じゃなくて、“試験終了”って書き換えてくれない?どうせ誰も突破できないだろうし」

 

「「ちょっと待てコラァ!!!」」

 

質問と言うよりも、一部の表記に関する要望だった。しかも「そこ気にするとこ?」と思わずにはいられない変更点。唐突に何言ってんだ?と言いたげな他の受験者やパートナーたちとは対照的に、怒りを前面に出して彼に詰め寄ったのはナツとガジルの滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)二人だ。

 

「テメェ何言ってやがんだ!!」

 

「まるでオレがギルダーツに勝てねぇって言い方じゃねーか!!」

 

「いや、実際のところギルダーツのルートを選んで突破できそうなチームがいるようには見えないし、勝てるビジョンが浮かばない」

 

そんな怒りを真正面から受けながらも、妙に悟ったような目でシエルが淡々と返す。思わず他の面々が頷いてしまうほどの説得力だ。ガジルでさえもギルダーツの規格外の強さから鑑みてこれ以上言葉が出てこない始末である。

 

「オレならギルダーツが相手でも勝てるっての!いや、絶対にギルダーツに勝つ!オレにはそのビジョンが見える!!」

 

「俺には首から上だけ残して地面に埋められてるビジョンしか浮かばないけど?」

 

『ブフッ!!』

 

「何笑ってやがんだてめぇら!!つーかじっちゃんも何書き換えようとしてんだァ!!?」

 

怒りで乗り物酔いが一時的に収まったナツがムキになり、シエルの言葉に対して対抗。だがそれでもなおシエルは畳みかけるようにありそうなイメージを口にすると、耳にした瞬間ハッピー、グレイ、ガジルの三人がツボにはまったのか吹き出し、他にも数名が笑いをこらえるように震え始め、ナツが更に怒りを増長させる。ちなみにマカロフはシエルの要望に応えて光筆(ヒカリペン)でギルダーツの箇所の文字を本当に書き換えようとしていたが、彼もツボにはまったのか堪えるように体を震わせていた。

 

「言うのは勝手だけど、アンタ自分がギルダーツに当たったらどうする気よ?」

 

「あ……どうしよ?」

 

「おい」

 

一連の流れを横目にしながら、シャルルが騒ぎを起こした張本人に、実際に自分が当たったらどうするのか問いかけると、そのあたりは珍しく細かく考えれていなかったらしく、真面目に勝てそうな気がしない。マカロフが言ってた武力と()と言う言葉が重く圧し掛かる。成程、これはすごく大事だ。

 

「まあそれは兎も角。これで一次試験の説明は終了とする。早速、試験開始じゃ、始めぇ!!」

 

 

 

「は?」

 

「始めって……ここ、海の上じゃないか……」

 

ひとしきり笑い終わったのか気を取り直したマカロフが大々的に宣言。だが船はまだ海上を漂っていて、島までの距離は残っている。その状況で試験開始を言われた受験者は一様に疑問符を浮かべているが、ロキの呟いた疑問に対するマカロフはイタズラが成功したような笑みで返している。その意図を察して動き出したのはナツたちだった。

 

「そう言う事か、ハッピー!」

「うん!」

 

甲板に置かれていた木箱を足場にして駆けあがり、ハッピーと共に飛びあがるとそのままハッピーに持ち上げられて飛行して船から脱出を試みる。既に試験がスタートしていると言う事は、9つに別れた通路に、ここから向かう必要がある事を意味する。

 

「先に通路を選ぶんだ!」

「あいさー!!」

 

「うわ!ズリィ!!」

「ナツ!てめぇ!!」

 

大半の者たちは船から降りてここから泳ぐ必要があるが、ナツとハッピーには無関係。空路と言う最速の手段を用いて一足先に煙の位置へと向かおうとする二人を、グレイとエルフマンが驚愕しながら声をあげる。しかし……。

 

「んが!?」

 

船の外から出ようとしたところを、見えない壁にぶち当たったようにナツたちが止められ、そのまま先へと進めなくなっていた。この光景には覚えがある。すぐさま理解したカナが船の欄干を見てみると、予想通りの文字列が船を囲むように記されていた。術式魔法だ。つまり……。

 

「安心しろ!五分後に解けるようになっている!」

 

「フリード!!」

「てめえ……!!」

 

術式魔法のスペシャリストであるフリード、そしてパートナーのビックスローが、それぞれ闇の翼と繋げた人形で浮遊しながら、船に取り残された者たちを背にして島へと向かっている最中だった。まんまと閉じ込められたことで、ナツやグレイからブーイングが発生している。

 

「ずーっと閉じ込めときゃいいじゃねーか」

 

「それじゃ試験にならん」

 

妙なところで真面目なフリードは、律義にも一次的な足止めとしてのみ術式を使用したようで、ビックスローと軽口を叩きながら島へと向かって行く。だがその一時的でさえ、下手をすれば試験の合否を大きく分けてしまう可能性もある。

 

「おい、じーさん!あんなのアリかよ!?」

 

「まあ、レースじゃないし」

 

「あいつを先に行かせたら、島が術式だらけにされちまうだろ!!」

 

道を選ぶ順番が変わるだけとはいえ、先に行けば有利に事を運べたり、フリードに関しては島にいくつも自分が優位に立てる術式を仕掛けることが出来る。こちらが不利になる事は変わらない事に対して、苦言が止まらない。

 

「さて……果たしてそうかな?」

 

だが、うちわで扇ぎながら見ていたマカロフは、フリードの思惑がそう簡単にいくとは限らない事を予想していた。再び悪戯が成功したような笑みを浮かべて見やった先をグレイも見てみると、次の瞬間まさかの事が起きた。

 

 

 

フリードとビックスローが進んでいた先に、突如彼らを阻むように幾つもの竜巻が発生。押し流そうとしていた。

 

「な、何だ!?」

 

「これは……!」

 

思わぬ出来事にさすがの二人も困惑し、中でもフリードはその竜巻に心当たりがあった。船上からでも確認できるその竜巻を見て、受験者たちの多くはフリードたちよりも更に困惑している。

 

「海の上に、竜巻!?それもあんなに!?」

 

「あれは魔法……?まさか!?」

 

その船の上でルーシィが前触れもなく起きたあり得ない光景に目を見開き、近くにいたカナが自然に起きたものではなく魔法によるものだと勘づくと、船の上を見渡す。あのような竜巻を一瞬で生み出せるものは一人しかいない。そしてその人物は、パートナーと共に既にいなくなっていた。

 

「まさか……術式が発動するよりも早く、船から脱していたのか……!」

 

一方のフリード。竜巻に阻まれ往生するしかない彼の目は、竜巻群の向こうにいる存在を見て驚愕していた。不敵な笑みを浮かべてフリードたちを見据えている、その少年を。

 

 

 

 

 

 

ハッピー同様に白い翼を広げて、小柄の少年を掴みながら空を飛ぶ白いネコと共に、先んじて船から脱出していたペア。シエルとシャルルだ。

 

「シエル!?」

「シャルル!?」

 

「何であいつらが術式の外に!?」

 

自分たち同様に術式の中に閉じ込められていたと思いきや、フリードたちよりも先に外に出ていた二人の姿を見て、ナツとハッピーがそれぞれ驚愕を露わにしている。だがエルフマンの言うように、マカロフが試験開始と言ってからナツが動き出した時間もそこまでなかったのに、どうやって彼らは術式から逃れたのか?

 

「開始の合図とともにすぐさま船から飛び立って行ったぞ。二人とも勘がいいからのう~」

 

「あっ……そっか!予知能力で閉じ込められるのに気づいてたんだ!!」

 

ずっと受験者を見下ろして彼らの動きを見ていたマカロフは、自分が試験開始と言った直後にシャルルがシエルを抱えて飛び立って行ったのを見ていた。こうなる事を見越していたという判断をしていたが、リサーナはその行動に心当たりがあった。

 

シャルルが持っている力、予知能力。近い未来に起こる事は、意図的にコントロールして見ることが出来るようになったと聞いていた。それを使って、フリードの術式にかかり、閉じ込められる面々の未来が見えたのだろう。

 

「しかし、シャルルのおかげで助かった。ありがとう」

 

「たまたま見ることが出来たのよ。気付けなかったらすっかり掛かってたわ」

 

「運が良かったって事か。こりゃ幸先がいい!じゃ、お先に失礼、お二人さん!!」

 

そしてリサーナの気づいた通り、シャルルが予知を見たことで事前にシエルへ伝え、試験開始と同時に飛び立ったのだ。そしてシャルルに持ち上げられている態勢のまま、シエルはしたり顔を浮かべながらフリードたちに手を振って、そのまま煙の方へと先んじて飛んで行ってしまった。竜巻が解けるには少し時間がかかるだろう。

 

「シエルたちが行っちゃう!」

 

「あの二人……思った以上に相性のいい組み合わせかもね。多分一番厄介だよ……」

 

悔し気に留まっているフリードたちに背を向けて飛び去って行くシエルとシャルルを遠目に目撃し、船上でも焦りの声が上がる。普段からイタズラをする時にも用いられる知識の多さと頭の回転が早いシエルと、同様に頭が切れる上に予知能力で下手をすると対峙する者の動きを事前に察知するシャルル。しかも互いに互いの咄嗟の行動の意図を把握して動くことも出来る。それを理解したロキが、今回の試験で最も注意すべきペアであると認識した。

 

「迂闊だった……!同じネコがパートナーでも、バカ同士が組んだ片方ならともかく、向こうはどっちも頭脳派だから、どうにも一歩先を行かれちまう……!」

 

「グレイてめぇ!そらどーゆー意味だぁ!!」

 

「そうだよ!オイラまでナツと同列扱いだなんて、いくらなんでもヒドイよ!!」

 

「ハッピー!!?」

 

たった数秒間でペアとして組んだ際の恐ろしさを認識されたシエルたちに対して、同じ種族のエクシードと組んだナツは今も術式の壁を殴り続けているだけ。頭が良い者同士と悪い者同士でどっちが脅威か明白な事に気付けなかったことに、苦虫を嚙み潰した表情を浮かべるグレイ。しかしそれは、完全にナツたち(もう片方)を思い切り馬鹿にしたような言動だったためにそのチームから怒りの抗議が入る。だがハッピーの怒りの着眼点はナツにとってはまるで裏切られたような衝撃を受けるものだった。気持ちは大いに分かる。

 

だが船上にいるチームもただで待っているわけではない。術式を解除して、すぐさま追いつければ時間のロスを取り戻せるはずだ。その為に動いたのは、文字魔法にフリード同様精通しているレビィ。既に書き換えを実行しており、船上にいる面々は表情を明るくする。

 

「でも、私とガジルだけ!!」

 

『何ィーーー!!?』

 

だがしかし、レビィは自分自身とパートナーのガジルのみを通れる対象に追加した状態に書き換え、そのまま船から二人揃って飛び出して、海に着水。事実上取り残された面々は目を見開いて驚愕の声をあげる。

 

「レビィちゃん……!?」

 

「ごめんね、ルーちゃん!じゃあねー!みんなおっさきー!!」

 

「コノヤロ~……!!」

 

そしてそのまま泳いで島の方へと向かって行くレビィとガジル。シエルが起こした竜巻は勢いが徐々に緩まって行ってるため、あと十数秒もすれば解除されるだろう。だが術式はまだまだ効力が残っている。結局解決するどころか、先取りされたことにナツが体を震わせて恨みつらみに呟いた。

 

そして船から脱出してたのはレビィたちだけじゃない。エルフマンのパートナーとして参加しているエバーグリーンが、同じように術式を書き換えている最中だった。フリードとは付き合いが長い彼女は、フリードの術式魔法にも少しばかり通じている。複雑なものならともかく、今回のような優しいものなら書き換えられるらしい。

 

「さあ、行くわよエルフマン!!」

 

「おおお漢ォオオ!!」

 

そしてパートナーとして、受験者のエルフマンも含めて通れるようにした状態で、二人もまた船から脱出、海から島へと向かい始めた。彼らを含め、自分たちを差し置いて島へと向かった4組のペアに向けて恨みがましくナツが睨みつけながらも、術式の壁に手をかけている。

 

「あと何分足止め?」

 

「まだあと4分です」

 

「じゃあ……レビィの奴、たった一分で術式を……!!」

 

残り時間はまだ4分。術式が発動してからたったの一分で、レビィやエバーグリーンは術式を書き換えたと言う事になる。驚異的な速さだ。

 

「フリードの策もあまり作用しなかったみたいじゃのう。半数以上が既に脱しているとは……」

 

「半数……以上?」

 

するとマカロフがぼやくように言った言葉に、グレイが妙と感じ取って首を傾げた。参加している組は9組。半数となると4か5なのだが、以上と言う事は5組が術式を抜けたことになる。確認できている組はシエル、フリード、レビィ、エルフマンの4組。他に誰かいただろうか?

 

「えっと、あたしたちとナツにハッピー……」

 

「グレイ、ロキとジュビア、リサーナ。あとはメストとウェンディが……」

 

ルーシィ、カナのペアが今船上に残っているペアを数えて確認を取るために見渡す。目についたペアを声に出して確認を取っていき、最後に残っているはずのメストとウェンディのペアがいた場所に目を向ける、が……。

 

 

 

 

 

長身の男性と小柄な少女がいるはずのその空間には、誰も存在していなかった。

 

『いねぇーーーーーっ!!?』

 

船上に残された全魔導士が思わず声を揃えて大合唱。一体あの二人、いつの間に船から降りたのか、そもそもどうやって移動したのか、分からないまま残りの4分間を、船の上で待ちぼうけすることしかできなかった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その頃、船の上で様々な騒動が起きていることも露知らず、シャルルに抱えられながら空を移動し、一足先に目的である煙の立つ岸へと辿り着いたシエル。

 

「サンキューシャルル。けど良かったの?乗雲(クラウィド)使えば、シャルルの魔力を使う事もなかったのに」

 

「何言ってんの。もし選んだルートが闘か激闘だったら、直接的な戦闘力のない私を抜きにして、アンタが闘わなきゃいけないのよ?だったらアンタに、使う魔力を温存してもらわないと」

 

乗雲(クラウィド)一回ぐらいなら、と思ってたけど……そうだね、用心するに越したことはないか」

 

そんな会話も挟みながら、二人は揃って煙の奥の方、通路が分かれているであろう場所を目指していく。それと同時に、島の大地に降り立ってから感じているものが強くなっているのを自覚した。

 

「空気中に感じていた魔力が更に増えた……。やっぱこの島、ただならぬ魔力を持ってるんだな……」

 

「聖地として選んだのも……と言うより、初代マスターと呼ばれた、メイビスが眠る地として選んだのも頷けるわね」

 

「“メイビス”、か……。妖精の尻尾(フェアリーテイル)創った人って、女の人だったんだな……意外だ……」

 

「そんなこと気にするより、早く先に進むわよ!」

 

空気と共に流れ込んで感じていた魔力の根源はやはりここであると自覚すると共に、マスター・マカロフから聞かされていた初代マスターが眠る地と言う言葉を思い出す。“メイビス”……女性の名を聞いた時シエルが感じたのは、あの破天荒な者たちが集まるギルドを作ったのが女性であることが意外と言う事実だった。意外と余裕があるようだ。案の定シャルルに怒られて、シエルは揃って先へと向かった。

 

術式で一番乗りを狙っていたフリードたちよりも先に到達したのであれば、道はまだ全て空いている。ここから運を頼りにして進む必要がある。どのルートを選ぶべきか考えながら向かった二人だったが……。

 

「あれ?」

 

「どうなってるの?」

 

辿り着いた9つの分かれ道。A~Iと書かれた看板が入り口の前にそれぞれ置かれていて目印になっているのだが、その内の一つ、右から二番目で設定されたHルートが既に封鎖されていた。

 

「道が一つ、封鎖されてる……!」

 

「封鎖されてる、イコール既に誰かが入って行ったあと……のはずなんだけど、俺たちより先を行っていたペアは、確かいなかったはず……」

 

フリードたちはまだ後方だ。それ以外のペアは今も術式の中。そう思っていたのだが、もしかして自分たち同様既に抜けていた者たちがいたのか?だが他のペアよりも、今は自分たちだ。確率は一つ減ったことで1/8。出来る事なら静を選んで、消耗することなく突破したいところだが。

 

「シャルル、予知の力でどのルートが何になるのか見ることは出来ないかな?」

 

「ルートの距離次第ね。あんまり長いと、その分未来が遠くて正確に見ることが出来ないから。ちょっと待ってて……」

 

選ぶための作戦は、シエルのパートナー・シャルルの能力をフルに活用し、どのルートが最善かを導くと言うものだ。未来を見る範囲によっては、激闘のルートを確実に回避することも可能のはず。

 

しばらく唸り声を上げながら、近い未来を予知している様子のシャルルは、長い時間の予知を終え、疲れた様子で息を吐いた。

 

「何か分かった?」

 

「明確に全部……とはいかなかったけど、部分的にね」

 

さすがにそう都合よくはいかなかったようだが十分だ。最悪のルートを回避する材料にはなるはずである。それを期待して、シエルはシャルルが見たであろう予知の結果に耳を傾けた。

 

「まずは、A、D、Eのルート。少なくともこの三つは除外ね。果てしなく嫌な予感しかしないわ」

 

「激闘ルートで確定、ってことだね」

 

「恐らく。どれが誰なのかまではハッキリ見えなかったけど、ここを選んで真正面から突破するのは無謀ね」

 

4人いるS級魔導士のうち、3人がいるであろうルートは絞られた。ひとまず、そのルート以外を選べば良さそうだ。残るは5つだが……。

 

「あとはそうね……CとGのルートはさっきの三つと比べてだけど、そこまで嫌な予感を感じはしないわ」

 

「比べて、と言う事は激闘じゃなくて、闘?」

 

「そのルートで誰と闘うかにも左右するみたいだけど。で、あとはB……それからFは上手く未来が映らないわ。変わり映えがしない……と言えばいいのかしら……」

 

「その二つのどっちかが、静のルート……?」

 

「分からない。激闘はもう一つ、残っているみたいだし……」

 

部分的とはいえ、有力な情報ばかりがシャルルの口から明かされる。物凄く頼りになる。ひょっとしたら自分は最大級と言える戦力をパートナーにしたのでは、と頭に過るレベルで。だが忘れてはいけない。今回シャルルと組めたのは、あくまでウェンディの安全の為であることを。

 

「あれ?そう言えばIルートは?何か映ったの?」

 

大体のルートは説明されたが、最後の一番右端。Iと書かれた看板でつながる海沿いの道が、何に繋がっているかの説明を受けていない。その事に気付いたシエルが問いかけるが、シャルルが示した反応は、微妙そうな顔だった。その理由は……。

 

「……分かれてるのよ、未来が……」

 

「……分かれてる……?」

 

「そう。極端な二つの未来が存在しているの。希望と絶望、天国と地獄、てっぺんとどん底」

 

「想像以上に両極端……」

 

一体どんな風に見えたらそんな例えが出てくるのだろう。シエルから汗マークが幻視されるような呟きが放たれる。ある意味一番選ぶのが怖そうなルートなのだが、これは何を意味してるのだろうか。静か?激闘か?

 

「何て言うのかしら。壁のようになってるのよ。このルート」

 

「壁?」

 

「高く聳え立つ壁。それを乗り越えられるか否か。ここを選んだ組を、試すかのような……」

 

その壁を乗り越えられるかで、まさか今後の未来までもが左右されると言うのだろうか。シャルルが言っていた両極端の例えとは、もしやルートだけでなく、そのルートで起きたことの更に先までも現している……?

 

「はっ!」

 

するとシエルが何かに気付いたように勢い良く後ろを振り返る。彼の目に映ったのは、岸の方に降り立つフリードとビックスローの姿。竜巻のバリケードを超えて、ここまで至ったと言う事なのだろう。このままでは闘に入るよりも先に激突することになってしまう。

 

「フリードたちだ!」

 

「どうするの?もう時間はないわよ!!」

 

シャルルが予知することによって分かったいくつかの道。フリードたちが来るよりも先に進む必要がある。切羽詰まったシャルルの声を聞いて、シエルは内心焦りながらも頭の中でどうするべきか思考を重ね、そして答えを導いた。

 

「決めた……Iルートに行く!」

 

「え、い、いいのそこで!?」

 

「得体が知れない事は百も承知。けど、S級魔導士になるための壁が立ちふさがってるって言うのなら、超えなきゃいけないって思うから!」

 

BやFなら安全なルートかもしれない。だがシエルは、この一次試験で終わるとは毛頭思っていない。乗り越えるべき壁があるのがその道ならば、シエルは進む方を選ぶ。両極端に分かれるであろうその道の、輝かしい道に進む権利を掴むためにも。

 

「しょうがないわね……あんたの試験だし、従うしかないじゃない!」

 

覚悟を決めた表情で言い切ったシエルに、溜息交じりに呆れながらもシャルルは是と答える。善は急げ。迫ってくるフリードたちを振り切るように、シエルとシャルルはIと書かれた看板が立てられた道の入り口に入って行った。彼らが入って少しして、Iルート封鎖と言わんばかりに魔法で出来たバツ印の壁がその入り口を塞いだ。

 

駆け足から徒歩へと切り替えて、道なりに進んで行く少年と白ネコ。所々植物が群生する砂浜地帯や、海と目と鼻の先になる断崖地帯の横と言う、割とスレスレな部分を歩いていく。

 

「ここ、本当に人が通るような道なのかしら……?」

 

「舗装されているようには、あんまり見えないのは確かだけど……」

 

通る道に関してそんな愚痴に似た言葉をぼやきながら先を進んで行く二人。幸い地面には近い位置だからか、海に落ちてもすぐに戻れるようにはなっているのだが、それでも危なっかしく感じる。

 

右側は一面海。左側は断崖の壁と言う道を通って行き、ほぼ直角に内側へと曲がる場所を曲がった瞬間、目に映った光景に二人は驚くとともに足を止めた。

 

「道が……!」

 

「どう言う事!?」

 

何と、曲がった先は、まだ存在しているはずの道が途切れて、海に沈んでいたのだ。まさかここで途切れているとは思わず、特にシャルルが過剰にその造りに対して不満そうに叫び始めた。

 

「こんな道をどうして試験なんかに利用したのよ!一体何考えてんのかしら!?」

 

「……いや、待ってシャルル」

 

「何よ!?」

 

憤慨していたシャルルを横目にしながらも、途切れた道の先にまで視点を向けたシエルは、ある一つの事に気が付いた。同じ方を見るようにシエルが指をさせば、そこには海を挟んだ先に、同じように途切れたように見える道が存在していて、見え辛いが、断崖の上に登れる階段が見える。

 

「途切れてるんじゃなくて、海に道があるんだ。今はここを通れないみたいだけど……」

 

「そうか……潮の満ち引きで、道がある時とない時があるのね?」

 

「そう言う事。多分だけど」

 

海流の影響によって、時々島周辺の海水の水位が変位することがあるようだ。その影響を受けている個所の一つが恐らくここ。潮の満ち引きによって、この場の道が通れるか否かが変わる。そして今は満潮。通れるようになるにはしばらくの間待機する必要があるようだ。

 

「まあ俺たちの場合は、空飛べるから普通に空路で行けばいいんだけどね」

 

「空を移動できない組がこのルート通ってたらどうするつもりだったのかしら……」

 

しかしシエルたちの前ではこの満潮も障害にはならない。空を飛行することが出来る二人がいる事で、阻まれずに向こうへと渡ることが出来そうだ。シャルルが再び(エーラ)を広げて、シエルを持ち上げようとした。

 

 

 

 

 

だがその時だった。二人の目に、この状況を疑うような出来事が起こったのは。

 

 

 

それは、本来であれば起こり得るものとは思えないようなこと。道を覆っていた潮が、自然の経過とは思えない速度で突如引いていき、まるで意志を持っているかのように水が波を作って道だけを露わにしていく。そしてものの10秒もかからない間に、干潮の状態でその道が通れるようになっていた。

 

「潮が……」

 

「引いた……?どうなってるの……?」

 

あまりにも摩訶不思議な光景。何が起きたのかが理解できないまま二人は立ち尽くしている。だがこのまま動かずにいては万が一潮が再び満ちては通れなくなる。それを危惧して、少々足早に、ほぼ無意識に道を渡り終わる。そして渡り終えた瞬間、先程まで道を出していた海水が嘘のように動きだして、再び道を海水の下に潜らせた。

 

「まるで、私たちが来るのと、通るのを待っていたかのような……気のせいかしら……?」

 

まるで潮が意思を持って、自分たちを迎え、そして導いたかのような動き方。しかし、意思を本来持たない自然が、そのような挙動を行うものだろうか?

 

「……まさか……!」

 

「ちょ、シエル!?」

 

何かに気付いた様子で目を見開いたシエルは、渡り終わった現在地の先へ続いている階段の方へと突如駆け出していく。急に走り始めたシエルの姿を、慌てながらシャルルは着いて行く。

 

断崖の上に続いているように見える螺旋状に作られた石の階段。その頂へと到達したシエルが見たのは、その部分だけやけに舗装された造りとなっている、例えるならば、石舞台。文献で幾度か見たことのある紋様が全体的に描かれていて、この島で元々特別な場所であったことが分かる。

 

そして、階段を登り切ったシエルから、石舞台の反対側に位置する場所に、その人物はいた。

 

 

 

 

 

「この場所は、まだこの島に人がいた頃……島の風習として伝えられていた儀式を行う場所だったらしい」

 

 

 

 

そう説明を呟くのは、右手に身の丈ほどの長い青の三又槍を持ちながら石突を地につけ、シエルに背中を見せながら胡坐の姿勢で佇んでいる青年。髪の色は、メッシュのかかっていないシエルのものと同じ色。サラサラとしたその髪は肩甲骨のまであり、うなじ辺りで縛られている。

 

 

 

 

「何を願った……何を祈った儀式なのかはもう分からん。どの書庫にも文献にも、載っていなかったらしい。ま、俺は読む柄じゃないから、もっぱらお前の専門だろうが」

 

 

 

 

その声に、その後ろ姿に、そして潮を動かしたであろう槍に、シエルは心当たりがあった。

 

いや最早、心当たりしかなかったと言う方が正しいか。

 

 

 

 

「それにしても、一体どういう因果だろうな……。まさか、()()()()がいる場所に来るとは……」

 

 

 

 

役目を終わらせた槍を異空間にしまい、座っていた本人はゆっくりとその場で立ち上がる。そして同じタイミングでシャルルも階段を上り終えて、シエルに追いついた。しかしその人物の後ろ姿を見た瞬間、シャルルは思わず言葉を失った。

 

 

 

 

「シャルルの予知でも読めなかったのか、それとも俺がいると分かっていたからここを選んだのか……ま、それは今は関係ねぇか」

 

 

 

 

シャルルの顔がこれでもかと蒼白なものとなっていき、シエルも潮がひとりでに動く光景を見てすぐさま察知したものの、実際に目に入ると、動揺している様子で震えていた。そんな彼らの様子に気付いた様子もなく、その青年はゆっくりと振り返り、彼らの姿を目に映した。

 

 

 

 

「よく来たな、シエル、シャルル。この舞台の上で、お前たちのありったけの力を披露して、その成果を捧げてみせろ」

 

 

 

 

振り返ったその顔。左頬に刻まれているのは、シエルと同じ色のギルドマーク。不敵に見える笑みを浮かべた顔立ちがシエルと似通っているその人物は、最早わざわざ言わずともはっきりとしていた。

 

「(まさかの実兄(ペルセウス)ーーッ!!!!)」

 

ルートの種類は激闘。相手は受験者の実の兄。しかもその強さは国一つを相手取っても余裕を見せながら圧倒するような、言ってしまえば化け物クラス。シャルルは一瞬で後悔に苛まれた。あの時予知で見えた両極端の未来、高い壁と言う意味がどういうものなのかを正確に測れなかったことを。そしてシエルが、その道に行くことを止めなかったことを。

 

最悪だ。このような未来になってしまうとは。こんなことならIルートは嫌な予感がすると言って行かせないようにすればよかった、と。そうしておけば、まだ他の突破できそうなルートで行けたはずなのに。

 

「兄さんが……相手……」

 

ぼそりと小さい声でシエルがそう呟くのを聞き、シャルルの体が強張る。その声に込められているのは怒りか、悲嘆か、はたまた絶望か。自分の兄を相手にしなければならないと言う悲壮や絶望感はシャルルには計りしれない。そんなシエルから目を逸らしながらシャルルは言葉を紡いだ。

 

「ご、ごめんなさいシエル……私の予知が、まだ中途半端だったことで、こんなことに……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってんのさ……この上なく最高のルートじゃないか……!!」

 

「はあーっ!!?」

 

だがシエルから帰ってきた返事はそんなシャルルの想像の斜め上を行っていた。少しばかり引き攣りながらも、目に闘志を浮かべ、口元を吊り上げ、真っすぐに自分の兄に向けてやる気を漲らせている。理解できなかった。何でそんなにやる気を見せているのか。

 

「何言ってんのよアンタ!相手はアンタの兄貴よ!超がつくほどの化け物なのよ!?そんな奴を相手して勝てると思ってるわけェ!!?」

 

「兄さんがとんでもなく強いことは、俺が一番知ってるよ」

 

激闘に当たったと言うのにそこに全く悲壮感を感じさせないシエルの言動に、シャルルが焦りと怒りをまじえながら騒ぎ立てるも、シエルはそれに同調する様子はない。ナツとは違って、シエルは兄に簡単に勝てるとは思っていない。彼我の実力差にまだ開きがある事は重々承知だ。だがそれでも……。

 

「今の俺の全部が、兄さんにどこまで通用するのかを試すチャンスだ……!あらゆる全力を出し切って、兄さんと言う高い壁を突破することが出来れば、S級になれる確率が高まる。天国と地獄とはこのことだね……ナツ風に言うならば、燃えてきた……!!!」

 

「(わ、忘れてたわ……結局こいつも……脳筋ども(あいつら)と同類だったって……!!)」

 

今の自分の力がどこまっで兄に通用するのか。更に万が一にも兄を下すことが出来れば、S級魔導士になれる確証が更に約束される。シエルにとって、この試験で兄と闘う事になったのは僥倖だ。そのチャンスを与えてくれたシャルルには感謝しか浮かばない。だがそんな姿勢を見たシャルルは、珍しく頭が回る貴重な枠だったシエルも、結局は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士によく見られる戦闘狂の気質持ちだったことを思い出し、頭を抱えた。

 

「さて、それじゃあ始めようか。シエル、そしてシャルル。S級魔導士昇格試験・一次試験の相手を務めるこの俺に、その力を示してみろ」

 

コートを棚引かせながら、悠々と受験者側の二人に試験開始を告げるペルセウス。萎縮しかけているシャルルを尻目に、シエルの表情は少し汗を垂らしながらもやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

シエルが引き当てたペルセウス相手の激闘ルート。それ以外のルートでも、各々の受験者が立ちはだかる関門にぶつかっているところだった。

 

Dルート。ここを選択したのはジュビア、リサーナのチーム。

 

「強い……!こんなに強かった……の?」

 

浸水し、所々が崩壊した遺跡のような建物の中。ジュビアたちの前に立ちはだかったのは緋色の長い髪を持った女騎士・エルザ。その身につけられた鎧は、兜や鎧に所々ヒレのような装飾があしらわれた、見るからに水の耐性が付けられたかのようなもの。その銘は……。

 

「『海王の鎧』……!完全にジュビアの水を防ぐ気だ……!」

 

「どうしたジュビア。そんなことではS級魔導士にはなれんぞ」

 

ジュビアに対する特効とも言えるべき鎧を纏い、長い戦闘経験から来る圧倒的な強さ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士との呼び声高い彼女を前に、ジュビアとリサーナは大きな苦戦を強いられていた。

 

 

Aルート。ここを選択したのはエルフマン、エバーグリーンのチーム。

 

「よりによって……!」

 

「こいつと当たるなんて……!」

 

海と比較的近い森の中の広場。そこを戦いの場として、エルフマンたちの前に立ちはだかるのは、二人揃って顔面蒼白になってしまう魔導士だった。普段の格好とは一変し、その顔や服装、雰囲気なども含めて最早別人……否、別の生物とも言えるその姿はまさしく……魔人。

 

「弟でも手加減はしないわよ。エルフマン」

 

魔人ミラジェーン。実の姉が相手としてぶつかることになってしまい、弟とそのパートナーはあまりの恐怖にその場で揃って悲鳴を上げてしまうほどの威圧感。容赦のない蹂躙が予感されていた。

 

 

Eルート。ここを選択したのはナツ、ハッピーのチーム。

 

EはErza(エルザ)のEに違いないと言う意味不明な理由で選択したナツは、道中でエルザの名を呼びかけながら、必ずエルザを倒してS級になると息まき、闘志を漲らせる。だがエルザがいるのはジュビアたちが選んだDルート。では、ここでナツが引き当てたのは……?

 

 

 

「ようナツ……運がなかったな」

 

茶髪のオールバックで無精髭を生やした、現在の妖精の尻尾(フェアリーテイル)で間違いなく最強の魔導士。

 

「ギルドゥワ()ァーーーーツ!!!?」

 

試験終了(終わった)……!!」

 

まさかのエルザ以上に強大な魔導士とぶつかることになった事実に、ナツが驚愕して絶叫。ハッピーは涙を流して全てを諦めた。何事も手を抜くのが嫌いな破壊神を前に、最初こそ委縮しかけたナツだが、長年超えることを目標として来た魔導士の存在を前にして、文字通り闘志が燃え上がっていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

動きがあったのは激闘ルートだけではない。術式から解放された組が一気に駆け付けたことにより、闘のルートを選んだ各々の組も、ぶつかり合っていた。

 

「知りたい……お前たちの実力と言うものをオレは知りたい……」

 

「メストさん、来ますよ!」

 

術式魔法にかからず瞬時に岸へと到着し、一番にHルートを選択したメストとウェンディに対峙するのは、Gルートを選択して遅れながらも参戦しに来たグレイとロキ。

 

「メストにウェンディ、か……」

 

「ウェンディは兎も角、メストにゃあ要注意だな」

 

自分よりも圧倒的にキャリアが長いグレイたちを前に、自分がどこまでメストを助けられるか。息を呑み、覚悟を改めながらウェンディは闘いに臨む。

 

「(頑張らなきゃ……!私も……!)」

 

時折脳内にチラつく少年と白ネコの姿に首を振りながらも、目の前の事に集中せんと彼女は気を引き締めて、対する二人に構えた。

 

 

一方。9本あったルートの8つが封鎖され、最後のCルートを選択したカナとルーシィ。運には自信があると豪語するルーシィ曰く、残り物には福がある。そう信じて洞窟の中に入った二人の前に待ち受けていたのは……。

 

「やっぱり!カナとコスプレの……!」

 

「お前たちと、“闘”えと言う事か」

 

三番手としてBルートを選択していた、雷神衆のコンビであるフリードとビックスロー。残念なことに、ルーシィたちが引き当てたのは静ではなかった。しかも、彼女たちにとってはこの二人に当たる事は出来れば避けたかったことである。

 

「残り物には……何だっけルーシィ……?」

 

「雷神衆……?」

 

ラクサス親衛隊としてギルド内でも名を馳せたフリードたちのペアに、フリードに手も足も出なかった人(カナ)ロキがいなきゃビックスローにやられてた人(ルーシィ)のペアが、若干怯えながらも立ち向かう。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

そして……最後に残ったFルートを選んだレビィとガジルのペアは……。

 

 

「あ?何だぁ?どこにも誰もいねぇじゃねーか」

 

洞窟を抜け、その先である森の前まで辿り着いたことに、若干不満そうな表情でガジルがぼやく。周囲を見渡していたレビィが、ふと上を向くと、そこには簡素ながらもかけられた横断幕に「一次試験合格!」の文字が記されていた。

 

「合格……?そっか、これが静のルートだったんだ!やったあ!!」

 

「はぁ!?ちょっと待て!これで終わりだと!?ふざけんじゃねぇ……!誰も殴れてねぇじゃねぇかァーーー!!!」

 

レビィ&ガジルペア。運よく静のルートを通り、一次試験突破!!




おまけ風次回予告

シャルル「何でそんなにやる気十分なのよ!アンタこの状況分かってんの!?」

シエル「勿論。兄さんを相手にして勝てなきゃ試験終了。S級にはなれないってことぐらい」

シャルル「勝てるわけないじゃない!アンタの兄貴がどんな化け物か、アンタが知らないはずもないでしょ!?」

シエル「それ言ったら、今のS級はほぼみんな化け物だよ。それにシャルル言ったでしょ?このルートは、この先も左右する高い壁だって」

シャルル「そ、それは……けど……!」

次回『兄弟対決!シエルvs.ペルセウス』

シエル「危ないからシャルルは下がってて。大丈夫。必ず突破してみせる……!!」

シャルル「いくらなんでも……今回ばかりは無茶よ……!!」
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