FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ちょっと今回は後半がやや駆け足気味になってしまっています。よりにもよってラストスパートかけるときに頭痛が襲ってきてうまく書けることができなくなりまして…。
後日加筆修正して公開いたしますので、それまではこちらのものでご辛抱を…。申し訳ない…。


第10話 妖精対幽鬼 開幕

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が存在する街・マグノリアの北西。フィオーレ王国全体から見れば北東に位置する街、名は『オーク』。歴史のある城下町でもある。妖精の尻尾(フェアリーテイル)と因縁を持つギルド・幽鬼の支配者(ファントムロード)はそこにあった。

 

「だっはー!!最高だぜー!!」

「妖精の尻尾(ケツ)はボロボロだってよー!!」

「ガジルの奴、そのうえ3人もやったらしいぜ!」

「みじめな妖精どもに乾杯だ!」

 

ギルドの中では、幽鬼の支配者(ファントムロード)に所属する魔導士たちが宴のようにドンチャン騒ぎ。ギルドが破壊され、メンバーを傷つけられた妖精の尻尾(フェアリーテイル)を見下し、下品な笑いをあげながら酒と料理をかっ食らう。

 

自分たちこそ強き者。弱く哀れな妖精よりも優れ、それらを蹂躙する権利がある。そう信じてやまず、誰も彼もが嘲笑いながら高まった気分に酔いしれていた。

 

「あ、いけね!こんな時間だ」

 

すると魔導士の一人が気分もそのままに立ち上がる。荷物入れを肩に担いでいるところを見ると、どこかに外出するつもりだと分かる。

 

「女かよ」

 

「まあまあいい女だ、依頼人だけどな。脅したら報酬2倍にしてくれてよォ」

 

どうやら仕事に向かうようだがその言動は最悪のものだ。魔導士としても、人間としても。本来は依頼主との信頼が重要となるギルドでの仕事において、脅迫等の行為によって自分の利益のみを集中させるのはあってはならないことだ。そして残念なことに、それを咎める者はこのギルドにはいない。寧ろ同類のみだ。中には「オレなら3倍まで行ける」などどほざく輩までいる始末だ。笑い、貶し合いながら、男は出入口へと向かう。

 

 

 

 

そしてその出入口から突如、爆発が発生した。

 

外に向かっていた魔導士の身体があえなく吹き飛び、その勢いで先にあったテーブルや食器類が破損し、とんでいく。更には数人の仲間たちをも巻き込んで、怪我人も現れだした。

 

何が起こった?幽鬼の支配者(ファントムロード)の魔導士たちのほとんど全員が、そんな感想を抱いていた。

 

しかしそれは、爆発で起きた煙が張れると同時に発覚することになる。まず見えたのは一つの人影。右の拳を振りぬいた態勢をしており、それによって自然と見えるのは右肩に刻まれた赤色の妖精を象った紋章。そして桜色のツンツン頭に白い鱗柄のマフラーを身に着けた、ナツ・ドラグニルを筆頭に、幽鬼の支配者(ファントムロード)のギルドの前に数十人規模で立っているのは、全て彼と同じ紋章を刻んだ魔導士たち。そのギルドは―――。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃああっ!!!」

 

ファントムによってギルドを壊され、仲間を傷つけられたことによって、怒りの感情を燃やした妖精たちが乗り込んできたのだ。ナツに続くように現れたマカロフの檄に雄叫びで応えながら、表情に憤怒を現しながら妖精たちがそれに続く。弱者と思っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の殴り込みに幽鬼の支配者(ファントムロード)は後手に回った。

 

「誰でもいい!!!かかって来いやぁ!!!」

 

両手に纏った炎で近場にいたファントムの者たちを吹き飛ばすことで先制を取ったナツ。それを皮切りにようやく状況を理解できたファントムの魔導士たちも、迎え撃つべく、武器、魔法を構え始める。

 

 

妖精と幽鬼、長きにわたり因縁を抱えていた二つのギルドが、ついに正面から衝突した。

 

先頭を切って多数の相手を吹き飛ばして暴れるナツ。それを筆頭に近づく敵を全て凍らせていくグレイ、右腕を棘が多く生えた獣の腕へと変えて振り回すエルフマン。

 

「パープル・ネット!!」

「スモークラッシュ!!」

 

若い者たちが目立つ妖精の尻尾(フェアリーテイル)においてもベテランに数えられるマカオとワカバ。マカオが紫の炎(パープル・フレア)を駆使して複数の敵を縛り上げ、そこを煙管から無数の拳の形をした煙を叩き込むワカバの、長年の付き合いからなる連携が披露される。

 

銃弾魔法(ガンズマジック)電撃弾(スパークショット)!!」

 

右目が隠れるほど長い黒髪の青年で、西部大陸出身と言うアルザック。彼は片手銃を連射して雷の魔力を帯びた弾を外すことなく命中させ、相手の体の自由を奪う。だが、後方から彼目がけて攻撃を仕掛ける魔導士が来ることに遅れながら気づいた瞬間、別の方向から魔力の弾が命中し、アルザックの危機を防いだ。それが誰によるものなのか、彼はよく知っている。アルザックと同じく西部大陸の出身である黄緑色のロングヘアに赤い口紅が特徴の女性・ビスカである。同じ出身、そしてアルザックと同系統の銃器を換装する魔法『銃士(ザ・ガンナー)』の使い手である彼女は、良く彼とコンビで行動することが多いのだ。

 

「ナイスショット、ビスカ!!」

 

「詰めが甘いよ、アル」

 

そして彼女はすかさず手に持ったライフルで照準を合わせ始める。味方を除き、敵のみを魔法で標的に定めていき、魔力弾を放つ引き金を引く。

 

「ターゲット、ロックオン!ホーミングシュート!!」

 

一つの銃口から放たれた複数の魔力弾が意思を持ったように動き、照準を定めていた敵の身を見事に撃ち抜き吹き飛ばした。戦況は妖精側が有利。ファントムは確かに数は多いが、個々の力が上である妖精の魔導士に数の利を潰されていることが一番の要因だ。せめて一人でも倒せれば。そう思ったファントムの魔導士は、他と比べて背丈が低い存在を視認する。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中で最年少でもある少年・シエルだ。

 

「おい、あっちは子供(ガキ)だぞ!こいつから潰せぇ!!」

 

シエルに目を付けたファントムの魔導士たちが一斉に襲い掛かってくる。想像以上の力を持つ妖精たちの中でも、格下と思い込んで排除に乗り出した。

 

が、彼らは知らない。この乱戦状態において一番脅威となるのは、この最年少の妖精であることを…。

 

竜巻(トルネード)!!」

 

少年は己を取り囲んで守る様に、その竜巻を発生させる。彼に襲い掛かり近づいてきた魔導士はそれに巻き込まれ、身体を宙に浮かされる。

 

「急に竜巻があ!?」

「迂闊に近づくとやべぇぞ!!」

 

一気に多人数が竜巻に巻き込まれたことにより、後方にいて難を逃れた者たちがこれ以上近づくのは危険と判断し、二の足を踏めなくなっている。が、それを目にした少年はその者たちを逃がしはしない。前方目がけて手をかざすと、水色の魔法陣を展開し、魔力を集める。

 

「『吹雪(ブリザード)』!!」

 

離れたところにいた魔導士は、シエルが発動した純白の雪が混じる強風・吹雪に巻き込まれ奥の壁へと叩きつけられる。更には運よく直撃を避けた魔導士たちさえも、急激に温度を下げられたことで身を縮こまらせてしまう。仲間の安否を確認することもできずに「さ、(さみ)ぃ…!」と歯を打ち鳴らすことしかできない。

 

そしてシエルの攻撃はこれだけにとどまらない。吹雪(ブリザード)を発生させた方向と正反対の向きに左手をかざすと、今度は茶色の魔法陣が現れる。

 

「『砂嵐(サーブルス)』!!」

 

そして顕現されたのは砂塵が混じるもう一つの竜巻。本来砂漠地帯などで気流が発生しなければ起こりえない砂嵐を塗装された屋内で発動させたことにより、さらにファントム側に甚大な被害を生み出していく。

 

「ぎゃあああっ!!なんじゃこりゃあああ!?」

「竜巻に、吹雪に、さらには砂嵐!?」

「この子供(ガキ)、一体何の魔法を使うんだ!?」

「つーか、これ…!!」

 

 

『ギルドがメチャクチャになるだろうがぁああっ!!!』

 

砂、雪、そして何も加わっていない純粋なもの、と言った3つの風が渦巻く魔法によって、幽鬼の支配者(ファントムロード)のギルドの中にあるテーブル、椅子、料理や酒が入っていた容器、その他の小物や人に至るまで何でも飲み込み、床や壁の一部すらも破壊しかねない、まさに災害。目の当たりにしたファントムの魔導士たちが阿鼻叫喚と言った様子でハモった悲鳴に、シエルの険しい表情が更に歪められる。

 

「先に俺たちの(ギルド)をメチャクチャにしたのはお前らだろ。その上仲間(家族)にまで手を出したのもお前らだ…!」

 

3つの風が渦巻く混沌地帯から少し離れた位置にいた魔導士たちの後方、その机の上にいつの間にか立ち乗っていた状態で高低差が逆転したファントムたちを見下ろしながら、汚らわしいごみを見る様な目で睨みつける様子に、思わずファントム側も相手が小柄な体をした子供であることを忘れて戦慄している。

 

「やられたままで、怯えたままでいる妖精だと思ったら、大間違いだぞ、ファントムども…!」

 

悔しくないわけがない。本当は(ギルド)が壊された時点で乗り込みに行きたかった。だが、(マスター)であるマカロフがそれをしなかった。一番悔しいはずの彼が我慢したから、それに従ったまで。それをこいつらは怯えた臆病者、何もできない弱い奴だと決めつけて、逆鱗にまで触れてきた。

 

破壊された(ギルド)。傷ついて辱められた仲間(家族)たち。シエルの脳裏にフラッシュバックが起こり、彼の怒りはさらに増大していく。それに呼応するように上に向けたシエルの手からは曇天(クラウディ)が発動し、ギルドの屋根近くに暗雲が立ち込める。

 

そして最後の仕上げと言わんばかりに、同じ手から雷の魔力が発射され、落雷(サンダー)の準備が完了した。何を発動するのか察したファントムは、その場から逃れようと情けなくも悲鳴を上げて立ち去ろうとする。だが、もう遅い。

 

「テメェら全員!」

 

挙げていた手を振り下ろした瞬間、少し前まで彼の近くにいた魔導士たちに落雷が降り注いだ。彼の怒りの鉄槌が如き黄色の閃光が、聖十(せいてん)を始めとした実力のある虎たちの威を借る、口先だけの狐たちに降り注いでいく。

 

祓魔師(エクソシスト)も真っ青な妖精の除霊術を、その身にしっかり受けさせてやるッ!!」

 

予想を遥かに超える力を持った少年に、襲い掛かろうとする魔導士はもういなかった。更には…。

 

「かぁーーーーーっ!!!」

 

別の場所で、マスター・マカロフを狙い攻撃を仕掛けた魔導士たちが、巨大化(ジャイアント)の魔法で巨人と化した彼に押しつぶされて返り討ちにされる。巨大な掌と床に挟まれて数人が体の骨を折る程の重傷を負う。最早バケモノだ。そう叫んだファントムの魔導士に、巨人(マカロフ)の返事がギルド中に響き渡る。

 

「貴様等はそのバケモノのガキに手ェ出したんだ!人間の法律で自分(テメェ)を守れるなどと思うなよ…!!!」

 

「ひっひぎ…!!」

「つ…強ェ!!」

「兵隊どももハンパじゃねえ!!」

「こいつらメチャクチャだよ!!」

 

マカロフの言葉、そして妖精側の魔導士の力を前に戦々恐々とした様子のファントムたち。その間にも胴体のみが肥大化した、絵画魔法(ピクトマジック)の使い手であるリーダスが自分の腹に瞬時に書いた絵を具現化させて攻撃したり、紫色のポニーテールとメガネが特徴的の女性・ラキの木の造形魔法が繰り出される。そして戦ってるのは人間の魔導士だけではない。

 

「オイラだって魔導士だよ!」

 

小柄なネコだと思って狙いにきたファントムたちを、(エーラ)で巧みに避けながら荷物に入っていた枝や、魚などの食べ物を叩いたり口にねじ込んだりして行動不能にしていく。ハッピーもまた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として懸命に戦っていた。

 

「ジョゼーーー!!!出てこんかぁっ!!!」

 

「どこだ!!ガジルとエレメント(フォー)はどこにいる!?」

 

進撃を続けるマカロフ、換装を駆使して次々と敵を切り抜けるエルザが、幽鬼の支配者(ファントムロード)において頭がいくつも抜き出た存在を探すも、それらしき人物は見当たらない。一撃で数人がやられるような有象無象のみで、一向にその姿を見せる様子がない。

 

「ならまずは雑魚たちを叩きまくって、あぶり出す!!」

 

言うや否やシエルは早速行動に移る。屋根近くまで広がっている雲に追加の曇天(クラウディ)を発動し、建物全域を覆い尽くすほどの雲が出来上がる。その行動をファントムは見逃さず、各々が赤い魔法陣を展開。

 

「あのガキ舐めやがって!!」

「一斉攻撃だ!やれぇっ!!」

 

魔法陣から種類は違えど赤き炎がシエル目がけて発射された。しかし、その直線状に立ち塞がるように一つの影が遮ったと思いきや、炎の魔力は影に着弾。しかし、当たった炎は見る見るうちに影に収束していく。

 

「サンキュー、ナツ!」

 

「いいってことよ!喰ったら力が湧いてきた!!」

 

影の正体、ナツがすべての炎を喰らい、力へと変えていたのだ。そして彼はその力を一気に敵側に放出する。

 

「火竜の咆哮!!」

 

「アイスメイク、槍騎兵(ランス)!!」

 

「換装!黒羽の鎧!!」

 

「漢ぉぉおおっ!!」

 

ナツに続き、グレイ、エルザ、エルフマンも各方向の敵を薙ぎ払っていく。そしてその中心地にいる少年、シエルも左右それぞれの手に違う色の魔法陣をそれぞれ展開。上空に漂う雲に向かって二つの魔力が放たれる。

 

「大雨、及び強風注意報発令!現世に蔓延る幽鬼を、冥界へと吹き飛ばすことでしょう!『台風(タイフーン)』!!」

 

雲と雨、竜巻の魔力が混じり合い、外の快晴とは正反対の豪雨と強風にさらされたファントムたちの身体は、次々と紙のように吹き飛ばされていく。味方側にも甚大な被害を及ぼしかねない強力な魔法だがそこはシエルも仲間たちも考えている。唯一風と雨が及んでいない中心に、背中合わせに妖精たちが合流しているため、味方の被害はゼロである。

 

「こ、こんなのが妖精の尻尾(ケツ)にいるなんて、聞いてねぇぞ…!!」

 

自分たちと同じように妖精にも聖十(せいてん)滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいることは知っていたが、それ以外にも名の通っている奴等は確かに脅威であり、規格外の強さを持つ者達がいる。それは分かる。だが、シエルのような背丈の低い子供の中で、自分たちを圧倒的に蹂躙出来る魔導士がいるならば少なからずすぐに噂となる。それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士で()()()()としてもだ。ファントム側にとって、それほどシエルは一番のイレギュラーでもある。

 

「大分減ってきたんじゃねえか?」

「このまま押し切るぜ!」

 

妖精たちの士気はまだまだ上がる。このままの戦況が続けば、勝てると見込んだ味方たちが再び構える中、マスターであるマカロフが動き出した。

 

「エルザ!ここはお前たちに任せる!!ジョゼは恐らく最上階…ワシが息の根を止めてくる…!!」

 

立ちはだかる敵を一撃でいなしながら進むマカロフに、エルザは堂々と歩く背中を見ながら「お気をつけて…」と言葉をかけることしかできなかった。そして、マカロフ自身は最上階に繋がっていると思われるギルドの奥地の方へと歩いて行った。

 

「行くぞ!落雷警報!落雷(サンダー)!!」

 

マスター・マカロフが戦線から一時的にいなくなったとしても行動を止めるわけにはいかない。即座にシエルは黄色の魔法陣を黒雲に放ち、ファントムの魔導士たちに雷撃を喰らわせようとする。だが、その落雷は突如方向を変えて、屋根裏の一点に集まるように落ちていった。予期せぬ現象に思わずシエルは驚愕の声を漏らす。

 

「おーおー、危ねぇじゃねえか。こんな狭い建物の中でゴロゴロゴロゴロ雷落とすもんじゃねえよ」

 

その一点に一つの影が映るのが見えた。「ギヒッ」と独特な笑い声を一つ零したと思えば、屋根裏から飛び降りていき、右腕を後方に引いていく。そこでシエルは気づいた。右腕の先が鋼鉄の棍のような形になっていることに。

 

「はァーーー!!」

「くっ!!」

「ぐああああっ!!?」

 

狙いを定めて突き出されたその攻撃を瞬時に身を引いて躱したシエル。だがその躱した攻撃は他の魔導士…それも味方であるはずのファントムの者たちに襲い掛かった。

 

「何だ、あいつ…自分の仲間も躊躇なく…!?」

 

態勢を立て直しながら少年は呟くと同時にその姿を視認した。腰の近くまで伸びたハリネズミのようにとがった長い黒髪に、獰猛な肉食獣のような赤い瞳。何より特徴的なのは二の腕や眉、耳、鼻、顎など至る所にいくつもつけられた釘のようなピアス。

 

第一印象だけですぐに分かる。他の者と比べて一回りも二回りも我の強い人物であると。

 

「来いよ、クズども。鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)・ガジル様が相手をしてやる」

 

「上等だ…!」

 

この男こそ、幽鬼の支配者(ファントムロード)の中でも筆頭と言える実力を持つ魔導士、鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)鉄竜(くろがね)のガジルだ。挑発に乗ったような反応を見せているシエルだが、頭の中は至って冷静だ。

 

先程周辺にいる魔導士に向けて放った落雷(サンダー)がガジルの方にすべて当たった。いや、引き寄せられたと言った方が正しい。そして自分に向けて攻撃してきた際には腕を鉄製の棍に変えていたところを見ると、彼が扱う鉄の滅竜魔法は、身体を鋼鉄化、その上で自在に形を変えられるものだと予想できる。では先程の雷撃が引き寄せられた原因は、己を避雷針に変えてその攻撃を無効化にさせたものだという事だ。

 

「(落雷(サンダー)は多分通用しない…。仮に効いたとしてもさっきのように体を鉄に変えて床に突き刺せば威力はそっちに流される…)」

 

技の一つを実質的に封じられはしたが、それでも手がないわけではない。

 

「なら…竜巻(トルネード)!!」

 

「うおっ!?」

 

今シエルが扱える技の中で一番威力を発揮するのは落雷(サンダー)だ。その落雷(サンダー)が使用できないならば他の技を併用し、組み合わせ、台風(タイフーン)のように底上げすればいい。

 

「合わされ!砂嵐(サーブルス)!!」

 

ガジルを飲み込んだ竜巻に、砂塵が混じる砂嵐が追加される。既に彼の姿は見えなくなり、二重螺旋の形で巡る二つの上昇気流がギルドの屋根にまで届いている。普通の人間ならば一溜りもないだろう。

 

 

――――()()()人間ならば…。

 

「こんなもんじゃオレは吹き飛ばせねえぞ?ギヒヒッ」

 

「っ!?」

 

悠々とした足取りで風の牢獄の中を進むガジルの姿が薄らと見えた。全身を鋼鉄化させて重量を大幅に上げたことで、上昇気流でも持ち上げられずに立っていられるようだ。

 

「くっ!吹雪(ブリザード)!!」

 

「甘ぇよ、『鉄竜棍(てつりゅうこん)』!!」

 

吹雪を追加して彼の動きを少しでも封じようと試みるも、最初にシエルへと攻撃してきた鉄製の棍へと腕を変化。吹雪すらも突き破ってシエルの腹部へと命中し、小さな体は宙を飛ぶ。

 

「パープル・ネット!!」

 

壁の方へと激突しかけた時、その身体を紫の炎が掴み、衝突を避けた。マカオの魔法だ。「大丈夫か?」と問いかけるマカオに「平気…」と腹部の痛みに顔を歪めながらもシエルは態勢を立て直す。

 

「ほう?思ったよりはタフだな、あのガキ」

 

「漢はァーー!!」

 

少し感心したようにシエルを見ていたガジルに、腕を魔物のように変化させたエルフマンが飛び掛かる。ビーストアームのエルフマン。接収(テイクオーバー)で、倒した魔物の力を吸収することで、腕を魔物の腕に変化させることができる。

 

「クズでもガキでも漢だぁ!!」

 

選手交代。今度はシエルとは真逆の大男。だがガジルはそれに怯みもせず、寧ろ獲物を見つけたかのように口元を吊り上げて、殴り掛かってきたエルフマンの拳を鉄棍の腕で受け止める。

 

そのまま逆の腕も鉄棍に変えてカウンターを仕掛けるが身を捩ってエルフマンは躱し、さらには足をも鉄棍に変えて蹴りの要領で突き出すも、エルフマンは右腕で受け止め、足の自由を奪う。

 

「ほう…なかなかやる」

 

「漢は強く生きるべし」

 

「じゃあこんなのはどうだ?」

 

対してガジルは足の先端からいくつもの細い鉄棍を繰り出して拡散。瞬時にエルフマンは右手をガジルの足から離して回避するが、彼の攻撃は周りにいるファントムの魔導士たちをも蹂躙していく。その様子にエルフマンは信じられない光景を目の当たりにしたかのように目を見開いた。

 

「貴様!自分の仲間を!!」

 

「何よそ見してやがる!」

 

その隙をついてガジルの左腕の鉄棍がエルフマンの顔面を殴りつける。後方へと身体を倒していくエルフマン。するとそこに…。

 

「ガジルーーッ!!!」

 

エルフマンの胸を足場にして跳躍し、炎の拳を纏いながらナツがガジルを殴り飛ばす。その勢いでガジルの身体は飛んでいき、壁に激突。周りのファントムの魔導士はその光景を信じられないという様子で見ていた。彼が吹っ飛ばされる所など、初めて見たからである。

 

「オレが妖精の尻尾(フェアリーテイル)滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だ!!」

 

堂々と名乗り上げるナツに対し、起き上がったガジルは笑いを浮かべる。自分と同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が現れたことで戦いが更に激化する予感を感じ、楽しめると確信したからだ。

 

「エルフマン!こいつよこせ!!」

 

「貴様!オレを踏み台にした上、漢と漢の決闘を邪魔するのか!!」

 

ナツとエルフマンがガジルと戦うのはどちらか言い合いを始める中、もうガジルにはナツの方しか目に入っていなかった。

 

「鉄竜棍!!」

 

ナツ目がけて手の棍に変化させた腕を突き出し、腹部に命中させるガジル。近くにいたエルフマンだけでなく、エルザやシエルもその様子に息を呑む。

 

「こいつが…ギルドやレビィたちを…!!」

 

だが、受け止めた本人は、身体から、そして棍を掴む手から怒りの炎を発し、熱気を放つ。その様子を見て目を見開いたガジルをそのまま掴み上げ…。

 

「くたばれぇっ!!」

 

屋根裏目がけて投げ飛ばす。ガジルは態勢を立て直して反撃を仕掛けようとするも、気づいた時にはナツは目前まで近づいてきており、再び鉄拳によって吹っ飛ばされた。その様子にシエルたち妖精側に安堵、もしくは喜色の表情が浮かぶ。唯一相手を取られたエルフマンは納得のいかない顔をしていたのだが。

 

「で?それが本気か?火竜(サラマンダー)

 

「安心しろよ。ただの挨拶だ。竜のケンカの前のな」

 

しかしガジルの方もほとんど堪えた様子がない。火竜と鉄竜。二頭の(ドラゴン)が屋根裏の骨組みを舞台に睨み合う。果たして軍配はどちらに上がるのか…。

 

 

 

 

――――その戦いが起こる前に、幕が下ろされてしまう。

 

 

 

屋根裏の更に上、最上階と思われる空間から落ちてきたものによって―――。

 

 

「な、何だ…?」

「なんか落ちてきたぞ!」

 

「…え…?」

 

その落ちてきたものを視認したシエルは、己の目を疑った。何故ならそれは…

 

 

 

 

肌の血色が白を通り越して緑になるまで抜け落ち、一切の魔力を感じなくなった自分たちのマスター・マカロフだったのだから…。




おまけ風次回予告

シエル「あれ?そう言えばルーシィの姿が見えないね?」

ナツ「ああ、あいつ置いて来ちまったんだよ。今頃その事ですねてんだろうな~…」

シエル「まあレビィたちの看病の事もあるし、何かお土産でも持っていったらきっと許してくれるって」

ナツ「やっぱそうだよな。なんかうまい食いもんでも持ってってやるか!」

シエル「いや、食い物よりも本とかの方がいいんじゃないかな…?」

次回『ルーシィ・ハートフィリア』

ナツ「本つっても何の本をやればいいんだよ?」

シエル「そうだな~。世界の美味な炎辞典とかどう?」

ナツ「おお!なんか美味そうな本だな!それにしようぜ!!」

シエル「…いや、冗談に決まってんじゃん…」
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