FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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色んな意味で遅ればせながら、あけましておめでとうございます!
今年最初の投稿です!

連絡一切ないままこんなに遅くなってしまって申し訳ありません…。ずっと戦闘描写や地の文考えてたら全然連絡する暇すらありませんでした…。

今年も度々ご心配をおかけすることになるかもしれませんが、楽しみにしてくださる皆さんの為にも、先の先の展開を早く書きたいとうずく自分の為にも、(←おい)精進していきますので、どうかよろしくお願いします!


第111話 兄弟対決!シエル vs. ペルセウス

X779年。12月に差し掛かってから数日の頃、顧問薬剤師ポーリュシカの元で療養中であった幼い少年シエルに、兄であるペルセウスがギルドで起こったことを報告しているところであった。

 

「S級魔導士?」

 

「ギルドの中でも凄腕の魔導士に贈られる称号……みたいなものだな。ラクサスとかギルダーツとかがそれに当てはまる」

 

「そのS級魔導士に、兄さんもなるってこと!?」

 

毎年同じ時期に行われるS級魔導士昇格試験。当時加入してから半年程であったペルセウスは、元々ギルドの魔導士で経験豊富だったことと、それを裏付ける強力無比な実力があったことで、今回の試験に参加することが決定した。周りからはやっぱりか、と言われるような反応を受けたが、ペルセウス本人は詳細を何も知らなかったために呼ばれた当初は困惑していた。

 

そしてその話を聞いたシエルはと言うと、兄がギルド内でも凄腕として認められる試験を受けると聞いた瞬間、彼がその魔導士として認められると言う未来を感じ取った。

 

「まだなるって決まったわけじゃないぞ?試験に合格しないと」

 

「兄さんなら出来るよ!絶対!」

 

一切疑う様子もなく断言さえしてしまう弟に、ペルセウスは少しばかり苦笑いを浮かべる。ポーリュシカの元で療養しているシエルにとって、一番強い魔導士は兄である事実に揺らぎがないようだ。まだ広い世界を自らの目で見たことがない少年は、自分よりも遥か上を行く存在にも会ったことがないから。

 

「そう簡単なものでもないぞ?なれるのは一人だけだし、エルザやミラも受けるから競争率は高い」

 

「エルザさんたち、そんなに強いの?」

 

「同年代では頭一つ抜けてるな。女子で最強はどっちか、って度々議論があるのを聞くし」

 

しかしペルセウスは今回の試験を慎重に見ている。同じ参加者の中には、頭角を現し始めている同年代の少女たちがいた。自分と同じ換装を駆使して、武器と鎧を使いこなす緋色の髪を持ったエルザと、悪魔の力を身に宿して、強大な力を奮う白銀の髪を持ったミラジェーン。度々ケンカして衝突することもある二人は、実際に手合わせをしたことはないものの、その仕事ぶりを見て自分と同格相当の実力者であることは感じ取っていた。弟には自分が実力者に含まれている部分は敢えて言わないが。

 

「でも、勝つのは兄さんだと思うよ」

 

その上で、弟は言ってのけた。自分の兄が、この試験を勝ち抜ける存在であると、信じて疑わなかった。虚を突かれたように目を見開く兄に、無邪気な笑顔を浮かべながら少年はこう続ける。

 

「僕が知ってる中では、兄さんより強い魔導士はいないし、僕は信じてるから!きっと……ううん、絶対S級魔導士になれるって!」

 

盲目的にも見える、全幅の信頼。真っすぐにここまで信頼されることに、少しばかり戸惑いながらも、弟にここまでの事を言わせておいて、期待に応えられなかったら情けない。ペルセウスは腹を括るように表情に笑みを浮かべた。

 

「そこまで言われちゃ……応えないとな。少し間を開けるが、行ってくる。そんで、S級になって帰ってくるよ」

 

「うん!待ってるからね!」

 

弟の期待を背負い、覚悟を胸にし、ペルセウスは立ち上がる。満面の笑みを浮かべながら自分を信じてやまない少年に、試験の土産話も用意しなければ。栄光を手にした兄の未来を待ちわびながらも、シエルは更に先の未来に期待を膨らませる。

 

「それでね、僕もいつか……!!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

X784年。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地・天狼島に存在する石造りの舞台。祭壇とも言える、広大な空を背景にしたその空間にはある三人の人物……否、二人と一匹が対峙していた。正確に言えば、対峙しているのは人間のみで、片方の傍らに立つ一匹はその様子を固唾を飲んでみていると言った方がいい。

 

そんな白ネコ、シャルルをパートナーにしているのは、受験者シエル。そして対するは現役のS級魔導士、試験官ペルセウス。

 

「それじゃ、これよりS級魔導士昇格試験、一次試験を開始する」

 

一次試験の激闘ルートの一つを担当するペルセウスがそれを告げ、悠然と立ちながら対峙するシエルの動きを見定めるかのように目を向ける。まだ攻撃の態勢を取ってすらいないと言うのに感じられる妙な威圧感に、汗を一筋垂らしながらも、一歩も引かずにシエルも兄の姿を見据えながら構える。

 

「こんなの無理よ!絶対無理無理!!あんな奴に勝てるわけがないわよ!!」

 

そんなシエルを引き止めるようにしてシャルルが声を張り上げた。あのペルセウスと言う存在がどれほどの魔導士かは嫌でも知っている。しかもシエルにとっては長い間高い壁であった実の兄だ。ただでさえ才能に溢れている存在であるあの男に、逆に恵まれない身体で過ごしてきた弟が、強くなってきたとしても敵うとは思えない。

 

「確かに勝てる可能性は限りなく低い。けど、それを理由にして逃げてしまうようじゃ、結局は同じことさ。S級になるためなら、例え兄さんでも超えてみせる……!」

 

しかし彼女の主張は聞き入れられず、シエルは口角を上げながらこの激闘に臨む覚悟を決めていた。シャルル以上に兄の力を熟知しているシエルは、この状況を逆に好機と捉えていた。S級魔導士になるにあたり、現役で最強候補と呼び声の高い自分の兄を相手にどこまで通用するのかを、理解することが出来るのだから。

 

「シャルルは下がっててよ。巻き込まれるから」

 

「け、けど……!!」

 

構えを解かず、後ろを振り向かず。闘う力を持たないシャルルに離れるように告げたシエルは身に纏っていたアロハシャツをその場で脱ぎ捨て、タンクトップ一枚を上に着ている状態にし、そのまま兄のみに目と意識を向けて一歩足を踏み出す。尚も彼を案じて引き止めようとするシャルルの声も、聞こえないふりの様子だ。

 

その様子を見て、何かを考える素振りを見せたペルセウス。しかしその事に関して何を言う訳でもなく、弟の動きを黙して見定めた。

 

「行くよ兄さん!!」

 

「……来い」

 

それが闘いの合図となった。簡素にも思える闘いのゴングに似たやり取りの直後、シエルは雷の魔力を右手に展開し、握り潰しながら一気に兄に目掛けて駆け出した。

 

雷光(ライトニング)!!」

 

自らの敏捷を大幅に上げる雷の魔力を纏い、そのまま一瞬でペルセウスへと詰め寄って右の拳を振るう。だが対する兄は焦る事なく、魔力を纏った左の掌で受け止めた。本来であれば、シエルの攻撃に付加されるはずの雷攻撃も、彼に通っている様子は見られない。

 

「先手必勝を狙ったか……悪くないが、身内相手には善手と言えない」

 

動きを見切られて対応されただけでなく、追加効果の雷も付加させた魔力で防いでいる様子の兄を見て、シエルは一瞬息をのんで距離をとる。横へと跳ねたシエルは再びペルセウスへ特攻。フェイントとして横を通過する動きを交えるが、攻撃が届きそうな時に限って動き、魔力を纏った手足で防いでいく。

 

「あ、あれだけ速い動きを全部見切ってる……!?しかもあいつ……!」

 

遠目から見ているシャルルは、シエルが全く目に止めらないほどの動きを見せているのに、より近くで動きを捉えることも難しいはずのペルセウスは、シエルがどう動くのかを熟知しているかのように彼の神速に対処している。だがシャルルが驚いている要因はそこだけではない。

 

 

 

 

ペルセウスの目が、前方から一切揺らいでいないのにも関わらず、シエルの動きに対応できていることの方だ。見切っている、だけではない。

 

「シエルの動きを……見ていない……!?」

 

どうやって対処しているのかは不明だが、わざわざシエルの姿を捉えずとも防げると言う事を言外に伝えているようだった。これにはシエルも表情に更なる焦りを見せ、攻撃の方法を変えることを選択。纏っていた雷の魔力を気象転纒(スタイルチェンジ)で刃の形に変化させると、ペルセウスの背後頭上から振り上げる。

 

稲妻の剣(スパークエッジ)!!」

 

刃に変わった雷を手に、兄に向けて振り下ろすシエルだったが、それを体を左に傾けてかわし、右手でシエルの左手首を掴みながら横回転して振り回して投げ飛ばす。

 

だがそうなることは読んでいたシエルは、それにも怯むことなく前のめりに倒れ込もうとした体を両手で支えて跳ね飛び、手の形を指鉄砲にして照準を合わせる。生み出したのは雨の魔力。そしてそれを練り上げて、指鉄砲の先に集中させていく。

 

気象転纒(スタイルチェンジ)雨垂れ石をも穿つ(ドロップバレット)!!」

 

数発ペルセウスに向けて、銃弾となった雨粒を撃ち出した。しかし、目視するには極めて難しい素早く小さなその弾丸を、二本指を立てて刃の形の魔力を作った彼はそれを切り落としてただの雨粒へと変える。

 

「だったら……これでどうだッ!!」

 

対するシエルはすかさず次の方法に移行。集中させていた雨の魔力を分散。シエルの突き出した右腕を中心として把握し切れないほどの量の雨で作られた銃弾が宙に浮かび、シエルが更に集中し始める。

 

「さっきの銃弾が……何発あるの!?」

 

「『驟雨岩を砕く(ドロップガトリング)』!!」

 

滞空していた雨の銃弾が、シエルの一声で一斉掃射。“ガトリング”という技の名前に違わず、制限なしに撃ち込まれる雨の銃弾を前にして、ペルセウスは右掌を前方に掲げて魔力の壁を張る。際限なく撃ち込まれる銃弾を弾き、彼の元に届かせないまま消耗するばかりに見えるが、シエルは逆に雨弾の勢いを上げていく。

 

 

 

すると、一部の壁に綻びが生まれ、その隙間を縫って壁を越えていき、ペルセウスの体に雨弾が数発横切り、少しばかり跡を作る。

 

「……!」

 

余裕そうな表情を浮かべていたペルセウスに初めて変化が起き、シエルの攻撃が届いたことに対しての驚きが見られる。それに気付いたシエルは更に雨弾の威力と規模を上昇させ、声をあげながらその勢いを強めていく。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとはこの事か。さらにペルセウスが張った壁に亀裂が走り始め、その綻びから雨弾が侵入してペルセウスの体に当たり始める。一つ一つの威力は彼自身に届くころには大した威力になっていないが、積み重ねるとダメージが浸透していくだろう。

 

「成程、これくらいなら破るか……なら……!」

 

魔力の壁はこれ以上通じないと判断したペルセウスは、壁を張っていない左掌に魔力弾を装填。集中させて一瞬で人一人を巻き込めるほどの大きさのものを作り上げる。

 

「これを破ってみろ!」

 

そして左手を突き出すと同時に魔法弾を発射。自分が張った壁をあっさり粉砕し、迫り来ていた雨の弾幕をのみこんで、シエルへと迫りくる。「い!?」と驚愕と同様の声をあげたシエルは雨弾幕を打ち止め、すぐさま横に跳んで回避。行き場を無くして石舞台の外へと飛んで行った巨大な魔力弾は天狼島近海に着弾して、遠目から見える程の水しぶきを上げて消えてった。

 

「あ、あれ当たったら、ただじゃすまなかったわよ……!?」

 

「分かっちゃいたけど、一筋縄じゃ行かないか……!」

 

守りを物量で押して壊しにかかってきたシエルの攻撃を、逆に一撃の力を大きく込めた攻撃で全て飲み込んで攻略しに来たペルセウス。最後に力押しで突破してきた彼らしい方法だが、実際に自分相手にそれをされると困惑が強い。何せ必死に工夫して編み出した方法を、考えなしに出した一撃で全部無駄にしてくるのだから。

 

「まだ昇格試験、一次試験は始まったばかりだぞ?ここで終わるのか?」

 

「冗談!」

 

二人揃ってペルセウスの攻撃力の規格外さを垣間見て動揺していたところを、当の本人が笑みを浮かべて問いかける。対して兄の言葉を真っ向から反論を叫ぶと共に、シエルは右掌を上に突き上げて曇天(クラウディ)を発動。快晴が続いていた周辺の空が一気に暗くなり、灰色の雲が石舞台を覆い隠す。

 

「頭上注意、雷警報!落雷(サンダー)!!」

 

そしてすかさず雷の魔力を作り出してペルセウスの頭上目掛けて投げつけると、雲は一気に暗雲へと変貌。迸る電流が発生し、ペルセウスに狙いを定める。

 

「らしくないな。こんな見え透いた攻撃に、対処できないと思う訳がないはずだが……」

 

誰が見てもどんな意図をもって繰り出してきた攻撃なのかは明白。だからこそ解せなかった。シエルが何故このような分かりやすい攻撃を仕掛けてきたのかが。ただ単純に落雷(サンダー)を撃つだけではない事は分かり切っている。シエルの動きに注視しながらペルセウスは弟が起こしそうな行動を予測してみる。

 

 

 

「そう言う事か」

 

そして気付いた。石舞台全体に先程シエルが撃っていた雨の弾幕。それを弾いた影響で、辺り一面に小さな水溜まりがいくつも出来ていることを。恐らく今頭上から落とそうとしている落雷はフェイクだ。

 

本命は、落とそうとしている落雷に意識を向かせて、下からの別の電流でこちらを攻撃すること。

 

「(分かっていれば、対処は簡単だ)」

 

上げていた右腕をシエルが降り下ろし、暗雲から落雷がペルセウス目掛けて振り落ちる。それを後ろに飛んで躱し、落雷が先程彼がいた場所を焦がす。躱したことを確認したシエルは、すかさず兄から見えない位置に隠していた雷を纏った左手を近くの水溜まりに叩きつけ、石舞台に広がった水溜まりに電流を走らせる。

 

帯電地帯(エレキフィールド)!!」

 

ペルセウスが先んじて予測しなければ、地を這う電流の餌食となっていた事だろう。だがいくら頭脳は弟の方が優れていると言っても、魔導士として長いこと危険と隣り合わせの状態に身を置いていた兄とて、簡単に策略に引っかかるような愚者ではない。落雷を避けて着地すると同時に、その場で大きく飛び跳ねて、電流が迸る地上から退避する。

 

「避けられた!!」

 

二段構えの電撃を回避したことで、シャルルから驚愕の声が上がる。弟にしては少々稚拙なように感じられる行動ではあったが、こちらとしてもそう簡単に向こうの思い通りにされてしまっては幻滅されることだ。未だ地面を走る電流を流し、避けられた弟の表情は、心なしか予想外と言いたげ。だがこの程度の策や戦い方が通用しない事はS級クエストでは多々存在する。

 

「甘いなシエル。これくらいで俺に通じると……」

 

弟の戦い方にやや厳しめの評価を下そうとしたその時だった。突如ペルセウスが滞空している範囲に、上昇気流が発生し、飛び跳ねていた彼の身体が想定しているよりも大きく上へと持ち上がる。少しすれば着地して態勢を立て直すとふんでいたペルセウスは、まさかの出来事に対して口を閉ざす。

 

対して地上にいたシエルには、先程の困惑から一転、したり顔に変わっていた。

 

「(まさか……帯電地帯(あの技)もブラフ!?)」

 

空中に投げ出され、ほぼ無防備の状態になったペルセウスは、弟の表情を見た瞬間全てを察した。シエルの狙いは更にその先だったのだ。

 

ペルセウスに襲い掛かった上昇気流の正体は、『熱雷』と呼ばれる現象だ。夏のように太陽が強い日差しを発している頃、地表が急激に熱せられると上昇気流が発生する。その気流によって大気が不安定になって積乱雲が出来上がり、夕立やそれに伴う雷を発生させる。その一連の現象を総じて呼ぶのが熱雷だ。

 

天狼島は海流の影響で、常に真夏の気候。雲一つなかった快晴に照らされた石舞台が、雨の弾幕で一時的に冷やされ、雲のかかっていない箇所から太陽の日差しが一部の石舞台を熱したことにより、熱雷発生の条件が整った。シンプルな落雷に気を取られたところを、地上の電流で攻める。その行動を敢えて兄に見切らせて彼が空中に退避するのを誘導。シエルが狙ったのは、その滞空時の隙だったのだ。

 

そしてペルセウスを打ち上げた上昇気流はつまり、熱雷の序章に過ぎない。

 

「発生した積乱雲に、俺の曇天(クラウディ)を融合……そして、気象転纏(スタイルチェンジ)!!」

 

上昇気流に伴って生まれ始めた積乱雲に、シエルが魔力操作で自分が作り出した雲を混ぜて、己の魔力の支配下に置く。そして魔力を操作して、彼は雲全体の形を変化させ、上昇を続けるペルセウスの近くにそれを作り上げた。

 

雲の色は雷が帯電していることにより黒く染まり、所々に熱雷と雷の魔力が混ざったかのような電流が迸っている。だがペルセウス、そしてシャルルが目を見張った理由はその形だ。

 

 

 

空に広がる雲海から、まるで突き出てきたかのように、関節がない幾つもの腕が伸びている形。雲で作られた腕と拳。それがシエルが作り出した魔法の様相だ。

 

煙を自在に操り、形を変える魔法を使うベテランの魔導士、ワカバの技をヒントに編み出した技だ。

 

「行けえっ!『雲拳連打(クラウドラッシュ)』!!」

 

握られた拳の形をした雲の大群が、シエルの指示に従って一気にペルセウスへと迫りくる。投げ出される形で上昇を続けていたペルセウスは避けることも叶わず、数十にも及ぶ雷雲の拳を腕を交差して防ぐことしかできない様子。何回か彼にその拳がぶつかり続けた後、滞空に限界があったペルセウスの体が降下を始める。

 

「はあっ!!」

 

そのタイミングで最後の拳がペルセウスの横から叩き込まれ、彼の身体が石舞台へと落ちていく。そしてそのタイミングでシエルが再び帯電地帯(エレキフィールド)を展開。息つかせぬ間に少しでもペルセウスにダメージを与える狙いだろう。これぐらいの事では兄が倒れるわけがないと分かっているから、と言うのもある。勢いがついたまま電流が流れる地上へと叩きつけられそうな時だった。

 

「換装!」

 

身を翻して前方を下に向けたペルセウスは、右手を出しながら換装魔法で神器を呼び出す。紫色の魔法陣から取り出したのは、頑強な造りをした、紫電を纏った怒鎚。

 

「ミョルニル!!」

 

その大きな鎚を下に向けて石舞台の上へと落下。流れ迸っていたシエルの電流を、逆にミョルニルから発した紫電によって打ち消し、周囲の床を砕き割った。

 

「ぐっ!?」

 

その衝撃は離れている場所でも感じたようで、シエルが腕を前に突き出してその風圧から顔を覆う。シャルルもまた飛ばされそうになった身体を、必死に石舞台の端を掴むことで堪えている。

 

ミョルニルを実質石の床に叩きつけたことになり、石舞台についていた水溜まりは全て蒸発し、辺り一面が土埃と水蒸気の影響で軽く視界不良の状態だ。そんな煙たちを振り払うかのようにペルセウスが大鎚を振るえば、風圧が起きて彼の周辺のみを晴れさせる。

 

「まんまと引っかけられたか。考えてみりゃ、あんな見え透いた策だけでシエルが終わる訳もなかったな……。強くなったじゃねえか、シエル」

 

熱雷による上昇気流、積乱雲を拳に変化させて連打。そこまでは事前の予測がつかずに受けてしまったペルセウス。素直に弟の三重に張り巡らせていた闘い方に感心を抱くも、それを向けられたシエル、そしてシャルルにはまだまだ余裕しか見られない兄の姿だけが目に入っている。

 

「お前を相手にすることがなかったからかなり加減して闘ってたんだが、もう少しばかり力を出しても良さそうだ」

 

「全然説得力感じないんだけど!?」

 

試験とは言え弟を傷つけることを良しとしないと言いたげなペルセウス。だがそんな言葉に一切重みを感じられないシャルルが目を吊り上げながら突っ込むように声を張り上げた。

 

「さっきのやけにデカい魔力弾とか、今の着地とか、明らかに加減してるようには見えないわよ!いくら試験だからって弟相手にやりすぎじゃないかしら!?」

 

喰らえば危うく即退場、と言っても過言じゃない威力の攻撃を弟相手に撃っていた光景を思い出しながら指を(分かり辛いが)さして指摘する。明らかにシャルルにとっては当たればオーバーキルだ、と言う意見はしかし、思ってもみなかったところから覆された。

 

「違うよシャルル。兄さんは一切本気じゃない」

 

「え、嘘でしょ……?あれが本気じゃないっていくらなんでも……」

 

それは当事者であるシエルだ。下手をすればすぐさまやられるところだったのに、兄の言う通り彼は全く本気を出していないと言う。どう見ても本気……じゃないとしても少しぐらいはその片鱗を見せていたようにも感じたはずだが、シエルの表情は険しい。これまで以上に気を張っていると言いたげだ。

 

そして事実、シエルは気付いていた。兄のこれまでの戦いが、どれほど自分に譲歩していたかを。

 

「だって、今出したミョルニル以外に、兄さんは一切神器を換装してなかったじゃないか」

 

その一言を聞いてシャルルは言葉を失った。そして思い返した。試験開始の合図から、ペルセウスは丸腰のまま、魔力を手足に纏い攻撃をいなして、雨の弾幕に壁を張って防いだり、巨大な弾で打ち消したぐらい。神器は今の今まで一切使ってない。

 

それどころか、ペルセウスの方から一切攻撃をしていない。全て()()()()()の迎撃だ。

 

「(にも関わらず……シエルをあそこまで圧倒していたってこと……!?)」

 

ペルセウスにとって今の攻防は、本気の一片すら見せることのなかった歯牙にも掛けないもの。その証拠にシエルから受けていた攻撃の跡はあれども、ダメージらしきものを感じている様子は見られない。まるで何一つ通用していない。

 

「(これが……現役のS級魔導士の、実力……!?)」

 

勝てるわけがない。最初から自分が口に出していた言葉を、この時シャルルは本当の意味で初めて実感させられた。今の兄弟には、実力に違いがありすぎるのだ。シエルと同じ年齢でその称号を手にした彼が、今のシエルと比べてどれほどの力を持っていたかは分からない。だがきっと……今のシエルよりも、過去の兄は強く、優れていたのだろう……。

 

「ようやく、兄さんの本気の一端を引き出せたってところか……やっぱ、一筋縄じゃいかねえ……!」

 

生半可な勝負になるとは思っていなかったが、それでも通用するところまでは行けるつもりだった。しかし蓋を開けてみれば、彼の本懐である神器を、今の時点でようやく引っ張り出せたところ。全力でかかっていたシエルにとって、より苦しい展開と言わざるを得ない。

 

「兄貴として、そう簡単に負けてやるつもりもない。兄弟故の意地、と言うのもあるが……シャルル、一つお前の勘違いを訂正しておく」

 

ミョルニルを肩に担ぎながら、彼らの言葉を聞いたペルセウスが今の闘いに対する姿勢を口にする。彼が憧れる兄として情けない姿を見せたくない、魔導士としての歴が長い故にまだ年若い弟に簡単には譲れない、彼が全力で自分にぶつかっているのに贔屓で加減をするのもお互い望まない、色々と理由はあるが、ペルセウスが抱いていた本心は、もっと別に存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直に言えば、俺はシエルをS級魔導士にさせるつもりはない。出来れば、今回の試験も見送りにしたかったぐらいだ」

 

表情を少しばかり険しくしながら言い放った兄の言葉に、弟もそのパートナーも絶句と共に衝撃を受けた。弟の望みであった、兄と同じ称号。それを賭けた試験さえ、彼は受けさせるつもりがなかった、かのように。

 

「知っての通り、S級クエストは一般のものとはかけ離れた危険度と脅威を孕んだものだ。俺たちのような者たちでさえ、一瞬の油断がすぐさま死に直結することも珍しくない。ギルダーツ曰く、同期や後輩がそのせいで二度と帰ってこなかったこともあるそうだ……」

 

この試験は、年末に毎年行われている。長い長いギルドの歴史から鑑みても、そのイベントが経過すればS級魔導士の数はそれなりにいるはずだ。だが、ギルダーツを除く現役のS級は皆若者ばかり。まだ前線で活躍できそうな年代にこぞってその称号を持つ者たちがいないのは、何らかの理由でギルドを抜けるか……あるいは帰らぬ者になるかのいずれか。

 

その最たる要因は間違いなく、S級クエスト以上の、高難易度のクエスト。事実、ギルダーツでさえ失敗した100年クエストは、彼を除けば一人たりとも戻ってこなかったほどだ。

 

 

 

そしてシエルも知っている。S級クエストに同行したことで、二年もの間帰ってこれなくなった……二度と会えないと言う悲しみを味わった事件が起きたことも。

 

「過保護な兄貴の我儘だと、誰もが言うだろうがな……それでも俺は、お前にそんな危険な橋を渡ってほしくないんだ。

 

魔法を覚えたい。魔導士になりたい。強くなりたい。S級になりたい。

 

それら全てが、()という存在が近くにいたから。憧れてくれたからと言うのも、理解している」

 

自分と言う存在が、弟にとってどれだけ希望だったのか、共に互いを熟知していたことから、その気持ちも分かっていた。ずば抜けた才能を持ち、人の力となり、家族と共に歩んできたその背中を、弟は追いかけようと必死に走っていた。憧れの兄に近づきたい、支えたい、守りたい。その一心で。

 

 

 

だからこそ、ペルセウスは心を痛めていた。弟の人生が、まるで自分の歩んできたレールに沿ったばかりのものに、なっているのではと。

 

その道を歩まざるを得なかった原因は、兄である自分自身の咎なのではないかと。

 

 

 

「ならば、その責任を取るのは、俺の仕事だ」

 

肩に担いでいたミョルニルを、右腕と共に前方に突き出しながら、ペルセウスは覚悟を秘めた表情のままにシエルへと厳しさを抱いた顔と声で宣言した。

 

「シエル。今のお前に、S級の舞台はまだ早すぎる。この場で降参を告げるか、最後まで足掻いて敗れるか、選択肢は二つに一つだ!」

 

そして彼に内包された膨大な魔力が、闘気となって空気を震わせる。実際に闘っている立場ではないはずのシャルルさえ、足がすくんで立つのもやっとと言いたくなるほど。対峙している方の……本気で立ちはだかっている壁となっている兄をその目にしているシエルは、どのような心境なのだろう。兄が吐露した本音。自分の夢を理解し、共感しながらも、いずれ降りかかる残酷な現実から遠ざけるために立ち塞がるペルセウスの覇気をその身に受け、正直シエルは意識を失いかける感覚を覚えた。

 

 

 

 

それでも……弟は退くことを選ばなかった。

 

「俺も、兄さんの気持ちはよく分かるよ。それ程までに俺の事を大切にしてくれてることも、俺が想像もつかない危険や、悲しい現実に立ち向かったから、俺に同じ目に遭ってほしくない事も……」

 

兄は望んでいる。自分に訪れる危険とは無縁の暮らし、人並みの幸せを。魔導士として戦う事はあっても、必要以上の危険には踏み入れず、家族と過ごしていける分の力でこの先を生きていくことを。それが、かつて兄弟揃って地獄で過ごしてきたが故に抱いた、兄の夢だと言う事も、シエルは理解している。

 

 

 

でもシエルは、それだけではダメだと思っている。

 

 

 

 

 

才能があったから。神に愛されたから。その一言だけで兄を片付けられることが、孤独であることが、シエルにとっては耐えがたいことだったから……!

 

「それでも俺は!諦めない!今までの俺の経験を、全部を!今ここで兄さんにぶつけて!!乗り越えて!!

 

 

絶対にS級魔導士になってみせる!!!」

 

両手に具現化した雷の魔力を握り潰して蒼雷を纏い、なおかつ両手に風で作った棍を持ちながら、己に発破をかけるように声を張り上げる。ペルセウスに気圧されていたシャルルがその声に反応してシエルへと目を向け、真っ向からその宣言を耳にしたペルセウスは、是非もないと悟り、目を閉じて弟の覚悟を受け入れた。

 

「最早言葉では、互いに譲らないな……。だったら、遠慮しないでぶつけに来い!兄と言う障害を乗り越えて、この一次試験を突破してみせろ!!」

 

その言葉が、激闘再開の合図だった。目視すら不可能となった速度で地を蹴ったシエルが、雄叫びを上げて風の棍を振りかざしながら兄に向けて肉薄。だが兄は紫電の大鎚を持ち上げてそれを迎撃し、それを見たシエルが飛び跳ねるようにしてペルセウスの頭上を通って再び振りかざす。

 

対して大鎚から溢れ出る紫電を迸らせて一瞬の防御壁を作り上げると、それによってシエルの身体は彼の後ろに飛んでいく。だがすぐさま体勢を立て直して着地したシエルは再び兄へと肉薄しようと駆け出し、同時にペルセウスは防御壁の範囲を拡大。否、最早防ぐための紫電ではなく、石舞台の広範囲を蹂躙する雷群。

 

可能な限り身を捻ってその雷群の数々を神速を保ちながら通過していくシエルは、棍だった風を変化させて槍の形へと変えていく。そして纏っている蒼雷の一部を纏わせて投擲。狙ったのは兄……ではなく大鎚だった。

 

紫電の大鎚に竜巻と同等の風で出来た槍が直撃して、兄の手元から大鎚が離れた。その隙を突かんとシエルは足に力を込めて特攻。道を阻む紫電を力づくで突っ切って拳を振りかぶる。

 

狙うは連撃。一瞬の間に数えきれない物理攻撃を加える雷光閃舞。その初撃となる一撃をぶつけようとペルセウスとの距離が縮まっていき……!

 

 

 

 

 

「トライデント!」

 

ペルセウスを囲うように突如水が地面から噴き出して、蒼雷を纏ったシエルの身体を打ち上げる。激しく吹き上がる水流に突如阻まれて一瞬思考が抜けてしまったシエル。しかもそれだけでなく、シエルが纏っていた蒼雷が、電気を通しやすい水によって無理矢理に剥がされていく。そして流される水流に抗う術もないまま、シエルは石舞台の上に水と共に叩きつけられた。

 

「がっは!?っ……まだ、まだぁ!!」

 

衝撃で息を吐きだし、痛みに苛まれるも、それでも尚シエルは退こうとせずに立ち向かう。だが、かつては神が扱ったものとされる神器を解禁したペルセウスには、あらゆる手が封じられていく。

 

太陽の矢を撃とうとも水の壁に阻まれ、幻影に特攻させて背後を狙うも魔力の流れで感知と共に対処され、吹雪や砂嵐と言った広範囲の攻撃は風を起こす短剣に持ち替えて相殺される。

 

「もう……もういいじゃないの……!どうして、そこまで……!!」

 

悉く技を相殺され、肉薄しても弾かれ、ペルセウスへのダメージがほとんど通らないままシエルの体が何度も石舞台に転がっていく。直接的な攻撃をしないあたり、まだペルセウスは加減を行っているようだが、今の状態でもシャルルにはシエルの姿は痛々しく見えていた。

 

呻き声を漏らしながら、それでもまだシエルは四肢に力を入れて立ち上がる。魔力もあとどれくらい残っているのか怪しい状態。彼に攻撃を届かせるためにありとあらゆる攻撃を仕掛けている為に、消耗も激しいはず。

 

「まだ続けるのか……?」

 

「っ……当、然ッ……!!」

 

海神が扱った三又の槍に持ち替えながら、ペルセウスは弟に問う。帰ってきた答えは、想像通り。何度迎撃しても折れる様子のない弟の姿に、兄の表情が歪みだす。彼にとってもこれ以上は苦痛だろう。しかしシエルは、兄の説得でも止まる事はない。

 

「言っただろ……!全部、ぶつけるって……!魔力が尽きるまで、いや、尽きたとしても……!!

 

 

 

何度も立ち上がって、必ず、超えてみせる!!」

 

ボロボロになり、消耗し、立つこともやっとだろう状態でさえ、彼の表情や目は未だ曇らない。昔の弟と比べて、本当に強くなったことを実感する。

 

だが、まだ足りない。シエルが目指しているそのステージに立つには、今のシエルには足りないもの、自覚すべきことが多い。それを乗り越えなければ、関門である自分を突破したことには出来ないのだ。

 

「そうだった……なら俺も、覚悟を決めよう……」

 

その言葉と共に、石突を石舞台に叩く。するとシエルの前方に、三つの青い魔法陣が出現し、大蛇のような渦巻きが発生し始める。天へとうねりながら湧き上がるそれをどうするか、シエルもシャルルも、すぐに察することが出来た。

 

「気絶に留める。恨んでくれても構わない。

 

 

 

 

これで、闘いは終わりだ……!」

 

どこか悲し気に歪んだ表情で告げたと同時に、三匹の大蛇は轟音を立てながらシエル目掛けて降ってくる。この規模の水を避ける気力は、シエルに最早残っていない。

 

 

 

 

「ダメェーーーーッ!!!」

 

迫りくる洪水の如き大蛇たちを、シエルは見上げる事しかできないまま。パートナーであるシャルルの声が響いた直後……

 

 

 

 

 

 

 

 

天狼島の外側からでも分かる長大な水飛沫が、石舞台の一部から暴発した。




次回『俺たちの礎』
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