FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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3週間ぶりでございます。
ワクチン副反応、休日出勤を経て、ようやく投稿できました!お待たせしてしまった侘びも兼ねて、今回はちょっと長めに書きました!!久々に二万字近く書いた…。

ちなみに、ちょっと前々話の一部に文章を追記させました。あれ書かなかったら、ペルと闘ってる間も今後も、シエルがアロハシャツ着たままになっちゃってたので…。←

余談を言うと、今回少々、当て字で遊んだ部分があります。どこの部分かヒントを言うなら…最終奥義、ですかねw

ちなみに長く書こうと思って書き進めてたら結局日付変わっちゃってたのは気付かなかったことにしてくださいお願いします←おい


第113話 メスト

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の古くからのしきたりによって行われているS級魔導士昇格試験。試験会場となっているのは、ギルドの聖地であり初代マスター・メイビスが眠る地と言われている広大な島、天狼島。

 

9つに分かれた道を進み、その先に待ち受ける三種の試練を突破したチームのみが先を進める一次試験。その内の一つである、二組がぶつかり合う“闘”のルートを選んだ二組が、今まさに戦闘中であった。

 

「アイスメイク“大槌兵(ハンマー)!!”」

 

その二組はグレイとロキのペア、メストとウェンディのペアと言う組み合わせ。先手必勝とばかりにロキが攻め立て、メストが攻撃を一度防いだと同時に二撃目を跳躍で回避。その後追撃としてグレイが瞬時にハンマーの形で氷を造形。メストの上空から叩きつける。

 

だがとうのメストはその場から消えており、グレイの背後から右の蹴りを繰り出そうとしていた。一瞬グレイがそれに目を見開くも、すぐさま振り返って蹴りに対処し、逆にメストの身体を殴り飛ばす。

 

「天竜の咆哮!!」

 

王の光(レグルス)よ!我に力を!!」

 

一方で、ロキに果敢に攻撃を仕掛けるウェンディ。口に溜めた空気の咆哮を彼目掛けて放つと、対するロキは両手に光を纏わせて、同時に突き出し、一つの光を撃ち放つ。両者の放った技はしばし拮抗。二人の力が互角のようにも見受けられる、が……。

 

「さすがの威力だね、ウェンディ。けど……!」

 

拮抗していた最中にロキがさらに威力を後押しすると状況は一変。ロキが放った光の奔流が竜巻を飲み込み、その直線上にいたウェンディの身体を吹き飛ばす。「きゃあ!!」と悲鳴を上げながら飛んでいく彼女の身体は、瞬時に彼女の後方に移動していたメストがしっかりと受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、はい!すみません!」

 

受け止めてすぐに降ろしながら安否を確認するメストに、咄嗟の事で困惑しながらも、手を煩わせてしまったことに対してすぐさま謝罪を告げる。幸いケガをした様子は見られない為か安心したように息を吐いてからメストは再びグレイの方へと向く。

 

「(迷惑かけちゃった……!ダメ!今は集中しないと……!!)」

 

一方でウェンディは、先程のロキとの拮抗を崩されたことに関して、自らその原因を理解して反省を心掛けていた。恐らくロキは気付いていたのだろう。今のウェンディは普段と比べて集中できていない。

 

その理由は、幼い頃から友達として過ごして来たシャルルが、ギルド内でも仲が良いと思っている少年・シエルのパートナーとなった事についてだ。何かと自分に親身になってくれるシエルの支えになれるのではと、今回の試験でパートナーに誘われた際には快く引き受けるつもりだったのに、頼まれることもなく、最終的にはシャルルが彼のパートナーとして参加していた。

 

親身にしてくれたシエルと、一番の親友と言っていいシャルル。そんな二人が、自分の知らない場所でいきなりパートナーを組み、あまつさえ自分がパートナーになったメストの前に立ちふさがった。

 

この時からずっと……ウェンディはどこか疎外感を感じていたのだ。これまで自分と共に歩んでこれていたと思ってた二人が、自分を置いて先へと進んで行ったかのようで……。

 

「っ……!(考えたらダメ!集中しなきゃ!!)」

 

今は目の前に立ち塞がるグレイとロキの対処が最優先。頭を横に振って雑念を振り払い、ウェンディは再びロキへ向けて天竜の咆哮を撃とうと空気を食べ始める。

 

「アイスメイク“(フロア)”!!」

 

「あっわっ……きゃあ!?」

 

だがその攻撃の直前、メストに向けたと思われるグレイの氷魔法が、先程までメストとウェンディがいた位置の大地を一瞬で凍結。メストは回避できたのだが、ウェンディは直前までその動きに気付けないまま、踏ん張ろうとしていた足元を滑らせてしまい、その場で転倒。思わぬ僥倖に追撃を考えたグレイだが、再びグレイの背後に迫っていたメストが足元を強襲。二人は再び距離をとって向かい合う。

 

獅子王の輝き(レグルスインパクト)!!」

 

そこに王の光(レグルス)を左拳に纏いながら、ロキがメストへと飛び掛かり、それを振りぬく。だがその攻撃は空振り、瞬時に移動していたメストが彼の背後から攻撃を狙う。

 

これに驚き振り向くロキだったが、奇しくもその行動が彼を救った。左拳に纏っていた光は健在で、突発的にメストの目眩ましの役目を兼ねることが出来、彼の視界が一時的に奪われる形となった。

 

「今だ!」

 

この好機を逃すものかと瞬時にバズーカを造形し、グレイがメスト目掛けて発射。視界も機能しない上に、パートナーのウェンディが転倒したまま起き上がれない状態にあったメストは、為す術無くその攻撃を受けて吹き飛ばされる。そして衝撃によって巻き上がった煙が晴れた頃には、メストは隆起した岩を背にして寄り掛かった体勢のまま気を失っていた。

 

「……あっ!!?」

 

そこにようやく前方へと意識を戻したウェンディは、その光景を目にし、激しく後悔を募らせた。自分の集中力がなかったせいで不甲斐ない動きをし、みすみすメストを戦闘不能にさせられた。

 

彼の師匠であるミストガンへの恩返しの為、彼を助ける為に覚悟を決めてきたと言うのに、結果自分は何も出来ないままメストを下されてしまった。シエルたちの事に意識を奪われず、目の前の二人をちゃんと相手していれば、少しは変わっていたかもしれないのに……。

 

「さて、残るはウェンディのみ……」

 

「どうする?今なら降参しても一向に構わねぇぜ?」

 

メストが動けなくなった今、こちらが闘えるのはウェンディのみ。ロキとグレイは彼女に近づきながらも、こと戦闘に関しては未熟な点が目立つウェンディを不必要に傷つけるつもりが無いため、遠回しに降伏を呼びかける。

 

確かにこのまま戦闘を継続しても、実力の高いグレイたちのペアに勝てる可能性は極めて低い。まだ実戦経験が少ない上、味方のサポートの方が得意なウェンディはこの問いに大きく揺らぐ。ほとんど役に立てなかった状態とはいえ、メストが闘っても勝てなかったペア。そんな二人を同時に相手などできるわけがない。降参の二文字が、彼女の頭に過り出す。

 

「わた、しは……」

 

 

 

 

 

 

だが、無意識にその二文字を言おうとした瞬間、ウェンディの脳裏にある光景が浮かんだ。エドラスから帰る際に、止まっていた時の中で交わした恩人(ミストガン)との約束。そして、エドラス帰還から今回の試験の合間にあった、シエルとのある会話。

 

それを思い出したように目を瞬かせたウェンディは、思い直した。今、自分は降参しようとしていた。だがその選択は、自分の力を頼ってくれたメストの、そして約束を交わしたミストガンに対して、失礼に値する。

 

「降参……しません……!」

 

一度顔を俯かせながら、ウェンディは魔法が切れて地面が露わになったその地に足を踏みしめ、立ち上がり、グレイたち二人に真っすぐ目を向けて決意を告げた。

 

「メストさんが倒されたのは、私の責任……これ以上、迷惑はかけられない!メストさんの分まで、私が最後まで闘ってみせます!!」

 

敵わないかもしれない。二人がどれだけ強いかは本人も知っているつもりだ。それでも引けない。逃げられない。決意を改めた少女の姿を見て、グレイたちもそれに応える姿勢を見せた。

 

「分かった、いい覚悟だ。ならオレたちも手加減はしねぇ。行くぜ、ロキ!最終奥義だ!!」

 

「ああ!」

 

一度目を伏せながらウェンディの覚悟に対することを選んだグレイは、直後力強く目を開きながら、ロキと共に恐らく大技であろう最終奥義を構え始める姿勢を見せる。最終奥義と言うフレーズに若干怯み、心臓の鼓動が早くなるのを実感した。

 

「(大丈夫……きっと、大丈夫!信じるんだ……!!)」

 

心でそう言い聞かせながら、ウェンディは再び思い出す。彼に教わったことを。それによって()()()()()()()を。動揺で早まっていた心臓の鼓動を、深呼吸をすることで落ち着かせ、集中していく。周りの空気は全て自分の力の源。足を肩幅に、両手を外側に開いて、空気を集めるように手を開いたまま下の方へとゆっくり動かしていく。下の方で両手が接触し、それを認識したウェンディはその両手を今度は自分の胸元近くまで持っていき、交差する。

 

準備はできた。後は練習通りに…!そう決心を固めて両目を開いて、彼女はグレイたちに再び対峙した。

 

「天竜の……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梅干(うめぼし)喰于堕怪(くうだけ)!!!」

 

しかし、そう叫んでグレイが突如懐から取り出したのは、梅干しの瓶詰め。ギュウギュウに詰め込まれたそれを掲げて主張したかと思えば、その場で一個ずつ摘んで口の中に次々と放り込んでいく。そして口の中いっぱいに溜まった梅干しの強烈な酸味を舌で感じ、酸っぱさを全力で感じたその顔をウェンディに突きつけ始めた。

 

「ハッ……!?」

 

ただただ梅干しを食べて酸っぱくなった顔を見せつけるだけの奇行。だがこれに対して、何かを仕掛けようとしたウェンディは悪寒を覚えて中断せざるを得なくなった。

 

彼女は、嫌いなものの代表として挙げるほど梅干しが苦手だ。前に約7年在籍していたギルド化猫の宿(ケット・シェルター)の面々が食べていた梅干しを興味本位で口にし、あまりの酸っぱさにトラウマになる程の苦行を味わったことがある。その後は、梅干しを見るだけで、あるいは食べている者の酸っぱそうな顔を見るだけで、当時の酸味が口の中に、記憶と共に蘇ってくるようになってしまったのだ。

 

彼女が苦手としている梅干しを何故グレイが持っているのか、と言う疑問はさて置いて、この状況は彼女にとって芳しくない。見るからに酸っぱそうな顔をしたグレイを見て、ウェンディ自身も苦手な梅干しの味が蘇ってしまい体に悪寒が走り出している。対ウェンディ用の伝達魔法と言っても過言じゃない。(あくまで本人談)

 

「ここは、逃げるしかない!!」

 

直接的な攻撃魔法ならどうにかする術はあったがやられた行動は精神攻撃。打つ手の無いウェンディはグレイから離れようと背を向けて逃亡を図る。が、敵はグレイのみじゃ無い。

 

 

 

「レグルスハミチタァーーーーッ!!!」

 

必死な形相を浮かべながら、自身の能力で謎に光らせた梅干し瓶を掲げながら叫び、逃げてきたウェンディを阻むように立ち塞がるロキ。決死の覚悟で敵前逃亡を図った彼女は逃げ切れず、再び顔を強ばらせて足を止めてしまう。

 

そしてロキが輝く梅干しを何と瓶から直接口へと大量に流し入れ、酸っぱそうな顔を光り輝かせながらウェンディへと迫る。梅干しが苦手じゃなくても逃げ出したくなる奇行を行なったロキに、泣きながら再びウェンディは背を向けて逃げ出す……だが……。

 

「あっ!?行き止まり……!!!」

 

周りも見ないで逃げてきた先には、進む道が見当たらない袋小路。すぐさま場を離れようとするも、振り返った先には既に戻る道を塞いだ上に更にウェンディとの距離を詰めようとしている、酸っぱい顔を突きつけたグレイとロキ。

 

「ィヤアアアアアア〜!!!」

 

苦手な食べ物をこれでもかと口にした二人に追い詰められ、ウェンディはもう完全に戦意を喪失する以外に残された方法はなかった。まさかの精神攻撃により、グレイとロキは闘のルートをクリア。一次試験突破となった。

 

 

 

ちなみに、梅干しはサイズの割に塩分が多く入っており、本来の摂取目安は一日一個である。過剰な塩分の短時間摂取は体に毒なので、くれぐれもグレイたちの真似をしないように。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「はっ!?……ぁ、夢か……いやどんな夢だよ……」

 

「起きて早々何言ってんの?」

 

一方横たわりながら突如意味がわからないと言いたげに声を絞り出していたのは、先ほどまで意識を失い眠りについていたシエル。そして傍でそのときを待っていたらしい白ネコシャルルだ。気を失っている間に着替えたのか、専用サイズの白いシャツと胸元に紫のリボンを付けた、スカートスタイルの服装になっている。

 

「あ、シャルル……ってそうだ!試験!兄さんに……俺、どうなって……!?」

 

「落ち着きなさい。順々に話すわ」

 

シエルが気絶する前に覚えているのは、渾身の力を込めた纏虹拳(セブンスストライク)を防がれて、そのまま魔力切れを起こして倒れたところまで。そして今いる場所は彼と闘った石舞台とは違い、どこかの森の中、開けた空間のよう。兄の姿も見えない。試験もう済んでいることになる。合否の結果が気になるシエルがすぐさま尋ねると、シャルルはひとまずシエルを宥めて彼の質問に答え始めた。

 

「まず、一次試験は突破できたわ。あんたが気を失った後、ペルセウスが決めてた合格条件を達成していたってことで、認められたの」

 

「合格……!!良かったぁ……!」

 

一次試験の突破。ひとまずの鬼門は無事に乗り越えられた事を理解した少年は胸を撫で下ろした。正直あの時気絶してしまった事で、合格が認められなかったらと思うと気が気じゃなかったのだ。

 

「で、ここはその一次試験を突破した組が集合してる場所」

 

その次に説明したのは現在地。石舞台で気を失い動けなくなったシエルだったが、いつの間にか移動していたことが明かされた。兄が運んでくれたのだろうか。そして説明しながらシャルルがある方向へ意識を向けさせると、この場にシエルたち以外のものたちがいることに気付いた。

 

「おはよう!あと合格おめでとう、シエル!」

 

「“激闘”に当たったのに突破するなんて、さすがだね」

 

そこにいたのは二人。自分と同じく試験を受けているカナと、そのパートナールーシィ。一次試験開始時に来ていた水着と変わって、軽装ながらもしっかりと普段着として違和感のない服装だ。島内が海上と比べてそれ程猛暑では無いからだろう。

 

「カナにルーシィ!って事は二人も一次試験突破!?」

 

「レビィちゃんとガジルもいるわよ」

 

「オイラとナツも突破したんだよ!」

 

カナたちペアも一次試験を突破。さらにルーシィに指し示されたレビィたち、そして視界の端から現れた青ネコハッピーもこの場にいる。となれば必然的に彼が支えている火竜(サラマンダー)もいることになるが……。

 

「ナツ……?なんか妙に静かだな……」

 

その青年は、周りから少し離れた場所で背を向け、岩の一つに座り込んだまま終始無言を貫いていた。いつもの彼からは想像できないほど物静かだ。何かあったのだろうか?一次試験でどのルートにあたり、誰と闘ったかにも関係するはずだ。

 

「ところで、なんか随分うなされてたけど、どんな夢見てたのよ……?」

 

と、ここでシャルルから夢について聞かれる。気を失っている間、妙にうなされている様子だったらしく、目が覚めた直後も夢の内容があまりにもアレだったことが伺えたとのこと。だが、目を覚まして状況を理解している間に、強烈だったはずの夢をぼんやりとしか思い出せなくなっていた。歯切れの悪い声を交えながらもシエルは答える。

 

「衝撃が強かったのは確かなんだけど……ウェンディが変な意味でピンチだった、ような……」

 

「変な意味……?」

 

ウェンディがピンチ。それだけを聞けば二人とも放っておけるような状況とは思えないのだが、シエルは何故か妙に落ち着いていた。ある意味では危険だが、それを察して全速力で駆けついたとしても、全力でずっこける自信がある……気がするような光景。

 

「確か……梅干しが凄い量出てきた……かな……?」

 

「ああ……」

 

ずっと首を傾げていたシャルルも、これで納得してくれたようだ。ウェンディが梅干しを苦手としているのは、当然相棒であるシャルルも承知の事実。大方大量の梅干しに追いかけられて泣きながら逃げているウェンディ……と言う奇妙な光景を夢で見てしまったのだろう、と結論づけた。

 

本当は別の意味でカオスかつ、実は夢の話だけでは無いと言うのが事実だが。

 

 

 

しばらく合格者となっているペアと会話をしていると、洞窟の出口一つから、また新たな合格者が現れた。黒い短い髪の氷の魔導士とサングラスをかけた茶髪の色男。

 

「グレイ!ロキ!やっぱり一次試験を突破してきたんだね!」

 

「取り敢えず、おめでとう」

 

「お疲れ様だね」

 

最初に出迎えたのは彼らから近い位置に立っていたルーシィとカナ。疲労感が抜けずに付近の草が茂っている場所に腰掛けたままのシエルが、軽く手を挙げながらそれに続く。そして奥の岩に座っているレビィとガジルは、静のルートで突破出来たことに片や安堵し、片や不満そうに悪態をついている。

 

「一次試験を突破できたのは、これだけか?」

 

「ナツは……」

 

「あっちにいるよ」

 

そしてやはりグレイたちも気にしたのがナツのこと。ハッピーに指し示された方を向けば、先程同様に座り込んだまま何も声を発しないナツに怪訝の目を向けている。唯一何があったか知っているハッピーは勿体ぶって喋ろうとしないから、未だにシエルたちも原因が分からない。

 

「さて、これで全員揃ったかな?」

 

そこへ森の奥から現れたのは、未だアロハシャツを身につけているマスター・マカロフ。その口ぶりから考えるに、一次試験の合格者はほぼほぼ出揃ったと考えていいのだろう。その証拠として、マカロフの口から告げられたのは、現時点で合格が確定している者たちだ。

 

「まず、レビィとガジルは、運良く“静”のルートを通り、突破!」

 

「へへーん♪」

「運が良いだと!?」

 

最初に突破していたのは障害なく順調に先へと行けたレビィたち。運良く抜けられたことにレビィが得意げになっているが、不完全燃焼となっていたガジルはその言い方が気に入らないようだ。

 

「カナとルーシィは、フリードとビックスローを“闘”で破り、突破!」

 

「ふふん♪」

 

「何ィーーー!?」

 

次に呼ばれたのはカナとルーシィのペア。何と過去に手痛い目に合わされたフリード達の組とぶつかりながらも打ち倒したようだ。恐らく正面からではなく何かしらの策を講じて足をすくったのだろうが、それでも勝利したのは大健闘だ。同じようにビックスローに過去負けたグレイは、そんな彼女たちの残した結果に驚愕している。

 

「シエルとシャルルは、“激闘”にてペルセウスの試練をクリアし、突破!」

 

「嘘だァーーーー!?」

 

「ギリギリだけどね……」

「突破は突破よ」

 

続いてシエルたち。最後の最後はシエルが気絶し戦闘続行不可能となったものの、絶対防御の盾であるイージスを使わせたことによる合格は、シエルにとって大きな一歩だろう。先程よりも大きなグレイの絶叫が響く。

 

「ナツとハッピーは、同じく“激闘”、ギルダーツの難関をクリアして突破!」

 

「そんなバカなァーーーーー!!?」

 

「オイラ何もしてないけどね……」

 

そしてこの場にいるほとんどが度肝を抜くであろう結果。何とギルド内でも文句なしに最強と呼んで過言では無い魔導士・ギルダーツを相手にして勝利したのがナツだという。だがその割には彼の様子は大人しい。今までの中で一番の絶叫を発するグレイをよそに、シエルはナツが口を閉ざしている理由がギルダーツとの戦いで何かが起きたことが要因と考えていた。自分と同様、憧れとなる存在とぶつかる中で、何か大事な事を教わったからなのだろうか。

 

「グレイとロキは、メストとウェンディを“闘”で破り、突破!」

 

「ウェンディたち、負けたのか……」

「これなら、もうぶつかり合うこともなさそうね」

 

そして現時点最後に辿り着いたグレイたちは、メストとウェンディのペアに勝ったようだ。少なくとも、今後試験中に会ったとしても敵対する事は皆無になったわけになる。もし自由に移動できる試験であれば、合流してメストから引き剥がし、そばで安全を確保、と言うこともできそうだ。

 

「で、あと残ってるのはエルフマンたちと……」

 

「ジュビアたち、だな。落ちちまったのか……?」

 

呼ばれていないペアは残り二組。シエル、そしてグレイが気になってその組たちの名を口に出すと、思い出したかのようにマカロフが「ぐもぉ!」と表情を歪めながら声を張った。

 

「な、何だよじーさん……!」

 

「ジュビアとリサーナは、奴と当たってしまった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

あの手の抜けない女騎士に!!」

 

「あ~あ……」

 

どうやらジュビアたちもまた激闘ルートに……しかも手加減してるイメージが浮かばない鎧を纏った最強の女魔導士とぶつかってしまったらしい。マカロフが歪んだ表情で叫んだ内容に全員が納得を顔に浮かべた。目に見える。試験であることも忘れて完膚無きまでに叩きのめした女騎士がドヤ顔で「終了だ」と宣告し、その傍らで力無く倒れ伏しながら「参りました〜」と力無くぼやく少女二人の姿が……。

 

これで残るはエルフマンとエバーグリーンの組だけ。だが、静は一つ、闘は二つ、そして激闘は四つと考えると、既に静と闘は全部埋まり、激闘も三人のS級と当たったペアが存在する。そして残り一人のS級といえば……。

 

 

 

 

「「魔人(ミラジェーン)……」」

 

消去法で割り出したかなとルーシィが、げんなりとしながらその名をぼやく。可哀想に。シエルもとんでもない力を持つ実の兄とぶつかったが、エルフマンの場合はただでさえ姉に頭が上がらないのだ。余計闘いづらいだろうに……。

 

しかし改めて考えると、手の抜けない女騎士(エルザ)色んな意味でチートな脳筋(ペルセウス)表裏激しい魔人(ミラジェーン)断トツでぶっちぎる粉砕の化身(ギルダーツ)。化け物と言う言葉すら生温いS級魔導士が試験に配置されていたのに、良くシエルもナツも突破できたものだと、本人たち以外は改めて実感させられた。同情を覚えたレビィの隣で、どっから自信が湧くのか「オレだったら勝てたけどな」と一切怯まずガジルが零す。無知って怖いな。

 

「ちょっと待てぇーい!!」

 

しかしそんな空気を壊すかのような漢の大声がこちらに届いた。一斉に振り向いた面々の視線を浴びながら、揃って集合場所へと現れたのはなんと噂に出てたエルフマンとエバーグリーン。二人とも外傷が多くボロボロで、互いに支え合いながらここまで辿り着いた様子だ。しかしその表情はどちらも得意気で、やり切ったかのようなものを浮かべている。

 

「オレらも姉ちゃん倒してきたぞォ!!」

 

「一次試験突破よ!!」

 

時間的にも相手的にも絶望感が凄まじかった彼らもまた、一次試験を突破。消耗は随分激しそうだが、その努力に見合った結果を残してきている。さしものマカロフも予想できなかったのか素直に驚愕を表している。そしてそれは他の者たちも同様だ。

 

「スゴイな!どうやってあのミラ相手に……!」

 

上の姉弟を突破した者同士として、真っ先に気になったシエルがどう戦って勝利したのかを彼らに尋ねる。だが、その直後彼らが返した反応は思っていたものとは別物だった。

 

「それは言えん……漢として……!」

「一瞬の隙を突いたとだけ言っておくわ……」

 

二人揃って顔を強張らせ、どこか視線を逸らしているようにも見える様子で誤魔化した。ほぼほぼ全員がこう思った。「一体何をしたんだ」と。

 

「ともかく、一次試験突破チームはこの6組とする!」

 

一つ咳払いをして、改めてマカロフは確認も兼ねて宣言する。一次試験を突破チームは下記の通り。

 

・ナツとハッピー

・グレイとロキ

・レビィとガジル

・シエルとシャルル

・カナとルーシィ

・エルフマンとエバーグリーン

 

そしてこれから始まるのは、更に難易度が上がると思われる、二次試験だ。ほとんどの一次試験突破チームが表情を引き締めて待ち受ける中、一人は時にいたナツにパートナーであるハッピーが声をかけた。

 

「ナツ、いつまで落ち込んでるの?」

 

目元に両手の甲を当てながら黙していたナツは、そんな彼の問いに一言「いや……ちょっと考え事……」とだけ呟く。それを聞いたハッピーはと言うと……。

 

「ナツがぁ~~!何かをぉ~~~!!考えるぅ~~~~~!!?」

 

「どんだけ見くびられてんのよ……」

 

わざとらしく仰々しく、ナツが考え事をしていることに対してオーバーリアクションを起こした。そんなハッピーの様子を、呆れた目であんまりな評価を遠回しにされたナツをシャルルが見やりながら呟いた。

 

一方でナツは、一次試験でのギルダーツとの闘いと、その後彼にかけられた言葉を思い出していた。ハッピーを下がらせ、果敢に立ち向かい、あしらわれても沈められてもぶっ飛ばされても諦めなかったナツ。分裂されて委縮するどころか数の暴力でギルダーツの意表を突き、鬱陶しくなった彼によって解除された一瞬の隙を、渾身の滅竜奥義で攻め込んだ。

 

今までの中で一番ギルダーツ相手に奮闘したが、その壁は厚かった。島中に広がると錯覚するほどの魔力を放出され、ナツはそれに委縮。それでも必死に体を動かしたのだが、直後に降参。あのナツが、勝てないと悟り、拳を下ろしたのだ。

 

だがそんなナツの決断を、ギルダーツは称賛した。勇気を持って立ち向かう事を咎めはしないが、抜いた剣を鞘に納める勇気を持つ者は殊の外少ない。その勇気を知ったナツを、ギルダーツは合格とした。

 

 

 

───またいつでも勝負してやる。S級になってこい。ナツ

 

俯き、涙を流していたナツに、友人として激励を飛ばしたギルダーツ。改めてその言葉を思い出し、胸に刻み込んだナツは、その口元に、この場に来て初めて弧を作った。

 

「分かったよ……ギルダーツ……」

 

誰にも聴こえない声量でそう呟いたナツは、長らく腰かけていた岩場からようやく立ち上がった。その動作に場にいる全員が目を向けると……。

 

「グレイ!シエル!カナ!レビィ!エルフマン!誰がS級魔導士になるか……勝負だ!!」

 

名を呼んだ順番にバシッと指をさし、勝負を宣言するナツ。いつも通りの彼に戻ったようだ。そんなナツに対して、受験者側もまた、彼の燃え上がる闘志に影響され、熱が移る。

 

「お前にだけは負けねーよ」

「俺も、絶対に譲れない!」

「っ……!」

「私だって……!」

「その勝負、漢として受けて立ーつ!!」

 

呼ばれた順に、ナツの宣戦布告に応える一同。その表情には、誰もが合格を譲る気のないと言う気迫を感じられる。そして、やる気を漲らせているのは受験者だけではない。

 

「あたしはぜぇ~ったい!カナをS級にするの!!」

 

「例えルーシィでも、僕は手を抜かないよ」

 

「ギヒヒ、吠えてろ、クズが」

 

「どっかでぶつかっても遠慮しないわよ、ハッピー?」

 

「オ、オイラ、シャルルが相手でも負けないよ!?……多分」

 

それぞれのパートナーたちも、それぞれの相方を合格させる為にやる気を満たしている。中には親しい者や、好意を向けている者が相手になる可能性もあるが、試験として譲る気はないらしい。ハッピーが怪しいが。

 

「燃えてきたぞ……!!」

 

それさえもやる気を漲らせる燃料にして、ナツが拳に炎を纏い、更に闘志を燃え上がらせる。誰もが気合十分。互いに切磋琢磨し合う様子を見て、マカロフは人知れず感慨深く感じていた。

 

「漢たるものぉーー!!ぐほばっ」

「エルフマンしっかりしなさ……ぐふんっ」

 

「この二人は厳しそうね」

 

そんな中ミラジェーンとの激闘のダメージが抜けていないエルフマンとエバーグリーンを見て、シャルルが苦笑混じりにぼやく。また闘いに関する試験だったら真っ先に脱落しそうだ。

 

「では、S級魔導士昇格試験、二次試験の内容を発表する!」

 

宣言したマカロフの声に、盛り上がりを見せていた一同が、再び気を引き締める。誰もが口を開かず、マカロフから告げられるその内容を耳に入れようとしている。

 

 

その試験の内容は、初代妖精の尻尾(フェアリーテイル)ギルドマスター“メイビス・ヴァーミリオン”の墓を探すこと。この天狼島のどこかに、それが存在しているのだそう。これだけを聞くと簡単そうだ。現にその難易度の低そうな課題に少々呆気にとられる者たちと、余裕そうな態度をとる者の二分にされている。

 

「制限時間は6時間。いいか?()()()じゃぞ?ワシはメイビスの墓で待っておるぞ」

 

ここでマカロフの後を付ければすぐに墓へと着く……と考えもしたが、マスターの事だ。敢えて遠回りしたり、魔法で姿を消して攪乱したりで、その辺の対策は勿論立てているだろう。素直に自分たちの手で墓を探すしかなさそうだ。いの一番に飛び出したナツとハッピーに遅れないよう、他の面々も駆け出して墓探しを始めることにした。

 

「私たちも行くわよシエル。……シエル?何してんの?」

 

だが、対してシエルはその場から動かず、何かを考えている様子だった。怪訝に思ったシャルルが声をかけると、集中していたのか弾かれるようにシャルルへと目を向けた。

 

「あ、うん……ちょっと考えてた」

 

「考えてたって……墓を探す方法とか?」

 

「いや……」

 

他の受験者たちは、そこまで大きく考えていなかったのだろう。しかし、シエルはそう思えなかった。口元に右手を当てて、この二次試験がどのようなものか、思考をしているのだ。

 

「内容は安直だけど、一筋縄じゃ行かないよ、この課題……」

 

まるでシャルルの予知のようなこの発言。意味もなくこんな言葉を言うとは思えない事は、シャルルも分かっている。

 

 

そしてその言葉通り、この二次試験は混迷を迎えるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方その頃……大海原が眼下に見える、開けた空洞の中で、一人の男が気絶から目を覚ました。

 

「ぶほおっ!!」

 

その男の名はメスト。受験者の一人だった。グレイとロキの連携を受け、彼は気を失い、そのまま長時間目覚めないままであった。

 

「メストさん!」

 

「くう……まさかこいつらが、こんなに強かったなんて知らなかった……!」

 

「そりゃ強いですよ……」

 

まだ痛みがあるのか後頭部をさすりながら、グレイたちの強さに感嘆の言葉を零す。ウェンディからすればほとんどのギルドの魔導士は強い認識だが、彼らはそこから群を抜いた印象だ。しかしメストの目の色に、諦めは映っていない。

 

「だが!我が師ミストガンの跡を継ぐ為、オレは負けられない!!かかって来い!グレイ!!ロキ!!」

 

気を取り直して、と言いたげに勢いよく立ち上がり、腕を振り上げながら先程まで闘っていた相手のペアへと声を張り上げるメスト。だが、そんな彼の視界には、自分たち以外の人間はどこにも映らない。

 

「……あれ?」

 

「あの……私たち負けちゃったんです……」

 

「知らなかったー!!」

 

涙ぐみ、手を組んで俯くウェンディが告げた無情な真実を聞き、メストは頭を抱えて絶望を叫んだ。メストを気絶させ、ウェンディの戦意を喪失させたグレイたちは、既に一次試験突破の道を進んでしまった後。つまり、この“闘”の空間で、自分たちは敗北。試験脱落となってしまったのだ。

 

「はぁ~~あ……今年もダメだったかぁ……」

 

肩をがっくりと落として落胆するメスト。その傍らで、ウェンディは目に浮かべた涙を更に多く浮かべ、両手で拭っても溢れ出始める。

 

「私が役に立たなかったから……!それどころか足を引っ張って……!頑張ろうって決めてたのに……!!」

 

ウェンディとしては、ここでメストの力になれれば、ミストガンへの恩返しと出来た。彼の頼みであるシエルを支えることが出来なかったとしても、メストを助ける事なら出来るはずだと。けれど、結局は相棒であるシャルルがシエルのパートナーとして先を進んでいることに気を取られ、メストの足を引っ張ってしまった。何も出来なかった。その事実が、ウェンディの心に更に傷を作り、涙となって溢れてくる。

 

「いや……いいんだ。それより、ケガは無かったかい?」

 

そんな彼女をメストは責めず、先程の闘いでケガをしなかったか心配そうに声をかける。幸か不幸か、メストが気絶している間にグレイたちが行ったのは精神攻撃(梅干しを食うだけ)だったので、外傷は一切ないに等しい。泣きじゃくりながらも首肯で返した彼女に、安心したようにメストは息を吐いた。

 

闘いの終わった直後と言う事で、岩の柱前に腰掛けてしばらく休憩を取ろうとしていた。メストの提案でウェンディもそれに従っていたのだが、座り込んでいた彼女の顔は、未だに泣き顔から変わらないまま。

 

「いつまでそんな顔してるんだ?」

 

「だって……だってぇ……!」

 

ウェンディにとっては本当にショックだった。メストの……恩人ミストガンの弟子の助けも出来ず、同年代の友達であるシエルや彼を助けられるシャルルから大きく離れてしまった感覚に陥り、いつも以上に悲観的な考えになってしまっている。そんな彼女の気を紛らわせようとしたのだろう。メストは徐にこんな話題を提示した。

 

「なあウェンディ。この島が何故、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地と呼ばれているか、知ってるか?」

 

「え……?初代マスター・メイビスが眠る地だから、ですよね」

 

「ああ。だが、それだけじゃないんだ」

 

どうやって知ったのかは定かじゃない。だが、好奇心が大きいメストの事だから、知る機会は多かったのだろう。天狼島は、普段は強力な結界によって隠されており、如何なる魔法をもってしても探し出すことは出来ない。それは、ただメイビスの墓があるから、だけではない。妖精の尻尾(フェアリーテイル)についてのある重大な秘密が、この島に隠されているらしいとのこと。

 

「重大な秘密って……?」

 

「オレも知らないんだ。どうだろう?探検してみないか?」

 

立ち上がり、腰の土埃を払いながら、メストはそう提案した。ギルドの聖地を探検する。未だ年端も行かない少女のウェンディは、そのフレーズに目を輝かせた。その目にはもう涙はない。意図したのか否か、彼女の顔を晴れさせたメストは、ウェンディと共に島内の探索を始めたのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

そんな島内では、各地が大騒ぎになっていた。その原因は、S級魔導士昇格試験を受験している、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たち。

 

 

 

否、もっと言えば、そんな魔導士たちに次々と襲い掛かってくる、天狼島の原生生物たちだ。身体の表面が硬い鱗で覆われた四足歩行の巨大トカゲ、硬質化した額で、明らかに頭突きが得意そうな肉食獣、頭がモヒカンになっていて集団で襲い掛かってくる凶暴な鳥、巨大で牙の生えた斑点模様の肌をしたブタ、更には5~7mはある首の長い人っぽい頭の草食竜。どれもこれも気性が荒く、それに追い回される受験者が後を絶たない。

 

「うわぁ~~~!!」

「何なのよこの島はぁ~~~!?」

 

現に受験者の一人であるシエルと、そのパートナーシャルルも、片手に鋭い爪が二本付いた、二足歩行の肉食と思われる怪獣に追い掛け回されていた。シエルは必死に足を動かし、シャルルは翼を広げて飛行。顔だけは人のそれに見えるが、それ以外はまるっきり獣か恐竜のそれだ。振りかざした手に付いた爪は、触れただけで周辺の木々を裁断し、倒木へと変える。

 

「あっ!?グベッ!!」

 

「ちょっ……シエル!?」

 

そして運悪く、シエルは盛り出ていた木の根につまずき、その場で転倒。大きすぎる隙を作ってしまう。慌ててシャルルが彼を助けようと駆け寄るも、追いかけてきていた巨大獣は右手を振るい、その爪を彼らへと近づける。

 

 

 

そして無情にも、倒れた少年と駆け寄った白ネコは、その爪によって両断。容赦なくその命を刈り取られてしまった……。

 

 

 

 

「……?」

 

かに見えたその存在は、次の瞬間霧状に溶けて消えてしまった。見た事のない現象を目の当たりにしたあ怪獣は、理解できずに首を傾げる。

 

「脳天に落雷!注意報ー!!」

 

そして更に直後、怪獣が傾げた首の脳天を、雷を纏った少年のドロップキックが見事に貫いて、怪獣の顎を地面にめり込ませた。辺りに轟音が響き、周囲の鳥たちが一斉に飛び上がる。

 

「あと念のため……」

 

倒れこませた怪獣が一時的に無力になっている内に、シエルは雷を纏ったまま脅威となる両手の爪を四本とも根元から叩き折る。今後彼の食い扶持が大分減ってしまうが、万が一の為だ。

 

「幻と分かってるとはいえ、自分が殺される光景なんて見るもんじゃないわね……」

 

そんな一連の光景を空から見ていたシャルルが、若干顔を青くしながら告げる。もう察しているだろうが、先程怪獣に咲かれたシエルたちは蜃気楼(ミラージュ)で創った偽物だ。本物の彼らはずっと前から空に避難して、怪獣を仕留める隙を窺っていたのだ。

 

「でもま、これでしばらくは安全ね。さ、墓探しの続きをするわよ」

 

「つっても、ヒントらしいヒントもなしに、虱潰しに探すのもな……」

 

試験を出したマカロフから言われたのは、メイビスの墓を探すことと、制限時間が6時間である事。これ以外に情報が無いため、探そうにも途方無い時間を費やすことになる。そういうものだからしょうがないとシャルルはぼやくが、シエルの言う通り気が遠くなるのも事実だ。

 

「じゃあどうするのよ?」

 

若干不機嫌になりつつあるシャルルがそう聞くと、シエルは少しだけ考え込み倒れたままの怪獣の方へと目を向ける。

 

「ねえ、初代マスターのメイビスって人の墓を探してるんだけど、何か知らない?」

 

「そいつに聞いたところで分かるわけないでしょ!!!」

 

明らかに尋ねたところで意味のない怪獣に声をかけてあまつさえ尋ねてしまうシエル。勿論シャルルはそんな意味不明な行動に出たシエルに目を吊り上げて文句を叫ぶ。何をやってんるんだと言いたげに。しかし……。

 

「いえ、知りません……」

 

「そっかぁ……シャルルの言ったとおりだね……」

 

「……え?いや……ちょっ、ええーーっ!!?」

 

目と耳を疑う出来事が起きた。今、シエルに質問された怪獣が、力なくではあるがそれに答えた?しかも人の言葉を喋った?明らかに人語なんて使え無さそうな見た目なのに?

 

「ちょっと!何で普通に流してんのよ!?」

 

「え、何が?」

 

「あいつ今、喋ったわよ!?明らかに人間じゃないのに、人間の言葉を発したわよ!!?」

 

珍妙奇天烈な光景が映ったのに一切動じず再び歩き出したシエルを引っ張って止めながらシャルルは叫ぶ。だが、シエルからすれば、大して変わり映えのしない光景だ。その要因は……。

 

「いやそれ言ったら……シャルルもネコなのに、人の言葉喋るし、二足歩行じゃん……」

 

「それは……そう、なんだけど……あれ……?」

 

思ってみれば、そんな存在普段からギルドにいた。しかも3人。あまりに慣れ過ぎて、自分がその対象であることを忘れてた。あれ?ひょっとしておかしいのは自分の方?そんな疑問が浮かび出して、しばしシャルルは混乱の渦に飲み込まれていた。

 

「試験の墓探しも大事だけど、出来ればウェンディの安全も確保したいな……」

 

「試験は脱落したし、ベースキャンプに戻ってる……と言うのも考えられないものね」

 

再び島の中を歩き回りながら、シエルたちは墓以外にもかの少女の姿も探していた。シャルルが予知で見た、この試験で起こりうる未知の脅威。それからウェンディを守るために今回組んだと言っていいのだ。

 

それに、ウェンディを守らねばならない理由はもう一つ存在している。

 

「リリー、そろそろ着いたかしら……?」

 

「多分……。海沿いの方も行ってみよう。もしかしたら、合流できるだろうし」

 

本来であれば、この場に来る事のないはずである存在。パンサーリリーの名を出しながら、シエルたちは進路を一旦外れ、海沿いに出るはずの道をやや早足で駆け始めた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その頃、天狼島周辺の海上。

一対二枚の白い翼を広げ、両手で一枚の紙を持ち、目の前に見える光景と比較しながら、その島へと近づく存在がいた。今は小柄だが、本来は黒豹に似た外見を持つエクシードの一人。ガジルの相棒・パンサーリリーだ。

 

「あれか……」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属するエクシードたちは3人。その内のハッピーはナツ、シャルルはシエルのパートナーとして試験に参加している。しかしリリーは受験者でもなければパートナーにもなっていない。なのに何故彼が天狼島へとわざわざ(エーラ)で向かっているのか。

 

「ギルドの聖地・天狼島……。別の機会で来たかったものだ……」

 

リリーが持っている紙に書かれているのは、天狼島の外見的特徴と簡単な海図。それは全て、シエルが作ったものだ。話は約5日ほど前に遡る。

 

『王子……ミストガンの弟子……!?』

 

『本人はそう言ってた』

 

『そのせいでウェンディが、パートナーを引き受けちゃったのよ!!』

 

昇格試験の説明があってからの一週間。シエルとシャルルは、ファルシー兄弟が暮らす家を拠点として、ギルドの書庫を往復しながら試験の準備を進めていた。その際、ギルドにいたリリーを帰り際に呼び出し、シエルの部屋でメストの事について話をした。

 

当然、リリーは驚愕を示した。彼にとってミストガンは、かつて共に過ごした存在であり、主従と種族を超えた親友とも呼べる人物だった。そんな彼の弟子を、名乗る者がいたのだから。

 

『単刀直入に聞くけど、リリーはこの事についてどう思う?』

 

それを話した上で、シエルは問うた。彼が告げたミストガンの弟子と言うフレーズに重きを置いて。腕を組みながら思案顔を浮かべたリリーは、直球とも直感とも言える己の答えを口に出す。

 

『……まだ確証が持てないが、妙な話だな……。確か、ミストガンはギルドの中でも、ほとんどメンバーとの接触はしていなかったのだろう?』

 

『そう。兄さんと、マスターを除いて、ほぼ誰とも顔を合わせずに、ね……』

 

ミストガンはギルドの魔導士だったころ、依頼を受ける際もギルドのメンバーをわざわざ魔法で眠らせてから、マスターにのみ顔を合わせ、仕事の受注をしていた。顔を隠していた為、マスター・マカロフでさえもその正体を詳しく知らず、知っていたとすれば八尺瓊勾玉で眠らず、唯一彼と交流していたペルセウスと、情報源は不明だがラクサスを置いて他にいない。

 

言ってしまえば、同じギルドのメンバーとさえ、滅多に交流したことがないのだ。

 

『そんなミストガンが……弟子を取ってたと言うのは、正直考えにくい』

 

『だろうね』

 

彼らが交わす会話を聞き、ただただウェンディを試験に連れ出したメストに怒りを募らせていたシャルルも、その怒りを潜めて表情に驚愕を浮かべ始める。彼は、ミストガンの弟子だからウェンディを誘ったわけではないのか?

 

『更に言うと、俺は仮加入の期間も含めて、3年ほどこのギルドにいるんだけど、メストの事について、詳しく知らないんだ』

 

『え!?』

『何!?』

 

この中では、シエルはギルドに一番長く在籍している。今やフィオーレ一との呼び声も高いギルドとなれば、在籍魔導士の数も多く、詳しく知らないメンバーだって多々いるだろう。だがそれにしたって、分かる事が少なすぎるのだ。

 

彼が知っているメストの情報は、名はメスト・グライダー、ミストガンの弟子、昨年のS級魔導士昇格試験は惜しくも敗退。これだけだ。在籍期間も、年齢も、使う魔法も、ミストガン以外の交流がある人物も、思い出そうとすればするほどぼやけて曖昧になる。何も出てこないのだ。

 

 

 

 

昇格試験の受験者に選ばれるだけの実力があるなら、ギルドメンバーの事をよく見て覚えることを欠かさないシエルが、覚えようとしないはずがないのにも、関わらず……。

 

()()()()()()()()()()()()、俺はもっと色んなことを熟知してる自信があるよ。それも去年以降、確実にいる事が確定しているメンバーだったら、尚更ね』

 

『まさか……!?』

 

リリーも、そしてシャルルも、淡々とその事実を告げるシエルの言葉から、ある一つの疑念が生まれた。本来であれば突拍子もない推測。だが、この場の誰よりもギルドの事にも、ミストガンの事にも通じているシエルが……ギルドの中でも珍しく、頭脳に特化したシエルが、まるで確信持ったかのような口ぶりで述べる内容を、疑う事など微塵も出来なかった。

 

 

 

 

『俺は……メストはギルドの一員ではないんじゃないかと、考えてる』

 

それは、二人が抱いていた疑念の解答のような推測だった。もしも本当にメストがギルドのメンバーではないのであれば、彼が何者なのか、何の目的があって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるのか、新たな疑問が浮かぶ上に、逆にその方が辻褄が合ってしまう。

 

外部の人間がいる事に対して誰も疑問を持つ様子がない理由は、恐らくメスト自身が記憶に関する魔法を使うと推測。そして、何故シエルがリリーをここに連れてきてまでこの話をしたのかにも繋がった。

 

『ギルドでのミストガンの事は、兄さんが一番よく知っている。リリーには兄さんにメストの事を伝える事と、俺たちが試験を受けている間に、メストの監視兼、ウェンディの護衛を頼みたい。状況によっては、俺たちも合流するつもりだけどね』

 

『後半は兎も角、ペルセウスへの報告は、お前がしてもいいのではないか?』

 

『俺が伝えたら、試験のライバルを蹴落とす行為と思われる可能性がある。兄さんなら信じてくれるかもしれないけど、マスターや他のS級にバレたら、受験資格を剝奪されるかもだし』

 

『……成程』

 

リリーにシエルが頼み込んだ内容は二つ。その一つであるペルセウスへのメストに関する報告は、試験に参加する者ではない第三者のリリーが、匿名からの情報として彼に報告すれば、誰にも怪しまれることはほぼないと言える。ミストガンと交流が深かった彼ならば、その違和感も同様に気付いてくれるはず、と言う狙いもある。

 

そしてもう一つは、試験最中のメストの動向に対する警戒と、彼のパートナーとして参加するウェンディの安全確保だ。本当はシエルたち自身が守りたいところだが、シエルとしては試験の方も譲ることが出来ない大事な案件。場合によってはシエルたちも簡単には動けない。だからこそ、事情も知っていて、自由に行動も出来、実力も保証できるリリーに白羽の矢が立ったのだ。

 

『分かった、引き受けるとしよう。タイミングはどうする?』

 

『ハルジオン港から出港して一時間後ほどに。そうすれば、さすがに島に到着して、試験が始まろうとしているところだろうし』

 

『結構離れてるのね、その島』

 

頼みを了承しながら、リリーはシエルと言う目の前の少年に、空恐ろしさすら感じていた。リリーにとっては、シエルと言えばエドラスに置いて優秀な頭脳と科学力を駆使し、世界の発展を手伝った魔科学の最先端をゆく男。戦闘における策戦も、彼のシエルはお手の物と言えるほど優れていた。

 

そして目の前のシエルは、記憶よりも幾分か幼い外見。だが、その頭脳はそんな彼と比べても遜色ない。それどころか、観察眼や頭の回転、推理力や作戦の立案など、部分部分で、下手したら上回っていると錯覚さえ覚える。

 

適切かつ最善と思えるような行動と、リスクを可能な限り排した考え方。たった齢14で身に付くとは思えないものを有した少年が、将来どうなっているのか想像すらできないほどだ。

 

『しかし、もし試験でウェンディたちに当たったりしたら、お前たち闘えるのか?』

 

『なるべく傷つけないようにはするけど、負ける気もないわ』

 

『俺も。ウェンディには悪いけど、この試験は譲る訳にはいかない。それに……』

 

『それに?』

 

ふと、リリーが浮かんだ疑問を尋ねると、ほぼ動揺することもなくシャルルもシエルも答える。試験は試験として、切り替えて行動するつもりらしい。だが、シエルが意味深に言葉を区切って黙すると、咄嗟に反芻したリリーには見えないように、顔を俯かせながらこう言った。

 

 

 

 

『推測の中では部外者の癖にウェンディを横から掻っ攫って行きやがったあの野郎を、徹底的にボコボコにしなきゃ気が済まないし……!!』

 

『ああ、そん時は私も2、3発ぐらいやらせてもらうわ』

 

『そっちの方が声に気合入ってないか!?』

 

思いっきり私怨を組み込んだドスの聞いた声でブツブツと、明らかに黒い何かを描いた表情を浮かべながら呪詛の如く呟くシエルと、ほぼ同じ表情で同調するシャルル。さっきと比べて声の気合の入り方が桁違いな二人に、思わずドン引きしながらリリーがツッコんだ。

 

「あいつら……目的を忘れてないと良いがな……」

 

遡った当時の回想をそこで区切り、色んな意味で心配を抱えながらも、リリーは翼をはためかせて島に入るために最後のスパートをかける。

 

「ともかく、急がなければ。ウェンディが危ないかもしれん……!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

洞窟から出て、所々に奇麗な花々が群生する絶景の前に立つウェンディ。少し遠くには大海原が見えており、無垢な少女はそれに対して目を輝かせている。

 

「奇麗なトコですね!!」

 

「気を付けて」

 

手提げのカバンを片手に持ちながら、目の前の絶景を崖の前で満喫するウェンディ。そんな彼女に足元への注意を呼びかけながら、メストが後をついて行く。

 

 

 

 

 

 

だが、背後でメストが少女に浮かべた表情は、何も知らない、気付かない様子の子供を、嘲るかのように見下す者のものだった……。




おまけ風次回予告

シエル「こんなに広い島の中から、どんな形かも分からない墓を探すって、実は結構とんでもない難易度だよなぁ……」

シャルル「言われてみれば……墓を探せ、時間は6時間、ぐらいしか言われてないものね。これに更にウェンディたちを探すとなると……リリーにお願いしたのは正解だったみたいね」

シエル「探してる途中にウェンディと会えるのが理想なんだけど、ついでにメストをボコるのも」

シャルル「そうね。試験と関係ないかもだけど、それはやっとかなきゃ」

次回『墓探し』

シャルル「にしても、一次試験も“運”を試すとか言ってたのに、結局二次試験も運頼みじゃないの……」

シエル「運……?確かに……もしかして、ヒントはとっくに出てたんじゃ……?」

シャルル「え、どう言う事?」
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