FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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前回投稿から一ヶ月もかかってしまいました。ごめんなさい。どうにも執筆の速度がより遅くなっています…。お知らせすらできなかったし…。

仕事の関係上また次回の更新も遅れてしまう可能性が見えてきてまして、どうしようか考えがまとまらない状態です…。

遅れた分を取り返そうと長く書こうとしたけどそれも失敗しました…。

せめて、せめて4月からの更新は元に戻せるように尽力します…!


第114話 墓探し

S級魔導士昇格試験。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地天狼島にて行われている、ほとんどの魔導士が目指すものを懸けた闘い。一次試験を突破した者たちが次に挑戦する課題は、初代マスター・メイビスの墓を探すこと。

 

「「……」」

 

その試験に挑む6組中の1組。年齢よりもまだ少し幼い容姿をした少年シエルと、人並み以上の知力と意思疎通ができる白ネコシャルルのペアは現在、墓探しと平行に行っている目的を達するため、天狼島周囲の海岸沿いを進んでいた。

 

「リリー……見つかんないな……」

 

「と言うか、私たちが最初に上陸したとこには煙があがってたから、本来どっから入るかもわかってないのよね……」

 

メストへの警戒を強めるために外部から来る予定であるパンサーリリーとの合流を狙うシエルたち。しかし自分たちが船で来た方角から探ろうにも、自分たちの現在地と、一次試験の為に上陸した場所の事をふまえたとしても、リリーが辿り着くであろう位置の特定が極めて困難となっている。

 

試験の対象となる墓。合流予定のリリー。そして二人が共通して守ろうとしているウェンディ。島内を周りながらこれらのいずれかを見つけ出す必要がある。分かっていた事だが、かなり骨の折れる行動だ。下手をするとどれも果たせなくなる可能性もある。二兎追うものは一兎をも得ずとならなければいいが……。

 

「参ったな……こうしてる間にも他の誰かが墓を見つけてる可能性もあるし、ウェンディがどうなってる事か……」

 

「どちらにせよ、結局島中を隈なく見渡すぐらいしか、今のところできそうなことがないわね」

 

結局のところ島の中を周り続けて、墓、もしくはウェンディかリリーの姿を捉えることしか、今できることは限られている。誰に関しても現在の位置が分かっていない状況では、対応できることも少ないから。

 

「ねえ、実は気になっていた事があるのだけど……」

 

仕方なく海岸沿いを進んでいると、唐突にシャルルが声をかけてきて、シエルは彼女に視線を向けて反応を示した。

 

「あんたがS級にこだわってるのは、兄貴への憧れもあるんでしょうけど、それだけでこんなに本気を示せるの?」

 

シャルルが抱いていた疑問はS級への想いについて。優秀な兄に憧れて、兄が位置する魔導士の称号を得たいと言う思いは分かるが、ナツやグレイのような競争意識が強いようには見えないシエルがそれ程までにS級にこだわる理由は何なのかと言うものだ。問われたシエルは、考えてみれば他の親しい者たちに話したことがなかったと思い出しながら、彼女の問いに答え始めた。

 

「俺自身の憧れも確かにあるけど……兄さんの為にも、証明したいから、ってのが理由かな」

 

ペルセウス(あにき)の為?」

 

的を射ないような答え方に、思わずオウム返しをするシャルル。その疑問の意味を察したシエルは続ける。

 

「兄さんは、昔から何でもできたんだ。物心つく前から魔法を使うことが出来たし、神器の換装なんて、他の誰にも出来ない事を身につけている」

 

「その話なら聞いたわ。あんたがウェンディに目をキラキラさせながらね」

 

ギルドに加入して間もない頃、ペルセウスが如何にすごい魔導士なのかをウェンディが興味本位で聞いてみたところ、見た事のない生き生きとした様子でウェンディが思わず後ずさる勢いを見せながら語っていたのを、呆れた目で睨みつけた記憶がある。さすがにシエル自身も振り返ってみれば思う事があったのか、視線を彼女から少し逸らしながら「あ~、あの時はブレーキ壊れてたな……」とぼやいている。それは兎も角。

 

「前のギルドにいた時も、今もそう。魔法の才能に溢れて、天に、神に愛された魔導士。誰もが兄さんをそう評価したし、俺にとっても憧れだった。今もだけど」

 

幼い時分より神童と持て囃され、その力に目を付けられて病弱の自分を人質に、闇ギルドが手元に置いて汚れた仕事をいくつもやらせるほどに、良くも悪くもペルセウスは天才だった。魔力が希薄なことで病弱となったシエル(自分)とは真逆に。

 

「兄さんが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入して半年。ちょうどその時期が、その年のS級昇格試験で、エルザやミラ、それとカナとかと並んで兄さんが参加者に選ばれた。試験官にはギルダーツやラクサス……今はいないS級魔導士だった人もいたんだけど、兄さんはその試験で見事に合格した」

 

「昔からあれだけ強かったことを思えば、当然と言えば当然ね」

 

シャルルからすれば、どことなく予想出来た結果だ。エルザやミラジェーンも、昔から相当な実力者だったらしいが、あの男はギルドを移籍した時点で同年代から頭一つ抜けていた。生まれ持った才能に溢れ、神に愛されたペルセウスなら、たった半年で最強格の魔導士に選ばれるのも不思議じゃない。

 

「……そう。“当然”。今のシャルルみたいに、誰もがそう言ってたよ」

 

だが、シエルから返ってきた言葉……と言うより声色を耳にしたシャルルは、妙な違和感を覚えた。そこに込められていたように聞こえた感情。例えて言うならば、哀しみ。そんな感情が乗せられているように思えた。

 

何でも出来ていた兄を、誰も彼もが好印象として見ていたわけではない。ギルドに過去在籍していた事のある者たちを中心として、あまりにも別次元な強さを前に皮肉と言える言葉をかけられたこともあった。

 

生まれた時からの天才。努力をせずとも強い。次元が違い過ぎる。人間とは思えない。神が奴だけ贔屓した。自分たちでは決して辿り着けない域にたったの半年で登り詰めた偉業は、ただただ才能があったから、と言う理由だけで結論付けられてしまった。

 

称賛の裏に隠されていた、畏怖と敬遠。特に親しい者たちのみが、心からペルセウスの事を祝福していた。全体から見れば、ほんの僅かと言える数だが……。

 

「兄さんは強いよ。短期間でS級になれるほどに。でも……いやだからこそ、兄さんはある意味ずっと孤高で、孤独だったんだ」

 

平凡だったものには決して理解されない。兄は力を持っていたが故に、目を付けられて利用され、人智を超えた力を親しい者以外に恐れられ、兄がこれまで着けてきた力と証を、才能に恵まれていたから、と一言だけで片付けられてきた。

 

 

 

 

 

そんな……分かったような口で兄を簡単に遠ざけるように言われたことが、シエルには許せなかった。

 

「生まれ持った才能がなくたって、必死に努力を重ねて強くなれば、天才として生まれた人と同じ事だって出来る。兄さんとは真逆に弱い体を持って生まれた俺が、ギルドに入ったその年の試験に合格すれば、その証明になる。だから……」

 

()()()昇格試験に、全力をかけていたのね」

 

その結論を先に察知したシャルルによって言い当てられたシエルは、無言で首肯を返す。兄は強い。才能がある。その事実は否定しない。だがそれを理由に兄への劣等感で後ろ指をさしていい理由なんて、この世に一つたりともありはしない。努力次第では、どんな人間も本気で打ち込めば出来ない事はない。それを証明する為に、いつしかシエルは魔導士に、兄と同じS級魔導士になる事を夢に見た。兄と同じ道を辿る事で。

 

「みんな理由は違うけれど、この試験にかける想いの大きさは同じ。そしてそれは、誰もが譲れないってことも。勿論、俺も」

 

試験に参加した者たちは、皆何かしらの想いを抱えている。ナツは育ての親であるイグニールを探し、見つけるために。エルフマンは姉であるミラジェーンに続くために。カナも、理由を明かしてはいないが、何度も試験に挑んでいるところを見るに、並みならぬ思いを秘めているのが分かる。

 

だからと言って、シエルも譲ることは出来ない。同じ試験に挑む者として、ライバルの想いに感化されて手を抜くことは、逆に侮辱に当たると考えている。

 

「ずっと、ずっと前から目指してたS級……遂に近づくことが出来たんだ……!兄さんの同じように……俺も、なってみせる……!!」

 

下に目を向けて右手を見つめ、その手を拳にして決意を改めるシエル。その姿を見て、決意を聞いて、シャルルは妙に落ち着いているような表情を浮かべる。そしてやる気を漲らせて集中しているシエルに向けて言った。

 

「よく分かったわ。あんたがどれほどの思いでS級を目指してるのか。強くなってきたのか……。でも、言いたいことが私にもできたわ」

 

歩を進めていた足を止め、見上げながらシエルへとそう語りかけるシャルル。怪訝に思ったシエルが振り向いて彼女へと視線を向けると、しばしの沈黙の後、こう続けた。

 

 

 

 

 

 

「シエル、あんたはペルセウスと違う。あんた自身が兄貴と同じにはなれないわ」

 

その言葉を理解するのに、シエルは時間がかかった。息を呑み、目を見開いて固まったままになった彼の様子に気付きながらも、予想が出来ていたであろうシャルルは更に続けて己の胸中を伝える。

 

「先に言っておくと、別にあんたがS級になれないって意味では言ってない。試験に合格できるように引き続き協力することは変わらないわ。けど、この試験で合格してS級になれたとしても、ペルセウス(あいつ)と何もかもが同じになれると、私は思わない」

 

淡々と告げるシャルルの表情に、侮蔑や落胆などは見られない。ただ真っすぐシエルに向けて、彼をどこか諭すかのような目で語りかけている。シエルが夢見ている兄の道。それを歩むことを手伝いながらも、その道を歩くことは出来ない。そんな矛盾したようなことを説明するシャルルの真意が、シエルには読めずにいた。

 

「それって、どう言う……!」

 

「自分で考えてみるといいわ。あんたはそう言うの得意でしょ?」

 

困惑した様子でシエルが尋ねようとするも、シャルルは一度それを突っぱねて、背中に翼を出しながらふわりと浮かぶ。取り付く島もない、と言った様子だ。

 

「それじゃ、私はもう一度空から探してみるから、地上は任せたわ」

 

それだけを言い残し、シャルルは探す対象が近くに見当たらないかを再び確認するために上昇していく。シエルに何故今のような言葉を告げたのか、明かさないまま……。一人地上に残されたシエルは手を差し伸べて呼び止めるも、聞き入れられなかった。

 

「俺と兄さんは違う……兄さんにはなれない……。そんなこと、俺が一番分かって……」

 

上空へと飛び上がっていくシャルルを見上げながら、彼女に言われた言葉が胸に刺さる感覚を覚える。自分でも理解している。今この段階でも兄の背中がどれ程遠いのか、分かってるつもりだ。

 

だがそれと同時にもう一つの言葉も思い返す。「ペルセウスもあんたにはなれない」と聞いた時、思わずシエルは思考が止まりそうになった。どう言う意図でその言葉を続けて伝えたのか、理解に時間がかかりそうだ。

 

「シャルルは俺に、何かを伝えたかった……?いや、気付かせたいのか……?」

 

彼女の言葉の真意を模索する為、シエルは思考の渦へと入ろうとした。だがその時だった……。

 

 

 

 

「……っ!!!?」

 

 

 

何の前触れもなく、シエルは体が凍えるような感覚を覚えた。一瞬。一瞬の内に、体全体が覆い被されるかのようなドス黒い魔力を感知。同時にその異質さに背筋が冷えた。

 

何だ、今の魔力は……!?あのような、漆黒を通り越したような、完全な真っ暗闇を具現化したものを感じたのは初めて……どころか、想像すらしたことがない。

 

 

 

そしてこの魔力を持つ存在が、この後に起きる出来事の発端になる事は、まだシエルを始め、誰一人知りえぬことだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わり、一次試験を終えた事で一旦の仕事を終えた試験官のS級魔導士、及び試験を脱落した者たちは、あらかじめ用意されていたベースキャンプへと集まっていた。

 

と言っても、試験官だったエルザとミラジェーン、それから脱落組はジュビアとリサーナのペアのみがこの場にいる。他の者たちの姿はない。そして現在はエルザとミラジェーンが寸胴鍋に入ったスープを調理しているところだった。と言ってもあまり進んでいる様子はない。何故なら……。

 

「何!?エルフマンとエバーグリーンが結婚!!?」

 

試験の際に起きた事に関する雑談が、思いのほか盛り上がっているからだ。顔を赤くして狼狽えながらエルザが叫んだ内容は、ミラジェーンから聞いた衝撃の内容を反芻したからである。

 

ミラジェーンが相手となった、エルフマンとエバーグリーンペア。最初こそ圧倒的とも言えるパワー(それでもなお細心の注意は含まれていた)で二人を追い詰めていたミラジェーンだったが、エバーグリーンから突如エルフマンと結婚するなどの話を耳に受け、動揺していたところを突かれてしまい、負けたとのこと。

 

後から冷静になって考えてみれば、こちらの動揺を誘って隙を作り、そこを一気に攻め込む。そのための策だったのだと気付けたのだが、あの時は気が動転していたことで鵜呑みにしてしまった。エバーグリーンの作戦勝ちである。

 

だがエルザは何故かその嘘を信じ込んだらしく「式はいつだ!?あいつらいつの間に……!」と色々と段階をすっ飛ばしながら尋ねてくる。ミラジェーンからの説明を聞いた上でも疑ってかかってる。彼女から見れば最早そうにしか見えないのだろうか。

 

「さすがにあの二人が……それは無いと思うなぁ。だって、あの二人が結婚して子供が出来たら……」

 

そう言いながらミラジェーンは、エルフマンとエバーグリーンが結ばれたと仮定し、その間に生まれる子供の予想図を頭に浮かべる。が、途端に両手で顔を覆って泣き始めた。どんなの想像したんだ。対してエルザは「考えようによっては可愛いぞ?」とフォローを口にするが、二人のことだ。それぞれベクトルが近い赤子の想像をしたのだろう。そして両者共に一般が想像するものとは明らかに違ってたに違いない。

 

ちなみにそんな二人の会話を聞いていたジュビアとリサーナ。リサーナは兄の思わぬ相手候補に、正反対ながらも相性が良さそうと感じて、お似合いかもと口にした。ジュビアは「子供」というワードにのみ着目して顔を赤く染めながら俯いている。グレイとのことでも考えてるのだろう。確実に。

 

「そう言えばフリードたちは?」

 

「ギルダーツと一緒にギルドに戻った」

 

ふと話題を変えて、この場に戻ってきていなかったフリードとビックスローの組の行方を尋ねると、エルザから返答が。彼女たち同様試験官だったギルダーツと共に、一足先に天狼島を出たらしい。最後まで見ていけばいいのに、と少々文句混じりに呟くも、この場にいないもう一人の試験官の事もリサーナは思い出した。

 

「じゃあペルは?ペルも帰っちゃったの?」

 

「いや、あいつは二次試験の監督のために見回ると言ってた。大方放浪癖が我慢できずに、島内を歩き回りたくなったのだろう」

 

その人物であるペルセウスは、ベースキャンプに留まらず、二次試験中の受験者たちの様子を見に行ったようだ。やれやれと言いたげに笑みをこぼしながら結論づけたエルザの言葉にリサーナは「ふーん」と一見興味が無さそうな声を漏らす。

 

「(何だろう……?本当にそれだけなのかな、って思わずにいられない気がする……)」

 

胸中でリサーナが抱いた疑問は、場にいる誰もが気付けないものだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

天狼島内のとある森。島内独自に自生している植物で構成された色彩豊かな枝葉を持つ木々が密集している区間の獣道を、一人コートを揺らしながら歩き続けている青年の姿がある。S級魔導士の一人で、二次試験の監督と言う名目の見回り中であるその青年ペルセウスは、周囲の様子を見渡して島内で異常が起きていないか、受験者たちの動向などを確かめるために動いている。

 

だが、それは表向きの動きだ。

 

「ここでもない、か……。移動距離はそこまで行ってないはずだが……」

 

夏の気候に反して、色づいている草花で彩られた今の周辺は、景色で言えば秋に近い。そんな特徴を持つ森の、開けた場所についたペルセウスが徐にその呟きを零す。しばらく立ち止まって辺りに目を向けてみているが、探しているらしい存在は捉えられないようだ。

 

しかしふと空へと目線を移すと、探している存在の内の一人を見つけたことで瞬かせ、その者の名を反射的に口に出した。

 

「リリー!」

 

「待たせたみたいだな。今しがた到着したところだ」

 

一対二枚の白い(エーラ)で飛行しながら、呼ばれた直後にこちらへと近づいてくる黒ネコ・パンサーリリー。本来受験者でもパートナーでもないリリーがいる事に疑問を抱くはずだが、ペルセウスにはその様子は見られない。むしろ、彼が来ることを待っていたかのようだ。

 

「シエルとシャルル、もしくはウェンディとは?」

 

「まだだ。シエルたちとは無暗に接触できないからウェンディの方にと思ったが……やっぱり簡易ベースには向かってないみてーだ……」

 

どこか不機嫌ともとれるように目を細めながらリリーに状況を知らせるペルセウスの言葉を聞いて、リリーも腕を組みながら唸り出す。兄のペルセウスは弟とは比較的といえ、頭を使う事に不慣れだ。シエルならば場に残された痕跡からどこに向かったのかをすぐさま推理して探し当てられるだろうが、生憎自分にはそう言う事に向いてない。

 

だがそんなペルセウスも、メストのペアが選んだ闘の部屋から、簡易ベースへの道のりを進んではいたが、その間にメストたちのペアとはすれ違わなかった。確実に集合場所へと向かってはいない事が分かる。

 

「ウェンディは素直で真面目な子だ。経験は浅いが、迷子にならない限りは目的の場所に向かわずに寄り道、なんてことは考えにくい」

 

接した時間はそれほど長くはないが、ウェンディと言う少女の人となりに関して、ギルドの中では知っている方だと自負している。未来の義妹になる可能性もある為、よく目をかけていることもあって。そんな彼女が簡易ベースに向かわないで別の場所へ向かおうと考えるだろうか?もしそう動いてたとしても……。

 

「となると、やはりメストが?」

 

「多分な」

 

ウェンディをパートナーにして、昇格試験に挑んだ男。彼がウェンディと共に行動し、島の中を動いている可能性の方が大きいと考えている。ペルセウスが天狼島に向かうより先に、リリーからメストに関する情報を伝え聞いていた時から、ペルセウスもメストに関して妙に疑いを抱いていた。報告をした際にあっさりと信じてもらえたことに、リリー本人が意外そうな反応を示したほどにだ。

 

メスト(あいつ)の事について、知ってることが何もないしな」

 

少しばかり顔を険しくし、ペルセウスはそう独り言ちる。兎にも角にも早いところウェンディを見つけて合流する必要がある。そう結論付けて青年は黒ネコと共に森の中の移動を再開する。ペルセウスの歩幅に追いつくためにリリーは白い翼を広げたまま空中を移動していて、それを先導するかのように青年は駆け足で森の中を走り続ける。

 

「ん……?あれは……?」

 

「どうした、見つけたのか?」

 

ふと、飛行で移動していたリリーの横目に、妙な何かが入ったことで、彼はその場で止まった。ペルセウスもリリーが止まったことに気付いて彼のところに戻り、その視線の先へと目を向ける。メストたちか、それともシエルたちか?

 

「!?こいつは……!」

 

否、そのどちらでもなかった。彼らが見つけたのは……。

 

 

 

 

 

 

死んだ森の一部だった。

 

 

 

大木と思われた木々は枯れて朽ち、辺りに散らばる葉っぱは色を抜き取られたかのように黒く変色し、大地も明らかにその色素が落ちているかのように見える。更には点々と獣だったものらしき骨が落ちていて、まるでこの一角の命が失われたかのようだ。

 

「これは……!一体何が、どうなっている……!?」

 

目を大きく見開いて驚愕した様子のリリー。更にこの一角に漂っているのは、微量ながらも異質で不気味な魔力。長時間この場にいるのは、確実に良くないと、本能が語りかけているかのようだ。

 

 

 

 

「(この感じ……まさか……!いや、あり得ない……!!)」

 

その魔力を同じように感じ取ったペルセウスはしかし、別の何かを感じ取り、顔に冷や汗をいくつも垂らしながら、胸中でそう愕然を呟いていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

森の上空、洞窟の上、滝の横。至る所に存在する可能性がある場所を飛行しながら目を通す白ネコ。しかし、墓と呼べるべきものは存在せず、彼女たちにとっての守るべき少女や、合流予定の黒ネコの姿も見当たらず。肩を落としながら、シャルルは地上で捜索を続けていたシエルの方へと戻ってきた。

 

「あ、そっちはどう……だったのかは、聞くまでもないか……」

 

あからさまにぶすっと不貞腐れた顔を浮かべて戻ってきたパートナーを見た瞬間、シエルはすぐさま理解した。そしてシエルが尋ねてきたと言う事は、彼の方も収穫なしだったのだろう。

 

「どーなってんのよこの墓探し!全っ然ヒントらしきものすらどこにも置いてないじゃない!!試験(こっち)ばっかりにかまけてもいられないのにィ!!」

 

あんまりにも痕跡や手掛かりがなさすぎて、とうとうシャルルの堪忍袋の緒が切れた。かくいうシエルも、墓に関する手掛かりや、ウェンディたちの通ったと思われる痕跡を同時進行で探していたのだが、どちらも、と言うより変わっているのが動物ぐらいしか認識できず、途方に暮れていた。

 

「せめてウェンディたちを先に見つけられればと思ってたんだけど、けど試験だって諦めたくないし……折角兄さんと当たって突破できたことだし……」

 

「その一次試験と言い、この墓探しといい……この試験運頼みがほとんどじゃないかしら……?S級ってこんなんでいいの?」

 

うんざりとした様子でシャルルは呟いた。一次試験も、マスター・マカロフは武力と運が試されると言っていた。そしてこの二次試験。これも考えてみれば、あからさまに運を試されるような課題だ。強運の星の下に生まれた者しかS級ってなれないのかと言う疑問が浮かぶのも無理はない。

 

「確かに……」

 

「え、何……?」

 

だからこそシエルは思った。何かが妙だと。ヒントも無しに墓を探す。明らかに運や、機動力がものを言うと言っていいこの課題。本当にただただ墓を探すだけがこの試験の本懐なのかと。

 

「マスターは特に、この試験で何が試されるとかも言ってなかった。墓を探す……ただそれだけのことだけど、普通ノーヒントで探させたら、下手をすると誰も見つけられない……。いくら厳しいとは言え、そんなことをするか……?」

 

口元に手を当てて考える素振りをし、その思考で浮かんだ事を口に出す。思考する際の仕草を見てきたシャルルは、彼が何かしらの疑問を抱くと共に、その解決方法を割り出そうとしているのが分かった。だが、いくら彼でも厳しいだろう。何せマカロフから告げられたその情報自体が、あまりにも少ないのだから。

 

 

 

しかしふと、シャルルは思い出した。あの時は流してしまっていた、とある違和感を。

 

「6時間……」

 

「……えっ?」

 

思い出した瞬間、シャルルは無意識に呟いていた。それに己で気付き、シエルに聞き返されると、思い出したような言い方で彼にその理由を述べる。

 

「試験の説明の時、やけにマスターが念を押してたわよね?」

 

 

 

『制限時間は6時間。いいか?()()()じゃぞ?』

 

「何でもないような、ただただ6時間以内に見つけなければいけないって意味かとも思ったけど、これ自体がもしヒントで、あえて気付きやすいに繰り返してたとしたら……何か見えてくるのかしら?」

 

その瞬間、シエルは頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けて目を見開いた。ヒントと思しきワード……6時間を耳にした事で、急速に頭が回り出す。

 

「墓……死……眠り……永久……石……命……終わり……」

 

小声で謎の羅列……恐らくは墓に関する言葉を口々に呟いていくシエル。取り憑かれたようにブツブツとしている姿は、第三者からは奇異の目で見られるようなものだが、シャルルは口を閉ざせず瞠目している。やはりヒントは出されていたのかと、そしてそれを元にシエルが考えつけている事を。

 

 

 

そして……。

 

「はっ……!分かったかも……!墓の場所!!」

 

「本当!?」

 

本当に割り出してしまった。思わず問いかけるシャルルの声に対し、シエルはすぐさま指示を飛ばす。いますぐ(エーラ)を使って上空に行くようにと。少し戸惑いながらも、シエルを抱えて一対の翼を広げながら上空へと向かい始める。森の木々を追い越した高さまで達したのを確認したシエルは、次に一次試験で向かっていた分かれ道の場所へ向かうように告げる。

 

「墓の場所がわかったって……どうやって割り出したの!?」

 

「連想さ。“墓”に関する単語で、スペルが“6文字”になる言葉を探し出したんだ!」

 

ある程度の高さと距離を移動したところで、墓の場所を割り出せたシエルに、どうやったのかを尋ねるシャルル。その仕組みは連想。シエルは墓に関連したワードを次々に思い浮かべ、()()()に限定したその単語を割り出した。

 

「中々6文字の単語が浮かばなかったんだけど、一個だけ浮かんだものがあった。それが……『終焉(demise)』」

 

終焉という意味を持つ単語。スペルは6文字で、墓、更には時間にも関連している。多少強引な連想とはなったが、マスター・マカロフが提示したヒントから割り出せるのはこれしかない。

 

「そこからさらにこじつけに近い形になるけど……『6時間』と言う言葉は、東洋の国では『6()()』とも言いかえられる。終焉(demise)の字間で、着目できる文字が一つ、あると思わない?」

 

「文字……字間……っ!eだけが二回使われてる!?」

 

不自然に二回使用されているスペルの内のアルファベットである“e”。Eと言えば……一次試験で選択するように提示された9つのルートのうちの一つ。ちょうど真ん中に存在していたEルート。一次の際は、シャルルの予知から“激闘”だと予測を立てて、真っ先に除外したルートの一つである。

 

そのルート内に、実は初代マスターの墓が存在していたと言う可能性に、シエルは行き着いた。

 

「ただの思い過ごしかもしれない。けど、これ以外のヒントはない。だったら一回これにかけて探し出して、それで違ったとしても遅くはない」

 

元々はノーヒントに等しい状態での墓探しだったのだ。条件は皆同じ。このヒントに基づいて移動して、違ったとしたらそれはそれ。二度に渡って運を試される試験か、他のヒントを見落としているかだ。

 

「どちらにしろ、行ってみても損はなさそうね」

 

「その通り。けど一つ問題があって、墓らしきものを一次試験で他の受験者が見ているかもしれないって可能性がある」

 

ヒントの通りだったとしても、シエルが懸念せざるを得ない材料も存在している。墓が存在していると思われる場所が、一次試験で使用された場所だからだ。9つあったルートのうちの一つ。その内のEルートを選んだペアが、ふとした拍子に墓を見ていたとしたら、その時点で気付かれて先越されることもあり得る。

 

「シャルル。予知で見た時、確かEルートは激闘だったよね?」

 

「ええ。誰が相手だったかはわからないけど、それだけは何となく感じ取れたわ」

 

思い出したのは自分たちの一次試験。一番最初に除外したルートがAとD、そしてEだった。シエルたちは未だにどのルートがどの“激闘”だったのかを把握こそしていないが、自分以外に、自分と同様激闘ルートを突破した組を思い出せば、墓に直行できる者たちを特定できる。

 

「って事は……見ている可能性があるのは、俺を除けばナツとエルフマン……。

 

 

 

 

 

 

 

しめたっ!!どっちもバカだ!!気付けるわけがない!!」

 

「酷い言いようね……否定する材料もないけど……」

 

お世辞にも賢いと言えないどころか、程遠いと言わざるを得ない者たちの名前が上がったため、その心配は彼方に吹っ飛んだ。やはりレビィか、ルーシィと組んでるカナが最有力のライバルか。兎も角急いで向かう為にシャルルに速度を上げるように頼みながら、最初の分かれ道へと向かって行った。

 

 

 

余談だが、シエルが嬉しそうに気付いた事実を叫んだのと同時刻、前触れも無くナツとエルフマンが同時にくしゃみを発し、それぞれのパートナーに首を傾げられたのは別の話。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時を少し同じくして、天狼島の比較的海岸沿いに存在している岩場。その岩場には天狼島にしか自生していない珍しい種類の花々が咲き誇る花畑が存在している。その場に、藍色髪のツインテールの少女ウェンディが腰かけ、物珍しい可憐なその花たちを見て気分を和やかにさせている。

 

その花々からいくつかを摘み、小さな手に束として纏めていく。魔導士ギルドに身を置くと言ってもやはり少女。奇麗かつ可愛らしい花に興味を惹かれる年頃なのだろう。ほのかに香るかぐわしい花の香りも相まって、今この時のウェンディは試験の際に抱いていたマイナスな感情を癒していた。

 

「(このお花を見せれば、シャルルとも仲直りできるかな……?)」

 

きっと今も、ある少年のパートナーとして試験に臨んでいる相棒兼親友であるシャルルの事を、一週間前にケンカ別れの形になってしまった彼女の事を頭に浮かべながら、この後仲直りするためのきっかけとして花をとっておこうと考えられるぐらいに。

 

するとふと、後ろから自分を見守っていた様子のメストが近づいてくるのを感じ取った。ウェンディは、自分ばかりが花に夢中になってしまっていると今気づき、振り向きながら彼にも自分が摘んだ花を見せようと思い、彼を見上げた。

 

「こんなお花見たことないですよ!メストさん、ほら!」

 

笑顔を浮かべながら花を見せようと思っていたウェンディ。だが、彼女は近づいてきたメストの様子が、どこかおかしいことに気付く。そして気付いた瞬間……彼は信じられない行動に出た。

 

「きゃあぁーーーっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知りたい……!見たこともない花の味と言うものを、オレは知りたい……!!」

 

先程までウェンディがいた花畑に自生している花々に顔を突っ込み、次々に口の中に入れて咀嚼していく。どこか狂ったみたいな表情で延々と「知りたい」とぼやきながら花を喰らっていく様子は、誰が見ても恐怖の対象だ。ある意味で。

 

「花を食べないでくださ~い!!」

 

当然ウェンディも悲鳴混じりに願望も加えて叫びを発する。それを耳に入れてもなお奇行を止めようとする気配はない。傍から見たら完全な変質者だ。どうしたら止まってくれるんだろう、と半ば途方に暮れてウェンディが困っていると……。

 

 

 

「ようやく見つけた。ここにいたのか」

 

「え?」

「っ!?」

 

後ずさって腰を落としていたウェンディの背後に、聞き馴染みのある低い男の声が聴こえ、彼女は思わず振り返った。それと同時にメストもこれまでの奇行を止めて硬直し、どこか顔を強張らせる。

 

そこには水色がかった銀の長い髪をうなじで縛っている、コートを羽織った青年ペルセウスがいた。こちらを見上げているウェンディと、花を口に入れたまま硬直しているメストの姿を目にし、嘆息を吐きながら口角を上げている。

 

「何やってんだメスト?ウェンディ困っちまってるぞ」

 

「す、すまない、どうしても知りたくなってしまって……!」

 

「どうしてペルさんがここに?」

 

ペルセウスに注意されたことでようやく身を起こしてメストは立ち上がる。ちなみに花は全部吐き出した。そしてウェンディは、この場にまさか彼が来ると思わなかったのか純粋に疑問を投げかけてきた。

 

「二次試験の見回りだ。それと、一次試験落ちたにも関わらず何の連絡もしないでベースキャンプに戻ってこないお前たちを探してた」

 

「あう……すみません……」

 

「すまん、オレが悪いんだ。この島を探検してみないかって、オレが提案したから……」

 

ウェンディの問いに返したペルセウスの言葉を聞いて、二人揃ってどこかバツの悪そうな顔を浮かべながら謝ってきた。素直に自分の非を認められることは悪いことではないとし、戻ってこなかったことに関してはこれ以上深く追求しないとして、ペルセウスは笑みを浮かべながら再び告げた。

 

「ま、探検もいいが、せめて一報は入れるべきだったな。取り敢えず一度簡易ベースに戻るんだ。多分、エルザたちも心配してる事だぞ」

 

「はい。メストさん、ペルさんの言う通り、一度戻りましょうか」

 

「そ、そうだな。無理に連れてきてすまなかった、ウェンディ。それじゃあ、すぐに戻るとしよう」

 

少しばかり残念な気持ちも過るが、他の者たちが心配してるとなってはあまり勝手な行動も出来ない。そう結論付けてウェンディはペルセウスの言うように、簡易ベースに戻る事を提案。メストもこれに了承した。どこか落ち着かない様子も見えるが、彼女は特に気にせず、歩き出したメストを目で追う。

 

 

「まあそんなに慌てんなよメスト」

 

しかし、ペルセウスを通り過ぎてきた道を戻ろうとしていたメストの肩を、ペルセウスは振り向くと同時に掴んで彼の動きを止める。その瞬間、メストの体が不自然に跳ね、息を呑むという表現が正しい程に狼狽え始めた。ウェンディには、どうして彼がこんなに慌てているのかが分からない。

 

「どうせ戻るなら、ゆっくり話しながら行こうぜ。お前の事、色々と知りたいと思ってたところなんだ」

 

「し、知りたい……とは……!?」

 

「そのままの意味だ。何かおかしいか?」

 

メストはどこか顔を強張らせ、対するペルセウスは口元の笑みを引っ込めない。仲間同士の会話にしてはどこか不自然に感じるその様子に、ウェンディは困惑がさらに大きくなっていく。だが……。

 

「親友の……ミストガンの弟子の事を知りたいってことは。俺、あいつからお前の話を()()()聞いたことなかったからさ」

 

「……っ!!」

 

その一言が、ウェンディに驚愕を、そしてメストには恐怖に近い何かを与えた。顔中から汗を噴き出して言葉を詰まらせるメスト。そんな彼を肩を掴んで笑みを浮かべながらも、一切逃がすつもりのない目を向けたペルセウスと、近くの岩場の陰からペルセウス同様にメストの動きに注意を向けている黒ネコが、獲物を狙う狩人の如く、彼を睨みつけていた。

 




おまけ風次回予告

シャルル「それにしても、随分回りくどいヒントを出したものね、マスターも。こんなのあんた意外に誰が気付けるのかしら?」

シエル「ルーシィとかレビィとかなら可能性はあるんじゃない?俺と同じで本に詳しいし。あとグレイは、ちゃっかりどこかでそのヒントを聞いてそうだな~」

シャルル「ひょっとして、気付いてすぐ私に空に行かせたはその為?」

シエル「お、気付いてたんだ?」

シャルル「(やっぱこいつ、兄貴と全然違うわね……)」

次回『悪魔襲来』

シャルル「ところで、ナツとかの名前が上がらなかったのって……」

シエル「逆にナツたちがあんな回りくどいヒントに気付けると思う?」

シャルル「思えないけど、物凄い悪魔みたいな笑顔になってるわよあんた……」
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