FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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また一ヶ月もかかってしまいました。本当にごめんなさい…。

あんまこう言う事書きたくないんですけど、毎日の仕事がただでさえストレスマッハになるのに、救出とか残業とかがここ最近頻発したせいで、多忙と過労が書く気力の一切を奪い取ってやがる…。

もう今の仕事辞めないと、永遠に亀更新かもしれない…いや、割とガチで…。


第115話 悪魔襲来

一週間以上前。S級魔導士昇格試験の受験者発表の数日程前に当たるこの日、マスター・マカロフが書類仕事を行う部屋の中に、マカロフを含めて数人の魔導士が集まっていた。マカロフ以外に集まった魔導士には、一つの共通点が存在する。それは、全員がもうじき開催される昇格試験を過去に通過し、“S級”の称号を得た者たちであることだ。

 

「なあ……やっぱりまだ早いんじゃないかと思うんだが……」

 

「くどいぞ。まだそんな事言ってるのか、ペル?」

 

その内の一人。5年前に当時最年少及び在籍期間最短で合格を遂げた長髪の青年ペルセウスは、自分の弟に関する書類を手に取り、どこか不安気に顔をしかめながらぼやくも、同様に書類を手に持ちながら一切表情を変えない緋色髪の女性エルザにばっさり切り捨てられる。

 

現在マスターを含めたこの場の5人が行っている会議は、今回のS級魔導士昇格試験に挑戦する資格がある魔導士を選ぶためのものだ。毎年多くの魔導士がS級を目指すべく、この試験に選ばれるためにアピールを行っている。それでも三桁近くまで所属する妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士の中から選ばれる魔導士は毎回10人にも満たない。そもそも合格者は基本一人のみと言うあまりにも狭すぎる門なのだ。

 

その狭き門に挑む者たち。その資格を持つに値する魔導士たちを選ぶために、マスターであるマカロフと、かつて門を潜り抜けてきた猛者たちは、厳正な審査を行っているのだ。既に決まっているのは7人。これでも例年よりは多いが、今年はまだ候補が上がっている。

 

その内の一人が、未だ年若い少年魔導士・シエル。奇しくも、兄のペルセウスが昇格試験に合格した時とほぼ同じ在籍期間と年齢である。

 

「しかしだな……」

 

「何だぁ?ペルは弟がS級になるのがイヤなのかよ?」

 

「そうじゃない。今のシエルには少し荷が勝ちすぎてると思ってるだけで……」

 

「それも含めて、この試験で確かめるのが一番だとも言っているだろう?」

 

シエルの兄であるペルセウスとしては、シエルを下手をすれば命の危険と隣り合わせであるS級クエストに行く許可を得ると同義となる資格を、現時点では与えたくないと言うのが本音だ。確かにシエルはここ最近で急激に成長したことは、近くでその様子を見ていた自分も感じている。

 

ギルダーツやエルザからすれば、真っ先に選ばれたナツやグレイにも引けを取らないと太鼓判を押している為、候補から外す理由の方が少ないのだが、何よりもシエルの身の安全を考える兄としては、やはり賛同しきれないのだ。

 

「私はペルの気持ちも分かるけど……きっとシエルは()()に全てを懸けてると思うわよ?」

 

「む……」

 

どうにも納得が出来ないと言いたげなペルセウスに、彼と同じく弟が自分に続くようにS級へとなろうとすることに対して、心配を抱いているミラジェーンが共感しながらも、シエル本人がどれほどの思いをS急に寄せているかを教えるかのように諭す。その姿が容易に想像できたペルセウスは、それによってとうとう口を噤んだ。

 

「なに、シエルに限らず、この中で誰が試験に合格するかは、実際に時が来れば分かる事だ。しっかりその目で見極めればいい」

 

「では、シエルも参加者として認定と言う事になるかの。良いか、ペル?」

 

「……分かったよ」

 

あくまでこれは試験への参加資格があるか否かを決める会議。実際にS級を決めるのは、試験中の参加者の行動次第だ。あるいは試験官である自分にどこまで食らいつけるかを自ら確かめれば済む話であることも相まって、彼は弟の参加をようやく認める形になった。

 

「これで8人か。こんなところで良いんじゃねぇか?」

 

「ガジルはいいのか?実力で言えばナツたちレベルと言えるし、ジュビアと加入時期も同じだろ?」

 

「あいつはまだ早い」

 

「即答か……」

「あらあら」

 

大分参加者を提示したことで、ギルダーツからそろそろ候補者の締め切りを促す空気が流れる。その中にナツ同様の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいなかった事に疑問を抱いたペルセウスが名前を上げるが、エルザに即効で弾かれた。取り付く島もない。ペルセウスだけでなくミラジェーンも苦笑いを浮かべた。

 

ともかくこれで打ち止めか、とペルセウスは体感時間で長いこと続いた会議の終わりを感じて一つ息を吐いたところで、その後に聞こえてきたエルザの声に、衝撃を受けることになった。

 

「そうだ、外せない奴が残っていた。メストを入れてなかったな」

 

「……?」

 

メスト。その名前を耳に入れた彼は、疑問を抱いて首を傾げた。エルザがさも当たり前のように提示したためスルーしかけていたが、彼が驚いたのは更にその後だ。

 

「メストか……去年惜しいとこまで行ったんだったか?」

 

「ええ。今年は更にやる気になってるはずよ?」

 

「期待できそうだな」

 

エルザの声に続くように、ギルダーツもミラジェーンも、違和感を微塵も感じないまま会議を続けている。先程までのように、どこにもおかしな点などないかのように。

 

「どうかしたかペル?」

 

「え……あ、いや……」

 

エルザたちの会話の内容に疑問しか浮かべられないペルセウスの様子を案じたマカロフが、目を閉じたまま彼の方に顔を向けて、いつもの声の調子で尋ねてくる。やはり、自分以外は誰も違和感に気付いていない。

 

「何だよ、まさかメストが参加するのも反対か?」

 

「……そんなことはねえ。俺も異論なしだ」

 

妙に上の空に近い状態となったペルセウスにギルダーツたちが首を傾げながらも、9人目の参加者メスト・グライダーが決定し、会議は終了の流れとなった。この中から、今年はS級魔導士が一人のみなれる確率を持っている。来るその試験の日に、彼らは期待に似た感情を浮かべながら、部屋から退室していった。

 

 

 

 

 

 

「(メスト……って、誰だ?そんなやつ、妖精の尻尾(ウチ)にいたか……?)」

 

一切()()()()()()()()謎の人物に対する懐疑心を抱いた、青年だけを除いて……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

少女ウェンディは今、混乱の最中に陥っていた。昇格試験に、パートナーとして誘ってきたメストと共に天狼島を探検していたところ、自分たちを探しに来たペルセウスがメストにかけた言葉が、あまりにも耳を疑うものだったからだ。

 

「(え……?どう言う事……?)」

 

「どうしたメスト?そんな固くなることはねえぞ、簡単だ。お前の師匠……ミストガンからどんなことを教わったとか、そもそもどんな経緯であいつの弟子になったのか……()()()()()を話してくれればいいんだ」

 

ペルセウスがミストガンと親友と呼べる間柄であったのは、彼自身からの話でも聞いていた事であり、ミストガン本人もそう告げていた。そんなミストガンの弟子、メストの事はペルセウスもよく知っているものだと彼女は認識していたが、今彼は()()()聞いたことがないと、確かに口にした。

 

親友の弟子の事を、ミストガンから一度も聞いたことがないなど、本当に起こり得るのか?現に、ウェンディの目に映っているメストの表情は、どこか焦りを感じさせるものとなっていて、体を硬直させている。

 

「(よ、よりにもよって……()()()に問い詰められるとは……!)」

 

一切の言葉を発することも出来ず、メストは胸中で今の状況に対して毒づいていた。この男……ペルセウスにだけは、自分の事に関して最低限の事を除いて知られるわけにはいかなかったと言うのに、その努力も空しく打ち砕かれることになった。

 

()()が来るまでにはまだ時間がかかる。それまでには目的を少しでも達成できればと思っていたのだが、遭遇したくない相手に見つかっただけでなく、何やら感づかれてしまったようにも見られる。

 

非常にまずい。いや、マズいと言う言葉でさえ言い表せない絶体絶命のピンチだ。そう言い切ってしまう状況だと、メストは実感していた。彼の問いにどう返答すべきなのか、考えても浮かびそうにない。

 

「何をそんなに怯えてる?」

 

「い、いや、別に……!」

 

更に悪いことに、こうして自分が言い淀んでいる間にも、ペルセウスは自分の肩をつかんで離さず尚も問いかけてきて、次第に退路すらも絶ちにきている。そして何も説明が出来ないうちに、パートナーのウェンディからの信頼も失われつつある。

 

「ウェンディも知りたくないか?俺もお前も知らない、ミストガンがしていたことが知れるチャンスだと思うが?」

 

「え?それは、確かに気になりますけど……メストさん?」

 

追い打ちをかけるようにウェンディの興味も刺激して、否が応にもメストからミストガンの事を聞き出そうとしてくる。ウェンディとしても、ミストガン(ジェラール)についての話を更に聞けることは喜ばしいのだが、それを問われたメストの様子が明らかに挙動不審になっていることに対する疑問の方が大きくなっている。

 

その状況を、一人だけ岩の陰から様子見している存在……黒ネコのエクシード・パンサーリリーは、ペルセウスが尋ねてくるミストガンの事に何一つ答えられないメストの様子を隠れて見ていたことで、一つの確信を得ていた。

 

「(この様子は……シエルの推測は当たっていたと言う事か)」

 

メストがウェンディとしていた会話と、ミストガンの弟子と言う肩書、そして彼に関する情報の少なさ、そこからシエルが推測を立てていた「メストがギルドの一員ではない可能性」。それが彼の兄であるペルセウスの手によって、もう既に立証されたような状況になりつつある。リリーが今警戒しているのは、仮にメストが別の素性を持っているのだとして、その目的がギルドのメンバーに危害を加えるか、それに繋がる事だった際、パートナーとして連れてきたウェンディに何かしらの危害を加えると言う可能性だ。

 

「(ペルセウスがいる状態では奴も迂闊には動けんだろうが、万に一つと言う事がある。さて、どう動くか……)」

 

者によっては、何時間も経ったと錯覚するほどの静寂が続いた膠着状態。場にいる全員がそれぞれ違った心境を抱えていた緊張感。いつまでも続くのではと思われていたその静寂は……。

 

 

 

 

 

 

 

突如島の内部から打ち上げられた、赤い信号弾によって破られた。

 

「!!?」

「何……?」

「え、あれって……?」

 

外部からのまさかの出来事に、先程とは違って全員の表情に驚きが生じる。そしてこの赤い信号弾が、この後に待ち受ける激しい戦いの開戦の合図となっていたことを、彼らはまだ知らない……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、一次試験で9つの道に分かれた出発点。最初に道を選ぶ地点へと辿り着いた一人と一匹。少年シエルと白ネコシャルルだ。シャルルは抱えていたシエルを地面に下ろすと、少しばかり消耗した顔に汗を浮かべながら自らも地面に降り立って翼をしまう。

 

「ふぅ……」

 

「ありがとうシャルル。疲れてるみたいだけど大丈夫?」

 

「問題ないわ。まずは墓を探しましょう。あんたの予測が正しければ……」

 

ここまでほとんどの時間(エーラ)を具現し続けてきたシャルル。それほど消費する魔力が多くない魔法とは言え、長時間長距離を移動するにはやはりその分の消耗も激しい。ハッピーの例を思い返しながらシエルがシャルルの身を案じるように尋ねると、気遣いは無用と言いたげに返事し、先を急がせる。気丈に振る舞っているように見えるが、シエルとしても時間は惜しい。彼女の頑張りに応えて首肯し、共にEルートの洞窟へと進んでいく。

 

思えば、自分たちが一次試験で選んだのは洞窟の外側兼海沿いのルート。暗いイメージの湧く洞窟を通ることはなかった。今回の二次試験に関してもだ。空から探しても、洞窟の奥深くに墓があったら見つからないはずだと、今更になって納得してしまう。

 

「洞窟の中にしては随分明るいわね」

 

「夏によく見られる霊光虫って虫がいるからだね。この島は年中夏みたいなものだから」

 

ギルドの文献であらかじめ調べていた生物の知識を、途中から足取りが重くなっていた為に自分の肩に乗せているシャルルに教える。天井が切り取られたように開いている部分があるとは言え、自らの体を発光させ、暗がりであるはずの洞窟を淡く照らしてくれる生き物の存在は、こちらとしてもありがたい。

 

しばらく道なりに洞窟を歩いていると、ふと不思議な魔力を二人とも感じた。その発する先は横の道。それはどこか、天狼島を初めて見た時に感じた魔力と同じ質で、それがより大きく感じられるような……。

 

「シャルル……」

 

「ええ。きっと、間違いないわ……!」

 

あの先に、初代マスター・メイビスの墓がある。絶対にそうだと、二人して確信めいたものを感じ取れた。次第に二人の表情に笑みが浮かび、互いに顔を見合わせてその横道へと歩を向ける。

 

「この先に……!!」

 

「初代の墓が……!!」

 

辿り着けば……見つけられれば……自分たちが合格。S級と言うゴールに大きく近づける……!高まった興奮が冷めることなく、淡く光る道の入り口へと足を踏み入れようとし……。

 

 

 

 

 

 

 

「シュパゥウウン」と言う何かを打ち上げる音と共に、それは止められてしまった。

 

「……!?」

 

思わず音のした方向へ目を向けると、洞窟から見える天井の隙間から、赤い光が目に映る。今しがた上がったそれは、信号弾だ。ギルドの者……今回の試験において試験官となるS級魔導士が持たされた、ギルド内共通で周知されているものである。

 

「信号弾……!?何があったの……?」

 

まだギルドに来て日が浅いシャルルは、信号弾の意味を全て把握はしていない。だが、シエルは別だった。それを目にした瞬間に、あれが何を現しているのかを、明確に理解していた。

 

「『コンディションレッド(敵の襲撃、迎撃せよ)』……!?」

 

「敵!?まさか、メストが!?」

 

敵からの襲撃を意味する合図。それがあの赤い信号弾・コンディションレッド。敵と言う単語を耳にしたシャルルはメストが敵対行動を起こしたのかとふんだが、シエルから訂正が入る。

 

「いや、正確には違う。赤の信号弾は、これから敵が攻め込んでくる……今回は天狼島に乗り込んでくる予兆を示してる。既に島にいるメストが行動を起こした可能性は低い……」

 

あくまで信号弾の意味は襲撃に備えて迎撃態勢に入れと言う意味だ。既に侵入しているメストが行動を起こし始めたという考えは薄いと見ている。だがシエルは「けど……」と一度区切ると、表情を歪めてもう一度続けた。

 

「どちらにしろ、襲撃した敵がウェンディに危害を加えないと言う保証もない……!」

 

メストに関与があるにせよないにせよ、襲撃に来た敵がギルドのメンバーに危害を加えようとする確率は0だ。目的は一切不明だが、それだけは断定できる。つまり、ウェンディも危険な目に遭う事は間違いない。それも、一分一秒も惜しくなる程猶予はない。

 

「くそっ……!!墓までもうすぐそこだったって言うのに……!!」

 

恐らく試験は確実に中止となる。敵の襲撃が起きたとなれば、島内にいる全魔導士がその襲撃に備える必要があるから。ようやく手にしたチャンスをこのような形で奪われたことに、シエルは激しい苛立ちを露わにしている。

 

そんな彼の肩に乗ったままだったシャルルは顔を俯かせて考え込み、決意したように肩から飛び降りて着地すると、彼の前に立つように歩きながら言った。

 

「シエル。あんたはこのまま墓の方へ行きなさい」

 

「……え?」

 

「折角ここまで来れたのに、あんたの夢まで後少しってところで終わりになってもいいの……?」

 

シャルルから言われた言葉に思わずシエルは固まった。呆然とし、彼女の言葉を理解するのに遅れている様子に目もくれず、先程聞いていたシエルの試験への想いを口にして言い聞かせようとしている。

 

「あんた言ってたでしょ。試験も、ウェンディのことも、どっちだって大事だし、譲ることは出来ないって。試験を受けているあんたが墓に着けば、少なくとも二次試験を突破したことにはなるはず……。その間に、私がウェンディを守る……!」

 

固めた決意を込めた目で俯かせた顔を上げると同時に、シャルルは制止しようと呼びかけるシエルの声を聞くより先に、(エーラ)を広げてその場を飛び立つ。それと同時に速度を一気に最高値へと引き上げ、来た道を戻っていく。

 

ハッピーで言うMAXスピードを保つために魔力を振り絞りながら、ほんの数秒で洞窟を抜け、上空へと飛びあがる。信号弾の痕跡はまだ残っており、あそこから上げられた可能性が高い。ウェンディを探すにしても他に手掛かりが残っていない為、向かえる候補は今そこしかない。

 

「(待ってて、ウェンディ……!!)」

 

疲労が回復しきっていない身体に鞭を打ち、速度を落とさずに目的の場所へと真っすぐ飛んでいく。魔力が残り少なくなっていることを実感するが、それでも止まる気はない。一刻も早く親友であり相棒である少女の元へと辿り着かなければ。

 

 

 

 

 

 

『ギャー!ギャッギャアー!!』

 

「!?」

 

その一心で翼の魔力を解放したシャルルだったが、そんな彼女に障害が立ちふさがる。彼女の前方に立ち塞がるようにして飛び上がってきたのは、天狼島に生息する気象の荒い怪鳥の群れ。思わずその場で減速しようと考えかけたシャルルだが、その時間も惜しいと考えて、そのまま急旋回。方向を見失わずに迂回し、怪鳥から逃げようとする。

 

「っ……!邪魔しないでよっ!!」

 

だが怪鳥の群れもただで逃がすつもりはない。必死にこちらと距離をとろうとしているシャルルをしつこく追跡し、知能もあるのか連携して何羽かシャルルの進もうとする方向を妨げようとし、それに追われることでシャルル自身も思うように進めない。

 

「この……!きゃっ!?」

 

それでもなお振り切ろうと奮闘したシャルルだったが、その内の一羽の嘴が当たり、一気に失速。そのまま慣性と重力に従って、斜め方向に地面へと落下を始めてしまう。そして怪鳥たちは得物を仕留めることが出来たかのように歓喜の鳴き声をあげながらシャルルを追いかけていく。

 

「(こ、こんなところで……こんな奴等なんかに……!)」

 

諦めずに再び(エーラ)で上昇を試みるシャルル。しかし、これまでの疲労と、消耗していた残り少ない魔力が原因で、再びその背に翼を出すことが出来ず、力なく落下を続けていくことしかできない。自らの運命を悟り、シャルルはこれ以上の抵抗は無意味だと感じた。

 

「(ごめん……ごめんね……ウェンディ……!)」

 

最後の彼女との会話は、試験に対しての宣戦布告。結局、ケンカ別れの形のままで、仲直りすることが出来なかった。今際の際に思い出したその事実に後悔を感じながら、シャルルは目元に涙を浮かべて、そっとその目を閉じ、迫りくる運命に身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

吹雪(ブリザード)ォ!!」

 

そんな彼女の薄れかけた意識を、その声が一気に覚醒させた。弾ける様に見開いた彼女の目に映ったのは、自分を襲っていた怪鳥の群れが、雲に乗ってこちらに迫っていた少年が起こした吹雪によって、一匹残らず強風によって彼方へ飛ばされ、あまつさえ氷雪に身体を包まれてほとんどが墜落していく光景。かろうじて生き残った二、三羽程の怪鳥も、少年が起こした吹雪に晒された仲間の末路を見て身の危険を感じたのか、尻尾を巻いてその場を逃げ出した。

 

「シャルル!!……大丈夫!?」

 

怪鳥の群れを蹴散らしたその少年シエルは、雲を操作してシャルルの元へとすぐさま向かい、落下中だった彼女の身体を受け止める。外傷は先程の嘴によってできた比較的小さい傷一つだけ。そして恐らく魔力がほとんど切れてしまっていることも分かる。理解するや否や、シエルは日光浴(サンライズ)を一つ創り、シャルルにその優しい光を当て始めた。

 

「シエル……あんた、何で……?」

 

「すぐに追っかけて来たんだよ。かなりの速さで行っちゃったから追いつけるか心配だったけど、間に合って良かった」

 

驚きを隠すことも取り繕うことも出来ないまま尋ねたシャルルの問いに、彼女が飛び去ってすぐに追いかけたこと、そしてその行動がシャルルの危機を救うことに繋がったことによる安堵をシエルは伝える。だが、シャルルが聞きたかったのはそこではなかった。

 

「そう言う事言ってんじゃない!試験は!?初代の墓に行かなかったの!!何で!?」

 

シエルがここに自分を助けに駆けつけた、と言う事は、もうすぐ突破できたはずの二次試験を自分から放棄したに等しい行為であること。あれ程までに兄に憧れ、この試験にも全力で臨んでいたシエルが起こした行動は、話を聞いただけであるシャルルにとっても解せない事だった。シエル自身、その選択に一抹の後悔もないようには見えない。僅かばかりに顔を曇らせながらも、その問いに対しての答えも告げる。

 

「そりゃ、あそこまで行けたのにこうして引き返すのは、勿体ないとも思ったよ。ちょっとだけ……シャルルの言う通りに、墓へ行くことも、考えた」

 

「じゃあ尚更!……私をすぐに、追いかける事なんて……!」

 

「けど、やっぱり仲間を見捨てることは出来ない」

 

曇っていた表情を、真っすぐに、真剣に引き締めたものへと変え、確固たる意志さえ感じる声で堂々と少年は答える。同様に顔に陰りを帯びていたシャルルは、その言葉に再び言葉を詰まらせた。

 

何年も夢見ていた、兄と同じ称号。孤高と言う言葉を抱えた兄に並び立つために血のにじむような努力を積み重ねてきた。数々の困難を乗り越えてきた。もう少し、あと一歩のところで、それが叶うところだった。

 

このまま初代の墓へと辿り着けば、S級になれていたかもしれない。そう思うと、シエルはこの先も下手をすれば永遠に後悔することになるだろう。だがそれでも彼はきっと、先程の時に戻っても、同じ選択をしていたと確信できる。

 

 

 

 

何故なら、きっと今と同じ状況に兄が陥ったら、今の自分と同じ選択をしていただろうから。

 

「俺は、S級魔導士になりたい。でもそれ以前に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士でありたい。兄さんと同じS級を……妖精の尻尾(フェアリーテイル)を胸張って名乗るなら、真っ先に仲間の為に動けないとね」

 

どこか苦笑気味ながらも晴れやかな笑みを浮かべながら言い切ったシエル。しばし目を見開いたまま、呆然とその顔を眺めていたシャルルは、少しするとふっと口元に笑みを浮かべて目を伏せる。

 

「だったら、私が行くよりも先にウェンディを助けに行こうって言えたんじゃないかしら?」

 

「うっ……!そ、それは……言う前にシャルルが飛んでったから……!」

 

「何よ?信号弾あがった時『もうすぐそこだったのに~』って言ってたじゃない」

 

「あっ……くっそ、何も言い返せねえ……!」

 

いつもの調子で、珍しくシエルを小馬鹿にするような態度をとるまでに落ち着いたらしい。彼が見たこともないような随分柔らかくなったシャルルの言動に、返す言葉も見つけられずタジタジになるばかりのシエルを見て、シャルルは笑みを深くしながらもその顔をシエルに見えない方へと向ける。

 

「……けど、ありがと」

 

「……!?シャルル、今……」

 

「何でもないわ。それよりも、急いだ方がいいんじゃないの?」

 

ぼそりと呟いたシャルルの言葉に驚きを現しながらも、食い気味に誤魔化され、当初の目的の為に急かされる。時間を幾分か使ってしまった。いつどこに敵の襲撃が起きても最早おかしくない。

 

二人にとって共通の守護対象・ウェンディの元へとすぐさま向かう為、シエルは乗っていた乗雲(クラウィド)に意識を集中し始める。

 

「全速力で行くよ!!」

「任せるわ!!」

 

魔力が切れて飛べないシャルルを抱えながら、シエルはその雲をフルスピードっで前進。先程まで上がっていた信号弾の方角へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

「そう……それでよいのじゃ……」

 

少年と白ネコが起こしていた一連の流れを、僅かばかり遠くにいながらも感じ取っていた一人の老人。樹木の一部と思われるツタのドームに覆い隠された、縦中心に一本線、ど真ん中に正円の空洞が作られた、一つの石碑に似た形をした“墓”の前で、彼らの様子と、その選択の一部始終を見届けたマスター・マカロフは、一つ頷きながらシエルたちの選んだ答えに満足していた。

 

S級と言う格の違いを表す称号。その証を得ようと言う姿勢は間違いではない。だがそれは、和を重んじるギルド……ひいては家族、仲間の絆を尊ぶ妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとって、仲間の安否を捨て置く言い訳にはならない。

 

もしシエルが、試験を優先して自分の元に着くこと、墓を見つけることを優先した際は、今後に予定していた試験により厳しい目を向けていただろう。だが少年は、憧れの称号よりも、目の前の家族を取った。

 

「『妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士でありたい』か。あの気弱で、折れてしまわないかと心配になった幼子が、随分言うようになったな……」

 

マカロフは思い出す。初めて兄弟共々彼らを目にしたあの時を。今にもその命が尽きようと衰弱していたころの面影は、遠い記憶の彼方だ。兄への妄信でS級を志していた、どこか危ないとも言える姿勢も、先程の決意は薄まっていた。

 

子はいつの間にか成長するもの。知らぬうちに経験を積み、物事を知り、強くなっていく。幾度も幾度もそれを実感してきた(マスター)は、また一人、また一つ、大きな成長を遂げた我が子(シエル)に、胸の内が暖かくなる感情を覚えた。

 

 

 

それと同時に、彼にも決意を改めさせた。シエルたちが飛んでいた方へと向けていた身体を、初代マスター・メイビスが眠る墓へと向ける。シエルの決意。そして試験を受けている全てのガキどもの意思。無駄にさせるわけにはいかない。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)初代マスター。メイビス・ヴァーミリオンよ。ギルドの聖地たるこの島に敵を招くとは……何と失望させてしまった事か……」

 

まず口にしたのは謝罪。聖地として語られてきた天狼島に、まだ詳細も分からぬ外敵を入れてしまった事に対する贖罪。そして次に発したのは宣誓、及び祈りだった。

 

「全てはワシの責任。この報いは必ず受ける……だから……ガキどもだけは守ってくれ」

 

 

 

それは予兆。

 

敵を駆逐するために、子を守るために、巨人(マカロフ)は進撃の準備を始めた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

どこか緊張感を感じていた空気を破った、赤い信号弾。場にいる誰もがそれに意識を向けていた。前触れもなく上げられ、炸裂音を響かせたそれは、ギルドの者があげたことは明白だった。が、ウェンディはその信号弾がどういう意味を持っているかを知らない。まだ、覚えられていないのだ。

 

「あの信号弾って……何の合図でしたっけ……?」

 

ウェンディがその事を尋ねたのは、メストの肩を掴むようにして手を置いているペルセウス。S級魔導士である彼ならば、確実に知っているはずだと思ったからだろう。事実その通りなのだが、問われた本人はしばし滞空する赤い光を見てしばし黙考した後、メストに置いていた手を放しながら答えた。

 

「あれは恐らくエルザが上げたものだ。自分の位置を知らせる為に上げたんだろう。お前たちを見つけたことを知らないから、あいつらも探しに出向いたところだろうな」

 

「じゃあ、すぐ向かった方がいいですか?」

 

「そうしてくれると助かる」

 

特に慌てるようなこともなく答えたペルセウス。彼が言った信号弾の意味を聞いたウェンディは、エルザたちに更なる心配をかけてしまっていた事への申し訳なさを更に抱いているようだ。

 

「メストさん。話しづらいことは無理に聞きませんけど、取り敢えずエルザさんたちの元に行ってみませんか?」

 

「そ、そうだな、そうしよう。二人の知りたいこととか、どこから話せばいいかとか、移動中に考えとくよ」

 

ウェンディにそう呼びかけられたメストは、どこか安堵を浮かべた様に笑みを浮かべながら彼女の後について行こうと歩を進める。その胸中には、表情に浮かべている以上に、この状況から助けられたことへの安心も強まっていた。

 

 

 

 

 

 

だからこそ対応が遅れた。すぐさま場を離れようとペルセウスを背に動き出したところで、彼に後ろから首根っこを掴まれて引かれ、近くの岩に叩きつけられた直後、彼が換装で呼び出した紅炎の剣・レーヴァテインを首元に付きつけられるまで、何一つの行動どころか、思考すらできず、されるがままになってしまった。

 

「がっ!?なっ……!?」

 

ほぼ一瞬の出来事。唐突に引っ張られ、背中に痛みを受け、そして鋭く冷たい目でこちらを睨みながら剣を突きつけられている。状況が、理解できなかった。

 

「ペルさん!?一体何して……!?」

 

「墓穴を掘ったな、メスト」

 

「な、何のことだ……!?どう言うつもりだペルセウス……!?」

 

当然、突如仲間であるはずのメストに凶行と言える行動を起こしたペルセウスにウェンディが驚愕と動揺を向ける。だが彼はそれを遮るようにメストに対してそう告げた。そしてメストの方も、ペルセウスの行動と言葉の意味を理解できず、混乱しているように見える。

 

「さっきの信号弾の()()()意味は、『敵の襲撃が来る。迎撃態勢に入れ』だ。入って日が浅いウェンディが知らないならともかく、少なくとも前回も試験に参加していたお前が、何故その簡単な間違いを指摘しなかった?」

 

無表情で淡々と問いかけながらも、鋭く細められた目で問い詰めてくるペルセウスに、メストは己の失態をようやく理解した。否、嵌められたのだ。ずっと自分に疑いをかけていたペルセウスは、単純ながらも己のボロを出させるための外堀を埋めていた。気付いていながら、それに対して何の対策もしていなかったため、あっさりと自白同然の結果に陥った。

 

「出来ないだろうな。当然の事だ」

 

するとペルセウスの問いかけに対して代わりに応えるかのように、もう一人の存在がそう言いながら現れる。大きく羽ばたかせた一対二枚の白い翼で空を飛びながら、ゆっくりと降下してきたのは、屈強な身体に変身した黒豹のエクシード・パンサーリリー。

 

「リリー!?どうしてここに!?」

 

「説明は後だ。今はメスト(こいつ)の事が最優先」

 

受験者でもパートナーでもないリリーが天狼島にいる事に当然の反応を示すウェンディ。だが彼女の問いに今は答えず、ペルセウス同様にメストを睨みつけながら彼との距離を縮めていく。

 

「お前は自分を王子(ミストガン)の弟子だと言っていたそうだが、彼がこの世界で弟子をとるはずがない。この世界からいなくなった人間を使ったまでは良かったが、設定を誤ったな。メストとやら」

 

「え、え……!?どう言う事……!?」

 

両手の指を鳴らしながら、ズンズンと言う音が聞こえる程の威圧と共に歩を進めて語るリリーの言葉に、唯一混乱の真っただ中にいるウェンディは一切の理解が追い付いていない。対するメストは、顔どころか恐らく全身から冷や汗が吹き出し始めているのか、体を強張らせるように振るわせながら、何も言えないでいる。

 

「話に聞いたことがあるが、恐らくお前の魔法は『記憶操作』。他人の記憶に自分の存在を追加し、好きなようにその設定をいじることが出来る魔法。ギルドのメンバーにそれをかけ、自分がギルドの一員であること装った、と言ったところか」

 

ペルセウスが畳みかけるように説明した魔法。『記憶操作』についての事を耳にすると、メストが再び反応を示す。どうやら図星のようだ。その表情には「何故そこまで気付けた!?」と言いたげな感情がありありと浮かんでいる。それを見たペルセウスは、無表情に近かったその顔に始めて笑みを、だが少しばかり嗜虐的なそれを浮かべて、問いに対する答えを提示した。

 

「最初っから可笑しいと思ってたさ。むしろ、俺は背筋が凍ったぜ?マスターも、エルザたちも、誰もがみんな……メストなんて()()()()()()()()()()()()()()()奴の事を違和感なく話すもんだからさ」

 

それを口にしながら、ペルセウスは首元から下げている一つの飾りをメストに見せびらかす。記憶操作の際に、ギルドのメンバーの記憶からそれについての詳細は知ることが出来ていたもの。白に、中心に赤い丸印が記された神器・八尺瓊勾玉の存在を。

 

この勾玉の影響で、己の魔法は初めからこの男に効いていなかったことも、メストはこの瞬間に理解した。

 

「最早言い逃れは出来んぞ。お前は何者だ?そして何の目的があってギルドに潜入してきた?」

 

進路も退路も完全に断たれた八方塞がり。今のメストの状態を理解したリリーは、更に追い込むようにそれを尋ねてくる。ギルドの一員でない事が確定したのなら、問題はメストが何者なのかを、確かめなければならない。ここで言わなくては、確実に無事では済まない。一種の確信がメストにはあった。今自分を一番追い詰める要因となった男は、すぐにでも自分の首を刎ね飛ばすことなど容易であると知っているから。

 

 

 

メストは、決断した。

 

そして次の瞬間、彼は動いていた。

 

「っ!!ウェンディ!そこを離れろ!!」

 

「……えっ!?」

 

その前に、ペルセウスが振り向き様にウェンディへと声を張る。先程までのとは大違いの、焦りを孕んだ声。

 

 

 

その直後にメストは先程までいた場所から消え、ウェンディの目の前にまで移動していた。瞬間移動の魔法。彼が使える魔法は、記憶に関するもの以外にも、存在していたのだ。

 

「しまったァーー!!」

 

「メストォ!!」

 

メストを実質的に拘束していたことで、彼女から離れていた失態に今になって気付いたリリー。怒りを孕んだ声で今しがた逃れた男の名を叫ぶペルセウス。そして戸惑い、何も出来ずにいるウェンディに対し、メストは抱きかかえるような形で彼女の身体を掴みにかかる。

 

 

 

 

 

「危ない!!」

 

そしてそのまま、自分の方へ抱えながらその場を飛び跳ねて回避。その直後、先程までウェンディが立っていた場所が、直線状に爆発。その場を真っ二つに分けたかのような亀裂が走る。

 

「なっ!攻撃……!?」

 

「(ウェンディを守った……!?いや、それより……)」

 

突如発生した外部からの攻撃。そしてそこからウェンディを守るように動いたメストの行動。リリーはどちらにも驚きを表していたが、その間にもペルセウスはすぐさま別の行動に移った。

 

手に持っていたレーヴァテインに炎の魔力弾を装填し、ペルセウスは近くに生えていた一本の木に向けて突如発射。傍から見れば妙な行動の一つだが、これがすぐさま意味のあった行動であったことが明らかになる。魔力弾は真っすぐ機へと飛んでいき、直撃すれば一気に燃え上がると確信できるもの。だがその魔力弾は当たる直前、突如発生した爆発に阻まれて相殺。木には火の粉一つつくことない。

 

「何者だ?出て来いよ」

 

まるでそこにいるのが分かっているかのように、木に対して語り掛けるペルセウス。周りにいる者たちは誰もそんな彼の行動に疑問を抱かない。先程地面に亀裂を走らせた攻撃の跡が、その一本の木へと続いているのだから。状況が追い付かず、怯えている様子のウェンディを除き、全員が警戒を露わにしている。そして……。

 

 

 

「よくぞ、見破ったものだ。さすがと言うべきかね」

 

木の一部が蠢く様に形を変えたかと思うと、ペルセウスたちからの視点で横から、人の顔の輪郭が浮かび上がり、あまつさえ声を発した。低い男性の声で喋ったその存在は、木の中に入り込んでいる人間のようだ。

 

「一体、誰だ!?」

 

ウェンディを庇うように立ちながら問いかけるメストに、気に入り込んでいる人物はまるでそこから這い出るかのように形を変えながら、律義にも回答する。

 

「オレの名は『アズマ』。悪魔の心臓(グリモアハート)・『煉獄の七眷属』が一人」

 

悪魔の心臓(グリモアハート)……!?」

 

六魔将軍(オラシオンセイス)と同じ、バラム同盟の一角。最強の闇ギルドの一つだ」

 

その男『アズマ』が名乗ったギルド・“悪魔の心臓(グリモアハート)”。過去に4つのギルドが連合を組んで辛くも勝利を収めた闇ギルド・六魔将軍(オラシオンセイス)に並ぶ闇の三大最大勢力バラム同盟の一角。六魔とはウェンディも因縁深い相手であるため、ペルセウスは悪魔の心臓(グリモアハート)に関する分かりやすい説明を彼女に伝えた。

 

「信号弾の言っていた襲撃は、こいつらの事だったのか……!」

 

「今更遅いと言っておこうか……」

 

天狼島に襲撃を仕掛けてくるのは闇ギルド悪魔の心臓(グリモアハート)。誰かがその情報を入手して、それを全ギルドメンバーに通達したのが、先程の赤い信号弾の意味。だがリリーがそれを把握したかのように呟いた言葉に、木から上半身を乗り出した形にまで具現化したアズマは、既に島内に侵入した自分の存在が、彼らに手遅れである事を遠回しに示す。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地に侵入すれば、キナくさい話の一つや二つ出ると思ってたんだがな……。黒魔導士ゼレフに悪魔の心臓(グリモアハート)……こんなでけぇヤマにありつけるとァついてるぜ……!」

 

一方で、男の正体を理解したメストは次々と島内で明らかになる情報を自らの口で整理していく。その中で、大昔に存在していたとされるゼレフの名を耳にしたウェンディが、妙にその名に対して反応を見せる。

 

「お前、一体……?」

 

「まだ気付かねえのか?意外と鈍いな、ペルセウス」

 

まだ明らかになっていなかったメストの正体。アズマの攻撃からウェンディを守ったことで、闇ギルド側とは敵対関係であることは察せたが、詳細までは分かっていない。それに対して含み笑いを浮かべながら彼はとうとう自白した。

 

「オレは評議院の人間だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を潰せるネタを掴む為に潜入していたのさ」

 

「そんな……!!」

 

明かされた彼の正体は評議院。何度も妖精の尻尾(フェアリーテイル)に頭を悩まされている、ギルドの上に立っている組織が、とうとう自分たちに害をなそうと動き出していたようだ。かつては有無を言わさず恩人(正確には別人だが)を連行していった組織の一員であった事実に、ウェンディも少なからずショックを受けている様子だ。

 

「だがそれもここまでだ。あの所在地不明の悪魔の心臓(グリモアハート)が、この島にやってくるとはな」

 

既に潜入していた事実はこの場にいる者たち全員にバレている。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に対しての功績はほぼほぼ絶望的と言える。だが別の厄介事。バラム同盟の一角を潰せば、出世も夢ではない。思わず胸が高鳴って気分が高揚し始めている。

 

更に、メストが所属している評議院の強行検束部隊の()()……戦闘艦と呼ばれる評議院が使用する船が約5隻、島周辺の近場で配置している状態だ。これは評議院にとって、またとないチャンスと言える。

 

「一斉検挙だ!悪魔の心臓を握り潰してやる!」

 

自信満々に、本隊と合流して悪魔の心臓(グリモアハート)を一気に落とそうと、アズマに対して宣言するメスト。対する彼は、少しずつ木から抜け出して、とうとう残すは足の部分だけで、一切の動揺を見せない。

 

「……浅はかな……」

 

「何……!?」

 

そして高らかに宣言したメストに対し、アズマ同様落ち着きを見せていたペルセウスがそう零した。一体どういう意味だと、メストが食って掛かろうとした瞬間、彼の言葉の意味が現実として証明された。

 

 

 

 

 

 

 

5隻もあった強行検束部隊の本隊・戦闘艦が一隻残らず爆発に呑まれて大破したことで。

 

「戦闘艦?今消したアレの事かね?」

 

「なっ!?」

「な、何をしたの……!?」

「バカな……!!」

 

悪魔の心臓(グリモアハート)を殲滅しようとしていたはずの評議院の船は、一瞬で粉々に。これでは戦力として期待が出来ない。驚愕に絶句するメスト、ウェンディやリリーとは違い、初めからこの結果が見えていたペルセウスは苦虫を噛み潰したように表情を歪める。

 

「バラム同盟を……闇ギルドを舐め過ぎだ……。ルールも常識も一切無用。並大抵の奴等じゃ足手纏いでしかない。その上、あんな堂々と見えやすい位置に置いていたら、大的を狙ってくださいと言ってるようなもんだ」

 

自分が所属する部隊の戦力があっさりと海の藻屑となった事実に動揺を隠せないメスト。それに対して、如何に闇ギルドが、バラム同盟がとてつもない相手であるのかを言い聞かせるように、本人も表情を歪めながらも続けていく。

 

「しかも、たった船5隻しか乗せられねえ戦力で、最大勢力を潰せるとでも?それが出来てりゃ、ずっと前から闇ギルドなんざ全滅してる。評議院がちょいと本気出せば、六魔も冥府も残ってねぇ。だが実際はどうだ?お前ら()六魔を倒したのかよ?」

 

答えは否だ。評議院がやったことと言えば、連合軍が打ち倒した六魔将軍(オラシオンセイス)の魔導士たちを、連行しただけ。しかも間に合わなければ、正規ギルド間で多大な犠牲が生まれていた。これまでも機会はあったはずなのに、連合軍が動くまでその結果は結ばれなかった。

 

そんな評議院が、本隊を連れてきただけで六魔と同等の戦力を倒せるわけがない。闇ギルドの強大さ、恐ろしさを身をもって思い知っているペルセウスだからこそ、大きな説得力を生み出していた。

 

「フム、よく分かっている。伊達にかつて同業だっただけの事はあるね。堕天使よ」

 

そう声を発しながら、同化していた木から完全に離れ、広がったドレッドヘアーと筋肉質な肉体が特徴的なその男・アズマは地に足を付けながら、先程爆発させた戦闘艦にはもう目もくれず、ペルセウスの方へと意識を向ける。

 

「さて、そろそろ仕事を始めるとしようかね」

 

不敵そうにペルセウスへ向けて浮かべたその笑みは、メストとウェンディには一抹の恐怖を、ペルセウスとリリーにはさらに大きい警戒を湧き上がらせる。

 

 

 

 

妖精と悪魔の激突。だがこれから起こる戦いでさえ、まだ前哨に過ぎなかった……。




おまけ風次回予告

シャルル「ねえ、あんたって天候魔法が使えるから、これから先の天気とか分かるんでしょ?」

シエル「そうだよ。魔法の恩恵のおかげか、その辺りには敏感みたいでさ」

シャルル「じゃあこの後の天気も全部分かるってこと?」

シエル「まあね。しばらくは雲一つない快晴が続くけど、時間が経つと雲がかかって雨が降るかも……」

シャルル「……じゃあ、今降ってきてる、アレは?」

シエル「アレ……?」

『天候、快晴のち敵』

シエル「さ、さすがにシャボン玉が空からってのは、俺も感じ取るのは……」

シャルル「しかもその中に闇ギルドの敵が入ってるっぽいわ」

シエル「逆に誰が予報できるんだこんな天気!!?」
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