FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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先週投稿できずすみませんでした。Twitterではお知らせしてましたが、書いてる内に文字数が徐々に増えていって予定を大幅に超えてましたw

正直、天狼島編何話で終わるのか想像すらつかない…!

あと何気に原作と流れが変わりまくるシーンが所々に発生しそうな予感…。(笑)


第116話 天候、快晴のち敵

爆発によって大破して燃え上がる船。それを背にして立ち、こちらへと視線を向けてくるのは、闇の最大勢力の一角、悪魔の心臓(グリモアハート)の幹部にあたる、煉獄の七眷属の一人。名はアズマ。

 

後方に存在していた評議院の戦闘艦を一瞬にして大破させてしまう程の実力者。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々はその惨状に各々息を呑んで、目の前に立つ男に対する警戒を高めている。

 

「ウェンディ、リリー。メストを連れて今すぐここから離れろ」

 

すると、後ろへと控えさせていたウェンディたちに向けて、ペルセウスは一言指示を出した。目の前にいる強大な敵。確かに危険なのは百も承知だが、場にいる自分以外を離れさせる行動は、必然的に頼んだ本人の安否も左右する。

 

「ペルさんは!?」

 

「俺はこいつを足止めしておく。お前たちの身も大事だが、この島でメストを殺されるわけにもいかん」

 

ウェンディから心配するような声を受けて、一人アズマと対峙することを選びながらも、メストの安全を最優先させるかのような言葉に、恐らく一番その言葉に唖然となっているメストへと顔を向けながら、睨みつけるように目を細めて言葉を続けた。

 

「言っとくが、お前を心配してるわけじゃないぞ、メスト。個人的なことを言えば、俺はお前がどうなろうが、ここ以外のどっかでくたばろうが知ったことじゃない。けどな、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地で、試験の為に多くの魔導士がいる中で命を落とされたら、評議院の連中に冤罪ふっかけられちまう」

 

自分で評議院の一員であることを明かしたメストが、もしもこの天狼島で命を落としたら、たとえ事実がどうであっても評議院は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に責任問題を持ち込む可能性が高い。下手人扱いか、その証拠が不十分であっても人員を見捨てた監督不行き届きという処分を下して、ギルドを解散に持ち込ませるなどで。

 

「お前が死んでも俺たちを貶めたいってんなら話は別だが、少しでも死にたくないって思いがあるなら、死ぬ気で生き残れ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)がお前を守ってやる」

 

メストが評議院からの命令や使命を順守して、自分が犠牲になってでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)を潰すことに尽力するような男だったら対応を考えただろう。だがペルセウスから見たメストは、少なくとも今現在において悪魔の心臓(グリモアハート)の方を敵視しているように見られる。

 

ならば逆に彼の存在を利用することを思いついた。潜入行為を働いたメストを護衛し、評議院に帰還させることで、評議院に借りを作らせる。世間では魔法界の秩序を守ると謳っている評議院が、問題ばかりを起こすギルド相手とは言え、正規ギルドに潜入員を送り込むマイナス的な行動をとらせておきながら、予想外のアクシデントからその潜入員を守り切ることが出来たとしたら、少なくともギルド間にその噂は一気に広がる。これによって妖精の尻尾(フェアリーテイル)はギルドに所属していない裏切者が発覚しても、その者を別の脅威から守った器の広いギルドである事を知らしめることが出来、二重の意味で評議院は今後のギルドへの対応を軟化せざるを得なくなる。

 

「行きましょう、メストさん。きっと、ペルさんなら大丈夫です」

 

「ほ、本気か……!?オレは出世の為にお前たちのギルドを潰しにきたんだぞ……!?」

 

「構いません。妖精の尻尾(フェアリーテイル)は絶対に潰されたりしないから……!!」

 

そんな彼の思惑に気付いているか否か、メストを守る対象と認め、決意したウェンディがペルセウスの指示の通り、メストを連れて離れようと声をかける。自分が何をしにギルドに潜入したのかを忘れたわけでもないのに、メストがウェンディにそう問いかけるとウェンディは迷いもなく断言してしまう。

 

しばらく逡巡して俯きがちだったメストだったが、自分が所属する部隊の船団を一瞬で壊滅に追い込む魔導士を相手に出来る確率を持っているのがペルセウスしかいない以上、この場に残る事も悪手。彼らの言葉に従うしかない。

 

「加勢はいらないのか?」

 

「ああ。手加減できる相手じゃない。だから、周りに気を配る余裕も持てねえ。ここにいたのが誰だろうと、どうあっても巻き込んじまう」

 

ウェンディたちと共に場を離れようとしたリリーが確認の為に問えば、加勢は不要。むしろ今のペルセウスには枷となってしまうという答えが返ってくる。リリーにもそれは理解できた。かつて単身で一国の軍隊を相手に圧倒してみせた彼の実力も、その力があらゆるものに被害をもたらしたことも。得物があればリリーも自分の身を守りながら共闘で来ただろうが、生憎今の彼は丸腰だ。足手纏いになるのが目に見えている。一言「すまん、任せたぞ」と告げると、リリーもウェンディたちと共に場を後にしていく。

 

そして、明らかに自分の手から逃れようとしている三人に対し、一切目を向ける様子もなく、ペルセウス一人だけを見据えるアズマは、隙だらけに見える彼らに危害を加えるどころか意識さえ向けずに彼らの逃走を見過ごしていた。

 

「(オレたちのことなど眼中に無し、と言う事か……くっ!)」

 

気付いていないわけがない。気付いていながら、ペルセウスの思惑通りに評議院のメストを含めた面々を見逃している。この場で逃げられようがお構いなしと言いたげのアズマの態度は、かつて王国の部隊長を任された経験を持つリリーのプライドに、少なからず傷をつけていた。

 

そして場を去ろうとする最中のメストに向けて、振り向きもしないでペルセウスが彼の名をもう一度読んで意識を向けさせると、更に一言彼に告げた。

 

「もう一つ、お前の上にいるジジイどもにこう伝えとけ。『猛獣を閉じ込めた檻を壊すなら、命を捨てる覚悟を決めてからにしろ』ってな」

 

決して仲間には向けないような剣呑な目を振り向き様に向けながら、メストに……その向こうにいる評議員たちへの言葉を伝える。仲間であるウェンディやリリーでさえ身震いを禁じ得ないその迫力を、一身に受けてしまったメストの心境は計り知れない。あまりの恐怖に、反射的に彼から目を背ける事しかできなかった。

 

そして、それを最後に三人の姿が見えなくなったその空間に、風が一陣吹きすさぶ。対峙するペルセウスとアズマの髪と服を揺らしながら鳴る風切り音。それが収まりかけた瞬間、ようやくアズマへ向けてペルセウスが口を開いた。

 

「正直意外だった。ウェンディたちに攻撃を加える事なんて、いつでもできたはずだが」

 

「簡単だ。オレ個人の目的がキミだからだね。堕天使ペルセウス」

 

いつこの場を離れようとするウェンディたちに攻撃を仕掛けてくるか警戒はしていた。だがアズマは、ペルセウスがその体勢に入っていようがいまいが、まるで最初から彼女たちを見逃そうとしていたように直立不動で静観を貫いていた。それどころか、彼女たちが離れるのを待っていたかのようだ。それは事実、正しいのだろう。そしてその理由は自分にあると聞いたペルセウスは、目を更に細めながら問いかけた。

 

悪魔の心臓(グリモアハート)の幹部ともあろう者が、まさか単身で乗り込んできたと?俺一人を狙って?」

 

「いや、オレはあくまで先発だね。現在この島に、我々の本隊が向かっている」

 

「何故お前だけが先に来た?グリモアの目的はなんだ?」

 

「生憎今は明かせん。だがそうだな……」

 

先発。天狼島に一足早く送られた存在。幹部の一人を先に贈るほどの重要な目的が隠されていると予測できるが、律義に答えてきたアズマであってもそう簡単には教えてくれないらしい。だが彼は「今は明かせない」と言いながらも、口に弧を描いて挑発的に両腕を少し広げながらこう続けた。

 

「月並みを言うようだが、オレに勝てたらすべて話す、と言うのはどうかね?」

 

「俺を狙った理由も含めてか?」

 

「無論だね。だがこれだけは教えておこう。キミとは一度、戦ってみたかった……!」

 

自分と闘い、勝利することが出来たら知りたいことに答える。単純明快だ。闇ギルドの一員でありながら、どこか真っすぐな、正々堂々を好みそうな武人肌の印象を受ける。こういう相手には、自分自身も応え、真っ向から挑んだ方がいい。長年の経験から、ペルセウスはすぐさまそれを察知した。

 

「その挑発、乗ってやる」

 

「そう来なくては」

 

片や紅炎の剣を構え直しながら、片や真っすぐに右手を挙げてかざしながら。いつでも攻撃できるように闘いの構えを行う二人の間に、再び静寂が訪れる。

 

「『ブレビー』」

 

先に動いたのはアズマだった。手をかざしながら呟いた技の名前らしきその単語を口にした瞬間、ペルセウスの周囲に爆発が発生。一瞬で砂煙の中にペルセウスが巻き込まれ、姿が見えなくなる。爆心地の真ん中に彼はいた。本来であれば少なからずダメージを受けている。

 

が、煙を突き破るかのように跳びかかってきたペルセウスが、アズマ目掛けて炎の剣を振るう。そう来ることを予感していたアズマは一切の焦りを見せずに後ろに身体を捻って回避。拳を振るおうとするも、すぐさま対応したペルセウスが右足を上げて迎撃。その間に溜め込んでいた炎の魔力弾を剣を振るいながら射出する。対するアズマも、至近距離から先程同様の爆発を発生させ、互いの魔法が衝突する。

 

轟音を鳴らしながら大きな衝撃を生み出したことで、両者ともに身体が弾ける様にそれぞれ別の方向へと体が飛ばされる。だが二人ともそれに対して怯むことなく体勢を立て直し、アズマは再びペルセウスに向けて無数の爆発を、対してペルセウスは彼から見て横方向に走って爆発を回避しながら再び剣に魔力を溜めていく。

 

「はあっ!!」

 

そして移動の最中に道を塞ぐようにして発生した爆発を跳躍で躱すと、滞空しながら剣を勢いよく振るう。それは紅の三日月が如き形をした炎の刃となってアズマへと迫っていく。多少の驚きを見せたアズマであったが、彼は刃の進行方向上に樹木を出現させ、その勢いを殺していく。太い樹木は時としてあらゆる衝撃をも防ぐ頑強な壁であり盾となる。炎の刃であってもそれを破るのは容易ではない。だが……。

 

「ぐほっ!?」

 

優に10以上は展開していた樹木のシェルターでさえ殺しきれず、紅い三日月は随分縮小されたもののアズマの胸板に届き、彼に一閃の切り傷を生み出した。それを理解したアズマが浮かべた表情は、不敵の笑み。

 

思っていた反応とは違うものを垣間見たペルセウスが怪訝そうに顔を歪めるも、アズマは手を振るいながら地面よりいくつもの樹木を生やしてペルセウスへと肉薄させる。対して回避や剣の炎による焼却を繰り返して対応するものの、数が減らない。そして彼の死角から生えていた一本の木が、彼の左脚を捉え、縛り上げた。

 

「『チェインバースト』!!」

 

捕らわれた青年が驚く間もなくアズマが叫ぶと、樹木が根っこから順々に爆発を始め、捕らわれたと理解した瞬間に剣で木を切り裂くも、裂いたと同時に先端まで爆発が及び、それに巻き込まれてしまう。

 

「『バーストクロウ』!!」

 

その爆発に怯んだ一瞬を突き、アズマは再び木の根を二本ペルセウスの死角から呼び出して交差するかのように彼に襲い掛かる。だがすぐさま反射的に動いたペルセウスによって迫ってきていた根は二本とも燃えながら切断される。それでもなお、アズマによって生み出された根がペルセウスに襲い掛かり、悉く剣で対処していく。だがこのままではジリ貧。

 

「ちぃ!鬱陶しいっ!!」

 

心底苛立ちながら剣を振るい、一回転斬りを行うと共に彼の周囲に現れた炎の壁。ペルセウスを狙っていた根がそれに触れると同時に消し炭へと変化していく。それだけに留まらず彼を囲んだ炎の壁はそのまま一瞬で範囲を拡大。周囲は一瞬にして、アズマが生み出した樹木ごと消失。焼け野原へと変貌する。

 

「随分派手だね」

 

「面倒な攻撃を一々捌くぐらいなら、これぐらいでぶっ放した方が手っ取り早い。脳筋って言うやつもいるがな」

 

「オレは嫌いじゃないね。むしろ好ましく思う」

 

「どーも」

 

周りへの被害を考えずに力を振るう。いつもの妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしさを全面的に押し出した一連の動きを見て、吊り上げた口角をそのままにアズマは素直な感想を口にする。アズマ自身も、どこかペルセウスと通ずるものを感じている様子だ。

 

敵同士でありながらもどこか好意的にも感じる口ぶりで語るアズマに対し、素っ気なく睨みながらペルセウスは返す。本人としては闇ギルドである魔導士を相手にしている時点で不機嫌になる要因だが、反対にアズマはくつくつと肩を震わせながら笑い声を抑えきれずに零し始めた。

 

「何が可笑しい?」

 

「いや失礼。可笑しいのではない。楽しいんだね」

 

唐突に笑い出したアズマに機嫌を損ねたような声で聞いてきたペルセウス。その事に一言謝りながら、アズマは笑った真意を答えた。実力の高い者との闘争に高揚感を覚えることが多い彼にとって、今のこの時間は楽しいものである認識だ。

 

「堕天使ファルシー。キミのこの名を闇ギルドで知らない者はいないと言っていいね。ずっと、キミに会いたかった。そしてこうして戦ってみたかった」

 

表舞台ではペルセウスが自分の素性を知られることを嫌い、取材などでも一切出ないように気を配っていたのだが、裏の世界ではそれを隠しきれていなかったらしい。幼いながらに人智を超えた魔法を扱う強力な魔導士。その存在を()()()を通じて初めて知った時、アズマはまだ見ぬその魔導士と戦う事を密かに願っていた。

 

そしてその瞬間は、願ってもみなかったタイミングで叶えられた。

 

「本当に……()()()最初に鉢合わせたのは、運が良かったと言っていいね」

 

()()()?何の話だ」

 

アズマ自身は最初にペルセウスと邂逅し、お互いに万全の状態で戦い始めることが出来たのは幸運と言えるだろう。だが彼はお互いにと言った。その言葉の意味が把握できないペルセウスは眉をひそめながらその言葉を反芻し、聞き返す。

 

「オレの方は単純。いきなり本命と言っていいあの堕天使と闘えるチャンスに巡り合えたこと。そしてキミは、仲間を無傷で避難させられたこと」

 

そして彼が指摘した意味は、メストを連れてこの場を離れたウェンディとリリーについて。アズマはメストたちが避難を完了するまで律義に待ってくれていたが、本来闇ギルドのようなルールも常識も無用な連中がそんな行動をとる事の方が異常だ。現にこの島へ先に向かわされていたのがアズマ以外のギルドメンバーだったら、容赦なくメストたちは攻撃されていただろう。だがそうはならなかった。

 

「最初に闘う相手がオレだった事で、その場にいた仲間たちは無事ここを離れられた。オレでなければ、キミは仲間を庇いながら、思うようには戦えなかっただろう。それでは勿体ないね」

 

ペルセウスにとっても、アズマにとっても、今この時点で彼らが邂逅していたことが、皮肉にも二人にとって最良の結果となったのだ。

 

「俺がお前の挑発に乗らず、そのまま全員立ち去る可能性は考えなかったのか?」

 

「その時はその時。キミが本気を出してオレと戦おうとするのなら、今からでもあの役人さんの命を狙いに行くことも辞さないね」

 

「成程。尚更退くわけにもいかねぇな……」

 

アズマや悪魔の心臓(グリモアハート)にどのような狙いがあるかは定かではない。だが今この時だけは、ペルセウスと戦う事に重きを置いているスタンスが見られる。となれば、ペルセウスも全力を持ってアズマと対峙し、打ち勝つことに考えを固定させた。それと同時に、再び魔力をレーヴァテインへと集中させ、その刀身に紅い炎を燃え上がらせていく。

 

「いいぞ……面白くなってきたね……!!」

 

対するアズマもまた、己が身に魔力を集中させていく。両腕を横に掲げ、高エネルギーを凝縮したかのような熱が一気に彼の周りへ集まり、ペルセウスの技に対する迎撃を狙う。

 

()(えん)(ばん)(じょう)!!!」

「『タワーバースト』!!!」

 

激突するのは全てを飲み込まんとする二つの炎。一つは蹂躙するかのようにその形を変えていく紅の炎。もう一つは立ち上り襲い来る敵を彼方へと吹き飛ばす朱色の炎。二つの炎が片方の炎に従うように天空へと伸びていき、二色の炎の塔としてその場に顕現する。

 

そして、足場となっていた島の一角を担う崖周辺は、あまりの勢いによって消滅したのだった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

突如立ち上った二色の炎で作られた塔。そんな不可思議な光景は島中のあらゆる場所から見えるほどの規模だった。

 

「な、何よあれ……!?」

 

「炎の塔……?二つの炎が混ざったような……」

 

信号弾が上がったと思われる場所に辿り着き、地上に立っていたシエルとシャルルのペア。その近くにはギルドの者とは違う侵入者らしき者たちの存在があった。片方は木に縫い付けられるように縛られて身動きが取れない状態の、東洋風な鎧甲冑に身を包んだ。頭が犬になった男。もう片方は鶏をそのまま人型にしたような男で、彼の頭の上には白旗をあげた手乗りサイズのヒヨコが乗っている。どちらも既に意識はない。激しい戦闘の跡は見えることから、ギルドの者と戦ったのだろう。

 

だがシエルが着目しているのは別の事だった。

 

「紅の炎は、兄さんの神器の力だと思う。もう一つの方は、ナツでも塔のような炎は出さない。ってことは……」

 

「攻め込んできた敵の魔法、ってことかしら?」

 

「間違いないよ。しかも……あの悪魔の心臓(グリモアハート)……!!」

 

犬頭と鶏の魔導士の体に刻まれた、茨で形作られたハート形の紋章。闇の三大勢力バラム同盟の一角である、悪魔の心臓(グリモアハート)の魔導士であることを現すギルドマーク。信号弾が撃ち出されたと思われる位置にこいつらがいたと言う事は、襲撃してくる敵は悪魔の心臓(グリモアハート)である可能性が極めて高い。

 

「何で天狼島に闇ギルドの奴等が乗り込んでくるのか……そこは疑問だけど、今やる事は一つ」

 

「急いでウェンディに合流しましょう。きっとあそこに、少なくともペルセウスと悪魔の心臓(グリモアハート)がいるはず」

 

「これ以上この島に乗り込ませるわけにもいかねえ……!」

 

彼女の安全確保のためにも、まだ乗り込んでいる最中かと思われる悪魔の心臓(グリモアハート)の魔導士を足止めしている兄の元へ向かい、侵入を阻むことぐらいはできるはず。やるべきことと進むべき方向を決定したシエルたちは再び乗雲(クラウィド)に乗り込んで空から炎の塔へと向かい始めた。

 

 

 

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炎の塔が上がった位置からちょうど落下した位置へと繋がる森の中。足場が崩壊したことによってペルセウスはその場所へと落下する形で着地していた。多少の傷がそこかしこについているようだが、幸いにも重傷とは程遠い様子。

 

「参ったな……。もしこのまま時間をかけ過ぎたら、下手すっと島がもたねえ……。さすがにギルドの聖地をぶっ壊したとなったら、マスターどころか、あの世にいる初代からも大目玉食らっちまうな。初代の顔知らねえけど……」

 

剣を杖代わりに跪く態勢で息を吐きながら、若干の余裕を思わせるようにぼやく。脳裏に浮かぶのはいつも何かを壊してマスター・マカロフにどやされてる様子のナツやグレイ。それ以上の怒りを見せながら自分にそれを向けている姿が浮かんだ。顔も姿も知らない初代も一緒になって。

 

「その心配はいらん。この島はそれほど柔じゃないね」

 

そんな彼の心配事を払拭したのは意外な人物。多少位置のズレがあったものの、同じ範囲の森の中に落下していたらしいアズマが、木々の向こうから這い出るようにして現れながら、ペルセウスの心配が杞憂であることを伝える。彼も身体中に軽い傷が見えるが、重傷には程遠い。お互いあれほどの規模の爆発を身に受けながらもけろりとしている様子は、傍から見ればあまりに異常だ。

 

「この島を本当の意味で支えている土台から、あの場所は離れていた。故に容易く崩壊したが、島全体から見れば些細な事だね」

 

「何で別のギルドの人間が、俺たちのギルドの聖地について詳しいんだ?」

 

「正確には、オレはこの島の事をよく知る人物から、教えてもらったに過ぎん」

 

だがペルセウスは別の部分が気にかかった。天狼島は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地。ギルドの人間がそれを知っているならともかく、そのギルドと対立している闇ギルドが何故自分よりも島の事に詳しいのか。アズマにこの島の事を教えた、島について詳しい人物の存在。

 

「我がギルドのマスター……『ハデス』から、ね……」

 

悪魔の心臓(グリモアハート)を束ねるギルドマスター・『ハデス』。その者が彼に天狼島の詳細を教えたと。尚の事解せなかった。いくら最大勢力と呼ばれたギルドのマスターであろうと、正規ギルドの聖地とされた島にここまで精通できるのか?

 

「(気になる事が増えただけか……。シエルならこっからいくつか推測できるんだろうが、やっぱ俺にはいくら考えても浮かばねえ……)」

 

何故ハデスが天狼島に詳しいのか、アズマに教えているのか、ここに来た目的に関係しているのか、諸々の気になる事や違和感を感じながらも、それを考えたところで自分では読めないと結論付けて立ち上がり、ペルセウスは手に持ったレーヴァテインを収納し、別の神器へと換装する。それは緑色の宝珠を付けた木の枝にも似た杖・ミストルティン。

 

「さっさとお前を倒して、洗いざらい吐かせた方が手っ取り早いな」

 

「ふっ……思った通り。オレとキミが気が合いそうだ」

 

「冗談だろ」

 

さすがに森の中で炎の神器を扱うのは気が引ける。なので趣向を変えた。辺りに生えている森の木々を利用すること。それに戦っている中でアズマの扱う魔法についても当たりを付けられた。

 

アズマが扱う魔法は、少なくとも木々を操ることが出来るものが一つ。もう一つ存在する爆発させる魔法の詳細は分からないが、木々を操る魔法に関してはこれで封じ込められるとふんだ。周囲の木々を操作させることに関しては、神の魔力を抱いたミストルティンの方が優位。警戒すべきは爆発の魔法だけに留められる。

 

「行くぞ、ミストルティン!!」

 

宝珠を光らせて杖を前方に突き出すと、その意思に従って彼の周辺から樹木の根が伸び、アズマへと真っすぐ向かって行く。対してアズマは自分と似たような魔法に多少の意外さを感じたのか一瞬目を瞬かせるも、すぐさま落ち着いて手をかざす。

 

「ブレビー!!」

 

初手にも扱った爆発の魔法で迫りくる根を爆発させようとふんだのだろう。だがしかし神器の力で強固になった木の根はそれをものともせずに突き破り、爆発で起こった煙から勢いよく飛び出してくる。

 

一瞬虚を突かれたアズマであったがそこは彼もやはり実力者。すぐさま自分の周りを自分で操作した根で囲み、ミストルティンの根を防ぐ。防ぎ切られたことでペルセウスが舌打ちを一つすると同時に、口に弧を描いたアズマが反撃に移る。

 

「今度はこっちの番だね」

 

ペルセウスの八方を囲むように現れた木の根。計8本の根が彼の逃げ道を塞ぎながら、弧を描くように上へと伸び、下にいるペルセウスへと一斉に襲い掛かる。だが彼はそれに一切焦りもせず、ミストルティンの宝珠を光らせて掲げる。すると襲い掛かってきた根は全てピタリと止まり、それ以上彼に近づこうとしない。

 

「ターゲット変更だ。行け」

 

まるで根の支配下が変わったかのように、ブリキの人形のようなぎこちなさで木の根が向かう対象がアズマの方へと変わっていく。自分が出した技が一転して自分に牙を剥く。そんな異質な光景を目の前にしたアズマは……

 

 

 

 

 

ペルセウスの予想に反して不敵に笑みを浮かべた。

 

それに違和感を感じて眉根を下げるペルセウスだったが、次の瞬間彼の余裕は失せた。アズマが繰り出し、動きを止めていたはずの根が再びペルセウスへと迷いなく襲い掛かってきた。

 

「何!?」

 

さしもの彼も予想できなかった事態に回避が遅れ、8本の内の2本の根の攻撃が彼の両足に傷を作る。笑みを浮かべたままだったアズマは再びその根を攻撃に転じさせると、転がりながら体勢を立て直したペルセウスがもう一度杖を掲げる。

 

「っ!こいつは……!」

 

今度は一瞬さえも動きを止められなかった。だが二度はへまをしない。すぐさまミストルティンへの指示を変更し、自分の前方に別の根を何十本も展開してアズマが操る木の根を完全に防ぐ。攻撃を凌いだペルセウスだったが、その内心は全く穏やかではなかった。

 

「ミストルティンが植物を支配できないだと……!?」

 

「余程信じられない事だったようだね?ペルセウス」

 

彼がこのミストルティンを手に持っていた期間はそう長くない。だがその期間の中で、この神器が操れなかった植物は一切存在しなかった。自然のものであろうと、魔法であろうと。今回が初めてだ。神の魔力を宿した、他の魔法を上回るそれを宿した神器の力が、及ばなかったと言うのか……?

 

「一体どういう魔法だ?」

 

「さて……戦いを続けていけば、自ずと分かってくるのではないかね?」

 

平静を装いながらも少なからず動揺を隠せない彼に対し、どこまでもペルセウスとの戦いを楽しみ、望むスタンスを変えず挑発するアズマ。ギルド内でもトップクラスと言えるこの二人の戦いは、最早決着がつくまで止められない。この場に誰かが外野から見ていたとしたら、そう信じて疑わなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

だが、意外な要因でそれが覆る事が発生した。静かに睨み合っていた二人の間に……上空を切るような謎の音が響いて、ペルセウスは思わず空に意識を向けた。

 

「ん……?何だ、アレは……?」

 

彼の目に映ったのは、小さい影でよく見えないが、誰かがジェットパックのような空中飛行機械で飛行しながら、何やら小さい粒のようなものを島中に振りまいている。そしてその粒のようなものが島に落下していくと、突如として聞き覚えのない雄叫びのような無数の声が響きだした。

 

「やれやれ……騒々しい連中が到着したかね」

 

「まさか……グリモアの本隊か!!?」

 

どういう原理かは見てみないと分からないが、あの粒はグリモアの本隊を何らかの魔法で収納している。その粒一つ一つが一人の魔導士だとしたら……あの無数の雄叫びにも納得がいく。悪魔の心臓(グリモアハート)の本隊が、今しがた島に到着したのだ。他のギルドメンバーの迎撃準備が整ったのか不安だが、信じるしかない。

 

「ペルセウス。非常に名残惜しいが、一旦勝負はお預けだ」

 

すると、ここでアズマが意外にも勝負の中断を告げた。彼本人も不服そうな表情だが、闇ギルドの中では珍しく実直な性分が、ここで現れたらしい。事前に島に入った目的を果たす必要があると言う。

 

「何、やるべき事を終えたらすぐに決着を付けに行く。あるいは、オレを追いかけてきてみるといい。歓迎するね」

 

不敵な笑みを浮かべながら彼に告げたその言葉を最後に、アズマは自分の周辺をブレビーの爆発で見えないように遮断する。目くらましだ。それを理解した瞬間、ペルセウスは杖の宝珠を光らせてそれを振るった。

 

「勝手な事を!!」

 

ミストルティンの意思に従って対象を蹂躙するかのように10を超える木の根が煙が上がった場所を刺し貫いていく。しかし煙が晴れた時映っていたのは、アズマらしき影も形もない場所に刺さった木の根たち。

 

「っ!!くそっ、逃がしたか!!」

 

バラム同盟の幹部格。煉獄の七眷属・アズマ。彼を取り逃がしてしまった形になってしまった。この失態は大きい。恐らくこの戦いの戦局さえも左右する。彼が受けたと言う命令も気になる。

 

そして彼は、自分を追いかけてみるといいとも言っていた。自分を怒らせて、本気にさせ、更に戦いを激しくするための挑発。わかり切っている。しかし……。

 

「上等だ……!俺がこの手で、必ずおまえを倒す……!」

 

ミストルティンを握る手に力を込めながら、ペルセウスは決意を胸に秘めるために、そう声に出してアズマがいた場所を睨みつけていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時は遡り……ペルセウスと対峙したアズマから離れ、ギルドのメンバーとの合流を果たす為に移動を続けていたウェンディたち。俯きがちながらも足を動かし続けるメストに、道中気を配りながら声をかけるウェンディと、怪しい行動をしないように見張り続ける、魔力を温存するために二頭身の大きさのまま追随するリリー。

 

ギルドのメンバーを探して行動していた二人であったが、先程まで自分たちがいた場所から、ペルセウスとアズマの攻撃による炎の塔が立ち上るのを目にし、思わずその足を止めていた。

 

「な、何だアレは……!?」

 

「炎の、塔……?ペルさんが、あそこまでしないと勝てないの……?」

 

あまりにも規格外と言えるその魔法を遠くから見ただけで、リリーとウェンディは愕然としている。そしてもう一人のメストに至っては、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも規格外と言える強さを持っていると噂だったペルセウスと互角に……しかも遠くからでも察することが出来る激しさを感じて、恐怖さえ感じていた。

 

「(あのペルセウスにも渡り合うほどの魔導士が、あと6人もいるというのか……!!)」

 

そんなアズマと同格扱いの、煉獄の七眷属。彼を含めた7人の幹部全員が彼と同等、下手をするとそれ以上の実力者で揃えられていたとしたら……。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝ち目はあまりに絶望的と言っていい。

 

こうなったらやむを得ない。評議院にとっては彼らも厄介極まりない存在だが、ペルセウスが言っていたように悪魔の心臓(グリモアハート)の力は自分たちの想像も遥か上を行く。極めつけには、他の者たちは関知していないようだが、“歴史上最悪と呼ばれた存在”もこの島にいる事が分かっている。全てを敵に回すほど、さすがに愚かではない。

 

「(妖精の尻尾(フェアリーテイル)と手を組み、悪魔の心臓(やつら)もゼレフも討ち滅ぼす。賭けるしかない……!)」

 

恐らく上層部はすぐに首を縦には振らないだろう。だが歯噛みをしている場合じゃない。グリモアの力は強大だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を悪と断じて嫌悪している余裕などない。アズマが戦闘艦を全て一瞬で爆破させた光景を見たことと、それを証拠にしてペルセウスが語った闇ギルドの強大さが、その結論を後押しした。

 

「二人とも、すまないがオレは一度本隊の方へ戻る」

 

「えっ!?」

 

「貴様……何を企んでる……!」

 

決断を決めたメストは、自分と同じように足を止めていたウェンディたちに向けて突如そう告げた。リリーからすれば、今までも怪しい行動をとり続けていた男が自分たちから逃れようとしているように見えるのだろう。だがメストは記憶を塗り替えていた時とは違い、真の意味で本心から語りかけた。

 

「疑うのも無理はないだろうが、オレに考えがある。必ず戻るから、信じてくれ……!!」

 

そう言いながら彼らから背を向けると同時にメストはその姿を消した。先程も一回だけみせた瞬間移動の魔法だ。ウェンディが「メストさん!」と呼び止めるのも間に合わないほどの一瞬だった。

 

「勝手な事を……!」

 

「(大丈夫かな……?)」

 

自分たちの制止も聞かず場を離れて言ったメストに悪態をつくリリーとは対照に、ウェンディは彼の身に何かが起きないか純粋に心配を抱いている。だが今現在危険な状態にあるのはメストだけじゃない。島中にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)全メンバーが、悪魔の心臓(グリモアハート)に狙われる可能性がある。

 

「今はメストの事は置いておこう。ガジルや他の奴等も心配だ。今の内に、知らせられる者たちに知らせた方がいい」

 

一度メストの事を頭から追いやり、リリーがウェンディへと提案する。彼としては相棒に当たるガジルを始めとして、他の面々が襲撃する団体が何者かも知らないままでいるのは危険だ。ウェンディも一つ頷くと、なるべく炎の塔が上がっていた場所から遠い方へと再び向かい出す。

 

「(シエルとシャルルにも知らせないと……だよね……)」

 

駆け足になりながらウェンディの脳裏に過ったのは、ギルド内でも特に親しい少年と相棒。試験の合間にも振り払おうと考えていた彼らが隣り合う姿。だが今この状況下では、試験だからと避けている場合でもない。彼らの安否を確かめる為にも、探し出して悪魔の心臓(グリモアハート)の事を知らせなければ……。

 

「……ん?あれは何だ……!?」

 

移動を再開してから少し時間が経ったとき、違和感を感じたリリーは飛行しながらふと上空に視線を向けると、本来あり得ないものが彼の目に映っていた。つられてウェンディも空を見てみると、彼女も思わず足を止める。

 

二人の目に映ったのは、同時刻にペルセウスも目に映したもの。だが高低差の関係か、彼らの方がより近くでその正体を見ることが出来た。何と空をジェットパックで飛行していたのは、ヤギを人型にしたような外見を持った存在。

 

そしてその人型のヤギが空中を移動しながら無数に及ぶオレンジ色のシャボン玉のような丸い物体を散布していく。それは重力に従って落下していき、その内の一部は、今ウェンディたちがいる空間にも次々落ちてくる。

 

数多くの玉に目を凝らしてみると、それは下に続くたびにどんどん膨れ上がっていき、中には黒い肩ローブに黒のボトムス、そして紫か薄紫のどちらかの色をしたてっぺんに一本の角のあるフード付きの服、白地に赤い悪魔の心臓(グリモアハート)の紋章が刻まれた仮面で統一された人間が包まれている。

 

一体何なのか。呆然としながらをそれらを眺めていたウェンディの元に、近づいてきていた一個の玉がガラス細工のように割れたと同時。

 

「きゃあっ!?」

 

魔法剣らしきカトラスを彼女に振り下ろしてきた。咄嗟にウェンディは悲鳴をあげながら避けるように後ろへ転倒。追撃を仕掛けようと他の玉に入っていた者たちが割れると同時に各々の武器を構えて攻撃を仕掛けてくる。あまりの衝撃に固まってしまい、怯えたまま身を縮めていると……。

 

「うらぁっ!!」

 

一瞬で筋骨隆々の体格へと変身したリリーが、その体格を活かしてウェンディに近づいていた敵たちを突き飛ばした。突き飛ばされた者たちはそのまま倒れこんだが、続々と降り落ちてきたグリモアの魔導士たちはその数を一気に増やして周辺を埋め尽くし、ウェンディたちを一斉に囲い込む。

 

「ウェンディ、立て!最早どこにいても戦わずには済まされん!!」

 

倒れこんでいたウェンディに背を向けて徒手空拳の構えをとりながらリリーは声を張る。敵であるグリモアの兵士たちは、あのヤギによって島中に配られていったはずだ。それはつまりこの島中に、今自分たちを囲んでいる者たち同様敵が溢れかえっているという事。そして今この時、自分たちもとてつもなく危険な状況下に置かれている。

 

敵に容赦はない。ペルセウスが足止めをしているアズマを除いて、奴等はこちらに一切躊躇などしない。二人を取り囲んだ兵士たちは、ウェンディが立ち上がるよりも先に纏めて襲い掛かってきた。

 

「うおおっ!!」

 

気合を入れ直し、雄叫びをあげながらリリーが襲い来る敵を拳で迎撃。時には足、腕、体全体を使って武器を持つ兵士たちに立ち向かっていく。その様子を見ていたウェンディも、戸惑いを捨てて立ち上がり、敵を見定めた。

 

「天竜の咆哮!!」

 

体勢を立て直すと同時に膨らませた口から勢いよく放つ咆哮(ブレス)。まだ身体が小さい彼女だが、滅竜魔法の稀有な破壊力は十分兵士たちに通用しており、肉薄してきた者たちを吹き飛ばす。だが敵もただ特攻してくるバカばかりではない。近距離が通じないなら遠距離。杖を持った魔導士たちが遠距離から各々の属性を持った魔法を仕掛けてくる。

 

「ぐっ!!」

「きゃあっ!?」

 

遠距離に対する手を持っていない二人はこれらに対処できずに被弾。畳み掛けるように近接武器を持つ兵士たちが再び襲い掛かってくる。対してリリーは一番近くにいた兵士が持っているカトラスを両手で白刃取りにし、兵士の身体を蹴り飛ばして他の者たちにぶつける。

 

「これで間に合わせるか……!!」

 

その拍子で手にしたカトラスを構え、後続の者たちへと斬りかかる。かつて彼が持っていたものと比べれば質は大幅に落ちるが、鍛え上げていた剣技を活かすには十分。一気に押し込んでいく。更にウェンディはリリーに向けて援護を送る。

 

「バーニア!アームズ!付加(エンチャント)!!」

 

敏捷性を上げるバーニアと攻撃力を上げるアームズ。二つの補助魔法の効果を受けたリリーは軽くなった身体、湧き上がる力に関心を覚えながら、敵の数を次々減らしていく。

 

「急に強くなった!?」

 

「あのガキだ!サポート魔法を覚えてやがるぞ!!」

 

突如として力を上げたリリーの様子に驚くも、すぐに原因がウェンディにあると気付いた兵士たちが彼女へと標的を移す。狙われていることに気付いたウェンディはすぐさま自分にも俊足と剛腕の力を付加(エンチャント)して攻撃を回避し跳躍。そして彼らの頭上から天竜の咆哮を繰り出して吹き飛ばす。

 

何とか戦えている。数の不利は未だに覆せていないが、着実に敵を行動不能に出来ているはずだ。粗方敵の到着は済んだようで、これ以上の敵が増えることもないようだ。この場を凌げれば、勝機はある。だがそれでも、数十人を相手に二人だけで戦うには限界だ。

 

「(数が多すぎる……!それに、こう囲まれてちゃ……!)」

 

周囲に目を配り状況を確認していたウェンディは、自分たちにとって大いに好ましくない現状にどこか歯噛みしている。本来サポートに徹することが多かった彼女にとって、多人数から囲まれた中での戦いは苦手だ。

 

一方向に固まっていればいくらいようが問題無いのだが……。

 

「調子に乗んじゃねえぞ!!」

 

そんな中、一人の魔導士が放った遠距離の魔法が、ちょうど視線を逸らしたウェンディ目掛けて飛んでいく。放った音を耳に拾ったことですぐに気付くことができたが、対処するにはもう遅い。

 

「ぐぅ!!」

 

彼女に魔法が当たろうとした直前、放たれる前に気づいていたリリーが立ち塞がり、カトラスを盾にして防いだ。だが大勢いる兵士たちに渡される剣では高が知れているのか、完全には受けきれずその余波を体で受けてしまう。

 

「今だ、畳みかけろ!!」

 

更にこれ幸いにと、リリー達に向けて遠距離の魔法が次々に撃ち込まれ、リリーだけでなくウェンディまでもがその弾幕に晒される。二人とも悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、各々が離れ離れの位置に倒れ込んでしまう。

 

「ぐっ……!(時間切れ……こんな時に……!!)」

 

更に不運は重なり、ダメージも負っていたからか戦闘フォームである筋骨な巨躯から、普段の小さい体にリリーは戻ってしまう。ウェンディも先程の弾幕を少なからず受けていたせいで、すぐには立ち上がれそうに無い。

 

「くそっ……!このままでは……!!」

 

孤立無援、四面楚歌。そんな言葉が合うような状況。小さいままではリリーも思うように戦えないし、メストが来る可能性も低い。唯一戦えそうなウェンディ一人が相手するには数も多すぎる。

 

覆面で隠された顔が歪に歪んでいそうな下卑た笑い声で近づきながら、各々の武器を振りかぶる悪魔たち。咆哮(ブレス)を撃とうとしてももう間に合わない。迫り来る痛みを想定して、ウェンディは涙混じりに目を固く瞑った。

 

 

 

 

 

その時、瞼の裏に浮かんだのは、彼女と親しい少年と、相棒の白ネコの後ろ姿。

 

 

 

 

「(助けて……!!)」

 

望んだところで都合よく来るはずがないと思いながらも、心から願った彼女の想いは……

 

 

 

 

 

 

 

ウェンディの正面にいた数人の魔導士を一瞬で吹き飛ばした、彼に届いた。

 

「……!?」

 

前方から響いた魔導士たちの悲鳴に思わず目を開くと、瞼の裏に見えていたその少年の後ろ姿が、蒼雷を纏った状態で映った。その先にいる敵たちが、隠している表情を動揺で染めて狼狽えてるのが、見えなくても分かる。

 

「な、何だ!?」

「このガキ、どっから出て来やがった!?」

 

慌てふためき、少年に怒りを表す彼らに答えることもせず、その少年は右掌を掲げると、自分の体を包み込む雷を、新しく作り上げた竜巻と混ぜ合わせ、拡大していく。どこか苛立っていた様子のグリモアの魔導士も、その現象を目にすると途端に怯え始めて更に狼狽える。そして少年はある程度高まった魔力を感じた瞬間、雷を纏った風の魔力を真下に叩きつける形で解放した。

 

「『叫嵐(テンペスト)』!!」

 

そこを起点とし、吹き荒れるは電流が迸る嵐の渦。ウェンディとリリー、そして自分だけを渦の中心である安全地帯に収め、それ以外の仇なす敵たちを一斉に蹂躙していく。抵抗なく体を紙切れのように吹き飛ばされ、数秒間に及ぶ雷が混ざった嵐が収まると、重力に従って落下していき、地に叩きつけられる。

 

思った以上にとてつもない風を感じたウェンディは、乱れてしまった前髪を整えながらその少年の姿を目に映した。正直、何よりも驚きが勝っていた。だがその次に感じたものは、感激と喜びだった。

 

「お待たせ。助けにきたよ、ウェンディ」

 

先程敵を蹂躙した際の様子とは違った、思いやる彼の優しい声と安心できる笑顔でこちらに振り向きながら尋ねた言葉を聞いた瞬間、ウェンディはあまりの感情の昂りに、状況も忘れて破顔した。目から流れ出した涙さえ、拭えぬ程に歓喜した。

 

まるで、試験が始まってから見失いかけていた彼が、戻って来てくれたように感じて。

 

「シエル……!うんっ!!」

 

溢れる涙をおさえもしないまま、笑みを浮かべて首を縦に振る。彼女の相棒と共に遠くへ行ってしまっていた気がした少年シエルが、ようやく近くに来てくれた。

 

「く、くそ……あのガキがァ……!!」

 

そんな二人に水を差し、正確にはシエルを忌々しげに睨みながら一人の男が杖を構えて遠距離の魔法を撃ち出す。進行方向上にはウェンディもいて、このままでは彼女にも直撃してしまう。リリーが二人にその危険を呼びかけ、その声を聞いて彼女も気付いた。このままじゃ当たる……!そう頭によぎった瞬間……。

 

 

 

 

 

彼女の体は突如空中に浮かび上がり、杖から出た魔法を避けた。それに驚いて下を見れば、シエルもすんでのところでそれを躱し、同時に倒れ込んでいたリリーを回収している。

 

この感覚には覚えがある。襟を掴まれながら空を浮遊し、背中から聴こえる翼をはためかせる音も。誰が自分を抱えているのか、ウェンディは既に分かっていた。気づけば彼女は再び笑顔を浮かべながら後ろを振り向いて彼女の名を呼んでいた。

 

「シャルル!!」

 

一対二枚の翼を背に生やし、彼女と共に空を浮遊する彼女の相棒たる白ネコ。一安心と言いたげな顔を浮かべながら、頷くように首を少し傾けてすまし顔へと変えた。

 

「助けに、来てくれたの……!?」

 

「当然でしょ……友達なんだから」

 

思わず口から出ていた言葉に、素っ気なさそうではあるが声に出ていた安堵と喜びを込めながらシャルルはそう返した。それを聞いたウェンディは嬉しさがさらに込み上げて、涙となりながら双眸に浮かべていく。

 

「シャルル!二人を頼んだ!!」

 

彼女たちの様子を柔らかい笑みを浮かべながら見ていたシエルは、下から放り投げる形でリリーの小さい体をウェンディたちに向けて飛ばす。その際小さくリリーが慌てた声をあげていたが、シャルルがウェンディにリリーを掴むように告げながら近づき、彼女も慌てながらもしっかりとリリーをキャッチする。

 

「言っても無駄だろうけど、やりすぎるんじゃないわよ!」

 

「ごめん、そりゃちょっと無理な相談だ……」

 

「はあ、でしょうね……」

 

リリーをウェンディがキャッチしたのを確認した後、シャルルから地上に唯一残っているシエルに向けて謎の忠告を飛ばす。だがシエルは口元を釣り上げながらまだ戦意を失っていない敵たちに獰猛とも言える目を向けて返した。その返答を予想していたシャルルはと言うと、溜め息混じりに苦笑い。これは何を言っても変わりそうにない。

 

「二人とも、一旦ここを離れるわよ」

 

「シエル一人で大丈夫?」

 

「いくら消耗しているとは言え、オレたちまで抜けては荷が重いのでは……?」

 

シャルルがシエル一人に敵を任せて避難しようと提案する。だが敵はまだ大勢。消耗していないシエルに代わったとは言え多勢に無勢は変わらない。むしろ不利ではないかと二人は告げる。だが……。

 

「ネコどもと女のガキが逃げるぞ!」

 

「させるか!撃ち落としてやる!!……あびゃあ!?」

 

シャルルが二人を伴って逃げようとしているのを黙って見過ごさず、敵の一部が彼らに遠距離魔法で狙いを定める。だがその直後、狙いを定めていた魔導士たちに上空から落雷が襲いかかり、彼らの身体を黒焦げにして倒れ伏させた。

 

「忠告しといてやる。狙ったやつから、意識が消えると思え……!」

 

口元に笑みが浮かんでいるが、目は一切笑っていない。上空には先程まで無かったはずの黒雲が辺りに陰を差し込ませており、いつでもさっきのような落雷を落とせると言外に脅してみせる。それまで手負いのウェンディ達を狙っていたグリモアの魔導士達は、子供からとは思えないプレッシャーを実感して一気に震え上がった。

 

「だ、大丈夫そうだな。ここはシエルに任せてオレたちはすぐに避難した方がいい。うむ、それがいい!!」

 

「アンタまで怖がってどうすんのよ」

 

「こっ、怖くなどない!断じてないっ!!」

 

そしてここにもやけに恐怖を感じている様子の黒ネコがいた。シエルがこちらを狙って来た敵を雷で焦がしてから、恐怖に身体を震わせていたリリーは、捲し立てるような早口でこの場からの退避を進言。呆れながらもその言葉の通りに避難を開始したシャルルから言われた言葉にまたも早口で否定。そのやり取りも耳に流しながら、ウェンディはシエルへ一瞥。少しばかり心配そうな顔を浮かべるも、彼の強さも理解している故に信じて前へと視線を戻す。彼なら、きっと大丈夫、と。

 

「お前らが俺たちを怒らせた理由は、三つだ」

 

避難したウェンディ達への意識を向けることもできない敵の魔導士達は、突如少年が発した言葉に警戒を解かないまま首を傾げた。何のことだと言わんばかりに。それを察していた少年によって一つずつ説明される。

 

「一つ目、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地であるこの島に勝手に土足で踏み入れた事。二つ目、俺たちが今後の人生さえも懸けていた大事な試験を台無しにした事」

 

一つ言えば彼の右手に渦巻く砂塵が集い、二つ言えば彼の左手に氷雪の風が吹き荒ぶ。そして目を一度閉じながら三つ目を言う頃に、彼の背中には全てを刻むかのような風が集中し、心無しか場にいる敵達の周囲に在する空気すらも吸い込んでいるように見えた。

 

「三つ目は、俺たちの仲間を……俺の大切な子を傷つけた……!!」

 

『大切な子』を告げた際に開いた目に宿っていたのは、確かな怒り。本当は燃え上がり、破裂しそうなほどに煮えたぎっているそれを、不自然なほど静かな様相で閉じ込めている。最早、いつ爆発してもおかしくは無かった。

 

「どんだけ八つ当たりしても到底収まりきらねえから、覚悟しとけよ……!お前らに訪れる今後の予報は全部最悪の天候だ、悪魔の心臓(グリモアハート)……!!」

 

怒りに燃えた目と、それを抑えるかのような獰猛な笑みを浮かべながら、天さえも自在に変貌させる小さな妖精が、悪魔達に宣告を下した。




おまけ風次回予告

シャルル「ようやくウェンディと合流することが出来たわね。少しケガをしたみたいだけど、あんたの魔法ならすぐに治せるんでしょ?」

シエル「勿論。けど今はウェンディを傷つけやがったこいつらに借りを返す方が先さ……!罪には罰を、って言うしね」

シャルル「それに関しては任せておくわ。にしても、あんたがゴロゴロ雷落とすと、神様からの天罰にも見えてくるわね」

シエル「天使に危害を加えた者に与える裁きと言う意味なら天罰とも言えるね」

シャルル「あの子を天使呼ばわりってあんた相当隠す気なくなってきてない……?」

次回『神を滅する者』

シエル「俺だって神に愛された者って呼ばれてるんだ。礼儀知らずな悪魔どもへ、神の代わりに鉄槌を下してやろう!な~んて!」

シャルル「こんなのがもし神だったら、私一生祈らないわ、絶対……」
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