FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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遅刻はしましたが、何とか書けました!尽力はしたんですけど大まかな流れはほぼそのままに…。そしてやけに短くなってしまった…。以前より集中できなくなってるなぁ、やっぱ…。

けど、この天狼島編で書きたかったシーンの一部が、ようやく書けました。
皆さん、覚えてますか?
シャルルの予知の一部。原作に無かった予知の内容を…。


第118話 竜と神の炎

開幕、ザンクロウの頭部に上から火竜の鉄拳が叩き込まれ、続けざまに別の拳を下から振り上げてザンクロウの身体を殴り飛ばす。強力な一撃に見えたが、空中で身を翻したザンクロウに堪えた様子は見られない。

 

「そんな炎は痛くねえってよォ!」

 

体勢を立て直したザンクロウに対し、ナツは攻め手を緩めない。森の大木を足場にして飛び回り、急速に迫って炎の足を振るう。だがその一撃は逆に黒い炎を纏った腕でガードされる。

 

「あの黒い炎……あれが神を滅する炎か……!」

 

「それも、ナツの炎より強力に感じる……!」

 

滅神魔法の証とも言える黒い属性の力。禍々しく見える炎を操るザンクロウがナツの攻撃を受けてもケロッとしている上に、本来炎に耐性があるナツがザンクロウの操る黒炎に苦しめられている。同じスレイヤー系の魔導士ではあるが、滅竜魔法よりも滅神魔法の方が高度だからなのだろうか?現に今も、一切効いてる様子のないザンクロウは、ナツの足をガッチリと掴み、近くの大木へと投げ飛ばしている。

 

「竜の炎と神の炎じゃ格が違うってよ」

 

そしてすかさず、両手で円を描くように黒炎の魔力を結集させ、握りしめるとともに炎の形が巨大なデスサイズのようなものへと変貌する。

 

「神の炎は燃やすんじゃない……!全てを破壊する、焔の薙刀だってェ!!」

 

黒い焔で作られたデスサイズを勢い良く振り回すと、狙いにされていたナツだけでなく、振るわれた刃の射程に入っていた大木さえも、一切の抵抗なく両断される。そのあまりの威力に、シャルルとリリーは開いた口を塞ぐことが出来ないでいた。

 

「ウハハハハッ!……あ?」

 

が、しかしザンクロウは妙な違和感を覚えた。攻撃を受けたナツはほとんどそのダメージを感じさせない様子のまま、両断されて上へと投げ出された大木の残骸……丸太を跳んで伝い、その内の一本をザンクロウ目掛けて殴り飛ばす。更にはダメ押しとばかりにもう一本も同じ位置に行くように拳をぶつけ、自分の体と共に押し潰しに行った。

 

「ナツ……今の攻撃が当たらなかったの?」

 

「いや、直撃したように見えたが……」

 

大技らしきものを受けたにしては対処が早いナツの動きを見て、エクシード二人も違和感を覚えた。その合間にも大木からできた丸太を二本まとめて粉砕しながら、その上に乗っていたナツへと黒炎の拳で突き上げる。そしてその拳は、確かにナツの腹に直撃していた。

 

狂った笑い声をあげながら上昇していたザンクロウ。だが、彼の拳を受けていたナツは怯むことなく、両手を組んで上へ掲げ、赤い炎を纏わせながらザンクロウの顔に叩きつけて下へと落とす。ダメージはないだろうが、落下の勢いは大きかったのかそのまま地面と激突する。

 

「無駄無駄!いくら頑張ったって、竜じゃ神には勝てねえってよ!!『炎神の怒号』!!」

 

地面に激突したものの余裕は抜けていない。吊り上げた口元をそのままに、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が放つ咆哮と限りなく似た、口内に溜めた黒い炎を放出する。ブレス系の技。滅神魔法にもあったのかと、シエルたちも驚愕を隠せない様子だ。

 

だがしかし、ナツはその迫りくる黒炎の息吹を両手の炎を噴射させることで即座に回避。更に、木々を伝って先程よりも素早くザンクロウへと肉薄。避けられたことに少なからず驚いていたザンクロウは迫りくるナツに反応する間もなく、赤い炎を纏った膝蹴りを腹部に叩きこまれる。

 

「ぐおっ!?」と衝撃を受けて吹っ飛んでいくザンクロウ。すぐさま身を翻して体勢を立て直すも、その表情は怪訝そうに歪められていた。

 

「妙だってよォ。さっきまでの竜狩りと、別人みてぇに違ってやがるって」

 

先程まで戦っていた時のナツとは明らかにその力に差がありすぎる。自分を相手にほぼ為す術無しと言ってもよかったはずの彼が、どういう訳か食らいついてきている。ダメージはほぼないが攻撃の重さも上がり、与えた攻撃もそこまでダメージを受けた素振りさえ見えない。動きもそうだ。速さが格段に上がっている。先程の戦いでは本気を隠していたように見えなかったのにだ。

 

尚も攻撃の手を緩めずに向かってくるナツの攻撃を捌き、自身もお返しとばかりに攻めながらザンクロウは考える。さっきと何が違うかを。最初にナツと戦っていた時とは、明確な違いが存在するはず。

 

「……成程。そう言う事かって」

 

「あァ?」

 

何度かの攻防の末、繰り出された炎の拳を、黒炎を纏った掌で受け止めながらザンクロウは理解したように呟く。ナツは何の話だと言わんばかりに反応するが、それはそうだ。竜狩り本人も気付いていない違いがあるから。

 

だが自分は違う。少し考えればすぐに分かった。この場にいる敵は、目の前の竜狩り一人だけじゃない。戦っている視界の端にいた、ある存在。

 

「余計な茶々を入れる奴が、この場にはいたってよォ!!」

 

そう言いながらザンクロウは開いている左手から、ナツとは違う方向へと黒い炎を放出。咄嗟にその方向を見たナツは、先にいた存在を見つけて息を呑んだ。

 

 

 

そこにいたのは、マカロフの治療にあたっていたはずの、藍色髪をツインテールにした少女ウェンディ。木を陰にこちらの様子を窺っていたらしい彼女は、ザンクロウの攻撃がこちらに飛んできたのを見て、驚愕に顔を染めている。

 

気象転纏(スタイルチェンジ)!!」

 

その攻撃に対し、近い位置から同様に様子を窺っていた水色がかった銀髪の少年もその場に現れ、ウェンディの前に立ちながら雨の魔力を結集。両手で作った指鉄砲の先に掌大の砲弾を作り上げる。

 

剛雨鉄をも穿ち砕く(ドロップキャノン)!!」

 

豪雨の力を一点に集中して撃ち出す技を、迫りくる黒炎目掛けて発射する。炎に有意な水。それも凝縮された水の砲弾。炎の威力も強力だろうが、少しでも勢いを押しとどめることが出来ればと狙い、撃ち出したそれは……

 

 

 

 

 

一切の抵抗も出来ないまま黒炎の波動に飲み込まれ、消滅した。

 

「っ!!危ない!!」

「きゃ!!」

 

凝縮した水の砲弾さえ通用しない炎の勢いに怯みながらも、すぐさま危機から回避することに考えをシフトしたシエルは、ウェンディを咄嗟に抱えながら横に跳んで回避。通過した炎が近くにあった大木を炎上させ、地面にも焼け焦げた後を作り出す。

 

「シエル!ウェンディ!」

 

「ウハハハハ!サポート魔法をかければ竜狩りが勝てると、自惚れてたのかってェ!!」

 

突然危機に晒された仲間に焦りながらナツが呼びかけるも、その隙を突いてザンクロウが炎を纏いながら掌底で吹き飛ばす。その様子は、ナツの急激な強化の種を暴いたと言いたげだった。

 

「ウェンディ、大丈夫?」

 

「うん……でも、ごめん……気付かれた……」

 

「いや、あの実力差を考えると、どちらにしても苦しい展開は免れなかったみたいだ……」

 

ザンクロウの攻撃は直撃せず。突如の事だったので二人して倒れこむ体勢になってしまったが、逆に言えばそれ以外の外傷は見られない。ウェンディの身体を起こしながらシエルが尋ねると、彼女は申し訳なさそうにしながら答えた。二人がナツたちの戦う様子を窺っていた理由が関係している。

 

ナツが戦いの開幕を意味する鉄拳を一発叩き込んだ後、マカロフの治療を継続していたウェンディの元に近づき、ナツのサポートをすることをシエルは提案した。ナツはザンクロウを一人で相手するつもりだが、分が悪すぎる。なら彼が気付かない間に出来る限りの援護をしようと言うものだ。

 

ナツたちの激突に集中しているシャルル達にも気付かれないように移動し、近づいたところでウェンディは三つの補助魔法をかけた。攻撃力増加(アームズ)敏捷性上昇(バーニア)、そして『防御力増加(アーマー)』。著しいパワーアップを受けたナツは今も自覚がないが、最初にザンクロウと戦った時よりも格段に強化されている。だがその上で神の炎を扱うザンクロウはナツを上回っていた。

 

更に言えば、ザンクロウ側はナツにかけられたトリックさえも見破っている。ウェンディに危険が迫ればシエルが攻撃を弾いたり迎撃を考えていたのだが、剛雨鉄をも穿ち砕く(ドロップキャノン)をもあっさり蒸発させるほどの炎を操る様子を見せられると、通用しないのだと実感させられてしまう。やはり信号弾の確認から強行軍、大多数のグリモアの魔導士殲滅、マカロフの治療のために使った慈雨(ヒールレイン)と激しい魔力消費の影響を少なからず受けてしまっているようだ。回復を挟まなければシエルも戦えそうにない。

 

「そう焦んなってよ!こいつを殺した後、マカロフも含めて全員後を追わせてやるって!」

 

再びナツの攻撃を捌きながら確かなダメージを与えていくザンクロウが、狂った笑みと共にシエルたちへと宣告。話しかける片手間にも関わらず、腕の炎でナツを薙ぎ払い、振り向きながら向けられたものに悪寒を走らせるほどの不気味な笑みを浮かべる。その表情はウェンディに引き攣った声を出させ、エクシード達も気圧されて言葉を詰まらせるほど。シエルだけが、仲間たちを危険に晒そうとしていることに対する怒りを滲ませて「てめぇ……!」と睨みつけている。

 

「おっと、全員じゃマズいな。ペルセウスとその弟だけは生かして捕えろって言われてたんだってよ」

 

「何……!?」

「シエルたちだけ……?一体どう言う事……!?」

 

だがザンクロウは何故か、シエルたち兄弟を抹殺の対象から外しているという、奇妙な事実を口にする。恐らくはザンクロウの上に立つ存在……マスター・ハデスなる人物によるものだろう。何故自分たち兄弟のみを?シャルルを始めとする、当事者以外にも疑問の声が上がる。

 

「どれもさせねえ!!オレが、お前をぶっ倒す!!」

 

「だから無理だって、まだ分かんねェのかってよォ!!」

 

吹き飛ばされた拍子に倒れながらも、話の顛末を耳にしていたナツは即座に起きあがり、再びザンクロウへと攻撃を仕掛ける。だがやはりと言うべきか彼には通じず、今度はアッパーカットの要領で打ち上げられ、中空に投げ出される。

 

「神の炎は魔導士を喰うのが好きだって……!」

 

そしてすかさず、両腕に黒炎を纏わせると、それはまるで何かの生き物のように蠢き、それぞれが強靭な口の形となってガチガチと音を立てながら噛み合わせる。炎の体を持った化け物のアギトのようなそれを、地面に落ちようとしていたナツに向けて、ザンクロウは挟み込んだ。

 

「『炎神の晩餐』!!」

 

手の形を牙を持った化け物の口に見立て、両手を合わせるザンクロウ。そして黒炎のアギトが喰らい付くのは火竜の体。今までの技の中でも強力なのか、補助魔法の恩恵を受けていたはずのナツは呻き声に似た悲鳴を上げる。それに呼応するように、シエルたちも各々ナツの名を叫んだ。

 

「この炎に包まれたが最後。灰になるまで出ることは出来ねえ……!」

 

既に炎の形はアギトの形からナツを中心に燃え上がる黒炎の塊に姿を変えている。ナツはいくら藻掻いても脱しようとしても、その場から移動することが出来ずに焼かれて苦しむのみ。

 

「こんなモン……!逆に喰ってやる……!」

 

「無駄だよ。竜の力じゃ神の炎は喰えねえってよ」

 

炎を喰らう事で力の回復と強化を行えるのがスレイヤー系の魔導士の特徴。だが質と格の違いからか、ザンクロウの黒炎をナツは喰らうことが出来ない。現に自分を捕らえている炎を吸い込むように口に入れていくも、食えないものと体が認識しているのか吐き出すようにえずいている。内側からはどうしようも出来ない。

 

「ナツが炎を食べれないなんて……!」

 

「まずいぞ……このままでは……!」

 

今まででは考えられない光景にシャルルもリリーも何度目になるか分からない衝撃を受けている。このままではナツの身体がもたない。黙って見ているという選択肢は、シエルたちの中には存在していなかった。

 

「外から少しでも、あの炎を削る……!ウェンディ!」

 

「うん!」

 

再び雨の魔力を展開し、変換させながらシエルはウェンディに呼びかける。内側から弱められないなら、外からの介入で炎の威力を弱める狙いだ。

 

「ちょっと我慢してくれよナツ!驟雨岩を砕く(ドロップガトリング)!!」

 

「今助けます!天竜の咆哮!!」

 

それぞれ二方向から炎に相性のいい水と風の魔法。内側にいるナツにも影響があるかもしれないが、このままにしても危ない。多少の被弾を覚悟して放った攻撃だったが、当たってもナツに届くことはおろか、先程と比べて一切弱まった様子は見られない。外部からの介入に対しても余裕そうに笑みを浮かべていたザンクロウは、その結果を当然と言わんばかりに笑い飛ばした。

 

「ウハハハ!神の前では、天候も竜も無力だってよ!!」

 

「そんな……!」

 

「このままじゃナツが……!」

 

打つ手なしかと歯噛みしたその時、シエルたちの間を縫うように突如伸びた巨大な手が、ザンクロウにまで迫り、彼の身体を握り潰しだした。思わず振り返ってみると、うつ伏せの状態で、激しく息を切らしながらも鋭く開いた眼をザンクロウに向ける、巨大化させた腕の主であるマスター・マカロフがそこにいた。

 

『マスター!?』

 

「こいつは……巨人化(ジャイアント)……!?」

 

傷は癒えたが魔力と体力の回復は完全とは言い難い。しかし彼はもう我慢の限界だった。大事な家族で子供同然のギルドの仲間を、目の前で傷つけられ、命さえ奪われようとしていることに。耐えがたい苦痛を感じていた。その怒りを表すかのように、ザンクロウの身体を締め付けるように握りしめ、そのまま潰そうとする勢いだ。

 

「これ以上……これ以上親の目の前でガキを傷つけてみろ!!貴様を跡形も無く握り潰してやる!!!」

 

剣幕を抑えもせず声を張るマカロフ。彼を親と慕うギルドの面々はその姿を見て、彼の本気さ、覚悟を感じ取っている。だが消耗しているマカロフにそれ程の余力が残っているようには見えない。

 

「そんな力残ってるのかよ……」

 

現にザンクロウにはそれを見破られているのか、締め付けられて少しばかり苦し気ながらも、余裕そうに笑みを浮かべながら自らの身体を発火。黒い炎が彼を握る右手にも燃え移る。

 

「ホレェ!早く手を放さねぇと、跡形も無くなるのはアンタの腕の方だってよ!!」

 

まだ回復しきっていないマカロフは、腕だけとは言えその身を燃やされることが苦しくないわけがない。呻き声をあげるマカロフ。彼に向けて悲鳴のような声で呼びかけるギルドの面々。これで彼はザンクロウから手を放さざるを得ない。そう彼は思っていたが、思惑とは逆に雄たけびを上げながらマカロフは握り潰す腕により力を込めていく。

 

「何だと!?逆に力を入れやがった……!!」

 

「マスター!」

「無茶だ!このまま放さないと、本当に腕が無くなってしまうぞ!!」

 

今のマカロフに人を潰せるほどの力があるかどうかも分からない。だがそれがどうした。今目の前にいるガキどもが苦しんで、その命を奪われそうになっているというのに、親である自分がいつまでも這いつくばってるままでいてどうする。

 

「放す……ものか……!!」

 

「やめろじっちゃん!!」

 

一切力を緩めずに、焼かれる腕などお構いなしに力を込めていく。最早彼に、誰が呼びかけても止まらない。ガキどもの命は意地でも守る……!

 

「家族の力!なめんじゃねぇぞォ!!!」

 

シエルたちはもう、マカロフを止めようとは考えられなかった。思わずその気迫に唖然としてはいたが、彼の意思を汲むことが、今自分たちが出来る最大の援助。

 

「ウェンディ、マスターの右腕にだけ、治癒魔法をかけることは出来る?」

 

「……難しいけど、やってみる!!」

 

「お前たち……!!」

 

日光浴(サンライズ)を作り出し、ウェンディとマカロフの二人だけに当たるように位置を調整。そして天空魔法を使うウェンディには、部分的な治癒を行う事でマカロフの負担を軽減。ザンクロウの迅速な撃破を重点として行動を起こす。

 

「ちっ……!あのチビども余計な真似を……!!ん!?」

 

自分に対して手も足も出ないような子供二人が悉く邪魔をしてくる様子に、さすがに苛立ちが募っている様子のザンクロウ。だがその苛立ちは、今自分が閉じ込めている火竜(サラマンダー)の様子が変化していることでそっちに意識がもっていかれる。

 

自分を捕らえている黒い炎の中心で、ナツは自らに力を入れて内側から赤い炎を最大限に放出させる。彼もまた諦めてはいない。自分を焼こうとしている炎に対抗し、打ち破ろうという魂胆か。ナツか、マカロフか、はたまたザンクロウか。最早勝負と言うより根競べだ。誰が最初に倒れるか、それを競う勝負……!

 

 

そしてそう時間がかからない内に、黒炎の中で燃え上がっていたナツの赤い炎は徐々に収縮していき……やがて、消えてしまった。そして肝心のナツは、その中でぐったりとしている。

 

「ナツの……魔力が……!」

 

「……消えた……?」

 

「ウッハーッ!!竜狩りがまず落ちたぜぇーー!!」

 

戦いを傍観していたエクシード達も気付いた。中のナツの様子が、何を意味しているのかを。敵わなかった。感情の高ぶりで燃え上がらせた竜の炎は、神の炎を消せず、完全に燃え尽きてしまった。

 

「嘘だろ……!?」

 

「ナツさん……!!」

 

このままナツは、神の炎に焼かれて、灰に変わるのを待つだけ。言いしえぬ絶望感が、妖精の魔導士たちの間に流れる。そして同時に、煉獄の七眷属の恐ろしさを、否が応にも感じさせられてしまう。炎神の哄笑が響く中、誰もが諦めかけた……

 

 

 

 

 

次の瞬間、火竜が何かを飲み込む音を響かせた。

 

「っ!!?」

 

それに誰よりも早く反応し、誰よりも大きく動揺したのは、唯一笑い声をあげていたザンクロウ。まさか、そんなバカな。しかしその思いは、目の前で起きている信じがたい光景が敢え無く破壊してしまった。

 

竜では喰らう事の出来ないはずの神の炎を、その口に吸い込んで、喰らっている。そしてしばらくするうちに、ナツを捕らえていた炎神の晩餐は、欠片も残さず火竜の腹の中に収まった。

 

「ば、バカな……!何故神の炎を喰っている!!?」

 

ザンクロウからすれば信じられない、信じがたい光景だ。確かにナツは、ついさっきまで神の炎を喰らえずに苦戦していた。今まで自分が喰えない炎は存在していなかった為に、尚更戦いづらい相手だっただろう。だが何故今、彼はそれが出来ているのか……。

 

「ひょっとして……魔力を空にした、から……!?」

 

何かに気付いた様子のシエルが呟いた言葉に、マカロフを除く三人が「どう言う事だ」と聞き返す。シエルの推測はこうだ。滅竜魔法の炎よりも、滅神魔法の炎の方が格が上と仮定すると、竜の炎を溜め込んでいる魔力の器に、濃厚すぎる神の炎を入れようとしても溢れかえって取り入れられない。よって許容量を超える炎はダメージとなる。

 

だがナツは、溜め込んでいた竜の炎を、先程の放出によって一時的に空にした。魔導士にとっては致命的だが、この空になって余裕が出来た器なら、濃厚な炎を取り入れても収めることが出来る。飲み物を入れたコップと、ほぼ同じ原理だ。

 

「ひょっとしてあいつ、喰えない炎を喰う為に、敢えて自分の魔力を空にしたの!?」

 

「偶然かもしれない、けど……ナツはこと闘いにおいては、天性と言えるほどのセンスと頭の回転の持ち主だから……!とは言え……」

 

ナツがとった行動が、実は彼自身が気付いた攻略法なのかと味方側に衝撃が走る。ナツの事だから、たまたまなのか本当に計算づくなのか断定が出来ないのが恐ろしい。そして当の本人はと言うと……。

 

「成程……喰うのにコツのいる炎ってのもあるのか……」

 

今回は上手くいったとは言え、シエルはもし自分が同じ立場だったとしても、敵の魔法の中で己の魔力を空にして取り入れようなど、考えついても実行には躊躇う。考えついたら即実行、の彼らしいが今回はケースがケースだ。しかも、その命がけの戦法を“コツ”だなんて言ってのけている。そんなの下手したら……!

 

「バカタレがァ!!死ぬ気かァーーー!!!」

 

火傷まみれになった右手で握っていたザンクロウを、衝動任せに上空へ投げ捨てながらマカロフは怒鳴り散らした。やっぱり無茶無謀な戦法だったらしい。自分たちの心情を代表した上に敵を投げ飛ばした様子を見て、シエルたちは目をかっぴらいて驚愕していた。

 

「死ぬ気はねぇし……誰も死なせねぇ……」

 

一方で、ナツはそんなマカロフのツッコミにも似た怒鳴りにも怯まず、静かにそう声を出す。その腕に宿すのは、右に竜が操る赤き炎。そして左には先程取り入れた、神が操る黒き炎。

 

「みんなで帰るんだよ……妖精の尻尾(フェアリーテイル)に……!」

 

投げ飛ばされ、自由の利かない空中に晒されたザンクロウは、ナツの様相に妙な感覚を覚えた。竜の炎しか扱えなかったはずのナツが、自分の操る神の炎を片方の手に纏っていることに。

 

「竜と神……二つの炎……“竜神”の、炎……!?」

 

二色の炎を放出するナツの様子から、何かが降り立ったかのようにウェンディが口を動かす。竜と神、二つの力が反発せず、合わさり更なる大きな力となった。雄叫びを上げながら、ナツは落ちてくるザンクロウに目掛けて跳び上がる。

 

「合わされ!竜と神の炎!!

 

 

 

 

 

『竜神の煌炎』!!!」

 

そして両腕を勢いよくザンクロウに振り下ろし、二色の炎が彼を着弾点としてぶつかり合う。やがてそれは勢いよく混じり合い、程なくして白く光り輝く爆発となって辺りを照らす。その奔流の中心に閉じ込められたザンクロウは、未だかつて味わった事のない大きな力を全身で感じ、苦しみも痛みも超越して、狂った笑い声を上げながら吞み込まれていった。

 

その光景を、誰もが言葉を失って見ていた。明らかに格上と証明させられた滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)を相手にし、喰えない炎を喰らう為に魔力を空にして取りこんだ。何という男か。今までも驚愕の戦法を用いて勝利したことは多々あったものの、今回はそれどれよりも常軌を逸していた。

 

「じっちゃん……みんな……戦おう……」

 

奔流から解放されたザンクロウが倒れ伏し、力なく自身の敗北が信じがたいという旨の言葉を呟いている中、ナツは静かに、後ろにいる親と、仲間たちに声をかけた。

 

「退かなきゃいけない時があるってのは分かるよ。ギルダーツが教えてくれたんだ……。だけど、今はその時じゃねえ」

 

ギルダーツが教えてくれた、剣を鞘に納める勇気。だが今この時が、その勇気を使うところではない。いや寧ろ、ここで逃げることが勇気と言える行動ではない。

 

「勝てないからって諦めるのと、負けるから諦めるのとは違う。勝てなくても、負けるわけにはいかねえ……。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を敵にした奴等に、思い知らせてやるんだ……!全身全霊をかけた、ギルドの力を!」

 

誰もがナツの言葉に耳を傾け、その背中に目を向けている。マカロフは戦う意思を確固付けたナツの姿にどこか感銘に近い感情を抱く。そしてシエルたち若い魔導士たちは、ナツの意志と同調するかのように、各々拳を作ったり、覚悟を決めたように頷き合う。それを感じ取ったのか、ナツは右腕を天高く掲げた。

 

「戦おう……じっちゃ……」

 

そこで言葉は途切れ、気力を全て使い果たしたのか、腕を掲げた体勢のまま力無く倒れていく。神の炎を取り入れ、即興で放出したのも消耗の原因だろう。

 

「ウェンディ、ナツの手当てを!俺はマスターを診る!」

 

「う、うん!」

 

すぐさまウェンディをナツに任せ、自分はマカロフの左腕を治すために動く。特にナツはこの場に来た後、一切治療を受けていない。体力、魔力、共に消耗も激しいはずだ。ならばウェンディが適任と言える。

 

「シエル……ワシの方は、いい……。ナツを……ウェンディと共に……」

 

「ナツは勿論助ける。そして、マスターも絶対治す……!誰一人、失ってたまるか……!」

 

極限を戦ったナツの容体を案じて自分よりも優先するようマカロフが願うも、それを突っぱねてシエルは言い切った。黒い炎で焦がされた右腕に日光浴(サンライズ)を近づけて治療を開始したシエルの姿を目に納めながら、マカロフは疲労がピークに達したのか眠るように意識を手放した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わり、別の森の中では悪魔の心臓(グリモアハート)の構成員たちが力無く倒れ伏し、山のように積み上がっている。まだ息はあるものの、総じて戦闘不能の状態だ。

 

それを作り出した元凶は水色がかった銀色の長い髪を持った青年ペルセウス。アズマを追うために森の中を進んでいた所、妖精の殲滅を謳いながら進撃して来たグリモアの魔導士たちを根こそぎ返り討ちにしていった。

 

「くそっ、無駄に足止めを食っちまった……。どっちに行ったかもこれじゃ分かりゃしねえ」

 

だがそれが事実足止めとなってしまい、アズマの痕跡を完全に見失ってしまった。未だ奴の目的も、行先も判明していない。虱潰しに探していては下手をすると手遅れになってしまうし、そうなってから動いても遅い。

 

「仕方ない。ここは一度キャンプ地に戻るか。リサーナたちの状況も気になるし……」

 

それが今出来る最適の判断と認識して、ペルセウスはベースキャンプのある方角へと足を向ける。だが、その瞬間彼は感じ取った。何者かの気配を。微かだが地面と草を踏みしめる足音も。近い。誰かがそこにいる。

 

「誰だ!!そこにいるのは分かってんだぞ……!」

 

切り立っている高台の上、そこにある鬱蒼とした茂みの向こう側。そこに怒号を飛ばし、ペルセウスは最大限に警戒する。七眷属の一人か?アズマだったら目当てであるが、木々に同化できる彼がわざわざ外に出る可能性も低い。敵であるなら、仲間の被害が出る前に摘み取れる。

 

鬼が出るか蛇が出るか。訝しげな目を向けていたペルセウスに、気配の元となる存在は、観念したのか現れた。

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってくれ……!僕は誰の敵でもな……!」

 

現れたのは青年だ。服装は黒を基調とし、それとは正反対の白い布をタスキのようにかけている。髪の色も目の色も黒で、顔立ちは気弱そうな印象を抱えた穏やかなもの。それも恐ろしい程端正に整った、言うなれば儚い美青年。

 

言動から、悪魔の心臓(グリモアハート)の魔導士とはまた違う人物であることが分かるが、そんな人物が何故天狼島にいるのか、本来であればその疑問が浮かぶ。だが……。

 

 

 

 

 

「……はっ……!!?」

 

かの青年を目にしたペルセウスの反応は、ただただ衝撃と言いたげなものだった。大きく目を見開き、顔中から汗が噴き出し、さも目の前にいることが信じられないと言いたげに。

 

「君は……!」

 

一方で、青年の方もペルセウスの姿を見て彼ほどではないが驚いていた。だが衝撃を受けた表情で固まったペルセウスとは違い、青年は先程の気弱そうな表情を安堵したかのように綻ばせた。

 

「そうか……その紋章……別のギルドに入ったんだね」

 

「な……何で……!何で()()()がここにいるんだ……!!?」

 

両極端の反応を示す二人の青年。それもまるで、互いに互いを知っているかのような……。その内の黒衣の青年は、穏やかで優しい印象を抱えながらも、どこか異質な何かを感じさせる微笑みを向けて、彼に言った。

 

 

 

「久しぶりだね、ペルセウス。弟は元気にしているかい?」

 

青年の名はゼレフ。歴史上に残る最凶最悪とも呼ばれた黒魔導士の名。遥か昔に書物より悪魔を作り出したとも謂われる、伝説とも呼ばれた存在と、嘘か真か同じ名を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

そして……またの名を……。

 

「『スプリガン』……!!?」




次回予告

俺たちには、人生を救ってくれた恩人がいる。

その命を一生かけても返しきれないような、多大な恩を与えてくれた存在が。


一人目は、俺たちの新たな親。路頭に迷いかけた俺たちに新たな、暖かい家族を与えてくれた。

二人目は、弟を救ってくれた先生。生まれた時から病魔に苛まれたあいつを、健康な体になるまで診てくれた。



そして三人目。思えば、彼が俺たちの最初の恩人だった。

むしろ、彼がいなければ……今俺たちは、こうして生きていられなかったと、断言できる。

次回『スプリガン』

世間からどう言われていようと、彼から与えられた恩は、文字通り命より重いものだ……。
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