FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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大変長らくお待たせしてしまい、ご心配をおかけして申し訳ありません。ひっさびさの更新でございます!
本当は凄く書きたかった今回の話ですが、部分が中々書けなくてまた苦戦しておりました。この分だとまた今後も躓くかもしれませんが、気長に待っていただけると幸いです。
Twitterの方で「いつまでも待ってます」とコメントをいただくたび優しさを痛感しております…!

少なくとも天狼島編を完結させるまでは当面の目標として、折れないように尽力いたします!

余談ですが今話の終盤の一連の流れを思いついたのは2020年の9月20日頃で、結構な期間暖めていたシーンでした。
何でそんな細かい日まで覚えてるのかって?

ヒントはその頃に更新した回の前書きに…。←


第121話 逆鱗

「ッ……!カッ……!?」

 

背中に受けた衝撃と共に地に叩き伏せられ、身体中の空気を吐き出させられる感覚。そして強力な圧迫感に自分の身体が悲鳴を上げているのを自覚した。先程まで倒れていたはずの白い巨漢の一撃を背中から受けて地面に挟まれた少年の口から、息とともに赤い液体が微かに吐き出される。

 

「シエルゥーーーッ!!!」

 

少年に襲い掛かった悲劇を目にした仲間たち……その中の一人である桜髪の青年が、己の名を呼ぶのが聞こえた。そしてようやく今、自分の身に一体何が起きたのかを理解した。

 

「よ、よくも……やってくれたっすね……!」

 

「あ、あいつ、何でまだ動けるの……!?」

 

全身ボロボロで、息も絶え絶え。それでも未だ立ち上がることが出来るヒカルに、ルーシィたちは驚愕の表情を浮かべる事しかできない。シエルが編み出した電流の地雷群をまともに受けたとは思えないほどのタフネス。驚異的な耐久力を持っている巨漢の姿勢に、怯まざるを得ない。

 

「さ、さすがの自分も、今のはかなり効いたっスよ……。とことんこの子にはお仕置きする必要があるっスね……!」

 

苛立ちを隠さず、ヒカルはそう言うや否や押し潰していたシエルから手を離し、咳き込んで立つことが出来ない少年の背中を踏みつける。先程よりも重たい衝撃が小さい体に襲い掛かった。

 

「あがっ……!?」

 

「テメェー!その足をどかせぇーーー!!」

 

容赦なく少年を踏みつけにした巨漢に向けて、炎の足を振りかぶるナツ。だが怒りに身を任せた単調の攻撃は簡単に躱され、お返しとばかりにナツの顔面に掌底を叩きこむ。思い切り吹っ飛ばされたナツが岩壁に激突すると、その岩壁の一部が崩れて瓦礫と共に落下。下半身が埋まって下敷きとなってしまう。

 

「ナツ!!」

「大丈夫!?」

 

「ぬおおおっ!やべェ!出れねえぞコレ!!」

 

大きなダメージがある訳ではないようだが別の意味でピンチだ。大小様々な岩が彼の身体を固定していることで、そこから抜け出せなくなってしまっている。シエルは巨漢に踏みつけられ、ナツも岩石群の下敷き。動ける戦力はルーシィのみ。

 

「待ってて!まずはシエルを……!」

 

至急救助すべきなのは少年と判断し、処女宮(バルゴ)の鍵を取り出して門を開こうと構える。だが直後、彼女の身体から力が抜けて、膝から崩れ落ちた。魔力切れだ。最初にヒカルと遭遇して戦っていた時から、ルーシィは黄道十二門の星霊を次々と召還していた。ほとんどは有効打を与えられなかったが、ここに来てそのツケが回ってしまったのだろう。思わぬタイミングでこれまでの疲労が重なってしまった。

 

「(こ、このままじゃシエルが……!!)」

 

必死に腕を支えに立ち上がろうとするも力が上手く入らない。それどころか、苛立つままにシエルの身体を踏みつけ、蹴りつけ続けるヒカルの暴行を、見ている事しかできていない状況だ。

 

「まだまだ……!自分が傷つけられた(ハート)の痛みは、こんなもんじゃないっスよ……!!」

 

襲い来る衝撃と、巨漢の重みと言う、二重の蹂躙を受けているシエルは痛みに藻掻いて言葉を発する余裕すらなくなりかけている。と言うよりも、ヒカルのシエルに対する苛立ちの大きさが助長して、彼が何かを言うよりも先に次々と足蹴にしていっている、と言った方が正しいか。

 

「シエル!逃げろ!何とか抜け出せぇ!!」

 

場にいる者たちほとんどが動けなくなってしまう中、どうにか隙を突いて抜け出すように懇願を叫ぶナツ。岩に身体を挟まれて動けない中で、仲間に呼びかける事しかできずにもどかしく思うと言う感情が伝わってくる。

 

そんなナツに対して、苦し気に息を切らし、傷だらけになりながらもシエルは答えた。

 

「慌てる必要なんて……一つも、ねえよ……ナツ……」

 

その呼びかけに対する答えに、ナツだけでなくルーシィとハッピーも声を失う。彼らが見たシエルの表情は、どう見ても苦しそうだったのに、浮かべているのは不敵な笑み。

 

「この程度の、痛みで……怖気づくほど……柔じゃねーし……!」

 

今にも折れてしまいそうな体格差。抜け出すには困難な状況。それでもなおシエルは毅然とした態度を崩そうとしない。虚勢や強がりのようにも見えるが、シエルにそのような意図はない。

 

これよりも辛かったことなど何度もあった。これよりも痛かったこともいくつもあった。シエルからして見れば、たかが数回重い攻撃を食らった()()の事。命の危険と隣り合わせとなる魔導士の道を選んだ時点で覚悟していた事だ。だから今の状況とて、心の底から大したものじゃないと断言できる。

 

 

 

そう。幼かった頃……あの頃に味わった地獄に比べたら……。

 

「こんなの、どうってことねぇからさ……!そんな顔、すんなよ……!ナツらしくも、ない……」

 

シエルの浮かべた表情は、ナツたちの目にどう映ったのだろう。不敵そうに浮かべていたその笑みは、一転して仲間に心配をかける必要を感じないものへと変わっていた。だがそれがどうしようもなく、いたたまれないものを感じさせてしまっていた。

 

「さて……そろそろそのキレイな顔、ぐちゃぐちゃにしてやるっス。自分は残忍っスよ……!!」

 

足蹴にすることに飽きが来たのか、あるいはいつまでも折れない様子の少年に痺れを切らしたのか、ヒカルはシエルから足をどけて彼の頭を大きな手で握りながら持ち上げる。痛みで思うように体を動かせないシエルは無抵抗に体を重力に垂らせたままだ。それを見たナツたちは悟る。このまま彼の頭を握り潰すつもりだ。

 

「やめろォーーー!!」

 

ヒカルの目論見通りにはさせられないと、激情のままにハッピーが翼を広げながらヒカルへと特攻してそれを食い止めようとする。しかし……。

 

「ぶぎゃ!!」

「「ハッピー!!」」

 

対して力を入れない、虫を振り払うようにヒカルがハッピーをはたき落とし、そのままハッピーは地面へと激突。彼の相棒と星霊魔導士の少女の声が重なって響く。

 

「邪魔する奴はもういないっスね。さあ、潰れるっス……!!」

 

そしてヒカルはそのまま掴み上げているシエルの頭に対して力を込め始める。巨漢に見合うその力に小柄なシエルの頭部が握られればどうなるかは明白だ。骨が軋むような音と共に、掠れるような少年の悲鳴が発され始める。ナツの怒号が、ルーシィの慟哭が、シエルの耳に届くが、ヒカルをどうにかできる者はもういない。

 

さすがに、ここまでか……。シエルの脳裏に、諦めると言う選択肢が浮かび上がった、直後だった。

 

 

 

斜面となっている上の方から勢いよく飛び出して、こちらへと飛んで近づいてくる存在がこの場に現れた。影となってよくは見えないが、人のようで、幾分か小さく映っている。

 

「あ、あれは……!」

 

現れたその影の正体に気付いたルーシィたちに衝撃が走る。その影は空中で身を翻しながら、こちらに振り向いている途中のヒカルに向けて攻撃を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「天竜の咆哮!!」

 

それはまるで横に巡る竜巻。迫りくる竜巻に対処も追いつかず、ヒカルの身体は吹き飛び、シエルの頭もその手から離された。解放されたシエルはと言うと、攻撃を放ったその存在の声を聞いて、動揺が大きく見られていた。何故ここにいる?そう、素直に思ったからである。

 

ふわりと風に乗っているかのように、ツインテールで結ばれた藍色の髪と衣服を揺らしながら、その存在はシエルの近くへと着地し、彼の顔を覗き込むように声をかけてきた。

 

「シエル、大丈夫!?」

 

「……ウェン、ディ……!?」

 

小さな天竜・ウェンディ。シャルル達と共に待機しているはずの少女がこちらを心配するように見下ろしている光景に、シエルは己の目を疑った。どうして彼女がここにいるのだろうと。ナツたちも同様だ。

 

「心配になって、私も追いかけてきたの。間に合って良かった……!」

 

ダメージを負っているシエルの回復を始めながらウェンディは彼らの疑問に答えた。口には出さなかったが、シエルに起きているであろう異常の事がどうにも気掛かりで、放っておけなかったと言うのが彼女を突き動かした一番の理由だ。

 

「ウェンディも来たのか!?」

「でもナイスタイミング!!」

 

まさか彼女が来るとは思わずナツは目を見開いて驚き、同じように驚きながらも喜びの方が勝るのかハッピーは嬉しさを前面に出している。

 

「痛たたた……!ま、また子供が増えたっス……!?」

 

一方天竜の咆哮を受けて吹き飛ばされたヒカルは、その攻撃の正体を目に映して半ば呆然としながら立ち上がった。よもやもう一人子供の魔導士が現れるとは思わなかったようだ。

 

「動いちゃダメだよ。無理に動かしたら危険だから……!」

 

治癒の魔法をシエルの身体全体にかけながら、ウェンディはそう声をかける。見るからにボロボロの状態になったシエルは、下手に動かすのは危険と判断しての事だ。それに対して理解しながらも、ウェンディがここに来たことに対する衝撃がまだ大きくて、言葉が出てこない。

 

「ホントに……間に合って良かった……!」

 

言葉が出せなくて沈黙が続いていたのを、ウェンディが発した震えた声が破った。声が震えたのは、シエルに対する心配と、彼が無事だったことによる安堵が籠っていたからだろう。心配してくれた。心配をかけさせてしまった。二極する感情が、シエルの心に過ったが、それが言葉に出ることは結局なかった。

 

「ウェンディ危ない!!」

 

「さっきはよくもやったっスねーーっ!!」

 

攻撃から立ち直ってウェンディに対して怒りを滲ませたヒカルが、勢いをつけて子供二人に迫ってくる。ルーシィの声を聞いてその存在に気付いた二人が目を見開きながらその方向へ向く。「しまった……!」と声を発しそうになっているシエルがその瞬間感じたのは唐突な浮遊感。混乱しながらその状況を理解しようと目を配ると、更に驚きの光景が目に入っていた。

 

シエルの身体をしがみつくように抱えながら、ウェンディが瞬時に跳躍してヒカルの攻撃を回避していた。予想だにしないスピードと自分より少しだけとは言え大きい少年を抱えるパワーに、ヒカルさえも瞠目している。さらに……。

 

「天竜の咆哮!!」

 

顔を横に傾けながらシエルに当たらないように口からの咆哮(ブレス)が炸裂。ヒカルの身体が再び弾かれ、逆にウェンディはシエルと共に後方へと飛んでいく。そして岩の下敷きになっているナツや、力が入らず座り込んでいるルーシィの元へと辿り着く。

 

これまでの少女からは想像できない無駄のない動きに一同が驚愕の表情を浮かべていると、ウェンディはシエルを下ろしてナツたちの方へと振り向いた。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

 

「う、うん……ウェンディ、だよね……?」

 

「……?はい、そうですよ?」

 

思わず問いかけたルーシィに、その問いの意図に気付かず素直に答える。この様子は間違いなくウェンディそのものだが、先程までの彼女からは少し繋がらないように感じる。

 

「ウェンディ、ルーシィは魔力が切れて、これ以上は戦えないみたい。ナツは岩に下敷きになってるだけだから、抜け出せれば……」

 

何やらしばらく顔を赤くして俯いたままだったシエルが、我に帰ったようにウェンディへと現状を簡潔に説明する。そしてそれを聞いたウェンディがナツの方へと目を向けると、すぐさま行動に移した。

 

「じゃあ……ナツさんには、攻撃力増加(アームズ)!!」

 

「おお!?」

 

ナツの力を増強させれば自らの身体を抜け出す力も増加できると判断したウェンディが、剛腕の魔法を付加させる。力の漲りを感じたナツは湧き上がる力のまま、両腕に力を込めて抜け出そうと踏ん張り始めた。

 

「ルーシィさんには体力を回復する魔法を……魔力は回復出来ませんが、動けるようにはなるはずです」

 

「あ、ありがとう……」

 

そして更にはルーシィの体力を回復させて身動きだけでも取らせられるようにする。随分と機転が回る。これまでは経験不足が目立っていたはずの少女がとるにしては物珍しい行動だ。

 

「(凄いな……本当にこの子は呑み込みが早い……!)」

 

一方で、シエルは彼女の一連の行動に感心を覚え、同時に思い出していた。エドラスでの事件の後、試験が発表されるまでの期間にあった出来事を。

 

「ぐおおお~~!!もう、少し……!」

 

だが傍から聞こえたナツの声を聞いて意識はそちらへと持っていかれる。少しずつナツの上に乗っている岩が動いており、もうひと踏ん張りで抜け出せると言うところまで来ている。だが、そこからが進められないようだ。

 

シエルは妙に思った。パワーに特化しているともいい戦い方をするナツが、随分と抜け出すのに苦労しているのを。よく見ると、彼の得意技である炎の魔法すら、使っていないのに気づいた。

 

「ナツ、炎はどうしたんだ!?魔力切れか!?」

 

まさかルーシィに続き彼までも?そんな考えが過って回復した体を起こしながら尋ねると、「んあっ!!」と衝撃を受けたかのような声を発し、直後彼の足から赤い炎が噴射され、岩を破壊しながら彼の身体が宙を舞う。

 

「そうだ、その手があったァ!!」

 

『おいおーい』

 

どうやらただ単に思いつかなかっただけらしい。自慢の炎を用いてようやく下敷きから抜け出したナツが「それだ!」と言いたげな顔を浮かべながら放った言葉に、ウェンディを除いた味方勢から呆れた様子の声が発せられる。ウェンディの付加術(エンチャント)いらなかったじゃねーか。

 

「おのれ~!もう許さないっス~~!!」

 

すると憤怒の表情を浮かべながら、ヒカルは身軽な動きでこちらへと狙いをつける。すると何と、ウェンディは場にいる全員を庇うように前面へと飛び出した。まずい。誰もがそう胸中に呟いた。

 

「ウェンディ!」

「危ない!逃げて!!」

 

「い~や、逃がさないっスーー!!」

 

この中でも一番華奢で繊細と言える少女へと飛び掛かる巨漢の一撃。当たれば確実に無傷では済まないだろう。少年が真っ先に彼女の身を守ろうと足を踏み出そうと構え、飛び出そうとしている中……。

 

 

 

少女の顔に焦りは微塵も見られなかった。

 

「大丈夫です。逃げたりなんて、しません……!」

 

焦りどころか、少し前までの内気で臆病な面は鳴りを潜め、真っすぐに迫りくるヒカルの姿を目に収めながら、ウェンディは一歩も退く姿勢を見せなかった。

 

足を肩幅に開き直し、大きく深呼吸をしながら少女は腕を外側に大きく開く。その後円を描くように両手を下の方へと持っていく。

 

「!まさか……!」

 

彼女のとった動きを見た時、シエルは思わず自分の身体を止めた。ウェンディが今しようとしていることに、心当たりがある。気付いているのはシエルのみ。ナツたちは迫りくるヒカルの張り手からどうにか彼女を助けようと慌てて動こうとしている。

 

しかしウェンディは、動かしていた両手が下で接触すると、素早く胸の前に持っていき、交差する。両の手は握りしめられ、表情は一切の恐怖など感じない。ただ眼前に迫っている敵に対して一歩も退かない勇気を見せている。

 

「ドドスコーイ!!」

 

「……今だ!」

 

もう数瞬後には、ヒカルの攻撃が彼女を弾き飛ばしているところ。だが彼女は閉じていた目を開くと、交差していた両手を前へと突き出して、堂々と声を張った。

 

 

 

 

 

 

 

「『天竜の逆鱗』!!!」

 

突き出した少女の両手から、結集させていた白き風が、その形をとった。例えるならそれは、一枚の鱗。彼女の身体をすっぽり収める程の、巨大な風の鱗は、見ようによっては盾の形にも見える。そしてその盾の鱗は、迫っていたヒカルの張り手を受けても、一切形が変わることなく彼の攻撃を受け止めていた。

 

「な……!?こ、これ、何スか!?見えない、壁……!?」

 

透明度の高い白い風は、ヒカルの目の前の少女にさえ自分の攻撃が届かない現実を突きつけ、彼の心象に焦りを植え付ける。押し込もうにも進まない。激しく吹きすさぶ突風が、彼女のかざした腕から発せられているかのように。

 

「天竜の……逆鱗……!?」

 

「風の鱗で、あいつの攻撃を受け止めてるの……?」

 

「ウェンディ、いつの間にあんな技を……!?」

 

思ってもみなかったウェンディの新たな技に、ナツを始めとした仲間たちも驚愕を露わにしている。今まで彼女が扱っていたサポートの魔法、そして攻撃技として唯一覚えていた咆哮(ブレス)、そしてナツやガジルと言った、彼女とは別の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が扱う魔法とは、また違うベクトルの技。

 

「スゴイ……!まだ、全然日も経ってなかったはずなのに……!」

 

そんな中で、シエルはまた別の部分で驚愕していた。彼女が今繰り出した『天竜の逆鱗』。それを覚えるきっかけとなった出来事は半月と少し前……ウェンディとシャルル、それに兄ペルセウスとリサーナと共に依頼に行った夜だったからだ。

 

 

 

『技の練習?』

 

『うん。私、サポートや回復は色々使えるけど、いざという時に、自分でも戦えるように攻撃の技も覚えようと思って……』

 

シエルは触れたものを爆破させる詳細不明の魔法のコントロールを。そしてウェンディは、今現在考えている攻撃技の少なさに対する解決策をそれぞれ行おうとしていた。話を聞けば、同じ滅竜魔法を使うナツの技を、見様見真似でまさに練習中だと言う。

 

『けど、今まで攻撃魔法を使わなかったから、まだ感覚が慣れてなくて……シエルは凄くたくさんの技を持ってるでしょ?何か、思いつける方法があるのかな?って』

 

攻撃魔法のみならず、補助や回復、強化など、シエルは天候を操作するだけでなく姿形を変化させて大きく立ち回っている。特に気象転纏(スタイルチェンジ)は数々の天候の形を武器に変えていることから模範とも言えるべき特異性だ。

 

『と、言ってもなぁ……。俺は天候魔法(ウェザーズ)しか今まで使えないと思ったから、それを覚えるまでに興味のあった魔法の形をヒントにしたり、兄さんやエルザの換装魔法から気象転纏(スタイルチェンジ)を思いついたから、参考に出来るかどうか……』

 

『どんな事でもいいの!普段からしてる事とか、見るべき事とか!』

 

何もシエルと同じことが出来るようになりたいわけではない。魔法に得手不得手があるなど、彼女にとっても承知の上だ。あくまでシエルのように数多くの戦い方が出来るようになる為には、普段どのようにしてそのアイデアの基盤を作り上げているのか。習得のためにどのような事をしているのかを知りたいのだ。しかし……。

 

『イタズラの為にギルドメンバーの普段のパターンや魔法や能力とかを把握したり、魔導書を一日20ページは目を通したり、有名な魔導士の記事とか戦い方を勉強したり、魔導士以外の戦闘の心得も読んだり、物語に出るキャラクターの戦い方も頭に入れたり、それから……』

 

『ごめん、シエル、そんなには出来ない、多分……』

 

頭を傾げながら普段自分が行っている魔法のヒントになりそうな行動パターンを口々に挙げていくも、情報量が多すぎてウェンディが途中で止めてしまった。元々は本の虫だったシエルには苦じゃないだろうが、全て参考にしようと思うと彼女の脳が先に音をあげそうだ。もう一つ指摘すると、シエルは一体いつ寝てるのだろう……?

 

『やっぱり難しいな……。どうしたらいいんだろ……?』

 

先の長い、気の遠くなるような問題に、思わずウェンディの表情が暗くなる。やはり少しずつ練習を重ねていき、慣れるまで繰り返していくしかないのだろうか?と言う結論が頭をよぎる。そんな彼女の心情を汲み取ったシエルは、ウェンディの背中を押せる言葉がないか考えこむと、少し考えた後にその答えを導き出した。

 

『初めて会った時にさ、乗雲(クラウィド)の上で話してた事、覚えてる?』

 

初めて会った時。それを聞いてウェンディが思い出したのはニルヴァーナを巡って六魔将軍(オラシオンセイス)と激闘を行った時の事だ。ブレインに囚われ、助けられ、その後に移動していた時に話したこと。

 

心優しいウェンディの内にあった、誰かを傷つけることに対する忌避感と抵抗。それらを、彼女の優しさを尊重しながら払拭してくれた言葉。誰かを傷つける為ではなく、『大切なものを守るために戦う』事。忘れてはいない。忘れるわけがない。

 

『……うん、あの時シエルが言ってくれた言葉が、今も力をくれるの』

 

『きっと、ウェンディがこうしたいって思ったその出来事や思いが、君にとって一番の力や、きっかけになるんじゃないかな?』

 

自分に力をくれた言葉を贈ってくれた少年に、再び力となり得る言葉を贈ってもらったウェンディは振り返る。守るために戦う事。大切な人たちが傷つかないように、守れるように……。

 

『……あ!思いついた、かも……!』

 

そして彼女は閃いた。敵の攻撃に対してその力を最大限に発揮できるような、強力な盾となり、それを跳ね返す矛にも出来る彼女自身の技を。

 

どんな技になったのか、彼女は出来るようになってからのお楽しみだと、シエルにさえ教えはしなかった。他の技も習得しようとしていた中、これだけの短い期間で完成にまで辿り着いた彼女の努力とセンスに、正直シエルは脱帽した。

 

「ホントに、凄い子だよウェンディは……!」

 

押し込もうにも一向に進まず、逆に押し返されている感覚を覚えてヒカルは焦りを禁じ得ない。こんな小さな少女の繰り出した見えない盾も打ち破れないとは、七眷属の名が泣いている。意地でも破ろうと力を込めるも、状況は変えられない。

 

「触れましたね?この逆鱗に……」

 

目の前に見える少女が語りかけてくる。彼女の言葉を聞いたヒカルは思わず口ごもった。彼の目には、可愛らしい顔立ちの少女には決して似合わないある存在の影が重なって見えていた。

 

 

 

白く美しい鱗に覆われた、だがしかし圧倒的力を彷彿とさせる、(ドラゴン)の顔が。

 

「今……お返しします!!」

 

翳した手から弾き飛ばすように、両腕を勢い良く左右へと振り払うウェンディ。その動きにシンクロして、風で作られた鱗の盾もヒカルの方へと一気に放出するように近づき、彼の大きな体を宙に投げ出させた。悲鳴を上げながら飛んでいくヒカルは、今受けた風の盾の威力に目を見張った。まるでそれは、自分自身の張り手を、自分で受けたかのような感覚だった。

 

天竜の逆鱗。この技はいわばカウンターだ。相手の攻撃を自分の真正面から受け止め、自分自身には届かせずに攻撃のダメージを相手に向けてそのまま返すというもの。完成してから日が浅い為、どれほどの威力までなら返せるのか、使用限度が何回なのか、まだまだ力量は判明していない。だが、今この現時点では相手に有効であることは明らかだ。

 

そしてこの技はカウンターであると同時に、味方を庇い守る事の出来る盾でもある。仲間や友達を守るために、相手の脅威を通さぬために編み出した、ウェンディならではの魔法だ。

 

「ヴェエッ!!い、痛いっス……!」

 

弾き返され、背中から地面に墜落したヒカル。予想以上にダメージが大きいのか、横たわりながら呻いている。これはチャンスだ。

 

「ウェンディが作り出してくれた好機、逃しはしない!」

 

今度こそ。ここまでしぶとく戦ってきたヒカルに引導を渡す為に、最大級の大技で下さんとシエルは魔法を発動する。天に伸ばした手に浮かべたのは七色に光る虹。そしてその虹の姿形を変え、右の拳に集中させていく。

 

「行くぞ……纏虹拳(セブンスストライク)……!!」

 

高エネルギーの集合体を一点に集中させ、膨大な威力を発揮させる虹の拳。後は撃ち放つだけと言う準備を終えたシエルはそのままヒカルの元へと駆け出していく。この一撃で決めてみせると言う意志を見せて、肉薄していく。

 

「ヤベェ!!抜け駆けさせてたまるかぁ!!」

 

それを見て、何故か対抗心を燃やすと言う反応を示した者が一人。ナツがそう慌てながらもシエルが狙うヒカルの元へと駆け出していき、左の拳に炎を纏って狙いを定めた。何でナツまで!?とルーシィやウェンディが驚く中、ハッピーだけが呆れながらも答えた。だってそれがナツだから。

 

「ぐぐ……ウ、ウーウェ……!二人がかりだろうと、返り討ちにしてやるっス……!!」

 

対するヒカルは未だに諦めた様子を見せない。二人の魔導士が迫ってくる中、虹の拳を振りかぶるシエルと炎の拳を振りかぶるナツ、二人同時に迫ったとしても弾き返せる自信があるようだ。シエルたちもそれで退く気はない。駆け出していた二人の距離は徐々に縮まり、やがては並走する形となっていた。後は、どちらが先にあの巨漢にとどめをさせるかの勝負。

 

 

 

 

「ウェ……!?」

 

に、なるはずだった。呆けた声を発したヒカルだけじゃない。傍から見ていた少女たちと青ネコ、そして当のシエルたち二人も、予想だにしない出来事が起こっていた。

 

 

 

シエルの右拳に集っていた虹の輝きと、ナツの左拳に纏わっていた赤い炎が、近づいた影響か互いに干渉しあい、溶けて混ざっていくように見えていた。

 

「何だ!?」

「これって……!!」

 

駆けていく足を止めず、だが二人揃って困惑の表情を浮かべて、混ざりゆく虹と炎に目を配る二人。そうしている間にも二つの力は更に溶け合っていき、やがては二人の拳を覆い尽くすかのような、虹色に輝く炎が出来上がった。そしてその炎は、まるで竜の頭を模したかのような形をとっている。

 

「ナツの炎と……!」

「シエルの虹が……!」

「一つになっていく……!?」

 

後ろからその光景を見ている少女二人と青ネコは、ある一つの可能性を見出していた。本来は共通性の無いはずの魔法が、一つに合わさり、その威力を高めていく現象……否、技法。

 

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)』。

 

 

「な、何スかそれ……?何なんスかそれぇえっ……!!?」

 

全く予想だにしなかった出来事、そして桁違いの魔法のエネルギーに、ヒカルは全身から脂汗を噴き出し、顔に恐怖と困惑を滲みだしている。だが最早、発動させている二人にさえ、この合体した魔法を止めることは不可能だった。魔法から感じられる衝動のまま、二人は雄たけびを上げながら全く乱れぬほどの同じ動きのまま、左右対称に拳を振りかぶる。迎撃のため両手を差し出した体勢のまま固まった巨漢に対して遂に二人の拳は叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

「「『()(えん)(こう)(りゅう)(けん)』!!!」」

 

混じり合った炎と虹。それが凝縮された二人の拳がヒカルの腹部に炸裂する。

 

「ウ……!?ウ~~……ウェ……!!」

 

これまでに受けてきた技のどれよりも大きく激しい攻撃。ヒカルの身体があまりの衝撃に地から離れていき、徐々に浮かび上がる。炸裂してから浮かび上がるまでに、実際の時間は一秒も満たない。だが意識が半分ほど飛んでいるヒカルには、その瞬間が何十分も経つかのようなスローモーションで再生されている錯覚された。

 

そして二人の拳が降りぬかれると同時に、巨漢の身体は突風が巻き起こる程の信じられない速さで吹き飛ぶ。その勢いは飛んでいく先に存在している森の木々をなぎ倒し、吹き飛ばし、大木さえも根元から抉り取る。それでも勢いは止むことなく、奥に存在した彼と同じぐらいの大きさの大岩へと激突。だがその岩は粉々に砕け、ヒカルの身体を止める事さえも叶わない。どころか勢いはなおも止むことなくさらに延長線上に点在していた木々を折り、倒し、吹き飛ばしていく。

 

そしてようやく勢いが収まりかけたタイミングで森を抜け、野原を抜け、遂には天狼島の外周。海へと繋がる崖へと到達。「ウ~~~~~ウェ~~~~~~……!!」と悲鳴を朧気に発しながら、止んでいく勢いのままにヒカルの身体は島の外へと投げ出されていった。

 

彼の身体がどこまで飛んでいき、どんな最後を迎えたのか。それを見届ける術もないシエルたちは、呆然としながらヒカルが飛ばされた跡となる抉られた森を見ていた。

 

「何だ、これ……!」

 

「どんだけ、飛んでったんだ……?」

 

シエルとナツの合体魔法(ユニゾンレイド)。偶然の産物で出来上がったそれの威力は、目に見えて理解できる程に強大。今まで二人がそれぞれで扱っていたどの技をも上回ると確信していた。発動させたシエルたちも驚愕していたのだから、はた目から見ていた少女たちも当然愕然としている。

 

「シエルとナツさん……二人の強力な魔法が混ざって、何倍にもその力を高め合ったってこと、でしょうか……?」

 

「それが、合体魔法(ユニゾンレイド)になった……?」

 

元々竜迎撃用に強力と言われた滅竜魔法。天候を操る中でも高威力に重点を置いた虹の拳。二つの威力特化に秀でた魔法が、何かしらの反応を引き起こしてその威力を本来よりも大幅に高めたという見方が有力だろうが、それを加味しても予想外のものだった。攻撃を喰らった敵が、島の外まで障害を全て突き破って吹っ飛んで行ったのだから。

 

「まさか……合体魔法(ユニゾンレイド)を使えるようになるなんて……!」

 

シエル自身も、未だに実感が湧いていない。それもそうだ。本来なら合体魔法(ユニゾンレイド)は、ある魔導士が一生涯をかけても習得に至らなかったと言う特殊な技法。本当に息の合った者同士でなければ発動も困難な魔法だ。それがまさか、一切狙っていなかったタイミングで、魔法の系統が違うナツとの技を使えるようになるとは、考えもしなかった。

 

思わずナツと顔を見合わせると、彼も未だ困惑が強いらしく、驚愕を顔に出している。思ってもみなかったタイミングでの合体魔法(ユニゾンレイド)を自分たちで発動したことは、少なからず衝撃的だった。

 

「何か色々とワケわかんねーけど、これだけはハッキリしてんな……」

 

そんなナツは、困惑した表情のままではあるが、たった一つ確かになっている事柄を理解した。

 

 

 

「あのでっかいヤツをぶっ飛ばしたのはオレだから、この勝負はオレの勝ちってことだ!!」

 

 

 

 

「ハァ~!!?」

 

自信満々とも言いたげなドヤ顔と共に言い放った言葉に、珍しくシエルは顔を歪ませて不満の声をあげた。何を言ってるんだこいつは、と言いたげに。

 

「何でそんな結論になるんだよ!?」

 

「何でも何も、オレの火竜の鉄拳であいつはぶっ飛んだ!だからオレが倒したも同然だろ!!」

 

「とんでもない暴論じゃねーか!アレはどう見たって同時だったろ!!少なくともお前の一人勝ちじゃねえ!!」

 

自分の技でヒカルを倒したと解釈して、先に敵を倒せるかの勝負に勝ったと豪語するナツに、今回ばかりは譲れない……と言うより納得がいかないとシエルは抗議する。二人同時に技を出して、直撃したタイミングも同時だった。どう考えたって一人勝ちなどとは言えない。負けず嫌いな性分で口論が続くシエルとナツに対し、呆然としていた少女たちの内、ルーシィが溜息を吐きながら二人の口論を止めようと一歩前へ出た。

 

「ちょっと……ケンカするよりもっとやるべきことが、ふぎゃ!?」

 

が、足を動かそうとしたルーシィは突如片足を上げた状態になって固まり、そのまま前へと倒れ込んだ。唐突に襲った衝撃を受けて悲鳴を上げたルーシィに気付き、シエルたちのケンカも止まって彼女に注目した。

 

「ルーシィ?」

「何遊んでんだお前?」

 

「違うわよ!なんか体が勝手に……!!」

 

思うように動かず、体の自由を奪われているルーシィ。と、ここで気付いた。さっきもこんな現象を味わっていたことを。必死に目を動かして見渡してみると……。

 

「うぷぷぷ……!」

「やっぱり!ってか何であんたが持ってんの!!」

 

面白おかしそうに笑みを浮かべて吹き笑いしながら、ルーシィの毛が未だについた呪殺の魔道具である人形を操る青ネコ。どうやら使い手は選ばないようだ。ある意味予想していた原因にルーシィが叫んだ。

 

「見て見て〜!グラビアの、恥ずかしポーズ、三連発」

 

「やめんかぁーッ!!!」

 

そして器用に人形のポーズを変えていくと、それと同じ動きをルーシィの体が律儀に行なっていく。ちなみにシエルが来る前にヒカルの手で既にやらされていたネタらしい。

 

他にも本人からしたら不本意なポーズをさせられたり、妙な動きを取らされてその度にルーシィの悲鳴が上がる。自分の思った通りの動きをさせられる為、あれやこれやと人形を動かして楽しんでいる。逆に操られてる側のルーシィは涙さえ浮かべて大変そうだ。

 

「ハッピー、やめてあげなよ」

 

そんな彼女を見かねたのか、シエルはハッピーが持っていた人形を横から取り上げた。ハッピーからの支配から解放されたルーシィの体は地面に横たわり、力無く息と共に体を上下させる。

 

「あ、ありがとう、シエ……ル……?」

 

解放してくれたシエルに礼を言おうとしたルーシィだったが、肝心のシエルは手に持った人形に目を固定させている。何かを考え込むように。嫌な予感が過った。あの少年は自他ともに認めるイタズラ好き。そんな彼の手に、他者を自由に操れる人形が渡ればどうなるのか……。

 

「ちょ、ちょっと……?」

 

あからさまに口元を吊り上げてルーシィの方を見たシエルに、ルーシィは自分が抱いた嫌な予感が的中したことを察した。どうにかして彼の考えている行動を止められないかと声をかけようともしたが、もう遅い。

 

「ルーシィ……気を付け!」

 

ノーロさんを真っ直ぐに直立させると同時に、悲鳴を上げながらもルーシィの体は真っ直ぐピシッと直立状態となって立ち上がった。動きはしっかりとシンクロしてる。問題はなさそうだ。確かめた瞬間シエルの笑みがさらに深くなる。

 

「折角だから、普段のルーシィじゃできない動きをさせてあげようか……!」

 

どこかオモチャを与えられた子供が無邪気に喜んでいる時と同じように目を輝かせながら呟いた。本来なら傍から見ると微笑ましく見えるその表情だが、悲しいかな。手に持つものがその表情を確実に違うものに見せてしまう。

 

「はいダーッシュ!」

 

手始めに四肢を器用に動かし、ルーシィに全力ダッシュさせる。唐突に猛スピードで動かされ、ルーシィの悲鳴が木霊する。

 

「三、段、ジャーンプ!からのヒップドロップ!」

 

「ひやぁぁぁあっ!?あう!お……お尻が……!」

 

走りながらタイミング良くジャンプを3回。3回目に前方回転させたと思いきや空中で体勢を整え、地面に尻から着陸させる。勢いが強かったのか、思わぬ痛みを彼女は訴えた。

 

「はいバック宙〜!」

 

「ひええ〜!!」

 

しかしそれでもシエルは人形を持つ手を止めず、すぐさまルーシィを立ち上がらせると両手を広げた状態にして後ろへの宙返りをさせると……。

 

「再びダッシュ、からの側転ジャンプで壁キック!」

 

たまたま近場にあった水辺の岩壁に向かって走らせ、Uターンさせる要領で側転跳び。次いで岩壁をキックさせて更に高さを稼ぐ。

 

「そしてスライディーング!」

 

「ちょっ!?ぶぶくっ!!」

 

終いにはちょっと深めの水辺であることを良いことに、前面からそこへとダイブさせる。普通の地面にスライディングさせたらケガを増やすから、と言う謎に律儀な配慮のようだが、彼女からすれば元から自分の体で遊ぶな、と言うのが心からの主張だった。

 

「だっははははははは!!めっちゃくちゃおもしれぇことんなってんぞルーシィ!なあシエル、後でオレにも貸してくれ!!」

 

「やめてぇ!」

 

シエルによるルーシィの体を操るマリオネットショーの一部始終を見ていたナツとハッピーは、咎めるどころか大笑いし、面白そうだと次は自分がと言いたげにノーロさんに興味津々だ。散々自分の体で弄り倒してくる男子三人衆に泣き叫びながらルーシィは懇願するが、聞く耳を持ってはくれなかった。

 

だが、この場にはもう一人の存在がいた。ノーロさんによる人形劇もどきが始まってからずっと呆然と固まっていた少女。最初こそ奇特な魔道具であるノーロさんの効果に驚くばかりであったが、目の前で繰り広げられる光景を前にし、次第に頭が冷えていた。

 

そして……徐々に心の奥底から、ふつふつと激しい感情が湧き上がり、手や腕の震えが体全体に伝わり、表情も険しくなっていく。それに気付かず尚もやめない男子たちに、ついに彼女の堰が切れた。

 

「コラーーー!!!」

 

周囲に反響する程の、普段からは想像だにできないウェンディの怒鳴り声が場にいる全員の耳朶を揺らし、ピタリと男子組の動きを止めた。全員が肩をビクリと揺らし、今し方聞き馴染みのない声を上げたウェンディへと視線を恐る恐る向けた。被害者であるルーシィも驚愕で目を見開いている。そんなウェンディの浮かべていた顔は、確かな怒り。

 

「ダメでしょシエル!ルーシィさんはオモチャじゃ無いの!!ナツさんとハッピーも!ルーシィさんがかわいそうでしょ!!」

 

小柄な体ながらも大股でシエルたちに近づきながら説教をする少女の勢いは思った以上に凄まじく、先程まで嬉々としながらイタズラをしていた男子たちは恐々としながら口ごもり、ウェンディの言葉をただただ聞くばかりだ。普段は優しく穏やかな印象を持っていただけに、怒りに燃える様子は馴染みがないからというのもある。

 

「う、ウェンディ…!」

 

そんな男子たちを恐れ慄かせる彼女の剣幕はしかし、ルーシィにとってはまさに天の助け。普段とは違いながらも、天使のような彼女の姿を、感激の涙を流しながら彼女は確かに見た気がした。

 

「えと、その……ごめん、ウェンディ……調子に乗りすぎた……」

 

「私じゃなくてルーシィさんに謝って!!」

 

イタズラ好きの性が飛び出し、思い返せば悪質な事をしていたと深く反省するシエル。対して謝るべき人を間違えてはいけないと今一度声を張ると、ウェンディはシエルが手に持っている人形へと目を移して再び彼に近づいた。

 

「これ以上酷いことされないように、ノーロさんは私が没収します!!」

 

こんな人形があるからルーシィは酷い目にあったのだ。こんな魔道具を作り上げた者、それを使っていた華院=ヒカル、彼の属する悪魔の心臓(グリモアハート)、そしてこの人形で遊んでいたシエルたちへの怒りをぶつけるように、彼女はシエルの手から珍しく乱暴な力加減でノーロさんをひったくった。

 

 

 

 

だがこの場にいる全員が、忘れていた。その人形にはまだ、一本の金髪がついたままだったこと。

 

「え、あれぇ!?」

 

『ルーシィ!?』

「ルーシィさん!?」

 

ウェンディが人形をシエルからひったくった瞬間、それと同じ勢いでルーシィの体が浮かび上がり、彼方へと飛んでいく。突如起きた事にルーシィ以外の全員が驚きざまに彼女へと振り向く。さっきまで怒りを露わにしていたウェンディも含めてだ。

 

だが不運にも、人形はまだ彼女の手の中。勢い良く取ったものだからその反動がまだ残ったまま。加えて驚いた拍子に彼女が体ごと人形も動かした事によって、人形の胴部分も彼女の手の中で折れ曲がる。そして……

 

 

 

 

 

 

ボキリ、と嫌な音が響いた。

 

『あ』

 

 

 

 

 

 

 

「ぃやあああああああああっ!!!?」

「きゃああああああああっ!!!ルーシィさん、ごめんなさぁあああああいっ!!!!」

 

男子三人の間の抜けた一声で生じた一瞬の沈黙。それを突き破るベクトルの違う二人の少女の悲鳴が、森の中で響き渡った。




おまけ風次回予告

シエル「ルーシィ、大丈夫かな……?」

ウェンディ「ルーシィさんを助ける為に起こしたことが、ルーシィさんを傷つけてしまうなんて……!私何てことを……!(泣)」

シエル「ま、まあ幸い命に別状はないみたいだから、そこまで気に病むことないよ!……でもよく無事でいれたな……」

ウェンディ「でも、やっぱりルーシィさんにはもう一回謝らなきゃ……」

シエル「あ~、俺も謝っとかなきゃ……」

次回『荒天』

シエル「それにしても何だか……」

ウェンディ「うん……空が荒れてきそうだね……」

シエル「……凶兆じゃねーといいが……」
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