FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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中々ここ最近は難産続きです…。オリジナル展開挟み過ぎてるのかな…?でもそれが二次創作の醍醐味だし…。
せめて今週は連休なので次回更新は早めにしたいところ…。

話は変わりますが皆さん、FAIRY TAIL版画展ってご存じですか?多分知ってる方が大半でしょうが…w
来週何と地元で開催決定となったので、私事ですが行って参ります!どんな展示があるのか楽しみです!


第122話 荒天

聳え立つ一本の大木の下。その近くに横たわりながら、背中と腰にかけて優しい治癒の光を受けている金髪の少女は、激しい痛みがじわじわと鈍痛に、そして次第にその痛みも退いていくのを確認しながら息を吐く。呪殺魔法の一種である丑の刻参り。それを駆使できる人形ノーロさんによって散々な目に遭わされたルーシィは、ようやくその魔の手から解放された。

 

「ルーシィさん、痛みはどうですか……?」

 

「うん、随分と収まってきてる。ありがとう」

 

「いえ、元はと言えば私のせいですし……」

 

紆余曲折を経てはいたものの、最終的にルーシィの身体に一番ダメージ……もといトドメを刺してしまった形になってしまった事に対して、泣きそうな表情を浮かべながら彼女の治療を行っているウェンディは何度目にもなる謝罪の言葉を口にする。その時の痛みが大分引いてきたことでルーシィの表情も健やかそうな笑みが浮かんでいるが、ウェンディの謝罪にはすぐさま反応を示した。

 

「ウェンディは悪くないわよ!本当に悪いのは……」

 

そう。ウェンディはあくまでルーシィを助けようと動いた。その際に事故のような形で彼女にとどめを刺したに過ぎない。ウェンディには一切の非が無いことを改めて主張し、その上で真に反省すべき者たちへと、ルーシィは目を細めながら睨みつけるように視線を移した。

 

「あのバカどもよ」

 

そこには芝生の上に正座をさせられている三人(もとい二人と一匹)の男子。頭には拳骨を食らったようでたんこぶが出来上がっており、先程ルーシィに行った非人道的な行為を反省させられている様子に見えた。

 

「痛い……ヒドイよルーシィ……」

「どっちがよ!むしろそれだけで済んだだけありがたいと思いなさい!!」

 

頭に出来た一つのたんこぶをさすりながら涙を流し、ルーシィの暴力(本人視点)を非難する青ネコのハッピー。元々は呪殺魔法の人形を最初に拾った彼が元凶とも言えるのだから、彼にルーシィへの文句を言う資格もない。

 

「返す言葉もありません……。反省してます、ごめんなさい……」

「こういう時は割と素直よね……ほら、あんたたちもシエルを少しは見習いなさい!!」

 

たんこぶを二つ作った小柄の少年シエルは、拳骨が効いたのか、はたまた想い人である少女に叱られたことで消沈したのか、素直に心からの反省を示していた。掌返しのように謝罪を示すなら最初からするなと言いたくなるが、他二人が反省の気持ちゼロの為、この際シエルに対しては何も言うつもりはない。むしろ彼の姿を見ても自分たちの非を認めない他の二人に注意する。だが、代わりに返ってきたのは「いや、それよりもよ……」と言う不服そうな声をあげたナツの主張だった。

 

「何でオレが一番殴られてんだよ!?オレだけ何もしてねーだろうが!!」

 

目を吊り上げながら抗議する青年ナツの頭には三つのたんこぶ。この中で一番多く拳骨を受けていたことを表している。ナツとしては人形には触ってすらいないのにどうしてこんな扱いを受けなきゃいけないと怒りを爆発せずにはいられない状態だった。

 

「あんたも人形を手にしてたらほぼ確実に好き勝手やってたでしょ?それにハッピーやシエルを止めようとすらしなかったし、同罪よ!」

 

「理不尽じゃねーか!!」

 

しかしナツも、シエルが面白おかしくルーシィを操ってる様子を見て羨ましがり、止めるどころか一緒になって楽しんでいたことに関してルーシィは許容できる訳がないと口にする。尚も抗議を声をあげるナツだが、彼女の言を否定するものはここにいない。ウェンディもルーシィ側の意見のようだ。

 

「オイラだってそんなに大したことしてなかったのに……ホントルーシィって器が小さいって言うか……」

 

「な~。残忍っつーか、鬼だな、鬼……」

 

挙句の果てにはボソボソと自分たちの行動を棚に上げて、ルーシィが行った仕置きに対して文句ばかり垂れている。彼女が受けた仕打ちを考えれば相応、と言うかむしろ寛大のようにも見えるのだが……。信じられない事を口にする二人に真ん中にいるシエルが口を半開きにしてドン引きしている。言葉にするなら「こいつらマジで言ってんのか……?」だろう。当然そんな言われようをされたルーシィが気にしないわけもなく……。

 

「あっそう!じゃああんたたち二人がやった事を、エルザとシャルルにも報告して、代わりに叱ってもらおっと!!」

 

あからさまに不機嫌な表情でそっぽを向きながらはっきりと告げた彼女の言葉が耳に届くと、ナツたちの様子は一変した。一気に顔色を青くさせて、そして瞬時にルーシィの元へと移動した二人は、先程までの傲慢と言える態度など鳴りを潜めて低頭平身しながら謝り始めた。

 

「ごめんなさい!オレたちが悪かったです!だからエルザに言うのだけはご勘弁を~!!」

「どうかお許しくださいませルーシィ様~~!!」

 

何度も額を地にこすりつける勢いで土下座を繰り返し、涙ながらに謝罪の言葉を口にする火竜と青ネコ。ナツは恐らく耳に入ったら確実に制裁を下すエルザを、ハッピーは大好きなシャルルからの好感度が急降下することを明らかに恐れての事だろう。あんまりにも分かりやすい掌返しに、シエルだけでなくルーシィの治療を続けていたウェンディでさえも言いし得ない感情を表に出してドン引きしていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ルーシィの治療も済み、シエルたちはナツを先導にしてある場所へと向かっていた。辿り着いたその場所には何の変哲もない大樹が一本立っている以外特に変わった様子はないが、ここには先程まである存在がいた場所だ。

 

「ここにゼレフがいたの?」

 

「もう連れていかれちゃったんだ」

 

黒魔導士ゼレフ。悪魔の心臓(グリモアハート)が探していたと言う伝説の魔導士。つい先程、ナツとハッピーはその位置に彼が寝転がされているのを見たそうだが、そこにはいたと思わしき痕跡すらなくなっている。

 

「何だこの臭い?あいつ何かまいていきやがったな……」

 

「あちこちに充満してる……方向さえ分かりませんね……」

 

嗅覚が優れる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の二人が臭いで追いかけようとするも、その特徴を知っているのか攪乱用に別の臭いをあたりにばら撒いたらしい。これでは追いかけられないだろう。

 

「目に映るものの中に、通った痕跡すら見当たらない……。ゼレフを連れてった奴はかなりの曲者だな。追いかけんのも手間がかかる……」

 

周囲に誰かしらが進んだ跡から追いかけようとシエルが目を配るも、それらしい痕跡は一切無し。随分と周到な人物が連れて行ったのだろうとあたりをつけ、シエルの表情が歪む。油断ならないことこの上ない。

 

「あの、シエル……大丈夫……?」

 

「ん?身体は何ともない、と思うけど……どうして?」

 

「う、ううん、何ともないならいいの……!」

 

しかしふとウェンディが心配そうにシエルへと妙な事を尋ねてきた。特に体の異常は感じないし、ヒカルにつけられた傷はウェンディの治癒魔法で完治済みだ。魔力は消耗しているものの、それ以外に心配をかけられる部分はない。問題なさそうなシエルの姿を見て、笑みを浮かべながら繕うウェンディを怪訝に思い首を傾げるも、シエルは気付かなかった。

 

「ゼレフ」と言う単語を耳にしたり、口にした際のシエルに異変が生じないか。それが彼女の気掛かりであることに。

 

「あたしもカナを探さなきゃ……」

 

「そう言えば、カナが見当たらなかった。何かあったの?」

 

ルーシィはカナのパートナーとして試験に参加していた。そんな彼女がカナを置いて単独行動を起こすとは思えなかった為、実は不思議に思っていた。聞けば、いつの間にか眠っていて、カナの姿がどこにも見えなくなっていたらしい。それと同時に、華院=ヒカルに襲われていた、と言うのがあの状況の経緯だった。

 

「カナさんも心配ですね……」

 

「参ったな~少し寝るか」

 

「んな呑気な事言ってらんねぇだろ?敵は少なくとも三人倒せたとは言え、向こうの目当ては敵の手中。今まさに戦況は不利な状態だ」

 

「そうね……それにさっきも話した通り、あいつらはゼレフを使って世界を変えようとしてる」

 

追跡もままならず脱力したナツが悠長な事を口にするのをシエルとルーシィが窘める。だが世界を変えるだの、大魔法世界だの、スケールが大きすぎることもあって実感が湧かない為、危機感がどうにも感じ辛い。ハッピーに至っては「魚だけの世界に行きたい」だの言ってて論点ズレてるわ、対するシエルが「そんな地獄みたいな世界嫌だ」などと更に話を脱線させていく。ついでとばかりにウェンディも「私だったら……」と考え込みだしたので、ルーシィは最早ツッコむのも放棄した。

 

余談だが、ナツが撃破したザンクロウ、及びシエルと共に撃破したヒカルに加え、ルーシィからの話によるともう一人七眷属を倒せたらしい。正確には倒したとは異なる点が多くあるが、それについては別の機会に説明しよう。

 

「けどな……このケジメは必ずつける……。じっちゃんに手を出したんだ……。このまま島を出られると思うなよ、あいつら……」

 

横に伸びた大木の幹に体を預けていた先程までの呑気な態度から一変。自分たちの親であるマスター・マカロフを傷つけられた事に対する怒りを孕んだ剣呑と言える様を見せながら静かに呟くナツ。それに対して反対する者はいない。誰もが思っている。悪魔の心臓(グリモアハート)を許しはしないと。家族を傷つけた敵をみすみす見逃す理由はないと。

 

と、ルーシィはナツが呟いた言葉の内、一つの単語に気付いた。

 

「島を出る……?そっか!あいつらきっと、船かなんかで来てるはず!!」

 

ルーシィが気付いたのは、今いるこの天狼島が孤島であり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)である自分たちも元々は船を用いてこの島に来た点。そしてそれは敵側も同じこと。海を渡ったか空から来たかは定かではないが、大人数を乗せる何かを用いたことは明白。故に島の外周のどこかに拠点兼移動手段として停泊している可能性が高いと言う事だ。

 

そして先程ルーシィも目撃したウルティアと言う女性(?)は「ゼレフをマスターの元に連れてく」と言っていた。ゼレフが連れていかれるとしたら、奴らの船しかもう可能性はない。

 

「ハッピー!空からあいつらの船を探すのよ!!」

 

そうと決まれば、敵の船へと向かう方が話が早い。飛行手段を持つハッピーにすぐさま探しに向かうように告げるルーシィだったが、ハッピーから返ってきたのは……。

 

「オイラ、もう魔力切れちゃったみたい……」

 

「それじゃあただのネコちゃんねぇ~……」

 

戦力外化通告だった……。一日中ほぼほぼ翼を出していた影響から、彼の魔力はほとんど残っていなかったらしい。肝心な時に限って……。

 

「じゃあ、俺が乗雲(クラウィド)で探してくるよ。それくらいの魔力ならまだ……」

 

「待って!シエルはダメよ!」

 

ハッピー同様空中を移動できる手段を持つシエルが、ハッピーと代わりとばかりに名乗り出るが、何故か実行しようとした彼をルーシィは呼び止める。思ってもみなかったことに反射的にシエルは「え、何で!?」とおっかなびっくりと言った表情で彼女に振り向いた。

 

「敵の七眷属は、多くてあと四人。他のみんなもきっと戦って少なからず消耗してると思う。あたしも魔力がほとんどないし……ハッピーと違って戦えるシエルは、極力魔力の消耗を抑えた方がいいと思う」

 

「……それは一理あるな……」

 

戦況を鑑みて、いつどこから敵が現れるか分からない中で戦い以外に魔力を消耗することは得策ではない。それをルーシィから指摘され、シエルは納得を示した。いざという時にシエルの魔力が尽きてしまえば、その後のリスクの方が高くなってしまう。

 

「ねえ……今ルーシィ、オイラの事ディスったよね?ねえ……?」

 

ちなみに本人にそんな意図があるか否かは分からないが、ルーシィの言った何気ない一言に少なからずハッピーはショックを受けた。シエルも一切否定しないし、ナツは何のことか気付いていない。唯一察したウェンディが涙を流す彼を慰めていた。

 

「となるとあとは……シャルルとリリーか」

 

「なら、じっちゃんたちのトコに一旦戻るか」

 

ハッピーが動けず、シエルも温存の必要がある。となると空中からの捜索は他の場所にいるもう二人のエクシードに頼む方が手っ取り早い。すぐさまシエルたちはマカロフたちがいる場所まで戻り始めた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、天狼島内の別の一角。そこは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のベースキャンプのある位置と、島の中心に聳え立つ巨大な大樹のほぼ中間の位置。そこを少しばかり足早に歩くその人物は、うなじの位置で縛った水色がかった銀色の長い髪を持つ青年・ペルセウス。俯き気味に顔を伏せながらも、進めている歩は一切緩むそぶりはない。

 

伏せていた顔に浮かべている表情は、一見すると無表情。だが、細く開かれている双眸に宿しているのは、確かな怒り。

 

それを抱える要因となったのは、ほんの1、2時間前に爆発が起きたベースキャンプへと辿り着いた時に遡る。

 

『……!!』

 

息を切らしながら必死に足を動かしたペルセウスがそこについた時に見たのは、衝撃の光景だった。キャンプの為に設立していたテント、炊き出し、寝床などのスペースは見る影もなく散乱し、範囲の広いクレーターのようなへこみが出来上がっている。

 

更に彼の心を抉ったのは、そのクレーターの中心にいる存在だった。そこにいたのは二人の女性。そして二人ともに、その髪の色は白銀。それが誰なのか目についた瞬間彼は気付いた。

 

『リサーナ!ミラ!』

 

声を張り上げてすぐさまペルセウスは駆け寄ると、彼女たちのその全貌が明らかになった。両者の身体はどちらも土に汚れ、傷も多く、目に見えてボロボロだ。髪の短い妹・リサーナは比較的傷が少ないが、重傷なのは髪の長い姉・ミラジェーンの方だった。クレーターが出来る程の技……広範囲の爆発の魔法を受けたのは恐らく彼女の方だと推測できる。意識は失っており、ペルセウスの声にも反応していないようだった。

 

一方のリサーナは、姉のように気絶はしておらず、姉の身体に縋り付きながら肩を震わせてすすり泣いていた。ペルセウスが駆け寄り、再び彼女たちの名を呼びかけると、数秒だけ泣き続け、やがてゆっくりと姉の身体から少し離れる形で彼の方へと振り向いた。

 

『ペル……!ミラ姉が……!!』

 

溢れ出ている涙も止まらないままリサーナがか細くなった声でそれだけを放つ。ペルセウスはしゃがみこんでミラジェーンの手を取り、手首に指を当てる。脈の確認だ。ゆっくりとだが確かに動いていることは分かる。体温もそれ程下がってはいない。外傷を見ると命にも関わってもおかしくはないが、それを感じさせない謎の確信があった。不思議ではあるが、好都合。

 

『落ちつけリサーナ。ミラは生きてる。死ぬ心配もない』

 

『……ホン、ト……!?』

 

ペルセウスが告げた言葉に驚愕を示し、リサーナの目が見開かれる。ひとまずは彼女を安静出来る場所へと移す必要がある。森の中へと飛んで行ったであろう手当て用の道具を集めるようリサーナに頼み、ペルセウスはミラジェーンの身体を抱え上げる。

 

そして救急用の魔道具などを使いながら手当てとキャンプの跡地中からかき集めた藁で簡易的な寝床を作り、そこに彼女を横たわらせる。

 

『次はリサーナだ』

 

『わ、私は大丈夫だよ……!』

 

『そんなわけあるか。いいから』

 

ミラジェーンの応急処置を終えたペルセウスが、次にリサーナの手当を行う。彼ばかりに負担を負わせているようで遠慮しようとした彼女の言葉を切り捨て、腕や足の患部に軽い治療を行い、包帯を巻いていく。

 

『誰にやられた?』

 

処置を行いながら、徐に彼は問いかけてきた。彼女たち姉妹をこのような状態にした敵の事を、少しでも知っておかなければと思ったからだろう。

 

『……多分、敵の幹部……。物凄く強かった……けど』

 

彼女の脳裏に蘇る記憶。とてもない強さを持っていたその男は、圧倒的に自分たちを追い詰めていた。しかし姉がかの魔人ミラジェーンである事に気付いた敵は、彼女の本気を引き出そうと、不本意と言いながらもリサーナの事を利用した。

 

時限式の大爆発を起こす魔法でリサーナを拘束し、ミラジェーンの怒りを触発。だが本気を出して力を解放したミラジェーンとさえも互角以上に渡り合い、最後には妹を二度と失いたくないと、ミラジェーンがリサーナに襲い掛かる爆発を身代わりとなって受けた。

 

『私のせいで……私がいなかったら、ミラ姉が負ける事なんか……!!』

 

相手との力量にも目を背け、自分も戦えると前に出た結果敵に捕まり、姉はそんな自分を助ける為に自らを犠牲にした。それを思い出し、リサーナの目には再び涙が浮かび出す。自分が不甲斐ないせいで、ミラジェーンは……。

 

『やめろ、それ以上言うな』

 

自責の念に駆られて出てきていた言葉を、静かながらも芯の通った声でペルセウスが阻んだ。思わず弾かれるようにペルセウスの顔へ目を向ける。彼の視線は治療している彼女の患部に向けられたまま。しかしその表情には、少しばかりの悲しみが宿っているように見えた。

 

『自分がいなければ……なんて言葉……もう言うな』

 

リサーナがいなかった時……いなくなった時がどんなものだったのか、嫌でも思い出してしまう。当時のミラジェーンやエルフマンが、ナツやシエルたちが、そして自分がどれほどの悲しみを感じたのか……。

 

その時の悲しみを思い出させるようなことを、彼女の口から聞きたくない。多くは語らなかったが、リサーナには伝わったようだ。一言「ごめん」と謝罪を口にして、リサーナからの言葉はそこで途切れた。

 

 

それから少しすると、キャンプの跡地に茂みを揺らしながら辿り着いたものが現れた。数は二人。一人は重傷を負って気を失っており、もう一人が傷だらけの身体に鞭を打ってここまで運んできたのが伺えた。その運んできた方の人物は、昇格試験に参加していた候補者で最も小柄な少女。運ばれてるのは彼女のパートナーとして参加していた鉄竜(くろがね)の青年。

 

『レビィ!ガジル!大丈夫だった!?』

 

『私は何とか……。でも、ガジルが……!』

 

少女の方であるレビィがリサーナに無事かを聞かれるとすぐさま返答。彼女はそれほど深い傷も無いから動く事に支障は無いようだが、問題はガジルの方だ。

 

彼らは悪魔の心臓(グリモアハート)の襲撃を知らせる信号弾が上がるきっかけに巻き込まれたペアである。秘密裏に島へと侵入していたグリモアの魔導士二人組に急襲され、思わぬ苦戦を強いられた。七眷属じゃ無いとはいえその力量は高かったらしく、途中でレビィを逃して殿を努めたガジルが全力を出し切ってようやく相討ちに近い勝利。その代償が今の重傷状態だった。

 

『傷は深いが、ガジルの方も命に別状はなさそうだ。良い事だが……同時に不思議だ。これ程の怪我を負って、命を落とす心配がないってのは……』

 

ミラジェーンの隣に作った寝床へガジルを寝かせ、ペルセウスが彼の容態を診ると不思議そうに呟いた。二人とも下手をすれば命にも関わりそうな大怪我だ。だが感じられる魔力や顔色などからは、そんな危機などとは程遠く、安定している。

 

『ミラまで……負けちゃうなんて……!』

 

しかしミラジェーンと同様ガジルもこれ以上の戦線復帰は望み薄。想像を絶する強大な敵が待ち受けていることを嫌でも実感させられる。レビィの内側に恐怖心が徐々に募っていくのも仕方ないと言える。

 

いや、彼女の目に浮かんでいる涙は、恐怖から来たものとは違うだろう。ガジルを一人で戦わせたこと、足を引っ張る結果にしかできなかった無力さ、それに対する後悔が今の彼女を苦しめている。それは奇しくも、リサーナとほぼ同じ心境。

 

『……』

 

彼女の様子を見てペルセウスの脳裏にいくつもの記憶が浮かび上がった。未だに激しい爪跡が残るベースキャンプで、姉に縋り付いていたリサーナの姿。突如ギルドの面々に襲い掛かってきた悪魔の心臓(グリモアハート)の者たち。ウェンディに攻撃を仕掛け、評議院の船も爆破し、危険な目に遭わせたアズマ。

 

そしてこの天狼島で先程まで行われていた、昇格試験へ意欲的に精進してきた受験者たち。中でも、自分との戦いで勝利を掴み取った、弟……。最後に、自分が原因だと悲しげに語っていた、誰よりも恩義のある恩人……。

 

 

 

奴らは……それら全てを、踏みにじった……。

 

『リサーナ……お前たちを襲ったのは、どんな奴だった……?』

 

徐に、立ち上がると同時に問いかけてきたペルセウス。顔を俯かせて表情は見えないが、その声色は低く、明らかに機嫌は悪い。少し戸惑いながらもリサーナは思い出しながら答えた。

 

『体が大きい男で、肌の色は濃かった……。あと、魔法は何も無い所を爆発させたり、木の根っこを操ったり……』

 

『戦い自体を楽しんでいたり、か……?』

 

『!うん、そうだった、ミラ姉が本気を出した時も……って、え?』

 

その特徴には、心当たりがある。何故なら、最初に戦ったグリモアの魔導士と、一致している部分が多いから。横槍を入れるようにして言葉を挟めば、リサーナはそれに是を唱えてミラジェーンがその者と戦った時を思い出し、同時に疑問を抱いた。何故知ってるのか、と言いたげに。

 

そしてペルセウスは確信した。最初に自分が戦った相手と、リサーナたちを急襲した人物は同じであると。つまり……あの時自分が逃がさなければ、彼女たちが傷つくことは、なかった……。

 

『ペル……?』

 

彼女たちに背を向けながらも、それは伝わってきた。怒りだ。彼女たちを傷つけた男に対して……その男たちを一度逃がした自分の不甲斐なさに対して……隠す事のない怒りに満ちた魔力を僅かながらに身体から放出している。その様子にリサーナが戸惑いを示しながら彼の名を呼ぶも、ペルセウスは振り向きもせず、彼女に再び尋ねた。

 

『どっちに行ったか、分かるか……?』

 

そして時は現在。凶暴な性質も持つ天狼島の生き物たちでさえ、姿を目にした瞬間尻尾を巻いて逃げだすほどの闘気と怒りを放出しながら、ペルセウスは一人その方角へと歩を進めていく。

 

「七眷属・アズマ……今度こそ、逃がしはしないぞ……!」

 

追いかけてみろ?歓迎する?その余裕が、どこまで続くのか。徹底的に後悔させてやる。みすみす取り逃がしてしまった事で起きた悲劇を、自らの力の糧にして、ペルセウスは改めて決意する。

 

 

────たとえ誰がどう言ったとしても……奴は必ず俺の手で……!!

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、未だに昏睡状態となっているマカロフの傍らで、彼の容体に気を配りながらある者たちを待っている白ネコと黒ネコ。他に周りの人間がいない中、ただ黙してその者たちの帰りを待ちわびていた。そして……。

 

「シャルルー!リリー!」

 

自分たちの名前を呼んだその声に気付き、二人揃ってその方向へと目を向けると、呼びかけたナツを先頭に彼を追いかける為場を離れていたシエルたちも全員戻ってきた。途中で合流したのかルーシィも共にいる。

 

「やっと戻ってきたわね」

 

「ゴメンねシャルル。大丈夫だった?」

 

「私たちはね」

 

若干呆れを含みながらウェンディへと言葉をかけるシャルルに、言われた本人は一言謝りながらも異常はなかったかを問うた。シャルルとリリーは特に問題ない。あるとすればマカロフの方だ。

 

「マスターの容体は?」

 

「傷は塞がってるけど、また何とも言えないわ。相当深かったし……」

 

「だが不思議だ。命の危険を感じない……」

 

唯一マカロフの容体について知らなかったルーシィが尋ねると、すぐさま返答が返ってくる。下手をすれば命に関わる程の重傷だったと言うのに、一命はとりとめている。先程のルーシィも、下手をすればお陀仏になりかねない状態だったと言うのに、優れた治癒魔法を持つウェンディの治療を受けたとはいえ、回復も随分早かった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地と呼ばれているこの島に、何かしらの恩恵が備わっていると言う事だろうか……?

 

 

 

そんな事をシエルが考えていると、突如自分たちの近くに別の存在が介入してきた。台座のついた大きめの魔水晶(ラクリマ)(恐らくは通信用)と共に現れたその人物に目を向けると、その場にいるほとんどが警戒心を瞬時にあげた。

 

「貴様は……!」

「メスト……!」

 

坊主頭に近い黒の短髪を持った長身の男・ギルドに潜入していたメストだった。ウェンディたちの元を離れてからずいぶん時間がかかったが、戻ってきたらしい。リリーとシエルがこれでもかと睨みつける。

 

「な、何……?新たな敵……?」

「誰だコノヤロウ!!」

 

「……えっ!?」

 

するとウェンディは信じられないものを目にした感覚を覚えた。今、ルーシィとナツはメストに対してまるで知らない人物に対するかのような素振りを見せた。S級魔導士昇格試験のメンバーとして、彼の潜入期間中にはずっとギルドにいた人物のはずなのにだ。

 

「(やっぱり、記憶操作の魔法の使い手、か……)」

 

一方でシエルは、立てていた推測が当たっていたことを確認できた。メストが覚えている魔法の一種・記憶操作。多数の人物の記憶に存在しない記憶を植え付けて、ギルドのメンバーではない自分が潜り込みやすい環境へと変化させた。

 

そしてこの魔法は一種の催眠魔法でもあり、同じ系統には不特定多数へ自分を魅力的な存在に見せる魔法・魅了(チャーム)が存在している。共通点は総じて、かかった対象の解除方法が理解……魔法の事を知っている事や、自分が魔法にかけられている事への自覚だ。この場合はかけられていた時の記憶も残るが、その前に魔法を使用した側で何かしら解除された際は魔法をかけられていたことに対する記憶は残らない。

 

メストがギルドの一員でない事を知らないまま記憶操作が解除されたナツたちは、彼が何者かも未だ知らない状態と言う事になる。だからこそ初対面と同じ反応を示したわけだ。詳細を説明してやる義理もないが、ややこしいことが起こる事は避けておきたい。

 

「そいつはメスト。評議院の人間だから、こっちから殴るのはNGだ、ナツ」

 

「!?……あ、あっはっは、いいコートだね……」

 

今にも殴り掛かりそうな剣幕を浮かべていたナツは、シエルからの説明を聞いて様子を一変。瞬時に顔を引きつらせて口元に笑みを浮かべながら、掌を返してメストに友好的な態度を示した。あんまりな露骨さに周りのほとんどがジト目になっていた。

 

「本当の名は『ドランバルト』だ」

 

「……偽名だったのかよ……ま、どうでもいいけど……」

 

「ちょっとシエル……」

 

どうやら今まで名乗っていたのは潜入の為につけた偽名だったようだ。だがシエルからすれば些末な問題のようでつっけんどんとした態度を浮かべている。あからさまに煙たがっているその態度はいい印象とは言い難いのかウェンディから窘められるも、彼の雰囲気は変わらない。そしてメスト改め『ドランバルト』は、シエルに注意するウェンディに「いいんだ、そう接されても仕方ないと思ってる」と、どこか反省しているような様子を見せた。

 

「それと、オレはお前たちを助けに来たんだ」

 

そしてドランバルトから告げられた言葉に、各々衝撃と言いたげな反応を示した。本来であれば評議院の戦力を応援として呼びたかったようだが、状況が変わった。彼の瞬間移動の魔法を駆使すれば、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーだけを天狼島から脱出させられるとのことらしい。そしてそれにはメンバー全員の場所を把握する必要があると言うが……。

 

「お断りしますってヤツだ」

 

いの一番にナツが返したのは拒否だった。ドランバルトに衝撃と驚愕が走るも、彼以外に同じ表情を浮かべている者はいない。

 

「何で私たちが評議院の助けを借りなきゃならないの?」

 

「ギルドの問題は自分たちで片付けるさ。ここの連中は」

 

今の状況は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に降りかかっている予期せぬ事態。だがこれまでギルドの危機をギルドの力で乗り越えてきた彼らには、評議院の助けなど蛇足に過ぎない。加入してから日が短いシャルルとリリーでさえも、それを熟知していた。

 

「そうじゃない!今この状況を本部に知られたら、島への攻撃もあり得るって話だ!!」

 

しかしドランバルトは、問題は悪魔の心臓(グリモアハート)のみではない事を主張する。評議院が魔法界の目の上のたん瘤としている存在が三つも同じ場所に集結している。しかも周囲には民間人の存在もない。故に評議院が躊躇なくそれらが存在している天狼島へ攻撃を行う可能性がある事を。島への攻撃。それが何を意味するか一部はすぐに気が付いた。

 

「またエーテリオンを落とすつもりー!?」

 

「懲りないわね、アンタらも……」

 

ハッピーが全身の毛を逆立てて仰天し、ルーシィは呆れたように溜息混じりで呟いた。そのエーテリオンを巡る騒動で一度評議院は解体されたと言うのに、もう一度繰り返す気なのかと。

 

「エーテリオン?何だそれは」

 

「評議院が所有している、一発撃てば周囲の存在全てを抹消する破壊魔法さ」

 

その中でエーテリオンの存在を唯一知らないリリーが質問を呟くと、素早くシエルが簡潔に答えた。そして詳細を補足すると、過去に評議院は楽園の塔と呼ばれる海上の建造物にそれを投下した。当時はシエルやナツたちも現場にいたのだが、評議院に思念体を潜入させていたジェラール(アースランドの方でミストガンとは別人)が8年かけて用意していた魔水晶(ラクリマ)によってエネルギーは吸収され、一旦は事なきを得ていた。

 

「けど今回はエーテリオンを吸収してくれる魔水晶(ラクリマ)なんかない。落とされたら確実に、天狼島は消える……」

 

「そ、そんな!!」

 

楽園の塔はあくまでジェラールが敢えて落とさせるように誘導していただけだ。今回は対策などとれていない。険しい顔を浮かべて推測を口に出すシエルの言葉を聞いて、ウェンディが焦燥に駆られるように声を張る。

 

「その前にカタをつければいいだけだ」

 

「マカロフもやられた!悪魔の心臓(グリモアハート)にはまだ恐ろしい奴が残ってる!勝てる訳ねえだろ!!」

 

「だから、島ごと奴らを消せば手っ取り早い……って言いたいのか?」

 

マスター・マカロフの不在。そして評議院が掴んでいるグリモア側の()()()()()。ペルセウスとさえ互角に戦ったアズマの力を、直接ではないとはいえ垣間見ていたドランバルトは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に勝機はないと思っている。だがそれを外野から何と言われようと、妖精側も引き下がる気はない。寧ろ自分たちの問題に首を突っ込んでくることに対する苛立ちの方が大きい。

 

「この島は私たちのギルドの聖地。初代マスターのお墓もあります……!そこに攻撃するなんて……!」

 

「信じらんない!そんな事したらみんな……ただじゃおかないわよ!!」

 

「オイラたちはそうやってギルドを守ってきたんだ!!」

 

聖地として大切にされていた島へ、勝ち目がないからと外野から消滅させるほどの攻撃を投下してそれが無くなってしまっては、勿論ギルドの者たちは黙ってられない。普段は自分たちの上に立つ機関だからと甘んじて叱りを受けるが、この件に関しては許容できない。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の全員が同じ意見だ。それを聞いていたドランバルトは苛立ち気味になっていた顔に青筋が浮かび、とうとう激昂した。

 

評議院(オレたち)を脅すつもりか!!魔導士ギルド如きが!!」

 

 

 

 

 

 

その直後、ドランバルトのすぐ目の前に轟音を立てながら一筋の雷が降り落ちた。突如として発生した落雷に、一歩先を進めば直撃していた事に慄いたドランバルトだけでなく、ウェンディやルーシィ、更には落ちた途端に「うおわぁあああっ!?」と悲鳴をあげたリリーも驚愕を表し、ハッピーとシャルルも唖然としている。エクシード二人はリリーの方に驚いたようにも見えるが。

 

対してさほど驚いた様子を見せていないのは、変わらずドランバルトを睨んでいるナツと、今の落雷を発生させた少年シエルの二人だけ。

 

「いい加減にしろよ……上座でふんぞりかえるだけの奴らに、顎で使われてばっかの輩が、自惚れてるんじゃねえよ……!」

 

両手の拳を強く握りしめ、少しばかり顔を俯かせながら、低く地の底から出てくるかのような怒りを孕んだ声で苛立ちを呟き、一歩一歩ドランバルトへと近づいていく。

 

「自分たちの都合の悪いもんばっか、もっともな理由をつけて切り捨ててきた連中が……守るべきものや排するべきものも区別しないで、秩序の為だとかいう免罪符で色んな人たちを苦しめてきた耄碌どもが……何をしても魔導士たちなら逆らえないなどと、いつまで思ってやがるんだ……!!」

 

はっきりと口に出したことはないが、正直に言うとシエルは評議院に対して好感情を抱いていない。むしろ嫌いな部類だ。深い闇に囚われ、助けられる機会もなく、地獄のような日々を兄弟と過ごしていた時、奴らは助けてくれなかった。

 

逆に地獄の日々から解放してくれた家族のことは、目に余る行為が目立つことに同情はすれど、秩序の為にと言いながら平気で罪深い存在として断定している上、容赦なく居場所を奪おうとすらしている。

 

挙句の果てには、民間に多大な被害をもたらしていたバラム同盟の闇ギルドへの対応。散々放っておいた癖に、検挙の功績をもみ消して問題行為ばかり取り上げ、あまつさえ自分たちの手柄にする始末。

 

頭や理性で理解はしていたが、シエルはずっと心の奥底にしまい込んでいた。評議院に対する感情を。暴発させてはいけない負の想いを。しかし今この時、自然と固めていたシエルの枷が、外れたのだ。

 

「教えといてやるよ。俺たちにとってギルドは家だ。仲間は家族だ。けどお前らにとっては……“檻”なんだよ」

 

長身である自分を見上げるように顔を上げたシエルの表情に微かな恐怖を感じながら、ドランバルトは“檻”と言う単語に着目した。シエルが放つ子供とは思え無い殺気にも似た威圧感に、言葉を発する余裕すら起きないが、ドランバルトは続くシエルの声に耳を傾けた。

 

「解放させたら手の付けられない……法の鎖を外したら、評議員の喉笛を嚙み千切るような猛獣が詰め込まれた、堅固な檻だ。お前らに、その(ギルド)をぶっ壊す覚悟があるか……?」

 

それを聞いたドランバルトは、瞬時に思い出していた。目の前で見上げながら睨む少年の、兄が自分とその上にいる者たちに向けて忠告していた内容を。

 

『『猛獣を閉じ込めた檻を壊すなら、命を捨てる覚悟を決めてからにしろ』ってな』

 

猛獣……彼らは確かに問題となる行動を度々起こしている。実績はあるものの、何度もそれによって評議院の頭を抱えさせてきた。だがそれはあくまで、彼らがギルドの一員として活動していたからこそ、()()()()()()()結果だ。

 

もしも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々がバラム同盟の者たちのように闇ギルドとして活動をするような輩ばかりだったら?今や国一番のギルドが、敵対する勢力として独立したら?

 

少なくとも数名。単独であろうと自分たちを壊滅にまで追い込みかねない化け物たちがいる。もしも……彼らがこちらに牙を向けたら、と考え始めたところで、ドランバルトは理解すると同時に絶望に至るまでの恐怖を覚えた。

 

秩序の為と謳いながらこのギルドを、仮に潰したとしたら……?

 

「俺たちはな……お前らに飼われるだけでいる、出来の悪い暴れん坊の使い魔じゃねえんだ……。

 

 

 

 

 

 

その気になったら、評議院()でも闇ギルド()でも、(ギルド)の敵を全て滅ぼす魔獣の群れだ。喰われる覚悟もねえなら、不必要に俺たちの(たが)を外すような真似はすんな……!!」

 

そう言い切ったシエルの姿は、ドランバルトにどう映ったのだろうか。彼の心象を現すかのように、頭上の空模様は次第に暗雲で覆われ、雷鳴が響き出す。その様は、まさに荒天。

 

これまでの比にならない静かな怒りと憎悪を孕んだ少年の様相を目にし、自分たちが抱えていた想いすら一時的に薄まる程に、衝撃的だったとルーシィは後々実感することになった。

 

 

 

「お、おい……やっぱあいつ、雷を自在に操れるのか……?」

「雷どころか天気全般……って、あんたまさか雷怖いの?」

「カワイイとこあんだね」

 

「なあ、オレが言いてぇ事全部シエルに言われた気がすんだけど……」

「あんたたち……緊張感って持ってる……?」

 

そんな事を考えていたのは実は自分だけだったのでは?とやけに弛緩した他の仲間のやり取りで、ルーシィは思わずにはいられなかった。エクシード達はシエルの言ってたセリフが聞こえてたのかも疑わしいし、ナツはさっきからドランバルトを睨むだけで何も言わずに静かだと思ったら、言葉を挟む隙も見つけられなかったようだ。何だろう……空気台無しな気がする……。

 

 

だが、唯一そんな抜けた雰囲気に混ざらない存在が、シエルたち以外にもいた。空気の変化を感じ取り、すっかりと日の落ちた空を見上げたウェンディ。ただでさえ光を失った島周辺の空が、暗雲によって暗闇を作り出している。シエルが雲を呼び出したから……彼女でなければそうとしか考えられないだろう。だが、彼女は身につけた感覚で察知していた。

 

「シエルの力だけじゃない……。この空気……空が荒れそうですね……」

 

誰に言う訳でもない、今日の夜更けに来るだろう自然の荒天を予感して呟く。月も星も埋め尽くす暗雲から、帯電された雷の音が聞こえてくる。もう少ししたら雨も降ってくるだろう。その様相はまるで、この後にも続く戦いの激化を思わせるものだった……。

 

 

 

 

そしてウェンディはふと、もう一つの異変に気付いた。

 

「あれ……?あの人は、どこに……?」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

それからさほど時間も経たない内に雨は降りだしてきた。天狼島全域に雨雲は広まっていて、島内にいる者たちを等しく濡らしていく。

 

「涙が、オレの欲望(デザイア)を忘れさせる……。邪な瞳は闇にもがいて……」

 

その内の一人であるとある男は、まるで自分に酔いしれるように詩のような口調を紡いで雨をただ感じ取っていた。その容姿は銀色の短いリーゼントヘアに、青いサングラスをかけているのが特徴的な、外見的特徴で既にキザな印象を植え付けられる美形の男。口調も相まって、俗に言うと拗らせていると言わざるを得ない性格だと分かる。

 

男の名は、『ラスティローズ』。彼もまた、悪魔の心臓(グリモアハート)・煉獄の七眷属の一人である。

 

「何の詩だね、ラスティ」

 

「!いや……ただの(カケラ)の叫びだ」

 

突如頭上から聞こえてきた声に、ラスティローズは歩みを止めて声の主へと目を向ける。その先にいたのは彼のいる場所から人二人分上に存在する崖に腰かけて見下ろす同胞。誰よりも先に島に潜り込んでいた七眷属の一人・アズマだ。最初にペルセウスとぶつかった後にも戦いを繰り広げたのか更に傷が増えていて、身に纏っていた上の衣服は脱ぎ捨てたようで鍛え上げられた屈強な身体が露出している。

 

「アズマ、君にしては随分ボロボロだな」

 

「フム……強者と戦った証だね」

 

そう呟きながら彼が思い出していたのは主に二人。一人は妹共に襲撃してきた自分と対峙した魔人の女性。噂に聞いていたより力は劣っていたようだが、もう一人の実力者と対峙した時に勝るとも劣らない高揚感を覚えさせるぐらいには強かった。

 

そしてもう一人……彼は自分の期待を裏切らず、むしろその期待以上の強さを見せてくれた。あれほどの強者は長い戦いの記憶の中でもなかなか見られない。アズマの言うその存在が誰の事なのか、ラスティローズにも察することは出来た。

 

「例のペルセウス……孤高の堕天使(ルシファー)かい?」

 

「彼もそうだが、他にも目を引く者たちは何人か見られるね」

 

悪魔の心臓(グリモアハート)内で共有されている情報の存在。マスター・ハデスを通じて全員に周知されたその魔導士の実力を垣間見たアズマは言うまでもなく彼がいかに強大かを改めて認識していた。こちらの都合で一時中断と言う形になっているが、こちらに何かしらの思惑がある事は理解している様子。今頃は血眼になってでもアズマを探しているはず。

 

「そう時も経たない内に、こちらに追いついてくるだろう」

 

「つまり警戒すべきはペルセウスのみ、と……そう言う事だね。他の奴らはてんで話にならないし。オレの(カケラ)は震えない……」

 

見下ろしながら先程まで戦っていたペルセウスの事を伝える形で話していたアズマに対し、ラスティローズは自分が対峙したある魔導士二人組を思い返しながら肩を竦めた。魔導士の癖にやけにガタイのデカかった大男と、事あるごとにキャンキャンとうるさかったメガネの女。痴話喧嘩を繰り返していた様子は傍目から見ても相性が良いように映っていたが、所詮は自分の敵ではなかった。必死に自分へ喰らい付いてはいたが終始余裕にしていた自分にとっては、取るに足らないに等しい。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)で警戒する必要があるとすればマスターのマカロフ、最強と名高いギルダーツ、そして先程挙げたペルセウスぐらいだ。だがマカロフはハデスが下し、ギルダーツは既に島からいなくなっている様子。残るペルセウスはアズマが相手するだろう。彼とその弟に関しては決して殺してはならないと念を押されているから別の意味で厄介ではあるが、ラスティローズからすれば難しいことではないと言い切れる。

 

「侮ってはいかんね。妖精の尻尾(フェアリーテイル)……奴らの武器は魔力にあらず。信念を刃に変える力を持つ」

 

しかしアズマはその考えを否定する。驕ってはならない。慢心してはならない。個の力がいかに優れようと、時としてあの者たちはそんな個に優れた自分たちを凌駕しかねない地力を発揮すると考えている。そしてそれは、彼が先程下した魔人に限った話じゃない。

 

 

 

 

 

「どこだ……どこにいやがる……!」

 

その片鱗を感じさせたその青年は、周囲を見渡してその姿を探す。どんな目的があるのか定かじゃない中で探すのは悪手と言えるが、四の五の言ってはいられない。リサーナから聞いた彼が向かった方角のみを頼りに、青年はその姿を探す。

 

「おい、お前……ペルセウスだろ?」

 

だがその青年の足を止めたのは、探していた者とは別の声だった。険しく歪めた不機嫌そうな表情を変えず、声のした方へと睨むように目を向ける。一方で睨まれた方の存在は、狂ったように口元を吊り上げた。

 

「ずーっと、会ってみたかったってよォ。ようやく会えたって……!」

 

全体的に傷を残しながらも、狂人の如き笑みを浮かべながら、神を滅する者(ザンクロウ)は待ちに待った神に愛された者(ペルセウス)との邂逅を果たした。その目には、竜狩り(ナツ)と戦った時以上の狂いまくった感情が込められていた。

 

 

 

 

 

「キミがその信念を神器に込めた時……一体、どれほどのものに変じるのか、楽しみだね……」

 

追われるものと言う自覚を持ちながら、その状況にすら闘争による愉悦を感じ、アズマは雨雲を見上げながらほくそ笑んだ。




おまけ風次回予告

シエル「あの滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)、兄さんのとこに現れたって!?いつの間に目ぇ覚ましてたんだ!?」

ナツ「あいつオレがぶっ飛ばしてやったってのに!!どんだけ頑丈なんだよ!!」

シエル「ナツと言いガジルと言い、スレイヤー系って頑丈さに定評あるよな……って言ってる場合じゃない!相手はよりによって神の天敵のような奴だ……兄さんなら大丈夫だとは、思うけど……けど……!」

次回『神殺し』

ナツ「こーなったらオレが加勢するしかねぇな!!いやむしろ、俺がもっかいあいつをぶっ飛ばァーす!!」

シエル「落ち着けぇ!また数時間気絶するつもりかよ!?戻って来ぉい!!」
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