FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今回は短めにしようと思ってた…。だから先週の内に投稿できると思ってた…。
けど行き詰まって結局また一週間空きました…。ごめんなさい…。最近こればっか…!

来週は土曜も出勤だからやっぱり書けないし…やること多すぎぃ!!


第123話 神殺し

「おい、お前……ペルセウスだろ?」

 

唐突にそう問いかけてきた声に反応を示し、ペルセウスはその声の主へと目を向ける。そこに込められた感情は、明らかに不機嫌そのものだ。本来探していた男とは違う人物を睨む彼の剣呑な形相を気に留めた様子もなく、声をかけたその男はペルセウスを見下ろす位置となっていた高台から飛び降り、傷だらけに見える身体を気にした風も見せずに口元を吊り上げた。

 

「ずーっと、会ってみたかったってよォ。ようやく会えたって……!」

 

その者はザンクロウ。ペルセウスが探していたアズマと同じ煉獄の七眷属の一人。狂人と言う言葉が似合うその男の表情は、探し求めていた青年の姿を収めてより一層喜びに満ちているようだ。

 

「生憎、お前のような奴に構っていられるほど暇じゃねえんだ。怪我もしてるみてーだし、とっとと自分の家に帰って寝てたらどうだ?」

 

対するペルセウスには、ザンクロウへの興味の色がないに等しい。別の男を探す邪魔をされて不機嫌に歪めた顔をそのままに、ザンクロウを雑に追い払おうとしている。

 

「つれねーこと言うんじゃねぇってよ。オレっちはこの時をずっと待ちわびてたんだって」

 

しかしザンクロウは退こうと考えず、傷だらけとは思えないほど迷いのない足取りで身体を左右に揺らしながらペルセウスへと近づいていく。彼がペルセウスに対してこれ程の執心を見せる理由は……。

 

「神器……神が扱った武器を自在に操れる、神に愛された魔導士……もとい神の体現者……!」

 

ペルセウスが扱う魔法と、それによって広まっている彼の力。実在したと言われる神の力を宿した武具を使用できる特異な能力。その力は最早現代に存在する神と同等と言っても差し支えないとさえ言える。だからこそ……。

 

「折角覚えたんなら、本当に神に効くのかどうが、試してみたくなるもんだってよォ!!」

 

嬉々とした声で叫びながら、ザンクロウは手に宿した黒い炎を両手で合わせ、ペルセウス目掛けて放出。唐突に発せられた攻撃にも一切揺らがず、ペルセウスはその場を退避。攻撃を避けた彼に対してザンクロウは手に宿した黒炎を今度は叩きつけるようにペルセウスへと肉薄する。その攻撃でさえもペルセウスは焦る事なく跳躍して躱し、空中へと避難する。

 

「炎神の怒号!!」

 

それを好機と見たザンクロウは口を膨らませるとそこから黒炎を発射。それを見てようやくペルセウスの表情に変化が起きた。少しばかり驚いたように目を見開き、右手をかざして換装を発動。現れたのは鏡の光沢を持つ絶対防御の盾・イージス。全てを破壊すると形容した黒炎の攻撃を、一切通すことなく弾いていく。

 

「ウッハー!!」

 

しかし防ぎながら落下を続けていたペルセウスの死角から、黒い炎をデスサイズの形へと変化させていたザンクロウが現れて振りかぶる。そのまま防がれることなく斬り裂こうとした彼の攻撃はしかし、態勢を瞬時に変えてデスサイズの攻撃を持っていた盾で受け止めた。そしてその拍子に弾かれるようにして宙を移動したペルセウスは体を翻して態勢を整えながら着地に成功する。対して攻撃を完全に防がれたザンクロウも着地。思うようにいかなかったものの、その表情には苛立ちよりも納得の面が強かった。

 

「さすがにそう簡単には、堕天使を倒せねぇってか」

 

「神に迎撃するための魔法……話には聞いたことのある、滅神魔法か」

 

自分の嫌いな異名には聞こえないふりをしながら、ペルセウスはザンクロウが扱った魔法に当たりをつけた。神を滅することを可能にしたと言う話を聞く、滅竜魔法と同系統であるスレイヤー系の魔導士。滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)の存在を、思い出したように呟いた。

 

「さすがに知っていたかって。そう、お前のように神に愛された者にとっては天敵。神を滅することが出来る魔導士だってよ。その上、オレっちの使う炎は、ただの神の炎とはわけが違う」

 

自分の魔法を言い当てたペルセウスに気分を良くしたのか、ザンクロウは己が扱う黒炎がどのようなものなのか、ただの神の炎とはどのような違いがあるのかを、自慢気に語り出した。

 

「おめぇ、『カグツチ』って知ってっかよォ?」

 

ザンクロウが言うには、『カグツチ』と言うのは東洋で語り継がれている炎の神の一柱。国一つを作り出したと言われるある男女の神の間に生まれた最後の子供である神だと。最後である理由は、彼が生まれるよりも先に神としての力が強すぎたから。炎の神としての力が強力であったカグツチは、生まれ落ちる際にその強力な炎によって母である神『イザナミ』を焼き殺してしまった。

 

自分と同じ神。それも自分よりも強いはずである母神をその炎で殺める程、火の神が操る炎は強力であった。まさにその炎は、神殺しの炎。ペルセウスにとっては、非常に相性が悪い。

 

「ただ神が扱う炎とは違った、神を殺せる炎……それがオレっちの魔法だってェ!!」

 

高らかに語り、そして主張を叫びながらザンクロウは己の両手にゴウゴウと黒い炎を集中させていく。先程発したブレスをも凌ぐその高い魔力を感じ、ペルセウスは更なる警戒心が纏わせていく。何をしようと無駄な事。ザンクロウが今放とうとしているのは、まさにその神の名を冠した技。西の果てから東の果てまで焼き尽くす神の一撃。

 

「お前にこれが耐えれるかァ!『炎神のカグツチ』!!」

 

両手を突き出して放たれた黒炎の波動。その勢いは凄まじく、まさに全てを破壊する程の威力。範囲も広く、先程の攻撃たちのように回避することは難しい。現に迫りくる黒炎に為す術無く、ペルセウスがいた場所は呑み込まれ黒い爆発が発生した。

 

「ウハハハハ!!どうよ!?これで名実ともに、オレっちが神をも下せる存在だと証明されたってよォ!!」

 

神の力を、神からの愛を一身に受けた男を打ち倒した。それに至った実感から高笑いを上げて喜びに打ち震えるザンクロウ。滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)の名に恥じない戦果を得たことで、これまで以上に自分は躍進できるだろうと言う確信を噛みしめていた。

 

しかし直後、黒い爆発が起きた場所に残っていた黒炎が、勢いよく突きあがった水の柱によって押し上げられて消えていく。

 

「っ!?」

 

高揚した気分のまま高笑いを上げていたザンクロウは思わずその感情を引っ込め、表情に驚きを表す。まるで目の前に起きている光景が信じられないとばかりに。だが夢幻などではない。黒い爆発に飲み込まれていたと思われたペルセウスは五体満足。どころか火傷の一つすらついていない。

 

右手に握られていた青い三又の槍が持つ海神の力。迫りくる攻撃に対して自分の周囲に水の膜を張り、周りに残る炎を消火する為に水を一気に放出させたのが先程発生した水の柱だ。そんな彼の表情には焦りも安堵もない。どこかうんざりと言いたそうな、気だるげな表情だ。

 

「喧しい。よくもまあ一人でそこまで騒げるもんだ。魔法も似てるし、ナツを思い出すな……」

 

一人で散々に騒ぎ、笑う様子から鬱陶しそうにペルセウスはぼやきながらうなじに左手を持っていき、首を回す。面倒なことこの上ないと言いたげに放った言葉は、ザンクロウと同じ火のスレイヤー系魔導士であるナツを彷彿とさせることを意味しており、それを聞いたザンクロウは先程戦った同じ属性の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を嫌でも思い出させられた。自らの魔力を空にしてから食えるはずのない神の炎を喰らい、自らの糧へと変えた滅茶苦茶なやつの事を。

 

「あの竜狩りと一緒にされんのは屈辱だってよォ……!」

 

「一緒になんかしてねぇよ。さっきまでの攻撃を見てて分かった」

 

まるで同類だと言いたげに聞こえたザンクロウは、先程までとは違って機嫌を損ねていく。力も質も遥か上だと自負しており、奇策を用いないと自分にダメージすら与えられなかった竜狩りなどとは比べられることすら烏滸がましい。だがペルセウスはそれに対して否を唱えた。ザンクロウにとって、それは自分との共感に繋がったと解釈していた。

 

「ウヒヒヒ!何だ、しっかりと見てるんじゃねえか。オレっちが竜狩りなんかとは……」

 

損ないかけた機嫌が再び浮上するように笑い声をあげ、改めて実感したことを口に出そうとするザンクロウ。しかし……。

 

「お前よりもナツの方があらゆる面で上だ。勝手に自己評価を高くすんなよ」

 

口に弧を描いたペルセウスがその共感を否定した。いやそもそも、ザンクロウが考えていた事とは真逆の返答だった。自分と遭遇してからほぼ変わらなかったはずのペルセウスの表情が初めて変わったかと思えば……言われずとも分かる。あれは、嘲笑だ。

 

「あァ……!?」

 

ペルセウスにとって、自分よりもナツの方が上だと言い切った事実にザンクロウは額に青筋が浮かぶほどの怒りを覚えた。自分をあからさまに下に見ているどころか、本来であれば自分よりも遥かに劣っていた竜狩りにすら及ばないなどとほざいてきた。ザンクロウはもう冷静な判断をとる事などできずにいる。

 

「じゃあ試してみろってよォ……!竜狩りか、オレっちか……どっちが本当に上かってェ!!!」

 

胸の奥深くから感じられる。何とも形容しがたい怒り。それを力の糧にしながら、ザンクロウは溢れ出る魔力で自らの衣服と髪を揺らし、その魔力を黒い炎へと変えて掌に集わせていく。

 

本来であれば、ペルセウスは殺さないように言われていた。だがここまでコケにされておいて、奴の命を鑑みて加減をするなど限界だ。一切の躊躇なく、奴を焼き殺すつもりで攻め込む。それが今ザンクロウの脳内に残っていた感情だった。

 

「滅神奥義!!」

「換装……!」

 

自身の最強の技を放とうと前へ踏み出したと同時に、ペルセウスもまた三又の槍を収めて別の神器へと換装を始める。そのぶつかり合いは……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わり……一次試験にてEルートとして使用されていた洞窟内に、一人の魔導士が辿り着いていた。ウェーブがかかったこげ茶色の長い髪を持つ、受験者の一人であった女性・カナだ。

 

「ここに妖精の尻尾(フェアリーテイル)初代マスター・メイビスの墓がある……」

 

悪魔の心臓(グリモアハート)の襲撃があったことで、周知はされていないが試験はほぼ中断の形になっている。しかし彼女は、今回の昇格試験に対して、誰よりも、譲れない並々ならぬ想いを抱えていた。今後の人生をも、左右するほどのものを。

 

パートナーであるルーシィが、墓の在処となるヒントを突き止め、それを聞いたカナは試験に合格するために単独で教えられた場所へと向かっていた。絶対に、S級魔導士になると言う想いを持ちながら。

 

「雨、か……」

 

洞窟の中を進んで行くと外から聞こえてくる雨音に気付く。暗く染まった空、雨、天狼島、昇格試験……。

 

「あの時を思い出す……どうしても……」

 

 

 

カナ・アルベローナが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったのは、12年前。きっかけは女手一つで育ててくれた母の病死だった。母の遺言によって、健在であろう父の存在を知ったカナは、父親に会う為に妖精の尻尾(フェアリーテイル)を訪れた。

 

 

 

 

父親の名は“ギルダーツ”。

ギルドの中でも優秀な魔導士であり、仲間からの人望も厚かった。女にだらしないところもあるが、人柄の良さと高い実力を持つその姿は、憧れと同時に劣等感を植え付けられる要素になった。

 

何より彼は、自分が血の繋がった娘であることを、知らなかった。

 

 

自分が血の繋がった娘だと、ギルダーツは父であると、幼いながらに伝えようと何度か帰りを待つようにギルドを出入りするうちに、彼女は魔法を教わり、魔導士になった。しかしギルドで一番の力を持つ父との差が大きすぎる事と、それ故にギルドを空ける期間の方が長い為、長い間真実を言い出せずに大きく膨らんでいく。

 

本当のことが言えないまま時が流れていき、いつしか本当の事が言えなくなってしまっていた……。

 

 

『私が……?』

 

それが変わるきっかけになったのは、S級魔導士昇格試験だった。仕事の都合で試験の合間ギルドを空けるギルダーツに激励の言葉をかけてもらった時、カナは閃いた。S級魔導士。父と同じ称号。それを手に出来れば、父と並び立てた証になる。試験に合格して、S級魔導士になれた時、真実を伝えよう。彼女はそう決めた。

 

 

 

しかしその試験で、彼女の決心が揺らぎかけることになった。思い知らされることになった。

 

父に並び立つことが、何を意味するのか……。

 

 

 

S級魔導士と言う壁が、どれほど高く聳え立っているのか……。

 

 

 

思い出す。どうしても……。

 

暗く黒く染まった空。降りしきる雨。天狼島にある石舞台の上で……カナは一度も体験した事のない、恐怖と絶望を味わった。

 

 

 

 

 

世の中には、人の姿をした、怪物が存在することを。

 

その次元に立てなければ、彼女の望みが叶わぬことを。

 

 

 

一歩も動けず体を震わせていた自分の目の前で立っていたのは、一人の少年。

 

今にも倒れそうなほどの重傷を負いながらも、両手に剣を持ち、血まみれになった身体をしっかりと直立させている。

 

暗くなった空と、俯いたことで影を帯びたその表情は、分からない。

 

 

 

 

 

 

だが髪の陰から覗かせたその眼光は……まさに、修羅。

 

 

 

その年にギルドに入った同年代の少年は、その圧倒的な力と威圧、そして精神力で試験を突破し、最短でS級魔導士になった。

 

そんな彼に対してカナは……あの時、何も出来なかった……。

 

「(後にも先にも、仲間に対してあんな感情を抱いたのは……あんただけだよ……)」

 

同じギルドの仲間で、対峙したのは試験の時の一回のみ。もしも彼が敵として現れたとしたら、なんて考える事すら本能が拒絶するほどだ。あの時の彼の姿が頭に蘇るたびに、今も彼を思わず避けてしまう。

 

 

 

同時にこうも思う。彼のような魔導士が負けることなど、滅多な事が起きない限りは実現しないと言う事を。ギルドの最強魔導士である、父・ギルダーツのように……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一閃。

 

それが何を意味するのかは、今起きている光景ではっきり明かされていた。

 

「っ……!?何、だ……!?」

 

振るわれたのは明るい空色と暗い橙色の二色で分かれた一振りの両刃剣。縦に分かれた二色の光沢で振るわれたそれは、黒き炎をまるで実体があるかのように両断。そしてそれを放った狂人の身体も、袈裟斬りの形で剣閃が襲い掛かり鮮血を飛び散らせていた。

 

剣を振るったのは、換装魔法でそれを呼び出したペルセウス。斬られた狂人は、黒炎を操っていたザンクロウだ。斬られた側であるザンクロウだが、己が身に何が起きたのかが理解できぬのか、はたまた現実を受け止めたくないのか、焦燥に駆られた目を見開きながら、己を斬ったペルセウスへとそれを向ける。

 

何故自分が斬られている?先程の技は自分が扱うどの魔法よりも強力な、その名の通り奥義と呼べる大技だった。それがペルセウスが持つ剣によって両断され、気付けば使い手である自分自身も斬り裂かれている。気付いた時には既に終わっていたことも含めて、解せなかった。

 

「カグツチの逸話なら、俺も知ってる」

 

右の肩から左の腰にかけて感じる激痛と、徐々に失っていく体の力を感じながら、ザンクロウは徐に口を開いたペルセウスの言葉に目を剥いた。神器を扱い、神からの愛を一身に受けた男は、神に関する話も勿論知る限りのものを頭に入れていた。炎の神・カグツチの誕生と、その末路も。

 

「生まれると同時に母神であるイザナミを焼き殺した。それは確かだ。だが伝承にはその先がある。母、もとい妻を殺されたカグツチの父・『イザナギ』が、その後息子をどうしたのか……」

 

生まれ持った炎の体。それによってイザナミが焼死したその後、妻を失った夫である『イザナギ』は大きな悲しみを味わった。そして同時に激しい怒りを露わにした。父であるイザナギは、自らの得物を用い、生まれたばかりであったカグツチの首を刎ねて殺したのだ。

 

「カグツチの放つ炎ごと、生まれたばかりとは言え神の首を斬った……イザナギが使っていたとされるのがこいつ、『十束剣(とつかのつるぎ)』だ」

 

カグツチを斬首した父神イザナギ。その力を宿したのがペルセウスが換装で呼び出した神器。名の由来は拳大の大きさを表す“(つか)”が10個分の長さあるから、と言う安直のものだが、イザナギは元々ある一つの国の土台を作り出したとされる創造の神。その力が込められた神器の強さは先程証明されたばかりだ。

 

「残念ながら、相性が悪かったようだな。もう一つ言えば勉強不足だ」

 

大方ザンクロウは、自らが身につけた力の源であるカグツチが、母神を殺したことばかりに着目していたが故に、慢心をしていたのだろう。その直後に起こっていた短い生の終わりに関する事柄を聞き入れることがあれば、父神の剣による反撃を受ける事など無かっただろうに。

 

「クソッタレ……が……!!」

 

そしてザンクロウは、自身の失態に気付けることもなく、雨でぬかるんだ地面へと前のめりに倒れこんだ。致命傷は敢えて避けたが、目を覚ますには時間がかかる事だろう。止むことのない雨に、自らが持つ剣と衣服に少しばかりついた血。今自分が立っている聖地、そして倒れ伏した敵。思わずペルセウスの脳裏に、似たような光景がリフレインされる。

 

「そう言えば……あん時もこんな天気、だったか……」

 

奇しくも呼び起こされたのはとある記憶。あの日と同じ条件が揃った今の瞬間が、自然とペルセウスの記憶を刺激してきた。そして当時の事と同時に、ペルセウスはもう一つ、思い出していた……。

 

「今どうしてるかな……『ハリー』……」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

X779年12月……。

ギルドのしきたりにのっとり、その年にもS級魔導士昇格試験の参加者が発表されていた。今年参加を決めた魔導士たちは、ほとんどが未成年。だがその実力はギルド内にいる大半の魔導士たちに引けをとらない期待の高まる若者ばかり。同年代の中でも実力の高いエルザや、古株とも言えるカナに含め、加入わずか半年で抜擢されていたのがペルセウスだった。

 

「ペル!S級試験のパートナー、オレにしてくれよ!!」

 

試験の説明が行われたその後、大事な試験の参加者として選ばれたことに実感が湧かずに手持無沙汰に呆けていたペルセウスの元へ、前触れもなくそう声をかけてきたのは、ほぼ毎日自分へと勝負を挑んでくる桜髪の少年だった。興奮有り余ると言ってもいい状態になっているナツに対し、いつも通りな……しかし頼みごとの内容が若干違っている事への困惑が混ざった視線を向けながら、ペルセウスは問うた。

 

「唐突に何だよナツ……」

 

「だから!パートナーだよ!!一人選ばなくちゃいけねーんだろ!?」

 

問いかけに対して答えたナツの言葉に、彼は先程の試験発表の時の事を思い出す。そう言えば、試験開始までの一週間の間に、ギルドから一人パートナーを決める必要があると言われてたような、と。

 

「で、俺のパートナーに、なりたいと?」

「おう!」

「ナツが?」

「他に誰がいんだよ!!」

 

ペルセウスは純粋に疑問を感じた。確かにナツとは普段から交流がある……と言うよりナツが高頻度で自分に勝負を挑みにきたり、弟のシエルの見舞いに同行することが多いのだが、自分が受ける試験の手伝いに当たるパートナーと言う立場を希望するのは意外だった。それに自分は今年ギルドに来たばかりで、交流のある年数で言えばもっと多い者たちもいる。

 

「エルザやカナも受けるのに、何でわざわざ俺と組みたいんだ?」

 

「カナなら私と組む事になってる」

 

同じように試験を受ける者の名に連ねているエルザやカナがいる事を聞いてみれば、ナツとは別の少女からそれに対する返答が聞こえた。目を向けてみれば白銀の髪を後ろで結い上げた、魔人の二つ名を持つ少女ミラジェーンが、カナの肩に腕を回しながら得意げに笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

「試験ならエルザやお前とぶつかることもあるだろ?カナと組んどきゃ、二人ともぶっ飛ばせるチャンスが何回もあるわけだ」

 

「理由はともかく、力を貸してくれるのは心強いよ」

 

少しばかり苦笑気味に肩を竦めながら、ミラジェーンにされるがままのカナ。だが彼女の力自体は味方となれば相当頼もしい戦力であることに違いない。故にこの際理由は深く考えないようにした。

 

「そうか……で、ナツは何でパートナーになりたいんだ?」

 

「決まってんだろ!ペルとは味方同士だけど、エルザやミラと闘って、今度こそ勝つんだ!!」

 

「パートナーってそんな理由で決めても良いもんなのか……?」

 

ミラジェーンとほぼ同じ理由だった。何度も自分やエルザに勝負を挑んでは負け続けている(しかもボコボコ)のに随分と懲りないものだと寧ろ感心する。あとナツもそうだがミラジェーンも含めて、受験者の事よりも自分が他の受験者と闘いたいと言う理由はパートナーになる条件として適切なのか?と言う疑問がペルセウスに浮かぶ。

 

「そしてペルがS級になった後、ペルに勝ってオレもS級になる!」

 

「オメーがS級になれるわけねーだろ、バカか」

 

さらにここぞとばかりに受験者に選ばれなかった悔しさがあるのか、妙なことを言いだしてきた。ペルセウスをS級にした後にナツは自分と闘って勝ってS級になるつもりらしいが……どっからツッコむべきか迷っている内に別のところから指摘が入った。これでもかと呆れながらナツに辛辣なツッコミをしたのは下着以外身につけずにテーブル席に座っているグレイだ。

 

「おい今バカっつったか!?あァ!?」

「文句あんのかよ?バカ丸出しな謎理論を考えなしにほざいた癖に!」

「んだとコラ、この変態かき氷!!」

「やんのか、このバカ焚き火!!」

 

当然グレイの小馬鹿にしたような発言を耳にしたナツはグレイに突っかかっていき、いつも通りの低レベルな口喧嘩に発展する。そんな互いに睨み合い罵り合いを続ける二人を尻目に、ペルセウスの元へと一人の少女が近づいてくる。

 

「試験を受けるのはペルなんだから、ペルの事も考えたら良いのにね〜」

 

短い銀色の髪を持った少女。ミラジェーンの妹であるリサーナだ。そしてナツやペルセウスにとってはより親しい間柄の存在ともいえる。そんな彼女はと言うと、ペルセウスの方へと体を向けたと思いきや、徐に彼を驚愕させる問いを投げてきた。

 

「ねえペル?私がペルのパートナーになったげようか?」

 

「は!?リサーナがか……!?」

 

それはまさかの、自分のパートナーへの立候補だった。ナツならまだ妙な謎理論を実現させる為にパートナーにしろと言ってきたことは分かるが、まさかリサーナが自分のパートナーへと立候補してくるのはさすがに予想できなかった。思わず固まってしまったペルセウスが言葉を続けるより先に、リサーナへと苦言を呈したのは姉であるミラジェーンだ。

 

「ちょっと待てリサーナ、私は反対だぞ!試験とは言えお前が相手じゃやりにくいってもんじゃない!!」

 

「私だって妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だよ?そりゃあミラ姉と闘う事になっちゃうかもだけど、ペルの事応援だってしたいし!」

 

血の繋がった妹が、試験中ライバルのパートナーとして立ちはだかる事に良い感情を抱けないと考えている彼女は何とか説得をしようとするも、リサーナもリサーナで何やら譲れない様子。一応ギルドに在籍している期間は兄弟姉妹(きょうだい)揃って同じだ。いくつも仕事をこなしてきているし、友人の助けぐらいなら出来るはずだと。

 

「ね、どうかな?」

 

その思いは伝わったのか。口を閉じて姉妹の口論を見ていたペルセウスは、期待に満ちた笑みを浮かべて目を向けるリサーナに対して同じように笑みを浮かべる。肯定と受け取ったリサーナの表情がさらに明るくなった。

 

「けどダメだ。リサーナだと不安要素の方が強い。ついでにナツも」

 

「えぇー!?」

「んなー!?オレもかよ!!!」

 

が、まさかの却下。腕を交差してバツ印を作ったペルセウスのまさかの返答にリサーナは驚愕。ついでとばかりにナツまで要請を却下されたことに、グレイとの喧嘩が長くてエルザの鉄拳を喰らって沈んでいたナツがガバッと起き上がって不満を叫ぶ。

 

「お前たちの場合突拍子もないことをしでかすから、どんなことが起こるか分からない。常に手綱握らにゃいけない状況だと、集中でき無さそうだし」

 

ペルセウスが思い出すのはナツとリサーナのこれまでの奇行。今までも気付いたら依頼についてきて時には場所も選ばず勝負を挑んで来たり、橋から宙づりになったり討伐対象のモンスターに追いかけられたりと言ったことが起こって、度々ハラハラさせられた。試験の内容が如何せん分からない状態では、暴走状態に陥る可能性が高い二人を、片方とは言え御し切れる自信がはっきり言って、無い。

 

だが二人は揃って納得できていないようでブーイングをしながら不貞腐れている。無理にでも納得させるには……ペルセウスに出来る事と言えばやはり決まっていた。

 

「けどどうしてもパートナーやりたいなら、俺に一撃食らわせられたら許可するってのはどうだ?」

 

「えっ……」

 

条件提示……と言う名の釣りだ。自分がギルド内でも実力の高い魔導士であると言う自覚を利用し、軽い手合わせの誘いをちらつかせる。リサーナは無謀を起こしたりはほぼないのでこれで引き下がる。現に言った傍から顔を引きつらせて一歩下がるほどだ。一方のナツは……。

 

「一発ぶん殴れりゃいーんだろ?願ったり叶ったりじゃねーか!!行くぞぉ!火竜の……ごふぁっ!?」

 

「「瞬殺だーー!!」」

 

大歓迎とばかりに拳に炎を纏わせペルセウスに飛び掛かり、その直後見えない衝撃波の魔法を翳した右掌から発射したペルセウスによって宙へと吹き飛ばされ、直線状の壁に激突。めり込んだ。流れるような瞬殺劇に、リサーナとハッピーのツッコミが響いた。

 

「あ~あ……」

 

「やっぱりバカだ」

 

「諦めろナツー」

 

その様子をカナは憐れむように眺め、グレイは呆れるように佇まいを直し、ミラジェーンは腹を抱えて笑いながらヤジを飛ばしていた。周りも各々にたような反応で占められている。

 

とは言え、パートナーを決めることは絶対条件。今までは単身か、同行者がいても複数人のチーム形式だったことがほとんど。誰か一人と行動を共にすると言うのはあまりない経験だ。どうしたものかとペルセウスが唸っていると……。

 

 

 

「良かったら、僕が君と組むよ?」

 

物腰の柔らかい印象を与える青年の声がペルセウスの耳に入った。声の主へと目を向けると、ペルセウスにとって意外な人物がパートナーに志望してきたことに驚いた。

 

その青年は一見すると地味な印象を与えられる。暗い金色の短い髪を持ち、黒い垂れ目と黒縁のメガネがそれを一層に引き立たせている。肉体派の魔導士が多い妖精の尻尾(フェアリーテイル)には珍しい、インドア風の容姿と言える。だが、ペルセウスはギルドに入ってから、何かと世話になっている存在であると記憶していた。

 

「ハリー……あんたが?」

 

その青年・『ハリー』からの提案は、ペルセウスにとっても意外なもの。あまり表立って自らの意志を主張することはなかったはずだが、ギルドに入ってから何かと目にかけている少年の大舞台に、蚊帳の外で待ってはいられなかったのだろう。

 

「自分で言うのも何だけど、サポートに徹するぐらいなら、きっと力になれると思う」

 

彼は戦闘に向いた魔法を使えはしないが、サポート、援護に関してはどの魔導士よりも一線を画している。パートナー、と言う立場で言えばある意味誰と組んでもその能力を活かすことが可能のはずだ。

 

それはペルセウスにとっても都合のいいもの。ちょうどパートナーをどうするのか困っていたところ。渡りに船とはこのことだ。

 

「……だな。他に思いつかねーのも事実だし、こちらこそ頼まれてくれるか?」

 

「喜んで」

 

不敵な笑みを浮かべながら座っていた席から立ち上がり手を差し出す。対するハリーはいくつも年下の少年の要請に柔らかい笑みを浮かべて応え、ペルセウスの手を取った。




おまけ風次回予告

シャルル「天狼島って不思議な島よね。ギルドの聖地、初代マスターの墓がある場所、その上まだ私たちも把握し切れていない秘密が隠されているんでしょう?」

シエル「残っている文献には文字が掠れて読み解けない場所もあったし……まああれは敢えて魔法でぼかしてたっぽいけど……。そう言えば昇格試験の場所に何度も指定されてたような……?」

シャルル「そうなの?」

シエル「その上試験以外でここに来る事なんて全くと言っていいほど無かったし……考えるほど不思議な場所だな……」

『X779年・天狼島』

シエル「聞いた話だと、兄さんが合格した試験も、天狼島でやってたみたい」

シャルル「ギルドの聖地って呼ばれた場所、そんな都合よく使っていいのかしら……?」

シエル「案外墓の中にいる初代が、人が来なかったら来なかったで寂しがってたりして!」

シャルル「いや、甘えたがりの子供じゃないんだから……」
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