FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ようやく投稿できました!お待たせしました!!
何か…今までで一、二を争うほど書くの難しかった…!!
それでも頭の中にあった予定分では収まりきらなく手に分割することになってしまいましたが。

次回もなるべく盆休み中の投稿を目指して頑張ります!

あ、ちなみにいつも後書き欄に書いている次回予告、今回はちょっといいのが思いつかなかったので簡略して書いてます…。


第124話 X779年・天狼島

S級魔導士昇格試験。その舞台となるのは天狼島。一隻の船を用いて島に上陸した受験者とそのパートナーたちは、マスター・マカロフによって試験の内容を通達され、その試験内容に従って動いている。毎年その内容は異なるも、いくつかの試験に分かれている事だけは確定している。

 

現在は一次試験。島内に自生している、各々に指定された植物を採取すると言うもの。採取するように定められた植物は完全にランダムに指定されており、探知力だけでなく運も試されている。

 

「こんなただっぴろい島から一種類の植物を探すって、最初聞いた時は何の冗談かと思ったけど……」

 

内容を思い返しながらぼやき、足を動かして歩を進めるのは、受験者の一人としてこの島へと来ている少年ペルセウス。近くにはパートナーとなったメガネの青年ハリーもいるが、肝心のペルセウスの表情は辟易と言わんばかりのものとなっていた。

 

「ハッキリ言って、無理じゃね?こんなの」

 

ペルセウスたちに指定された植物は、歩けども歩けども見当たらず、群生地の情報も曖昧なもの。かなりの時間捜索に削られていたことにより、彼の集中力はほぼ失われているようなものであった。依頼の品を探す時と同様、簡単なものだと思っていたら思わぬ難易度の高さにショックを受けたのも大きいだろう。

 

「なあ……昇格試験ってこういうのばっかなのか?」

 

「さあ……?僕も参加するは初めてだから……」

 

思わずパートナーにぼやくように問いかけたペルセウスに対して、ハリーも要領を得ないと言いたげな反応だ。何しろ二人とも試験に参加するのは初めての事なので、前例が分からない。故に試験の対処がしづらい部分が大きい。気怠そうに歩を進めるペルセウスの後方で、周囲に目を配りながら追随していたハリーは何かに気付いた様子でペルセウスの名を呼びながら横手の道を進みだした。

 

「お、どうした?見つけたのか?」

 

「いや、目当ての物自体ではないんだけれど……」

 

もしや見つけたのか?という期待に満ちた声に生憎な否定を返すも、行き当たりばったりに似たこの状況を覆すものである植物をハリーは見つけた。屈みながら指をさし、地面から生えた一種類の植物群を示し、ハリーは自身の知る知識を説明する。

 

「これは僕たちが探している植物と限りなく似た環境下で群生している種類なんだ。だからこの近くに、もしかしたら目当てのものがあるかも……!」

 

「すげぇ……よくそんなの知ってるな……!いや、ハリーの魔法にそれが載ってること自体がすげぇのか」

 

しっかりとした知識が無ければ気付くことすらできなかった、目当ての植物と同条件で自生する植物の発見。それを為しえたハリーは空中に本の形をした魔法陣を浮かばせて、そこに描かれた絵や文章からそれに気付けたことを明かす。それこそがまさにハリーの魔法だった。

 

彼が扱う魔法は『知の辞典(ディクショナリー)』と呼ばれるもの。近い将来、上位互換として『古文書(アーカイブ)』が開発されることになるが、同系統の魔法と思っていい。直接脳内ではなく、魔法で生み出した辞書に情報を入れ込むことが出来、既に入れた情報を元に検索、抽出することが可能だ。戦闘能力こそ皆無と言える魔法だが、ことサポートに関しては際限ない知識でフォローすることをハリーは得意としている。

 

「ってことは、この辺りを満遍なく調べれば……!」

 

「見つかりやすいと思う」

 

群生する条件が同じ植物。ハリーの知識によれば、同じ場所で群生する可能性も高いもの同士とのことだ。希望が見えたような表情を浮かべながら二人は周囲を更に注視して、目的の植物の姿を探す。

 

「あ、あれじゃないかい?」

 

そしてハリーは見つけた。一段高い土台の上に、畑かと見紛う目的の品が群生している一帯を。それを指さした方向にペルセウスも目を向けると、途端に表情パッと明るく変えた。

 

「ホントに見つかった!ハリー、あんたのおかげだ、パートナー許可して正解だったぜ!!」

 

「お役に立てて何よりだよ」

 

こうしてみると案外年相応だと微笑まし気にハリーはペルセウスに笑みを向ける。早速採取しようと歩を向け、ハリーも後に続こうと足を動かす。だが、数歩のみ進んだところで何かを感じ取ったペルセウスが突如足を止めた。

 

「待てハリー」

 

「え、どうしたんだい……?」

 

「下がっていたほうが身のためだぜ……?」

 

唐突に告げられた言葉の内容に首を傾げるハリー。何事かとペルセウスが目を向けた方向に自分も目を向ける。すると、視界の先木々の奥から何者かが近づいてくるのが見えた。そのシルエットには、見覚えがありすぎた。

 

「お?ここでお前に出くわすとはな。丁度良かった……!」

 

逆立った金髪の髪。鋭い目つき。首にかけた棘付きのヘッドホン。そして浮かべた挑発にも見える不敵な笑み。今回の試験で障害として訪れていたその男こそ、現役のS級魔導士……。

 

「まさかの、ラクサス……!?」

 

「ハリーは戦うの苦手だろ?ここは俺に任せときな」

 

「そ、そうさせていただきます!!」

 

一次試験の説明時に、実はこのような事態に陥る可能性は説明されていた。現役のS級魔導士が、今現在天狼島にて受験者の障害役として島の中に来ている。そしてこの一次試験では、各々がランダムな動きになるように徘徊しており、受験者たちに遭遇した際には彼らを振るい落とさんと勝負を仕掛けてくるようになっている。

 

雷魔法のエキスパートであるラクサスのまさかの登場に、戦闘能力を持たないハリーはすっかり萎縮。そんな彼を巻き込まれない場所へと下がらせ、ペルセウスは右手で換装魔法で呼び出した紅炎の剣を握りしめて、ラクサスへと構えた。

 

「前からお前とは一度()り合ってみたかったんだ。楽しもうぜ……!?」

 

「せいぜい期待に応えてやるさ……!」

 

神の力を宿した剣を向けられながらも一切怯む様子のないラクサスを相手に、ペルセウスもまた一切焦りのない不敵な笑みを返す。S級を目指す資格を持つ者に対し、立ちはだかるは現役のS級と言う称号を持つ者。その中でも抜きん出た実力を持つ者同士が、天狼島の一角を舞台に激突した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「ラクサスと闘り合った!?マジかよ!!」

 

一次試験突破。その集合場所についたペルセウスとハリーは、一次試験で出くわしたラクサスと闘い、ペルセウスが勝利したことについて話題に出すと、それを耳にしたミラジェーンから驚愕と羨望の籠った声でいの一番に詰め寄られた。

 

「手は抜かれてたけどな。それでもかなり手こずった。やっぱ強ェな、あいつ」

 

「くぅ~~!羨ましい!何でペルじゃなくて私らのとこに来なかったんだアイツー!!」

 

「ミラ……勘弁してよ……」

 

あくまで試験と言う事で、障害役となるS級魔導士側は少なからず加減をして闘っていた。その前提があったとは言えペルセウスが闘った魔導士の中でも群を抜いて強い実力者であることは間違いない。マスターであるマカロフ、そしてギルドでも最強の呼び声が高いギルダーツを除けば、ほぼ確実に一番と思える程だ。

 

そんな事を話したら、ミラジェーンがショックを受けたように顔を歪め、体を震わせながら何故自分がラクサスの相手が出来なかったのだと心底悔しそうにしている。だがその反応は彼女をパートナーにしているカナからすればはた迷惑極まりないので、げんなりした彼女本人から苦言が零れた。

 

「ペルは兎も角、ハリーまでもがラクサスを相手に出来るとは知らなかったな。何故隠してた?」

 

「いや、僕は何もしてないから……」

 

そしてエルザは微妙に会話の内容を聞き逃していたのかペルセウスと共にいたハリーもラクサスに対抗できる実力者だったのかと曲解して、感心するように語り掛けている。苦笑気味にハリーが否定しているが、ちゃんと納得してくれたのだろうか……?

 

「さて、一次試験の突破者はこれで全部かの?」

 

雑談もそこそこにしていると、その場には試験を管轄するマスター・マカロフが現れた。ペルセウスたちを始めとする、一次試験を突破した数組の受験者たちが表情に気を引き締めた。合格した組の試験内容を発表した後、今度は二次試験に関する説明が行われる。

 

「では、続く二次試験は……この天狼島の敷地を利用した、レースを行う」

 

「レース……ですか……?」

 

「おいおい、草探しの次はレースかよ!?」

 

レースと聞いた受験者たちのほとんどは首を傾げ、中でも激しい闘争を求めているであろうミラジェーンからは文句がその口から飛び出してくる。彼女にとっては一次試験に引き続き、随分と手緩い内容に感じられるらしい。

 

だがミラジェーンが思うほど、その試験は甘いものではない。天狼島内部ではその島の中で独自に進化した原生生物が多く生息しており、中には気性の荒い危険な生物も存在している。その生物たちを相手にしながら、もしくは逃げながら、各々に指定された‘チェックポイント’を三つ巡る。‘チェックポイント’を巡ると、配られたカードにある場所についてのヒントが浮かび上がり、三つ全てを巡る事でより鮮明にその場所についての詳細が明らかになる。

 

そしてその場所はレースのゴール地点となり、指定された制限時間の間にゴールできれば二次試験突破となる。島の中を切り抜ける技量と速さが、次の試験で試される事柄のようだ。

 

「速さを競う試験、か……あんた、移動は速くできるのか?」

 

「生憎そんな魔法は覚えてないけど……何とかついて行ってみせるよ」

 

肝となるスピードについて、気になったペルセウスがハリーに尋ねると、少々自信なさげではあるもののそんな答えが返ってくる。ともかく行動あるのみ。カードが指し示すチェックポイントがあるらしい方向へと、二人は駆け出して行った。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

二次試験の天狼島レース。そのゴール地点となるのは、かつて天狼島に住んでいた者たちが儀式や祈禱を捧げる際に用いた石舞台。5年後にはペルセウスが試験官の一人として弟とそのパートナーを迎え撃つ場所となるのだが、それに知る者は当然、誰一人いない。

 

その石舞台には既に一人の青年が腰かけて誰かを待っていた。本来であれば島内の一角に立てられたベースキャンプで試験の脱落者や他の試験官と共にそこで待っているはずの人物。全身に軽い傷を負いながらも、応急処置が適切だったからか、単純に彼自身のバイタリティの高さ故か、そんな軽傷さえ感じさせないほどのリラックスした様子で佇んでいた。そんな青年・ラクサスの元へ、彼の祖父であるマカロフが辿り着いた。

 

「よぉ、説明お疲れ」

 

「お前もな。ペルはどうじゃった?」

 

「本気じゃないとは言え、このオレを打ち破るあの実力……確かに本物だ。ま、本気でやったらオレが余裕で勝つだろうが」

 

ゴール地点となる石舞台。マカロフがそこに来たのは、二次試験の合格者を待つことと同時に、その石舞台が三次試験……もとい最終試験の場所だからでもある。予定としている試験内容はいたってシンプル。残った受験者によるタッグバトルロワイヤルだ。ミラジェーンあたりが聞いたら跳び上がって喜ぶ試験内容だろう。

 

だがそれを楽しみにしているのは受験者だけではない。一次試験でペルセウスと遭遇し、()()()()を封じた状態とはいえ己に打ち勝った事に対して嬉々高揚としているラクサスもそうだ。加入した半年前から彼の人並み外れた魔力と戦闘力には一目置いている。自分とほぼ対等に並べる彼の事を、ラクサスは認めていた。最終試験でその力を更に振るう姿をこの目で見るのが、実を言うと楽しみにしているらしい。

 

「今年の合格は、ペルでほぼ確実だろうな」

 

「まだ分からんぞ?武力のみを推し量る試験ではない。そこに目を向ければ、誰しもが合格できる可能性を秘めておる」

 

そんなペルセウスが今回の合格者だろうと踏んでいるラクサス。しかし何が起こるか分からないのが昇格試験だ。エルザやカナも、同年代の魔導士と比べれば頭一つ抜いている。誰が試験を勝ち残るのか、未だにその結果は誰にも計り知れないのだ。

 

「そう言えばラクサス、イワンはどうしとる?」

 

「親父?キャンプの方に行ってんじゃねーのか?」

 

ふとマカロフが尋ねた言葉に、ラクサスは首を傾げた。マカロフはここに来る前にキャンプにも立ち寄ったが、ラクサスの父であるイワンの姿を見なかったらしい。ラクサスも父が今どこに行ったのかは知らない。

 

言いしえない不穏な予感が、マカロフの頭に過り始めた……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、二次試験の天狼島レースに挑戦している受験者のうち、ペルセウスとそのパートナーのハリーは、今現在天狼島に生息する気性の荒い怪鳥の群れに追い掛け回されていた。

 

「邪魔だァ!!」

 

そんな怪鳥たちに向けて橙色の炎を発する鎖・グレイプニルを魔力で操作しながら追い払う。だが、地に堕ちた怪鳥たちの無念を晴らさんとするように、別の鳥たちがさらに勢力を増やしてペルセウスたちに襲い掛かってくる。

 

「まだいんのかよ、しつけ―奴らだ!」

 

先程からずっとこの調子だ。降りかかる火の粉を払うように、襲い掛かる怪鳥たちを一掃しては再度来て、一掃しては再度来ての繰り返し。あのような奴らにかまけている時間もないと言うのに、ペルセウスのイライラはさらに募っていく。

 

「ペル!雷の神器を使って!」

 

そんな彼の耳に届いたのは、隣を走っているパートナーの声。彼がそう指示を出してくると言う事は、何か考えあっての事。そう瞬時に理解したペルセウスはグレイプニルをストック空間に戻し、代わりに雷の神器……紫電の大鎚であるミョルニルを呼び出し、振りかぶる。叩きつけられた地面を陥没させると同時に、周囲に紫の雷が迸り、怪鳥たちを蹂躙していく。すると追い払っても追い払っても襲い掛かってきていた怪鳥たちはとうとう敵わないと思ったのか全て逃げるように飛び去った。

 

「おお!逃げていった……」

 

「やっぱり思った通りだったよ」

 

怪鳥たちが諦めて逃げていった光景を見て、狙い通りに事が運んだとハリーは呟いた。どう言う事かと尋ねてみると、天狼島は年中常夏に似た猛暑が続く気候の場所。雨が降る日も滅多にないと言う。そんな環境で暮らしている生物たちには、その滅多に起こらない災害にも似た天候……雷の耐性が限りなく低いはず。そんな生物たちに雷による攻撃を食らわせれば、圧倒的な力を行使することが出来る存在、天敵として奴らに認識される。

 

後はその脅威から逃れるために自分たちから逃げていく、と言う狙いだった。そしてそれは見事に的中した。その思考に辿り着いたハリーにペルセウスは愕然すると同時に、何度も感じた頼もしさに思わず呟いていた。

 

「やっぱハリーと組めてよかった。俺一人じゃ、まだまだ出来ねー事もたくさんあるんだな」

 

「誰だって、一人で全部できる人なんかいるもんじゃないよ」

 

これまで唯一の肉親である弟の為に、一人で戦う術しか持てなかったペルセウス。他の誰も味方がいない状況下で過ごしてきた彼にとっては、支え合って生きている妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは、まさに未知との遭遇だった。

 

だがハリーが持つ考えは違う。ギルドの一員として、加入した時から何かと自分を気にかけてくれた人間として、一人で生きてきたと告げるペルセウスに対して諭すように言葉を続ける。

 

「一人でも出来るようになるにはそのやり方を知らないといけないし、そもそもやり方を知るには誰かから教わらないといけない。もっと元を辿れば、人間は生まれたその瞬間から、誰かに助けられなければ生きてはいけない生き物だと、僕は思う」

 

「確かに……言われるまで、考えつきもしなかったな、そんなこと……」

 

ハリーの言葉は、ペルセウス一人では決して考えつかなかった、達するに至らなかった思想を教えてくれた。一人で生きていくことの限度。誰かと支え合うことの重要さ。そして人は誰しも、助けられなければ生きていくことはあまりに難しいと言う事を。

 

「俺、この試験でハリーに助けられてばっかだな……」

 

「深刻に考えることはないよ。僕は君のパートナーとしてここにいるんだから」

 

自嘲気味に呟いた言葉に、ハリーは嫌がる事なく笑みを浮かべてそう返す。そもそもパートナーを決めあぐねていた時に、助け舟を出してくれたのもハリーその人だ。ずっと彼に支えられてばかりなのは、ペルセウスとしては気が引ける状態。ハリーにそう言えば気にすることないと返されるだろうが、それでは彼の気が済まなかった。

 

「じゃあ、ハリーが困ったら今度は俺が助けるよ。パートナーを助けることも、試験じゃ大事な事だろ?」

 

「いやいやそんな!寧ろペルに助けられたことなんて何回あったか……!」

 

今度は自分が助ける番だと断言する少年に対して、ハリーは狼狽えながら謙遜する。ハリーからすれば戦う力をほとんど持っていない自分が試験に臨めているのは、ペルセウスがいる事による力が大きい。「遠慮するな」と言いたげにしているペルセウスに、寧ろ気後れさえ感じているところだ、ハリーは。

 

「と、それよりほら!見えてきたよ!!」

 

すると目についたあるものに、これ幸いと意識を逸らせようと彼方を指さすハリー。そこにあったのは何度も目にしていた目的の場所。木々が密集する地域を超えた、岩場が目立つ荒れ地と言える場所。その一角。石の門と言うべき形をした直角の形をした岩場の隙間に、淡く点滅を繰り返す黄色い光の線が記されていた。これを見るのは()()()だ。

 

「あれか。最後の‘チェックポイント’は」

 

「みたいだね。あそこを潜れば、カードには最後のヒントが浮かんで、そこに書いてあるゴールに着けば、二次試験合格だ」

 

ここまで既に二つのチェックポイントを通過し、カードに二つ分のヒントを浮かばせているペルセウスたち。時間的にも順調に進んでいるはず。そしてここを潜れば最早ゴールまですぐそこと言っても過言ではない。

 

「よし、じゃあ早速……」

 

トーチ場となった石の門を潜ろうと、カードを取り出して駆け出していくペルセウス。置いて行かれまいと追随したハリーが彼の背中を見ながら、視界の端に何かを見つけた。

 

そして気付いた時には声を張り上げると同時に足を速く動かしていた。

 

「ペル!危ない!!」

 

唐突に声をあげたハリーに、反射的にペルセウスが振り向くも、彼の視界に映ったのは必死の形相でこちらに駆け寄り勢いそのまま自分を更に前へと突き飛ばしたハリーが……

 

 

 

横から突如飛んできた闇属性の魔法弾にその身体を吹き飛ばされた光景だった。

 

「ハリー!!?」

 

悲鳴を上げる余裕もなく荒れ地に何度も身体を叩きつけられ、力なく倒れこんだハリーに動揺するも、先程自分目掛けて飛んできたあの魔法弾の事に、すぐさま考えをシフトする。

 

「(今のは魔法……!?他の誰かか……!?)」

 

二次試験の説明を思い出すが、一次試験とは違ってS級魔導士の障害があるとは聞いていない。エルザが質問して確認していたが、妨害はいれないと確かに言っていた。残る可能性は他の受験者組の可能性だが、今の魔法を使える者は受験者側にいなかった。だが微かな魔力は感じる。

 

「そこか!!」

 

すぐさまペルセウスは金と銀に分かれた大弓を換装で構え、そこから10本の矢を一斉に発射する。拡散するように飛びながらも、狙った一点……大きめの岩場の陰に集中するように襲い掛かる矢の雨。それから逃れるように、一つの影が大岩から飛び出し、その正体を露わにした。

 

「っ!?テメェは……!!」

 

先程の闇属性の魔法をつける者は、受験者の中にはいなかった。しかしこの島に、こう言った魔法を使える魔導士が来ていることは知っている。気付きながらも、結びつけるのには時間がかかっていた。

 

「ったくよぉ……無駄に勘のいい奴はこういう時めんどくせェ……」

 

心底面倒だと、口からも態度からも示したように顔を顰めながらペルセウスたちを見やるのは、恰幅のある中年の男。顎には黒く濃い髭が蓄えられているその男は、ギルド内でも色んな意味で有名だった。

 

「い、イワン……!?一体何を……!」

 

名をイワン・ドレアー。マスター・マカロフの息子であり、ラクサスの父である魔導士。そしてラクサス同様S級として名を連ねる者である。そんな彼がこの場にいて、自分たちを襲撃してきた事実に、倒れこみながらもハリーが目を見開いて驚愕する様子を見せる。

 

「二次試験にもS級魔導士の妨害があるだなんて、マスターは言ってなかった気がすんだが?」

 

「そうだったのか?親父殿は歳のせいでボケちまったのかねぇ~困ったもんだ、ぶはははは!」

 

対するペルセウスは内心の動揺を抑え込み、皮肉を交えた問いかけをイワンにぶつけるも、どこかわざとらしく愉快そうに笑い声をあげるイワンの姿を見て、不愉快そうに顔を歪めた。白々しい。隠す気もない癖に。内心ではそんな心境で支配されていた。ハリーに攻撃を当てておいて、自分に奇襲を仕掛けておいて全く罪悪感を感じられない態度が更に癪に障る。

 

「にしたって……不意討ちで、しかも殺意の感じられるほどの攻撃ってのは、ちと度が過ぎてる気がするんだが……?」

 

そんな内心の苛立ちが込められた声、そして表情を惜しみなくイワンにぶつけるペルセウス。試験にのっとった妨害行為にしては度が過ぎた攻撃だった。当たりどころが悪ければ、ハリーの命にも関わるほどだ。それを問われたイワンは発していた笑い声を引っ込め、彼に負けず劣らず不機嫌そうに顔を顰めて心底不愉快と言いたげに返した。

 

「ホントに、おめぇはガキの癖して鋭すぎるっちゃありゃしねえ。しかも妖精の尻尾(ここ)に来てからたったの半年でこの試験に選ばれやがった。ラクサスがよく話すんだよ、おめぇが今後自分のライバルになる日が楽しみだってよぉ……」

 

自分の息子であるラクサスと、ほぼ同等の実力を持つ魔導士。ラクサスより年上の魔導士でもそんな存在は中々いない。それが、まだ成人もしていないガキがラクサスの期待を高めていることに、イワンは心中穏やかでいられなかった。

 

ラクサスはマスターの血筋。幼少の頃の弱い肉体は改善され、マスターの孫にふさわしい魔力も有している。マカロフが引退した後、マスターになる可能性が限りなく高いのはラクサスだ。そうなれば必然的に、父親である自分の地位も高くなるのは容易に想像できる。

 

しかしそんなラクサスが認める程の力を持ったペルセウスの存在。何かがまかり間違えば、奴が自分が手に入れるはずの立場を奪う事も無いとは言えない。いや、下手をすればマスターに選ばれる可能性も……。その結論に行きついたイワンは、未来の栄光を掴むために最善な方法を実行する必要があると踏み込んだ。

 

「ハッキリ言うぞォ……邪魔なんだよ、おめぇは」

 

それはペルセウスの排除。昇格試験と言う状況にかこつけて、奴をここで亡き者にする。当然自分が下手人であることが露呈するわけにもいかないので、目撃者、及び証人になるパートナーのハリーも同様だ。

 

手を振りかざして人型の小さな紙を無数出現させると、それを一気に放出。イワンがメインとして得意な魔法を目にしたペルセウスは瞬時に換装。レーヴァテインから炎の壁を出現させて迫りくる紙たちを次々と灰燼に変えていく。

 

「ハリー!一度逃げろ!出来れば他の誰かを呼んでくれ!!」

 

ダメージの影響でしばらく動けずにいたハリーであったが、ペルセウスの檄に力を貰ったかのように立ち上がり、助けを求めようと痛む体に鞭を打ってその場を離れ出した。炎の壁の向こうにいるイワンは、合間からのその様子を視認したようで、口元を吊り上げながらハリーに他の紙を放って狙いを定める。

 

「バカが。そう簡単に逃がすと思うか?」

 

より高く上げられた紙たちが炎の壁を越えてハリーへと飛んでいく。手を抜くことなく命を狙いに行った紙の魔法は……壁を越えてほぼ進むこともないまま紅炎の剣によってすべて切り裂かれ燃え散った。

 

「逃がすんだよ。俺が、確実に」

 

「クソガキが……!」

 

お返しとばかりに弧を描いた口元を見せて言い放ったペルセウスに、苛立ちを隠そうとせずイワンが悪態をつく。それを皮切りに闇の魔法弾を交えたイワンの猛攻がペルセウスへと襲い掛かった。

 

対するペルセウスは一切焦ることなく迫りくるイワンの猛攻を全て炎と剣で叩き落としていき、ハリーどころか己の身体にさえ一つも被弾を許さない。仮にもS級と呼ばれたイワンを相手にしているとは到底思えない余裕さえ感じられるが、苛立ちを前面に出していたイワンはふと、その表情を嫌らしく嘲笑へと変えてペルセウスに問いかけた。

 

「オレの方ばっかり見てていいのかよぉ?」

 

「お前の魔法を防げば、ハリーに危険は及ばない。それで充分だろ?」

 

まるで自分に注視していたらハリーが危ない目に遭う、と言いたげなイワンの言に気にすることなく切り捨てる。実際に押しているのは自分の方だ。攻撃をすべて無効化していけば、必然的にハリーへの脅威もないに等しい。

 

「ぶはははは、魔法だけなら、な」

 

「っ!?」

 

だがしかし、その言葉を聞いた瞬間に状況はひっくり返った。まさか……!?と言いたげに驚愕するペルセウスの表情を見て、愉悦を感じたかのようにイワンは更に顔を歪めた。

 

その同時刻、ハリーは必死に足を動かし、痛む箇所を庇いながら島の中を駆け回っていた。

 

「誰かに……早く誰かに、知らせなきゃ……!」

 

誰でもいい。自分たちと同じ受験者でも、他のS級魔導士でも、一番理想的なのはマスター・マカロフ。だがこの際誰でも構わない。イワンの裏切りとも言える行為を摘発し、これ以上の危険が及ぶよりも前に対処しなければ。

 

 

 

そんな思考に脳が支配されていたからだろうか。ハリーは気付けなかった。普段ならばかかることのない、彼の知識をもってすれば回避することなど容易だった、ある魔法にかかってしまった事を。

 

「!?じゅ、術式……!?」

 

まるで取り囲むように現れた見えない壁。横に長く張られてたそれは、その場から逃がさないようにイワンが仕掛けたものだとすぐに分かった。術式の解除条件は時間経過。その時間は二分。一見するとそこまで長くは感じない時間だ。だが、本当の狙いはこれではなかった。

 

「っ……!!」

 

術式と同時に起動したと思われる、数えきれないほどのあるものが転がってきた。それを目にし、ハリーの顔に絶望の二文字が浮かぶ、

 

 

 

 

 

それは……強力なものに改造された、魔導爆弾だった。

 

 

 

 

轟音が鳴り響き、大地が揺れ、振り向いた先の視界に映った大規模な爆炎と黒煙。ハリーが逃げた方向から巻き起こった大爆発を目にし、ペルセウスは言葉を失って立ち尽くした。

 

「ぶははははっ!!ハリーの奴もかわいそうになぁ!!おめぇなんかのパートナーにならなきゃ、無駄に死なずに済んだのによぉ!!」

 

狂ったように馬鹿笑いを発しながら、イワンは今しがた爆発に巻き込まれたと思われるハリーの死を確信していた。そこには仲間を手にかけたことに対する罪の意識は微塵もない。自らの地位の為に、己やそのパートナーを簡単に切り捨て、あれほどの残酷な行いに関して露にするのは、手にかけた者に対する侮辱とも言える言い草……。

 

 

 

その瞬間、ペルセウスの中にある記憶が蘇った。自らの為に他者を陥れ、苦しむ姿を肴に私腹を肥やし、一切自分に非が無いような傍若無人な振る舞いを見せるクズどもの姿。一人残らず刈り取ったはずの思想が……今後ろにいる男にも、あったと言う事か……。

 

「おい何だよ?ショックで言葉も出ねぇか?それともパートナーが死んだところで何も感じねぇのか?ぶはははは!おめぇ、とんでもねぇ薄情者だ……」

 

その言葉を、声を、それ以上聞きたくなかった。

 

息をすることも、許せない。

 

こんな奴がいるから……何の罪もない者たちが、虐げられて、蹂躙される。

 

 

 

ならどうするか?答えは決まってる。

 

 

 

瞬時に持ち替えた黒き剣が、ペルセウスの答えを表していた。

 

「……黙れ、この腐れ外道が……!」

 

「なっ……!!?」

 

手に持つは対魔の剣。懐に飛び込んだ時間は一瞬。虚を突かれたイワンの焦燥に駆られた表情に、何の感情も浮かばないまま、奴の身体は一閃された。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その一帯の光景を言葉にするなら、まさに、凄惨の一言だ。

 

周囲の大地は窪みと焦げが半数以上を占め、爆炎により焼かれた大地に、未だ収まる気配はなく、とある一角にその影響を一身に受けてしまった一人の青年が、力なく倒れこんでいた。

 

しかしその青年の命の火は、未だ消えていない。微かに浮上した意識を自覚して、青年ハリーは混乱の最中に放り込まれた気分になった。

 

あれほどの大規模な爆発で、自分は完全に死んだものと思っていた。生き残れるなど絶望的で、爆発が起きる瞬間覚悟さえ決めていた。だが蓋を開けてみれば体中が悲鳴を訴えていて、それがまだ自分の命がある事を自覚させられている。安堵するよりも混乱が勝る。どう言う事だろう。

 

「ハリー!!どこだ、ハリーーー!!!」

 

未だ混乱から抜け出せない状況下で、自分の名前を呼ぶ者の声が聴こえた。声変わり直前の少年の声は、姿を目にせずとも誰のものかをすぐに物語っていた。

 

「……ペ、ル……?」

 

「ハリー!良かった、生きてるな!?」

 

力なく彼の名を声に出せば、思ったよりもはっきりとその少年ペルセウスの安堵に満ちた声が返ってきた。イワンはどうなったのか、自分を追ってきてくれたのか、言いたいことは多々あるが、それよりも先に感じた、脳裏に過ったある思いが支配して、青年の双眸に涙を浮かばせた。

 

「ご、めん……僕のせいで、試験……」

 

「そんなことで謝るな!お前の命の方が優先だ!」

 

軽い応急処置を行いながら、力なく呟いたハリーの謝罪にペルセウスは手を止めずに答える。「まあ、チェックポイントは潜っておいたけど」と、ちゃっかりしているようなセリフを付け加えてはいたが。

 

「イワンが、こんな事をするなんて……考えたことも、無かったし……」

 

「あのおっさん、あんま俺たちに関わってきたことも無かったし、しゃーねぇよ。それに、また助けてくれたじゃねーか」

 

マカロフの息子、と言う事でイワンの名前自体をよく耳にすることはあった。だが自分たちとはほぼ関わる事のなかった人物だったために、彼がペルセウスを排そうと考えている事など気付けなかった。己の不甲斐なさを嘆くハリーであったが、ペルセウスにとっては仕方のない些末事だ。それよりももっと優先すべきことがある。

 

身を挺して、またも自分を助けてくれたことだ。闘う力を持たないと言うのに、相手の魔法から庇った。耐久力はペルセウスの方が圧倒的に上だったにも関わらずだ。咄嗟の判断とは言えそんな行動を起こせる者は限りなく少ない。

 

「だから、今度は俺が助ける番だ。試験の事が気になるなら、俺に任せろ。後はゴールに向かうだけだろ?お前を背負って、そこに向かうから」

 

そんなハリーの努力を、想いを、無駄にする訳にはいかない。それに試験に合格すると、弟にも約束した。兄としては破る訳にもいかない。ハリーを安心させるために懸命に励まし、傷だらけの彼の身体に包帯を丁寧に巻いていく。しばらく処置を続けると、目立った外傷は全て包帯で隠れ、固定されるところまでに至った。一段落着いたところで、ペルセウスは一息吐く。

 

「これで、応急処置は済んだな……」

 

 

 

だが次の瞬間、ペルセウスの身体を鋭い闇色の一撃が背中から貫かれた。

 

「ペ……!!」

 

貫かれて開けられた小さな風穴から血が出てくるのを自覚し、痛みに藻掻くペルセウス。だがその痛みに抗いながらも、怒りを露わにした表情で振り向けば、ペルセウスにとっては思った通りの、ハリーにとってはあり得ないと感じる人物がそこに立っていた。

 

「よくも……やってくれやがったな……クソガキ……!!」

 

ペルセウスにやられたと思われる三つの裂傷を押さえながら、憎悪とも取れる顔を一面に染めながら、イワンが殺意を全開にしてこちらに迫ってきていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「曇って来たね……」

 

「こりゃ一雨来るかもな」

 

二次試験のゴール地点、及び最終試験の会場となる石舞台。そこに到達した二組のうち、受験者の一人である少女カナと、エルザのパートナーとして参加していた男性・マカオが空模様を眺めながらそうぼやいた。気候の影響で快晴の比率が高い天狼島において異常気象とも言える程の珍しい現象だ。雨が降る予感を感じながら、どこか沈みそうな感覚を彼女は覚えた。

 

「ゼッテー私が先だった!」

 

「いーや、私の方が一歩前に出ていた!」

 

「あの二人まだやってんの……?」

 

その一方で天気の変化など関係ない二人がここに。実はこの二組が辿り着いたのはほぼ同時。互いの存在に気付いた瞬間負けず嫌いのエルザとミラジェーンはすぐさま駆け出して石舞台の階段を登り切った。置いてけぼりにされた自分たちどころか、受験者を先に待っていたマカロフとラクサスでさえ同着に見えたと聞き、どっちの方が先に着いたとずっと言い争っている。正直カナは辟易としていた。

 

「……どこで何やってんだ?親父も……ペルも……」

 

一方で、受験者とパートナーの様子にさえ目もくれず、ある一点の方向に顔を向けて仁王立ちをしているラクサスは、僅かばかりの苛立ちを現しながら静かに呟いた。行方の知れない父親はともかく、試験を受けているペルセウスがいつまでも来ないのはさすがに妙だ。絶対におかしい。

 

そしてラクサスが思い出すのは、遠目からでも目に映った軽い地ならしが起きる程の地震だ。あの時は受験者の誰かが……あるいはペルセウス本人が起こした魔法の一つかと思っていたが、思い返せばあの爆発を起こせる神器があるとは聞いたことがない。となれば、別の何かが介入した?そしてその爆発によってペルセウスは……。

 

「(んな訳ねぇ……ペルが、あの程度の爆発で死ぬわきゃ……!)」

 

一瞬頭に過った可能性に、ラクサスは頭の中で否定する。自分が認めた魔導士が、あれぐらいの爆発で巻き込まれただけで命を落とすなど、考えられない。(かぶり)を振って心に言い聞かせていると、こちらの様子を窺っていた様子の祖父が、少しばかり気を抜かした声で告げた。

 

「もうそろそろ、時間かの」

 

「ま、待てよ!まだ1分ある!ギリギリで来る奴らがいるかもしんねーだろ!?」

 

「じゃがのぅ……そんなギリギリに都合よく来るとは……」

 

指定していた制限時間まであと一分。石舞台の眼下に、到達していた二組以外の受験者の姿はない。ここで締め切りかと言いたげな祖父の言葉に、ラクサスは咄嗟に待ったをかける。まだ来ていない。本気とは程遠いとは言え自分に勝ったあの少年が、こんなところで落ちるなど……!

 

と言うラクサスの思いが通じたのか、それとも別の何かが働いたのか、ふと見下ろしたマカロフの視界に映ったその存在が、彼らに衝撃を与えるようにして現れた。

 

マカロフだけでなく、彼らを待ち望んでいたラクサスも、いがみ合っていた少女たちも含めて全員が、言葉を失った。

 

包帯塗れの痛々しい姿で気を失った青年を抱え、対称的に一切手当てをしていない状態で所々から血を流したままこちらへ歩いてくる少年の姿に。

 

「ペルに、ハリー!?」

 

「何だよあの身体!?二人とも傷だらけじゃねーか!!」

 

エルザとマカオが、場にいる者たちの心を代弁するかのように焦燥に駆られた声で叫ぶ。その状態のまま石舞台を登ろうとしていたペルセウスたちの元へと思わず駆け下りて、マカオが彼らの身体を支える。

 

「ペル!?何があった!?」

 

同様に駆けつけたエルザにそう尋ねられたペルセウスだが、何が起こったのかを答えることはせず、包帯に巻かれて意識を戻さないハリーをマカオに預けようとする。

 

「……今は……まず、ハリーを……」

 

咄嗟に預けられたことで戸惑いながらも、ハリーの身体を預かったマカオ。だが、処置された包帯に滲んでいる血を見て、思わず戦慄を覚えた。

 

「ハリー……なんてケガだ……!!」

 

「こんな、今にも死にそうな……!!」

 

口元を押さえて彼の容態に心を大きく痛めるようにカナが呟く。命に関わる重傷のようだが、何故かその危険を感じさせない。得体が知れないが故に、逆にそれが何とも怖く感じた。

 

「ペル……イワンに会わなかったか……?」

 

すると目を伏せながら、ペルセウスにしか聴こえない声量でマカロフが唐突に尋ねてきた。その問いにペルセウスは一瞬だけ目を見張るも、すぐさま表情の変化を抑えて黙秘を貫いた。

 

「……そうか……」

 

返答には見えない反応。しかしマカロフはそれ以上何も聞こうとはしなかった。まるで彼のその反応だけで、マカロフの疑問の答えとなったかのようだ。

 

「なあジジイ、ペルもハリーもこの有様だ。このまま最終試験を……って訳にもいかねーと思うが、どーする?」

 

二次試験はこのまま合格と言う扱いになるだろうが、続く最終試験に関してはこのまま続行と言うのは難しい。ペルセウスとハリーは、明らかにこれ以上の行動は不利だ。特にハリーは未だに意識が戻らない。あまりにも不公平である。

 

「二人のケガが治るまで延期とするか……ペルには悪いが、このままエルザとカナ、二組のみで最終試験を受けてもらうか……」

 

マカロフが告げたのはこのまま試験を延期させるか、二次試験で敗退扱いとするかのどちらかだった。普通に考えればこのまま続行させることの方が明らかに非現実的なのは明らか。むしろその二択しかないと、マカロフ以外の者たちも思っている事だろう。

 

 

 

「いや……どっちでもない……!」

 

しかしその二択を否定したのは、まさかのペルセウスだった。その否定の意図が分からず、他の者たちはただ混乱している。

 

「どーゆー……事じゃ……?」

 

「……最終試験は……ここで、闘う事、だろ……?」

 

代表して尋ねたマカロフの言葉に対して、ペルセウスは痛みを訴える体を起こし、立ち上がりながら聞き返す。そして、誰もが予想できなかった発言を行った。

 

「これぐらい……ちょっと休めばすぐに動けるようになる……!最終試験は、その後だ……!」

 

まさか、この状態のまま続けざまに試験へと臨むとは思わなかった。場にいる者たち全員が信じられないものを見るような目をペルセウスに向けているが、彼の表情からは本気さが窺えた。

 

「バカを言うでない!最終試験はパートナーも加わって行われる!ハリーがこの状態だと言うのに、おぬしはあやつを闘わせる気か!?」

 

だがそれを認めることが出来ない。マカロフは見るからに重体となっているハリーを引き合いに出して、ペルセウスの試験への意志を控えさせようとしている。仲間を大切に想うギルドとしては、パートナーの容態も度外視した決断を放っておけないのも加わっていた。

 

「……俺がハリーの分も闘う……!」

 

だがペルセウスが返答したのは、パートナーであるハリーが不在の中で、一人で試験に臨むことであった。本来であれば許可のできない事例だ。仲間との絆も試される昇格試験において、独りよがりな行動はマイナスポイントに他ならない。それが分からないはずではないが、ペルセウスもこればかりは譲れなかった。

 

「約束したんだよ……ハリーと……!」

 

彼は思い返していた。彼があれほどの重傷を負った際、ペルセウスが臨む試験を結果的に邪魔してしまった事に後ろ髪を引かれる想いを抱えていたこと。ハリーの助けがあったおかげで二次試験もギリギリとは言え突破条件を満たせたこと。闘う力を持たないハリーの代わりに、自分が彼の力となること。

 

気付けばペルセウスは、それらの出来事を口に出していた。一緒の場にはいられない。だが、心を連れていくことは出来る。彼と共に、闘うことが出来る。

 

「マスター、頼むよ……!ここで引き下がらせないでくれ……!」

 

まるで縋りつくような動作で、ペルセウスはマスターの腕を掴む。彼の両目に映ったペルセウスの表情は、半年前では決して見られなかった、肉親以外への想いと覚悟を秘めたものとなっていた。

 

「どうしても俺は、ハリーのここまでの頑張りを、無駄にしたくねぇんだ……!!」




次回『修羅』
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