FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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盆休み中には間に合いませんでしたが、久々に一週明けで投稿成功!
けど微妙に最近より短めに…いやむしろ最近の分が文字数多すぎた、と言う方が正しいんですけど…。

ひとまず今回の投稿分で、現状考えている天狼島編の前半が終了!引き続き後半に移ります!

……前半書き終わるのに半年どころか約9か月かかってるってマ!!!?


第125話 修羅

─────何、これ……?

 

S級魔導士昇格試験・最終試験。

ついに辿り着いた最後の踏ん張りどころ。だがしかし、そこで繰り広げられていた闘いに、参加者の一人であるカナは右手にカードを持って構えながらも、一歩も動けずにいた。

 

別の参加者であるエルザは、武器だけでなく鎧の換装も駆使して多彩な攻撃を仕掛け、自分のパートナーとなったミラジェーンは接収(テイクオーバー)の力で悪魔の力をその身に宿し、圧倒的なパワーを誇る。エルザのパートナーとなっていたベテラン魔導士であるマカオも技の練度は高い。

 

─────こ、こんなの……!!

 

だが今目の前に広がっているのは、そんな三人の技を潜り、打ち消し、あまつさえそこから反撃を起こして対抗している、重傷者であるはずの少年ペルセウス。空に飛んで遠距離から攻めるミラジェーンへグングニルを投擲して闇の波動を貫き、天輪の鎧を纏っていくつもの剣を飛び交いさせるエルザの攻撃をトライデントが巻き起こした水柱で阻み、レーヴァテインの炎の魔力弾を駆使して追撃の隙すら与えようとはしない。

 

「これほどとは……!!」

 

「あいつ、あんな怪我してんのにどっから……!!」

 

最終試験を予定通りに実施することに決まった際、エルザもミラジェーンもペルセウスの負った大怪我を案じていた。だが本人はそれを気に掛けることもなく、寧ろ「怪我の事なんか気にするな。それにこんくらいのハンデがある方が思いっきり暴れられる」と、敢えて挑発するような言動を告げたことで少女二人の闘争心を刺激していた。

 

だがいざ始まってみれば、その挑発が事実だったのではと錯覚する程に、ペルセウスは周りを圧倒……むしろこれまでギルドで見てきた実力以上の力を発揮しているように見える。

 

「カナ!突っ立ってないでお前も闘えよ!……おい、カナ!!」

 

パートナーであるミラジェーンに注意される形で怒鳴られるも、今カナは自分の身体が金縛りにあったかのように動けなくなっていることを自覚していた。闘わなければ。これは試験だ。合格できなければ、父に会う資格は得られない。言葉を告げることが出来ない。

 

だがカナの身体は震えるばかりで動かない。いや、動けない方が正しい。ペルセウスの動きを見る事だけで精一杯。隙を突いて攻撃、などと夢のまた夢の域だ。一向に動けないカナにミラジェーンは舌打ちを一つせずにはいられなかった。

 

「おいミラ!ここは一時協力しねーか!?」

 

「協力……?」

 

カナが全く動かない事に若干苛立っていたミラジェーンだったが、マカオから唐突に出された提案に思わず聞き返した。今の現状はエルザとマカオのペア、ミラジェーン、そしてペルセウスの形式だけを見れば三つ巴の状態だ。だがこの三つ巴を続けていると、先に消耗しきるのは間違いなく圧倒されているエルザたちとミラジェーンだ。

 

「このまま各自で戦っても、ペルの一人勝ちになる可能性が高い。バトルロワイヤルとは言え、互いにそれは望まない事じゃねーか?」

 

一切力の解放に妥協がないペルセウスの、別次元の力に対抗するには、不本意ではあるが彼以外の勢力が手を組む方が効率的なのは確かだ。それを聞いた一瞬、エルザとミラジェーンの視線がぶつかる。普段は何かといがみ合い対立しているような関係にある両者故、本音を言えば互いに力を合わせる事など望まない事だ。が、二人とも今この状況においてはその意地さえも張っている場合ではないと、思いは共通のものになっていた。

 

「このままでは勝ち筋が薄いことは確かだ……」

 

「……しょーがねぇ、やってやろーじゃねえか!」

 

少女二人の声を皮切りに三人は各々動きを見せた。まずはエルザ。何十にも及ぶ直剣をペルセウスへと飛ばし、彼を取り囲むように浮遊させている。同じような対処法でペルセウスが三又の槍を換装で呼び出すと、エルザが動き出してすぐ翼を動かして空中を移動していたミラジェーンが彼の背後から肉薄。それに気付いた彼が振り向き様に振るった槍を、右の拳でミラジェーンが迎撃。その魔力のぶつかり合いで闇と水の波動が辺りに拡散する。

 

すぐさま距離をとろうとするペルセウスだが、動かそうと思った足が、何かに捕らわれていることにそこで気付いた。足元を見てみると、両足首を縛り付けるように、紫の炎がマカオから伸びている。炎であれば本来水に消えるはずだが、マカオが扱う紫の炎(パープルフレア)は風や水に晒されても消えない性質を持っている。

 

「今だ!」

 

「舞え、剣たちよ!!」

 

マカオの張り上げた声を聞いたエルザがすぐさま動く。待機させるように取り囲んでいた何十もの直剣を、ペルセウスへと一気に飛ばす。状況を理解したペルセウスはすぐさま槍の石突を足元に叩きつけ、自分の足元から激流を発生。己の身体を打ち上げる形で剣ごと弾き飛ばす。

 

「そうすると、思ってたぜ……!!」

 

だが彼の耳に届いたのは、自ら打ち上げた己の近くで羽ばたき、エルザの操る剣の一つを両手で握りしめ、魔力を伝達させながら構えるミラジェーンの声。最初からペルセウスがどう動くかを呼んだ上で、三人はこのチャンスを誘い込んでいた。

 

今のペルセウスは、自分が起こした状況ではあるが無防備だ。そしてミラジェーンはすぐにでも攻撃に移ることが出来る体勢。彼に迎撃する余裕はない。

 

「こいつで、終わりだぁ!!!」

 

魔人の魔力を存分に込めた剣を振るい、剣から放たれたのは強力な力を帯びた闇の刃。咄嗟に槍から出した水の膜を張って軽減させようとするも刃はあっさりとそれを斬り裂き、ペルセウスの身体を一気に墜落させる。隕石が落下したかのような衝撃と轟音を上げながら、石舞台から土煙が発生。

 

ただでさえ怪我が酷かった上に、あれほどの威力の攻撃を受けたのだ。さすがにもう立つことも出来ない。むしろやりすぎてしまったのではとさえ思えてしまう。降り立ったミラジェーンも、その近くで土煙の中の様子を窺っていたエルザとマカオも、誰もがそう思っていた。

 

 

 

 

 

石舞台の下から発せられたと錯覚する、下から迸った紫電の奔流が、巻き上がるまでは。

 

『っ!!?』

 

誰もが理解できなかった。誰もが目を疑った。彼がそこに立っていたことが、彼がまだ戦意を失っていなかったことが、彼が……吹けば倒れる程血だらけの怪我を負いながらも、しっかりと地に足をつけ、紫色の頑強な大鎚を片手に掲げて魔力を放出していることが。

 

「トールの怒鎚(いかづち)……その怒りのまま降り落とせ、裁きの雷……!」

 

「なっ!?まだ動けるのか!?」

「なら……もう一度だ!!」

 

口から紡がれる口上からは、最早覇気さえも感じない。虚ろに呟くばかりに感じるそれを耳にしながらも、彼と対する者たちは一切気を緩めない。それどころか彼がまた立ち上がったことに対して更なる警戒を強めている。ペルセウスの反撃を何とかやめさせようと動いた三人であったが、時すでに遅し……。

 

「『閃拡播雷(せんかくばんらい)』!!!」

 

大鎚に刻まれた黄色い稲妻模様の堀線が一際強い輝きを放つと同時に、広範囲にわたって迸る紫電。石舞台に降り注がれた雨からできた水溜まりさえはじけて消える程の雷撃が、ペルセウスに迫っていた三人に襲い掛かる。唯一彼から離れた位置で立ち尽くしていたカナだけが被害を受けていないが、彼女の目に映る光景は、これまでの人生で一度も目にしたことがないと言い切れるほど、凄惨なもの。

 

雷撃によって石舞台中の水溜まりや注がれていた最中の雨粒までも蒸発させたことで、水蒸気によって一切の視覚をシャットアウトされている。大鎚から放たれた紫電は数秒前の勢いを最早感じさせないほど静まり、魔力を放出し終えたことで役目を果たしたのか、ミョルニルはストック用の空間へと戻って行った。

 

ここ一番に放たれた大技を打ち終えたペルセウスは、俯かせていた顔を天に仰ぎ深く長く息を吐く。雨に濡れた前髪が貼り付いて表情までははかり知ることは出来ないが、今の彼がこの試験において……否、魔導士としての人生において、一番疲弊している瞬間と言ってもいいだろう。油断している、とも言いかえられる。

 

 

 

そんな決定的瞬間を、()()()()()()なら突かない理由はない。

 

「まだだっ!!」

 

飛び掛かるエルザに対して彼は振り向くことなく、彼女の剣を避けて持ち替えた橙と空色の両刃剣を使い、腹の部分を彼女の背に叩きつける。衝撃を受けたエルザはそのまま地へと倒れこみ、尚も体を起こそうとしたがさすがに限界かそのまま意識を失った。

 

これで決着……かと思われたが違う。ペルセウスを除いて、まだ一人受験者が残っている。

 

「……!!」

 

カードを手に持ち、終始立ち尽くしていたカナだ。視線を向けたペルセウスの目を見た瞬間、震えていたカナの身体が更に硬直する。体は既にボロボロ。少し押せばもう倒れこんでしまいそうな程に、今の彼は消耗しきっている。後一撃……一撃でも与えればカナがペルセウスに勝利し、S級になれると言ってもいい。

 

─────今が……またとないチャンスだ……!

 

手負いの状態で尚、強力な魔導士三人を相手に圧倒した実力はとてつもないが、その分の消耗も明らかに激しい。復帰は絶望的と言ってもいい。今なら攻め込めば勝利を手にすることが出来るはず。動け、動けと己の身体を命令を出すカナだが、その身体は影を縫い付けられたかのように動く様子はない。心臓の鼓動がこれでもかとけたたましく動き、口から零れる呼吸はそれよりも早くなっている。

 

「どうする?()るか?」と言いたげなペルセウスの目を長時間……実際にどれほど経ったかは定かじゃないが、カナの心情で言えば相当な長い時間と思えたその時間を経て、突如、片方が膝をついた。

 

「……っ……!こっ……こ、降参……です……!!」

 

膝をついた‘少女’カナが降参を宣言すると共に、双眸から涙を溢れさせた。戦意喪失。それは誰の目にも明らかだった。重傷でありながら一人で挑み、あまつさえ残りのほぼ全てを相手取りながら圧倒した。言いたいことは多々あるが、試合を見届けたマカロフとラクサスも、最早これによって決定された試験結果に、否を唱えられなかった。

 

「そこまで!試験終了じゃ……。今回のS級魔導士昇格試験・合格者は……ペルセウス・ファルシーとする!!」

 

そしてマスターであるマカロフから告げられた、試験終了と合格者の報。合格を告げられたペルセウスは、まるで耳に入っているような反応を見せず、立ち尽くしたままだ。しかし数秒後、彼の体に異変が生じる。それまで黙したまま立っていた彼の体が直立のまま横に傾き、それを見たマカロフとラクサスが声を上げるより先に雨に濡れた石舞台へと倒れ込んだ。

 

緊張の糸が切れ、人形のように動かなくなったペルセウスに、いち早くラクサスが駆け寄って呼び掛けるも、返答はない。既に彼の意識はあの瞬間で途切れていたのが分かる。気を失った合格者、膝をついて涙を流し茫然とする少女、それ以外の参加者は、皆倒れ伏している。異例中の異例の事態で幕を下ろした今年の試験。マカロフはやり切れないと言いたげに口を閉ざし、未だ止むことのない雨を降らせる暗雲を見上げることしか出来なかった……。

 

 

 

それから年が明けると、二つの事件が立て続けに起きる事になる。

 

一つは重傷を負ったハリーが、ギルドを脱退したこと。ペルセウスは半月の安静で現場に出れるほどに復帰したが、ハリーは後遺症が残ってしまった。元々戦闘向きの魔法を身につけられなかったことに負い目も感じていたことで、故郷に戻り新たな道を探すと言っていた。最初は勿論、ほとんどの者に引き止められたが最後には彼の意思を尊重し、見送った。

 

そしてもう一つは、S級魔導士イワンが試験中に行った凶行が、マカロフの耳に入ったこと。イワンもまた重傷を負った状態で天狼島内で発見されたのだが、その原因まではギルドの魔導士には明かされていなかった。一番最初に意識を取り戻したハリーがマカロフに事の顛末を伝えた為、イワンは弁明の余地もなく、程なくして父マカロフによって破門を突きつけられることになる。

 

だがギルド内の混乱を避けるために、当事者であるペルセウスとハリー以外の魔導士に、イワンの凶行を告げなかったことが、ラクサスからの不信を買う発端に。そしてイワンの破門が、闇ギルド大鴉の尻尾(レイヴンテイル)が生み出されるきっかけへと変じるのは、マカロフ自身も予見することは出来なかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時は戻り、X784年……。

天狼島では珍しい雨が降りしきる中で、その雨から逃れられる洞窟の一つを進んでいたカナは、蘇ってきていた記憶に、僅かながらに震わせた肩を抱きながら、(かぶり)を振った。

 

「(しっかりしなきゃ!あの時の事を乗り越える為にも、この試験に合格するんだろ!)」

 

父に並び立つ為、己の素性を明かす為、自分と言う存在をギルドに残す為、そして何も出来なかった過去を乗り越える為。幾重にも重なった並々ならぬ想いを抱えながら、彼女はただただ進んでいた。パートナーを騙すような真似をしてまで、試験に受かるための条件、墓の場所へと辿り着くために……。

 

歩を進めて先に見えるのは、狭い通路の先を照らしている、眩い光。この先にある。メイビスの墓が。ようやくS級になれる……父に、ギルダーツに会える……!

 

しかし、潜り抜けた先に広がっていた光景は、カナの想像の、斜め上を行っていた。ツタのドームの中に存在する、縦中心に一本線、中心に正円の空洞が作られた石碑。初代マスターメイビスの墓……それが……。

 

「光ってる……?」

 

聖なる象徴であることを主張するが如く、金色の光を発していた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

降り出してから止む気配のない雨の中、森の中を白い翼で飛行しながら飛ぶ一匹の存在がいた。頭に大きな葉で作った即席の合羽を被った白ネコ、シャルルが目指していたのはとある洞穴。こちらの存在に気付いた様子で入り口から呼びかけてきた声に導かれるように、彼女は高度を下げて近づいた。

 

「シャルル!リリーはどうした?」

 

「途中で私たちのキャンプがあったの。ガジルやミラが重体よ。リリーはそこで降りるって」

 

呼びかけたナツの問いにシャルルは答えた。シャルルは同じ種族のリリーと共に、敵の本拠地……移動手段として用いたと思われる船を探していた。そして道中で妖精の尻尾(フェアリーテイル)が作ったキャンプを発見し、相棒であるガジルの安否確認と、情報共有の為に別れたそうだ。

 

「みんな大丈夫かな……」

 

「ええ。悪魔の心臓(グリモアハート)の船は、その更に東の岸にあるわ」

 

天狼島の最東端。どうやらそこが現在の悪魔の心臓(グリモアハート)の本拠地。そしてマスター・ハデスがいて、ゼレフが連れていかれる可能性がある場所のようだ。その道中にはちょうど、味方がいるベースキャンプが存在している。

 

「俺たちの、ギルドのキャンプか……」

 

「ねえ、一旦そこまで行かない?カナもそこにいるかもしれないし」

 

「そうですね、みんなと合流した方がいいと思います」

 

ナツたちに報告していたシャルルの声を聞いていたシエルたちは、各々そう言葉を口にしながら洞穴の奥から姿を現した。だが異なる点がそれぞれ一つある。三人とも、先程までの服装とは違い、バルゴが用意した星霊界の服に身を包んでいた。

 

楽園の塔で着ていたものとはまた別であり、ルーシィは群青色を基本色にした肩が露出したワンピースにセットのニーハイソックス。シエルは上が薄黄色、下が黒く短い袴の和風武道着のような衣装。そしてウェンディは髪留めはいつものだが、和風と洋風が合わさった薄桃色の短い袖なし着物のような服と、腰を締める黒い帯だ。

 

「よし、行こう。じっちゃんはオレが」

 

準備も整い、方針も決まった。重体で未だに目を覚まさないマカロフはナツが背負い、全員でキャンプへと向かう事に。唯一動かない、評議院の一員であるドランバルトは座しながら俯き「オレは……」とこの後どう動くか迷っている様子だ。

 

「評議院を止めてくれ」

 

迷いを見せていたドランバルトに対し、ナツはマカロフを担ぎながら一つの頼みを出した。評議院が本気でエーテリオンを落とそうとしているのかは不明瞭だが、やらないと断言はできない。それを食い止められるとすれば、組織の一員である彼しかいない。

 

悪魔の心臓(グリモアハート)もゼレフも、必ずあたしたちがどうにかする」

 

「島への攻撃を何とか止めてください……!」

 

「……出来る訳ない……」

 

バラム同盟の一つであるギルド、歴史上でも最悪の魔導士。相手は強大だが、ギルドの仲間の脅威となる存在は、必ず自分たちの手で打ち倒す。決意の表明と懇願を告げた少女たちに、ドランバルトはなおも俯きながら返答した。どうあっても攻撃を避けられない、と解釈したシエルがそんな彼に提案を出した。

 

「なら、時間は稼げねえか?情報伝達を遅れさせるか、俺たちが全部終わらせるまで虚偽の報告で誤魔化すか、あるいは……」

 

「違う!!そっちじゃない!!」

 

しかしドランバルトから返ってきたのは、先程の自分の言葉の真意。攻撃を止める事ではなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が行おうとしていることに対してだった。思わず声を荒げて立ち上がっている。

 

「今お前たちの置かれている状況を、どうやったら打破できると言うんだ!!」

 

あまりにも無謀。ドランバルトから見ればシエルやナツたちはそう見えているのだろう。客観的に見れば無茶は承知だ。ほとんど勝機など見えない事だろう。しかし問われた者たちは誰一人迷うことなく洞穴の外へと出てキャンプを目指していく。歩みを進めながら、シエルとナツは答えた。

 

「そんなの決まってる」

 

「全力でやる。それだけだ!」

 

実に単純で簡潔。作戦など一切存在しないあまりに無計画とも言えてしまう返答に、ドランバルトはそれ以上言葉をかけられなかった。だが十分だ。今までも己の中にある力の全てを振り絞って、立ちはだかる強敵たちを打ち倒してきたのだから。

 

それを表すように真っすぐに進んでいくナツと、それに並ぶように追随するルーシィ、ハッピー、ウェンディ。最後に洞穴から出たシエルが最後尾をシャルルと共に進んで行く。

 

 

 

「ところで……さっきから何ニヤニヤしてんの、あんた?」

 

「へっ?」

 

と、唐突にシャルルはシエルにしか聞こえない声で尋ねた。シャルルは彼の表情を見た瞬間から目を訝しげに細めていた。この状況下において……それも自分たちが様子を見に飛び立つ前までの様子とは、打って変わったシエルの表情が、あまりに場違いに見えたから。

 

僅かばかりに頬を紅潮させ、口角を微かに上向きに向いて震わせている。平静を取り繕おうとして我慢できなくなっている時とまるっきり同じ表情だ。怪しく無い要素が見当たらない。

 

「に、ニヤニヤ……してた……?」

 

「明らかにね。自覚なかったの?」

 

「う、うん。そんな風に見えたかな〜?別に、何も、無いのにな〜」

 

更にそれに拍車をかけたのはこの反応。普段はポーカーフェイスでやり過ごす事に優れたシエルが、途端に残念な感じになった態度。ここ最近行動を共にしていることからシャルルは彼がこうなった原因にすぐさま気付いた。訝しげな目線が疑念のものへと変じるが、指摘する気も今は起きない。さっきの言葉だけでひとまずは気を引き締めるだろう、とシャルルはそれ以上何も言わずに置いた。

 

「(いかんいかん……今は目の前の問題に集中しなきゃ……!)」

 

一方のシエルも、シャルルに指摘されるまで気が緩んでいた自覚が薄れていたことを反省し、気を引き締め直した。心当たりならある。けどそれに現を抜かすばかりではいけないと、頬を手ではたきながら気合を入れるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

満遍なく雨が降り注ぐ島内。開けた場所へと出ながら周囲を探しているのは、緋色の長い髪を後ろで縛り上げ、黒いビキニの水着のみの格好で島の中で行方知れずの状態となっている少女を探す女性。

 

「ウェンディー!どこにいるー!!」

 

エルザ・スカーレット。キャンプで待機していた彼女は試験に出ていたウェンディが戻ってこない事に疑問を持ち、ジュビアと共に探しに出た。途中で七眷属の少女と邂逅し、ジュビアがその相手を務めたことで場を離れ、再びウェンディを探しに回っていた。

 

だが生憎、エルザの近くに現れたのは、探している少女ではなかった。

 

「探し人かい、妖精女王(ティターニア)?」

 

「!何者だ……!」

 

知らない声を聞き、一気に警戒を強めるエルザの目に入ったのは、銀色のリーゼントヘアにサングラスと、ファーコートが特徴的と言っていい程目立つ一人の青年。雨の中を悠々と歩きながら目の前にいる妖精女王(ティターニア)にひとりでに語り始めた。

 

「オレもそうさ……いや、オレだけでは無い……。人は誰しも己には持ち得ぬ希望(デザイア)を探し求むる哀れな迷い人(シーカー)……」

 

「(こいつ……何を言っている……?)」

 

俗的に拗らせていると言わざるを得ない喋り方をするその男・ラスティローズに対し、エルザが最初に抱いた感想である。ただただ純粋に彼の言いたいことが理解できない。だが彼の言葉よりも、彼から感じる佇まいと魔力が、先程ジュビアが相手にした少女に僅かばかりに似ていることに気付いたエルザは気を引き締め直した。

 

「貴様……さては煉獄の七眷属とやらか?」

 

「如何にも」

 

自分の肩書を言い当てたことに気をよくしたのか、エルザの問いに上機嫌な様子を滲みだして答えるラスティローズ。やはりそうか、と警戒を緩めることなく、エルザは青年に向けて構え、いつでも対処できるようにしていた。

 

妖精女王(ティターニア)……お前は先に散って行った奴らよりも、楽しませてくれるのかな……?」

 

「……何だと……!?」

 

そしてその一言が、彼女が持つ闘志に更なる火を点けた瞬間だった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、深い森の中、言葉を発することなく一人森の中を進んで行くペルセウス。周囲に常に気を配ってはいるものの、未だアズマの姿は影も形も見当たらない状態だ。どこかで見落としたのだろうか?と普通の者たちなら思うところだ。

 

「……」

 

そう、普通であれば……。ペルセウスは確かに感じた違和感を払拭するように換装魔法で黒剣ダーインスレイブを装備し、ある方向へと斬りかかる。狙ったのは、土からはみ出している大木の根の一部。先端を斬り落とし、支えるものを失った根の先が地面へと落下する。落下した直後、木の根が蠢き、姿を変えるようにしてある一人の人物の形を作り上げる。

 

「姿を隠せていても、敵意を隠す事には長けていないようだな……」

 

予想していた通りの結果に、思わずペルセウスの口元に笑みが浮かぶ。木の根から出てきたその男は、ペルセウスが探していた人物その者だったことも相まっているのだろう。

 

「いや……むしろ気付かせた、と言うのが正解か?」

 

「そこまで気付くか。やはりキミは真の強者だ」

 

そしてそれは敵であるアズマも同じこと。姿を隠してはいたものの、強者であれば感じられる敵意を敢えて放ち、こちらに気付けるかどうかを試していた。ペルセウスなら気付けると言う、確かな確信があった。その結果は予想以上。こちらの意図までも見抜いて、彼は自分へと攻めてきたのだ。

 

「しばらくぶりだね。また会えて嬉しいよ」

 

「俺もお前を見つけられて、心底嬉しいぜ……!!」

 

一人は真の強者との闘争を予感して……一人は大切な存在を傷つけた者への報復を目前に……不敵な笑みと、狂気を帯びた笑みを互いに向けながら、ギルド内でも強者同士の二度目の激突が幕を開けた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

天狼島東部の砂浜。そこへ乗り上げるように、鋼鉄製の巨大な黒い戦艦が一隻停泊している。船に刻まれた紋章は、茨のついた心臓のマーク。悪魔の心臓(グリモアハート)のものだ。その戦艦こそが、悪魔の心臓(グリモアハート)のギルド本拠地……並びに移動手段である。

 

その戦艦内部に会議、食事が兼用できる円卓の置かれた大広間があり、一番上座に一人の老人が座していた。白く染まった長い髪、右目を覆い隠す黒い眼帯、長く蓄えられた髭と多くの皺が刻まれたその顔から長き年月を、しかし開かれた左目と精悍な顔つきからは老いを覆す圧倒的な実力を感じさせる。長き時を経て培った、歴戦の魔導士と呼ぶにふさわしい。

 

この老人こそ、悪魔の心臓(グリモアハート)のマスター・ハデス。彼は島内で今巻き起こっている二つのギルドの衝突を、本拠地で高見の見物をしながら魔力のみで戦況を把握していた。寛ぐ様にグラスに入っていたワインを嗜んでいたものの、しかしまた一つ魔力の乱れを感じた彼は、こちら側の戦力がまた一人戦闘不能に追い込まれたことを理解した。

 

「まさか、『メルディ』までやられるとは……。七眷属が半数を切るとは予想しておらんかったな……」

 

彼が呟いたその名は煉獄の七眷属の一人……ギルドの中でも最年少でありながら幹部に登り詰めた天才と揶揄しても過言ではない弱冠14歳の少女だ。だが今しがた、彼女は敵を前にしてその戦意を喪失させた。得意とする感覚に作用する魔法が本来の意図とは違う用途として発動し、対峙した相手の心情に決意を揺らがされたのが敗因だ。

 

煉獄の七眷属は全員がマスター・ハデスによって育てられた失われた魔法(ロストマジック)の使い手。そう簡単に倒されるような存在ではないと高を括っていたが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)……マカロフの子らはこちらの想像を上回る力を見せつけてくる。()()()()()()()()()、一人の魔導士に対しては要警戒と伝えていたが、さすがにこの状況は予想できなかった。

 

七人いた幹部も動けるのはあと3人。未だ勝負の行方は知れぬが、このまま妖精側に戦局が傾けば、()が黙ってはいないだろう。だがさすがに奴を出すほど自分も鬼ではない。

 

「『ブルーノート』」

 

()を制止させる為、彼の者の名を呼ぶハデス。しかし向いた視線の先は人どころか生物の一つさえなく、当然『ブルーノート』なる人物の返答もしない。一足遅かったようだ、と溜息を吐きながら、ハデスは諦観するように遠くへと目を見やった。

 

「……やれやれ、手遅れか……。悪いな、マカロフ。奴だけは使うまいと思っていたのだがな……」

 

今回の襲撃に関して、絶対出さないと決めていた戦力。だが七眷属と違って奴は自分とほぼ対等の立ち位置。指示に従う事もなく自分のやりたいようにやる性格だ。七眷属を半数失った今、彼は己の望むがままに動き出した。最早自分でも止められない。天狼島は更なる混迷を極めると容易に想像できる。

 

「最悪、『神衣(かむい)』を使える魔導士さえ生かしておけば……いや、それも薄い望みか……」

 

意味深に告げた一言さえ、もう叶わぬことだと諦めながら息を吐くハデス。妖精の尻尾(フェアリーテイル)には最早、万に一つの勝機も失った。誰一人、生きて帰ることは叶わぬだろう……。

 

 

 

 

 

黒魔導士を巡る、妖精と悪魔の激突。

 

天狼島で繰り広げられるこのぶつかり合いは、更に激しさを増していくのだった……。




おまけ風次回予告

ナツ「前から思ってたけどよ、シエルってハッピーのこと好きなのか?」

シエル「ハッピー?え、何でハッピー?そりゃ仲間だとは思ってるけど……」

ナツ「だってお前、乗雲(クラウィド)とか雷纏うヤツとかで空飛ぶこと多いじゃん?ハッピーみたいに。だからハッピーみたいに空飛んでみたかったのかな~って思って」

シエル「ああ、そう言う……。けど生憎空を飛ぶのはハッピーに会う前からできたらいいな~ってちょっと思ってたから、あんま関係ないね」

ナツ「そーなのか?空飛ぶと言えばハッピーだと思うけどなぁ……」

次回『ブルーノート』

シエル「てか、ハッピーじゃなくても空飛ぶ奴いるじゃん。ナツとか」

ナツ「オレ?飛んでたっけ……?」

シエル「兄さんとかエルザの協力が必要だけど(笑)」

ナツ「ペルにエルザ?……ってあれは飛びたくて飛んでるんじゃねぇーっ!!(怒)」
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