FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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よっしゃ!前回の宣言通りに投稿完了!!
これで胸を張って堂々とキタ〇ミの里に行ってこれます!!←おい
で、誠に勝手ではございますが、来週の更新は休ませていただきます。←こら

余談ですが、ここ最近の話がシリアス続きまくってるせいで、おまけ風次回予告で空気壊すのに躊躇いが生じてきています。←
今回に至っては…読んでいただけた方が早いですね。それではどうぞ!






あ、ちなみにギルダーツさん。今回も出番まだなんでステイしててください。

ギルダーツ「えぇーーっ!!?」



第127話 獣の目

シャルルは今の状況に対して大きく後悔していた。主に、何も変えられなかった自分の無力さに。

 

光を失い虚ろのように見えるが、開かれた瞼は限界まで縦に引き伸ばされており、その双眸が捉えるブルーノートを……狩るべき獲物を決して逃がさないようにしているように見える。対して目以外の顔のパーツは一切揺らいでいるようには見えない。喜怒哀楽……あらゆる感情が抜け落ちていると言っていい。

 

そして身体も、先程までブル―ノートを蹴飛ばすほどの威力を出した小さな身体は、今は両足で立ってはいるものの、どこかダラリと脱力させているように佇んでいる。しかし一見隙だらけのようなその姿勢を目にしながらも、ブルーノートの表情に油断は一切見られない。

 

豹変。そう言って然るべきな、少年シエルの身に起きた謎の変化。人によっては見たこともないであろうシエルの変貌。各々に彼の身に起きたことに若干の見覚えはありながらも、誰一人としてその核心を知り得る者はいない。

 

そしてシャルルもまた、見たことのある者の一人……否、正確には頭の中に、一度だけこの姿が浮かんでいた。

 

 

 

一週間前、S級魔導士昇格試験の発表があった直後、予知能力で浮かんだ幾つもの未来の映像。その中の一つに、その姿のシエルが映っていた。見覚えのなかった男が、背中を地に付けて倒れているのを、今のような目を浮かべながら、見下ろすイメージ。そして見下ろされていた男と言うのは、今シエルが標的としている、ブルーノートだった。

 

「(こいつを見た瞬間、逃げなきゃいけないと思っていたのに、そんな隙さえ与えられなかった……!こいつにさえ、遭遇しなければ……!!)」

 

予知に映っていた男。それだけでも奴との接触は避けるべき事だったのに関わらず、その男は敵の中でも桁違いにヤバい男だった。実力としても、内面としても。故にすぐさまこの場から全員で、特にシエルは避難させなければいけなかった。だが蓋を開けてみれば、有無を言わさず地に押さえつけられて、結果的には予知に近い状況になってしまった。

 

「シエル……一体、何が……?」

 

そして、全くシエルの変化に脳が着いていけていないカナの呟きにすら目もくれず、シエルはブルーノートの方へと一歩足を踏み出し、向かおうとする。

 

 

 

そして急に加速し、二歩目を踏みしめるよりも速く敵へと接近していった。

 

「ふん」

 

周りの味方たちが理解して驚愕を顔に出すよりも先に、いち早く察知したブルーノートが右手を前に翳して魔力を解放。超高速で迫っていたシエルの身体を地面へと縛り付ける。様子が一変して不意討ちを喰らわせられたものの、然程能力が急上昇したわけではなさそうと言うのがブルーノートの見解だ。さっきのは火事場の馬鹿力と言ったところか。

 

「二度もてめえの攻撃を食らうつもりはねえよ」

 

今後油断するつもりもなく、確実にシエルを仕留めるつもりでいる。小さな子供相手に大人げないなどと言う甘い考えなど、ブルーノートには持ち合わせていない。一切の反撃の隙も与える気はない。

 

しかしシエルを注視しながらも、警戒しながらも、次の彼の行動を見抜くことは出来なかった。徐に重力下でシエルが右の拳を器用に地面へと殴り入れたかと思いきや、そのすぐ後にブルーノートの足元にひびが入り竜巻が舞い上がる。男の身体を吹き飛ばすことは出来なかったものの、彼に意識外からの攻撃を加えたことで少なからず驚きが顔に出ている。さらにシエルは左掌を自分の腹の下に付けるや否や、その左掌が触れた地面に黄色い魔法陣が浮かび上がった。

 

「あっ!!」

 

「あれって……!!」

 

思わずウェンディが声をあげ、ルーシィたち仲間も反応を示した。エドラスでシエルが使っていた、対象を爆破させるための魔法陣だ。今回は地面に刻まれており、展開されてから数秒足らずでその魔法陣が光を放ち始める。だがあのままでは爆発に呑まれるのはシエル自身。なぜあのような行動を?と疑問が浮かぶ。

 

その答えはすぐに示された。魔法陣を起点として発生した爆発は強い衝撃を呼び、その衝撃によって、重力を浴びているシエルの身体は飛び跳ね、ブルーノートとの距離を一気に縮めた。呑まれた竜巻から、無理矢理脱出していたブルーノートは、先程とは全く違う魔法を使い、一気に距離を詰めたシエルに目を剥いた。

 

その隙を突いて体勢を立て直しながら膝蹴りを見舞おうとした少年。しかしその攻撃は反射的に腕でガードしたブルーノートに止められ、今度は真横に重力をかけられて少年の身体が逸れて飛んでいく。再び小さくなっていくシエルに追撃しようとブルーノートは構えるが、その意識は別の方へと向けられた。

 

「あ?んだ、こりゃあ……?」

 

膝蹴りを受けた方の腕に、先程地面に刻まれていたものと同じ黄色い魔法陣が浮かんでいる。見えた瞬間は怪訝の顔を向けていたブルーノートだったが、ついさっきの爆発した光景を思い出してすぐに理解した。まさか……!と頭を過った時には既に遅く、ブルーノートの身体は腕を起点として爆発。辺りを発光で照らす。

 

「な、何だよこれ……!シエルってこんな魔法、使えたっけ!?」

 

「あたしたちもよくは知らないの!シエル自身も、分からない事が多いって!!」

 

「シエル……!!」

 

目にするのが初めてだったカナの、驚愕と共に繰り出された問いにルーシィが答える中、何度目になるか分からないシエルの異変を感じたウェンディが、彼にまるで呼びかけるかのように呟く。しかし真横に飛ばされ、木々の中に投げ出されていたシエルにその声は届かず、重力から解放されて身軽になっていた少年は再びブルーノートに接近していく。

 

「ぜえ……ぜえ……何だってんだ、一体……!」

 

爆心地である腕から少しばかり血を流し、息を切らすほど消耗しながらも、ブルーノートはそれ以外の外傷をつけないまま悠然と立っていた。魔力が多いことで耐久もあったから耐えられていたようだが、それよりもブルーノートを動揺させていたのは爆発させる魔法が人体にも刻まれていた事だ。

 

「(あのボウズが瞬時に魔法陣を刻んだ?いや、そんな芸当が出来る状態には見えねえし、何よりそんな余裕も存在していない)」

 

腹が立つことこの上ないが、前例がなさすぎる為に男は冷静に少年が起こした行動を振り返る。自らが左手を付けた地面、そして膝蹴りを防いだ時に接触した腕。瞬時に振り返ったブルーノートは今も目の前に接近してくる少年の襲撃を、半身を翻して回避。再び攻め込まれる前に左の拳で小さな身体を殴り飛ばした。

 

地面を転がっていくシエルには目もくれず、ブルーノートは今しがた彼を殴り飛ばした左拳に目を向ける。そこに刻まれていたのは、予想通りの魔法陣。

 

「やはりか」

 

確信した。あの少年が意識せずとも触れた存在は魔法陣が刻まれ、爆発魔法をその身に受ける。そして今この瞬間も、触れた左拳を爆破させようと、カウントダウンが刻まれている、と言ったところだろう。そこまで理解したブルーノートだが、現状これを外部の人間が解除する方法はないに等しい。これではまんまと攻撃を食らう事と同義になるのだが、彼の行動は迷いなく素早かった。

 

「落ちろ!!」

 

左拳を叩きつけるように地面へと入れ、重力場を発生。すると直後、ブル―ノートの左拳に刻まれていた魔法が発動。爆発を起こすが、彼の足元の地面に衝撃が沈んでいき、ブルーノートの拳は一切ダメージが及ばなかった。火力が高かったシエルの爆発を力技で攻略してきたブルーノートに、妖精側の魔導士は驚きを禁じ得ない。攻略法などないとばかり思いこんでいた為にも見える。

 

「さて、これでてめえの妙な魔法は攻略したも同然だが……」

 

他に打つ手はあるのか?と言いたげにシエルへと問おうとするブルーノートだが、全く聞く耳を持たずに、シエルは何度目になるか分からないブルーノートへの突撃を再開。思わずため息が漏れそうになるのを耐えながら、ブルーノートはシエルの身体を滞空させるように重力を操り、縛り付けた。

 

「結局は馬鹿の一つ覚えか。さっきまでと違って脳味噌まで捨ててきたのか?あア?」

 

「シエル!!」

 

変わり映えのしないシエルの攻め方に飽きたと言わんばかり。触れることなく攻撃を加え、魔法陣を刻まれたとしてもその爆発を重力で流せば事足りるブルーノートからすれば、意外性はあったものの対応できれば単調で対処のしやすいもの。もうこのまま中空に浮かべたまま絞め殺そうかと考え、魔力を強めていく。周りに未だたむろしている他のガキどもの一人が声をあがると同時に、邪魔が今度こそ入らないように重力を再びかけておく。苦悶な声をあげながら周りが何とか動こうとしているが、土台無理な話だ。最早そんな気力さえ残っていないだろう。

 

だが、ブルーノートは失念していた。今、そんな彼の中にある常識を覆しかねない存在が、すぐ近くにいたことを。それをようやく理解したのは、周りに気を持っていかれて横を向いていたブルーノートのこめかみに、突如衝撃が走った時だった。

 

「……!?」

 

その事を理解するのに数秒要した。衝撃を受けた方向に目を向けてみると、自分を襲ったのはまずシエルであることを確か。だが問題はその方法。シエルの態勢は、頭を振りかぶって叩きつけた、頭突き後の体勢そのもの。つまりこの少年が行ったのは、自分のこめかみに頭突きを食らわせたことだと分かる。

 

距離は確かにそう離れていなかったが、重力で全身を縛られていたのに何故?そこだけが理解できていなかったのだが、それを解明するよりも先に、シエルは更に行動を移す。未だに滞空している状態で、重力もかかっているシエルの身体。彼は右足のみを横にのばすと、その踵部分に爆破する魔法陣を展開。そしてその直後爆発が発生し、その衝撃がまるで彼の右足をレバー代わりにするようにして、シエルの体を回転させる。そしてその衝撃のまま、ブルーノートのぐらついて無防備となった身体に右の回し蹴りを打ち込む形に。

 

「(そうか……!さっきの頭突きも、今の蹴りと同じようにしたのか……!)」

 

そしてすぐさま男は絡繰りに気付いた。さっき己に頭突きを叩きこんだ時は、後頭部付近に魔法陣を展開して、その衝撃で急接近させたものだと。触れてもいないのに体の近くにまで魔法陣を展開させられることは知らなかったブルーノートは、見事に虚を突かれた。

 

だがシエルの追撃は留まらない。重力場は未だに展開されている。まだ自分の本来の動きが行えない事を察知した少年は、構えた右腕の後ろ、右肘に一つ。そして背中にも一つ魔法陣を浮かべて瞬時に爆破。そのまま殴りつけようとしたのだが、僅かに対峙しているブルーノートの方が早かった。

 

迫ってきていたシエルの右腕だけを重力で縛り上げ、あらぬ方角へと向けさせた。身体の一部分にだけ、集中的に重力をかけることは、全体に満遍なくかけるよりも負荷が重い。加えて一気に体全体が空中を移動している以上、確実に右腕へのダメージは避けられない。下手をすれば骨が折れるか、最悪千切れて泣き別れになる程だ。それによって苦しみ、抜けきった無表情の顔が苦痛に歪む様を想像し、ブルーノートはほくそ笑む。

 

「……ぅうっ!!」

 

しかし、ここに来てずっと押し黙っていたはずのシエルが唸り声を上げながら、もう一度魔法陣を展開。今度はなんと己の背後全体。巨大な魔法陣を一瞬で作り上げた。さしものブルーノートも予想外、そのまた範疇の外な行動を起こされて「は?」と惚けたような声を発して硬直。そのまま爆発に乗って迫ったシエルは、右掌をブルーノートの顔面に叩きつけ、そこから次に雷の魔力をダイレクトに流し込む。

 

怯んだブルーノートに対して、シエルはすぐさま次に再び瞬時に爆破させて身を翻して回し蹴りを彼の右肩に。肩から衝撃を受けて向けられた背中を、両手を組んでそのまま振り下ろすように叩きつけた直後、そのまま膝を屈伸させて両足で蹴り飛ばす。

 

「(まずい……!そろそろあの爆発が来る……!!)」

 

体感的にはかなり長い時間を感じていたが、激しい攻防の最中ではそれほど時間は経っていない。だがブルーノートの身体に刻まれた魔法陣は現在全部で5つ。一個でもまともに受けた時はかなりのダメージを受けた。それが一気に5つともなると、さすがに危うい。すぐさま重力で爆発を逃がそうと、体勢を立て直しながら実行しようとするが……。

 

次の瞬間、ブルーノートの四肢を白い綿のような手が掴みにかかり、その動きを封じた。目を剥きながらも手が伸びている方向を確認すると、いつの間にか重力から解放されていたシエルが、背後から出していた雲を操り4本の腕へと変えて拘束している。感情が抜け落ちていたように見えたシエルの目は、ブルーノートにこういっているように見えた。

 

『今度は逃がさない』と。

 

「このガキ……!!」

 

これまで余裕を見せていたブルーノートも、今この瞬間においては焦らざるを得なかった。そしてその直後、これまでのものとは比にならないほどの衝撃と光量を発しながら、ブルーノートを中心に爆発が発生。その風圧で、中心にいる当事者二人を除く全員が、再び身体を宙へと舞わせる。

 

ブルーノートだけでなく、シエル本人でさえも巻き込みかねないほどの威力。さしものブルーノートもこれを受けては一たまりもない。

 

「よ、よく分かんねーけど……なんかすげぇ事になってんな……!」

「あい……!」

 

「そう呑気に言ってられるような感じにも見えないけれど……?」

 

吹っ飛ばされて、逆さまな状態で地面に着いたナツに、同じ態勢になったハッピーが同意を示す。ルーシィはあまりにも別次元に見える激突を見て呑気そうに見えたナツを指摘している。

 

「ぅ……あっ!シエル……シエルは!!?」

 

同じように吹き飛ばされていたウェンディは、爆心地の近くにいた少年が心配になり、体を起こすと同時にすぐさまその姿を探す。優れた五感を持つ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の特性を生かし、その視力で少年の姿を捕らえようと目を凝らすと、舞い上がった煙が徐々に晴れていくと同時にその姿を捉えることに成功。

 

 

 

しかしその姿は仰向けになって四肢を投げ出し、既に力尽きたように見える姿だった。対するブルーノートは胴や背中に爆発を受けたような跡こそみられるが、未だ倒れこむようには見受けられない、しっかりとした足取りで立っている。

 

「っ……!!シエル……!!」

 

その姿を見た瞬間、ウェンディは悲鳴混じりにその少年の名を呼んだ。だがそれで目を覚ますことはない。もう動くことが出来ないであろうシエルの小さな身体を見下ろしながら、ブルーノートは息を吐いていた。そして同時にこう思った。間に合ったと。

 

爆発する直前。ブルーノートは己に刻まれた黄色い魔法陣を、全開の魔力で追い出そうと開放した。頭に付けられた二つを受けてはさすがに危険。故に優先的に排そうと集中し、自分を拘束している雲の手に強制的に移し替えた。身体に付けられた三つに関しては間に合わなかったが、頭に比べれば些末な事。最悪の事態を免れただけマシと言える。

 

そして起きた爆発で、ブルーノートを拘束していた雲も破裂四散。結果的にはシエル自身もダメージを負う事になった。数量的にはブルーノートの方がダメージが大きいが、元々の地力に大きな差がある。割合では向こうの方が大きな被害だろう。

 

「まあどっちにしろ、いい加減くたばった事だろ。後は本命を……」

 

少年はここで力尽きた。そう確信して言葉を紡ぎ、本命の狙いである妖精の輝き(フェアリーグリッター)を手に入れようとカナに目を向けようとしたブルーノート。だったのだが……。

 

 

 

思わず彼は戦慄した。信じがたいものをこの目で見て、動揺を隠せなくなった。

 

「どーなってんだ、こいつは……!?」

 

ブルーノートだけではない。ほぼ遠目から見ていたシエルの仲間たちも、信じられないものを見ているような感覚に陥っている。

 

 

 

立っていたのだ。もう力尽きたと思われた少年が。相も変わらず見開かれた目をブルーノートに向け、感情を失ったかのような表情を浮かべながら、地の底から湧き上がってきたかのような唸り声をあげて、両脚を震わせることなくしっかりと、立っていた。

 

「嘘、でしょ……?」

「シエル、何で立てるの……?」

 

カナが、ハッピーが、他にも、声すら出せないほどの衝撃を受けている仲間たちが呆然とする中、唯一悔しそうに歯噛みをしている人物……否、ネコがいた。シャルルは彼の異常な姿から目を背けるようにして俯き、今この瞬間すら何も出来ずにいる自分を呪ってさえいる。

 

「何故だ?」

 

そしてブルーノートは、思わず問いかけた。雨とは別の要因から、冷や汗が溢れ出てしまうほどの何かを感じながら、ほぼ無意識に尋ねていた。

 

「てめえは一体、何なんだ……!?」

 

しかしシエルはその問いに答えない。誰の言葉も耳に入れず、ただ行動を起こすのみ。動揺を見せるブルーノートを視界に収めながら両手に雷の魔力を展開し、握り潰そうとする。だが、左掌のみが自由に動かせるのに対し、右掌は何故か力をいくら込めても握ることが出来ない。

 

「……?」

 

それに疑問を感じる反応を一瞬みせるも、すぐさま動かせる左手を使って無理矢理握らせ、その身に蒼雷を纏う事に成功。そしてブルーノートへ視線を戻した瞬間、彼に目にも留まらぬ速度の蹴りを腹に叩きこむ。

 

呻き声を上げるブルーノートにさらに2、3発蹴りを入れ込み、怯んだところを顎から蹴り上げる。がら空きになった身体には周りの雨を密集させて両手の指鉄砲を作り、砲弾へと変化させて打ち込む。

 

「チィ……!舐めんなァ!!」

 

しかし雨で作られた砲弾は重力で正反対の方向へと返され、シエルへと直撃。そのまま彼の身体も後方へと飛んでいく。だがブルーノートはその対処も束の間。再び体に刻まれた魔法陣が発動し爆発。またもダメージを受けることに。

 

「っつ……!くそ……!」

 

ついにその背中に地が付き、ブルーノートは思わず悪態をついた。彼はあまりにも強力すぎる魔導士故に、これまでも他の実力者と対峙しする度にあっさりと打ち勝ってきた。

 

だからこそ、彼は常に求めていた。己の強さに拮抗、または上回る程の実力者を。己が「飛べそう」と確信できるような、強大な魔導士との闘争を。

 

今のシエルは、何であろうか?自分に対抗し、一時的とはいえ追い詰め始めてきている。だがそれは、純粋な力と力のぶつかり合いではなく、異質で、歪で、不気味な存在を相手にしているような、求めていたものとは確実に違うと言い切れる、気持ち悪さが勝ってしまう勝負。

 

魔法がどうこうと言うわけではない。確かに触れただけで爆発させる魔法も脅威だが、特にブルーノートが不気味に感じたのはシエルが豹変した後の戦い方だ。

 

一見すると突撃一辺倒。フェイントもなく、警戒もなく、ただただ目の前の敵を屠ろうと襲い掛かってくる猛獣のような姿勢。しかしその爆発を活かして己の魔法を突破し、先程の天気を操る魔法も同時に使用できる。

 

最も異質さを感じたのは“リスクを顧みない”ところだ。今、シエルの右腕は恐らく、一部の骨が折れているか、ヒビが入っている。先程自分が右腕に集中的に重力をかけ、そこから脱する為に無理矢理に爆発で身体全体を移動させたことが、相当な負荷になっていたはずだ。豹変する前の少年が、利発そうな印象を持っていただけに、そのデメリットを考慮していないような行動をとる事があまりにも解せなかった。

 

そして今も。右腕の負傷を気にかけていない。それどころか、負傷していることに気付いていないのではと錯覚まで覚えさせられる。ブルーノートに爆発を最大限当てる為とは言え、躊躇いなく自分も巻き込まれるリスクも無視して敵を拘束したことも。本来なら、あり得ない事なのに。

 

「(いや、待てよ……?あのボウズの目……)」

 

だがそこまで考えていたところで、ブルーノートは思い返した。シエルが豹変した直後、自分で言っていたではないか。「人間ができる目じゃない」と。ここまで闘ってきた中で、ブルーノートはその異変の根幹に迫っている感覚を感じた。そうだ、間違いない。あれはまるで……。

 

「(野生に生きる、獣……見定めた獲物を捕らえるまで決して逃がさない、必ず仕留めると言う意思が込められた……獣の目……!!)」

 

猪突猛進に獲物との距離を詰め、持ち得る武器の全てを活かし、仮に自分の身体がどうなったとしても空腹に勝るものはない。必ず仕留めて喰らい尽くす。その姿勢を見せる獣と、今のシエルの目は、同じだった。

 

左の掌を掲げて天空に雷の魔力を撃ちあげながら、一歩ずつ近づいてきたシエルがブルーノートの前に迫る。見上げたブルーノートはその姿を見て、自分の中にあった予想が確信へと変わった。

 

「うぅ~~~……!!」

 

感情が抜け落ちたと思っていた顔は、気付けば別のものへと変わっていた。瞳孔が開き切った猛獣と同じ目でブルーノートを睨むその少年の表情も、命を奪うべきと言わしめる感情を持った獣そのもの。絶対に獲物を取り逃がさないと言う覚悟すら秘めていると言ってもいい彼のその目は、僅かな隙さえも獲物(ブルーノート)に与えないと、言いたげであった。

 

本来であれば誰もが委縮し、畏怖を覚え、恐怖に慄く少年の変貌。ブルーノートも、最初こそその異質さに動揺し、得体の知れない気持ち悪さを感じていた。

 

 

 

 

 

「上等じゃねえか、ボウズ……!」

 

しかし今は、もうどうだってよかった。敵を潰す為、狩る為、殺す為。その為には人の身を捨てて獣にだってなり得る。それ程の覚悟なのだと、ブルーノートは勝手に解釈することにした。思わず己の口が、吊り上がるのを自覚する。

 

「だったらとことん、やり合おうじゃねえか……てめえのその妙な魔法も、今となっちゃ気に入った……!」

 

目の前の少年について理解が追い付けば追いつくほど、内側に溢れていた嫌悪感は拭われていった。単純な事だ。人と言う生き物は得体の知れない者に対して恐怖感を抱く生き物。何を考えているのか、どんな素性を持っているのか、同じ人間相手でさえ、得体の知れない者には言いし得ぬ恐れを抱いてしまう。それが徐々に抜けていけば、残るのは真っ向からぶつかり合う獣の子と、思わぬ掘り出し物となる魔法。

 

「ルールは至ってシンプル……!どっちかが死んだら、決着だァ!!!」

 

狂ったような歓喜の声をあげると共に、ブルーノートはシエルの小さな身体を重力によって上空へと軽く飛ばす。打ち上げられたシエルはすぐさま反撃と言いたげに、天空に溜め込んでいた雷を一気に放出。地上にいるブルーノート目掛けて落としていく。対して目にも留まらぬ速度の雷に対しても一切焦りを見せず、重力で軌道を逸らして周りに着弾させるブルーノート。

 

「これが噂の“天の怒り”って奴か。成程、てめえが神衣(かむい)の魔導士の弟とやらか……!!」

 

さり気無く告げられた事実に意識を向ける余裕さえ、今のシエルには存在しない。右腕を振りかぶって待ち構えるブルーノートに対し、シエルは態勢を整えて右足を高く上げる体勢をとる。そして重力の籠った男の拳と、爆発で勢いづいた少年の踵落としがぶつかり合う。少しばかり拮抗した直後、男の拳に刻まれた魔法陣が爆発。互いに弾かれるようにして距離を置く。

 

だが直後ブルーノートが今度は左の拳を振りかぶり、視認したシエルは低い身長を活かして屈みながら懐に潜り込み、腹部に膝蹴りを叩きこむ。少し呻きながらもブルーノートは逆に肘でシエルの小さな身体を背中から叩きつけ、重力で再び縛り付ける。

 

「どうした!!こんなもんか!?」

 

肘と腹に浮かんでいる魔法陣など最早気にした様子のないブルーノートは、挑発するようにシエルへと問いかける。地に沈んだまま動けない状態にある少年は、本来ならそう簡単には対処できずにいるだろう。

 

「グ……グルゥ!!」

 

だが唸り声と共にシエルがとった行動は、ブルーノートも乗る程の広い魔法陣の展開。

 

「……マジかよ」

 

思わず零れた言葉と共に、辺りに何度目になるか分からない爆発が起こる。それが発生するたびに地形は変わり、周りの仲間たちの身体が吹き飛びそうになる。

 

「あ、あんな化け物と渡り合ってる……!」

 

「あい、そこはスゴイこと、だけど……」

 

そんな周りの仲間たちは、最早戦いと言うよりも獣同士の殺し合いとでも表現して差し支えない二人の激突を目にし、戦慄を感じる事しかできずにいた。激突自体は元の魔力が高いブルーノートと、得体の知れないシエルの力が拮抗してとてつもない衝撃を生み出し、踏み入る事も許されない状況を作り出しているが、正直彼らには一切安心が出来ない。

 

「ああ……まるで、シエルじゃねえみてーだ……!」

 

「このまま放っておいて、ホントに大丈夫なの……?」

 

いつもならとてつもないぶつかり合いを見ると興奮し、高確率で「オレも混ざろー!!」と殴りかかって返り討ちにあうパターンが多いナツでさえ、今見えるシエルの異常さを目にし、そのような感情が浮かばなかった。カナも同様だ。豹変したシエルを野放しにしても、本当にいいのか、躊躇われる。

 

そしてそんな仲間たちの中でも、ブルーノートを倒すこと以外考えている様子が見られないシエルの姿を見て、不安そうな表情を浮かべている少女と、無力感に苛まれている白ネコ。

 

「……シャルル……私たち、何も、出来ないのかな……?」

 

「……」

 

見ていられないと言いたげな声を漏らし、近くにいる親友に問いかけるウェンディに、シャルルは無言を貫いた。いや、この場合何も言えなかったと言う方が正しい。どうにかしてあの予知の通りの未来を回避し、シエルの異変も、仲間の危機も避けたかった。しかしブルーノートに遭遇した時点で、あの未来は確定していたのではと思ってしまう。自らの頭をフル稼働させはしたものの、大した作戦は浮かばず。真正面からブルーノートに叩き潰される予感しかなかった。

 

そして今のこの状況さえも、最早自分たちが何をしようと覆らない。そう断言できてしまう絶望的なものとなっていた。

 

「このままじゃ……シエルが……!!」

 

何も言葉を発さないシャルルの姿を見て、彼女でもどうにもできないと言外に言わされたと理解したウェンディ。しかしこのまま蚊帳の外でいてもいいのか。シエルをあのままにしていいのか。ウェンディは今までの中でも殊更大きな焦燥感に駆られていた。

 

何度目になるか分からない、爆発と重力のぶつかり合い。片や狂喜に塗れた表情で、片や獣が浮かべる形相で、互いに身体をボロボロにさせながらも、未だその攻防の苛烈さは止むようには見られない。

 

「いいぞ、もっとだ!!まだ簡単に死んでくれるなよ、ボウズ!!」

 

いくら潰れても爆破で戻り、己に何度も攻撃を加え、その破壊力は他とは桁違い。思わぬところで見つけた自分を楽しませてくれる逸材に、感謝すら覚えながらブルーノートは力を振るう。今もまた、殴り飛ばした直後にがら空きになったところへ天からの雷を落として、さらに追撃の爆破。何度重力で衝撃を逃がしたかもう数える事すら辞めていた。余計な事を考えて、飛ぶことを逃したくはない。

 

そして膠着状態に似た戦況に、シエル自身はもううんざりしたのか、勝負を決めに来た。“天の怒り”の雷を一つ、掲げた右腕に落とすとその右手が雷を纏ったものへと変わる。そして振りかぶりながら飛び出し、右肘に黄色い魔法陣を展開した。

 

恐らくこれまでの中で一番の威力。それも、完全に己の右手を捨てる未来を度外視した、イカれた強化方法。それが尚更、ブルーノートの気を昂らせた。

 

「シエル待て!それはやべえ!!」

 

何をするつもりなのか、目のいいナツがすぐさま気付いて声をあげるも、彼の耳には届いていない。届いてたとしても、きっと止まらない。ナツの焦った声によって仲間たちに今まで以上の緊張感が走る。

 

必死に呼びかける仲間たちの声など気にかけず、シエルは倒すべき敵にその右手を叩きこもうと力を込める。さっきは上手く握れなかった右手が、今度は動いたことを確認し、思い切り握りしめて遠慮なく叩きこもうと動かす。右肘に備えた魔法陣の爆破を起動し、その準備を整えた。目の前にいる男の顔面に、叩きこもうと動く。

 

 

 

 

 

「シエルッ!!!」

 

()()()()()()()()()()()……シエルは己の身体が止まったのを自覚した。止まったのは、自分が止めたからではない。止められた。誰に?違和感を感じて振り向いた後ろを見れば、振りかぶっていた自分の右腕を、両腕で抱えるように抱きしめる形で止めようと、必死な形相でしがみつく藍色髪の少女の姿が、目に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ……ェン、ディ……?」

 

 

 

 

 

 

 

微かに呟かれた声が、彼女の耳に届いた直後、少年少女に爆発が襲い掛かった。

 

「シエルー!!」

「ウェンディー!!」

 

誰が、どちらの名を叫んだのか。誰にも知る由がないだろう。あるいは全員だったかもしれない。

 

ただ、全員が願ったことは一つ。彼らが無事でいてくれること。

 

 

爆発で再び巻き起こった土煙は雨で洗い流され、その姿を鮮明に写し出していく。遠くからでも一番近くに見えるのはナツ。自慢の目を駆使して、小さな二人を必死になって探していると……。

 

「あ、いたぞ!!」

 

その姿を捉えることが出来た。だがまだ安心しきれない。今の爆発に巻き込まれた様子から、本当に無事でいてくれているのか、確証がないからだ。シエルが上向きで下側に、ウェンディが下向きで上側に、重なるようにして倒れこんでいる。まだ二人とも動く気配がない。だが、一人は確実に意識がある事は発覚していた。

 

「……俺は……何して……?」

 

キョトンと、先程までの獣のような形相は鳴りを潜め、普段通りの人間らしい顔を見せている少年だ。だが先程までの記憶ははっきりと残っていないのか、状況が理解できずにいるらしい。しばらく放心していたシエルであったが、自分の上に倒れこんでいる少女の姿を目に収めると、思わず彼女に呼びかけていた。

 

「ウェンディ……?」

 

ぼやけてはいるが、微かに覚えている気がする。彼女が危機に晒され、助けたくても助けられず、無力感に苛まれたあまりに怒りを募らせたとき、視界が黒くなって、何も見えなくなった。だが気付けば彼女が自分の名を叫ぶ声が聴こえて、その姿を見つけた瞬間、視界が戻った。

 

彼女が、引き戻してくれたのだろうか?しかし呼びかけた彼女は、ピクリとも動く様子が見られない。

 

「……ウェンディ……!!」

 

嫌な想像が浮かび、もう一度焦りを孕んで呼びかけると、「ん……」と可愛らしい声が耳に入る。そして上げられた顔についた細く開かれた両目がこちらの姿を捉えると、その目が次第に大きく開かれる。

 

「シエル……私の事、分かるの……!?」

 

「……うん……」

 

そして彼女に問われた言葉に戸惑いながらも、正直に答えるとウェンディの表情が今度は柔らかくなり、安心したような笑顔へと変わっていく。目元には潤んだ光さえ見えていた。

 

「良かったぁ……!!シエル、もう、戻ってくれないんじゃ、ないかって……!!」

 

そして溢れ出てくる涙。それを見たシエルは彼女に心底心配させるほどの事をしてしまったのだと、後悔を抱えた。まだ霞みがかったようにぼやけているのが、尚更シエルにもどかしさを覚えさせた。

 

「ごめん、ウェンディ……俺、何て言ったら……」

 

言葉に詰まり、捻り出すことも出来ず迷っていたシエル。だが、目に入ったあるものを見た瞬間……

 

 

 

 

 

シエルは、絶望を味わった。

 

「……え、ウェンディ……それは……!?」

 

 

 

 

シエルが目にしたのは、彼女の両腕と胸に刻まれていた、黄色の魔法陣。

 

 

 

度々自分が制御できないまま発動させていた、爆破の魔法だった。

 

「……!!」

 

息が詰まりそうになった。今まさに、ウェンディは自分の体に触れている。先程までの自分の状態が、この魔法陣を繰り出す条件を満たしている状態だったのだとしたら、最悪のタイミングで、彼女は自分に触れてしまった事になる。

 

「っ!……あ、あの、これは、えと……!!」

 

ウェンディも今、自分の状態に気付いたようだ。思わずシエルから離れて立ち上がり、自分の身体に刻まれた魔法陣を見て狼狽している。慌てた様子で言葉を探しているようだが、現状で分かっていることは自分の力がウェンディの命を危機に陥れている事だ。

 

シエルは今も忘れられない光景が今まさに蘇っていた。エドラスで魔法が使えず、王国の兵士に捕えられそうになった時。魔法が使えないはずの状態で何故か発動したその力。そしてその力は、場合によっては人の身体を失わせるほどの、強力で凶悪なもの。

 

魔力が高い者ならばある程度は脅威ではないようだが、ウェンディはその限りではない。完全にコントロールが出来るようになるまでは、細心の注意を払っていた。だと言うのに……!

 

「そんな……俺が……俺のせいで、ウェンディが……!!」

 

一刻も早く、解除しなければ。しかし満足に発動させることすら上手くいかなかった現状で、解除の特訓も出来てすらいない。ウェンディの防御力を上げる補助魔法をかけても、どこまで効果があるか分からない。

 

訳も分からず、怒りに呑まれて、暴走させなければ強敵に太刀打ちできない自分の未熟さを、ここまで心底恨めしく思ったことはない。自分の弱さが、結果的に最愛の少女を危険に陥れるなど、絶対に避けたかった。だが出来なかった。何の対処法も浮かばぬまま、シエルは呼吸を乱し、頭を抱える事しかできない。

 

魔法陣が光り出し、自分の身に起こる未来に焦燥を感じたウェンディは、自分以上に絶望を表しているシエルの姿を目にして、一つの決断を下した。

 

「シエル……よく聞いて……?」

 

震えそうになる声を、努めて平静に落ち着かせながら、ウェンディはシエルへと言の葉を紡いだ。シエルはこの後の言葉を予想する。助けを求めるか?諦めか?それともこの状況を解決できない自分への失望か?如何なる言葉も甘んじて受けるが、それでも彼女の無事はもう約束されない絶望感を抱えたシエルに……。

 

 

 

 

 

「シエルは、何も悪くないよ」

 

彼女が送ったのは、シエルが全く予想できなかった言葉だった。自分の力が、この状況を作り出しているのに、一体、何を……?思わず顔を上げて彼女の表情を見てみると、今彼女が置かれている状態からは考えられない、穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「これはね、私が、シエルを助ける為に、自分で選んだ行動で起きること。さっきまでの……ううん、今までのシエルが、みんなを助ける為に無茶な事や、自分が傷つくことも怖がらないで立ち向かった事と同じ」

 

事実、その通りだ。暴走していた為に己の身体がとことん壊れるまで、ブルーノートを仕留めることのみが、彼の中に残っていた。それをウェンディが飛び込んだタイミングで止められなかったら、もっと手遅れになっていた可能性もある。そしてその行動に、彼女は後悔を感じていない。

 

「私ね、ずっとシエルに助けられてばかりだった。そんなシエルに恩返ししたくて、いつか、絶対にシエルを助けてみせるって、守ってみせるって思ってた。今日、それがようやく叶った……」

 

一歩一歩、ウェンディはシエルから離れるように下がりながら、彼に向ける笑みを変えずに語り掛ける。自分に降りかかる爆発から、シエルをなるべく遠ざける為なのは、すぐに気付けた。そしてその言葉に、嘘は一切ない事にも。

 

「シエルにばかり無茶をさせたくない。シエルが抱えている重荷を、私も一緒に背負いたい。だからね、これくらいは私にも背負わせてほしいな」

 

魔法陣の光がより一層強くなってきた。もう、いつ起動してもおかしくはないだろう。ウェンディはそれを察知して、一言「アーマー」と唱えると彼女の身体が光に包まれる。覚悟を決めた、現れなのだろう。これまで誰かの為に己を犠牲にしていたシエルの痛みを、少しでも分かち合う為に。

 

「ウェンディ……!!」

 

「大丈夫。私だって妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だもん。何にも心配いらないよ」

 

自らに降りかかった理不尽な運命を受け入れたウェンディに、シエルは涙を浮かべながら、呼び戻すように体を起こして手を伸ばす。対するウェンディは、シエルを只管安心させるように、不安など一片も無いと言いたげに、優しく堂々と言い切った。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シエル……私を信じて」

 

弾けるような満面な笑顔。それを浮かべると同時に、強まる魔法陣の光。彼女へと手を伸ばすシエルの姿も、彼女の名を叫ぶ仲間たちの姿も、辺り一面をその光は包み込んだ……。

 




次回『その力の源は』
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