FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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大変長らくお待たせして、申し訳ありませんでした。
約三か月ぶりの投稿。時間が上手く確保できない上に難産が続く当作品。まだ読んでくれている方々がいるか不安な気持ちもありますが、取り敢えず今回の更新で、再び再開だと言えるよう、これからも精進していきます!

次回予告は、また後程更新させていただきますね。

【12/17 0:36】
次回予告更新完了です!


第128話 その力の源は

周囲を埋め尽くす光。発光で包まれたその只中にいながら、己の目を覆って庇う周りと異なり、爆心地となった少女がいたであろう場所から、一切目も背けず閉じようともしないままシャルルはただ絶望の表情を浮かべるばかりだ。

 

ただ一人、正気を失い暴走していた少年を止める為に飛び出し、己が身を犠牲にしてでも彼を救った少女……ウェンディ。その相棒である彼女に降りかかった、残酷な結末。彼女に異変が起きた瞬間に、目の前に起きた現実が受け止められなくて、ずっと膝を折って呆然自失となってしまい、何も出来なかったことを今更ながらに後悔している。

 

いや、どちらにしてもシャルルに出来たことは、何も無かっただろう。圧倒的な力を持つ強大な敵。その敵に対して理性を捨てて本能のまま喰らい付いた少年。そんな彼を無我夢中で止めようとした相棒。その結果で発生した事故のようなものを、シャルルは防ぐ術を持ってなかった。

 

「そ、そんな……!」

「嘘だ……!」

「……ウェンディ……!!」

 

何の言葉も紡ぐことが出来ずに固まるシャルルの耳に、同じように絶望を現したような仲間の声が届いてくる。そんな声にさえ、今は反応できる余裕すらない。ただただ、相棒を失った事実を受け入れられず、喪失感に苛まれるままだ。

 

徐々に光が弱まっていき、辺りの光景が映り始めていく。周りの仲間は目を開け始めた頃だろう。しかしシャルルは対照的にその目を深く瞑って視界を閉ざした。この光が完全に収まった時に見えるであろう光景を、目にしたくなかったから。

 

「(ウェンディ……!シエル……!私……私……何も……!!)」

 

残酷に突きつけられた現実。ただただ背けたくて、受け入れたくなくて、相棒の少女とパートナーだった少年への無力からなる罪悪感や、失った事への絶望感で、彼女自身の心も壊れかけていた。最早、自分自身がどのような思考に陥っているのかさえ、理解できない。

 

 

 

 

 

今の彼女の中にあるのは、もう取り戻せない二人への、虚しい思いのみ……。

 

 

 

「シャルル!シャルル!!目を開けて!あれを見て!!!」

 

どれだけの時間が経ったのか分からなくなった頃。己の耳に入ってきたのは、どう呼びかけるハッピーの声。目を開けたところで、何になるのか。そう反論を返そうとしたシャルルに、更に畳み掛けるように彼は告げる。

 

「シエルとウェンディだ!二人とも生きてるよ!!」

 

その言葉が、反射的にシャルルの閉じた目を開かせた。固く閉じて闇の中に置いてあった視界が、徐々に鮮明なものへと戻っていき、先程まで少年少女がいた場所を映し出す。そこに見えたのは、先程まで嫌でも想像させられた、見るも無残な姿になった小さな命たち……ではなかった。

 

 

 

 

 

固く少女の身体を抱きしめて彼女を助けようとしていたことが分かる少年と、光が収まったことではっきりした視界と現状に大きく目を見開いて呆然と少年の抱擁を受け止めている少女。二人とも地に膝を着けている態勢ではあるが、ウェンディにかかっていた爆破が起動した時と外的状態は変化していない。

 

強いてあげるとすれば、彼女に刻まれていたはずの黄色い魔法陣が一つ残らず消えていた事のみだ。

 

「あれ……。私……」

 

「!ウェンディ!?何ともないの!?」

 

状況の理解が追い付かないまま、思わず口から零れたウェンディの声を耳で拾ったシエルが、閉じていた目を一瞬で見開き、即座に背中に回していた手を彼女の両肩に置いて身体を離し、目を合わせて呼びかける。ウェンディ自身も混乱から抜け出せていないようで、自分の身体に刻まれていたはずの魔法陣が消えていたことも含めて確認した直後、困惑を露わにしながらも「うん」と一つ頷く。

 

何が起こったのか。正直なところさっぱり分からない。だが、彼女が今無事であったことが、シエルにとっては何よりも大きな喜びだった。

 

「よかったっ……ホントに……!ウェンディに、何ともなくて……!!」

 

「ひゃっ……!?」

 

その喜びと安堵によって息を吐きながら、シエルはウェンディの身体を引き寄せ、再び固く抱き寄せた。ほぼ前触れもなく、肩に置かれていた両手を背中に回されて密着された為か、ウェンディの顔が朱に染まり、今度は別の意味で彼女は困惑を現した。

 

だが、抱き締めている少年の身体は小刻みに震えていて、自分を抱き寄せると言うよりも縋りついていると例えた方が正しい、とまで言えるほどだ。それに気付いたウェンディは察知した。彼は、怖かったのだ。シエルのせいでウェンディが酷く傷ついてしまうか、最悪の場合命を落とすことになったのではないかと。だから、彼女が無事だと気付いて、とても安心したが故の行動なのだと。

 

「俺、君に何かあったら……どうしようかと……!!」

 

「……うん、私はこの通り……大丈夫だよ……」

 

気恥ずかしさは残っているものの、それを理由に邪険にするような性格ではない。ウェンディは震えるシエルを落ち着かせるように、己の無事を証明するのも兼ねてシエルの背中に手を回した。

 

「一体、どうなってんだい……?」

 

「分かんない……けど、あの爆発魔法はシエルしか使えないから、シエルが解除したんだとは思うけど……」

 

遠目に二人の様子を見ていた面々の内、カナやルーシィはただただ呆然としていた。ウェンディに仕掛けられてしまった魔法が、気付けば解除されて不発に終わり、その後の発動もする気配がない。魔法の解除が出来るのは普通に考えれば魔法を使用できる本人。だがシエルはまだ使いこなせていないはず。何故解けたのか?その疑問が彼女たちに浮かぶ。

 

「いいじゃねーか細けー事は!!ウェンディは無事だったんだからよ!!」

 

「……あい!そうだよね!ね、シャルル!!」

 

そんな中、結果の方に重視したナツが仲間たちへと声を発し、その言葉にハッピーも同調する。魔法は不発。つまりウェンディは一切傷を受けることもなく無事だった。ハッピーに呼びかけられたシャルルも、涙を浮かべながらも安堵を表情に浮かべてハッピーに振り向き、頷いた。

 

「(けど、どうして発動が止まったのかな……?)」

 

共に安堵を感じながらも、ルーシィはこの結果に終わった理由を模索していた。誰もが悲惨な結末になるだろうと絶望していた。何故爆発が起きなかったのか。否、爆発自体は強烈な光が起きたことで発動……あるいはその直前までいっていた。それが急に不発に至ったのは何故か?己の胸中で考え込むルーシィの脳裏に、それは唐突に浮かんだ。

 

幼い頃の、まだ健在であった母が優しい声で何かを伝えてくれている、記憶の一端が。

 

「(え?何で、ママが……?)」

 

何の前触れもなく浮かんだ母との幼き記憶。母の記憶に、シエルの力と何か関係が?更なる混乱と疑問が浮かぶも、現実の時間は動き続けている。しばらくの間、互いに固く抱擁を交わしていた少年少女の内、徐々に現実へと頭が引き戻されてきた少女の顔が、再び赤く染まり始め、表情もどこか気まずさを感じるものへと変じていく。

 

「あ、あの……シエル?このままだと、ちょっと動けない、かな……?」

 

少しばかり上ずった声で、密着しているが故に耳元へと送られるウェンディの声を聞き、シエルもようやく現実へと引き戻された。正気に戻ったと言ってもいい。そしてその直後……ほんの0.1秒にも満たない本当の一瞬の内にシエルはウェンディ以上に顔を真っ赤に染めて彼女の身体からすぐさま離れた。

 

「あ!ご、ごめん!イヤだったよね!!気付かなくてホントごめん!!」

 

「ち、違うよ!?イヤなんて全然!!ただちょっと、その、恥ずかしかったと言うか……」

 

二人揃って先程の自分たちの光景を振り返り、物凄い気まずさと恥ずかしさを感じて、さっきとは違う意味で混乱の真っただ中へと入り込む。だが、状況を整理したと言う事は、冷静さも取り戻したと言う事。まだ互いに若干顔が赤いままで俯いてしまったが、ウェンディに刻まれていた魔法陣が発動する前に消えたことは、やはり疑問として提示する必要がある。

 

「多分……シエルが解いてくれたんだよね?」

 

「そう、なのかな……?何かしたって感覚も、特に……」

 

シエル自身も、あの時は無我夢中だった。ウェンディの身を滅ぼしてしまう恐怖で冷静な判断が出来なかったはず。その為に覚醒したのか?と言う推測すらも怪しい。シエルに一切の心当たりが存在しない以上、ウェンディの魔法陣を解除したのはシエルなのか、はたまた別の要因か、まだ不明な点が多い。

 

すると、俯かせていた顔を上げたウェンディが、シエルの顔を見てある事に気付いた。これまでの不明な点が一気に吹き飛ぶほどの、目に見えて変わった、とある部分。

 

「シエル、髪が……」

 

 

 

 

 

だがしかし、ウェンディの言葉はそこで途切れさせられた。前触れもなく突如体に負荷がかかり、地面へと押し付けられる感覚。心当たりは、一人しかいない。

 

「あ、あいつ……!」

 

正直、しくじったとシエルは胸中で吐いた。脳内はウェンディの身の安否でいっぱいになっていた為、まだ眼前の強敵が動けることを、完全に失念していたことを。

 

腕を組み、ほとんど表情が変わっていないものの、雰囲気から機嫌を損ねていることは明らかだと感じられる面持ちで、こちらに近づいてくるその男・ブルーノートの存在を。

 

「おいガキ……またもオレの邪魔をしてくれやがったな……?」

 

そしてその視線は、自らが重力で押し潰している子供の片方。先程も自分が起こす行動の邪魔をしてくれた少女へと向けられている。そこに込められている殺気にも似た鋭い感情は、少し前と比べても段違いだ。

 

「もう少し……あと少しで、飛べるとこだったかもしれねぇってのに……」

 

押し潰されて動けずじまいになっている様子のシエルをちらりと見ながら、ブルーノートはまるで落胆さえ思わせる言葉を告げた。ついさっきまで自分が扱う重力下をものともせずに動き、特攻を仕掛けながら激突を繰り広げた少年。しかし今の彼にはその時に感じた覇気など、まるで最初からなかったかのように見えなくなっていた。むしろ、身体の消耗はきちんと積み重なっているのか、暴走以前よりも抵抗力が感じられない。

 

「ボウズも元に戻っちまって……何から何まで気にいらねぇ。小娘ってのはどいつもこいつもイラつかせるのが得意みてーだな……!」

 

言葉からも声からも苛立ちを感じるように言ったブルーノートは、その直後に手を翳してシエルにかけた重力を上へと転換。フワッと一度浮いたシエルはその後横へと重力をかけられて弾かれるように飛ばされて少し離れた場所へと転がった。

 

「シエ、あぐっ……!?」

 

突如飛ばされた少年へと振り向き名前を叫びかけたウェンディは、何度目になるか分からない強力な重力場をその身に受けて、またも陥没した地面に埋められてしまう。悲鳴さえも上げることが出来ず、徐々にその重力が強くなっていく。

 

「だが、てめぇは随分ボウズに気に入られてるみてーだな」

 

ブルーノートの脳裏には、先程までの暴走したシエルが呼び起こされた際の情景が焼き付いていた。今自分が押し潰している少女を手にかけようとした瞬間、少年が纏う雰囲気が変わった。そのシエルが元の状態に戻ったのも、ウェンディがその身を挺して引き止めたからだ。つまりは……。

 

「逆に言やあ、てめぇを消したらボウズを止めれる奴はもういなくなるって訳だ」

 

今度の今度こそ。ウェンディが消滅すればシエルは先程の暴走を引き起こしたうえ、最早誰にも止められない凶暴な獣へと変わる。そうすれば、さっきと同様……否、それ以上に滾るぶつかり合いを味わえるはず。

 

「ま、待ちやが……ぐはっ!!」

 

それはシエルたちだけでなく、ナツを始めとした、傍観側になっていた者たちも感じ取れたのか真っ先に阻止しようと動く。しかしナツは勿論のこと、他の者たちもまとめて、再びブルーノートによって地に沈められて身動きが取れなくなる。

 

シエルはさっきのようには動けない。ウェンディも自力の脱出は不可能。一番動ける可能性の高いナツでさえ、今回ばかりは厳しい様子。それでも、諦める事だけは、出来なかった。

 

「(やらせるか……!今度こそ、妖精の輝き(フェアリーグリッター)で……!)」

 

ナツたちと同様に地に縫い付けられているカナは、ウェンディへと意識を向けている今なら、きっと妖精の輝き(フェアリーグリッター)を当てられると信じ、再び右腕に魔力を込め始める。こちらも体力は厳しいが、四の五の言っていられる状況ではない。

 

それに先程ブルーノートにやられかけた時に、ウェンディには守ってもらった恩もある。それを返すよりも先に死なせてたまるものか。抱える数多の感情に直結する、ブルーノートを倒すと言う事項を果たす為、カナは精一杯右腕に集中する。

 

 

 

だが、その途中で、カナは違和感を覚え、そしてその正体に気付いた。

 

 

 

─────発動、しない……!?

 

破裂した様に鮮血が飛んだ跡が残る右腕を見れば、そこには初代マスター・メイビスに託された証拠の紋章が、消滅していることに気付いた。それが示す残酷な現実。

 

カナはもう、妖精の輝き(フェアリーグリッター)を撃てなくなっていた。一回限りのとっておき。それはブルーノートに落とされた時点で、使用権が失われたことを意味していた。

 

「よく見ておけボウズ。こいつが跡形も無く消えるところを」

 

「やめろ……!ふざけんな……!!」

 

己の身に起きた事に気付いたカナが絶望する最中、ブルーノートはウェンディにとどめを刺そうと右腕に魔力を集中し始める。避ける事すら叶わぬ脅威が迫るのを必死に止めようとシエルがもがくも、最早指一本動かすことすら叶わない。重力に潰されていなくとも、満足に動けたかも怪しい程、消耗している可能性が高い故に。

 

「ならもう一度あの力と姿を見せてみろ。オレを飛ばせるかもしれない、あの獣の目を」

 

必死の抵抗も空しく動くことすらままならない状態のシエルに、自分を追い詰めた状態になるよう、ブルーノートは煽りを交えながら呼びかける。シエル自身、自分に何が起きていたのか記憶が曖昧で思い出せない。だが、ブルーノートに確かに増えた傷痕や、周りの荒れ具合から、自分の身に何かが起きて奴を僅かばかりでも追い詰めていたことが示唆されていることは気付けた。

 

「どのみちてめえの力は、このガキがトリガーになっている。それを壊せば制御するものも無くなり、解放されることだろうよ」

 

そしてそのきっかけが、今奴の牙によって消されかけている愛しき少女であることも。ブルーノートの狙いは、曖昧な記憶の中にある自分ともう一度ぶつかり合う事だ。しかし自分の意志でそれを発動できるとは限らない。それでも、ウェンディを助けるにはもう一度例の状態になる必要がある。彼の言うように、もう一度その状態に映るしか方法はないのか……?

 

「ダ、メ……シエル……!」

 

そんなシエルの胸中を察したのか、重力に押されて苦悶の表情と声をしながらも、ウェンディは待ったをかけた。そのことにシエルだけでなくブルーノートも目を見張り、彼女へと目を向ければ、ウェンディは微かに開けた目に涙を滲ませながら、シエルを真っすぐ見つめて訴えた。

 

「さっき、みたいに……なったら……絶対、に……!!」

 

今にも押し潰されそうな苦しみをその小さな身体に受けながらも、正気を失い暴走していたシエルに戻ることを望まない一心でシエルに願ったウェンディ。この状況下に置かれても尚、彼女は己の身よりも友の事を案じると言うのか。愕然として言葉を失い、固まったシエルと対照的に、余計な一言だと感じたブルーノートはウェンディにかけている重力を更に強める。これにより、ウェンディの口から更に悲鳴が漏れ出た。

 

「(このままじゃ……ウェンディが……!)」

 

悲鳴が耳に入り、小さな少女の命が消されかけている実感が更に迫る事で、カナの胸中に更なる焦燥が芽生える。だがどれほど力を込めても、妖精の輝き(フェアリーグリッター)はもう発動しない上、今自分にかけられている重力を抜け出すこともままならない。

 

何も出来ない無力な自分を責め続け、最早声さえも掠れていく少女が力尽きる様を、見ている事しかできなかった。

 

「地獄の底へと、消え失せろ」

 

「やめろぉおーーーー!!!」

「ウェンディーーーー!!!」

 

最後のトドメとばかりに腕を振りかぶり、無慈悲な宣告を告げる男。それを阻止しようと怒号を叫ぶ火竜(サラマンダー)と、悲痛に染まった声で少女の名を呼ぶ白ネコ。打つ手もない、絶体絶命の状況。それを現すかのように涙が溢れ出てきた双眸を固く閉じながら、カナはただ願うしかなかった。

 

「(助けて……ウェンディを、私たちの仲間を……

 

 

 

 

 

 

 

助けて!!お父さんっ!!!)」

 

 

 

 

 

 

その願いは、聞き入れられた。

 

 

 

少女目掛けて降り下ろされたその掌に真っ向からぶつかるように、鏡合わせで突き出された、少年少女とは全く違う年季の入った逞しい掌。そこから放たれた互いの魔力が衝突すると同時に、しばしの静寂がその空間に流れる。

 

そして数瞬の後、弾かれたのはブルーノートの方だった。同時に発生したのは、重力が()()された事で発生した衝撃波。轟音と揺れを起こしながら辺りに強烈な風圧を巻き起こしたその光景は、誰しもが目を見張るのも無理はない。そして、目の前に現れた新たな人物を認識し、驚愕することも、無理はないだろう。

 

後方に弾かれ、一瞬だけとは言え飛ばされた感覚を味わったブルーノートは、体勢を立て直した後、その表情に苛立ちを抱きながら、今しがた乱入したその男を睨みつける。

 

強烈な重力から解放され、ようやく身体に自由が戻ったウェンディが頭だけを動かし、ようやくその存在を視認することが出来た。そして、周囲の妖精たち同様に、驚愕と、微かな喜びを表した。

 

 

 

 

 

そこに立っていた男。茶髪をオールバックにした中年の男性。だがしかし、纏った魔力は桁違いであり、表情はまさに憤怒そのもの。しかして味方からすればこの上ない戦力。妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士、ギルダーツ・クライヴ。

 

「ギルダーツ!!」

 

「ギルダーツだーーーっ!!」

 

先んじて帰ったものとばかり思っていた最強の男が、絶体絶命のピンチを見事にひっくり返した。彼と親しいナツとハッピーが、驚愕を上回る歓喜を表して声に出す。

 

「(お父、さん……!!)」

 

そしてその男の登場に、感極まって更に涙を溢れさせるカナ。怒りを隠そうともせず敵を睨みつける父の姿は、近くにおらずともこれ以上に無く頼もしい存在に見えている。

 

「こいつがギルダーツ……!!」

 

一方、睨まれている側であり、突如己の身を吹き飛ばした強者の姿を見て、顔を僅かに驚愕へ染めたブルーノートもまた、乱入者が敵味方も含めて認める最強の男であると認識した。一部の事にしか興味を示さないブルーノートさえも認知しているとは、さすがと言うべきだろう。

 

彼の背を見上げているウェンディもまた、棚引く黒い外套に覆われた大きな背中を呆然とした様子で眺めていた。話伝手でしか聞いた事のない妖精最強の男の実力……その片鱗を垣間見たと同時に助けられ、思わずお礼の言葉さえ出てこない程に。

 

「悪ぃ、嬢ちゃん。ちょっと手荒に扱うぞ」

 

チラリとだけ振り向きながら告げられた言葉の意図が分からず、「え?」と声を漏らしてその意味を聞こうと次の言葉を放とうとした瞬間、ウェンディは一瞬の内に浮遊感を感じた。

 

そして気付けば自分の身体が浮いていた。否、飛んでいた。

 

「ちょっ!!?」

 

「シエル!しっかり受け止めろ!男だろ?」

 

更に正確に言えば投げ飛ばされたのだ。ギルダーツに。幼い少女に対してあんまりな扱いを行ったギルダーツに対して、目を剥いて何かを抗議しようとしたシエルを逆に封殺する。緊急事態だと言う事は分かるが前触れもなく飛ばされたウェンディも託されたシエルも慌てふためいた。だがウェンディにこれ以上傷を負わせるわけにはいかないと言う一心でシエルはほぼまっすぐ飛んできたウェンディの身体を正面から受け止め、しかし背丈の関係と勢いの強さ、シエル自身の消耗が手伝って、そのまま彼は背中から倒れこむ。

 

そんな一幕が起きている間、ギルダーツはブルーノートとの戦いを始めていた。駆け出したギルダーツの足を止めるように彼の足場を重力で盛り上げ、そのまま土台をひっくり返してギルダーツの身体ごと上下を逆転させる。だが驚愕する周囲とは異なり、ギルダーツは一切焦らずその場で態勢を低く構え、土台を粉砕。その勢いと共に跳躍して真っすぐブルーノートへと肉薄すると、天から落ちるギルダーツと地より跳躍するブルーノートの構図が出来上がり、互いの拳が正面からぶつかり合う。

 

そしてその激突は、全てを破壊する魔力と全てを押し潰す重力が混ざった衝撃波となって、周囲の全てを吹き飛ばした。

 

「のあーーー!?」

「きゃーーー!?」

 

既にできていたものも、新たに岩が削れてきたものも含めて、多くの瓦礫の山と共に、叫び声をあげながらギルダーツとブルーノートを除いた全員が転がっていく。更にブルーノートもまた、ギルダーツとの正面衝突は拮抗していたものの、数秒後には押し負けて再び己の身体が浮遊したことに目を見開いて驚愕した。

 

その隙を逃さんと、義手になっている左手をすかさず振りかぶったギルダーツは無防備となったブルーノートの顔面にもう一撃叩き込む。すると横方向にみたび吹っ飛んで、直線状に存在する森の木々どころか、岩で覆われた地面さえも大きく抉り取るように粉砕していく。そして肝心のブルーノートの姿は、森の奥へとあっという間に消えていった。

 

「な、何これ……!」

「すげぇ……!」

「ありがと……シャルル……」

「え!?別に庇ってないけど!?」

 

一撃ぶつかり合っただけで周囲を更地に変えてしまう強者同士のぶつかり合い。そしてそれを上回ったギルダーツの一撃による余波を垣間見て、転がるしかなかった魔導士たちは各々驚嘆の声をあげる。ちなみに飛んできた瓦礫が顔に飛んできてめり込んだ状態のハッピーが横たわったまま、頓珍漢な感謝を告げたことに思わずシャルルがツッコんだが、それは置いておこう。

 

「近くにいるだけでもとても危険ですね……」

 

「あ、あのぉ……ウェンディ、さん……?」

 

同様に転がり続けて地面にうつ伏せとなったウェンディが、後方のギルダーツたちに視線を向けながらこの場の危険度をぼやく。しかしそれとは場違いな、若干上ずったシエルの声が彼女の下から聞こえる。そこにウェンディが視線を向けると、シエルがいた。

 

「動けない、デス、俺……」

 

「きゃあっ!?ご、ごめんなさい!!」

 

だがその顔の位置は、ちょうどウェンディの控えめな胸に押し潰されていた。赤く染まった頭を横に向けて、白目を剥いた少年がどこかショートしたような妙な片言を呟いてそれを知らせると、思わぬ痴態を晒していたことに気付いたウェンディがシエルに負けないレベルで赤面し、消耗しているとは思えない俊敏な動きで飛び退いた。事故とは言え、さすがにこれは恥ずかしい。

 

「全員、ここから離れろ」

 

「なぬ!?」

 

ちょっとしたトラブルが起きていたシエルとウェンディ、ついでに視界が塞がっているハッピーを除いた全員がブルーノートを殴り飛ばしたギルダーツとその周囲に注目していたが、唐突に告げられたギルダーツからの言葉に、ナツが真っ先に、そして他の面々にも驚きが現れる。

 

「離れてろって……」

 

「さっきの人は、今ギルダーツさんが……」

 

遅れて反応を示した、未だに意識の戻らないマカロフを脇に抱えようとしているシエル、ウェンディもまた疑問符を浮かべる。森の奥深くへと消え姿さえ見えないブルーノート。暴走状態であったシエルでさえ満足に与えられなかったであろう確かなダメージを、確実に与えることに成功しているはず。故に彼らにはその言葉の真意は測れなかった、のだが……。

 

 

 

轟音を立てながら森の奥で爆発したかのような衝撃波が発生。その直後、超高速でギルダーツ目掛けて飛んできた何か。その何かを認識するよりも速く、それはギルダーツの元へと到着。対するギルダーツもまた、まるで分かっていたかのようにそれに対して応戦。彼と、そして超高速で飛んできたその存在……自らの身体を重力でギルダーツへと高速落下させたブルーノートの右拳が再びぶつかり合った。

 

正体がブルーノートであったと一同が認識すると同時に、先程も起こった強力な衝撃波がまたも周囲を吹き飛ばす。今日だけで……否、ブルーノートと遭遇してからだけでも、一体何回自分たちは吹き飛ばされただろう。

 

「これは、確かに離れてた方が良さげ……!」

「う、うん……!」

「何度もありがと……シャルル……!」

「だから庇ってないし、てかどーやってそーなるの!?」

 

一回殴り飛ばされたぐらいじゃ全く堪えていない様子のブルーノートとの激突を見て、しっかりマカロフを守った年少組二人が、改めて近くにいる事の危険性を認識。退避一択だと理解した。一方で、ハッピーの顔面にめり込んだ瓦礫が三つに増えていた為に、思わずシャルルのツッコミも増えた。

 

「つ、強ェーーー!!オレこのケンカ見てーーーー!!!」

 

「それどころじゃねえ!!早く行くぞ!!」

 

激突からまたも互いに距離をとり、睨みを利かせながら戦闘態勢を解かないギルダーツとブルーノート。一連の流れを垣間見たナツは呆然とした様子を一変。興奮気味に叫んでこの場から動かずにいようとする。だが状況が状況なので否を唱えたシエルが声を張り上げてナツのマフラーを空いている左手で引っ張り出した。

 

「ルーシィさんとカナさんも!」

 

「え、ええ。でも……」

 

マカロフを挟んで反対側にいるウェンディが、ナツのような理由ではないにしろ激突する二人の戦いを見ていた女性たちに声をかけて催促する。当然この場から離れてベースキャンプに行くことが最適な行動だ。それはルーシィも分かっている。

 

しかし彼女の視線は、どこか俯いているようにも見えるカナへと向けられた。ルーシィはカナの父親がギルダーツであることを、彼女本人から耳にしていた。だからこそこの状況には思う事があるのだろう。本当は、父の身を案じて、動くことすら躊躇われる場面だ。

 

「……行こう。私たちがいたら、()()()()()の邪魔になる」

 

だが彼女が選んだのは、父の声に従い、この場から離れる事だった。その決断を下したカナ、そしてそれを悲し気に見つめるルーシィを目にし、詳細は分からぬ者の何か複雑な事情があると感じたウェンディは、それ以上の言を発することはしなかった。

 

梃子でも動こうとしないナツのマフラーを、器用に雲で作った数本の腕で無理矢理引っ張る力技で移動準備を終えたシエルと共に、ウェンディはマカロフの小さい体を抱えながら、全員でギルダーツたちを背にして先へと進み始めた。

 

「(気を付けて、お父さん……)」

 

最後に身を案じる目を、振り返りもせず敵と対峙する父に向けて、カナは胸中のみで呟いた言葉をかけ、数秒遅れて仲間たちの後へと続いていった。

 

「大事な試験だった。大人が考えるより多くの感情が、ガキにはあった」

 

仲間たちの気配も遠くなった頃を見計らい、ギルダーツは徐に口を開いた。昔からよく知る者。ここ最近で知り合った者。試験に出ていた子供たちは、ギルダーツにとっても多種多様と言える。だがしかし、そのほとんどに共通していたとすれば、この試験に対して、各々ベクトルや程度の差はあれ、譲る事の出来ない思いを抱えていた事。者によっては、今後の人生さえも賭けた者だったであろうこと。

 

「明日へ歩き出す為のガキなりの決意を、てめえらは踏みにじったんだ……!」

 

それを全て台無しにし、無と帰させた悪魔の心臓(グリモアハート)。それに対する大きな怒りが、ギルダーツの纏う魔力となって、周囲の空気を再び揺らしていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

強大な実力者がぶつかり合う現場から何とか離れることに成功したシエルたち。未だに降り止まない雨が作り出す水溜まりに時々踏み鳴らして音を立てながら、先頭を歩いてマカロフをおぶっているナツが苛立ち混じりに文句を呟きだした。

 

「んがぁーっ!!ケンカがどうなるか見てぇのに!!」

「今は他のみんなと合流するのが先よ!!」

「だよねぇ……」

 

しかしそんなナツの文句に誰も賛同はしない。消耗が激しい様子のカナの身体を支えながら、ルーシィが表情を怒りに染めて優先とするべき事項を叫ぶ。ナツの近くを飛行するハッピーも、今回ばかりは合流優先のようだ。

 

「キャンプに行けば、みんながいるかもしれない。一刻も早く態勢を立て直さないと」

 

「メストさ……じゃなくて、ドランバルトさんもきっと、力になってくれるはずだよね!」

 

ハッピー同様に(エーラ)を広げて飛行するシャルルと、その傍で足を進めるウェンディ。彼女たちも勿論、同意見だ。だがウェンディは評議院の潜入員として来ているメスト……もといドランバルトも協力してくれるはずだと、確認も兼ねてシエルに告げる。

 

しかし彼女には悪いが、その可能性は低い上に、仮に協力してくれるとしても程度が知れてる。少なくともシャルルはそう考えているし、ウェンディに関することでドランバルトへの信頼など皆無どころかマイナスを更新中のシエルが、その意見に否と答えた上で願い下げだと吐き捨てる未来が、予知を使わなくても予想できた。

 

「……」

 

「……シエル?」

 

「ぇ、あっ……ごめん、聴こえてなかった……どうしたの?」

 

だが、想像していた返答どころか、どこか上の空と言いたげな様子で彼女の声すら聞こえていなかったらしい。名を呼ばれてようやく反応し、申し訳なさそうに苦笑の表情を浮かべるシエルの顔を見て、ウェンディは先程の問いかけではなく、彼の現状の方が気にかかった。

 

「大丈夫?顔色も悪いし……さっきの戦いの、疲れとか残ってるんじゃ……」

 

「疲れてるのは、みんな一緒だろ?ウェンディだって、あいつに何度も苦しめられて、身体とか何ともない?」

 

「私は大丈夫!……だけど……」

 

見るからに疲労が激しそう……と言うよりも最早やつれているようにも見える少年の返答は、ここにいる者たちと大差はないと言うもの。そうには見えない、と言うのがウェンディの率直な感想だが、自分もブルーノートに何度も痛めつけられて、その余韻が少しばかり残っているのも事実。反論が出来ずにいる。

 

「カナも、大丈夫?」

 

「ありがとう。あたしはシエルたちに比べたら、大分マシな方だよ」

 

消耗が激しい様子のシエルを案じるウェンディを見て、カナも同様に見えていたルーシィが心配になって彼女に声をかける。対するカナの返答は、力ない笑みと共に告げられた。ルーシィからすれば、どちらも程度の差がそこまであるようには見えないが、どう尋ねたところで、彼女の返答は変わらないだろう。

 

だがこの場で休んでもいられない。どうせ回復をするのであれば、今向かっているベースキャンプですれば手間も時間もかからずに済む。休む必要があるのなら尚の事早く行かなければ。そう考えて一同の足は少しばかり急ぐ様に早まる。

 

 

 

だが前触れもなく異変は起きた。雨で濡れた足場に足をとられたのか、シエルの右足が内側に滑り大きくバランスを崩す。小さく「おっ……!?」と悲鳴を上げて、シエルの身体がそのまま叩きつけられるように倒れこんだ。

 

「シエルッ!!」

「大丈夫!?」

「おいおい、何やってんだよ」

 

すぐさまシエルに駆け寄る少女たちと、半ば呆れながら足を止めて振り向くナツ。情けない事だ。余計に体力を消耗する羽目になってしまうとは。

 

「いってて……足が滑った……。ごめん、今起きる、か、ら……」

 

だがしかし、すぐさま起き上がろうとしたシエルは、手足に力を入れようとするが、一向にその身体が起き上がらない。雨で滑って上手く力が出せないのもあるだろうが、そもそもの力が弱すぎる。

 

「シエル……?大丈夫なの、シエル!?」

 

「あ、れ……何か……」

 

少年の異常を感じたのか、慌てた様子で呼びかけるウェンディ。だが、そんな彼女の声が、遠くなっていくのを自覚する。瞼も重く、視界がぼやけ始めてきた。

 

─────あ……これ、ダメなやつだ……。

 

今際の際に、ようやく自覚するとは。自分の不調も感じ取れないほど、感覚がマヒしていたことが、ようやく分かってしまったようだ。薄れていく視界に映る少女が、どこか泣きそうな顔を浮かべている。ああ……また、泣かせてしまった。そんな後悔を感じながら、シエルは動くかも分からない口を使い、最後の力を振り絞って告げた。

 

─────ごめん。ちょっとだけ、眠らせて……。

 

そして少年の意識は、深く沈んだ。




おまけ風次回予告

エルザ「ふと思ったのだが、メガネをかけた者は何故誰も彼も言葉遣いが妙なものになるんだ?」

ペルセウス「……?そうか?気になるようなとこは別に……」

エルザ「思い返せば、ラキにエバ、ロキも時々そうだし、グリモアにも意味の分からぬ喋り方をする男がいるだろう?」

ペルセウス「ああ……あれはあー言う喋り方が好きな奴らが、自分で普段から使ってるだけで、メガネは特段関係ねぇと思うぞ?」

エルザ「そうなのか?」

次回『エルザ vs. ラスティローズ』

ペルセウス「ほら、エドラスのシエルだってメガネかけてたけど言葉遣いはまともだったろ?」

エルザ「いや、奴も所々で聞いた事のない言葉を何度も言ってたではないか。聞き流すしかできなかったぞ」

ペルセウス「成程……原因はエルザの読解力だったわけか……」
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