FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今年に入ってからは厳しい状況が続いておりますね。

コロナウイルス、大雨による氾濫、そして猛暑…。

厳しいことだらけで帰省することもままならない状況ですが、一つずつ乗り越えていきましょう。



さて、小説の話になりますが、ちょっと表現を変える部分を作りました。前回ジョゼが放送機を使ってしゃべった台詞も『この表現』にしたのですが、差別化を図って《こっちの表現》に置き換えます。
既に前回の方も修正しているので、良ければご確認ください。


第12話 15分

《ならば特大の魔導収束砲(ジュピター)を食らわせてやる!!装填までの15分、恐怖の中で足掻け!!!》

 

放送機越しに怒気を含んだジョゼの声が響き渡る。魔導収束砲、またの名をジュピター。エルザでさえ一発防ぐだけで満身創痍になる程の威力。それをもう一発放たれればただでは済まない。ルーシィを渡す気など勿論ないが、もう一発があと15分で放たれるという言葉に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーに激震が走った。そしてさらに追い打ちをかけるように、幽鬼の支配者(ファントムロード)のギルドの中から無数の影が飛び立ち、こちらに迫ってきた。

 

《地獄を見ろ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)…。貴様等に残された選択肢は二つだけだ。我が兵に滅ぼされるか、ジュピターで消し飛ぶかだ》

 

ジュピターの装填をしている状態で、狙い撃つ先にいるはずの敵地へ向けて兵を出撃。その上で装填後に発射を確定させているともとれるジョゼの言葉に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちに更に激震が走る。自らの兵ごと撃つつもりでいるのかと。いくらなんでもそんなことはしないはず。脅しだと断定する者もいるが、それを否定したのは同じく妖精側の魔導士であるカナだ。

 

「あれはジョゼの魔法“幽兵(シェイド)”。人間じゃないのさ…。ジョゼが作り出した幽鬼の兵士」

 

「ってことは、おばけ!?」

 

魔法で作り出された、命を持たぬ幽鬼の兵士。その全てが背にファントムの紋章を刻んだ黒いローブを纏っており、素顔の部分は不気味に光る赤い目しか確認できない。更には胴体と思われるものも確認できず、幽兵(シェイド)の名にふさわしい黒い影の身体で浮遊している。

 

無数に蔓延る幽兵(シェイド)に、明確な死は存在しない。ジュピターを発射して消滅させたところで、ファントム側に損失など皆無なのだ。自然と妖精の尻尾(フェアリーテイル)側の目標はジュピター発射の阻止という事に限定される。だが恐らく、幽兵(シェイド)妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルド、及びメンバーを狙って攻撃してくるだろう。どちらか一方を集中させるわけにもいかない。

 

「オレがぶっ壊してくる!15分だろ?やってやる!!」

 

そんな時、ジュピターの発射阻止に名乗り出たのはギルド内でも随一の破壊力を持つ魔導士・ナツ。ギルドの守りを選んだ者たちに託された彼は相棒であるハッピーの名を呼び、(エーラ)を発動した彼に持ちあげられながらジュピターの砲門へと向かっていった。

 

「エルフマン!オレたちも乗り込むぞ!」

 

「おっしゃー!!」

 

ナツたちの後に続くようにグレイとエルフマンも駆けだす。そして更に続くように、シエルもグレイたちの背を追いかけ始める。

 

「俺も行くよ!これを使えば手っ取り早い!」

 

シエルは駆けながら前方に魔法陣を展開させると、そこから曇天(クラウディ)と同じ白く染まった、自分の3、4倍程ある大きさの雲を顕現させる。そしてそのまま飛び跳ねると、本来突き抜けてしまうはずの雲の上に着き、空を漂う雲の上に乗る形となった。空中を自在に移動するためにシエルが編み出した魔法の一つ。

 

「『乗雲(クラウィド)』!グレイ、エルフマン!乗って!!」

 

「「おう!!」」

 

走るよりも速いスピードで迫ってきた雲を視界に入れ、それを操る少年の声に従い、先導した二人は彼の後方、空いている部分に飛び乗る。カナを筆頭にギルドの守りを固める後方の仲間たちを信じ、シエルたちは湖面に沿って移動する。しかし、その行き先を幽兵(シェイド)たちが邪魔するように立ち塞がり始めた。

 

「邪魔だ!日射光(サンシャイン)!!」

 

雲を駆りながら掌サイズの太陽の光を前方に向けて照射。相手は闇の魔力によって作り出された兵。光の属性には弱かったのか、あっさりとその姿は霧散していく。だが、光を向けているのは前方。どうしても後方から回り込んでくる兵たちにまでは及ばない。そこを…。

 

「アイスメイク!“槍騎兵(ランス)”!!」

 

もう一人の遠距離にも対応できる造形魔導士のグレイが迎撃することで対処できている。迫りくる幽兵(シェイド)を氷の槍で撃ち落としながら、シエルが取りこぼした兵たちがどこから攻めてくるかを警戒している。エルフマンも乗ってはいるが、彼の魔法は近接専門。至近距離にまで詰められれば対処するが、現時点では心配はないようだった。

 

「ナツは砲台の中に直接入ったみたいだね…」

 

「動力がどこにあるかは定かじゃねえ。オレたちは正門の入り口から探そうぜ」

 

「正面突破。それでこそ漢!」

 

ジュピターが放たれていた砲台の上へと一足先に着いていたナツ。だが彼の攻撃でも砲台を壊せなかったらしく、内側から破壊することを選択したようだ。同じところから潜入する方法も考えたが、動力が見当違いのところにあるかもしれない。なので、ギルドの正門から入り動力を探すことに決めた。

 

乗雲(クラウィド)の解除と一緒に乗り込むよ!エルフマン、よろしく!」

 

「任せろ!ぬおおおっ…!!」

 

正門入り口が目前に迫ろうとしたときに、前方に位置どっていたシエルがエルフマンにそのポジションを譲る。譲られたエルフマンは右腕を岩の身体を持つ魔物の腕へと接収(テイクオーバー)で変化させ、後方へと一気に振りかぶる。そして岩の土台を下に確認できた瞬間「今だ!!」と叫びながらシエルは乗雲(クラウィド)を解除。雲が瞬く間に霧散していき…。

 

「漢ぉぉおおおっっ!!!」

 

一番前に出ていたエルフマンの右腕が正門を吹き飛ばし、奥の方へと扉が飛んで行った。襲撃に備えて待ち構えていたであろう何人かのファントムの魔導士が、扉に巻き込まれてその身を投げ出される。

 

「お?ちょうどいい。ジュピターの動力の場所、こいつらに吐かせようぜ」

 

「やっぱそう考えるよね。俺も異議なし」

 

待ち構えていたファントムたちを視認したグレイとシエルは、この状況を利用することにした。闇雲に探すよりは相手側から情報を引き出した方が手っ取り早い。いきなり後手に回ってしまったことで警戒心を強めるファントムたちだが、その様子を見て妖精側の3人は一切怯む様子はなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

正門入り口で待ち構えていた魔導士を一人残して戦闘不能にした後、その残した一人からの情報をもとに、シエルたちはジュピターの動力室へと向かっていた。発射までの時間は残り5分と言ったところだろうか。移動と情報の引き出しで少々時間を要したが、今のペースで動力室に向かえば十分に間に合う。

 

そして、ジュピターほどの超破壊力を持つ魔導収束砲の魔力源である巨大な魔水晶(ラクリマ)が設置してある動力室に辿り着いた時にシエルたちが見たのは、二人の火の魔導士がぶつかり合って…。

 

「くっさああっ!!?ぎゃああっ!鼻がもげるぅぅうっ!!」

 

「はははっ、牛乳拭いた雑巾の匂いの炎さ」

 

…ぶつかり合って…いるように見え…なくもない光景だった。乗り込んだ直後に見せられたのは橙色に光る炎を纏わされたナツが、鼻を押さえて悶えながら床を転がっており、もう一人のファントムの魔導士と思われる男がそれを見て得意げに笑っているところだった。

 

「いや、何してんの…?」

 

「む?新手か…。この短時間でこうまで侵入を許すとはな…」

 

未だ鼻を押さえて悶絶しているナツと対照的に、相手の方はシエルたちを目視して警戒を強めた。全体的に侍のような風貌をしており、髪の色は白と黒で縦に分かれている。赤を基調とした服装に、炎の魔法を扱う魔導士にしてはナツを手こずらせているので、実力は高いのだろう。

 

男の名は『兎兎(とと)(まる)』。『大火の兎兎丸』と称される、幽鬼の支配者(ファントムロード)のエレメント(フォー)の一人である。

 

「だが、ジュピターを止めることはできないぞ?私が今ここで君たち全員を倒すからだ。紫の炎(パープルファイア)!!」

 

相手側の数が増えたにもかかわらず強気な姿勢で告げる兎兎丸。告げたと同時に彼は手をかざして魔法陣を展開。そこからシエルたちにとって見覚えのある紫色の炎を繰り出した。突然の攻撃ではあったが、3人はすぐさま回避して攻撃から免れる。だが、その表情にはわずかな動揺があった。

 

「この魔法…マカオが使ってるやつと同じだ!」

 

「同じ、か…。果たしてそうかな?青い炎(ブルーファイア)!!」

 

続いて繰り出してきたのは青色の炎。グレイ目掛けて放たれたそれを彼は逆に包むように凍らせることで対応する。だが、氷に包んだ際に気付いたことがある。

 

「何だ?この炎、やけに冷たい…?」

 

ナツが受けていた激臭のする橙の炎、マカオと同じく水や風では消せない紫の炎、そして今繰り出された冷たい青い炎と言ったように、複数種類の炎を扱うことができると分かる。さらに兎兎丸の力はもう一つある。

 

「てめえ!今相手してんのはオレだろうがあーっ!!」

 

手だけでなく、怒りによって顔からも炎を噴き出しながら、ナツが兎兎丸目掛けて殴り掛かろうとする。だが次の瞬間、兎兎丸に向かったはずのナツの方向が転換。エルフマン目掛けて炎の拳を振りかぶった。

 

「うおっ!?何しやがんだナツ!!」

 

「違えよ!あいつが勝手に動かしてんだ!!」

 

今のナツの行動、そして言動から考えてシエルはその力を察した。兎兎丸のもう一つの力とは炎であるならば、自然のものでも相手の魔法であっても意のままに操ることができる、と言うものだ。先程からナツの相棒であるハッピーが「兎兎丸に構わず動力になる魔水晶(ラクリマ)を破壊しなければ」と、大声で主張しているが、そんなハッピーにシエルは告げた。「魔水晶(ラクリマ)を壊すには、どのみち兎兎丸が行う炎の制御を阻止しなければいけない」ことを。だが、それは炎の魔導士が相手だった際の話だ。

 

「さあ、私の扱う炎に敗れるといい。緑の(グリーン)…」

 

「火気厳禁!曇天(クラウディ)豪雨(スコール)!」

 

手元に緑色の炎を顕現して攻めようと企てていた兎兎丸であったが、シエルがすかさず繰り出した雨によって動力室が一気に水場へと変貌。彼の炎をすぐさま消されてしまった。

 

「なっ!?だが、こちらは雨の中でも維持できる紫の炎(パープルファイア)が…って!?」

 

さすがにギルド内でも上位に君臨する実力者だけあって、すぐに状況を判断し次の一手を割り出すまでは良かったのだが、差し出された両手が炎を出す前に氷漬けにされてしまい、魔法は不発に終わってしまった。グレイの手によって。

 

「もうこれで火は出せねえよな?」

 

不敵に笑みを浮かべるグレイに、唖然とした様子で口を開けるしかない兎兎丸。ついでにナツも「お、おい…?」と今の状況が理解できていないように見える。そして…。

 

落雷(サンダー)!!」

氷雪砲(アイスキャノン)!!」

 

ジュピター発射まで残り2分ほどまで来ていた時、シエルの落とした雷と、グレイが造形で作り上げた氷の大砲から放たれた砲撃によって、巨大な魔水晶(ラクリマ)は破壊された。それに伴い、発射のために蓄えられた魔力は飛散。さらに外に取り付けられていた砲台も壊れ、崩れていった。

 

「そ、そんな…」

 

「やったぁ!シエルもグレイもカッコよすぎです!」

 

「お、オレほぼいる意味ねーじゃねぇかぁ!?」

 

ジュピターの動力を守るという自分の任務を果たせなかったことで落胆の様子を見せる兎兎丸に対し、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちに喜色の表情が浮かび上がる。唯一ナツだけは相手の制御を克服するという狙いがあったのだが、途中で合流した仲間にあっさり敵の魔法を封じられ、悠々と魔水晶(ラクリマ)破壊の仕事を横取りされたことにショックを受けているようだった。

 

「さて、どうする?もうお前は戦えるような状態じゃねえみたいだが」

 

「やるって言うなら受けて立つよ。勝てると思えないだろうけど」

 

「潔く降参するならそれもよし。それもまた漢」

 

正直兎兎丸は焦っていた。自身の手を固めている氷の魔法は思っている以上に強固で外れる様子がない。魔法で溶かそうにも彼が扱う炎の魔法は扱いが繊細だ。手が封じられている状態では満足な効果は期待できない。その上、未だシエルが発動させた雨の効果が残っている。更に味方は今ここに誰もいない。万事休すだ。

 

 

だがその時、部屋が揺れた。いや、部屋だけではない。ギルド全体が揺れ始めた。突如起こりだした揺れに、妖精側だけでなく、兎兎丸さえも動揺している。そして揺れは徐々に大きくなり、動力室が横の方へと傾きだす。

 

「な、何だ!?」

「傾いてるよ!?」

「何が起きようとしてんだ!?」

 

「まさか、アレをやる気か!?ここには水平維持の機能がないんだぞ!!」

 

「水平!?」

 

床は壁に、そして壁だったはずの一面が床へと変貌。そしてジュピター崩壊によって散らばった瓦礫がこの場にいる全員を襲う。各々がそれに対処する中、唯一自由には動けない兎兎丸だけが今何が起きているのかを理解していた。

 

「ははっ!巨人が起きたぞ!君たちはもう終わったんだ!!」

 

「巨人…!?」

 

内部にいるシエルたちにはギルド全体がどのようになっているかは分からない。だが、巨人と言う単語に、この揺れから推測するに、ギルド自体が巨人のような何かに変貌しているのではないかと思われる。

 

そして揺れが未だに収まらない中、スピーカーを通して再びファントムのマスター・ジョゼの声が響く。

 

《平伏すがいい、クソガキども…。そしてその身の程を知れぇ…絶望の中で己の最期をたっぷりと味わうがいい…》

 

シエル、グレイ、エルフマンの3人がその声と言葉に身を引き締めている。ひとまず何が起きているのかを確認しなければ、どう動けばいいのかもわからない。しかしそれは兎兎丸によって正体が判明することになる。

 

「我がギルドの最強兵器…『超魔導巨人ファントムMk(マーク)(ツー)』」

 

外からの様相は、まさしく鉄の巨人。肩の部分からは超巨大な兵器を動かすために熱を逃がす筒がつけられており、そこから煙が発生。ギルド全体が巨人となったそれは最早一歩動くだけでもあらゆるものを破壊することを可能とする。

 

「ギルドが動くだけでも規格外だったって言うのに…」

 

「巨人になるだと…!?どういう仕組みだよ!!」

 

グレイもエルフマンも、幽鬼の支配者(ファントムロード)に対して予想の範疇を上回る機能が搭載されたギルドに驚きを隠せない様子だ。6足歩行で移動し、変形して魔導巨人にも変形できるなど……と考えたところでふと気づいた。移動?巨人?今も続く揺れは、もしや歩いているのだろうか?魔導巨人と銘打っているが、カテゴリーには乗り物に分類される。それはつまり…。

 

「お…おお…おぷ…!」

 

約一名(ナツ)行動不能(役立たず)になるという事だ。すっかり忘れてた。ずっと揺れる乗り物の中では酔いが一気に回って、動くことすらできなくなってしまうのがこの男の弱点であることを。唯一ナツが酔った瞬間を目撃したハッピーだけがナツを心配して傍についているが、何をしても無駄な気がする。

 

「アイツ、もしかして乗り物に弱いのか…?」

 

「見ての通りです。」

 

「くっ…!この拘束さえなければ、私の最大の技をもって逆転できていたものを…!!」

 

折角のチャンスが到来したというのに、現状何もできないことに変わりがない事実に兎兎丸は悔し気に涙さえ流している。その行動を見ていたシエルは、グレイとエルフマンに一つ耳打ちをする。聞いた二人は少々気の毒な視線を兎兎丸に向けたのだが、断る理由も特になかった。

 

「えっ、ちょ…?」

 

まずグレイが手を拘束した氷を起点に顔だけ残して全身を氷で包み込む。そして…。

 

「漢なら!空を見上げる星になれぇえっ!!!」

 

「意味わかんね~!!」

 

腕を魔物化させたエルフマンが氷漬けになった兎兎丸を鷲掴みにし、崩壊と変形によって開けられた穴から上空へと投げ飛ばして、彼の言うように星にした。それを見たシエルは呑気に「お~、思った以上に飛んでったな~」と呟いていた。

 

「ねえ、オイラ外の様子見てくるよ!」

 

「あ、俺も行く。魔導巨人とは聞いたけどどうなってるのか分からないし」

 

ハッピーは(エーラ)で、シエルは一人分の乗雲(クラウィド)で一度ギルドの外へと飛んで向かう。

 

上空に出てまず目に映ったのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)側の様子。未だ蔓延る幽兵(シェイド)を相手に応戦しているが、数は一向に減っている様子がない、むしろ増えているようにも見える。

 

次に見たのは幽鬼の支配者(ファントムロード)側。兎兎丸が言ったように、魔導巨人へと変貌を遂げていたそのギルドは、何故か歩を進めることを止めており、右手の指で何かの文字を書いているようだ。

 

「あれって、文字…?」

 

「違う、魔法陣だ…!しかもこれって…!?」

 

ハッピーと共にその様子を見ているシエルは、かつて本で読んだことがあった。評議会、否、魔法界において禁忌ともされている破壊の魔法。名を『煉獄砕破(アビスブレイク)』――。

4つの魔法の元素である地水火風の魔力をもとに暗黒の波動を放つ魔法であり、今巨人が描いているサイズから推測するに、今いる妖精の尻尾(フェアリーテイル)から、マグノリアの街の中心に聳え立つ『カルディア大聖堂』までを破壊、消滅させることが可能だろう。

 

「嘘でしょーー!?」

 

「いくら俺でもこんな時にくだらない嘘をつきはしないさ…」

 

「何だそりゃ!?有り得ねえだろ!!!」

 

その説明をナツたちの元に戻ってからシエルから聞いたハッピー。更には仰天するナツも含め、グレイとエルフマンも事態がさらに厄介なことになっていることを察した。マグノリアの街を半分も消滅させてしまう魔法など、スケールがデカすぎて現実味が感じられないのも理由の一つだ。

 

「手分けしてこのギルドの動力源を探すっきゃねえ!」

 

「ったく!次から次へととんでもねえ事してからにィ!」

 

「急いで止めるぞーー!!」

 

「俺は空から探してみる!」

 

それぞれ4人が巨人の手を止めるために動き出した。ナツとグレイ、エルフマンは内部から。ハッピーはナツと同行し、シエルは乗雲(クラウィド)を駆使してギルドの外側から探すことにした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

本で読んだ知識でしかないが、禁忌魔法『煉獄砕破(アビスブレイク)』は4つの元素をバランスよく織り交ぜて闇の魔力へと変換させる魔法。推測でしかないが、魔法陣を書ききって発動するには10分ほどかかると思われる。先程のジュピターと比べると規模が大きい上に時間の猶予もない。

 

3人が出発した砲台からなるべく離れた入り口から再びギルド内に入ったシエル。しかし、廊下やジュピターのような動力室らしき部屋は一向に見つからず、刻一刻と時間が過ぎていく。焦りからか歯を食いしばるような表情を浮かべるシエルであったが、その時前方の床から突き出すように盛り上がって、シエルの行く手に立ちはだかる。

 

「うおっ!?何だ!!」

 

思わず乗雲(クラウィド)から後ろに飛んで降り、雲を解除する。何者かがいることは明白。しかし、その姿は未だ視認できない。すると…。

 

「ノンノンノン、ノンノンノン、ノンノンノンノンノンノンノン」

 

謎の相槌の羅列を繰り返し、シエルいる更に後方の床が盛り上がって、一人の男の姿が現れる。茶色のタキシードを身に纏い、魔法によるものなのか下半身は地に埋まったまま右方向に体を90度曲げた状態を維持している。深緑色の逆立った長めの髪に、同じ色の髭が鼻の下に二房。そして赤縁のモノクルを右目に着けている。一見すると紳士のような風貌をした中年男性だった。

 

「3・3・7のNO(ノン)ごきげんよう(ボンジュール)

 

「随分と変なのが来たな…。さてはエレメント(フォー)か?」

 

「その通り。偉大なる幽鬼の支配者(ファントムロード)に仕えるエレメント(フォー)が一人、『大地のソル』。ムッシュ・ソルとお呼びください」

 

先程数人がかりで倒した兎兎丸と同じく、幽鬼の支配者(ファントムロード)の幹部と言えるエレメント(フォー)。“大地”の名から察するに、地属性に関する魔法を扱うことが予想できる。自分の扱う“天”と対を為す“地”。若い少年と年季のある中年。両者それぞれが対照的な対決が実現されることになった。

 

「オーケー、ムッシュ・ソル。じゃあ早速だけど、魔導巨人の止めるための場所や方法、教えてもらうよ!!」

 

先に仕掛けたのはシエルだ。先程床の下から飛び出してきたのを見るに、彼は地中を自在に動くことができると予想する。ならば、地中、もしくは床ごと攻撃を行うことができる魔法を仕掛ければいい。

 

「強風警報発令!竜巻(トルネード)!!」

 

ソルに向かって螺旋に描く強風が襲い掛かる。しかし、ソルは焦りを微塵も感じさせずに埋まっている床から下半身を抜き出すと、目にも止まらぬ速さで体の長さを縦方向に伸ばし、()()()竜巻に飲み込まれる。

 

その行動を見て一瞬驚愕に染まるシエルを見て、一つ笑みを浮かべたソルは竜巻の勢いを利用してシエルの足元近くへと突っ込み、瞬時に潜り込む。

 

やあ(サリュ)

 

「え…がっ!?」

 

かと思いきやシエルの背後に現れ彼が振り向いた瞬間に蹴りを入れて小柄な体を吹き飛ばす。だがシエルもただではやられない。咄嗟に態勢を立て直してすぐさま次の魔法を発動させる。

 

吹雪(ブリザード)!!」

 

しかし、それも瞬時に床の下へと潜ったソルによって躱される。判断を誤った。すぐさまシエルはそれに気づいたがもう遅い。再びシエルの後方へと飛び出したソルがお返しと言わんばかりに魔法を唱える。

 

岩の協奏曲(ロッシュコンセルト)!!」

 

唱えると同時に無数の石礫が現れて、シエルへと襲い掛かる。その衝撃で再び身体が宙に浮かび、床の上を小さな体が転がることになった。だが、ソルはそんなシエルの様子に少しだけ感心している。

 

「おやおや、今私の攻撃を受ける直前、即座に後方へと飛び跳ねてダメージを緩和させましたな?お見事(ビョンジュウィ)

 

見た目や喋り方で侮ってしまいがちだが、伊達に幹部とされる位置に就いてはいない。確かな実力を感じさせる、とシエルは理解した。そしてソルの言う通り無駄なダメージを避けることには成功したのだが、状況自体は好ましいものでないことには変わりない。

 

「まだその若さで中々の実力。更には珍しい天候魔法も扱える…。さすがは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の期待の新人の一人、『天に愛されし魔導士』と呼ばれる方と言えますね」

 

突如語り始めたシエルの詳細に、本人は訝しげな視線をソルへと向けた。噂でそのように呼ばれることはシエル自身も自覚していたが、何故今このような話を持ち掛けてきたのか?疑問に抱いたその答えは察したのか否か、ソル自身が答えた。

 

「あなたのお噂は知っていますよ…いや…もっとも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士の情報はすべて頭の中にあるのですよ」

 

その言葉がシエルには信じられなかった。有名な魔導士の情報や、書物に載っている魔法などはシエル自身もよく読んだり調べたりしているので知識として身に付いている。しかし、個々人の詳しい情報、それも敵対しているとはいえ違うギルドのメンバーについての全てを熟知しているなど、並大抵の記憶力ではない。だが、それで動揺を見せてしまえば向こうの思うつぼだ。

 

「だったらどうした…」

 

「あなた、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する以前は、別のギルドにいたのでしょう?それも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に即加入することもできない深い事情があった上で…」

 

「!!?」

 

そんなことまで調べているのか、と今度は動揺を隠すことができなかった。その反応を待ち望んでいたかのように、ソルは語りだす。

 

「かつて、あなたと同じように呼ばれていた魔導士がいたそうなんですよね~。天に愛された魔法と力を授かっておきながら、闇の世界にてその力を振るったとされる…

 

 

 

 

 

そう…『堕天使』と…闇ギルドの世界で呼ばれていた魔導士が…」

 

 

 

 

瞬間、脳裏に浮かんだのは、今いるギルドとは別の場所。

 

そこは今とは正反対の地獄と言える日々。

 

自由も、尊厳も、権利も、選択も、何もかもが奪われていた時間…。

 

忌まわしき過去―――――。

 

 

信じられるのは、唯一残された肉親のみ……。

 

 

そして……『堕天使』と呼ばれた少年を除く、全ての命が失われた、あの日の事だった…。




おまけ風次回予告

ミラジェーン「ねえシエル、エルフマンは大丈夫かしら?」

シエル「心配ない…って言いたいところだけど、正直俺も分からないよ。でも、あいつの心の問題はあいつ自身が乗り越えなきゃいけないんだ。」

ミラジェーン「それは分かってるんだけど、やっぱり不安になってしまうときがあるのよ。それに、シエルだって…」

シエル「俺の事はそれこそ心配いらないよ。相手がどんな奴だって、簡単に負けるつもりはないさ。俺も…エルフマンもね…」

ミラジェーン「シエル…」

次回『シエル vs. 大地のソル』

シエル「負けるつもりはない、いや負けていられないんだ…。もう二度と家族を失うわけには、いかない!」
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