長きに渡ったアズマとの戦いがとうとう…!これが終われば次は最後の戦い、かぁ…!
完結まであと何年だろ…?←
話は変わりますがアニメの100年クエストの放送が迫ってかなり楽しみです!見逃し配信とかあるのかな?あるならぜひ見たいですが…。
本編完結もまだ先なのに100年クエスト編のネタまで浮かんで仕方ありません、助けてください←おい
その一方で、天狼樹を倒壊させた張本人。煉獄の七眷属の一人にして、樹木の操作に長けた“大樹のアーク”を扱う魔導士・アズマは他の面々と打って変わり、唯一自由の身となっている妖精一人と対峙していた。左頬に紫の紋章を刻んだその青年は、かつて闇の世界にて堕天使と称されるほどに力を奮ったほどの魔導士。闘争を何より好むアズマにとって、一切の不足なしと言うべき相手。
「“本気で俺と戦いたい”……それだけの理由で、俺の仲間も……家族も含めて人質にするような真似をした……。その解釈でいいのか?」
「どう受け取っても構わない。だが、元々
ミストルティンを換装で戻し、代わりに自らも完全なる制御が及んでいない漆黒の魔剣、ダーインスレイヴを右手に持ち替えながら問うたペルセウス。それに対してアズマは一切揺らぐことなく、誤魔化すことなく答えた。闇の世界に身を置きながらも実直な姿勢を持つことは、対峙しているペルセウスにも伝わっている。疑う余地はない。自分と戦いたいと言う思いも事実だろう。
「……分かった。お前の要望に応えてやる。こっからは一切の加減も躊躇もなしだ。だが条件が一つある」
「何かね?」
アズマの望みに応えて全力を出し切る事を告げながら、手に持つ黒剣の切っ先を向けてペルセウスは一つの条件を提示した。
「この勝負で俺がお前を打ち倒した暁には……お前の力でみんなの力を元に戻してもらうぞ」
「約束しよう。このようなやり方は好きではないしね」
アズマの魔法によって吸い取られ続ける仲間の魔力。それを元に戻すことを勝敗の報酬として取り付けた。これが他の闇ギルドの者たちならば聞く耳を持たなかっただろうが、アズマのような実直な男が島の魔力を操るほどの実力者なのは、不幸中の幸いと言えた。
「さあ……来い!!」
挑発するように手招きをしながらペルセウスに呼びかけるアズマの声を合図に、再び二人の激突が幕を開けた。倒れこんで足場が一層限られた、大樹の上と感じさせない踏み込みで跳躍したペルセウスが一気に距離を詰めて、手に持つ黒剣をアズマへと振るう。剣閃を阻もうとアズマが周囲の根を動かしていたが、振るわれる黒剣は一切留まることなく、迫りくる大量の木の根を豆腐の如く切り裂いていく。
「これは……!!成程、それがかの対魔の剣・ダーインスレイヴかね……!!」
焼け石に水もかくやと言う光景に目を見張りながらも、アズマはペルセウスの振るう剣の範囲から飛び退き、そして心当たりのある神器の名を口にする。魔力を宿すものであればどんなものでも斬り裂くことを可能とした、魔導士相手に無類の強さを誇る強力な神器。噂と逸話に違わぬ脅威的な性能を目の当たりにして、アズマは冷や汗を浮かべながらも自らの口角が吊り上がるのを感じた。
防戦一方では確実に分が悪い。即座に理解したアズマは攻め方を変えた。魔法によって木々を操り四方八方から不自然なほどに枝分かれたしたそれぞれ別々の大きさの根っこが、拳の形をとってペルセウスを囲む。
「チィッ!」
鬱陶しそうに舌打ちを一つして、迫りくる拳たちを切り払っていくペルセウス。対応することに追われてアズマに近づくことさえ叶わぬ状態だが、ペルセウスに届いている攻撃も全くと言っていいほど見当たらない。
「『
その事実にすぐに至ったアズマは手数を増やす。どこからともなく飛来してきた無数の鋭き葉が根の拳に対応していたペルセウスに更に襲い掛かる。そしてすぐさま気付いた彼は左手に換装でもう一つの神器を呼び出した。
「フラガラッハ!!」
風の力を宿した短剣。根っこと比べて質量の軽い葉っぱは短剣が起こしたつむじ風にあおられ、ペルセウスに届くことなく散っていく。だが予見していたアズマの攻撃の手は別のものへと転じた。
「『
葉の次は枝。先程よりも鋭く速く、量も増えてペルセウスの反撃さえも許さないほどの物量で押してくる。葉の剣を吹き飛ばせたフラガラッハの風すらも、枝の剣は数本は突き破ってペルセウスの身体にいくつかの生傷を作り出した。
「舐めんな……!!」
歯軋りを一つ起こし、フラガラッハに一つ念じて風の勢いを更に強くすると、ペルセウスは左手に持っていた短剣を換装で即座に別の神器へ。現れた橙色の鎖から同じ色の炎が、フラガラッハの起こしたつむじ風に移り、橙の炎が竜巻となってペルセウスを囲む。
「これは……!?」
炎の竜巻がペルセウスを囲むと同時に、アズマが仕掛けていた手数の暴力が一つ残らず焼き消され、灰すらも残らない。風と炎、二つの属性がまるで組み合わさって相乗効果を生んだことで出来上がった強力な魔法。まるで二つ以上の魔法を組み合わせて放つ
だがペルセウスの攻防一体のように見えるその魔法は、これで終わってはいなかった。
「『
己を囲っていた橙の炎嵐を右手に持っているダーインスレイヴに纏わせて、己自身もその炎嵐を纏いながらアズマへと跳躍して接近。ある程度距離を詰めたところで上から下へと剣を振り下ろす。思ってもみなかった攻撃にアズマは瞠目しながらその場からすぐさま退避。しかし剣の切っ先を起点に急速に広がった炎嵐の速度は音速などとうに超える程で、辺りの木の根のいくつかを炎上させながらアズマに容赦なく炎と嵐の斬撃が襲い掛かる。
「ぐっはっ……!?」
声をあげる間もなく吹き飛ばされ、いくつかの木の根をへし折りながらようやく止まったアズマは、しかし体中の息が失いかける程のダメージを自覚する。思わず深呼吸でそれを整えようと留まるも、落ち着く間もなく膨大な魔力と殺気を感じ取り、そこへ目を向ける。
「換装トライデント……押し流せ、『
大きな青い三又の槍を左手に持ちながらアズマへと向け、切っ先に収束された水の塊がペルセウスの掛け声とともに放射。勢いよく迫る水は東洋の龍の形を作り咆哮。認知したアズマは防ごうとすぐさま己の前方に木の根でバリケードを生成。これでもかと張り巡らせて阻むことで、半分以上は削れたもののアズマの元には届かず勢いは完全に殺される。飛散した水は辺りを濡らし、アズマにも大量の水が降り注ぐ。
「はぁ……ふぅ……っ!!?」
間一髪。そう思って一息吐いたアズマ。しかし察知した魔力は再び彼の警戒心を呼び起こし、上を見上げさせる。そこには冷たくこちらを睨みつけ、左手には換装で既に持ち替えていた頑強な紫電の大鎚・ミョルニルが雷を迸らせている。
直感的に感じた。まずいと。己の身体は先程の水飛沫を一身に浴びている。そんな状態で電撃を浴びればどうなるか、想像に難くない。ここはバリケードとして囲んでいた根を同化するのが得策。そう思ってすぐさま隠れようとするが……。
「(動きが鈍い……!?どうなってるかね!?)」
大樹のアークとしての力を用いて自分の身体を部分的に根にしたはいいが、いつもと比べて自らの動きが遅くなっているのを自覚し、動揺が走る。早く避難しなければならないのに。そんな想いとは裏腹に彼を逃がさんとしているペルセウスは、溜め込んでいた大鎚の紫電を解放させた。
「
放たれる紫電の奔流。周辺一帯に降り注ぐ雷が容赦なく襲い掛かり、アズマのみならず彼がバリケードとして動かしていた根も含めて避けることも出来ずに晒される。浴びていた水が電流を更に通し、走る度に水滴は蒸発して気体へ変わる。そしてアズマの身体の所々が焦げ、バリケード代わりだった根も原形が崩れる程に炭と化していた。
「うっ……!!」
想像以上にダメージを受け、アズマはおぼつかない足取りで後ろへと進み、背後にあった木の一部にもたれながら息を整えようとする。だが目の前に突きつけられた黒い剣の切っ先を目にし、その視線は前へ向けられた。目の前に映っていたのは当然、彼をここまで追い詰めた青年。
「勝負あったな」
勝ちを確信したようなその言を発する青年。確かに客観的に見れば、どちらに分が傾いているのかは明らかだろう。アズマとしても、納得できないとは言い難い状況だ。次々と神器を換装して、一つ一つが常軌を逸した力を持っている。それらを組み合わせてより強力な技として昇華する『
だがアズマは降参を告げず、意味深に口元に弧を描くと、すぐさま反撃に乗り出していた。異変にすぐさま気付いたペルセウスが対処するよりも速く、二人を間を阻むようにして樹木が盛り上がりペルセウスの前に障害として立ちはだかる。小癪な真似を。苛立ちを抱えながら袈裟斬りで伸びていた樹木を切り払うと、立ち位置を変えていなかったアズマの姿が再び現れる。だが……。
「タワーバースト!!」
斬りこんでくることを予見していたアズマが炎の塔を自分の周りに発生。足場が崩れる程の威力を発したそれに、ペルセウスも巻き込まれてしまう。すぐさまダーインスレイヴで斬り払い、脱出することは叶ったが、みすみす取り逃がすような真似を侵してしまった事に対する自責を感じずにはいられず、舌打ちを打った。
「どちらか一方が、完全に動けなくなった時……それが真の決着の時だね」
気付けばペルセウスの上を陣取って大きく目を開き、張り裂けそうな程に口を吊り上げながら告げるアズマ。狂気的にも見えるその表情とは裏腹に、「勝利を確信しようと油断は禁物だ」と言外で叫んでいるようにも聴こえてくる。
確かにそうだ。ペルセウスは決着後に仲間の力を返してもらう事にも頭が行っていた為、致命傷を与えることを避けていた。それが先程の油断に繋がってしまったと言える。
「……だったら、今度こそ出し惜しみなしだ!!」
アズマを斬り伏せ、完全に勝利を収めるために、右手に持つ黒剣への魔力を込め、その刀身を徐々に伸ばしながら上にいるアズマへと肉薄していく。対して手を翳して周囲にある木の根の大群を密集させながらペルセウスを貫こうとするアズマ。何度も見てきた光景に辟易しながら彼は迫ってくる根を剣で何度も斬り裂き、奥にいるアズマを捉えようとする。
だが密集する木の根が張り巡らされた空間を切り抜けた時、先程いたはずの男の姿は消えていた。
「っ!!?」
「『
見えなくなった敵に息を呑んで動揺していたペルセウスの背後に、その声は聞こえた。反応して振り向いてみればいつの間にか後方に移動していたアズマが、身の丈の三倍はあろう巨大な樹の幹で作られた大槌を樹木の操作のみで動かし、振り向いたばかりのペルセウスの身体を叩きつける。
勢いが思ったより強かったのか、飛ばされたペルセウスは何本かの樹木を折りながら叩きつけられ、ようやく収まったところをすぐさま樹木を操作したアズマが彼の身体を雁字搦めになるように樹木で締め始める。
「ぅぐっ!?く、くそ……!!」
関節のほとんどを拘束され、思うように動かせなくなったペルセウス。右手に持っていた黒剣と左手に持っていた紫電の大鎚が手を離れてしまう。しかも黒剣はいくつかの根を落ちていく拍子に切断した後大地に突き刺さり、十分な魔力を得たのかそのまま異空間へと戻ってしまった。
「だ、だったら……トライデント……!!」
「そうはいかんね」
海王の槍を呼び出そうとしたペルセウスを強制的に止めるようにアズマが拘束に力を込める。苦悶の声をあげるペルセウスに、アズマは本来樹木と相性の悪いはずの水の神器を呼び出す理由が分かった為、トライデントを換装で呼び出すことを阻止にかかった。
トライデントに込められているのは、海王とも呼ばれた海を司る神・『ポセイドン』。命の母とも言われる海の力は時に命を奪うほど強力で雄大なもの。そしてトライデントを用いて放出される水も、海水そのもの。多くの塩分が含まれている。
植物にとって水分は貴重なものであるが、海水となると話は別。脱水状態に陥る事で成長が促進するどころかむしろ枯れてしまう。その為アズマや彼が操ろうとしている植物の動きが著しく鈍くなっていたのもそれが原因だった。だからこそ、それが分かっていれば対処もしやすい。
「(くそっ……!抜け出せない……!)」
更に拘束力が強まり、他の神器を呼び出す余裕もない。そしてアズマは縛り付けたペルセウスに一切の慢心も見せず、最後のトドメとばかりに己の扱う魔力を込め始めた。
「大地に眠りし“天狼”の魔力を解放する!!」
その言葉を皮切りに、大地が、樹が、島全体を巻き込むかのような振動が起こり、ペルセウスを拘束している木の根に、徐々にだが勢い良く魔力が集まっていく。土地の魔力を支配し、操る事の出来る大樹のアーク。その真骨頂とも呼ぶべき彼の大技が迫るのを予感する。
だが、それを理解できようと、ペルセウスに今できることは何一つとしてなかった。
「『
叩きつけるように合掌し、結集させていた魔力を解放。ペルセウスがいる場所を起点として放たれたそれは橙色の奔流となって彼を襲う。それは外から見れば意思を持った何かが本当に叫んでいるかのような錯覚すら覚える。本来彼らを加護するはずの魔力が牙を剥き、周囲の根も抉るほどの大爆発となる。
十数秒に至る長い爆発が収まった時、その場に残っていたのは満身創痍となって倒れこんでいたペルセウス。張り巡らされた枝の上に、うつ伏せになって倒れているその姿を見て、勝ちを確信するなと言う方が無理な話である。現にアズマもかの堕天使を撃ち果たすことに成功した事実を噛みしめて、その表情に狂喜を浮かべている。
しかし、その表情は突如愕然へと変わり、しばし硬直した後一つ息を吐くと、きわめて平静を取り繕いながら彼はその口を開いた。彼の眼下に倒れていたはずの青年は、何とまだその意識を手放していなかったのだ。
「まったく……空恐ろしいね。キミという男は……」
かつて彼がここまで消耗したことなどどこまであっただろうか。身体中は生傷だらけで、息も絶え絶え、少し動かすだけでも訴える痛みが支配している。これほどのダメージは数ヶ月前に
今にも意識を失い、戦闘不能となっているだろう状態にも鞭を打って、換装で呼び出した十束剣を支えに立ち上がったペルセウスのその姿は、まさにアズマが口にしたような恐ろしささえ覚える。
「(負けるわけには……倒れるわけにはいかねぇ……!!)」
対するペルセウスはアズマの言葉に返す余裕もなさそうだ。口を開くことに微かな力を割くよりも、敵に打ち勝つ糧にする為に。剣を支えに何とか二本の足で立ち上がった彼は、不敵に笑みを浮かべて見下ろすアズマを鋭く睨み、息を切らしてなお剣を握る右手に力を込める。
「(今や俺が、ギルドの最後の砦だ……!)」
ここで倒れてしまえば、アズマによって力を失った仲間たちの身が危険だ。文字通り
「(シエルを……みんなを……俺が助ける……!俺が守る……!そうしなくちゃならねぇんだ!!)」
己一人だけの為じゃない。家族が、仲間が危険な目に遭っている状況下で、意地でも倒れるわけにはいかないと、気力を振り絞ってペルセウスは飛び立った。
魔力を込めた刃を扱い、ペルセウスは吠えながらアズマへと肉薄しようとするも、対する男は行手を阻むように樹木を操作し、バリケードを作成。ダーインスレイヴと違い今彼が扱っている神器は思っている程の特攻性はない。十分に防ぐことができる。
だが彼の予想を裏切り十束剣はいくつもの剣閃を作り、アズマの作ったバリケードをあっという間に破壊。彼が驚愕に目を見張るも、ペルセウスの振るった剣筋を紙一重で回避し、別の樹木へと退避。逃がすものかとすぐさま追撃を行うペルセウスにブレビーで牽制。更に予備で10に及ぶ樹木の拳を繰り出し、如何なる手を使っても退けられるように手を打つ。
しかしアズマが起こしていた爆炎に風穴が空いたと思えば、作り上げた隙間を縫うようにペルセウスが持っていたはずの剣が飛んできて、アズマの左腕の近くを高速で通過。延長線上を貫通しながら途中で突き刺さった剣に意識を向ける余裕はなく、切り傷をつけられた左腕を思わずアズマは押さえる。
「な、にっ……!?」
彼の驚愕はそれに留まらない。先程までペルセウスがいたと思われた爆炎に突き刺した樹木の拳たちは紅炎で勢いよく炎上し、その勢いを利用して飛び出してきた無手のペルセウスが宙を飛んで肉薄。思ってもみなかった事態に固まってしまったアズマの腹に勢いを利用したペルセウスの左膝が突き刺さる。唐突な事に無防備のまま受けて仰け反ったアズマ。怯んだ彼にペルセウスは容赦無く頬に右拳を振り抜いて彼の体を吹き飛ばす。
「はぁっ……っ……!!」
今にも倒れそうな、立っているのもやっとな状態とは思えない戦い方を行うペルセウスは、身体をふらつかせながらも決して倒れようとせず、飛ばしたアズマへの睨みを逸らさない。ちょうど投げ飛ばしていた十束剣を拾い上げた瞬間、数えきれないほどの枝の剣がペルセウスに降りかかる。
「ぜあっ!!」
雄叫びを上げて剣を地から振り上げれば、樹木には不釣り合いな岩石が突如隆起し、ペルセウスの前方を覆う。枝の剣は全て隆起した岩に突き刺さり、その一切を通さない。
思わぬ防ぎ方に三度驚愕したアズマの隙を突くようにペルセウスはその場を跳躍。今度は剣を天からの要領で振り下ろすと真空の刃が放たれて迫りくる。すぐさま回避したアズマだが彼がいた足場は左右に容易く両断される。
その切れ味に驚嘆していると高速で肉薄していたペルセウスが十束剣を両手で握りながら振りかぶろうとするのが見える。斬りかかろうとする位置を見切ってそこに幾重にも重ねた樹木を呼び起こして止めようとするが、その勢いは凄まじく紙一重と言ったところでようやく止まり、思わずアズマは息を呑んだ。
「恐ろしい……!!」
気付けば呟きを零したアズマ。だがすぐさま切り替えたペルセウスは止められて固定された十束剣を支えに下から縦回転。アズマの顎を蹴り上げる。続けざまに踵落としを叩きこもうとするも、勢いを利用したアズマがバク転して回避。すぐさま樹木を操ってがら空きになったペルセウスの背中へと樹の拳を叩きこむ。
宙を舞い、根を転がったペルセウスは剣を根に突き刺して勢いを殺し、止まろうとする。すると止まりかけた位置に根を移動したアズマが現れ、拳を振りかぶる。対するペルセウスは首だけを後ろに回し位置を把握したところを右の足裏でそれを防ぐ。
そしてすぐさま剣を支えにして身体ごと回転しながら回し蹴りを行えばアズマは腕を使ってそれをガード。勢いのまま殴りかかろうとするアズマに対してペルセウスも即座に態勢を整えて迎撃。互いの頬にクロスカウンターとなって拳が突き刺さる。
勢い良く仰け反る二人の身体。その後の行動は互いに似通っていた。アズマは後方に退きながら足場よりいくつもの根を生み出して追撃。ペルセウスは足場に刺していた十束剣を引き抜いて振り上げ、まるで隆起したような岩の槍をいくつも生み出す。そしてぶつかり合うと同時にしばしの拮抗。そして対消滅する。
「(これだけやってもまだ戦えるか……思った以上の魔力だ……)」
バラム同盟の一角であるギルドの幹部。一筋縄ではいかない事は察知していたが、本人の努力の賜物か、元より才能があったのか、過去に対峙した魔導士の誰よりも一線を画すことは明らかだ。しかしだからと言って退くわけにもいかない。
「(いや……相手が誰だろうと関係ない……。散々言っただろ……俺が負ければみんなも危ない……!シエルもリサーナも、ギルドみんなが……!!)」
アズマによって窮地に立たされている、天狼島にいる仲間たち。血の繋がった弟も、想いを向ける少女も、己が敗れればただでは済まない。尚更の事負けることは許されないのだ。その事実を再確認したペルセウスの、剣を握る力が更に込められる。
「(俺が守らなければ、助けなければ……!)いけねぇんだよ!!」
鬼気迫る表情を浮かべ、何度目になるか分からないアズマへの肉薄。望むところだと言いたげに笑みを浮かべるアズマもまた、徒手空拳の構えで迎え撃つ。下へと剣を振り下ろして真空の刃を飛ばし、回避した隙を突こうと横薙ぎに振るうが、読んでいたアズマは屈んだ拍子に足払い。バランスを崩して尚剣を振りかぶってアズマへ迫るが手を樹木に変えたアズマが刀身を狙って受け流す。
すかさずアズマが蹴りを繰り出して吹き飛ばすものの、左手に換装でレーヴァテインを呼び出し、着地した樹木を足場にした跳躍し急接近。再び迫るペルセウスに対して幹の大槌を作って構えたアズマ。だが右の剣で真空の刃を飛ばした後、左の剣で生み出した紅炎を放出し、空気だけだった飛翔する刃に紅炎が燃え移る。
「ぬおっ!?」
両断されると同時に燃え上がる槌に思わず声があがったのを聞き逃さなかったペルセウスは突っ切るようにしてX字に前方を両断。二振りの剣をアズマに振り下ろす。だが彼もすぐさま後ろに飛び跳ねて回避し、四方八方から樹木群をけしかける。次々と襲い掛かる根に対してペルセウスは的確に二振りの剣で迎撃をしていく。
「恐ろしくて胸が弾むね……!!」
これほどまでに人間離れした実力を振るった魔導士は、長い戦いを送る生の中でもいなかった。鬼気迫る表情を持ってこちらに全力の殺意を持って向かってくる姿も相まって、恐怖心と高揚心が同時に高まってくるのを感じていた。しかし……。
「っ!?しまっ……!!」
さすがに限界の近い体力と集中力。そこを突かれ、足元が留守になっていたところをそれぞれ両足首を木の根によって縛られる。そして勢いよく上へと持ち上げられ、その拍子に左に持っていた紅い剣が手元から離れていってしまう。
何とか脱出しようとするも、唯一剣を持っている右腕は厳重に縛られ、そこから順に体中が拘束されていく。
「終わらせるのは口惜しいが、実に楽しかったね……堕天使ペルセウス・ファルシー」
体の自由も効かなくなり、アズマの近くへとペルセウスの身体が運ばれる。実に満足そうな、人から見れば穏やかにも見えるアズマの表情を、ペルセウスは横目にする余裕もなくもがき、抜け出そうとする。だが……その抵抗も空しく、緩むことすらなさそうな拘束が続いたまま、アズマは両手を天に掲げて言い放った。
「最後の最後にもう一度!天狼島の魔力を喰らって散るがいい!!」
既に満身創痍と言える状態のペルセウス。それに至ってしまったかの大技。それをもう一度まともに食らえばどうなるか。想像に難くない未来を回避しようと抵抗するも、最早手遅れ。迫りくる大地の魔力から、逃れる術はなかった……。
「
再び襲い掛かる大地の魔力。凝縮されて巻き起こる爆発の奔流。先程同様に意思を持った何かの叫びが島全体に響き渡る。二度目の天狼島のエネルギーをその身に受けたペルセウスは、またも意識が飛ぶような感覚を味わった。
負けるわけにはいかないのに。倒れるわけにはいかないのに。体中の激痛、霞む視界、枯れていく魔力。数える程しか経験した事のない肉体の悲鳴が、ペルセウスの精神にまで及び出していた。
「(チク、ショウ……!これで……終わりか、よ……!)」
どれだけ動くように願っても動かない体、落ちてはいけないと気を張っても落ちていく意志。覆すことのできない自らの窮地。敗北、そして全滅の未来が、己の頭に過った。
「(すまねぇ……みんな……。俺は……もう……)」
絶望的な未来しか待っていないであろう仲間、家族に謝罪を念じながら、ペルセウスは瞼と共に、その意識を暗い闇の中へと沈めていく……。
─────まだだよ、兄さん。
「!?」
突如頭に響いたその声に、ペルセウスは思わず闇から引き上げられた。急に覚醒し、混乱する頭をよそに、彼の目には確かにその声の主が見えていた。
実体こそなさそうだが、いつも自分と会話をする時と同じ笑みを浮かべているその少年は、確かに自分の弟。何故ここに?と言う疑問が浮かぶも、それを口に出す間もなく目の前にいるシエルは語りかけてきた。
─────まだ終わってない。兄さんも、そして俺たちも……!
表情を不敵な笑みに変えながらはっきり告げるその姿は、まるで本物の弟のよう。この場にいないはずなのに、近くにいるかのような、不思議な感覚を覚える。だがペルセウスの衝撃はこれだけに留まらない。
─────そうだよ。ペルが諦めるだなんて、らしくないもないし!
自分の背から聴こえてきた少女の声に振り向くと、そこにはシエル同様実体こそないものの、自分の背中に手を添えて押すような仕草をした銀髪ショートヘアの少女。ペルセウスが想いを寄せる相手。
更によく周りを見渡せば、いつの間にか、まるで最初からいたかのように見知った者たちがその姿を見せる。ウェンディ、シャルル、ナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、エルザ……天狼島に今足を踏み入れている
誰もが自分を囲み、そして見守るような、信頼するような表情を浮かべて、彼の背中を押そうとしている。幻覚か、それとも奇跡か。真相は誰にも分からない。だが仲間たちの姿を見てペルセウスは驚きに満ちた顔を徐々に笑みへと変えていく。
「(ったく……何が、『俺が守らなければ、助けなければ』だよ……)」
思えば……自分は兄だから、優れた魔法を使えるから。それを理由にして常に守る側の立場にいるものと考えていた。幼い頃から病弱の弟や、先達とは言え自分と比べると見劣りする仲間たち。上の立場にいるのであれば、彼らを守り、助けるべき。知らず知らずの内にその考えが定着していった。
だがペルセウスは今際の際に至り、それは正しいようで間違っていたことに気付いた。家族を、仲間を守る者であることは正解ではあるが、それだけではなかったのだ。
「(今更……本当にようやく気付けたよ。俺だって、みんなに守られて、支えられてきたってことを……!)」
今まで気付くことも出来なかった。恩人たちにばかり守られていたと考えることは多々あったが、普段守る対象であった弟や仲間たちもまた、ペルセウスにとっての助けであり、支えになっていたことが、確かにあった。
今この瞬間も、みんなを助ける為に戦っているのではない。みんなで共に勝つ為に戦っているのだと。
気付いた彼に、もう迷いは一切なかった。
「うおおおおおおっ!!!」
失いかけた意識を繋ぎ留め、腹の底から雄叫びを上げる。握りしめた十束剣が、まるでそれに応えるかのように淡く輝き始める。大地の魔力の中で感じた仲間の想いを、神器と背中に乗せて、ペルセウスは実体のない魔力の中を駆け出し、そしてアズマのいる外へと抜け出した。
「な……!?」
ほとんど堪えた様子の見えない状態で最大威力を誇る自らの技を抜け出したペルセウスに、アズマは唖然とした様子を隠せない。そんな彼にも構わず、ペルセウスは声を張り上げて剣を振りかぶる。
アズマはその事実が到底信じられなかった。彼の目に見えたもの。それは魔力から脱したペルセウスのみではない。この場にいないはずの
だが、アズマが目を疑い、言葉を失う現象はこれだけには終わらなかった。その異変に最初に気付いたのはペルセウス。握りしめた十束剣が淡く発光しているのに合わせて、彼の頭に何かが語りかけている感覚を覚えた。
「(
視線をアズマに固定しながらも、問いかけてきた得物にそう問い返してみれば、まるで声を聞き、返答するように輝きが微かに強くなる。仲間たちと一緒だ。神器である剣もまた、ペルセウスの為に
「(ならば、遠慮なくその力……貸してもらうぞ!!)」
心の中でペルセウスが叫べば、呼応するように剣がその光を急に強め、ペルセウスの身体全体を包み込んだ。突如強く発光したことにより思わず目を覆ったアズマは、しかし何が起きたのかを見逃さないように彼の姿を注視する。
飛び掛かり近づいてきていたペルセウスは光を纏いながらもその距離を詰めていき、全体の半分を切ったところでその光は解け、改めてその姿を現していた。
手に持つ神器は、今もなお淡い光を発しているのみで大きな変化は見られない。変化を起こしていたのは、寧ろペルセウスの方だ。普段の服装とは打って変わり、上半身は鍛え上げられたその肉体のほとんどが露わとなり、纏っているのは左の二の腕にかけて装着された東洋の甲冑の肩当てと、右肩から左腰にかけてかけられた襷のような羽衣。下半身はこれまた東洋で見られる布製の装束に、足は甲冑と同じ意匠の具足。そして何より、魔力の一部が可視化されているのかその背には黄緑色に輝く光輪が浮かび上がっている。
「な、何だ……!?あの神々しい姿は……!?」
思わず口に出すほどの変貌。それも荒々しいようで神秘的にも感じるその姿に、思わず目を外すことが出来ないでいる。この変化は一体何なのか。エルザのような鎧の換装がペルセウスにも出来ると言う話は、アズマも一切聞いたことがない。
「くっ!!」
不覚にも見惚れてしまっていたアズマが正気を戻すとすかさず念じて魔法を発動。飛び掛かってくるペルセウスとの間に数えきれない程の樹木の根を張り巡らせ、完全に攻撃を遮断させようとする。
だがアズマの狙いはあっさり打ち砕かれ、ペルセウスは纏った魔力ごと阻んでいる樹木のバリケードなど在って無いようなものと言いたげに次々と突き破り、勢いを一切殺すことなく突破する。予想だにしなかった信じられない光景を目の当たりにしたアズマはそのまま迫ってくるペルセウスを前にして、最早体を動かすことすら放棄した。
「まさか……あの姿こそが……!?」
ふとアズマは思い出していた。7、8年も前の事……ペルセウスの名が闇の世界で広まり始めた時のこと。ヤートからの話で少年の存在と力量について知らされた後、ハデスからペルセウスが扱う魔法の武具……神器のことを教えられた。
『神器……ですか?』
アズマ自身も存在については耳にしていた。だがそれはあくまで神話と。大昔の者達が幻想の中で記した作り話でしか無いと。そんな虚構のものと思われていた存在を扱うことができる魔導士の存在が、信じられなかった。
『左様。ヤートの言っていた
『神の力が宿っていると?』
その問いに対するハデスの答えは是だった。神話でしか聞いたことのない神々の力、そしてその力が込められた人智を超えた武具。強力無比なその力を手に持ち振るうことが出来る、10代前半の少年。その話を聞くだけでも信じがたいことであったが、その神器を呼び出し、持ち換え、振るう事の出来る魔導士は100年単位の長い期間において一人にしか発言しないと言う途方もない話だ。
『だが、話を聞く限りはその童の力は未だ途上。大魔法世界が叶った暁には、奴の壁も壊れ、真の力が発揮されることだろう』
更にアズマにとって驚きだったのは、現時点でも人智を超えた力を振っているにも関わらず、まだ底が見えていないと言う事だ。今が幼い少年だから、というのも理由ではあるがハデスが魔導の深淵を見る際に目にしたことのある書物では、何代か前の神器使いの事についての記述が記されていた。
ハデスにはある種の確信があった。ペルセウスが
『神の力が込められし武具・神器を扱うことだけが奴の魔法では無い。その魔を極め真に神の力を纏う事こそが、奴の魔法の本懐』
ハデスとのそんな会話を脳裏に蘇らせながら、アズマは目の前に迫るペルセウスの姿を改めて目に焼き付け、記憶の中のマスターから聞かされた神器の使い手に関する記述の内容を思い返した。
「『荒々しさ、思慮深さ、神々しさ、人の身でありながら神の装束を身につけたその者は、神が振るいし力をあるがまま扱う事を許されし者。ありとあらゆる神の力を、如何様に使おうと許された信頼の証。まさしく、其が纏うは……神々よりの寵愛の証』……!!」
その力はまさしく、天と神に愛された魔導士にだからこそ扱う事を許された、と言ってもいい強大かつ神秘的な力。生まれ持った、常人には決して覆せぬ才能。そしてそれに驕らず正しい心を持ち、より高めて昇華させたからこそ相応しいと認められた姿……。
「その力の名は……『
ハデスは言っていた。神器の換装魔法……その真の名は
たった一人で戦ってきたこれまでのペルセウスでさえ使えなかったその力を、アズマがぶつけた仲間たちの魔力がペルセウスの力となり、彼が覚醒するきっかけを作ったことは、アズマにも想像が出来た。
「奴らの……仲間の力を一身に受けて立ち向かう心が、神器に眠る神の力を、真の意味で解放させたのか……!!なんてギルドだ……!!」
驚愕に固まっていたアズマ。そんな彼に迫るのは空色と橙に別れた二色の光を持つ刃。避けることも反撃することも叶わない。だが、悔いはなかった。己の全力の全てに打ち克ち、これ程の力を見せつけた。そんな彼の力の前に敗れるならば、致し方なし。
「見事」
一切の抵抗も見せず、アズマは笑みを浮かべてその運命を受け入れた。
「『
両断。かつて遥か東国を天地に割ったとされているイザナギによる一撃。その刃がアズマの胸を引き裂き、その切り口から鮮血が噴き出る。切り抜いたペルセウスはそのまま斬られたアズマの後方の根へと着地。そしてアズマのいる足場の根も、周囲の根も含めて見事に両断される。
そのまま地面へと落下していく男に一瞥もくれず、膝をつき息を整える。身体が一度光り、弾けるようにその光が消えると、ペルセウスの服が元に戻り持っていた剣も姿を消していた。
天狼樹での決戦……勝者・
おまけ風次回予告
シエル「力が戻って目が覚めたと思ったら…天狼樹が倒れてるんだけど!?何で!?」
ナツ「よくわっかんねーけど、力が戻ったならこっちのもんだ!すぐにキャンプへ戻ってグリモアぶっ飛ばしに行くぞぉ!!」
シエル「いや、敵がどんだけ残ってるか分かんないし…あと、ちょっと休んでからの方がいいと思うけど…」
ナツ「あ~シエルは確かに休んでた方がいいかもな…んじゃ、オレたちだけで行ってくっから!!」
次回『妖精の反撃』
シエル「え、嘘、俺置いてかれちゃうの!?」
ナツ「じゃあお前、あんな顔してるウェンディの前でオレ達と一緒にグリモアぶっ飛ばす、って言えるか?」
シエル「そ、それは…けど……!(汗)」