FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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予定では昨日投稿したかったんですが、例の如く間に合わず。
けど取り敢えず久々に早めの投稿が出来ました!
本来予定していたシーンとか、ちょっと考えていたネタとか、切り取ったりはしてしまったんですが…。

それと、明日(5/13)の夜に次回以降の事について、活動報告にて発表することがございます。そちらの公表もお楽しみに!


第133話 妖精の反撃

巨大樹の根の合間を縫って、上半身を大きく斬られた屈強な体の男が抵抗する様子もなく落下していく。それを背にして膝をつき、整わない呼吸を続けている青年。男を斬った際に変じていた姿は既に解けており、右手に持っていた神器も役目を終えたとばかりに異空間へと消えていった。

 

一際大きい音が聞こえた。何かが落下し地面に衝突したような音が。恐らくアズマだろう。逆さまに落ちていった上に、あれほどの傷では命が残っているかも分からない。だがペルセウスは彼に確認しなければいけない事があった。自らの身体に鞭を打って下へと向かおうとするが、身体が随分疲弊したのが原因なのかよろめき、足を踏み外して落下していく。

 

態勢を立て直す気力も湧かず、何とか受け身をとって根を伝い、転がるようにしてアズマの元へと辿り着いた。しかしそこでペルセウスが見たのは予想したものではなかった。

 

「お前、それ……!」

 

仰向けで倒れているアズマの身体の至る所から芽が生え、苗になり、地面の苔むした周囲に同化しかけている。所々の苗はさらに成長し、大きく高くなっていく。あり得ない成長速度だ。しかもアズマが自らの意志で動かしているわけでもなさそうだ。

 

失われた魔法(ロストマジック)の副作用だね。過度に使い過ぎたようだ……」

 

他とは一線を画す強力さを秘めているものの希少性の高い失われた魔法(ロストマジック)。その希少性の理由として多く挙げられているのは、強力故に兼ね備えられた副作用の存在。アズマの使う大樹のアークは、木々と同化できる特異性が災いし、使い過ぎると体が植物そのものに変じてしまう。物言わぬ樹の一部と化す、そのような末路であった。

 

人の身を捨ててしまう彼の姿を目の当たりにして絶句するペルセウスに対し、アズマにはそれに対する恐怖も後悔も見られない。未練もない、と言いたげな穏やかな表情だ。

 

「約束は守る。皆の魔力は元に戻るだろう。それと、最後に良いものを見せてもらった……礼としてキミの弟には、オレの余っている魔力を与えるね」

 

あれほどの魔法を放ってなおも残るアズマの魔力。その分を全て、吸い取られ更に枯渇しているであろう弟のシエルに与えると言う、敵に塩を送るような行動まで起こすほど。ペルセウスが最後に覚醒した新たな力は、アズマにとってもお目にかかれるか定かではなかったのだろう。どこまでも実直な男だと、ペルセウスは眉根を下げて心に思い、「感謝する」と気付けば口に出していた。

 

そして、彼はもう一つ疑問を感じていた。総動員して天狼島に悪魔の心臓(グリモアハート)が乗り込んだ目的。そして奴らが狙っているであろうペルセウスにとっての恩人である黒衣の青年の事。

 

「ついでに聞きたい。お前たちがここに来たのは……誰かを探していたからなのか?」

 

ペルセウスにとっての恩人、スプリガンは悪魔の心臓(グリモアハート)に狙われていると自分で言っていた。それもほぼ確定的であることも。ここで確認しておかなければ。そんな狙いも加えて尋ねてみると、思ってもみなかった答えがアズマから発せられた。

 

「キミも聞いたことはあるだろう。伝説と謳われた黒魔導士・ゼレフ」

 

ゼレフ。その名前はペルセウスにも聞き覚えはあった。闇ギルドの間でよく伝わっている歴史上の中でも最悪と言われている魔導士。400年も前に存在し、悪魔と言える存在を魔法で作り出したとも聞いている。

 

5年もの間一切姿も変わらない異常性。あらゆる命を不本意とは言え奪ってしまう体質。そして死者をも蘇らせてしまう魔法。あらゆる魔法の理から外れた力を有したその存在は、まるで、伝え聞いたゼレフのよう。まさか、彼が……?スプリガンは、ゼレフなのか……?

 

「世界の始まりの魔法……“一なる魔法”に近付く為……我々は、ゼレフを求めている」

 

「一なる魔法……?辿り着いたら、何だって言うんだ?」

 

聞き慣れない名称の単語が飛び出し、それについて問うも、アズマの身体はもうほとんどが急成長したいくつもの植物の幹に変わり果てている。人として残っている部分が視界に映っている限りもう存在しない程に。それでも幸い口元だけは残っていたのか、アズマの声だけが彼の耳に届いた。

 

「かつて亡霊に憑かれた者(ジェラールと言う男)は“楽園”を夢見た。我々は……」

 

存在しないゼレフの亡霊に憑りつかれ、虚無の人生を歩んだジェラール。彼が楽園を目指したのに対し、悪魔の心臓(グリモアハート)は何を求めたのか、途切れた答えはそれ以上何も続かず、ペルセウスが呼びかけてももう応じることはない。

 

そこに残っていたのは、ある程度の成長を終え、最早人であった痕跡を一切排したいくつもの小さい樹木。後に長い年月をかけて天狼島の自然と一体となるだろう。彼の命が尽きたか否かの判断はできないが、アズマと言う男の人生は、今この時を持って幕を閉じた事だけは、確かなものに感じられた。

 

「……」

 

どこか憂いを帯びた顔を浮かべながら、ペルセウスはその目を逸らすこともせず思考を巡らせる。恩人(スプリガン)の抱えているであろう(ゼレフ)のこと。一なる魔法と呼ばれしもの。気にかかる事は多々あるが、いくら考えようがペルセウスには答えなど浮かばないことは彼自身がよく知っている。

 

「謎が深まっただけ、か……」

 

どこか自嘲気味に呟いたその時、周囲が淡く輝きを放ち始めた。光っている先のものに目を向けてみれば、それは倒壊して活力を失っているようにも見えた天狼樹だった。

 

 

 

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島から引っこ抜かれ倒壊した天狼樹から、明るく優しい光が発せられる。島中に降り注ぐように広がるその光は例外なく島の中にいる魔導士たちの体を照らしていく。

 

「……!!」

 

その光を身に受けた魔導士たちに変化が起きた。意識を失いずっと眠っていたシエルが突如閉じていた瞼を開き、弾かれるようにその体を起こした。

 

「……兄さん……?」

 

覚醒した頭で強烈に感じたのは兄の存在。今もどこにいるか分からない彼を、何故か近くにいるように感じられた。周囲を見渡してみるがその姿は見当たらず、目に映るのは同行している仲間たちと、島の中心にあったはずが倒壊している巨大樹の成れの果てのみ。

 

「寝てる間に……一体何が……?」

 

「シエルッ!?」

 

体力も魔力も消耗していたはずなのに目を覚ませる程度には戻った事にも驚いたが、少し寝てしまった間に様変わりしてしまった事に混乱の方が勝ってしまう。だがそれも、後ろから聞こえてきた少女の切羽詰まった声に意識を引き戻され、思わず振り向いた。

 

「あ、ウェン……」

 

「大丈夫!?起きて平気!?怪我は痛くない!?急に力が抜けたり、動けなくなっちゃって……ああっ!さっき倒れて投げちゃった時の傷が〜〜!!」

 

「あ、あの……落ち着いて……?」

 

振り向いた瞬間すかさず両手を肩に置きながら矢継ぎ早に尋ね続けるウェンディ。まるで子を心配する母親の様で、力が急に抜けて倒れ込んだ際に投げ出してしまった時に出来たらしい擦り傷を見て、今にも泣きそうな顔と声で慌てふためいている。

 

「これは……!?力が湧いてくる……!!」

 

ナツも同様に力が戻ってきた様で、勢いよく立ち上がる。更にルーシィ、ハッピーとシャルルも同じだ。マカロフとカナを除いた全員が動ける様になっていた。

 

「あんたは動いても大丈夫なの?」

 

「多分。移動だけなら……てか、一体何がどうなって?」

 

「道中で簡単に説明するわ。と言っても、私たちにも分からないことだらけだけど」

 

シエルの目が覚めていることに少しばかり驚きながらも、シャルルは彼の容体を問いかける。意識ははっきりしているようだし、無理をしているようにも見えない。冷静に今の自分の状態を確認しながら、どこか困惑を抑えられない様子。現状は深刻な部分は見られない為、移動するだけであれば十分とシャルルも判断した。

 

そうして一同は再び自分たちのキャンプへ向けて歩を進める。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「よし!!」

「復活!!」

 

一方でシエルたちが再び向かい出した先のキャンプでも、状況は急転していた。思うように力を出せない、実力者であったフリードとビックスローを中心に、囲んで蹂躙していたグリモアの魔導士。時間をかけて甚振っていた彼らであったが、それが失敗へと繋がった。

 

急に調子を取り戻して立ち上がった二人を見て、何が起きたのか分からずに狼狽えていた悪魔たちへ、ビックスローの操る人形による突撃と、フリードの振るう細剣の一撃が、先程まで囲んでいた魔導士たちを一掃した。困惑と恐怖の混じった悲鳴が、悪魔たちから発せられる。

 

「これって……?」

 

「よく分からんが、チャンスだ!」

 

力を取り戻したのは二人だけではない。後方に退避していたリサーナ、レビィ、リリーも同様に、抜かれていた力が湧いてくるように戻ってきていた。勢いに乗ってリリーが再び体を大きく変化させ、戸惑っている一団に特攻。それらを崩壊させる。空中に文字を描いて雷撃を打ち込むレビィと、ワーキャットに変身して飛び掛かるリサーナも後に続く。

 

「何だったんだろう、今の?」

 

「とにかく、これで魔力は戻ったみたい」

 

「シャルル達が遅れているのは、この現象の仕業だったのか」

 

思わぬ反撃を喰らって慌てふためいている悪魔たちを攻め立てながらも、急に力が抜けてしまった事と、元に戻った一連の流れは何だったのか疑問を口にするリサーナたち。細かいところは不明な点が多いが、形勢が逆転したのは明確な事実だ。劣勢を察して困惑するグリモアたちが何よりの証拠。

 

「あ、あいつら……力が戻ってる!?」

「作戦が違うじゃねーか!!」

 

こうなってしまっては最早烏合の衆。弱っている者たちを痛めつけるだけの簡単なお仕事だと侮っていた者たちの末路は、あまりにも呆気なかった。意地でも勝つと言う抵抗の意志があれば結果は変わっていたかもしれないが、それすらも失った悪魔の雑兵たちは、ただ妖精たちの反撃の前に沈み、最後に残った数名も背を見せて情けなく逃走を開始。しかし……。

 

「闇の文字(エクリテュール)・“滅”!!」

 

増援を呼ばれる可能性も潰す為にフリードが追撃し、一人残らずキャンプを襲撃してきたグリモアの魔導士たちは地に伏し、妖精たちの拘束を受けることになった。

 

 

 

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所変わって、消耗も激しい中魔力まで抜けてしまった事で思うように体を動かすこともままならないエルザ。何度も、何度も自分を痛めつける為だけに攻撃してくるラスティローズに太刀打ちできず、地を転がされている。

 

「さて……そろそろ終幕(フィナーレ)と行こうか」

 

愉快と言いたげに笑いながら攻めてきていた男は、伸ばしていた漆黒の右腕を短く収めると、満足気な表情で右手を後ろへと引き、彼女の身体を貫こうと構える。今のエルザでは避けることも不可能だろう。動かすことも出来ない己の身体に不甲斐なささえ感じている。

 

「華々しく散るといい!妖精女王(ティターニア)!!」

 

その声と共に突き出される黒い右腕。必死に「動け、動け!」と心で叫びながら力んでいたエルザは、突如発生した光を身に浴びて一気に覚醒するのを感じた。目前まで迫っていたラスティローズの右腕を、残像が出来る程の速度で回避して後方へ。態勢を立て直し、右手には一振りの直剣を呼び出してラスティローズに飛び掛かった。

 

「!?まだそんな力が……!!」

 

急激な速度で回避と反撃を行ったエルザに目を剥くも、所詮は火事場の馬鹿力と決めつけて強固な爪で弾き返そうとするが、俯き気味だったエルザが顔を上げればラスティローズの目に覇気の籠ったエルザの双眸が映りこむ。そして次の瞬間には右腕が上へ弾かれ、爪も先端を斬られており、そして二撃目を腹部に受けて吹き飛ばされた。

 

「がはっ!?」

 

今起きた事の理解が追い付かず、近場の木に背中から叩きつけられ、思わずその場に蹲る。対するエルザも多少の驚きを顔に現わしていたが、すぐに自分の身に何が起きたのかを理解できた。

 

「力が、戻ってきた……?よし!」

 

右の掌を何度も握り直し、魔力が戻ってきたことを自覚したエルザはすぐさま換装。絢爛な装飾が目立ち、白銀の光沢を持った天輪の鎧を纏い、中空に10を超える直剣を浮かばせる。

 

「何が起きていたかは詳しく分からぬが、これで再び対等だ」

 

島の中心に聳え立つ巨木が倒れたことで起きた異変。その異変を引き起こした何者かを、仲間の誰かが倒したと言う事だけは確信を得ていた。これは好機。傾きかけていた戦況が再び逆転したことを告げていた。

 

「ど、どうしたアズマ……!?奴の魔力が元に戻ってるぞ、何をやってる……!?」

 

そしてラスティローズは大いに焦っていた。マスターであるハデスから受けていた命令に基づいた作戦で、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は全滅できるはずだったのに、先程まで圧倒的に苦しめられたエルザがほとんど回復してしまっている。彼にはアズマに何が起きたのかを確認する術などなかった。

 

「舞え、剣たちよ!」

 

エルザの号令に応えて浮遊する剣たちがラスティローズ目掛けて飛んでくる。危険を察知してすぐさま回避するも、天輪の鎧の効力で自在に操作出来る剣たちは彼を逃がさんと追い詰めていく。

 

「わ、我が左手に宿るは全てを退く黄金の盾ェ!!」

 

焦りのあまり早口になりながらも口上を述べた彼の左手に金色の盾が現れ、迫りくる剣たちを全て弾いていく。だが所詮は一方向のみの対処。懐に入れば問題はないとエルザは縦を持って縮こまっているラスティローズへと肉薄していく。

 

「こうなれば……オレの最高傑作で葬ってやる!!いでよ!ディンギルの塔!!」

 

迫りくるエルザを視認した彼に最早なりふり構う余裕もなく、張り上げた声に応えてエルザの足元から地面が盛り上がり、作り上げられていく存在が彼女の身体を拘束した。何が起きたのか理解する間もなく、エルザはまるで地下から地上へと盛り上がっていく石造りの塔と共に上へと持ち上げられていく。

 

「愚かなる妖精にその悲しみの全てをぶつけ、土に還れ!!」

 

「ぐっ……!身体が……!!」

 

腰から下が完全に塔の中に入り、身動きもとれない。捕らわれたエルザが必死にもがくも埋まっている部分はびくともせず、ただただ遥か天空へと連れていかれるばかり。そんな様子を狂ったように哄笑を張り上げながらラスティローズが見上げている。

 

「鎧の機能も意味を成さんか……ならば!」

 

基本上下に揃った鎧が普段の効力を発揮している故か、埋まっている部分がうまく機能せず、最早鎧自体が無意味とさえ判断。ならばとエルザは換装で天輪の鎧から上半身は胸にサラシを巻いたまま、髪を長いポニーテールへと変化。隠れている下半身には魔力を持たない赤い袴を着ている事だろう。

 

特別な効果を持つわけではないその姿に変化したのには、意味がある。特別な効果を持つ鎧は、少なからずエルザの魔力を常に消費する。それに伴い、換装で持つことのできる武器も魔力量に縛られる。では防御に一切の魔力を回さなければ、その分手に持てる武器はどれほどか。考えるまでもない。

 

「いでよ!妖刀『紅桜』!!」

 

前方に両拳を差し出し、どちらも親指側が上になるように重ね合わせれば、彼女のその声で両手で柄を握るようにしてその刀は顕現した。鞘はなく、ボロボロになった細い布を少しだけ巻いたかのような、どこか禍々しく見える鋼色の刀身。それにエルザが魔力を込めれば、刀にその魔力が移り紅色のオーラを纏う。

 

『紅桜』と呼ばれたこの刀は、防具を捨てなければ握ることも出来ぬほど、彼女の魔力を大きく使う。逆に言えば、それだけ多くの魔力を集中するに値する威力が備わっていると言う事。エルザはその刀にすべての魔力を注ぎ込み、己を縛り付け尚上昇を続ける石の塔にそれを突き刺した。刀は弾かれることも折れることも無く、塔の石壁に抵抗もなく深々と突き刺さり、そこを起点にヒビが走り出す。そのヒビは徐々に広がり続け、やがて塔が不自然に動きを遅くしていく度に範囲も広がっていく。

 

「……は?」

 

異常を覚えたラスティローズは、しかしあまりにも現実離れした光景に思わず呆けた声を発するしかできない。思考を停止した彼の事など露知らず、塔の上昇は完全に止まり全体にヒビが行き渡ると、轟音を立てて爆散。散り散りとなった石片がその場に落下を始めていく。

 

「ディンギルの塔が……あり得ない!人間業じゃない!!!」

 

たった一人の人間の、たった一本の刀に、自身の大技をあっさり砕かれたことに、ラスティローズの脳内がパンクしかかっている。これは悪夢か?幻覚か?そう自問するラスティローズだが、何より現実であることを物語る存在が、崩れゆく塔の破片を足場にして近付く緋色の髪の女が、すぐそこにまで迫ってきていた。

 

「ひっ!?やめろ来るな来るな、来るなぁぁぁあああああっ!!!?」

 

恐怖に足が竦み、場を離れることも叶わず涙を浮かべて情けなく叫ぶラスティローズ。しかしそんな願いなど聞き入れられるわけもなく。紅桜を携えたエルザが落下する速度を用いてすれ違いざまに抜刀。あまりの威力に彼の身体が空中を舞い、鮮血を散らしてしばしの滞空。無事に着地したエルザが立ち上がり、刀についた血を振り払うと同時に彼の身体は地面に衝突した。その顔には、最早戦意の欠片すら見られなかった。

 

 

 

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何度も何度も。踏みつける度に周囲の地が揺れ、音の振動が呼び起こされる。手応えのなくなった最強候補の妖精の頭を、苛立ち気味に何度も踏みつけるは副指令のブルーノート。殴っても蹴っても、取るに足らない反撃しかできなくなったギルダーツを見るだけで、落胆と苛立ちが募るばかり。

 

「あのギルダーツも魔力を失っちゃあ、てんで話にならねぇな」

 

そろそろ飽きてきた頃だ。もうこのままとどめを刺してしまおうか。そんな考えが頭に過った瞬間、状況の変化が訪れた。島全体に眩く優しい光が行き渡ると同時に、踏みつけにしても微動だにしなかったギルダーツの身体が……正確には右腕が動き、ブルーノートの足を受け止めるように掴んだ。

 

唐突な出来事に面食らうも力を込めてみれば、それを押し返そうとギルダーツの腕に明らかにさっきとは比べ物にならない力が込められているのが分かる。魔力が戻った?考えられるのはそれしかないが、ブルーノートの目に映ったのはまるで獣を彷彿とさせる見開かれた目と吊り上がった口。

 

「こんなボコボコにされちまったら、試験官としての威厳もクソも、あったもんじゃねえな……。ガキどもの前でぐらいカッコつけさせろってんだァ!!!」

 

魔力を抜き取られていたとはいえ、背中を見せるべきギルドの大人がボロ雑巾のようにだらしない姿を晒してしまった事への、表には出ない怒りと苛立ちを込もった声と共に、踏みつけようとしたブルーノートの足を一瞬で押し上げて奴のバランスを崩し、直後にすぐさま立ち上がって右の拳を振りかぶると、宙に浮いている途中だったブルーノートの身体を殴り飛ばし、先にある岩壁の一部を崩壊させる。

 

「いいぞ……!いいぞギルダーツ!!もっと飛べそうな戦いをしようぜ!!」

 

対してブルーノートは堪えるどころか獰猛な笑みを浮かべて立ち上がり、お預けになっていた勝負の再開を喜ぶ。先程までのぶつかり合いは互いに小手調べの範疇。そろそろ本気になってぶつかり合おうと、ブルノートは絡めるように両手を重ねて突き出し、そのすぐ先に濃い紫の魔力を帯びた球体を作り出す。

 

「『超重力球(ブラックホール)』!!」

 

その球体が生み出す勢いは凄まじく、周りにある細かい岩の破片や森の木々の木の葉が吸い込まれていき、その球体の中へと押し潰されていく。必死に踏ん張っているギルダーツの身体も、徐々に吸い込まれて地面に足を引きずる跡が出来上がっていく。まさしく全てを吸い込む無限の重力場だ。

 

「トベェ!トベェーーッ!!」

 

引きずり込まれまいと踏ん張るギルダーツと、重力場を維持しながら心躍らせているブルーノート。その攻防は長いようで短く、右手を球体へと翳したギルダーツが念じることでブルーノートが生み出した球体にヒビが入る。見たことも無い現象に思わず呆けるブルーノート。そしてそれからすぐ、ヒビの入った重力場は霧散。そこには元から何もなかったかのように虚空のみが存在していた。

 

「そんなに飛びたきゃ飛ばしてやろうか?」

 

「魔法が割れるとか……え……!?」

 

重力場を粉砕(クラッシュ)させた張本人・ギルダーツは不敵に笑みを浮かべると、半身を引き、右腕を大きく振りかぶる。明らかな攻撃の予備動作であるが、ブルーノートは先程までの狂気はどこへやら、常識的にあり得ない光景を見せられて狼狽しており、頭の整理が追い付かずに慌てふためくのみ。

 

「『破邪顕正・一天』!!!」

 

そんな無防備なブルーノートを、アッパーカットの要領で顎から拳を叩きこむ。あらゆる抵抗を壊して炸裂した拳によって生み出された衝撃波が威力を上乗せし、ブルーノートは遥か彼方の天空へとその身を投げ出される。悲鳴を上げながら雨雲が吹き飛ぶほどの高さへと到達して尚止まることなく、暗い空を照らす星の一つとなったのだった。

 

 

 

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様々な場所での激闘が幕を閉じた頃。妖精の尻尾(フェアリーテイル)キャンプ近くにて全速力でその場へと向かっている一行の姿があった。

 

「うおお~~!急げ急げ~~!!」

 

「ちょっとナツ!さっきより楽になったとは言え、ペース速すぎない!?シエルが着いて行けなかったらどーすんのよ!!」

 

マカロフを抱えて雄叫びを上げながら全開の速度で駆けている火竜(サラマンダー)。その後ろをカナを抱えて運び走るルーシィと、追随するように走るシエルとウェンディ、そしてハッピー。やけにペースの速いナツに対し、先程まで気絶までしていたシエルを慮ってルーシィが速度を落とすように呼び掛けるが、ナツの足が緩むことはない。更に後ろにいる当のシエルはと言うと……。

 

「問題ないよルーシィ。全快には程遠いけど、今結構体が軽いんだ。それにマスターを早く安静に出来るところに運んであげないとだし、みんなの安否も気掛かりだし」

 

ブルーノートから避難した時と比べ物にならないほど軽い足取りで、それも余裕を見せた様子でシエルがルーシィに容態を伝える。瘦せ我慢と言う訳でもなさそうなので本当の事なのだろうが、さっきまでの様子を思い出すとどうにも心配が勝ってしまう。

 

「本当に大丈夫?また無理してない?」

 

「本当の本当に大丈夫だよ。今は信じて、ね?」

 

そんな心配の方が勝ってしまっているウェンディが呼びかけるも、シエルから返ってきたのはニカっと浮かべた笑顔。本当の事だとしてもウェンディにはやはりさっきのブルーノートとの戦いで見せた様子が気掛かりで、曇った表情を晴らすことが出来ない。

 

「ぅ……オイラ……もうダメ……。お腹が空いてもう歩けないよぉ……」

 

「ちょっとネコちゃん、今の状況分かってる上でのセリフでしょーねぇ……?」

 

「病は気からと申しますから……」

 

が、ここで全速力の行進は一時停止。空腹に耐えかねて蹲ったハッピーが泣き言をぼやき、その場から動けなくなってしまった。さっきまでマスターが危ないだのシエルが無茶してないかだのみんなが心配だの、深刻な話をしていた流れを思い切りぶった切る行いだ。みんな頑張ってるのに何を言ってるんだとばかりにルーシィからツッコミが入るが、考えてみればこの場にいる者たち全員、しばし何も口に出来ていない。端的に言えば、エネルギー不足だ。改めて意識すると空腹を感じ始めてきた。

 

「そう言われると腹減ってきた……。キャンプに戻った時に、何かしらあるといいね……」

「そーいやオレも、火喰ったの滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)ってのぶん殴った時ぐれーだし」

「そりゃまあ、あたしだって……カナ、意外と重いし……」

「カナさんが気を失ってるからって……そんな恐ろしいことを……!」

「ほら~!オイラだけじゃないじゃん!」

 

そしていつの間にか、どこか緩い空気が醸し出される会話になっていた。状況を考えろと言いたくもなるような会話だが、腹が減っては戦は出来ぬ。何かを身体に補充しないと今後にも差し支えることになるだろう。

 

最悪シエルは今降ってる雨を身体に吸収、ウェンディは空気を喰えば魔力の補充こそできるだろうが、それでも十分かと言われれば確実に足りない。

 

「みんな大変よ!」

 

そんな緩い空気も引き裂かれるように、今何が起きているのか気になって上空へと飛んでいたシャルルの声が響く。(エーラ)で滞空しながら今し方確認の取れた異常事態を知らせに降りてきた。

 

「気になって上空から見てきたんだけど、この島に生えてた大きな樹、根元から倒れちゃってるわよ!!?」

 

『ええっ!!?』

 

そしてそれを聞いた瞬間、全員が驚愕の声をあげた。島に生えてた大きな樹……中央に聳え立っていた巨木。倒れてしまったらしいことは、目視することも出来たので分かってはいたが、根元から引っこ抜かれるような形だとはシエルも予想していなかった。

 

「天狼樹が……そうか、だからみんなの魔力が……」

 

「どう言う事?」

 

しかしシャルルから聞いたその事実に、シエルは何やら合点が言った様子。ルーシィが聞いてみると、シエルは試験の準備期間中に天狼島に関する文献を調べたことで、中央の大木についてもある程度知っていた。巨木の名が天狼樹である事。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地にふさわしく、ギルドの紋章を刻んだ魔導士に加護を与える効果を持つ事を。

 

魔導士たちが命を落とすことも防ぐことに関しては、文献の文字が一部掠れていた為か、さしものシエルも知らぬことであるが、話に聞いた謎の脱力感の原因は、巨木が倒れたことで間違いない。と言うのがシエルの意見だ。

 

「でも、樹は倒れたままなんだよね?何で力が戻ったんだろ?」

 

「ん~~……何か……光を受けた時に、妙に体が軽くなった感じはあったけど……それが何なのかまでは、さすがに……」

 

ハッピーが言うように、魔力が抜けた原因である巨木は倒壊したままだ。しばらくの間動くことも出来なかったのに、急に元に戻ったらしい。彼らは知る由も無かった。仲間の誰からも知られる間もなく、大樹を倒した魔導士と戦い、打ち勝った仲間の事を。

 

 

 

気を取り直して先へと進み、とうとうシエルたちはキャンプへと辿り着いた。予想通り何人もの魔導士たちがそこに集まっていたが、広がっていた惨状は、思わず誰もが息を呑んだ。

 

ガジル、ミラジェーン、エルフマン、エバーグリーンの4人が意識不明の重体。休憩所として万全に整えられているはずのキャンプ地にしては、簡易的なものしか用意しておらず、あちこち戦闘の跡が見えていて荒れている。

 

意識はあるものの外傷が少なからず目立つメンバーは、リサーナ、レビィ、リリー、フリード、ビックスローだ。後はグリモアの魔導士らしき集団が、いくつものグループで纏めて縛り上げられている。それ以外に人は0だ。

 

「ガジルやミラさんまで……!!」

 

「私、すぐに治癒魔法で……!!」

 

「ありがたいけどこの人数よ……無理しないで、ウェンディ」

 

重症者の状態を見て、いてもたってもいられずウェンディが治療を名乗り出る。しかし一人一人に治癒をしていっては時間も魔力も大幅にかかる為、リサーナに止められた。それに加え、相棒であるシャルルからも制止がかかる。

 

「それにアンタ、今日は魔法使いっぱなしだし、ダメージもまだ多く残ってるのよ?少しは休まないと」

 

「オイラもそう思うよ!」

 

試験の参加に加え、マカロフとナツの治療、途中からとは言えヒカルとの激突、そして極めつけはブルーノートに散々痛めつけられて、魔力だけでなく身体の方も安静が必要なほど消耗している。回復が必要なのはウェンディも同じなのだ。

 

するとシエルが眠っている4人の近くへと移動し、両手を胸の前にあげながら魔力を練り上げる。

 

「全員まとめて、少しずつ回復させるなら、これが最適。日光浴(サンライズ)

 

言うや否や、シエルの両手に収まるほどの大きさを持つ、優しい光を放つ小さい太陽が作られる。治癒力と魔力回復力を向上させる暖かい光が、キャンプ地にいる雨に濡れた魔導士たちの体を温め、癒していく。一つの太陽で全体的に回復を施せるこの魔法は、今この場においては確かに最適。キャンプを守っていた面々は、思わず表情が緩んだ。反対にシエルが魔法を使ったことに関していい顔を浮かべられない者もいる。彼への心配が収まらないウェンディだ。

 

「シエル!今日はシエルの方が消耗が……!!」

 

「だからだよ。日光浴(サンライズ)は消費する魔力が少ないから、自然回復を待つより、実は効率的なんだ」

 

「……ホントに……?」

 

「うん……(何だか……信用されてない……?)」

 

ウェンディ以上に無茶をする様子が見受けられるシエル。魔力の消費量が少ない技とは言え、天狼島に来てから体を張り過ぎたり酷使したり暴走したりと側から見て気が気ではない目に何度もあっている。しかもその度に本人は周りに心配させまいと気丈に振る舞うので、今のシエルがまた無茶をしていないか正直ハラハラしているのだ。

 

どこか悲しそうな疑り深いものを感じる表情で尋ねるウェンディから、随分体調面に関する信頼が薄いとシエルは思った。だが実際彼女の心配は仕方ないとも言えるし、仲間内の誰もが信用できるか?と問われたら否と答える予想しかできない。

 

それは兎も角。

 

「リサーナ、何があった?」

 

キャンプ(ここ)があいつらに襲われたの……その後、よく分からないけど、急に魔力が無くなってきて……」

 

「やっぱ、島にいるみんな、魔力が抜ける感覚を覚えたんだ」

 

キャンプの惨状を改めて確認したナツが尋ねれば、リサーナからその答えを告げられる。今現在纏めて縛り上げられて、身動きもまともにできないグリモアの者たちと思われる覆面とフードをつけた魔導士たち。奴らが拠点であるキャンプを襲ったことが、ここが荒れている原因だろうか。

 

そしてもう一つ。ナツたちが突如動けなくなった謎の脱力感。シエルはその時意識をなくしていたので自覚がないが、ウェンディの話では息が止まってしまわないかと不安だったらしい。島にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士全員が、その脱力化の影響を受けていた。

 

危なかったものの、信号弾に気付いてギルダーツと共に島へと引き返してきたフリードとビックスローの加勢もあり、何とか誰一人欠けることなく今に至るそうだ。

 

「でも、その前から既にみんなあちこちで傷を負ってて……気が付いたら……こんな事になってて……!!」

 

悪魔の心臓(グリモアハート)の襲撃により、力及ばず敗北した者、相討ちに近い形でようやく勝利を掴んだ者は、未だ目が覚めることもない状態。昇格試験の為に島へとみんなで上陸したはずなのに、気付いた時には姉と兄を含めて仲間が多く傷つき、未だに安否も明らかになっていない仲間たちもいる。不安を抑えきれず、込み上がった感情が涙となって流れていく。

 

「リサーナ、泣いちゃダメだ!元気なオイラたちが泣いちゃダメなんだよ!!」

 

そんなリサーナへ、ハッピーが真剣な顔で叱咤激励。戦いに負けたわけではない誰かが命を落としたわけでもない。悲しみこそあるが、まだ自分たちはこうして立っているのだ。先程までの空腹で気落ちしていた彼とは打って変わった毅然とした姿と言葉にシャルルを始めとした仲間たちがハッピーを見て笑みを浮かべている。

 

「そ、そうだよね……!」

 

そしてリサーナもまた、その言葉を聞いて涙を拭きながら気持ちを切り替えた。未だうっすらと目元が潤んではいるが、先程と比べると悲観的な様子は見られない。だが湧き上がってくるのは静かな怒り。それを表すようにナツが左掌と右拳をぶつけて、家族を傷つけたことへの怒りを燃やしていた。

 

「許さねえ……!ゼッテー許さねえ……!!」

 

「勿論。ただで済ましちゃいけねえよな」

 

ナツの怒りがこもった言葉に反論する者は無し。むしろ同調するように、重傷者とは別の寝床に座った(と言うより座らされた)シエルが平然のようで怒りが微かにうかがえる顔をしながら続く。

 

「更に、マスターとカナも負傷か……」

 

「どうなってんだ一体……」

 

同様に寝床に横たわらせたマカロフとカナの姿を見た、フリードとビックスローがそれぞれぼやく。何よりギルドの中でも最大級と言える魔力を持っているマカロフが戦闘不能になるとは、誰もが予想できなかった事だろう。

 

「グリモアの戦艦がこの東の沖にある。ここの守備を考えて、チームを二つに分けてみたらどうだろう」

 

「『攻め』のチームと『守り』のチーム……」

 

これまでは襲撃を受けて迎撃することしかできずにいた。だが負傷者を拠点に運ぶことも達成し、態勢を立て直す機会を得た今、防戦一方だった状況を変える時。リリーの情報と提案で、全員がどちらかの役割を持ったチームとして行動する必要がある。

 

悪魔の心臓(グリモアハート)の本拠地へと進み、敵の首魁であるマスター・ハデスを撃破する為の『攻め』。

 

負傷者が未だ多数いるこの拠点に残り、仲間たちの身の安全を確保することを重点的に置いた『守り』。

 

長きに渡った悪魔の心臓(グリモアハート)との総力戦。その最後の戦いを予感させる、運命の二択が用意された。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

未だ降り続ける雨。島の中に流れる川の水量も増え、それに伴って海の気候も普段と打って変わって激しさを増す。そんな海の上を三又の青い槍をボード代わりにして乗り越え、何とか砂浜へと到達した影が一つ。

 

消耗していることが見るからに明らかなその青年、ペルセウスは海上に倒れた天狼樹から、島の中へふらつく身体に鞭を打って戻ってきた。度々息を漏らして砂浜を歩いているその姿は、かつて彼が生きてきた中でも1、2を争うほどの満身創痍。

 

「魔力の消耗が、やけにデケェ……。こんなに、身体が重くなったこと……今までにあったか……?」

 

三又の槍を杖代わりにしてようやく足を踏ん張れるほど、鉛になったかのような体の重さ。生まれた時から有していた特殊かつ膨大な魔力が、今や半分を大きく下回るほどしか残っていない。

 

これ程までに魔力を消費した要因は心当たりがある。アズマとの激闘。その決着がつく際に手に持っていた十束剣の力を解放し、その力が体に纏われて、気が付けば今までに感じた事のない魔力を覚えた。アズマを斬り伏せた後、十束剣がストック空間に消えたと同時にその魔力も鳴りを潜め、以降は急激に体が重くなった。

 

あの技法は恐らく、ただ神器を振るうだけでは決して届かないほどの力を持っており、破壊力は絶大。その分消費される魔力も膨大であり、現状では一回使うだけで精一杯と言ったところだろう。しばし回復を待たなければ、発動さえできない程に。

 

「せめて……シエルや、みんなが、どうなったかだけでも……」

 

あくまでアズマは幹部の一人。他の幹部がどうなったのか、首魁であるハデスがどうなったのかはペルセウスにも分からない。しかしアズマによって魔力を抜かれていたらしい仲間たちは、ペルセウスが勝負に勝ったことで元に戻っているはず。必死に体を動かして、その安否の確認へと向かう。

 

しばし息を整えて下に視線を移していたペルセウス。再び進もうと顔を上げてみると、彼の前に先程までいなかったはずの存在がそこに立っていたのが見えた。

 

「お前ほどの男が、そこまでになるとはな、ペル」

 

「エルザ……?」

 

緋色の長い髪を結いあげた、サラシと袴の身を身につけた女剣士が、どこか苦笑混じりにそう声をかけた。目にするまで彼女が近づいていたことも気付けなかった事と、彼女がまるで自分がここにいるのが分かっていたかのような登場に、思わず瞠目してその場で固まってしまった。

 

その場で突っ立っているとエルザは何も言わずに近付き、槍を持っていた両手から右腕を引っ張って離させ、自らの肩に回させた。

 

「お節介かもしれんが、たまには私たちを頼ってくれないか?立場や実力が、常にその重責を抱えなければならない理由である訳ではないのだから」

 

有無を言わさずペルセウスを抱えるようにして共に進み始めたエルザの言葉を聞き、ペルセウスはいくつかの記憶を思い出していた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した際、基本的に一人で行動するようにしていた事。戦う事が重要な際には率先して前へと出て、仲間への危害を積極的に排していったこと、エドラスで行った凶行を告白し、自分一人が裁かれようと考えていた事。

 

周りの仲間たちから見れば、ペルセウスは一人で抱え込むことが多々あるように見えていたのだ。強い力を持つが故に、生まれ持った才を持つが故に、守るべきものを守らねばならないと無意識に、常に実行していた。

 

天狼樹の魔力を受けた時に、背中を押してくれたみんなの魔力を感じられなければ、今もエルザの肩を借りずに、一人で進もうとしていたかもしれないと、どこか自嘲気味に笑みを一つ零しながら、ペルセウスは今の状況に甘んじることにした。

 

「そうだな……。しばらく、肩を貸してくれ、エルザ……」

 

予想に反してすんなりと助力を受けたペルセウスの返答に、虚を突かれたように目を見開くエルザ。だがそれもほんの一瞬。すぐに穏やかな笑みを浮かべながら返答を告げた。

 

「参ったな、この後嵐でも来るのか?」

 

「……かもな。早くシエルに、確認してもらわねーと」

 

そんな軽口を叩き合いながら、彼らは仲間の元へ向かう為に足を動かす。遠くの方で幾度となく轟く雷鳴が、遠くない未来の激闘を予感させていた。

 

 

 

妖精と悪魔の、しのぎを削る総力戦は……最終局面へと移る。




次回予告

「来るがよい。マカロフの子らよ」

「開戦と同時に全力を出すんだ!!」

「持てる力の全てをぶつけてやる!!」

「後先の事なんざ考えても意味がねえ!!」

「みんなは私が守ります!!」

「魔法に陽の光を当てすぎた」

「それがオレたちの妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!」

「やめてぇーーー!!」

「日が沈む時だ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

「俺たちは何度でも日と共に昇る!!!」


次回『妖精 vs. ハデス』



「こいつがじじいの仇か……ナツ」


「100倍返しだ……!!」
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