FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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大変長らくお待たせいたしました!とうとうハデスとの戦いの幕開けでございます!!
この半年の間で、まあ本当に色々な事が起きました…。僕自身にも世間にも。

本当に長い間お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。そんな期間相応のクオリティに仕上がっていることを、祈るばかりでございます。

まずは最初の一話目、どうぞ!


第134話 妖精 vs. ハデス-最終戦開幕-

日が落ちてから雲が晴れる様子はなく、それどころか降りしきる雨足は強まるばかり。暗い雨雲に包まれた空の向こうは、時折大きな音と共に稲光が迸る。シエルたちがキャンプに到達してから約30分。荒れた空が落ち着く様子を全く見せないそれを、ルーシィとレビィは空模様につられるように顔を暗くしながら見上げている。

 

「空、荒れてきたわね……」

 

「雷……やだね……」

 

そして空模様が暗くなると共に顔どころか体全体が強張っている様子が見える者が一人……否、一匹。頭の上にある耳を両手で畳んで周りの音が聴こえないようにしており、瞳孔も開いて、口も噤んでおり、身体をただ小刻みに震わせている。

 

「あれ?リリー、どうかしたの?」

 

今まで見た事のない黒ネコの異様な姿に、見かけたレビィが声をかけた。その声にビクッと身体を跳ねさせる。原因に心当たりがあるシャルルとハッピーは、レビィにそのことを説明した。

 

「雷が苦手みたいよ?」

 

「シエルが起こした雷にもビクビクしてたんだ」

 

「う……うるさい!言うな!!」

 

日が落ちる前にドランバルトと一悶着があった時の反応から、彼が雷に異常な恐怖心を抱えている事は見てとれた。エクシードの中では一番の実力者である彼の意外な弱点。からかい混じりにあっさり暴露した二人に当然リリーは抗議を飛ばした。

 

「え、さっき私、雷の魔法、近くで使っちゃってた……!大丈夫だった?」

 

「っ!!……べ、別に……!!」

 

それを聞いたレビィは先程グリモアの魔導士たちが襲ってきた際、反撃としてリリーが近くにいる時に敵に雷撃をぶつけていたことを思い出す。雷の音がするだけでも耳を塞ぐほど苦手な彼を怖がらせてしまったのではと謝罪を口にする。思い出した様子で更に体を震わせるリリーは、強がっているのか震えた声でそう返した。内心気が気でなかったのだろう、きっと。

 

そんな会話を特に興味を示さず、テントの下で休みながら聞き流していた火竜は徐に立ち上がると、盛り上がっていた様子の相棒と、空模様に顔を曇らせていた少女に堂々と告げた。

 

「さてと……ハデスを倒しに行くぞ!ルーシィ!ハッピー!」

 

「あいさー!」

「あ……あたし?」

 

気合の入った様子で返事をするハッピーと、自分が呼ばれるとは思っておらず困惑するルーシィ。どこか不満そうな様子の彼女にハッピーが「同じチームでしょ?」と呼びかけるも、攻めのチームとして共に行くなら、自分よりも実力のあるフリードとかの方が適任ではと意見を出す。

 

だがフリードは守り側として術式を書くために残る必要がある。彼と同じチームであるビックスローも共に残るようだ。

 

「私も、ナツさんたちと行きます!!」

 

「ちょっとウェンディ!」

 

「ナツさんのサポートぐらい、出来ると思うし」

 

対して攻めのチームへの参加を表明して意気込んでいるのは最年少の少女。前線に出る事も多くなってきたとは言え、本来後衛に特化した魔法を得意とする彼女にしては珍しい決意。相棒のシャルルが止めようとするが彼女も引くつもりはないらしい。気合い十分と言いたげな表情を見て、シャルルは引き止めることができなかった。

 

「オ……オレも行く……!ガジルの仇を、とってやらねばな……!」

 

ガタガタと震えながらも、未だ昏睡状態のガジルの仇討ちの為に攻めのチームに名乗り出るリリー。だが正直今の状態で満足に戦えるのかは疑わしい。止めもしないが。

 

「私はフリードの術式を手伝う為に残る」

 

「私も、ミラ姉とエルフ兄ちゃんの側にいるね」

 

レビィとリサーナは引き続きキャンプで待機。守りのチームだ。文字魔法を使う者としてフリードの補佐をレビィが務め、姉と兄を案じたリサーナも残って防衛に回ると言う。これでチーム振り分けはほぼ全員が決まった。残っているのは日光浴(サンライズ)を作り出してキャンプ一帯を照らした後、少しでも回復を早める為に仮眠をとっているシエルのみ。寝息も立てずに目を閉じている少年に一度目を向け、彼の状態を確認したウェンディは、残ると告げたリサーナの元に近づいていく。

 

「リサーナさん……シエルの事、お願いできますか?」

 

「え?……そうよね。このまま休ませた方がいいかも……」

 

ウェンディの頼みごとに一瞬驚愕を示したリサーナ。だがシエルの容態についてウェンディたちからある程度聞いた事で、今のシエルをどちらのチームに属させるべきかも理解している為、そっとする方が無難だと結論付ける。

 

「分かった。こっちに任せて……」

 

「ちょっと待った」

 

そうして承諾の返事をしようとしたその時、遮るように少年の声が被さって一同が各々反応を示した。声の主に目を向けてみれば、先程まで寝ていたと思っていたシエルが上体を起こし、立ち上がろうとしている状態だった。

 

「俺もナツやウェンディたちと行く」

 

「シエル!?」

 

しっかりとした足取りで立ち、真っすぐにウェンディたちを見ながら断言した少年に、これでもかと驚きを露わにする少女。これまでの彼の経過を見ていた身としては賛同できるものではないが、シエルも譲るつもりはなさそうだ。

 

「……もう休まなくていいの?」

 

「十分回復できた。それに、このまま置いて行かれるのはごめんだし」

 

「で、でも……」

 

ウェンディ程ではなさそうだが心配そうにシエルを見上げながらシャルルが尋ねる。仮眠する前に発動させていた日光浴(サンライズ)のおかげでキャンプにいた全員が体力、魔力共に大きく回復することが出来た。右肩を回しながら絶好調と言いたげに活力の満ち溢れた様子を見せるシエルだが、ウェンディの表情は暗いままだ。一方で、誰よりも気合が入っていそうなナツが口を開いた。

 

「おし!一緒に行こうぜ!ただし!ハデスを最後にぶっ飛ばすのはオレだかんな!!」

 

「気にするとこそこ?」

「それがナツです」

 

シエルの同行を賛同するも、ここ最近シエルに最後の最後でおいしい所を持っていかれている記憶が何故か根付いているのか妙なところで釘を刺す火竜(サラマンダー)に、いつものように呆れた様子でぼやくルーシィとハッピー。止めるどころか賛成側にいるらしいナツたちにウェンディの顔に焦燥が浮かぶ。

 

「まあ、言ったところでどうせ聞かないだろうし、好きにすればいいわ」

 

「シャルルまで……!」

 

更には相棒(シャルル)までもが溜息を吐きながら遠回しに許可を出す。彼女も反対すると思っていたウェンディは、困り果ててしまう。やはりどうしてもこれまでのシエルの負荷が気になって仕方ないようだ。俯いて思い悩んでいる彼女に、シエルは近づいて声をかけた。

 

「ありがとう、ウェンディ」

 

唐突なお礼。それを聞いて思わずウェンディは「え?」と呆けてしまう。何故急に?と言う疑問を彼女の顔色から感じたようで「俺のことを心配してくれて」と続けざまに告げる。

 

「心配してくれるのは嬉しいし、ありがたいけど、それ以上にただ休んでいるだけでいたくないって気持ちの方が強いんだ。今の君と、同じように」

 

ハデスを倒しに行くナツたちの力になりたい。彼らと共に戦いたい。ウェンディが抱いた想いをシエルも同様に持っている。危険な戦いに身を投じる彼らに置いて行かれたくないと。二人ともそんな思いを抱えているから、シエルの気持ちはウェンディにも分かる。

 

「分かるよ……分かってるけど……でも、シエルがもし……!」

 

しかし彼女にとっては、それ以上にシエルが危険な事に巻き込まれることが恐ろしい。ブルーノートとの戦いでも見せた暴走状態にならない確証も無い。間近で彼が彼自身でなくなってしまうのではと思える豹変を見た身としては、そうなってしまう可能性を少しでも取り除きたい。ウェンディ自身も己の気持ちが二分されていた。

 

「じゃあ、ウェンディが俺の事を守ってくれる?」

 

だが彼女のそんな迷いがかかった本音は、シエルの言葉によって払拭される。言葉の意図が読めずに何も言えずにいるウェンディに、シエルは己の手に視線を落としながら続ける。

 

「俺はどうしても……負けたくない時や、負けるわけにいかない時だと、限界も気にせずに戦っちゃうからさ……。でも少なからずそれは、ギルドにいるみんなも同じだと思うんだ」

 

どんなに打ちのめされようと、どんなに傷つこうと、負ければギルドが危うい状況である際には、限界を超えて、限界以上の力を引き出してでも勝ちを取りに行った。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士は程度の差はあるとは言え、ほとんどの者がその道を辿ってきている。

 

「ウェンディだって、ここで留まっていられないって思ったから、ナツたちと行くことを選んだんでしょ?」

 

「あぅ……」

 

ウェンディも本来は内気で、心優しい故に戦いに関してはどちらかと言えば消極的。攻撃よりもサポート重視なのはその内面にも由来している。そんな彼女がナツたちへの同行を願い出たのも、危険な戦いに身を投じているナツたちの助けになり、仲間として守りたいが為。心優しい故に、自分だけが比較的安全な場所にいる訳にいかないと思ったからだ。そんな心を見透かされたかのような指摘を受けて、彼女はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「無茶をしてほしくないのは君にとっても、俺にとっても、みんなにとっても一緒だ。止める権利なんて誰にもない。だったらせめて、俺はみんなのこともウェンディのことも守ってみせる。

 

 

 

俺がウェンディを守るから、ウェンディは俺のことを守ってくれ」

 

互いに守り、守られる。真っ直ぐ己の顔を見つめて言い切ったシエルの表情は、笑みを浮かべてはいるが真剣そのもの。しばし虚を突かれたように目を瞬かせ、何か声を出そうとする素振りを見せているものの、それが言の葉になることなく果てには俯いて、シエルから彼女の顔が髪で隠れてしまう。

 

 

「ずるいなぁ……」

 

微かに動いた口から紡がれたその声はシエルの耳にはっきりとは届かず、彼の頭には疑問符が浮かぶ。だが聞き返すより先にウェンディは顔を上げ、微笑んでいた。そこにあるのは諦観や不安などではなく、何かもっと暖かさを感じさせるような……。今のシエルにはその笑みに込められた感情が読みきれなかった。

 

「分かった。シエルのこと、絶対に守ってみせるからね」

 

意思を改めて固め、微笑むままに答えたウェンディ。その答えを聞き、虚を突かれたように目を見開いていたシエルの表情が明るくなる。「うん!」と首肯を一つして決意をより一層に固めた。そんな二人の様子を、周りのメンバーはどこか暖かい目で見守っていた。

 

「オレたちも守るぞ!心配いらねえ!!」

 

「ちょっと……空気読みなさいよ……!」

 

「?」

 

「しょーがないわよ」

「それがナツですから」

 

二人の空気を読んで黙りながら見守っていた周囲。それを読まずに壊したナツにルーシィがこめかみを震わせながら苦言を呈すも肝心の本人は何のことか全くわかってない様子。こうなる事など分かってた。エクシード二人の呆れたような声がそれを物語っているかのようだ。

 

「何はともあれ、これで決まりだな」

 

「みんなの事は必ず守る!」

 

「ルーちゃん、気を付けてね!」

 

「うん!大分魔力も回復してきた……!」

 

「残る敵は多分……ハデスのみ」

 

「正真正銘の、最終決戦だな」

 

「絶対に勝ちましょう!」

 

「オイラたちだって頑張るぞ!」

 

「わかってるわよ」

 

「エクシード隊……出撃だ……!」

 

攻めと守り。二つのチームにそれぞれ分かれた。片や仲間を守る為、片やハデスを討つ為に。各々が気を引き締める様にそれぞれ告げながら、いよいよ迎えた最終局面に向き合う。全員の意気込みに似た声を聞き、真っ先に攻めのチームを名乗り出たと言っていいナツが代表して、気合の声をあげた。

 

「行くぞぉ!!!」

 

『おう!!』

 

そして勢いそのままに一気に駆け出し、雨が降る中、東へと走り抜けていく。追随するように年少の二人が、傍らにはエクシード達三人が。遅れてリサーナに呼び止められ、何かの言葉を貰ったらしいルーシィも、少し距離を離す形ではあるが追いかける。

 

最後の戦いに向けて、彼らの士気は十分すぎる程に高まっていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

東の海岸へと向かう道中にはあちこちの視界を遮る森がある。その森の中を、鬱蒼と生い茂る木々を支えにしながら歩を進めている人影が一つ。黒く短い跳ねた髪を持つ青年グレイは、傷口が未だに塞がり切らない脇腹を押さえて息を切らしながら少しずつ移動を続けていた。

 

「(くそ……目が霞む……!)」

 

彼もまた悪魔の心臓(グリモアハート)との激闘を制した一人。相手となったのは煉獄の七眷属の長にして、彼の師である造形魔導士ウルの実の娘であるウルティアだった。幼き頃に母と引き裂かれた彼女は、悪意の介入とすれ違いによって心を闇に落とし、生まれ持った高い魔力と、拾ったハデスの指導によって身につけた魔法で多くの者を傷つけてきた。

 

己の師の娘であるウルティアの、今の姿を良しとしなかったグレイが相手となり、その拍子で幼少の頃に母と引き裂かれた当時の真相を、母の記憶とグレイの思い出で知った彼女は戦意を消失。自らの戦いは終わったと語る彼女を背に、グレイは己の戦いはまだ終わっていないと返し、そこで別れた。

 

両者の事をよく知るウルティアは、グレイでは絶対にハデスに勝てないと確信を持っていた。彼への警告、及び心配の気持ちから出ていた言葉であったが、グレイもその事実自体はよく分かっている。()()()勝つことなど、無理であることぐらいは。

 

だが今この状況は良くない。ウルティアが使用した『時のアーク』と言う時間を操作する魔法に対抗するため、自らの腹を切った後遺症がここに来て影響を起こしている。戦いの際は凍らせて出血を抑えていたが、これ以上は魔力の残量も鑑みて迂闊には使用できない。だが貧血と戦いによる消耗に身体はさすがに着いて行けず、グレイはそのまま力を失い、横へ倒れそうになる。

 

そのまま地に激突するかと思ったその時、彼の身体を掴み支える者たちが現れた。グレイを両隣から抱えて支えるのは右側に緋色の長い髪を持つ女性。左側には水色がかった銀色の髪を持つ青年。

 

「エルザ……ペル……」

 

「よお、グレイ」

「大丈夫か?」

 

その二人、ペルセウスとエルザに気づいたグレイが彼らの名を力無く呟いた。笑いかけながらこちらを労る二人に両側を支えられながら、グレイは俯いて己の不甲斐なさを嘆くように言う。

 

「オレは……いつも誰かに、助けられてばかりだな……」

 

デリオラに故郷を滅ぼされ、両親も失い、拾ってくれた師はデリオラを倒す為にその命を懸けた。それが原因で兄弟子とも一度は袂を分けてしまったが、巡り巡った先で妖精の尻尾に辿り着いた。

 

思い返せば何度も何度も、グレイは周囲の誰かに助けられて生きてきた。魔法を身につけても、磨き上げて強くなっても、結局一人ではやりきれないことばかりだ。今もこうして誰かに支えてもらわなければ歩くこともままならない。

 

「私も同じだ」

 

「俺もだ。気付くのはずいぶん遅かったがな……」

 

しかしそんな彼に否を唱えたりせず、支えている二人から返ってきたのは同調。そして前にいる何かを指し示すように二人が顔を向けると、続くようにグレイが俯いた顔をあげる。

 

前方から現れたのは、ギルドのベースキャンプから向かってきたと思われる同じチームの仲間たちの姿だった。

 

「兄さん!」

「グレイ!」

「エルザさん!」

 

自分を支える青年とよく似た少年が、星に愛された金髪の少女が、藍色のツインテールを持った天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が、こちらの姿を見つけたことで顔と声に喜色を浮かべている。そしてそんな彼らを先導するように一番前に立っていた桜髪の青年はニカっと満面の笑みを浮かべてこう言った。

 

「オレも同じだ!!」

 

一人で戦うこと、生きていくことに限度があり、助け合いながら、支え合いながら戦い、生きる。しかしそれを誰もが情けないとは思わない。人の真理とも言うべき姿勢そのものが、自分たちギルドの魔導士……家族の本分だと知っているから。

 

エルザ、ペルセウス、そしてナツ。仲間たちに改めて教えられたグレイは、ナツに向けて迷いのなくなった笑みを返した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

黒鉄をふんだんに使用して作られたその船の構造は、一隻の巨大な戦艦の両端に比較的小型の似たような戦艦が連結した三胴船と呼ばれるデザイン。中央の巨大な戦艦の船首には茨で描かれたかのような心臓の紋章。悪魔の心臓(グリモアハート)のものである証だ。暗い空から降り続ける多くの雨粒に濡れながらも、船首の先端に腕を組んだ仁王立ちするその人物は、さして気にした様子はない。

 

「まさか七眷属に、ブルーノートまでやられるとは……ここは素直にマカロフの兵を誉めておこうか」

 

その男は白く染まり切った長く真っすぐな髪と、年季が入った皺だらけの顔から伸びた髪以上に長い髭だけを見れば年老いた老人。しかしその体躯は老年とは思えぬほど高く、黒い外套と質素な衣服の下に隠れた肉体は全盛期と比べても遜色はない。

 

眼帯によって隠れた右目には何も映らないが、残った左目で見据えるは、思った以上の奮闘を経て、己が教え子を全て下してきた若輩の妖精共が集まってくる様子。

 

「やれやれ……この私が兵隊の相手をする事になろうとはな。悪魔と妖精の戯れも、これにて終劇。どれどれ、少し遊んでやろうか……」

 

教え子たちとの戦いを制し、傷や疲労が見え隠れしながらもその目に宿した光には一切の穢れが見当たらない。鋭くこちらへの敵意を孕んだ若き魔導士の一団。誰も彼もが、自らが下したマカロフに及ばないにも関わらず、微塵も退こうとしていない事が感じられる。

 

 

 

三代目・妖精の尻尾(フェアリーテイル)。こちらを見上げながらも絶望など抱かず自らに挑もうとする少年少女たち。彼らを動かす根拠は蛮勇かはたまた無知か。いずれにせよ驕り侮った目障りとも言える若き芽。摘み取らない理由など存在しない。

 

「来るがよい。マカロフの子らよ」

 

その無謀な姿勢にせめてもの敬意を表し、ハデスはその一言を最後に翻し、自らの戦艦へと戻っていく。遅かれ早かれ彼らとの激突は必至。勝手に乗り込んでくるのを迎え撃つだけと言わんばかりに外套を棚引かせてその足を動かす。

 

「だーーっ!てめえが下りてこい!!」

 

傲慢。横柄。そう言いたくなる偉そうな態度が気に入らなかったのか、ナツが四肢を振り上げながら去っていくハデスに叫び散らす。

 

「あの男がハデス……」

 

「奴がマスターを……」

 

ナツほどではないが第一の印象がよろしくない様子のS級魔導士たち。鋭く険しい眼を奥の方へと去っていった老人に向ける様子には、剣呑と言う言葉すら生温い。

 

「あの人を懲らしめてやれば、この島からみんな出てってくれるよね」

 

「ああ!完膚なきまでにボコボコにして……」

 

「全員追い出してやりましょう!!」

 

敵の首魁が落ちれば、島にまだ(たむろ)している兵隊たちの士気も失われることだろう。普段と違い戦意に満ちているウェンディの言葉にシエル、ルーシィが同意するように続く。彼らの前方に立つエクシード隊―リリーは未だに耳を塞いでいる―もやる気に満ちているが、ナツは彼らに戦いとは別の頼みごとを提示した。

 

「ハッピーたちに頼みがある。この船を探って、動力源みてーのを壊してくれ」

 

「万が一飛んだら大変だもんね、ナツが」

 

普通に聞けば、どんな機能や仕掛けがあるか分からない敵地の強みを潰す為ととれるが、ナツの提案の理由は至極単純。極端に乗り物酔いをしやすい彼にとっては、船の上に乗って戦う事など致命的。停泊していて揺れなければまだしも、起動しては一気に戦力外となるだろう。それを危惧しての事だと言うのは、場にいる全員が察することが出来た。現にハッピーに図星を突かれたことでナツは所在なさげに目を逸らす。

 

戦いに大きな支障をきたす可能性を叩くと言う案は有効的であることは確か。シャルルもリリーも応じ、もしもの時の為にウェンディが事前に酔いを防ぐ魔法であるトロイアをナツにかける。これで本当の意味で準備は整った。

 

「そろそろ始めようか……行くぞ!!」

 

そう言い放つと同時に両手を合わせて魔力を練り上げていたグレイが、地面にその手を叩きつけることで氷の階段が造形され、ハデスが先程までいた船首へと繋がる。繋がると同時にナツが駆け上がり始め、続くようにエルザ、ルーシィ、ファルシー兄弟も駆け上り始める。

 

「ウェンディ、気を付けてね」

 

「うん!シャルルも」

 

次いでウェンディも階段に足をかけようとするところでシャルルに声をかけられる。ハデスとの戦い、動力源の破壊、どちらも危険を孕む目標だ。彼女の激に返事をしてすぐさまナツたちを負う為に駆け上がり、最後にグレイも後を追う。そしてシャルルはハッピー、リリーと共に船底からの潜入に向かう。

 

「あいつはマスターをも凌駕するほどの魔導士……開戦と同時に全力を出すんだ!!」

「はい!!」

「持てる力の全てをぶつけてやる!!」

「後先の事なんざ考えても意味がねえ!!」

「これが最後……全部出しきってやるんだから!!」

「倒されたマスターたち、それを守ってくれるみんなの為にも!!」

「やっとあいつを殴れるんだ!燃えてきたぞ!!」

 

一目散にハデスの待ち構える戦艦へと、氷の階段を駆け上がって向かいながら、各々が激突を目前にして宣言する。その先頭。白い鱗柄のマフラーを揺らしながら力強く言い切るナツは、最後の一段を優に飛び越えてハデスの名を叫びながら握りしめた拳に炎を纏って跳び上がる。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力をくらいやがれぇ!!」

 

挨拶がわりと言いたげに、ナツが炎を灯した右拳を突き出し、放射された赤い炎がハデスを呑み込まんと襲う。対して左手をかざすだけで炎はそこを起点に分散し、ほとんど当たることなく彼の後ろへと流れていく。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の……力?」

 

こんなものが?と言いたげに余裕な表情を見せるハデス。しかし収まりかけた爆炎を掻い潜って前方から左右それぞれより奇襲をかける影が現れる。右より現れるは漆黒を基調とした一対二枚の羽を背につけた鎧を身に纏った緋色髪の女剣士。左より現れるは上半身を晒し合わせた両手から一振りの両手剣を氷で作り出して携える黒髪の男。

 

「黒羽・月閃!!」

 

「『氷聖剣(コールドエクスカリバー)』!!」

 

視認してからすぐさま迎撃しようにも間に合わず、高火力の技を二つすれ違いざまに受けたことで思わずその身がよろめいた。防がれると予想してすぐさま動き、不意をついてきた事はすぐに理解できた。そして反撃の隙を与える余裕すら無くそうと続け様に水色がかった銀色の長い髪をたなびかせる男が、灰色の巨大な剣を両手に持って飛びかかってきた。

 

「でやあっ!!」

 

横薙ぎにしてハデスの体を吹き飛ばす強大な一撃。軽い呻き声を上げながらも然程堪えた様子も見せずに身を翻す。しかしまだ猛攻は終わっていない。

 

落雷(サンダー)気象転纏(スタイルチェンジ)雷光(ライトニング)倍速(ブースト)!!」

 

船内の横側を駆けながら接近していた、先ほどの青年によく似た顔立ちで、同じ色の髪に金が混じった髪を持った少年が、両手でそれぞれ雷の魔力を握り潰すとその身体に蒼雷を纏って姿が一瞬で消える。そして次の瞬間ハデスの死角から雷を纏った飛び蹴りが炸裂。衝撃で思わず仰け反った。

 

「雷光閃舞!!」

 

だが少年の猛攻は止まらない。飛び蹴りで仰け反ったハデスにその場で回転して回し蹴りを浴びせると、そこからすぐに退避し超高速でハデスの周囲を駆け巡り、すれ違い様に打撃をくらわせていく。

 

「開け!金牛宮の扉!タウロス!!」

 

迎撃もままならない様子で守りを固めているハデスに、ルーシィが金の鍵を掲げて一番の力自慢であるホルスタイン柄の屈強な牛の星霊を召喚。その贅力に任せた一撃を斧で振るい、タイミングを見計らってシエルがハデスの背を蹴り上げると同時に一転したパワー特化の攻撃が炸裂する。

 

「全員の魔法に攻撃力、防御力、スピードを付加(エンチャント)!アームズ×アーマー×バーニア!!」

 

しかしその一撃を受けて尚怯んだ様子が見られない事に気付いたのか、藍色のツインテールを魔力で揺らした少女が、味方全員にかけられるだけの付加術を使用。火力、耐久、敏捷、全てが向上した妖精たちが更に船内を駆け巡りながらハデスに追撃を仕掛けていく。

 

「ちょこまかと……」

 

剣を携えながら斬りかかる3人の攻撃を回避し続けるも、キリの無い猛攻を億劫に思ったハデスが初めて攻勢に転じる。左手を翳して魔力で出来た鎖で繋がれたアンカーを射出し、接近したエルザの首元に引っかけ、それを引っ張る。苦し気に呻いたエルザが繋がれた鎖で引っ張られ、同様に近づいてきていたペルセウスへとぶつけると二人の動きが止まる。

 

「な!?」

 

実力者たる二人が止められたことで同時に飛び掛かっていたグレイが動揺を表に出し、その隙を突いて再びハデスの手から魔力で作られた鎖が飛び出す。しまった、と言いたげにグレイが鎖に気付いて振り向いた瞬間、超速で間に入ったシエルがアンカーを上に蹴り飛ばしてグレイに届かせずに終わらせる。

 

前触れもなく現れたシエルに目を見開くハデスに対し、蹴り飛ばすと同時に竜巻の形を変化させて槍を作り、更に身に纏っている雷の魔力を付け加えて構える。

 

風廻り(ホワルウィンド)(スピア)!!」

 

そしてそれをハデス目掛けて投擲。雷も纏った事で威力も速度も高められたその槍が迫るも、ハデスは一切の焦りなく跳躍して回避。だが先程まで彼がいた位置を起点にして風と雷が混じった爆発が発生し、ハデスの身体にも圧がかかってその身体が投げ出される。

 

「ぬ……!?」と言う苦悶の声を思わずあげたハデス。そこへ更に追い打ちをかけるのは、両手に炎を纏った火竜(サラマンダー)。その存在には気付くものの、ハデスにこれを迎え撃つ準備はできていなかった。

 

「火竜の翼撃!!」

 

しなりを見せて形を変えた炎が彼に襲い掛かり、無防備な身体を更に打ち上げる。それでもなお怯まぬハデスは再び鎖の繋いだアンカーを射出。着地して無防備になっていたナツのうなじに接続し、痛がる彼をそのまま引きずっていく。悲鳴を上げながらされるがままになっていたナツであったが、その鎖は換装で防具を捨て、紅桜を呼び出していたエルザが両断。ナツの身体を解放する。

 

さしもの彼も予想外だったようで目を見開き、それが隙となって次の敵の行動を読むのが遅れてしまう。換装で灰色の大剣から十束剣に持ち換えたペルセウスが床を切り上げるように剣を振るい隆起した岩を顕現。ハデスの右足を岩で固定する。

 

「ナツ!行っけェ!!」

 

妖精の攻撃はまだ終わらない。一瞬で氷の大槌を作り上げたグレイが飛んでくるナツを待ち構え、彼の狙いを瞬時に理解したナツがその大槌に着地。視認して一秒もせぬ内に、ハデス目掛けて大槌を振りかぶってナツを飛ばす。

 

「天竜の咆哮!!」

「スコーピオン!!」

竜巻(トルネード)吹雪(ブリザード)砂嵐(サーブルス)!同時発令!!」

 

更にはナツを後方から押し出すようにウェンディのブレス、ルーシィが呼び出した天蠍の砂塵、シエルが同時に射出した三種の荒天が同じ方向に巡って収縮。道中で合流を果たした5つの竜巻が混ざり合い、巨大な一つの旋風と化す。

 

合体魔法(ユニゾンレイド)!?」

 

二つの魔法を組み合わせるだけでも高度な技法を5つ……正確には三人の魔法を恐らく即席で組み合わせた事実に、さしものハデスも衝撃を隠せない。だがしかし、これだけには終わらない。

 

「ナツ!纏え!!」

 

換装で呼び出した紅炎の剣から紅い炎を横よりナツへと飛ばし、それを身体に纏った自分の炎で受け止め、混ぜていく。そこに5種が混じった横の竜巻も合流してナツの身体が回転し、威力を最大限まで高めていく。

 

「火竜の劍角!!!」

 

身動きの取れないハデスの腹に、限界まで上乗せした威力をもったナツの渾身の突撃。真正面から直撃を受けたハデスの身体は、船内の奥へと猛スピードで衝突。轟音と粉塵を発生させる。見るからに強烈な一撃を叩きこんでいた。いかに最強格の闇ギルドの魔導士を統べるマスターであろうと、あの攻撃を喰らっては一溜りもない。倒しきることは出来ずとも、相当のダメージは入っていると言う確信が全員にはあった。

 

 

 

「人は己の過ちを“経験”などと語る」

 

だからこそ、舞い上がる土煙に見え始めた影からの声に、信じがたいものを覚えた。煙が晴れるよりも早く、その事実を信じたくなかった。

 

「しかし本当の過ちには経験など残らぬ」

 

見るからに強力な一撃を、無防備となったその身に受けたはず。だがハデスに起きていた変化は、肩から棚引いていた黒い外套が、恐らくナツの炎によって焼けてなくなった()()。それ以外は、所々に砂埃が付いているのみ。目立った変化は存在していなかった。

 

「私と相対するという過ちを犯したうぬらに……未来など、無いのだからのう……」

 

まるでその言葉が驕りでも己の過大評価などでもなく、純然たる事実であると語るかのように、驚愕と絶望を隠しきれない妖精たちの前に、ハデスは腕を組んで堂々と告げながら晴れていく煙の中から出てきた。

 

「そんな……!!」

「全く、効いてないの……!?」

「オイ……こっちは全力出してんだぞ……!!」

 

堪えた様子が一切見られないハデスの姿に慄いて、妖精たちが信じがたいように呟く。対する悪魔の首領は、衣服についたであろう煤や埃を手で払いながらそれに異を唱えた。

 

「いいや?全くと言うほどではないぞ。神衣の男や妖精女王(ティターニア)の動きは目覚ましいものがあり、連携も中々のものだ。たいしたものよ」

 

全くのダメージ無し、と言う訳ではなく少なくともS級として前線を行くペルセウスとエルザの攻撃、もといほぼ全員の力を集結させてぶつけた一撃に関しては通用していると言ってはいるが、遠回しに言えばそれ以外の攻撃は些事に劣るものだと言う事。彼我に生じた圧倒的な差を見せつけるハデスは、外聞ではほとんど変わっていないように見えるが、その内から放出するものを、確かに変化させていた。

 

「魔力の質が……!!」

「変わった……!!」

 

その変化、そしてそれによって変じた異質さ、両者を感じ取った兄弟が冷や汗を垂らしながら一切警戒を緩めることなく身構える。奴の一挙手一投足、その予兆さえも見逃さぬように。それでも、どこまで通用するのか予見できない事が恐ろしい。

 

「さて……準備運動はこのくらいでいいかな?」

 

瞬間、彼を中心に迸る魔力が、この場の空間を震わせ、大気を揺らす。その振動はこちらにも伝わっており、底知れぬ力の一端とは到底思えない程だ。先程対峙した時はあくまで氷山の一角。本気の一割にも満たないのだとしたら……考えたくもない事実が頭を過るよりも先に、形容できない何かを感じ取ったエルザが警告するように叫んだ。

 

「来るぞ!!」

 

その声を聞き、更にハデスへの警戒を強めて動きを見定めようとしていたシエルは気付いた。今、奴が何かをしようとしている事。その方法は分からぬが、それが誰に対して向けられているのか。シエルには見えた。ほんの一瞬ではあるが、眼帯では隠れていないハデスの左目に、その誰かが映ったのを。

 

 

 

 

 

己のすぐ近くに立って、怯える余裕さえ無く立ち尽くしている、小さい少女の姿を。

 

「ウェン……!!」

 

 

 

 

 

 

「喝!!!」

 

直感的にそれを感じた少年は、すぐさま彼女へ手を伸ばして声を張ろうとした。

 

しかしそれより早く、少年の声を掻き消すハデスの声が艦内に響く。

 

異変に気付いた自分が伸ばした手の先にいた彼女は、こちらに気付いた様子も無いまま……

 

 

 

次の瞬間には、身に着けていた衣服だけを残して消滅していた。

 

「……!!?」

 

「ウェンディーーーー!!!」

 

軽い音を響かせ落下する衣服と装飾。声を失った少年も、消えた少女の名を慟哭する火竜(サラマンダー)も、他の仲間たちも、何が起きたかさえ分からなかった。

 

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