FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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連日投稿二日目。何気に今話はオリジナル要素を思いっきり大胆に詰め込んだため、文字数が一番多いです。

そして先行公開していたシーンが記されております。実はあるものを参考にしたんですが…気付けるかな?←


第135話 妖精 vs. ハデス-光と闇-

光が弾けるようにその身が消えた光景は、まるで現実味がなく、夢なのではと錯覚する程だった。

 

だがそれが間違いなく現実であること、消滅してしまったことを現すかのように、少女が身に着けていた星霊界の衣服、靴とニーハイ、そして二つの赤い髪飾りが小さい音を鳴らして床に落下する。

 

ウェンディ・マーベルと言う少女が、一瞬にして呆気なく消滅させられた。その事実を、誰もが受け入れられなかった。

 

「ウェンディーーーー!!!」

 

振り向いてその光景を目にしたらしきナツの慟哭が耳朶を揺らす。しかしシエルには、彼のようにすぐさま状況を理解して声をあげる余裕など、微塵も存在していなかった。身に付けた者がいなくなって虚しく地に落ちた衣服の中で、彼女の藍色の髪を留めていた猫耳の形をした赤い髪飾りに視線を向けながら、少年はよろよろとそこに近付いていく。

 

「跡形も無く消滅しおったか、他愛もない。用のない者たちを、このまま一人ずつ消し去ってやるとするかな?」

 

可視化できるほどの禍々しい魔力を身に纏いながら、たった今少女を消し去った元凶が笑みを浮かべてそう零す。妖精たちが戦慄すらしてしまう今の惨劇でさえ、ハデスにとっては些末事に等しい攻撃であることが窺えるが、当人である仲間たちはそんな彼の言葉すら耳に入らない。

 

「ウェンディが……消え、た……!?」

「何をしやがった……!!」

「ウソだろ……!?」

 

理解が追いつかず、身体のみが消滅したことで残された衣服たちと、ハデスを交互に見やり動揺を露わにする妖精たち。その中でも、恐らくこの場で一番、動揺……と言うより現実を逃避したがっている少年は、茫然自失と言った様子で少女が遺した赤い髪飾りが足元に来る位置まで辿り着くと、その場で膝をついた。

 

何一つ言葉を発することなく、光を失い見開かれた双眸を向けた先にあった髪飾りを、二つともそれぞれの手で拾い上げてただただ虚空を見るかのように目を向ける。それを見てシエルの中に一つの記憶が蘇った。ついほんの数時間前……負傷していたマカロフを抱え、キャンプへと向かう直前でのこと……。

 

『バルゴさん、これ、お返ししますね』

 

ルーシィの衣服が雨に濡れ、ボロボロになった為に、星霊界から呼ばれたバルゴが気を利かせてルーシィ用のみならずその場の近くにいた人数分の星霊界の服を持参した。ナツとハッピーは受け取らなかったが他の三人は各々で着替えることに。

 

ウェンディもニルビット族特有の作りをした緑のワンピースから、東国の作りを彷彿とさせるピンクを基調とした服装へと着替えていた。しかし、その服とセットになっている白い翼をあしらった様な二つの髪飾りを付けず、バルゴに手渡しで返却する。

 

『お気に召しませんでしたか?でしたらお詫び致します。すぐに代わりの髪飾りを……』

 

『あ、違うんです!これが嫌ってわけじゃないですよ!カワイイし!』

 

バルゴは渡された髪飾りが気に入らなかったのかと解釈したがすぐにそれは否定された。服装の統一感を意識するならばバルゴが渡してくれたものをつける方が合っていそうだが、ウェンディは常日頃から付けている赤い髪飾りに手を添えながら、仄かに赤くなった顔を向けてこう言った。

 

『それでも……やっぱりこの髪飾りが良いんです。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来たばかりの頃、シエルが記念にくれた大事なものだから……出来る限り、身につけたいって思って……』

 

『……かしこまりました。ではこちらはお受け取り致します』

 

『すみません、わざわざ用意していただいたのに』

 

少女から言われ、その意味を理解した様子のバルゴは、普段から浮かべる能面の様な表情を微かに和らげた様子でウェンディから渡された髪飾りを受け取る。謝罪を告げた少女に「お気になさらず」と表情変わらず答えた乙女座の星霊の会話を、一部始終一人離れた岩陰に身を隠して女子二人の姿を見ない様にしていたシエルの耳にはしっかり入っていた。

 

ウェンディがバルゴに伝えていた話の内容が彼の頭の中で何度も反芻され、顔の熱がこれどもかと集まり、胸の奥にある心臓の鐘が掻き鳴らされる。その影響で少し下を向いた顔から汗が止まらない。ルーシィに「着替え終わったの〜?」と声をかけられるまで、そこから身じろぎひとつも出来ずじまいになっていた。

 

未だ終わらぬ戦いを目前にしていた為、シャルルに抑えきれていないと指摘を受けながらも、表にその動揺と狂喜を出さない様にと努めていた。自分が選んだ赤い髪飾りを付けた姿はもう見慣れていたものだが、ふと思い返して密かに心が躍ることも少なくなかった。

 

夜明けのマグノリアで、自分が渡したプレゼントを受け取り喜んでくれた笑顔。次の日につけてくれた彼女が見せに来てくれたこと。気に入ってくれた様子で常に身につけてくれた為に、記憶に残るウェンディの姿のほとんどが髪飾りを付けたもの。

 

そんな彼女が、眩しい笑顔を浮かべていた思い出が、ひび割れて瓦解するビジョンが、唐突に頭に浮かんだ。そして目に映ったのは、持ち主である少女を失い、残った髪飾りと衣服。その幻覚は……いやでもこれが現実であることを思い知らせるものだったかのよう。

 

何故だ?何故彼女は消えた?

何故、消えなければならなかったのか?

否、誰も彼女を失うことを望みはしなかった。

たった一人……自分たちに害をなす、悪魔どもを除いて。

 

 

 

そうだ……そいつらを束ねる……あの男によって……。

 

 

 

「む?」

 

訝しむ様に声をあげたハデス。彼が気付いたのは、膝をついて、少女を失い絶望に打ちひしがれているかに見えた姿から、立ち上がろうとしているこの瞬間において、突如彼から放たれる魔力の質が変異したことだ。

 

「シエル……?」

 

当然、その異変を察知したのはハデスのみならず。いち早く気付いた兄ペルセウスを筆頭に、彼の仲間たちもシエルへの違和感を魔力の変化で感じ取っていた。

 

両腕をダラリとぶら下げ、振り向いたその表情に写っていたのは、怒りを通り越した虚無。光を無くした暗い獣の目でハデスを睨みつけ、微かに開いた口から怒りが込められたかの様な唸り声が漏れ出ている。

 

「あ、あれって……!!」

「やべぇ……!!」

 

その豹変した様子を見て、ルーシィとナツはすぐに気付いた。自分たちはそれを、つい先程も目撃していたから。

 

「どうしたってんだ、シエルの奴……!?」

「これは、一体……!?」

 

その異常性は初めて見るグレイとエルザをも戦慄させ、言葉を失わせる。仲間たちの動揺と困惑を帯びた視線を浴びながら、縦長に伸びた暗い瞳をただハデス一人に向けて睨みつける。

 

「(ブルーノートと対峙した時に起こした豹変か)」

 

混乱を抑えられない妖精側とは対照的に、あくまでもハデスは冷静である。どれだけ痛めつけられてもまるで機械や理性の無い獣の如く攻めてきた状態への豹変。対処するのは容易であるが、自らの身体も顧みない攻め方をしてくることに関しては正直面倒であると言うのがハデスの見解だ。しかし目の前に敵がいるとなれば相手しなければならない。体勢こそ変える様子もないが、彼はいつでもシエルが仕掛けてきてもいい様に警戒を強めた。

 

せめて()()()()()()()()()()()の反撃を行う為に。

 

「ウゥ……!」

 

そしてシエルの方も、振り向いた体勢から足を動かしてハデスへと近づいていく。ブルーノートと対峙した時は、一瞬にして距離を詰めて攻撃していた。その時と同じ予備動作をしたのを見て、ナツとルーシィが呼び止めようとし、相対するハデスがすぐさま迎撃できる体勢にあるのを見抜いたペルセウスもまた、弟を制止させようと動く。

 

しかし、シエルに止まるつもりはない。少女を消し去られた悲しみも、怒りも、憎しみも、全て尽きるまでハデスにぶつけるまでは、止まるつもりなどない。何をされようが構わない。その一心で、シエルは駆け出すための一歩を踏み込んだ。

 

 

 

『お願いシエル!!戻って!!』

 

その声を聞き、シエルは頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。今にもハデス目掛けて飛び掛からんとした様相は一変。その場に立ち尽くして、今耳を通って脳にまで響いたかと錯覚する、少女の声がどこから聴こえたのかを探っている。

 

そう、聴こえたのだ。先程ハデスによって消滅させられたと思っていた少女の声が。幻聴ではない。周りにいる仲間たちも、そしてハデスも聞こえたらしく一様に反応を示している。

 

「……と、申しております」

 

そして次に聞こえたのは、少し高めで控えめな姿勢の男性の声。声の出所……頭上にシエルが目を向けると、艦内の天上に背中を見せるようにして貼り付いている背の高い時計。ルーシィが契約している星霊、時計座のホロロギウムだ。

 

「ほ、ホロロギウム!?」

 

「まさか、ホロロギウム()の中にいるのか!?ウェンディ!!」

 

「『はい!それに無事です!』と、申しております」

 

前触れもなく現れて、どうやったのかウェンディを助け出していたホロロギウム。ペルセウスの呼びかけに中にいるらしい彼女からの返答でその無事を確認した一行は安堵した。

 

「よ……良かった……良かったぁ……!!」

 

変貌しかけていた様子から、ホロロギウム越しのウェンディの声で戻れたのか、いつもの目になったシエルが若干涙混じりの震えた声を絞り出しながら膝をつく。力が抜けてしまったらしい。

 

「(戻った……ようだが、一体あの変化は、何だったんだ……?)」

 

同じようにウェンディの無事に安堵しながらも、シエルの状態にも気にかけていたエルザが胸中でそう呟いていたのは、誰にも気付けなかった。

 

「自動危険察知モードが発動されました」

 

「あの……あたしも、結構危険がいっぱいだったような気がするんですけど……」

 

ウェンディを助けられたことは結果オーライではあるが、日中の昇格試験にて退治したフリード組との戦いや、怪物たちに追われまくった墓探し、襲来してきたグリモアたちとの乱闘や華院=ヒカルとの激闘。極め付きにはブルーノートから蹂躙されたり暴走したシエルとのぶつかり合いやギルダーツの魔法の余波だったりと、ルーシィ自身も相当危険度の高い事態に直面していた時が多々あった。何で今更?と言うのが素直な感想である。

 

「今回は危険のレベルが違いました。申し訳ありません。『ありがとうございます、ホロロギウムさん』と、申しております」

 

「相変わらずややこしいな……」

 

確かにただでさえとんでもない強さを持っていた悪魔の心臓(グリモアハート)の魔導士たちを、育て上げるほどの指導力と実力を持っているのがマスターであるハデスだと考えると、そんな男が仕掛けてきた攻撃をまともに受ければ今頃どうなっていた事か。ある意味では、ここ一番まで取っておいたホロロギウムのファインプレーである。

 

それはそれとして、中にいる人物を本人(?)が通訳していると、どっちが喋っている言葉なのか分からなくなるのはグレイ含めて恐らく何人もいる事だろう。

 

「てか、何で服だけ落ちてんだ?」

 

「緊急事態でしたので()()()()()をお守りしました」

 

実は何人か気になっていたウェンディが身に着けていた衣服のみが残った現象。ナツが尋ねてみれば、本人の身を確実に安全にするためにとった措置だったそうだ。だがしかし、本人の身体()()を避難させ、衣服だけが置いて行かれた……と言う事は……?

 

「ちょ!?ままま、まさか、今その中でウェンディは、は、はだっ……はだぁ!?」

「『キャーーー!!言わないでーーーっ!!』と、申しております。さ!早くお召し物を」

 

安易に想像できてしまい一瞬で顔を真っ赤にしたシエルが狼狽え、どもりながらも言おうとすると、ホロロギウム越しに恐らく負けじと顔を赤くしているだろうウェンディから懇願の声があがる。察したらしい星霊は天井に貼りついて一切振り向かないまま、中にいるウェンディに新しい服を与えている事だろう。何から何まで万能な星霊だ。

 

「とにかく助かった。礼を言う」

 

「私が守れるのはこの一回限りです。皆さん、くれぐれも気を付けてください」

 

たった一度きりの危機回避。だがそれで拾えた存在は大きい。エルザの告げた礼に対して健闘を祈るように託したホロロギウムが星霊界へと戻ると同時に、彼の中に避難させられていたウェンディの姿も露わになった。ホロロギウムが用意した新しい衣服に身を包んだ彼女はそのまま重力に従って下へと降りていく。

 

改めて感謝の意を伝えるルーシィがその姿に安堵を覚え、無事に着地したウェンディがハデスを睨むようにして真っすぐ顔を向けながら堂々と立つ。学生服を彷彿とさせる、上は黒、下のスカートは紺、脚は黒い二―ハイソックスで隠されていて、腰には先程まで着ていたデザインに似た黄色い帯が巻かれている。

 

「ウェンディ、身体に異常はない?」

 

「大丈夫だよ、ありがとう」

 

ハデスの動向に気を配りながらも無事に戻って来たウェンディの容態を気にかけ声をかけるシエル。対する彼女が笑顔で返すのを見てようやく少年を息を吐いた。隙だらけに見えていたこれまでのやり取りを、腕を組んで傍観していたハデスは、戦闘の態勢に戻った妖精たちを見据えると不敵に笑みを浮かべ直して口を開いた。

 

「これがマカロフの子らか……やはり面白い」

 

「お前……じっちゃんと知り合いなのか!?」

 

「何だ、知らされてないのか?今のギルドの書庫にすら、私の記録は存在せんのかね?」

 

彼の口から出た、まるでこちらのマスターであるマカロフを知っているかのような口ぶりに、ナツが反応を示した。対して僅かながらに意外と言いたげな微弱な驚きを交えて、ハデスは妖精たちに衝撃を与える事実を言い放った。

 

 

「私はかつて……二代目妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター……『プレヒト』と名乗っていた」

 

長い髭をいじりながら淡々と告げたその発言に誰もが言葉を失った。バラム同盟と言う、闇ギルドの代表と言われた存在を束ねるマスターが、二代目……つまり先代の妖精の尻尾(自分たち)のマスター……?

 

「ウソつけぇ!!」

 

「私がマカロフを、三代目ギルドマスターに指名したのだ」

 

唯一、出鱈目だと断じるナツの叫びも聞き入れず、現マスターであるマカロフに時代を託したのは自分であると告げるハデス。誰もがナツ同様に信じがたいと思える内容だが、彼が名乗っていたとされる『プレヒト』と言う名に心当たりのある者が一人いた。

 

「プレヒト……!?『新録・儀式魔導大全』を始め、書庫にいくつか置かれてた魔導書の著者でもあった、二代目マスター……名前は、『プレヒト・ゲイボルグ』……!!」

 

「って、ことは……!!」

「本当に……!?」

 

ギルドの書庫のありとあらゆる本に目を通してきたシエル。彼の記憶の中には、数十年も前に先代によって記された数々の魔法の記録も残されており、当然著者である当人の名も入っていた。記憶力、読解力に優れているシエルが、すぐさまその名に直結出来た上に、書庫の本にそれが置かれていた事実。兄ペルセウスも、ウェンディもシエルの反応を見て疑う余地が失せると同時に、真実味が増したハデスの言葉への衝撃が強まる。

 

「ほう、()()()それを読んでおったか。確かうぬの使う天候魔法(ウェザーズ)が載っているのは、第10章の7頁目からであったか?」

 

「!!?」

 

更に畳み掛けるようにして問われたハデスの言葉が、シエルへ更なる衝撃を与えた。シエルだけではない。周りの仲間も全員等しく、各々異なる方向ではあるが驚愕を表していた。

 

長きに渡る苦心と絶望を乗り越え、ようやく見つけ出した自分が扱える魔法。シエルが天候魔法(ウェザーズ)の存在を知ったきっかけは、まさに先代プレヒトが書き残した『新録・儀式魔導大全』。しかも、ハデスが告げたページに、確かにその項目が記されていたのだ。

 

「まさか……!」

「マジ、なのか……!?」

 

口を噤み、目を見開き、言葉を返せない様子のシエルから、図星であることを悟ったエルザやグレイも、敵の首魁であるハデスの正体が、先代のプレヒトである事実に信憑性を感じ出していた。

 

「デタラメばっか言ってんじゃねえ!!そんなのあり得るか!!」

 

しかしそれを一切信じないと吼え、ハデスに駆け出していく火竜(サラマンダー)。親であるマスター・マカロフを傷つけ、聖地を穢し、仲間を危機に晒している敵の大将である男が、かつての妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターである訳がない。その前提が根幹に根付くナツは怒りのままハデスへと特攻しようと距離を詰めていく。

 

しかし対するハデスは一切焦りを見せることなく、二本指に魔力を集結させていき、ナツに向けて突き出すと一瞬で暗い紫の輪になった魔法陣が10に及ぶ数となってナツを取り囲み、反応する間もなく爆破して彼を吹き飛ばす。

 

「ナツ!!」

 

「(天照式魔法陣!?あの一瞬で!!?)」

 

破壊力に伴い、仕上げる難度も高いと言われる天照式魔法陣。それをほぼ一瞬で書き上げる技量に、思わずペルセウスも己の目を疑ってしまう。マカロフよりも確実に長く生きている老練と言うべき実力の一端を見せられ、ハデスの圧倒的な力量をこれでもかと思い知らされてしまう。

 

更に言えばあれほどの威力を誇る魔法でさえ、彼にとってはほんの序の口。二本立てた指に魔力を集め、滑らせるように動かし、地を這う蛇のような闇の魔力が他の者たちへと襲い掛かる。

 

「イージス!!」

 

周りが対応に遅れそうになる中、ペルセウスが瞬発的に前へ出て、絶対防御の盾を展開。攻撃を凌ぎきる。それを見たハデスが「ほう」と素直に感心するように呟くと、ペルセウスがいた場所の頭上を通過し、ハデスの真上へと蒼雷を纏ったシエルが接近。そのまま勢いをつけて踵落としを脳天へと炸裂させようとする。兄を飛び越え、攻撃に移るまでにかかった時間は一秒前後。者によっては攻撃されるまで少年の接近には気付かないほどの速度だ。

 

「だっ!!……!?」

 

しかし放った踵落としは気付けば空を切っており、シエルの視界からは既にハデスの姿は無し。その事に気付いて虚を突かれたシエルは周囲への意識を向ける間もなく、左側から衝撃を受けて壁へと叩きつけられる。

 

死角同然の上からの攻撃を完璧に見切ったハデスは攻撃を受ける直前瞬時に回避し、反撃とばかりに蹴りを突き刺したことで少年の身体を飛ばしていた。反射神経のみでは説明がつかない察知能力。それはシエルを蹴り飛ばした直後に放たれていた別の攻撃にも対応していた。

 

「ふん」

 

少年を蹴り飛ばした直後にハデスへと迫っていた三本の矢。それを視認することなく光る指を振るって矢を全て弾き落とした。直後に「ウソ!?」と言う少女の悲鳴にも似た叫び声が聴こえたことで、先程の矢を放ったのが少女が召喚した人馬宮の星霊であることが伺える。

 

反撃を加えようと振り向くと既に目前まで緋色髪の剣士が迫ってきており、両手に持った太刀で両断しようとする寸前。だが一切動揺することなく紙一重でその一閃を回避し、続け様に振り払われた払い斬りも跳躍してその場から退避する。

 

「そこだぁ!!」

 

その瞬間を見逃さず、すぐさま換装を用いて紫の槍を顕現させたペルセウスがそれを投擲。予備動作もほとんど起こさぬまま高速で回転しながらハデスへと迫る。そんな攻撃さえ、ハデスはすぐさま対応。鎖を繋いだ魔力のアンカーを手から放ち、真っ向から槍にぶつけると横へと引っ張り、己の身体ごと回転しながら槍を操作。数回転した後アンカーを解除すると、槍は投げた本人である青年の元へ。焦りを見せたペルセウスはすぐさま飛んで回避するしかできなかった。

 

「もう終わりかね?」

 

「んな訳ねーだろ!!」

 

度重なる攻撃も全て対処されてしまい、妖精たちに絶望が僅かに流れ始めたのを感じたハデスが問うと、いの一番に否定を口にしながら炎を両手に纏ったナツが跳び上がり、狙いを定める。

 

「火竜の……翼撃!!」

 

そのまま振りぬき吹き飛ばそうとするも、半身を翻して回避したハデスは無防備となったナツの身体を、魔力を込めた右脚で蹴り上げ、壁へと叩きつける。そこにすかさずグレイが接近し、右手と左肘に氷の刃を装着し、斬りかかる。

 

「氷刃、七……!!」

 

だがその攻撃は同様に両手に黒い魔力を宿したハデスによって二つともあっさり砕かれ、その勢いのまま彼自身も殴り飛ばされる。更にすかさずハデスは輝く魔力のアンカーを射出し、動向を窺って立ち尽くしていたルーシィの腹部に引っかける。

 

「あっ!きゃあ!!?」

 

「させるかぁ!!」

 

捕らわれ、引きずり回されていたルーシィだが、即座に動いたエルザが紅桜を用いてアンカーの鎖部分を切断。それと同時にハデスに向けて青い水で作られた4つの大蛇が牙を剥いて四方の上より襲い掛かる。ペルセウスの持つ海王の槍の力だ。

 

「呑み尽くせ!!」

 

空中で無防備の状態に陥っているハデス。だがこれに対しても一切焦りを見せることなく、黒い魔力を両手に纏ってその場を回転し、水の大蛇の頭を真っ向から粉砕。勢いのままに更に上昇する。

 

竜巻(トルネード)!!」

「天竜の咆哮!!」

 

その隙を更について、二方向からそれぞれ横向きの突風を叩きつけるシエルとウェンディ。真っ向からそれを受け、ハデスの身体は更に上へと上がっていく。しかし堪えた様子は見られず、ほぼ無傷に近い状態で奥の方へと着地。次いで両手からそれぞれアンカーを飛ばし、先程攻撃を仕掛けてきた年少組の二人の手首を拘束する。

 

「うぐぅ!」

「ああっ!」

 

そして両腕を交差するように持っていくとアンカーで二人の体を浮かせて近付け、衝突させる。それだけに終わらず、繋いでいる鎖が伸び、二人の身体に巻きついて自由を奪っていく。

 

「ダーインスレイヴ!!」

 

だがその鎖を魔力ごと、対魔の剣でペルセウスが切断。二人の拘束が解けると同時にペルセウスが更にハデスへと仕掛けていく。

 

「神魔一閃!!」

 

剣身の伸びた黒刃を横薙ぎに振るいハデスを両断しようと肉薄するも、焦りを見せる事なくその場を跳躍して回避。しかし跳び上がったその場に、ハデスの背後から炎を纏った桜髪と氷の剣を持った黒髪が飛び掛かっていた。

 

「「ぅオラァ!!」」

 

態勢もままならない老体へと叩きこまれる炎の拳と氷の剣。手ごたえはあった。短い時間とは言え、久々に加えられた感触を覚え、勢いをつけようとしていた二人であったが、目に映ったその状況に、好転しかけた気持ちは霧散した。

 

不安定な態勢のままにも関わらず、ナツの拳は右掌で正面から、グレイの剣は白刃取りの如く左手で止められており、ハデス自身の身体はこちらとは逆の方を向いている。背後から迫っていた攻撃を、視認することなく受け止めていたのだ。

 

後方の若者たちの動揺を感じ取ったハデスは嘲りを含む笑みを一つ浮かべると、そのまま掴んでいる二人を勢いよく前へと振り回し、互いの身体を叩きつけ、そして前方にいる他の妖精たちの元まで投げつける。

 

「ナツ!グレイ!」

 

金髪の少女が彼らを案じて名を呼ぶ最中にも、ハデスは攻め手を緩めない。重力に従って落ちていく途上においても右手の二本指を掲げて魔力を集めて、大きな黒い魔力弾を放とうとする。

 

「まとめて散るがいい」

 

そのセリフと共に放たれた黒い弾丸が、真っすぐに妖精全員を飲み込もうと迫りくる。対処しようと太刀を構える妖精女王(ティターニア)と、黒剣を構える神器使いが庇うように前に出る。しかし、彼らの間を縫うように更に前へと飛び出した小さな影を目にし、二人は衝撃を受けて目を見開いた。

 

「ウェンディ!?」

「よせ!さがるんだ!!」

 

藍色の長い髪を揺らして駆け出した小さな少女が危機に晒されようとしている。それを避けようと声をかけるも彼女には恐れも怯えも見受けられない。寧ろこの状況においては、自分が動かなければいけないと、そのような意志さえ感じる。

 

「大丈夫、任せてください!天竜の……逆鱗!!!」

 

前へと躍り出た少女が立ち止まって素早く構えをとり、前方へと突き出した両手から風で作られた鱗の盾が出現。ハデスの繰り出した黒い魔力を真っ向から受け止める。その威力は確かに重く、ウェンディの顔にも苦悶が浮かび上がったものの、魔力の侵攻を受け止めた光景はエルザ、ペルセウスの両名、更にグレイの顔にも驚愕を浮かばせ、あのハデスさえも意外と思ったのか目を見張っている。

 

「っ……やあっ!!」

 

そして盾を押し出し、黒い弾丸は方向を変えてハデスの元へと戻るように迫る。思ってもみなかったことに驚きを隠せなかったのか、ハデスはそれに対抗する様子も見せぬままその弾丸を真っ向から受けた。

 

「い、今のは……!」

 

「ウェンディ、いつの間に……!」

 

初めて彼女の新たな技を見た者たちが驚きを隠せず茫然とする。盾で受け止めた技をそのまま跳ね返すカウンター。それも魔力が圧倒的に上とされるハデスの攻撃を跳ね返せたことはこの上ないアドバンテージだ。

 

「攻撃が来たら、なるべく私の後ろに!みんなは私が守ります!!」

 

堂々と自信を持ったように告げた少女からは頼もしさを覚える。本来であれば幼い彼女を危険に晒す事に抵抗を覚えるが、見事攻撃を跳ね返してみせた光景を垣間見た仲間たちはそれに否を唱えたりしない。

 

だがしかし、魔力弾を受けた煙が晴れ、ほぼ先程と変わらぬ様相を見せるハデスは、努めて冷静であった。

 

「ふむ、面白い技を使う……その歳で見事なものよ。ならば攻め方を変えようか」

 

本心からウェンディの天竜の逆鱗に感心を見せながらも、右手を指鉄砲の形にして、伸ばした二本の指に再び黒い魔力を装填する。対してウェンディも逆鱗を再発動。どのように攻めてきても受け止め、弾き返す構えを見せる。だが……。

 

「パァン」

 

その掛け声と共に魔力弾が発射されたかと思えば、何かが貫かれたような音と共にウェンディの左脇腹に鋭い痛みが走った。

 

「っ……!?」

 

「ウェンディ!!」

 

声にならない一瞬の悲鳴をあげ、痛みを認識するとじわじわと激痛へと変じ始める。思わず声をあげたシエルを始め、ウェンディの様子を目にした仲間たちは、彼女の痛みとなった箇所が、僅かにえぐれてしまっているのを見て息を呑んだ。

 

「パンパァン」

 

更に続けてハデスが両手から弾を放つと、先程同様風の盾を貫通して少女の右腕と右脚をそれぞれ貫く。痛みのあまりに悲鳴を上げ、涙を浮かべながら、彼女の身体が傾き、同時に風の盾も弱まっていく。

 

「(天竜の逆鱗を貫通して、そのまま当てるなんて……!)」

 

本来この技は多少威力が強かろうと防ぎ、衝撃をそのまま跳ね返すことを可能としている。そんな鱗を模した風の盾を貫くと言う事は、一点に集中された強大な魔力が故、ウェンディの作った盾では受け止めきれぬほどの力を生んだことを意味する。更に言えば想像の範疇を超えたダメージを受けたことで彼女の集中が欠け、盾の強度を維持が続かなくなった綻びを突かれていることも大きい。

 

このままでは彼女の守りは持続できない。焦りの中ではあるが、シエルは頭の片隅で瞬時に思考し結論に行きついた。そしてその直後に駆け出す。

 

「パァン」

 

同時期、トドメとばかりに放たれた一発。傾いた彼女の頭へと到達しかけたその時、後ろから彼女の身体を横へと押しのけて、シエルが盾のすぐ前へと飛び出す。

 

「がっ!!」

 

「シエル!!」

 

少女の身を庇い、守ることは出来たものの、自分自身は間に合わず左肩に魔力弾が直撃する。各々倒れこむ年少の二人。見た目と違って相当な威力がこもっていたそれを受け、苦悶に満ちた表情を浮かべている。何発も受けたウェンディは動けずにいるが、一発のみであるシエルはすぐさま立ち上がろうとハデスを睨みながら体を起こそうとする。

 

しかしその無防備な状態を容赦なく突かれ、ハデスの放った二発の魔力弾が腹と左脚に直撃して再び倒れこむ。それを見てナツとペルセウスが怒りを顔に滲ませながら飛び出すも、ハデスはその場から動かず再び「パン」という掛け声と共に各々の足へと弾を撃ち込む。

 

思わずバランスを崩して倒れこんだのを確認したハデスはさらに追撃。エルザ、グレイ、ルーシィと、順々に魔力の弾を撃ち込んでいき、反撃の隙も与えぬままその弾幕を強く多くしていく。既に倒れていた者たちも含め、7人の妖精全員が蹂躙されていく。

 

「フハハハハ!!私は魔法と踊る!!」

 

より激しく、より苛烈に攻めの手を強くしていくハデス。最早誰もが彼に反撃さえ出来やしない状態に陥っている中、その均衡を打ち破る一手を繰り出したのは妖精の中でも一際力が突出した青年。

 

「ふざけんなぁ!!」

 

手に持っていた黒剣を握りしめ、周囲を旋回するように斬り払い。するとペルセウスへと迫っていた魔力の弾幕が綻び、数瞬とは言え余裕を持った空間が出来上がる。それを見たハデスが眉を顰めながらも、ペルセウスへの弾幕の質を更に濃くしていく。だが一度隙を作ったペルセウスはこの好機を逃すことなく。ダーインスレイヴに己の魔力を遠慮なく込めていき、迫りくる弾幕を次々と高速で斬り落としながらハデスへと駆け出していく。

 

無数に感じる魔力の弾を斬る事で黒剣が勝手に戻る事が無いようにしっかりと維持を続け、かつ踏みとどまらず無心でハデスとの距離を詰めていく。これにはさしものハデスも予想外だったようで目を見開くと、もうすぐそこに迫ってきたところで瞬時に攻め方を変更。天照式と呼ばれた闇の魔力が刻まれた球体型の術式を展開する。

 

「『天照百式』」

 

天照式魔法陣は100通りは少なくとも存在するとされており、数字の式が大きければ大きいほどその威力も難度も増していく。一瞬でそれを書き上げるハデスが異常であり、本来であれば絶対にあり得ない状況下。長年の研鑽と高い魔力があるからこそできる技術だ。

 

そして百式と呼ばれた、今放とうとしている魔法陣は、昼間にマカロフに重傷を負わせるほどの破壊力を持っている。ここで炸裂させれば、まず間違いなく戦艦自体も無傷では済まない程だ。ペルセウスのみならず、妖精の魔導士全員を戦闘不能に追いやれることだろう。多少はこちらにも損失が出ることを承知で、ハデスもこの魔法陣を書き上げた。

 

 

 

 

 

そんなハデスでさえ、書き上げた魔法陣が青年の持つ黒剣に幾度が切断され、発動するより前に消滅することなど、一切想像出来なかった。

 

「……んお!?」

 

戦いが始まってから、一番の衝撃と驚愕を受けたとばかりに表情を一変させたハデス。それは大きな隙となり、ペルセウスにとって絶好の機。しかし一番の有効打を持つ黒剣は、絶大な魔力を持った天照百式を斬って吸収し、ペルセウスの制止も受け付けず異空間へと帰ってしまい今は丸腰だ。すぐさまペルセウスは左手に換装で呼び出していた神器を構え、ハデスへと肉薄する。

 

「しまっ……!」

 

ようやく我に帰ったハデスであったが時既に遅し。すれ違い様にペルセウスが左手で握った紅炎の剣による焔の一閃がハデスに刻まれた。切り口から噴き出す紅い炎に身を焦がされ、ついに膝をつくハデス。

 

「や、やった……!?」

 

倒れている仲間のほとんどが、ペルセウスの攻撃に膝をついたハデスの姿を見て希望を見出す。決定的な一撃であったことは確か。無意識に言葉を発したシエルの目にもそう映っていた。そして紅炎の剣を振るっていた青年も手応えは感じ取っており、右手に新しく十束剣を換装で呼び出して振り向いた。

 

これで倒せたなどとは思っていない。ペルセウスは痛みと疲労を訴える身体に鞭を打って、両手に持つ二本の剣を交差するように引き、蹲るハデスの背後から斬りかかろうと飛び掛かる。

 

 

 

 

 

しかし次の瞬間、バッと勢いよく両腕を広げたハデスの掌から各々魔力の鎖が繋がれたアンカーが飛び出し、一瞬の間にペルセウスが剣を握る両手に接続。そして腕を天へと振るい、青年の身体は鎖に引っ張られて中空へ。

 

「ぐあっ!?」

 

引っ張られた衝撃に声をあげるペルセウスだが抵抗する余裕もなく、立ち上がったハデスが素早く両手を振るって持っていた鎖をさらに伸ばす。手に繋がったアンカーから船内部の横壁に突き刺さり、そこから伸びた鎖はハデスが器用に操作し、彼の足首に何重にもなって巻き付き、今度は天井の角へ。固定されたことを確認したハデスが鎖を両手で引っ張ると、勢いよく鎖が張られ、それによってペルセウスの四肢が引っ張り上げられ、逆さ吊りに。四肢を引かれた状態を突如強制されたことで、両手に持っていた剣も手放されてしまった。

 

「兄さん……!!」

「ペル!!」

「そんな……!!」

 

逆転の糸口を見つけられた矢先の出来事。頭一つ抜き出た実力者だった青年が無防備な姿で身体を封じられてしまった。仲間たちの絶望は、計り知れない。何とか抵抗しようと四肢に力を入れて引きちぎろうとするペルセウスだが、一向にそれが緩む様子はない。

 

「ぐっ……!チクショウが……!!」

 

「いやはや恐れ入った。うぬの実力はあくまで人伝にしか聞いた事はなかったのだが、まさかこれ程とは……私がこれ程の傷をつけられたのはいつぶりであったか……」

 

顔を悔しさに歪めてハデスを睨みつける青年を、逆に称賛するように口に弧を描いてそう口を開く。そんな彼の腹部には、確かにペルセウスが付けた切り傷が焦げ跡と共に刻まれている。一般の者たちよりも長く生きてきた生涯の中でも、これ程の傷を付けた敵と相対したことは少なくとも魔導士となってからは数えるほどしかないと自負している。

 

「思えば……30年は昔の頃、弟子であった()()()の免許皆伝を認めた際の一撃……あの時以来であろうか」

 

そして思い出した記憶の一端。彼の弟子でもあるその男の名を聞いて、ペルセウスの表情は更に険しく、怒りを表すものへと変じた。

 

 

 

「……え?今、何て……?」

 

そして表情と様子が一変したのはペルセウスだけでなかった。立ち上がることも出来ずにうつ伏せで倒れているシエルが顔だけを上げて兄の姿を捉えていたところ、耳を疑う名前をハデスが口にしたことで、見るからに動揺と戸惑いが現れた。明らかにいつもとは異なる様相を見せるシエルに、傍らに倒れるウェンディは口には出せる余裕はないようだがそのただならぬ様子に彼の身を案じている。

 

「ヤート……?それって……まさか……!?」

 

「(しまった……!!)」

 

うわ言を告げるようにその名を反芻していた弟の姿を見たペルセウスは、その事実を弟に悟られたことに激しい後悔を感じた。自分もその事実を知ったのはアズマとぶつかった時。シエルたちと合流した時点では、直後に控えていたこの戦いに激戦は必至であった。故に戦いに支障をきたすと感じて何も知らせずにいたのだが、思わぬタイミングで露見してしまった。

 

「何だ、弟には何も知らせておらんかったのか?」

 

そしてその反応を見て悟ったハデスが、少しばかり仰々しくペルセウスに尋ねる。返ってくる返答は忌々しそうに睨みつける剣幕のみ。それを見て怯むどころか愉快そうに口元を歪めるハデスは、ただならぬ様子を見せる兄弟二人にどうしたのかと問いたそうにしている仲間にも聞こえるほどの声量で告げた。

 

「では代わりに教えてやろう。うぬら兄弟がかつて身を置いておったギルド、鮮血の毒蛇(ブラッディヴァイパー)を作り、束ねていた男ヤートは、ギルドを抜けた私が一から育てた最初の弟子であった」

 

その事実を耳にし、ペルセウスを除く全員が絶句した。シエルの記憶に焼き付いて離れない、自分たちを地獄に縛り付けた男と、ハデスに関係性があった事を。そして他の仲間たちは、いつか耳にしていた隠れた闇ギルド・鮮血の毒蛇(ブラッディヴァイパー)にかつてシエルたち兄弟が身を置いていたと言う事実を。衝撃とも言える内容に、言葉を失ってしまった。

 

「魔導士として自立し、ギルドを作り上げた後も私の支えとなり、七眷属の候補となる逸材を探し、育て、私の悲願成就の為に動いておった。未来が違えば、今頃はペルセウス(この男)も私の手足となっていたやもしれぬ」

 

「そんな事あり得ねぇ!!」

 

ギルドに属した魔導士であったペルセウスの素性を説明しながら、起こりうる可能性のあった未来を夢想するかのように語るハデス。それを耳にして真っ向からナツが否定を叫ぶが、その言葉に微かに眉を顰めながら彼はこう返した。

 

「私から言わせれば、今あるこの現実の方こそあり得ぬ未来だ。5年前、鮮血の毒蛇(ブラッディヴァイパー)はマスターであるヤートを含む一部の者たちを除き、この者によって皆殺しにされた」

 

これまで余裕さえ感じるほど淡々と語っていたハデスが、どこか苛立ちを抱えているようにも見える態度で告げた内容。それを聞いて再び仲間たちは押し黙った。纏っていた雰囲気が微かに変じたこともそうだが、突如として事実上の壊滅に追いやられた鮮血の毒蛇(ブラッディヴァイパー)の真相が、当時のギルド員であったペルセウスによるものだったことを、ほとんどの者たちが今初めて知ったのだ。

 

「……!(マスターの予測は当たっていたのか……)」

 

当事者である兄弟を除き、S級の称号を持つ者であったが故にマカロフを通じて秘密裏にペルセウスの出自を聞かされていたエルザだけは、現場を見ていたマカロフが立てた推測が真であったことに、改めて戦慄を覚えていた。この事をマスターであるマカロフから聞いている者は、S級魔導士を除けば、長く在籍しているマカオやワカバを始めとしたベテランの魔導士のみ。公には出来ない事を十分察している為、明かすことはしていないが。

 

「それ以来、ヤートから私には一切の連絡はなく、消息も不明。当時ギルド一の魔導士であった神器を扱う少年の行方も不明となっていた」

 

表向きには正規のギルドとして活動していた鮮血の毒蛇(ブラッディヴァイパー)の悪事の露見。それをきっかけとしてマスターであったヤートは姿を眩ませた。魔法の師として狂信的に敬っていたハデスにさえ、何の一言も残さずに。

 

ヤートの行方こそ、ハデスなりに本人の意図を汲み取って探りを入れることはしなかったが、彼が最後の最後に育て上げようとしていた魔導士……ペルセウスの事は諦める訳にはいかなかった。あらゆる情報網を駆使し、彼の足取りを掴もうと動いた。

 

本人も悟られないように動いていたものの、ペルセウスの行方が判明したのは、一年と数か月ほど経ってからだった。

 

「評議院に潜入させていた私の部下によって、ようやくペルセウスの足取りを掴むことに成功したのだが……まさか妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入っていたとは、想像だにもしておらんかった」

 

後ろで鎖につなぎ、逆さ吊りのままとなっているペルセウスに向けてハデスは告げる。彼からして見れば、かつては自分が属し、束ね、そして未来を託してきたギルドに……それも自らが後を任せた(マカロフ)に拾われていたなど、彼にも予測できなかった。

 

自分がよく知るギルドにいたこともそうだが、ペルセウスのような魔導士が正規ギルドにいること自体が、ハデスにとっては意外と言う言葉を除いて何も出てこないほどの衝撃だったのだから。

 

「神の力を奮う証を受けながら、その身を闇に落とし、闇の世界で“堕天使”とまで呼ばれるほどの業を背負ったうぬが……今更光に満ちた世界で生きていけると、よくも思えたものだ」

 

闇の世界に身をやつし、多くの命を奪い、多くの血で手を汚してきたペルセウス。その残酷と言える現実を突きつけ、ペルセウスの表情に影を作らせる言葉を吐き捨てるハデスに、拳を握り締めて怒りに震え、シエルは激情を覚えてそれを主張するように声を張った。

 

「望んで闇ギルドに入ったんじゃない!!お前たちが……あの男が兄さんを引きずり込んだじゃないか!!一切の逃げ場を封じた、あの生き地獄に!!本当なら、手を汚すことなくまっとうに生きて、闇ギルドなんかと無縁な魔導士として、生きていく事が出来た兄さんを、お前たちの勝手な都合が歪めたんじゃねぇか!!」

 

「シエル……」

 

我慢ならなかった。兄がこれまで闇の世界で行ったことが、まるで本人が望んでやってきたことのように決めつけられた言い草をほざいたハデスに、そう反論せざるを得なかった。兄は優しかった。思いやりのある両親に囲まれて、身体の弱い自分に、両親共々寄り添ってくれる少年だった。それを歪ませたのは、他ならない闇ギルドの者たちだったと言うのに、どの口が言うのか。

 

しかしハデスから返ってきた言葉に、シエルの反論は意図せず止められる。

 

「まっとう?生まれた時点で並外れた才能を持ち、誰よりも秀でた力を持つ。そんな人間が、本当の意味でまっとうに生きていけるとでも?」

 

何もヤートがペルセウスの行く末を歪めた訳ではない。これだけを聞くと否と答えたくなるように感じるが、ハデスはペルセウスが闇で生きるようになったことにヤートの介入が関係あったのかと言う疑問を提示してきた。

 

大きすぎる魔力を持って生まれた者たちが辿るのは、何も栄華に塗れた道とは限らない。持たざる者たちからの羨望と嫉妬。心無い者たちからのそしり。大きすぎる力を恐れた者たちによる理不尽とも言える仕打ち。才があったのにまっとうに生きることを許されなかった者たちは、歴史上を広く見れば殊の外少なくない。

 

ヤートが見つけ、拾わなかったからと言って、ペルセウスが闇の道へと進まなかったという確証などどこにもない。何かがきっかけとなって、大きすぎる力に溺れ闇にその身を落とすことだってある。長き時を生きてきたハデスは、そのような末路に落ちた者たちを何人も見てきたのだ。

 

「うぬらなら、理解できるのではないか?“優れた力を持つ”だけで、何故悪であると言われなくてはならぬのか?力無き者たちをいくら守ろうと、ひとたび力を奮えば恐れられ、報われることなく見放されなければならぬのか?無力で地位しか持たぬ者共に蔑まれ、安寧の地を追いやられる恐怖を植え付けられる必要が、何故あるのか?」

 

言葉の一つ一つを聞くたびに、兄弟二人の表情に覇気が失われていく。図星を突かれた。理解できてしまった。“才能がある”と言う言葉で片付けられ、悪意も無いのに恐れられ、周りから敬遠された記憶が。力を求めてあらゆる全てを捧げる程の覚悟と努力をこなした結果、自分でも御しきれぬ力が発現したことで、家族よりも上の立場にある者たちによって排されそうになった記憶が。ハデスの言葉に説得力を感じてしまった。

 

「うぬらは光に満ちた場所にあっても、真の意味で満たされることはない。いや、うぬらのみならず、魔法を扱う者たちは元来、光の中で生きることは出来やしない」

 

畳み掛けるように告げられた言葉にシエルは勿論、ペルセウスも反論できない。演説の如く両手を掲げて語るハデスの言葉が耳を通って心に深々と突き刺さっていく。人智を超えた力や、手に余り過ぎて抑えきれぬ力。それは等しく、周りから見れば恐怖の対象だ。そして人は“闇”と言う存在に悪しき感情を向けている。

 

「“魔法”は闇でこそその本懐を遂げる。元々魔法とは、闇の中で生まれたもの。虐げられ、恐れられてきた力は、今や日常に溢れている。そしてそれがいかに歪であるかを知る者は、極僅かしか存在しておらん」

 

闇の中で生まれた奇跡を、人々は魔法と呼ぶようになり、時が経つにつれそれは文化となって時代を作り上げてきた。しかしギルドを抜けた後、ハデスは魔法を深く知ろうと旅を続け、その過程で一つの結論に行きついた。

 

最初に魔法と呼ばれた闇が溢れる世界。真の意味で魔法を扱うものが存在できる、ゼレフが導くと言う大魔法世界。魔法を探求する道を辿ったハデスは、いつしかそれを目にすることを求めた。

 

数々の魔法を知り、太古の魔法を扱える者を育て、かつて闇に葬られる対象であった魔法を再び表の舞台へと。資格を持つ者を増やしていきながら、共に歩む同志を増やしながら、ハデスはそれを目指していたのだ。

 

そしてハデスは確信を得ていた。大魔法世界に踏み入れるにふさわしい存在は、己の率いるギルドにいる者たちのみではないと。有象無象から排他の対象とされるに至った強い力を、生まれ持った時から、あるいは妄信的に求めた結果、手にしていたファルシーの姓を持つ兄弟二人は、その資格を持っていることを。

 

「誇るがよい、胸を張れ。うぬら兄弟は我らと……否、ゼレフと共に真の魔法に溢れた世界を歩む資格を手にしているのだ」

 

強すぎる力を、畏怖の対象となる力を、それを振るう事が如何に危険であろうと、ハデスはそれを否定しない。周りの者とは違い、存在価値の高いものとして、本来あるべき姿として受け入れている。二人を陥れる甘言ではない。本心からの言葉だ。

 

ヤートが育て上げた魔導士としてではなく、優れた才溢れる者たちとして、ハデスは彼ら兄弟を闇へ……真なる魔法を統べる……大魔法世界へと誘う。

 

これに対して彼ら兄弟は一切口が動かせず、心を揺れ動かされる。

 

 

 

 

 

 

 

そんな揺れ動いた心を止めたのは、空間に響き渡った一つの破壊音だった。

 

「さっきから……訳の分かんねー事ばっか、言ってんじゃねぇ……!!」

 

その大きな音に場にいる者たちのほとんどが目を見開き、その元へと視線を向ける。出所は炎で包まれた拳を握りしめ、床に叩きつけて体を起こそうとする火竜(サラマンダー)だ。

 

「生まれつき、強いとか弱いとか……魔法が光だとか闇だとか……正しいとか、間違ってるとか……ゼレフがどうとか……そんなもん、妖精の尻尾(オレたち)の知ったことじゃねぇ!!」

 

息は絶え絶え、体は震え、起き上がろうとしても言う事が聞かずじまいになっているらしい状態だが、それでもめげずに疲弊した体の奥底から絞り出した声を、ハデスに、シエルとペルセウスに、仲間全員の耳に届ける。

 

「大事なのは、過去よりも今だ!ペルもシエルも……昔、闇ギルドにいたから何だってんだ、今のオレたちにゃ関係ねぇ!!」

 

微かに残った気力だけで足を踏みしめ、徐々に立ち上がろうと体を起こしながら叫ぶ。過去に何があったのか、どのような仕打ちを受けたのか、そしてどんな業を背負ってきたのか。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間は、少なからず他とは違う生き方を強いられた者たちが多い。しかし自分たちは、過去を深く追及したり、引きずられたりせず、一人の人間、魔導士として接してきた。シエルたち兄弟に対してもそうだ。

 

ペルセウスはギルドに来た時から強くて、何度戦ってもいまだに勝てない。だけど律義に相手してくれて、次こそは勝ちたいと何度も思わせてくれた。弟を思う気持ちが強すぎたり、たまに自分を雑に扱われる時があるのは癪だが、信頼するには十分だ。

 

シエルは兄や自分と違って頭が良くて、その頭脳に助けられた時もある。イタズラをよくしてくるとこはあるが、努力家なところもあるし、兄に追いつきたいと懸命になっている姿は自分と重なるところもあって密かに応援もしていた。今では立派な魔導士だと思えるところも強い。

 

才に溢れたから、強い力を手にしたから、闇の世界に長く身を投じていたから。そんなもの、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいてはならない理由になんて、なりはしない。二人とも、ナツにとってはいい奴であり、血の繋がりを超えた家族なのだ。

 

「オレたちにとって大事なのは、そんなこいつらが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だってことだ!オレたちの、家族だってことだ!!闇ギルドにいたことがあろうが、あぶねぇ力を持っていようが、ギルドの仲間であることには変わらねぇんだ!!

 

 

 

オレは!オレたちは!そんな仲間を虐めたり、見捨てたりなんかしねぇ!!仲間がギルド(ここ)にいたいと言う限り、絶対に手放したりするもんかぁ!!!」

 

二つの足で立ち上がり、両の拳をしっかりと握りしめ、鋭い眼光でハデスを睨みつけてナツは吼える。その言葉を聞き、ペルセウスは見開いた眼を閉じずに呆けたように固まり、シエルは気付けば細めてしまった両目から一筋の涙が溢れ出していた。

 

そして同様に彼の言葉を聞いた仲間たちは、まるで同調するように顔を緩めて笑みを浮かべていた。どのような過去を抱えていても、ありのままの自分を受け入れてくれたギルド。そしてその思想を色濃く受け継ぎ、改めてその大切さをいつも教えてくれた、勇気の炎を灯す竜の姿。自分たちも、それに救われたことを、思い出していた。

 

「喧しい小鬼よ。たかだが十数年しか歩んでこなかったうぬには分かるまい。ならばこの二人が真に至るべき道に気付き、うぬらと袂を分かつと言ったなら、どうする?」

 

立ち上がり、熱き炎を滾らせて、己の主張を真っ向から否定したナツの叫びに、煩わしいとばかりに顔を顰めたハデスが問い返す。それに対して答えを返したのは、以外にもナツではなかった。

 

「その時の……理由がもしも、二人が望んだ結果に至る道なら……背中を押して、見送ってあげます……!でも……!!」

 

痛みに苦しみ、これまで身じろぎ一つできていなかった天竜が、何とか態勢を変え、顔のみをハデスへと向けて起き上がろうとしながら返答する。言葉の額面を見れば、兄弟が袂を分かつことをもしも望めば、引き止めはしないととれる。しかし……。

 

「その道が、二人の心の奥底にある想いを無視した、間違ったものであれば……力づくでも引っ張って止めてみせます!!」

 

真っすぐに見据え、はっきりと言い放ったウェンディに兄弟二人は彼女の覚悟に似た様相をただ茫然と見つめていた。思いもよらない言葉が少女から告げられたことに、虚を突かれたともいえる。そんな二人の心境も知ってか知らずかウェンディは「そうですよね?ナツさん!」と火竜(サラマンダー)に問いかける。対する返答は不敵な笑みを浮かべた「ああ!当然だ!!」と言う肯定だ。

 

「はぁ……所詮は理想論しか口に出せぬか。うぬらが何を言おうと、こやつら兄弟が抱える闇と業を討ち払うことなど叶わぬぞ」

 

呆れ果てた。そう言いたげに溜息を吐いたハデスは、綺麗事ばかりをぬかす若造どもに何を言おうと変わらぬと悟った。所詮は、正規ギルドで光に当てられすぎた未熟者。闇の恐ろしさと強大さを経験し。内に秘めた兄弟の心境を、本当の意味で理解できる訳がないと断じた。

 

「そうでもないさ……一つ、思い出したんだ……!!」

 

だがハデスが感じたその定義を、他ならぬ弟である少年が否定した。思わぬ反論を受けたことでハデスにもそれに対する態度が顕著に浮かび上がる。シエルはナツの言葉で動揺してた心が落ち着き、そしてその言葉を聞いて浮かんだとある記憶から、ハデスの抱える持論に真っ向から異議を主張できる要素を見つけ出した。

 

「力や魔法に、善悪なんて存在しない。どれだけ闇に塗れた力でも、闇から生まれた魔法でも、それはさしたる問題じゃない……!!」

 

少し前、シエルは似たような魔導士と出会った。暗殺に特化した剣術を身に着け、その身を闇へと捧げ、その身を闇に染めることを自らに課した剣士。その者の話を聞き、シエルは自らこう語っていた。「最後にその技の良し悪しを決めるのは、使い手の心だ」と。そしてそれは、己の魔法・天候魔法(ウェザーズ)も同様であると。

 

「本当に大事なのは、その魔法を使う魔導士の心……そして何のためにその力を振るうのかだ」

 

何で忘れてしまっていたのだろう。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に身を置き、学び、教わってきた全てに直結する、己の根幹とも言える定義。恐れる必要などなかった。力自体に罪などない。罪と断じられてしまうかどうかは、自分の心構えにかかっているのだ。

 

「俺の力が何から生まれたものか、気にはなるけど、今大事なことじゃない。今必要なのは、仲間を守るために、お前と言う敵を倒すために、俺はこの力と魔法を身に付けたんだ!!」

 

魔法を覚える為に、覚えた魔法を使いこなせるように、更なる戦い方を編み出せるように、そして己自身もさらに強くなれるように、積み重ねてきた努力の記憶が頭に過るたび、シエルの四肢に力が入り、その身体を少しずつ起こしていく。

 

「お前に何を言われても、その事実だけは絶対に!捻じ曲げることは出来ねぇぞ!!」

 

そしてナツ同様に立ち上がると同時に、シエルは絶対的に変わらぬものがあると宣言して吼える。ハデスを睨むその眼光に、込められているのは純粋な敵意。かつて兄弟を苦しめてきた男の師匠だからではない。今の家族に仇なす敵へと向ける目。それ以外の感情に一切囚われていない、ギルドの者としての表情だった。

 

「全く……無知と言うのは、本当に哀れなものよ……」

 

その声に込められていたのは、侮蔑か、諦観か、はたまた怒りか。込められた感情をぶつけるかのように、ハデスは言い捨てると同時に勢い良く両手を振るった。ハデスが動いたことに瞬間的に立っていたナツとシエルが身構えたが、地を這う蛇の如く迫っていた二つの魔力は、二人が対処するより先に衝撃波となって襲い掛かる。

 

再び床を転がされた二人を案じて呼びかけようとしたウェンディは、声をあげるよりも早く指鉄砲の先から飛ばされた弾丸を複数発受けて同様に転がされ、少女だけでない。立ち上がる事すらできずにいた仲間たちも含めて、再び妖精たちは有無を言わせぬ蹂躙を受ける。

 

「シエル!みんな!!」

 

唯一身動きが取れずにいるペルセウスが呼びかけるも、反応できる余裕すら誰も無い。再び怒りに震えて睨みつける彼の眼光など一切気に留めず、不気味なほどに口角を吊り上げたハデスは、両掌に魔力を集中させながら、舞台役者かのように高らかと宣言する。

 

「ならばここで決めようではないか。真に魔法を扱うに足るのは、うぬらの言う心か、我らが求めるゼレフか。最後に立つ者が、正答者だ!」

 

言い切ると同時に放射される魔力の雨。悲鳴を上げる事すらできずに無作為に転がされる妖精。絶望と呼べる光景に激昂の叫びすら上げられないペルセウスをよそに、悪魔による妖精の蹂躙は、未だ止むことを知らない……。

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