FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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連日投稿最終回!ついに決着!!

間に合って良かった…!ここまで書き切るのに半年ほどかかってしまいましたが、何とか書き切りました。

これで天狼島編ももうすぐ終了。次章へと移るまであと僅かですが……?

話は変わりますが、アニメ版100年クエストが配信サイトでも見れるので楽しませてもらっております!見ているとやっぱりシエルたちが加わった状態のネタが続々浮かんでくるのですが…まずは本編を書き切らないとですね。ガンバリマス


第137話 妖精 vs. ハデス-暁の天狼島-

――――――私が魔法を初めて覚えたのは、最早何十年前の事だっただろうか。

 

今でも色濃く記憶に根付いている。当時の自分は、魔法とは無縁の存在だった。持つものは知識と武器の扱い、そしてまだ見ぬ宝への探求心と……()()の仲間。それだけだった。それがある場所を訪れた時に偶然出会った少女をきっかけに、己の……自分たち三人の人生は大きく変わったと言っても過言ではない。

 

まだ見ぬ宝を手にするため、あるいは故郷の秘宝を取り返す為、利害の一致で同行することになった少女との冒険の途中、自分たちは魔導士ギルドの集団と初めて対峙し、その圧倒的な力に敗れた。仲間の一人は体の多くに傷が出来、自分も右目の視力を失った。

 

――――――今思えば、あの出会いが私の道を決めたきっかけだったのかもしれん……。

 

自責の念に駆られ、場を離れていた少女が戻ってきたと思えば、彼女は不思議な青年を連れてきた。どこか物憂げな表情を浮かべた、黒髪黒目に黒衣を纏った黒ずくめと言う容姿の美青年。しかし少女は彼が物凄い魔導士であると紹介した。そして自分たちに、魔導士が扱うような魔法を教えてくれると。

 

――――――君は魔法の素質がかなりあるみたいだね。頑張って。

 

それは最早、天啓のような言葉だったと思う。そしてその言葉を裏付けるように、三人の中で一番に魔法を発現できたのは自分であった。あの時から、自らの進む道は、決まっていたのかもしれない。

 

長い年月の中で数え切れない出来事があった。手にした魔法で街を救い、仲間たちと新たなギルドを作り、人が集まり、新たに生まれ、失われ、かつての友との死別や決別、新たな世代の台頭、その後にも羅列するだけで気が遠くなりそうな、様々な出来事が。

 

そして道の途上で至った。自らが持っていた才能を活かすべき使命が、何の為であったのかを悟った。魔の才を遺憾なく発揮し、魔導を極めた己が成すべき事……。

 

その為には、あの時自分に魔の道を示してくれたかの青年……ゼレフを、真の意味で目覚めさせねばならぬ。それを阻むと言うのであれば、例えかつて己が仲間と作り上げた、かつて家族として共に過ごした(ギルド)であろうと……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

空気が、魔力が、あらゆる全てが変わったハデスの様相を目の当たりにし、震え、怖気づくばかりの若者たち。赤く染まった右眼を解放させ、力を解き放っただけでこれだ。ここまで自分を追い詰めた者たちの結末は、呆気ないものだと心の片隅に過りながらも、ここまで喰らい付いたせめてもの健闘を称え、ハデスは自らが達した未知の終着点を教示する。

 

「魔の道を進むとは……深き闇の底へと沈む事。その先に見つけたるや深淵に輝く、一なる魔法。あと少し……あと少しで一なる魔法に辿り着く……。だがその“あと少し”が深い」

 

辿り着くまでに辿った道は果てしなく長かった。それも終わりが見えた時、残る一歩と言えるほどの鍵があまりに深いことに気付いた。その深さを埋める為に必要なもの……ハデスはそれを、大魔法世界……ゼレフのいる世界と解釈した。

 

「今宵、ゼレフの覚醒と共に世界は変わる。そして私はいよいよ手に入れるのだ。“一なる魔法”を」

 

一なる魔法。それが、ハデスがゼレフを求め、大魔法世界を作ると言う目的の理由。その単語だけは、ペルセウスもアズマの口から聞かされていた。ハデスが求める、最初に生み出されたたった一つの魔法であり、原点。

 

果てしない重圧に押し潰されそうな感覚を覚えながらも、シエルやルーシィもやはり覚えのある内容であると思い返していた。ブルーノートとの戦いの最中で感じた事のある、同様の既視感を。

 

「うぬらは行けぬ、大魔法世界には。うぬらは足りぬ、深淵へと進む覚悟が。闇と対極にある光を求め、深淵から逃れようとする者であれば、尚の事」

 

そう語りながら両腕をゆっくりと、片方を上げながらもう片方を下げる動作を行い、高まった魔力を更に練り上げていく。その様相から不気味さを彷彿させ、こちらへの不安感をさらに強くしていく。そしてその動きが、左腕を上に掲げ、右腕を前へと突き出す姿勢でピタリと止まると同時に、ハデスは長きに渡る魔法の発動を完了させた。

 

「ゼレフ書第四章十二節より……裏魔法『天罰(ネメシス)』」

 

滲み出てくるハデスの闇の魔力が辺りに影響を及ぼしていき、異変を生み出していく。戦いの余波で周囲にばら撒かれていた数々の石片の中から、黒と紫のゲル状の何かがうねりながら湧き出てくる。それは各々形状は違えど、赤い幾何学模様が刻まれた、獣を彷彿とさせる四肢と鋭利な牙を持ち、唸り声を上げる目と鼻が存在しないヒト型の化け物。

 

感じられる威圧感は悍ましい見た目も相まって尋常ではなく、下手をすれば今のハデスにも匹敵する。そして何より恐ろしいのは、ハデスの近くに散らばっていた小さな石片の数だけ、彼の背丈すらも追い越す体躯の化け物も現れていると言う事。

 

「ガレキから、化け物が……!?」

 

「まさか……あんなのを素材に、作り出して……!」

 

「っ……ひぅ……!!」

 

召喚魔法とも違う。限られた素材から作り出しているには分不相応すぎる程の強大な力。ありふれたガレキから生み出しているとは思えないその光景に兄弟は愕然とした様子で声をあげ、ウェンディに至っては恐怖と絶望に涙を浮かべて引き攣った声をあげることしかできていない。

 

「深淵の魔力をもってすれば、土塊から悪魔をも生成できる。悪魔の踊り子にして天の裁判官。これぞ裏魔法」

 

魔道の深淵を追い求め、自らの半生をも捧げた末に手にした力。異形の怪物たちの耳障りな雄叫びが耳を支配し、悍ましい外見が目を震わせ、そして発せられる魔力が肌をひりつかせる。これがハデスの持つ真の力と言うのか?それとも、これさえも、まだ一端に過ぎないのか?どちらにせよ妖精たちの心は、もう既に折れかけていた。

 

「(一体一体が……あり得ねぇ程バカデカイ、魔力の塊……!!)」

 

嫌でも伝わってくる絶望的な魔力を持つ化け物たちに、ペルセウスさえも冷や汗を止められず。

 

「(怖い……!怖い、怖い……!!)」

 

耐えきれずに両手で顔を覆って俯き、ウェンディはただただ涙を溢れさせ。

 

「(ダメだ……!息がどんどん……苦しく……!!)」

 

胸を押さえ、左手を床についたシエルは、充満する絶望に呼吸さえままならず。

 

「(私が……恐怖で、震えている……!!)」

 

手が、体が震えるのを止めることも叶わず、己が身に起きている現象が信じがたいエルザ。

 

「(何、ビビってんだオレは!ちくしょオ……!!)」

 

固く目を閉じ、両手をついて俯き、己の不甲斐なさへの悔しさをグレイが滲ませる。

 

「(怖くて……もうダメ……!誰かあたしたちに、勇気を……!!)」

 

力を失ったのかだらりと身体を預けているナツを固く抱き寄せ、溢れる涙と歯の震えを止められないルーシィ。誰もが自分たちの終わりを悟ってしまった現状を、少しでも、ほんの少しでも、変えてほしいと願う。心のどこかで不可能であると思いながらも、縋らずにはいられない。どうか、どうかと、ただただ願う。

 

 

 

 

 

 

そんなルーシィの左腕を、誰かが前触れもなく掴んだ感覚を感じ、ルーシィは閉じていた目を開けた。ナツの右手が、自分の腕を優しく、だがしっかりと掴んでいた。思わず彼の名を呟くと、彼は俯いた顔を上げないまま声を発した。

 

「何だ……こんな近くに仲間がいるじゃねーか」

 

心の底から安堵したかのような、恐怖や絶望など一切ない、落ち着きすら感じさせる声を聴いて、ルーシィは目を見張った。

 

「『恐怖は“悪”ではない。それは己の弱さを知ると言う事だ。弱さを知れば、人は強くも優しくもなれる』」

 

その言葉に、今度は全員の恐怖と絶望が僅かに和らぎ、視線がナツへと集まる。ナツ自身が言った言葉、にしてはどこか深みがより感じられる、だが妙な安堵を感じさせるもの。そしてそれは、まるでナツが己にも言い聞かせるように呟かれていた。

 

「オレたちは……自分の弱さを知ったんだ……。だったら次はどうする?」

 

仲間たちの視線を一身に受けながら、抱き寄せていたルーシィの腕を優しくほどき、震える身体に鞭を打って膝を上げる。そしてしっかりと踏みしめ、立ち上がると共に、落ち着きも感じられたその声が、張り上げられた。

 

「強くなれ!立ち向かうんだ!一人じゃ怖くてどうしようもないかもしれねーけど……オレたちは、こんなに近くにいる……!すぐ近くに仲間がいるんだ!!今は恐れる事はねえっ!オレたちは一人じゃねえんだ!!!」

 

ナツの言葉を聞いた誰もが、ハデスによって埋め尽くされていた恐怖と絶望を討ち払う。先程、シエルたち兄弟を救った時も、いや、それよりも前にだって、ナツが放つ言葉には、不思議なものを感じさせる。時には闇を払う光に、時には凍てつく壁を解かす熱に、そして消えかけていた勇気と闘志を再び燃え上がらせる炎に。

 

「見上げた虚栄心だ。だがそれもここまで」

 

構えをそのままに、ナツの言葉を一笑に付したハデス。口では何とでも言える、とでも思っているのだろう。だからこそ、奴には分からない。ナツの言う通りだ。自分たちは何で忘れていたのだろう。自分たちは常に、互いに互いを助け、支え合ってきた。そうすることで乗り越えてきた障害も多々あった。今回だって、そうだ。

 

「(仲間がいれば……)」

「(恐怖はない……!)」

「(そうだね、ナツ……!)」

「(例え魔力が、もうなくても……)」

「(俺たちは、最後まで諦めない……!)」

「(そうだ……それが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!)」

 

蹲り、項垂れるばかりだった者たちは、もういない。一人、また一人と震える膝と身体を奮い立たせ、しっかりと立ち上がっていく。そして前を、ハデスと化け物たちに向ける顔には、恐怖や絶望はなく、闘志に満ちたもので統一されている。

 

体力、気力、魔力、あらゆる全てが尽き、立っているのもやっとな状態。しかしそれがどうした。例え立てなくなっても、動けなくなっても、折れかけていた心が戻った今、立ち向かわない理由になど、ならない!

 

「行くぞォ!!!」

 

唸り声をあげながら少しずつ滲み寄ってきた化け物たち。先程までの自分たちなら黙してその場から動けなくなっていただろう。だが、二度とそうはならない。一切後ろに退かず、前を向き、立ち向かう事を決めたのだから。ナツが叫んだ号令を皮切りに、妖精たちも雄叫びを上げながらまっすぐ前へと駆け出した。

 

「残らぬ魔力で何が出来るものか。踊れ、土塊の悪魔!」

 

対して一切の余裕を崩さず、向かってくる者を容赦なく滅そうと、ハデスもまた号令をかける。それに答えた悪魔と呼ばれた化け物たちは、口や手からそれぞれ、己の身体と同じ色の魔力の波動、もしくは魔力弾を一斉に掃射。生身で突撃してくる人間たちにぶつけるには余りあるそれを躊躇なしに放つ。

 

魔力の波動と弾幕が容赦なく襲い掛かる中、知性は無いが故か単調的な攻撃となっている化け物たちの攻撃は、走り抜ける妖精たちに掠ることなく過ぎていく。紙一重に等しい距離ではあるが、誰一人として餌食になっていない。

 

 

だが、全ての攻撃を完全に回避することは難しく、ナツの足元に一つの攻撃が着弾。その爆風で彼の足元が崩れ、態勢が大きく傾いた。倒れこもうとするナツの身体。このままでは一気に弾幕の餌食だ。

 

そんなナツの両手を掴み、引っ張り上げ、弾幕から逃れさせる存在が二人。咄嗟にナツが前を見ると、左手をルーシィ、右手をウェンディがしっかりと掴みながら共に走り、数瞬、託すように笑顔を浮かべると、力の限り彼の身体を引っ張り上げて前へと投げ飛ばす。その勢いで二人の少女は倒れこむが、ナツは無事に復帰。

 

だが悪魔たちの照準は更にナツを追いこもうと狙いが集中し、密集していく。それに気付いたのは、着地して再び走り出したナツの近くで駆けていた次の二人。彼らは互いの顔を見合わせると走る勢いそのままで方向を転換。ナツの前方に掌を上にして差し出し、乗るように示す。瞬時に理解したナツは左足にシエルの、右手にグレイの掌を足場として掛け、彼ら二人がその身体を押し上げると同時に跳躍。ナツが先程までいた場所に攻撃が襲い掛かり、その風圧で二人の身体は飛ばされる。

 

それでも彼らは止まらない。大きく前方に飛び出してきたナツの姿を後ろをチラリと見て確認した残る二人の魔導士が、視線を合わせるだけでその行動に乗り移る。ナツが自分たちに並んだタイミングでペルセウスが右脚を、エルザが左脚を上げ、それぞれナツの両足と重なるように彼の身体を勢い良く飛ばす。

 

魔法も用いず、まるで砲弾のように特攻するナツ。彼の視界に映るのは、もうハデスのみ。仲間たちの力を借りてここに至った彼が行う事はただ一つ……!

 

 

 

全力で、ハデス(あいつ)をぶん殴る!!

 

「全てを闇の底へ!日が沈む時だ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

構えをそのままにしたハデスがその言葉と共に悪魔たちへと号令を下す。彼の背後からナツを覆い尽くすかのように放たれた攻撃。それに敢えて潜り込む勢いで特攻していくナツ。ハデスとの距離までもう間もなくと言ったところで……。

 

 

 

 

 

 

戦艦が吹き飛ぶほどの大爆発が発生。辺り一帯を、閃光と爆風、粉塵が包み込んだ。倒れこんでいた仲間たちには、状況を掴むことが出来ない。辺りに散らばる木片と鉄片。細かい粉塵が気管に嫌でも入り込むため、何人かが咳き込む声が聴こえる。

 

しかし閃光は既にやみ、粉塵も少しずつ晴れていく事でようやく見え始めてきた。屋根の部分は先程の爆発もあってか最早大部分が失われ、闇夜を帯びた暗雲が天を包み込んでいるのが見える。

 

近くに見えるのはナツを除いた仲間たちのみ。6人全員が彼を押し出したハデスの元へと送ったところまでは見えたが、肝心のナツとハデス……そしてハデスが生み出した化け物たちは、どうなったのか……。ナツが首に巻いていた白い鱗柄のマフラーが空へと飛んでいく傍ら、最後に包まれていた粉塵が晴れ、その結果を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

「おお……おっ……!?」

 

空を切り、突き進んでいた勢いそのままに、ナツが繰り出した左拳がハデスの顎を右から殴りぬこうとしている瞬間であった。予想だにしなかった結末に殴られた本人も、彼が操る化け物たちも、狼狽しているかのように映っている。そして最後に思い切り腕ごと振りぬけば、頭を起点にハデスの身体が錐揉み回転を起こし、体勢を崩させる。

 

「ナツ!!」

 

攻撃が届いた。その事実に喜びを表す一同。その中で彼の名を呼んだルーシィは、宙を漂う白いマフラーが、艇の外側……つまり海の方へと落ちようとしているのに気付くと、すぐさま動き、回収しようとする。が、しかし……。

 

「よっ!……って、ああーーーっ!落ちるぅ~~~!!」

「ああわわっ!ルーシィさん危ない~!!」

「ア゛ァーーーーッ!!」

 

何とかキャッチしたのはいいが、艇の端ギリギリのところで前のめりの態勢となってしまった為、ルーシィの身体ごと海へと落ちそうになってしまう。そこをすんでのところでウェンディが駆け付け、後ろにあげていた右脚を両手で引っ張る事で何とか落下は阻止したが、勢い余って大きく前後に足を開く羽目になってしまい、股関節に絶大なダメージを負った彼女の断末魔が響くことに。一部始終を見たナツ以外の男性陣が「何やってんだ……?」と言いたげな微妙な顔を向けていた。

 

「バ……バカな……!?裏魔法が効かぬのか!!?」

 

そんな一幕など一切気にかけていられず、ハデスは今しがた起きた事への理解が追い付いていない様子。確かに土塊の悪魔たちの攻撃はナツへと当たっていたはずだ。それを枯れ切った魔力によって打ち消すことなど不可能であり、ましてやその勢いのまま己に一撃を当てる事など……!動揺が隠せないハデスに対し、さらに追撃を与えようと歯を食いしばりながら火竜(サラマンダー)がこちらに迫ってくる。

 

「あり得ん……!私の魔法は……ん……ぐっ……!!(まさか……!!)」

 

迫りくるナツから一歩後ずさり、現実を受け入れられずにいたハデスは、己の右目に異常が生じているのを感じた。押さえた右目に集中していた魔力が、抜けていくのを感じる。いや、これはもっと根本的なもの。己の……この悪魔の心臓(グリモアハート)にとって一番重要となる要素に、支障が出たことを現している。

 

「(私の()()を……!!)」

 

赤く光っていた右目は普通のものに変わり、顎の下からナツに殴り飛ばされながら、彼はその結論に至った。そして、それは正解である。

 

この戦艦の中に当たる部分……船底近くにはギルドにとって最重要となるものが家宝の如く厳重に保管されていた。グリモアハート……悪魔の心臓。まるでその名の由来を冠するかのような、それそのものと言える存在が。

 

それこそが、マスター・ハデスの心臓そのもの。持ち得る技術と知識をもとに、ハデスは自らの第二の心臓を身体の外に作った。それは彼の持つ膨大な魔力と、100年以上生き続ける長寿の秘密の元。本来であればギルド員全員にとって守るべき対象となる命綱だ。

 

しかしその心臓は、保管の為の器であった培養槽ごと破壊された。戦艦の動力源を壊す名目で別行動をとっていたエクシード隊(ネコたち)によって。小さい体を活かして通気口から心臓の保管部屋に偶然辿り着いた彼らは、追い出そうとするギルド員たちをパンサーリリーが相手する間に、あれこれと機械を適当にいじったことで逆に異常をきたし、破壊することに成功した。

 

魔力と長寿の源である第二の心臓。それを壊されることが何を意味するか。言うまでもないだろう。彼が生み出した土塊の悪魔は、生み出した張本人の魔力がほぼ無くなってしまった為に形を維持できなくなり、体の色が黒ずみ、ひび割れ、断末魔を上げながら灰のようにその姿を崩していく。先程までの絶望感は完全に消え失せ、ハデスは猛攻を仕掛けるナツのラッシュを受けるがまま、反撃も出来なくなっている。

 

「ん……?あ、あれ……!?」

 

そして更に劇的に状況は変化する。微かに聞こえてきた地響きのような音が気になり、目を向けてみると、それを目にしたシエルは思わず声をあげた。他の仲間たちもたまたま目に入ったのか呆然となってその光景を見やる。

 

「シエル、どうかしたの、か……!?」

 

遅れて、弟の様子の変化に視線を同じ場所へと向けたペルセウスが、目を見張った。天狼島の中央に聳え立ち、もう一つの島の地盤を作り上げていたと言っても過言ではなかった巨大な大樹……天狼樹が立っていた。数時間前に、自らが下した魔導士アズマによって、一度は根っこから引き抜かれ、倒壊させられていたはずだったのに。まるで、そのような大きな出来事など、起きていなかったかのように元通りになっていた。

 

よく目を凝らしてみると、徐々に上へとまるで急成長するかのように伸びていき、ある程度の高さまで到達したところでその動きが止まると、引き抜かれていた根の部分から煙が発生し、淡く黄金の光を放ち始める。それをただ呆然と眺めていた妖精たちであったが、大樹が光を放ち始めると同時に、こちらにも目に見えた変化が起きる。

 

「え……?」

 

「紋章が光って……!」

 

ルーシィの右手の甲、ウェンディの右肩に刻まれた妖精を象った紋章(ギルドマーク)が、それぞれ刻まれた色と同じ光を放つ。それと同時に体の変化も自覚した。先程までほとんどからになっていたはずの魔力が、戻っていく感覚が。そしてそれは、左の二の腕に刻んだエルザ、右胸に刻んだグレイも同様だ。

 

「そうか……!倒れていた天狼樹が元に戻ったことで……」

 

「俺達の……妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちの加護も戻った!!」

 

左頬に同じ紫色に光っている紋章を刻んでいる兄弟・ペルセウスとシエルは戻ってくる魔力と漲ってくる気力を感じながら、天狼樹の復活に伴い加護も復活したことを結論付ける。一度はアズマによって大樹を倒壊させられると同時に、加護の反転……力の搾取を作用させられていたが、全てが元通りになったことで、今度はこちらが一気に有利な状況になったわけだ。

 

「おおおおおおっ!!」

 

そして、右肩に赤い紋章を刻んだナツもまた、その加護を受けて力を更に取り戻し、ハデスへと肉薄していく。勢いづく妖精たちとは対照に、悪魔の首魁の力は目に見えて失われている。対峙したばかりの時は、彼我の実力差など圧倒的だったはずなのに、今では互角どころか、妖精たちの方が上回っている。

 

敗北。ハデスの脳裏にその二文字が過った。たかだか十数年しか生きていない若造どもに……魔法の光の部分しか触れていなかったあの小僧……マカロフが育てた者たちに……。

 

「勝つのはオレたちだーーーっ!!!」

 

 

 

――――――私が……この私が……!マカロフに負けると言うのか!!?

 

 

 

 

 

「否ーーーー!!!」

 

直前まで過っていた認めてはならぬ未来を振り払うように、左拳で殴りかかってきたナツの顔真正面に掌底を食らわせて仰け反らせ、追撃に闇魔法の波動を食らわせる。後ろへとよろめいた、怯んだ様子のナツへ、更に追い打ちの如く顔を蹴りつけ、払うように闇魔法を叩きつけてその身体を床へと転がした。

 

「魔道を進む者の頂に辿り着く日までは……悪魔は眠らない!!」

 

負けられない。負けるわけがない。魔法にかけてきた覚悟も、経験も、年期もあらゆる全てが劣るマカロフに、ましてやそんなマカロフが育てた兵隊ごときに、多少のハンデを背負わされた程度で敗れる事など在ってはならない。己にそう言い聞かせるかのように叫んだハデスが、さらに追撃を放とうと構える。

 

 

 

だがしかし、飛ばされたナツへと仕掛けようとしたハデスの横目から、割り込むように一つの影が割り込んできた。唐突な乱入にすぐさま気付いて対処に移ろうとしたハデスだが、その影に明るみが差し込み、短い金髪の姿を目にした瞬間、彼の脳と網膜に焼き付いた、別の者()()と重なった。

 

「(!?ユー……いや、小僧!?)」

 

否、そのどちらでもない。()()の血と意志と、心を確かに引き継いでいた、この場で唯一紋章を刻まぬ男・ラクサスである。瞠目して硬直したハデスの顔面に、勢いを利用した右フックを叩き込む。思わぬ不意討ち同然の攻撃を受けたハデスが「いがっ!?」と呻き声をあげた。

 

「ラクサス!!」

 

「行けェ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!」

 

殴り飛ばした彼の背中を見て思わず名を呼んだナツに対し……いや、後ろにいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たち全員へと奮起させるように呼び掛ける。その声に、激励に、一番近くにいたナツだけでなく、後方でその姿を見ていた全員が、決意を表情に現わして立ち上がった。戻ってきた魔力を解放するように、ナツが雷迸る炎を身に纏って力を高め始める。

 

「かぁっ!!」

 

小癪な不意討ちを仕掛けてくれたラクサスに、態勢を立て直すと同時にお返しで鳩尾へと魔力を叩きこむ。ほとんど空になっていた最後の気力を振り絞って動いたラクサスは、今度こそ動けなくなる。そんな彼が作ってくれた好機、絶対に逃がしはしないと、一気に妖精たちは駆け出した。()()()()()()()()()

 

「全員行くぞ!ここで出し切れぇ!!」

『おおっ!!』

 

駆け出した妖精たちを代表してペルセウスが声を張り、共に駆ける4人の妖精が応える。恐らくこれが最後の一撃。残った魔力全てをぶち込まんと、気合を入れてハデスへと接近する。

 

「返り討ちにしてくれるわぁ!!」

 

対するハデスもそう易々と攻撃を受けるつもりなど当然ない。両手を上下に向けて魔法を放つための構えをとる。そんな彼の視界に、駆けてくる妖精たちの後方に唯一残っていたシエルの姿は見えていない。

 

少年は構える。足を肩幅に開き、両手を前に突き出した姿勢で、天狼樹の恩恵によって漲ってくる魔力を惜しみなく開放していく。消耗が激しく、力が弱まっているとは言え、生半可な攻撃は恐らく堪えない。今出せる中でも最大威力の技と言えば……一つしか浮かばなかった。

 

輝虹(レインボー)……!」

 

超火力を生み出すことができる、今のシエルが意図して発動する中で最高威力を誇る輝虹(レインボー)の派生技。だが今の魔力を全て使ってそれを作り上げても、満足のいく火力は生み出せない。今から仲間たちが放つ技によって発生する各色の魔力を分けてもらう必要がある。

 

まずは自分自身の魔力。天狼樹によって引き起こされた魔力の全てを土台と一つの魔力へと変換させる。少年の身体を囲うように半透明の輪が七本浮かび、その内の一つに緑色の魔力を作り出して螺旋状に巡らせ始めた。それと同時に、前方全てを飲み込む勢いの闇魔法の壁が、ハデスが突き出した両手の床下から湧き上がる。すぐさま察知した妖精たちが各々回避したことで、幸い脱落者はいない。

 

「契約まだだけど……開け!磨羯宮の扉!!『カプリコーン』!!!」

 

回避して床を滑りながら、ルーシィは懐にあった一本の鍵を掲げ、口上を叫ぶ。手にしてから正式な契約を結ぶ間も無かったが、魔力を込められ光を得た金色の鍵は彼女の呼びかけにしっかりと応え、その場に新たな星霊の姿を呼び出した。

 

その外見は、一言で言えば人型の白いヤギ。黒いタキシードに身を包んだ長身の男性の体格を持つ、執事と呼んで差し支えない服装に加え、目元を覆う黒いサングラスが特徴。『カプリコーン』と呼ばれた彼は、背筋を伸ばし、右手を胸元に添えて佇む姿勢でルーシィの傍に立っている。

 

「仰せのままに、ルーシィ様」

 

「お願い!!」

 

佇まい、口調、低く渋い男性の声から、長年仕える老執事の雰囲気を持つカプリコーンは、突然の呼び出しに対して不満を漏らすことも狼狽えることもせず、ルーシィの懇願一言ですぐさま行動に移る。「はっ」と短く返事を告げてその場に一瞬の残像を残してハデスへと迫っていく。

 

「うぬは……!!ぐほぉ!!」

 

「『ゾルディオ』ではありませんぞ!(メェ)はルーシィ様の星霊、カプリコーン!!」

 

ルーシィが召喚したヤギ執事の姿を見たハデスが目を見開いて思わず硬直。その姿、魔力は彼にとっても既視感があった。煉獄の七眷属の一人として数年に渡り仕えていたはずの部下・『カプリコ』と身につけている服だけを除けば瓜二つ……否、むしろ本人(?)であったからだ。本来は『ゾルディオ』と言う名の人間がハデスに従っていた者の正体であるが、詳細はまた別の機会に記すとしよう。

 

瞬時にハデスの懐へ特攻したカプリコーンは、一切無駄のない動きでハデスの顎部分を重点的に体術を叩き込む。反撃の余裕さえも与えぬまま、ハデスの身体を大きく後ろへ飛ばす。彼の力を引き出す為にルーシィが魔力を込めていた鍵の先端の光。その一部が後ろへと移動し、少年の身体を巡る螺旋の魔力の一つを黄色で埋める。一方でされるがままになったハデスがよろめく背後から、長い藍色の髪を棚引かせる小さな影が迫る。

 

「見様見真似!『天竜の翼撃』!!!」

 

「おあああ!!」

 

両手を交差して魔力を集め、振り下ろすと同時に旋風を解放。ナツが扱う火竜の翼撃を自分なりに模したウェンディの新たな技がハデスに炸裂。その身体を縦に回転させて、床に何度もバウンドさせる。そして巻き起こった旋風の欠片がひとりでに動き出し、奥に立つ少年の元へ。今度は藍色の光が彼の身体を廻る魔力に加わった。

 

更に猛攻は続く。両手を合わせて冷気を募らせた半裸の青年が、飛んでくるハデス目掛けて自らも跳びながら氷の剣を二本生成。勢いのままに十字に振るう。

 

「『氷魔剣(アイスブリンガー)』!!!」

 

「ぐはあっ!!」

 

またも上空に投げ出されるハデスの身体。役目を終えた氷の剣がその形を細分化すると同時に、いくつもの粒が少年の方へと流れていく。螺旋の魔力の元へと着くころには、青い魔力となって共に廻り始めていた。次にハデスへと近づいたのは、いつの間にかハデスよりもさらに上から落下してくる神器使い。

 

「ミョルニル!神力開放……!!」

 

紫電迸る大鎚を呼び出し、同時にそれに宿っていた力を遠慮なく解き放つ。紫の光にペルセウスが包まれ、それが弾けて消えると同時に彼の姿も変じていた。全身を覆う紫色に光る頑強な甲冑。口元は鼻と共に布のようなマスクで隠され、頭にも二本角の装飾がついた鎧と同じ光沢の兜。そして肩からはまるで流れるような紫電のオーラで作られたマントを羽織っている。

 

「その姿……まさか、それが!?」

 

荒々しくも神々しさを感じさせるペルセウスの変化。その力についても知っていたハデスが反応を示すも彼は聞く耳を持たず。姿が変わったことでより強大になったであろう紫電迸る怒鎚を力任せに振り下ろす。

 

「『閃紫(せんし)播光(ばんこう)』!!!」

 

「ぐぬおおおっ!!」

 

叩きつけられ、体中に電流が襲い掛かると同時に、勢いよく床へと激突。貫通するほどの威力を受けたハデスの身体が反動で再び宙に投げ出される。周囲に漂う電流の一部はこれまで同様少年の元へと向かい、彼の身体を巡る紫の魔力へと変化する。

 

「換装!」

 

そして宙に投げ出されたハデスに追撃を与えんと、緋色の髪を持つ女騎士がその身に纏う鎧を変化させながら駆け抜ける。天輪の鎧を纏った彼女はすれ違い様に二本の剣で五つの剣閃をハデスに刻み込む。

 

「『天輪・五芒星の剣(ペンタグラムソード)』!!!」

 

「ぬううおお!!」

 

技の名の通りに五芒星の形を模した斬撃を身に受け彼女の後方へと投げ出されるハデス。斬りぬいた姿勢を保ち、ハデスの様子を後ろに見ていたエルザの緋色の髪が棚引き、煌めく鎧から発せられた魔力と色が混じって少年の元へと飛んでいく。螺旋の魔力と溶けあうと、その魔力は埋まっていない二本の内の一つを、赤に染める。

 

「滅竜奥義・()!!」

 

一方で、投げ出されて身体を未だ無防備にさせられているハデスの元に、二色の魔力を各々の手に携えた桜髪の青年が肉薄する。右には彼が普段使う赤き炎、左にはラクサスに託された黄色い雷。咆哮を上げながら近づいてくるナツに対し、ハデスは気付くことは出来ても反撃に移ることは叶わず……。

 

「『紅蓮爆雷刃』!!!」

 

「うああああああっ!!」

 

溢れ出る力の一切を振り絞り、時計回りに両腕を振るい、紅蓮の炎と黄金の雷を刃の如く飛ばして融合させると、驚異的な奔流を生み出してハデスを飲み込んだ。ハデスの身体に襲い掛かる炎と雷が容赦なく蹂躙し、無限に続くかと錯覚する程の勢いでその身を飛ばす。

 

収まる頃には、投げ出されたハデスの意識も飛び、重力に従うまま少しずつ落下していき……。

 

 

 

 

 

「まだ、よ……まだぁ!!」

 

白目を剥いていた両眼が更に見開かれ、未だその戦意が解けていない事を妖精たちに知らしめた。漲った力の全てを、各々がぶつけて尚もまだ倒れることがないのかと、今し方技を放ち、全力を出し切った様子のナツを除いた面々が、信じがたいと言いたげに驚愕する。

 

「これだけは……使わずに済ませたかったが、最早是非もなし!」

 

身体が投げ出された状態であるにも関わらず、彼はそのまま次の動きを見せる。両手を胸元に掲げ、右手を上に、左手を下に合わせるように向けたその構えは、この場にいる数人には見覚えのある魔法のもの。かつては三代目のマカロフ……そしてその孫であるラクサスも扱った、妖精三大魔法の一つ(フェアリーロウ)と同じ……。

 

「今度こそ、終わりにしてやろう!この……『悪魔の法律(グリモアロウ)』で!!」

 

名こそ違うが、同じ“法律(ロウ)”を持つその技。これを放てば敵方のみならず、味方にも少なからず影響が及ぶために使うのを渋っていた。そんな切り札と言うべき技を出さざるを得ない程に追い詰められたことの証左。なりふり構ってはいられないと言う一心で、ハデスは数え始める。妖精たちの冒険譚……その幕引きのカウントダウンを。

 

 

 

「いいや……終わるのは……」

 

「あなた一人です……!」

 

しかしそれも、先程まで同様を表に出していた妖精たちの内、神器使いと天竜の二人の言葉によって遮られる。何を強がりを。先の二人も含めて、自分に対する攻撃を終えた者ばかりの中、これ以上何が出来ると言うのか。

 

そんな考えが過った直後、ハデスは()()()()気付いた。

 

一人……足りないと。

 

 

 

気付いた時にはもう遅かった。ほぼ無防備に投げ出された自分の背後に、至近距離まで跳躍して近づいてきた、身体を囲むように廻る七色の光を、突き出した両手に収縮させている少年の存在に。

 

唯一、自分に向かって突撃してこなかった、最後の一人に。

 

「(ペルセウスの弟!?いつからそこに……!?)」

 

そう疑問を浮かべるも、すぐさま記憶を探って思い返す。彼だけがあの中で唯一攻撃に参加していなかった。それどこか、接近すらしていなかった。ずっと後方で、今この時の為の魔力を充填していたのだ。その場から一歩も動かず、最後の最後に雷炎竜が放った炎と雷が混じった、橙の魔力を装填するまで。

 

そしてもう一つ気付いた。まさかと思いナツの顔を見れば、己を睨みつけてはいるが、一切の動揺なく少年の起こした行動を見据えていたかのように見える。最後の一撃と思っていた雷炎竜の攻撃は、真のトドメへの布石だった。ハデスがシエルのいた場所まで飛ばされたのは、偶然などではなかった。

 

「日が沈む時って、言ったよな?沈められるもんなら、沈めてみろよ……!」

 

太陽だって沈む時は沈み、それに伴って闇が包む夜が来る。けれど沈んだ日の数だけ、何回も何回も、日は昇り、光で照らしてくれる。自分たちも同じだ。落ちない日が無いように、明けない夜だってない。ハデスが自身を闇そのものだと主張するならば、自分たちの光で、朝を迎えてみせる。

 

「お前らが沈めた数の分だけ、俺たちは何度でも日と共に昇る!!!」

 

そう告げると同時に、少年の両手に集まって行った虹の魔力がさらに収縮し、一際その眩きを強くする。シエルのいる後方を向いていたハデスがその眩しさに思わず目を細め、集中力が欠けてしまう。

 

「行っけェ!!!」

「シエルーー!!!」

 

そしてその距離が目と鼻の先にまで到達しようとした時、後押しをするように兄と想い人が声を張り上げる。それに応えるように収縮させた虹のエネルギーを、全て前方にいるハデスへと解き放つ為、目を更に開いて魔力を開放する。

 

気象転纏(スタイルチェンジ)!!」

 

「(悪魔の法律(グリモアロウ)が……間に合わ……!!)」

 

すぐさま対抗手段として用意していた技を解き放とうにも、カウントダウンはまだ半数にも至っておらず。どれだけ急かそうとも手遅れと言う絶望を味わいながら、ハデスは解き放たれたその波動を無防備な状態で真っ向から受けた。

 

 

 

「『放虹波(セブンスストリーム)』!!!!」

 

シエルの両手から放たれた、極太の虹の波動。真上に解き放たれたそれはハデスの身体を全体的に呑み込み、彼が両手に集わせた悪魔の魔力は一瞬で消滅。断末魔さえも上げることが叶わないまま彼は天高くまで波動と一緒に昇っていく。これまでの長い人生の中でも味わったことがないレベルの魔力の奔流が体の隅々まで襲い掛かっていく。そして虹の輝きはやがて暗雲まで届き、雲の一部を虹の光と共に弾き飛ばす。

 

「っ!……っはあっ……!!」

 

虹の波動を放った直後、推進力と重力によってシエルの身体は背中から床に叩きつけられてしまい、軽いダメージを負ってしまう。魔力と気力、全てを出し切ったことで大の字となって転がり、荒い呼吸を繰り返す。しかし、その口元は達成感を感じさせる、笑みが確かに浮かんでいた。

 

「や……やった……?」

 

天高くに飛ばされてしまった為に、ハデスの様子を窺うことは出来ない。白い鱗柄のマフラーを抱えながら、ハデスが至ったであろう上空に目を向けてルーシィがぼやく。グレイ、エルザも同様に、未だ見えないハデスの姿を捉えられないかと上を見上げる。

 

そんな時だった。東の空が白み始め、そこを起点に光が差し込みだす。眩しさに思わず何人かが目を細め、その方角へと顔を向ける。日の出だ。一つの夜を越える程の、短いようで長く感じられる戦いが、まるで終結したかのような夜明けのタイミングだ。

 

誰もが朝日に目を向ける中、何かを感じた様子で膝をつき、天を仰ぐように上を向いたナツが、その姿を捉えた。

 

「ああ……そうみてーだ……」

 

ぼそりと呟いたその声を聞き、一同はナツへ振り向き、次いで上空へと目を向けようとする。その瞬間、ラクサスとの激突の際にハデス自身が外して投げ出した地球儀があった位置に、轟音を立ててそれは落下した。唐突な音にほとんどが驚愕し、ルーシィに至っては悲鳴を上げる。

 

巻きあがった粉塵。しばし警戒をしながらその位置を見据えていた一同であったが、それが晴れた場所にいたのは、鎧部分も大破し、服の原形もほとんどが残っておらず、傷つき、衰えてしまった身体を晒して白目を剥き、口を大きく開いて微かな呻き声しか上げられなくなった、惨めな老人の姿だった。

 

最早そこに、先程まで自分たちを圧倒的に追い詰めていた親玉としての姿はなく、誰もが確信をもって、彼を下したのだと断定できた。理解した一同の表情に、次々と喜びが浮かび上がる。

 

そして仲間たち同様、ハデスの姿を目にしたウェンディは、少しばかりふらつく身体を何とか保ちながら、最後の一撃を炸裂させた少年の元へと歩み寄っていく。

 

「シエル……」

 

「……ハデス、は……?」

 

互いに顔が見える位置まで近づいた彼女が少年に呼びかけると、閉じていた目を微かに開けながらそう尋ねる。彼も、分かってはいるのだ。だがこればかりは、誰かに聞かずにはいられなかった。問われた少女は、微かに涙を浮かべながらも笑顔を浮かべて答える。

 

「倒せたよ……。みんなの力で……私たち、仲間の力で……勝てたんだ。勝ったんだよ、私たち……!!」

 

誰一人でも欠けていたら、この結果は生まれなかったと言っても過言じゃない。心の底から、湧き上がるような嬉しさを噛みしめてシエルに伝えるウェンディ。思わず少女の拳が握りしめられ、その喜びと安堵に打ち震えている。

 

それ聞いて安心したのか、少女の様子につられたのか、横たわったままのシエルは満足そうに笑顔を浮かべた。打ち勝てた。あの悪魔の首魁に。散々苦しめられてきた強敵に。動ける気力は残っていないが、これ以上にない程の喜びを抱いた。

 

仲間たちの力を、最後に繰り出した力の一部を自らに取り寄せ、最後の最後にぶつけた弟の雄姿を見ていたペルセウスは、ウェンディとその喜びを分かち合っているかのようなやり取りを見て、同様に頬を緩ませている。本当に、よくやってくれたと、兄として誇らしげな気持ちが心に過った。

 

「……で、何でお前は不服そうなんだ?」

 

そして横目に映っていた火竜(サラマンダー)の、見るからに不機嫌そうに不貞腐れた顔を見て、さすがに無視できなくなって思わずペルセウスは尋ねた。彼以外は全員が嬉しそうな顔を浮かべているのに、まるで不服と言わんばかりの膨れっ面だ。どうしたと言うのか。

 

「またシエルが最後の最後に持っていきやがった……。ここ最近ずっとそうだ……」

 

「え~~……勝てたんだからいいじゃないの、もう……」

「ったく、下らねぇこと気にしてんじゃねぇよ」

 

どうやら最後のトドメを下したのが、自分ではなかったことに対する不満の表れだったようだ。キャンプを出発する時にちゃんと釘を刺しておいたのに、結果的にはおいしい所を持って行った少年への愚痴をぼやかずにはいられない様子だ。

 

良くも悪くも通常運転となったナツに先程まで高揚感に包まれていたルーシィもグレイも呆れ顔で返す。そしてグレイの言葉には当然不服だったのか「下らねぇとは何だ!アァ!?」と今にもケンカをおっぱじめそうだ。そんなナツに、今も横たわったままのシエルが、徐に呼び掛けると、むくれた顔のままではあるが反応を示した。

 

「代わりと言っちゃあ何だけど……勝鬨を頼めるかな……?俺も、ホントは叫びたいぐらいなんだけど……今は声も張れそうにないから……」

 

諸々の消耗が激しい状態の為か、最早声を張る事すら叶わなくなったと言う理由で、内側にある衝動のままに叫ぶという役目を提案する。笑顔を浮かべてはいるが、疲労でくたびれている状態の少年の頼みに、ナツの不機嫌だった顔はキョトンとした真顔へと変わってしまう。

 

「あそこで倒れているだろうハデスが、飛び起きるぐらいのとびっきりのヤツ……お願い」

 

「……しゃーねぇな!!任せろっ!!」

 

右目だけを閉じ、歯を剥けてそう言ったシエルの頼みを、言葉とは裏腹なニカッと言う満面の笑みで答えて立ち上がったナツは、水平線から昇り始めてきた朝日が差し込む、抉り取れた壁があった場所までゆっくりと歩いていく。眩しさに少し目が細んでしまいそうになるが、心から感じる衝動に比べれば些末な事だ。

 

「じっちゃん……みんな……奴らに見せてやったぞ……。全身全霊をかけた、ギルドの力を……」

 

静かに、しかしはっきりと呟くナツ。逆光に包まれたその背中を、笑みを浮かべて見つめる仲間たちの視線を浴びながら、ナツは両の拳を握り締め、息を口から大きく吸い込んでいく。

 

「ゥオオオオオッ!!!これがオレたちの!ギルドだぁあっ!!!!」

 

完全なる勝利を収めた妖精の尻尾(フェアリーテイル)。それ証明するかのような火竜(サラマンダー)の勝鬨は、昇り始めた朝日に照らされた、暁の天狼島に確かに響き渡った。

 




おまけ風次回予告

シエル「ついに悪魔の心臓(グリモアハート)のマスター・ハデスを倒したぞ!俺たちの完全勝利だ!!」

シャルル「お疲れ様。アンタもウェンディも、ホントによくやったわね。あんなにボロボロになってまで……」

シエル「そりゃあ、相手は最強格の闇ギルドのマスターだしね。ナツが色々と強化されたり、天狼樹の復活が無かったら、どうなってた事か……」

シャルル「でもま、これでようやく昇格試験に集中することが出来そうね。一応中断って扱いだったはずだし」

シエル「試験……?あ!そうだった!すっかり忘れてた!!」

次回『俺は俺』

シャルル「アンタ……あんなに意気込んでた癖に何で忘れてるのよ?」

シエル「ええと、何でだろ?俺も自分でびっくりしてる……。ホントにどうしたんだ、俺……?」
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