オリジナルシーンが何気に難産で…!
今年に関しては、今の職場をようやく退職し、次の仕事を探しがてら執筆が出来るので、さすがに昨年ほどの亀更新は起きない…はず!←
目標としては大魔闘演武が開始するところまでは、絶対今年中に書き上げたいとこです。本年もどうぞよろしくお願いします!
水平線の向こうから、ゆっくりと昇ってくる暖かい光。その光が大樹を中心に広がる大地と、沿岸に停められ、内部が剥き出しになる程に多く破損した黒い戦艦を照らす。ガレキと木片が辺り一帯に散らばっており、その一角の陥没した場所に横たわるのは、長い白髪と髭を持っている長身の老人。聖地である天狼島に攻め込んできた
戦艦の奥に厳重に管理されていた心臓を潰され、その後に7人全員の怒涛の全力攻撃……しかも最後は一度天高くまで打ち上げられたのち墜落と言うオーバーキルじみた猛攻を受けてもなお、息がある様子で呻き声を零しながら痙攣するさまは、人智を超えた存在と言わざるを得ない。だが誰もが確信していた。彼はもう、立ち上がる力すら残っていないと。
「終わったな」
「ああ……」
誰もが抱いたそれをグレイが言葉にし、対して換装で元の鎧姿に戻りながらエルザが応えた。激闘を制し、緊張感漂っていた空気を緩められたことを表すかのようだ。
「はい、マフラー!」
「ありがとな」
ルーシィが回収していたマフラーを、元の持ち主であるナツへと差し出し、それに礼を告げながら受け取った。
「二人とも、お疲れさん」
「兄さんも……」
「やりましたね!」
横たわっていたシエルと彼の傍に座っていたウェンディの元には、ペルセウスが近付いて年少の二人を労った。消耗が激しいらしいシエルの返答はそれほど力無かったが、ウェンディに負けないほど喜びに満ちていたのは表情から窺えた。
「うわぁー!!」
「みんなー!!」
するとどこかからかこちらへと逃げてくる小さい影たちの声が届く。戦艦の中に忍び込んで別行動をしていた
「助けてナツ~~!!」
「待ちやがれェーー!!」
「ネコーー!!」
「よくもマスターの心臓をー!!」
泣きながらナツに助けを求めるハッピーを筆頭としたネコ三匹の後ろから、艦内にまだいたらしい統一された覆面とフード付きローブを纏った
戦闘力に関して言えばハデスや七眷属と比べるまでも無いような者たちばかりだが、今は状況が良くない。ほぼ全員が魔力切れを起こしており、体力も限界が近い。特に大技を放った反動が残っているナツやシエルは身動きをするのも満足にできない状態だ。エクシード組で唯一の戦闘員であるリリーも同様である。実力が高い部類のエルザとペルセウスさえも苦々しい顔を浮かべながら、出来る限りの抵抗の意志を見せるが……。
「そこまでじゃ!!」
艇の外。妖精たちが乗り込んできた方向から覇気の込もった老人の声が発せられる。その声を聞き、逃げていた者たちも、追い回していた者たちも一様に足を止め、全員がその先へと目を向ける。
そこに立っていたのは声の主である小柄な老人。妖精たちにとっては親も同然の存在である、マスター・マカロフ。そして彼だけではない。
「マスター……!!」
「みんな……!!」
下手をすれば命さえも危ぶまれていたマスターや仲間たちが、目を覚まして立っている姿を見て、ハデスと戦っていた者たちの顔にも安堵と喜びが浮かぶ。唯一紋章を刻んでいないラクサスは、祖父の姿を目にして驚愕を表していた。
「天狼樹が戻って、加護も復活した……そいつに伴ってみんなも……」
「よかった……!!」
満身創痍だった仲間たちの無事を、その要因となった一つを思い返してペルセウスが独り言ちる。それが耳に入ったのか、歓喜の涙を浮かべながらウェンディが湧き上がるように言葉を紡ぐ。
「うおお!?増えたァ!!」
「あ……あれはマカロフか!!?」
「てか……あそこ見ろ!!」
「マスター・ハデスが……倒れてる!!!」
「今すぐこの島から出ていけ」
はっきりとマカロフが言い放ったこの一言。決して大きな声ではなかったが、彼らを委縮させるには十分すぎた。途端に悪魔たちはどよめき、悲鳴混じりに踵と掌を返した。
「わ、分かりましたーー!!」
「信号弾だーー!!」
「お邪魔しましたーー!!」
倒れ、動けない状態であろうハデスも置いて、蜘蛛の子を散らすように反対方向へと逃げていく悪魔たち。情けなく去っていく奴らの背中を見送った妖精たち。その背中が見えなくなると、束の間の静寂も斬り裂くように湧き立った。
互いの無事を喜び、分かち合い、歓喜のままに騒ぎ出す。普段は冷静な者たちも共だって喜びに舞い踊るほどだ。シエルも素直に喜びたいところだが、疲労感の方が強いのか、体を動かすことが出来ない。しかし、その顔には仲間同様に穏やかなものが宿っていた。
「本当によくやったな」
「……へへ!」
そんな彼に、しゃがみ込んで弟の頭を撫でながら労う兄が言葉をかける。一瞬目を見張ったものの、すぐに満面の笑みを浮かべて返した。各々が喜びに包まれ、大騒ぎをする中、マカロフは一人言葉も発さずある一人の男の方へと歩み近付いていく。
そこには、祖父同様に黙りこくってその場に座り、どこか気まずげな様子で近付いてきたマカロフへと目を向けていたラクサス。敢えて彼の方へと顔を向けないまま近付いたマカロフは、横目で孫の方をようやく見たかと思えば、今度は居た堪れなくなったラクサスがそっぽを向いてしまう。
しばし両者沈黙。どこか重く感じる空気が流れていたが、その沈黙を先に破ったのはマカロフであった。
「よくぞ、戻ってきた……
なーんて言うと思ったかバカタレめ!!破門中の身でありながら、天狼島に足を踏み入れるとはァ!!」
一瞬、帰りを迎え入れたのかと思いきや即座に繰り出されたのは説教であった。頭部のみを魔法で巨大化させ、怒り心頭と言った剣幕で迫る。声と圧が凄まじいあまり、当のラクサスは辟易したかのように再び顔を背け、「うるせぇジジィだな……」とぼやく。レビィが間に入って宥めているが、マカロフの怒りは収まる様子がない。
「ラ……ラクサス……!」
その一方で、ラクサスの存在に気付いた者たちが更に増える。騒ぎ立てていた輪の中にほぼ唯一入らなかったフリード、及び雷神衆のビックスローとエバーグリーン。敬愛するラクサスが戻ってきてくれたのだと勝手に判断した一同は、一斉に彼の方へと飛びついた。
「ラクサスーー!!」
「帰ってきたのか、ラクサスーー!!」
「お~~~いおいおいおい!!」
「うっざ!!」
涙さえ流しながら盛り上がる雷神衆。しかもフリードに至ってはいつもの冷静さの欠片も無いレベルで咽び泣き、ラクサスに頬ずりさえしていてより彼を辟易とさせている。フリードってこんなキャラだったろうか……?
「相変わらずキビシーなマスターは……これぞ漢」
「そうね」
そんな様子を見ていたエルフマンとミラジェーンの姉弟。末妹のリサーナがルーシィと何度もハイタッチをして喜ぶ傍らで、マカロフのラクサスへの対応についてぼやいている。エルフマンには実の孫であろうと破門となったラクサスへの厳格な姿勢が印象に強いようだ。
「破門
ミラジェーンは、厳しさの中に垣間見えた、別の感情が込められていることに、気付いていた様子だったが。
「さーて、試験の続きだ!!」
「今からやるの!?」
未だ喜びに包まれた空気の中、前触れなく言い放った
「二次試験は邪魔されたからな!ノーカウントだ!!この際分かりやすくバトルでやろーぜ、バトルでよォ!!」
シャドーボクシングをしながら、ちゃっかり苦戦していた墓探しを無かったことにして、大得意であるバトルで決めさせようとしている。身勝手な物言いとも言えるナツの言葉に、未だに立てない様子のシエルが、これでもかと溜息を吐きながら言葉を零した。
「ったくお前は……ようやく落ち着いたってトコなのに、別に今すぐじゃなくても、そんなの後でいいじゃん……え?」
が、シエルは自分で言った言葉に、どこか違和感を覚えた。断定はできないが、何か……あまりに不自然な物言いをした気が……?しかしその疑問に答えられる者はおらず、それどころかシエルの呟きは無視されたのか、別の人物がナツに噛みついていた。
「てめえの頭どうなってんだ!!そんなボロボロでオレに勝てるとでも思ってんのか!?」
「やめなよガジル……」
「ああヨユーだね!今のオレは雷炎りゅ……!!」
ナツと同じようにボロボロの状態なのも構わず、バトルに乗り気な上でかつ喧嘩腰の姿勢でナツと睨み合うガジルであった、受験者であるレビィが何とか諫めようとしているが彼は聞く耳を持たない。
そんなガジルに対して、新しく身に着けた突発の強化形態である雷炎竜ならガジルなど余裕で下せると自慢げに言い放ちかけたのだが……言いかけたところで顔色が一瞬で悪くなり、そのまま「ぐぱぁ」と言う謎の断末魔と共に崩れ落ちて失神した。
「ナツ!?」
「どんな気絶の仕方だよ!!」
レビィがナツに呼びかけ、ガジルがツッコミを入れるも、完全に彼の意識は途切れている。仲間の何人かはその原因に心当たりがあった。ナツが扱う炎以外の属性……今回の場合はラクサスの雷を喰らい、力の一部として使用したために起きた副作用と思われる。過去にもラクサスの雷を食べて不調を起こしたこともあり、炎以外の複数属性を宿らせたエーテリオンを食べた時も三日以上寝ていたのだ。今回もその例に漏れず、と言う事だろう。
「……?」
「どうしたの、考え事?」
「あ、えと……そんなとこ……?」
その一方、違和感を拭いきれず首を傾げて唸っているシエルに、ウェンディに抱えられているシャルルが気付いて声をかける。どこか心配そうに目を向ける少女の視線も受けながら、自分自身でも形容できない曖昧な受け答えを返す。妙な返し方をした少年にウェンディが少し顔を曇らせる一方で、シャルルは何かを察したのかいつものようなすまし顔でそれ以上に追求することはなかった。
「ま、ナツもああだし、シエルや他のみんなも随分疲れたろ。試験云々を決めるにも、まずはキャンプに戻らねぇか?」
「それもそうですね」
「少しは休まないと、身体も持たないしね」
未だに考え込んで唸っている弟を運ぶために抱え上げながら、ペルセウスが周囲の仲間たちに提案。ウェンディたちを始めとしてほとんど全員がそれに賛同を答えながら移動を始めた。
「ちょっと兄さん、俺なら自分で歩くから……!」
「立つのも難しくなった状態で意地張るなよ。いいから大人しく運ばれ解け」
「その方がいいよ、シエル」
「ウェンディまで……」
兄におぶられた形となったシエルは羞恥心を覚えたのか、抗議気味に顔を赤くして主張するも、全力以上を出し切ってほとんど身体が動かせなくなった弟をそのまま歩かせることも良しとしない為、その要望は却下された。おまけにペルセウスと隣り合う形で歩き出したウェンディにも言われてしまう始末。先程までの曇った表情はどこかへ行って、微笑ましそうだ。それが余計にシエルの羞恥心を募らせることになった。
「え、ちょっと!あたしがナツ運ぶの!?」
そして自然の流れで気絶した状態のナツを一人で運ぶことになったルーシィ。残念な事に彼女を手伝おうと振り向く者たちはいなかった。後になって、召喚されてから何気に人間界に顕現したまま残っていたカプリコーンが、ルーシィごとナツを代わりに運んでくれると言う一幕はあったのだが。
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総員、万全とは言い難い容態ではあったが、どうにか
「はぁ~……!つっかれたぁ……」
「開口一番がそれ?」
兄のペルセウスに運ばれ、寝床に横たわらせられたシエルが、緊張の糸が解けたかのように呟いた言葉に、耳にしていたシャルルが苦笑しながら指摘した。誰もが命懸けで戦いに身を投じていたも同義だったのだ。仕方ないとも言える。
「シエル、ケガ見せて?」
するとシエルの元に近づいたウェンディが、横になっているシエルの側で、傷を受けたところを探すと、そこに治癒魔法を当て始めた。ハデスとの激突でほぼ全員が魔力を使い果たしたところだったので、思わずその行動に目を見張る。
「ありがたいんだが、大丈夫なのか?ウェンディも相当消耗したろ」
「はい!けど、さっきから少しずつ力が湧き上がってて……何だか調子がいい気がするんです!」
シエルのケガ自体を治してくれようとする姿勢に謝意を示しながらも、彼女の身を案じたペルセウスが問いかければ、ウェンディからこんな返答が。思えば、内側から力が湧き上がって、魔力や体力の回復が早く感じていたことをペルセウスは自覚する。ウェンディが感じているのは恐らくその事だろう。その要因たるものと言えば……一つだけ思い当たった。
「天狼樹のおかげか……。あれが元通りになってから、他のみんなの体力も元に戻りだしたみてーだし」
そんな中、シエルは他の者たちと比べて、それほど回復の速さが追いついていない気がした。体質の問題の問題だろうか?
「そう言われると、俺も少しずつ回復してる気がしてるけど……みんなと比べて遅く感じるのは気のせい……?」
「そりゃ、ハデスへのトドメの時、周囲の魔力も一点に集めてぶっ放したんだ。誰でも出来るような芸当じゃない事をやってのけた反動だろうな。現に……」
気になって兄に伝えてみると、返答があった。膨大な魔力と集中を要する、シエルでないと不可能に近い、高難度の手法を用いた大技を使ったことによる反動の分が回復しきれていないとふんでいる。
そしてそれはシエルに限った話じゃなかった。ペルセウスが指し示した方にいたのは、大きないびきをかいて熟睡している
「ああして激しい副作用に見舞われたことで、回復が遅くなってる奴もいるわけだし」
「ああ、成程確かに……」
考えてもみればラクサスの雷を喰って一時的な超パワーアップを果たしたナツと、他の魔道士たちの魔力をも一時的に取り込んで技のエネルギーに変換させたシエル。普段とは違う戦い方を行ったが為に、その反動が激しいと言う共通点が出来上がった。だから他と比べても回復が遅いのかと、シエルは納得できた。
「あ、そうだ。忘れない内に……はい」
ふと、突発的にシエルはある事を思い出す。忘れたり壊れたりしないよう、ボトムスのポケットに左右一つずつ入れておいたそれを取り出すと、ウェンディへと差し出した。それを見て彼女も目を見張り、しかし嬉しそうに表情を明るくした。
「あ!シエルがくれた髪飾り……!!」
ハデスとの戦いの最中、衣類全てを一度外されたも同然の目に遭ったため、回収こそできていたものの改めて付けることも叶わないままだった、猫耳型の赤い髪飾り。シエルが彼女に加入祝いとして渡した思い出も含まれているもの。
「拾った後、まだハデスとの戦いが続いていたから、ずっと渡せずじまいだったよね」
「そうだったね……」
激闘続く中では渡したくてもできなかった為に遅くなってしまったが、落ち着きを取り戻した今なら、それが出来ると考えた。壊れていなくてよかった、と胸中で呟いてウェンディが受け取ると、早速長い藍色の髪を手慣れた様子で左右を束ね、各々に赤い髪飾りをつけて固定する。普段から見慣れたツインテールになった彼女の姿を見て、ペルセウスが安心したように声を出した。
「やっぱ、ウェンディと言えばその髪型、って感じがするな」
「はい!私もそう思います!」
そんな彼の言葉に、満面の笑みでウェンディが答える。彼女自身にとっても気に入ったものであることの証左を感じ、シエルは改めて生き残れたこと、そして髪飾りを無事渡せた事を誇らしく思えた。
「にしても、オイラたちが壊したのがハデスの心臓だったのかー」
「偶然とはいえ、いい仕事したわね」
「あれが船の動力源にもなっていたと思えば、エクシード隊としての初任務は、成功と言う訳だ」
ハデスと戦った面々から事情と状況を聞いたらしいエクシード隊が、各々朝食をとりながら話していたのは自分たちが戦艦の中で破壊したものについて。ハデスの魔力と長寿の元となっていた心臓を破壊したことによって
「オイ!ケガはねえか、リリ……ゲフッゴホッ!!」
「ウム、お前よりはマシだ……」
そんな彼らの内、リリーに声をかけて心配していたのはガジル。しかし未だに重傷には変わりなく、傷が響いて身悶える様相は、逆にリリーから心配される羽目になった。
「よく帰って来たな、ラクサス!」
「いや……帰ってきたわけじゃねえよ……」
「ラクサスが帰ってきた~~!!お~~いおい!!」
「だから……」
一方、天狼島にたまたま来たラクサスに会えて、戻って来たのだと信じて疑わない雷神衆のビックスローとフリード。特にフリードはやはり今までの冷静なキャラをかなぐり捨てて感激に咽び泣いている。辟易として呆れ返っていたラクサスであったが、もう一人の雷神衆・エバーグリーンから、無視できない事を聞かされることになる。
「ね~え、ラクサスのいない間にエルフマンが私に悪い事するの。仕返ししてぇ~」
「てめえ!!」
天狼島においてほとんど行動を共にしていたエルフマンから、あることないことをされた、みたいな言いがかりを告げ口し、適当な嘘をつくなと言わんばかりに当の本人から抗議が上がる。そんな彼に対してラクサスは立ち上がり、視線を鋭くさせながら近付いていく。
「ほお?おめぇいつの間に……」
「ちょっと待て!これはつまり、ややこしい説明が……!!」
狼狽えながらも必死に弁解しようと、普段は使わない頭脳を何とか回転させて納得してもらおうと説明に努めるエルフマン。慌てている様子の漢に対してラクサスはどうするのかと思ったが……彼の右肩に左手をポンと置き、「分かってる分かってる」と言いたげに数回無言で首肯するのみで終わった。
「どーゆー意味だよこれぇ!!?」
ラクサスに一体どう言う意図で伝わったのか、そもそも何故このようなジェスチャーをされなくてはならぬのか。無表情を貫いている為、ラクサスの心境、もとい返事はエルフマンでは計り知れない。色々な意味で怖くなってしまう漢であった。
「それではルーシィ様。
「ありがとね、カプリコーン。これからよろしくね!」
一方で、ルーシィとカナの近くでは、ルーシィが新たに契約したであろう星霊・磨羯宮のカプリコーンが星霊界に戻ろうとしているところであった。ハデスとの激闘時には気にする余裕などなかったが、改めていつの間に鍵を手にしていたのだろう、と言う疑問がシエルに浮かんだ。星霊に関して憧れを抱いているので尚更だ。正直今すぐにでも尋ねてみたいところだが……。
「(まあ、また今度にでも聞いてみよ)」
戦いも終わり、しばしの憩い。むこうもゆっくりと体を休めたいところだろう。シエル自身も未だに本調子には遠いし、何ならギルドに帰ってからでも聞ける。それまでのお楽しみと言う事で、今は置いておくことにした。
……決して、戻る直前にカプリコーンから「健康と魔力の為にも体重を絞られた方がよろしいかと」から始まり、キャンプまで運んだ時にルーシィの身を案じて(最初は遠慮して敢えて言わないようにしていたが、ルーシィ本人から遠慮は無用と言われたので)諸々デリケートな指摘を受けたことで、精神的ダメージが深刻そうなルーシィが哀れだったからとか、そんな理由はない。決してない。
「おお!もう痛くない!」
嬉しそうな明るい声でそう言ったのは、応急処置の包帯を巻いてウェンディの治癒魔法を受けていたハッピーだ。シエルの治癒を一通り済ませた後、シャルルやペルセウスにも同様に魔法をかけて、次々と傷を治していっている。
「次、レビィさんのケガの手当をします」
「私は大丈夫!ウェンディも少し休んだら?」
ハッピーの治療も終わり、次に近くにいたレビィへと声をかけるも彼女の魔力と体力を鑑みたレビィが遠慮がちに返答した。だが彼女は普段と違ってどこか余裕を見せているように見える。
「いいえ、ペルさんが言うには、天狼樹が元通りになって回復が早くなったそうで。私も何だか調子がいいんです!」
事実、どんどん内側から力が漲っているのを感じている。心身的な気の持ちようにも思えるが、だんだんやる気も増していってるようで張り切っているのが窺える。しかし立て続けに治癒魔法をかけるのは結構体力を使うはずなので、やはり心配が勝ったシエルが体を安静にして横たわりながら彼女に伝えた。
「それでも、疲れたらすぐに言ってね?
「シエルがそれを言うの?」
「全くだ」
「え?」
だが帰ってきた答えは苦笑気味にブーメランの指摘だった。傍らにいた兄までも同意を示している。結局のところ身内の為ならどんな無茶無謀もこなしてしまう二人なので、どっちもどっちの似たもの同士なのだが。ウェンディの返答に同意を示したペルセウスであったが、ふと天狼樹の事について疑問を感じた。
「にしても……何で天狼樹が元通りに……ひとりでに戻るような状態には到底見えなかったんだが……」
ペルセウスがハデスの元へ向かう前、最後に見た天狼樹の状態は、土台から引き抜かれて、根っこから倒れてしまった状態だった。誰かが意図的に動かしでもしない限り、元の場所に根差して聳え立つことなど不可能。だがそれでも、人為的な何かが介入されていたとしても、どうやって戻したのか、何故そうしたのかも想像がつかない。アズマによって倒される前の状態に、
呟いたペルセウスには一切思い当たる節はなかったが、彼の呟きを耳にしたグレイだけが、まるで心当たりがあるかのように黙したまま、上の空のように佇み、思い返していたのは、誰にも気付けなかった。
「みなさ~~ん……!!」
その直後、グレイの近場の茂みから音がしたかと思えば、涙に顔を濡らして這い出てきた一人の少女の声と姿。別行動をしていたが故、合流が遅れたらしい青い髪の水魔導士・ジュビアだった。
「ジュビア!?」
「無事だったか!!」
「すみません……!ジュビアは……ゼレフを逃がしてじま゛い゛ま゛じだぁ~~!!」
今までジュビアがどこにいたか。ハデスとの決戦を行う前、グレイはゼレフを連れていたウルティアと会敵した。ゼレフを争奪しながらの戦いは互いに困難。そこでウルティアは七眷属の仲間であるメルディにゼレフを連れ出すこと指示し、そんなメルディをグレイはジュビアに追うように頼んだ。
しかし、ゼレフを連れたメルディを追う最中で問題が発生。気付けば自分は気を失っており、目が覚めた時にはメルディもゼレフもその場からいなくなっていて、周囲の木々も死んでいた。ゼレフを取り逃がしてしまった事に対する後悔と申し訳なさに気分を沈めながらも、何とかキャンプへと戻ってきたのだった。
「グレイ様、お仕置きしてください!!さあ!好きなだけぶってください!!」
「オ、オレにそんな趣味はねえ!!」
「こっちにはあるんですぅ~~!!」
器用に後ろ向きで這いながら、自分の尻をグレイに差し出し、戒めを懇願するジュビア。色んな意味で怖い絵面だ。グレイも引いて遠ざかろうとしている。日に日に言動がヤバくなってる気が……いや、割と以前から兆候はあったか?
「後は、ギルダーツ……」
ジュビアも満身創痍だが、自分で動ける程度には大丈夫な様子。確認したルーシィが、この場にいない最後の一人の名を口に出す。カナがそんな彼を案じてか俯いているが、きっと彼なら大丈夫だと、ルーシィにも言われ、己にも言い聞かせる。不安な気を紛らわせる為にも、手に持っていたヤシの実のジュースを口に含み、俯いていた顔を上げた。
「ところでよォ……おめえ破門になったんだってなァ!ぷふ!ダセェ~」
「やかましいぞオッサン!!」
「ぶふーー!?」
その瞬間カナの目に映ったのはまるで最初からいたかのように、破門にされたラクサスを小馬鹿に揶揄う大人げない
思わず味わった脱力感は、いつしか安堵に変わり、二人の顔には気付けば笑みが浮かんだ。まるで戦いなど遥か過去の事のような穏やかなひと時。誰一人欠けることなく乗り越えられたことを実感し、日常が戻ってきたことを喜ばしく思うかのように。
「ギルダーツ!俺と勝ぷぎゃ!!」
「休ませろっての」
「瞬殺かよ……」
ギルダーツが合流したのを彼の声で察したのか、今まで熟睡していたナツが飛び起きてギルダーツの元へと駆け出していく。起きて早々で落ち着きのない言動で周囲が驚愕している合間に、態勢そのままに右手を振り下ろし、気付けばナツは沈んでいた。見事な瞬殺劇である。
「グレイ様~~ん!早く早くぅ~♡」
「だからぁ!!オレはそーゆーアレじゃねぇ!!」
一方でどうやって移動しているのか、尻を突き出した態勢のまま、逃げ回るグレイへと迫っているジュビア。言動も含めて色々と危険を察したグレイが必死に突き放そうとしているが、暖簾に腕押しだろう、あの様子では。
「悪ィ、ウェンディ。患者一人追加だ」
「た、頼む……」
そんな光景を尻目に、ギルダーツに瞬殺されたナツを掴み上げてペルセウスがウェンディの所へと連れてくる。彼女の元には、現在治療を受けているレビィに加え、ガジルとリリー、ビックスロー、エルフマンも並んで列となっている。全員治療待ちと言ったところだろう。
「何だか、行列になってる気がする……ホントに大丈夫?」
「うん!こういう時こそお役に立てるし!」
「あんまり無茶しちゃダメよ?」
治療希望者がだんだんと増えているのを見て、寝床から起き上がりながらシエルが尋ねてみれば、力強い返事がウェンディから発せられる。シャルルと一緒になって心配そうに気に掛けても、やる気になっている彼女を抑えるのは難しいだろう。
「ウェンディ、替わろうか?」
そんなウェンディに、代理を名乗り出る者が現れた。換装魔法で早着替えをしたのか、清潔感溢れるものの体のラインが浮き彫りになる桃色のナース服と、頭にナースキャップ、片手にはカルテらしきものを持ったエルザだった。
「エルザさんその恰好……ナース……?」
「アンタに治癒の力ないでしょ!」
形から入る彼女らしく、本格的な服装を着てポーズまでとりながら名乗り出たエルザにウェンディは目を丸くし、治癒の魔法を覚えていないはずの彼女に指摘するのはシャルルだ。しかしそんな指摘も何のそのとばかりにエルザは堂々としながら返した。
「勝負に能力の差は関係ないぞウェンディ?試されるのは心だ!」
「ひっ!?勝負ですか……!?」
「ちょっと!ウェンディが怯えるじゃない!!」
「始まった……」
「たまに変な方向に張りきるよね……」
勝負と聞いて恐怖心が込み上がり、若干涙目になったウェンディを見てシャルルが庇うように前に出る。対していつもの妙な張り切り方に、何度も目にしたことのあるレビィやシエルはどこか白けた様子でぼやいた。こうなるとめんどくさいのだ彼女は。しかしそんな怯えや痛い視線など一切気に留めることなく、近くの岩に座り込んだエルザは、艶かしく脚を組んで治療待ちの列を作っていた者たちに語りかけ始めた。
「さあ素直に言ってみろ。痛いところはどこだ?まずは熱を測ってやろうか?それとも注射がいいか?」
傍目から見れば色気溢れる女医が、上目遣いで診察をはじめようとする構図。恐らく彼女にはそのような誘惑をしている自覚はないのだろうが、何も知らない男であれば簡単に釣られてしまうことだろう。
「ったく……何が始まったかと思えば……」
「それっぽい事言えばいいと思ってんのかねぇ……」
「イカレてるぜ」
しかし、彼女の本質を知らなければ、男であれば簡単に靡いてしまう仕草であるが、よく知っているギルドの者たちからの反応は薄い。形から入っているだけで本格的な治療が受けられるわけがないと分かっているからこその反応だ……が。
「ちゃっかり割り込むなっての!!」
「ちゃんと並べよてめぇら!!」
溜息混じりな反応を示した者たちを先頭に、ほとんどの男性陣がエルザの前に並び、律義に列を作っていた。さっきまでウェンディの方に並んでいなかったはずのマカロフにギルダーツ、そして何とラクサスまでもだ。
「オスども!!」
「兄さんまで……!!」
口では何とでも言いながら体は欲望に忠実な野郎どもに、シャルルの怒号じみたツッコミが響き、流れるようにグレイとガジルに続いて割り込んだ兄にショックを受けたかのようなシエルのぼやきが虚空に散った。
「ほ、ほら!少し休めるからよかったじゃない!ね?」
一部を除いてほぼ全員がエルザの方へと流れてしまったことに、珍しく分かりやすく落ち込んで表情を暗くしたウェンディに、あらかたの治療が終わっていたレビィがフォローを入れる。少しは元気になってくれるかと思ったのだが……。
「やっぱり、お胸の差でしょうか……」
ボソリと己の控えめな一部分に両手を当てながら零した、ウェンディの自虐が返答代わりにレビィの耳へ届いた。胸に関して同じような悩みを抱えていた彼女は、思わぬ流れ弾を受けて励ますどころか逆に伝播したかのように表情に影を落とした。
そんな哀れな姿を見せる少女たちを横目にし、シエルはどうにか元気付けられないか考える。内容が内容だけにデリケートだ。直接的なフォローはあまり良くない。頭の中で状況を整理しながらしばし黙考していたシエルであったが、ふと天啓の如く閃いた。
「あーっ!いったたたた!!い、今になってハデスに痛めつけられてたところが響いて、いたたたたー!」
突如、起き上がっていた体勢を再び横にして、分かりやすく痛みを訴えて叫ぶ。自分の身体を抱えるようにして身じろぐシエルに慌てて気付いた少女は当然、それを心配せずにはいられない。
「え!?た、大変!!どこが痛むの?」
「も、もうあっちこっちが……!ううっ……!これは、自然に治るのも待ってられない……!ごめんウェンディ、もっかい治癒の魔法かけてくれない……?」
のたうち回りながらやけに丁寧にケガの具合を口にして、彼女の方へ目を向けるとともに懇願を口にする。先程とは違って彼女の力を頼みの綱にするような言動にウェンディは虚を突かれたように困惑する。
「ホントに……私でいいの?」
「うん、ウェンディがいいんだ。だから……ね?」
少し自信がなさげだった彼女の表情が少し明るくなり、尋ねた言葉に笑みを浮かべてシエルが返す。少年の意図が読めたであろうシャルルが腕を組みながらも苦笑するような、だが安堵したように口元を緩め、事の成り行きを見守る。
「分かった、任せて!!」
そして、ウェンディは頼られたことに心底嬉しそうな顔を浮かべて力強く答えた。そして未だ小さいながらも傷が見えているシエルの治療を開始する。元気を出してくれたようで、シエル自身も安心して彼女が行う治療を大人しく受けはじめた。光を受けているところが、さっきまで感じた
「なぁ……ウェンディ……シエルの次なんだけど、俺ももっかい頼めるか……?」
するとおずおずとシエルたちの元に、申し訳なさそうに表情を曇らせたペルセウスが近付いてきた。先程エルザの治療待ちの列に揃って並んでいたはずの兄が尋ねにきたことに、半目を浮かべながらシエルが問うた。
「あれ?兄さん、エルザの方に並んでなかったっけ?治療既に受けてたのに」
「い、いやまあ……それはそうなんだが……あんなの見ちゃ、さすがにな……」
先んじてウェンディの治癒を受けながらもエルザの治療待ちの列に並んでいた事を突かれて口ごもっていたペルセウスだったが、エルザがいる場所へと指差しながら告げた内容を聞いて、つられるように周囲にいた全員がその方向へと目を向けると……。
「包帯を巻くというのは、中々難しいものだな」
「「だぁーーッ!!殺す気かァ!!」」
グレイとガジルを足で押さえながら、出鱈目に包帯で二人ごと、巻きつけるどころか締め上げている光景。いつの間にか後続の者たちは誰一人いなくなっており、エルフマンとビックスローはペルセウスの後ろに、マカロフをはじめとした追加組は何食わぬ顔で元の場所へと戻っていた。逃げたなこいつら。
「グレイ様……お仕置きするより、お仕置きされる方が好きだなんて……!ジュビアショック……!!」
「ガァジィルゥ……!!」
そして治療どころか拷問とも言える処置を受けている男子たちの姿を見て、ジュビアは何かを勘違いして一人で悔しがっており、レビィもこれでもかと不機嫌そうに恨み節を口に出している。
何だか……レビィのガジルへの態度が微妙に変化しているのは気のせいだろうか?
「あれじゃ治療どころかケガが悪化しちまうよ……」
それはそれとして、身の危険を感じてウェンディへと乗り移った兄が、先んじて犠牲になった二人の様子を見せて、どうにか助けてもらおうと言う魂胆を見せたことは伝わって来た。普段であれば、シエルもそんな兄に同情さえ覚えて承諾していたことだろう。だがしかし。
「まだしばらく俺のケガ治りそうにないから、代わりにエルザに診てもらったら?順番待ちも無さそうだし」
「弟がいつになく冷たい!?」
兄から視線を外してぶっきらぼうに言い放った弟の言葉に、心底ショックを受けた兄の嘆きが響いた。事情があろうがなかろうが、それが例え敬愛する兄であろうが、意中の女の子を悲しませた報いは受けてもらわねばならない。そんな固い意志を持ったシエルの姿勢は、今この時ばかりはペルセウスにとって悲しい出来事となった。自業自得とでも言うのだろうか。すっかり元気を取り戻したウェンディが同情するかのように愛想笑いを浮かべていたのが余計にショックだった。
「だったら私が代わりに治療しよっか?」
「え、リサーナが、か……?」
悲痛のオーラを纏い始めたペルセウスを見かねたのか、彼にそう語りかけて来たのはリサーナだった。ペルセウスにとっては想い人にあたる少女に介抱されると言うのは僥倖と言えるだろう。だが……何やら嫌な予感がする。
「申し出はありがたいが……ほら、ナツのケガも結構酷かったし、そっちから診たらどうだ?」
その予感に従って遠慮がちに、遠回しに断ろうとする。彼女のことだからナツの治療も喜んで実行することだろうと憶測を立てて。これで無事にナツが治療をされたのを確認してからでも遅くはないだろう、と言う小狡い考えを持ってのことだったが……。
「ああ!ナツの治療ならもう済ませてるから!!」
満面の笑みで返答しながら、リサーナが施した治療を受けたナツへと視線を移される。そこにいたナツは目元を除いた全身……両腕両足すらも包帯でグルグル巻きにされた、以前同じような目にあった時以上にミイラな状態にされた姿となっていた。
「もごががぼ(どこがだよ)……!」
「やっぱ俺遠慮していいかなぁ!?」
治療した後とは思えない惨状を目撃し、当然ながらペルセウスはリサーナの申し出を断った。そうでもしないとまさしくミイラ取りがミイラになる羽目になる。
「そんな事言わずに!ほら、包帯巻くから座って!」
「いい!本当にいいから!ってかいっそ自分でやる!!」
しかしリサーナは何かのスイッチが入っているのか、ペルセウスの距離を徐々に縮めて、両手に持っている包帯を構えながらにじり寄る。治療しようとする者の構えじゃない。いっそ恐怖心すら覚えたペルセウスが、もはや逃げ出してしまいそうなほどの及び腰だ。だが、脅威はリサーナだけではなかった。
「むぐんごごいげむばんぐむぐーご!べぐもふぃぎぐめばぁーー!!」
「何て言ってんのか全然分かんねぇ!!」
塞がれている口も気にせず何かを叫び、器用に体を動かして飛び跳ねながらリサーナと一緒になって、逃げ出したペルセウスを追い回す。一気に騒がしくなった周囲の仲間たちを見渡し、リリーは唖然としながら顛末を見るしかなかった。
「気のせいか、
「いつもこんな感じだよ!」
「唯一平穏な空気になってるのが、まさかあの二人だけだなんてね……」
数時間前まで死闘を繰り広げていたとは到底思えない空気感。しかしそれが、このギルド・
そして視線を向けられている二人……治療を受けているシエルと治癒をかけ続けているウェンディは、尚も忙しなく逃げ続けるペルセウスと、追いかけるナツとリサーナを見て、各々反応を示した、
「目以外封じられてんのに、ナツも元気だなぁ……てか何で一緒になって追いかけてんだろ……」
「さっき『自分だけ逃げるなんてズリーぞ!ペルも道連れだぁー!!』って言ってたから、じゃないかな?」
「ウェンディ、あれ聞き取れたんだ……」
口すらも塞がれてほとんどの者たちが聞き取ることも出来なかったはずのナツのセリフを、何故か聞き分けられたらしいウェンディが通訳を交えながらシエルに教えた、本当にどうやって理解できたのだろう。過去に似たような事が起きた際はガジルが通訳していたので、もしかすると
「シエル、あのね……」
対岸の火事を見るかのような、呑気とも言うべきな空気感で過ごしている年少組。しかし治療を続けているウェンディは徐に表情を曇らせると、シエルの顔色を窺いながら問いかけてきた。治療を続けてくれるウェンディの声に相槌を返し、彼女が言葉を続けるのを黙して待っている。
「今のシエルは一人じゃないよ」
諭すかのように、優しくかけられた言葉に、思わず呆けてシエルはゆっくり振り向いた。どういう意味での言葉だろう?停止しかけた思考が戻って、最初に浮かんだのがその言葉である。その顔を見た事で何かに気付いたのか、慌てて少女は言葉を続けた。
「あ、ペルさんがずっと一緒だったみたいだから、正確には二人だけじゃないよ、が正しいんだけど……えっと……」
言い淀むウェンディ。彼女自身も、どう言葉にしたらいいか迷っている様子だ。少しばかり顔を俯かせて口を噤んでいたが、整理がついたらしく顔を上げて話し始めた。
「ナツさんも言ってたよね?シエルたちが、元々闇ギルドにいたって……強い力があるからって関係ない。仲間で、家族だって」
ウェンディの話でシエルが思い出すのはハデスとの戦いの最中。過去の因縁にハデスも関わっていたことを明かされ、闇に引きずり込まれそうになった時に引き上げてくれた言葉。ありのままの自分たちを受け入れた、ナツの熱い思い。その言葉を同じように聞いていたウェンディたちは、口には出さなかったが、同じ気持ちであった。
「私も、たった一人に……シャルルと二人だけになっちゃったと思った時、エルザさんに
ウェンディたちが元々所属していたギルド・
『愛する者との別れの辛さは……仲間が埋めてくれる』
その言葉と共に、ウェンディたちは
「どんなに辛い過去があったって、仲間がいれば乗り越えられる。悲しいことがあっても、支えてくれる人たちが埋めてくれる。今では私も、心からそう思えるよ。だから、抱え込まないで」
優しい笑顔と穏やかな声。思わず見惚れ、聞き入って沈黙していたシエル。そんな彼はウェンディの言葉を心にしまい込み、やがてその表情を笑みに染めると、瞼を閉じながら言った。
「ありがとう。何だか、気を遣ってくれたみたいだね」
答えたシエルを見たウェンディは、安心したように更に破顔させ、息を吐く。ずっと気掛かりだったことが、解決したかのように穏やかな表情だ。しかし、それは次にシエルから告げられた問いによって引っ込むことになる。
「けど、どうして唐突にそんな事を?」
「え?どうしてって……シエル、戦い終わった時から、ずっと悩んでたように見えたから……」
ウェンディが気掛かりだったこと。ハデスとの戦いも終わり、キャンプに戻る事に決める少し前から、どこか思い悩むように首を傾げ、表情を曇らせていた。きっとハデスに明かされた兄弟の出自の事に関してのことだと思っていたのだが、その事について訪ねてみると、シエルから返ってきたのは気まずそうな苦笑。
「それ、多分……別の話だと思う。前にいたトコに関しては、ほぼ吹っ切れたようなもんだったから」
シエルが浮かない顔をしていたのは、本人にも完全には理解できていない事柄……もとい違和感について。結局未だにその詳細はシエル自身も把握できていない。その事を伝えられると、ウェンディは徐々に目と口が開いていき、比例するように顔が赤くなっていく。
勘違いだった。深刻な悩みに苛まれた少年をどうにかしたいと考えて、あれやこれやと考えて励ましたのだが、実は杞憂であったことが発覚し、言いし得ない羞恥心を覚えた。
「な、なんか恥ずかしい……!元気出してほしいとか一人で色々考えてたのがバカみたい……!」
「元気は出たよ?ホントにありがと、ウェンディ!」
「今はそれすらも恥ずかしい……!!」
色々と空回ったことでまともに顔も合わせづらくなったのか、両手で自身の顔を隠しながらシエルから身体を背けるウェンディ。対照的に彼女の様子に顔を緩ませたシエルがどこか見当違いなフォローを入れるが、無意識なのかわざとなのか、更にウェンディの羞恥を刺激した。
これはあんまり下手なことを言わない方がいいかもしれない。そう思いながらも、自身の為に色々と苦心しながら元気づけようとしてくれたんだと思うと、緩み切った顔が戻らない。正直言って凄く嬉しい、と言うのがシエルの素直な心境であった。
「いつもシエルの言葉で元気がもらえるから今回は、って思ったのに……やっぱシエルみたいにはいかないなぁ……」
口元を覆ってボソボソと言ってはいるものの、シエルには聞き取れたようで耳に入ってきたその何気ないセリフ。自分だって、そこまで大層な事など言ってないのだが、と返そうと一瞬考えたのだが、それを皮切りに様々な記憶がフラッシュバックした。
幼い頃から、正反対の体質を持っている兄弟を、平等に愛してくれた両親。
唯一の肉親となった自分を献身的に支えてくれた兄。
自分たちを保護し、ギルドの家族として迎え入れてくれたマカロフ。
魔法が使えないと知りながらも、魔導士になる夢を手伝ってくれた年上の仲間たち。
いつだったか兄から言われた、自分と違って考えることがうまいと誉められた時。
暴走した力に、ウェンディが危うくその身を滅ぼされかけた時のこと。
そしてハデスに向けてナツが叫んだ言葉、戦いが終わった後に兄が言っていた事。
ウェンディが励ます為に告げてくれた言葉に加え、最後に浮かんだのは……。
「そっか……やっと気づけた……」
しばらく口を閉ざしていたシエルが呟いたその言葉に、赤くなっていた顔がようやく冷めたらしいウェンディが首を傾げる。どういうことか尋ねようとするよりも先に、シエルはある者の名を呼んだ。
「シャルル」
少し離れた位置で、こちらの様子を横目で見ていた、ウェンディの相棒たるエクシードにして、今回の試験のパートナーであったシャルル。彼女は徐に名を呼んだシエルへ特に返事することなく、顔を向けることでそれに答える意志を見せる。
「今やっと……シャルルが言っていたことが、本当の意味で理解できた。そんな気がする」
シエルが最後に浮かんでいた記憶。
「シエル、あんたはペルセウスと違う。あんた自身が兄貴と同じにはなれないわ」と。シエルはその言葉に衝撃を受け、反論をしようと思っても出来なかった。誰よりもその事実は理解しているつもりだった。けれど、それは今まで心のどこかで思っていた、自分がどう足掻いても兄のような選ばれし力を扱える訳じゃない、と言うものではなかった。
「兄さんの事、昔の事、俺の力の事、色々と悩んでいたこともあったけど……本当は回りくどいことをする必要なんかなかったんだ……」
兄が孤独にならない為に、自分が兄と同じ足跡を歩み、兄と肩を並べる存在になる。その一心で突き進んでいた。けれどシエルは今になって気付いた。ようやく気付くことが出来た。
「兄さんと同じようなことが出来なくても、しなくても、それは問題じゃない。本当の仲間は、俺が兄さんのようになることを求めてるわけじゃない」
兄と同じ道を辿る事が、兄の孤独を払拭できる道だと思っていた。しかし、本当は違った。兄は、そして自分は、もう既に孤独などではなかった。本当の自分たちを理解し、共に歩むことを選び、肩を並べてくれる仲間たちが既にいたことを。バラバラの足跡を歩みながらも、道の行く先で交わっていたことを、戦いを通して、ようやく心から理解できたのだ。
そしてその道は、道を進んだ者しか通る事の出来ない、シエルはシエルの、ペルセウスはペルセウスの、一人一人が各々の道を歩くことしかできない、ごくごく自然で、当たり前のことを。
「俺は、ペルセウスの弟じゃなくて、シエル。俺は俺だ。誰の代わりにもならない、みんながみんな、違う存在。考えてみれば、すぐに分かる事だったんだ」
辿ってきた道が全員違っても、家族として共にあり、時にそれぞれが歩む道が交わって、支え合える。兄弟であろうとも、それは同じこと。各々にしかできない事があると言う、至極単純な答えを導き出したシエルに対して、シャルルは……。
「今更、何を当たり前の事言ってんの」
口調はいつもの彼女らしいとも言えるものであったが、その顔に浮かんでいたのは満足気な笑み。彼女の意に応えられた答えだったのだろう。その確信を得られたシエルは「だね!」と歯を剥いて笑みを深くした。
一連のやり取りを、離れたところから見ていたマカロフは、それに口を挟むこともせず、どこか楽し気に笑みを零す。色んな意味でいつも通りの日常が戻ってきたかのような空間。どこにいても
「マスター、試験の方はどうします?」
「そうじゃの~」
そんな時、隣にいたミラジェーンから徐に尋ねられたこと……今回の試験について、恐らくは今後の対応についてだろう。現状は中断と言う形になっている為、運営する側としても非常に悩ましいことにはなるのだが……。
「あやつらに、いっそ決めてもらうのも手かのう」
ある一組のペアに目を向けながら、異例中の異例となった試験の行く末を委ねることを、考えついた。
おまけ風次回予告
ウェンディ「シエルは、自分の未来って考えたことはある?」
シエル「未来?う~ん、昔から兄さんのようになりたい、とか凄い魔導士になりたい、とかしょっちゅう夢見たりはしてたけど……」
ウェンディ「私の場合は、未来だと私はどうなってるのかな?って、時々考えたことはあるんだ。今だとみんなのお役に立てる、みんなを守れる魔導士になりたいって、夢と言うか、目標はあるけれど……」
シエル「素敵な夢と目標だね!俺も最近だと……うん、色々と考える、けど……」
ウェンディ「何だか歯切れが悪くない?」
シエル「そ、ソンナコトナイヨ?ウェンディこそ、なんか浮かない顔してない?」
ウェンディ「え!?き、気のせいじゃないかな?」
次回『未来に向けて』
シエル「(将来はウェンディと付き合って、結婚して家族になりたい、とか……)」
ウェンディ「(大人になったら、お胸とかが大きくなってほしい、とか……)」
シエル「(言える訳ねぇな……)」
ウェンディ「(言える訳ないよ……)」