おかしいな、やりたいことが多いのに執筆してたらほとんどできてないぞ…?しかも書く速度、と言うか文字が浮かばなくなって遅くなってるし…。
ほぼ月一更新になりかけている当小説ですが、少しリフレッシュさせていただきたいので、次回の更新も遅れるかもしれません…。
まあ、次回はあの回なんで、皆さんの心の準備も必要でしょうし←
「皆の者、心して聴け……今から重大発表する」
各々の間で起きていた騒ぎも一段落し、マカロフからの号令によって集められたS級魔導士昇格試験の受験者たち、及び試験官たち。全員がこちらに着目したことを確認したマカロフは、詰み上げられた木箱の上に立ち、真剣な表情を浮かべてそう告げた。こちらを見下ろして徐に告げる様相は、自然とこちらの身も引き締めるものだ。
この中のほとんどの者は、ある一つの予測を立てていた。
「天狼島からギルドに、戻ったその日より……」
一瞬のどよめきから静まり返り、黙してその言葉を聞き入れようと見上げているギルドの面々に目を向けながら、その口が開かれる。どのような発表が成されるのか、固唾を飲んで待っていると……。
「女子のみ制服を設定する!ナース服、スク水限定じゃ!!ヒャッホイ!」
「何の話かしらー!!?」
重苦しさすら感じかねない空気感が一気に吹き飛んだ。小躍りしながら発表された頓珍漢な発表に、真っ先にツッコミと言う反応を示したルーシィを始めとして、ほとんどの者たちが脱力感から表情を呆れへと変えた。人生を左右しかねない試験とは全くの無関係な事柄を発表されたらそうもなってしまう。
「成程。それは楽しみだ」
「うわ、乗り気だよ……」
「普通ここは怒るとこでしょーが!!」
しかし一方で例外もいた。心の底からマスター・マカロフの決定に前向きな検討と期待感を抱いて呟くS級魔導士エルザ。普段から換装を用いて特殊な衣装を着る事にも躊躇のない彼女は、変なところでノリノリであった。知ってはいたものの、不真面目にも感じる決定に寧ろ肯定的な彼女に、シエルのペアが各々の反応を示した。呆れと指摘の、見事な二分で。
「マスター?ここは真面目に……」
「しゅみましぇえん……!ちょっとノリで……!」
「おぉ……魔人の再来……」
そんでもって、ふざけ倒したマカロフの決定は当然ながら有無を言わさず流された。普段から笑みを欠かさなかったミラジェーンが、それすら引っ込めて、昔の魔人の片鱗を垣間見せながら圧をかけてきたことで。素直に訂正して謝罪するマカロフとセットで遠目にしながら、ペルセウスは怯えるような、思い出すような口ぶりで独り言ちる。
そして、ミラジェーンに軌道修正されたマカロフはいくつか咳払いをすると、未だに呆然状態から戻らぬ者も多数いる魔導士たちに向けて、佇まいを戻して言い放った。
「では、改めて……今回のS級魔導士昇格試験を中止にすることに決定した。以上!」
「いや軽い軽い!!」
「そっちの方が明らかに重大発表でしょ!?」
『……何だとぉ~~~!!?』
あまりにも平坦気味に、大したことでもないかのような言い方で発表された試験中止。シエルペアが今度は食い気味に、あまりにも軽い重大発表についてを指摘するが、一部の者たちは数秒の沈黙によるない脳内処理を終えて、遅れて絶叫した。
「だ・か・ら!今回は、S級魔導士昇格試験を……中止とする!」
そんな一部の試験参加者の反応に対して特に臆したりもせず、繰り返し中止の発表を告げたマカロフ。しかし方向性は異なるも試験に思い入れの強い参加者たちがこれに即座な理解など向けるはずもなく……。
「納得いかねーぞ!じーさん!!」
「何で中止なんだよー!!」
「そうだ!途中で投げ出すなど漢にあらず!!」
「オレをS級にしやがれ!!」
「いや、お前は“レビィ”って候補者のパートナーに過ぎねぇだろ」
一斉にマカロフに詰め寄って抗議を投げかける参加者たち。その中の一人……正確には受験者であるレビィのパートナーとして参加していたガジルが、S級にしろと言う意見を言い放ったが、当然ペルセウスからの正論をぶつけられた。本人以外の誰もが「無理だろ」と答えるのは明白である。
「仕方なかろう、色々あったんじゃから」
「候補者の中に評議員が紛れ込んでたり、
「試験として
ギルドの一員ではない
マスターであるマカロフや、ミラジェーン、ペルセウスを始めとした
「今回は、仕方ないかな~」
「オメェ!それでいいのかよチクショー!」
「お前がそんなにアツくなる事もなかろう」
憧れていた称号を手にするチャンスではあったが、事情が事情と落胆しながら納得を零したレビィ。パートナーであるガジルの方がそれに異議を唱えている。パートナーとして参加した面々では多分一番試験にやる気を見せていた事だろう。不完全燃焼であったが。
「だ~~!S級になりたかった~~!!」
「大丈夫!グレイ様なら次こそきっと……!!」
「はぁ……漢は引き際も肝心か……」
悔しさから頭を抱えて声を張り上げるグレイに、来年に向けての応援をジュビアが送る。その傍らで諦めがついたのか溜息を吐いて消沈しながらエルフマンが呟いた。下された決定に各々渋々ながらも受け入れた様子だ。
そんな面々の様子を見ながら、ウェンディは一つの気掛かりを覚えた。同じく試験の参加者であったシエルは、果たしてこの決定に納得しているのか、と言うものだ。詳細はそこまで知らないが、シエルもこの試験にかける思いは並大抵のものではなかったと記憶している。
「シエルはいいの……って、あれ?」
きっと彼もこの発表に納得していないはず……と思って顔を向けてみれば、そこに映っていたのは最初にツッコミを入れた時とは打って変わって、平静に今回の中止発表を受け入れている様子のシエルだった。思っていたのとは異なる反応に思わず面食らってたウェンディに、気づいた様子でシエルが「どうかした?」と問いかける。
「何だか、思ったよりも落ち着いてる、ね……?」
「うん……まあね」
少なからず、怒りや悲しみを浮き出してしまうかと思われたのだが、実際は驚くほど落ち着きを見せている。恐る恐ると尋ねてみると、僅かばかり歯切れを悪くしながらではあるが答えた。
「色々イレギュラーだったし、俺も異存はないよ」
口元に柔らかく笑みを浮かべ、吹っ切れた様子で答えたシエル。あれほど試験に対して並々ならぬ思いと姿勢を見せていた少年と同一人物とは思えない解答。本当に良いのだろうか?すれ違いがあったとは言え、別の受験者のパートナーとして試験に参加した自分が言うのも変ではあるが、シエルが抱えていたS級への想いを考えるとあっさり引き下がる事に抵抗も感じる。
「けど、あんなに……」
「
何かしらの心境の変化が起こったのかと不安を口に仕掛けたが、それに待ったをかけたのはシエルのパートナーとして参加していたシャルルだ。何だかんだで、彼女もシエルの想いを尊重して協力していたので、合格できなかったシエルの様子にも特段驚いた様子が見られないのが気になるが、笑みを浮かべながら言い切っている少年の姿を見て、これ以上は過干渉になると感じたウェンディはそれ以上の追及をしない事にした。
「オレは諦めねーぞ!絶対S級になるんだ!!グレイもシエルもエルフマンもレビィも諦めるんだな!?だったらオレがS級になる!!S級になるんだーーっ!!!」
「落ち着こうよ、ナツ」
一方で、大半が決定を前にして諦めるものの、唯一最後まで駄々をこねるように反対を叫び続ける
「しょーがないのう……特別じゃ。今から最終試験を始めよう。ナツ、ワシに勝てたらお前をS級にしてやる」
「本当かじっちゃん!?」
ナツに向けてかかって来いと手招きしながら、特例を提示したマスターに、嬉々としてナツは拳を構える。互いに病み上がりなので無理は禁物、と言いたくもなるのだが、揃って聞き入れることも無いだろう。半ば諦めにも似た心境を抱きながら繰り広げられるナツだけの最終試験。
その結果は先手必勝とばかりに飛び掛かったナツに、巨大化した右拳をカウンターでぶちかまして後方の木とサンドイッチにすることで無力化させたマカロフの勝利に終わった。あんまりにも華麗かつ衝撃的な瞬殺劇に、周囲のほぼ全員が絶句するのだった。
「文章だけで片付けんな……」
潰されながらうわ言を呟いたナツはその直後に気を失った。そして落ち着いた頃を見計らって、やれやれと言いたげに含み笑いを浮かべたギルダーツが俵担ぎで運び、同時にその場は解散となった。
「ペルよ、ちょっといいか?」
「ん?」
解散して、自然と面々がまばらになった時、マカロフがペルセウスを呼び止めた。何かあったのかと聞き返すと、手招きして近くまで来るように促してくる。それに従って傍まで来ると、マカロフが彼にしか聞こえない声量で語り始めた。
「実を言うとの……二次試験の際、一組だけ墓にもう少しで着きそうだったペアがおったんじゃ」
それが耳に入った瞬間、ペルセウスは声には上げなかったが思わず瞠目した。試験の内容自体はあらかじめマカロフから試験官として島にいたS級魔導士には周知されており、どのような内容なのかは全員が知っている。ペルセウスも当然、中断させられた二次試験がどのよう内容だったのか分かっているので、合格の条件である墓を見つける寸前まで行っていたと確信めいた言葉を告げたマカロフの言には素直に驚いていた。
そしてペルセウスは、マカロフの言うその合格寸前まで行っていたと言うペアに心当たりが……いやむしろ、一種の確信すら覚えていた。わざわざペルセウス一人にだけ伝えたと言う点も鑑みれば、最早それは明らか。すぐさま脳裏に己の弟と彼と組んだ白ネコの二人が浮かんだ。
「あと一歩、と言うところで
それはシエルにとっても、願ってもみなかったチャンス。全員が召集される十数分前、シエルとシャルルのペアは、マカロフから秘密裏に呼び出されて今回の試験について問われたのだ。
『どうじゃ?いっそのこと、二次試験の合格に一番近かったお前を、今年の試験の合格者に決定しようかと思うが……どうする?』
その問いを聞いて、当然シエルもシャルルも少しばかり開いた口が塞がらなかった。目指していた墓へと近づいていたことに気付かれていたこともそうだが、確定的な合否すら聞くよりも先に、S級魔導士と言う称号をすぐ目の前に提示されたのだ。衝撃を受けるのも、無理はないと言う話だ。
『え……?い、いいのそれ、ルール的に……。初代の墓に辿り着いてた訳でもないのに』
『構わんよ。今更再試験するにも、お前たちは既に墓の位置を知っとるわけだし』
改めて二次試験を再開させたとしても、中止になった時点で得ていたヒントや位置情報など最早アドバンテージになるものは少なく、墓に先に辿り着けるペアも最初に一番近付いていたシエルを除けば、実は後に墓へと到着したカナのみだ。どちらにせよ他には不利となる。
かと言って予定していた他の試験を、二次試験受験者で行うのも公平さが損なわれる。ならばいっそ二次試験最初の到達筆頭であったシエルをS級にするか否かと言う決定を求めた。
『その話って、やっぱ受けるべき……なのかしら……』
『受けるにしろ、受けないにしろ、決めるのはシエルじゃ。さてどうする?』
未だに動揺を隠せないシャルルの問いに対して、マカロフが返したのはシエルへの催促。どちらを選ぼうとマカロフはそれを尊重するつもりだ。事ここに及び、憧れていたS級と言う称号をほぼ手にしたも同然の状況。受けない理由がない、と言うのがギルドの一員としても普通の事だろう。
顔に数滴の雫を浮かべながら、黙して考え込むシエル。永遠にも感じるその沈黙を、瞼を閉じ、一つ息を吐いてからまっすぐにマカロフに笑みを向けると同時に口にした返答で終わりを迎えた。
『折角のチャンスだけど、やっぱりやめとくよ。今回は』
その答えに、マカロフは特に驚く様子はなく、シャルルもまた呆けたような表情を浮かべているものの、動揺を見せてはいなかった。まるでシエルが、そう答えることを知っていたかのように。
『そりゃあS級にはなりたいけれど、今回の事を通して、自分の事について一つ知ることが出来た。けど多分、俺は自分自身でも分かっていない事がまだ数多く眠ってるみたいなんだ。それを知らないまま、肩書だけ立派になるのは、早すぎる気がする』
実の兄とぶつかった一次試験、そして襲撃してきた
『S級になってからそれを探すって考えは?』
『それもありだと思う。だからこれは、単なる俺のけじめさ』
シャルルから問われたもう一つの道への可能性の示唆。対するシエルは突っぱねはしないものの、本来行きたかったであろう道を目前にして敢えて退いた。臆したと思われようと、人騒がせと思われても結構。ここで甘んじてしまっては、今後を左右すると確信しているのだから。
「あいつがそんな事を……」
「あれほどまで盲目的にS級を求めていたあやつが、気付けば大きく前へと進んだことで、真に向き合うべき事柄に気付いた。親としては、その成長がどれほど嬉しいことか……」
試験が始まる前までのシエルにあった、理性的な様相に隠された危うさは鳴りを潜めている。兄と同じ道筋を辿るという夢と、自分なりに決別し、新たな目標に昇華した。また一つ大きな成長を示してくれたことを、今よりも幼かった頃を知る身としては、喜ばしい限り。
「次回の試験までに、きっとあやつはさらに成長するじゃろうの。そうなれば、もうおぬしが気に病み過ぎることも無くなろうて」
「かもな……」
今からさらに一年、より多くの経験を経て、より大きくなったシエルが来年の試験に臨むだろう。あれほどまで過保護に努めていたペルセウスも、認めざるを得ない。その時のシエルはきっと、自分が手を引いてやらなければいけない、小さかった弟とは違う、立派な魔導士になっているだろう。寂しくはあるが、同時に嬉しくも感じたペルセウスは、柔らかく微笑みながら、マカロフの言葉に同調した。
「あ、ペル!マスターも、まだここにいたんだ」
しばし感傷に浸っていると、それぞれ戻っていった面々から一人、戻ってきてこちらに呼びかける存在があった。銀髪のショートヘアが目立つ少女リサーナが一人で戻ってきた。わざわざ戻ってきた様子を見るに、何か用事があるように思えて「どうかしたのか?」とペルセウスが尋ねてみる。すると思った通り、聞きたいことがあったそうだが、その内容はさすがにペルセウスだけでなく、マカロフさえも虚を突かれるものだった。
「ラクサス、今どこにいるかなって」
この場に唯一集まっていなかったギルドを外れている男、ラクサスの所在に関してだった。
────────────────────────────────────────
戻るついでに、ラクサスが今いそうなところ……恐らくキャンプからも少し離れているだろうと当たりをつけて共に探してみると、雷神衆の三人の声が聴こえてきたので向かってみる。予想は的中し、口々に話しかける雷神衆に相槌を返してばかりのラクサスが目に映った。
「ここにいたのか」
「ラクサス、改めて久しぶり!」
試験に参加していた面々のみがマカロフに呼ばれていたので、厳密にはギルドから既に抜けている身となっているラクサスは律義にも離れたところにいたのだろう。呼びかけたペルセウスの声に気付いて振り向いた彼は、その視界にもう一人少女の姿があるのに気づくと、どこか面食らった様子で目を瞬かせる。
「……リサーナ?」
まるで信じられない、と言いたげなその反応にそう言えばと思い出した。リサーナはついこの前、エドラスから帰ってきたばかり。それまでは誰もが彼女は既にこの世にいないとばかり思っていた。当然、ラクサスもその一人。
「そっか、ラクサスはまだ知らなかったっけな。リサーナ、この間帰ってきたんだ。ずっと遠くの場所に行ったままになってたんだが……」
「破門されてたって聞いてビックリしたんだよ?けど元気そうでよかった!」
詳細を語るには長くなりそうなので簡単にペルセウスが説明すると、リサーナも帰ってきてから聞いていたラクサスについての事を言及しながらも明るく話しかける。視線を合わせるように胡坐をかいていた彼の目の前に腰を下げるも、ラクサスは面食らったような顔をそのままに、一切言葉を発することなくリサーナから目を離さない。
さすがに怪訝に思ったリサーナは、同様に首を傾げるペルセウスと一瞬顔を見合わせてから、改めてラクサスへと向き合って尋ねた。
「どうかしたの?ラクサ……」
だが、言い終わる前にラクサスの両手が彼女の顔に近づいてきた。そして彼女の両頬を軽くつねって引っ張り出した。表情を一切変えず、ゴムで遊ぶかのように引っ張って戻してを繰り返し続けるその光景があまりにもシュールで、さっきまで盛り上がっていた雷神衆も含めて言葉を失っている。
しかしリサーナとしては、軽くとは言え頬をつねられている痛みは確かで、涙を滲ませて眉根を下げながらも睨みつけながら抗議した。
「……あにふんの」
「いや……本物なのかなって思って」
「本物よ!失礼ね!」
唐突に行われた行動について聞いてみれば、どうやらラクサスは目の前にいるリサーナが幽霊とか幻とかに思えてしまったようだ。そりゃあラクサスの視点から考えれば、2年前に死んだと思っていた少女が、生きて目の前にいると言う光景の方が夢幻のように見えるのも無理はない。ひっぱっていた頬から手を離して今度は頭を軽く叩いて確かめるラクサスに、当然リサーナは怒りを表す。
「あんまりいじめたらかわいそうよ」
「あの洞察力……さすがはラクサス、見習わねば……!」
「そ、そうか……?」
「ソウカーソウカー?」
珍しい行動をしているものの、雷神衆の反応はビックスローを除いてほぼいつも通りだ。ずれたところに関心を示したフリードに、魔法で常に操っている
「もう!本物だって言ってるでしょー!?」
「分かった分かった、悪かったよ」
呆然とペルセウスが眺めていると、更に機嫌を損ねたのかリサーナがポカポカと言う擬音が付きそうな動きで両手でラクサスを叩こうとしているが、対する彼は鏡合わせで腕を動かして掌で受け止め、いなしている。そんなラクサスの表情や声は、破門される以前に見えていた傲慢さや横暴さはなく、純粋だった頃を彷彿とさせる。穏やかと言っていい。
「はっははは!二人揃って何やってんだよ」
「笑ってないでペルからもちゃんと説明してよー!!」
リサーナと二人して面白おかしいやり取りをする光景がどこか面白くなって、思わずペルセウスは声をあげて笑い始めた。リサーナがより不機嫌そうに抗議の声をあげたが、まともに彼女の主張を聞く者は残念な事にいなかった。
そんなやり取りを、少し離れた木陰から見ていた影が数人分あった。音を立てないように隠れる形で様子を窺っていたその影の正体は、今の
「ちょっと挨拶するの怖くなってきた、かも……」
「え!?何に脅えてんの、アンタ!?」
どこか気の抜けそうなやり取りを前にして、何故かウェンディは緊張感をより増した様子で呟いた。今のところ、破門された原因となった様相など、微塵も感じられない程に穏やかと言うか抜けた印象しかシャルルは感じ取れなかったので、当然のようにツッコまれた。
「俺もちょっと……いざとなると震えが……!」
「アンタは昔からの知り合いじゃないの!?この子より脅えてない!?」
そしてシエルもまた小刻みに体と声を震わせて、深呼吸をしようと試みているが上手く出来ていない。年少組の中で唯一ラクサスと面識があるはずのシエルがやけに緊張している姿も、シャルルにとっては妙な話。しかし面識はあったものの、互いのすれ違いで当時の関係は険悪に近かったのだ。今更どう顔向けしろと……と言うのが彼の本音である。
だがしかし……ハデスとの激突の際、確かに彼は自分たち
「よし……行こうか」
「大丈夫、かな……?」
「俺が言うのもおかしいかもだけど……根っこは家族想いなんだ。破門になったのは、そんな心が不器用に働いたからで……本当はただ、ギルドの為を思って動ける奴なんだ」
一つ息を吐いて前に乗り出したシエルに、恐る恐るウェンディが聞いてくる。そんな彼女を安心させる為にか、シエルは笑みを向けてラクサスが悪人ではない……ギルドの、確かな家族の一人であることを伝える。その言葉を聞き、そしてシエルの決心した表情を見て、ウェンディも続こうと決めた。
「うん、行こう!シャルルも!」
「そうね」
そして木陰から揃って出てきた子供たちが姿を現し、今もリサーナからの攻撃をいなしていたラクサスに向けてシエルが代表して名前を呼んだ。聴こえたラクサスを含めて場にいた全員がそれに反応を示してシエルたちへと顔を向けた。
「聞いてよシエル!ラクサスったらね!!」
「あー、ごめんリサーナ。それについては後にさせて」
斜めになった機嫌が戻る様子のないリサーナから、先程に起きていたことを話に振られるところを遮り、改めてラクサスへと視線を移す。一方のラクサスは、微かながら驚きを宿した表情で、シエルを黙って目に映すのみ。正直まだ体が震えそうになったが、何とか律して声を出し始めた。
「えっと……まずはラクサスにも紹介するよ。この子たちは少し前にギルドに入った、新人のウェンディと、相棒のシャルル」
「ウェンディです!改めて、よろしくお願いします!」
「シャルルよ」
シエルがラクサスに対して指し示し、紹介されたウェンディとシャルルが改めて名乗った。ウェンディは礼儀正しくお辞儀も交えて、シャルルは腕を組みながらやや素っ気なくという違いはあったが。
「シエルと近い歳ではあるが、この子は
「……ほう……」
補足としてペルセウスから彼女がどのような魔導士であるか説明が付け加えられる。ナツやガジル、そして系統は違うが
「そ、そんな私なんて……シエルやナツさんたちに比べたら、まだまだで……!」
「ハデスとの戦いでも、ウェンディに助けられたことがあったんだ」
「シエルッ!?」
「少しは落ち着きなさいよ……」
思わぬ高評価じみた説明を聞いたウェンディは慌てて謙遜を口にするも、シエルから告げられたフォローにさらに衝撃を受けて狼狽える。目に見えた狼狽えようにシャルルから指摘が入るが、そんな彼女の言葉もうまく耳に入らず、落ち着く余裕も出ないままウェンディは弁明するかのようにラクサスに向いて話し出す。
「あ、あの、えと……私、まだまだみんなのお役に立ててないところも多いですけど……
自分でもどう言ったらいいのか分からなくなるほどの困惑を見せながら続けてたウェンディに対し、ほぼ聞き手に徹して黙っていたラクサス。だがこれ以上の言がなかなか出てこず、言葉に詰まっていた彼女に対し、ラクサスが徐に尋ねてきた。
「……ギルドは楽しいか?」
「えっ?」
その問いに、面食らった様子で表情を固めたウェンディ。彼の質問の意図がくみ取り切れない様相だ。それを察したのか、ラクサスが改めて問いかける。
「
再び聞かれたその質問に対し、ウェンディは迷う事などしなかった。ギルドに誘われ、訪れたあの日から、ほとんどの記憶が、賑やかで、楽しく、期待に満ちた日々だった。
「はい!」
気付けば輝かしい満面の笑みで元気よく答えていたウェンディ。それを見てラクサスの表情にも笑みが浮かぶ。満足のいく答えだったようだ。
「なら、難しく考える必要はねえ。強くなくたって、頭が悪かったって、このギルドにいる奴らは、いたいと思う奴らを見捨てたりなんかしねえさ。元気でいれば、そんだけでいい」
それはアドバイスのような、心構えの教示の様な言葉。それはウェンディの心の中にストンと入ったことだろう。そして同じように聞いていたペルセウスはその言葉に心当たりがあった。彼が破門を言い渡される直前、マカロフが彼に同じようなことを言っていた。祖父の言葉は、しっかりラクサスに届いていたようだ。それを理解して、思わず彼の顔にも笑みが零れた。
「ま、破門されたオレなんかが言う事を、真面目に聞く必要なんざねえがな」
「そんなことありません!……ありがとうございます、ラクサスさん!」
少しばかり自嘲の混じった笑みと共に行ったラクサスに対し、それでもと言いたげにウェンディがお礼と共に告げた。前評判や、初対面がハデスとの戦闘時だったこともあって、コワい人と言うイメージがどうにも拭えなかったのだが、こうして話していると根は思いやりのある人と言う言葉がよく当てはまる事が分かって、彼女は心から安心した。
「あ、あのさ!ラクサス……ウェンディたちの紹介だけじゃないんだ……!ここに来たのは……」
ウェンディたちの紹介に区切りがついたと判断し、今度はシエルが切り出した。先程までウェンディが話していた時の和やかな表情は一瞬でこわばり、緊張の面持ちでラクサスへと向き直って告げた声は、震えているようにも聞こえる。そしてそれはラクサスにも伝わっているようで、真面目な表情でシエルの方へと彼も向き直った。
「ラクサスがいなくなった後、兄さんから聞いた。『今まですまなかった』って……」
ラクサスが抜けてから、兄を伝って聞かされた謝罪についてを引き合いに出し、そしてシエルは震える身体に鞭を打って、ラクサスに対して頭を下げた。周りの者たちの息を呑む声が聴こえる。ラクサスも、さすがに予想外の行動だったのか微かに驚いているのが感じ取れた。
「俺の方こそ……意固地になって、イヤな事をラクサスに言い続けた……!本当にごめん!ラクサスの事情も知ろうとしないで、勝手な事ばかり言って、ごめんなさい!」
子供ながらに、兄を小馬鹿にされたことや傲慢な態度をとられることに対してケンカ腰になっていた事を悔いた、その結果の表れ。ラクサスにも抱えるものがあったことを、考えもしなかった己を恥じ、頭を下げねばならないと、判断した。
「別におめぇが謝る事じゃねーだろ。あん時は明らかに、オレの方がヤな奴だった。それは間違ってねぇ。おめぇがオレに言ってたのはただの売り言葉に買い言葉だ」
そんなシエルの謝罪に対し、ラクサスは互いに非があったと告げ、右手を頭に置きながら過去の自分に対して反省を示した。自分とて誉められた行動をしてなかったのは、客観的に見て理解した。そう伝えられても、下に向けているシエルの顔は晴れない。
「それによ、オレに宣言したこと、大分近づいてきたじゃねーか」
しかし、次に言われた彼の言葉を聞いて、思わずシエルは視線を上げてラクサスの顔を見やった。そこに映っていたのは笑み。
「最強と言われた闇ギルドのマスターを、それもジジイの前の代を務めた男に、とどめを刺したのはお前だったんだ。あの一撃……間違いなくあの場にいる誰よりも強い魔法だった」
多勢に無勢とは言え、自分たちのマスターさえ上回る強大な魔導士に、最後の一撃を……それもその場にいるほぼ全員の魔力を込めた大技を叩きこんだのは、確かにシエルだ。間近でその光景を見たラクサスは、素直に認めていた。自分が力を託したナツの滅竜奥義・改ですらも、彼のトドメが上回っていたことを。
誰が想像できただろうか。魔法の才がない、と断言されていたはずの少年が、天才が更に精進し、至った最強と呼べる魔導士を、打ち果たすなど。
「強くなったな、シエル。兄貴も鼻が高ぇだろ」
「ああ、俺には勿体ねぇ、最高の弟だ」
かつて自分が言った、ラクサスをもいつか超えるという宣言。その大きな一歩を、確かに歩めることが出来た。ペルセウスにも同意されたその言葉に、胸の奥が熱くなり、思わずシエルの口元に弧が描かれる。
「ありがとう、ラクサス」
頭を上げ、その笑みを見せながらシエルは率直に感謝を伝えた。今ようやくこの時、壁を感じられたラクサスとの蟠りを、解消できたと実感できた。どこか心に残っていた問題の一つを、解消できた。
「そーいや、話は変わるんだが……気になる事が一つ」
すると、ラクサスからシエルに向けて聞きたいことがある様子で尋ねてきた。何だろう?と特に疑いもせずに首を傾げながら彼の問いを待ってみる少年。だから、彼は身構える余裕すらなかった。
「シエル、オレがいない短い間で、いつの間に女つくったんだ?そう言うの興味無さそうだったのに」
「いや違ぇから!あ、いやいや違わな……じゃなくて、ウェンディとはそんな、関係、ではなくて……!」
「誰もウェンディとは言ってないぞ?」
目を細めて「やるなぁ……」と言いたげな真顔のままぶっこんだ問いかけをしたラクサスの言葉に、反射的に否定を叫んでしまい、その否定を否定しようと言いかけて何とか弁明しようとしたシエルは、墓穴を掘ってしまって即フリードに指摘されてしまう。揶揄おうとなど一切感じさせず、至極真面目に言われたものだから言葉を詰まらせることしかできない。
「えー!?違うのー!?」
「リサーナわざとらしいぞそれ!!」
反論が言えずにいたシエルに向けて、口元に手を当てて仰々しく驚く素振りを見せるリサーナ。絶対色々と分かってて表に出している反応だ。更に声を荒げるしか出来ない。
「あーラクサス、そりゃ誤解だぜ」
と、意外にもここで間に入ってきたのはビックスローだ。弁明してくれるみたいなのか身振り手振りを交えながらラクサスに対して説明をするようで、一瞬シエルには救世主のように映った。だが、妙に感じた嫌な予感は、残念な事に的中した。
「あの二人はそーゆー関係じゃねーんだよ。
「あーそうか、
「言い方腹立つな!!」
一部分を強調した言い方を聞いたラクサスは全てを理解した。あからさまにニヤついた顔で説明したビックスローに向けていた目を細め、口元に弧を描きながらシエルへと向けて反芻する。まるで新しいおもちゃが見つかった、と言わんばかりの反応だ。
ラクサスとしても、一切誤魔化しもしないでただ顔を真っ赤にして慌てふためいている、珍しい姿のシエルに実は内心「こいつも見ねぇ内に変わったな、色々……」と思ってはいたが、面白さが勝ったので口には出さなかった。
余談だが、さすがにラクサスの言った言葉が何を意味するのか通じたのか、人知れずウェンディが誰にも見えない方向へ赤くなった顔を背けていた。それに気付いたのは、今もなおシエルをからかう一同に呆れながらも彼女を案じるシャルルのみだった。
「あんまいじめんなよお前ら。……ん?」
ふと、苦笑を交えて注意するペルセウスの視界の端に、森の奥の方へと揃って向かって行く二人の姿が見えた。今回の試験でペアを組んでいた茶髪のロングウェーブと金髪のロングの少女たちの組み合わせ。
「(カナとルーシィ?どこに行くんだ……?)」
────────────────────────────────────────
あの後話を切り上げたペルセウスは、ふと気になってカナたちが向かったであろう方向へ向かっていた。試験が中止になった発表を一緒になって聞いてた際、ほぼ一切のリアクションが無かったのを思い出し、ショックを受けていないか無性に気になってしまった。
しばらく歩いていると、微かにルーシィの声と、近くにいたのかナツとハッピーの慌てる声が聴こえた。発生源の方向へと向かうと、見えてきたのは河がある高台近く。そして草の陰に隠れるように、ルーシィたち3人が何かを見ている様子だった。
「何してるんだ、お前ら?」
「っ!?シーーッ!!」
急に後ろから声をかけられたからかおっかなびっくりと言った様子でルーシィの肩が跳ね、そして振り向き様に静かにするように促した。ハッピーもルーシィほどではないが驚きを見せているが、ナツはほぼノーリアクションだ。ニオイで近付いてきてるのには気付いてたらしい。
ルーシィに促されるがまま口を閉ざし、そして彼女が見ていたと思われる方へ目を向けてみると、そこにはカナと、河でナツたちと釣りをしていたと思われるギルダーツがいた。どうやらカナの方からギルダーツに用事があるらしい。
「(ギルダーツに何か話か?珍しいな)」
ペルセウスの記憶では、カナとギルダーツが親しい間柄であった印象はない。ギルダーツは年若い魔導士が子供の頃から自然体で接していたので特に変わらないが、カナの方がどこか彼を遠目でしか見ていないと言うイメージだった。一歩離れているとも言う。
そんなカナがギルダーツに用事とは、珍しいこともあるもんだと思っていた。案の定、俯いてどこか微かに震えているように見えるカナに、ギルダーツは「どうした?」と物珍しそうに尋ねている。
「私……ギルドに来た理由って……父親を探して……なんだよね」
「そりゃ、初耳だな」
これに関してはペルセウスも彼に同意見だった。
現にペルセウスも、後ろ暗いことを話すことを嫌い、マスター・マカロフ以外に過去の事を話すことはほとんどなかった。カナも大半と似たような事情……実の父親に関して、
「頑張れ、カナ……!アンタたちは帰ってなさい、ペルさんも!」
「「?」」
「何でだよ……」
陰からずっと見ているルーシィが、小声で声援を送る。そして状況が呑み込めないナツとハッピー、更にペルセウスには何故か追い払われるようなことを言われる。全く分からないと言いたげなナツたちに、謎の通告を受けて反論するペルセウス。
そんな彼らが、数秒後に衝撃を受けることになるとは、思いもしなかった。
「ギルダーツなんだ」
「え……?」
”ギルダーツなんだ”?何が?いつの間にか彼が聞き返していた、カナの父が
「……え?」
一瞬、何のことか分からず、呆けた声を漏らすギルダーツ。そして数秒沈黙が続き、再び声を漏らす彼の表情が、徐々に驚きに染まろうとしている。そして衝撃はペルセウスたちも同じだ。その通りだ、と言いたげにルーシィが無言で首を何度も縦に振ってる傍らで顎が外れそうな程に口を大きく開けて衝撃を受けているナツとハッピーが目に映る。ペルセウスは気付いた。自分も多分、同じ顔になってるだろう。
そして直後、ギルダーツとの交流なら自分よりも長いであろうナツとハッピーに向いて、指を差しながら「お前ら知ってたか!?」と言いたげに無言でジェスチャーをしたペルセウス。対する二人の解答は、ペルセウスに一瞬顔を向けた直後に、揃って全力で首を横に振る動作。その間、2秒足らず。
「ええーーーーーーっ!!?」
そして長きに渡るように感じた沈黙が、当のギルダーツ本人によって破られた。これでもかと言う衝動による絶叫が辺りに響き渡る。そりゃそうだろう。長い間共にした自分たちですら、二人の関係が実の親子などと知らなかったのだ。恐らく10年以上前から彼女を知るギルダーツ本人の衝撃は自分たち以上になる。
「色々あって……ずっと言えなかったんだけど……」
「ちょ……ちょっと待て……オマエ……!!」
「うん……受け入れ難いよね……」
当然ながら衝撃を受けて驚くだろうと予想していたカナは、未だギルダーツと目を合わせられずに語り続ける。狼狽える様子も隠せないギルダーツにいきなりのことで受け入れられないのも無理はないと考える。拒絶されるかもしれない。長い間抱えていた恐怖が、改めて込み上げられていく。
「誰の子なんだ!!?
サラ……ナオミ……クレア……フィーナ……マリー……イライザ……いやいやいや、髪の色が違う!エマ、ライラ、ジーン、シドニー、ミシェル、ステファニー、ケイト、ユウコ、フランソワ……」
「ってオッサン!!!」
そんな恐怖など一瞬で霧散して怒りに差し替わった。数えきれないほどの女性の名前が羅列されて、途中から膝を折って思い出すように震える手と指を動かしながら思い返しているギルダーツ。10年以上も前に親密だったらしい女性の名前を覚えている、と言えば聞こえはいいが、やってる事は節操なしのクズ男だ。
思わず怒りの声を張り上げたカナもそうだが、物陰で見ていたルーシィたちもドン引きしていた。色恋沙汰に疎そうなあのナツなんて、一同の中で一番顔が歪んでる。意外にも。
「どんだけ女つくってんだよ!!」
「わ、分かった!シルビアだな、そっくりだぜ!!……性別とか」
「アホか」と思わずペルセウスの口から零れた。全くもってその通りである。
「あーーもう!ハラ立つ~~!!こんなしょうもない女たらしがオヤジだなんてぇ~~~っ!!とにかくそう言う事だから!それだけ!!」
「ま、待てって……!!」
子供の頃からずっと抱え込んでいた悩みや葛藤が、このような男が原因だったと思うと一気にバカバカしく感じられる。イライラを抑えもせずに言い捨てたカナはギルダーツに背中を見せてそのまま立ち去ろうとし、情けなく四肢を地に付けていたギルダーツが手を伸ばして止めようとする。
「私が言いたかったのはそれだけ!別に家族になろうとか、そういうのじゃないからっ!今まで通りでかまわな……っ!!」
これ以上の話をしたくなくて、思わず強い口調で捲し立てて切り上げようとしたカナであったが、勢い良く振り向いた彼女の言葉を途中で区切ったのは、両腕でしっかりと抱き寄せる、先程まで情けない姿を見せていたはずのギルダーツだった。
「コーネリアの子だ。間違いねぇ」
あれほど動揺しながら今までの女たちの名前を羅列していた時とは違い、忘れる事のなかった母の名を確信持って言い切った父を、跳ね除けることも出来ずにカナは「放せよ……」としか言えなかった。
「何で今まで黙ってたんだ……!」
「言い出しづらかったんだ。そんなこんなで、今頃になっちまったのさ……」
ギルドで会えた時から、何度も言おうとしたものの、タイミングや立場、劣等感から癒えずにいた。S級になってから伝えようと決めて、何度も試験に臨んできた。今年もその願いは叶わなかったが、あらゆるしがらみを乗り越えて、ようやく伝える決心がついたのだ。
それをどこまで察せたかは分からない。しかしギルダーツはカナには伝えなければいけないと、思い至ったのだろうか。カナの母・コーネリアは、彼が唯一愛したと断言できる女性だった。女遊びはしていたものの、実際に結婚したのはコーネリアのみ。仕事ばかりだった夫に愛想を尽かして出て行ったのが18年前の事。それから数年して、風の便りで亡くなったことは知っていた。
ただ……亡き妻に己が子が宿っていたことまでは、彼も知らなかった。
「スマネェ……オマエに気付いてやれなかった……!」
「いいよ……わざとバレないようにしてたの、私だし……。勝手で悪いけどさ、これで私は……これで胸のつかえがとれた」
声と身体を震わせ、詫びる事しかできずにいる父の、己を抱きしめていた両腕をそっと外させながら、本心なのかどこか憑き物が落ちたような柔らかい表情で娘は告げる。長年押し殺してきた自分の秘密を、何も知り得なかった父にようやく明かせた。
「こんなに近くに……娘がいたのに……!」
「よせって。責任とれとか、そういうつもりで話したんじゃないんだ。いつも通りでいいよ」
そう、もう十分だ。今までのように、ギルドの家族として接してくれればいい。カナにとってはそれで十分。物陰にいたルーシィが、そんな彼女の心配気に見る。気丈に振舞っているのではないか、本当はようやく娘として父に接することが出来るのを、我慢しているのではないか。そんな気がしてならない。けど、カナの表情は、本当に晴れやかだ。
けど、たった一つだけ。ずっと胸の内に押し込んでいたこと……この言葉だけは、何度も口に出かけたこの言葉だけは、どうしても伝えたかった。
「ただ……一回だけ言わせて……。会えてよかったよ、お父さん」
嬉しそうに笑いかけながら、己を父と呼んでくれた
初めて彼女がギルドに来た日。自分の姿を見上げて、涙を浮かべながらもどこか嬉しそうな顔を浮かべていた幼い少女。
それから数年。ギルドに入ったカナが、自分が仕事に向かう度、何かを伝えようと言い淀みながらも見送ってくれたこと。
そして初めての昇格試験。激励を送ると驚いたように、けれども喜びを交えて張りきった様子を見せていた事。
思い返せば、あったじゃないか。彼女は何度も、何度も自分の娘であると言いたがっていた事か。気付いてやれなかった。何て酷い父親だ。愛する人との間に生まれた血の繋がった娘が、12年も、こうして言われるまで分からなかっただなんて。最低な男だと、自分でも分かってる。長い間思い悩んでいた娘に対して、何て無神経だったのかと。今更になって、やる事でもないだろうに。
けど……それでも……今までの娘の姿を思い返し、今目の前に真実を伝えてくれた彼女の姿を重ねて、抑えることの出来なくなった心の衝動が、目から涙となって溢れていく。そしてギルダーツは気付けば、娘の名を叫んで今度は固くその身体を抱きしめた。それに対して、最初は驚いた顔を見せたカナも、応えるように父の身体を抱き返した。愛しそうに、笑みを浮かべ、涙を浮かべながら。
「もう寂しい思いはさせねぇ!二度とさせねぇ!これからは仕事に行くのも酒飲むのも、ずっと一緒にいてやる……!」
「それはちょっとウザイかな?」
せめてこれからは、カナの父親として今まで出来なかったことを、今まで出来なかった分を取り返すように努めよう。仕事をとって、失ってしまった妻の分まで、己の身を娘に捧げよう。心に決めたギルダーツの言葉を口では邪険にしながらも、喜びを隠せない返事をカナが返す。
「だから……オレに、オマエを愛する資格をくれ」
失ってしまったものは、もう取り返せない。過ぎてしまった時間も、もう戻らない。けれども、これからの未来は本当の意味で、父と娘が共にあれるものでいよう。ようやく親子として新たに始めることが出来た二人の姿を見て、ルーシィも両眼に涙が浮かぶ。ナツとハッピーは何とか声を控えめにしているが、号泣している。
そして、同じように見ていたペルセウスは心から嬉しそうに笑みを深めた。同時につられて思い出す。
「(父親……親、か……)」
ペルセウスたち兄弟も、早くに両親を亡くした。彼の記憶にある両親の最後の姿は、容態が良くならない弟の治療の為の金銭を稼ぐため、大きな仕事を引き受け、夫婦で出発する直前の時。
『ペルセウス……シエルの事、頼んだぞ』
家の玄関で身支度を済ませた両親の内、父が真剣な面持ちで己へ呼びかける。
『ごめんなさい……あなた一人に、お願いしてしまう事になるなんて……』
そして母は、未だ小さい自分との視線を合わせる為に屈み、両肩に手を置いて悲しげな表情を浮かべながら告げる。正直に言えば、不安だった。しかしここで二人を引き止めれば、弟が危ないままだ。子供の自分が抱えた心情を押し殺し、気丈に振舞いながらペルセウスは両親に堂々と言った。
『薬の為……シエルの為でしょ?大事な事なんだから、仕方ないのは分かってる。シエルは任せて。俺はお兄ちゃんだから、大丈夫!』
気丈に努めた長男の姿に、母の顔が徐々に崩れ始める。そしてその小さな身体を強く抱きしめ、母に覆いかぶさるように、父もペルセウスの事を抱きしめた。
『すぐに薬を持って、帰ってくるからね……!』
『それまで、シエルとこの家を、よろしくな……!』
その言葉に、首を振って頷いたペルセウス。現実は非情で、それが両親と交わした最後の言葉となってしまった。どれだけ待っても、彼らは戻ってこない。だからこそ、カナたちのような親子は、後悔のないように、接してほしいと願う。自分たちのように、失ってからでは遅いのだから。
「(親と子……互いをしっかり、大事にしてくれよ……)」
せめてこの二人は、幸せに。いつまでも互いの存在を確かめるように抱擁を続ける親子を見て、ペルセウスはそう願わずにいられなかった。
────────────────────────────────────────
カナが自らの秘密を父に打ち明けていた同時刻。ラクサスへの挨拶や、過去のわだかまりの払拭……が霞むほどのちょっとした騒動を終えたシエルたち3名は、キャンプのあった方へと戻ろうとしている道中にあった。
「何か、今になって疲れが圧し掛かったみたいだ……」
「それグリモアとの戦いに関係ない疲れよね、絶対」
若干くたびれた様子のシエルがぼやきながら先を歩き、少し斜め後ろに続くウェンディの傍らで同じように歩くシャルルに細かい箇所を指摘される。あんな短時間で自分がウェンディにどんな想いを持っているのかを暴露されたも同然だ。直接的な言い方はされなかったものの、ラクサスの反応からして絶対に気付いている。
「リサーナもビックスローも、あれこれ好き放題言ってくるし……」
「明らかにそーゆーの好きそうだものね、あの二人」
「エバーグリーンも嫌味交じりに追撃してくるし……」
「散々アンタにおちょくられてるから仕返しも兼ねてるんでしょ」
今も思い出してしまう、あからさまにニヤついてあれこれ根掘り葉掘りしようとするビックスローとラクサスに小声でこれまであったことを教えようとするリサーナ。更にはこれまでの仕返しと言わんばかりにエバーグリーンまで乗っかってきて、疲れない方が無理だと言うものだ。
「(俺……そんなに分かりやすいのか……?……いや、客観的に見れば普通は気付くか……)」
「自分でちゃんと分かってんじゃないの」
「え、今声に出てた!?」
「声じゃなくて顔に出てたわ。そっちも分かりやすいわね」
終いには普段ではちゃんとコントロールできる顔にも出ているとシャルルに指摘され、あまつさえ読まれてしまう始末だ。とことん恋愛事になると弱いのだと、自覚させられる。……何だか情けなくなってきた。
「ふふっ」
すると、今まで話に加わっていなかった少女の零れたような笑みが聴こえた。振り向いてみると、どこか楽しそうな笑顔を浮かべているウェンディの姿。シエルは先程の騒動で少し気恥ずかしくなってまともに彼女の顔を見ることがしばし出来なかったので、ようやく顔を合わせられたのがこの瞬間になっている。
「どうしたのよ、ウェンディ?」
「ごめんね?シャルルとシエル、すっかり仲良しになったなぁって思ったら、思わず嬉しくなっちゃった」
突然のことで疑問を投げかけたシャルルに、心底嬉しそうに破顔させながら答える。その喜びは声にも込められていて、彼女にとっては本当にうれしいことであることが伝わる。そんな彼女の言葉への両者の反応は、極めて対照的だった。
「べ、別に仲良しってわけじゃないわよ……」
「俺はそうだったら嬉しいんだけどなぁ」
照れが勝って否定的な意見を告げながらそっぽを向くシャルルと、素直に同様の喜びを示すシエル。二人に存在していた(一方的ではあるが)壁はもう存在していないと言ってもいい。
そんな二人の反応に微笑ましさすら覚えたウェンディであったが、ふと彼女は顔を俯かせてシエルにある事を尋ねてきた。
「シエル、一個聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
「聞きたいこと?……って……!!」
徐にそう言ってきたウェンディの問いかけに、最初は首を傾げていたシエルであったが、先程のラクサスたちとのやり取りを思い出して心当たりを覚え、一気に顔が真っ赤に染まった。
少し考えてみれば、あれ程色恋的な意味で何人も揶揄って、想いが駄々洩れにされそうなやり取りを見せられれば、余程の鈍感でなければ気付かれるのも必至だ。気恥ずかしさから隠していた好意が、明かす前にバレてしまった。そう確信したのだ。
「な、ナンデショウカ……?」
思わず声が上擦って片言になってしまうシエル。この後問われるであろう質問に、どう答えるべきなのだろうか。素直に白状するか?それとも今の関係性を重視して誤魔化すか?考える時間も余裕ももはや存在しない。傍らにいるシャルルが、双方を細い目で見やっていることも気付けていない。時間は無情に流れていき、ウェンディの口から、その問いは明かされた。
「S級魔導士になれなかったこと……ホントに良かったの?」
「そ、それはえっと何と申したらよろしいか……って、え、S級?」
聞かれたことと言うのは、シエルの想定とは一切関係ない事柄であった。想像していた質問とは一切無関係だったために、シエル自身も反応が遅れてしまう。質問を頭で反芻してようやく落ち着いて聞き返してみれば、シエルの目に映ったのはキョトンとした顔で首を傾げているツインテ少女の姿。
「……聞きたいことって、S級の事?」
「え?うん、そうだけど……」
「(こんな事だと思ったわ)」
冷静になった頭で改めて聞き直してみれば、返ってくるのは肯定。さっきまで散々自分たちの中を疑われ、揶揄われていたはずなのに一切気にも留めていないかのような反応。シエルは膝から崩れ落ちそうになるのを何とか堪え、何とか安堵と落胆を悟られないように取り繕うと必死になる。怪訝の表情がウェンディが浮かべているが、彼の本意には本当に気付いていないようだ。哀れ。
呆れと憐みの目を向けながら、胸中で独り言ちたシャルルの視線が突き刺さるも、どうにか持ち直して「そ、そうだよね、気になるもんね、そりゃ……」と言葉をつなぐ。内心、心臓のダメージは半端ないだろうに、よく耐えている。
「そうだな……結論を言うと、前よりも固執しなくなったから、今回に関しては見送るのが最善だった、ってところかな」
心身ともに落ち着きを取り戻したシエルは、改めてウェンディが抱いていた疑問に解答した。シャルルにはもう既に話していた、今まで何故S級と言う称号を強く渇望していたか、それが兄に並び立てるために進むべき道と思っていた事。しかし今回の事を通し、ウェンディに励ましてもらった言葉をきっかけに本当に重視するべき事、自分が望んでいたことは、もう叶えられていたことに気付けたこと。
そしてマカロフから昇格の話を持ち掛けられたが、今の自分の力不足を理由に辞退したが故の、昇格試験中止だったことを説明する。当然、あの時のマカロフの発表の裏でそんな事があったなど夢にも思わなかったウェンディは驚いていた。
「自分の中の整理がついたって感じで……S級になれなかったからって、俺には称号よりももっと大事なものをとっくに手にしていたことに、気付くことが出来た」
「じゃあ、もうS級魔導士になるつもりもないの?」
長年憧れていた称号。兄と同じ位置に立つことを許される資格を、もう手にするつもりはないのか。それでシエルは、本当にいいのだろうか。心配が含まれたその問いに対して彼の返答は……。
「……それとこれとは別!来年も選ばれて、リベンジを果たす!そのつもりで、また帰ってから仕事と研鑽の日々の始まりだ!」
否だった。兄と同じ道筋を歩くつもりは、もうない。自分はシエル。
「空回りして普通に落ちたりしないわよね?」とシャルルに揶揄い混じりに指摘され、「て、手厳しいな……」と少しばかり身体が傾いている彼の姿を見て、ウェンディの中に今まであった蟠りが徐々に無くなって散っていく。
昇格試験が発表され、パートナーに選ばれなかったあの日から、度々生まれ、積まれていたモヤモヤがあった。ウェンディ自身にも、詳細が判明しなかったその感情が今は不思議と薄れていってる。だがこれだけは分かった。目の前にいる少年が、彼女の心を晴らしてくれたのだと。
「(よかった……いつものシエルだ)」
何度かシエルがシエルでなくなってしまう不安と恐れがあったものの、今ではその兆しすら見られない。本当に今まで通り、確信を持ってシエルと言う少年が目の前にいると感じられた。その事実がどこか嬉しくて、彼女の表情に自然と笑みが浮かんだ。
「あ~~……えっと、それでさ……」
すると、視線だけが横に逸れ、微かに赤くなった頬を指で描きながら、何かをウェンディに言いたそうな少年を見て、そちらに意識を向ける。
「まだ先のことに過ぎないんだけど……もし来年も、昇格試験の参加者に選ばれたらさ……
ウェンディに、パートナーになって……ほしいなぁって……思ってるんだけど……イヤ、じゃなかったら……」
その頼み事は、彼女にとって何より望んでいたものと言っていい。思えばウェンディは、
「イヤじゃない!全然!シエルがいいなら!わ、私!パートナーになって、シエルを合格させてみせる!!」
そんな高揚が爆発しそうになり、勢いが生じて彼女の足を進ませたために、徐々にウェンディの身体がシエルへと近づいていく。最終的には仰け反ったシエルの身体が戻ろうものなら密着してしまうほどの近距離だ。ただでさえ赤らんでいたシエルの顔が更に濃くなり、表情も取り繕うことが出来ない程混乱している。
じっとその表情を見たウェンディは、ようやく自分が過度に近づきすぎていたことに気付いて、シエル同様に顔が真っ赤に染まり、謝りながら距離を離した。「何やってんのこの子ら……」とシャルルが向ける呆れた視線が刺さって痛く感じる。
「え、えと……本当に、私がパートナーでいいんだよね?」
「う、うん……!お願いできる、かな……?」
どこかきまずい雰囲気を醸し出しながらではあるが、改めて次回の試験についての約束を取り付けた二人。気恥ずかしそうに互いに視線を外していたものの、「勿論!」と満面の笑みで返答したウェンディを見て、シエルの顔も綻んだ。が、すぐさまその顔は迂闊だったと言いたげに驚きへと変わる。
「あっ、ちょっと待って……勝手に決めちゃった感じになったけど……その……」
そうぼやきながら移した視線の先はシャルル。ウェンディの相棒たる存在である彼女の意見も一切聞かないまま進めてしまった事に、シエルは今更になって気付いた。彼の予想ではくどくどと小言混じりに文句を言われることは間違いない。下手をすると却下されるかも……と不安を抱えていたのだが……。
「別にいいんじゃない?お互いに不都合がないなら。私が口を挟む事でもないわよ」
いつものように腕を組みながらだが、特に機嫌を損ねた様子もなく、遠回しの許可を下したシャルルの返事。認めてくれた、と言う解釈でいいのだろう。これまでシエルには特に壁を作って、ウェンディから遠ざけようとしていたあのシャルルが……!思わず感涙がシエルの目に浮かび、気付けば衝動のままに動いてしまっていた。
「シャルル~~!!」
「ちょっと!?何よいきなり!!放しなさいよぉ!!」
勢いのままに彼女を抱き上げ、その腕の中へ誘い包み込む。ベタベタ触るほどの許しは出した覚えなどない!と言いたげに赤くなった頬と剣幕を前面に押し出しながら開放するように叫ぶが、感激の坩堝に嵌っているシエルは放そうとしない。
そんな二人の姿に、みたび楽しそうな笑みを零したウェンディは、視線を外さないまま、今しがたシエルと交わしたパートナーの件について、頭の中で反芻した。
「約束だからね……」
細めたその目に、親友の白ネコを抱えて今もなお、お礼の言葉と共に頬ずりして邪険に扱われる少年を収めながら、人知れずそう呟くのだった。
────────────────────────────────────────
─────苦難を乗り越え、掴み取った勝利と平穏。
─────優しい空気と、暖かい日差し。
─────あらゆるしがらみも取り払われ、未来に向けて歩み始めた妖精たち。
─────誰もが、この後に起こる事を、想像だにしていなかった……。
「来たか……『アクノロギア』……!」
半壊となった巨大な黒鉄の飛空艇。その頂に立つは、黒衣に包んだ覚醒の黒魔導士。
彼の口から紡がれたそれは、迫り来ているある者へと向けられたもの。
雲の奥の更に向こう。何よりも早く空を駆け、とある場所へと向かう、巨大な黒き影。
─────X784年12月16日。天狼島。
─────絶望を招くその象徴が、突如破滅を引っ提げて、襲来する。
次回予告
決して追いかけることなかれ。
決して挑むことなかれ。
あれは人には御せぬ者。
あれは人には敵わぬ者。
その爪振るえば大地を砕き、
その牙触れれば命を落とし、
その咆哮は天さえ引き裂き、
その翼広げば人は滅びゆく。
決して見られることなかれ。
決して悟られることなかれ。
認識されたのなら最後。
どこまでだろうと逃げれはせぬ。
耐え忍べ、生き延びよ。
希望を抱いた5つの星が、
門を潜って現れるまで。
かの災厄より、逃れるべし。
奴こそは、破滅の化身。
世界も滅する、生命の敵。
その黒竜の名は──────。
次回『絶望表す暗黒の翼』
出典:
著者:────・─────── ───・───────