FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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職を捨てたくせにここ最近月一更新となっていますが、どうにか更新できました。
やっぱ、少しずつでも書いときゃ書けるんだよ、と実感した期間でしたね。

今回の話なんですが、実は普段はほとんど使用しない多機能フォーム(文字拡大、太字など)を少々多めに盛り込みました。本当に滅多に使わないんですが、今回は特別です。理由は…まあ、言わずとも、ですかね。


第140話 絶望表す暗黒の翼

それは突然、前触れもなく訪れた。

 

「……!!」

 

「っ……!ど、どうしたってのよ、いきなり?」

 

「この感じ……!!」

 

親子の再会を遂げ、互いを抱き寄せていたギルダーツとカナ。しかし島全体に不意に流れた異様な音と気配を感じた父親は、直感的に警戒を強め、娘を抱えていた力も上げる。唐突な痛みを覚えたカナは不安そうに顔を見上げて問いかけるも、父ギルダーツの意識は別の方へと向いていた。

 

「今のは……?」

 

「何だろう……」

 

「妙な風だな。ヤなニオイだ」

 

そしてその異様を感じ取ったのは他にもいた。茂みの奥で親子を見守っていたペルセウスたちも、表情を硬くして異様な音に対して警戒を露わにしている。その中でハッピーが何かに気付いたのか「あ、そっか!」と言うと、背負っている荷物袋を漁りだす。何に気付いたのだろう、と人間三人の視線を受けていた彼は……。

 

「はいルーシィ。食べていいよ」

 

「何でよ!?意味分かんないんですけど!!」

 

「何も今からかうことぁねーだろハッピー……」

 

自らの食糧であろう魚をルーシィに差し出して、満面の笑みでそう言った。冗談……だと思うのだが、それにしたって今そのような冗談を言う必要もないだろう。という感想を抱いたペルセウスが苦言を呈した。

 

「失礼だなぁ。オイラは大真面目だよ」

「どっちが失礼よ!!」

 

対するハッピーの反応は心外だと言わんばかりの文句だった。……これも冗談……だよな?と半ば現実逃避した思考の渦に嵌まり込むペルセウスだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時は少しだけ遡り……。

 

「……?」

 

キャンプへと戻り、到着したと同時に同じような違和感を覚えたウェンディ。思わず立ち止まって、気配と音の発生源と思われる上空へと目を移すが、映っているのはこれでもかと鮮やかな青空のみ。

 

「ウェンディ?どうしたのよ、立ち止まって」

 

「ううん、何でもない。多分気のせいだと思う」

 

唐突に足を止めた彼女に気付いた相棒が不思議そうに尋ねてくる。シャルルは特に違和感を覚えているような感じには見えず、恐らくは自分の気のせいなのだろうと結論付けたウェンディはそう答えた。しかし、彼女の隣を歩いていた少年からはウェンディの怪訝を裏付ける言が告げられる。

 

「もしかして……ウェンディも感じたの?今の」

 

「え?じゃあ、シエルも?」

 

天候魔法(ウェザーズ)の魔導士であるシエルと、天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるウェンディ。大気の流れや変化に敏感となる魔法を会得している恩恵が関わっているのか、確かに感じられた違和感に、揃って確信を得られた様子。二人とは違って何も感じられなかったシャルルは僅かばかり戸惑いながらそんな二人の様子を窺う。

 

「あら、三人ともどうしたの?そんなところに立って」

 

そんな彼らに笑顔を見せながら声をかけてきたのはミラジェーン。ケガが完治していないのに配膳して回っている様だ。彼女の容態も気にはなるが、今シエルの意識は先程感じ取った違和感の方が大きかった。

 

「ミラ、今さっき、妙な感覚がしなかった?俺もウェンディも、何かを感じ取ったみたいで」

 

「え?う~ん、私はこれと言って何も気にならなかった気がするなぁ」

 

試しに聞いてみたものの、ミラジェーンからの回答は芳しいものではなかった。彼女のみならず、他の者たちもシエルの問いは耳に入ってはいるようだが、同様に気付いたと主張する者はいないらしい。

 

「私たちだけ……なのかな?」

 

「どうだろう……」

 

空気の変化に過敏である自分たちだからこそ、僅かに感じた者に対して必要以上に警戒してしまった、だけなのだろうか。現にしばらく経ったのにそれらしい異変はもう起きていない。顔を見合わせて揃って首を傾げるも、答えは出てこない。

 

「ひとまず、みんなもこっちに座ったら?帰る前にもう一段落した方がいいわよ」

 

ミラジェーンに誘われ、他の面々が集まっているテーブルの、空いているスペースへと二人は座る。シャルルはテーブルの上へと上がり、ウェンディの近くにそのまま座った。

 

グレイから、どこに行ってたんだ?と問われて、正直にウェンディのラクサスへの挨拶に同行していたことを答えたり、ナツを始めとした一部の面々が見当たらない事を話題にして時間を過ごしていく。

 

 

 

 

 

―――――オオオオォォォ……

 

「……!!」

 

だが突如、はっきりと聴こえた。先程二人揃って感じ取ったものと同じ、とは確信が持てないが、妙な感覚とその音を。くっきりと覚えたその感覚は、今度ばかりは場にいる全員にも伝わっており、誰もが疑問を感じたように意識を向けている。

 

「これ、さっきの……」

 

「何だろう……?」

 

再びウェンディと顔を見合わせて妙に感じるが、やはり確信を持った答えは割り出せない。何なのだろうか、この謎の音と異様な感覚は。

 

「どうせ、ルーシィの腹の虫かなんかだろ」

 

「ええっ!?こっちのルーシィって、こんなスゴイ音するの!?」

 

「ちょっとガジル?デリカシーにかけた発言しないでよね」

 

頬杖をついて興味が薄そうにぼやいたガジルの発言に、リサーナがギョッとした顔で反応する。当然適当だ。真に受けたリサーナとは違いすぐさまタチの悪い発言と理解したレビィが遠慮なく注意し、それを受けたガジルがどこ吹く風と言いたげに「ギヒ」と一笑に付した。

 

関係ない話だが、試験を終えてからレビィとガジルの空気が……主にレビィの態度が随分変化したように見える。

 

「まあ!それならお食事多めに用意しておかないとね♪」

 

「お、おい!ジョーダンだっつーの……」

 

そしてここにも真に受けてしまった人物が一人。冗談さなど感じない満面の笑顔でルーシィへの食事を用意しなくてはと告げたミラジェーン。ある意味ではさすが姉妹と言うべきだろう。さすがに本気にすると思っていなかったらしいガジルが戸惑いながらぼやいた。

 

「まあ、それにしても妙な地鳴りだったな……」

 

―――――ハァ……ハァ……ハァ……

 

「ん?何か下の方から別の妙な音……がっ!!?」

 

妙な空気の揺れを感じたと思ったら、今度はかなり近い場所……正確にはグレイの方から荒い息遣いのような音が耳に入り、思わずシエルがその方向へと目を向ける。すると、先程は意識していなかったので気付かなかったが、とんでもない光景が見えて思わず絶句し、青ざめた。視界の端にいるビックスローとフリードも、同じものを見て同じ顔をしている。

 

「どうしたシエル?そんな顔して」

 

だがそれに気付いているのかいないのか、平然とした様子でこちらを窺ってくる当のグレイ本人。これは、もしも嫌な方向で自分の予想が当たっていた場合、彼との交友を改めなければならないと覚悟を秘めつつ、誤魔化すことも出来ない為に恐る恐る確認することにした。

 

「いや、あの……グレイ?今自分が何に座ってるか、分かってる?」

 

「何ってイスに決まって……うおっ!!?」

 

少しばかり身を引いて、心は更に距離を開けて尋ねたその問いに答えながら下を向いたグレイは、ようやく気付いた。ただのイスだと思って自分が腰かけていたそれはイスなどではなく……

 

 

 

興奮した様子で己を突き出していたジュビアの臀部だったことに。いつの間にいたのか。

 

「ゼレフを逃がしたジュビアは、グレイ様のイスがお似合いですわ!!」

 

「だから!そんな趣味はねぇっつってんだろ!!」

 

お仕置きと称しながらも嬉しそうに悶えながらグレイのイスに徹していたジュビアであったが、グレイがその状況に甘んじることはなく、すぐさま退いた。グレイへの愛が暴走しすぎてしまい、厄介なストーカーを飛び越えてただの変態へと至ってしまったのだろうか。

 

まあ、脱ぎ癖がある変態(グレイ)と並んでみると、似たもの同士で寧ろお似合いなのではないか、と思っているのだが。

 

「おい!今物凄く不穏なこと考えなかったか!?」

「あの!今物凄く素敵なこと考えませんでした!?」

 

などと心に留めて置いたら、センサーが発動したのか声も揃って詰め寄られた。やっぱお似合いだよこいつらさっさとくっつけ、とか思いながらシエルは二人からそっぽ向いた。

 

「はい、二人ともお待たせ」

 

「ミラさんもケガしてるのに、すみません……」

 

妙なコントにも似たやり取りを横目に眺めていたウェンディ、そして参加していたシエルの元に、ミラジェーンが木のコップに入った飲み物を持ってきて二人に振舞う。もしや場にいる全員分を用意したのだろうか。傷もまだ回復しきっていないと言うのに。

 

「俺、もっかい日光浴(サンライズ)上げようか?」

 

「いいわよ。後はもうみんな帰るだけだし、これは私が好きでやってるんだから」

 

「さすが姉ちゃん!漢だぜ!!」

 

「違うでしょ!!」

 

相変わらず意味の分からない場面で“漢”を用いるエルフマン。シャルルに苛立ち混じりに指摘されるが、直後に彼の後頭部に衝撃が走った。絢爛な装飾が施された扇を彼の頭に叩きつけたのは、試験中彼のパートナーであったエバーグリーンである。唐突な行動に文句を付けようとゆっくり振り向いたエルフマンであったが、彼女の表情はそれを上回るほど不機嫌に染まっている。

 

「漢、漢って……アンタ見てると無性にイライラしてくんのよ!!」

「アダダダ!?何だそりゃ!!」

「何でもよ!!」

 

声と肩を震わせて俯いていたエバーグリーンであったが、苛立ちをぶつけるように扇でエルフマンの頭を何度もひっぱたいていく。呆然としながら眺めている外野の事も忘れて、捕まってた時がどうのこうの、喋ったら石にするだのと言い合いになって、ミラジェーンから「仲が良いわね~」と微笑まれたら揃って否定を叫んだり。傍から見れば痴話喧嘩である。

 

「なんか……この二人も随分変わった感じするよな?」

 

「ふふ、そうだね!」

 

「人の事言えるの?」

 

そんな、どことなく空気感がガラッと変わったエルフマンたちのペアを遠巻きに、小声でシエルが聞いてみれば同調するようにウェンディが微笑み、シャルルが呆れたような苦笑でシエルに指摘する。和やかな雰囲気を醸し出していた彼らであったが……。

 

「「……?」」

 

ミラジェーンが用意してくれた飲み物にふと目を向けると、中に入った液体が、不自然に揺れ、波打ち、やがていつの間にか再び生じていた不可解な空気の揺れが収まると同時に落ち着きを取り戻した。

 

何度目になるか分からない違和感を覚えた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

 

「きゃあ!?」

「な、何なの!?」

 

島全体を、轟音が襲った。轟音は大気と地面を揺らし、その場にいた魔導士たちの身体を、鼓膜を大いに揺さぶる。一瞬のようにも、長いようにも感じられたその音。自然に起きたものとは到底思えないその音は、まるで雄叫びのような者にも聞こえたが……。

 

「ドラゴンの鳴き声……!?」

 

「何!?」

「ドラゴン!?」

「雷ではないのか……!?」

 

その正体を呟いたのは、ドラゴンを親として持つ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のウェンディ。彼女の予感があっているのだとしたら、今この時、ドラゴンが実在していることの証左へと繋がる。それもすぐ近くに。この場にいるもう一人の竜を親に持つ鉄竜(ガジル)もまた、心当たりを感じられた様子を見るに、偽りでない事は明らかだ。

 

 

 

 

 

―――――オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

そして畳み掛けるように再び響く、ドラゴンと思しき咆哮。場にいるすべての魔導士に緊張感が走り、先程とは打って変わって人は静寂に包まれる。

 

「みんなぁ!大丈夫!?」

 

そんな静寂を破って聴こえた声は、こちらに駆け寄ってくるルーシィのもの。彼女を始め、ナツやペルセウスたちも駆け足でこちらへと来ているのが見えた。

 

すると突然、ギルダーツが腕に痛みを覚えたのかその場に止まって蹲り、その箇所を押さえて呻きだす。押さえた箇所は左腕。()()()()だ。もうほとんど痛覚は機能していないはずの箇所である。

 

「大丈夫!?」

 

「……古傷が疼いてきやがった……!間違いねえ、ヤツだ……ヤツが来るぞ……!!」

 

すぐさまカナに案じられた父は、嫌でも思い出していた。先程の声、この異様な気配、感じられるプレッシャー。確信をもって言える。()()が……近くにいる。一体何なのか、ナツが問うよりも早く、異常にすぐさま気付いたリリーが叫んだ。

 

「おい、上を見ろ!何か来るぞ!!」

 

その声に全員が上を見上げる。そして全員が気付いた。その存在に。思わず固まってしまうほど、それはあまりにも衝撃を受けざるを得ないものであった。

 

 

 

日によって白く照らされていた雲に、影を差すかのごとく巨大な影。天高くにいたそれがゆっくりと下降してくると、雲に隠れていたその姿が現れる。広げられたそれは、真っ黒に染まりながらも斑点のように刻まれた群青の模様が散りばめられており、巨大な影の大半を占めているかのような錯覚を受ける、一対の翼。

 

「何だアレ!!」

 

ぶら下げているかのように見えるのは、まるで人間の腕のよう。しかし先端に鋭く付いている鉤爪が、人ならざるものを明確に表している。そして触れるだけで人の命を刈り取れるほどに、例外なく大きい。

 

「でけぇぞ!!」

 

高度をさらに下げて現れたのは、目だと思われし、白い比較的小さな光。注視して見ると、顔のようなものが見えたものの、明らかに獣の如き頭部を持ち、且つ雄叫びを上げると同時に晒したのは、凶暴さを象徴させる多くの鋭い牙。

 

「これは……!!」

 

そして巨大な翼をはためかせて雲を吹き飛ばしながら、島へとさらに接近したことで、その全貌が明らかになる。翼で空を駆り、牙が並ぶ口から獣の如き声を発し、力強い四足歩行の生き物のような四肢に付いた爪を見せ、その力強さは体躯に負けない尻尾の先端まで現れている。

 

その様相は、これまで見てきた獣など、悉くすべてが小動物に思えるほど、圧倒的な姿。まさしく……竜。

 

「ドラゴン!?」

 

漆黒のドラゴン。言い表すには容易くも、その存在自体がまるで信じがたいものでもあった。生まれて初めて実物を見た者も多い中、突如天狼島に現れた……と言うよりも、訪れた風に見えるその黒竜に、何故?という疑念が浮かぶ方が大きかった。

 

「何なの……一体……!?」

 

更に高度を下げ、こちらに近づいてきたことにより、巨大な身体が通過するだけで巻き起こった風圧に、思わずその場の全員が煽られ、身を屈める。木々も揺れ、大地も震え、舞い散る木の葉が辺りに吹き荒れる。

 

「マジかよ……!!」

 

「本物の、ドラゴン……!!」

 

「やっぱり……ドラゴンはまだ……生きていたんだ……!!」

 

(ドラゴン)を親に持ち、(ドラゴン)に対する術を持つ魔導士たちでさえ、親以外の本物のドラゴンを7年以上ぶりに目にした衝撃に、言葉を失う他なかった。

 

「『決して追いかけることなかれ。決して挑むことなかれ』」

 

誰もが衝撃に唖然とし、かの竜から目を離せず、言葉を失っている中で、同じようにその大いなる存在を見上げていた者の内の一人が、徐に口を動かした。言の葉を紡ぎ出したのは年若い少年。憑りつかれた様にうわ言の如く呟くその姿は、常軌を逸していると言われても過言ではない。

 

「『あれは人には御せぬ者。あれは人には敵わぬ者』」

 

「シエル……?」

 

比較的近くにいた者は唐突にぼやきだした彼へ目を向けるも、当の少年には気付く様子はない。彼女と親しい少女の、案じる声すらも耳に入っておらず、ただ黒竜を見上げて口を動かし続ける。

 

「『その爪振るえば大地を砕き、その牙触れれば命を落とし、

その咆哮は天さえ引き裂き、その翼広げば人は滅びゆく』」

 

「……!!」

 

紡がれる言葉に、かの黒竜と合致する特徴が込められていることに気付き、彼の兄である青年の目が見開かれる。弟は知っていた。否、思い出したと言うのが正しいか。あの存在について、書物で語られていたことを。

 

「『決して見られることなかれ。決して悟られることなかれ。

認識されたのなら最後。どこまでだろうと逃げれはせぬ』」

 

こちらを見下ろし、空に漂い続け、唸り声を時折漏らす黒き竜へと目を戻し、白く光る二つの眼に、自分たちの存在が映りこんでいるのではと思わずにいられない。そしてまるで……あの竜に視認されたからには、どこへだろうと逃げられないと、理解させられてしまう。

 

「『耐え忍べ、生き延びよ。希望を抱いた5つの星が、門を潜って現れるまで。

かの災厄より、逃れるべし。奴こそは、破滅の化身。世界も滅する、生命の敵』」

 

呟くほどの声量にも関わらず、シエルの声は不思議とこの場にいる者たち全員へ、鮮明に聞こえた事だろう。まさしく、目の前に見える存在を言い表すのに、他の例えなど見つからないとさえ断言できる。

 

「『其は絶望表す暗黒の翼。その黒竜の名は』……」

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「『アクノロギア』……!!!」

 

狙いすましたかのように高々と吼える黒き竜・『アクノロギア』。書物の引用を終えたらしいシエルが最後に呟いたその名を聞き、多くの者たちが息を呑む。災厄を纏った絶望の象徴。その名前を、刻むかのように。

 

「アクノロギア……!?黙示録に載っておる、黒き竜……だと言うのか……!?」

 

そしてその名を耳にし、心当たりを覚えたのは今しがた到着した様子のマスター・マカロフ。同じようにエルザとラクサスも、その名をしかと聞いて、上空に佇む黒竜を見上げる。

 

義手となった左腕を押さえながら同様に見上げていたギルダーツは、この中で唯一対峙した経験を持つ。シエルが呟いていた文章は聞き馴染みはなかったものの、一切非の打ち所がない伝承に似た文言に納得すらしてしまうと口にする。

 

「シエル、その文章は一体、何の本で読んだ……?」

 

マカロフも知っている……正確には黙示録に記されていたと言うドラゴンの存在。弟はどこで黙示録に匹敵する竜の情報を得ていたのだろう。思わず問うたペルセウスに対し、返ってきたのは彼も予想していなかったものだった。

 

(ウチ)にあった本だよ!俺たちのご先祖様が残した、兄さんにも見せた、あの本に!!」

 

「何だと……!?」

 

自分たちが生まれ育った町で、未だ両親が健在だった頃から病床のシエルが読んでいた本。父が持っていた、代々受け継がれてきた本に記されていたと。何故目の前へ襲来してきた竜にまつわる伝承が、そんな本に?自分たちの祖先にあたる人物は、実際に奴と邂逅していた事があったと言うのか?

 

思わず考え込み、意識を目の前の竜から外したペルセウスだが、考えたところで答えは出ず、なおかつ疑問しか浮かんでこない。実際に本を読んだシエルならあるいは……。

 

「お前!イグニールが今どこにいるか知ってるか!?あと、グランディーネとメタリカーナも!!」

 

「よせナツ!!ヤツを挑発するな!!」

 

初めて見えた本物のドラゴンへ向けて、同じドラゴンの事について所在に関する情報を問いかけるナツ。だがそれは問われた竜ではなく、対峙したことのあるギルダーツによって制止された。彼は既に、あの黒竜の……アクノロギアについて話していた。100年クエストに失敗し、ギルドに帰還したあの日に。

 

『左腕と左足……内臓もやられた』

 

仕事先でドラゴンに会った。その言葉を皮切りに伝えた、絶望を表す黒いドラゴン。ギルダーツはあの竜と偶然遭遇し、ほとんど一瞬の内に敗れ去った。彼の左側の身体に欠損があり、義手と義足などで補っていたのは、奴の仕業だ。ギルダーツはアクノロギアをこう断じている。

 

奴は間違いなく人類の敵。そして、人間では勝てない。

 

「降りてくるぞっ!!」

 

見定めるように滞空していた膠着の時を破り、ついにアクノロギアは島へと降下する速度を上げた。魔導士たち……人間たちのすぐ目の前に向かって。

 

「あれは、ナツたちの大好きな竜じゃない!もっと邪悪な……ううっ!!」

 

相棒であるナツから何度も聞いたイグニール(父ちゃん)の話。そんな思い出話とは一切結びつく事のない、あらゆる全てを破壊しかねない空気と威圧感を放ってくる黒竜へ、断言したハッピーの言葉を切り捨てるようにアクノロギアは降り立った。地面へと到達した……そのたった一つの行動だけで、身体が吹き飛びかねない強い突風が辺りに吹き荒ぶ。

 

「ああ、その通りだ……こいつは人類の……いや、さっきの言葉を借りれば……生命そのものの敵だ!!」

 

冷や汗を垂らし、唸り声を上げる黒竜を改めて目にしたギルダーツは、己の認識が、未だに甘いものであったと断定する。人類の敵……そんな生易しいものではない。人のみならず数多の命と言う命を、滅ぼしかねない存在であると。

 

「じゃあ……こいつと戦うのか!?」

 

「いや違う!シエルが読んだっつー本に書いてあった通りなんだよ、ナツ……」

 

敵と言うのなら戦うしかない。そう判断したナツであったがギルダーツは否を唱える。最早戦うと言う選択肢すら用意されていないのだ。シエルが口伝した奴にまつわる伝承が、彼の考えに確信を抱かせた。

 

「『あれは人には敵わぬ者』……『決して見られることなかれ』……か。全くもって同感だ……勝つか負けるかじゃねぇ、こいつからどうやって逃げるか……いや……

 

 

 

 

 

 

 

オレたちの内……誰が生き残れるかって話なんだよ……!!」

 

その言葉の意味を、ナツは数瞬理解できなかった。いや、理解したくなかった、というのが正しい。左手に当たる部分を前へと伸ばして地を叩き、距離を詰めてきたあの竜に、挑むどころか逃げる事すら叶わぬ者が出てくる可能性があると?

 

「こんなヤツに……オレたちの誰かがやられるっていうのかよ!!!」

 

考えたくもない可能性を示唆され、激昂するナツの声に反応するかの如く、アクノロギアが(こうべ)を擡げてより一層大きく吼え出した。これまで緩慢とも言える動きしか見せなかった黒竜が明確に行動を起こしたことを察知したギルダーツが、いち早く声を張り上げる。

 

「まずいっ!みんな、逃げろぉーーーーー!!」

 

その声に全員が反応を見せ、驚愕を見せる。しかし直後に行動を起こせた者は誰もいなかった。誰かがその身を翻すよりも、足を動かすよりも、指先一つさえ力を入れるよりも早く、災厄が猛威を振るった。

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

黒竜咆哮。

四肢を地に縫い付け、今までの何よりも大きく吼える事によって、巻き起こる振動、突風、轟音、重圧、あらゆる全てが規格外となるそれは、踏ん張り利かせた人間の身体を、一秒足らずさえ保つことを許さず、容易く紙切れの如く吹き飛ばす。

 

それだけではない。地面を抉らせ石片を飛ばし、仮設で作ったテントや寝床もあっさり破壊し、粉塵と共に巻き上がった石や木が新たな地と樹木を削り、さざ波一つ起きない緩やかな河川を激流へと変貌させ、加工されたらしき石壁に無数の亀裂を生み出して瓦解させる。

 

広大な天狼島の一角が吹き飛ぶかのような爆発となり、巨大な樹木たる天狼樹を支えていた土台となっていた山の一部が、切断されるかのように倒壊してしまった。

 

 

 

どれほどの時間が経ったのだろう。そう錯覚させるほどの勢いがようやく収まったと思い、ナツは閉じていた眼を開く。そこに広がっていた光景を見て、愕然とした。

 

「お、おい……なんだこりゃ……!」

 

先程まで自分たちは、鬱蒼とした森林の一角……比較的木々が生えていない開けた場所をキャンプにし、集まっていた。だがそんな景色など、まるで遠い過去のよう。周囲にあったはずの森は消し飛んでおり、広がっているのは殺風景な更地がほとんど。たった一回吼えただけで、島の地形すら変えてしまった。

 

「これが、ドラゴン……!本物の、竜の、力……!?」

 

あまりにも信じがたい現実。想像を絶する破壊力。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が扱う竜の力を、何度も目にしてきたシエルであったが、彼らの力はその一端しか出せなかったものと言わんばかり。あまりにも次元が違い過ぎる。

 

そして当の黒竜の姿は、いつの間にか地上から消えていた。ふと上へと目を向けると、黒い翼を広げて、アクノロギアは再び上空からこちらを見下ろしていた。わざわざこちらを見下ろす真意を測り切れず、ペルセウスは疑念を思わずぼやく。

 

「様子見、してんのか……?」

 

「いや、高みの見物ってトコだろ……。今のはあいさつ代わりに過ぎねぇのかもな……」

 

その声を拾ったギルダーツが、しかめ面で奴の思惑を推測する。返答を受けたペルセウスのみならず、娘であるカナもその言葉に目を見開く。島の地形の一部すらも変えたあの咆哮は、アクノロギアにとっては取るに足らない行動の一つ。

 

人がただ歩くだけで小さな虫を踏み潰してしまうかのように、息を吹きかけるだけで埃や木の葉が簡単に舞い散るように、砂や雪で作った形あるものを、ほんの少し力を加えただけで崩れ、壊れてしまうように。ドラゴンが人間を蹂躙することなど、無意識の内にでも容易にこなせることだと言っているよう。

 

それを心の底に刻み込まれ、恐怖として植え付けられた人間たちが、恐怖で動けなくなってしまう。幸か不幸か、今の咆哮で命を散らした者はいない。しかし奴にとってのほんの小手先で恐々としていては、命がいくつあっても足りないと言うのも事実。止まっている暇などない。

 

惑い、恐れ、慄いている人間たちを嘲笑い、追い立てるかのように、黒竜は再び高々と吼える。翼を動かして、またもこちらへと照準を向けているのが、心なしか感じ取れた。最早一秒たりとも足踏みしている余地はない。

 

「来るぞぉ!!船まで急げェ!!!」

 

「走れ!みんなで帰るんだ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ!!」

 

ギルダーツ、そしてエルザが声を張り上げ、奮い立たせ、全員が用意されている船の方へと走り向かう。各々が数人で固まる形となり、意図せずとして分散されているものの、いつ誰が標的にされるのかは分からない。現に逃走を開始したことで黒竜は高度を徐々に下げてこちらとの距離を縮めてくる。

 

「ウェンディ!アンタ竜と話せるんじゃなかった!?何とかならないの!!?」

 

「私が話せるんじゃないよ!竜は高い知性を持ってる!!」

 

並走して船へと急ぐウェンディを見上げながらシャルルが投げた問いに、彼女は異を唱えると共に詳細を告げた。ウェンディのみならず、ドラゴンに育てられた者たちはドラゴンから人間の言葉を教わった。

 

一般的に見られる動物や猛獣の中には、人語を理解し、使いこなす程の高い知性を持った種が存在する。特異な魔法さえも扱えるドラゴンも勿論例外ではなく、種族全体で人語を介し、会話を成り立たせることが可能だ。

 

だがあの竜はどうだ。人の言葉を一切発さず、人間たちを追い回し、蹂躙しようとしてくる。飛行速度を突如上げて手前にいる一団をあっさりと追い越したかと思えば、未だ木々の残る森林部の一角へと落下するかのように急降下。墜落したかのような地響きと轟音を鳴らしながら、大地を揺らした。

 

その衝撃はこちらにも伝わり、すぐそこの地面に亀裂を走らせる。だが魔導士たちの耳に意識的に入ったのは、落下してきたと同時に聞こえてきた、最前線をかけていたと思われるフリードとビックスローの悲鳴だった。先回りだ。逃げる方向が全員同じであることを理解し、自分たちの退路ごと潰してきたと言う事か。逃走先を阻んできた災厄の狡猾さに、更なる絶望感が漂う。

 

「どうして……!どうしてこんな事を……!?答えて!!!」

 

怯えを孕みながらも、ドラゴンと言う生き物の優しい面を知っているウェンディが、悲しみと怒りを混ぜた懇願を叫ぶ。その声に黒竜は反応したのかそれとも偶然か、こちらに顔を向けて真っすぐに見据えてくる。しかし凶悪な牙を揃えたその口から漏れ出るのは唸り声だけ。こちらが理解できる言葉は一切出てこない。

 

「あいつも例外じゃなければ、人の言葉で対話することが出来るはず……!なのに……!」

 

理性を失った猛獣と同じだと仮定したならば、こちらの阿鼻叫喚とした様子を悠長に見下ろしたり、相手が逃走する方角を理解してその行く手を阻むなどと言った、分かった上での行動をとると言うのは不可解だ。こちらの言葉を少なくとも理解していると考える方がむしろ合点がいく。

 

戸惑い気味に言ったシエルの疑念にすら答えることもなく、アクノロギアは剛腕を用いて再び追い立て、地を叩く度に何度も何度も島を揺らす。比較的端にいたであろう人間……エルフマンに対しては長い尻尾をしならせて横から叩きつけていく。

 

思わず翅を作って飛び出したエバーグリーンであったが、宙を舞っていたエルフマンを抱え止めたところを、狙っていたかのように左手で纏めて払いのけた。二人の身体が再び地面へと墜落する。恐怖が更に高まる面々がいる中、ペルセウスはまるでじわじわとなぶってくるかのような行動を起こすアクノロギアを見て、少しばかり奴の思惑を感じ取っていた。

 

「……話すことなんざ、ねぇって事だろうな……」

 

人の言葉を理解しながら、こちらの問いには聞く耳持たず、返答はなし。まるで害虫を駆除する人間のようだ。害虫を相手に会話をする者も、害虫の声に耳を傾ける者もいない。ただ淡々と、無力な弱者が慌てふためく姿を眺め、少しずつ命を奪っていく。無邪気で残酷な子供が、遊ぶ時のように。

 

人類と言う矮小な存在では、天地がひっくり返っても抗う事の出来ない存在。それを知らしめるかのように、追い立てられ、阻まれ、甚振られる。

 

「これが……厄災……!絶対的な……食物連鎖の……頂点……!!」

 

祖先の残した本に記された、最恐最悪の竜。そのあまりの恐ろしさを間近で目にしたシエルも、最早為す術がないと理解してしまった。理性もそうだが、本能もだ。生物としての直感が叫んでいる。逃げるしかない。逃げれないなら、死を受け入れろ、と。

 

「うおおおおっ!!!」

 

「ナツ!?よせ!!」

 

次々と為す術無く吹き飛ばされる者たちと、それを見て萎縮する者たちを目にしたナツが、これ以上仲間に手出しさせないとばかりに単騎で黒竜へと特攻する。竜を滅する魔法を扱うナツであっても、あれほど絶対的な差が存在するアクノロギアに挑むなど、無謀だ。

 

制止の声など一切聞かず、現にナツは近づいてくる虫を払うかのように軽い動きで、ナツが迫っていた箇所を叩く。ただそれだけの動きでさえ、やはり地を砕き、その衝撃を受けたナツが呻き声を受けながら何度も地面を転がった。

 

「――――――?」

 

しかし、ただただ力を無作為に振るっていたはずの竜は、ナツを認識した途端、これまでとは違う反応を見せた。そして苛立ち気味に起き上がろうとするナツから何かを感じ取ったかのように。妙な変化に気付けたのは、ファルシー兄弟を始めとした一部の者たちのみ。ナツ本人は気付いていない。

 

そして何度目になるか分からない雄叫びを上げながら、ナツに向けて右腕を振りかぶり、叩きつけようとしてきた。今までの相手に向けた者とは違う、獲物を狩るかのような動きで。

 

「何だ!?うおわあっ!!?」

 

唐突な事に反応すら遅れたナツ。だがそれが功を奏したのかすれすれの部分で竜の掌が地面に当たり、ナツは再び転がっていく。

 

「ナツ!あいつ……急にナツを狙った……!?」

 

「……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に反応した……?」

 

顔を覆いながらナツに呼びかけ、同時に黒竜の不可解な動きに首を傾げるレビィ。ドラゴンであるあの存在が、他の人間に対するものとは異なる反応を示したとなると、ナツと他の者で明らかに異なる要素と言えば、それしか浮かばない。呟いたガジルと同じく、竜を倒せる可能性を秘めた魔法。

 

自らの脅威になり得る存在を、率先して討ちに行った?ガジルが呟いたその推測を耳にした瞬間、シエルの脳裏に、考え得る中で最悪の未来が、幻視した。

 

「もう……もうやめてぇーーー!!」

 

ナツを標的に動き出したアクノロギアに向けて、どうにか止めないと、叶わぬと分かっていながらも声を張り上げ、伝えずにはいられなかった天竜が前へと出る。

 

「ウェンディ、ダメ!!」

 

手を伸ばして少女を呼び戻そうとシャルルが声をあげるも、無情にも黒竜はその目をナツからウェンディへと変えた。これでナツ一人にしか狙う理由が無ければ意にも介さなかっただろう。しかしそうはいかない。彼女もまた、火竜(サラマンダー)同様、竜にとっては脅威になり得る存在だったから。

 

「ウェンディ!!」

 

気付いた瞬間、シエルは飛び出した。そしてそこからほとんど時も経たぬ内に、黒い翼が動き出す。強靭な四肢がその巨躯を大きさにそぐわない速さで動かし、一気に少女との距離を詰める。彼女に向けて差し出されたその掌に小さな身体がぶつかれば、どうなるかなど明白。

 

仲間たちもその未来が予測できているが故に、彼女の名を呼んでどうにか避けられないか懇願を叫ぶ。しかし最早猶予はない。竜の速度、彼女との距離、どう足掻いても少女一人で回避するのは不可能。いち早く動いた少年は庇うか、あるいは突き飛ばすか、どんなことをしてでも少女をあの凶手から離さなければと言う一心だ。

 

「(間に合えっ……!!!)」

 

だが今の速度では、自分がウェンディの身体と接触するとほぼ同時に、竜の攻撃が至ってしまう。時間の感覚がスローになっていき、頭の中でこのまま進めば自分も巻き込まれる。そう主張している。だが止まれなかった。何としても彼女を助けねば。必死に手を伸ばして、せめて引っ張り上げようと足を動かす。

 

 

 

ようやく彼女の手を取った瞬間、引き上げようとして竜の方を向くと、既に黒い掌は目と鼻の先であった。

 

 

 

―――――ダメだ……!!避けられっ……!!

 

 

 

 

 

 

 

その直後、彼が感じたのは浮遊感だった。

 

黒い掌によって弾かれたわけではない。いつの間にか己の腹部に巻き付いていた橙色の鎖に締められる感覚と、身体が投げ出されたらしく宙に浮かぶ感覚。

 

そして右手には同じように鎖で身体を巻かれた少女の腕。彼女も同様に宙を舞っている。そんな彼女の顔に浮かんだのは困惑。恐らく、自分も同じ顔をしている。

 

未だ抜けていないスローになった時間間隔で、自分たちに巻き付いている鎖の出所を見てみると、自分たちを巻いている橙色の鎖は一本だ。ちょうど中間にあたる位置が、宙に浮いている力点。

 

 

 

 

 

 

 

そして先程まで自分たちがいた場所には、必死だったらしい形相を、安堵へと変えようとしている、鎖を呼び出したであろう……兄がいた。

 

「に……!!」

 

そして、スローの時間は終わる。竜が通過した風圧で、宙に舞い上がっていた小さい体の自分たちは何度目になるか分からない浮遊感を味わう。咄嗟に少女の身体を抱き寄せ、二次被害を防ぎながら地面を転がる。

 

ようやく収まった頃、先程まで自分たちに巻き付いていた橙色の鎖は虚空へと消え、痛みに藻掻きながらも自分たちの身体を確認する。

 

「ウェンディ、大丈夫?」

 

「うん……シエルは?」

 

「俺も大丈夫……けど、今兄さんが……」

 

どうにか立ち上がりながら、先程まで自分たちがいた場所へと目を向ける。そして、言葉を失った。

 

 

 

周囲にいる誰もが、こちらの身を案じる事すらできないほどの余裕を失っている。

 

 

 

その理由は、明らかだ。森の一部が、再び消え失せる程の痕跡が、生み出されてしまった、だけではない。

 

 

 

黒竜は未だ健在。本来狙っていた標的が消えたにも関わらず、何の感情にも揺さぶられていないのか平静だ。

 

 

 

奴の掌が通ったらしき跡には、根から抜き取られたものや、幹が真っ二つに折れたものなど、凄惨たる木々の残骸が散らばっている。

 

 

 

そして一番の先端。抉られた大地の一角には、木々の残骸の他にも、溜められたものがあった。

 

 

 

水色がかった長い銀髪を持つ、神器使いの青年の身体が……

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ赤な血だまりに、沈んでいた。

 

 

 

 

 

「嘘……!?」

「あ……ああっ……!!」

 

「ペルゥウウウウウウーーーッ!!!!」

 

口元を覆い涙ぐむ少女。現実を受け入れられない少年。青年の名を慟哭と共に叫ぶ火竜(サラマンダー)

 

 

 

 

 

絶望は、未だ止まる事を知らない。




次回予告

「これ以上ガキどもに手出しはさせんぞっ!!」

「じっちゃんを返せ!!」

「絶対、諦めない!!」

「ギルドの絆を見せてやろーじゃねぇか!!」

「まだ、終わってはいない!!」

「始めるぞ!みんな!!」

「絶対、絶対絶対!助けるんだ!!」

「老いぼれを残して逃げられるような奴等かよ」

次回『手をつなごう』

「そうじゃ……みんなで帰ろう……!」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ!!』
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