そして今回の投稿日で、連載開始からちょうど5年を迎えました!まあ、ずっと言ってる事なんですけど5年たってようやく原作折り返しなんですよねぇ…。
執筆の速度がまだまだ遅いままになりそうですが、これからも応援してくれると嬉しいです!
それと、感想で気にされていた方がいらっしゃったのでここでも明記いたしますが、本来この後はアニオリに「星空の鍵編」が挟むことになる、はずだったですが…更新速度から鑑みて一旦アニオリ長編を飛ばさせていただきます。
一話完結のアニオリエピソードとオリジナルの話はやりますが、その事だけどうかご容赦ください…。
S級魔導士昇格試験の為に、天狼島に行っていたシエルたち。各々壁に当たりながらもどうにか乗り越え、突如乗り込んできた
勝利の余韻に浸っていたのも束の間、黙示録に載るような伝説を作った厄災、黒竜アクノロギアが襲来。あわや全滅となるはずだったところを、幽体であった初代マスター・メイビスの助力の甲斐あって救われ、無事に帰還を果たすことが出来た。
しかし、帰ってきたのは時を乗り越え7年後。X791年。まるで御伽噺の如き体験をしたものだとまるで他人事のような感想を抱いてしまう。だが、凍結封印で内部にいた自分たちとは違って、確かに時が流れていた外にいた仲間たちの歓喜は本物。
その夜、
「それにしても、あのロメオが今や立派な魔導士かー。まだ実感湧いてこねーや」
「7年も経ちゃあオレだって成長するんだぜ。いつかはナツ兄にも負けねぇ魔導士になるんだ!」
天狼島へと行く前は、ロメオはまだ魔導士になってすらいない幼い子供だった。6歳だったはずの少年は、今や倍の歳月を経て13歳。シエルとの差はわずか一年。本人としては、憧れの
「何の魔法を使うんだ?」
「当然、火の魔法さ。ナツ兄と同じ!」
「おお!お前もか!」
「またギルドの温度上がっちゃうね!」
リリーから問われた質問に、自慢気に返すロメオ。自分と同じ系統を扱うと知り、どこか喜びと興味を示しながらナツが声をあげる。父のマカオも含めて炎主体の魔導士が3人にもなると壮観なものだと、ハッピーからも声が上がった。
「冷たい炎も出せるぜ」
そんなハッピーの言葉に対して、再び自慢気な様子で右手から青く燃える炎を湧き出させる。近くで見たリリーが感嘆の声をあげ、更に手をかざせば熱さなど感じず、寧ろ冷ややかな空気を放つその炎に驚きが高まる。
「あと、父ちゃんと同じ紫のくっつく炎と、変なニオイの黄色い炎」
「お前オヤジよりスペック高くねーか?」
「鳶が鷹を生んだんだね」
テーブルにつけて餅のように伸ばしながら左手に紫の炎を、右手にはどこか異臭を放つ黄色い炎を灯しながらそう告げる。黄色い炎は近づけられた鼻のいいナツが顔を顰めているのを見ると、相当なものなのだろう。紫一色だけ扱う父親と比べて、三色もの性質の異なる炎を扱える少年の力量を見ると、その才は父を超えている可能性すらある。
それにしてもこの何色も存在する炎。ナツたちはどこか既視感があった。青く冷たい炎に、黄色の異臭を放つ炎。そのような魔法を扱う魔導士がいたような?と口にした時答えが明かされた。
「実は、父ちゃんには内緒で兎兎丸先生の魔法教室行ってるんだ」
「兎兎丸?あいつが……へぇ~」
声を潜めながら教えたロメオから聞こえた名前に、シエルも思い出した。かつては
「アイツ、そんなことしてたのか……」
かつての同僚の今を聞いたガジルは、珍しく嬉しそうな表情を浮かべた。一線を超えてしまったマスターのジョゼは暗い未来しか残っていなかったろうが、よく知っている他の者たちがどうなったのかは、あまり興味を示していなかった。だが自分やジュビア同様真っ当な道を進んでいるのを知れたのは僥倖だったようだ。ガジルの表情の変化に気付いたリリーが、口にはしなかったもののどこか自分の事のように喜ばしくなった。
「懐かしいなー!オレ、あいつの炎全色食ってねーしな!よし!!オレも会いに行こーかな!!」
「いやぁ、多分やめた方が……」
「ごめん、ナツ兄たちの話は禁句なんだ……」
「だよね……」
自分にとっての数か月前の戦いを懐かしみながらもそう口にしたナツだが、今の兎兎丸の心境を推測したシエル、生徒の一人であるロメオから遠回しに止められた。色んな意味で苦い記憶があるから、致し方なしとも言える。
「しかし、お前が四代目
「なーに言ってんだよ!こんなの代行みてーなモンだよ!今すぐこの座、返すよ」
その傍ら、元々は敵対していたギルドの魔導士を師事したが為に自分よりも才能を開花させ始めた息子の事実も露知らずな現マスター。本来マスターであったマカロフが行方知れずとなったがために、評議院の意向でマスターに座る者を決めねばならなかった際に選んだ代行のようなもの。そのマスターが帰ってきたのだからもう自分はお役御免だ。言外にそう言ったマカオであったが……。
「いや、面白いからしばらくマスター続けてくれい」
「マジか!!?」
まさかの本人からの許可が下り、しばしの続投が決まった。髭をいじりながら軽く告げた為にどこまで本気かは分からないが、マカオの胸中の高ぶりはそれはもう相当なものである。歴代の
初代:メイビス
二代目:プレヒト
三代目:マカロフ
四代目:マカオ
錚々たる顔ぶれと言える羅列に、己が名が刻まれる。どこか感慨深さを感じながら、紅潮する頬と吊り上がる口角を抑えきれないまま、四代目マスターはその決定を受け入れた。
「先代がそう言うなら……もうしばらく……!」
気分は既に、正式な後継者。先代ももう高齢の中、主要メンバー不在のギルドを守り切った功績だけを見れば、そのような未来もあり得なくない、かも……!
「この何とも言えねーガッカリ感がウケんだけど……!」
「じゃろ?くぷぷ」
有頂天になってる四代目を尻目に、急にクオリティの下がったマスター一覧を客観的に見た四代目補佐と先代マスターが、揃って息を潜めながら笑っていたのを、本人は知らない。
「け、けけ……結婚したのか!?お前たち!!」
「6年前にね」
一瞬で顔を真っ赤にして頭から湯気を沸騰させながら驚愕を表したのはエルザ。彼女と特に仲のいいビスカが、アルザックと結婚したことを遅ればせながら報告したところだ。ちなみにプロポーズもビスカからだったらしい。結局アルザックは度胸を示せなかったようだ。
「あの万年両片想いだったお前らが、ねぇ……時間の問題と常々思ってたんだが……」
「そんなこと思ってたのか……」
見ている方がじれったいとすら思えていた二人が、自分たちがいない間に結婚。どこか感慨深そうにぼやいたペルセウスの言に、苦笑混じりにアルザックが返す。どっちかが少し押せばそのままくっつくような空気だったので余計にそう思うのだろう。
「お、おお、おめでとう……不束者だがよろしく頼む……」
「何言ってんだ、エルザ?」
「自分に当てはめちゃってごっちゃになってるわね」
そしてエルザはと言うと、全く関係ないはずのマックスの胸ぐらを掴んでゆすりながら頓珍漢な挨拶をぼやいていた。遠目からエルフマンとミラジェーンが冷静に分析しているが、マックスは誰でもいいから止めてほしそうである。放っておくが。
「素敵ね!子供はいるの?」
「娘が一人」
「『アスカ』って言うんだぁ」
「(親バカの顔してやがる……)」
高揚した様子で尋ねたリサーナの問いに答える夫婦の内、片割れの父親は顔も声もとろけた様に崩れているのを見て、ペルセウスは胸中で独り言ちた。この様子だと随分と溺愛しているのだろう。すっかり二重の意味で父親の顔になったものだ。
「あの……リーダスさん、これ……」
「ウィ。オレなりにウェンディの7年間の成長を予想して描いてたんだ」
更に場は変わり、ナツやロメオたちの会話に加わっていたシエルの耳に気になる言葉が入った。7年いなかったメンバーが帰ってきたのを機に、リーダスがウェンディの未来予想図を描き上げたと言う。リーダスの画力をもってすれば本物さながらのクオリティで描くなど造作もない。是非とも見てみたいと言う興味本位の元、偶然を装って描かれているであろうウェンディが持つページの一つを彼女の後ろから見ることに。
「へぇ~、ウェンディの7年後?どれどれ……」
どこか震えている彼女の様子を少しばかり気にかけながらも、まずは描かれたその未来予想に目を向ける。そこにいたのは藍色の長い髪にスラっと高くなったであろう背丈と、立派に成長したことが分かる大人の女と言うべき整った顔立ちの女性。エドラスに行った事のないはずのリーダスが、エドラスにいる大人の姿のウェンディそっくりの女性を描き上げた技量に感嘆すると共に、シエルは思わず紙面の女性に見惚れて頬を赤らめた。
「すっごいビジ……あ、エドラスにいたウェンディと瓜二つだ!さすがはリーダス!」
思わず口に出かけた第一印象を飲み込んで、直近の記憶で見かけた別世界の彼女を引き合いに出しながら感想を呟く。将来このような素敵な女性になれる可能性があるなら、ウェンディ自身も感無量だろう。そう解釈して少女に目を向けると……
シエルの予想とは裏腹に、ウェンディの表情はショックを受けた様にこわばり、両眼には涙が微かに浮かんでいた。冷や汗も垂らした並々ならぬ様相に、シエルは困惑を隠せない。何故だろう。一体何が気に食わなかったと言うのか?
「お胸が……!!」
「あっ……」
「ん?何か言った?」
ぼそりと呟かれた少女の一言に、少年は全てを察した。改めてウェンディの未来予想を見てみると、確かに成長すれば膨らんでいるはずの一部分が、明らかに真っ平だった。何が気に食わなかっただって?そんなもの一目見ればわかったじゃねーかよ、とシエルは最初に気付けなかった後悔が押し寄せる。年若くても女性にとっては死活問題なのはシエルだって知っている。
「私……大きくなっても、大きくならないんでしょうか……?」
「ウィ?何か変なトコある?その絵」
「(悪気はない……んだよな……?)」
そして描き上げた当の本人は、そんな少女の切ない望みに気付いていない様子。これが狙ってやったことならシエルからもイタズラと称した制裁を加えたところだが、本気で善意100%悪意0%にしか感じ取れない。やり場のない感情を抱え、どう動いたらいいか少年には分からなくなってしまった。
「ウェンディだけじゃないみたいよ、これ、アンタの成長予想だって」
「あ、俺もあんの?どれどれ……」
少女に声をかけることも出来ず悩みに悩んでいるとテーブルにいつの間にか集まっていたエクシード組の一人であるシャルルから、同じようなスケッチブックの紙ページを渡される。彼女曰く、そこに描かれているのはシエルの7年後の成長予想と言う事らしいが……希望としては兄や別世界の自分に似たような外見。しかしウェンディの例もあるので滅多な事が無ければ希望からはズレようが……と身構えたのだが……。
そこに描かれていたのは纏っている衣服が膝下が破かれた簡素なズボンのみ。全身がエルフマンやギルダーツさえも遥かに凌ぐ筋骨隆々の体つき。そして顔つきはやけに彫りの深くなった、どこか世紀末な世界線にでも出てきそうなただならぬ雰囲気を醸し出す、水色がかった銀色と、左前頭部の金メッシュが何故か四分の一まで広がっている男の姿だった。
別人が過ぎるアフター予想に、しばし愕然となって固まったが何とか意識を拾い上げて我に帰るとすぐさまリーダスへと振り向いた。
「明らかに画風から変貌してんだけど!?どんな7年間送ったらこんな風になると予想したんスか、
「リダ?……なんて?」
なまじ画力が高いが故にどうしてこのような画風変化が起きたのか、などと言う別方面からのツッコミを叫んだ少年に対し、描いた本人はやはり自覚がないのか首を傾げるのみ。ついでに言うと聞き覚えのない呼ばれ方をされた方に意識が行っている。
「ちなみに私たちはこれ。正直気持ち悪いわ」
「ぶっふぁあっ!?」
ついでとばかりにシャルルが見せたもう一枚を見たシエルは噴き出した。そこに描かれていたのはエクシード三人の未来予想図、なのだが顔だけはほぼ変化がないのに体つきが大きく変貌している。ハッピーとリリーはシエルほどではないが筋肉モリモリの巨漢に、シャルルは長身スレンダーの体格にされていた。
最早予想と言うよりコラ画像の一種だ。そもそもリリーは変身の応用を使えば元の筋骨の肉体に戻れるし、顔立ちも豹に近いそれに変わるのだから予想も何もないはずなのだが……。これには描かれたエクシード組からの不評の様子。
「と、取り敢えず……突飛した方じゃなくて、真っ当な未来予想を、もっかいお願いできる……!?」
「う~ん、まあ描いてみるけど……」
ツボにはまっていた為にしばし笑いを押し殺していたシエルは、どうにか落ち着いたタイミングを見計らって世紀末世界の姿に描かれた自分の未来予想の絵をリーダスに返しながらリクエストした。変に尖ったものは無くていいから、正統な成長を辿ったもので、と心から願いながら。
「しかし……キナナもよく7年間も耐えたもんじゃの」
「耐えるも何も……私は……」
切実な頼みごとをシエルが依頼している頃、カウンターの奥で食器を洗っている従業員・キナナに語りかけるマカロフ。唯一魔導士でない彼女もまた、彼らと共に辛酸を舐めてきた一員。その苦労は計り知れないことだろう。しかし彼女の苦労はこれだけに留まらない。
幼い頃、彼女は悪い魔導士に蛇へと姿を変えられ、7年前にマカロフによってその魔法を解かれるまでずっとその姿のままであった。そして蛇へと変えられている時の記憶はほとんど覚えていないのだと言う。
そしてその記憶は、7年経った今もなお、一部の朧げな記憶を除いて何一つ思い出せずにいる。たった一言……「お前の声を聴かせてくれ」という誰かの声だけが。
「(蛇にされてた頃の、微かな記憶……か……)」
蛇、と耳にしてペルセウスが浮かぶのはこのギルドよりも前の時。蛇を象った紋章を頬に刻み、肉親を囚われの身同然にされて言われるがままに動いていた
程度は違えど、望まずにその生き方を強制させられたと言う経緯を持つ彼女にシンパシーを抱くと同時に、結果的にトラウマになり得るその時の記憶がほとんど残っていない事の是非を確定できないもどかしさも感じた。
「(イヤなモン思い出した……)」
かつて自分がいたギルドと因縁深かった
「おお!揃っているようだな!」
酒場内で響いた重厚感さえ感じる低い男性の声。ペルセウスをはじめ、何人かの魔導士たちには聞き覚えがあった。そしてその主であろう大きな影を含めた、五人の影が明かされた時、覚えのある者たちが思わず声をあげた。
「皆さんのご帰還、“愛”を込めておめでとうですわ!」
「おおーん」
「息災であったか」
「7年間歳とってねえ奴等に言ってもな……」
「また騒がしいギルドに逆戻りか」
ボリュームのある薄紅色の髪を、後ろのてっぺんで縛った女性。一見すると犬の頭の人間に見える茶髪のボブカットと犬耳の飾り、黄緑のサングラスを額に載せて、首からなぜか靴下を下げた上半身裸の男。黒い法衣を身に着けた、長い顎髭に対してスキンヘッドの男性。群青色の髪を三つ編みで縛り、何故か真っ黒で極太のへの字になった左右対称の眉毛を持つ小柄な男性。そして右サイドに逆立った薄い水色の髪に、切れ長の目を持った青年。
「お前ら!」
「
その一団の正体は、7年前に面識を持っているルーシィやグレイから明かされた。当時活動を強め、ニルヴァーナと言う古代魔法都市を巡って争った闇ギルド・
「天狼島の捜索には、天馬にも
「そうだったのか」
「借りが出来ちまったな」
凍結封印と言う形で行方不明となった天狼組を捜索する際、
「気にする事はない。天馬に先を越されたが実力はオレたちの方が上だしな」
「そっちかよ……」
本心か否かは定かではないが、青年リオンの主張は行方知れずになった妖精たちを見つけ出せれば箔が付くのが狙いだったらしい。ギルド間での序列を示したいから、だとか。
「あの人たち、知り合いなの?」
「そっか、リサーナは会ったことないんだっけ」
二年間不在だったリサーナからすれば、ほとんどのギルド外の交友関係は把握できていない。どういう繋がりがあるのかすらも。近場にいたシエルが尋ねられたため、搔い摘んでではあるが説明することに。
まず水色髪の青年リオン・バスティア。グレイと同じ氷の造形魔法の使い手であり、同じ師匠の下で過ごした兄弟子。7年前の時点では
紅一点のシェリー・ブレンディ。リオンと同じく、六魔の討伐作戦に参加した人形撃と言う魔法の使い手。やたら“愛”という言葉を強調する印象があり、ルーシィと浅からぬ因縁があるようだ。余談だが化粧が薄くなったからか、昔より若く見える。
そしてスキンヘッドの市場の大柄な男性はジュラ・ネェキス。
「マスターと同じ!?スッゴイ人なんだ!!」
「いやいや、ワシなどマカロフ殿の足元にも及ばんよ」
純粋に感嘆を口にするリサーナに、7年前同様謙遜を口にしてやんわりと否を唱えるジュラ。その姿勢は年季を更に重ねても変わらずの様子。しかし、極太の眉を持つ仲間から補足が挟まれる。
「とか言いながら、この前序列五位にまで上り詰めたくせに」
「え、それって……三代目、抜かされた……!?」
序列五位。簡単に言えばフィオーレを含むこの大陸の中で5番目に強い魔導士として認定されたことを意味する。7年前は確か末席であったことを考えると大躍進だ。上位4名はここ十数年変化が無い為、実質的に三代目のマカロフを越えたことになる。
我関せずの態度で酒をあおっている当のマカロフが、心なしか肩身を狭めたように見えた。7年不在だったから致し方なしではあるが……。それは兎も角。
「じゃあさ、あとの二人は?」
「あの二人は……俺も知らない」
「何で知らねぇんだよっ!!」
「キレんなよ。初対面だろーが」
残す二人。犬のような男と太い眉の男について問われたものの、彼らに関してはシエルも初対面だ。素直にそう伝えるとなぜかクワっと顔を険しくして怒り出す犬の人と、すかさず窘める眉の人。日頃からのやり取りなのはすぐさま頷けた。
「オレが代わりに紹介すんよ。“犬っぽい人”と“眉毛”!!」
「よろしくね!ワンちゃんと眉毛さん!」
「おおーん。よろしくな!」
「絶対名前じゃないだろそれ……」
「よかった、ツッコミいないのかと思ったぜ……」
初対面同士の彼らを見かねたのか、ナツが話に割って入り
冷静に呆れた様子でぼやくシエルには、安堵するように溜息を吐いた眉毛の人が反応を示した。互いに苦労人気質を感じ取ったようだ。
ちなみに“犬っぽい人”と呼ばれた男の名は『トビー』。“眉毛”と呼ばれた男の名は『ユウカ』である。ナツたちとはシエルが不在だったガルナ島のS級クエストでの一件で対立した経歴がある。その時に面識を得たようだ。
「ジュラさんは当然として、リオンとシェリーも随分力を上げたと見えるな」
「ええ!だって、この7年間で私たち
コントじみたやり取りの傍らで、ペルセウスが見知った者たちの佇まいからこの7年での成長を読み取っていた。事実、王国内の魔導士ギルドの序列では、シェリーが言う通り二番目。準最強の名を手にしている。そんな
「そんな訳あるかよっ!!」
「キレんなよ。いや、天馬じゃないんだが……」
「まあ、そんな話はよかろう。皆、無事で何よりだ」
天馬が一番かと予想したルーシィの言は否定された。トビーとユウカによって違うギルドが国内一位の座についたことが明かされるも、説明の続きをどこか言い淀んでいたユウカの言を遮り、ジュラがグレイの肩に手を置きながら告げた。
ふと、会話の中に途中から参戦しなかった者がいたことに
そして、リオンの身体に衝撃が走った。
「こ……これが一目惚れと言うものか……!!」
「え?え?……え?」
紅潮し、気付けば少女ジュビアの肩に手をおいて真っすぐその目を見つめながら告げた。一方の告げられた本人はと言うと状況が理解できずに困惑。リオンに負けないぐらい顔が真っ赤になって煙さえ湧き出している。まさかの展開に、周りのほとんどが仰天した。
「うわ!超ストレート……!!」
「これ、率直にどう思いますか、グレイさん?」
「まためんどくせー事になってきた!!!」
遠巻きにいるはずのルーシィさえ顔を赤くし、ニヤつく顔を隠しもしないでペルセウスが呼びかけたグレイは、今後起きるであろう最大級の面倒ごとを予感して天を仰いだ。外野から見ればこれほど面白いことはそうそうない。
「ちょ、ちょっとコレって……ジュビア……修羅場!!?」
あまりにも唐突に発生した急展開に、ジュビアの脳内もかなりのキャパオーバーが発生し、最終的には火山の噴火の如く爆発した。頭の中に自身とグレイ、そこにリオンも加わった三角関係から枝分かれして色んな面々の矢印が行き交っている相関図が瞬時に組み上がっている。やけにグレイへの矢印が多かったり大抵片想いだったり事実と大分乖離はあるが。グレイからすれば勘弁してほしいと言いたくなる安定の暴走であった。
「つー訳で、オレがカナの親父だったんだわー!!」
「コラ!ベタベタ触んな!!」
所変わり、リオンたちを中心としたちょっとした騒ぎも一切気にせず、これでもかと顔が緩んだギルダーツが最近判明した実の娘にべったりとくっつきながら事のあらましを何度も語る。一方で娘のカナは気恥ずかしさが勝って引き剝がそうとしているが、当の本人は邪険に扱われても一切離れようとしない。
飽きるほど話を聞かされたウォーレンとビジターは、正直一切信じられていない。もっとマシな設定はなかったのか、さすがに騙される気がしない、など散々な良いようだ。
「あっちにもいたよ、親バカになった奴……」
周りの苦情もカナの抵抗も一切気にせず、清々しい程のデレデレぶりを露見するギルダーツの様子を遠巻きに見たペルセウスは溜息を吐きながら苦笑して表情を歪める。ただでさえアルザックが一児の父となって娘を溺愛する典型的な親バカに変貌したのに、18年越しにアルザックと同じ立場となったギルド最強の姿は、正直見ていて居た堪れない。
「ギルダーツとカナが親子!?それマジなの!?」
「
遠巻きに見えたギルダーツたちの様子と兄のぼやきから、シエルもまた彼らが親子である事に気付いて驚愕を表す。カナが父に明かした現場を目にした時から、衝撃的過ぎて愕然となってのを今でも思い出せる。だが一方で、弟はと言うとそれほど驚きは少ないようだ。
「あの二人が……どことなく共通点があったから、他人同士とは思えなかった節はあるけど……」
「そうなのか?例えば?」
ギルド加入時から親交のあったギルダーツたち親子の共通点。父の方と面識を得てから日が経っていないシエルが二人に感じた共通点とはなんなのか?気になったペルセウスが興味本位で尋ねると、開いた指を折りながら挙げ始めた。
「大酒飲みなトコだろ?あと服装に無頓着、酔うとほとんどテーブルに座る、女の子にセクハラしがち、基本性格はガサツ、酔いつぶれた寝相が似てる、年下への対応に慣れてる、そんで賭け事にもノリノリ、それから……」
「多いな共通点!!」
せいぜいあっても5個ぐらいかと思いきや、シエルの口から遺伝子の片鱗が出るわ出るわ。日頃周りをよく見るシエルだからこそできた芸当なのだろう。それにしたって多すぎる。だがその多すぎる共通点を聞いて、親子であることの信憑性が高まり、懐疑的だったウォーレンたちがもしかしてマジなのか……?と言いたげに恐る恐る二人の様子を再び伺う。
そしてバッチリ聞こえていた親子の内、娘は羞恥がとっくに限界まで達して顔を覆い、父はより破顔して親バカ具合が更に増した。言ったらマズかったかもしれない。
「じゃーん!これがアスカ!!」
「ほー」
「可愛らしいな」
「お二人にそっくりですね」
そしてここでも親バカ具合が減らない父親が一人。リーダスに描いてもらった娘・『アスカ』の一枚絵を大事そうに掲げ、集まっている面々に見せているアルザック。落ち着きを取り戻したらしいエルザと、興味を惹かれたらしいウェンディ、更に意外にもガジルとリリーが注目する。
「アルザック、顔ユルユル……」
「ホントすっかり親バカになっちまって……まあ、あんな娘がいたらそうなる気持ちも分かるが……」
ギルダーツに負けず劣らず表情筋が緩み切ってる彼の姿を見て、ファルシー兄弟が何度目か分からない苦笑を浮かべる。まあ、致し方ないとも言えるだろう。長年思いを寄せていた女性と結ばれ、その間に可愛らしい愛娘が生まれたともなれば。
「成程、ウェンディに似た感じだな。可愛らしいもんだ」
「っ!?」
「ちょ……!」
「おい……」
そんな和やかな空気を、意図せずしてリリーが壊してしまった。齢5つにも満たないであろう幼い少女と、遠回しに同じとされてしまった12歳。悪意はなかったのだろうがウェンディの心にその言葉は鋭利な刃物のように突き刺さった。それをすぐに察したシエルとガジルが各々制止しようとしたが、時既に遅し。瞬時に少女は、片隅に押し込もうとしたコンプレックスを再発させた。
「うえぇ~~ん!!リリーまでぇ~~~!!」
「ああっ!ウェンディ!!
「え!?何故だ……!?」
ショックのあまりギルドの外へと駆け出してしまったウェンディ。思わず手を伸ばして止めようと口走ったシエルの声にも耳を貸さず出て行ってしまった少女に、名指しされた本人(猫)は察することが出来ずに愕然した。
「あ~あ、リリーがウェンディを泣かせちまった」
「おい待て!誤解を招く言い方はやめろ!!」
「ちょっとリリー?こっちで詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「早速!!?」
リリー自身にそのつもりはなくとも、デリカシーのない発言になってしまった事で、目を細めながらぼやいたペルセウス、そしてリリーの背後に能面の如く感情を捨てた表情と声で問い詰めて来たシャルルに、一転焦燥に駆られて狼狽えだす。彼には何がどうしてウェンディが走り去ったのか本気で分からないようだ。
「ガジル、お前からも何とか言ってくれ!」
「……悪ィ、こればっかりは、『失言だった』としか言えねぇ」
「何が!?どれだ!?」
そして挙句の果てには相棒であるガジルすら、彼を救いあげることを諦めた。風貌と普段の言動からは想像つきづらいが、意外とこういう時のデリケートな感情には機敏のようで、全面的にリリーに非があると分かったが故に口出ししないと決めた。
「まあ、色々なタイミングが悪かったね……ウェンディ、帰ってくるのかな……?」
そうしてシャルルに引きずられていったリリーを尻目に、シエルは溜息を一つ吐いた。本人に悪気はなかったことと、言われた少女の相棒がけじめをつけるだろうと言う事で、シエルからリリーにどうこうする必要はないと結論付けた。目下の問題は、夜も更けた頃に外へと飛び出した少女が、このままギルドに戻ってくるかどうかである。
探しに行くか?いや、余計なお世話になるか……と言う感じで悩んでいると、ある机の上に置かれた一枚の紙が目に入った。
リーダスから貰ったはずの、ウェンディの未来予想。慎ましやかな胸を持った大人版ウェンディの絵だった。
「あっ、これ置いてっちゃってる!?……どうしよこれ……戻らなかった場合も考えた方がいいのかな……?」
一応は被写体になったウェンディ本人に返すべきだろう。しかし目を背けたくなるであろう未来予想を持っていくと言うのも煽っているようで良くない気がする。かといってこのままギルドに置いてって不特定多数のメンバーに悲しい未来を見せびらかす形になるのもいただけない。どうするべきか……十数秒ほどその絵を手に持ちながら考え耽っていた少年だったが、ある考えを思いついた。
「どうせ持ってくなら……」
誰にも聴こえないほどの声量で呟いたシエルは、この絵を描いた本人の元へと踵を返していった。
────────────────────────────────────────
明るい内には賑やかなマグノリアも、やはり夜になれば違う一面を見せる。ほぼ街灯のみで照らされた街並みに行きかう人々の数もまばら。街を横切る大河を渡るために架けられた西側の橋に、その少女はいた。欄干に両腕を置いて暗くなった緩やかな河の流れをただただ見下ろし、ふとした拍子に溜息を吐いてしまう。その繰り返し。
悲しさと悔しさでぐちゃぐちゃになった感情が衝動に変わり、そのまま勢いでギルドを飛び出してしまったウェンディ。何度目になるか自分でも分からない数の溜息と同時に、とうとう腕の中に顔を埋めてしまう。
「何やってるんだろう……私……」
自虐気味に思わず口にして思い返す。自分にとっては確かに激しいショックを受けた出来事だった。しかし客観的に自分の行動を思い返すと、誰も彼も自分をバカにしたり悪く言うつもりなど無かったのに、勝手に落ち込んで、勝手に悪く受け止めて飛び出してしまっただけ。
移った後のギルドに残っている人たちに迷惑と心配をかけてしまった事だろう。特に、7年間ずっと
本当はすぐにでも戻らないといけないのに、気分がだんだんと重くなって足も、体も動かない。そんな自分が余計に惨めで、イヤに感じて、更に心と体が重くなって悪循環となる。少しは昔と比べて前向きになれたと思ったのに、やっぱり変わっていないのだろうか……なんて負の感情が頭に過りながら、その自信が芽生えるきっかけとなってくれた仲間たち、とくに親しい少年の姿が浮かんで消えかける。
「ウェンディ見ーつけた」
すると、さっきまで頭に浮かべていた少年の声が聴こえて、弾かれるように埋めていた顔を上げて振り返ると、気付けば自分の背後に立っていた。片手に何かの紙を丸めて持っているシエルが、優しい笑みを浮かべている。驚きを隠せず、ぼやくように彼の名を紡ぐとどこか困ったように破顔しながら口を開いた。
「いきなり飛び出してビックリしたんだよ?女子寮に戻ってるのかと思ったらそうでもなかったし」
「……ごめんなさい……」
やっぱり迷惑をかけていた。また自嘲して俯いてしまったウェンディだったが、彼の口ぶりと、今この場にいることからもしかして……と驚きを表して問わずにはいられなかった。
「わざわざ、探してくれたの?」
「うん、忘れ物があったんだ。ギルドに置いとくわけにもいかないと思ってね」
尋ねられ、答えながら丸めてしっかり手に持っていた紙を広げると、ウェンディもその紙の正体が何か分かった。忘れ物、という言葉も相まって、それが先程自分が飛び出してしまった一つの要因であることに気付く。
「あっ……別に、置いてったままでも、よかったのに」
「まあまあ、もっかい見てみてよ」
まさか持ってきてくれるだなんて思ってもいなかった、自分の未来予想が描かれたスケッチブックのページ。彼女にとってはショックを受けるしかなかったそれだが、広げて手渡され、勧められるままに目を向けると、予感していたものとは違ったものがそこに映っていた。
「えっ?……これ、お胸が……!」
渡された紙に描かれていたのは、7年後の自分を予想した姿。しかし、最初にリーダスから見せてもらった姿と、確かに胸の大きさが違っていた。自分が願ってやまなかった、周囲の大人たちや別世界の自分と遜色ない大きさを持つ、まさに理想の未来像。
「俺も、リーダスが描いてくれた予想図に納得しきれなくてさ……折角だから、みんなの分描き直してもらう事になったんだ。で、これがウェンディの分。正式な成長予想ってヤツ」
右手を後頭部に持っていきながら、少々照れくさそうにはにかんで事のあらましを説明するシエル。シエル自身も、エクシード達も最初に見せられた予想図には思う事があった為に、その場にいなかったウェンディも書き直しを要求したと。
すこし視線を外に向けながら、問われたわけでもないのに何があったのかを伝えるシエルへ目を移し、どこか違和感のようなものを感じたウェンディ。彼の説明を思い返して違和感の理由を心で下がると、一種の確信が生まれた。
「(ひょっとして……)」
天狼島にいた時も、陰に日向にフォローしてくれたり、戦いが終わった合間の時に口には出していないが自信を取り戻させてくれたことを考えれば、今回もきっと……。そしてそれを言及したところではぐらかされると分かった彼女は、再び視線を描き替えられた予想絵図に落として、微かに口角が上げるとシエルに向き直った。
「じゃあ、リーダスさんに改めてお礼言わないとだね。あと、謝っておかないと……」
「ウェンディは律義だなー。ま、俺も希望に沿えてくれてたら感謝はしておかなきゃな」
誰にも悪気はなかった。それが分かっているからこそ、傷つけてしまったようになってしまった事を改めて謝罪しなければと告げる律義さに言葉を返しながらも、ちゃんと希望通りに直してくれたウェンディの予想図に、自分の方も半ば期待しながら予感する未来に思考を向ける。けど、シエルとしては、実はそこまで気にしていない。
「まあ、何だかんだ言ってもあくまで予想に過ぎないんだ。未来の姿がどうなるかは、今の俺たちがどう動くか次第だよ」
どれほど未来を夢想したところで、その未来通りに辿り着ける保証などない。今の自分たちだって、過去の自分たちの行動一つ一つが違えば、また違う未来の形を歩んでいた。それこそ、天狼島にいたか否かで、7年の格差が生まれてしまった自分たちのように。どれだけ絵に描こうと、
「だからその絵は、理想にするんだ。理想を目標にして、いつかそれを本当の未来にする。きっとそれが、7年分取り残された俺たちが持つ、チャンスの一つだ」
ここでようやく、ウェンディへと視線を戻した。未来で思うようにならなかった時に後悔しないよう、今の後悔を乗り越えて描いた理想を叶えることが、これから大事であることを示し、伝えるように。
「そうだよね……私、7年後にこうなれるように頑張る!理想が本当の未来になるように!」
その言葉は伝わったようで、ウェンディは持っていた絵を片手に持ち直して意気込む。その後すぐに「って、どう頑張ればいいのかは分からないけど……」と少し恥ずかしそうに縮こまりはしたが、先程とは違って元気が出たのはすぐ分かった。その姿にシエルは安堵し、上手くいったことを心から安心した。
「さてと、じゃあ戻ろうか。急いで戻らないとリリーが灰になっちゃう」
「リリーが灰に!?どう言う事!!?」
一安心を覚えた少年が、ニカッと笑みを浮かべながらそう言うと、あまりにもスルー出来ないどこか物騒な言葉を耳に拾って仰天する。少しばかり気がはやって、二人して早足気味になりながら今のギルドとして構えている丘へと向かう。歩き出して数秒、唐突にウェンディの方から呼びかけられたシエルは、彼女の方へと顔を向ける。
「シエル……ありがとう」
「っ……どう、いたしまして」
そして彼女から向けられた、お礼の言葉と目を細めながら浮かべた柔らかな笑顔。微かに赤らんだ意中の少女であることも相まって、彼女の何倍も顔を真っ赤にしたシエルは一瞬声を引き攣らせると、衝動で叫ぶのを何とか堪えて顔を反対に向けてそのまま返した。最近は少し慣れたと思ったのに、油断するとやはりこうなってしまう。だがそっぽを向いてしまったのは他にも理由がある。
ああ、これはバレてるな。胸中でシエルはそう呟いた。もしかしたら自分を探しに来て、励ましてくれた事のみに関してのお礼かもしれない。しかし、彼女が浮かべた笑顔と瞳から、もっと根本的な部分を……リーダスに
「そう言えば、シエルの予想の絵、私見てないや。どうなってたの?」
「……世界観から別物だった」
「世界観……?」
そんなちょっとした会話を交えながら、足早の帰路を二人は行くのだった。
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結局宴は、三日間ほど続いた。ほぼ絶えずにお祭り騒ぎをぶっ続けたことにより、さすがに何人か疲労の色を隠せず、お開きとなった。何人かはまだ飲み足りないと言って残りはしたが、ファルシー兄弟は7年ぶり……体感的には数日ぶりに我が家へと帰途についた。
7年もの間に変化したメンバーの話や、ウェンディが飛び出していった後シエルが迎えに行った時の話を交え、そこまで距離の離れていない兄弟の家の前で足を止めると、穏やかな表情を浮かべていた二人の顔は打って変わって神妙な面持ちへと転じた。
「さて、そろそろ現実と向き合うか……」
「そうだね……どのみち避けては通れない。逃避するのはここまでだ……」
ただならぬ様相を抱えて家の前に立ち、自らに言い聞かせるように覚悟を決める兄弟。家に帰ってきただけなのにこれほどの覚悟を決める必要がどこにある、と客観的に見れば思うだろう。しかし彼らは高まっていた興奮から我に帰り、冷静になって考えたことで目を背ける訳にはいかない問題があったことに気付いた。
「じゃあ、開けるぞ……」
しっかりと行く前には閉めていた鍵を開き、ドアノブを手にかけてペルセウスがゆっくりとそれを開いた。自分たちにとっては約一週間ぶりだが、この家にとっては7年ぶりの帰宅。
……そう、
「「うっ……!」」
開き入った我が家への一歩目の感想は、正直最悪なものであった。一応二人揃って家を数日開けると思って、家を出る前にシエルが後の災いになるようなものは全て取り除いていたのだが、やはり時間が経ちすぎた。
玄関にも立ち込める溜まりに溜まった埃。密室にされていた我が家のほとんどの区域が恐らく同じような惨状になってしまっている事だろう。時の経過によって発生した覆しようのない現実は、思わず目を背けたくなる。
「予想も覚悟もしてたけど……!!」
「取り敢えず手分けして掃除だな。俺は一階、シエルは二階を頼む。何としても今日中に終わらすぞ」
埃が目に入った……だけの理由ではないが涙を浮かべてぼやく弟を叱咤激励し、二人で掃除に取り掛かる。これ程の規模の大掃除は、S級の試験に選ばれるために仕事の日々へとりかかる直前以来だろうか。正確には6年と数か月ぶりになるのだろうが、当人たちにとっては一足早くその大掃除に取り掛かる感覚になった。
マスクをしても細かい粒子が気管支に入って何度も咳き込む羽目になりながら、掃除に使われる魔法と
「兄さん、二階は一通り終わったよ」
「お疲れ、こっちももうほとんど完了だ」
二階の空気も浄化を完了し、シエルは階段を下りながら一階を掃除していた兄へと呼びかける。これで粗方は終わった。部屋の掃除は残っているが、そこについては最悪空気の入れ替えと寝具の取り換えをしておけば一晩は何とかなるだろう。空気については既に兄がやってくれたそうだし。
「さて、残す問題は……」
「これか……」
幸いと言うべきか、家にあった家具類や小物については、経年劣化はほとんど見られなかった為そのまま使っても大丈夫そうだ。洗濯物などについては兄が使える魔法の中に特化した魔法があるのでそれを使えばいい。しかし元通りの生活をするにあたって、無視できない大きな問題が最後に一つある。
衣食住の内の一つ。ずばり“食”糧だ。最低限のもののみを残してとっておいたそれらは、普段は
結果は……ハッキリと言えば全滅だった。まあ、当然である。
「非常食や調味料も含めてダメになったか……こりゃ買い出しもしねーとな。まだやってる店あるか……?」
「ううっ……!少しずつ取っておいて楽しんでたのに……!!」
いくら消費期限の長い非常用のものや調味料と言えど、7年も経過してはさすがにもたなかった。全て洗いざらい買い直す必要がある。冷静に今日するべきことを整理しているペルセウスの傍らで、ショックから立ち直れていない弟は帰宅後一番の涙に濡れていた。
随分前に討伐して手に入れたビショックイノシシの食用肉を、少しずつ楽しむために一部を干し肉へと変えて保存していたのだが、作った分のほぼ半数が今回腐食気味になってしまった。諦めきれずに「干し肉だったらまだワンチャン……!」と光の失せた目で喰らおうとしていたシエルを、「やめろ!マジで取り返しがつかん!!」と兄が取り押さえる一幕もあったぐらいだ。
「シエル、今は今日明日の事を考えよう。俺はちょっと確認しなきゃいけねー事があるから、買い出しの方を頼めるか?」
「……うん……」
心ここにあらずと言った様子ではあるが、ひとまず食糧確保を優先するようにペルセウスは弟に頼み込む。財布と買い物用のカゴを持って一度家を出たシエルを見送りながら、ペルセウスは帰宅前にマカロフとミラジェーンから頼まれたある一件に取り掛かった。
自室に戻ったペルセウスが扉がある壁に手をつき魔力を流し込むと、奥側の床に魔法陣が浮かぶ。転送魔法の一種だ。そして下から浮かび上がるように陣の中央に現れたのは一辺が70cm程の一般と比べるとやや大きめの家庭用金庫だ。その金庫の錠部分に今度は指を置くと魔力と指紋を認証。ペルセウス本人と認識した金庫の鍵は、正常通りに動き解錠する。
「さて……確か完済分の目安は、と……」
彼が頼まれたのは、端的に言えば借金返済用の資金回収だ。
家は分割とは言え買い取った持ち家。金銭の羽振りはたまにちょっとした贅沢をする程度。そして稼ぎはと言うと、かつてペルセウス本人がギルド内で「神器が絡む依頼はな、下手なS級クエの十倍は入るんだ」と得意気に言ってちょっとした騒ぎになった程だ。ほぼほぼ稼ぎ頭になっている彼はあまり浪費しないので、大きな依頼で得た報酬の半分をギルドの資金に回している程である。
しかしペルセウスが回したギルド資金は万が一に備えてマカロフがギルドホームの地下に、ファルシー家の金庫と似たセキュリティで保管している。その上、鍵を開けられるのがマカロフとペルセウスの二人のみである為、この7年で手を付けることはおろか、差し押さえになってるギルドホームに入るのも難しいので結局は取り出せないのだが。
閑話休題。
金庫からミラジェーンが帳簿を基に算出した、本来の完済目安額より少しだけ嵩増しした額を取り出したペルセウス。念には念を入れた予備の額だ。それでも相当な額になるので、もしペルセウスを頼りにしなかったらまだまだ借金に苦しめられる事になっただろう。
物置として使っている部屋から取り出し、埃を拭き取ったアタッシュケースに取り出した紙幣を黙々と詰め込んでいると、インターフォンが家に鳴り響いた。シエルが帰ってきたのか?それとも別の来客か?万が一の為に金庫は元の場所に戻し、アタッシュケースも目立たない場所へ押し込むと、ペルセウスは玄関へと足早に向かう。
「あいよ~、どちらさんで?」
そう言いながら扉を少し開けば、一部予想は当たっていた。家を出た時に持っていた買い物袋に、野菜や果物らしきものと、行きつけだった精肉店の品を入れて帰宅してきた弟の姿。
「ただいま、兄さん。運よく色々残ってて、買ってこれたよ」
「おう、おかえりシエル。そいつはよかった……って、あれ?」
しかし本人も意外だったのは、彼の後ろにもう一人……否、もう一人と一匹がいた事だ。藍色髪のツインテ少女に、彼女に抱え上げられている白ネコ。
「こ、こんばんわ、ペルさん」
「お邪魔させてもらうわ」
「ウェンディとシャルル。どうしたんだ?晩飯食べに来たのか?」
弟と共に訪れた少女と白ネコを見て、諸々の事情で彼女たちも先立つものを得られずにいる為に、たまたまシエルと会って彼に誘われてきたのだろうか、と予測を立てた。その事について別に問題はないので歓迎する気ではいるが。
「あーちょっと違うんだ兄さん。詳しくは中で話すんだけどさ……」
ところが弟から返ってきたのはまず一部の訂正。一体どういう意味なのかと、問い返そうとしたのだが……次にシエルが言った言葉に、それは虚空へ消え去った。
「今日からウェンディたちを、ここに住まわせてあげたいんだけど……いいかな?って」
「……え???」
ついでに、ペルセウスの思考回路も、虚空を越えて宇宙へと飛んで行った。
「……あの、兄さん?」
「あ、悪ィ、ちょっと理解する時間をくれ。次回までには戻っておくから」
「次回!!?」
おまけ風次回予告
ペルセウス「今日からここに住む……?住むって言ったのか?いやウェンディたちならむしろ大歓迎なんだが、いきなりすぎやしないか?」
リサーナ「え、ウェンディたち、ペルたちの家に住むの!?」
ペルセウス「確かに部屋なら使ってないところあるし、持て余していたことも事実だが、てっきりその話は少なくても3年後くらいになるかと……いや最近の若者は色々進んでるとか聞いたことあるし、シエルももうすぐ成人だから何も間違っていないのか……?」
リサーナ「あの、ペル?ペルもその、若者の部類に入ると思うんだけど……」
ペルセウス「だが二人は知り合って間もない。確かに距離は縮まっているようだがそれにしたって速度が段違いだし、ウェンディの人となりもよく知ってるから一線を越えるようなことはないはずなのにいくらなんでも急速すぎ……もしかして俺が謹慎受けてる間に何かあった……!?」
リサーナ「ペル聞いてる!?さっきから私の声耳に入ってる!?」
次回『突然の新入居者』
ペルセウス「いや待てよ?シャルルも一緒だ。で、俺も同じ家で済むことは変わりないから、家族として暮らすと言う事には変わりない……家族として?それはつまり……実質的な結婚……!!?」
リサーナ「誰か助けてー!!ペルが壊れて直らなーーい!!」