FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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新章、ようやく公開です!前回まさかの展開で遥か彼方に意識が飛んで行ってしまったペルも、ようやく帰ってきました。(笑)

まだまだ遅筆が続くかと思いますが、今後も更新は続けていきます。よろしくお願いいたします!

そう言えば、真島先生、switch2が当選されたとXで流れてきましたね。おめでとうございます!グレイ役で有名な中村悠一さんも、店頭抽選でようやく当たったようで。(笑)
ちなみに僕は、4連続で落選でした。ディクショーメェ!!


第9章 X791年・妖精の尻尾(フェアリーテイル)
第144話 突然の新入居者


7年の歳月を経て、天狼島での封印から解放され、帰還できた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一部メンバー。彼らを待っていたのは、徐々に大切なものを失いながらも(ギルド)を守ってくれた家族たち……だけではなかった。

 

「『女子寮家賃未納分』……合わせて750万J(ジュエル)……!?」

 

三日間にわたる帰還祝いの宴を切り上げ、久々の帰宅……をしようとした矢先に女子寮に住まう女性陣に告げられたのは不在時の家賃未払いの件。凍結封印と言う形で不在だったという事情はあれど、7年間部屋を間借りしていたと言う事実は変わらない。非情なようだが、それが経営だ。

 

ついては女子寮の部屋は一部屋につき月10万。それが7年分……正確にはX784年12月~X791年2月までの75か月間。入寮してからそれ程時が経っていなかった新人にあたる少女・ウェンディも、同じ部屋で暮らしていたシャルルとの分を合わせて750万の大金を請求されることになってしまった。

 

「私の貯金が……!!」

 

「足りない分はおまけしておくから……」

 

空になってしまい、冷え冷えとなった懐にショックを受けて涙を浮かべる少女とどこか虚ろになった目を素寒貧の財布に向ける白ネコに、慰めも含んだ柔らかな笑みを浮かべながらラキは答えた。子供ながらに魔導士として活躍していた身の上、幼少期に身を置いていた化猫の宿(ケット・シェルター)のマスター・ローバウルが彼女たちの為にと遺してあったギルドの財産があったのもあって実はそれなりに貯金を持っていたウェンディたちであったが、今回は額が額だ。今までの全財産を上回る出費によって、一気に一文無しに。12年の人生で初の出来事だ。

 

彼女たちの傍らには、同様に手痛い出費を喰らった女子寮在籍組が少女たち以上に暗い影を落とし、身体全体が灰になるほどにテーブルに集まって落ち込んでいる。ほとんどがウェンディに以上に稼ぎを得ている為、新人と言う事で温情を貰った彼女たちとは違い、しっかりと全額払わされることに。

 

特にエルザはただでさえ月10万の部屋を、鎧や衣装の収納スペース確保のために無理を言って5部屋ぶち抜いて間借りしている。S級魔導士故に月50万など特に問題視していなかったエルザをもってしても約7年分はきつかったようだ。合計3750万は土地代を考慮しなかったら豪邸も建てられる。破産していないのが不思議なぐらいだ。

 

「仕事も少ないし……しばらくは食費すら危ういわね、この状況……」

 

「ご飯だけはギルドで食べさせてくれるって言ってくれたけど……早くお仕事出来るようにならないとね……」

 

二人して日も傾いて暗くなってきたマグノリアをトボトボと歩きながら、先行きがどうにも不安な未来を予見して憂鬱気味になる。そんな彼女たちと並んで歩くのはギルドでの宴会で使った食材を街で更に補給する為に同行した、現在も女子寮にいる一人であるラキ。

 

この時間帯になっても空いているであろう……定価よりも額を減らして販売している店を狙い目にして回る中、三件目を後にして再び歩き出した彼女たちの耳に、とある声が届いた。

 

「ありがとうね!これからもよろしく!」

 

「こちらこそー」

 

後から聞こえたその声に聞き覚えを感じ、反射的に聞こえた方向へと目を向ける。そして店仕舞い目前の八百屋の前にいた、声の主であろう少年の後ろ姿を見つけたウェンディは、思わず声を発した。

 

「あれ?シエル!」

 

「ウェンディ?シャルルとラキも」

 

振り向いたその少年・シエルがこちらに気付いた様子で歩み寄る。小脇に抱えているものは、肉類を中心に詰め込まれた様々な食材類(魚介は除く)だ。先程の八百屋で買ったであろう複数の野菜も入っている。

 

「シエルも買い物?見たところ全部胃袋用みたいだけど」

 

「うん、食料だよ。ひとまず今日と明日の分だけ」

 

妙な言い回しで質問したラキに、聞きたいことはすぐに察したシエルが答える。体感数ヶ月しかギルドに所属していないウェンディたちが、ラキの独特のボキャブラリーに対応するのはまだ慣れていない事を気遣っての事でもある。

 

「そういや、アンタたち持ち家だったわね、しかも結構立派な」

 

「さすがに7年間放置だったから、大掃除する羽目になったけどね。あと食料は全滅……」

 

「ああ、それで……」

 

天狼島へと向かうより以前から、シエルたち兄弟の家を訪れたことがある記憶が過ったシャルルが納得したかのように言えば、買い物に出る前に兄弟で行った掃除と食料確認の事を思い返しながら苦笑混じりに答える。カゴに入った食材の量と、7年間放置されていたであろう兄弟の宅内を容易に想像できたであろうシャルルが再度納得の溜息を吐いた。

 

「幸い金には困らないから、何人か食いもん目当てで漁りに来てもいいように、しばらくはストック増やす方に割いてこうかなって」

 

「まず前提がおかしいことに自覚があっての発言かしら……?」

 

不幸中の幸い、とでも言いたげにシエルは肩を竦めたが、その準備の方向性には容赦なくツッコミが飛ぶ。前科のある侵入常習者たちの顔ぶれが頭をよぎり、もはや警戒心はほぼゼロだ。そう言えば最近、ルーシィも何かと麻痺しがちだったような気がする。シャルルには、どう反応すべきか判断がつかなかった。

 

「持ち家とお金があるとマウント取り放題でいいわねぇ」

 

「ら、ラキさん……!!」

 

「まあ……否定はできないな。ほぼほぼ兄さんのおかげでもあるし」

 

嫌味には聞こえない、けれど羨ましさがにじむようなラキの声に、ウェンディは慌てて止めに入った。当然言葉通りの皮肉で言ったわけではないのはシエルも理解している為、今の境遇のありがたみを噛み締めつつ、苦笑混じりに返した。

 

「ところで、ウェンディたちも買い物?ギルドでの宴会がまだ続いてたりしてるの?」

 

「……実は、ね……」

 

そして話はウェンディたちの現状へと移る。天狼島から帰還した女子寮組……及び他にも借家を拠点に過ごしていた面々が、不在にしていた7年分の家賃を払わされる羽目になったことを、女子三名から説明を受けたシエルの表情が、驚愕、燐憫、そして困惑へと転々としていき、終わるころには苦笑と言うには引き攣ったものへと変わっていた。

 

「ま、まさか借家勢にもそんな罠があったとは……」

「かかるのは選ばれし者だけだけどね」

「嫌なことに選ばれたものね」

 

体感的には数日しか家を空けていなかったのに……突如大金が消え失せるという悲劇に見舞われ、シエルは同情を禁じ得ない。声のトーンが一段階下がったシエルの言葉に、苦笑混じりにラキが補足を零し、シャルルはガクリと項垂れたまま、皮肉めいた言葉をぼそりとこぼした。そりゃそうも言いたくなる。

 

「おかげで今後の身振りをどうするか、が一番の課題ね」

 

「お仕事して……来月分から払えるようにしないといけないし……」

 

不足分をおまけしてもらったとは言え今のウェンディたちは無一文。来月の分を支払うにはギルドに届く依頼をこなさなければならない。しかしギルドに今来ている依頼は7年前と比べると雀の涙。依頼の報酬も多くはなく、今のギルドメンバーで分ければ、さらに一人あたりの取り分は少なくなる。

 

長期の金銭不足に苛まれる未来しか見えず、表情と気分が暗くなる。悲しそうに俯いたウェンディたちの表情を目にしたシエルはどうにかできないか考え込むように目を閉じ、口元に手を持っていく。意中の少女が直面した問題をどうにかしたいと言う少しばかりの下心が混じっているのは否定できないが、自分よりも年下の少女たちが路頭に迷うのを捨て置くのも人道が廃ると言うもの。

 

5秒近く考え込んだシエルは、一番効率の良さそうな解決法を見出し、気付けば提案として口に出した。

 

「じゃあいっそ、ウチに来る?」

 

『……え?』

 

ピンと来たと言う風に笑みを浮かべて出した少年の提案。突拍子もない言葉に、ウェンディたちは目を瞬かせて沈黙した。そんな彼女たちに気付いているのか否か、言葉を失っている彼女たちに続けて説明を始めた。

 

「俺たちの家、今は兄さんと二人暮らしなんだけど、正直現状持て余してるぐらいだったから……使ってない部屋を掃除して、私物を移せばすぐにでも好きなように使って大丈夫!!」

 

屈託のない笑顔で言い切った少年は、直後思い出したように「あ、先に兄さんの許可を取らないとかもだけど……まあきっと大丈夫だろ」と小声でぼやく。正直ウェンディたちには棚から牡丹餅だ。家賃を払いきれず、女子寮を追い出される事と比べれば、考えるまでもないが……。

 

「それは確かに……私たちには願ってもない事だけど……シャルルはどう?」

 

「そうね……ネコの手も借りたい、と言いたくなる状況なのは確かだし……金銭と居住の問題はすぐに解決するし……」

 

「けど……払えなかった分をおまけしてもらったのに、すぐに引っ越すのも……」

 

「じゃあおまけしてもらった分は、今後仕事で返していくってのはどう?俺たちの方で代わりに払うから、その分を少しずつ家賃として返済してもらう。これなら気負いすることもないでしょ?」

 

相棒の白ネコと相談を交え、シエルの提案に乗るか否かを悩む。厚意に甘えるべきなのか、彼らの負担になる事を避けるべきか。それにこれまで世話になった寮を、どんな事情があるにせよ簡単に離れるのは、やはり後ろめたい。

 

そんな不安要素さえ、あっさりと解決案を提示してきたシエルの言葉に払拭される。ウェンディたちの心境は今、他者への気遣いよりも自分たちの身の上へと天秤が傾いた。

 

「じゃあ、お世話になっても、いいですか?」

「!?」

 

「ちょっと癪だけど……頼りにさせてもらうわ」

「!!?」

 

「決まりだね!後は兄さんに話そう。細かい事は兄さんも交えたほうがいいだろうし」

 

照れが混じった笑みを浮かべてウェンディが、諦めたように溜息を吐きながらもシャルルが、シエルの提案を承諾することで話はまとまった。蚊帳の外になって一切言葉を発さなかったラキが度々目を瞬かせているのを尻目に、シエルは指を鳴らして先のことを進めていく。

 

「ラキ、後で正式に決まった事は連絡するけど、ウェンディが女子寮から引っ越すかもしれない事、オーナー『ルチオ』に先に知らせておいてくれる?」

 

「え、あ、うん、わかった……」

 

呆然としていたラキに向けて、女子寮の管理をしているオーナー・『ルチオ』氏への伝言を託したシエル。たどたどしく返答した彼女に「んじゃよろしく~」と軽いノリで告げながら、ウェンディたちを伴ってシエルは帰路につく。

 

「すみませんラキさん。みんなには後日、絶対ご挨拶しますから!」

 

そして最後に、律義に挨拶を残したウェンディが後をついて行くようにシエルと共に歩いていくのを、未だ理解が追い付かない頭の処理を行いながら見送った。

 

「……明日、槍の雨で街が血塗れになっちゃうのかしら……?」

 

ようやく落ち着いたラキの第一声は、物騒さが際立つが明らかな動揺が見えていた。

 

 

 

 

それと……これまでの流れに同様を覚えたのは、ラキだけではなかった。

 

「(え……えっらい事聴いてもうたぁ〜〜!!?)」

 

商店の陰に隠れ、両手で口を押えながら、沸騰するほど顔を真っ赤にしたまま心の奥底で叫ぶのは、そこでずっと話を聞いていたルーシィである。何故彼女がここにいるのか。

 

何を隠そう、ルーシィも月7万の借家で過ごしている身。女子寮組と同様7年分の家賃を要求され、払えるまで家に入れないと大家に突っぱねられてしまったのだ。月7万の家賃でヒーヒー言ってたルーシィに、当然そんな大金を払えるはずもなく、財政難のギルドを頼ることも出来ず、最早頼れる伝手は持ち家で暮らしているファルシー兄弟しかいなかった。

 

これから相談すると共に、あわよくば家賃を確保できるまで住みかとさせてもらおうかと尋ねに行くところだったのだが……。

 

「(恥も外聞も捨ててシエルたちの家に泣きつこうかと思ってたけど……さすがにあの状況になったら無理!!)」

 

聴こえてしまった“同棲成立”の会話。これまで焦れったさすら感じた年少組の急進展に割り込む勇気などルーシィにはない。速攻でファルシー家を頼ると言う一番堅実的なプランを捨てたルーシィは、再び途方に暮れるしかなかった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「なるほど……そういう事情か……」

 

遥か彼方まで飛んで行った意識を、シエルたちの経緯を聞いてる間に取り戻したペルセウスは、弟が淹れてくれたコーヒーにようやく口を付けて心を落ち着かせた。話を聞き始めるまで、何やらトチ狂ったことを言ってた気がするが、その記憶は飛んでいる。

 

「それで、二人の部屋を整理してる間は2階の客間に泊まってもらおうかとか、女子寮での不足していた家賃分を代わりに用意したりとか……おおまかになったけど、兄さんにも許可をもらえたらな、って」

 

リビングのテーブルを挟んで話を続けるシエルの声に耳を傾けながら、僅かばかり冷や汗を顔に滲ませて、視線を天井に持っていきながら考え込む。シエルが言ってたように、家のスペースは余裕があるし、金銭面も否はない。ウェンディたちなら家事もきっちりやるであろう信頼もあるので、心配事はほぼないと言っていい。ただ……。

 

「(何を意味するのか、二人とも気付いてないのか?ホントに……)」

 

懇願するように話を続けるシエルと、断られないかと若干不安を抱えた顔を浮かべるウェンディ。少し考えれば自分たちが行っていることが如何に大胆か分かりそうなものだが……。ちなみにシャルルはペルセウスの一挙一動で察したのか同情の目を向けている。どうやら彼女は気付いてるようだ。

 

混乱が続いていたペルセウスであったが、冷静になって考えれば頼みを断る理由もなく、コーヒーカップをテーブルに置いて柔らかく笑みを浮かべながら答えた。

 

「……まあ、俺としてもウェンディたちなら歓迎だ。異論はねぇよ」

 

「よし決まり!ありがとう兄さん!」

 

「ありがとうございます!お世話になります!」

 

「世話になるわ」

 

家主の許可もおりたことで正式に決まったウェンディたちの居候。率先して説得したシエルは自分のことのように喜び、安堵を覚えたウェンディとシャルルも一度息を吐いてから改めて挨拶を言った。

 

「んじゃ、ウェンディたちが払えなかった分の家賃は明日俺が納めておく。ウェンディとシャルルは、持ち出せる分の荷物は明日の内にまとめておくといい。機を見てシエルが乗雲(クラウィド)で運ぶのを手伝えば何度も往復する必要ないだろうしな」

 

「分かったわ」

「何から何まですみません……」

 

何事でもないように淡々と、女子寮から翌日やるべきことを示すペルセウスに返事するシャルルの傍ら、ありがたさと申し訳なさに目元を伏せながらウェンディは感謝の言葉を絞り出す。

 

俯いたまま、一瞬広まる静かな空気。その一瞬の中でウェンディの胸に過ったのは、甘えてばかりではいられないと言う一心。顔を勢い良く上げて、決意した様にウェンディは声を張った。

 

「肩代わりしてくれる分は、必ずお返ししますから!」

 

「別に気にする事ねぇぞ?経営してるわけでもなし、今のところ財政面で苦はないからこっちで持つ」

 

真剣さを感じる少女の表明に、肩を竦めながらペルセウスは返す。本人にとってそれが大したことではないとしても、それではウェンディの肩身が狭いままだ。

 

「そ、そこまでしてもらうわけには……!」

 

「本当に気にする事ねぇんだが……そうだなぁ、どうしてもって言うなら代わりに条件を出すか」

 

「条件?」

 

真面目な彼女の事だから、このままだと話は平行線。そんなウェンディが気負いしないようにと、徐に提案してきたペルセウスに、ウェンディのみならずシエルとシャルルも疑問符を浮かべる。一体何か、と黙して待つと……。

 

「今後俺のことを『お義兄ちゃん』と呼んでくれるなら……」

「そぉい!!!」

 

目を細めてどこかキラキラしたような笑みをはっつけながら言い出した内容を言い切る前に、テーブルに乗り出した弟が兄の脳天に手刀を叩きこんだ。当然シエルの顔は真っ赤である。

 

「どんな条件だ!?どさくさに紛れて何てこと頼んでんだよバカ兄貴!!」

 

「そんな目くじら立てんなよ……勿論冗談だって……半分」

 

「最後ボソッと何つった……!?」

 

突拍子もなく言い出したとんでもない条件に、思わず口調も荒げた弟を窘めながらも、本心を苦笑で隠した。隠しきるつもりもないようだが。動揺を全面的に表しながら問い詰めるシエルに、黙秘を貫いて兄は視線を逸らした。

 

そんな小規模の兄弟喧嘩に呆然としていたウェンディはと言うと……。

 

「(お兄ちゃん……?ペルさん、妹とか欲しかったのかな……?)」

 

「(とか思ってんでしょーね……このコの顔を見る限り……)」

 

ペルセウスが提示した条件のニュアンスを汲み取り切れずに一部間違った解釈をとり、そんな相棒の心情を正確に読み取ったシャルルが半目で少女を見上げていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

三日後……。

今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)が拠点とする丘の上の酒場では、ほとんどの面々が集って各々過ごしていた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)再始動、と言っても過言ではない勢いとは言え、そもそも仕事がそこまで来ない。手持無沙汰になるものがほとんどである。

 

だがそれでもなお悲観的な空気はない。これまでの7年間の寂しさを埋めるかのように、日々ギルド内は大盛り上がり。空白の現実を突きつけられた者たちも、徐々にその悲しみを乗り越えて前を向きだしている。

 

そして今、酒場兼ギルドとなったその建物に三人の影が訪れた。少年少女と白ネコである。

 

「お?今日も賑やかだなぁ」

 

「おはようございます」

 

「何と言うか……いつも通りね」

 

ウェンディたちがファルシー兄弟の家に居候を開始したあの夜から、初めてこの酒場に戻ってきた。場所も内装も全く違うのに、漂う雰囲気は活気のあった7年前と変わらない。不慣れな場所から感じる慣れ親しんだ空気は、安心感さえ覚えた。

 

「ウェンディ、シャルル。三日ぶりだな。見かけることがなかったが、仕事に行っていたのか?」

 

「あ、いえ……実はちょっと……」

 

最初にウェンディへと声をかけたエルザは、この三日間で女子寮内に夜中ウェンディたちの姿を見かけなかったことからてっきり不在にしていると思っていたらしい。事実は異なるので経緯を説明していると、一方のシエルは依頼板(リクエストボード)の様子を確認しに行く。

 

「で、どう?ちょっとは依頼増えた?」

 

「見えてて言ってんだろ、それ。御覧の通りだ」

 

近くのテーブル席に座っていたグレイが背後の依頼板(リクエストボード)を指さしながら答える。目に入っていたのですぐに察しはついていたが、やはり帰還後二日三日程度ではほぼほぼ依頼は増える事など無い。天狼組に世話になった過去の依頼者なら頼りに来るかもしれないが、不確定要素が過ぎる。

 

「やっぱそうか……まあちょっとずつ地道にやってくしかないかぁ」

 

「余裕のある奴はいいなぁおい」

 

予測していた現状に肩を竦めながら、空いていたグレイの近くの席へと腰かけてぼやく少年に、少ししかめ面を浮かべてグレイは返す。持ち家がある上に資産にも余裕がある者が零す皮肉に聞こえたようだ。否定はしないが。

 

「引っ越す!?女子寮をか!?」

 

すると、ギルド内にエルザの驚愕の声が響く。耳に入った者たち数人が思わず彼女の方へ目を向け、多方向からの視線を感じながらも、眉を下げながら申し訳なさそうにウェンディは説明する。女子寮の家賃が今後収めるのに難しい状況である事、そして今現在ギルドにも頼る事が不可能である為、住居を移すことに決めたことを。

 

「そうか……寂しくなるが、それも致し方あるまい。だが、女子寮にはまたいつでも遊びに来るといい」

 

「いいんですか?」

 

「勿論だ。二人なら歓迎する」

 

一抹の寂しさを思わせながらも、笑みを向けて気軽に女子寮への来訪を歓迎するエルザに、目を輝かせて喜ぶ。「ありがとうございます!急な話になっちゃってごめんなさい」と僅かに昂った様子で感謝と謝罪を告げながら花を咲かせる。

 

「ウェンディ、引っ越しちゃうのかぁ……ちょっと残念」

 

「でも、引っ越し先にアテはあるの?」

 

同じく女子寮に居を置くレビィが寂しそうにぼやく傍ら、近くに座っていたリサーナが尋ねる。確かに女子寮の家賃は今の少女にとって高額だ。しかし他に居が無いことには今後の生活に支障が出る。少し不安を感じて尋ねたが、ウェンディが浮かべたのは依然として笑顔。「はい、大丈夫です!」と答えた……のと同時だった。

 

「「ただいまー!」」

「帰ってきてからの初仕事、大成功ー!」

 

二日ほど前に数少ない依頼から仕事を勝ち取ったナツ、ルーシィ、そしてハッピーが仕事先から帰還した。ハッピーが告げた様に上手くいったようで喜びを体中に現わしている。だが……。

 

 

 

 

 

「シエルとペルさんのお家に、居候として住まわせてもらう事になったんです!」

 

直後にリサーナの問いに更に答えたウェンディのその言葉が、ナツたちを含むギルド内の空気を一気に静寂へと変えた。先程までの騒ぎが嘘のように静まり返り、ほぼ全員の注目を浴びる。その異変に首を傾げて呆けるウェンディと、もう一人異変の原因が分かっていない様子で周りを伺うシエル。溜息を吐いたシャルル以外の当事者は、気付いていなかった。

 

「「……え?」」

「あっ……」

 

帰還直後に耳を疑う言葉を拾ったナツとハッピーが目を見開いて硬直し、事情を知ってるルーシィは、思い出したように顔を赤くして声を漏らした。

 

「成程、シエルとペルの……確かにあそこは広いし、部屋も余っていたな」

 

「はい。それで、シエルの方からペルさんにも相談してくれて……」

 

そして空気の変化に気付きながらも、唯一正常に動いているエルザが話を続ける。どうやらエルザも気付いていないようだ。今の爆弾発言に。

 

「お……おい、シエル……それ、マジ話?」

 

「ん?マジだけど?ほっとくわけにもいかないし」

 

一方で、シエルの一番近くにいたグレイが、動揺を前面に出しながらも慎重に尋ねて来た問いかけに、首を傾げながらもあっけらかんとシエルは答えた。比較的近くで我関せずと言った様子で鉄を食べていたガジルと、共に座っていたリリーも目を見開いてこちらを凝視している。

 

「……?みんな、どうしたんですか?」

 

静寂は徐々にざわざわと少しずつ話し声が広まりだす。そしてその全員がこちらに着目していることに違和感を感じたウェンディが尋ねるも、誰も彼も気まずそうに口を噤む。ジュビアを含む何人かの女性陣は口を覆って顔を赤くしているし、男性陣も口を大きく広げて呆然としている。そして……。

 

 

 

「それって!“シャルル”がシエルたちと、(DO)(SAY)!!?」

 

「アンタが言うの?ってかウェンディもいるんだけど……」

 

最初に静寂を破ったのはハッピーだった。注目した点は周りとは別の事であったが。ショックと同様からか妙な口調を交えながら言い放った彼の言にすかさずツッコミを入れるシャルルをよそに、“同棲”と言う言葉が当事者である少年少女の耳にも入った。数秒ほどその言葉の意味を脳内で処理するために固まっていた二人であったが……。

 

「あ゛っ!!?」

「っ!!?」

 

理解し、気付いた瞬間、二人揃って爆発したかのように顔が赤く染まり、各々絶句と動揺が支配する。動揺が広まったのはギルド内も同じで、年少組にあたるシエルたちが一つ屋根の下で過ごすことになったと言う衝撃の事実と、今になって事の重大さを理解した二人に驚愕するものと二分されている。

 

「おっ前……まさか今気付いたのか……?」

 

「てっきり狙ってやったもんだと……」

 

「ち、ちげぇよ!そんなつもりなかったって!てかそんな事意識してたら出来る訳ねーし!!俺なら!!」

 

「そっちの自覚はあったのか……」

 

少年の異変に気付いたグレイとガジルが呆れがちに指摘すれば、目もグルグルになったシエルからの弁明が返ってくる。同棲状態になったことに気付かなかった癖に、自分のスペックは客観的に見れていたことに思わずリリーがツッコんだ。

 

「へぇ~……?“同棲”とはねぇ……その歳で大胆だねぇ?」

 

「ダメよカナ、揶揄ったりしちゃ」

 

「(やっぱりこうなった……)」

 

酒の入った容器を片手に、羞恥に顔を覆って何も言葉を発せなくなったウェンディに絡みに行くカナ。そんな彼女に注意を呼び掛けるミラであるが、彼女の顔も面白そうなものを見つけたかのような良い笑顔を浮かべている。予知の力を使わずとも推測できた事態になって、シャルルは頭を抱えた。

 

「よ、よかった、のかなぁ……?」

 

「シエル……漢だ……」

 

シエルの恋路を応援する側であったリサーナでさえも混乱を隠しきれず目元を伏せ、エルフマンも通常とは打って変わった、どちらかと言うと畏怖がこもった様子で呟く。姉のようにすぐさま受け入れるには時間がかかるようだ。

 

「おいおい、シエルの奴も随分踏み込んだなぁ!」

「……マセガキ……」

「(成程……オレもラクサスを居候として誘えば……!)」

 

雷神衆はまさしく三者三様。ビックスローは周りを囃し立てるように軽口を放ち、エバーグリーンはフリーズしかけた思考を戻して若干引いている。そしてフリードは……何やら別の事を考えていた。

 

「……やっぱ、驚くわよね……みんな……」

 

「……なあルーシィ」

 

知れ渡ればどんな反応するか予測できていたルーシィは、想像通りの騒ぎになったギルドを見て、顔の熱も引かぬまま感想を零す。そんな彼女に隣にいたナツに呼びかけられ、「何?」と目を向けると、特に何の感情も籠っていない素の表情で言ってきた。

 

「お前もオレたちん家に引っ越すか?どうせなら」

「するかっ!!」

 

無表情でとんでもないことを言ってきたナツに、当然ルーシィはより真っ赤になった顔を険しくしながら、すぐさま顔面パンチで却下した。そんな端っこで起きた一幕に誰も気付かないまま、流れるようにどんちゃん騒ぎは続くのであった。




おまけ風次回予告

シエル「舞踏会?今度行くの?」

ルーシィ「依頼先の貴族が主催するんですって。報酬も凄いのよ!」

シエル「へぇ~、ルーシィその辺のマナーは叩き込まれてるだろうから、結構有利だね。頑張って!」

ルーシィ「え、あんたは来ないつもりなの?」

シエル「そう言う場に出るのはあんまり気乗りしなくてねぇ……」

次回『魔法舞踏会』

ルーシィ「そっかぁ、シエルは行かないのねぇ~。可愛いドレスを着たウェンディを見るチャンスをふいにしたいのねぇ~」

シエル「さーてまずは社交場のダンスの仕方を覚えないと!レビィにダンスの本がないか聞きに行かなきゃ!」

ルーシィ「……知ってたけどチョロいわね」
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