FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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最近は暑くて暑くて毎日がまるで地獄なのではと疑うほどの猛暑日が続いていますが、皆さんは大丈夫でしょうか?熱中症にならないように、ご自愛されるように…。

今回はタグにも書いてあるように独自解釈、捏造設定などが目立つ描写がございます。そのあたりはまた留意していただけると助かります。


第14話 元素陥落

巨大な獣の王へと変貌したエルフマンの雄叫びは、廊下…ひいてはギルドの内部全体に響くのではないかと思うほどに大きなものであった。

 

「ま、まさかこれが…っ!!?」

 

驚愕し、呆然としていたソルは、反応が遅れてしまった。獣王と化したエルフマンの拳がソルをあっさりと殴り飛ばし、当の本人は「ノーーーーン!!?」と言う悲鳴と共に向こうの壁の方へと激突した。

 

「エルフ…マン…!」

 

シエルがエルフマンに呼びかけるも、その声は非常にか細い。聞こえていなかったのか、それとも反応するに値しなかったのか、彼はソルの方向と反対の、ミラジェーンが捕まっている巨人の左手へと向かっていく。

 

シエル自身は獣王(ビースト)の姿を見るのは初めてなのだが話だけは聞いている。そしてあの姿になったエルフマンが、理性を失って暴れまわったということも。

 

もし今も、その状態だとしたら…?

 

「ダメだ…っ!やめろ、エルフマン……!!お前がこれ以上、家族を傷つけるなんて、あっちゃいけないんだ…!!」

 

必死に呼びかけて止めようとするも、彼は応えようとせず真っ直ぐにミラジェーンの方へと、巨体に似合わぬ俊敏な動きで駆けていく。ミラジェーンもエルフマンの名を呼んでいるが、それが聞こえているのかどうか…。

 

そしてとうとう、ミラジェーンのすぐ傍まで獣王の姿をしたエルフマンが到達する。

 

「エルフマン…」

 

不安を募らせた表情で、目の前の弟を見上げているミラジェーン。理性を失っている場合、この後自分に何かが起こり、そしてその後も暴走を起こしたままになったら、またエルフマンが傷つくことになる。それだけは…どうかそれだけは起こらないでほしい…。

 

 

 

その願いが通じたのか、ミラジェーンを拘束していた魔導巨人の指を押し広げ、エルフマンはミラジェーンを抱きかかえた。

 

「ごめんな、姉ちゃん…。こんな姿、二度と見たくなかっただろ?こいつを上手く操れなかったせいで、リサーナは…」

 

獣王と化した彼には、理性があった。自らの意志で全身に纏った魔物の力を操り、窮地にあった姉を救い出すことに成功したのだ。しかし、そんなエルフマンの表情はどこか悲しげだ。妹を失うきっかけとなった全身接収(テイクオーバー)。それを再び姉の前で見せることになったことを、彼は後悔していたのだ。だが姉であるミラジェーンを、家族である妖精の尻尾(フェアリーテイル)を守るには、これしかなかったのだ。

 

「リサーナはあなたのせいで死んだんじゃないのよ…。あの時だって、あなたは必死に私たちを守ろうとして…」

 

「守れなかったんだ…。リサーナは死んじまった…」

 

エルフマンの身体が、獣王の姿からもとの人間の姿に戻る。後悔を滲ませた表情で、己の力不足で妹を守ることができなかった自分を、今もエルフマンは責め続けている。そんな弟に、ミラジェーンは歩み寄って彼の身体に寄り掛かる。自分よりも体躯が大きい弟を、励ますように…。

 

「私は生きてるわ。二人で決めたじゃない…。あの子の分まで生きようって…」

 

(リサーナ)はもういない。どうあっても変えられない事実だ。だがもう一人、(ミラジェーン)は、(エルフマン)はまだここにいる。互いの手の届く場所に、こうして確かに存在している。改めてそのことを実感したエルフマンは、一つの感情を抑えることはできなかった。

 

「姉ちゃあぁん…!無事でよかった~~!!」

 

立ち尽くしたまま、両眼から涙を流し、大声で子供のように鳴き声を上げる。まるで幼かったころに姉の前で泣いていた時と同じように。そんなエルフマンに姉であるミラジェーンは呆れたような、だが愛おしさを感じる声で「あなたが泣いてどうするの」と告げながら体を離す。トラウマを乗り越え、最愛の家族を今度は守ることができた。それはこの姉弟の絆をより深めることになっただろう…。

 

「…良かった…二人とも…」

 

それを少し遠くから見ていたシエルもまた、笑みを浮かべて呟いた。彼らがまた傷つくことにならなかったことに、心の底から安堵した。シエルにとって、エルフマンは似ているところが多いのだ。自分の行いによって、兄弟を傷つけてしまったこと。その結果で激しい後悔や自責に苛まれたことも。だからこそ、今こうして互いを更に大切に感じている光景を見て、自分たちを重ね、共感している。

 

「ノンノンノン…」

 

その時だった。もう聞こえなくなったはずの声と口調が聞こえてきた。すぐさま振り返ると、そこには殴り飛ばされて向こうの壁に激突したはずのソルがフラフラとした足取りながらもこちらに歩いてくる姿があった。

 

「ノンノンノン…3つのNO(ノン)を二回でもう許しません…!よくもやってくれましたな…?」

 

獣王となっていたエルフマンに殴られた顔面は腫れており、モノクルにも罅が入っている。そして壁に激突したときにできたであろう瘤が頭部にあるが、まだ戦意は失われていないようだ。

 

「こいつ、まだ…!?」

 

エレメント(フォー)としての意地なのだろうか。痛々しい様子の今の身体からは想像できないほどに敵意を剥き出しにしているソルは、魔力を集中させてシエルにその照準を合わせている。

 

「まさか全身接収(テイクオーバー)を成功させるとは…予想外でしたよ。しかし、ノンノンノン…3つのNO(ノン)であなたから先に始末すればよろしいだけのこと…!!」

 

非常にまずい。率直に今出てきた感想がそれだ。シエル自身の身体もまだ動けるほどに回復できていない。今ここで大技を放たれては回避できずにみすみす受けることになってしまう。だが、彼が動けるようになるまで悠長に待つことをソルが認めるはずもなく…。

 

石膏の奏鳴曲(ブラトールソナート)!!」

 

先ほどシエルに襲い掛かった岩の拳が再び彼に襲い掛かってくる。衝撃に備えてシエルはその目を固く閉じるしかできない。

 

「させるかぁ!!」

 

だがそれよりも早く、再び獣王の姿へと変化したエルフマンが、石の拳に真っ向から同じく拳で応戦し、シエルに届く前に粉々に砕くことに成功する。更には勢いそのままに再びソルに拳を当てようとするが、素早く地面に潜られたことでその拳は空振りとなる。

 

「くそっ!ちょこまかとぉ…!」

 

獣王の魂(ビーストソウル)を成功させた今、エルフマンの身体能力は先程の比にならない程上昇している。今の力ならばソルを圧倒できるのだが、それは向こうも承知のようで、ほぼ必ずと言っていい程エルフマンの攻撃範囲には入ろうとしない。

 

これは恐らく時間稼ぎだ。煉獄砕破(アビスブレイク)さえ発動させれば、実質的に幽鬼の支配者(ファントムロード)の勝利となるのだ。既に手負いであるソルにできる、唯一の突破口とも見れる。だが、妖精側からすれば絶対に食い止めなければならない手段である。

 

「(どうにかできないか…!?この状況を打破する方法は…!!)」

 

エルフマンに遅れて屋内へと入ってきたミラジェーンに体を起こされながらも、シエルは視界に入る者に注目していく。床に潜っては出てを繰り返してエルフマンを撹乱するソル。ソルに撹乱されて、攻撃を当てられずにいるエルフマン。戦闘痕で所々が砕けた壁や床。そして…

 

あることに気付いたシエルは見出した。この状況を打破する要素を。そして思い出す。過去にある人物とした会話の内容を。

 

「エルフマン、ソルじゃなくて床を狙うんだ!当たるまで気にせず、ぶっ壊すつもりで!!」

 

「よく分からんが、任せとけ!!」

 

シエルの言葉にどんな意図があるのかは分からない。だがシエルは自分よりも頭脳が優れていることは少なからず自覚をしているエルフマンはその言葉通りに行動する。ソルが魔法で潜った床を、躱されていることも気にせずに攻撃を繰り返していく。

 

「ノンノンノン、当たりませんね~。一体何を企んでいるのかは存じ上げませんが、ただいたずらに体力を消耗するだけですよ?」

 

次々と壊され、凸凹と亀裂が多くなった床の中をも自在に潜って移動しながら、ソルは得意げにエルフマンを挑発する。それに乗ったのかは定かではないが、エルフマンは「じゃかぁしい!!」と叫びながらソルに拳を振るおうとする。それを読んでいるソルは再び床の中に潜ってそれを回避…した瞬間、シエルの叫び声が響いた。

 

「エルフマン!殴ると同時に跳べ!!」

 

その声にエルフマンも、ソルも再び疑問符を浮かべる。だがミラジェーンだけは違う反応を見せていた。気づいたのだ、シエルの意図に。

 

 

シエルが右手に纏っている雷の魔力を見たことによって。

 

「いくら素早く床の中を動けても、床を伝う電撃を躱すことができるかな?」

 

「は!?ま、まさか…!?」

 

床の奥深くに潜ってしまっていたソルはその中で目を見開いた。今自分が潜っている床は凸凹も亀裂も多く、更には豪雨(スコール)によって床にたまっていた水が隙間なく溜まっている。

 

――水と言うものは電気を良く通しやすい。そこに雷を撃ち込めばどうなるか、わからないソルではなかった。

 

早く脱出をしなければ。しかしそれを阻むのは、自分の真上にいる獣王(エルフマン)。彼の剛腕による拳が、今までの中で一番の衝撃と亀裂を生み出し、ソルの動きを一瞬食い止める。

 

「ま、まずい!ノンノンノン、三つのNO(ノン)でおやめくだされ!どうかそれだけは…!!」

 

「その答えは…『NO(ノン)』だ!!」

 

必死に制止の声を上げるソルに対して口を吊り上げながら、シエルは雷を帯びた右手を、水が辺りに走る床へと叩きつける。その雷撃は一瞬のうちに床の水を伝っていき、空中にいるエルフマン、シエルの後方に待機しているミラジェーンは襲わず、亀裂の中へと潜っているソルに襲い掛かった。

 

「『帯電地帯(エレキフィールド)』!!」

 

「ノノノノノノノノノノーーーーン!!?」

 

避けることも叶わずにその身に雷撃を受けるソルは、全身を黒焦げにされた状態で地の中に倒れ、その意識を失った。失う間際に「さようなら(オルボワール)~…」とか呟くような声が聞こえたが、それを気にするものは誰もいなかった。

 

「…グレイには、感謝しないとね…」

 

地を這う雷が収まり、そのまま床に座り込んだシエルが徐に呟く。グレイの名が出た理由。それは今ソルを打ち倒すことに成功した要因である会話が、彼と交わした内容であったからだ。

 

『造形魔法は自由な魔法なんだよ。使用者の発想によってそれは形作られる。ま、要するに必要なのは(ここ)の出来だな。他の魔法でも一緒だろうけどよ』

 

過去に造形魔法を見せてもらった際にシエルが疑問に思ったことは、魔法で形を作る魔法でありながらグレイの戦い方はより多彩なものであったからだ。彼は自分の魔法の力だけでなく、その場の地形、状況、時には天候(シエルが変化させたものも含めて)さえも自分の味方につけることがあったのだ。

 

それを思い出したシエルは、自分が発動させた豪雨(スコール)によって床に水が多く溜まっていることに気付いた。そしてソルは自分の魔法で床に潜り、高速で移動する。なら、より速くつたうことができる雷を撃てば追いつけるはず。そしてそれを確実にするには、あえて水の形を細く長くすれば広範囲で攻撃ができると判断し、エルフマンに床の破壊をするよう呼び掛けたのだ。

 

結果は見事に成功。エレメント(フォー)の一人、大地のソルを撃破することができた。

 

「お疲れ様、エルフマン、シエル」

 

座り込んでいるシエルの両肩に手を添えながら、ミラジェーンが彼に労いの言葉をかける。接収(テイクオーバー)を解除して人間の姿に戻ったエルフマンもシエルたちの元に寄って来る。シエルはミラジェーンの言葉に一言お礼の言葉を返すと、今度はエルフマンが言葉をかける。

 

「オレからも、ありがとなシエル」

 

突如エルフマンからかけられたお礼に、シエルは小首を傾げた。お礼を言われるようなことをしたのだろうかと、疑問を感じたからだ。ソルを倒せたことなのだろうかと思い「エルフマンもいたからあいつに勝てたんだよ」と答えると、それだけじゃないと一部否定される。

 

「あいつがリサーナの偽物を出した時、もうリサーナはいないって分かってたのに、オレはただ戸惑うだけだった…。でもお前はリサーナのためにあんなに怒ってくれただろ?」

 

あの時自分は、目の前の妹が頭の中では違うと思いながらも、心のどこかで自分を恨んでいるのではないかと思ってしまったのだ。ソルの声に重なるように、記憶の中のリサーナと同じ声で恨み言を告げてきたように聞こえた。

 

そんな思いを否定したのがシエルだった。誰よりも家族を愛したリサーナが兄を恨むわけがないと真っ向から否定した。そのことにエルフマンは救われたのだ。重ねて礼を告げる彼に対し、シエルは呆けていた表情に笑みを浮かべ…。

 

「俺は思ったことを言っただけだよ。だって、それが兄弟姉妹(きょうだい)ってもんだろ?」

 

得意げに告げたその言葉に、エルフマンも、そしてミラジェーンも笑みを浮かべて頷く。ギルドの仲間は家族も同然。だが、血の繋がった兄弟と言うのはどうしても特別に感じる絆を持つのも事実だ。どちらかがより強固だと断定はできない。ギルドの仲間も、血の繋がった兄弟も、大事な家族であることは変わらないのだ。

 

それが互いに理解できる。シエルとミラジェーン達姉弟の共通項ともいえる。

 

 

――ふと、ミラジェーンはあることに気付いた。それは空中に煉獄砕破(アビスブレイク)の魔法陣を描いている魔導巨人を見てのことである。

 

「魔法陣を書く速度が遅くなってるわ…」

 

その事にシエルもエルフマンも思わず声を上げた。既に七割ほど書ききっているが、何故ここに来てその速さが遅くなったのか…?

 

煉獄砕破(アビスブレイク)は四元素魔法の禁忌。火・水・風・土の四元素から成り立っている。それを思い返したミラジェーンは一つの仮説に気付いた。

 

「二人とも、残っているエレメント(フォー)は何人!?」

 

唐突に聞かれた質問にエルフマンは「えーっと…」と思い出そうとしている…間にシエルが既に答えた。

 

「さっきの土を司るムッシュ・ソル、それからその前にもう一人火の兎兎丸を再起不能にしたから多くても後二人、半数が残ってる」

 

シエルが答えた二人と言う数にミラジェーンは仮説が正しかったと理解した。先程ソルが倒されたことによって巨人の動きが遅くなった。四元素の内の地を司る彼が倒れたことが関係あるという事は…。

 

「この巨人の動力は四つの元素(エレメント)!エレメント(フォー)を全員倒せばこの魔法は阻止できるわ!!」

 

「そうか、『生体リンク魔法』か!!」

 

『生体リンク魔法』――。

対象者の命…正確には生命を維持する活力ともいえる力をリンクさせて効力を維持させる魔法の事を指す。それが解除されるには、魔法をかけられた対象が命を落とす、あるいは意識を失うことが条件とされる。

 

今回の例で言えば、対象となるのはエレメント(フォー)の4人。彼らが命を落とすか気絶しない限りは、魔導巨人が放とうとしている煉獄砕破(アビスブレイク)を阻止することはできないという事だ。そして残されているのは水と風、それぞれの属性を持つ魔導士二人。

 

「奴等はこの中にいるはずよ、急ぎましょう!」

 

「お、おお!」

 

状況を理解したミラジェーンの言葉に、詳しいことまでは理解できずにいるが、「エレメント(フォー)撃破が最優先」だと認識したエルフマンが続く。シエルもそれに続こうとしたが、ふと空気の流れが変化したことに気付く。その原因を確認するために一度外に出てみると、魔導巨人の右肩の上空にのみ、黒く密集した雲が見えた。天候魔法(ウェザーズ)を扱えるシエルだからこそ感じることができた突然の天気の変動。シエルの予想では、あそこのみ局地的な雨が降っているはず。

 

「雨雲…?雨は水…残りのエレメント(フォー)にも確か…」

 

確信した。水の魔法を扱うエレメント(フォー)はあそこにいるという事に。呼びかけるミラジェーン達の声に応えるように、シエルは彼女たちと共に雨が降る巨人の右肩へと駆け足で向かった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

3人が巨人の右肩に辿り着いた時には、降っていた雨は既にやんでいた。どころか雲も何故か晴れていて青空が広がっている。そしてその場に見えた二つの人影を見てシエルたちは把握した。既に決着がついていたことを。立っているのは自分たちの仲間である氷の造形魔導士だ。

 

『グレーイ!!』

 

名を呼ばれた青年はシエルとエルフマン、そして何故かギルドにいると思われたミラジェーンを視認して驚きの声を上げた。

 

「シエル、エルフマン!あれ?何でミラちゃんまで…?」

 

何故ミラジェーンまでいるのか、その事情の説明は後回し。シエルたちはグレイの近くで倒れているエレメント(フォー)と思われる魔導士を視認した。

 

毛先を外側に巻いた水色の髪を持ち、全体的に暗めの青いダウンコートを身に纏った、グレイと歳が変わらないように見える少女。彼女が水を司る魔導士だったようだ。

 

だがシエルが気になるのは彼女の様子だった。気絶はしているようだが、手を前に組んでどこか恍惚な表情を浮かべたまま。気のせいだろうか。閉じられているはずの目にハートマークが浮かんでいるようにも見える。何か…幸せそうだ…。

 

「グレイ、この人と何があったの?戦ったこと以外で」

 

「は?いや、特に変わったようなことは…まあ所々訳分からんこと言ってはいたけど」

 

グレイ自身には全く心当たりがないそうだ。真実は定かではないが恐らくグレイに何かしらの原因があることは間違いないだろう。と言うかそれ以外にある方がおかしい。シエルはそう断言できる。

 

「あと一人、あと一人を倒せば煉獄砕破(アビスブレイク)は止められるわ」

 

「この魔法や巨人は、エレメント(フォー)が動力だったんだ」

 

「グレイがその人を倒したことで、巨人の動きが更に遅くなったのが、その証拠だ」

 

3人のそれぞれの説明に、グレイはどこか納得のいった表情を浮かべた。特にシエルの巨人に関する情報は実際に目で見るとそれがより実感させられる。

 

残るエレメント(フォー)は一人。風の魔導士である大空のアリアだけだ。しかし煉獄砕破(アビスブレイク)を発動する魔法陣もあと少しで完成するところにまで来ている。最早一刻の猶予も残されていない。

 

「残っているのは風…。皆、もしかしたら煉獄砕破(アビスブレイク)の発動を遅らせることができるかもしれない」

 

突然のシエルの宣言に3人は驚愕した。エレメント(フォー)を倒す以外に煉獄砕破(アビスブレイク)を、止めるとはいかずとも遅らせる方法があるのかと。シエルの表情から見て冗談のつもりで言ってはいないだろう。3人は彼を信じ、乗雲(クラウィド)で巨人の前へと向かっていくシエルを見送った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

シエルの憶測ではあるが、今魔導巨人は残っている元素・風の魔力を他の三元素に変換させながら魔法陣を書いている。煉獄砕破(アビスブレイク)は四元素魔法の禁忌。他の元素の偏りが生じれば正確な発動は不可能だ。シエルが利用するのはその特性である。

 

三つの元素が失われたことで動きがだいぶ遅くなっている巨人を注視しながら、雲の上に立つシエルは残っている元素のひとつである、風の魔力を両手に集中させて魔力を高める。巨人が書く魔法陣はゆっくりながらも着々と完成に近づいている。魔法陣の中のほんの一画。最後にそこを記そうとしたその瞬間が、シエルの狙い目だった。

 

「頼む…。これでどうにか、上手くいってくれ…!」

 

チャンスは一度きり。タイミングも威力も、少し狂うだけで望む結果は得られそうにない。シエルの集中力は今までの中でも上位に匹敵するものとなっている。そして…。

 

 

 

巨人の指が、最後の一画を書こうとした瞬間だった。

 

 

「ここだ!竜巻(トルネード)!!」

 

巨人の指を狙い、シエルの両手から放たれた横へと向かう竜巻。狙い通りにその竜巻は巨人の指に激突し、衝撃で煙が発生する。固唾を呑んでその煙が晴れる時を待っていたシエルは、魔法陣の一画を真っすぐ見据える。

 

 

 

 

魔法陣に最後に書かれるその一画は、まるで墨をつけすぎた筆を当てたかのように滲んでいた。バランスよく書かなければいけない魔法陣に、シエルが放った風の魔力が余分に追加されてしまい、魔法陣に滲みが生じたのだ。これを修正するにはさらに時間を要することとなる。

 

「よっしゃ!上手くいったぞ!!」

 

そしてこの瞬間から一分が経った頃、大空のアリアは倒され、魔導巨人が機能を停止。煉獄砕破(アビスブレイク)は消滅したのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ありえんっ!!!」

 

機能を停止した魔導巨人の中の指令室。そこで外の様子を眺めていた幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスター・ジョゼは、憤慨していた。格下と思っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)に自分のギルドの精鋭であるエレメント(フォー)が全滅したことが、考えられないことだったからだ。焦りと怒りを現すマスターに、近くにいたファントムの魔導士たちは戸惑いながらも声をかける。

 

「い、いや…」

「何かの間違いっすよ!」

「そうです!だってラクサスもミストガンもいないって言うし…!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも確実に頭が抜けた実力者であるラクサスもミストガンもいない中で幹部たちがやられたという報告は、自分たちにとっても信じがたいこと。マスターを宥める名目で自分たちにもそう言い聞かせるように口々に進言する。

 

「それに『ペルセウス』ってやつも…!」

 

「あ、バカ!!」

 

だが、一人の魔導士が告げた名を聞いた瞬間、その場は一気に静まり返ることになった。他の魔導士たちが制止するように呼び掛けるも時既遅し。『ペルセウス』と言う名を告げた魔導士はジョゼの放った魔法の一つを有無も言わさずその身に受け、あまりの威力に体は紙切れのように吹き飛んでいき、奥の壁をいくつも突き破ってギルドの外へととばされてしまった。良くて気絶。最悪の場合は飛んで行った時点で死んでしまっているであろうその攻撃を間近で見た魔導士たちは、一気に口を閉ざした。

 

「オレの前で…そのクソの名を口にするんじゃねえよ…!!!」

 

ヘタな発言をすれば、次は自分たちの番だと理解したからだ。散々妖精の尻尾(フェアリーテイル)の態度に苛立ちを浮かべていたジョゼが、本気の殺意を持った憎悪の表情を浮かべている。彼の前で『ペルセウス』と言う名は禁句だった。

 

「まあまあ、落ち着きなさいやマスター」

 

そんな空気を壊すように声を上げたのは、先程まで不在だった者だ。鉄竜(くろがね)のガジルが、とある人物を横に抱えながら戻ってきたのだ。その人物は、金色の髪をサイドテールにした、今回の彼らの標的であるルーシィだった。

 

「ほら、お土産だよ」

 

「ルーシィだと…?どうやって…」

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の鼻を甘く見ねーでくださいや」

 

前線にいないことは知っていたが、細かい位置までは把握していなかった。にも関わらずガジルが見つけ出せたのは、ひとえに竜の五感を得て発達した、嗅覚によるものだった。

 

「てか…ガジルさん…」

「い、生きてんでしょうね…?」

「ルーシィが死んじまったら金はもらえねーっすよ?」

 

周りの魔導士たちの疑問はもっともだ。ガジルが投げ出したルーシィは、身体の至るところに外傷が目立っている。実際にガジル自身も「結構ボコったしな~」と思い返すように唸っている有様だ。彼女の生死を確かめるためにガジルは…。

 

「ほらよ!!」

 

倒れた状態のルーシィの腹部を蹴り上げた。さすがに周りの者たちも惨いと思ったのか悲鳴を上げる。その衝撃に対してルーシィは意識が朦朧としている状態で激しく咳き込む。命がある事だけは確認が取れた。

 

「ギヒッ、生きてるみたいよ?」

 

周りの者たちが怯えている中、ガジルは口元を吊り上げて証明した。その様子にマスター・ジョゼはとても満足げな表情を浮かべる。

 

「さすが我がギルド最強の魔導士…ガジルさんですね…」

 

焦りと苛立ちを前面に出していたジョゼは、空気を一転。自分にとって最良の仕事を行うガジルを誇らしげに思い、歪んだ笑みを浮かべるのだった…。




おまけ風次回予告

シエル「ねえグレイ?あの女の子、やけに幸せそうな顔して気絶してたけど、やっぱり何かしたんじゃないの?」

グレイ「やけに蒸し返すな、お前…。オレだって知らねえんだよ。心当たりなんて…さっぱりだし…」

シエル「本当に~~?」

グレイ「何だよその疑わしさ全開の目は…!?」

シエル「隠してることがあるなら言っといたほうがいいよ~?誰かの怒りを買うかもしれないし…」

次回『天の怒り』

グレイ「誰の怒りを買うって言うんだよ?」

シエル「そうだな、例えば…緋色の髪の鎧を着けた女の人…」

グレイ「エルザじゃねえか!勘弁してくれえっ!!」
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