そしてもう一つ、来週は投稿できそうにありません。これも本当にすみません。
仕事量が増えてきて、更には体調不良も起こして、執筆の余裕が皆無でした。言い訳に聞こえるかもしれませんが、時々こんなことが起こり得ます。その際にはご迷惑をおかけしますが、どうか見捨てないでいただきたいです…!
湖に落ちていく機械の巨腕。湖底に鉄の膝をつけるその巨人は、しばらく動くことはできないだろう。食い止めることができたのだ、
空中に浮かぶ雲の上で立ちながら、シエルは動く気配のない鉄の巨人を見下ろしている。浮かべているのは勝利を確信した笑顔。
「このまま勢いに乗れれば…いける…!!」
勝利はもう遠くない。全員で進み、ここまで障害を乗り越えてきた。しかし、動かなくなった巨人から聴こえてきた声と内容に、シエルは、
《
「…な…!?」
危害が及ばないように前線から離れた位置へと避難していたはずのルーシィ。その彼女を捕獲したと言ったのか?こちら側を動揺させるための虚言なのだろうか、と思っていたが…。
《きゃああああっ!!!》
間髪入れずに聴こえてきた悲鳴。間違いなくルーシィのものだ。虚言ではなく本当に捕らわれてしまったことが証明された。放送器越しに悲鳴が聞こえた瞬間、もう何度抱いたか分からない怒りに、またも体が震えるのを感じる。
《聞こえたでしょ?これで一つ目の目的は達成されたのです。我々に残された目的はあと一つ…。それは貴様等の殲滅だ、クソガキども…!》
ジョゼの言葉と共に
「まずい…!!」
優先すべきことを瞬時にシエルは判断した。ギルドの前に蔓延る
「照らせ日輪、
「戻ってきたのか!?」
「外の様子が見えたから、ひとまずは俺だけ。こっからは加勢するよ」
単純に戦力が増加するだけでも味方の士気は上がるもの。しかもシエルが扱う
それまで無数に蔓延っていた幽鬼の兵たちが一か所に集まり始めたのだ。その規模はどんどん大きく膨れ上がっていき、やがて
「何あの手つき!?」
「ツッコむとこそこかよ!」
妙なところに反応を示すラキも含めて、メンバーたちはその外見に戸惑いを示している。そして巨大な影はいくつも生やしたその腕と、先にある拳を使って、メンバーたちが守るギルドの建物を攻撃し始めた。影と言っても実体はあるようで、建物は攻撃されるたびに轟音を鳴らし、崩されていく。
「私たちのギルドに何すんのよっ!!」
悲痛な叫びをあげて影を睨みつけるカナの声を聞いて我に返った妖精の魔導士たちが、影を止めようと一斉に己の魔法を放つ。
「これ以上俺たちのギルドに手を出すなっ!!」
声を張り上げながら光の魔法で影を貫いていくシエル。そんなシエルがさすがに煩わしかったのか、腕の一つがシエル目がけて伸びていき、気づいて回避する暇もなくシエルは影の手に捕らえられてしまう。
「ぐっ!?こいつ…俺の動きだけ封じるつもりか…!?」
他の魔導士たちからの攻撃も受けている中でシエルだけが両腕とともに体を自由を奪われている。本能的にシエルが繰り出す光の魔法のみが脅威だと判断したのだろう。厄介な存在を封じたことで、影の腕が更に猛威を振るい、ギルドに襲い掛かる。
「やめろぉおおっ!!!」
拳が当たるたびに木や石で出来た部分が砕けて飛散していく。
「崩れるーーっ!!」
衝撃の余波が別のところにも響き、罅となって全体を侵食していく。
「ギルドが…ギルドがーー!!」
一度はガジルの攻撃によって穴だらけとなった建物が、補修の甲斐なく再びその傷を増やしていく。
「ギルドが崩れちまう…!!」
罅は広がり、木や石が飛び散り、ギルドの悲鳴は徐々に大きくなっていく。影の攻撃は一向に止まない。一発を受けるたびにギルドが更にへこんでいくのが見える。
「ちくしょォーーーーーっ!!!」
仲間の悲鳴、懇願の声、悲痛な叫び。様々な音を背景に轟音を立てながら…。
「
魔導士ギルド・
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『妖精には尻尾があるのかないのか。そもそも妖精はいるのか否か。故に永遠の謎、永遠の冒険。そんな意味が込められているのじゃ…』
元居たギルドを出ていくと同時に老人に連れられた。弟を彼の友人と言う薬剤師に預けた後に再びついていくと、
『ここがわしらの…そして今日からのお前の家じゃ』
『家…?』
導かれるままに老人の後に続いてその建物の中に入ると、そこには多くの魔導士たちがいた。だが、今まで自分たちが関わってきた魔導士たちとは違う。仲間を大切に思い、家族のように接し、決して他者を貶めることはない。そんな雰囲気を持った者達ばかりだった。
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過ごした時はあまり長くないかもしれない。けれども確かに仲間は家族だった。ギルドは我が家だった。14年の人生の中で、このギルドの魔導士として存在できることが心から誇りだった。
なのに今この現状はなんだ?家が崩れる。家族が悲しんでいる。悲しみの声や叫びが響く中で、シエルには別の声が耳に入ったような気がした。
それは“嘲笑”だ。
―――どうして笑っていられるんだ…?
―――何が面白いんだ…?
―――
―――
―――大切なものを壊された俺たちが…
―――どうしてお前たちに笑われる必要がある…?
―――知らないんだな…?この痛みが…
―――分からないんだな…?この悲しみが…
―――なら分からせてやるよ……
―――お前たちのタイセツナモノヲ…
―――オレガ ゼンブコワシテヤル……!
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それはほぼ一瞬の出来事だった。ギルドを壊して満足げな表情(目しか映ってないために分かりづらいが)を浮かべていた
突如として起きた光に、近くにいた
光が収まって近くにいた魔導士たちがその光の発生源・シエルの方へと目を向けると彼の姿は消えていた。いや、正確には既に移動していたのだ。
瞬きするほどの時間で、巨人の位置を中心にマグノリアを埋め尽くさんとするほどの規模で、灰色の雲が出現した。
「な、なんだ!?」
「雲が…一瞬で…!?」
「シエルがやったのかこれ…!?」
「これは…あの時の…!!」
最初にそれに気づき、呟いたのはカナだった。カナだけでない、他のも数名の魔導士たちは今起こっている現象が何を意味しているのか、気づいているようだった。
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突如として起きた異常気象に気付いたのは、
「き、急に雲が…!」
「あれ、街全体にまで行ってねえか…?」
「何が起きようとしてんだよ…!?」
「あの雲…ジュビアじゃねえな…。妖精の
そのうちのギルド内にて、
「ずっと晴れてたのに雲が…。これって、シエルの…?」
そしてそれはファントム側だけでなく、妖精側も同じだった。ガジルによって捕らわれ、
「そうだよ…多分シエルだ…。だって、見たことあるもん…」
ルーシィの言葉に対して答えるように呟いたのは、ナツと共にルーシィの元へと駆け付けていた青猫ハッピー。シエルが起こした異変を垣間見て、彼の脳裏には一つの記憶が呼び起こされていた。
「これは…“天の怒り”だ…!!」
「っ!?“天の怒り”だと!!?」
ハッピーの言葉に真っ先に反応したのは、意外にもガジルだった。ガジルだけでない、その場にいる
「天の…怒り…?それって、一年前に起きた、廃村を襲った異常気象の事件の名前じゃない!それが今何の関係が…!!」
叫びながらルーシィは気づいた。そう、“天の怒り”とは、とある廃村に集中的に降り落ち続けた無数の雷が、まるで天からの怒りの裁きに見えたことから名づけられた、大自然の脅威による異常気象によって起きた事件の一つ。これによって被害を受けた廃村は、雷の雨によって更地と化し、時を同じくして廃村を拠点としていたとある盗賊団が一斉検挙されたことが起きたというのが、一般的に公表された内容だ。
だが、真実は一部違っていた。魔法評議院によって、その一部のみが隠蔽されていたのだ。
「そう、自然に起きた異常気象なんかじゃないんだ…。一年前に、盗賊団に誘拐されたシエルを助けるために乗り込んだオイラたちを守るために、シエルが暴走させた魔法が、あの“天の怒り”なんだよ…!!」
その真実に、ルーシィもガジルも目を見開いて衝撃を受けた。他の
ハッピーの説明は尚も続いていく。今繰り出された一面の雲は瞬間的にシエルが生み出した魔力の塊も兼ねており、あの雲が晴れるまでは天の怒りが降り注いでいく。そしてその対象は…
「って、ちょっと待って…?それって…あたしたちは、どうなるの…?」
「今のシエルは暴走状態に近いからね…。間違いなく!巻き添えです!!」
『やっぱり~~~!!?』
無慈悲な現実を叩きつけられた一同は、敵味方の垣根を越えて一斉に声を揃えて悲鳴を上げた。上げなかったのは動揺を顔に出すだけに留めたガジルと、必死に意識を保っているナツの二人だけだった。
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―――思えば、これは運命だったのかもしれない…
魔導巨人の右肩の部分にて意識を取り戻しつつある少女は、文字通り夢見心地だった。
―――人生の全てが雨と共にあった自分が、初めて青空を見ることができた…
思い出すのは意識を失うほんの少し前の事。
その戦いの最中、己が忌み嫌っていた雨さえもその氷の魔力で凍りつかせ、自分の中にある忌まわしい記憶を塗りつぶすかのように、その雨雲を払ったのだ。
―――そう、今までの辛かった出来事は、全て彼に会うための試練だったのかもしれない…
最初はただの一目惚れだった。だが、己の魔法を自力で突破する高い実力、戦いの最中において自らの肉体を晒す大胆さ、身動きを封じた自分をすぐさま解放したり、終わり間際に湖上に落ちようとする自分を身を挺して助け出す優しさ。何より…。
『で…?まだやんのかい?』
太陽の光に照らされた、あの不敵な笑み。最早自分の心は彼によって支配されたと言っても過言ではなかった。
―――出来る事なら、また会いたい。この胸の高鳴りを、想いを…彼に伝えたい…!
―――そう、今も見えるであろう…あの、青空のような笑顔の彼に…!!
胸に抱いた思いをそのままに彼女は閉じていた目を少しずつ開けていき…。
その目に、一面の灰色雲を目に写した。
「…え…?青……どこ…?」
思わず目が点になって言葉が片言になってしまうほどには、衝撃的だった。そんな彼女の名は『ジュビア・ロクサー』。
ちなみに前述に記載した通り、グレイに一目ぼれした後に激闘を繰り広げ、結果的に完全に彼にぞっこんとなったという補足情報もあるが、今は置いておこう。
グレイと戦ったのちに意識を失ったままでいたジュビアは、今も広がっていると思っていた青空が雲によって全て覆われていたことに衝撃を受けていた。
「晴れてない…。あれは、夢だったのかしら…?」
彼女は生まれた時から、周囲に雨を降らす雨女だった。それは勿論幼少のころも、魔導士になってからもずっと。彼女の周りはずっと雨が降る。そのために幼い頃は「遠足の時は休んでほしい」、恋人ができても「釣りにもキャンプにも行けない。もう別れてくれ」と心無い言葉をかけられたことも多々あった。
自分の周りに絶えず降り続ける雨が嫌いだった。晴れてほしいと願いを込めて何個もてるてる坊主を作り、身に着けていたこともあったが、全く効果も出ず。
そんな雨を晴らせてくれた、あの青年との出会いも、もしかしたら夢だったのだろうか…?
雨に忌避感を抱いていた自分のありもしない妄想だったのだろうか…?
「…あれ?でも、雲があるだけで、雨は降ってない…」
と、ここで気づいた。いつもだったらあの空を覆う雲からは無数の雫が降り注ぐはずなのに、今は何も降り落ちてこない。という事はこれは自分が起こした雨ではなく、自然に発生した雲。しばらく経てばまた青空が広がるはず…。つまり、あの出会いは、現実…。
「やっぱり!あの王子様は実在してるんだわ!!今、どこにいらっしゃるのかしら…!?はっ!もしかしたらまだそれほど時間が経っていなくて、このギルドの中にいらっしゃる…!!?ならば、すぐにお会いしなければ!!」
暗い表情だったのがすぐに一変。
しかし、その浮足立った気分は耳に届いた「ゴロゴロ…」と言う音によって一気に落とされることになる。
「…え…?」
この音は、聞き覚えがある。雨が降っている間にもよく耳にすることのあった、とある現象の一つ。
補足しておくと、彼女の魔法は『
そして今聞こえたのは雷。雷、もとい電気は水によく通りやすい。彼女の弱点とも呼べるものだ。そんな弱点の前兆の音を聞き取った彼女は身の危険を感じて思わず後方を振り向く。その後方には、上空に佇む一つの人影があった。
「あの、子供は…?」
彼女は知る由もないが、その人影の正体はシエルだった。雲に覆われた空に両手を向けて、その両手には雷の魔力を集中して纏わせている。そして、彼女が眺めていることにも気づかずに、膨大な量と思われるその魔力を雲へと発射させる。当初は灰色だった雲が徐々にその色を濃く、黒く染めていき、迸る雷もその勢力を増していく。ここでジュビアは察知した。あれは自然のものではなく、視線の先にいる子供の魔法なのだと…。
「ま、まさか…!!」
理解するよりも先に、彼女を絶望が襲い掛かった。彼女の頭上が一際光ったのだ。気づけばジュビアは無意識に動いていた。
「いやああーーーーーっ!!?」
恐らく飛びのけていなければ確実に直撃したであろう落雷が、先程まで自分がいた場所に落ちてきた。思わずうつ伏せになる状態で巨人の右肩の上を滑ってしまったが、雷に撃たれるよりは何倍もマシであろう。だが気のせいだろうか…?
「(え、え!?今、もしかしてジュビアを狙って落としてきた!!?)」
恐らく気のせいだ、偶然だ。そんな願いを込めてジュビアは恐る恐るシエルの方へと向きなおす。先程と同様、シエルはジュビアから見て横の方向を向いているため、おそらく彼女には気づいていなかった。やっぱり気のせいか?頭の中で整理が追い付いたであろうジュビアに対し…。
シエルは、子供らしからぬ光のない目と能面のような無表情を向けてきた。
「(気のせいじゃなかった!!ジュビアが狙い!!ていうか、この子の顔怖ーーー!!!)」
真実を記すと、先程耳にしたジュビアの悲鳴で、ようやくシエルは彼女の存在に気付いたのではあるが、今の彼女には誰がどう説明しようと、今のシエルに対する恐怖心を拭い取ることはできないだろう。哀れ…。
そして追い打ちをかけるかのように暴走状態に陥っているシエルは、自分の右方向に見えたジュビアに向けて右手を差し出すと次々と雷を振り落とした。
「いーーーやーーーーー!!?助けてーーーー!!ジュビアの王子様ぁーーーーーー!!!」
すぐさま体勢を立て直して雷から逃れようと彼女は駆けだす。必死に逃げながらも
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次々と魔導巨人とその周辺に容赦なく降り落ちる雷の雨。その様子はまさしく“天の怒り”。
「イカれてるにも程があるぜ…!敵のギルドとはいえ、そのギルドごと仲間まで沈めようとしてんのかあのガキは…!」
自分も仲間を巻き添えにして戦うことはあれど、理性が飛んだ状態で仲間ごと敵地を消そうと考えたことなどない。扱う魔法による価値観の違いと言えばそこまでだが、自分が同様の魔法を使えたとしても、やはり度を超えた発想であることには変わりないと断言できる。
時々降り落ちてくる雷を、己を避雷針にしてダメージを軽減しているガジルはそう毒づいた。
「ハッピー!!これ大丈夫なのよね!?一年前は皆無事だったのよね!そうよね!?そうだと言って!!」
「あい!止めようと考えなしに突っ込んで黒焦げになったナツ以外一応皆無事だったよ!!」
「全然大丈夫じゃない!!あと一応ってどういうこと!!?」
次々落ちてくる雷から少しでも逃れようと身をかがめながら、涙混じりに叫ぶルーシィの声が響く。一年前には廃村が更地に変わる程の大惨事だった。それでも犠牲者が出なかったのは、被害を受けたナツが頑丈だったことと、当時は数名の実力者が盗賊たちとギルドのメンバーを順序良く避難させることで最小限に抑えられたからに他ならない。
だが今の状況は、周りは雷が降り落ちる湖で囲まれ、建物の中も立て続けに襲い来る雷によって破損個所が増えていっている。
隙を見て自分たちも避難すべきなのだろうが、それが出来ない理由がルーシィにも、ハッピーにもあった。
「ナツ…!」
降りやむことのない雷が鳴り響く中、ナツは再び立ち上がろうとしていた。一年前もそうだった。盗賊団は実力を見れば大した敵ではなかったが、その手段は狡猾だった。シエルが一人で行動しているところを魔道具を使って眠らせて身動きが取れない状態にする。
シエルを取り返そうと乗り込んできた魔導士たちに対しては、挑発を繰り返してあらかじめ仕掛けておいた罠を用いて次々と無力化していった。
罠に囚われても何度足を止められても仲間を助けようとナツは立ち上がろうとした。ナツに続くように他の者たちも。そんなギルドの面々を見て嘲笑を浮かべる盗賊たちを見て、シエルは盗賊たちの汚れた人間性、そして己の無力さに対して怒りを爆発させた。
今回もそうだ。シエルは怒っている。怒りを力に変えて、本当ならしたくなかったであろう暴走を起こしている。しかしその怒りは自分たちも同じだ。
「そうだ…あの時も…お前はこんな気持ちだったんだな…」
呟くように、納得がいったというように零したその言葉は、まるで自分に言い聞かせるようにも聞こえた。その声はガジルにも届いたようで、率直に「まだ立てるのか」と感想にも似た呟きを零す。そしてそれと同時に腕を鋼鉄で出来た剣へと変化させる。あらゆるものを切り裂く『鉄竜剣』と言う技だ。
「いい加減沈めや!
ナツへと飛び掛かると同時に腕を振りかぶり、彼の身体を切り裂こうとする。ナツは振り向こうとはしない。このままいけばガジルの剣の餌食となってしまう。ルーシィとハッピーが悲痛の声で彼の名を叫ぶが、それでも彼は振り向かない。今彼の中には一つの思いが宿っていたからだ。
「お前の怒り、オレにも貸してくれ!!シエルッ!!」
ナツの叫びと共に放たれた願いは、届いたのか、偶然か、一筋の雷となって返ってきた。飛び掛かるガジルの真横にある機材にその雷は当たり、その衝撃で機材は一気にショートし爆発を起こす。爆発の衝撃でガジルの身体は吹き飛び、辺りを爆炎が包み込む。そう、炎だ。ナツは火を食べることで魔力と体力を回復、増加させることができる火の
「ナツの願いが、シエルに届いた…!?」
真実は分からない。だが、ルーシィにはそうとしか思えなかった。暴走状態に陥ったとしても、根底の思いは仲間の為。仲間の願いに彼が答えてくれたのだと、そう信じられることしかできなかった。
「なるほど、そういう事でありましたか…」
シエルの落とした雷によって起きた爆炎を食らったナツを見て、合点がいったと反応する人物(?)がいた。それは、特徴を言えば馬の被り物をした男性。顔と両手だけが人間のものであり、それ以外は馬の着ぐるみ、その上から衣服と弓矢を装備した外見である彼は、黄道十二門の星霊の一体・人馬宮の『サジタリウス』だ。
ガルナ島でのS級クエストに行った際の報酬でルーシィが手に入れた金の鍵によって召喚された星霊が彼の事である。そんな彼は左手に弓を持ち、右手で背に背負う矢筒から矢を一本取り出し、弓に矢を番え始める。ルーシィはサジタリウスを召喚した際、最初に「火を出せるか?」と聞いた。その答えはNo。サジタリウスは弓の名手であるため、火を出すこと自体はできないと答えた。
「しかし…今重要なのは火を出す事ではなく『火』そのものと言うわけですな、もしもし」
そう告げると同時に放たれた矢は、雷によって爆発した機材とはまた別の機材に当たる。更に二本目三本目と機材を射抜き、矢を当てられた機材はすべて爆破する。それを見たナツはおかわりで発生した炎にかぶりついた。
「射貫き方一つで貫通させる事も、粉砕させる事も、機材を発火させることも可能ですからして、もしもし」
「凄い!弓の天才なのね、サジタリウス!!」
先程まで絶望的だった戦況が一気に傾いた。シエル、そしてルーシィによって大いに力を増幅させたナツは、二人に感謝の言葉を述べると、ガジルへと一気に攻めだした。
「レビィ、ジェット、ドロイ、じっちゃん、ルーシィ、仲間たち…どれだけのものを傷つければ気が済むんだ、おまえらは!!!」
ナツの怒りの声、それはここよりもはるか上空、魔導巨人の上に佇みながら雷を持続的に落としていくシエルの耳にも、不思議と聞こえているような錯覚を覚えた。
定まらない意識の中で魔力を解放し、怒りのままに
「(仲間の為、家族の為、俺の魔力が尽きるまで、敵を駆逐しろ…万雷よ…!!)」
マグノリアをも包み込むほどの規模で広がっていた雲は外径の方から徐々にその規模を減らしていく。魔力の塊と表現されていた雲は雷を落とすたびに小さくなっているのだ。終わりの時は近い。シエルは残るすべての魔力を込めて放とうとしていた。
「『紅蓮火竜拳』!!!」
時を同じく、紅蓮の炎を纏った拳の乱打をガジルに叩きつけていくナツ。勢いそのままで、今自分がいる部屋にも余波が響き渡り、魔導巨人に悲鳴を起こさせる。
「落ちろぉおおっ!!!」
そして上空のシエルが最後の魔力を練りこんで集中させた一筋の巨大な落雷を落とす。魔導巨人のちょうど中心を貫くように落とされたそれは、巨人の中心に風穴を空ける。その影響で、ナツの攻撃によって罅割れていた巨人の上半身は勢いを受け切れずに崩壊。
ギルド
「本当…やりすぎなんだから…」
崩壊していくギルドからハッピーと共に脱出したルーシィは呆れながらも笑みを浮かべて気力を出し切ったナツを眺めていた。
おまけ風次回予告
シエル「残すところはマスター・ジョゼだけ、か…。うちのマスターと同じ
エルザ「ナツもお前もかなり消耗しきっている。その状態でジョゼと戦うのはさすがに無謀だろう。後の事は、私たちに任せておくといい」
シエル「そういうエルザだってまだ本調子には程遠いでしょ?…あ、そう言えば俺、“天の怒り”を使っちゃったけど大丈夫?当たらなかった?」
エルザ「問題ないさ。屋内の方にいたし、何より落ちたとしても躱せばいい」
シエル「エルザぐらいだよそんな簡単に言えるの…」
次回『フェアリーロウ』
エルザ「それより私はお前の方が心配だな。“天の怒り”は確か、マスターから『絶対使うな、禁忌とする』と言われて…」
シエル「それ言わないで!あと『アレ』だけは!どうか!!ご勘弁を~~!!!」