FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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二週間もお待たせしてしまい、すみませんでした。

どうしても土曜にまで仕事があるときは執筆ができない状況なので、前もって知らせはしたのですが、やはり待たせてしまうというのは申し訳ない気持ちになります…。

しかし前回の話を投稿した後、お気に入り登録者数が一気に増えてびっくりしました。(笑)
ほぼオリジナル要素満載の回だったのですが、その方が実は受けがいいのですかね…?

ちなみにしばらくの間登録者数が77人、さらに感想数も7件と、7の羅列がしばらく続いて「なんか縁起良いな~」って勝手に思ってました。(笑)
フェアリーテイルも7に関する設定とか話題とか結構多いですよね。この作品も、ちょっとした7に関するネタはいくつか考えてますので、そのあたりも楽しんでいただけると嬉しいです!


第16話 フェアリーロウ

鳴り響く轟音、激しく揺れる屋内、天井から次々落ちる石の破片。崩壊を始めているギルド・幽鬼の支配者(ファントムロード)の建物の一室で、数人の妖精と、一人の聖十大(せいてんだい)()(どう)が対峙していた。

 

いや、数人の妖精と言う表現も、ある意味では誤りである。妖精で既に動ける者は緋色の髪を持つ女魔導士のエルザのみ。魔導収束砲・ジュピターを真正面から受け止めた際にできた傷も癒えぬまま、単身幽鬼の支配者(ファントムロード)に乗り込み、エレメント(フォー)の一人である大空のアリアを撃破することに成功したものの、遂に動き出した幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスター・ジョゼによって、合流したグレイ、エルフマン、ミラジェーンを一瞬で戦闘不能にされ、彼女自身も苦戦を強いられていた。

 

「よく暴れまわる(ドラゴン)だ。いや、暴れているのは(ドラゴン)だけでもないか…」

 

薄い青色を基調とした、軍服に似た服を纏った中年の男性であるジョゼは、悲鳴を上げている己のギルドの様子を目にし、その悲鳴の元凶であろう滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、そして天候魔法(ウェザーズ)の使い手である少年に対して、焦りでも怒りでもない淡々とした様子で呟いた。今まさにエルザと対峙している中で、一切の感情の乱れもない。対してエルザは攻撃力を倍加させる黒羽の鎧を身に纏っているにもかかわらず、ジョゼに対して有効打を与えられていない。それどころか、彼女自身が激しく息を乱して、次の攻撃に移ることすらできない状態だ。

 

しかしそんな彼女の表情には、諦めの感情は一つたりとも浮かんでいない。

 

「ナツの戦闘力を計算できてなかったようだな…。私と同等か、それ以上の力を持っているという事を…。そしてシエルにも、私には計り知れない秘めたる力が存在することも…」

 

「フン、謙遜はよしたまえ。妖精女王(ティターニア)のエルザ。君の魔力は素晴らしい。現にこの私と戦い、ここまで持ちこたえた魔導士は初めてだ…」

 

ナツとシエルの想像以上の力を知っているエルザの言を謙遜ととらえたジョゼは、それを否定した。今までは妖精の尻尾(フェアリーテイル)を見下す言動が目立っていた彼であるが、エルザと直接戦ったことで彼女自身の力を素直に賞賛している。大陸内に数多いる魔導士たちの中でも上位10人に君臨する聖十大(せいたんだい)()(どう)である己と戦い、対抗できる程の魔導士は明らかに少ないのだ。魔導士の一人として、彼女の力は賞賛せずにいられない。

 

しかもこれが、ジュピターを金剛の鎧で受け止めた際のダメージが回復しきっていない状態であることも加味すると、万全の状態で戦っていればさらにいい勝負を繰り広げていただろう。それだけを見れば、ジョゼ自身もそんな魔導士と魔法をぶつけ合えることは本望と言うものだ。だが…。

 

「そんな強大な魔導士がねぇ…マカロフのギルドに他にもいたとあっては、気に食わんのですよ…」

 

言い終えたと同時に前方に突き出していた右拳から、人差し指の身を軽く弾くと、そこから小さな魔力の弾丸が撃ち出される。あまりに小さいために反応が遅れたエルザはそれを真面に受けてしまい、後ろの壁へと叩きつけられてしまう。弾丸の小ささに似合わぬ、強力な威力だ。

 

「何故私がマカロフにとどめをささなかったかお分かりです?」

 

問いかけながらもジョゼは開かれた右手の指、5本すべてに先程同様に魔力を集中させ、紫と黒が混じり合った闇の魔力を、奥へと叩きつけたエルザに向けて追い討ちをかける。だが、その魔力弾は当たらなかったのか、あるいは防がれたのか、土煙が舞い上がる中からエルザが飛び上がって姿を現す。しかし、それを見越したようにジョゼの追撃が次々と襲い掛かり、エルザはそれを回避することで精一杯だ。

 

「絶望を与える為です」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフは仲間を何よりも大切にし、愛している。そんな仲間とギルドが、目を覚ました時に全滅していたら、彼は大いに悲しむことになる。ジョゼの目的の一つに、それが加えられていた。

 

「あの男には絶望と悲しみを与える。ただでは逝かせん…苦しんで苦しんで、苦しみぬかせてから殺すのだ…!!」

 

「下劣な!!」

 

嘲笑と狂気を孕んだ表情で告げたジョゼの言葉に怒りも隠さず、隙をついてエルザがジョゼに斬りかかる。だが、剣を振りぬいた場所に既にジョゼの姿はなく、彼はエルザの後方に出現する。その姿を見据えることはできても、エルザにはジョゼに剣を届かせることができていない…。

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)はずっと一番のギルドだった…」

 

背後を取ったにもかかわらずジョゼは言の葉を紡ぐことを止めようとはしない。フィオーレの中でも一番の魔力、人材、金、それをとっても他のギルドに劣るものは何一つなかったのだ。しかし、ここ数年でその幽鬼の支配者(ファントムロード)を超える勢いで力をつけてきたギルドがあった。それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)。特に最強格とされるエルザ、ラクサス、ミストガンの名は離れた町であるオークにも届き、火竜(サラマンダー)・ナツの噂は国中にまで広がっていった。

 

「最悪そこまでならば我々もここまで躍起になったりはしませんでしたよ。どれほど力をつけようと、それを上回る力を手にすればそれで済む話…だが…」

 

すると、これまで丁寧な口調で語っていたジョゼの様子が、一変した。同時に、先程までエルザに放っていたものを遥かに上回る威力の魔力弾を連射。その勢いにエルザは反射神経のみを駆使して回避に専念する。だが、周りに着弾した魔力弾の威力は凄まじく、床と壁に更なる亀裂と穴を生み出していく。その上振動も大きく、直接当たっていない天井が更に崩れていくつもの新しい穴を生み出すほどだ。

 

そんな凄惨とも言える空間を生み出したジョゼの表情は…。

 

「思い出すだけでも腹立たしい…憎たらしい…忌々しい…!『ペルセウス』と言うクソ野郎が、我々にした仕打ちが無ければな…!!」

 

一分の漏れもない憎悪に染められていた。その表情、そしてジョゼの口から放たれた名前に、エルザは目を見開いて驚愕する。彼女は率直に疑問を抱いたのだ。

 

 

――何故そこでその名前が出てくるのだ?と…。

 

疑問を抱いたのは一瞬。すかさずジョゼが放ってきた更なる追撃を悲鳴を上げる身体に鞭を打って回避する。魔力弾の追撃が止み、態勢を整えて再び構えるエルザ。

 

 

その時、エルザの目の前に、天井に新たにできていた穴から、あるものが落下してきた。

 

突如として落ちてきたそれは、天井にあった瓦礫ではない。人の形…いや、人そのものであった。しかもそれは、自分と同じ紋章を左頬に刻んだ、水色がかった銀髪を持つ、小柄な少年。

 

「シエル!?」

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)を崩壊させた二人のうちの一人。“天の怒り”を発動させ、身体に存在しているほとんどの魔力を使い切ったために、動くことすらできない状態で上半身をほとんど失った巨人の上に落下した後、運命か偶然か、ジョゼと交戦しているエルザがいる今この空間に、新たにできた穴から落ちてきたのだ。

 

「…エ、ルザ…?なん、で…こ、ここに…?」

 

辛うじて意識はあるようで、本来ならば動くことができないはずのエルザが、敵地である幽鬼の支配者(ファントムロード)に、それもどう見ても戦闘態勢である鎧に換装した状態でいることに、疑問を持っているようだ。ジョゼが目の前にいることも忘れて、身動きが取れないシエルに駆け寄るエルザ。明らかに隙だらけでもあるその状況に、ジョゼはあえて何もせず言葉を続けることにした。

 

「そこのガキのように、最近の者は知らないだろうが、幽鬼の支配者(ウチ)にもかつてはいたのだよ…。国中にまで噂になるような、最強の魔導士が…」

 

攻撃を仕掛ける様子もなく、靴音を鳴らして悠然と近づきながら語るジョゼの声に、シエルを庇うようにしてエルザは構える。しかしそれを意に介さずに、ジョゼは先程の憎悪に満ちた表情を再び浮かべながら次の言葉を発した。

 

「だが忘れもしない6年前のあの日…期待と祝福に満ちた、更なる躍進の一歩となるはずだったあの日を…絶望と、転落の始まりの日に変えやがった…!

 

 

 

 

 

我が愛しの義息子(むすこ)・『ジョージ』の人生を奪ったのが、あのペルセウスだ!!」

 

ジョージ。

その名を聞いたエルザは、瞬時に思い出した。

 

本名を『ジョージ・ポーラ』。かつて幽鬼の支配者(ファントムロード)に所属し、確かな実績と実力を兼ね備えたギルド最強の魔導士。マスターであるジョゼとは血縁関係はないものの、幼い頃よりその秘められた高い魔力に目をつけたジョゼが養子として迎え、彼の教えの下にその才能を開花させた。

 

エルザが思い出したのは、ファントムの中でも今のガジルを遥かに凌ぐであろう実力があったこと、しかし人間性の面では悪い噂が目立ち、評議院の悩みの種とされていると、自分のギルドのベテランメンバーから聞いたことである。

 

そしてもう一つ、そのジョージが6年前に突如幽鬼の支配者(ファントムロード)から除籍。その後、魔法界に一切その名を出していないことを…。だが、それがまさか…。

 

 

「ペルが…あいつが、ジョージが魔法界から姿を消した原因…!?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する最強候補の魔導士の一人。ペル、もといペルセウスによるものであることは、恐らくエルザを始め、誰一人として知らなかったであろうことだった。

 

そしてそれは、ペルセウスに憧れを抱いている、少年も…。

 

「あの子が受けた仕打ちに比べれば、マカロフや貴様等へのこの襲撃など、秤にかけるまでもない」

 

その言葉を始めとしてジョゼは語りだした。6年前、幽鬼の支配者(ファントムロード)がフィオーレ1のギルドとして名を馳せていたあの時。そのギルドの最強の魔導士であるジョージが、マスターである自分に「今日は婚約者を紹介するつもりだ」と報告をして、デートのため外出した。養子とはいえ自分の息子が生涯の相手を連れてくると聞かされたジョゼはとても気分がよかった。ゆくゆくは義息子とその伴侶の間にも子が生まれ、義息子を中心にさらに幽鬼の支配者(ファントムロード)を大きくできると。義息子への祝福と、ギルドの更なる躍進に胸が躍った。

 

しかし、次にその義息子と再会したのは、病院だった。知らせを受けて駆け付けたジョゼは、変わり果てた義息子の姿に目を疑った。外傷はほとんど目立たないが、呆然自失と言った様子で朝に見た様子とは正反対。話によると、プロポーズをしようとした時に見知らぬ子供に突如攻撃されたという。不意打ちに近い形で急所を突かれて反撃もできず、結果的に婚約者にまでフラれてしまったと。

 

当初のジョゼの期待は無残にも打ち砕かれる結果となってしまった。しかも、これだけには終わらず。その攻撃の後遺症によって、ジョージは魔導士としても、男としても再起不能の身体となってしまったのだ。復帰は最早絶望的。ギルド最強の魔導士を実質的に失ってしまった幽鬼の支配者(ファントムロード)は一気に衰退する羽目になってしまう。

 

「その後あらゆる手段を用いてジョージを貶めた子供とやらを探し回った。報復も目的の一つであったが、不意打ちとはいえジョージを倒すほどの実力者。ファントムに取り込めば衰退を食い止められる可能性は大いにある」

 

そうして、ようやく掴んだ手掛かりは、その子供の名がペルセウス。そしてとあるギルドに所属しているれっきとした魔導士であることだった。そのギルドを潰して引き抜き、ジョージの仇討ちと幽鬼の支配者(ファントムロード)への忠誠心を植え付けるべくすぐに行動に移ったが、そこには予想外の事態が待っていた。

 

 

 

ペルセウスが所属していたギルドが、マスターを除いて全滅していたのだ。

 

 

勿論そのギルドにペルセウスらしき人物もおらず、当時ジョゼは別の何者か、あるいは闇ギルドの仕業によってペルセウスも死んだと考え、己の義息子を貶めた罰と考えれば多少損ねていた気分を晴らすには充分であった。どうせならば、この手で償わせたかったと言う落胆も抱いたが、既にいなくなった者の事を考えても徒労に終わると、その時は決めつけていた。しかし…。

 

 

 

「見つけたのだ。死んだと勝手に思っていたあのペルセウスを…。だが、その時にはすでに奴は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に、マカロフのギルドにいた!!気に入らねぇんだよ!!元々クソみてーに弱っちぃギルドだったくせにィ!!ファントムの戦力を大幅に下げやがった元凶たるクソ野郎を取り込んで、国を代表する二つのギルドとして名を連ねやがってェ!!!」

 

激昂と共に今まで以上の規模と密度で魔法を放ってくるジョゼの勢いに、思わずエルザの行動は遅れてしまった。シエルを庇っていることも理由の一つで、次々と迫りくる魔力弾を手に持つ剣で防いでいくが、勢いを殺しきれず剣は折れてしまい、そこから防ぐことが出来なくなった魔力弾の雨を受けて、後方へと吹き飛ばされた。

 

「こ、この戦争は…その下らん妬みと、ペルへの恨みが引き起こしたと言うのか…!?」

 

それでもなお、新たな剣を換装したエルザはそれを杖にして立ち上がろうとする。それと同時に、ジョゼの主張に対してエルザは問いかける。自身のギルドに並び立とうとする自分たちと、最強の座についていた義息子の仇、これらに対する負の感情が原点なのかと。それに対してジョゼは再び魔力弾を一つ放ってエルザを再び地に伏せさせてから答えた。

 

「それは違うなぁ…。我々はものの優劣をハッキリさせたいのだよ。それに強いて言うなら、あのクソ野郎にされたことを仕返ししなければ気が済まんのだ」

 

「そんな…そんな下らん理由で…!!」

 

怒りを糧にして再び立ち上がったエルザはそれと同時にジョゼへと斬りかかる。しかし、どれだけ振るってもジョゼはその剣先を完全に見切って瞬時に回避。それも最小限の動きで全て避けている。幾度となく斬りかかってくるエルザに対して、剣を持つ右手に向けて魔法を一つ発射。それによってエルザの手から剣が弾かれてしまう。更には髑髏が浮かび上がったいくつもの禍々しい波動を放ち、エルザの身体を巻き付けるようにして拘束する。拘束されて身動きが取れないエルザに対して、加虐的な笑みを浮かべながらジョゼはさらに語りだした。

 

「そのクソ野郎のこともあって前々から気に食わんギルドだったが、戦争の引き金は些細なことだった。ハートフィリア財閥のお嬢様を連れ戻してくれと言う依頼さ」

 

ハートフィリア財閥のお嬢様。エルザは瞬時にそれがルーシィだと理解する。フィオーレ王国有数の資産家の娘が妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいると聞いた時、ジョゼは更に苛立ちを増長させることとなった。ハートフィリア家の金を妖精の尻尾(フェアリーテイル)が自由に使えたとしたら、間違いなく幽鬼の支配者(ファントムロード)よりも強大な力を手に入れると。ただでさえペルセウスの件で大きく差を縮められている中で、更に資金力まで上回れては確実に決定打となる。

 

「そんなこと、許してはおけんのだァ!!」

 

声を荒げて主張するとともにエルザの拘束が更に強められる。それと同時に苦痛の声を上げるエルザに対してジョゼはさらに笑みを深めた。しかし、拘束の魔法を維持するために差し出していたジョゼの左手に、突如別の方向から横に巡る竜巻が飛び込んできた。少々強く弾く程度の威力で、エルザの拘束は解けていないが、ジョゼはその竜巻が飛んできた方向に視線を向ける。

 

そこにいたのは、うつ伏せの上、左腕と頭のみを辛うじて上げることができたシエル。最早残されていない僅かな魔力で竜巻(トルネード)を撃ち、エルザを拘束している魔法だけでも解除させるつもりだったが、失敗に終わってしまった。

 

しかし、シエルが浮かべていた表情は笑み。普段であれば悪戯をするときに浮かべる笑みだった。

 

「馬っ鹿みたいだな…どっちが、上だ下だと…騒いでることも…お前たちの…情報、収集力の…なさも…」

 

「何だと…?」

 

本来であれば眼中に置くことも無いような子供の戯言。しかし、ジョゼにはその言葉に含まれている意味に、疑問を感じていた。それを尋ねるよりも先にシエルは消耗しながらもたどたどしく答え始める。

 

「ルーシィはね…家出してきたんだ…。家のお金なんて、使えるわけが、ない…」

 

連れ戻してほしいと依頼はされたが、その娘が家出したという事実は、ジョゼ自身も初めて知ったようで、今までの余裕に満ちた表情とは打って変わって驚愕を浮かべている。

 

「家賃7万の家に住んで、お金が足りないって嘆いたり、俺達と同じようにギルドで仕事したり、共に戦って、笑って、泣いて…辛いことがあったって、一緒に背負って生きている…同じ、ギルドの魔導士だ…!」

 

ルーシィと過ごした時は、ナツやエルザたちと比べれば短いかもしれない。それでもシエルは知っている。彼女の、お金持ちのお嬢様としてではなく、よく笑い、怒り、泣き、驚き、自分たちとほとんど変わらない、一人の魔導士の少女・ルーシィの姿を。

 

戦争の引き金…?ハートフィリア財閥の御令嬢…?ルーシィがそんなものに、望んでなるわけがない…。誰だって生まれてくる親の元を選ぶことはできない。他人から見れば望まれている場所も、本人にとってはそうじゃない。世間から疎まれる立場にいても、そこが本人の望む場所にもなり得る。

 

『俺も、ナツも、みんなもいる。みんながルーシィの味方で、家族だよ』

『おまえ等みたいなクズどもの要求なんか、誰が聞くもんか!ましてや俺たちの大事な仲間を、絶対に渡したりなんかしないッ!!!』

 

自分がかけた言葉、仲間たちと共に叫んだ宣言に涙を流していたルーシィ。あの涙に、どれほどの想いが溢れていたのだろうか。

 

「お前らなんかに、涙を流したルーシィの事が、分かるわけがないっ…!!」

 

気力を振り絞り再び竜巻を呼び出す魔法陣を左手に展開するシエルの様子、そして言葉を受け止めたジョゼは、驚愕の表情をいつの間にか引っ込めた無表情のままで、空いている左手で魔力弾を放ち、シエルに当てる。それだけでシエルの小さい身体は床を転がり、苦悶の声を上げながらシエルは再び動けなくなった。その様子にエルザは彼の安否を心配しながら名を呟く。それに対し、ジョゼは無表情から再び笑みを浮かべ始めた。

 

「これから知っていくさ…。あの娘をただで父親に引き渡すと思うか?」

 

ジョゼが告げた言葉に、エルザは目を見開いた。それがどういう意味を持つのか。気づいたと同時にジョゼの言葉はさらに続く。金が無くなるまで飼い続け、ハートフィリア家の金をすべて自分の手中に収めると。外道で卑劣極まりない。己の欲望のために、何故そこまで人道を外れた行いが容易く実行しようと思えるのか。エルザはもう何度も怒りの頂点に達していると言っても過言じゃない。

 

シエルにすべて代弁されたが、エルザも抱えている想いは同じだ。ギルドの仲間の身を守るため、己の身体が朽ちたとしても抗う。

 

「おのれぇぇぇえっ!!!」

 

「力まん方がいい、余計に苦しむぞ」

 

力ずくで拘束を振りほどこうとするも、ジョゼが更にそれを固めてくることによって、エルザの身体が悲鳴を上げるだけに終わってしまう。あまりの負荷に、黒羽の鎧が徐々に罅割れて欠けていく。徐々にエルザ自身の力も弱まっていき、ジョゼの笑みがさらに深く歪められた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

その場の空間全てを包み込む、白い光が照らされたのは―――。

 

その光によって、エルザを縛っていた魔法は霧散し、剥がれようとしていた鎧はまるで時が戻るかのように修復される。突如として己の魔法を消されたジョゼ。しかしその表情には焦りはない。ある一点を見つめ、消えていた笑みを再び浮かべた。

 

その様子を見たエルザはジョゼが見つめるその一点を見るために振り返る。

 

 

 

「いくつもの血が流れた…子供の血じゃ…。出来の悪ィ親のせいで、子は痛み、涙を流した。互いにな…。もう十分じゃ…」

 

そこにいたのは、背丈はシエルよりも低く、子供と並ぶほど小柄。しかし、その顔には年季を感じさせる立派な白い髭が二房。聖十大(せいてんだい)()(どう)の紋章が背に刻まれた純白の外套を身に纏い、迸る魔力を外部に放出しながら、その小柄な老人は、体躯に似合わぬ膨大な威圧感を放っていた。

 

「終わらせねばならん…!!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフ。枯渇した魔力を回復させ、そして子供が傷つくこの戦争を終結させるため、ついにこの戦場に参上した。

 

 

「マスター…!」

 

(マスター)の帰還。その事実を理解したエルザの左目には、涙が浮かんでいた。

 

 

「天変地異を望むというのか…!!」

 

「それが家族(ギルド)の為ならば…!!」

 

彼方、闇に淀んだ禍々しい魔力を解放させた幽鬼の支配者の頂点に立つ者――。

 

此方、光溢れる聖なる魔力を抑えもしない妖精の尻尾の夢を受け継いだ者――。

 

 

 

一度ぶつかれば天を震わせ、地を揺らし、海を荒れさせる、聖十大(せいてんだい)()(どう)二人が、ここに激突する。

 

 

 

「何だ…?この暖かいような、懐かしいような魔力は…?」

 

その魔力の解放によって、ジョゼに気絶させられていた者たちが目を覚ましだした。マカロフが発する白い光を包んだ魔力に、意識が引き戻されたのだ。

 

「全員この場を離れよ」

 

「マスター!?」

「何でここに!?」

 

背を向けながらも目を覚ました子供たちに向けて命じるマカロフの姿を視認したグレイとエルフマンはそれぞれ驚愕を露わにしている。だが、今は詳細な説明をしている場合ではない。「言われた通りにするんだ!」と、唯一意識が戻らないシエルを背負いながら、エルザは仲間たちに呼びかける。

 

「あなたが出てきた以上雑魚にはもう用はありません。しかし後で必ず殺してあげますよ」

 

最早ジョゼは、己と唯一渡り合えるマカロフの方に意識の全てを向けるようだ。この場から離れようとしているエルザたちを追おうとはしない。

 

「行こう」

 

「でもよォ…!」

 

「私たちがいたのでは、マスターの邪魔になる。全てをマスターに任せよう…」

 

今この場にいたとしても聖十(せいてん)同士の戦いに介入できるような者はいない。出来るのは、(マスター)であるマカロフが気兼ねなく戦えるように、この場から離れることだけ。心配ではあるが、マカロフを信じて託すしかない。

 

ミラジェーンを支えながら共に移動を始めるエルフマン。シエルを背負ってそれに続くエルザ。マカロフを一瞥した後、グレイも悔し気に表情を歪めて後を追った。

 

 

 

―――全てのガキどもに感謝する。よくやった…。妖精の尻尾(フェアリーテイル)であることを誇れ!!

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

最早魔導巨人の原型を留めていないギルドを中心に、外部は凄惨たる状況だった。二つの魔力がぶつかる度に、空気が揺れ、波が起こり、地に亀裂が走る。そして天には巨人を中心として雲が渦巻き、雷が迸り湖面へと落ちる。シエルが起こした“天の怒り”が、最早前触れに過ぎなかったと言えるほど、マグノリアの気象は出鱈目となっていた。

 

そんなシエルはエルザに背負われたまま仲間と共に脱出を終えており、未だその意識を失ったままだ。微かに息の音は聞こえる為命がまだあることは確かだが…。

 

「普通、こんな状況の中じゃ嫌でも起きるよな…?」

 

「無理もない。“天の怒り”によって枯渇寸前まで魔力を使い、その状態で尚ジョゼに魔法を撃ったのだ。全く、本当に世話が焼けるな…」

 

グレイが呟いた言葉にエルザがシエル本人の状況も交えながら説明する。口では呆れを含んだ物言いであるが、その表情はとても優し気なものだった。

 

 

すると、巨人を中心として、街全体を飲み込むような、日射光(サンシャイン)を遥かに超える膨大な量の光が発せられ、場にいる全員が包み込まれた…。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

聖十(せいてん)二人のぶつかり合いは必然と言うべきか両者一歩も引かず、拮抗していた。エルザを始めとした実力者を相手にほぼ無傷で立ちまわったジョゼが、一切の油断もなく対峙して尚渡り合える。改めてマスター・マカロフのとてつもない魔力を実感させられる。

 

そしてマカロフもまた、ジョゼに対して関心を覚えていた。マカロフから見ればジョゼはまだ若く、己と同じく聖十(せいてん)に数えられる彼の魔力を、正しいことに使い、若い者への儀表となれば、魔法界はさらに発展できたと、嘆きさえも覚えていた。

 

そして、終局は突如訪れる――。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)、審判のしきたりにより…貴様に3つ数えるまでの猶予を与える…。

 

 

 

ひざまずけ」

 

積み上げられた瓦礫の山に立った影響で、ジョゼを見下ろす形となったマカロフの命令に、ジョゼは一瞬、理解が遅れた。

 

「一つ」

 

「ははっ、何を言い出すのかと思えば、ひざまずけだァ!?」

 

数え始めたマカロフに対して、心から理解できないと嘲笑を浮かべながら口元を吊り上げて言葉を発する。

 

「二つ」

 

「王国一のギルドが、貴様に屈しろだと!?冗談じゃないっ!私は貴様と互角に戦える!いや!非情になれる分、私の方が強い!!」

 

再び数を数えるマカロフは、自分の胸の前に両手を翳す。左手指は上に、右手指を下に向け、その中心に白く発光する丸い魔力が現れる。対するジョゼもまた、溢れるばかりの髑髏が描かれた魔力を身に纏い、隙だらけに見えるマカロフに対して狙いを定める。

 

「三つ」

 

「ひざまずくのは貴様等の方だ!!消えろ!!塵となって歴史上から消滅しろォ!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)ゥゥッ!!!」

 

翳した両手、上に向けていた左は下に、下に向けていた右を上に向ける。それと同時に、中心に会った発光する魔力は、その大きさを膨らませる。だがジョゼの方も黙っているばかりではない。纏わせていた禍々しい魔力をマカロフへと向け、叫びと共にそれらを放つ。

 

 

 

「そこまで」

 

当たるよりも先に、下へと向けていた左手を再び上に向け、両手を合掌するように合わせると同時に発光する魔力を押し潰す。すると、彼の足元から白き光が差し込み、彼を包み込むように纏わり、迫っていたジョゼの魔法を跡形もなく消滅させた。

 

更にその光は勢力を広げ、ジョゼが呆然とする間に、彼の身体をも全て包み込んだ。

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)…発動」

 

 

そして、マカロフが発動させたその魔法は、マグノリア全域を包み込む白き光となって広がった…。

 

 

 

 

 

 

 

「…マス、ター…?」

 

眩い光に目を覆う全ての者達。その中で、一人の少年がその意識を取り戻した。

 

 




おまけ風次回予告

シエル「ファントムの奴ら、どいつもかなり手強かったけど、やっぱりジョゼは別格だったな~…」

……

シエル「エルザが戦っても全く太刀打ちできないだなんて、外道なことやってても実力は確かなんだねぇ…」

……

シエル「そ、そんなジョゼを相手に真っ向から戦えるうちのマスターは、やっぱりさすがって言うか、格が違うって言うか…!!」

……

シエル「…反応が何もないってやっぱ寂しいな…。も~!!ルーシィどこ行ったんだよ~!今回はルーシィとのペアなのにぃ~~!!」

次回『あたしの決意、そしてさよなら』

シエル「って、ちょっと待って?何この副題?ん?置手紙が………

何っじゃこりゃあ~~~~!!?」
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