FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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書き始める前
「今回は短くなりそうだな…。オリジナルのシーンを他に入れるか…」

書き進めている間
「…あれ…?何か今回一番文字数多くね…?」

という事で最大文字数更新しました。不思議なもんですね、脳内に考え付いたシーンの量と文字にしたときの量が桁違いだなんて…。(汗)

ちなみに次回の本編更新はまた2週間後になります。
来週土曜が仕事なのと、未だにあの演劇回の構成が纏まらないのが理由です…。マジどうしよう…。


第18話 NEXT GENERATION

とある山奥に、地上に馬上杯の形のものがあり、そこから魔法の力で宙に浮く札のような石板が取り囲むように10枚。そして更にその中心の上空に浮かぶ小島に一つの宮殿のような建物が組み合わさった、巨大な建造物が存在する。

 

それは魔法評議院『ERA(エラ)』――。

魔法界の秩序を守り、頂点に位置する組織の総本山である。

 

その建物にて妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターであるマカロフは裁判の被告人として召集され、先程その裁判を終えていたところであった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)幽鬼の支配者(ファントムロード)の衝突と言う一大事件から一週間余り。ようやくすべての証言を集め此度の判決が下されたのだ。

 

結論を言えばまず、幽鬼の支配者(ファントムロード)の解散。次にマスター・ジョゼの聖十(せいてん)の称号剥奪。そして…。

 

妖精の尻尾(ワシら)が無罪とは思い切った判決じゃのう…」

 

今し方呟いたマカロフの言の通り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は今回の騒動に関して無罪と言う判決を下された。幽鬼の支配者(ファントムロード)側に非がある言動や行いの証言が数多く、被害者側として見られた部分が強かったからでもあるが、それだけではない。

 

「感謝せぇよマー坊。ワスも弁護スたけぇねぇ」

 

マカロフの隣に座り彼にそう告げたのは、彼と同様の小柄で、面長な老人。議長を除く9人の魔法評議員、そのうちの六ノ席に座している『ヤジマ』と言う名の人物はマカロフとは旧知の仲である。彼が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に関する弁護を行ったおかげで今回の判決に落ち着いたと言ってもいい。

 

「恩に着るわいヤン坊…ギルドが直ったら、一度遊びに来なさいよ。ラーメンおごっちゃる」

 

「妖精ラーメンチャースー12枚乗せで頼むわい」

 

「12枚は多すぎじゃろォ」

 

「今回の件もギルド間抗争禁()条約違反第四条から…」

 

「わぁーったわいっ!!20枚でも30枚でものせてやる!!」

 

「チャースーは12枚じゃ」

 

片やギルドマスター、片や評議員の一人である二人だが、昔からの知己でもある彼らの会話は互いに遠慮のなさが目立っている。昔から互いに変わらない部分があると、言葉にせずともどこか実感しているのだろう。だが、時の流れは確かに存在している。自分たちはもう若くない、あまり無茶をするものではないと、ヤジマは忠言する。

 

「最近の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の狼藉ぶりは目に余るという意見も出ている。現にミケロやオーグは解散請求まで提出スとる。今回の事は無罪となったが、あの書状(スォズォう)のような事が今後も起きる可能性も高い…。このままでは、マー坊までもが重い罰を受けることになるよ…」

 

仲間のためならば世間からどのような評価を受けることになっても、周りへの被害が出たり、他ギルドとも抗争してしまうギルドのマスターとして、もしも罰せられて命を捨てなければいけなくなっては元も子もない…。

 

「マー坊、とっとと引退せんと、身がもたねーヨ…」

 

ヤジマの言葉にマカロフは言葉を何も返さず、懐から一通の封筒を取り出す。今回受けた裁判で最後に渡されたものである。そこに書いてあった内容を思い出して、彼は顔を俯かせた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「みんなーー!今日から仕事の受注を再開するわよー!仮設の受付カウンターだけど、ガンガン仕事やろーね!」

 

ある程度の建物の復旧が進んだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仮設カウンターの前で、看板娘兼受付嬢であるミラジェーンは高らかに宣言する。その声を聞いてギルドの面々は応えるように騒ぎ出し、我先にと依頼書が貼り出されている即席の依頼板(リクエストボード)の前へと集まりだす。

 

そんな様子を、ミラジェーンの前にてカウンター席に座っているルーシィは唖然としながらも呆れた様子だ。

 

「なにアレぇ、普段はお酒呑んでダラダラしてるだけなのにィ」

 

ルーシィの呟きを聞いてミラジェーンは思わず笑みを零す。ギルドの魔導士としてはやはり依頼を受けて仕事にかかる日々が恋しかったのだろう。幽鬼の支配者(ファントムロード)が襲撃してきた日以来の本業再開に、嬉しさが込み上げる。呆れているルーシィも、その表情には笑顔が含まれていることは、ミラジェーンも気づいている。するとルーシィは思い出したように辺りを見渡した。

 

「そう言えば、ロキいないのかなぁ?」

 

「あれれ~?もしかしてルーシィもロキの魔の手にかかっちゃったのかな?」

 

「違うわよっ!!」

 

探している人物がギルドの中でも随一の女たらしであるロキであることを公言しているのと同義のルーシィに、偶然通りかかったシエルがニヤケ顔を抑えようともせずにからかってくる。同じように思ったのかミラジェーンの顔もどこかニヤケているように見えて、咄嗟にルーシィは頬を赤くしながらも否定する。

 

「なんか、鍵見つけてくれたみたいで…一言お礼したいな…って…」

 

「そう言えばエルザたちが言ってたな、そんなこと」

 

自分の体の不調も厭わずに街全体を探して鍵を見つけ、届けることを願い出たロキ。ルーシィの実家から帰る途中にそのことも伝えて鍵を渡したのだ。2、3日前の事だがシエルはそれを改めて思い出した。それを聞いたミラジェーンは「見かけたら伝えておく」と伝言を承った。

 

「それより星霊に怒られなかった?鍵落として…」

 

「…そりゃあもう…怒られるなんて騒ぎじゃなかったですよ…」

 

話に聞くと、鍵がルーシィの手元に戻ったその日の夜、彼女が契約している星霊の内の一体、黄道十二門の水瓶座の星霊・宝瓶宮のアクエリアス――腰まで伸びた明るい水色のロングヘアの、人魚の女性の星霊――にしこたま怒られ、尻を鞭で何度も叩かれたそうだ。

 

他の星霊の鍵も一緒に落としたのだがそのことで怒ったのは彼女のみ…と言うかルーシィがヘマをすると大体怒るのは彼女のみであり、他の星霊たちは割とその辺りは気にしないようだ。

 

「思い出しただけで、お尻がズキズキ…!」

 

自分の尻を両手で押さえながらルーシィはカウンターに突っ伏した。よっぽど堪えた様だ。あまりにも悲痛な、込み上げるような声で嘆く彼女に、シエルもミラジェーンも苦笑いを浮かべるしかない。

 

「冷やしてやろうか?」

 

「さり気ないセクハラよ、それ…」

 

冷気を発した左手を差し出しながら問いかけるグレイの申し出を断る。

 

「ルーシィ、赤いお尻見せて~」

 

「堂々としたセクハラよ、それ!」

 

(エーラ)で飛んで笑いながら頼むハッピーに叫びながらツッコむ。

 

「もっとヒリヒリさせたらどんな顔すっかな?」

 

「鬼かお前は!!!」

 

あくどい顔を浮かべて炎を左手に纏いながらハッピーと共に悪だくみするナツには、思わず立ち上がって悲鳴混じりのツッコミを繰り出した。今日も今日とて忙しそうだ。

 

ルーシィの尻を巡る顔なじみの会話を傍観していたシエルであったが、その表情はナツの後頭部に飛んできた樽がぶつかったことで驚愕の顔に染められた。

 

「もういっぺん言ってみろ!!」

 

樽が飛んできた、そして一つの怒号が響いたその方向に思わず顔を向けると、一人の人物に向けて憤怒の形相と共に睨みつけている鎧姿の女性・エルザのものだと分かった。そしてエルザの視線の先にいるのは、幽鬼の支配者(ファントムロード)との戦いに参加していなかったS級魔導士の一人・逆立った金髪とヘッドフォン、ファーコートが特徴のラクサスだった。

 

ルーシィとグレイはエルザのただならない様子に疑問を浮かべていたが、シエルはラクサスの姿を見た瞬間に察した。問題があるのはラクサスの言動であることを。そして同時に、シエル自身もラクサスを睨むように表情が変わった。

 

「この際だ、ハッキリ言ってやるよ。弱ェ奴はこのギルドには必要ねェ。ファントムごときに舐められやがって…恥ずかしくて外も歩けねーよ」

 

ギルドを仕事と称して留守にしていたラクサスが帰ってきていたことに気付き、エルザと険悪な雰囲気を出しながら話すその様子に次々と場にいる者は注目する。その中にはけがの治療がある程度済み、動くことならできるようになったシャドウ・ギアの3人も含まれている。ラクサスの後方にてその様子を見ていたが、それに気づいたらしいラクサスが振り向きざまに告げだす。

 

(なっさ)けねぇなオイ…元はと言えばオメーらがガジルにやられたらしいじゃねぇか?つーか、お前ら名前知らねえや」

 

好き放題に酷いことを言ってくれるものだ。思わずシエルは歯軋りを一つし、両手を強く握りしめて怒りを抑えている。シエルだけじゃない、近くにいたグレイとハッピー、そしてルーシィも親友のレビィを侮辱されて顔をしかめている。

 

「ああ?誰かと思えば元凶で、星霊使いのお嬢様じゃねえか。てめえのせいで…」

「ラクサス!!」

 

ルーシィを視界に入れたラクサスの言葉をミラジェーンが遮る。このまま言葉を続けていたら、またルーシィの心を傷つけると察知したのだ。そして続けざまに彼女が告げたのは、今回の騒動に非があるのはラクサスも同じであることだ。

 

「もう全部終わったのよ。誰のせいとか、そういう話だって初めからないの。戦闘に参加しなかったラクサスにもお咎め無し。マスターはそう言ってるのよ?」

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)への報復を目的とした襲撃で撤退した後の事。マスター・マカロフが枯渇(ドレイン)を受けて戦闘不能となった際に、留守にしているS級魔導士を呼び戻そうとしていた。しかし、ミストガンの居場所は魔法による占いに長けたカナでも把握できず、ペルセウスと言う魔導士も連絡がつかず、もう一人の『あのオヤジ』と呼ばれた魔導士は、事情が事情のため連絡手段もなかった。

 

唯一知らせることができたのはラクサスのみ。だが、ラクサスは「マカロフが始めたことであるから自分には関係ない」、「元凶であるルーシィが自分の女になるなら助けてやってもいい」、挙句の果てには「マカロフには『さっさと引退してマスターの座を渡せ』と伝えておけ」と、仲間を想う妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士とは思えない言動で、要請を拒んだのだ。そんな彼も、マスター・マカロフは何の罰も与えずに咎めなかったのだ。

 

「そりゃそうだろ。オレには関係ねえ事だ。第一戦闘に参加しなかったのは何もオレだけじゃねえ。なのにオレばかりが責められる方がおかしな話だろ?ま…オレがいたらこんな無様な目にはあわなかったがな」

 

「貴様…!!」

 

だがラクサスはそれを当然のように、さらには自分だけが責められるのは筋違いだと主張してきた。そして仲間が一丸となって、必死になって勝ち取った勝利を、無様だと告げたその言葉にエルザの目が見開かれる。

 

「言い訳にしか聞こえないね」

 

ラクサスに反論をしようとしたエルザの言葉を遮ったのは、大きくはないが声を張ってそう告げたシエルだ。その内容にエルザも、シエルの近くにいるルーシィたちも言葉を失った。今の今まで嘲笑を浮かべていたラクサスの表情がその言葉を聞いた瞬間不機嫌なものに歪められる。

 

「『オレがいたら』?その気になればすぐにでも参戦できた癖して一向に姿も見せなかったのに、よくそんなことが言えるな。過去にああしたら、なんて、過ぎた今になればいくらでも言えるよ、口先だけの奴でもね…」

 

シエルの表情に嘲りはない。純粋な怒り。自分と同じ紋章を持っていながら同じ立場にいる者達を愚弄しているラクサスを、シエルはどうしても許せなかった。そんなシエルの言葉を聞いたラクサスは、座っていた椅子からゆっくりと立ち上がると、表情をそのままにシエルに対して鋭く細めた目で睨みつけてくる。

 

「…それぁ…オレの事言ってんのか、あ…?」

 

今までに見たことのない確かな怒りを感じる声と雰囲気。さらに身体全体に溢れているように錯覚する電流。ただならぬ様子を垣間見たルーシィ、それに一部の他の魔導士たちもラクサスの豹変に怯み、恐れている。シエル自身も微かに怯みはしたが、ここで引いてラクサスを優位に立たせることはしたくなかった。

 

(ギルド)が壊されて、家族(仲間)が傷つけられて、(マスター)までもが命の危機に瀕した。皆が危ない状態だったのに『オレには関係ない』だなんだと理由をつけて、お前の言うファントム如きと戦いすらしなかった奴が、全部終わった後にケチつける資格なんかない。それこそお前には『関係ない』ことだろ、何様のつもりだ…!」

 

ファントムとの戦いにおいて一切関与しなかったラクサスに、レビィたちも、マスター・マカロフも、ルーシィも、みんなが負った苦しみを知らないくせに責める言葉ばかりを並べる資格こそ存在しない。ラクサスからの鋭い視線が更に強くなるのを感じながらも、シエルは譲る気はない。

 

「打ちのめされても、絶望しながらも、仲間のためにみんな戦った。力じゃお前に勝てないかもしれない。弱いかもしれない。けれど俺は、心の強さだったら、みんな強いものを持ってる、誰にも負けない自信が、みんなにある!言い訳並べて戦いすらしなかったラクサスよりも、ここにいるみんなは強い!!」

 

「!!」

 

 

瞬間――。

 

青空広がる快晴の天から、一筋の雷が落ちた。

 

前触れは何もなく、一歩を踏み出したシエルの更にもう一歩先…シエルの目の前に、自然に落ちるにはあまりにも不自然な、だが先日シエルが繰り出した無数の雷と比べてもさらに強大と思われるそれが落ちてきた。

 

 

その出来事にシエルの表情からは怒りが…それどころか全ての感情が抜け落ちて、目が開き切って硬直している。

 

周りにいた者たちは突如シエルのみに起きかけた惨状が、文字通り一歩間違えれば起きていたことの事実に動揺、焦燥、驚愕に染められている。

 

 

そしてその事態を引き起こしたと思われる長身の男は…。

 

 

「ガキの戯言と思って聞き流してやろうとしてりゃあ…

 

 

 

 

限度ってもんがあるだろ…!?クソガキがぁ…!!!」

 

その顔には、全ての怒りの感情が込められたような…親の仇を見る、狂った獣、赤鬼のよう、そんな表現さえ生易しく感じさせる憤怒の表情。至る所に青筋が浮かび、感情が抜け落ちてしまったシエルの顔を、見開いた目で睨みつけている。

 

「っ…!!?」

 

思考が停止していたかのように立ち竦んでいたシエルであったが、視線を落とした先の石畳に、雷によって陥没、炭となったその一角を視界に入れてようやく状況を把握した。瞬間、今の今までラクサスへの怒りで誤魔化していた感情が一気に噴き出した。

 

―――恐怖。

 

人智を超えた魔法を扱えても彼はまだ子供。圧倒的な力の片鱗を見せた目の前の存在に、息が早くなり、顔に脂汗が滲む。こらえようとしているが、歯も動いて打ち鳴らす音がシエルの耳に届いてしまう。

 

己に対して恐怖を抱いた少年に気付いているのか否か、ラクサスは彼に向かって一歩踏み出す。そこで周りの者は気づいた。ラクサスの意図を。このままではシエルが―――。

 

「やめろォ!!」

 

そうなる前にナツが飛び掛かって彼の後頭部目がけて拳を振り抜く。だが、拳が当たろうとした瞬間ラクサスの身体は一筋の電気を残して一瞬で消え、ナツの拳は空振った。その勢いでたたらを踏んだナツの後方に、再び電気とともに消えていたラクサスの身体が現れる。ルーシィはこの目で実際見ているのに、何が起こったのかわからない様子だった。シエルは目の前のラクサスが消えてナツが映ったことによって持ち直したのか、息を整え始めた。

 

「ラクサス!オレと勝負しろ!!この薄情(モン)がぁ!!」

 

「…オレを捕らえられねえ奴が何の勝負になる?」

 

横槍を入れた上に勝負をふっかけてくるナツに、ラクサスは毒気を抜かれたように声に落ち着きを取り戻して呆れながら、溜息混じりにそう答えた。

 

「今日の事はよく覚えとけよクソガキ?オレがギルドを継いだら、てめェみたいな弱ェ奴も、オレに歯向かう奴も全て排除する!!最強のギルドを!誰にも舐められねぇ史上最強のギルドを作る!!」

 

声高々に宣言するラクサスを、その場にいるもの全員が彼に敵意にも似た視線を向けているが、意に介そうとしない。戻った機嫌もそのままに立ち去ろうとし…。

 

「おっとそうだ…オレがやるまでもねぇかもな…」

 

何かを思い出したような反応とともに、ラクサスは懐から封書を取り出してシエルに投げ渡す。唐突なことであったが、シエルはそれをキャッチ。何の封書なのか聞くよりも先にラクサスから声がかかる。

 

「シエル、お前に関することが書かれてる。しっかり読んでおけよ?」

 

それを言い残して今度こそラクサスはその場を後にした。もはや背も見えなくなったあと、ミラジェーンがシエルに「大丈夫?」と声をかけてきた。

 

「う、うん…突然でびっくりしたけど…なんか、ごめん…」

 

余計なことをしてしまっただろうか、と今更になって後悔が募るが、ミラジェーンもルーシィも気にしていないと彼を慰める。そのすぐあとにルーシィが苛立つような、不機嫌な声が上がる。

 

「にしても継ぐって、何ぶっ飛んだ事言ってんのかしら…」

 

「それがそうでもないのよ…」

 

実力は確かにあるが、ギルドを継ぐ権利があると思えない。ルーシィはそう思ったらしいが、実は彼の言葉には脈絡がある。

 

「ラクサスはマスターの孫なんだ。血の繋がった歴とした、ね…」

 

予想だにしなかった真実にルーシィは頭を抱えて驚いた。祖父と孫では似ても似つかない場合もある。祖父側の昔の姿が見れるならまだしも、現時点でそれを見抜くことは不可能に近いだろう。それに、仲間を慮る祖父(マスター)と、強さに固執する(ラクサス)。意見も思想も違う二人に共通するものも見つけられないことも要因の一つだろう。

 

だがそんな関係性にあるからか、マスター・マカロフが引退した際にはラクサスが次のマスターになる可能性が高い。それ故か、マカロフ自身も中々引退できないという噂が立っている。次期マスターの話は本人も一切していないので確証もないのだが。

 

「…あたしは嫌だな…。仲間の事をあんな風に思ってる人がマスターになるなんて…」

 

ルーシィの面持ちはとても暗い。先程まで仲間に対して責め苦ばかりを告げていた男がマスターになったとあっては、家族のような雰囲気のある妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、最早影も形も無くなるかもしれない。そんな危惧さえ感じられる。

 

「(あの人…だったら…)」

 

シエルの脳裏に浮かんだのは一人の青年。このギルドにおいて、彼もマスターになる資格自体は存在する。ラクサスではなく彼がマスターになってくれれば…。そんな望みが彼の中にあった。

 

「ところであんた、ラクサスからなんかもらってたけど、何が書いてあるの?」

 

ルーシィの問いを聞いて意識を封書に戻したシエルは、その手で封書を開封して中に入れられている一枚の紙を取り出す。書類のようだ。ラクサスが、シエルに関することが書かれていると言っていたが、具体的に何が書かれているのだろう…そんな思いを持ちながら目を通したシエルは…。

 

「……!!」

 

目に見えてわかるほど動揺した。ただならぬ様子に真正面から見ていたルーシィが心配のあまり声をかける。

 

「え、ちょ、ちょっと何!?どうしたの、何が書いてあったの!?」

 

「どれどれ?」

 

シエルとルーシィの様子に気になっていたナツがシエルの背後から書類の内容を覗き見る。そしてそれを読んだ瞬間、ナツの表情も動揺に染められ、顔からは汗が噴き出す。心なしか怒りも含まれているようだ。呆然とした様子になったシエルの手から素早く書類をかすめ取り、自身の両手で握るかのように持ちながら広げて、その書類を穴があくように凝視している。

 

「な、なんなんだよこれはァ…!!」

 

ただならぬ様子に他の面々も気になって口々にシエルやナツに尋ねてくる。シエルはそれに答えられる様子では無い。ナツも書類に目を向けるばかりだったので痺れを切らしたグレイがそれを奪い取って他のメンバーにも見えるように持ち広げる。

そこに書かれた内容はこうであった。

 

 

 

 

 

 

■魔法評議院からの厳正なる審議に基づき、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に次の内容を命令する。

 

・今後、当ギルドに所属する以下の人物が滞在した箇所が、雷雨による被害によって損害を起こした際、全責任を当人が請け負い、貴ギルドは対象の人物を破門することを命ずる。

 

 

 

 

 

・対象人物名:シエル・ファルシー

 

 

 

 

その内容に全員が絶句した。

評議院直々に、シエルの破門命令が出されたと同義だったからだ。

 

「ど、どういうことだこれ!?」

「破門…!?破門って書いてあるわよ!?」

「対象の人物って、シエルしか書いてねえじゃねえか!!」

「何で評議院がそんな…!!」

 

突如としては知った衝撃と共に、ギルドの面々は口々に騒ぎ出す。誰もが動揺し、現実を受け止められていない。そんな中で、最初にこの書状に関して理解したのはエルザであった。

 

「“天の怒り”を使わせないための措置…だろうな…」

 

その呟きに動揺が静まった感覚がした。評議院としては“天の怒り”のように広範囲に損害をもたらせるような魔法を扱う魔導士を野放しにできない。いくら普段は問題ばかり起こしている妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいる中でも、勤勉に依頼をこなし、損害を起こしていないシエルであっても、年に一度の間隔とは言え村一つ、ギルド一つを破壊するような存在はあまりに危険すぎる。

 

ひいてはその力を本人が制御できていないことも問題がある。何かがきっかけで再び暴走を起こせば、その場のものは雷雨によって消滅し、場合によっては人命にも関わる。

 

そこで評議院が決断したのは「次にシエルが“天の怒り”を使えば、彼を妖精の尻尾(フェアリーテイル)から破門する」ことである。

 

「ふざけんな!!何でそんなこと勝手に決められなきゃならねえんだ!!!」

 

怒りのあまり全身から赤い炎を噴き出させながら、ナツは駆けだしていく。ルーシィやグレイが「どこに行く気だ」と留めようとするが、彼は走りながら答えた。

 

「評議員の奴等に、シエルを破門させねえように言ってくる!!」

 

「言ってくる、って絶対それだけじゃ済まねぇだろ!?」

 

「ナツじゃ絶対評議員殴っちゃうよ~!!」

 

「どうしても聞かねえならそうしてでも聞かせてやる!!」

 

「やめろ、ナツ!!」

 

グレイが、ハッピーが、エルザが彼を止めようとするも止まる気配はない。一方的に破門を命じてくる評議院の措置に納得がいかないと言わんばかりに。最早誰も止められそうもなかったその時に彼を止めたのは…。

 

「駄目だ!やめてくれナツ!!」

 

 

命じられた対象の、シエルだった。

 

破門されかけている本人からの制止の言葉に、目を見開いて硬直したナツが振り返る。

 

「な…何で止めんだよシエル!お前…破門されてもいいのかよっ!!?妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃいられなくなるんだぞっ!!?」

 

叫びながら主張するナツの言葉に、シエルも顔を歪める。考えただけでぞっとする話だ。仮定の話だとしても、唯一残っていると言える居場所にいられなくなる恐怖が募る。でも…だからこそだ…。

 

「いいわけないよ…。でも、このままナツが評議院に文句を言いに行ったら、下手したら破門されるのはナツになるかもしれない…。最悪の場合は俺も一緒に…いや、最悪なのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)自体が解散させられる…!!」

 

シエルの言う通り、シエルと同じ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士であるナツが評議院に殴りこんでしまえば、魔法界での妖精の尻尾(フェアリーテイル)の立ち位置はより悪くなり、元凶となるナツ、そして今後の脅威となるシエルだけでなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)自体の存続さえ許されなくなってしまう。

 

自分一人のために他が犠牲になることも、ギルドが解散させられることも、彼にとっては耐え難いものだ。

 

「俺の事を想ってくれてるのは嬉しいよ…。だからこそ、今は耐えて…!それに今すぐ破門されるわけでもないし、今後俺が…我慢すれば済む話だからさ…」

 

俯かせた顔を上げて、無理に笑顔を作ってナツに向ける。それがナツにとっても、他の者たちにとっても痛々しいものであった。いざと言う時は最悪、自分だけが破門になれば他に被害はない、と言う言葉は胸中にしまい込んだ。言ってしまえば、留まった彼らは絶対に食い止めようとするからだ。

 

14歳の子供が背負うにはあまりにも…重すぎる重責。その後、封書の話題を出す者は誰もいなかった…。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

既に時刻は昼を過ぎ、朝依頼にほとんどの者が向かって行ったために人の数はまばらだ。しかし、まばらになった数の魔導士たちは未だにある一点をチラリと見ることが多い。

 

その対象は、カウンター席にて封書を開いたまま何も言葉を発さず、身じろぎもしないシエル。悲しみ、憐み、悔しさ、同情、あらゆる感情の視線を受けながらもシエルは何の反応も示さない。

 

そして彼は思い返す。

それは数年前の事…。

 

 

 

天候魔法(ウェザーズ)?』

 

『そう!それが俺の魔法!ほら、太陽も雲も作れるし、その気になったら雷も雪も出せるんだ!』

 

『それはまた、珍しい魔法を…』

 

今よりもまだ年若いシエルは、ある青年に自身の魔法を披露する。希少な魔法を披露されて面食らった様子の青年は次第にその表情に笑みを浮かべ…。

 

『確かにこれは強力だな。けど、こう言った強い魔法は、使い手の心の強さも必要になる』

 

『…心…?』

 

告げられた『心』と言う単語にオウム返しでシエルが呟くと、青年は手をシエルの頭上に持っていき、撫で始める。

 

『そう、マスターの受け売りだけどな。どんな魔法も心の持ち方一つで変わる。魔法の力は心の力だ。心は、全てにおいての動力源となる。』

 

「『心の力…か…』」

 

脳裏に過った少年の言葉と、今の自分の声が重なる。脳裏にあった少年は瞳を輝かせていた。しかし今の自分にはそんな輝きの影もない。

 

「…ラクサスにあんなこと言ったくせに…俺の心はこんなにも、弱い…」

 

正直、シエルは今、自分の力が怖くなっていた。

 

自分の魔法が誰かを傷つけたら…?

 

何かを消滅させたら…?

 

自らの暴走を、また抑えられなくなったら…?

 

その結果、家族が失われたら…?

 

家が…無くなってしまったら…?

 

 

考えれば考えるほどに、少年の心は深く暗く、閉ざされていく…。

思考が黒く塗りつぶされていく…。

 

 

 

 

 

「シエル、少しいいか?」

 

そうなる直前、少年の耳に届いた一人の女性の声が、彼の意識を呼び覚ました。

 

「あ…エルザ…」

 

振り向いた視線の先にいたのは緋色の髪の女性・エルザ。その後方にはナツとハッピー、ルーシィにグレイと顔馴染みのメンバーが揃っている。

 

「仕事に行かないか?折角再開したのだ。ギルドに塞ぎ込むよりも良いと思うぞ?」

 

先程の事がまるでなかったかのように、いつも通りのエルザがシエルを仕事に誘ってきた。珍しいものだ。S級魔導士であるエルザが誰かを誘う事自体が。しかも、後方にいるメンバーの顔触れを察するに、彼らも同行するのだろう。

 

「…ごめん、俺はいいよ…ナツたちもいるし、そんなに手間もかからないでしょ…?」

 

だからシエルは否と答えた。過剰戦力だ。自分が入る余地などない程に。恐らく自分に気を遣ってくれているのだろうと思ってシエルはそう断った。だが、帰ってきた言葉は予想外のものだった。

 

「何か勘違いしているみたいだが、私はここにいる皆で行きたいと考えているんだ。お前も含めた、ここにいる6人で」

 

「…え…?」

 

ここにいる6人(5人+1匹)。それも自分を含めたと言ったのか。面食らった表情をしているシエルにエルザはさらに続ける。

 

「実はここにいる6人で、チームを組もうと思っている。ガルナ島の時にお前はいなかったが、鉄の森(アイゼンヴァルト)の一件以来、常に一緒にいる気がしてな」

 

「最強チーム、正式結成だよ!」

 

ギルド内で囁かれた噂となっていた『最強チーム』。その一員として自分が誘われていることに気付いたシエルは呆気に取られていた。そんな彼に対して気にせずにナツとグレイは…。

 

「シエルは兎も角…」

「こいつと、なぁ…」

 

「不満か?」

 

「「いえ!嬉しいです!」」

 

不服そうに互いを睨みつけていたが、エルザの一喝にすぐさま掌を返す。ハッピーとルーシィはその様子に笑みを零す。

 

「け、けど…俺、何かあったらまた…」

 

もしかすれば暴走を起こした時、傷つくことになるのは彼らになるかもしれない。それが少年にとっては最大の懸念となっている。しかし、そんな懸念も彼らはすぐに吹き飛ばす。

 

「何言ってんだ。今までは普通に魔法使えたり、悪戯に利用したりしてたじゃねえか。それに、暴走つっても仲間が傷ついたりした時に怒ることが原因だろ?オレたちがそうならねえようにするだけだ」

 

右拳を左の平に当てながら堂々とナツが告げる。彼が暴走を起こすことにならないように、自分たちが彼を安心させればいい、と簡単な様に言ってのけた。

 

「仮に暴走しちまったとしても、オレたちが止めてやんよ。お前ばっかにいいとことられんのもカッコがつかねえしな」

 

いつの間にか衣服を脱いではいるが、グレイも何てことないように言ってくれる。シエルが我を失った時に止めると約束さえできるのだと。

 

「みんな…」

 

次々と告げられる言葉にシエルは胸から込み上げるものを感じた。長らくここにいたことで薄れていた、このギルドの温かさに。そして、彼に対して最後に言葉をかけたのはルーシィだった。

 

「シエル、あたしね。ファントムの件で落ち込んでいるとき、ナツとシエルの言葉があったから立ち直れたの。あたしに言ってくれた言葉、覚えてる?」

 

そう言ってルーシィは座っているシエルと同じ座高まで屈み、シエルの両肩に手を置いた。

 

「『妖精の尻尾(ここ)はどんな人も受け入れてくれる。拭いきれない忌まわしい過去を持っていても、辛い現実に打ちのめされて逃げたとしても、最後には笑って迎え入れてくれる』」

 

その言葉は、ファントム襲撃の原因が自分にあり、父がファントムに依頼したことが判明したことで表情に影を帯びていたルーシィに、シエルが励ました時の言葉…。

 

「だから今度はあたしが言うね。ナツもグレイも、ハッピーもエルザも、勿論あたしもいる。みんながいる。みんながシエルの、仲間で家族よ」

 

先日は自分が慰める側だった。だが今度は自分が慰められる側になるとは。しかし、その彼女の言葉と輝かしい笑顔は、シエルが抱えそうになった心の闇を見事に晴らした。彼の両目から涙が一筋ずつ流れ出す。それに気づいた彼が腕でそれを拭うと、俯かせて暗くなっていた表情を一変。前を向くように笑みを浮かべたものになる。

 

「そこまで言われちゃったら、いつまでも座ってられないな…。エルザ!仕事の内容は?」

 

それを聞いたエルザは待ってましたと言わんばかりに手に持っていた依頼書をシエルに見せる。

 

「ルピナス城下町で暗躍している魔法教団を叩くと言うものだ。もう他の皆は準備できている。行くぞ!」

 

『おおおっ!!』

 

エルザの檄に、シエルを含めた全員が応える。その様子を見ていたミラジェーンは、シエルの顔が明るいものに戻っていることに、心からの笑みを浮かべながら安堵していた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

その夜。復旧がまだ続く妖精の尻尾(フェアリーテイル)の骨組みの上で、マスター・マカロフは一人酒を嗜みながら黄昏ていた。

 

「引退か…」

 

思い返すのは、裁判の判決が出たあの日、ヤジマに指摘された『引退』について。シエルへが今後“天の怒り”を発動させた際の破門命令も含めて、このまま引退をせずに責を負い続けては彼の身体が壊れることを危惧しているのだ。

 

ギルドも新しく建て替えられる。ならば、ギルドマスターも次の世代へ…。そうなると候補は絞られてくる。

 

 

ラクサス。

彼には心に大きな問題を抱えている。

 

ミストガン。

ディス・コミュニケーションの見本のような存在だ。

 

 

「だとすると…まだ若いがエルザかペルセウス…」

 

エルザは基本的に規律を重んじ、仲間への想いも持っている。実力も兼ね備えているため支障はないだろう。

 

ペルセウスもまた、仲間に対して思いやりもあり、エルザと実力は互角かそれ以上と言ってもいい。それに彼ならシエルについても真摯に検討してくれるだろう、が…。

 

「あいつには放浪癖があるんじゃよな~…。昔はそうでもなかったのに、誰に似たんじゃか…」

 

依頼を一つ受けに行くついでに遠出をする癖が度々あることを思い出し、そこを踏まえるとまた検討すべきことだと実感する。

 

「ふむう…一度ペルが戻ってきてから検討すべきかのう…」

 

自分の中で踏ん切りがついたであろう事柄に結論付ける…と、マカロフの下方から声がかかった。

 

「マスター、こんなとこにいらしたんですか~?」

 

「ん?」

 

その声の主はミラジェーン。何やら紙束を持ってマカロフの方を見上げている。

 

「また、やっちゃったみたいです!エルザたちが、仕事先で街を半壊寸前にしちゃったみたいです!」

 

瞬間、マカロフに衝撃が走った。表情にどんよりとした影が入り、某『叫び』と称された絵画作品の人物のようになってしまっている。

 

ミラジェーンからの、『評議院から始末書の請求が来てる』だの、『シエルが雨による消火や日光による解凍のおかげで被害の拡大は防いだ』だのの報告が上がるが、彼の耳には届かない。そのまま体が灰になって消えかかるかのような落ち込みを見せた後…。

 

 

「引退なんかしてられるかぁーーーーー!!!!」

 

その叫びは、どこか悲しげになく狼の遠吠えと共に、夜のマグノリアに消えていった。

 

 




おまけ風次回予告

シエル「立ち直って仕事したのは良いけど、結局もの壊さなきゃ済まないのかナツたちは…」

ハッピー「ものを壊さないようにするデリケートなことは、ナツには難しいからね~」

シエル「けどさ~、たまには気を遣ってくれてもいいよね?そのおかげで報酬額が減って、ルーシィが家賃に苦しむことになって、何か可哀想になってきたよ…」

ハッピー「ルーシィいつも家賃家賃言ってるもんね」

次回『フレデリックとヤンデリカ』

シエル「そうだ、ものを壊す必要のない仕事なら、ナツがいても大丈夫そうかな?」

ハッピー「多分無理だよ」

シエル「無理か…」

ハッピー「無理だよ」
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