FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今回いつも以上に難産でございました…。
全然構想纏まらなくて四苦八苦…。

先週のキャラクター紹介の前書きに書き忘れましたが、エデンズゼロのキャストが一部発表されましたね!

主人公のシキ役・寺島拓篤さん。ヒロインのレベッカ役・小松未可子さん。ハッピー役・釘宮理恵さん。
ひとまずハッピーは何となく予想はしてた。(笑)
そして寺島さんはジャッカル役に引き続き真島先生の作品に出演ですね。小松さんは確か初。


シキが寺島さんか…。いえ、何でもないです。

そして最近シエルが悪戯好きなのにほとんど悪戯できていないような気がする…。今回に至っては苦労人だし…。


第2.5章 天と星の導き
第19話 フレデリックとヤンデリカ


未だ続く復旧作業と並行して依頼をこなしている魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)。その仮設カウンター席の机に一人の少女が突っ伏して落ち込んでいる。

 

金髪の長い髪をサイドのみ纏めている髪型が特徴の、星霊魔導士であるルーシィだ。仕事が再開してから翌日、朝にギルドに到着してからすぐさま溜息混じりに席に座ったかと思いきや、倒れ込むようにその身を机に倒していた。

 

「あら?元気ないわねルーシィ」

 

カウンター前に立って依頼の受付や調理などを請け負っているミラジェーンがその様子を見てルーシィの身を案じる。体勢は変わらないがルーシィは答えた。

 

昨日正式に結成された最強チームのメンバーでルピナス城下町に潜む魔法教団を叩く依頼を受けて向かったはいいが、チームメイトたちが暴れに暴れまくって街を半壊寸前にまで壊したせいで報酬額が大幅に減らされてしまったのだ。

 

ナツはそこら中に火を吹いて燃やすわ、グレイはそこら中を氷漬けにするわ、特に酷かったのはエルザだ。今思い出すだけでも当時の恐怖がぶり返して軽くルーシィは発狂する。その様子にミラジェーンも大体の予想はついたようで、苦笑交じりに彼女を心配の声をかける。

 

報酬額を減らされるわ、壊した部分の謝罪のためにシエルと共に方々に頭下げたりする話で、彼女の精神はかなりすり減らされることになった。その話を聞いてミラジェーンはもう一つ気になったことの理由を察することができた。「ああ、それで…」と顔を向けた先にいたのは、いつものカウンター席ではなく、珍しくテーブル席にて座りながら死んだ魚のような目で遠くを見ているシエルの姿。

 

「…大変失礼を、致しました…同僚には、ちゃんと、忠告を致します…修繕も…協力を惜しみませんので…どうか…どうか……」

 

心ここにあらずだ。脳内だけは昨日のルピナス城下町で方々に頭を下げている記憶がリフレインしているのだろう。誰もいない青空を見上げながら、生気の抜けた表情とかすれるような声で謝罪を繰り返すその姿に、昨日とはまた別の意味で今のシエルには近寄りがたい。評議院から条件を満たしてしまえば破門、と言う裁定を下されているシエルが一番問題児たちの一挙手一投足に振り回されているのはどういうことなのだろう…。

 

「あーん!このままじゃ今月の家賃払えないよー!!」

 

シエルも重症だがルーシィの方も深刻だ。高額な報酬に行っても物を壊して減らされ、かといって壊すことのない、戦闘が必要ない仕事はあまり額が高くない。つまるところ収入が低く、家賃を払うことがままならないのだ。今自分が住んでいる場所を追い出されるのは、諸々の理由でまずい。だがいい仕事が見つからないのも確か。ルーシィは現在、万事休すの状態だった。

 

「じゃあ、とっておきの仕事を紹介しちゃおっかなー。すっごくルーシィ向きだし、何かが壊れる心配もないやつ」

 

そんな彼女に手を差し伸べるミラジェーンの言葉に、ルーシィの目から流れていた涙は引っ込み、首を傾げた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

オニバス―――。

マグノリアよりも面積は大きく、商業も盛んなフィオーレの街の一つ。呪歌(ララバイ)を巡る鉄の森(アイゼンヴァルト)の事件の際に情報収集のために来て以来だ。あの時は列車に置いてけぼりになってしまったナツを追いかけるために観光や滞在などの余裕はなかったが今回は違う。

 

依頼主はオニバスに存在するとある劇場の座長。客足が遠のいているその劇場を、魔法を使った演出で盛り上げて欲しい、と言う依頼来内容を受け、ルーシィは最強チームのメンバーとともに再び訪れた。

 

今度は置いてかれずに列車から降りた直後、醒めない酔いのせいでその場に倒れ伏したナツを放って一同は歩を進めながら依頼のことについて話していた。

 

「あたしたちの仕事はあくまで演出。ナツが火出したり、グレイの造形魔法やエルザの換装で見せ場作ったり、あたしがリラの歌で情感出してるところをシエルの天気の魔法でさらに大きくしたり、素敵な舞台になりそうじゃない?」

 

「小説を書くならそれを元に舞台になったりすることもあるし、ネタの参考にもなるんじゃない?」

 

「そうそう!今から演出の勉強をしておくのも悪くはないわよね!」

 

「ほぉ…」

 

ミラジェーンからルーシィ向きでピッタリな仕事と聞いていたが、確かに小説家志望でもある彼女にとってもいい経験となりそうだ。シエルからそれについても言及されて目に輝きを宿すルーシィ。いつも以上に張り切っているようだ。後方にいるグレイはあまり詳しいわけではないが、やる気に満ちた彼女の表情から察し、軽く返事するだけに抑えた。

 

数分すると、目的地である『シェラザード劇場』へと一行は辿り着いた。全員が首を大きく上に向けて見上げるほどの高さ、横の幅も縦の二倍はあると思えるほど広い。中央の入り口には臙脂色でセンタークロスの形に結ばれたカーテンが出迎えている。宮殿のような様相の石造りの建造物を前に、全員が思わず感嘆の声を漏らした。

 

「立派なとこだね」

 

「行こう!」

 

ルーシィの声に応えて、中に入ろうと足を伸ばしかけたその時「あの~…」とどこか気の弱そうな男性の声が聞こえた。声のする方に目を向けてみると、入り口の左側から、顔だけを出してこちらを見ている、紫色の髪で先の方が丸になった角のようになった部分が左右対称についた変わった髪型と、鼻の下に小さい髭が二房、そしてやけに面長な男性がいた。

 

シェラザード劇団の座長・『ラビアン』。彼こそが今回の依頼主である。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみなさんですかな?引き受けてくださり、誠にありがとうございます」

 

「はい!演出ならあたしたちに任せてください!!」

 

控えめで腰が低いように見える態度で話しかけるラビアンに対して、やる気に満ちた笑顔で答えるルーシィ。しかし、そんな彼女に対してラビアンは角に見える髪を二つとも下げてどこか落ち込んでいるような表情を見せた。

 

「それがですねぇ…ちょっと困ったことになりまして…」

 

全員がその表情と言葉に疑問符を浮かべる。詳しい話は役者用の控室でするという事で一行は彼の案内の元その控室へと通された。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「えーーー!!?役者が全員逃げ出したァ!!?」

 

「はい…ありがとうございます」

 

「何が…?」

 

何故か控室の出入口前にあるカーテン越しから顔だけを出して、何故かお礼の言葉を混じえるラビアンの話は、予想外の内容だった。

 

30年前に脱サラして演劇の道に飛び込んだはいいが、公演する舞台は不評に次ぐ不評。やがては役者たちも、彼の劇に出ることを恥に思い、何も告げずに逃げ出したのだという。

 

「夢を追う私に、妻は愛想を尽くし出ていきました…。私に残された道はもうこれしかないというのにっ!本当にありがとうございます!!」

 

「礼を言うトコ間違ってるよ…」

 

口癖なのだろうか、やけにお礼の言葉を告げるラビアン。深刻なはずなのにそのお礼のせいであまり危機感が感じられない。シエルは同情しながらもツッコまずにはいられなかった。

 

「そういう訳で、折角来てくださったのですが、舞台は中止なのです!ありがとうございます!」

 

遠のいた客足を戻すために依頼を受けたのに、その依頼をこなす前に公演すらできなくなるとは予想外だった。悔し気に涙を流して叫ぶ彼の姿に、ルーシィは悲しげな表情を浮かべた。しかし、全く違う反応を見せた者が一人いた。

 

「何かと思えばそんなことか」

 

それは鎧に身を纏った女魔導士・エルザ。不敵な声を上げた彼女はそう言うと徐に立ち上がり…。

 

 

 

「役者なら…ここにいるではないか!!」

 

「えーー!?」

「か、輝いてる!!」

「バックに桜が!夏なのに!!」

 

光輝くオーラを身に纏い、目にも輝きを宿し、堂々とした様子で主張を始めた。シエルの言うとおり幻覚なのだろうか、桜が舞い散る背景が見えている。カレンダーには21th August(8月21日)と書かれているように夏どころかもう少ししたら秋になる日付にも関わらず。

 

そしてその張り切りようを見せるかのように「あーえーいーうーえーおーあーおー」と発声練習さえ始めてみせる。この妖精女王(ティターニア)、舞台役者をやる気満々である。

 

「まあ確かに…何か面白そうかも!」

 

「実は俺も、舞台役者っていつかやれたらいいな、って思ってたんだ!」

 

エルザに触発されたのか、ルーシィとシエルも乗り気のようだ。特にシエルはエルザほどではないが、目がいつもよりも輝いているように見える。

 

「オレもか?火を吐く野菜と火を吐く果物…どっちかだったら出来そうだが…」

 

「そんな役絶対ないよ」

 

一方のナツは困惑気味のようだ。役者どころか演技すら経験がない彼はとりあえず自分の特技である火を吐く役を立候補するものの、現実的に見たことも聞いたことも無い役柄を聞いた相棒(ハッピー)に却下された。

 

「あんたの夢は、こんなところじゃ終わらせねぇよ」

 

「み、みなさん…!」

 

協力する意思を見せる一同。そして最後のグレイの言葉。ラビアンは自らのために惜しみなく力を貸してくれる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の様子に涙を浮かべて感謝を…。

 

 

 

「まあ…やらせてやってもいいかな…。チッ、素人か…」

 

「そこは『ありがとう』って言わねえんだ…」

 

示さなかった。本来お礼を言うべき状況のはずなのに、急に態度が大きくなって悪態すらついている。未だに発声練習をしているエルザを除いた全員の心の声を、グレイが代弁した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

公演までの一週間。彼らは大忙しだった。

 

まずは台本。ジャンルは冒険活劇。小説家志望であるルーシィが一度確認したのだが、その内容はあまりに酷かった。どこが、と言うと長くなりそうなので割愛する。役者が逃げ出した原因が一つ発覚したような気がしたが、ルーシィは口に出さなかった。

 

今から直そうとすると時間があまりになさすぎるので、半分自棄で台本の変更はなし。配役もすぐさま決定し、台本を持っての稽古。一番乗り気だったエルザの完璧に役に入ったような演技力に触発されて、ナツもグレイもやる気を増していく。

 

稽古の合間には、ビラを作って配り、セットの制作も行い、台本のセリフも覚えたりとそれは大変だった。しかし、最初に依頼を受けたルーシィを始めとして、全員がやる気に満ちていたことが少し面白かったと、ルーシィは心で感じていた。

 

 

ちなみに本番当日、応援団としてマスターのマカロフや、ミラジェーンを始めとして最強チームと面識のある者たちがこぞってやってきたのだが…他の顔触れと言うのが、ナツが半壊させて港町ハルジオンにて殴られたことで改心した偽火竜(サラマンダー)ことボラ。ガルナ島の村に住む、人間に変身する魔法を使える悪魔たちからの代表として村長のモカと、村人の一人である女性ルル。エルザがガルナ島へと向かうために制圧した海賊船の船長。元幽鬼の支配者(ファントムロード)の魔導士でボラ同様ナツによって改心したボーズと言う男とスーと言う女。

 

誰も彼もがキャラが濃いと言うかツッコミどころ満載な顔触れ。特に意味が分からなかったのはモカ村長。「いつになったら月を壊してくれるんですかな?」と、わざわざ本来の悪魔の姿に戻ってルーシィに対して圧をかけていた。ガルナ島で何があった?と言うか、ひとまず言いたいことをシエルは思わず叫んだ。

 

「ほとんど俺が知らない人ばっか!!」

 

最強チームに誘われて加わったというのに謎の疎外感を味わう羽目になった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

そしてとうとう公演の時間がやって来た。観客席はほぼ満員。今まで不評続きだった劇団が心機一転の意志を見せたことと、ビラ配りを行ったハッピーの(エーラ)のおかげで遠い所まで情報が渡ったことが幸いした。

 

「おお…!こんなに客が入るなんて初めてですよ。ありがとうございます」

 

「キャーーー♪リラもこんな大勢の前で歌うの初めて~~!!」

 

今までにない観客の数にいつものようにお礼の言葉が出るラビアン。それに呼応するように緊張と歓喜の声を上げたのはルーシィが契約している星霊の一体、『琴座のリラ』。先をカールで巻いた明るい茶色の長い髪に、ピンク色の頭巾と、背中の天使の羽飾りが特徴的な女性の星霊だ。舞台裏で観客席の様子を見ていた彼らも準備は万全だ。後は成功させるだけ。これまでの稽古の成果を見せる時。一同は各々意気込みを示した。

 

 

そしてブザーの音と主に劇場内の照明が落とされる。開始の合図だ。雑談に興じていた観客たちも、これから始まる演劇に集中するために口を閉じる。そして、程なくして流れるように鳴り響く琴の音色と共に、語り部も兼任するリラの歌が始まった。

 

―――遠い~遠い~昔の事~♪

 

綺麗な琴の音色と共に紡がれるリラの美しい歌声に、一気に会場はうっとりとした雰囲気に包まれる。特別席に案内されたマカロフを始めとしたマスターたち、及び彼の旧知の仲である評議員のヤジマも、その声に感嘆の声を上げている。

 

―――西国の王子は~敵国の姫に~恋をした~♪

 

歌と共に証明が舞台の中央を照らすと、そこに現れたのは緋色の髪を後ろに束ね、華美な服装に身を包んだ、西国の王子(エルザ)の姿があった。元より凛とした顔立ちに整った容姿をしたエルザの男装姿に、男性よりも女性の黄色い声が上がる。

 

「…っ…わ…わ、わ……わが…なっ…我が名、は…っ…!!」

 

右手を高々く上げて最初のセリフを告げようとする王子(エルザ)…だが、何か様子がおかしい。稽古の時にはしっかりと役には言って堂々とした演技をしていたのに、挙動不審と言う言葉が似合うほどに緊張している。舞台裏で出番を待つ一同はその様子にハラハラしだした。本番に弱いタイプのようだ。

 

「フ、フレッ、フレデリック…!ひ、ひひ姫、た、たったたた、助け…に…!…ました…!!」

 

あまりにガチガチな様子にさすがの観客も気づいたようだ。一部の者は凛々しさの中のギャップに「可愛い」と言う声を上げている者もいるが、思っていたものとの違いに困惑している者の方が多い。そしてエルザはと言うとあまりの緊張に上手く呼吸ができていないようだ。

 

「エルザが故障してるよ~!」

 

「どうするんだ?」

 

ハッピーとグレイが見たことのないエルザのテンパり様に思わずルーシィに問いかけた。今のエルザの芝居はほとんど予測がつかない。台本通りに進めるには無理があるだろう。ならば打てる手は一つ。

 

「こうなったら、どんな手を使ってでも誤魔化すしかないわ!」

 

「俺もアドリブで何とか誤魔化してみる」

 

本来の台本には書かれていない芝居を行って展開の修正やアレンジを加える技術・アドリブを使って乗り切ること。次の出番はシエルだ。彼のフォロー次第で何とか展開を戻すことができるかもしれない。そして王子(エルザ)の後方の幕から、騎士のような鎧姿となった少年が舞台に立った。

 

「フレデリック王子!ヤンデリカ姫が攫われ囚われの身となり、この死の山へと助けに向かって幾数日。とうとうここまで来れましたな…!」

 

エルザが緊張してどういう状況かも掴めなかった観客への説明も兼ねて即興で考えた台詞をシエルは叫ぶ。これによってようやく観客も今、どういう話なのかが理解したのだが、あちこちで「姫、捕まってたの!?」という驚きの声が上がっている。

 

「このレイモン、フレデリック王子が愛する姫君を救うために命を懸けるというのなら、私もお二人のためにこの命を捧げる所存です」

 

腰に佩いた模造の剣を引き抜いて掲げながら堂々とレイモン(シエル)は告げる。実はこのセリフ、一切台本には記されていない内容である。それどころか、台本にこの『レイモン』なる騎士は、存在こそしているものの、セリフは一切ない、王子の後ろを付いていくだけのお付きの騎士と言う存在だ。それなのにやけにそれらしくセリフを告げるレイモン(シエル)の様子に舞台裏のグレイは感心を通り越して若干引いていた。

 

「お、おお…!わ、わた、私には…じ、じじ10のつる…ぎ、が…!」

 

「(エルザ!!?)」

 

しかし、剣を上に掲げるレイモン(シエル)を見て勘違いしたのか、フレデリック(エルザ)はセリフを大幅に飛ばしてしまう。しかもそれだけでなく、換装魔法で10の剣を本当に顕現させ、本来向けるべき相手ではなく観客席の方へと飛ばしてしまう。無論それに観客は絶叫。思わぬところで命の危険を感じることになってしまった。

 

「…な、成程!どのような敵が現れようと、あの10の剣の餌食としてやる!そう言いたかったのですね!?」

 

「(今更だけど配役逆にした方が良かったのかも…)」

 

同じように演劇に憧れを抱いていたはずの二人の正反対なスペックに、出番に備えて準備をしていたルーシィが心の中で呟いた。どうやったらそんな台詞を即興で思いつくのか…。そんなことを考えていると、ルーシィはこちらに目線を向けているレイモン(シエル)に気付く。

 

「(俺にできるのは今はここまでだ…。後は頼むよ、ルーシィ)」

 

そんな声が聞こえそうなアイコンタクトに、ルーシィは首肯する。そして、彼女の出番が来た。舞台の上からロープで吊るされる格好で舞台に上がる。桃色のドレスを纏ったヤンデリカ(ルーシィ)である。

 

「ああ…助けてくださいフレデリック様…!わたしは()()セインハルトに捕まってしまったのです…」

 

「あの…って言われても…」

「誰だ…!?」

 

演技力は問題ないが、唐突に現れた『セインハルト』と言う名前に観客は再び困惑の声が上がる。この後出てくるのだろうか?と考えていると、右の舞台袖から貴族風の衣装を身に纏った男が現れる。彼こそがセインハルト…

 

「我が名はジュリオス!姫を返してほしくば、私と勝負したまえ!」

 

「お前も誰だーー!!」

「セインハルトはどうなったんだ!?」

 

ではなく、ジュリオス(グレイ)だ。突如として名前だけ現れたと思ったら消えたセインハルトと、何の脈絡もなく出てきたジュリオスに観客の混乱はより一層深まる。

 

「くらえ!氷の剣!!」

 

しかし、その混乱も収まる程の見事な演出が繰り出された。氷の造形魔法によって作られた完成度の高い剣を一瞬で造り出したことによって、観客からは歓声が上がる。

 

「な、何の…!わ、私、には…10の剣…が…ァる…!!」

 

今度こそ正しいセリフを告げ、換装魔法で現れた10本の剣がジュリオス(グレイ)の足元目掛けて高速で飛んでいく。

 

「どわぁあっ!?お助け~!!」

 

「弱ーー!!」

「逃げんなー!!」

 

次々と突き刺さった剣を見て怖気づいたジュリオス(グレイ)はそのまま舞台袖へと逃げていった。その様子に観客たちは一様に大爆笑。冒険活劇…とは違うような気はするが、受けは良さそうだ。

 

「王子!お見事でございました!」

 

「フレデリック様、ありがとうございます!」

 

拍手をすることで王子を讃えるレイモン(シエル)と、拘束を解かれてフレデリック(エルザ)に一礼をするヤンデリカ(ルーシィ)。そんな彼女に王子は跪いて手を差し伸べたかと思うと…。

 

「ヤ、ヤンデリカ姫…たくさん、子供を作りましょう…30人くらいぃ…!」

 

「気が早ぇよ!」

「つか意味分かんねぇ!」

 

これも緊張のせいでセリフを間違えたものだと思いたいのだが、残念なことに台本通りである。読んだ時から思ったがどうしてこんな展開にしたのか、と顔には出さないがレイモン(シエル)は思わずにいられなかった。

 

「束の間の平和も、それまででござる!」

 

「ジュリオス戻ってきた!」

「何だよ『ござる』って!」

 

もうツッコむだけでも精一杯だが、ジュリオスにはまだとっておきが残っていた。先程の情けない姿と打って変わって堂々とした声で宣言する。

 

「これで終わりだ!出でよ、我が(しもべ)のドラゴンよ!!」

 

そのセリフと共に地響きが起こり出す。さらに、動いているのはジュリオス(グレイ)だけでなくレイモン(シエル)もだった。観客に見えないように後ろに手を回して曇天(クラウディ)落雷(サンダー)を発動。舞台上の一部のみに浮かぶ雲と、微量な雷が現れたことにより、観客たちの目は釘付けとなった。さらには後方にあった山のセットが割れるように左右それぞれに開いていく。そしてそこから現れたのは…!

 

「やっと出番かぁああっ!!ぐおおおおっ!!ぐぉがぁああああっ!!!」

 

巨大なドラゴンを模した着ぐるみを着て、ドラゴンの口から顔を出したナツが、炎を吐きながら飛んできた。ちなみに飛べているのは着ぐるみに着けられた糸に繋がった取っ手を持ちながら(エーラ)で浮遊している黒子姿のハッピーのおかげである。

 

空中を浮遊しながら炎を吐き続けるドラゴン(ナツ)の登場に、彼をを知る者は目を輝かせ、観客たちは迫力のあるドラゴン(ナツ)を前にどよめいている。

 

「オレ様は全てを破壊するぅ、ドラゴンだぁあ!!」

 

巨大な体と迫りくる炎を目の当たりにし、演技であることも一瞬忘れかけたが、役者たちは台本通りに事を進めていく。

 

「な、なんて凶暴な奴だ…!」

 

「こうなったら、手を組むしかない!」

 

「オ、オウ…それは、頼も…しい…!」

 

「お前が呼んだんだろーが!!」

「どういう展開だぁーー!!」

 

まさかの共闘である。ドラゴンの力はそれほど強大だった、と言えば聞こえはいいが、自分で呼んでおいて手に負えなくなって敵と共闘とはどういうことだと、観客からブーイングに近い声が上がる。

 

「私があいつを足止めします!みなさんは逃げてください!!」

 

「オイオイ何言ってんだ姫ーー!?」

 

そこで動いたのはヤンデリカ姫(ルーシィ)。本来助けられる立場にいたはずの姫がドラゴンを足止めするというまさかの主張。助ける対象である姫君を置いて逃げるなどできる筈はない。

 

「た、助かったぞー…!」

「オウ!」

 

『逃げるんかーい!!!』

 

だと言うのに三人はさっさと逃げ出して舞台袖へと引いていった。レイモン(シエル)に至ってはこの期に及んでセリフなしを主張するかのように無言で。どういっても言い訳にしか聞こえそうにもなかった、と後に語ることになる。

 

だが、観客からの反応はあまりいいものではなかった。所々の演出はよかったのに、度々違和感を感じる…と言うよりツッコミどころ満載の展開。一部を除いて評価はあまり高いものではなくなるだろう。

 

 

この後の事件が無ければ…。

 

「ぐ、ぐぅ…!重いぃ…!!」

 

事の発端はハッピーだった。普段人間一人分を持つことなら問題ない彼だが、今のナツはドラゴンを模した巨大な着ぐるみの中。その分の重さがかかってしまい、維持することが難しい。何とかこらえようと頑張ってはいたが、ついには耐えきれず…。

 

「あ!」

 

声を発した時にはすでに手遅れ。手から取っ手が滑り落ちてしまい、それに従ってドラゴン(ナツ)は舞台上へと落下していく。さらには落下先の近くにはヤンデリカ(ルーシィ)がいて、彼女の悲鳴が劇場内に木霊する。

 

だが、誰に求めることはできず、ドラゴン(ナツ)は舞台上に落下。舞台の床やセットの一部を破壊してしまい、轟音と埃が発生する。そして埃が収まるまで口元を覆っていたヤンデリカ(ルーシィ)は違和感に気付いた。後方が何やら熱い…。

 

「キャーーー!!火がぁーー!!」

 

何とヤンデリカ(ルーシィ)が着ているドレスの裾に火が燃え移っていた!当事者である彼女だけでなく舞台袖にいたレイモン(シエル)も予想外だったようで慌てている。

 

「シエル、助けてー!雨!雨ー!」

 

「わ、分かった!」

 

もはや劇どころでは無い。役名ではなく本名で自分を呼ぶルーシィのドレスに向かって、雨の魔力を発射しようと準備する。屋根裏に未だ出ている曇天(クラウディ)を介せば多く降らせられるが、服に燃え移った微かな火を迅速に消すなら、直接撃った方が早いという判断だ…が…。

 

「スコー…りゅっ!?」

 

発動しようとした直前、背中を思い切り押される感覚…否、正確には足蹴にされて踏み台として活用される感覚に襲われ不発に終わる。その犯人はエルザ。剣を片手にシエルの背を踏み台にして跳びながら、ルーシィ目掛けて数回斬り抜く。すると…

 

 

ドレスが、燃え移った部分どころか全て斬り刻まれてしまい、ルーシィの肢体が露わに…ぶっちゃけて言えば全裸になってしまった。会場内に木霊するルーシィの羞恥の悲鳴と観客(主におっさん)の興奮の歓声。思春期であるシエルとグレイは顔を真っ赤に染めながらも目を離せない状態。後方から「ありがとうございます!」と聞こえた気がする。

 

「姫…大丈夫ですカナ?」

 

「下手なくせに役に入りすぎ~!!」

 

着るものが無くなったルーシィを自分がつけていたマントで隠すエルザ。所作だけ見れば完璧なのだが、未だに演技力は下手だ。だが、騒動はこれだけに終わらない。

 

「痛ぇえええーーーー!!」

 

落下した衝撃に苦しむナツが炎の出力を増加して、何と観客の方にまで炎が襲い掛かっていく。唐突に起きるアクシデントに観客たちの悲鳴が起きる。

 

「やめねえかナツ!!」

 

「しょ、消火ー!消火ーー!!」

 

暴走するナツを治めようと氷漬けにするグレイ、燃え移った火を掌からの豪雨(スコール)で消そうとして一部観客にまで広げてしまっているシエル。そしてなおも暴れるナツ。三人の様子を見たエルザは、未だ役から抜けられず…。

 

「こ、こここうなったら、全員…成敗いたしス!!」

 

結果、4人の魔法が舞台上でぶつかり合うバトルロワイヤルに近いカオス状態へと変貌した。舞台のセットだけでなく、観客席も、天井も壁も魔法の被害で徐々に壊れていく。

 

「もうめちゃくちゃーーー!!しかも…すごく嫌な予感…!!」

 

ルーシィの予感は的中することになった。会場を収める劇場の外側、石造りの建造物の中心に亀裂が入り始める。その亀裂は新たな罅を産み、更なる亀裂となり、やがて真っ二つに割れるように砕け落ちてしまった。

 

「やっぱりー!!」

 

器用に観客席と舞台の骨組みだけを残し、全て壊れてしまった。ものを壊す心配のない仕事として受けたはずなのに、やはり何かを壊さないと気が済まないのかこのチーム…。そんな悲しみを抱きながらルーシィは涙を流したが、観客席から上がったのは大音量の歓声だった。

 

呆気にとられたルーシィが振り向くと、みんなが一様に笑顔を浮かべて歓声を上げ、中には未だに笑いが収まらない者、主人公であるフレデリック(エルザ)に黄色い声をかける者、迫力のある舞台公演となったことで、観客たちは予想外の盛り上がりを見せていた。ルーシィ以外のメンバーはそれに気づかず、暴れるナツとエルザ、止めようとするグレイとシエルで、未だに混戦状態が続けている。

 

しかし、観客たちの笑顔を見たルーシィは、つられるように輝くような笑顔を浮かべていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

それから一週間後―――。

 

劇場が崩れたシェラザード劇団は仮設の舞台をテントで作り、営業を続けていた。注目の演目は『フレデリックとヤンデリカ』。初日の大ヒット以降、衰えることのない人気を博していた。

 

「まさかこんなに大ヒットするとはよォ。大根役者の癖してやるじゃねーか」

 

心底嬉しそうな表情とは裏腹に、態度の大きい口調を放つのは座長ラビアン。彼も初日に想像以上の成果を出した公演に感動したのだが…。

 

「オイ…いい加減報酬よこせや…!!」

「一日3公演はキチすぎんぞ…!!」

 

以前の役者たちが逃げた一番の理由がようやく分かった。ラビアン(こいつ)、ブラック企業の社長タイプだ。丸々一週間休ませずに一日3公演をやらせるこの本性についていけなくなったのだと…。

 

「グズがぁ!とっとと準備せんかぁ!!」

 

「キャラ、変わってるし…」

「イケマセンオウジ…ヤンデリカヒメハ、ダイコンデハゴザイマセン…」

「あーあーあー!」

 

ナツたちも重症だが一番ひどいのはシエルだ。演技で一番ポンコツであるエルザのアドリブフォローに毎回苦しめられ、今も尚演劇中の場面が脳内に広がっている。

 

そして唯一元気に発声練習をしているのが、よりによってそのエルザと言う現実…。

 

「早く…早く帰りた~~い…!!」

 

未だに発声練習をして張り切っているエルザを除いて全員がこう思っただろう…。

 

 

 

―――二度とラビアン(こいつ)からの依頼は受けない…!

 

 




おまけ風次回予告

ナツ「なあなあ、シエルとルーシィって結構一緒にいること多いよな?」

シエル「言われてみれば…そうだね。星霊魔導士だし、本好きは一緒だし、あと揶揄ったり悪戯すると面白い反応みせてくれるから、一緒にいると楽しいよ?」

ナツ「あ~、あいつ揶揄いやすい性格してるもんな~!ハッピーもよくそんなことしてるぜ。あ、そうだ!もし二人がコンビで仕事すんなら、良いこと思いついたぞ!!」

シエル「コンビ?良い事ってどんなこと?」

次回『異色のコンビ?シエルーシィ!』

ナツ「ってのはどうだ!?」

シエル「…それもしかして、コンビの名前?名前繋げただけじゃん!!」

ナツ「でもなんかいい感じだろ?」

シエル「どこが!?語呂?語呂なのか!!?」
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