今回は一から考えたオリジナル回。この回での評価次第で今後同様のオリジナルを所々挟むか否かが決まってきます!←?
「あれ?この依頼書…」
シェラザード劇団からの依頼を(大分期間が延ばされたが)達成し、疲労から一日休んだうえで再びギルドへと足を運んだルーシィ。今月分の家賃を払うことはできたが、油断していると次の分の家賃が払えなくなることを危惧し、早めに行動に移そうと考えて
「『指名依頼』…?『
指名依頼と言うのは、読んで字の如く。依頼者がどのギルドに属するどの魔導士に依頼をお願いしたいという意思を表しており、以前依頼を受けた魔導士の評判がよかったり、世間での魔導士の名が有名だったり、扱う魔法に適性が高かったりと理由は様々ではあるが、依頼者の方から魔導士を名指しで選んで受けてもらう者を呼べるシステムだ。
依頼内容にもよるが、基本この指名依頼で指名された魔導士は世間や依頼者に認められているという認識も兼ねてあり、断ることも無いのだという。
「あ、でもそっか…シエルの魔法って色んな場面で重宝されるもんね…」
「ついにシエルも指名されるほどになっちまったか~。時の流れって早いもんだな…」
ルーシィの呟きに返事するようにぼやいたのはいつものように
「あたしが言う事じゃないかもしれないけどさ、ナブも早く仕事選んだら…?」
「う、うるせぇな…!オレは、オレにしかできない仕事を探しているだけなんだよ…」
図星を突いてきたルーシィから目を背けて腕を組みながら、カッコつけるように発するナブ。その言葉を主張して一体どれほどの時間が過ぎてきたのだろうか。付き合いが短いルーシィでさえ、「こうやって今までも依頼に行かなかったんだろうなぁ…」と言いたげな半目を向けている。
「へぇ~、『村の畑を荒らす害獣退治』か。動物に関する魔法の使い手がいれば、効率よさそうだな~」
すると、ルーシィの背後に忍び寄っていたであろう、話題に出ていたシエルが現れ、思わずルーシィは小さく悲鳴を上げた。そして彼が視線を向けた先にいるナブも突如現れた少年に驚き目を見開いている。
「ナブ、どうせだったらこの仕事一緒に行かない?同行メンバーの有無は問わずって書いてあるし」
少年に向けて本来かける言葉ではないが可愛らしい顔立ちに、それと反した悪戯をする笑みを浮かべながら告げたシエルの言葉に、ルーシィは反射的に依頼書に再び目を向けた。確かに彼の言う通り「なお、希望者への同行の有無は問わない」と書かれており、シエルがメンバーに加わっているならば誰が同行しても問題はない、と言う意味を示していた。
そしてもう一つ補足しておくと、ナブが扱う魔法は『セイズ魔法』と呼ばれる魂の憑依を主とした魔法。その中でも『動物憑き』と言う動物の霊を己に憑依させて、その動物の力を扱えるようにできる、と言うものである。今回シエルが指名された依頼は害獣退治。獣に精通しているナブなら活躍できるだろう、とシエルは主張しているのだ。
「え!?…あ、いや、その依頼はシエルに指名が来てるんだろ?お、オレが出るまでもねぇよ、うん」
しかしやっぱり彼は行く意思を見せなかった。逃げるようにして
「ところで、あんたこの依頼行くのよね?」
「そりゃ勿論。それにこの依頼人、前にも依頼に行ったことがある村みたいだし」
ルーシィの質問に答えながらシエルは思い出していた。過去に依頼で向かったことのある村の村長から、再びシエル宛に依頼を出したことを。当時の依頼内容は干上がった畑を水の魔法で潤してほしいという依頼だった。
「あたしも依頼行かないとな~。早めにやっておかないとまた家賃払えなくなりそう…」
シエルは指名が入るために問題はないだろう。だが自分は積極的に依頼を受けておかないとすぐに金欠を起こしかねない。報酬額の高い討伐系の依頼に行くとしても、一人で行くには不安が募るし、最強チームの面々と行くと周りへの被害が多く、報酬額を減らされる。手間ではあるが、コツコツと貯めていくしかないのだ。若干消沈しながら再び
「じゃあ、俺と一緒に行く?」
「…へ?」
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フィオーレ王国の北西部。マグノリアからの距離も相当離れたとある山奥に、その村は存在していた。規模はそれほど大きくなく、村民のほとんどは自給自足で生活をしており、村に中にいくつもある畑と、川を下った先に住む魚、それに加えて近くの町で物々交換をすることで成り立っている。
そんな村に向けて、最寄り駅から徒歩で移動している人影が二つ。水色がかった銀色の短い髪に、左目の上部分に金のメッシュが一筋入った少年シエルと、金色の髪をサイドテールに纏めた少女ルーシィ。
「結構離れたところにあるのね…。ほとんど山道しか続いていない…」
「それのおかげ、って言うのもあれだけど、自然は豊かでしょ?ほら、あそことか」
疲れからか項垂れた様子のルーシィに対して疲労の色も見せないシエルが右手で指した先には穏やかに流れる清流が見える。まさに自然の一部分とも言える光景に、少しばかりではあるが、ルーシィの疲れも和らいだ気がする。心に少し余裕が生まれたからかルーシィはふと気になったことをシエルに聞いた。
「そう言えば、シエルって前にもここに来たことあるって言ってたわよね?」
「そうだけど…それが?」
「それっていつの事の話なの?あんたってあたしがここに来る少し前にギルドに加入したって聞いてたけど…」
今回の指名依頼の話をしていた時、ルーシィは彼から聞いた話が疑問だったのだ。いや、今思えば今までのシエルに関する話題に関して疑問を抱いていたと言ってもいい。シエルが
「そう言えば話してなかったね。俺、正式にメンバーになったのは確かに最近だけど、それより前には一応ギルドに在籍している扱いだったんだ」
「どういう事?」
「
試用期間なんてものがあったのか、と真っ先にルーシィの頭にその言葉が浮かんだが、恐らくシエルにしかつけられていないような特殊な措置だろう。正式に依頼が達成できるのか否かを確かめるために、必ず他のメンバーを同行者に入れることを条件にギルドに籍を入れていたそうだ。どんなことが起きれば、どんなことを起こせばそんな措置が与えられるのかは疑問であったが、それに関しては聞くには聞けなかった。ちなみに今回依頼してきた村へ過去に依頼に行ったのは半年ほど前らしい。
「俺が最初に
「そっか…ようやくシエルの事について理解できたような気がするわ」
そんな話も交えながら二人は村まで辿り着いた。長い道中であったにもかかわらず、雑談をしていればあっという間なのだから不思議なものである。
村に入って二人を出迎えたのは依頼主である村長だ。シエルより少し高めの背丈に白髪に染まった短い頭髪と、少しだけ蓄えられた髭が好々爺と言う印象を与えてくる。彼は柔和な笑みを浮かべながら二人に向かって深々と頭を下げている。
「これはシエル殿、お久しぶりでございます。お待ちしておりました」
「こちらこそお久しぶりです」
「そちらの方は、
「あ、はい、ルーシィです。よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに早速村長は二人を村の中へと招き入れる。裕福と言うわけではないが、大人たちは畑作業や建物の修繕と言った仕事を。子供たちは元気に村の中を走り回っている。平和な光景だ。しかし、ここに依頼として呼ばれたように、確かな問題が発生しているのだ。
「こちらが、その畑でございます…」
村長の案内で導かれた二人の目に映った広大な畑は酷い有様だった。作物のほとんどは食い荒らされ、獣除けの柵も意味を為さないかのように壊されている。畑の中には足跡も残っており、小さい成長途中と思われる野菜が踏み荒らされている。
以前シエルが依頼に来た際に雨の魔法をしばらく定期的に降らせるようにしたおかげで、土が潤い豊作を望めたはずなのにそれを嘲笑うような所業である。村側も落胆の声を上げていたらしい。
「こんなに広い畑を…その害獣ってどれだけの規模なんですか?」
ここまで広大な畑を荒らせてしまうほどの群れ、となると一朝一夕ではいかない可能性がある、と考えたルーシィがその規模がどれほどなのかを問いかける。だが、村長からの返答は予想外のものだった。
「それが…その害獣は1体しか確認できていないのです」
「たったの1体!!?」
驚愕の声をあげたのはルーシィ。無理もないだろう。広大に広がる畑を荒らしたのがたった1体の生き物であることが想像できただろうか。しかしシエルは畑の様子を凝視して、その事実を予測できていた。
「柵が壊れている個所は二つ。それも一つは内側、もう一つは外側に木片が散らばっている。畑の中の足跡も、バラバラに見えるけど、よく見ると地繋ぎになっている。相当でかい個体の可能性が高いな…」
「はい、その通りです…」
持ち前の観察眼による賜物か、巨体を持つ1体と言う予測は見事に当たっていた。それを聞いたルーシィはただただ開いた口が塞がらず、「小説のネタ、推理のシーンも考えてみようかしら…」なんてことを考えていたが気づく者は誰もいなかった。
「普段はさらに山の奥に生息しているらしいのですが、あまりの暴れぶりにもはや我々には手が付けられず…」
「ギルドの魔導士である俺たちに依頼をした、と…」
首肯しながら力のない返事で返した村長の様子、そして遠目から不安げな表情でこちらを見る村人たち。その様子に気付いたルーシィは村長に向けて「大丈夫です!」と声を張る。これは自分たちがやらなければ。そんな使命感にも似た感情が今彼女の中にあった。
「あたしたちが絶対、その害獣を退治して村を助けてみせます!」
力強い主張と共に、彼女は右手の甲に桃色で刻まれた
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「さてルーシィ?村の人たちに堂々と告げて来ちゃったけど、当てはあるの?」
奥に入ってから少し経った後、シエルに尋ねられたルーシィは、元から大きい胸を張って自信ありげな様子で笑みを浮かべる。
「大丈夫よ!今回の害獣って、身体が大きくて力の強い奴が1体だけでしょ?なら、こっちも力自慢で対抗する!!」
そう言って彼女が取り出したのは、星霊魔導士にとって絶対に欠かせない召喚用の鍵。その中でも先が両側に刃がついている斧の形をした金色の鍵。それを目にした瞬間、どこか揶揄うような表情だったシエルの表情が「お?」と言う声と共に期待を抱いたものに変わる。
「開け!金牛宮の扉!『タウロス』!!」
鍵を掲げて召喚の口上に答えて現れたのは金牛宮と言う名称に違わぬホルスタイン模様の顔と体皮。だがその身体は筋骨隆々としており、後ろに担いだ大振りの両刃斧がその星霊が力自慢であることを現している。
牡牛座の星霊・タウロス。ルーシィが契約している黄道十二門の一体である彼は「
「おおーー!!牡牛座のタウロスだーー!!確かにタウロスは星霊の中でもトップクラスのパワーがあるって書いてあった!」
「ね?今回にはうってつけだと思ったのよ!」
目を輝かせながら、現れた新たな黄道十二門に眼差しを送るシエルの姿に彼女も得意気だ。星霊に憧れを抱くシエルとしてはやはり注目せざるを得ないのだろう。だが、ルーシィは忘れていた。このタウロスと言う星霊にある、一つの欠点を…。
「ルーシィさん!今日もナイスバディですなー!!」
「ちょっと!せめて今日は控えてよ!イメージ壊しちゃう!!」
目を分かりやすくハートに染めてルーシィ(の身体)を凝視しながら告げた言葉に、慌ててルーシィは彼を止めようとする。この星霊・タウロスは非常にスケベであり、事あるごとに彼女に対してセクハラ紛いの発言をすることが多い。しかもこれはルーシィに限らず、基本豊満な胸部と引き締まった腹部を持つ女性が多いこの世界において、そんなスタイルのいい女性を見つけてはメロメロになる程である。
そんな欠点をすっかり失念していたルーシィは目の前で呆けた様子のシエルを目にし、自分の失態に気付いた。星霊に憧れを抱く彼のイメージを壊してしまった経験が一度あったことで、再び悲劇を起こしてしまった、と後悔していた彼女であったが…。
「あ、何で肌がホルスタインなのかと思ったら、そういう事か。ある意味で乳への執着…」
「あれ?何か納得してる?」と思わず心で呟いた。合点がいったように右手を握って左掌に軽く叩くと同時に呟いたシエルの様子に今度はルーシィが呆けた。取りあえず前回のバルゴのような事件とはならなかったようだが、今度自分が契約している星霊を紹介してあげた方がいいかもしれない、と彼女は心に決めた。
あ、約一名(水瓶座の彼女)はまた違う機会で…。
「ところで、今回はどんな用で?」
「あ、そうだった。今回はね…」
ルーシィはシエルと交えて今回の依頼に関して説明をした。どんな害獣かはまだその目で見たわけではないが、畑の荒れ具合から察した巨体と破壊力を鑑みて、力自慢のタウロスを召喚したことも踏まえて。
「なるほど、それなら
左の拳を胸に当てながら自信満々と言った様子のタウロスに二人にも笑顔が浮かぶ。あとは例の害獣を見つけて退治するのみ。どこにいるのか探す必要があるのでまずは捜索から始めようとした
「何?この音…?」
「…地響き…?」
「のようですな…」
徐々にその音は大きくなっていき、近づいてくる。全員が既にその正体を感づいていた。例の害獣だと。そしてその姿は程なくして彼らの前に現れた。
全体的に赤い体皮、大きな瘤がついて突き出された鼻、その下にある多くの鋭い歯が並ぶ口に、そこから外に突き出すほどに伸びた立派な牙、更に目の上から生えたのは牙に勝るとも劣らずの角。しっかりとした4本の足を交互に前へと向かうために地を蹴りながら突き進んでくるその獣の姿は…。
「イノシシ!?」
「しか
「あ、あれは!!」
赤いイノシシは眼下に見えた三つの人影も気にせずそのまま押しとおろうと突進しようとしてくる。対する魔導士たちは反応するや否やタウロスのパワーで止めるためにその場を退避。そして唯一正面に立つタウロスは背負っていた斧を手に持ち、イノシシ目掛けて振りかざそうとする。
「先手必勝!
しかし、タウロスが振りかぶった斧は直前で進路を変更したイノシシをすり抜けてしまった。「
「シエル、危ない!」
イノシシが迫ってくる光景を目にして、彼は焦る様子もなく、それを引き付ける。そしてギリギリまで寄せてきたところを横に飛んで躱し、イノシシの頭と後ろにあった木を激突させる。だが、イノシシは無傷、木の方は衝撃に耐えられずぶつけられた方向へと折れた部分から倒れていく。
あまりの威力に戦慄するルーシィだが、シエルは突如手に持っていた荷物袋の中を漁り始める。何か鼻を動かしながら、そのイノシシは再びシエルの方へと目を向け、彼の方へと突進を再開する。「何でシエルだけ!?」と言うルーシィの声を尻目に、シエルはようやく目当てのものを袋から取り出した。それを斜面の上へと徐に投げ…。
「
小さい雲にそれを乗せると斜面に沿って上昇を続けていく。するとイノシシの目はシエルから外れ、今しがた彼が投げたあるものが乗る雲に向けて走り出した。イノシシの姿が見えなくなったところで、ようやく一同は一息つくことができた。
「害獣って、イノシシのことだったのね…」
「ただのイノシシじゃないよ、あれは…」
シエルの言葉にルーシィは思わず反応した。たしかに毛皮は赤く、角もついていて、極めつけは他とは比べ物にならない程の巨体だ。ただのイノシシとは違うだろう。しかし、シエルの口から出たのはそういう事ではなかった。
「間違いなくあれは…『ビショックイノシシ』だ!!」
「…え、と…何それ…?」
何故か目を輝かせて頬を上気させながら興奮する少年の姿と聞き馴染みのない名前にルーシィは二重の意味で困惑した。
『ビショックイノシシ』。このイノシシはなぜか、他の餌よりも質や味のいい食材を嗅ぎ分ける力があり、それを好んで食するそうだ。野菜や果物から、他の動物の肉まで、味が良ければ種別は問わない雑食系。先程シエルが持っていたのは非常食として持ってきていた、彼自身が作った干し肉。ビショックイノシシがタウロスに目もくれずシエルを狙いに行ったのは、彼の荷物袋に入っている干し肉が目当てだったというわけだ。
「今回畑を荒らした原因も、恐らく山の中にある食材より、あの村で作られたものの方が味が良かったから、だと考えるのが自然だな」
「あ、そっか。そうじゃなかったら山にある果物とかもほとんど減ってるはずよね…」
ここまで来る道中でも果物や野菜を見かける機会は多かった。なのに何故畑だけが荒らされていたのか。答えは単純、害獣自身の好みだった。しかし村にとっては傍迷惑な話である。早いところ退治する必要がある、とルーシィが言うがシエルには別の事も頭に浮かんでいた。
「ビショックイノシシの特徴はもう一つある。幼体の時から鼻と舌が肥えて質のいいものばかりを食った、要はセレブな種類。しかもあの大きさは軽く数十年は生きている希少な存在。
ずばり!そのイノシシ自身も、最高級の食材となれるという事!!」
「食べれるの!?あのイノシシ!!」
一応イノシシの肉を食べる習慣が存在する地域はあるが、先程の凶暴とも言えるあの様子を目にしたばかりではそんな食欲は湧かない様な気がするのだが、肉が何よりも好物であるシエルにとっては些末な問題。
今回の害獣退治、村を救えて、村人にも感謝され、おまけに最高級の肉まで手に入れられるという、一石三鳥の依頼となったと言っても過言ではない。そう主張するシエルに、ルーシィはあまり乗り気ではなさそうだ。
「イノシシを退治…出来るかは別としてそこから食べる、って言うのはちょっとねぇ…」
「ルーシィさんのナイスバディの一部になれるならそれはそれで羨ましいです!」
「黙っててくれる?」
自分の後ろで色々と危ない発言をしている
「ちなみにビショックイノシシって、相場だと通常の奴でさえ2万
「よぉーっし!!ビショックイノシシ、絶!対!退治してやるわよぉー!!!さあ~タウロス!!あんたの自慢のパワーで家賃確…じゃなくて、村の皆のためにイノシシ退治!頑張ろぉー!!」
「え?あ…はい…」
チョロい。
思わずシエルは内心で呟いた。ぼそぼそと呟いたはずの内容をルーシィの耳はしっかりとキャッチし、先程の下がりかけていたやる気は嘘のように一瞬で最高潮にまで上がりきった。あまりの主人の変貌ぶりに軽くタウロスが引いている程にだ。
超高級の肉の味を堪能するため、数か月先までの家賃を確保するため、全く違う目的にシフトチェンジされてしまったにも関わらずやる気に満ちて、山の上の方へと進む二人の人間を、後方からタウロスは反応に困りながら後を追った。
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山の頂上に大分近づいたその位置でビショックイノシシは次なる餌を探し回っていた。己の自慢の鼻はどんな食材の良し悪しも嗅ぎ分けられる。どんな獲物だろうと絶対に逃がしはしないし、それが味のいいものだったら尚更だ。先程の人間が持っていた干し肉も中々いいものだった。即座に投げられて奴らが持っているであろう他の食べ物も逃してしまったのは痛手だが、近場の村にある畑にはまだまだ豊富な餌が残っているはずだ。
畑を一つ分平らげてしまったが何も畑は一つじゃない。他にも上質なものが育っている場所は既に把握している。それをいただいていけばいいだけだ。そんな風に考えながらイノシシは餌を求めてただただ歩く。すると自分の鼻に先程も嗅いだあの干し肉の匂いを感じられた。匂いのもとに直行すると、少しばかり地面がぬかるんだ傾斜の上に、先程干し肉を持っていた少年の姿が映る。そして手に持つものは先程も食べたあの干し肉だ。やはり他にも持っていた。
「お探しのものはここにあるぞ」
挑発気味に軽く上に投げてはキャッチする動作を繰り返しているその少年。イノシシはそんな彼にも目もくれず、彼が手に持つ干し肉のみを視界に入れて全速力で駆け出していく。雨でも降ったのか多少地面はぬかるんでいるが、自分の脚力なら大して問題はないと、突っ切っていく。
「猪突猛進とはよく言うけど…ここらで退散してもらおうか…!」
言葉と共に干し肉を先程よりも高く上げた少年はすかさずその手に小さく光る球を作り出し、イノシシに向けてそれを放った。
「
獣とはいえイノシシにも目があり、視力がある。夜目は効くこともあるが逆の場合は耐性が無い。唐突に許容外の光量を浴びたことによって、イノシシは一時的に目を潰されることになった。そして目の痛みに耐えかねて体勢が崩れたことにより、ぬかるんだ地面に足を取られ、転倒する。そしてさらには水分を含んだ地面と共に傾斜を滑り落ち始めた。
「よし!今だルーシィ!」
「任せて!」
少年の声に反応して茂みから現れたのは彼と一緒にいた少女。タイミングを計って少女は手に持って構えた鞭をイノシシに向けて放つ。すると鞭は彼の立派な牙に巻き付き、縛り上げる。力む声と共に方向を調節して、狙った向きへと行くようにしたら手から鞭を離す。そして最後には。
「頼むわよ!タウロス!」
「
大ぶりの斧を手に持って構える、ホルスタイン牛のような模様の大柄な体躯の星霊。イノシシは視界を潰され、思うように身体も動かせず、自慢の鼻も意味を為さない。それでももがいてこの状況を脱しようとしたが、彼の運命は最初の少年の挑発にかかったことで既に決まっていた。
「今度こそ!
勢い良く振りかぶって繰り出された一撃は、滑り落ちるイノシシの勢いも手伝って、何も身構えられなかったイノシシの脳天を見事に打ち抜いた。その体は大きくふき飛んで、木に激突。やがて、ビショックイノシシは動かなくなった。
「やったーー!!」
「作戦成功!!」
「
傾斜の多い山の特性を利用した作戦。即興で思いついたものではあったが、獣相手には存分に生かせたようだ。確実に動かなくなったことを確認し、その次の瞬間一同は喜びに湧いた。
周りへの被害もほとんどなく、村も健在、そしてその上最高級クラスの食材まで獲得。シエルとの依頼に行ったおかげと言えることなのか、思った以上の収穫だった。ルーシィは今までにないほどの成果に色んな意味で嬉しさが込み上げるのだった。
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「は~、疲れたぁ…!でも、無事に成功できてよかった~!」
その後は討伐したビショックイノシシを村へと持ち帰り、村人からは感謝の言葉の嵐が次々とかけられた。思ったよりも早く対処したうえでここしばらくの収穫も期待できる状態となった謝意を表したいと、一晩だけ泊めてもらった。その時の晩食は本当に豪華だった、と言うしかない。討伐したイノシシの一部を村人が解体し、シエルの指示で村人たちも満足な料理が振舞われた。最初は控えめだったルーシィも、一口食べただけで虜になったのは言うまでもない。
そして残りのイノシシの解体作業も村の方で行い、終わり次第シエル宛で配送してくれるらしい。至れり尽くせりだ。最も村人たちからはこれでも感謝しきれない、と主張していたのだが。そして今二人は復路の長い旅も終えてマグノリアに帰還してきた。
「今回の依頼の報酬、そしてビショックイノシシ。これを加味するとここしばらく先の家賃には困らなくなるんじゃない?」
「本当にそれ!今回はありがとう、シエル!!これでナツとかが同行してたらきっとただじゃ済まなかった気がする…」
少しばかり遠い目を向けながらぼやくルーシィの言葉に、山の中でイノシシ相手に大暴れするナツの光景が頭に浮かんだ。いくら彼でもさすがにあの山奥の中で他に甚大な被害を生み出すような真似は…いや、しそうだ。山火事引き起こして村に文字通り飛び火するとこまでシエルは容易に想像できた。
ギルドの入り口に近づいてきたところで、シエルが独り言に近いぼやきを零し始めた。
「もしまた家賃に困ったら、ペアで行った方がいいかもな…」
「そ、そこまでしなくても大丈夫よ!そりゃあ普段は色々壊してばっかだけど、同じチームなんだからみんなとも一緒にやりたいし、それにハチャメチャだけど、やっぱりあたしはチームのみんなと一緒が…」
「ナツの奴がまーた街を半壊させたじゃとぉおおおおおっ!!?」
ルーシィの言葉は、ギルドの入り口に入ったところで響いたマスター・マカロフの叫びによって遮られ、その次の言葉を口に出すことができなかった。またやったのか、ナツ…。
「……やっぱ…本気でヤバかったらお願いできる…?」
「その方がいいよ、手伝うから…」
どこか泣いているようにも見える彼女の横顔に同情の視線を向けながら、彼女の肩にポン、と手を置く。後に『シエルーシィ』と言う安直なコンビ名をつけられる二人の起点は幕を閉じた。
おまけ風次回予告
シエル「バルゴ、サジタリウス、アクエリアス、タウロス、そしてキャンサー…。12体いるって言う黄道十二門が5体。ルーシィって、もしかしたら世界で一番黄道十二門を所持してる魔導士になるんじゃない?」
ルーシィ「まだまだ!目標は黄道十二門全部揃えてみせる事なんだから!」
シエル「十二門全部か~、結構大きく出たね~!そう言えば、黄道十二門の星霊には、リーダー的存在がいるって話だけど、今誰の星霊なんだろうね…?」
ルーシィ「そう言えば、全然話を聞かないのよね…。どこにいるのかしら…黄道十二門のリーダー…獅子宮のレオ…」
次回『空に戻れない星』
シエル「そう言えば獅子ってライオンの事だよね…。二足歩行のライオンを見つけたら、それがレオってこと!?」
ルーシィ「それは…どう、かしら…?(汗)」