FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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活動報告に夕方ごろと書いていたのに気付いたらどう考えても真夜中になっていました。
お待たせして本当に申し訳ありません…。何で有言実行ができないのかな…?

そう言えばここ一週間で、UA数が2万突破、お気に入り登録数100人突破、評価バーに色がつく、等のめでたい出来事が一気に起こりました。誠にありがとうございます。(某座長風)

今回からついに楽園の塔。結構書きたいシーンはいくつかありますので、頑張りたいと思います。それではどうぞ!


第3章 楽園の塔―呪いの枷に縛られし者―
第23話 アカネビーチ


「星霊だぁ!?」

「ロキが!?」

 

「まあ、そういうこと」

 

復旧作業が未だ続く魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)。そこには、星霊界への帰還が許され、ルーシィと新たに契約した星霊であり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)所属の魔導士でもあったロキが、ナツとグレイ、そしてハッピーに自分の事について話をしていた。大まかな話を終えたロキは、ここ最近の思い詰めたような表情とは打って変わって憑き物が取れたような表情だ。

 

自分が星霊であったこと、消滅しかかっていたところをルーシィとシエルによって助けられたことを簡単にだけ説明した。いきなり言われても実感が湧かないのかナツはいろんな角度からロキを見てみたり匂いで確認しているようだ。言われてみれば他の人間とはどことなく違うような、とか呟いている。ロキと交流が深かったグレイも「全く気付かなかった」と言うあたり、随分と人間界に溶け込んでいたようだ。

 

「でもよ、お前牛でも馬でもねーじゃねーか」

 

「ナツの知ってるバルゴだって、人の姿だろ?」

 

「いや…あいつはゴリラにもなれるんだぞ?」

 

「そう言えばそうだね」

 

「やめてナツ…思い出したくないもの思い出すから…」

 

ルーシィが契約している星霊は大体動物などの特徴が色濃く出ているのに対して、ロキはぱっと見はただの美青年だ。だからこその疑問だったのだが、乙女座の星霊であるバルゴもそれは同じ…という事を話に出すと、ナツがエバルーの屋敷で見た時、そしてシエルにとってはオシバナ駅で見たあの姿を思い出させる一言に、シエルはトラウマが呼び起こされて顔を青ざめた。あれ動物扱いでいいのか?

 

「ロキは獅子宮の星霊よ」

 

「「獅子!?」」

 

獅子と聞いてナツとハッピーがかの百獣の王の姿を思い浮かべる。特に大きく反応したのはネコ科繋がりで共通点のあるハッピーである。

 

「獅子ってあれだよね!大人になったネコ!!」

 

「そうだね」

 

「違う!!」

 

興奮混じりに尋ねたハッピー(ネコ)の質問に笑顔で肯定を返すロキ(獅子)。だが似ているようで全然違う動物たちを同じ括りにしたその肯定にすかさず所有者(ルーシィ)がツッコミを入れる。それを見ていたシエルは、あからさまに悪戯をするときの顔を浮かべると…。

 

「獅子座の星霊はね、普段は人の外見をしてるけど本気を出すときは巨大なライオンの姿になるんだよ?」

 

「おお!?なんかすっげぇ強そうだ!」

「カッコいい~!!」

 

「あんた、そんな適当なことを…」

 

全く聞いたことのない獅子宮のレオの特徴を語って、ナツとハッピーの脳裏に普段つけている青いサングラスをそのままに、巨大な獅子の姿へと変貌して雄叫びを上げるロキのイメージが浮かび上がって、更に興奮が高まらせる。だが勿論これは嘘。星霊について詳しいシエルがナツたちと、ついでにロキを揶揄おうと咄嗟に出た説明である。あっさりとそれを見破ったルーシィが呆れるように溜息をつく中、ロキはそれを否定…

 

「おっとシエル…それは誰も知らなかった真実…」

 

「「ええ!?」」

 

せずに意味深な態度でサングラスを指で上げる仕草と共に告げたロキの一言に、まさかの真実か、と驚愕するシエルとルーシィの声を聞いた瞬間。

 

「だったら面白かったね~」

 

してやったりと言いたげな満面の笑みで続けた彼の言葉に、二人はげんなりとした表情と変わった。ロキの方が数枚上手だったようだ。シエルの表情はどこか悔しげだ。

 

「つーかお前、身体の方は大丈夫なのか?」

 

「まだ完全とは言えないけど、みんなに挨拶したかったからね。それに、ルーシィの顔も早く見たかったし」

 

グレイからの問いに恥ずかしげもなく答えたロキの言葉に、ルーシィは思わず頬を赤く染めた。今まで星霊魔導士と言う理由で避けられていた反面、まっすぐな好意を思わせる発言に彼女自身慣れていないのが一番の理由だろう。そしてそんな反応を見て茶化さないという選択肢が存在しない者が、少なくとも二名。

 

「でぇきてぇるぅ~」

 

「巻き舌風に言うな…!」

 

一名は青猫ハッピー。そしてもう一名は…。

 

「成程、これが噂のどぅえきとぅえるるぅ~~」

 

「乗っかるな!」

 

勿論シエルである。どちらもあからさまにニヤニヤとした表情を隠そうともしないでルーシィ目がけて巻き舌混じりに声をかける。シエルの方はやけにその巻き舌に拍車がかかっており、元祖であるハッピーに「オイラの倍ぐらい巻き舌になってるよぉ」と苦言を与えられるレベルだ。

 

「そういう訳で、二人の今後について話し合おうか」

 

「ああっ!こらこら!!下ろしなさいよ~~!!」

 

流れるようにルーシィを横抱き(俗にいうお姫様だっこ)しながらギルドの外へと連れ出そうとしているロキに、ルーシィは慌てて逃れようとしているが、ロキは全く意に介さない。助けようとする者もおらず、ナツは呑気に「オレも星霊欲しいなぁ」と呟いている。どんな星霊が欲しいのか、興味本位でシエルが尋ねてみると…。

 

「そりゃやっぱり(ドラゴン)だろ!折角覚えた滅竜魔法、本物の(ドラゴン)で試さなきゃ甲斐がねぇもんな!」

 

「力比べが目的で呼び出される星霊が可哀想だわ!つか(ドラゴン)の星霊いね…え、とも限らないか…?」

 

基本星霊は魔導士の助けとなることが目的で契約の元に呼び出されるのに、所有者(オーナー)との力比べ目的で呼び出される前例など聞いたことない。と言うか有ってほしくもない。星霊魔導士のルーシィを差し置いてシエルの激しいツッコミが響く。

 

「その通り。星霊を呼ぶこと。それは愛を語る為に…」

 

「あんたもう帰りなさい…。まだ体調万全じゃないんでしょ?」

 

どさくさに紛れて甘い声で言い寄るロキに対して呆れながらも、彼の身体を気遣い獅子宮の鍵で彼を星霊界に返そうとするルーシィ。それに対して「ちょっと待って」と、コートの中に手を入れてあるものを取り出した。チケットのようで、数は5枚ある。

 

「リゾートホテルのチケットさ。君たちには色々と世話になったし、これあげるから、行っておいでよ」

 

ガールフレンドたちを誘って行こうと思っていたらしいが、人間界に長居する必要がなくなったために、使い道が無くなっていたのだそうだ。そのチケットに書かれている内容を見て、全員の目が見開かれた。

 

「あ、『アカネリゾート』!!?最高級のビーチと規模を持つリゾートじゃん!!」

 

「おおおっ!!?」

「ウパーーー!!!」

「海ー!!!」

「こんな高ェホテル、泊まったことねえぞ!!!」

 

普段であれば絶対手の届かないであろう高級ビーチを擁する最高級リゾートの招待チケットに、各人各様に大盛り上がりを見せる一同。ちなみにエルザにはすでに渡してあるそうで、最強チームの面々全員の手に渡っていることになる。そして噂をすれば影…。

 

「貴様等、何をモタモタしている。置いていかれたいのか」

 

レディース用のアロハシャツと麦わら帽子、果ては浮き輪をその身に着けて、いくつものキャリーバッグ、ビーチパラソル、ビーチバレー用のボール、替えの水着(マネキンごと)等のビーチを大いに満喫するアイテムを纏めて載せた台車を牽いたエルザが、カウンター前で待っている様子が目に映った。シエル、ルーシィ、グレイから「気、早ーーー!!?」と言うツッコミが入るのも無理はない。

 

「それじゃあルーシィ、僕はもう戻るけど、所有者(オーナー)である君がピンチになったら、いつでも駆けつけるからね」

 

「さしずめお姫様を助ける白馬の王子様ってところかな」と付け加えながら話すロキに、ルーシィは笑みを浮かべてこう返す。

 

所有者(オーナー)じゃないわ。友達よ!」

 

右手の甲を見せるようにサムズアップをしながら告げたルーシィの言葉に、少し驚いたような表情をした後、「そうだね」と穏やかに笑いながら答えた。そして「これからもよろしく」と告げながら、ロキは星霊界へと戻っていった。

 

「折角のロキの厚意だ、思いっきり楽しむぞ!」

 

『おおーー!!』

 

エルザの檄と共に、最強チームの一同はアカネリゾートへと出発した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

天候は雲一つない快晴。照りつける太陽の光は広大に広がる青い海と、白い砂浜に反射し、一つの芸術を生み出しているようだ。その海や砂浜には、遊泳の為に水着に着替えた観光客が大勢集まっており、遊ぶ者、泳ぐ者、くつろぐ者、食事をする者と、思い思いに過ごしている。そしてその中には、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の最強チームのメンバーも加わっていた。

 

「うーみだー!!遊びで来たのは初めてだーー!!ヒャッホーー!!」

 

「テンション高っ!?」

 

真っ先に海の方へと駆けだしていったシエルの姿を見て意外だと感じたルーシィが驚きを露わにする。普段は落ち着いた印象を持つ少年だが、今は至って年相応な反応なだけに、仕方ないとも言えるだろう。続くようにナツが駆けだしていくのを見届けながら、ルーシィは普段と違うシエルの様子に微笑ましいものを感じていた。

 

「ああして見ると、子供らしいって感じがするわね」

 

「実際子供なんだ。思う存分満喫した方がいい。私たちもな」

 

横に並びながら告げるエルザの言葉に一度首肯し、ルーシィは透明度の高い海の水を見てはしゃいでいるナツたちの元へと近づいている。すると徐にナツは提案してきた。

 

「よぉーし!!まずは泳ぎで勝負すっぞ!!誰が一番向こうまで行けるか競走な!」

 

「ええっ、いきなり!?」

 

「構わないぞ」

 

エルザやグレイは乗り気のようだが、そこにシエルが待ったをかけてきた。面白そうな提案ではあるが、どうせなら趣向を変えてみてはどうか、というものであり…。

 

「という事で『沖の方まで乗雲(クラウィド)レース』って言うのはどうかな?」

 

「それあんたしか出来ないでしょうが!!」

 

自分の魔法である乗雲(クラウィド)を駆使したレースを発案…したがルーシィにすぐさま却下された。操作できるのが魔法を使うシエル本人のみなので、結局のところ彼のさじ加減で勝者が決まってしまう。その後もシエル考案の変わった遊び方が提案されるたび、ルーシィに却下され続けては普通に遊ぶこととなった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

シエルたちは存分にビーチを楽しんだ。

 

ルーシィがスイカ割りをする時に面白がって破茶滅茶な指示をしたり、誘導してコワモテの男の頭部に当てて追いかけ回されるルーシィを見て笑ったり、そんな彼女が仕返しとばかりにジェットスキーにナツを無理矢理乗せて酔わせながら自分もおおいに楽しんだり、全員でビーチバレーをしたり、砂浜での競走もした。

 

魅力的な女性が水着でいたこともあって、ルーシィやエルザがナンパされることもあったが、その度にエルザがボコボコに撃退するという一幕もあった。男性陣が対応するよりも遥かに有効的である。

 

ビーチで思い切り遊び倒したため、すでに時は夕暮れ。オレンジの光に包まれた砂浜と水平線は、燦然と輝く日に照らされた昼間とまた違った幻想的な光景を生み出している。

 

そして今シエルたちがいるのは、宿泊するリゾートホテルの地下に存在するアミューズメントエリア。カジノやゲームセンター、バーが併設された、老若男女問わず楽しむことができるエリアである。

 

その中のゲームの一つに、シエルが挑戦していた。昼間の水着からは既に着替え、普段とは違った紺色のタキシード姿に身を包む姿は、少年らしさを残す整った顔立ちとは裏腹に、彼の落ち着いた雰囲気をより強調している。そんな彼がとある一点に集中している真剣な表情に、周りの女性たち(同年代も一回り年上の者たちも含めて)の視線を釘付けにしている。

 

そんなシエルの目線の先には、中心からいくつかの円が同心円状に描かれてた、外側の方につれて記されている点数が低くなっているボード。目線と同じ高さに上げている右手に持つのは小型の矢。そう、シエルが挑んでいるのはダーツだ。

 

ルールは至ってシンプル。ダーツの矢を5本投げ、その5本が刺さった点数の合計を競うというものだ。得点の割り振りは中心が100で、中心から離れるほど10ずつ低くなっていき、1番端の部分が10となっている。ダーツの矢はいずれも中心に近い90に刺さっており、数は4本。今シエルが手に持っているのが最後の1本だ。

 

そして彼は狙いを定めて、右手に持つ矢をボード目掛けて投擲。矢は空を裂いて飛翔し、吸い寄せられるようにボードへと真っ直ぐ突き刺さる。

 

 

その位置は中心。最後の最後に最高得点の100を叩き出した。瞬間、周りの他の観光客たちから称賛の歓声が上がった。それを耳にし、緊張から解放されたシエルは、応えるように笑みを浮かべて礼を述べている。

 

「いや〜上手くいった上手くいった〜!上々だよ」

 

シエル自身も結果に満足のようだ。気分も高揚して清々しい。どこからか「さっき17だったじゃねーかぁ!!」と言う聞き覚えのある悲鳴が聞こえる気がするが気のせいだと断定しておく。桜髪で白い鱗柄のマフラーが脳裏にチラついてなんかいない、うん。

 

他のみんなの様子見がてらエリアを歩いていると、バーのカウンターに見覚えのある後ろ姿を発見する。黒い髪で燕脂色のワイシャツ姿は先程別行動をとった服装の記憶と遜色ない。グレイだ。だが、彼の隣に見覚えのない人物が座って、話している様子が見えて、首をかしげた。

 

青いドレスを纏った水色の髪の少女のようで、詳しくは分からないが、少女の方からグレイの方に積極的に話をしているようだ。それを理解した瞬間、シエルは自分の口角が吊り上がったのを自覚した。いやむしろわざとかもしれない。どちらにせよ、この状況を目の前にして浮かび上がる選択肢は一つしか存在していない。グレイの名を呼びながらシエルは彼の背に近づき出した。

 

「こんなとこにいたんだ。いや〜グレイも隅におけないね〜。同じような観光客の女の子と、いきなり仲良くなっちゃ…って、あれ?」

 

存分に揶揄おうと思っていたシエルの目論みは思わぬ形で崩れた。呼ばれたことで振り向いたグレイに釣られて同じように振り向いた少女と目が合った瞬間、シエルは既視感を覚えたからだ。

 

「このお姉さん…どこかで…」

 

呟きながら記憶を中を模索していると同時に、相手の少女の方もシエルの顔を見て同じように既視感を感じていた。すぐそこまで出かかっているのだが、はっきりとは浮かばない。そして先に思い出したのはシエルだった。まだ記憶に新しい幽鬼の支配者(ファントムロード)との衝突事件において、彼は彼女の姿を見ている。ほとんど関わりがなかった為、思い出すのに時間がかかったのだ。

 

「あ!ファントムのエレメント(フォー)だった人!」

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)において幹部とされていたエレメント(フォー)の紅一点、ジュビア・ロクサー。4つの元素のうち、水を司る魔導士であった彼女とリゾート地で再び見えることになるとは思わなかった。

 

「今はフリーだそうだ」

 

「あ、そうか…ファントム今無くなっちゃったから…」

 

すかさずグレイの補足が入れられ、シエルは少し納得した。例の事件がきっかけで幽鬼の支配者(ファントムロード)は解散。マスターであるジョゼは聖十大(せいてんだい)()(どう)の称号を剥奪された。それに伴って元々ファントムに所属していた魔導士はフリーに…極端な括りで纏めれば職場を失ってしまったのだ。中には行き先が無くて途方に暮れている者もいるそうだが、実力がそれなりにあるものは理解のあるギルドに移ったという話もちらほらある。

 

そして今目の前にいる少女も、所属ギルドを失ったことで現在フリーの状態。今後どのように過ごしていくのか、という疑問は彼女の首から下げられたペンダントを目にしてすぐさま理解できた。正確には、ペンダントの先に着けられている純金で作られた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を象った飾りを…。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)への加入希望ってことか…」

 

なんと分かりやすい主張なのか…とちょっとだけ引きながらもシエルは自分の予測を告げた。何故わざわざ期間もほとんど空けずに敵対していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りたいのか。その根本の理由も何となく察せる辺り、相当入れ込んでいる。最早予測じゃなくて確信の域だ。

 

シエルがジュビアに対して推測を立てていたのと同じ時間をかけて、ジュビアもようやく思い出すことができた。どこかで見たことのある顔で、今隣に座っている想い人(グレイ)と同じギルドのメンバー。一番最初に思い出した記憶は…

 

 

 

 

 

 

 

自分目掛けて能面のような無表情を浮かべたまま次々と雷を落としていく怖い子供(トラウマ)…。

 

「っ…!!!ごっ、ごめんなさいごめんなさいっ!!ジュビア、反省していますから!どうかぁ!!」

 

「「はぁ!?」」

 

唐突に涙を浮かべてグレイの背後に避難しながらシエルに向けて謝罪しだしたジュビアに、二人揃って驚愕の声を上げた。先程までほとんど反応を示さなかったはずの彼女が起こした突然の奇行にシエルもグレイも戸惑いを隠せない。「お前なんかしたのか?」と言うグレイの問いに全く心当たりがないと答えかけたシエルだったが、彼も思い出した。

 

ファントムとの衝突の際に自分が起こした“天の怒り”に巻き込まれた魔導士の中に、彼女の姿があったことを。そして逃げ惑う彼女を雷で追い立てていたことも…。

 

「“天の怒り”かぁ…」

 

「ああ…鉢合わせしたんだな…」

 

突然の奇行の原因が判明し、どこか気まずげに視線を下に向けるシエルの呟きを聞いたグレイはそれだけで察した。ファントムとの戦いでの時はジョゼによって途中で意識を刈り取られたので記憶がなく、後々になって話を聞いただけだったのだが、恐らくその時に“天の怒り”発動状態のシエルと遭遇したことは想像できた。気の毒である。

 

「あ、その…怖がらせちゃって、ごめんね?あの時は俺もほとんど意識が朧気でさ…。お詫びと言っちゃなんだけど、ここにはエルザもいるから、エルザを通してマスターに君をギルドに入れてもらえるようにお願いするから」

 

そんな彼女の恐怖心を少しでも和らげようと彼女の望むように妖精の尻尾(フェアリーテイル)への加入を滞りなく行えるように約束を持ちかける。思わぬ人物から思わぬ助けを与えられたジュビアは、怯えていた表情を驚愕のものへと変えてシエルを見ていた。まだ不安が募るのか、グレイの方へとふと顔を向けてみると彼は笑みを浮かべてフォローする。

 

「信じても問題ねえよ。こいつは悪戯好きだが、こういった状況で嘘を吐いたりする奴じゃねえよ」

 

そんな笑みと共に紡がれた言葉に頬を染めて「は、はい…!」と答えるジュビア。その光景を見ていたシエルはというと…。

 

「(おや?本日二度目の…どぅえきとぅえるぅ~?)」

 

片手でニヤついている口元を隠しながら確信めいた心の声を噛み締めていた。最初に気絶した状態の彼女の姿を見てから、グレイと何かしらの出来事があったとは予測していたが、これはもう確定だ。確実にジュビアはグレイに惚れている、とシエルも気づいたのだった。そんなシエルの様子に気付いたのかグレイがシエルの方を向いて訝しげな視線を向け始めた。

 

「ん?何、グレイ?どうかした?」

 

「いや、後ろ…」

 

否、グレイが向けていたのは、シエルではなくその後方。言葉につられてシエルは自分の背後に向けて振り返ると、そこにはグレイが向けていた視線の正体―――。

 

 

 

 

 

 

 

「シエル・ファルシー…そして、グレイ・フルバスター、だな?」

 

頭に白いターバンを巻きつけ、顔を覆うように髑髏の下顎を模したマスク、左目に黒い眼帯を着けた、エルフマンに匹敵する巨漢の男が、シエルを見下ろしていた。

 

 

―そして次の瞬間、バーのカウンターは彼の右目に浮かんだ魔法陣から放たれた魔法によって爆発を起こす。周りにいた観光客たちはパニック状態でその場から逃げていき、煙が晴れ始めた時には、グレイだけが破壊されたカウンターから身を起こしていた。

 

「シエル!ジュビア!…てめぇ、何者だ!?」

 

いきなり近づいてきたかと思いきや何の断りもなく攻撃を仕掛けてきたその巨漢に対して怒りを現しながら詰め寄るグレイ。しかし、その問いに答えようとはせず、男は逆にグレイに対して尋ねてきた。

 

 

 

「エルザはどこにいる?」

 

「何!?」

 

思わぬ名前が口から放たれたことに、一瞬怒りが薄まる程の衝撃がグレイに走る。何が目的なのか、何故エルザを探しているのか、分からないことだが、分かったとしてもそれに是と答えるわけにはいかなかった。

 

「エルザはどこだ?」

 

「教えると思うか…!?」

 

男に対していつでも攻撃を仕掛けられるよう構えるグレイの前に、拡散されていたかのように四方から水が宙を流れてきてグレイの前に集まりだす。それはやがて人の形…水に体を変えられるジュビアの身体を形づくって、彼を庇うように両手を広げて現れた。

 

「グレイ様には指一本触れさせない…。ジュビアが相手をします」

 

ジュビアの狙いは、エルザを探しているその男をエルザの元に行かせないためにグレイを向かわせることにあった。目的がはっきりとはしていないが、エルザの元に危険が迫っていることは確か。そのエルザの危険を遠ざけるためにも、今自分ができることを瞬時に判断したのだろう。

 

「おい、お前…」

 

すると男の背後に声と共に近づき、雷の魔力を纏った右手をかざすシエルの姿が見えた。シエルの表情にも明らかな怒りが宿っており、目の前にいる男に対して敵意を剥き出しにしている。

 

「いきなり手を出したと思ったら、エルザはどこだと?何者か、目的の一つぐらい聞かせてもらわなきゃ、言えるわけもねえだろ」

 

「い、いけない…!」

 

その状況をジュビアは良いものとして受け取れなかった。グレイと共に彼もエルザの元へ向かわせなければ、最悪手遅れな状況になってしまう。しかし、誰の問いにも答えるどころか反応もせず、左手の指を二本額の近くにかざして何者かとの会話を始めた。遠くにいる対象と会話を可能とする念話の魔法である。

 

「何、もう見つかっただと?…ほう、そうか…片付けてもいいんだな?了解…」

 

 

 

その刹那、シエルの視界は闇に染まった。

 

「な!?何だ、何をした、何をされた!?」

 

どこを見渡しても一面の暗闇。一寸先の自分の身体、輪郭さえ視認できない。そしてそれはグレイとジュビアも同様のようだ。少なくとも今いる空間の中全てが闇に包まれているという事だろう。

 

何も見えない闇の中で、男の声だけがやけに響き渡った。

 

「闇の系譜の魔法『闇刹那』」

 

その言葉を最後に耳にした後、その場にいたもの全ての意識も闇に包まれた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

シエルたちの意識が闇に包まれてから数分。ポーカーを行っていたフロアには、多く集まっていた観光客の姿はなく、数人組の男女と、ドレスに身を包んだ妖精の女性二人のみがその場に存在していた。

 

その内の一人、緋色の髪を後頭部に纏めているエルザを横抱きにしているのは、シエルたちに襲い掛かってきた巨漢、名は『シモン』。

 

猫の腕を模した数本の管でもう一人の少女ルーシィを拘束しているのは髪を猫の耳のようにセットして、鼻と口の形も含めて猫のような印象を持つ少女、名は『ミリアーナ』。

 

格好だけを見ればハードボイルドなマフィアを彷彿とさせる容姿で、目元にはサングラス、口には煙草、黒いテンガロンハットを頭にかぶっているが、全体的に何故か角ばった体つきをしている男性、名は『ウォーリー』。

 

そして、ディーラーの服装でこのフロアに潜入していた、褐色肌に逆立った金髪を持つ青年、名は『ショウ』。

 

ウォーリーが魔法で造り出した銃によって催眠弾を撃たれて意識を失っていたエルザ曰く、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るより以前、仲間であった面々だという。突如周りの観光客の被害も厭わずエルザを無理やり連れていこうとする者達に、ルーシィは怒りを募らせることしかできない。

 

「目標確保。帰還しよう」

 

「ちょっと、エルザをどこに連れていくのよ!返しなさいよ!!」

 

管で拘束されながらも抵抗しようともがくルーシィだが、一向に緩まる様子が無い。むしろ、この管を生み出したミリアーナが指でルーシィを指すと、更に彼女の身体を締め上げていく。

 

「みゃあ。あと5分もしたら、その身体が反対側に曲がっちゃうよ~」

 

間延びしたような喋り方だが、その表情はどこか残酷な笑みを浮かべている。エルザにとってどちらも仲間と言える存在だが、本人たちから見れば赤の他人である故か。邪魔をしようとした存在を排除することに躊躇いが無い。

 

「そういやミリアーナ。君にプレゼントだゼ」

 

そんな彼女にウォーリーが近づきながら告げると、掌に無数のブロックが現れて、それがとある存在を形作る。作られたのはナツと共にゲームをしていたはずの青猫ハッピー。よだれを垂らして寝息を垂らしているそれを目にした瞬間、彼女の表情は今までの中で最高潮の喜びに染められた。

 

「みゃあっ!!ネコネコ~!!もらっていいの~~!!?」

 

外見が似ているために期待を裏切らず、彼女は愛猫家のようだ。ハッピーを両腕に抱きかかえて頬をすり寄せるその姿はただの猫が好きな年頃の少女にしか見えない。あまりにも興奮しているのか、エルザを拘束するように仲間から頼まれるも、聞こえていないようだ。

 

「姉さん…帰ってきてくれるんだね…!

 

 

 

 

 

 

“楽園の塔”へ…!!きっと、『ジェラール』も喜ぶよ…!!」

 

涙を流して心からの喜びを表しているようにも見えるショウの言葉。

“楽園の塔”と言う単語を、薄れかかっている意識で聞き取ったエルザは動揺していた。

 

 

その言葉が意味するのは文字通りの楽園か…。それとも…。




おまけ風次回予告

ハッピー「ねえシエル。シエルにとって楽園って何かな?」

シエル「楽園?ん~…そうだなぁ…。いざ言われると頭の中に浮かばないな…」

ハッピー「そうなの?オイラてっきりお肉がいっぱいある場所って答えるかと思ったよ。魚がいっぱいだったらまさしく楽園(パラダイス)になるオイラのように…!」

シエル「肉は好きだけど楽園じゃなくても食えるし…あとその楽園(パラダイス)は俺にとって絶望郷(ディストピア)だなぁ…」

ハッピー「意外と夢が無いよね、シエルって…」

次回『楽園の塔』

シエル「そうかなぁ?まあでも、今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)での生活が一番充実してるし、そういった意味ではギルドが一番の楽園かな」

ハッピー「なんか凄くいい事言った!何でだろう、ずるい!!」
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