ちなみに前回の前書きで書いたイベントの件ですが、少々とある事情で行きづらくなってしまいました。不幸中の幸いこうして無事投稿できたわけですが…。
それではどうぞ!
最後に一言。コロナマジ早く滅べ。
「!?お、お前たちが何故ここに…!?」
驚愕と戸惑いの感情を表に出し、こちらに問いかけてくるエルザに、憤慨したように歩を進めていくのはナツだった。
「何故もくそもねえんだよ!舐められたまま引っ込んでたら、
詰め寄りながら怒りを隠そうともしないナツ。その後方にエルザには見覚えのない少女・ジュビアの姿を視認すると、それを感じ取ったジュビアが怯えながらも同行してきた理由を告げようとする。
「帰れ、ここはお前たちの来る場所ではない…」
しかし、ナツの憤慨も、ジュビアの主張も、エルザのその一言によって一蹴された。いつも堂々とした態度でいるエルザにしては珍しく、その面持ちは暗いように感じられる。だが、それで言われた通りに帰ろうとする者はここにいない。
「ハッピーが捕まってんだ!このまま戻れるか!!」
「ハッピーが?まさか、ミリアーナ…!」
もう一人の仲間であるハッピーも捕まっていることを伝え、連れ戻さなければならないと主張するナツの言に、エルザは心当たりがあった。ネコをリスペクトした容姿をしているネコ好きの少女、ミリアーナの事である。どこにいるのかを尋ねるも、それはエルザも知らない。それを聞くとナツは…。
「よし!分かった!!」
「え、何が?今ので?」
「ハッピーが待ってるって事だ!!今行くぞーー!!」
シエルの呆れたような疑問に、答えになってるのかわからないような発言を残して、エルザたちが来た方向へと走り去っていった。結局どこにいるのか分からないままなのにどこへ向かっているのだろうか…。
「あのバカ…」
「あたしたちも行こう!」
「それしかないね」
「ダメだ!」
急ぎナツを追おうとした一行を、手に持っている剣で道を塞いで制止するエルザ。ミリアーナと言う人物は無類の愛猫家であり、ハッピーに危害を加えるつもりはない。ナツとハッピーは責任をもって連れ帰るからすぐさまここから離れろ、とシエルたちを一刻も早くここから帰らせようとする。
「出来るわけないよ!エルザも一緒じゃなきゃ!!」
「これは私の問題だ!お前たちを巻き込みたくない…」
ルーシィが食い下がり、それでもなおエルザは譲らない。自分の問題に仲間である皆を巻き込みたくないと告げて彼らに背を向ける。しかし、もうそんなことすら言ってはいられる状況ではない。
「もう十分巻き込まれてるんだよ。あのナツを見ただろ?」
「教えてほしい…。この塔の事、ジェラールと言う人物、エルザに関する事を俺たちほとんど知らないんだ」
グレイとシエルも、今回の問題の渦中に既に身を置かれてしまっている。ここまで来ては見て見ぬふりすることなどできない。だからこそ、知らなければならない。楽園の塔、ジェラール、エルザの過去にある重大なことを。
「言いたくないならいいんだけどさ…。あいつら、エルザの昔の仲間って言ってたよね。でも、あたしたちは今の仲間。どんな時でも、エルザの味方なんだよ」
「…か…帰れ…!」
震えながら声を絞り出し、意地でも彼らを留まらせない様に告げる。だが尚更彼らはエルザを放っておくわけがない。
「何度言われてもこのまま帰る気はないよ。震えてるじゃないか…そんな状態になってるのに、はい分かりましたって立ち去る程、薄情じゃないよ」
「全くだぜ。らしくねーなエルザさんよ…。いつもみてーに『四の五の言わずついて来い』って言えばいーじゃんよ。オレたちは力を貸す。お前にだって、たまには怖えと思う時があってもいいじゃねーか」
何を言おうと仲間たちに引き下がる気はない。仲間である自分のために、この先自分が原因で傷つくことが起きるとしても、承知の上で力を貸そうとする。巻き込みたくなかった。巻き込んでしまった。そんな自分の後悔も意に介さない彼らの言葉に…
エルザは左目に涙を浮かべながら仲間たちの方へと振り向いた。
いつも気丈として、弱々しい一面など一切見せようとしなかった彼女の、そんな姿を見て全員が二の句を繋げなくなった。グレイに至ってはどこか罪悪感を感じたのか胸に手を当ててたじろいでいる。
「この戦い…勝とうが負けようが、私は表の世界から姿を消すことになる…」
涙を指で拭いながら告げた言葉に、一行の表情には戸惑いが生まれる。どういう事なのか。それを尋ねる仲間たちに、エルザは続ける。これは抗う事の出来ない未来なのだと。
「だから…だから私が存在しているうちに、全てを話しておこう…」
そしてエルザは語り始めた。この楽園の塔の事…そして、彼女の過去を…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
楽園の塔―――。
またの名を“Rシステム”。10年以上前に黒魔術を信仰とする魔法教団が、禁じられていた“死者を蘇らせる魔法”を発動させるための塔の建設を始めた。政府も魔法評議会も非公認の建設の上、発動の為には多くの生贄が必要だったために、各地から攫ってきた人々を生贄兼労働力の奴隷として、塔の建設にあたらせた。
そして、幼かったエルザもその奴隷の一人だった。
脱走を企てた者、教団員に歯向かった者などもいたが、いずれもその後に消されてしまった。そのこともあり心が安らぐことも無く、その場で心を許せる友が出来たとしても、束の間の出来事だった。その頃に、エルザはシモンを始めとした仲間たち、そして一人の少年と出会った。
その少年が『ジェラール』である。
奴隷として働かされ、逆らえば容赦なく痛めつけられ、その反動で命を落とす者も少なくなかった地獄のような場所。環境の影響か、昔は気弱で臆病な性格だったエルザにとって、ジェラールは光のようだった。同じ地獄にいながらも前を向いていて、正義感が強く、仲間たちにとってリーダーと呼べる存在だった。そんな彼に憧れを抱いていたのだ。
ある日、ショウ発案で脱走を企て、実行していたところを見つかってしまった。「脱走計画の立案者一人のみを懲罰房行きとする」と告げられ、怯え泣くショウを庇おうと名乗り出ようとしたエルザを遮り、ジェラールが自分が立案者だと名乗り出た。しかし、エルザの言を遮って自分が罰を受けようとした行動は裏目に出てしまった。自分を庇うように立ち上がったジェラールを不安げに見つめるエルザの様子を見た教団員は、エルザが立案者だと断定して彼女を懲罰房に連れて行ってしまった。勿論阻止しようとジェラールたちは動いたが、魔法を扱える彼らに敵うはずもなく…。
エルザを助けるため、ジェラールは一人、教団員から武器を奪って見張りたちを襲撃。懲罰房に囚われていたエルザを助け出すことに成功したが、彼女を連れだしたところを別の教団員に見つかってしまい、エルザの身代わりに今度はジェラールが囚われてしまった。
仲間たちの元に戻ることができたエルザであったが、懲罰房で受けた惨い罰による悲惨な傷、右目を隠す眼帯、感情が抜けたかのような佇まいを垣間見た仲間たちの怒り、嘆き、苦しみ。それを嘲笑うかのように恐怖を植え付けようとする教団員。そんな時に、彼女を助けに来たジェラールのとある一言が頭に響き、彼女の運命を変えた。
『戦うしかない』
教団員の持つ武器を奪い取って彼らを薙ぎ払い、同じく囚われの身となっている者達へ向けて彼女は叫んだ。その姿はフランス史に今も名を残すオルレアンの聖女、味方を鼓舞することで自国の軍に勝利をもたらした“ジャンヌ・ダルク”のようだった。
『武器を取れ!従っても逃げても、自由は手に入らない。戦うしかない…!自由のために、立ち上がれええ!!』
一人の小さな少女の声が塔に響き、自由を求める奴隷たちの反乱が始まった。自由のために…そしてジェラールを救うために。しかし…。
「ある時を境に、ジェラールは別人のように変わってしまった。もし人を悪と呼べるなら…私はジェラールをそう呼ぶのだろう…」
結果として、エルザたちは勝利した。途中教団員たちが使役する魔法兵によって戦況は一方的に不利な状況となったが、元魔導士であるロブと言う老人がエルザを庇って盾となり、命を落としてしまう。彼から牢の中で教わった魔法の源である“心”。彼を失った悲しみの感情を心の力に変え、エルザは魔法を身に付け、反撃に移った。
そして掴み取った勝利と自由。囚われていたジェラールを救い出し、共に塔を脱出しようと仲間たちが奪った船に行こうとした…が、しかし、その時にはジェラールは変わってしまっていた。この世界に自由などない。本当の自由はここにあると。自分たちに必要なのは仮初の自由ではなく、本当の自由がある世界…
『ゼレフ』の世界だと。
囚われている間にジェラールもまた魔法を覚醒させていた。覚醒させた魔法を用いて自分たちを虐げてきた教団員たちを次々と始末していく。楽園の塔は自分がもらい、代わりに完成させる。エルザも共にとその建設に誘うも、脱出を優先するエルザに対してジェラールは告げた。
出ていきたければ一人で出ていけ、ただし他の者たちは楽園の塔の建設の人手としてもらうと。恐怖や支配で縛りはせず、服や食事、休みを与えて効率よく作業を行わせる。ゼレフと言う偉大な魔導士のために働く意味を与えると。そして外部に楽園の塔の存在が漏れたりすれば、働く者達と塔を消していく、目撃者が出た時点で一人ずつ始末すると。
―――仲間の命を背負って生きる。それがジェラールに与えられたエルザの自由だった…。
楽園の塔から一人追い出され、海を漂い、砂浜に打ち上げられたエルザが感じたのは悲嘆、後悔、自責、憤怒、孤独、そして絶望…。砂浜とともに自分を照らす月に、全ての感情を入り混ぜた少女の慟哭が響いた。
「私は…ジェラールと戦うんだ…」
全てを語り終えたエルザは、自分の感情を押し殺すかのように声を引き絞りながら、涙を落としながら、重ねた決意を口にした。誰もが彼女に秘められた過去、悲劇を耳にして言葉を失っている。そんな彼女に対して最初に声をかけたのは、他の3人よりもどこか動揺が大きく見える少年。
「…エルザ…今、ゼレフって…!?」
その名には聞き覚えがあった。魔法界の歴史上において最凶最悪と言われた黒魔導士。
「それだけじゃない。あの『デリオラ』も、恐らくはゼレフ書の悪魔の一体だ」
『デリオラ』―――。
その名を聞いて一番反応したのはグレイだ。10年以上前に数々の街を破壊しながら暴れまわった巨大な悪魔。その悪魔はかつてグレイの故郷も襲撃し、グレイはそれによって両親を目の前で失った過去を持つ。それだけでなく、親を失ったグレイを弟子として引き取った、彼に魔法を教えた女魔導士・『ウル』が、その命をもって封じ込め、10年と言う歳月をもってようやく倒すことに成功した、強大な存在である。
グレイやナツたちがガルナ島の依頼に行った際、その封じられていたデリオラを巡って、同じくウルから魔法を教えられた兄弟子である『リオン』と言う人物と対峙した経緯があるが、シエルがそのことを知るのは先の話である。
「ジェラールはそのゼレフを復活させようとしている、って事ですか…?」
「動機は分からんがな…。ショウ…かつての仲間の話では、ゼレフ復活の暁には“楽園”にて支配者になれるとかどうとか…」
「その、かつての仲間の事って、どうしても腑に落ちないんだけど…裏切者って、エルザじゃなくてジェラールの方じゃないの?」
「あの後エルザはすぐに楽園の塔から追い出された。という事は、何も知らない風を装って、ジェラールがそいつらにエルザが裏切っただのなんだの吹き込むことは簡単じゃないかな?」
ジュビアの問いの回答に含まれたかつての仲間たちの話題。ルーシィはエルザの話から裏切ったのはジェラールの方では、と疑問を問いかけるが、シエルが代わりに予測を立てていた。エルザの視点のみでしか情報はないが、容易に想像はできる。
「恐らくそうだろう。しかし私は8年も彼等を放置した。裏切ったことに変わりはない」
「でもそれは、
「もういいんだ、ルーシィ…。私がジェラールを倒せば、全てが終わる」
エルザの制止にこれ以上は言葉は出せなかった。ルーシィは押し黙ったが、シエルとグレイは一つ懸念することがあった。先程の話の前にエルザが告げた言葉。「この戦いに勝とうが負けようが、自分は表の世界から消える」と。どういう意味なのか、それだけが妙に引っかかっていた。
「姉さん…その話…ど、どういう事だよ…?」
すると、エルザの後方から動揺を露わにした表情と声で問いかけてくるショウが、その場に現れた。思ってもいなかった内容を聞かされて、真実を受け入れられない。そんな言葉が口から出て来そうな…。そしてショウは真実は全然違うと主張する。8年前のあの日、エルザは船に爆弾を仕掛け、一人で逃げた。ジェラールがエルザの裏切りに気付かなければ全員海に沈んでいたのだと。
「ジェラールは言った!これが魔法を正しい形で習得できなかった者の末路だと!!姉さんは魔法の力に酔ってしまって、オレたちのような過去をすべて捨て去ろうとしてるんだと!!」
「ジェラール
「っ…!!」
シエルが反芻した言葉で、ショウは悟ってしまった。先程エルザがシエルたちにした話が真実で、ジェラールのあの時の言葉が嘘だった場合、辻褄が合ってしまうと。自分の目で確かめた訳じゃない、姉と慕っていた少女の凶行を鵜呑みにしたことを。
「あなたの知っているエルザは、そんな事をする人だったのかな?」
「お…お前たちに何が分かる!?オレたちの事、何も知らない癖に!!オレにはジェラールの言葉だけが救いだったんだっ!!だから、8年もかけてこの塔を完成させた!!ジェラールの為に!!」
ようやく手に入れたと思っていた自由。これからは仲間たち全員と自由に世界を生きていけると思っていたところに、姉と慕っていたエルザの裏切り。それによって傷ついた心に染み込んだのはジェラールの言葉だった。ジェラールに着いていけば、今度こそ自由を勝ち取れると、本気で信じていた…それなのに…。
「その全てが…嘘だって…?正しいのは姉さんで、間違ってるのはジェラールだとでも言うのか…!?」
「そうだ」
ショウの言葉に同意を返したのは、この場にいた誰でもない、新たな人物。魔法によって姿を隠していたその男はそれを解除して、誰もいなかったその空間に現れた。シエル、グレイ、ジュビアを襲撃してきた巨漢・シモンである。
「こいつ…!」
「てめえは…!」
「待ってください、二人とも!」
シエルとグレイがすぐさま身構えるも、それを止めたのは意外にもジュビアだった。しかし、彼女が止めたのにはちゃんと理由が存在する。
「この方はあの時、グレイ様が
ジュビアの言葉にシエルはすぐさま納得した。考えてみればシモンが扱う魔法の属性は闇。シエルが身代わりとして作った
「ジュビアがここに来たのは、その真意を確かめる為でもあったんです」
「さすがは噂に名高いファントムのエレメント
あの襲撃の際、シモンは誰も殺す気は無かったのだ。他の仲間であるショウたちの目を欺くために気絶に留めようとしたが、グレイやシエルが氷や幻影であることを利用して、派手に死体を演出できると思ったと語る。何故そんなことをしたのか、ショウに問われれば彼らの目を欺いた上で
「ショウ…みんなジェラールに騙されてるんだ。機が熟すまで、オレも騙されてるフリをしていた」
涙を溢れさせて顔を俯かせるショウの肩に手を置きながら、宥めるようにシモンが語る。彼だけがジェラールの嘘と、エルザの真実を見抜いていたのだ。いや、正確に言えば…。
「シモン、お前…」
「オレは初めからエルザを信じている。8年間、ずっとな」
エルザへの揺ぎ無い信頼。彼女にとってはそれが何より嬉しかった。何も出来ずに8年間彼らを置いていってしまった、ジェラールによって変えられたと思ってしまった仲間たち。だが、一人だけ…たった一人だけとはいえ、ずっと会えなかった自分を信じてくれたシモンの存在が、エルザに大きな安堵をもたらしていた。
「会えて嬉しいよエルザ、心から…」
「シモン…」
握手を交わし、そして固く抱擁を交わす二人。その光景を見て、
「何で…みんなそこまで姉さんを信じられる…!何で…何でオレは姉さんを…信じられなかったんだ…!!」
こらえ切れぬ涙を零しながら声を漏らすショウの脳裏に、幼い頃にエルザの後を追いかけた、絶望の中の輝かしい記憶が蘇る。記憶の中にある彼女のままと信じられれば、シモンのようにエルザを信じることができていたなら…。
「くそぉおおおおっ!!何が真実なんだ!?オレは何を信じればいいんだあ!!!」
頭の整理が追い付かない。信じていたものに裏切られた。その裏切られた傷を癒してくれた存在は、嘘に塗れていた。裏切ったと思っていたエルザは、ジェラールによって貶められていた。ショウは理解が及ばずに、両腕を床に叩きつけて悔しさを滲ませてうずくまる。信じたいのに、信じるのが怖い。信じられるものが分からない。そんなショウの気持ちを痛いほど感じたエルザは、うずくまるショウを抱き寄せた。
「今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう。だが、これだけは言わせてくれ。私は8年間お前たちの事を忘れた事は、一度もない」
その言葉を聞き、ショウの慟哭が少しばかり収まった。エルザに縋る様に肩に手をかけて、昔自分が信じられた彼女を確かめるように。
「何も出来なかった…。私は…とても弱くて…。すまなかった…」
「だが今なら出来る。そうだろ?」
仲間の命を背負わされ、救いたくても救えなかった無力な自分はもういない。シモンの言葉に首肯で答え、覚悟を纏った表情をエルザは見せる。それを確認したシモンはこの場にいる全員を見渡し、己が目的を語りだす。
「ずっとこの時を待っていたんだ、強大な魔導士が集うこの時を」
「強大な魔導士…」
「…あたしも、かしら?」
「ジェラールと戦うんだ。オレたちの力を合わせて」
既に決意は固めてある。過去の因縁と決着をつけるため、仲間の想いを守るため、自分の想いを踏みにじった報いを与える為…。ジェラールに対しようとする魔導士たちの連合が今結成された。まず優先することは、別行動の為に事情を知らない
だが彼は知らなかった。
既にそれが起きてしまっていることを…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
楽園の塔の外壁には、局所に螺旋階段が設けられており、外部から別のフロアへと通じる近道の役割を持っている。その内の一つを今、シモンを先導にして一行は駆け上がっていた。
「くそっ!ウォーリーもミリアも通信を遮断してやがる!これじゃどこにいるのか分からねえ!!」
左手の指二本を額にかざしながら駆け上がるシモンは上手くいっていないのか悪態をついた。エルザを確保する際にも使用していた、思念伝達魔法の一つである。しかし、その通信が今、事情を知らせるべき二人に通じないそうだ。
「なァ…あいつ…本当に信用していいのか…?確かに、オレたちを殺そうとしなかったのは認めるが、あの時ナツとルーシィは死んでもおかしくねえ状況だった」
隣り合って走るジュビアとシエルに対してグレイは声を潜めて聞いてくる。少なくともエルザに対して信頼していることは間違いないだろうが、ウォーリーとミリアーナによってナツたちが一歩間違えれば命を落としていたことは否めない。全幅の信頼を寄せるには足りないものが多すぎる。
「言い訳をするつもりはない。あの程度で死んでしまうような魔導士ならば、到底ジェラールとは戦えない」
「聞いてやがったか」
声を潜めていたのだがどうやら聞き取られていたそうで、シモンは正直に答えを示した。その上でさらに確信があったと語る。「ナツは死なない」と。ルーシィがそのセリフで自分は死ぬかもしれなかったのか、と少しばかり背筋が凍ったのは言うまでもない。
「お前たちはナツの本当の力に気付いていないんだ。ナツに真の
「ところで、ジェラールと戦うための強力な魔導士が集ってって言ってたけど、実際ジェラールの事を話伝手にしか聞いたことのない俺たちには、どれほど強いのか断定が出来ない。何者なんだ?」
ナツの事も気になったが、シエルはジェラールの事について改めて聞き出そうとしていた。エルザでさえ、8年経った今のジェラールがどれほどの魔導士なのか確証がない。何か少しでも判断となる材料がないかどうか、ジェラールの元にいたシモンたちなら分かるはず。
「ジェラールは、評議員の一人である『ジークレイン』の双子の弟だ。オレたち個人より確実に上だと分かるが、下手をすれば兄と遜色ない魔力を持っている可能性もある」
「『ジークレイン』!?
シエルだけでなく、ルーシィやジュビアもその名前は知っていた。
『ジークレイン・フェルナンデス』―――。
評議員の一人にして、大陸で最も優れた魔力を持つ最強の10人の魔導士である
だが、そんなジークレインに血縁が、それも双子の弟が存在していたという事実は、全く公表されていなかった。
「そ、そんなとんでもないような相手と、ホントに戦えるの…!?」
「やるしかねえだろ。寧ろ大したことのない奴だったら拍子抜けだ」
今更ながら怖気づいた様子のルーシィに、グレイが発破をかけるように呟く。話も交えながら外部の階段を登り切って次のエリアに通じる通路を駆けていくと、通路の壁や天井のそこら中から、人間の口が無数に出現した。
《ようこそみなさん》
「何だこの口は!?」
「気色悪ッ!!」
「しゃ…喋りましたよ!?」
突如現れた無数の口から放たれたのはまだ年若い男性の声。
「ジェラールだ。塔全体に聞こえるように話しているらしい…」
「塔全体にこの口が…」
想像するだけで鳥肌が立つ。あまり想像したくない光景だ。
《オレはジェラール。この塔の支配者だ。互いの駒は揃った、そろそろ始めようじゃないか…。『楽園ゲーム』を》
突如放送を流したと思えば、唐突に宣言をしたジェラールの言葉の内容に、ほとんどの者が疑問符を浮かべる。それも意に介さず口は語る。
ルールは簡単。ジェラール側はゼレフ復活の儀を行うことが目的。すなわち楽園への扉が開けばジェラールの勝ち。
そして、それを阻止することができればエルザ側の勝ち、と言う言葉通りシンプルな説明だ。
《ただ…それだけでは面白くないのでな。こちらは3人の戦士を配置する。》
「3人の戦士?何者だ…?」
新たに追加された3人の戦士。これに関してはシモンも心当たりがないようで、疑問の声を上げている。
《そこを突破できなければオレには辿り着けん。つまり3対9のバトルロワイヤル。最後にもう一つ…
評議院が
最後の最後にとんでもないルールが説明された。
『エーテリオン』―――。
エルザのみがその魔法の事を知っている。別名を「超絶時空破壊魔法」。様々な属性の魔力が同時に混在しているエネルギーを地上の標的に発射し、爆心地のあらゆる全てを破壊するほどの威力を持つ。一発落としただけで国を亡ぼせると言われるそれは、島程度であれば周囲の海ごと蒸発するらしい。
評議院のみがよっぽどの事態でなければ使用しない
「な…何考えてんのよ…!?自分まで死ぬかもしれない中で、ゲームだなんて…!!」
ルーシィはジェラールに対して正気とは思えないと主張するように声を上げる。楽園の塔ごと消滅する危険性まであるというのに、ゲームを実行するなど考えられない。同時にシエルは様々な疑問を感じていた。
「評議院からの、攻撃…?そこには兄であるジークレインがいるはず。本気で?いや、そもそも…」
様々な疑問を感じる中、シエルがより感じたもの。それは…
何故
「エルザ!!」
「ショウ、お前何を!?」
思考の渦に沈みかけた瞬間、グレイとシモンの声でシエルは意識を現実に戻した。振り向いてみればショウがエルザの身体を自身の手に持つカードに魔法で閉じ込めていた。
《さあ、楽しもう…》
そしてその一言ともに、ジェラールからのゲーム開始の合図は終了。一方でショウは鬼気迫る表情を浮かべてエルザのカードを宝物のように強く確保している。
「姉さんは誰にも指一本触れさせない…ジェラールはこのオレが倒す!!」
そう言ってショウは一人駆け出して行った。一人では無理だとシモンが後を追いかけていき「ショウは自分が追うから、ナツを探してくれ」と頼み、その場を離れた。
「だーーっ!どいつもこいつも!!」
「ジュビアはグレイ様と向こうへ。ルーシィさんとシエルさんはあっちね」
「お前グレイと二人きりになりたいだけだろ!」
こんなところで更に戦力を分散させるわけにはいかない。しかもエルザはショウによって実質戦うことが不可能な状態だ。このまま敵と遭遇するのは危険である。
「
「ちょ、待ってよシエル!」
シエルが二人を追えば6人だった人数が3:3で半分に分かれる。バランスをとって行動しながら敵との遭遇にも対抗できるはず、とシエルは瞬時に判断したのだ。ルーシィの制止の声も聞かず、彼は出現させた雲を発進させ、シモンたちの後を追いはじめた。
果たしてこの楽園ゲームが迎える結末は、楽園への道が開くのか、黒魔導士の復活阻止か、あるいは塔ごと全滅か…。
3つの未来が待ち受ける楽園ゲームの幕が、今切って落とされた。
「うおおおおっ!!間に合ったけど腕がヤバいいいい!!」
「ってあれえ!?何でグレイ雲掴んでんのおっ!!?」
おまけ風次回予告
シエル「これ、一体誰がどうやって作ったんだろうな?」
グレイ「ん?何持ってんだシエル、それ、駒か?」
シエル「みたいだね。赤い竜の駒…ナツをモチーフとした駒みたいだよ」
グレイ「
シエル「うん。ルーシィをモチーフとした鍵の駒、ハッピーをモチーフとした青い魚の駒。あ、グレイモチーフの氷の結晶もあるよ」
グレイ「はあ…ホントに色々とあんな…。これだけで盤上ゲームが出来そうだ…」
次回『楽園ゲーム』
シエル「ちなみに俺はこれみたい」
グレイ「…何だこりゃ…雲の下に雷と竜巻と…あと雨かこれ?混ぜすぎじゃね?」
シエル「これ作った人は相当の職人だよ…」