FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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プロローグと設定のみの投稿だったにもかかわらず、お気に入り登録が10件を超えていました…!ありがとうございます!

ひとまず、一週間に一話ずつ更新することを目標に頑張らせていただきます!


第1章 鉄の森(アイゼンヴァルト)呪歌(ララバイ)
第1話 鎧の魔導士


その街の一角には、一つの魔導士ギルドが存在している。牙を剥いた蛇を模した紋章や、外装にも蛇をモチーフとしたインテリアを飾っている建物だ。そのギルドは表向きにはほかの魔導士ギルドと変わりないように見える。

 

 

だが、街の者は誰も知らない…。彼らには裏の顔があることを…。

 

 

 

「(本当に…見ていられない連中だ…)」

 

少年は、ギルドの中に併設された酒場で行われているギルドメンバーたちの会話を眺めながら、冷めた表情で口に出さずに毒づいた。やれ「依頼で追加料金をふんだくった」だの、「隣町の美女を無理矢理連れてった」だの、「他のギルドの連中が邪魔だったから潰した」だの耳障りにもほどがある内容を下品な笑いを浮かべて自慢げに話していることに、苛立ちを隠せない。こんな連中と同じギルドである自分が心底恥ずかしいとさえ思える。

 

だが、彼にはそれを覆すほどの力も決意も持ち合わせていない。淡々と依頼を受注してこなし、報酬を受け取るのみ。今日も、機械的にこなした依頼の報告書をギルドに提出し、報酬を受け取ると建物の奥の部屋へと向かっていく。途中でメンバーたちの皮肉にも似たヤジを飛ばされるが、相手にするだけ無駄なことが分かっているため聞く耳を持たない。

 

苛立ちと怒りを奥底に潜めながらとある一室の前に立つと、扉を三回軽く叩いた。すると奥から「どうぞ…」と弱々しい幼めの声が返ってくる。

 

「ただいま、―――。調子はどうだ?」

 

「あ、兄さん…お帰り…!」

 

ギルドで働く身である少年よりもさらに幼い、彼の弟は布団の上で横たわっていた体を起こし、兄を迎え入れた。そんな上体を起こした弟を、兄は少し慌てた様子で制止しようとする。

 

「無理に起きようとするな。容態が悪化するぞ」

 

「ちょっとくらい大丈夫だよ」

 

「そのちょっとが今後どうなるか分からなくなるぐらい危ないんだ。ほら、薬貰ってきたから、これ飲むんだぞ?」

 

弟は生まれつき病弱だった。外に出ることはおろか、ずっと安静にしていてもすぐに体調崩すほどに。そんな弟を支えるために、兄は魔導士としても人間としても理解できない輩と同じ場所であっても、このギルドから離れることができない。今弟に渡した薬も、依頼の報酬として受け取っている。これを絶たれては、弟の命が危険なのだ。

 

「…うん…。薬は飲むよ。けど、僕の事ばかり構っていたら兄さんは、兄さんのやりたいことが…」

 

「これが俺のやりたいことだよ。お前が少しでも良くなって、他の子どもたちと変わらないくらいになってくれるようになるまで、俺は―――のために動きたいんだ」

 

弟は、自分の事ばかりを優先する兄に、兄自身の望みを叶えてほしいと願った。だがその兄の望みは弟の安寧唯一つ。分かっていはいても、やはり自分のために己を犠牲にしているように見えてしまう弟にとって、兄の言葉は自分の弱さを呪う言葉の刃ともいえるものだった。

 

「だから、今しばらくは、ゆっくりと寝ていてくれ。俺の事は気にするな。俺はここの魔導士の中でも強いからさ」

 

それでもなお兄は、弟のために行動する。起こしていた上体を優しく横たえ、額を撫でる。そのたった少しの動作に弟は瞼を閉じようとしていた。

 

「うん…ありがとう…。…ごめん…ね…」

 

そして弟はまどろみに落ちる。いつか兄が自由に生きられるその日を信じて…。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「…ん、んん…?」

 

目に入ったのは、カーテン越しの優し気な日差し。聞こえたのは小鳥のさえずり。日差しのみで照らされた部屋の寝床の上で、少年シエルは目を覚ました。

 

「夢、か…」

 

あの頃には思いもしなかった。願っていた日々が来ることを。自由に正しき道を歩む兄と、本当の己を感じるようになった弟になれたことを。地獄ともいえる日々を、奪われるだけだった過去を、救い出し与えてくれた今の居場所にあらためて感謝をしながら、シエルは支度を始めるのだった。

 

「よし、今日も張り切っていくか!」

 

シエルが拠点としているのはマグノリアの街の中で、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドへと続く大通りの前の一軒家だ。大抵のメンバーは街中の実家であったりアパートだったり、女性のメンバーならギルド員専用の女子寮などもあるが、彼の場合は複数人の生活を考慮して、分割払いで思い切って一軒家を買い取ったのだ。今は一人暮らしに近い状態だが、最終的には兄弟含めて数人ほどで暮らせるようになるのが理想的だと、語っていたのはいつ頃だろうか。そんな思いにふけりながら、最早慣れたような手つきで一人分の朝食を調理していく。

 

「やっぱ朝はベーコンが無きゃ始まんないよな~。ハッピーはすぐ魚渡そうとしてくるけど…」

 

いつだったかナツとハッピーが『勝手に』自宅を訪問してきた時に夕食を振舞ったことがあったが、ハッピーが調理中のスープに魚を生の状態でこっそり入れようとしてきたときは度肝を抜かれた。二重の意味で。魚介類を口にすると本能的な何かが拒否反応を起こして一切食べることができないシエルにとって、生魚をスープに入れるなどあってはならない行動なのだ。

 

そんなことを思い出しながら、簡単に作った朝食を平らげ、身支度も整ったところで自宅を出発。直ぐに出た大通りの向こうに見える仕事場(ギルド)へと歩を進めた。

 

「うし、張り切っていきますか!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

シエルの妖精の尻尾(フェアリーテイル)での仕事は概ね順調だ。正式に加入してまだ数日しか経っていないが、着々と経験を積めていて、幸先のいいスタートを切っていると言える。依頼先では新人と言うことで若干の不安を見せられてしまうのではないか、とも考えていたのだが、何故か妙に期待されることが増えてきている。

 

聞けば「19頭の怪物を倒した」とか、「とある屋敷に潜入するほどの実力者」だとか、一番首をかしげたのは「傭兵とゴリラのようなメイドの兄妹を相手にして圧倒し、二人揃って頭部の毛をずる剥けにした」と言う期待の新人の噂が出てくる。一つたりとも心当たりがない。ひょっとしてもう一人の新人(ルーシィ)の方の話なのだろうか、と考えたがそんな噂が広まる程過激には見えなかった。いや、人は見かけによらない、と言うことなのだろうか?

 

「取りあえず本人に聞いてみるかな~」

 

火のないところに煙は立たない。何か知ってないか聞いてみることを決意したシエルはそうぼやきながらギルドの門扉を開ける。すると、最初に目に入ったのは空中に浮かんでいる図式だった。ミラジェーンが手に持っているペンでその図式を書いていき、近くにいるルーシィに説明をしているらしい。ちょうどよく既に本人がいたため、ミラジェーンとの話が終わった後にでも聞いてみようかとも考えたシエルだったが…。

 

「黒い奴等が来るぞォォォ……!!」

 

「ひいいいいっ!!」

 

「うおっ!?びっくりした!!」

 

ミラジェーンから説明を受けていたルーシィの背後から、指に火を灯して地の底から這い出るように低くした声でナツが脅かした。ルーシィは勿論、来たばかりで話の流れもまだ理解していないシエルさえも突如声を上げたナツに対して目を見開いた。

 

「うひゃひゃひゃひゃっ!『ひいいっ!』っだってよ!なーにビビってんだよ!」

 

「おどかさないでよォ!!」

 

「シエルもびっくりしてたよね~」

 

「不覚だった…。このびっくりはいつか返さなきゃな~…」

 

悪戯が成功して満足げに笑うナツにルーシィは涙目でナツに怒鳴る。ついでに近くにいたハッピーも、たまたま近づいたシエルのリアクションにも反応したが、シエル自身は笑みを浮かべながらいずれ仕返しすることを企んでいる。それに気づいたナツはと言うと「いや、お前に仕掛けたわけじゃねぇのに…」と如何にも心外と言った様子だ。

 

「で、これってもしかして魔法界の組織図?」

 

「そうよ。ルーシィは魔導士ギルドに入りたてだから、説明をしてあげてたの」

 

ミラジェーンが空中に光筆(ヒカリペン)―空中に文字が書ける魔法(マジック)アイテム―で書いていたのは、『魔法評議院』をトップとした魔法界の組織図だ。評議院の下にギルドマスターたち『地方ギルドマスター連盟』が存在しており、そこから各々のギルドへと枝分かれしている。

地方ギルドマスター連盟では、評議会での決定事項などを通達したり、ギルド同士での連携を円滑にしたりなどの仕事も存在する。そもそもこの話をするきっかけになったのも、ギルドマスターたちが集い、各ギルドでの定期的な報告を行う定例会が開かれており、マスターマカロフがその定例会への出席のためにギルドを離れているからである。

 

「ギルド同士の繋がりがあるのは分かったけど、黒い奴等って、何のことですか?」

 

「黒い奴等は本当にいるのよ。連盟に所属しないギルドの事を『闇ギルド』と言ってるの」

 

「犯罪などにも手を染める、法律無視の集団の事だよ」

 

話を戻してナツが告げた黒い奴等についてルーシィが質問する。ミラジェーンは光筆(ヒカリペン)で闇ギルドを追加で書き記し、シエルがその説明に補足を入れた。その説明にルーシィは顔に若干の恐怖心を表して相槌を打つ。

 

「悪質な連中さ。どんなに苦しむ人たちが増えても、なんとも思わねェ…」

 

顔を逸らしながら告げたシエルの表情は、どこか物憂げと言うか話のみを聞いて得た知識を語るというには妙に実感がこもっているのをルーシィは感じ取った。自分よりも年下である目の前の少年と、闇ギルドに何の関係があるのか。それに気づいたのか否か、後ろに腕を組みながらナツはルーシィに「つーか早く仕事選べよ」と急かしてきた。

 

「なんであんたにそんなこと言われなくちゃなんないわけ?」

 

「だって俺たちチームだろ?」

 

「前はオイラたち勝手に決めちゃったからね。今度はルーシィの番」

 

ナツたちのやり取りを聞いてシエルは思い出した。数日前に『本を屋敷から持ち出すだけで20万J(ジュエル)』と言う破格の報酬が入る依頼を、ナツとルーシィ、そしてハッピーのチームが受注して向かったということ。だが、その後依頼内容が『本の破棄』、そして報酬はまさかの『200万J(ジュエル)』に変更するという届け出が出されたことで、ギルド内が騒然としていたことを。

 

ちなみにその結果は、本の持出には成功したものの依頼主の意思を汲み取って破棄することを断念。依頼は失敗と言う扱いにし、報酬は受け取らなかったという。ルーシィは未だにその結果を引きずってはいるが、この話を聞いた時シエルはナツたちに、より関心を抱いていた。依頼主がそのつもりでも、依頼の内容を達成できなかったのに報酬を受け取ったとあれば、ギルドの信用に関わるからだ。本人たちにとっては損でも、今後その意識を評価してもらえれば自然と依頼も増えていくだろう。

 

そしてその時の名残でチームを組んだままだったナツたちは同じチームとして依頼に行こうと考えていたらしいのだが。

 

「冗談。チームなんて解消に決まってるでしょ?あんたたち、金髪の女なら誰でもよかったんでしょうが」

 

ルーシィにはどうやらその気はないらしい。後から聞いた話によると、その依頼で潜入した屋敷の主人『エバルー』は、スケベな女好きで金髪の美人メイドを募集していたらしい。依頼書に書いてあった内容を見てほぼ騙すような形でナツとハッピーにチーム結成をさせられたとのこと。

余談だがこのエバルー。美的感覚が残念と言うか、明らかにスケベオヤジと言うような顔立ちゆえか、自分の顔こそ美しい、という考えを持っており。その顔に似たメイドばかりを雇っていたためか、場にいたメイドは全員不細工。そして潜入しに来たルーシィはブスと言われて門前払いだったそうだ。気の毒に。

 

閑話休題。

 

そのような経緯があったために、今回限りのチームだとルーシィは思っていたが、その言葉は否定こそせずにナツは満面の笑みでこう答えた。

 

「でもそれだけじゃねぇぞ。いい奴だから」

 

笑顔でそんな言葉をドストレートに言われたら、何も言い返せない。ルーシィは照れて顔を赤らめながら目を細めた。

 

「なーに、無理にチームなんか決めなくても、すぐにイヤってほど誘いが来るさ」

 

そんな時、近くのテーブルで食事していたらしいグレイが話に加わり、ルーシィにそう告げた。

 

「グレイ、服は?」

 

「ぬぉおおおっ!?」

 

いつものようにいつの間にか下着一枚になりながら…。今みたいにシエルや誰かに指摘されてようやく気付くほど、癖になっているようだ。いつものようなお約束をしている様子にナツが「ウッゼ」とこぼした言葉に慌てていたグレイの様子が豹変した。

 

「今うぜェつったかクソ炎!」

 

「超うぜェよ変態野郎!」

 

「あ、また始まった」

 

「いつものことです」

 

額を押し付け合い罵り合いながら睨み合いの喧嘩を始めるナツとグレイ。その横でシエルとハッピーはいつもの事と言うことで軽く流している。

 

「ルーシィ、僕と愛のチームを結成しないかい?今夜二人で」

 

その喧嘩を尻目に声のした方へシエルが向くと、いつの間にか現れたロキがルーシィとチームを組もうと話しかけ(ナンパし)ていた。急なことだったからか、よく分からないからか、ルーシィは「は?」と唖然することしかできない。

 

「君って本当キレイだよね…。サングラスを通してもその美しさだ。肉眼で見たら…きっと目が眩んじゃうな…」

 

「勝手に眩んでれば…?」

 

一般の女性ならいちころであろう台詞も、最初にギルドに来た時に女好きであることが露見しているルーシィの前ではあまり意味を為さない。辛辣にも聞こえるルーシィの言葉もあまり意を介してなさそうだったが、ルーシィのスカートから下がっている金や銀の鍵束を見て、ロキの態度が一変した。

 

「き、君!『星霊魔導士』!?」

 

「何だって!?星霊!!?」

 

「え、え?」

 

ルーシィに触れるのではないかと言うほど近づいていたロキが急に後ろにのけ反って離れながら告げた言葉に、次に反応したのはシエルだ。ロキが突然怯えながら離れたのもシエルが過剰に反応したことにもルーシィは戸惑いを隠せない。そしてその二極の反応に過剰に反応したのは次のハッピーの言葉だ。

 

「うん、牛とか蟹とかいるよ」

 

「牛に蟹!?そして金色の鍵ってことは、金牛宮と巨蟹宮!?」

 

「そう、だけど…知ってるの!?」

 

思わぬ反応と知識の披露にルーシィは戸惑いながらも、自分が扱っている魔法に関心を示してくれたことに対する喜びは少なからずあるようだ。一方で…。

 

「ガーーン!な、なんたる運命のいたずらー!!ゴメン!僕たちはここまでにしよう!!」

 

「何か始まってたのかしら…」

 

ショックを隠し切れない様子でロキはそのまま立ち去ってしまった。最後に告げた言葉にルーシィは呆れながらツッコミを入れる。ロキの中では始まっていたつもりだったのだろう、多分…。

 

「ロキは星霊魔導士が苦手なんだよ。俺は本で星霊について知って、少し憧れてたんだよ…!」

 

「そうなの?なんかあたしも嬉しいな~」

 

『星霊魔導士』―――。

今シエルたちが存在する『人間界』とは別の時空に存在する世界『星霊界』に存在する生命体である『星霊』を召喚し、使役する魔導士の事。誰でも扱えるわけではなく、生まれ持った特別な魔力を持つ者と、星霊ごとに分けられている召喚のための鍵を持つ者のみが扱える希少性の高い魔法なのだ。

 

大まかな鍵の種類も二つに分けられている。銀の鍵は同種のものが複数本存在して、店での売買も行われている、汎用性のあるもの。金の鍵は世界に一本ずつ。『黄道十二門』と呼ばれるレアものであり、一本見つけるだけでもかなりの幸運なのである。

 

だが、目の前の少女ルーシィが持つ鍵は銀が4本、金が3本。つまり黄道十二門を3体所有している魔導士と言うことが分かる。

 

「鍵が見えた時、まさかな、とは頭の中で思ってたんだけど、本物に会えるなんて…!しかも金の鍵3本持ち…!!」

 

「あらあら、こんなシエル見るの久しぶりね」

 

「な、なんか照れ臭くなってきたな~」

 

最初に会った落ち着いた印象はどこへやら、年相応の輝かしい表情でルーシィの見る目が変わったのではないかと思える豹変ぶりにミラジェーンは微笑ましそうに、ルーシィは気恥ずかしそうに感想を零した。ちなみに誰も言わなかったので補足するが、ロキが星霊魔導士を苦手としている理由は女絡みでトラブルがあったという噂があるものの、真実は誰も知らないらしい。

 

「てめェいい加減にしやがれツリ目野郎!」

「そっちから吹っ掛けたんだろうが垂れ目野郎!」

「単細胞!!」

「おしゃべりパンツ!!」

 

「うわ…レベル低…」

 

「「いつもの事です」」

 

一方で取っ組み合いの喧嘩をしていた二人は再びレベルの低い罵り合戦を繰り広げていた。あまりにもレベルが低いのでルーシィの冷めたツッコミが入るが、シエルとハッピーがさり気なく告げていた。だがそんな喧嘩も日常茶飯事。ギルド内にいるメンバーたちはその様子を笑いながら眺めていて誰も止めようとしなかった。その様子に呆れていたルーシィも笑みを浮かべた…瞬間だった。

 

「大変だぁあっ!!!」

 

先ほどルーシィから離れると同時にギルドの外へと出て行っていたロキが、門扉を突き破る勢いで開け放ちながら大声を上げて入ってきた。その様子に中にいた者たちが全員静まり返るが、次の言葉でその静寂は再び消えることになった。

 

 

「『エルザ』が、帰ってきた!!」

 

瞬間、驚愕とどよめきと恐怖と言った感情の籠った声の数々がギルド内に流れる。喧嘩の最中であったナツとグレイもそれを聞いた瞬間顔を歪めて喧嘩を止めるほどだ。

 

「エルザさんって…?」

 

「今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の最強の女魔導士さ。あまりの強さについたあだ名が『妖精女王(ティターニア)』のエルザ」

 

ほとんどの者が戸惑いと恐怖に占められる中、エルザをよく知らないルーシィと、数少ない恐怖を抱いた様子がないミラジェーンとシエル。ルーシィの疑問に不敵な笑みを浮かべながらシエルが答えると、ルーシィの面持ちに緊張の色が芽生え始める。

 

そして、聞こえてきたのは金属がこすれるような重量感のある音。規則正しいリズムでこちらに近づくそれは足音のようにも聞こえる。

 

「エルザだ…!」

「エルザの足音だ…!」

「エルザが戻って来やがった…!」

 

周囲のリアクションに、やはりすごい魔導士なのだと改めて実感させられたルーシィは、とうとう周りと同様に表情を恐怖に染めた。その脳内に浮かぶのは町の建物を優に超える巨体で頭から角の生えた女性が、口から火を噴きながら街を破壊している映像。もはや怪獣扱いだ。

 

そして、なにやら巨大な物体を片手で持ち上げながら堂々とした様子で入ってきたのは、上半身を鎧で身に纏い、下半身は女性らしい紺色のミニスカートを身に着けた、腰まである流れるような緋色の髪を持つ女性だ。目元をきりっとさせているが、その顔立ちは同性であるルーシィをもってしても見惚れてしまうほど端正で整っている。彼女こそが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の最強の女魔導士である、エルザ・スカーレットである。

 

「今戻った。マスターはおられるか?」

 

手に持っていた巨大な物体をギルド内の中央に轟音を立てながら置き、凛々しい声色と口調で尋ねたエルザに答えたのは、エルザに全く怯む様子のないミラジェーン。

 

「お帰り。マスターは定例会よ」

 

「そうか…」

 

返答を聞いたエルザはその一言だけを零す。どこか落胆しているように聞こえることに気付いた者はどれくらいいるであろうか。いや、それよりも注目すべき、と言うか聞かなければならないことがある。彼女が持ち帰ってきた巨大物体の事だ。煌びやかな装飾がされているが、どこか角のようにも見える形をしている。

 

「ねえ、エルザ…そのやけにデッカいのは何…?」

 

あまりにも目を惹いてしまうその物体に思わず尋ねたのはミラジェーンと同じく怯む様子のなかったシエル。その目に戸惑いも宿しているが、戸惑いの原因は間違いなく今シエルが尋ねた物体だろう。

 

「討伐した魔物の角だ。地元の者が土産にと飾りを施してくれてな…。迷惑だったか?」

 

「ううん別に。けど強いて言うなら、その中央じゃなくて端っこか表に出すかしてもらった方が助かるかな、スペース的に」

 

「ふむ、それもそうだな…。後で移動させておこう」

 

エルザの一挙手一投足にビクビクとしている周りとは対照的にいつも通りに接するシエル。そんなシエルの様子に周りはハラハラしながらも尊敬の意を込めた視線を向けていたが、気づいているのかいないか、本人はどこ吹く風だ。シエルの近くにいてやり取りを見ていたルーシィはと言うと「なんかイメージと違う…」と周りの反応にそぐわぬエルザの言動に純粋に疑問に近い感想を零した。だが、彼らの怯えの要因が一部明かされるのはここからだった。

 

「お前たち、旅の途中で噂を聞いた!妖精の尻尾(フェアリーテイル)がまた問題を起こしているとな。マスターが許してもわたしが許さん!」

 

瞬間、ギルド内にいるほとんどの者たちに戦慄が走った。心当たりがあるからだ。このギルドにおいても相当の上の立場にいる彼女の耳にまで飛んでいる噂によって、今自分の首を絞めていることになっている。そして旅先での噂だけでなく、今この瞬間でも彼女のその指摘は健在だ。

 

まず、カナが露出の高い格好で酒を呑んでいることを指摘したかと思えば、自身の考案した踊りを披露する趣味のある「ビジター」に外でやるよう注意し、リーゼントヘアーで煙管(キセル)をふかせている中年魔導士「ワカバ」には吸い殻が机に落ちているという細かいところまで目をつけ指摘した。

 

「ナブ、相変わらず依頼板(リクエストボード)の前をウロウロしているのか?仕事をしろ」

 

「あ、そのことだけど聞いてよエルザ。俺昨日依頼選ぶの手伝ったんだけど…」

 

「どわあああっ!余計なこと言うんじゃねェっ!!」

 

異国の民族風の出で立ちをした『ナブ』も、普段の行動をエルザに指摘されたのだが、それに追加の罪状を密告しようとしたシエルに気付いて慌ててその言葉を遮った。ちなみに彼は、いつからか定かではないが、一日中依頼板(リクエストボード)の前を右往左往しており、全く依頼を受ける様子がない。それに気を遣っておすすめの依頼をシエルが選んだにも関わらず、あれこれと理由をつけてどれも受けようとしなかった。というのが、昨日の出来事だ。

 

取り敢えずその詳細は後程密告者(シエル)から聞くことに決めたエルザは次いで深い青色のオールバックの髪をしたワカバと同年代の男性「マカオ」に目を向ける。

 

「マカオ………はぁ…」

 

「なんか言えよ!!」

 

だが名前を呼んだだけでそのあと何も言わず一つ溜息をつくだけ。何を思ったのだろう、何の意味を持つのだろう、マカオにはそればかりが心の中を支配していた。

 

「全く世話が焼けるな…。今日のところは、何も言わないでおいてやろう」

 

随分色々と言っていたような気がするが、そこは声に出さずに心に留めておこう。ルーシィはそう決めた。風紀委員か何かだろうか?

 

「それがエルザです」

 

「心の声読まないで!」

 

心に留めておこうと決めたのにハッピーにあっさり暴かれて思わずルーシィは突っ込んでしまった。でもこれに関しては自分は悪くない、そう信じたい。

 

しかし、今ルーシィの把握したエルザの人物像は「ちょっと口うるさくはあるが、常識的なちゃんとした人」であり、ギルドのメンバーがあそこまで怖がる理由が分からない。まだしばらく様子を見ようとしていたルーシィだったが、彼女はその後、すぐに異様な光景を見ることになった。

 

「ナツとグレイはいるか?」

 

「ここにいるよ~」

 

エルザの問いかけに指をさして答えたのはシエル。その先には体中から汗を吹き出し、顔を引きつらせながらも、肩を組んで、空いている手を握手に近い形で組みながらエルザに向き合うナツとグレイ(さっきまで喧嘩してた二人)

 

「や、やあ、エルザ…今日も俺たち、仲良くやってる…ぜい…?」

 

「あ゛い゛…」

 

「ナツがハッピーみたいになったぁ!!」

 

「え、注目するとこそこなの…?」

 

ついさっきまでレベルが低いとはいえ喧嘩をしていた二人が仲良しアピールをしている異様な光景よりも、ハッピーの物真似のような返事をしているナツの方がルーシィにとって衝撃だったのか?そんな純粋な疑問をシエルは思わず呟いた。

 

「そうか、親友なら時に喧嘩もするだろう。しかし私はそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」

 

「いや…親友ってわけじゃ…」

 

「あい…」

 

「こんなナツ見たことないわ…!」

 

これほどまでに彼らが怯えているのは、単純だが理由はある。ナツはその昔、エルザに勝負を挑んだのだが、ボコボコにされて完敗した。グレイは街を裸で歩いているところを見つかって。ついでにロキもエルザを口説こうとしてボコボコにされたらしい。

 

閑話休題。

 

二人の(本人にとっては)仲のいい様子に満足げのエルザであったが、本題に戻るために表情を険しくして用件を伝え始めた。

 

「ナツ、グレイ、実は頼みたいことがある。仕事先で厄介な話を耳にした。本来ならマスターの判断を仰ぐとこなのだが、早期解決が望ましいと私は判断した。二人の力を貸してほしい、ついてきてくれるな?」

 

その言葉に二人だけでなく、ギルド内の全員が驚愕した。エルザほどの実力を持つ強力な魔導士が、他のメンバーに協力を要請、しかもエルザほどではないにせよ、ギルドの中で上位の実力を持つナツとグレイを指名したことに。

 

「(エルザが、それほどまでに危惧することなのか…?)」

 

詳細は翌日の移動中に話すとのことだったが、彼女の話と様子からして、ただ事ではないのは事実。シエルの胸の内でも不安に近い感情が集まっていき、考えうる状況の整理が始まっているところだった。

 

「エルザと、ナツとグレイ…今まで想像したことも無かったけど…」

 

ざわつくギルドの内部で、シエルの耳に鮮明に届いたのは、ミラジェーンの呟きだった。

 

「これって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強のチームかも…!」

 

その呟きを聞いていたシエル、そしてルーシィにも、彼女が示した事実に表情を驚愕に染めていた。

 

思えば、ここからが始まりだったのかもしれない。ルーシィにとっても、シエルにとっても。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の最強チームとして、いい意味でも悪い意味でも、数々の活躍をギルドに残していく日々の…。

 

だがそんな未来を知る者は、今ここにはいなかった…。




おまけ風次回予告

※アニメの次回予告風に想像してお読みください



ルーシィ「妖精の尻尾(フェアリーテイル)って色んな人たちがいるけど、シエルみたいな子供でもちゃんと魔導士なのよね…」

シエル「子供みたいだからと言って甘く見ないでよ?この見かけのおかげで、街中では可愛がられて得したり、盗賊相手とかは見かけで油断した隙を突けば一発で崩せたり出来るからさ」

ルーシィ「外見に似合わずえげつないわねあんた!?」

シエル「あ、でも年下ではあるけど、このギルドにおいては先輩でもあるんだから、ちゃんとそれなりの態度では接してよ?」

ルーシィ「あ…それもそうよね…。見かけだけで態度変えるのも確かにいけないし…気をつけます…」

シエル「ま、と言ってもみんな結構フランクだから気にし過ぎなのもいけないけどね」

次回『呪歌』

ルーシィ「そう言えば、シエルが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったのっていつ頃?」

シエル「正式なメンバーとして加入したのは…ルーシィが来る三日前ぐらいかな?(笑)」

ルーシィ「それほぼ同期じゃないのーー!!(怒)」
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