FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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正午までに書き終えたかったのに家の都合でまーた遅れました。本当お詫びだけじゃ足りないや…。

後書きを書く時間も足りませんので、一旦は後書きが空欄のままの投稿になります。今日(12/6)中には編集で書き加えておきますね…。(汗)

12/6 21:10:後書きを追加いたしました。

そしてもうひとつお詫びが。次回の投稿は再来週になります。来週はまた書ける時間が確保できそうにないので…。今年までに楽園の塔終われるかなぁ…。年末で一気に書きたいところ…。


第27話 シエル vs. 斑鳩(いかるが)

──今から数か月前…。依頼から帰りギルドの中で休んでいたエルザの元に、彼は訪ねてきた。水色がかった銀色の髪に一筋の金色のメッシュの入った、年齢よりも幼い容姿をした少年が。

 

「エルザ、実は頼みたいことがあるんだ」

 

「頼み…私にか?」

 

この時のエルザは依頼に向かう時もほとんど一人で行くことが多かった時期だ。誰かとチームを組むわけでもない上、S級魔導士として認められる確かな実力もある。同行者がほとんど必要なかったという理由も含まれているが、彼女はギルドでほとんど単独の行動をとることが多かったというのも一つだろう。

 

しかしギルドに加入した当時は兎も角、数年も経った今となっては新人にギルドのことについて教えたり面倒を見るぐらいにはなっている。そんな彼女に少年・シエルが頼みだしたこととは…。

 

「俺と、魔法で勝負してほしい」

 

それを聞いた瞬間、ギルド内全てに衝撃の声が上がった。「無茶だ!」「無謀だ!」「死んじまうぞ!」「オレだって勝負してぇ!」と言ったような、ほとんどがシエルを止めようとしている者達。

 

「どういうつもりだよ、エルザがどんだけ強いかは知ってるだろ…!?」

 

「だからこそさ」

 

一番近くにいたグレイが耳打ちするように彼に投げた質問にシエルは返した。そもそもこの勝負、自分が勝つことを目的としていないのだ。エルザがどれほど強いかを知った上で勝負を挑んだことに、周りの者たちは疑問符を浮かべる。

 

シエルが扱う魔法「天候魔法(ウェザーズ)」は実力が劣る格下相手ならば、大多数でも、むしろ大多数を相手にすれば絶大な効果を発揮する。しかし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)での仮加入期間の合間にこなしてきた依頼の中、彼の魔法は大きく差が開いた格上一人が相手の場合、有利に戦えないことが発覚した。これはシエルの弱点とも言える。

 

「そんな弱点を克服するためには、より格上と実際に戦って経験を積む事じゃないか、って思ってね。エルザには、勝負と同時に鍛えてもらえないか、お願いしに来たってわけさ」

 

「なるほどな…」

 

自らの魔法、そして実力を客観的に分析し、見つけ出した弱点を放っておかずに対処する。エルザへの挑戦に含まれた意味を説明され、勝負を挑まれたエルザも含め、周りは納得した様子を見せる。真剣な勝負と言うよりは稽古に近いようだ。それを聞いて幾分か安心した者もいるだろう。

 

そしてそんな勝負もとい稽古の相手に、エルザが選ばれた理由であるが、S級魔導士として確かな実力があることも理由になるだろうが、その条件を満たしているのはエルザだけではない。だが同じS級であっても、ラクサスは稽古を頼んだとしても受けてくれるとは思えない。ミストガンとはそもそもシエルからの面識はほぼ0と言っていい。ミラジェーンは魔導士を引退した身でとても頼めない。残る二人も依頼でギルドを留守にしていて、いつ帰ってくるか不明である。

 

どのみちどう足掻いてもエルザ以外にシエルの頼みを聞ける者がいないのだ。

 

「…よし、良いだろう。私に任せておけ」

 

「ありがとう、エルザ!」

 

「ただし、やるからには容赦はしないぞ。勝負も稽古もな」

 

エルザからの承諾を受けて表情を喜色に染めるシエル。だがその後に続けられた言葉に、彼は身を引き締めた。恐らく想像を絶するような厳しい試練となるのだろう。だがこれを乗り越えられなければ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士としての成長は望めない。厳しくなろうとも乗り越えなければ。シエルは既に覚悟を決めた。

 

 

 

そんな想像も覚悟も、斜め上…どころか垂直上昇とも言えるレベルの過酷さを極めることは、この時予想などできなかった…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

『ダメだシエル…!奴はお前の手に負える相手じゃないんだ…!!』

 

楽園の塔の最上階がもうすぐそこにまで迫ってきた異国風景が広がるそのエリアにて、シエルが対峙するは暗殺ギルド髑髏会・三羽鴉(トリニティレイヴン)の隊長であるその女性、斑鳩。彼女の一挙手一投足を見逃すまいと睨みを利かせているシエルに対し、余裕な佇まいを崩さない笑みを向けている。そんな笑みも含めて、なのだろうか…カード越しからでもシエルが今対峙している女性との魔力の差を感じさせられる。シエルが最も苦手としている、圧倒的な個の力を有した魔導士だ。

 

 

微かに笑みを深くした斑鳩は、剣の柄を握る右手を微かに動かす。

 

「っ!!」

 

身体の右側を後方にずらして身をずらしたと同時に、シエルにいくつもの斬撃が襲い掛かる。動かなければ確実に斬られてしまったであろうその斬撃を躱すことは出来たが、完全には躱しきれなかったらしく、服の右部分に切り傷が入ってしまう。

 

落雷(サンダー)!!」

 

態勢を立て直すと同時に雷の魔力を上空の雲に目掛けて放ち、落雷を発生させる。しかし、その落雷は後ろに飛び退かれることで簡単に避けられ、そのまま空中で斑鳩は再び剣を向ける。

 

右方向に飛び退きながら予感していた斬撃を躱し、シエルは次の攻撃を仕掛けていく。右手に向けるのは緑色の魔法陣から放たれる横方向の竜巻(トルネード)。だが…。

 

「無月流…『夜叉閃空』!」

 

着地と同時に抜刀し、巡りくる竜巻に斬撃を浴びせると、何と視認できる程の強風となっていた竜巻が剣閃によってバラバラに、そして勢いを殺されたまま霧散していった。

 

「た、竜巻を…斬った!!?」

 

「だったら!吹雪(ブリザード)砂嵐(サーブルス)!!」

 

人間技とは思えぬ芸当を目の前にして仰天するショウの声で事実を再確認し、それでもなお退かぬシエルは次の手を繰り出す。凍えるほどの雪を纏った嵐と、視界を遮る砂礫を纏った嵐。二種類の竜巻を同時に放って斑鳩の元へと襲い掛かる。

 

しかし、それに対しても斑鳩は余裕を崩すことも無く…。

 

「無月流『旋風(つむじ)独楽(ごま)』」

 

抜刀したまま己の身体をその場で一回転。するとたったそれだけの動作で二種の竜巻に引けを取らぬ斬撃の嵐がそれとぶつかり合い、一瞬のうちに両方を消し飛ばす。

 

「何だと…!?」

 

「うちに斬れないものはありません」

 

いとも簡単に自分の魔法が尽く打ち消されていく様子を、信じられないものを見るように驚くシエルに、斑鳩は言葉ともに再び斬撃を飛ばす。そして次の瞬間、シエルの右脇腹から左肩にかけて一閃が走る。悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、シエルは背中から床に叩きつけられる。やられてしまった。ショウは自分と同様簡単に斑鳩に敗れてしまった少年の姿を見て、そう確信した。

 

 

 

 

対して斑鳩は、浮かべていた笑みを、怪訝な表情へと変えていた。そして己の左側に視線を移したかと思うと、何もない視線の先にある虚空に向けて夜叉閃空を放つ。すると…

 

「ぐあっ!!な、にっ…!!?」

 

何もなかったその虚空からシエルの姿が切り傷とともに現れた。斬撃の衝撃を受けてシエルは足場となっていた水場に沈むような形で飛ばされる。そして、ショウが先程見ていたシエルの姿は溶けるように消えていった。蜃気楼(ミラージュ)である。

 

「え、え…?な、何だ、今何が…?」

 

状況が理解できずに戸惑うばかりのショウに対し、カードに閉じ込められているエルザは蜃気楼(ミラージュ)によって姿を消したシエルの位置を見破った斑鳩に驚きを表していた。自分も微かな気配で本物を見破った経験はあるが、それは事前に幻影の魔法があると知っていたから。対して斑鳩は全くの情報がないにも関わらず、本物のシエルの位置を特定し、的確に攻撃してきたのだ。

 

「びっくりしはりました?姿が見えていないことを利用して、うちに不意打ちしようと思わはったんでしょうけど…残念でしたなぁ~」

 

再び余裕を感じさせる笑みを浮かべてシエルに呼びかける斑鳩の声に対し、彼は沈んでいた水の中から勢い良く立ち上がる。その反動で、彼に押し上げられた水が勢いよく音を立て、滴り落ちる雫が周りの水面に波紋を立てる。

 

そして少年の顔には怒りと悔しさが混じった、険しい表情が浮かび上がっていた。

 

「あらぁ、いややわ~そんなに睨んで怖い…。かいらしい顔が勿体無いどすえ?」

 

そんな表情を見て怯えるどころか一層の余裕を感じさせる斑鳩の言動に、シエルは感情的になるのを抑え、身に纏っていた星霊界の服の内、外套と上着を脱ぎ捨てる。水分を多く吸収したうえ、斑鳩によって所々傷を入れられて台無しになったからである。

 

「折角バルゴが用意してくれたのに…あとで謝んなきゃいけねえじゃねえか…!」

 

怒りを滲ませながらもどこか心のゆとりを感じさせるその言葉。自分自身を安堵させるためのようにも聞こえるその言葉を独り言ち、シエルは一つ深呼吸を行う。その間に斑鳩は動く気配が無かった。まだ勝算はある。

 

日射光(サンシャイン)!!」

 

瞬間的に日光の魔法を斑鳩目掛けて放つ。相手の視界を封じて敵の行動を鈍らせる方法をとれば、戦況を有利にできるはず。事実、突如発せられた光に斑鳩は対応が遅れ、表情は驚愕、そして視界を封じられて苦悶のものへと変貌する。

 

「こ、これは…!また狡いこと…!」

 

余裕を保っていた斑鳩がここに来て調子を崩したことにシエルは思わず口角が上がるのを感じた。斑鳩の耳に届かないように無言で乗雲(クラウィド)を発生させ、橋の下を経由して斑鳩の背後をとる。そしてそのまま、落雷(サンダー)の魔力を雲に飛ばし、斑鳩を狙い撃つ。

 

しかし、雷とはどうあっても轟音を鳴らすもの。方向を悟られては避けられる可能性が高い。ならばどうすればいいか。実に簡単。純粋な数の暴力だ。斑鳩を囲むようにして落雷(サンダー)の魔力を飛ばし、あらゆる方向から雷で斑鳩を追い込むこと。

 

「(さあ、落ちよ雷たち!あの女に、逃げ場をなくせ!!)」

 

心の内に留めて雷を一斉に落とす。数ある天候の中でも屈指の速度と威力を有する雷を多数落とされれば、いかに差の広がりが多い格上の相手であっても対応はできない。しかも視界を封じられている今の斑鳩にそのような手段もあるはずがない。

 

 

 

ある()()が…なかった…。

 

 

それはシエルの、想像でしかなかった。

 

「無月流、夜叉閃空」

 

雷が直撃する寸前、瞬時に抜刀し、次の時には太刀を納めていた斑鳩。その身には一切の傷は存在しなかった。彼女の足元を囲むように、橋に焦げ目が入っているが、彼女の立っている場所、そして彼女自身の身体には何一つ、そのような痕が無かった。

 

「…え…?」

 

呆けるシエル。その僅かな呟きを耳にした彼女の次の行動は早かった。

 

彼の足場となっている乗雲(クラウィド)が縦方向に真っ二つに切り裂かれる。あの一つの言葉だけで、彼女はシエルの位置を特定した。目を閉じながらも迫りくる雷の気配を感じ取り、一つ残らず一刀のもとに切り裂き、自身への被害を皆無としただけでなく、シエルの方向へと再び斬撃を飛ばしてきたのだ。

 

「やばい!!」

 

足場を切られてバランスを崩しかけたシエルは咄嗟に雲から脱出。橋が繋ぐ双方の足場へと着地することに成功したが、その表情は驚愕と焦燥が入り混じっている。

 

視界を封じてもなお、雷による多方向の攻撃を対処し、あまつさえ自分に反撃もしてきた。暗殺ギルドの中でもダントツな実力者たちが集う部隊で、隊長と名乗る程の実力者。これほどまでの差があるとは、正直予想できなかった。

 

「うちの目を潰しただけで、うちに勝てると思っとったんどす?うふふ…舐められたもんどすなぁ」

 

小細工は最早通用しないだろう。圧倒的な力の前ではもう小手先の手で優位に立つのは不可能だ。瞬時に考えを入れ替えたシエルは、上空に依然として浮かんでいる雲に向かって、最後の手を使用する。

 

豪雨(スコール)竜巻(トルネード)!混ざり弾けて、この空間を蹂躙せよ!台風(タイフーン)!!」

 

上空を覆い密集する雲を経由して、視界と音を封じる雨と、辺りを蹂躙する暴風が起こり出す。エルザが閉じ込められたカードを必死に握るショウは、シエルが起こした台風に飛ばされまいと、狛犬を模した石像の一つにしがみつく。

 

純粋な威力を重視したこの技に、最早全てを賭けるしかない。シエルのそんな思いが感じられたのか、ショウは自分をも巻き込みかねないその技に対して文句を言わず、彼の勝利をどこかで信じている。

 

対して斑鳩は、太刀を納刀した構えの状態で、風に体を飛ばされまいと踏ん張っているようだ。これを見たシエルは追い打ちをかける。台風(タイフーン)が発動している大嵐の中に落雷(サンダー)の魔力を投入し、更なる破壊力を生み出しす。これが成功すれば、最早勝利も難しいものではない。

 

 

 

 

 

「無月流…『迦楼羅(かるら)(えん)』」

 

そんな彼の打算は無情に打ち砕かれた。斑鳩が抜刀と共に発したのは太刀すら飲み込む規模の炎。その炎は上空に密集する雲目掛けて放たれ、高温の炎をぶつけられた雲は斬撃を起点として瞬く間に蒸発。雨と竜巻、辺りを蹂躙した気候は雲とともに消滅し、先程までの悪天候が嘘のように静まり返った。

 

「…っ…!う…そだ……」

 

全くもって歯が立たない。正面突破も、少々こずるい手も、シエルの全てが斑鳩には届かない。あらゆる手段も通じず、打ち消されてしまった。

 

勝てる手立てが…ない…。

 

「坊ちゃんの割には、中々楽しめました。…でももう、終いどす」

 

斑鳩その言葉を告げた瞬間、シエルの体中の至る所に切り傷が走る。そしてそれと同時に赤い液体が傷から噴き出した。

 

「今度は…本物みたいどすな…」

 

ようやく視界が戻ったのか目を少し開いてシエルの姿を映し出す。それは、感情を失ったかのような表情のまま、血を流して目の目利に倒れ行く少年の姿だった。

 

『シ…!シエルゥウウウッ!!!』

 

薄れゆく意識の中で少年の耳に最後に聞こえたのは、カードの中に未だに囚われの身となっている、仲間(エルザ)の叫びだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

地面に背を付けて、身体を大の字にして寝転がりながら、未だ整う事のない荒い呼吸を何回も繰り返す少年を、呆れながらも優し気な眼差しで見下ろしてくる緋色の髪を持つ女性。

 

「どうしたシエル?稽古を申し出てきたのはお前だろう?もう終わりにするのか?」

 

「はあっ、はあっ…!まだ…やる、けど…!息が…中、々…戻ら、なく、て…!!」

 

へとへとの状態でありながらもこのまま終わらせるつもりはなさそうなシエルに、「そうか」と少し笑いながらエルザは返す。息が戻らないシエルに対して、彼女は息切れどころか汗一つすら出ていない。実力の差による違い、と言えばそこまでなのだが、エルザとの勝負、及び稽古はとんでもないと形容するにも生ぬるい程に過酷であった。

 

まず勝負自体は、互いにどのような魔法を使うのかは知っているので、その上でシエルは先手必勝とばかりに竜巻(トルネード)を繰り出した。しかし横方向に奔る竜巻は換装で装備した彼女の剣によって真っ二つに斬られて突っ込まれ、焦りながらも続けざまに出した吹雪(ブリザード)は再び換装魔法によって取り出した炎の大剣によって蒸発させられた。

 

身の危険を感じたシエルは蜃気楼(ミラージュ)を咄嗟に使って回避するも、幻影のシエルを斬った直後に違和感を感じたエルザは、微かなシエルの気配を感じ取って、気づけば彼女はシエルを組み敷いていた。あまりにも一方的で呆気ない勝敗である。

 

それからと言うもの、シエル自身の視点やエルザからの視点それぞれからシエルの魔法の弱点を補う方法を模索。そしてその方法を実用できるように鍛錬を始めたのだが…何かもう、常識的な視点から見れば、確実に一般人がこなすことすら出来ないハードメニューを何セットもやらされた、という事だけ記載しておこう…。

 

「覚悟自体は、決めてたんだけど…こんなに、きついなんて、思わなかった…!」

 

「これでも少し控えた方だぞ?何なら再開した際にはさらにメニューを追加するが」

 

「ヤメテクダサイシンデシマイマス」

 

エルザから告げられた宣告に息切れも忘れて虚ろな目となりながら早口で呟くシエルに、エルザはさらに笑みを深めて「冗談だ」と返してきた。こんな冗談も言えるのか…と言うより、冗談に聞こえなかったのは気のせいだろうか…と思わずにいられない…。ようやく息を整えられたシエルが上体だけを起こすと、エルザに目を向けて徐に尋ね始めた。

 

「…でもちょっと、意外だった」

 

「意外?何がだ?」

 

「頼んでおいてなんだけどさ、こんなに親身になってくれると思わなかったんだ」

 

エルザがギルドに来たばかりの頃は、周りに溶け込もうともせず、常に一人で何かしらの行動をしていた印象だったという話を、昔からギルドにいる面々から聞いたことがある。楽園の塔を作らせる奴隷として捕らえられていたこと、そこから解放される直前にジェラールに裏切られたことなどが原因となっていた。そんな彼女も時を重ねるにつれて比較的柔らかく、そして一人でいることが少なくなっていったのだ。だがそれでも、どこか他人と必要以上に関わろうとしないエルザが、自分にここまで親身になってくれているのは意外だったのだ。

 

「…そう、見えていたか…」

 

シエルに指摘された自分の印象を聞いたエルザは、どこか複雑そうな表情のまま先程とは違った儚げな笑みを浮かべた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

倒れ伏し動かないままの少年を見て、ショウは己の身体が震えているのを感じていた。圧倒的な力を目の前にいた、恐怖から生まれる震え…。

 

「だ、ダメだ…!強すぎる…次元が違い過ぎる…!!」

 

そんな彼の恐怖による呟きに意も介さず、斑鳩はショウの…正確にはショウが手に持つカードに閉じ込められたままのエルザに視線を移す。まずい。直感的にショウは斑鳩から離れなければいけない、と感じ取りエルザをしっかりと持って立ち上がり駆け出す。しかし、逃がす気のない斑鳩は彼にまたも刃を振るう。その剣閃は、彼の身を斬らず足元に亀裂を走らせる。だがその亀裂が走った途端、ショウの身体は力を無くしたように動かなくなり、その場に倒れ伏した。

 

「な、何だ…!?体が…動か、な…!」

 

「服も身も斬らずに神経のみを斬りました。うちの無月流ならば、こんなことも可能なんどす」

 

立ち塞がる少年、逃げようとした青年を斬り伏せ、斑鳩はついに目当ての人物の相手を目前とした。その目当ての人物は未だにカードに入れられたままだ。

 

『ショウ!今すぐここから私を出せ!』

 

「安心して…。そのカードはプロテクトしてある…。絶対に外から傷つけることは出来ないんだ…」

 

「へえ…」

 

その説明を聞いて何かが刺激された様子の斑鳩。カードの中のエルザ目掛けて彼女は剣を一閃する。斬られなかったカードの様子に安堵した様子のショウであったが、その中のエルザの様子を見て、驚愕に目が見開かれた。

 

カードの中のエルザに斬撃が渡り、己の剣で防ぎ切った様子が映されていたのだ。

 

「カードの中を…空間を超えて斬ったァ!?」

 

驚愕をするショウの言葉に確信を得た斑鳩の猛攻は続く。目にも止まらぬ早業を連続で繰り出していき、カードの中のエルザに襲い掛かる。エルザはそんなカードの中で、剣で防ぎ、身を引いて躱し、襲い来る斑鳩の剣劇に対処していく。

 

そして幾分かその拮抗を続けていったその時、カードが光を発し、収まることも無いままエルザの姿がそこに出現した。カードの中から出ることができたのだ。微笑む斑鳩と驚愕するショウに対し、聞かれる間もなくエルザは答えを告げた。

 

「貴様のおかげで空間に(ひず)みが出来た。そこを斬り開かせてもらった」

 

あっさりと言ってのけているがとんでもない方法だ。空間を超えてくる剣も相当だが、それによって生まれたわずかな歪を利用するなど見事としか言えない。ショウは先程の恐怖も忘れて、感涙に打ちひしがれていた。

 

「本来なら貴様に用はないと言いたいところだが、仲間をあのような目に遭わされて黙っているわけにもいかん…。斬り捨てさせてもらうぞ…!」

 

シエルに対して行われた所業に、怒りを隠そうともせず露わにするエルザ。対面した者が畏怖するほどの剣幕であるにも関わらず、斑鳩の笑みに変わりはない。「挨拶代わりどす」と、表情を変えずに告げると、エルザが纏っていた鎧に罅が入り、瞬く間に広がっていって砕け散る。

 

「あれぇ、もしかして…見えてませんでした?」

 

エルザにさえ見えぬ速さを誇る剣閃。その事実を垣間見た二人の顔にまたも驚愕が移された。ジェラールに対する怒りや、シエルを倒されたことへの怒り、様々な感情が交錯していて、まわりが見えなくなっていると、指摘される。

 

「うちは路傍の人ではありませんよ」

 

「…そのようだ、な…?」

 

ふと、エルザの様子が変わったことに気付いた。己を敵として見定めた、とはまた違う、何か呆気にとられたような表情。その目線は自分…ではなく自分の後方に向けられているように見える。確か後方には…いや、そんなはずがない、と自分に言い聞かせながらも斑鳩は後方に振り向いた。

 

 

 

 

 

そして目にした、先程まで倒れ伏していた少年が、満身創痍と言えるまでに傷ついた体のまま、立ち上がろうとしていた光景を。

 

自分の剣であそこまで叩きのめしたというのに、まだ立ち上がろうとする気力があったのか、と斑鳩は驚愕した。既に出血量を見ればいつその命を落としてもおかしくないというのに。

 

息も絶え絶え、目も満足に開けていない。だが、その細く開かれた目は、未だに斑鳩を捉えて諦めを映さない。自分の頭上に目掛けて右掌を伸ばすと、青い魔法陣が浮かび上がる。豪雨(スコール)と同じく雨の魔力を表すものだが、放たれたのはそれとは違うものだった。

 

「『慈雨(ヒールレイン)』…!」

 

放たれた魔力は小さい雲を作り出し、その雲から淡い光を発する小雨が、シエルにのみ降り注ぐ。一体何をしているのか、怪訝な表情を浮かべる斑鳩は、シエルの姿を見てその顔を驚愕に染めた。小雨に打たれるシエルの体中の傷が、次々と、見る見るうちに塞がっていく。そして体中に付いていた血は、雨によって洗い流されていく。

 

慈雨(ヒールレイン)』は視界や音を遮る豪雨(スコール)とは違って、優しげな小雨の魔法だ。回復力と治癒力を高める日光浴(サンライズ)と同系統の治癒に関する魔法だが、こちらは瞬間的な治癒専門。瞬く間に傷を癒して出血を抑え、身体の欠損の際にも瞬間的に塞ぐことができるほどの効力を持つ。さすがに体が欠損すれば再生することは出来ないが、それでも長い期間を要する細胞分裂による回復を一瞬で終わらせることができる性能だ。

 

しかし、これにはデメリットもある。魔力の回復もできる日射光(サンシャイン)とは違い、この慈雨(ヒールレイン)は魔力の消費量が他と比べても膨大なのだ。使いどころや頻度を間違えると、自発的に魔力欠乏症を引き起こす原因にもなってしまう。

 

「シエル!もういい、お前は下がれ!こいつは私が引き受ける!」

 

傷を治しはしたが、魔力はもうほとんど限界に近いと悟ったエルザはシエルを下がらせようと彼に呼びかける。だが、彼はそれを聞き入れようとせず、斑鳩に敵意の視線を未だ向けている状態だ。

 

「自分からこいつに勝負吹っ掛けといて…そんなあっさり引き下がってたら…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として、ギルドに名を連ねる者として、大恥でしかないじゃんか…!」

 

「実力差がかけ離れた相手に敗北することは、何の恥でもない…摂理とちゃいます?」

 

強がりにしか聞こえない。そんなシエルの言葉に対して余裕の笑みを引き戻した斑鳩の問いかけに、シエルは「ハッ」と鼻で笑う。その様子に斑鳩の笑みが一瞬歪む。

 

「かけ離れた…?バカなこと言うなよ。エルザだったらいざ知らず、お前を相手に実力差がかけ離れてる、だなんて言われる筋合いはねえよ。厚化粧女…!」

 

ブチッっという血管の切れる音を、斑鳩は自分自身で自覚した。目が鋭くなるのも、笑みを浮かべた口角が引きつくのも、全部。舐められたものだ。さっきまで自分を相手に全く歯が立たなかった癖に。直感で躱すことはあっても剣閃を見切れていたわけでもないのに。気が変わった。まずはシエル(こいつ)を絶対に斬る。今度こそ容赦しない。

 

「シエル、早まるな!!」

 

「心配しないでよ、エルザ。俺一人でやるわけじゃない」

 

気絶している間に、シエルは夢を見た。エルザに頼み込んで勝負と鍛錬をつけてもらったあの日の事を。親身になってくれたことが意外だと告げた時、複雑な表情を浮かべていたことを。あの時はエルザの過去に何があったのか知らなかったために分からなかったが、今は分かる。

 

エルザはこの塔で過ごした仲間たちと、自分たちを重ねていたのだ。失った者達、守れなかった者達、それらを再び失うのが怖くて、他人と必要以上に関わろうとしなかった。悲惨な過去を抱えることで涙することもあっただろうに、人前ではその涙を見せなかった。彼女は自分の弱さを見せないために、強さで飾った心の鎧をまとっていたのだ。ならば、自分たちがそんなエルザにできることは…。

 

 

「ここにいる俺は、エルザと出会って強くなれたシエルだ。守られるばかりの、ただ失うだけの仲間じゃなく、お前と共に戦える仲間(シエル)だ」

 

守るべき者じゃなく、共に戦える者。エルザと出会えたからその力を身に付けることができた者として、目の前の敵を倒す。それが、シエルの答えだ。

 

「見ててくれエルザ。お前が教えてくれた、俺達の強さを!日射光(サンシャイン)!!」

 

そう言うとシエルは右手を差し出して小太陽を創り出す。それを見た斑鳩は目を閉じて笑みを深くした。先程自分が対処できた方法と同じことをするつもりだろう、と。

 

「口だけは達者みたいやなぁ。目を潰されてもうちには効きまへん」

 

 

 

 

 

「『気象転纏(スタイルチェンジ)』!!」

 

『!!?』

 

シエルから放たれた聞きなれぬ言葉に斑鳩を始め、全員が驚愕に包まれる。驚く3人を尻目にシエルの言葉に反応した小太陽が輝きと共に動き出した。シエルが両腕を横に伸ばすと、小太陽が光りながら10を超える数に分裂していく。一度両腕を前にして右腕の身を自分の身体の方に、弓矢を番えて引き絞る動作をすると、またもその姿を変えた。

 

幾つも分裂した小太陽が一斉にシエルがひく右腕と共に、細く長くなっていき、彼の動きが止まった時には、太陽だった光球全てが矢の形へと変貌を遂げた。

 

「あ、あれは光の矢…?」

 

ショウが呟いた言葉こそ、まさに今シエルが具現化したものを物語っている。太陽の光が矢の形をもって作られた。今まで天候を変えることのみが彼の魔法だとばかり思っていたショウも、対峙する斑鳩も、不可解な現象に戸惑いを隠せない。ただ一人…。

 

「使いこなせるように、なったのか…!?」

 

その光景に心当たりのあるエルザだけは違う感想を零していた。

 

時に。太陽に限らず、光の速度は秒速およそ30万km。現実に分かりやすく言えば1秒で光は地球を7周半できる速さと言われている。大体の光は光量が少なく、距離が遠ければ遠い程弱くなっていき届かないという例もあるが、太陽は今いる星よりもさらに遠く離れた星に届くほどの圧倒的な光を有している。その距離は最早計り知れず、今も尚伸びているという話もある。

 

閑話休題。

 

そしてシエルが作り出した太陽も、それの例外とは言えない。斑鳩の放つ剣閃も肉眼で追うことは至難ではあるが、今シエルが番える宙に浮かぶ光の矢はそれに追いつけるのか?

 

「試してみるか、斑鳩さんよ?」

 

「その前に、あんさんを…!」

 

斬る、よりも先に動いたのはシエルだった。気付くよりも先に斬られてしまっては今この好機を逃すことになる。勝負は一瞬よりも、もしかしたら速かったかもしれない。

 

 

 

「貫け!光陰矢の如し(サニーアローズ)!!」

 

引いていた右腕を差し出す動作。それと同時に作り出した光の矢はそれぞれが縦横無尽に様々な方向から迫り、肩、肘、膝、足のつけ根と言った関節部分を貫通する。極小の穴を空けられたものの、そのダメージは思ったよりも大きい。斑鳩が気づいた時には、身体の各所が太陽の光による熱に侵された。たまらず悲鳴をあげながら剣の柄から手を離し、その場に蹲る。

 

落雷(サンダー)気象転纏(スタイルチェンジ)

 

その様子を見ても油断せず、シエルは次の行動に出た。雷の魔力は声と共に現れ、その雷は彼の右手を起点に伸びていき、ある形を象っていく。そして作り上げられたそれを確認したシエルは、前方に蹲る斑鳩に向けて構えた。それは迸る雷で作り上げられた刃…。

 

稲妻の剣(スパークエッジ)…!」

 

「…剣の使い手であるうちを相手に、最後に剣で挑む気どすか…?思わぬ深傷を追わされたとは言え、つくづくなめてくれますな…」

 

「それは違うな。剣を使うお前が相手だからこそ、最後に剣で決着をつけるべきだと思ったんだ」

 

剣を扱う相手の動きは、これでもかと見てきた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)において最強の名を冠する女魔導士の剣術を。系統は違えど彼女の剣捌きが今の自分に力を与えてくれている…。

 

 

「行くぞ!」

「受けて立ちます…!」

 

抜き身同然の雷の刃と、鞘に納めた居合の型。一見正反対である二人の構え。しかし互いに目の前の敵を斬らんが為、同時にその足を駆け出した。

 

 

そして、すれ違い様に互いに剣閃を交え、互いが背中を合わせた形で止まる。

 

 

 

「ぐっ!」

 

斑鳩の方には右肩に切り傷が少し入った程度。だがシエルは腹部を横一線に斬られていた。勝負あった。自分の勝ちを、斑鳩は確信した。片膝をつくシエルに振り返り、勝者の笑みを向ける。

 

 

 

 

 

 

その時、突如斑鳩に電流が走った。比喩ではなく、文字通り彼女の体を駆け巡る電流が。

 

「ああああああああっっ!!?」

 

シエルが持つ稲妻の剣(スパークエッジ)は常に電流が走っている刃だ。それに斬られれば傷口から微弱な電流を体に流し込まれ、血管に影響を及ぼす。さらに今斑鳩は先程の光陰矢の如し(サニーアローズ)によって所々の関節のある皮膚に穴が開いている。そこに電気が流れれば堪えきれぬ痛みと化すのだ。

 

「卑怯な手口ばっかですまねえけど…真っ向な剣の勝負じゃ、確実に勝てなかったんでね…」

 

自分自身が剣術に慣れてないことは自覚している。だが手負いの状態になっている目の前の女性が相手ならば、少し斬るだけで確実にダメージを与えられる、この雷の刃で対応できると考えた。想像を超えた結果を導き出せたことで、シエルは斑鳩に一矢報いることができた。

 

「…そ、そんな…。うちが…うちがこんな、年端もいかぬ子供に…負け、る…!?」

 

一方で斑鳩は今の現状を受け入れられずにいた。暗殺ギルドに加入してから、負けたことなどただの一度もなかった。それが、自分よりも格下である見た目が幼い少年を相手に、不覚をとるなど…いや…。

 

「(年端もいかぬ子供…その思い込みが…敗因…)」

 

女子供であろうと、魔法を扱い、ギルドに所属する一人の魔導士だ。エルザを前にして、ショウやシエルは彼女にとって前座だと、決めつけていた。まるでエルザの前に塞がる路傍の石として…。

 

『うちは路傍の人ではありませんよ』

 

自分がエルザに告げたあの一言が、よもや自分自身に帰ってくるとは…。

 

「(彼を侮った…。路傍の人と決めつけてたんは…うちの方…。その慢心が…この結果、どすか…)」

 

格下と思って油断し、手を抜いた。これが最初から本気であったら、シエルは今頃命も危うかっただろう。だが彼は彼女の慢心に食らいつき、勝利を勝ち取った。全てを理解した斑鳩は両膝をついて前のめりに倒れ行きながら…

 

「お見事…どす…」

 

一人の魔導士としてシエルを認め、自身の敗北を告げた。

 

シエルは勝った。大きな差を持つ実力者を相手に、大金星を納めたのだった。




おまけ風次回予告

シエル「斑鳩も倒して、三羽鴉(トリニティレイヴン)は全滅。後はジェラールただ一人、だね」

エルザ「本当に無茶をしたな。あの勝利は本当に奇跡と言っていい…」

シエル「心配かけたことは謝るよ。でも、きっとエルザが戦っても、簡単に勝てるとは思えなかった…」

エルザ「それは否定できんな…。お前のおかげで、私はほぼ万全の状態でジェラールに挑むことができる。感謝するよ、シエル」

シエル「ジェラールもそうだけど…エーテリオンも気になる、よね…」

次回『正義の光が落ちる時』

エルザ「心配はいらないさ、必ず決着をつけてくる」

シエル「…エルザ…死なないでね…?」

エルザ「…もちろんだ」
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