僕は仕事納めでした…。まさかこんなクリスマスを過ごす時が来ようとは…。
今後の予定ですが、年末年始のこの休みを利用して、年内に楽園の塔編を終わらせようと画策しています。言ってしまえばこの回を含めて後3話ぐらいで終われるはずです。
投稿日の目安は大晦日の0時、または18時頃。それより遅れる際はまた活動報告で知らせます。
ちなみに、今回の話を書く前にエデンズゼロの最新話を見たら、天体魔法、
そしてそのエデンズゼロに影響されたシーンも一部盛り込んでます。どの辺りか分かるかな?
機械と石造りを合わせた様な楽園の塔の外観は、エーテリオンの投下によって剥がれ落ち、水晶で作られた塔へと変貌を遂げた。そしてその最上階が存在していた空間で、二人の人物が激闘を続けていた。
「くあぁっ!!」
だが、激闘と言うには片方がもう片方を圧倒しているように見られる。圧倒されているのは
この青年こそが楽園の塔の支配者『ジェラール・フェルナンデス』。エーテリオンが投下される前はエルザによって追い詰められていた彼が、とある出来事をきっかけにその形勢を完全に逆転させていた。
「さっきまでの威勢はどうした?あの小僧が斑鳩に勝ったことで、魔力にはまだ余裕があるはずだろう?」
挑発的な笑みと言葉を投げかけるジェラールに、エルザは吹き飛ばされた体勢を立て直してすぐさま武器を換装。刃の幅が広いグレートソードを片手にジェラールの名を叫びながら飛び掛かっていく。勢い良く振り下されるそれを魔力で受け流しながら苦も無く躱していくジェラールを、空けた片手に意匠の違った剣を喚び出し攻め立てるも、やはり攻撃は当たらない。
「今頃、評議院は完全に機能を停止している。ウルティアには感謝しなければな」
エーテリオンを投下したにも関わらず楽園の塔を破壊できなかったうえに、現在評議院はウルティアと言う名の人物によって崩壊の一途を辿っている最中だ。比喩ではなく、建物自体が文字通りに崩壊させられている。
協力者の一人であったウルティアは、楽園にて全ての人々が一つになれるのなら死をも恐れぬと語っていた。ジェラールが掲げていた理想、夢の為に命を差し出すことも厭わなかったという。
「まったく…馬鹿な女であることに感謝せねばな…」
「貴様が利用してきた者たち全てに、呪い殺されるがいい!!」
自らが利用してきた者たちを侮辱するような発言に、激昂しながらエルザは斬りかかる。しかし、刃がジェラールに届こうとした瞬間、彼女は背中に激痛を感じた。感じた刹那、身体に刻まれた蛇の紋章が這いずり、舐る様にエルザの右腕を起点として、胴体、左腕、そして体全体に広がって行くと、エルザの身体の動きを止めた。
「『
「うっ…体が、動か…ぐああっ!!」
まるで巨大な蛇に巻きつかれて拘束されるかのように、エルザは身体の自由が利かなくなった。手に持っていた剣も持っていられず地に落とし、態勢を変えることもままならない。完全なる無防備だ。
「Rシステム作動の為の魔力は手に入った。後は生贄があればゼレフが復活する」
Rシステムによる人物の蘇生。それも元をたどれば魔法の一つ。その魔法を発動させるために魔力は手に入れることができた。そしてその魔力が蓄積された
「お前の事は愛していたよ、エルザ」
最期にかける言葉のつもりなのか。動かぬ体に歯噛みして悔しがるエルザを最後に見たジェラールは彼女に背を向ける。彼の目に映るのは水晶の塔の中から空けた穴。そしてその向こうに無数の星々が煌めく夜空。いよいよこの時が来たと。彼はまだ見ぬ黒魔導士に向けて言の葉を紡いだ。
「偉大なるゼレフよ…。今ここに!この女の肉体を捧げ…」
しかしその言葉は途中で遮られた。彼の目の前に遭った星空に介入してきた一つの影によって。人一人分の大きさの雲に乗り、自分の上半身を囲むように幾つもの光の矢を番えて、怒りの形相を浮かべた一人の少年が突如として目の前に現れた。さしものジェラールも、少年を視界に認識した時、あまりの驚愕に一瞬思考が停止した。
「
自らの後方に控えていた右手を前方に勢い良く出すと同時に、ジェラール目掛けて一斉に光の矢が降り注ぐ。しかしそれは距離が遠かったのもあるせいか、後方に飛び退ることで、床に着弾。不意打ちに近い初撃は避けられてしまった。
「エルザ!!」
しかしそれも彼は予測済み。光の矢が着弾したことで舞い上がった埃を煙幕代わりに利用して、すぐさまエルザの元に雲で近づき、埋まりかけていた彼女の身体を
「大丈夫、エルザ!?」
「シエル…何故…?」
彼女を捕らえていた
「ショウたちから、今この状態がRシステムの本当の姿だって教えてもらった。そして推測したんだ。この楽園ゲーム…最初っから敵味方全員が死ぬ未来なんてなかったんじゃないかって……」
エルザの疑問に答えるように話すシエルは、そこで一度話を区切り、先程自分の初撃を躱した男の方を睨む。初対面ではあるが、何者であるかはもう分かる。ジークレインと同じ顔を持つあの男が、ジェラールであることを。
「双子の兄弟って言うのは本当らしいな…。評議院にいる兄貴に協力してもらって、こんなに多くの魔力を吸収させるなんて…!」
シエルが立てた推測は当たっていた。標的全てを滅ぼすほどの膨大な魔力を有するエーテリオンの魔力は、今この塔を形作っている空だった
ただでさえ禁じられている死者を蘇生させる魔法を、伝説として名を遺す黒魔導士・ゼレフを復活させるために使うという。確実に、膨大な魔力が必要となる。そこでジェラールが目に付けたのは、膨大な魔力を必要とする超魔法を使える特権を持つ評議会。どうやって協力を持ちかけたのかは不明だが、実の兄とも言えるジークレインがエーテリオンの使用を提案し、可決され、弟である自分の消失の可能性もあるリスクを承知で実行した計画だった。
だが、シエルの推測は一部誤りであったことが、エルザの口から明かされることになる。
「違う…。兄弟じゃ、なかったんだ…」
「え…?」
拳を握り締めてジェラールを睨むエルザの言葉にシエルは呆け、ジェラールは笑みを絶やさず喉を鳴らしながら含み笑いをする。それが更にエルザの怒りを刺激する。先程彼女も聞かされた、あの真実を思い出して…。
「奴等は…一人の人間だったんだ。評議員のジークレインは、ジェラールが作り出した思念体、自分自身だった!!」
それを聞いたシエルは戦慄した。思念体。対象となる人物の思考や声も含めて本人の意のままに操作できるが、その思念体を使って評議院に潜入、あまつさえ
「そういう事か…。兄弟間で通じ合ってるからエーテリオンの事も知ってるのかと思ったけど、そもそも両方本人だったなら尚更納得だ…!」
苦虫を嚙み潰したように顔をしかめて鋭く睨むシエルを前にしても、ジェラールの表情から余裕は消えない。もうすぐ本願を達成できるところを邪魔されはしたが、目の前にいる少年は自分にとって脅威となりえないと判断している。
「シエル・ファルシー…よくも儀式の邪魔をしてくれたな。オレはお前に一目置いていたというのに」
「どういう意味だ…?」
「評議会でお前の話はよく耳にしていた。“天の怒り”による雷雨被害の元凶。そして
ジークレインとして潜入している間にも、名の広まる魔導士の話はチェックしていた。自分と同じ
「ただでさえ使い手がほとんどいない天候魔法…。それを暴走させた状態とはいえ、ギルド一つを破壊させるほどの威力で発動させられる魔導士…。これを切り捨てるにはあまりにも惜しいと本気で思っていたさ」
ジェラールが告げたのは評議会からシエルに言い渡された“天の怒り”使用を制限するための破門指令。評議会でもシエルの処遇に関しての議題は時間がかかり、即刻破門すべきと言う過激な意見まで出ていたそうだ。
そして警告と言う形でマカロフに渡されたシエルの破門指令。9人の評議員の中で賛成票6に対して反対票は3。
「残念ながら結果は知っての通り可決となり、以後“天の怒り”を使った際には破門とされる背水の陣を強いることとなってしまったのだが…まあ、オレの野望達成まであと一歩となった今となっては、それも大した問題じゃないな」
どこかで利用価値があるかもしれないと思い放置していたが、現時点の状況から見て今のシエルは自分の計画の障害に他ならない。シエルへと向けるその視線を鋭くし、狩人が獲物を見つけた際に見せるような、標的を定める目へと変わる。
「ここで潔く散ってもらおうか。
「シエル、逃げろ!奴は斑鳩と比べても桁違いだ!」
標的を自分からシエルへと変えたジェラールに気付いたエルザが彼に叫ぶように呼び掛けると、シエルは小さな太陽を創り出してエルザに投げ渡す。治癒力の向上に長けた
「分かってる。きっと俺ではこいつに勝てない…。でもだからって、最初っから諦めるつもりもない」
実力の差が大きい事は実際に対面するだけで分かった。斑鳩の時にも感じてはいたが、目の前にいる青年との差はそれよりも大きい。更に言えばシエルの魔力は多少回復したとはいえほとんど残っていない状態だ。
だがそれでも、退いてはいけない戦いがある。勝てる見込みがないのであれば、ほんの僅かな勝機の鍵も見つけ出して掴み取る。斑鳩との戦いでも、それを為すことができた。
「せめてエルザに繋げるために、俺の全部を出し切って、食らいついてやる!」
叫びと共にシエルの魔法が発動された。魔力が宿った雲を生み出す
「撃ってこい。一撃くらいは受けてやる」
あまりにも余裕の態度。攻撃の一つや二つを受けたところでどうという事はない、と言わんばかり。その挑発にシエルは感情的に反応はせず、好機と捉えた。両手に雷の魔力を集中させていき、いつもよりもその魔力を集中させていく。この一撃に全てを込めるほどの勢いで。
「落雷警報、発令しろ!!
開いた両手を合わせて上にかざし、溜め込んだ魔力を発射する。そして雲に包まれた魔力はその色を黒雲へと変貌させ、膨張していく。抑えきれなくなったその雷はジェラール目掛けて一筋の落雷となって降り落ちた。その威力は、これまでの
「それが全力…だなんて、まさか言わねえよな?」
「くっ…!!」
雷の直撃によって舞い上がった埃を手で軽く振り払い、青年はその姿を再び現した。無傷。シエルが放った一撃は全く通用せず、彼が纏う衣服に僅かに焦げ目を残すのみの結果となった。倒すことは出来ないと予想はしていた。だが、これ程までに次元が違うとは想定外だった。
「あれほどの規模を持つ天候魔法の力がその程度か…いや、これは使い手の問題かもしれんな」
「っ…こんなもんで終わる訳がないだろ…!」
「そうだな、終わりじゃない。むしろここからが始まりだ…。天候魔法の上位に位置するオレの魔法を、特別に見せてやるとしよう」
ジェラールの纏う雰囲気が少しばかり変わったところで、シエルはすぐさま動き出した。上空に残る雲から、今度は自分目掛けて雷を落とし、己の右手に雷を纏わせてその姿を変形させる。
「
雷で生み出された刃を振りかぶりながらシエルはジェラール目掛けて飛び掛かる。少しでもこの刃で切り込みを入れればダメージを与えられずとも、動きを制限させることができるはず。それを狙っての選択であったのだが…。
「『
瞬間、ジェラールの身体が光に包まれたかと思いきやその姿が消え、シエルが降り降ろした刃は空を切る。突如姿が消えたことに驚愕していると、背中に衝撃が襲い掛かった。何が起きたのか、即座に振り向くもそこには何もない。だがそれを認識した次の瞬間に今度は右側に重い一撃を受ける。
「ぐうっ!な、何が…!?」
状況を把握するよりも先にあらゆる方向、死角から攻撃を与えられてしまうシエル。その攻撃の主は勿論ジェラールだ。星色の光を身体に纏った彼の魔法の一つ。自身の敏捷性を大幅に上昇させ、相手に防御、反撃の機会を与えるよりも先に物理的な攻撃を食らわせる、身体能力強化に分類される技の一つだ。目で追う事すらできない速度で、地上だけでなく、空中にさえ自由に動くことができるこの技は、ジェラールにとってはまだ小手調べでしかない。
「どうした?オレはこっちだぞ?」
「!!?」
背後から掛けられた声に反射的に裏拳で対応するシエルだが、その速度さえもジェラールは上回り、体を捻ったシエルのがら空きとなった部分に蹴りを浴びせる。痛みによって悲鳴を上げながら水晶の床を転がるシエルは、即座に体勢を立て直して右手に
「こいつはどうだ!
即座に太陽を複数の光の矢へと変えて、ジェラール同様光の速さで飛ばす。迫ってきた方向目掛けて放たれたそれを視認したジェラールは表情に驚きを表す。
そして、即座に方向を転換してその矢たちはジェラールを捕らえることもできずに真っすぐ壁に着弾した。
「そんな!?がはっ…!!」
斑鳩さえ目で追えなかった技を躱されたことで動揺したシエルの後頭部に、容赦なくジェラールの踵が炸裂する。前のめりになって倒れ伏すシエルが顔を上げれば見える位置に着地したジェラールは、不敵な笑みを浮かべながら語り掛けてきた。
「今のは中々いい判断だった。見ろ、足の部分に一つ掠っている。初見の技だったら、ただじゃ済まなかっただろうな…」
指を指し示した左足の甲の部分に、確かに矢で削れたような焦げ目が付けられている。斑鳩戦、そしてエルザを助けるためにはなった初撃で、既にジェラールがこの技を見たのは3回目。どのような性質の技なのかを知っていたが故に行動できていたのだが、彼の言うように初見であれば、まともにこの技を食らっていた可能性がある。だが、あくまでそれは仮定の話だ。
「どうだ、これがオレの扱う天体魔法。と言っても、ほんの序の口でしかないから、天候魔法の上位に位置すると言われても、納得はいかねえだろうが…」
必死に食らいついて、それでもほとんど通用しない。今の攻防だけでも相当に消耗してきたシエルは、歯を食いしばって体に鞭を打って立ち上がろうとする。
「ほう…立つというのか…」
息も荒く、傷も多く、魔力も尽きかけている。少しだけでも、あとほんの少しだけでも食らいついて、後に戦うことになるだろうエルザに繋げようと、再び攻撃を仕掛けようとする。練習中の
「オレは斑鳩と違って甘くはないぞ?」
攻撃に転じるよりも先に、シエルの腹部にジェラールの拳が突き刺さった。突如受けた衝撃に、少年は口から思わず血を吐き出す。しかしジェラールの攻撃は終わらない。
「踊り狂え。『流星乱舞』!」
再び
「し…シエル…!!」
少年に対してあまりにも一方的、凄惨とも呼べる仕打ちを目の当たりにし、エルザは未だに回復しきらない己の身体を恨む。自分より五つも年下の少年に任せて、何もできない状態の自分に、そして仲間に容赦のない所業を行う
一方のジェラールは
そして彼の眼下に見えたのは、意識が朦朧としていながらも痛みをこらえて歯を食いしばる少年の姿。
「驚いた…。想像以上に頑丈だな」
驚嘆半分、呆れ半分。今のジェラールのセリフに込められた感情を言い表すならばそれだろう。容赦なく攻め立てて尚立ち上がり、並の人間ならば既に殺せたはずの攻撃でもまだ死ぬ気配がない。もしかしたら、彼の聞いた話は…。
「シエル・ファルシー…『天に愛されし魔導士』…。まさかあの噂は本当だったのか…?」
朦朧とした意識の中で、ジェラールの声が耳に届いたシエルが、不意にその話に傾ける。それに気づいたのか否か、ジェラールの言は続いた。かつて、闇ギルドの魔導士の間でやけに名の広がった魔導士の噂を聞いたことがある。所属するギルドは大した知名度ではないが、ある一人の魔導士によってそのギルドは成り立っていると同義だった。
「その魔法はまさに天に、神に愛された者によるもの。だがそいつは、神からの贈り物であるその魔法を、闇の世界に捧げた反逆者…。
通称『堕天使のファルシー』」
その名を告げられた瞬間、シエルの目が見開かれた。思わず意識が引き上げられたかのように、ジェラールの言葉に驚愕を示したのだ。今となってはその魔導士の噂はピタリと止まり、本当に実在したのかどうかも怪しい伝説となった。
「もしもファルシーと言うのが、お前のラストネームからとられたものだったとしたら、正直言って拍子抜けだ。あれほどの噂となった魔導士が、この程度で、しかも年端もいかぬこんなガキであるなんて…」
どこか不満げに呟くジェラールは、一つ推測を立てた。名を騙った偽物か?たまたま親族にそのような人物がいる?本人だとしたら、何らかの理由で弱体化した?それを裏付けられる他の者たちが知らないファルシーと呼ばれた魔導士の噂の一つを、彼は知っている。そうだ。もしかしたらこれに関連しているかもしれない。顔に浮かべた笑みに嘲りを含んだジェラールは、その結論をぶつけた。
「堕天使が大きく弱体化したことが、唯一いた家族である
それを聞いた瞬間、シエルの感情が顔から抜け落ちた。
「ん!?」
突如
その間にもシエルは上空に浮かび上がっている雲を伴って更に上昇。雲の高さをさらに上げたところで彼は両手を天高く上げて雷の魔力を集中させていく。
「これは“天の怒り”!?いかん、早まるな!シエル!!」
つい数週間前に
「まさか、あのガキ…!!」
遅れて上へと上がってきたジェラールは、彼の目論見を理解した。ゼレフが復活の儀式を行うよりも先に、自身の手によって楽園の塔を“天の怒り”を用いて消滅させる事であると。
「させるかぁっ!!!」
「ぐっ!?」
思わず接近を止めて、防御に回った自分に、ジェラールは驚く。最初に撃ち込まれた
「くそがあっ!!」
悪態をつきながらシエルを止めようと接近するも、
「調子に乗るなよ、ガキ風情があ!!」
何を思ったのかジェラールはシエルの追跡をやめて一人で黒雲の方へと突っ込んでいく。それを見たシエルはジェラールを追うよりも楽園の塔の破壊を優先すべきと考え、再び黒雲からいくつもの雷を落とし、塔全体を揺らしていく。まだ塔にはエルザだけでなく、ナツやシモンもいるのだが、今のシエルは塔を壊すことを優先してしまっている。
このまま破壊を続けるままで終わるのか。エルザがそう考えていたその時…。
上空から雲を突き抜けて、シエルに襲い掛かる七つの光が降り落ちた。
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「あのガキ、図に乗りやがって…!オレが8年もの時をかけて完成させた塔をよくも…!!」
黒雲を突き破ってさらに上空へと辿り着いたジェラール。怒りに顔を歪めながら、彼は上空にそれぞれ七つの星色の魔法陣を描き、シエルがいるであろう雲の奥目掛けてその魔法を発動させる。上向きに五本指を開いた左掌に、人差し指と中指の二本を立てた右手を乗せながら、ジェラールはその技を発動させた。
天候の遥か上に存在する、天体からの光。これこそが、本当の破壊の魔法───。
「七つの星に裁かれよ…!『
その技の名を冠する北斗七星の形に魔法陣を並べ、上空から隕石にも匹敵する威力の七つの光が降り落ちる。その光は黒雲を突き破り、塔の方へと意識を向けていたシエルの身体を直撃した。
衝撃、更には発動者が大きなダメージを再び負ったことで、“天の怒り”を創り出していた黒雲は霧散。そして少年の身体は再び水晶の床へと叩きつけられた。その様子を見ていたエルザはシエルの元へ向かおうと、回復しきっていない身体に鞭を打って歩きだす。
「シエル…!」
生きているのだろうか。死なないだろうか。どうかその命を失わないでほしいと願い、覚束無い足取りで向かおうとしたエルザの前に、ジェラールが再び降り立った。しかも、彼が降り立った場所は、倒れ伏したシエルの身体。
「っ…ジェラールッ…!!」
「随分としてやられてしまった。これ以上Rシステムにダメージを与えるわけにはいかん」
シエルの身体を足で踏みつけにしているジェラールを睨みつけ、怒りを現すエルザに対してジェラールは先程の平静を取り戻している。シエルの“天の怒り”によっていくつもの壊れた箇所から魔力が漏洩し始めている。早めに儀式を執り行わなければならない…。
「その足を…どかせぇ!!」
一本の太刀を換装で呼び出しながら斬りかかろうとするエルザに対して、ジェラールは一つ笑いを零しながら彼女の身体ごと魔力で振り払う。彼女の身体も万全ではないのだ。床を転がってうめくエルザを眺めながらジェラールは彼女に「もう少しだけ待っていろ」と告げると、うつ伏せとなったシエルの身体を軽く蹴って仰向けの状態にする。
「僅かに息がある…。ここまで来ると人間であるかどうかも怪しいな…だが…」
腹部に右膝、左手を首にかけ、右腕を後方に引きながら、ジェラールは口角を吊り上げながら魔力を集中させていく。
「首を落とせばどんなに頑丈な奴でも、命はないだろう」
ゼレフ復活の儀式の最中にもし意識を取り戻して、再び“天の怒り”を発動されでもしたら厄介だ。そう判断したジェラールはこの場でシエルを仕留めるつもりだ。それを理解したエルザが再び立ち上がろうと力むも、ダメージが大きすぎて思うように体を動かせない。
「エルザ…お前を助けに来た仲間は、お前に繋ぐものを何も残せずに、ここで死ぬ…。その瞬間を目に焼き付けておけ…!」
「ジェラールゥ…ッ!!!」
最早誰にも止めることは出来ない。少年の命は、今ここで無情にも、亡霊に取り憑かれた男によって、摘み取られてしまうのか。勝利を確信し、エルザが絶望に顔を歪ませる姿を想像し、ジェラールはその口から笑いを零さずにいられない。そしてジェラールは右腕を勢い良く振り降ろすために、より高くに上げて…。
「…ん?何だこれは…?」
突如起きたその異変に表情を怪訝のものへと変えた。その異変はシエル…正確にはシエルの首に手をかけている左掌にあった。その掌は黄色の光を放っている。怪しく思ったジェラールが首から手を離して確認すると、そこには魔法陣が刻まれていた。
「(魔法陣…?だが、この魔法は何の種類だ?どの書物にも、独自の魔法を使う魔導士にも、見覚えが無い…)」
右足の裏、甲、そして右膝にも、黄色く発光する魔法陣が刻まれていた。これにはさすがのジェラールも動揺を隠せない。
「何だ、何が起こっている…!?」
思わず体勢を立て直して立ち上がろうとし、その拍子で魔力が宿っていた右手から魔力を収めて、不意にシエルの身体に右手が触れると、先程まで浮かんでなかった魔法陣が右手にも浮かび出した。
シエルに触れた箇所が、皆一様に魔法陣を刻まれている。それも得体のしれない何かの魔法が。あらゆる推測を考えても答えが浮かばず、光はどんどん強くなっていく。そして…。
一際光が強くなった瞬間、ジェラールの身体を中心として塔の最上階を激しく照らす光量と轟音を生み出す、爆発が発生した。
意識を失ったシエルも、呆然とするエルザもまた、その光の奔流に飲み込まれた…。
次回『終焉の楽園』